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特許7461414Rhoキナーゼ阻害剤BA‐1049(R)及びその活性代謝物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】Rhoキナーゼ阻害剤BA‐1049(R)及びその活性代謝物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4725 20060101AFI20240327BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240327BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
A61K31/4725
A61P9/10
A61P25/00
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022105969
(22)【出願日】2022-06-30
(62)【分割の表示】P 2019534685の分割
【原出願日】2017-05-09
(65)【公開番号】P2022141695
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】62/437,181
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512306151
【氏名又は名称】バイオアクソン バイオサイエンシーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ローゼン、ケネス エム.
(72)【発明者】
【氏名】アビナンティ、マシュー ディ.
(72)【発明者】
【氏名】ルッシェル、イェルク
(72)【発明者】
【氏名】マッケラッチャー、リサ
(72)【発明者】
【氏名】モーリッツ、リサ ボンド
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-502248(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0213664(US,A1)
【文献】特表2011-530518(JP,A)
【文献】特表2007-523202(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105442(WO,A1)
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,2015年,Vol. 58,pp. 5028-5037
【文献】Kitakanto Med J,2003年,Vol. 53,pp. 99-100
【文献】Chemistry & Industry,2009年03月09日,p.24-26
【文献】CONCERT PHARMACEUTICALS INC.,PRECISION DEUTERIUM CHEMISTRY BACKGROUNDER,INTERNET CITATION [ONLINE],2007年,P1-6,http://www.webcitation.org/5e81SGCnl
【文献】Journal of Pharmaceutical Sciences,1977年,Vol.66, No.1,p.1-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C07D
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造:
【化1】

の化合物又はそれの薬学的に許容可能な塩を含んでなる医薬製剤であって、前記薬学的に許容可能な塩がアジピン酸塩である、医薬製剤
【請求項2】
脳海綿状血管腫の治療に用いられる請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
脳卒中又はくも膜下出血後の血管攣縮の治療に用いられる請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項4】
脳動脈瘤の治療に用いられる請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項5】
脊髄損傷又は外傷性脳損傷の治療に用いられる請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記化合物は重水素化されている請求項1に記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は医薬及び神経学に関する。より詳しくは、本開示は神経学的状態を治療するために有用な特異的ROCK2阻害剤化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
Rhoキナーゼ(ROCK)は、様々な組織における細胞骨格、運動性、及びジャンクション接点(junctional contact)の調節に中心的な役割を果たすセリン/トレオニンキナーゼである。ROCKは小型GTPアーゼRhoが活性化されたときに活性化され、かつROCKはRhoの下流にあって複雑な細胞内シグナル伝達カスケードにおける他のキナーゼのリン酸化に重要な役割を果たす。2つのRhoキナーゼアイソフォーム、ROCK1及びROCK2があり、これらはいずれもRhoによって活性化される。ROCK1は広範囲の生体内分布を有する(しかし脳及び骨格筋では少ない)。ROCK2は、中枢神経系(特許文献1)、脳、心臓、及び肺で発現されるが、肝臓、脾臓、腎臓、及び精巣では比較的少ない。これら2つの異なる形態は生物学的活性及び機能に違いを有する可能性がある(非特許文献1~3)。
【0003】
Rho及びROCKはいずれも、多種類の神経外傷及び神経血管疾患において異常に活性化される。ROCKの阻害剤は傷害後の神経突起の成長及び軸索再生を促進し、かつROCKの阻害剤はさらに、脳卒中後の内皮細胞における、及び動脈瘤又は血管腫のような神経血管疾患における、ROCK活性化の低減にも有効である。
【0004】
血栓又は血栓塞栓症によって引き起こされた脳卒中が血管を通る血流を遮断すると(虚血)、血管壁自体の細胞を含む組織への酸素供給が減少する(低酸素症)。血管壁の細胞に対するこの傷害は血管壁の透過性増大をもたらし、血漿成分が周囲の脳組織中に漏れ出すことが可能となる。多くの場合、血管壁の機能的な問題により血栓のエリアで脳内への明白な出血が生じる場合がある。ROCKシグナル伝達は、この不適当な血管透過性増大の基礎を成す要素である(非特許文献4)。
【0005】
くも膜下出血は緊急の治療介入を要する状態であり、患者の転帰不良を伴うことが多い。外科的切開又は血管内外科の手法のいずれかが、損傷を限定するための出血の停止又は極小化のいずれかを行うために、一般に適用される。この障害の患者を管理する際の重要な要点は、共存疾患として生じることの多い、血管攣縮及び血管緊張の変化を制御することである。ニモジピンのようなカルシウムチャネル遮断薬は、ROCK阻害剤ファスジルと同様に、臨床的に使用されてきた(非特許文献5)。ファスジルはこの状況で血管攣縮を制御するために使用されてきた一方、ROCK1及びROCK2の両方に対するファスジルの非選択的な効果並びに恐らくは他のキナーゼに対するファスジルのオフターゲット効果が、その使用を出血後の最初の2週間だけに制限してきた。
【0006】
同様に、外傷性脳損傷(TBI)が生じる場合、多数の力(例えば衝撃力又は剪断力)が、ニューロン及びグリアだけでなく出血を誘発する脳の血管系にも、直接的な一次的損傷をもたらす可能性がある。TBIに続いて、二次的損傷が生じる可能性もある。これらの損傷の多くは、血管の凝血塊の帰結としての負傷エリアにおける血液潅流の減少、及び血液脳関門を横切る血管透過性の増大に起因する組織浮腫の発症、の結果である(非特許文献6)。
【0007】
脊髄損傷では、血液脳関門が崩壊する。さらに、壊れた軸索はRhoキナーゼの過剰活性化のおかげで自然には再生しない。Rhoキナーゼの不活性化は脊髄損傷後の機能的な修復を促進する(非特許文献7)。
【0008】
脳海綿状血管腫(CCM)は神経系の血管系に影響を及ぼす別の障害である。CCMは、本質的に神経系内の静脈(低圧)血管床においてのみ生じる血管奇形である。血管壁を形成する細胞においてこの障害に遺伝的に関係する3つのタンパク質のうちいずれかの機能不全が、細胞間の接着低下及びROCKの超活性化を引き起こす。究極的にはこれが上記血管壁における漏出性の増大をもたらし、血球及び他の血漿成分が調節されることなく脳に入ることを可能にする(非特許文献8)。血液脳関門は典型的には非常に強固な、かつ高度に調節された構造であり、微小血管の細胞(毛細血管内皮細胞、周皮細胞)と、星状細胞を含む神経系の他の細胞との間に形成される。血液脳関門の機能は、血液が運ぶ分子の脳への流入と、血漿中に存在する細胞が脳に入る能力とを高度に調節することである(非特許文献9)。脳組織中への血漿タンパク質及び他の分子の無秩序な放出は一般に脳内の機能的な問題をもたらし、かつ赤血球の蓄積は病的な鉄沈着を引き起こす可能性がある。
【0009】
小分子キナーゼ阻害剤は典型的には、キナーゼのATPポケットへの結合についてATPと競合する。ATPポケットの構造は保存されているので、キナーゼ阻害剤は多数のキナーゼに対して非特異的に結合し、その結果不要なオフターゲットのキナーゼ阻害を引き起こす可能性がある。一部のキナーゼはオンターゲットの効果により毒性を引き起こすが、その場合にはリスク便益分析が薬剤開発の判断を推進することになろう。オフターゲット効果は心毒性を含む毒性を引き起こす可能性があり、かつこれらはキノム(kinome)スクリーニングによって検出可能である。AMPで活性化されるタンパク質キナーゼ(AMPK)の不活性化は、同キナーゼが細胞代謝の調節因子であり、かつその活性化は心筋細胞がエネルギーストレス下にある時に必要とされるので、心毒性の一因となる(非特許文献10)。数多くのキナーゼ阻害剤が、心毒性のリスク増大にもかかわらずヒトでの使用について承認されている。
【0010】
ほとんどのRhoキナーゼ阻害剤はROCK1及びROCK2の両方を標的とし、したがって非選択的である。例えば、非選択的ROCK阻害剤であるファスジルはROCK1及びROCK2の両方を阻害する。ファスジルは、脳出血後の脳血管攣縮の短期治療のために開発された(非特許文献11)。ファスジルは脊髄損傷においても研究されてきた(非特許文献12)。残念なことに、ファスジルは、悪心、皮下出血、くも膜下出血、発熱、腎不全、及び低血圧を含む毒性を引き起こし、従ってファスジルの長期使用は重篤な合併症を引き起こす(非特許文献13;非特許文献1)(http://www.ehealthme.com/drug_side_effects/Fasudil-Hydrochloride-1268381)。
【0011】
別の例は、乾癬の治療における効能について臨床的に試験がなされている、ROCK2特異的Rhoキナーゼ阻害剤のSLx‐2119である(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02317627?term=kd025&rank=2)。残念なことに、SLx‐2119は、脳卒中のマウスモデルでの神経保護において効能を示すためには高用量で使用しなければならず(非特許文献14)、また、試験されたこれらの有効用量は、体表面積に基づいてヒト用量に変換すると、ヒトの耐性用量よりも多かった(非特許文献15)。上記の比較は、全身に使用しても安全であり、かつ神経学的状態を治療するために使用可能である治療用ROCK阻害剤を開発する際の難しさを浮き彫りにしている。
【0012】
ROCK2についてより高い選択性を有するRhoキナーゼ阻害剤は、低血圧という関連副作用の出現率を減少させる(非特許文献3)。これは恐らく、ROCK1が平滑筋において主要なRhoキナーゼであり(非特許文献16)、かつ低血圧という副作用を引き起こすのは血管平滑筋の緊張を緩めることであり、従って神経障害を治療するためのファスジルのような非選択的ROCK阻害剤の慣性的な全身使用は防止されているからであると思われる。
【0013】
FSD‐C10はROCK1よりもROCK2を選択的に標的とする阻害剤の例である(非特許文献3)。この阻害剤はファスジルほどは低血圧を引き起こさず、ROCK2と比較してROCK1への親和性を低減することが薬剤開発にとってより好ましいことを示している。しかしながらFSD‐C10は、ROCK2について高い親和性を持たず、IC50はROCK1について1141μΜ及びROCK2について711μΜであって該化合物は妥当な薬らしい特性を有していない。FSD‐C10がファスジルと比較された時、FSD‐C10は多発性硬化症の実験モデルにおける神経栄養因子の発現の誘導においてファスジルほど有効ではなく、またFSD‐C10で治療された動物は体重が減少する傾向があり、潜在的な効能対安全性の問題が示唆された。
【0014】
したがって、必要とされているのは、ROCK2について選択性を有するが完全な特異性は備えてない、より治療効果のある高親和性のROCK阻害剤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第7,572,013号明細書
【非特許文献】
【0016】
【文献】シー(Shi)ら、ジャーナル・オブ・カルディオバスキュラー・ファーマコロジー(J. Cardiovasc. Pharmacol.)、2013年、第62巻、p.341-354
【文献】メルチ(Mertsch)ら、モレキュラー・ニューロバイオロジー(Mol. Neurobiol.)、2014年、第49巻、p.900-915
【文献】シン(Xin)ら、バイオサイエンス・リポーツ(Biosci. Rep.)、2015年、第35巻、p.1-13
【文献】シー(Shi)ら、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Comm.)、2016年、第7巻、p.10523
【文献】サトウ(Satoh )ら、カレント・バスキュラー・ファーマコロジー(Curr. Vasc. Pharmacol.)、2014年、第12巻、第5号、p.758-765
【文献】コドブスキ(Chodobski)ら、トランスレーショナル・ストローク・リサーチ(Transl. Stroke Res.)、2011年、第2巻、第4号、p.492-516
