特許 7461404 ポリエステル織物の回収方法

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-03-26

(45)【発行日】2024-04-03

(54)【発明の名称】ポリエステル織物の回収方法

(51)【国際特許分類】

   B29B 17/02 20060101AFI20240327BHJP

【ＦＩ】

B29B17/02 ZAB

【請求項の数】 8

(21)【出願番号】P 2022073013

(22)【出願日】2022-04-27

(65)【公開番号】P2023041597

(43)【公開日】2023-03-24

【審査請求日】2022-04-27

(31)【優先権主張番号】110133956

(32)【優先日】2021-09-13

(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW

(73)【特許権者】

【識別番号】501296612

【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司

【氏名又は名称原語表記】ＮＡＮ ＹＡ ＰＬＡＳＴＩＣＳ ＣＯＲＰＯＲＡＴＩＯＮ

(74)【代理人】

【識別番号】100112874

【弁理士】

【氏名又は名称】渡邊 薫

(72)【発明者】

【氏名】廖▲徳▼超

(72)【発明者】

【氏名】莊榮仁

(72)【発明者】

【氏名】黄章鑑

(72)【発明者】

【氏名】曾郁迪

【審査官】齊藤 光子

(56)【参考文献】

【文献】特開２０２０－１３３０８９（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００５－２５５９６３（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１５－０４８５７０（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｂ０１Ｄ １１／０２

Ｂ２９Ｂ １７／００－１７／０４

Ｃ０８Ｊ １１／００－１１／２８

Ｄ０６Ｂ １／００－２３／３０

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

染料及びポリマーネットワーク架橋構造を有する撥水剤が付いたポリエステル織物を提供することと、
水及び酢酸を混合した複合溶剤を提供することと、
前記複合溶剤で前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することで、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去されることによって、前記ポリエステル織物が再生され、６０以上のＬ値を有し、５００ｐｐｍ以下の撥水剤を含む、抽出処理を行うことと、
再生された前記ポリエステル織物の固有粘度を向上し、前記ポリエステル織物に残留した不純物を更に除去するための、前記ポリエステル織物に対する液体重合処理を行うことと、を含み、
前記ポリエステル織物は、ガラス転移温度（ｇｌａｓｓ ｔｒａｎｓｉｔｉｏｎ ｔｅｍｐｅｒａｔｕｒｅ，Ｔｇ）を有し、
前記抽出処理において、前記複合溶剤が抽出温度に加熱されて前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出し、
前記複合溶剤の前記抽出温度は、前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度より高く、
前記複合溶剤において、水：酢酸（重量比）は、１０：９０～４０：６０であり、
前記液体重合処理において、前記ポリエステル織物は、０．０１ｔｏｒｒ～１．００ｔｏｒｒの液体重合圧力、２２０℃～２８０℃の液体重合温度で液体重合を行い、次に、前記ポリエステル織物が５μｍ以下のフィルターでろ過されることによって、前記ポリエステル織物に残留した前記不純物が更に除去され、
前記液体重合を行った前記ポリエステル織物における前記撥水剤の含有量は、１００ｐｐｍ以下である、ポリエステル織物の回収方法。

【請求項2】

前記複合溶剤において、水：酢酸（重量比）は、１０：９０～３０：７０である、請求項１に記載のポリエステル織物の回収方法。

【請求項3】

前記液体重合処理において、前記ポリエステル織物に残留した前記不純物は、固体の不純物及び低沸点有機物の中の少なくとも１つである、請求項１に記載のポリエステル織物の回収方法。

【請求項4】

前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度は、８０℃以下であり、且つ前記複合溶剤は、８０℃～１３０℃の前記抽出温度に加熱されることによって、前記ポリエステル織物を浸漬させ、前記染料及び前記撥水剤を抽出する、請求項１に記載のポリエステル織物の回収方法。

【請求項5】

前記抽出処理において、前記複合溶剤の重量は、前記ポリエステル織物の重量の８倍～３０倍であり、
前記複合溶剤の前記ポリエステル織物に対する抽出時間は、０．５時間～３．０時間であり、
前記複合溶剤の前記ポリエステル織物に対する抽出回数は、１回～６回である、請求項１に記載のポリエステル織物の回収方法。

