(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ポリエステル織物の脱色方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/08 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
(21)【出願番号】P 2022081436
(22)【出願日】2022-05-18
【審査請求日】2022-05-18
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】廖徳超
(72)【発明者】
【氏名】莊榮仁
(72)【発明者】
【氏名】ファン章鑑
(72)【発明者】
【氏名】曾郁迪
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-041597(JP,A)
【文献】特開2020-133089(JP,A)
【文献】特開2005-255963(JP,A)
【文献】特開2015-048570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 11/02
C08J 11/00-11/28
D06B 1/00-23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料及び撥水剤を有する染色されたポリエステル織物を提供することと、
プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)及び酢酸を混合した複合溶剤を提供することと、
前記複合溶剤で前記染色されたポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することで、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去され、再生されたポリエステル織物を得る、抽出処理を行うことと、を含み、
前記複合溶剤において、前記プロピレングリコールモノメチルエーテル:前記酢酸(重量比)は、70:30~90:10であり、
前記ポリエステル織物は、ガラス転移温度(glass transition temperature,Tg)を有し、
前記抽出処理において、前記複合溶剤が抽出温度に加熱されて前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することによって、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去され、
前記複合溶剤の前記抽出温度は、前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度より高
く、
前記染色されたポリエステル織物に付いた前記撥水剤は、ポリマーネットワーク架橋構造を有し、前記撥水剤は、ケイ素(Si)を含む撥水剤、フッ素(F)を含む撥水剤、フッ素とケイ素を含む撥水剤、及び水性ポリウレタン(PU)撥水剤の中の少なくとも1つであり、前記抽出処理において、前記撥水剤は、前記複合溶剤における前記酢酸で除去されることを特徴とする、ポリエステル織物の脱色方法。
【請求項2】
前記複合溶剤において、前記プロピレングリコールモノメチルエーテル:前記酢酸(重量比)は、80:20~90:10である、請求項1に記載のポリエステル織物の脱色方法。
【請求項3】
前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度は、80℃以下であり、且つ前記複合溶剤は、80℃~150℃の前記抽出温度に加熱されることによって、前記ポリエステル織物を浸漬させ、前記染料及び前記撥水剤を抽出する、請求項1に記載のポリエステル織物の脱色方法。
【請求項4】
前記抽出処理において、前記複合溶剤の前記抽出温度は、前記プロピレングリコールモノメチルエーテルの沸点及び/又は前記酢酸の沸点より低い、請求項3に記載のポリエステル織物の脱色方法。
【請求項5】
前記抽出処理において、前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度は、70℃~80℃であり、前記複合溶剤の前記抽出温度は、100℃~120℃である、請求項4に記載のポリエステル織物の脱色方法。
【請求項6】
前記抽出処理において、前記複合溶剤の重量は、前記染色されたポリエステル織物の重量の8倍~30倍であり、前記複合溶剤の前記染色されたポリエステル織物に対する抽出時間は、0.5時間~3.0時間であり、前記複合溶剤の前記染色されたポリエステル織物に対する抽出回数は、1回~6回である、請求項1に記載のポリエステル織物の脱色方法。
【請求項7】
前記複合溶剤で前記染色されたポリエステル織物に付いた前記染料及び前記撥水剤を抽出した後に、
フィルターで前記複合溶剤及び前記再生されたポリエステル織物に対してろ過を行うことによって、前記複合溶剤と前記再生されたポリエステル織物とを分離させる、ろ過処理を行うことと、
前記再生されたポリエステル織物を乾燥することによって、前記再生されたポリエステル織物に残留する前記複合溶剤を更に除去する、乾燥処理を行うことと、を更に含み、
前記フィルターの孔径は、5cm以下である、請求項1に記載のポリエステル織物の脱色方法。
【請求項8】