【文献】ワツァラウィック(Watzalawick)ら、ジャマ・ニューロロジー(JAMA Neurol.)、2013年、第71巻、p.91-99
【文献】クラッターバック(Clatterbuck)ら、ジャーナル・オブ・ニューロロジー・ニューロサージェリー・アンド・サイカイアトリー(J. Neurol. Neurosurg. Psvchiat.)、2001年、第71巻、p.188-192
【文献】バラブ(Ballabh)ら、ニューロバイオロジー・オブ・ディジーズ(Neurobiol. Dis.)、2004年、第16巻、p.1-13
【文献】チェン(Chen)ら、プログレス・イン・カルディオバスキュラー・ディジーズ(Progr. Cardiovasc. Dis.)、2010年、第53巻、p.114-120
【文献】リキタケ(Rikitake)ら、ストローク(Stroke)、2005年、第36巻、第10号、p.2251-2257
【文献】ハラ(Hara)ら、ジャーナル・オブ・ニューロサージェリー(スパイン1)(J. Neurosurg. (Spine 1))、2000年、第93巻、p.94-101
【文献】フクモト(Fukumoto)ら、ハート(Heart)、2005年、第91巻、p.391-392
【文献】リー(Lee)ら、アナルズ・オブ・クリニカル・アンド・トランスレーショナル・ニューロロジー(Ann. Clin. Transl. Neurol.)、2014年、第1巻、第1号、p.2-14
【文献】FDA(2005年)業界向けガイダンス「健康なボランティアにおいて治療法に関する臨床試験を開始する際の最大安全量の評価(Estimating the maximum safe dose in Initiating Clinical trials for Therapeutics in Healthy Volunteers)」
【文献】ペロシ(Pelosi)ら、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol. Cell. Biol.)、2007年、第27巻、第17号、p.6163-6176
【発明の概要】
【0017】
Rhoキナーゼ阻害剤化合物BA‐1049の(R)鏡像異性形態(BA‐1049(R))、及びそのヒドロキシル代謝物は、ROCK2を標的とし、かつ神経血管外傷後の脳の内皮細胞におけるROCKの活性化を解消する能力を有していることが発見された。さらに、BA‐1049(R)は神経学的外傷後のニューロンからの神経突起の成長を促進し、かつCNSの外傷後のニューロンにおけるROCK活性化を解消する潜在能力を有することも発見されている。
【0018】
これらの発見は、一部にはBA‐1049(R)及びその活性代謝物に関し、かつBA‐1049(R)及びその活性代謝物を用いてCCM、脳卒中、くも膜下出血後の血管攣縮、脳動脈瘤、脊髄損傷、及び外傷性脳損傷を予防及び治療する方法に関する本開示を、発展させるために活用されてきた。
【0019】
1つの態様では、本開示は、BA‐1049のR鏡像異性体、その重水素化された形態、及びこれらのアジピン酸塩を提供する。
別の態様では、本発明は、BA‐1049(R)の活性ヒドロキシル代謝物(1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R))及びその重水素化された形態、並びにこれらのアジピン酸塩を提供する。
【0020】
本開示はさらに、脳卒中、くも膜下出血後の血管攣縮、脳動脈瘤、脊髄損傷、又は外傷性脳損傷に罹患している患者の前記疾患を治療する方法であって、BA‐1049(R)及びその活性ヒドロキシル代謝物のうち少なくともいずれか一方を含んでなる治療上有効な量の医薬製剤を、患者に投与することを含む方法を提供する。ある実施形態では、ヒドロキシル代謝物は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)である。いくつかの実施形態では、BA‐1049(R)及びBA‐1049(R)のヒドロキシル代謝物のうち少なくともいずれか一方は、重水素化されているか、アジピン酸塩であるかのうち少なくともいずれかである。
【0021】
別の態様では、本開示は、BA‐1049(R)、その活性ヒドロキシル代謝物、例えば1‐ヒドロキシ‐BA‐1049、又はこれらの混合物を含んでなる医薬製剤を提供する。いくつかの実施形態では、BA‐1049(R)及びその活性代謝物のうち少なくともいずれか一方は重水素化されている。他の実施形態では、BA‐1049(R)及びその活性代謝物のうち少なくともいずれか一方はアジピン酸塩である。いくつかの実施形態では、医薬製剤は、BA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐RA‐1049(R)ではないRhoキナーゼ阻害剤をさらに含んでなる。
【0022】
ある実施形態では、ヒドロキシル代謝物は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)である。
さらに提供されるのは、CCMに罹患している患者のCCMを治療する方法であって、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、並びにその重水素化物及びアジピン酸塩のうち少なくともいずれか、のうち少なくともいずれかを含んでなる治療上有効な量の医薬製剤を、患者に投与することを含む方法である。さらに他の実施形態では、医薬製剤は、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではない第2のrhoキナーゼ阻害剤をさらに含んでなる。他の実施形態では、該方法は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではないrhoキナーゼ阻害剤を含んでなる第2の医薬製剤を投与することをさらに含む。
【0023】
ある実施形態では、ヒドロキシル代謝物は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)である。
さらに別の態様では、本開示は、CCM、脳動脈瘤、脳卒中、くも膜下出血後の血管攣縮、又は脊髄損傷に罹患している患者の前記疾患の治療であって、BA‐1049(R)又はその活性代謝物ではない少なくとも1つのrhoキナーゼ阻害剤を含んでなる医薬製剤を投与することを含む治療を提供する。ある実施形態では、医薬製剤は、BA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではない、第2のrhoキナーゼ阻害剤を含んでなる。いくつかの実施形態では、該方法は、BA‐1049(R)又はその活性代謝物ではない治療上有効な量のrhoキナーゼ阻害剤を含んでなる第2の医薬製剤を、投与することをさらに含む。
【0024】
本開示の先述及びその他の目的、本開示の様々な特徴、さらに本開示それ自体は、以降の説明を添付の図面と併せて読めば、より十分に理解可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1Aは選択的ピペリジニル化合物BA‐1049の概略図であり、星印は不斉炭素を特定している。図1Bはファスジルを示す概略図である。図1CはSLx‐2119(KD‐025とも呼ばれる)を示す概略図である。図1Dは1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)を示す概略図である。
図2図2はBA‐1049のラセミ体合成を示す概略図であり、R鏡像異性体はラセミ体混合物からカラムクロマトグラフィーによって精製可能である。
図3図3は、選択性の改善のために添加されたルイス酸を用いるメチル基のジアステレオ選択的導入を利用した、光学的に純粋なBA‐1049(R)を調製するための合成スキームを示す図である。
図4図4は、BA‐1049(R)(「NT‐000077」)を調製するための代替合成スキームを示す概略図である。
図5図5は、エナンチオピュアなBA‐1049(R)の合成の最後から二番目のBoc保護化合物で開始する、光学的に純粋な1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)を調製するための合成スキームを示す概略図である。
図6図6AはBA‐1049(S)についてのROCK1に対する結合解離曲線のプロットを示すグラフである。図6BはBA‐1049(R)についてのROCK1に対する結合解離曲線のプロットを示すグラフである。図6CはBA‐1049(S)についてのROCK2に対する結合解離曲線のプロットを示すグラフである。図6DはBA‐1049(R)についてのROCK2に対する結合解離曲線のプロットを示すグラフである。
図7図7AはROCK1に対するBA‐1049(S)のIC50分析のための阻害曲線プロットを示すグラフである。図7BはROCK2に対するBA‐1049(S)のIC50分析のための阻害曲線プロットを示すグラフである。図7CはROCK1に対するBA‐1049(R)のIC50分析のための阻害曲線プロットを示すグラフである。図7DはROCK2に対するBA‐1049(R)のIC50分析のための阻害曲線プロットを示すグラフである。
図8図8は、一時的な中大脳動脈閉塞(脳卒中)が施されたマウス由来の脳ホモジネートを正常なマウス(脳卒中なし)と比較したウエスタンブロットを示す図であり、脳の左半球(L)及び右半球(R)からの組織ホモジネートについて、ROCK活性の下流の標的であるホスホコフィリンに対する抗体を用いて調査しており、脳卒中の脳の左側が患側であり、ホスホコフィリン発現の増加を示している。
図9図9は、MCAO及びラセミ体BA‐1049又はファスジルを用いた治療の後の、脳の脳卒中半球と対照半球との間のホスホコフィリン発現の左右の比率を示すグラフであり、脳の両側で同等の発現であることを示す0の近くへの比率の変化で視認できるように、BA‐1049はホスホコフィリン発現の比率を強力かつ顕著に低減した。
図10図10A図10D[[FIX]]は、BA‐1049(D)、ファスジル(C)又はビヒクルのみ(A)及び(B)で治療した脳卒中の脳の卒中側の島皮質の顕微鏡写真を示す図であり、ビヒクルのみを注射された動物では脳の卒中側(A)を脳卒中の影響を受けていない反対側(B)と比較し、ホスホMLC2に対する抗体を使用する免疫組織化学法に脳切片を供した。図10E図10Fは、Iba‐1抗体を用いた免疫染色により検出された活性化ミクログリアの顕微鏡写真を示す図であり、ミクログリアは脳卒中側で活性化され(E)、活性化はBA‐1049によって解消されている(F)。
図11図11Aは、成体マウスへの腹腔内注射により投与された様々な濃度のBA‐1049(R)を使用した用量‐応答実験を示すグラフであり、ROCK活性化のバイオマーカーとしての左対右の脳におけるホスホコフィリンの分析は、ROCK活性化を正常(1の値)まで解消するための最小有効量が1mg/kgであることを示している(A)。図11Bは、個々の動物についての右(反対側)及び左(脳卒中側)におけるホスホコフィリンレベルを、所与の動物についての右及び左の脳の値を線で接続して示すグラフである。
図12図12Aは、中大脳動脈閉塞及び再潅流開始の直後にBA‐1049(R)又はビヒクル(対照)を用いて治療した4時間後のマウス脳におけるホスホコフィリンの低減を示すグラフである。図12Bは、一時的な中大脳動脈閉塞及び再潅流開始の直後にBA‐1049(R)又はビヒクル(対照)を用いて治療した24時間後のマウス脳におけるホスホコフィリンの低減を示すグラフである。図12Cは、中大脳動脈閉塞の24時間、72時間、及び168時間前にI.P.で投与される10mg/kgのBA‐1049(R)を用いたマウスの前処置について示すグラフである。
図13図13Aは、MCAOの後にBA‐1049(R)又はビヒクル(対照)で処理され、次いで蛍光画像では赤色に見えるエバンスブルーを注射されたマウスの左側(L)及び右側(R)の皮質を示す写真である。図13B図13Aの結果を示すグラフである。
図14図14は、組織1gあたりのng量として計測された、腹腔内(I.P.)、静脈内(I.V.)、又は経口(PO)投与後の脳内で検出されたBA‐1049(R)の浸透を示すグラフである。
図15図15A図15Dは、細胞培養においてプレート培養され、(A)対照としてDMSO、(B)ラセミ体のBA‐1049、(C)BA‐1049(S)、及び(D)BA‐1049(R)を用いて処理された神経のNG‐108細胞を示す顕微鏡写真である。
図16図16A図16Cは、(A)5μΜのSLx‐2119、(B)5μΜのBA‐1049(R)、又は(C)50μΜのBA‐1049(R)で処理されたNG‐108細胞を示す顕微鏡写真である。
図17図17は、培養7日後(D7)又は培養1日後(D1)にPTENの発現をノックダウンするためにPTENに対するRNAiを用いて3日間処理された初代ラット皮質ニューロンのホモジネートのウエスタンブロットを示す図であり、ROCK2、PTEN、及びGAPDHの発現を示している。
図18図18A図18Bは、内皮細胞に対するリゾホスファチジン酸(LPA)(ROCKの活性化を誘導することが知られた化合物)の効果(B)を、対照の未処理の細胞(A)と比較して示す顕微鏡写真である。
図19図19Aは、Rhoの活性化を誘導するためにLPAで処理され、次にBA‐1049(R)で処理され、次にストレスファイバーを示すためにファロイジンで染色された内皮細胞を示す顕微鏡写真である。図19Bは、Rhoの活性化を誘導するためにLPAで処理され、次にファスジルで処理され、次にストレスファイバーを示すためにファロイジンで染色された内皮細胞を示す顕微鏡写真である。図19Cは、Rhoの活性化を誘導するためにLPAで処理され、次にBA‐1049(R)で処理され、次にジャンクション複合体を示すためにビンキュリンで染色された内皮細胞を示す顕微鏡写真である。図19Dは、Rhoの活性化を誘導するためにLPAで処理され、次にファスジルで処理され、次にジャンクション複合体を示すためにビンキュリンで染色された内皮細胞を示す顕微鏡写真である。
図20図20は、ラット、ヒト、サル、イヌ、及びマウス由来の肝細胞の処理により生成されたBA‐1049(R)及びその代謝物のクロマトグラフィーのプロファイルを示す図であり、イヌは代謝物を生産せず、ラットは他の生物種では見られない少量の代謝物(M336a)を生じることが示されている一方、7.4分のピークは1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)に相当し、7.6分より遅く溶出するピークはすべてバックグラウンドのピークである。