【請求項6】

前記撥水剤は、ケイ素（Ｓｉ）を含む撥水剤、フッ素（Ｆ）を含む撥水剤、フッ素とケイ素を含む撥水剤、及び水性ポリウレタン（ＰＵ）撥水剤の中の少なくとも１つであり、
前記抽出処理において、前記染料及び前記撥水剤はいずれも、前記複合溶剤における前記酢酸で除去される、請求項１に記載のポリエステル織物の回収方法。

【請求項7】

前記抽出処理を行った後、且つ前記液体重合処理を行う前に、
フィルターで前記複合溶剤及び前記ポリエステル織物に対してろ過を行うことによって、前記複合溶剤と前記ポリエステル織物とを分離させる、ろ過処理を行うことと、
前記ポリエステル織物を乾燥することによって、前記ポリエステル織物に残留する前記複合溶剤を更に除去する、乾燥処理を行うこととを、更に含む、請求項１に記載のポリエステル織物の回収方法。

【請求項8】

前記液体重合処理を行った後に、前記ポリエステル織物から再生ポリエステル粒子を形成するための、溶融造粒機で前記ポリエステル織物に溶融造粒処理を行うことを更に含む、請求項１に記載のポリエステル織物の回収方法。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、回収方法に関し、特に、ポリエステル織物の回収方法に関する。

【背景技術】

【0002】

染色されたポリエステル織物は、染料及び撥水剤を含むことが多いため、回収すべきポリエステル織物にとって、染料及び撥水剤はいずれも不純物である。ポリエステル織物の回収を行うと、ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤を除去する必要がある。

【0003】

従来の技術において、溶媒で抽出する方法は、ポリエステル織物に付いた染料のみを抽出するが、ポリエステル織物に付いた撥水剤を効果的に抽出することができない。このように、過量の撥水剤がポリエステル織物に残留することによって、ポリエステル織物を回収することができないか、若しくは、回収品質が不良で用途が限られる、との問題を有する。

【0004】

米国特許公告第７，９５９，８０７号には、染色されたポリエステル織物から有用の成分を回収する方法が開示されている。この有用の成分を回収する方法は、高い染料除去効率を有して、回収されたポリエステル織物が白色を呈するが、前記ポリエステル織物に付いた撥水剤は、溶媒で抽出し且つろ過した後でも、除去することができない。撥水剤の残留濃度は、約１０，０００ｐｐｍであり、それによって、ポリエステル織物の回収品質及び用途に影響する。例えば、再生された繊維は、不純物を有するため、糸の断裂を起こしやすい。

【0005】

台湾特許第Ｉ４８１７６２号には、染色されたポリエステル織物の脱色方法が開示されている。この脱色方法では、溶剤の蒸発ガスで染料を抽出する。この脱色方法を採用すると、比較的に高い染料抽出率を有するが、エネルギー消費量が高いとの欠点を有する。なお、この方法を採用する場合、撥水剤を除去することができない問題が発生し、撥水剤がポリエステル織物に残留する問題を有する。

【0006】

米国特許公開第２００５００６５３１５号には、固体重合を用いることによりポリエステルの固有粘度を向上する方法が開示されている。しかしながら、この方法を回収すべきポリエステル織物に用いると、ポリエステル織物の色が深くなり、固体残留物が除去されることができない、などの欠点を有する。

【0007】

そこで、本発明者は、上述した問題が改善可能であることに鑑みて、鋭意研究を行い学理を併せて運用した結果、設計が合理的で且つ前記問題を効果的に改善することができる方法として本発明に至った。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0008】

【文献】米国特許公告第７，９５９，８０７号

【文献】台湾特許第Ｉ４８１７６２号

【文献】米国特許公開第２００５００６５３１５号

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0009】

本発明が解決しようとする技術の課題は、従来技術の不足に対し、ポリエステル織物の回収方法を提供する。

【課題を解決するための手段】

【0010】

上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、ポリエステル織物の回収方法を提供する。前記ポリエステル織物の回収方法は、染料及び撥水剤が付いたポリエステル織物を提供することと、水及び酢酸を混合した複合溶剤を提供することと、前記複合溶剤で前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することで、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去されることによって、前記ポリエステル織物が再生され、６０以上のＬ値を有し、５００ｐｐｍ以下の撥水剤を含む、抽出処理を行うことと、前記ポリエステル織物の固有粘度を向上し、前記ポリエステル織物に残留した不純物を更に除去するための、前記ポリエステル織物に対する液体重合処理を行うことと、を含む。