前記再生された前記ポリエステル織物のL値は、60以上であると共に、前記再生されたポリエステル織物での撥水剤の含有量は、200ppm以下である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のポリエステル織物の脱色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱色方法に関し、特に、ポリエステル織物の脱色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
染色されたポリエステル織物は、染料及び撥水剤を含むことは多いため、回収すべきポリエステル織物にとって、染料及び撥水剤はいずれも不純物である。ポリエステル織物の回収を行うには、ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤を除去する必要がある。
【0003】
従来の技術において、溶媒で抽出する方法は、ポリエステル織物に付いた染料を抽出できるが、ポリエステル織物に付いた撥水剤を効果的に抽出することができない。このように、過量の撥水剤がポリエステル織物に残留することによって、ポリエステル織物を回収することができないか、若しくは、回収品質が不良で用途が限られる、との問題を有する。
【0004】
米国特許公告第7,959,807号には、染色されたポリエステル織物から有用の成分を回収する方法が開示されている。この有用の成分を回収する方法は、高い染料除去効率を有して、回収されたポリエステル織物が白色を呈するが、前記ポリエステル織物に付いた撥水剤は、溶媒で抽出し且つろ過した後でも、除去されることができない。撥水剤の残留濃度は、約10,000ppmであり、それによって、ポリエステル織物の回収品質及び用途に影響する。例えば、再生された繊維は、不純物を有するため、糸の断裂を起こしやすい。
【0005】
台湾特許第I481762号には、染色されたポリエステル織物の脱色方法が開示されている。この脱色方法では、溶剤の蒸発ガスで染料を抽出する。この脱色方法を採用すると、比較的に高い染料抽出率を有するが、エネルギー消費量が高いとの欠点を有する。また、この方法を採用する場合、依然として撥水剤を除去することができない問題が発生し、撥水剤がポリエステル織物に残留する問題を有する。
【0006】
そこで、本発明者は、上述した問題が改善可能であることに鑑みて、鋭意研究を行い学理を併せて運用した結果、設計が合理的で且つ前記問題を効果的に改善することができる方法として本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許公告第7,959,807号
【文献】台湾特許第I481762号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする技術の課題は、従来技術の不足に対し、ポリエステル織物の脱色方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、ポリエステル織物の脱色方法を提供する。ポリエステル織物の脱色方法は、染料及び撥水剤を含有する、染色されたポリエステル織物を提供することと、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)及び酢酸を混合した複合溶剤を提供することと、前記複合溶剤で前記染色されたポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することで、前記染料及び前記撥水剤を前記ポリエステル織物から除去され、再生されたポリエステル織物を得る、抽出処理を行うことと、を含む。
【0010】
好ましくは、前記複合溶剤において、前記プロピレングリコールモノメチルエーテル:前記酢酸は、5:95~95:5である。
【0011】
好ましくは、前記ポリエステル織物は、ガラス転移温度(glass transition temperature,Tg)を有し、なかでも、前記抽出処理において、前記複合溶剤が抽出温度に加熱されて前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することによって、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去され、なかでも、前記複合溶剤の前記抽出温度は、前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度より高い。
【0012】
好ましくは、前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度は、80℃以下であり、且つ前記複合溶剤は、80℃~150℃の前記抽出温度に加熱されることによって、前記ポリエステル織物を浸漬させ、前記染料及び前記撥水剤を抽出する。
【0013】
好ましくは、前記抽出処理において、前記複合溶剤の前記抽出温度は、前記プロピレングリコールモノメチルエーテルの沸点及び/又は前記酢酸の沸点より低い。
【0014】
好ましくは、前記抽出処理において、前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度は、70℃~80℃であり、前記複合溶剤の前記抽出温度は、100℃~140℃であり、且つ、前記プロピレングリコールモノメチルエーテル:前記酢酸は、10:90~80:20である。
【0015】