図21図21AはBA‐1049(R)の構造を示す概略図である。図21Bは1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の構造を示す概略図である。図21CはN‐オキシド‐BA‐1049(R)の構造を示す概略図である。
図22図22Aは、マウスへの5mg/kgのBA‐1049(R)の静脈内投与後の、脳内のBA‐1049(R)(点線)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)(実線)の濃度の時間経過を示すグラフである。図22Bは、2.5mg/kgのBA‐1049(R)の静脈内投与の30分後における、ラットの脳及び血管組織(下大静脈由来)のBA‐1049(R)(白抜きのバー)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)(黒塗りのバー)の濃度を示すグラフである。
図23図23は、BA‐1049(R)並びに2つの代謝物1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)及びN‐オキシドBA‐1049(R)による精製ROCK2の阻害曲線を比較して示すグラフである。
図24図24は、ヒト臍静脈内皮細胞がBA‐1049(R)及びBA‐1049(S)の精製立体異性体並びにBA‐1049(R)の2つの代謝物である1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)及びN‐オキシドBA‐1049(R)を用いて処理された時の、pMLC2 T18/S19のイムノブロットを装荷量対照のGAPDHと比較して示す図である。
図25図25A図25Fは、ROCKの活性化を誘導するためにLPAで処理され、続いて1μΜのBA‐1049(R)(図25B)、10μΜのBA‐1049(R)(図25C)、1μΜのBA‐1049(S)(図25E)、又は10μΜのBA‐1049(S)(図25F)を用いて処理されたヒト臍静脈内皮細胞を示す顕微鏡写真であり、図25Aは未処理(対照)の細胞を示し、図25DはLPAのみで処理された細胞を示す。
図26図26Aは、ヒト臍静脈内皮細胞がBA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)で処理された時のpMLC2 T18/S19のイムノブロットを装荷量対照のGAPDHと比較して示す図である。図26Bは、BA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)を用いた処理から得られたイムノブロット(図25Aに示す)のデンシトメータ計測結果を示すグラフであり、pMLC2のデンシトメータ計測値は正規化されて未処理対照の%としてプロットされ、阻害濃度(IC50)が計算されている。
図27図27は、動的水蒸気吸着測定(DVS)試験が行われる前及びDVS試験が行われた後の、BA‐1049(R)アジピン酸塩形態の粉末X線回折分析のトレースを示すグラフであり、湿気への曝露及びその後の乾燥は、BA‐1049(R)アジピン酸塩のX線回折によって検出されるように結晶格子を変化させないことが、示されている。
図28図28は、未治療であるか、又は負傷後の最初の2週間にわたりBA‐1049(R)で毎日治療されたか若しくは負傷後の3週目及び4週目の間にBA‐1049(R)で毎日治療されたSCIマウスのコホートから得られた、行動的転帰計測結果(オープンフィールドでの自発運動及び後肢握り行動)を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
上記の特許、特許出願、及び出版物の開示内容はその全体が、本明細書中に記載されかつ特許請求の範囲に述べられた本発明の日付において当業者に知られているような最先端技術についてより十分に説明するために、ここで参照により本願に組み込まれる。該特許、特許出願、及び出版物と本開示内容との間に何らかの矛盾が存在する場合は本開示内容が適用されることになる。
【0027】
別途規定のないかぎり、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示内容が属する分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書中の基(group)又は用語について提供された最初の定義は、別途記載のないかぎり、本明細全体にわたって個別に又は別の基の一部として、その基又は用語に適用される。
【0028】
本開示は、BA‐1049のR鏡像異性体(BA‐1049R)、その活性代謝物、例えば1‐ヒドロキシ‐BA1049(R)、BA‐1049(R)及びその活性代謝物のうち少なくともいずれか一方の重水素化された形態、並びにBA‐1049(R)及びその活性代謝物のうち少なくともいずれか一方のアジピン酸塩を提供する。本開示はさらに、医薬製剤中の上記化合物を使用して様々なCNSの障害及び損傷を治療する方法を提供する。
【0029】
[BA‐1049(R)の合成]
BA‐1049(図1A)すなわちラセミ混合物として存在する4‐置換ピペリジン誘導体は、それについて知られた任意の方法で作製可能であり、かつ米国特許第7,572,913号及び同第8,957,093号明細書に記載されておりまたその調製方法が述べられている(図2)。
【0030】
BA‐1049(R)(図22A)は、(R)及び(S)鏡像異性体のラセミ混合物からの、例えばカラムクロマトグラフィーによる精製を経て調製可能である。あるいは、BA‐1049(R)は、図3に示されるような光学活性的に純粋な化合物としてデノボ合成されることも、当分野で既知の任意の方法によって合成されることも可能である。
【0031】
あるいは、図4に示されるように、また実施例1に記載されるように、BA‐1049の立体制御合成を実施することが可能である。簡潔に述べると、この方法では、市販の1‐ベンジルオキシカルボニル‐4‐ホルミルピペリジン(1)と(S)‐(-)‐2‐メチル‐2‐プロパンスルフィンアミドとの標準条件下での縮合、室温で18時間の撹拌、celite(登録商標)による濾過、有機層の分離、カラムクロマトグラフィーによる濃縮及び精製から、必要とされるキラルのイミン2が得られる。後者はその後、低温でのメチルグリニャールの選択的添加によって(R,S)ジアステレオ異性体3に変換された。キラル補助基の除去、保護基の操作、及びイソキノリン8の導入により、BA‐1049(R)のラセミ体合成(図2を参照)で使用されるのと同一の中間体7が得られる。
【0032】
[1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の合成]
1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)代謝物は、肝細胞をBA‐1049(R)に曝露した後に該肝細胞の培養物から単離され、実施例2に記載されるようにしてLC‐MS法を使用して特徴解析された。
【0033】
図5は、図2に例証された化合物9で開始する、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)を化学合成する1つの非限定的な方法を示す。
[BA‐1049(R)の結合の特異性]
ROCK1及びROCK2に対するBA‐1049(R)の特異性/選択性を測定するために、ラセミ体のBA‐1049及びその個々の鏡像異性体についての解離定数(K)値が以下のようにして測定された。
【0034】
BA‐1049が合成され、該ラセミ混合物はその鏡像異性体へとキラルカラムにて分離された。BA‐1049に対して構造類似性を有する6つのさらなるRhoキナーゼ阻害剤(すなわちBA‐1041、BA‐1042、BA‐1043、BA‐1050、BA‐1050A、及びBA‐1050B)も合成された。次いでこれらの化合物のKが、ROCK2に対するそれらの選択性を測定するために、計測された(実施例2、表5を参照)。
【0035】
図6A図6D及び表1は、BA‐1049(R)及び(S)異性体によるROCK1(図6A及び図6B)又はROCK2(図6C及び図6D)への結合についてのKを示している。表1はさらに、ファスジル及びSLx‐2119によるROCK1又はROCK2への結合についてのK、並びにこれらの化合物の各キナーゼについての解離定数の比(すなわちROCK2への結合についての選択性)も示している。
【0036】
【表1】
【0037】
上記の結果から、BA‐1049(R)がROCK2に最も強く結合したことが明らかである。対照的に、BA‐1049の(S)鏡像異性体は、ROCK1及びROCK2に同様の親和性で結合した。
【0038】
[D. BA‐1049のIC50測定]
次いで、効力(IC50値)すなわちBA‐1049の鏡像異性体がROCK1又はROCK2のいずれかを阻害する能力が測定された。2つの類似した競合結合アッセイが使用され、該アッセイでは、10μΜの標準ATP濃度を用いてROCK1及びROCK2についての測定を実施するためにそれぞれの化合物が固定化酵素活性部位指向性リガンドと競合する能力が計測された。
【0039】
図7A図7D及び表2に示す結果は、直接的フィルタ結合放射測定キナーゼアッセイ(direct filter-binding radiometric kinase assay)(実施例2を参照)を使用して得られた。BA‐1049(S)(図7A及び図7B)並びにBA‐1049(R)(図7C及び図7D)についてのROCK1及びROCK2に対するIC50は、いずれの酵素反応についても10μΜのATPを使用して測定された。
【0040】
【表2】
【0041】
結果は、BA‐1049(R)及び(S)がROCK2選択的であること、並びにBA‐1049(R)が最も優れたROCK2 IC50(0.24μΜ)を有することを示している。
【0042】
実施例2に記載されたプロトコールによって得られ、表3の結果は、それぞれの所与のROCKアイソフォームに特異的なATPのKm濃度(ROCK1では70μΜ及びROCK2では15μΜのATP)で反応が実施された、BA‐1049(S)及びBA‐1049(R)についてのROCK1及びROCK2に対するIC50を示している。
【0043】
【表3】
【0044】
上記の結果は、BA‐1049(R)がROCK1よりもROCK2について86倍高い選択性を有することを示している。異なるATP濃度を使用するとROCK選択性が変動するのは、10μΜのATPではROCK1はそのKm未満であり従ってVmaxに達するのにより長くかかることになり、酵素活性と競合して阻害するのにより少ないBA‐1049しか必要としない、という事実によるのかもしれない。よって、BA‐1049(R)は、ATP濃度が健康な組織と比較して減少している虚血組織又は病変組織において、ROCK2について高い効力を有している。
【0045】
[BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の治療的使用]
BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、中枢神経系において高度に発現されるROCKのアイソフォームであるROCK2について選択性を有する。ROCK2は、様々な神経系疾患のニューロンにおいて、一部には該疾患の炎症性構成要素、並びにROCKの活性化体として働くことが知られている腫瘍壊死因子及びLPAのような分子の侵入を原因として、超活性化される。そのような疾患には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、ハンチントン病、及び脊髄筋萎縮症(SMA)が挙げられる。神経外傷におけるミエリン由来の増殖阻害タンパク質の放出はROCK2の超活性化を引き起こすので、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、脊髄損傷、外傷性脳損傷、視神経損傷及び末梢神経損傷を治療するのに有用である。
【0046】
虚血は脳内皮細胞におけるROCKの超活性化を引き起こすので、BA‐1049(R)は、脳卒中、くも膜下出血後の血管攣縮、脳海綿状血管腫、遺伝性出血性末梢血管拡張症、脳動脈血管奇形、及びベーチェット病を治療するのに有用である。
【0047】
BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、自閉症、並びに樹状突起棘に異常を有する、脆弱X、レット症候群及びその他の障害のような疾患を、治療するのに有用である。これは、ROCKが細胞骨格の、及び樹状突起棘形成の、重要な調節因子であるからであり、また異常な樹状突起棘をもたらすROCKの過剰活性化が、様々な形態の自閉症において報告されているからである。
【0048】
加えて、ROCK2は大型の結腸(large colon)の上皮細胞で発現されるROCKの主要形態であるので、BA‐1049は、病変した上皮細胞においてROCK2が超活性化される疾患を治療するのに有用である。内皮細胞と同様に、ROCK2は上皮細胞の間の細胞‐細胞間ジャンクションを調節する。したがって、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、クローン病及び炎症性腸疾患を治療するのに有用である。
【0049】
ROCKは放射線照射に際して上皮細胞で活性化されるので、BA‐1049(R)は、化学療法で使用される電離放射線、又は環境災害に起因する放射線の悪影響から細胞を保護するのに有用である。これは、放射線症候群の胃腸への影響について有用である。
【0050】
様々な上皮細胞において、ROCKはさらにコラーゲンの発現の調節においても役割を果たす。BA‐1049(R)は、例えば腎臓及び肝臓における、様々な繊維性疾患、並びに特に肺の線維症を治療するのに有効であるが、これはROCK2が肺において高度に発現されるからである。
【0051】