【0011】

好ましくは、前記複合溶剤において、水：酢酸は、５：９５～９０：１０である。

【0012】

好ましくは、前記抽出処理において、前記ポリエステル織物の前記固有粘度が減少し、減少幅は１０％未満であり、なかでも、前記液体重合処理において、前記ポリエステル織物の前記固有粘度が増加し、増加幅は１５％～４０％である。

【0013】

好ましくは、前記液体重合処理において、前記ポリエステル織物に残留した前記不純物は、固体の不純物及び低沸点有機物の中の少なくとも１つである。

【0014】

好ましくは、前記ポリエステル織物は、ガラス転移温度（ｇｌａｓｓ ｔｒａｎｓｉｔｉｏｎ ｔｅｍｐｅｒａｔｕｒｅ，Ｔｇ）を有し、なかでも、前記抽出処理において、前記複合溶剤が抽出温度に加熱されて前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出し、なかでも、前記複合溶剤の前記抽出温度は、前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度より高い。

【0015】

好ましくは、前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度は、８０℃以下であり、且つ前記複合溶剤は、８０℃～１３０℃の前記抽出温度に加熱されることによって、前記ポリエステル織物を浸漬させ、前記染料及び前記撥水剤を抽出する。

【0016】

好ましくは、前記抽出処理において、前記複合溶剤の重量は、前記ポリエステル織物の重量の８倍～３０倍であり、前記複合溶剤の前記ポリエステル織物に対する抽出時間は、０．５時間～３．０時間であり、前記複合溶剤の前記ポリエステル織物に対する抽出回数は、１回～６回である。

【0017】

好ましくは、前記ポリエステル織物に付いた前記撥水剤は、ポリマーネットワーク架橋構造を有し、前記撥水剤は、ケイ素（Ｓｉ）を含む撥水剤、フッ素（Ｆ）を含む撥水剤、フッ素とケイ素を含む撥水剤、及び水性ポリウレタン（ＰＵ）撥水剤の中の少なくとも１つであり、なかでも、前記抽出処理において、前記染料及び前記撥水剤はいずれも、前記複合溶剤における前記酢酸で除去される。

【0018】

好ましくは、前記ポリエステル織物の回収方法は、前記抽出処理を行った後、且つ前記液体重合処理を行う前に、フィルターで前記複合溶剤及び前記ポリエステル織物に対してろ過を行うことによって、前記複合溶剤と前記ポリエステル織物とを分離させる、ろ過処理を行うことと、前記ポリエステル織物を乾燥することによって、前記ポリエステル織物に残留する前記複合溶剤を更に除去する、乾燥処理を行うこととを、更に含む。

【0019】

好ましくは、前記液体重合処理において、前記ポリエステル織物は、０．０１ｔｏｒｒ～１．００ｔｏｒｒの液体重合圧力、２２０℃～２８０℃の液体重合温度で液体重合を行い、次に、前記ポリエステル織物が５μｍ以下のフィルターでろ過されることによって、前記ポリエステル織物に残留した前記不純物が更に除去され、なかでも、前記液体重合を行った前記ポリエステル織物における前記撥水剤の含有量は、１００ｐｐｍ以下である。

【0020】

好ましくは、前記ポリエステル織物の回収方法は、前記液体重合処理を行った後に、前記ポリエステル織物から再生ポリエステル粒子を形成するための、溶融造粒機で前記ポリエステル織物に溶融造粒処理を行うことを更に含む。

【発明の効果】

【0021】

本発明の有利な効果として、本発明に係るポリエステル織物の回収方法は、「水及び酢酸を混合した複合溶剤を提供する」及び「前記複合溶剤で前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することで、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去されることによって、前記ポリエステル織物が再生され、６０以上のＬ値を有し、５００ｐｐｍ以下の撥水剤を含む、抽出処理を行う」、「前記ポリエステル織物の固有粘度を向上し、前記ポリエステル織物に残留した不純物を更に除去するための、前記ポリエステル織物に対する液体重合処理を行う」といった技術特徴により、前記ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤が効果的に除去される。それによって、前記ポリエステル織物の回収・再利用が容易になると共に、良好な回収品質を有する。なお、本発明に係るポリエステル織物の回収方法は、製造コストが低く、プロセスの安全性が高い、といった利点を有する。