好ましくは、前記抽出処理において、前記複合溶剤の重量は、前記染色されたポリエステル織物の重量の8倍~30倍であり、前記複合溶剤の前記染色されたポリエステル織物に対する抽出時間は、0.5時間~3.0時間であり、前記複合溶剤の前記染色されたポリエステル織物に対する抽出回数は、1回~6回である。
【0016】
好ましくは、前記染色されたポリエステル織物に付いた前記撥水剤は、ポリマーネットワーク架橋構造を有し、前記撥水剤は、ケイ素(Si)を含む撥水剤、フッ素(F)を含む撥水剤、フッ素とケイ素を含む撥水剤、及び水性ポリウレタン(PU)撥水剤の中の少なくとも1つであり、なかでも、前記抽出処理において、前記撥水剤は、前記複合溶剤における前記酢酸で除去される。
【0017】
好ましくは、前記ポリエステル織物の脱色方法は、前記複合溶剤で前記染色されたポリエステル織物に付いた前記染料及び前記撥水剤を抽出した後に、フィルターで前記複合溶剤及び前記再生されたポリエステル織物に対してろ過を行うことによって、前記複合溶剤と前記再生されたポリエステル織物とを分離させる、ろ過処理を行うことと、前記再生されたポリエステル織物を乾燥することによって、前記再生されたポリエステル織物に残留する前記複合溶剤を更に除去する、乾燥処理を行うことと、を更に含み、なかでも、前記フィルターの孔径は、5cm以下である。
【0018】
好ましくは、前記再生された前記ポリエステル織物のL値は、60以上であると共に、前記再生されたポリエステル織物での撥水剤の含有量は、200ppm以下である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有利な効果として、本発明に係る繊維布の脱色方法は、「プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)及び酢酸を混合した複合溶剤を提供する」、及び「前記複合溶剤で前記染色されたポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することで、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去され、再生されたポリエステル織物を得る、抽出処理を行う」といった技術特徴により、前記ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤が効果的に除去される。それによって、前記ポリエステル織物の回収・再利用が容易となると共に、良好な回収品質を有する。
【0020】
本発明に係るポリエステルは、飽和の二塩基と二価アルコールとを縮合反応させて製造された線状高分子ポリマーである。前記ポリエステルの種類が多く、原料又は中間体によって異なるが、大分子における各チェーン単位には、エステル基である「-COO-」を介して連結されるため、ポリエステルを総称する。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。ポリエステルを再加工して繊維を製造し、更に織物を製造する。ポリエステル繊維から、複数種の織物(各種の平織り生地、ニット生地)を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係るポリエステル織物の脱色方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照されたい。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するためのものではない。
【0023】
以下、所定の具体的な実施態様を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行または適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際のサイズに基づいて描かれたものではない。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲を制限することはない。
【0024】
理解すべきことは、本明細書では、「第1」、「第2」、「第3」といった用語を用いて各種の素子又は信号を叙述することがあるが、これらの素子又は信号は、これらの用語によって制限されるものではない。これらの用語は主に、1つの素子ともう1つの素子、又は1つの信号ともう1つの信号を区別するためのものである。また、本明細書において使用される「または」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つ又は複数の組み合わせを含むことがある。
【0025】
[ポリエステル織物の脱色方法]
本発明に係るポリエステル織物の脱色方法は、ポリエステル織物をTg点より高い温度にすることで、繊維の分子が自由にスリップして、柔軟且つゆるくなり、それによって、染料の抽出にとって有利となり、脱色効果を達成することができる。ポリエステル織物は、疎水性を有するため、溶剤の特性として、溶媒の沸点がポリエステル織物のTgを超える以外に、溶剤は、油又は水と相互に溶けるもの(例えば、PM)であることは好ましい。また、酢酸溶剤は、撥水剤の構造を解重合(破壊)して、撥水剤と織物とを分離させた上で、PMの染料に対する抽出効率を向上し、脱色効果を向上させることができる。
【0026】