活性代謝物1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)はROCK2に対する効能を示し、よって上述のようなBA‐1049(R)に関するのと同じ役割の多くにおいて有用性を有する。アルデヒドオキシダーゼは、生体異物、特にBA‐1049(R)のようなN‐複素環である生体異物の代謝におけるその重要性で良く知られた酵素であり、BA‐1049(R)が経口投与された時の1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の生成におそらくは関与する酵素である。そのため、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、急性期の患者が意識レベルの変化又は低下を示し、よって薬剤の経口投与は困難又は不可能である場合に、静注経路で優先的に使用される。状況によっては、遺伝学又は病理学のいずれかが化合物の選択の指標となるかもしれない。ヒトのアルデヒドオキシダーゼ遺伝子にはこの酵素の活性低減をもたらす可能性のある自然発生の多型が存在するので(ハートマン(Hartmann)ら、ドラッグ・メタボリズム・アンド・ディスポジション(Drug Metab. Disposition)、2012年、第40巻、第5号、p.856-864)、この集団は上述のような疾患、障害又は損傷について1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の投与から恩恵を受ける。加えて、社会歴において慢性的なアルコールの使用又は乱用が確認されると、上記に挙げられたもののような疾患、障害又は損傷の治療への使用に1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)を選ぶことが支持されるが、これはアルコール乱用歴が肝臓の肝細胞におけるアルデヒドオキシダーゼ活性の著しい低下を引き起こす可能性があるからである(ハッスラー(Hutzler)ら、ドラッグ・メタボリズム・アンド・ディスポジション(Drug Metab. Disposition)、2014年、第42巻、第6号、p.1090-1097)。従って、急性脊髄損傷及び外傷性脳損傷の治療については、酩酊が一般市民においてよく見られる神経外傷との共存疾患であるので、ヒドロキシ代謝物は有用である。
【0052】
[治療用医薬製剤]
本開示による治療方法に有用な医薬製剤は、治療上有効な量の、BA‐1049(R)及び/又はその活性代謝物であって例えば1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、並びに、それらのアジピン酸塩及び/又はそれらの重水素化形態、のうち少なくともいずれかを含む。CCM、動脈瘤、及び上記に挙げられた障害の治療に使用される他の医薬製剤は、治療上有効な量の、BA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)以外のrhoキナーゼ阻害剤を含む。
【0053】
本明細書中で使用されるような「治療上有効な量」とは、CCM、脳動脈瘤、脳卒中、くも膜下出血後の血管攣縮、又は脊髄損傷のような神経学的外傷を治療するための治療効果及び予防的治療効果のうち少なくともいずれかを提供する量を指す。別のRho阻害剤化合物がBA‐1049(R)医薬製剤の一部である場合、又は該化合物が別個の医薬製剤に含めて投与されることになっている場合、治療上有効な量はそれぞれ異なっていてもよく、また製剤中にこれらの薬剤のうち1以上を添加することにより、阻害されるキナーゼの比率を変更することが可能である。
【0054】
そのような製剤は、既知の技法、例えばレミングトン(Remington)、「ザ・サイエンス・アンド・プラクティス・オブ・ファーマシー(The Science And Practice of Pharmacy)」、第9版、1995年に記載されたものに従って薬学的に許容可能な担体を用いて調製される。用語「薬学的に許容可能な担体」とは、本明細書中では、医学的に、本発明の化合物と一緒に許容可能に患者に投与可能であり、かつ該化合物の薬理活性に望ましからぬ影響を及ぼさない、任意の物質を指すものとして理解されるべきであり、よって「薬学的に許容可能な担体」は、例えば、希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、張性改変剤、緩衝剤及び任意の他の生理学的に許容可能なビヒクルを含んでなるか又はそれらで構成されている群から選択された、薬学的に許容可能な構成物であってよい。この医薬製剤は、追加のRho阻害剤をさらに含有してもよい。
【0055】
医薬製剤は、注射用、経口用、吸入用、経皮用、膜透過用などのために調製可能である。
経口投与に適した製剤は、個別の単位又は剤形、例えばカプセル剤、カシェ剤、ロゼンジ剤、錠剤、舌下錠、ピル、散剤、果粒剤、チューインガム、懸濁液、溶液、などで提示されうる。剤形はそれぞれ所定量のRhoキナーゼ阻害剤化合物を含有する。溶液の形態の場合、薬学的に許容可能な担体は水性液、例えば薬学的に許容可能なpH緩衝剤で緩衝化されたものであってもよいし、又はDMSOのような非水性液中に含められても、水中油型若しくは油中水型の乳剤として調製されてもよい。
【0056】
注射用剤形は、薬学的に許容可能な方式で、例えば不活性ガス雰囲気下でバイアル中に密閉された水性溶液の120℃で約15分~20分間の蒸気滅菌により、又は0.2μΜ若しくはそれより小さな孔径のフィルタを通す溶液の濾過滅菌と、任意選択で後続する凍結乾燥ステップとにより、又は放射線源からの放射による本発明の化合物を含有する組成物の放射線照射により、滅菌可能である。
【0057】
BA‐1049(R)又はその活性ヒドロキシル代謝物の治療上有効な投与量は、患者によって様々であってよく、かつ患者の年齢、患者の遺伝的特徴、及び診断された患者の状態のような要素、並びに患者への剤形の送達経路に応じたものであってよい。治療上有効な用量、及び剤形の投与の頻度は、当業者に既知の日常的な薬理学的手順に従って決定可能である。例えば、投薬量及び投与の頻度は、様々であってよいし、時間及びその神経学的外傷の重症度の関数として変化してもよい。約0.1mg/kg~1000mg/kg、又は約1mg/kg~約100mg/kgのBA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、又はこれらの重水素化物若しくはアジピン酸塩の投薬が適切となりうる。
【0058】
投与は、溶液としての、又は例えば小胞からなど注射された製薬剤形からの持続放出に適している懸濁液としての、脳脊髄液中への注射によるものであってよい。あるいは、定位固定式注射により病変部位へ投与がなされてもよい。
【0059】
ここで本開示を例証する具体的実施例を参照する。実施例は典型的な実施形態を例証するために提供されており、かつそれにより本開示内容の範囲への限定は意図されていないことを理解されたい。
【0060】
実施例
実施例1
[BA‐1049(R)の合成]
以下のスキームは、BA‐1049のR鏡像異性体(NT‐000077)50mg~100mgの合成について述べており、かつ該分子の絶対構造((R)又は(S))の同定を可能にするキラル合成方法を含んでいる。
【0061】
【化1】
【0062】
1‐ベンジルオキシカルボニル‐4‐ホルミルピペリジン(1)(2.0g、8.1mM)のTHF(20mL)中の溶液に、(S)‐2‐メチルプロパン‐2‐スルフィンアミド(1.0g、8.5mM)を加え、続いてTi(OiPr)(4.45mL、16.2mM)を添加した。得られた溶液を、室温(RT)で18時間撹拌し、次いで飽和NHCl水溶液でクエンチし、EtOAcで希釈した。該混合物をceliteパッドを通して濾過し、EtOAcで洗浄した。層を分離し、有機相を塩水で洗浄し、脱水し(MgSO)、濃縮すると粗製残留物が得られ、該残留物をヘキサン/EtOAcの勾配(70/30~30/60)を用いて溶出するカラムクロマトグラフィー(イスコ(Isco) 40g)により精製して、所望のイミン2が得られた(2.2g、78%)。
【0063】
【化2】
【0064】
イミン2(2.2g、6.3mM)のCHCl(20mL)中の-78℃の溶液に、MeMgBr(3.1mL、EtO中に3.0M、9.3mM)を添加した。この反応物を-78℃に1時間維持し、次いでRTまで徐々に一晩かけて温めた。該反応物を飽和NHCl水溶液でクエンチし、EtOAcで希釈し、層を分離した。有機層を飽和NaHCO水溶液、塩水で洗浄し、脱水し(MgSO)、濃縮した。粗製残留物を、ヘキサン/EtOAcの勾配(70/30~10/90)を用いて溶出するカラムクロマトグラフィー(イスコ 80g)により精製して、所望の材料3(1.67g、73%)を得た。
【0065】
【化3】
【0066】
スルフィンアミド3(1.67g、4.56mM)のMeOH(50mL)中の溶液に、HCl(25ml、ジオキサン中に4M、6.25mM)を添加した。この反応物を、分析的逆相HPLCにより出発物質の消失をモニタリングしながらRTでエイジングさせた。出発物質が消費された時、反応物を減圧下で濃縮した。粗製残留物をEtOAcで希釈し、有機層を飽和NaHCO水溶液、塩水で洗浄し、脱水(MgSO)して濃縮した。粗製残留物4を、そのまま次のステップで使用した(1.16g、97%)。
【0067】
【化4】
【0068】
アミン4(1.16g、4.4mM)のCHCl(50mL)中の溶液に、DIPEA(0.77ml、4.4mM)を、続いてBocO(3.2g、14.6mM)を添加した。結果として生じる溶液をRTで一晩撹拌した。次いで該反応物を水でクエンチし、EtOAcで希釈した。層を分離し、有機相を飽和NaHCO水溶液、塩水で洗浄し、脱水し(MgSO)、濃縮すると粗製誘導体が得られ、該誘導体をヘキサン/EtOAcの勾配(90/10~50/50)を用いて溶出するカラムクロマトグラフィー(イスコ 80g)により精製して、所望の材料5を得た(1.55g、97%)。
【0069】
【化5】
【0070】
Cbz誘導体5(1.55g、4.3mM)のMeOH(50mL)中の溶液に、パラジウム炭素10%(155mg)を添加した。結果として生じる懸濁液を水素で2度パージし、反応物を1気圧の水素下でRTにて一晩撹拌した。反応物を窒素でパージし、次いでCHClで希釈し、celiteで濾過し、濃縮して粗製誘導体6が得られ、該誘導体をそのまま次のステップに使用した(0.98g、定量(quant.))。
【0071】
【化6】
【0072】
5‐イソキノリンスルホン酸(5g、24mM)が入ったフラスコに、SOCl(22ml、300mM)を、続いて触媒量のDMF(0.25ml)を添加した。その結果生じる混合物を、還流しながら4時間撹拌した。次いでこれを冷却し、減圧下で濃縮した。残留物を、CHClを用いたトリチュレーションによって精製し、所望の塩化スルフォニル8を白色固形物として得た(4.2g、66%)。
【0073】
【化7】
【0074】
アミン6(1.0g、4.4mM)のCHCl(50mL)中の溶液に、DIPEA(2.3ml、13.1mM)を、続いて塩化スルフォニル8(1.73g、6.6mM)を添加した。その結果生じた溶液をRTで一晩撹拌した。該反応物を次に水でクエンチし、EtOAcで希釈した。層を分離し、有機相を飽和NaHCO水溶液、塩水で洗浄し、脱水し(MgSO)、濃縮すると粗製誘導体が得られ、該誘導体をヘキサン/EtOAcの勾配(70/30~100%)を用いて溶出するカラムクロマトグラフィー(イスコ 80g)により精製して、所望の材料7を得た。キラルHPLCに注入された分析用試料は95%の鏡像異性体過剰率(「ee」)を示した。CHCl/EtO/ヘキサンからの再結晶により、所望の材料7を白色固形物及びee>99%として得た。(750mg、41%)。
【0075】
【化8】
【0076】
Boc誘導体7(0.75g、1.8mM)のCHCl(15mL)中の溶液に、HCl(ジオキサン中に4M、5ml、20mM)を添加した。該反応物をRTで一晩撹拌した。次いで該反応物を減圧下で濃縮した。粗製残留物を最小限のMeOHで希釈し、EtOが入ったフラスコに徐々に添加した。この不均質混合物を5分間撹拌し、次いで濾別してBA‐1049(R)を白色固形物として得た(650mg、93%)。H NMR(CHOH‐d、400MHz):δ9.97(1H、s)、9.18(1H、d、J=6.9Hz)、8.76-8.81(3H、m)、8.18(1H、t、J=7.9Hz)、3.98-4.01(2H、br d、J=12Hz)、3.15(1H、p、J=6.6Hz)、2.62(2H、t、J=12Hz)、1.79-1.84(2H、m)、1.57-1.61(1H、m)、1.40(2H、qd、J=12、4.1Hz)、1.24(3H、d、J=6.7Hz)。
【0077】
【化9】
【0078】
実施例2
[1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の合成]
次のスキームは、実施例1で上記に示された同じBoc誘導体化合物7で開始する1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の合成について述べる。この合成では、絶対立体化学が既知であるように、すでに光学活性的に選択された化合物が生産される。
【0079】
Boc誘導体7(上記)(1.2g)が入ったフラスコに、窒素でパージされた雰囲気中で72mLのDCMを添加した。この溶液を撹拌して0~5℃に冷却した。該溶液に、小分けにしたメタクロロ過安息香酸(mCPBA;合計0.9g)を添加し、該反応物を一晩(ON)撹拌して同時にRTまで暖めた。30mLの10%NaSO水溶液を添加して30分間撹拌した。生成物をカラムクロマトグラフィー(イスコ 80g;フィッシャーサイエンティフィック(Fisher Scientific );米国ペンシルベニア州ピッツバーグ)によって精製し、所望の材料:N‐オキシド化合物7を得た(99.2%)。
【0080】
【化10】
【0081】
窒素でパージしたフラスコに0.9gの化合物7N‐オキシドを入れ、9mLのDCMを撹拌しながら添加した。この溶液に、0.2gの相間移動触媒テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩(TBAB)及び酢酸ナトリウム(NaOAc)水溶液(4.5mL)を撹拌しながら添加した。さらに10分間の撹拌の後、塩化ベンゾイル(BzCl)を該混合物に撹拌しながら徐々に添加した。層を分離し、有機相を飽和NaHCO水溶液、塩水で洗浄し、脱水し(MgSO)、濃縮して粗製誘導体を得た。該材料をカラムクロマトグラフィーによって精製した(98.9%)(イスコ 80g;フィッシャーサイエンティフィック)。
【0082】
【化11】