【0022】

本発明に係るポリエステルは、飽和の二塩基と二価アルコールとを縮合反応させて製造された線状高分子ポリマーである。前記ポリエステルの種類が多く、原料又は中間体によって異なるが、大分子における各チェーン単位には、エステル基である「－ＣＯＯ－」を介して連結されるため、ポリエステルを総称する。例えば、ポリエチレンテレフタレート（ＰＥＴ）である。ポリエステルを再加工して繊維を製造し、更に織物を製造する。ポリエステル繊維から、複数種の織物（各種の平織り生地、ニット生地）を製造することが可能となる。

【図面の簡単な説明】

【0023】

【図1】本発明の実施形態に係るポリエステル織物の回収方法のフローチャートである。

【発明を実施するための形態】

【0024】

本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照されたい。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するものではない。

【0025】

以下、所定の具体的な実施形態によって本発明を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施形態によって実行又は適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際のサイズに基づいて描かれたものではない。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲を制限することはない。

【0026】

理解すべきことは、本明細書では、「第１」、「第２」、「第３」といった用語を用いて各種の素子又は信号を叙述することがあるが、これらの素子又は信号は、これらの用語によって制限されるものではない。これらの用語は主に、１つの素子ともう１つの素子、又は１つの信号ともう１つの信号を区別するためのものである。また、本明細書において使用される「又は」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか１つ又は複数の組合せを含むことがある。

【0027】

［ポリエステル織物の回収方法］
本発明に係るポリエステル織物の回収方法は、ポリエステル織物をＴｇ点より高い温度にし、繊維の分子が自由にスリップして、柔軟且つゆるくなり、それによって、染料の抽出にとって有利となり、脱色効果を達成することができる。また、酢酸溶剤は、撥水剤の構造を解重合（破壊）して、撥水剤と織物とを分離させた上で、染料に対する抽出効率を向上し、脱色効果を向上させることができる。ポリエステル織物が脱色され、撥水剤を除去した後に、再生されたポリエステル織物は押出機を介して液態となり、フィルターを通過して主の固体の不純物が除去されて、液態のポリエステルが多孔質板を介して押し出され、重力による垂直流として真空室に入れて液体重合（Ｌｉｑｕｉｄ Ｓｔａｔｅ Ｐｏｌｙｃｏｎｄｅｎｓａｔｉｏｎ，ＬＳＰ）を行うことによってＩＶ値を向上し、最後に、５μｍ以下のフィルターでろ過・冷却・造粒される。

【0028】

説明すべきことは、染色されたポリエステル織物は、染料及び撥水剤を含むことが多い。回収すべきポリエステル織物にとって、染料及び撥水剤はいずれも不純物である。ポリエステル織物の回収を行うと、ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤を除去する必要がある。従来の技術において、溶媒で抽出する方法は、ポリエステル織物に付いた染料のみを抽出するが、ポリエステル織物に付いた撥水剤を効果的に抽出することができない。このように、過量の撥水剤がポリエステル織物に残留することによって、ポリエステル織物を回収することができないか、若しくは、回収品質が不良で用途が限られる、との問題が発生する。

【0029】

上記の技術的課題を解決するために、図１に示すように、本発明の実施形態は、ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤を同時且つ効果的に除去することができ、ポリエステル織物から再生ポリエステル粒子を製造することができる、ポリエステル織物の回収方法を提供する。前記ポリエステル織物の回収方法は、工程Ｓ１１０、工程Ｓ１２０、工程Ｓ１３０、工程Ｓ１４０、工程Ｓ１５０、工程Ｓ１６０及び工程Ｓ１７０を含む。説明すべきことは、本実施形態に記載された各工程の順及び実際的な操作方法は、必要に応じて調整することができ、本発明は本実施形態に制限されるものではない。