説明すべきことは、染色されたポリエステル織物は、染料及び撥水剤を含むことは多い。回収すべきポリエステル織物にとって、染料及び撥水剤はいずれも不純物である。ポリエステル織物の回収を行うと、ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤を除去する必要がある。従来の技術において、溶媒で抽出する方法は、ポリエステル織物に付いた染料のみを抽出するが、ポリエステル織物に付いた撥水剤を効果的に抽出することができない。このように、過量の撥水剤がポリエステル織物に残留することによって、ポリエステル織物を回収することができないか、若しくは、回収品質が不良で用途が限られる、との問題を有する。
【0027】
上記の技術的課題を解決するために、
図1に示すように、本発明の実施形態は、ポリエステル織物の脱色方法を提供すると共に、ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤を効果的に除去することができる。前記ポリエステル織物の脱色方法は、工程S110、工程S120、工程S130、工程S140及び工程S150を含む。説明すべきことは、本実施形態に記載された各工程の順及び実際的な操作方法は、必要に応じて調整することができ、本発明は本実施形態に制限されるものではない。
【0028】
前記工程S110は、染料(dye)及び撥水剤(water repellent)を有する、再生すべき且つ染色されたポリエステル織物を提供する。
【0029】
より具体的に説明すると、例えば、前記ポリエステル織物の表面には、染料で染色によって、色(例えば、黒色、赤色、青色…など)を与えると共に、前記ポリエステル織物は、撥水剤処理によって、撥水性を有する。一般的に、染料は主に、ポリエステル織物の繊維構造(特に、繊維構造のアモルファス領域)に付いており、撥水剤は主に、ポリエステル織物及び染料に付いている。
【0030】
なかでも、前記染料は例えば、天然染料及び合成染料の少なくとも1つであってもよい。なお、前記撥水剤は、ポリマーネットワーク架橋構造を有し、前記撥水剤は例えば、ケイ素(Si)を含む撥水剤、フッ素(F)を含む撥水剤、フッ素とケイ素を含む撥水剤、又は水性ポリウレタン(PU)撥水剤であってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0031】
ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤を除去するために、本実施形態に係るポリエステル織物の脱色方法は、以下の工程S120~工程S150で実現される。
【0032】
前記工程S120は、プロピレングリコールモノメチルエーテル(propylene glycol methyl ether,PM)及び酢酸(acetic acid)を混合した複合溶剤(composite solvent)を提供することを含む。
【0033】
前記複合溶剤の前記染料及び前記撥水剤に対して良好な抽出効率を有するため、プロピレングリコールモノメチルエーテル及び酢酸は、好ましい比率で配合される。具体的に説明すると、前記複合溶剤において、前記プロピレングリコールモノメチルエーテル:酢酸は通常、5:95~95:5であり、10:90~80:20であることは好ましく、70:30~90:10であることはより好ましく、80:20~90:10であることは特に好ましい。即ち、本発明の好ましい実施形態において、プロピレングリコールモノメチルエーテルの使用量は、酢酸の使用量を超えると共に、プロピレングリコールモノメチルエーテルの使用量(重量)は、酢酸の使用量(重量)の2倍~10倍であるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0034】
前記工程S130は、前記複合溶剤で前記染色されたポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することで、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去され、再生されたポリエステル織物を得る、抽出処理(extraction operation)を行う。
【0035】
更に説明すると、前記ポリエステル織物は、ガラス転移温度(glass transition temperature,Tg)を有する。前記抽出処理において、前記複合溶剤が抽出温度(extraction temperature)に加熱されて前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することによって、前記染料及び前記撥水剤がポリエステル織物から除去される。なかでも、前記複合溶剤の前記抽出温度は、前記ポリエステル織物の前記ガラス転移温度より高い。それによって、前記複合溶剤の染料及び撥水剤に対する抽出効率が向上する。
【0036】
本発明の一つの実施形態において、前記ポリエステル織物のガラス転移温度は80以下であり、大抵70℃~80℃である(例えば、75℃)。
【0037】
本発明の一つの実施形態において、前記複合溶剤は、80℃~150℃の前記抽出温度に加熱されて前記ポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出する。好ましくは、前記複合溶剤の抽出温度は、100℃~140℃であり、特に好ましくは、100℃~120℃であるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0038】