【0083】
実施例3
[ROCK1及びROCK2に対するBA‐1049鏡像異性体の特異性の測定]
A. 手順方法
化合物BA‐1049(R)、BA‐1049(S)及びその他のさらなるRhoキナーゼ阻害剤(BA‐1041、BA‐1042、BA‐1043、BA‐1050、BA‐1050A及びBA‐1050Bを、確立されたプロトコール(米国特許第7,572,913号明細書)に従って合成した。化合物1050A及びBはカラムクロマトグラフィーによって精製された鏡像異性体であるが正確な配向を同定しなかったので、これらをA及びBと名付けている。各化合物の保存溶液を100%DMSO中に100mMとして調製し、気密容器中にて-20℃で保管した。10mMの作業用アリコートを、保存溶液を100%DMSO中で1:10に希釈することにより調製した。Kの測定用には、10mMの50μLアリコートを試験する各化合物について調製した。IC50の測定用には、化合物を10mMで20μL又は100μLのアリコートとして調製した。
【0084】
BA‐1049及びBA‐1050は各々が1つの不斉中心を有するラセミ混合物として存在する。BA‐1049及びBA‐1050はそのそれぞれの鏡像異性体に、BA‐1049については(S)及び(R)に分割され;BA‐1050鏡像異性体はその絶対立体化学が決定されなかったのでA及びBと呼ばれる。10mMの保存溶液をDMSO中で調製してから該保存溶液を-20℃で保管した。
【0085】
BA‐1049についてのIC50測定を、後述のような直接的フィルタ結合放射測定キナーゼアッセイを使用して実施した。1例においては、ROCK1及びROCK2のIC50測定を10μΜのATP濃度を使用して行った。別の例では、ROCK1及びROCK2のIC50測定を、ATP濃度10μΜ、又はROCK1及びROCK2についてそれぞれ70μΜ及び15μΜのKm ATPの、いずれかのATP濃度を使用して行った。ATP濃度の変動については、ATP濃度が低く選択性に影響を与える可能性のある虚血組織及び病変組織における潜在的な選択性をより十分に理解するために試験した。
【0086】
1. 平衡解離定数(K)の測定
試験すべき化合物及び対照品のROCK1及びROCK2に対するK値を、KINOMEscan(商標)プロファイリングサービス(米国カリフォルニア州フリーモントのディスカバーエックス・コーポレイション(DiscoverX Corp))を利用して測定した。KINOMEscan(商標)は、化合物が固定化された活性部位指向性リガンドと競合する能力を定量的に計測する競合結合アッセイに基づいている。該アッセイは、DNAタグが付されたキナーゼ、固定化されたリガンド、及び試験化合物を組み合わせることにより実施される。試験化合物が固定化されたリガンドと競合する能力は、DNAタグの定量PCRによって計測される。
【0087】
化合物は、3倍系列希釈を用いて11ポイントの曲線を使用して試験した。試験した最も高い濃度は30μΜであった。試験化合物を100%DMSO中で100×最終試験濃度に調製し、アッセイでは1×に希釈して最終DMSO濃度は1%となった。
【0088】
ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズを、ビオチン化された低分子リガンドを用いてRTで30分間処理し、キナーゼアッセイ用の親和性樹脂を生成した。リガンドが結合したビーズを過剰量のビオチンでブロッキングし、ブロッキングバッファー(SeaBlock(商標)(ピアス(Pierce))、1%BSA、0.05%Tween(登録商標)20、1mM DTT)で洗浄して、未結合のリガンドを除去し、かつ非特異的な結合を低減した。結合反応は、キナーゼ、リガンドが結合した親和性ビーズ、及び試験化合物を、1×結合バッファー(20%SeaBlock、0.17×PBS、0.05%Tween20、6mM DTT)の中で組み合わせることにより組み立てた。反応はすべて、ポリスチレン製96ウェルプレートにおいて0.135mLの最終体積で実施した。このアッセイプレートをRTで振盪しながら1時間間インキュベートした。親和性ビーズを洗浄用バッファー(1×PBS、0.05%Tween20)で洗浄した。その後ビーズを、溶離バッファー(1×PBS、0.05%Tween20、0.5μΜのビオチン化されていない親和性リガンド)の中に再懸濁し、RTで振盪しながら30分間インキュベートした。溶離液中のキナーゼ濃度をqPCRによって計測した。
【0089】
曲線はレーベンバーグ・マーカート(Levenberg-Marquardt)アルゴリズムを用いた非線形最小二乗フィッティングを使用してGraphPad Prism(登録商標)6.07でフィッティングした。結合定数(K値)は、ヒル勾配を1に設定したヒルの式すなわち、
応答=バックグラウンド+{シグナル-バックグラウンド}/{1+(K ヒル勾配/用量ヒル勾配)}
を使用して標準的な用量‐応答曲線を用いて計算した。
【0090】
2. 半数阻害定数(IC50)の測定
被験物質及び対照品のROCK1及びROCK2に対するIC50値は、Kinase HotSpot(商標)プロファイリングサービス(米国ペンシルベニア州モールヴァンのリアクション・バイオロジー・コーポレイション(Reaction Biology Corp.))、及びIC50Profiler(商標)(米国ミズーリ州セントチャールズのユーロフィンズ・ファーマ・ディスカバリー・サービス(Eurofins Pharma Discovery Services))を利用して測定した。いずれのサービスも、プロトコールにわずかな変更を伴う直接的フィルタ結合放射測定キナーゼアッセイを使用する。
【0091】
化合物を、3倍系列希釈を用いた11ポイントの曲線を使用して試験した。試験した最高濃度はいずれのサービスについても100μΜであった。試験化合物は100%DMSO中で50×最終試験濃度に調製し、アッセイでは1×に希釈して最終DMSO濃度は2%となった。
【0092】
一方のアッセイについては、基質のEAKEKRQEQIAKRRRLSSLRASTSKSGGSQK(配列番号1)(30μΜ)を、反応バッファー(表4)及びROCK1又はROCK2のいずれかのキナーゼドメイン(表4に示されたとおり)と混合した。次に、化合物(DMSO溶液)を該混合物中に音響混合技術(Echo(登録商標)550、ナノリットル範囲)(米国マサチューセッツ州ウォルサムのセレクトサイエンス(SelectScience))を介して送達し、RTで20分間インキュベートした。放射標識されたγ‐33Ρ‐ATP(10μΜ)を添加して該反応物をRTで2時間インキュベートした。反応物を次いでP81イオン交換紙にスポットし、続いてシンチレーション計数を行った。
【0093】
他方のアッセイについては、ROCK1又はROCK2を反応バッファー、基質、10mMのMgアセタート及びγ‐33Ρ‐ATP(10μΜ又はKm濃度)と共にインキュベートし(表4を参照)、RTで40分間インキュベートした。反応を3%リン酸の添加によって停止し、10μLの反応物をP30 filtermat(商標)にスポットし、75mMリン酸中で3回、メタノール中で1回洗浄した後にシンチレーション計数を行った。
【0094】
【表4】
【0095】
カウント毎分(cpm)を以下のようにして活性(%)に変換した:
活性(%)={(A-B)/C}*100
A=被験物質のcpm
B=ブランク(キナーゼドメインを用いない反応)のcpm
C=対照(キナーゼドメインのみを用いた反応)の平均cpm
曲線を、4パラメータロジスティック非線形回帰を使用してGraphPad Prism6.07でフィッティングした。
【0096】
IC50値は、可変勾配を備えた用量‐応答曲線から以下のようにして計算した。
【0097】
【数1】
【0098】
生データをMicrosoft(登録商標)Excel(登録商標)2013に取り込んだ。Microsoft Excelからのデータを、用量‐応答曲線を導いてK値及びIC50値を計算するためにGraphPad Prism6.07に転送した。平均値の標準誤差(SEM)はMicrosoft Excel2013を使用して計算した。データを平均値±SEMとして示した。
【0099】
B. 結果
1. Kの測定
測定は2連で実施し、結果は平均測定値として表5に示されている。
【0100】
【表5】
【0101】
平衡解離定数(K値)を、異なるラセミ体ロットのBA‐1049(ロット1及び2)並びに鏡像異性体R及びSについて実施した。この分析には、BA‐1049とのその構造類似性及びROCK2を選択的に阻害するその能力に基づいて選択された、6つの他のRhoキナーゼ阻害剤も含めた。これらの化合物には、BA‐1041、BA‐1042、BA‐1043、BA‐1050並びにその鏡像異性体A及びBが含まれた。
【0102】
表5に示されるように、BA‐1049及びその鏡像異性体は他のRhoキナーゼ阻害剤と比較してROCK1及びROCK2の両方に対して最も強い結合を示し(nM範囲)、データからBA‐1049が依然として最も強いRhoキナーゼII選択的阻害剤であることが確認された。ROCK2とのK値は、既知のROCK1/2キナーゼ阻害剤であるファスジル及びROCK2選択的阻害剤SLx‐2119(KD025)の値に類似していた。新たに合成されたBA‐1049及びその鏡像異性体のロット(ロット2)については反復測定を実施し、最初の測定の結果を確認した。これらの化合物についてのK値は、2回の2連測定値(すなわち4つの測定値)の平均を表わす。
【0103】
2. IC50の測定
BA‐1049を使用して、ROCK1及びROCK2の両方に対するIC50値を、10μΜのATP濃度を用いて測定した。ほとんどのキナーゼ阻害剤はATPの結合と競合するが、生理的なレベルはmM範囲であるにもかかわらず10μΜがスクリーニングに使用されることが多い。直接的フィルタ結合放射測定キナーゼアッセイの2つの異なる変法を、上述のようにして使用した。結果を表6に示す。
【0104】
【表6】
【0105】
これらの結果は、BA‐1049及びその鏡像異性体がROCK2を選択的に阻害することを示している。1例においてはROCK2の選択性に2~3倍の差があった一方、別の例では、データからROCK2選択性におよそ12~13倍の差が示された。BA‐1049BはROCK2に対して最も低いIC50値(0.24μΜ)を有し、かつ最も高いROCK2選択性を示した。ROCK2選択性における差は、それぞれのアッセイで使用された個々のキナーゼドメインの調製における違いに起因する可能性が最も高い。キナーゼドメインの純度は、化合物が結合かつ従って阻害する能力に著しい影響を及ぼす可能性がある。加えて、これらの化合物はキナーゼドメイン上に残存する精製用の小さな6×Hisタグを備えており、一方でリアクション・バイオロジーはキナーゼドメインに融合させた26kDaのGSTタンパク質を使用している。
【0106】
BA‐1049(S)及びBA‐1049(R)についてのIC50値をKmのATP濃度でROCK1(70μΜ)及びROCK2(15μΜ)の両方について測定したが、ATP濃度がROCK1のKmより低くなるとどうなるかを理解するための人為的アッセイである。この場合、反応の最大速度はより遅くなり、かつBA‐1049(R)はROCK2に対して活性を有し続けることになる。結果を表7に示す。
【0107】
【表7】
【0108】
データは、ROCK1と比較してROCK2に対して50~60倍高い選択性を示している。
実施例4
[BA‐1049(R)の用量及び投与経路の決定]
中大脳動脈閉塞(MCAO)のネズミ科動物腔内モノフィラメントモデルを、本研究においてマウスに使用する。MCAOは、外頚動脈内への外科用フィラメントの挿入、及び該フィラメントを先端がMCAの起点を閉塞するまで内頚動脈内へと通すことを伴い、その結果としてMCA領域における血流の停止とその後の脳梗塞とをもたらす。この技法は一時的な閉塞をモデル化するために本明細書中で使用される。フィラメントが1h後に除去されると、再潅流が達成される(一過性MCAO)。本研究は、一過性MCAOで誘発されたマウスの脳卒中の後のRhoキナーゼ2(ROCK2)の活性化を低減する、最も効果的な用量及び投与経路を決定する。薬力学的応答も本研究において測定する。このモデルは、十分に特徴解析されたROCK2活性のバイオマーカーであるリン酸化アデュシン(p‐アデュシン)、リン酸化ミオシン軽鎖2(pMLC2)、リン酸化コフィリン(ホスホコフィリン)、リン酸化LIMK1/2、及び自己リン酸化ROCK2の使用を通じて、内皮細胞におけるBA‐1049(ラセミ混合物)及びBA‐1049(R)の効能を迅速に検出する。効果的な経路及び用量の選択に続いて、バイオマーカー発現の持続期間に基づいてBA‐1049(ラセミ混合物)の効果の持続期間を評価するために、経時変化を実施する。
【0109】
A. 動物試験
28匹の9週齢のC57BL/6(チャールス・リバー・ラボラトリーズ(Charles River Laboratories))を本研究に使用した。手術については、マウスを赤外線加熱パッド上に背臥位で配置した。頚部腹側を覆う毛皮を剃り、皮膚を70%エタノール及びポビドンヨードで消毒した。解剖用実体顕微鏡下で、1cmの正中切開を頚部に施し、開創器を使用して左総頚動脈(CCA)、外頚動脈(ECA)及び内頚動脈(ICA)を露出させた。動脈を注意深く解剖し、周囲の神経及び筋膜から動脈を解放した。ECAをさらに末梢側で解剖し、2本の8‐0号絹製縫合糸をECAの基部(stump )の周りに縛り付け、血管クランプを、ECA及びICAへのCCA分岐部に適用した。ヴァナス式スプリング剪刀を用いてECA基部の終端を小さく切開した。鈍端の5‐0号モノフィラメント縫合糸(ドッコル(Doccol))を切開部に挿入し、MCAの起点を閉塞するためにCCAの分岐部を9~10mm越える距離だけECAの内腔からICAの中へと前進させた。該マウスモデルについては、CCA分岐部の吻側9mm~11mmの距離に挿入する。60分後、モノフィラメントを除去した。切開部を4.0号のprolene(登録商標)縫合糸で縫合した。1mLの生理食塩水を皮下注射し、かつ疼痛を弱めるために0.1mg/kgのブプレノルフィンを8時間~12時間ごとに最大48時間皮下注射した。マウスを、体温調節が再開されるまで加熱パッド上で回復させる。
【0110】