【0030】

前記工程Ｓ１１０は、染料（ｄｙｅ）及び撥水剤（ｗａｔｅｒ ｒｅｐｅｌｌｅｎｔ）を有し、再生すべき且つ染色されたポリエステル織物を提供することを含む。

【0031】

より具体的に説明すると、例えば、前記ポリエステル織物の表面には、染料で染色によって、色（例えば、黒色、赤色、青色など）を与えると共に、前記ポリエステル織物は、撥水剤処理によって、撥水性を有する。一般的に、染料は主に、ポリエステル織物の繊維構造（特に、繊維構造のアモルファス領域）に付いており、撥水剤は、繊維構造及び染料に付いている。

【0032】

ポリエステル織物に付いた染料は、例えば、天然染料及び合成染料の少なくとも１つであってもよい。なお、前記撥水剤は、ポリマーネットワーク架橋構造を有し、前記撥水剤は、例えば、ケイ素（Ｓｉ）を含む撥水剤、フッ素（Ｆ）を含む撥水剤、フッ素とケイ素を含む撥水剤、又は水性ポリウレタン（ＰＵ）撥水剤であってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。

【0033】

ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤を効果的に除去するために、本実施形態に係るポリエステル織物の回収方法は、以下の工程Ｓ１２０～工程Ｓ１７０で実現される。

【0034】

前記工程Ｓ１２０は、水（ｗａｔｅｒ）及び酢酸（ａｃｅｔｉｃ ａｃｉｄ）を混合した複合溶剤（ｃｏｍｐｏｓｉｔｅ ｓｏｌｖｅｎｔ）を提供することを含む。

【0035】

前記複合溶剤が前記染料及び前記撥水剤に対して良好な抽出効率を有するために、水及び酢酸は、好ましい比率で配合される。具体的に説明すると、前記複合溶剤において、水：酢酸は、５：９５～９０：１０であり、１０：９０～３０：７０であることは好ましく、１０：９０～２０：８０であることは特に好ましい。本発明の好ましい実施形態において、好ましくは、酢酸の使用量は、水の使用量を超えると共に、酢酸の使用量は、水の使用量の２倍～２０倍であるが、本発明はこれに制限されるものではない。

【0036】

前記工程Ｓ１３０は、前記複合溶剤でポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することで、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去されることによって、前記ポリエステル織物が再生され、６０以上のＬ値を有すると共に、５００ｐｐｍ以下の撥水剤を含む、抽出処理（ｅｘｔｒａｃｔｉｏｎ ｏｐｅｒａｔｉｏｎ）を行うことを含む。なかでも、前記Ｌ値は、Ｌａｂ色空間（Ｌａｂ ｃｏｌｏｒ ｓｐａｃｅ）における明度を示すパラメータである。

【0037】

更に説明すると、前記ポリエステル織物は、ガラス転移温度（ｇｌａｓｓ ｔｒａｎｓｉｔｉｏｎ ｔｅｍｐｅｒａｔｕｒｅ，Ｔｇ）を有する。前記抽出処理において、前記複合溶剤が抽出温度（ｅｘｔｒａｃｔｉｏｎ ｔｅｍｐｅｒａｔｕｒｅ）に加熱されて前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することによって、前記染料及び前記撥水剤が前記抽出温度でポリエステル織物から除去される。なかでも、前記複合溶剤の前記抽出温度は、前記ポリエステル織物のガラス転移温度より高い。それによって、前記複合溶剤の染料及び撥水剤に対する抽出効率が向上する。

【0038】

本発明の一つの実施形態において、前記ポリエステル織物のガラス転移温度は８０℃以下であり、大抵７０℃～８０℃である（例えば、７５℃）。

【0039】

本発明の一つの実施形態において、前記複合溶剤は、８０℃～１３０℃の前記抽出温度に加熱されて前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出する。好ましくは、前記複合溶剤の抽出温度は、１００℃～１２０℃であり、特に好ましくは、１００℃～１１５℃であるが、本発明はこれに制限されるものではない。

【0040】

即ち、複合溶剤の染料及び撥水剤に対する抽出効率を向上させるために、前記抽出処理において、好ましくは、前記複合溶剤の抽出温度（例えば、１００℃～１１５℃）は、ポリエステル織物のガラス転移温度（例えば、７０℃～８０℃）より高い。なお、好ましくは、前記複合溶剤の抽出温度（例えば、１００℃～１１５℃）は、酢酸の沸点（例えば、１１８℃）より低いことによって、前記複合溶剤は、液態で染料及び撥水剤の抽出を行うが、本発明はこれに制限されるものではない。