即ち、複合溶剤の染料及び撥水剤に対する抽出効率を向上するために、前記抽出処理において、好ましくは、前記複合溶剤の抽出温度(例えば、100℃~120℃)は、ポリエステル織物のガラス転移温度(例えば、70℃~80℃)より高い。なお、好ましくは、前記複合溶剤の抽出温度(例えば、100℃~120℃)は、プロピレングリコールモノメチルエーテルの沸点(例えば、120℃)より低く、且つ酢酸の沸点(例えば、118℃)より低いことによって、前記複合溶剤は、常圧で染料及び撥水剤の抽出を行うが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0039】
本発明の一つの実施形態において、前記第1の脱色液又は前記第2の脱色液の使用量(重量)は、前記ポリエステル織物の使用量(重量)の8倍~30倍であり、好ましくは、10倍~15倍である。本発明の一つの実施形態において、前記複合溶剤の、前記染色されたポリエステル織物に対する抽出時間は、0.5時間~3.0時間であり、1~2時間であることは好ましい。本発明の一つの実施形態において、前記複合溶剤の前記ポリエステル織物に対する抽出回数は、1回~6回であり、3回~6回であることは好ましい。特筆すべきことは、毎回の抽出処理では、真新しく且つ使用されなかった複合溶剤を用いて染料及び前記撥水剤の抽出を行う。
【0040】
特筆すべきことは、前記複合溶剤において、酢酸は主に、ポリエステル織物に付いた撥水剤を除去するためのものである。より具体的に説明すると、酢酸は、水分解の触媒として用いられると共に、ポリマーネットワーク架橋構造を有する撥水剤を水分解するか、若しくは、撥水剤の分子構造にあるシラン(silane)を水分解することができる。なお、プロピレングリコールモノメチルエーテルは主に、ポリエステル織物に付いた染料を除去するためのものである。
【0041】
更に説明すると、プロピレングリコールモノメチルエーテル及び酢酸は、お互いに補強効果がある。プロピレングリコールモノメチルエーテルは、界面活性剤として用いられるので、複合溶剤のポリエステル織物の繊維構造に入れる速度を加速させて、ポリエステル織物を浸漬・膨張させる効果を果たせる。なお、プロピレングリコールモノメチルエーテルは、酢酸と撥水剤との接触を促進させることによって、撥水剤の除去効率を向上させることができる。
【0042】
なかでも、プロピレングリコールモノメチルエーテルは、優れた共溶媒(co-solvent)であり、水相及び油相に溶解される。染料は主に、ポリエステル織物におけるアモルファス領域に付いている。プロピレングリコールモノメチルエーテルは、ポリエステル織物におけるアモルファス領域に優れた親和性を有するため、染料がポリエステル織物から除去されることができる。また、酢酸の極性が高く且つ染料との親和性が高いため、酢酸は、プロピレングリコールモノメチルエーテルの作用を強化させて、プロピレングリコールモノメチルエーテルは、ポリエステル織物から染料をより速く除去させることができる。
【0043】
上述した構成により、本実施形態に係る複合溶剤は、従来の抽出溶剤に比べて、低い抽出温度を有するため、エネルギー消費量を低減すると共に、ポリエステル織物の繊維構造が破壊されにくい。なお、本実施形態に係る複合溶剤の抽出溶剤は、ポリエステル織物のガラス転移温度より高いため、前記複合溶剤は、ポリエステル織物の繊維構造を軟化させて、前記複合溶剤がポリエステル織物の繊維構造に入れることによって、染料及び撥水剤の抽出効率を向上させることができる。また、本実施形態に係る複合溶剤の主成分として、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)及び酢酸を用いる利点は、コストが低く、且つ人体に害を及ぼす可能性は低い。
【0044】
別の観点から、複合溶剤の抽出温度は、ポリエステル織物(PET織物)のガラス転移温度より高いため、プロピレングリコールモノメチルエーテルは、ポリエステル織物の繊維構造から染料を除去することができる。しかしながら、撥水剤は、ポリマーネットワーク架橋構造を有するため、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの溶剤は、撥水剤の構造を溶解・破壊させることができない。従来の抽出溶剤に比べて、本発明の実施形態に係る複合溶剤では、プロピレングリコールモノメチルエーテルに酢酸添加することによって、複合溶剤を形成する。ポリエステル織物のガラス転移温度の同等以上であると、酢酸は、撥水剤の分子構造を破壊し、撥水剤をポリエステル織物から除去することができる。なお、複合溶剤(PM/酢酸)は、加熱蒸発、若しくは活性炭ろ過によって回収・再利用を行うことができる。
【0045】
従来のポリエステル織物に付いた染料を抽出する技術に比べて、本発明のポリエステル織物の脱色方法は、再生されたポリエステル織物はより高い品質を有し、且つ前記脱色方法は、比較的に低いエネルギー消費量を有する。
【0046】
前記工程S140は、フィルターで前記複合溶剤及び再生されたポリエステル織物に対するろ過を行うことによって、前記複合溶剤とポリエステル織物とを分離させる、ろ過処理(filtering operation)を含む。
【0047】
前記ろ過処理において、前記フィルターの孔径は通常は、5cm以下であり、3cm以下であることは好ましく、1cm以下であることは特に好ましい。それによって、前記複合溶剤とポリエステル織物とを、効果的に分離させることができる。特筆すべきことは、前記ろ過処理において、染料及び撥水剤が含まれた前記複合溶剤はフィルターを通過すると共に、加熱蒸発又は活性炭ろ過で、前記複合溶剤と、染料及び撥水剤とを分離させることによって、前記複合溶剤は、回収・再利用されることができる。なお、再生されたポリエステル織物は、フィルターに止まれて、その後の処理にとって有利となる。