被験Rhoキナーゼ阻害剤化合物投薬用溶液は、BA‐1049粉末(ラセミ混合物)及びBA‐1049(R)を無菌のPBS中に溶解することにより、B群、C群、及びD群についてそれぞれ10mg/mL、25mg/mL、及び50mg/mLの濃度を達成するように調製した。試験化合物投薬用溶液のpHは7に調整した。調製後、投薬用溶液を使用時まで4℃に保ち、保持しておく投薬用溶液は4℃で保管する。
【0111】
試験化合物投薬用溶液は、ファスジル(カルビオケム(Calbiochem))粉末を無菌のPBS中に溶解することにより、10mg/mL、25mg/mL、及び50mg/mLの濃度を達成するように調製した。試験化合物投薬用溶液のpHは7に調整した。調製後、投薬用溶液を使用時まで4℃に保つ。保持しておく投薬用溶液は4℃で保管した。
【0112】
本研究は、以下表8~表11のように3部で構成された:
【0113】
【表8】
【0114】
【表9】
【0115】
【表10】
【0116】
【表11】
【0117】
第1部については、被験物質(BA‐1049ラセミ混合物、BA‐1049(R)、ファスジル)及び(生理食塩水)を、25G 5/8注射針が取り付けられた無菌の1mLシリンジを使用してMCAO手術の30分後にI.P.単回投与として全てのマウスに体積約0.2mL(体積は個々の体重に基づいて調整した)として指定の用量で投与した。
【0118】
第2a/2b部については、被験物質及びビヒクル物質を、MCAO手術の30分後に経口強制投与(PO)(<10mg/kg)する(2a)か、又は25G 5/8注射針が取り付けられた無菌の1mLシリンジを使用してMCAO手術の30分後に右側腹部に皮下(SC)注射すること(2b)のいずれかにより、全てのマウスに体積約0.2mL(体積は個々の体重に基づいて調整する)として指定の用量で投与した。
【0119】
MCAO手術後24時間において、マウスを安楽死させて脳をウエスタンブロット解析又は免疫組織化学法によるバイオマーカー分析のために採取する。ウエスタンブロット解析については、イソフルランを使用してマウスを麻酔して斬首した。左右の中大脳動脈は、運動皮質及び感覚皮質の領域のそれぞれの脳葉の外側面に供給を行う。小脳の吻側の脳(嗅球を除く)を、閉塞と同側(左半球)及び反対側(右半球)で採取した。同側及び反対側の半球は2本の別個のチューブに採取する。凍結した脳組織を、以下に文書化された実験プロトコールに従ってさらに処理して組織溶解産物とした。
【0120】
免疫組織化学法については、イソフルランを使用してマウスを麻酔し、パラホルムアルデヒド(4%PFA)を使用して心臓内から潅流し、脳及び重量を記録した。固定した動物からの脳検体をOCT中で凍結させ、クリオスタットを使用して薄片化した。
【0121】
B. 組織溶解産物の調製及び定量化
20μLのプロテアーゼ阻害剤(Halt(商標)プロテアーゼ、米国ペンシルベニア州ピッツバーグのフィッシャーサイエンティフィック)及び10μLの脱リン酸化酵素阻害剤(フィッシャーサイエンティフィック)を、1mLのRTPAバッファー(米国テキサス州ダラスのサンタクルズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology))に添加した。0.5mLの溶解バッファーを各組織試料に添加し、該組織を、各試料について個々に清浄なBioMasher II(登録商標)チューブ/乳棒(米国ニュージャージー州ヴァインランドのキンブル・チェイス・ライフサイエンス(Kimble Chase Life Science ))を使用してすりつぶした。該混合物を、組織の溶解を助けるためにボルテックス混合し、4℃で10分間、13,000rpmで遠心分離処理した。各チューブの上清を採取した。各試料のタンパク質濃度を、DC(商標)プロテインアッセイキットを使用して製造業者の説明書に従って測定した。
【0122】
C. ウエスタンイムノブロッティング
タンパク質溶解産物を、表12の以下の実験プロトコールに従ってウエスタンブロット解析により分析した。
【0123】
【表12】
【0124】
各脳の左半球及び右半球をホモジナイズしてウエスタンブロッティング用に調製し、ホスホコフィリンのシグナルを、内部標準のサイクロフィリンと比較したデンシトメトリーにより定量的に計測した。
【0125】
図9は、上記及び表3において概説された研究の第1部の結果を示す。BA‐1049(10mg/kg)を、ファスジル(10mg/kg)及びビヒクル対照と比較した。注射はMCAO後の回復30分以内にIPで行った。組織はMCAOの24時間後に採取した。脳の左半球対右半球におけるホスホコフィリンシグナルの比率を、ウエスタンブロッティングを使用して調べた。これらの実験では、左側(MCAO)と右側(無傷)との間のホスホコフィリン発現の比率の低下は、ROCK活性化の低下を、かつしたがって施された処置によるROCK阻害の増大を実証している。図8は、ホスホコフィリンの発現が脳の卒中側において大きく上昇し、ROCK2活性化の有効なバイオマーカーとして働くことを示している。
【0126】
図9に示されるように、ホスホコフィリン発現の比率は、ビヒクルのみの対照と比較してラセミ体BA‐1049により強く低減され、また程度は比較的低いがファスジルにより低減された。BA‐1049(R)を用いて該実験を繰り返すと、MCAO後のホスホコフィリン低減に対する効果は増大される。これらの実験は、10mg/kgのBA‐1049(R)が、ファスジルと比較して、MCAOによるROCK2活性化の低減に効果的であることを示している。よって、これらの結果は、両者を10mg/kgで比較した場合にBA‐1049(R)がファスジルよりも強力にホスホコフィリンを低減することを示している。
【0127】
D. 免疫組織化学法
OCT中に包埋された凍結組織切片を免疫組織化学法により分析した。脳切片の左側はMCAOによる虚血組織を含有する一方、右半球は虚血のない対照としての役割を果たす。脳切片を、表13に挙げた抗体を用いて処理した。これらの抗体を用いた染色は、虚血領域及びROCK2活性化の両方についてのバイオマーカーを提供する。
【0128】
【表13】
【0129】
図10A図10Dは、島皮質の微小血管におけるホスホMLC2(Ser19)の染色を示す。血管は、脳の左(MCAO)側の島皮質で強く染色されている(図10A)一方、対照(非MCAO)側の微小血管の染色はみられない(図10B)。ホスホMLC2はROCK2活性化の下流のマーカーである。腹腔内(I.P.)注射された10mg/kgのファスジル(図10C)は染色量を低減する一方、I.P.注射された10mg/kgのBA‐1049(図10D)は、微小血管の染色の低減においてファスジルよりさらに有効である。図10E及び図10Fは、MCAO及びビヒクル(図10E)又はBA‐1049(R)(図10F)を用いたI.P.注射の後の、左脳線条体におけるIba‐1免疫反応性を示す。Iba‐1免疫反応性は、脳内のミクログリアのマーカーである。Iba‐1染色の強度は、脳内の虚血性障害に応答して、活性化されたミクログリアにおいて増大する。これらの結果は、BA‐1049(R)が虚血に対するミクログリアの反応を低減することを実証している。
【0130】
実施例5
[BA‐1049(R)の有効用量]
ROCKの活性化を解消するための有効用量を決定するために、実施例4で上述されたようなMCAOモデルを使用した。これらの実験では、マウスにMCAOの血管閉塞及び0.1mg/kg、1mg/kg、3,mg/kg若しくは10mg/kgの用量又は対照としての生理食塩水(ビヒクル)の腹腔内注射を施し、ROCK活性化を左脳対右脳におけるホスホコフィリン発現によって評価する。このモデルでは、BA‐1049(R)の単回施用の後、最小有効用量は図11に見られるように1mg/kgであった。最小有効レベルは、毎日の反復投薬では1mg/kg未満である。
【0131】
別個の実験セットでは、副作用を評価するために毎日の反復投薬実験を実施した。正常なマウスに、1mg/kg又は10mg/kgのBA‐1049(R)を1日1回、腹腔内注射で2週間にわたり投与した。実験の期間中、動物を何らかの臨床徴候の出現について毎日モニタリングした。血液学、血液化学、及び組織病理学については実験終了時に追跡調査した。
【0132】
2週間にわたる毎日の反復投薬では、1mg/kg及び10mg/kgでのBA‐1049(R)の毎日の投薬に関係する異常な所見は認められなかった。したがって、図11に示されるBA‐1049(R)の治療用量は、2週間反復投薬実験から測定された10mg/kgの無影響レベル用量未満である。
【0133】
実施例6
[薬力学的応答]
薬力学的応答を測定するために、マウスをMCAOに供し、次いで左脳の右脳に対するホスホコフィリンレベルの比率を実施例4において上述されるようにして測定した。マウスは、再潅流及び10mg/kgのBA‐1049(R)の投与の4時間後又は24時間後に検査した。
【0134】
図12A及び図12Bに示されるように、いずれの時点においても効能が示され、少なくとも24時間間にわたるBA‐1049(R)の効能が実証された。さらなる実験では、MCAOの24時間、72時間、又は168時間前にマウスにBA‐1049(R)を与えた。図12Cに示された結果は、BA‐1049(R)への3日前の曝露がMCAO後のROCKの超活性化を防止することを実証している。
【0135】
実施例7
[BA‐1049(R)によって解消された内皮の透過性]
本研究は、脳卒中のマウスMCAOモデルにおいて生じる内皮細胞透過性をBA‐1049(R)が解消する能力を実証する。
【0136】
マウスに、実施例4に記載されるようにしてMCAO病変を施した。再潅流の2時間後、マウスに、PBS中に1.2%のエバンスブルー染料溶液をI.P.注射したが、該染料は血清アルブミンに強固に結合する。MCAOの2時間後、エバンスブルーを注射し、再潅流から4時間でマウスを安楽殺し、潅流し、斬首し、かつその脳を実施例4に記載されるようにして解剖した。
【0137】
ホモジネートを実施例4のようにして調製し、次いで50%トリクロロ酢酸中で沈殿生成させて、タンパク質を沈殿させエバンスブルー染料をアルブミンから放出させた。タンパク質を(10,000×gで)遠沈させた後、上清を96ウェルディッシュに入れ、595nmでの吸光度及び蛍光(535Ex/642Em)をVictor2(商標)ワラック(Wallac)プレートリーダ(米国コネチカット州ブランフォードのパーキン・エルマー(Perkin-Elmer))を使用して読みとる。標準曲線との比較から、試料中のエバンスブルー染料濃度の測定、及びしたがってアルブミン透過性の計測、が可能となる。
【0138】
図13Aは、ビヒクル又はBA‐1049(R)で処理された動物の脳の顕微鏡写真を示す。左(L)側は脳の虚血側であり、右(R)の皮質と比較される。BA‐1049(R)はビヒクル対照と比較して、蛍光シグナルを低減している。図13Bはその結果のグラフ表示を示し、BA‐1049(R)処理がビヒクル対照の左脳と比較してエバンスブルーのシグナルを低減することが可能であることを示している。これらの結果は、BA‐1049(R)が内皮細胞の透過性を低減することが可能であることを実証している。
【0139】
実施例8
[C57BL/6マウスにおけるBA‐1049(R)投与の経路(非GLP)]
オスのC57BL/6マウスへの単回の静脈内(IV)(5mg/kg)、腹腔内(IP)(10mg/kg)、又は経口(PO)(30mg/kg)での投与後の試験化合物及び被験物質の血漿中濃度及び薬物動態を測定するために、次の試験を表14に述べた条件に従って実施[した/する]。
【0140】
【表14】
【0141】
8~10週齢のC57BL/6マウス(米国マサチューセッツ州ウィルミントンのチャールス・リバー・ラボラトリーズ)を本研究に使用した。被験薬は以下の表15に示されている。
【0142】
【表15】
【0143】
被験薬を一旦以下のようにして用意する:各々のI.V.投薬用シリンジについて、装薬時及び非装薬時に少なくとも小数点以下4桁まで重量計測する。動物に投与される実際の用量(5mg/kg)は、装薬時及び非装薬時の投薬用シリンジの重量の差である。各々のIP投薬用シリンジについて、装薬時及び非装薬時に少なくとも小数点以下4桁まで重量計測する。動物に投与される実際の用量(10mg/kg)は、装薬時及び非装薬時の投薬用シリンジの重量の差である。30mg/kgのPO投与は、プラスチックシリンジに取り付けられた、ボールチップ付ステンレス胃管栄養針を使用して実施する。
【0144】
A. 薬物動態学
1. 血液試料採取
I.V.投薬に続いて、最終血液試料(それぞれ約1ml~2ml)を投薬後次の各時点すなわち:0.083時間、0.5時間、2時間、6時間、12時間、及び24時間において4匹の動物から収集する。I.P.又はPOでの投薬に続いて、最終血液試料(それぞれ約1ml~2ml)を、投与経路ごとに投薬後次の各時点すなわち:0.25時間、1時間、4時間、8時間、12時間、及び24時間において4匹の動物から収集する。各動物をCO吸入によって麻酔し、最終血液試料を心臓穿刺によって収集して、抗凝血薬としてヘパリンナトリウムが入っている予めラベルしたチューブの中に移す。心臓穿刺血液収集の後、動物をCOチャンバに戻してCO窒息により安楽死させる。収集した血液試料を、抗凝血薬を混合するために静かに数回転倒混和する。
【0145】
B. 血漿の採取
血液試料を約3000×g rpmにて約4℃で10分間遠心分離処理する[得られた血漿を溶血反応について観察する]。全ての得られた血漿試料を、さらなる処理までおよそ-80℃で凍結保管する。
【0146】
C. 脳の採取
I.V.投薬に続いて、全脳を、投与後次の各時点すなわち:0.083時間、0.5時間、2時間、6時間、12時間、及び24時間において4匹の動物から心臓穿刺後に収集する。I.P.及びPOでの投薬に続いて、全脳を、投与経路ごとに投与後次の各時点すなわち:0.25時間、1時間、4時間、8時間、12時間、及び24時間において4匹の動物から心臓穿刺後に収集する。全脳を1×PBS中ですすぎ、組織重量を記録し、かつ液体窒素を使用して予めラベルしたチューブ内でスナップ凍結させる。加えて、5匹の無処置マウスからの全脳を24時間で採取し、1×PBS中ですすぎ、組織重量を記録し、かつ液体窒素を使用して予めラベルしたチューブ内でスナップ凍結させる。
【0147】
D. バイオアナリシスによる分析