【0041】

本発明の一つの実施形態において、前記複合溶剤における水を過度に加熱することで蒸発しないように、前記複合溶剤の抽出温度は、ポリエステル織物のガラス転移温度より高く、且つ水の沸点より低い、８０℃～１００℃であることは好ましい。

【0042】

本発明の一つの実施形態において、前記複合溶剤の使用量（重量）は、前記ポリエステル織物の使用量（重量）の８倍～３０倍であり、好ましくは、１０倍～１５倍である。本発明の一つの実施形態において、前記複合溶剤の、ポリエステル織物に対する抽出時間は、０．５時間～３．０時間であり、１時間～２時間であることは好ましい。本発明の一つの実施形態において、前記複合溶剤のポリエステル織物に対する抽出回数は、１回～６回であり、３回～６回であることは好ましい。特筆すべきことは、毎回の抽出処理では、使用されなかった真新しい複合溶剤を用いて前記染料及び前記撥水剤を抽出する。

【0043】

本発明の一つの実施形態において、前記複合溶剤は、例えば、高圧の操作環境において抽出処理を行ってもよい。なかでも、当該高圧の操作環境は、例えば、複合溶剤が１ｂａｒ～１０ｂａｒの液体圧力に加圧されて、前記ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤を抽出してもよい。高圧の操作環境において抽出処理を行うと、前記複合溶剤の抽出温度の範囲が向上する。

【0044】

特筆すべきことは、前記複合溶剤において、酢酸は主に、ポリエステル織物に付いた撥水剤を除去するためのものである。より具体的に説明すると、酢酸は、水分解の触媒として用いられると共に、ポリマーネットワーク架橋構造を有する撥水剤を水分解するか、若しくは、撥水剤の分子構造にあるシラン（ｓｉｌａｎｅ）を水分解することができる。なお、酢酸は、ポリエステル織物に付いた染料を除去する、との役割も果たせる。

【0045】

即ち、前記抽出処理において、ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤はいずれも、複合溶剤における酢酸で除去される。

【0046】

更に説明すると、複合溶剤に水を添加することで、複合溶剤の使用安全性を向上させることができる。例えば、微量の水を添加すると、複合溶剤の爆発限界の上限を低減し、複合溶剤の爆発限界の下限を向上することから、複合溶剤の使用安全性が向上される。

【0047】

本発明の一つの実施形態において、水：酢酸は、１０：９０～３０：７０である。前記複合溶剤の爆発下限界濃度（ＬＥＬ，ｌｏｗｅｒ ｅｘｐｌｏｓｉｖｅ ｌｉｍｉｔ）は、４％～１０％であり、前記複合溶剤の爆発上限界濃度（ＵＥＬ，ｕｐｐｅｒ ｅｘｐｌｏｓｉｖｅ ｌｉｍｉｔ）は、１４％～２０％であるが、本発明はこれに制限されるものではない。

【0048】

上述した構成により、本実施形態に係る複合溶剤は、従来の抽出溶剤に比べて、低い抽出温度を有するため、エネルギー消費量を低減すると共に、ポリエステル織物の繊維構造が破壊されにくい。なお、本実施形態に係る複合溶剤の抽出温度は、ポリエステル織物のガラス転移温度より高いため、前記複合溶剤は、ポリエステル織物の繊維構造を軟化させて、前記複合溶剤が容易にポリエステル織物の繊維構造に入れることによって、染料及び撥水剤の抽出効率を向上させることができる。また、本実施形態に係る複合溶剤の主成分として、酢酸及び水を用いる利点は、コストが低く、且つ人体に害を及ぼす可能性が低く、使用安全性が高い（例えば、比較的に安全である爆発限界を有する）ことである。

【0049】

前記工程Ｓ１４０では、フィルターで複合溶剤及びポリエステル織物に対するろ過を行うことによって、前記複合溶剤とポリエステル織物とを分離させる、ろ過処理（ｆｉｌｔｅｒｉｎｇ ｏｐｅｒａｔｉｏｎ）を行う。