【0048】
前記工程S150は、前記再生されたポリエステル織物を乾燥することによって、前記ポリエステル織物に残留する複合溶剤を更に除去する、乾燥処理を行うことを含む。
【0049】
より具体的に説明すると、前記乾燥処理は例えば、再生されたポリエステル織物をオーブンに乾燥させるか、若しくは、再生されたポリエステル織物を乾燥環境において自然乾燥させてもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0050】
上述した構成により、再生されたポリエステル織物のL値は、60以上であり、75以上であることは好ましく、85以上であることは特に好ましい。なお、前記再生されたポリエステル織物のa値は、-1~1であり、前記再生されたポリエステル織物のb値は、-4~4である。撥水剤の残留濃度について、前記再生されたポリエステル織物に含まれた撥水剤の含有量は、200ppm以下であり、100ppm以下であることは好ましい。
【0051】
説明すべきことは、Lab色空間(Lab color space)は補色空間の一種で、明度を意味する次元Lと補色次元のa及びbを持ち、CIE XYZ色空間の座標を非線形に圧縮したものに基づいている。
【0052】
本発明の一つの具体実施例において、前記ポリエステル織物の脱色方法は、複合溶剤(90%のPM及び10%の酢酸を含む)で染色されたポリエステル織物に対して、115℃の抽出温度で3回洗濯し、毎回の洗濯は1時間がかかる。このように、再生されたポリエステル織物は、80~85のL値、0.2~0.6のa値を有し、2.5~3.5のb値を有するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0053】
[複合溶剤]
上述したのは、本発明の実施例に係るポリエステル織物の脱色方法である。本発明の実施形態は、複合溶剤を更に提供する。前記複合溶剤は、染料及び撥水剤を含む染色されたポリエステル織物に対して脱色処理を行う。なかでも、前記複合溶剤では、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)及び酢酸(acetic acid)を混合している。また、前記複合溶剤において、前記プロピレングリコールモノメチルエーテル:酢酸は通常、5:95~95:5であり、10:90~80:20であることは好ましく、70:30~90:10であることはより好ましく、80:20~90:10であることは特に好ましい。即ち、本発明の好ましい実施形態において、プロピレングリコールモノメチルエーテルの使用量(重量)は、酢酸の使用量(重量)を超えると共に、プロピレングリコールモノメチルエーテルの使用量(重量)は、酢酸の使用量(重量)の2倍~10倍であるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0054】
[実験データの測定]
実施例1~6:ポリエステル織物(L=22%、10,000ppmの撥水剤)及びPM/酢酸複合溶剤を、1Lのビーカーに添加し、加熱・撹拌で織物に付いた撥水剤及び染料を抽出した。工程の条件(表A1)及び抽出を行った再生されたポリエステル織物の品質(表A2)について、以下の通りである。
【0055】
【0056】
抽出を行った再生されたポリエステル織物の品質(表A2)
【表A2】
【0057】
比較例1~6:ポリエステル織物(L=22%、10,000ppmの撥水剤)及び従来の抽出溶剤を、1Lのビーカーに添加し、加熱・撹拌で織物に付いた撥水剤及び染料を抽出した。工程の条件(表B1)及び抽出を行った再生されたポリエステル織物の品質(表B2)について、以下の通りである。
【表B1】
【0058】
抽出を行った再生されたポリエステル織物の品質(表B2)
【表B2】
【0059】
以上の実験結果によれば、実施例1~6において、PM/酢酸複合溶剤を用いて織物に付いた撥水剤及び染料の抽出を行うと、再生されたポリエステル織物に付いた撥水剤の含有量(いずれも、100ppm以下である)を低くにすることが可能である。それに対し、比較例1~6において、従来の抽出溶剤(例えば、キシレン又はEG)を用いて織物に付いた撥水剤及び染料の抽出を行うと、再生されたポリエステル織物に付いた撥水剤の含有量が比較的に高い(いずれも、3,000ppmを超える)。
【0060】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明に係る繊維布の脱色方法は、「プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)及び酢酸を混合した複合溶剤を提供する」、及び「前記複合溶剤で前記染色されたポリエステル織物を浸漬し、前記染料及び前記撥水剤を抽出することで、前記染料及び前記撥水剤が前記ポリエステル織物から除去され、再生されたポリエステル織物を得る、抽出処理を行うこと」といった技術特徴により、前記ポリエステル織物に付いた染料及び撥水剤が効果的に除去される。それによって、前記ポリエステル織物の回収・再利用が容易となると共に、良好な回収品質を有する。
【0061】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。