試料を、アジレント(Agilent )1200 HPLC及びCTC製のPAL冷却機能付きオートサンプラに接続されたアジレント6410質量分析計(これらは全てMassHunterソフトウェア(アジレント)によって制御される)を使用して、LC/MS/MSによって分析する。アセトニトリル‐水の勾配システム(下記に示す)を使用するX‐Select(登録商標)HPLCカラム(ウォーターズ(Waters)、130A、3.5μm、2.1×50mm)での分離後、MRMモードでのESIによるイオン化を使用してピークを質量分析法(MS)により分析した。
【0148】
較正用試料については、終濃度の25倍の被験物質の作業用希釈液を調製し、系列希釈する(3倍)。これらの試料を、C57BL/6マウスのブランクの血漿中で25倍に希釈し、分析用内部標準(プロプラノロール)を含有する3倍体積のアセトニトリルと混合して、4℃で10分間氷上でインキュベートしてから遠心分離処理する。このタンパク質を含まない上清を、LC‐MS/MS分析(液体クロマトグラフィータンデム質量分析)に使用する。図14に示した結果は、BA‐1049(R)が3つの投与経路によって脳に浸透することが可能であることを示している。
【0149】
実施例9
[NG108細胞からの神経突起の成長に対するBA‐1049(R)及びBA‐1049(S)の効果]
BA‐1049(R)及びBA‐1049(S)について、NG‐108細胞を用いた細胞培養アッセイを使用して神経突起の成長に対するその効果を比較した。最初に、NG‐108細胞とともに使用するための有効用量を決定し、次にBA‐1049(R)をROCK2特異的阻害剤SLx‐2119と比較した。
【0150】
BA‐1049(S)及びBA‐1049(R)を、NG‐108細胞からの神経突起の成長に対するその効果について比較した。図15Dに示されるように、BA‐1049(R)は、DMSO対照(図15A)、ラセミ体BA‐1049(図15B)、又はBA‐1049(S)(図15C)と比較して、神経突起の成長を刺激するのに最も強力な化合物であった。よって、BA‐1049(R)は(S)化合物を上回り、最も強健な神経突起の成長をもたらす。
【0151】
図16A図16Cに示されるように、5μΜのSLx‐2119はNG‐108細胞に対して有毒であることが示され、細胞は空胞の形成を示して死に始めた(図16A)。対照的に、BA‐1049(R)は5μΜ(図16B)及び50μΜ(図16C)で神経突起の成長を促進し;BA‐1049(R)は試験した最も高い濃度においてNG‐108細胞に対し有毒ではなかった(図16C)。
【0152】
実施例10
[ROCK2の発現に対するPTENサイレンシングの効果]
神経細胞を、酵素的かつ機械的破壊方法を使用してラット胎児の発生中の大脳皮質から単離し、次いで組織培養ディッシュ中のラミニン及びポリ‐D‐リジンを含む特殊な増殖基質上にプレーティングした。これらの細胞混合物を、ディッシュ中の神経細胞の生存を増強するように設計された、特殊な選択された培地添加物を含有する低血清の条件下の特殊な培地(B27添加剤を含むNeuroBasal(登録商標)培地、米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific))において成長させた。神経細胞培養物を、1日(D1)又は7日(D7)のいずれかにわたってディッシュで成長させた後、該培養物を、1μΜの濃度の、PTEN配列を標的とするsdRNA分子(sdRNA=自己送達RNAi)又は無関係の「無標的の」対照RNA配列に曝露した。該神経培養物をその後、これらのsdRNA分子の存在下でさらに3日間インキュベートした。タンパク質を、NP‐40及びデオキシコール酸界面活性剤を含有するトリス緩衝液ベースの溶液中で、トリチュレーション及びボルテックス混合とその後の非可溶性材料を除去するための遠心分離処理により、培養物から抽出した。該抽出物のタンパク質濃度を改変ブラッドフォードアッセイによって測定し、同等量のタンパク質含有抽出物を、表示のsdRNAを用いた処理の後にPTEN、ROCK2、又はGAPDHタンパク質の量に特有の変化があったかどうかを判断するために、ウエスタンブロット法により分析した。
【0153】
図17に示す結果は、PTEN、ROCK2、及びGAPDHタンパク質のレベルを分析したウエスタンブロッティング実験に由来する。sdRNAを用いる処置の前に7日間成長させた神経細胞培養物(D7)の場合には、PTEN特異的なsdRNAを使用してPTEN mRNAを低減の標的とすることにより、予想通り、これらの細胞におけるPTENタンパク質レベルの低減がもたらされる。PTENタンパク質レベルの低減はさらに、ROCK2キナーゼのタンパク質レベルの大幅な低減をもたらす。これらのデータは、PTENタンパク質の減少をもたらす介入処置が、最終的にはROCK2タンパク質の減少をも同様にもたらす可能性があることを示している。PTENの発現を低減することにより細胞の総ROCK2活性を低減する能力は、神経再生におけるPTEN活性の低減の関与に関して現在知られていることの構成要素でもあるかもしれない。これは、PTEN機能が阻害されるときに見られる効果の一部が結局はROCK2発現の減少によるのかもしれないことを示している。よって、BA‐1049(R)を使用して選択的にROCK2を阻害し、かつ再生効果を生じる能力はさらに、PTENに干渉する結果として再生が生じるときに関係する経路の一部でもある可能性がある。
【0154】
ROCK2の発現はPTENのノックダウンにより減少し、予想外にもROCK2がPTENの下流の有望な標的であることを示している。よって、ROCK2を不活性化するBA‐1049は、CNSにおける軸索の再生を誘発するための、PTENよりも優れた標的である。
【0155】
マウス12匹の群における脊髄の皮質脊髄路(中枢神経系)、動物12匹の群における視神経への、及びマウス12匹のさらなる群における末梢神経系の坐骨神経への、双方の外科的損傷を使用して、5μLの1μΜ BA‐1049(R)又は対照の生理食塩水(マウス6匹の群)を、実験的損傷の時点で損傷部位への直接注射により手術中に適用し、動物を損傷後2~4週間回復させる。安楽殺の時点で、相対的な再生の度合いにおける変化を、組織学的技法を使用して計測する。安楽殺の1日前に、標識したコレラ毒素のような蛍光トレーサ分子を、脊髄内に突出する軸索を染色するために運動野皮質の中に、網膜神経節細胞の軸索再生を計測するために眼内に注射し、又は坐骨神経の場合には、神経根の領域における脊髄の近位への標識デキストランアミンの注射により、順行性標識法による末梢の神経軸索の特徴解析が可能となる。動物の安楽殺及び固定剤を用いた灌流に続き、翌日に切片を調製する。切片をスライドガラス上に収集し、次いで蛍光マーカーを顕微鏡によって視覚化し、標識された再生中の軸索が成長している距離を、指定の切片について撮影した一連の写真において計測する。標識された軸索の長さを、BA‐1049(R)で処理された動物と生理食塩水の注射でのみ処理された動物との間で比較する。
【0156】
BA‐1049(R)で処理された動物は、処理を受けていない動物と比較して中枢神経系(例えば皮質脊髄路及び視神経)における再生を示し、対照と比較して、末梢神経中のより多くの軸索が再生し、かつその標的に到達する。
【0157】
実施例11
[内皮細胞に対するBA‐1049(R)の効果]
ROCKの超活性化及び内皮の障壁機能に対するBA‐1049B(R)の効果を測定するために、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)を使用する。ROCKの超活性化は、Rho/ROCK経路の強力な活性化因子であるリゾホスファチジン酸(LPA)(米国ミズーリ州セントルイスのシグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich))の投与によって誘発する。BA‐1049(R)の効能を、ROCK活性のバイオマーカーであるアクチンストレスファイバーの形成、及び内皮の障壁完全性のバイオマーカーである焦点接着斑複合体タンパク質ビンキュリンの分布を調査することにより測定する。
【0158】
A. 細胞培養及びLPA刺激
初代HUVEC細胞(Gibco(登録商標)、米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャー(Thermo Fisher ))を、内皮増殖培地(Gibco(登録商標)Medium200基礎培地CatにGibco(登録商標)の大血管内皮サプリメント(Large Vessel Endothelial Supplement)を補足)において培養する。継代第1~4代のHUVECを全ての実験に使用する。HUVECを、70μg/mlのラットコラーゲンI(米国ニューヨーク州コーニングのコーニング(Corning))でコーティングしたポリ‐D‐リジン処理済みカバーガラス(米国ニューヨーク州コーニングのコーニング)の上で培養し、コンフルエントな細胞単層が確立されるまで4日間培養する。LPA刺激の前に、50μΜのBA1049(R)、50μΜのファスジル、又はビヒクル(DMSO)をそれぞれ含有する、0.1%ヒト血清アルブミンを補足したMedium200を使用して細胞を1時間血清飢餓状態とする。次いでHUVECを20μΜのLPAで10分間刺激し、続いて4%パラホルムアルデヒド(PFA)/スクロース溶液を使用して固定する。
【0159】
B. 免疫細胞化学法及びマイクロコピー(Microcopy)
PFA固定の後、カバーガラス上の細胞をTBS‐Triton(登録商標)‐X100(0.1%)を用いて透過化し、1%ウシ血清アルブミンでブロッキングし、マウスのビンキュリン一次抗体(表16)とともにインキュベートする。ビンキュリンの免疫標識を、抗マウス蛍光二次抗体(表16)を使用して視覚化する。アクチン細胞骨格を、F‐アクチンフィラメントに特異的に結合する化合物である蛍光性のファロイジン(表16)で染色することにより視覚化する。落射蛍光顕微鏡法を用いて免疫蛍光及びファロイジン蛍光それぞれの画像を獲得する。
【0160】
【表16】
【0161】
図18に示される結果は、LPA刺激が刺激前の細胞(図18A)と比較してHUVECにおいて顕著なアクチンストレスファイバー形成を誘発する(図18B)ということを実証している。
【0162】
図19に示されるように、BA‐1049(R)(図19A及び図19C)又はファスジル(図19B及び図19D)のいずれかを用いた処理は、ストレスファイバーのそのような形成を防止する。加えて、アクチンストレスファイバーの低減は、ファスジルで処理された細胞(図19B)と比較して、BA‐1049(R)で処理されたHUVEC(図19A)において、より顕著である。さらに、ビンキュリン免疫蛍光法は、BA‐1049(R)(図19C)がファスジル(図19D)と比較してLPA刺激時のHUVEC単層の完全性の保存において優れていることを明らかにしている。BA‐1049(R)で処理された細胞が、コンフルエントな細胞単層に特徴的なビンキュリン免疫蛍光法の薄い周辺バンドを示す(図19C)一方、ファスジルで処理された細胞は、細胞密集度の低下に関連したビンキュリン陽性の焦点接着斑複合体のアップレギュレーションを示している(図19D)。
【0163】
実施例12
[培養肝細胞において生成されるBA‐1049(R)代謝物]
様々な哺乳類生物種におけるBA‐1049(R)の代謝を調査するために、in vitroのシステムを使用した。BA‐1049(R)を、様々な生物種における代謝を調査するためにラット、ヒト、マウス、カニクイザル、及びイヌの肝細胞の培養物に添加した。
【0164】
BA‐1049の保存溶液を最初に、アセトニトリル中で所望の終濃度の100×濃度に希釈した。被験物質を二連のラット肝細胞において37℃でインキュベートした。該反応物には、1mlのKHBバッファー(pH7.4)あたり106個の成育可能な肝細胞が含まれた。指定の時点(0分、15分、30分、60分、120分)において、個々の実験反応物及び対照反応物からアリコートを取り出し、等量の氷冷メタノールと混合した。停止させた反応物を-20℃で少なくとも10分インキュベートした。試料を遠心分離処理して沈殿したタンパク質を除去し、上清をLC‐MS/MSによって分析した。
【0165】
図20の結果は、BA‐1049(R)の半減期が様々な生物種において異なること、及びイヌの肝細胞はこの化合物を代謝しないように見えることを示している。表17はさらに、ラット及びサルが、その代謝の速度がほとんど同じようであることからヒトでの研究のための準備において薬物代謝をモデル化するのに適した生物種であることを示している。
【0166】
並行して、被験薬が存在しないブランクの肝細胞を120分間インキュベートした。このブランクの肝細胞のインキュベーションは、肝細胞自体に由来するピークの存在を示すために対照として使用した。陰性対照は、肝細胞を被験物質の非存在下でインキュベートし、その後クエンチしたアッセイに被験物質を添加することにより用意した(T=0分)。この陰性対照は、被験物質中の何らかの不純物の存在を示すために含めた。
【0167】
ポジティブ及びネガティブ両方のイオン化モードにおけるフルスキャンのマススペクトル(100mg‐800m/z)を、代謝物の存在を捜すために勾配全体にわたり実行した。ブランクの肝細胞及び陰性対照(T=0分)からのスキャンを、インキュベートした試料(T=120分)と比較した。ピークが二連の試験試料の両方においていずれかの陰性対照試料より少なくとも5倍高いレベルで存在する場合に、該ピークを潜在的な代謝物と判断した。観察されたピークのプロダクトイオンスキャンを実施して、これらの観察されたピークが確かに親関連であるかどうかを確認した。
【0168】
【表17】
【0169】
表17は、様々な生物種におけるBA‐1049(R)の半減期を示す。図20及び表17の結果は、複数の生物種由来の培養肝細胞に添加されたBA‐1049(R)がヒト、ラット、マウス、及びサルの肝細胞では1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)へと容易に代謝される一方で、ラット肝細胞はさらにN‐オキシド‐BA‐1049(R)も生成するということを示している。N‐オキシド‐BA‐1049(R)の構造は図21Cに表わされて示されている。イヌの肝細胞はBA‐1049(R)の検出可能な代謝作用を示さず、該細胞がヒトで試験する前の該薬物の研究用には不十分な生物種選択肢の可能性があることを示している。
【0170】
実施例13
[マウス及びラットの脳及び血管組織におけるBA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の浸透]