【0050】

前記ろ過処理において、前記フィルターの孔径は通常は、５ｃｍ以下であり、３ｃｍ以下であることは好ましく、１ｃｍ以下であることは特に好ましい。それによって、前記複合溶剤とポリエステル織物とを、効果的に分離させることができる。特筆すべきことは、前記ろ過処理において、染料及び撥水剤が含まれた前記複合溶剤はフィルターを通過すると共に、加熱蒸発又は活性炭ろ過で、前記複合溶剤と、染料及び撥水剤とを分離させることによって、前記複合溶剤は、回収・再利用されることができる。なお、再生されたポリエステル織物は、フィルターに止まれて、その後の処理にとって有利となる。

【0051】

前記工程Ｓ１５０は、前記ポリエステル織物を乾燥することによって、前記ポリエステル織物に残留する複合溶剤を更に除去する、乾燥処理を行うことを含む。

【0052】

より具体的に説明すると、前記乾燥処理は例えば、ポリエステル織物をオーブンに乾燥させるか、若しくは、ポリエステル織物を乾燥環境において自然乾燥させてもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。

【0053】

上述した構成により、前記ポリエステル織物が再生されて、そのＬ値は、６０以上であり、７５以上であることは好ましく、８０以上であることは特に好ましい。なお、前記再生されたポリエステル織物のａ値は、－２～２であり、前記再生されたポリエステル織物のｂ値は、－６～６である。撥水剤の残留濃度について、前記再生されたポリエステル織物に含まれた撥水剤の含有量は、２００ｐｐｍ以下であり、１５０ｐｐｍ以下であることは好ましく、１００ｐｐｍ以下であることは特に好ましい。

【0054】

説明すべきことは、Ｌａｂ色空間（Ｌａｂ ｃｏｌｏｒ ｓｐａｃｅ）は補色空間の一種で、明度を意味する次元Ｌと補色次元のａ及びｂを持ち、ＣＩＥ ＸＹＺ色空間の座標を非線形に圧縮したものに基づいている。

【0055】

本発明の一つの具体実施例において、前記ポリエステル織物の回収方法は、複合溶剤（２０％の水及び８０％の酢酸を含む）で染色されたポリエステル織物に対して、９０℃～１００℃の抽出温度で３回洗濯し、毎回の洗濯に１時間かかる。このように、再生されたポリエステル織物は、７５～８０のＬ値、０．５～１．５のａ値、及び３．０～４．０のｂ値を有するが、本発明はこれに制限されるものではない。

【0056】

前記工程Ｓ１６０は、前記ポリエステル織物の固有粘度を向上し、前記ポリエステル織物に残留した不純物を更に除去するための、前記ポリエステル織物に対する液体重合処理（Ｌｉｑｕｉｄ Ｓｔａｔｅ Ｐｏｌｙｃｏｎｄｅｎｓａｔｉｏｎ，ＬＳＰ）を行うことを含む。

【0057】

前記液体重合処理において、前記ポリエステル織物に残留した前記不純物は、固体の不純物（例えば、固体の無機粒子）及び低沸点有機物の中の少なくとも１つである。

【0058】

好ましくは、前記抽出処理において、前記ポリエステル織物の固有粘度が減少し、減少幅は１０％未満である（ＩＶ値は、約０．５５～０．６５が減少する）。なお、前記液体重合処理において、前記ポリエステル織物の前記固有粘度が増加し、増加幅は１５％～４０％である（ＩＶ値は、約０．６５～０．７５が減少する）。

【0059】

前記抽出処理において、ポリエステル織物の固有粘度の減少幅が少ないため、前記液体重合処理において、ポリエステル織物の固有粘度を大幅に向上させる必要がなく、プロセスで固有粘度を向上させる困難さの低減にとって有利となる。

【0060】

更に説明すると、前記液体重合処理において、前記ポリエステル織物に対し、０．０１ｔｏｒｒ～１．００ｔｏｒｒの液体重合圧力、２２０℃～２８０℃の液体重合温度で液体重合が行われ、次に、前記ポリエステル織物は、５μｍ以下のフィルターでろ過されることによって、前記ポリエステル織物に残留した前記不純物（例えば、固態の不純物及び低沸点有機物）が更に除去される。なかでも、前記液体重合処理を行った前記ポリエステル織物における前記撥水剤の含有量は、１００ｐｐｍ以下に低減させることができる。

【0061】

より具体的に説明すると、前記液体重合処理では、再生されたポリエステル織物は押出機（２２０℃～２８０℃）を介して液態となり、１００μｍのフィルターを通過して主の固体の不純物が除去されて、液態のポリエステルが多孔質板を介して押し出され、重力による垂直流として真空室（０．０１ｔｏｒｒ～１．００ｔｏｒｒ）に入れて液体重合（Ｌｉｑｕｉｄ Ｓｔａｔｅ Ｐｏｌｙｃｏｎｄｅｎｓａｔｉｏｎ，ＬＳＰ）を行うことによってＩＶ値を１０％～４０％向上させ、最後に、５μｍ以下のフィルターでろ過・冷却・造粒されることを含む。

【0062】

前記工程Ｓ１７０は、再生ポリエステル粒子を形成するための、溶融造粒機でポリエステル織物に溶融造粒処理（ｍｅｌｔ ｇｒａｎｕｌａｔｉｏｎ ｏｐｅｒａｔｉｏｎ）を行うことを含む。即ち、本実施形態において、再生されたポリエステル織物が脱色された後に、液体重合及び造粒を行うことによって、高固有粘度、高純度及び高いＬ値を有する再生ポリエステル粒子を得る。

【0063】

［実験データの測定］
実施例１～６：ポリエステル織物（Ｌ値＝２２％、ＩＶ値＝０．６１０、１０，０００ｐｐｍの撥水剤）及び水／酢酸複合溶剤を、１Ｌのビーカーに添加し、加熱・撹拌で織物に付いた撥水剤及び染料を抽出した。工程の条件（表１）及び抽出を行って再生されたポリエステル織物に対して液体重合（２６０℃、０．１ｔｏｒｒ）を行った品質（表２）について、以下の通りである。

【0064】

【表1】

【0065】

再生されたポリエステル織物に対して液体重合（２６０℃、０．１ｔｏｒｒ）を行った、造粒後の品質である。

【0066】

【表2】

【0067】

比較例１～６：ポリエステル織物（Ｌ値＝２２％、ＩＶ値＝０．６１０、１０，０００ｐｐｍの撥水剤）及び従来の抽出溶剤を、１Ｌのビーカーに添加し、加熱・撹拌で織物に付いた撥水剤及び染料を抽出した。工程の条件（表３）及び抽出を行って再生されたポリエステル織物の品質（表４）について、以下の通りである。

【0068】

【表3】

【0069】

抽出を行って再生されたポリエステル織物の品質（表４）

【0070】

【表4】

【0071】

以上の実験結果によれば、実施例１～６において、水／酢酸複合溶剤を用いて織物に付いた撥水剤及び染料を抽出すると、再生されたポリエステル織物に付いた撥水剤の含有量（いずれも、５００ｐｐｍ以下である）を低くすることが可能である。それに対し、比較例１～６において、従来の抽出溶剤（例えば、キシレン又はＥＧ）を用いて織物に付いた撥水剤及び染料を抽出すると、再生されたポリエステル織物に付いた撥水剤の含有量が比較的に高い（いずれも、３，０００ｐｐｍを超える）。

【0072】

［実施形態による有利な効果］
本発明の実施形態の有利な効果として、本発明に係るポリエステル織物の回収方法は、「水及び酢酸を混合した複合溶剤を提供する」及び「前記複合溶剤で前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することで、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去されることによって、前記ポリエステル織物が再生され、６０以上のＬ値、及び５００ｐｐｍ以下の撥水剤を有する、抽出処理を行う」、「前記ポリエステル織物の固有粘度を向上し、前記ポリエステル織物に残留した不純物を更に除去するための、前記ポリエステル織物に対する液体重合処理を行う」といった技術特徴により、前記ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤が効果的に除去される。それによって、前記ポリエステル織物の回収・再利用が容易になると共に、良好な回収品質を有する。なお、本発明に係るポリエステル織物の回収方法は、製造コストが低く、プロセスの安全性が高い、といった利点を有する。

【0073】

以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施形態であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。

【図1】