次の実験は、BA‐1049(R)及びその代謝物である1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の、静脈内(IV)投与を介したラット及びマウスの脳内への浸透を実証する。
【0171】
マウスの脳を、IVでのBA‐1049(R)投与後の特定の時点で解剖し、ホモジナイズした脳組織中のBA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の濃度を、LC‐MS/MS分析を使用して測定する。ラットでは、脳及び血管を、IVでのBA‐1049(R)投与後の特定の時点で解剖する。
【0172】
実験結果は、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)が脳組織に浸透して疾患、障害、又は損傷を治療又は処置するということを実証する。
A. 動物及び投薬
成体オスのC57BL/6マウス(チャールス・リバー・ラボラトリーズ)を本研究に使用する。マウスに、静脈内(IV)投与又は経口強制投与による経口(PO)投与のいずれかによって投薬を行う。IVで投薬するマウスには、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で調合された単回の5mg/kgのBA‐1049(R)用量を投薬する。さらなるマウスのコホートには、PBS中で調合された単回の30mg/kgのBA‐1049(R)の経口用量を投薬する。
【0173】
マウスを、投与した化合物の副作用の臨床徴候について投与後にモニタリングする。
成体オスのスプレーグ・ドーリー(Sprague-Dawley)ラット(チャールス・リバー・ラボラトリーズ)を本研究に使用する。ラットに、尾静脈注射による単回の静脈内(IV)への2.5mg/kgのBA‐1049(R)用量を投薬する。いずれの用量もリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で調合する。
【0174】
ラットを、投与した化合物の副作用の臨床徴候について投与後にモニタリングする。
B. 試料の収集及び分析
IV投薬の後、脳を各時点すなわち、投薬後0.083時間、0.5時間、2時間、6時間、12時間、及び24時間において4匹のマウスから収集する。各マウスはCOにより安楽死させる。全脳を摘出し、計量し、PBSですすぎ、チューブに入れ、液体窒素中でスナップ凍結させる。
【0175】
IV投薬の後、脳を各時点すなわち:投薬後0.25時間、0.5時間、及び1時間において3匹のラットから収集する。脳試料を計量し、チューブに入れ、ドライアイス上で凍結させる。脳を分析まで-80℃で保管する。
【0176】
下大静脈の一部分を解剖し、計量し、ドライアイス上のチューブに入れる。この血管組織を分析まで-80℃で保管する。
マウスの脳試料を、BA‐1049(R)及びその代謝物1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の血漿中濃度の測定のために分析する。脳組織を1mL/gのPBSでホモジナイズした。脳ホモジネートを、目詰まりを防ぐために無菌的に切断した1000μLピペットチップを使用して、200μLのホモジネートをチューブの中でピペッティングすることにより、沈殿生成させる。試料をさらに、沈澱生成の助けとなるように100μLのPBSで希釈する。900μLの冷メタノールを各試料に加え、試料を5秒~10秒間ボルテックス混合する。試料を4℃に30分~40分間置き、次いで10,000RPMにて4℃で15分間、遠心分離処理する。上清を収集し、分析されるまで-80℃で保管する。
【0177】
これらの試料を、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の検出のためにLC‐MS/MS(液体クロマトグラフィータンデム型質量分析)システムに注入する。
【0178】
ラットの脳試料を、BA‐1049(R)及びその代謝物1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の血漿中濃度の測定のために分析する。脳組織を1mL/gのPBS中でホモジナイズする。脳ホモジネートを、目詰まりを防ぐために無菌的に切断した1000μLピペットチップを使用して、200μLのホモジネートをチューブの中にピペッティングすることにより、沈殿生成させる。試料をさらに、沈澱生成の助けとなるように100μLのPBSで希釈する。900μLの冷メタノールを各試料に加え、試料を5~10秒間ボルテックス混合する。試料を4℃に30分~40分間置き、次いで10,000RPMにて4℃で15分間、遠心分離処理する。上清を収集し、分析されるまで-80℃で保管した。
【0179】
下大静脈を、2mL/gのPBSを加えることによりホモジナイズし、biomacher(登録商標)撹拌棒(キンブル(Kimble))を用いてすり潰した。3mL/mLの冷メタノールを加えることにより沈澱生成を実施した。試料を5秒~10秒間ボルテックス混合した。試料を4℃に60分間置き、次いで10,000RPMにて4℃で15分間、遠心分離処理した。上清を収集し、分析されるまで-80℃で保管した。
【0180】
これらの試料を、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の検出のためにLC‐MS/MS(液体クロマトグラフィータンデム型質量分析)システムに注入した。
【0181】
各試料中のBA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の濃度を、脳組織1グラムあたりの各化合物の量を計算するために希釈及び組織重量について調整した。これらの値を報告し、平均し、BA‐1049(R)及び代謝物の出現及び消失の時間的経過を測定するために時間に対してプロットした。
【0182】
C. 結果
BA‐1049(R)及びその主要な活性代謝物1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、IV投与後のラット及びマウスの脳において検出可能であった(図22Aおよび図22B)。マウスでは、BA‐1049(R)は投与後少なくとも24時間において検出可能であり続けたが、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は12時間までに検出不能となった。ラットの脳では、マウスと同様に、投与後30分で1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)よりもBA‐1049(R)が多かった。IV投与後30分のラットの血管組織には大量の両化合物が存在しており、BA‐1049(R)よりも1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)が多かった。
【0183】
これらの結果は、BA‐1049(R)及びその代謝物1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)がIV投与後の血液、脳及び血管組織の中に存在しかつ検出可能であることを実証している。重量比では、下大静脈のような血管組織は脳組織よりさらに多くの両化合物を含有している。加えて、静脈内投与は、薬理学的に活性な化合物を、疾患、障害、又は損傷を治療又は処置するために脳及び血管組織中に提供する。
【0184】
実施例14
[BA‐1049(R)代謝物の活性]
BA‐1049(R)の代謝物である1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)及びN‐オキシド‐BA‐1049(R)がROCK2についての阻害活性を示すかどうかを測定するために、各化合物について親化合物BA‐1049(R)と比較して阻害曲線を測定する。
【0185】
各化合物をDMSO中で100mMに溶解した。この化合物‐DMSO溶液をdHO中で500μΜに希釈する。他のアッセイ試薬中で5Xに希釈した後に片対数の範囲の化合物が存在するように、100μΜから1nMまで、系列希釈を調製した。
【0186】
10μLの各濃度の各化合物を、ROCK2基質MYPT1(サーモフィッシャー)で予めコーティングした96ウェルMaxisorp(登録商標)プレート(サーモフィッシャー)の個々のウェルに二連として添加した。dHOを陰性対照として添加する。
【0187】
マルチチャンネルピペットを使用して、反応を開始するための下記の各溶液すなわち:10μLの20mM MOPS(pH7.2)、25mM β‐グリセロリン酸、5mM EGTA、1mM NaVO、及び1mM DTT、10μLの50μΜ ATP、10μLの75mM MgCl、並びに10μLの1mU/μL ROCK2溶液、の添加により1ウェル当たり40μLの最終体積とした。該溶液を撹拌により混合し、振盪機にて30℃で10分間インキュベートした。
【0188】
該反応は、プレートを空にして200μLの洗浄バッファー(トリス緩衝生理食塩水及び0.05%のTween‐20)を用いて各3分で3回洗浄することにより停止させた。
【0189】
抗リン酸化MYPT1(Thr696)抗体(米国マサチューセッツ州ビレリカのイーエムディー(EMD )、カタログ番号CS205309)の0.5μg/mLの溶液100μLを各ウェルに添加した。プレートをRTにて振盪機で1時間インキュベートし、次いで200μLの洗浄バッファーを用いて3分間で3回洗浄した。
【0190】
100μLのヤギ抗ウサギIgGホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体(米国マサチューセッツ州ビレリカのイーエムディー、カタログ番号90276、1:2000希釈)を各ウェルに添加した。プレートをRTにて振盪機で1時間インキュベートし、次いで200μLの洗浄バッファーを用いて3分間で3回洗浄した。該プレートを、トリス緩衝生理食塩水を用いて各3分でさらに2回洗浄した。
【0191】
100μLのTMB/E溶液を、マルチチャンネルピペットで各ウェルに添加した。十分に発色し次第、反応を100μLの停止液を使用して停止させ、ワラックのVictor2プレートリーダを使用して450nmで吸光度を読み取った。
【0192】
吸光度の値はROCK2活性に比例するので、450nmの吸光度を代謝物及び親化合物の終濃度に対してプロットすると、阻害曲線が得られる。相対的な阻害プロファイルを、これらの曲線の4PL分析により測定した。算出されたIC50における変動は、実験変数における変動により、アッセイ最適化前はよくあることである。
【0193】
図23の結果は、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)がBA‐1049(R)親化合物よりもROCK2活性の阻害剤として1/2 log倍強力であることを示している。N‐オキシド‐BA‐1049(R)は阻害活性を示していない。
【0194】
実施例15
[Rho/Rock活性化後のヒト臍静脈内皮細胞に対するBA‐1049(R)、BA‐1049(S)、及びこれらの代謝物のin vitroでの効果]
BA‐1049(R)、BA‐1049(S)及びBA‐1049(R)の代謝物の活性を、培養ヒト血管内皮細胞を使用して調査した。
【0195】
1. 細胞培養
初代HUVEC(米国バージニア州マナッサスのATCC)を、コラーゲン‐1(50μg/mL)でコーティングされた75cm組織培養フラスコにおいて、大血管内皮増殖サプリメントを補足したMedium‐200(いずれも米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャー)を使用して増殖させた。80%コンフルエントに達した後、0.25%トリプシン‐EDTA(米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャー)を使用して細胞を取り出し、下記に述べるような組織培養基質上にプレーティングした。
【0196】
2. 投薬及び分析のタイミング
5種の個別の用量(1μΜ、10μΜ、25μΜ、50μΜ、及び100μΜ)のBA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、N‐オキシド‐BA‐1049(R)及びBA‐1049(S)を、LPA処理されたHUVECにおいて正常なRho/ROCK活性を回復させる能力について評価した。細胞株を各用量に1時間曝露し、次いで下記に述べるように20μΜのLPAを用いて5分間又は1時間刺激する。全ての実験を三連で実行し、細胞株及び処理のいずれについても知らされていない2名の独立な判定者により分析を行った。
【0197】
a. ROCK2下流の標的であるミオシン軽鎖2(MLC2)及びコフィリンのリン酸化
細胞を、SDS‐PAGE及びイムノブロッティングを使用する二リン酸化MLC2(トレオニン18/セリン19リン酸化部位)及びコフィリン(セリン9リン酸化部位)の生化学分析に供した。細胞を、70μg/mlのラットコラーゲン‐1(米国ニューヨーク州コーニングのコーニング)でコーティングされた24ウェル組織培養プレートにプレーティングし、コンフルエントになるまで37℃/5%COで2日~3日間増殖させた。細胞を、0.1%ヒト血清アルブミン(HSA、米国ミズーリ州セントルイスのシグマ・アルドリッチ)を補足したMedium200(サーモフィッシャー)で希釈された5種の個別の用量(1μΜ、10μΜ、25μΜ、50μΜ、及び100μΜ)のBA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、N‐オキシド‐BA‐1049(R)及びBA‐1049(S)で、1時間前処理した。次に培地を、0.1%HSA(シグマ・アルドリッチ)及び20μΜのLPA(サンタクルーズ・バイオテク(Santa Cruz Biotech);米国カリフォルニア州サンタクルーズ)を補足したMedium200に交換し、5分間インキュベートした。LPA刺激の後、HALT(商標)完全プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤(米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャー)を補足したRIPAバッファーを用いる溶解によって細胞からタンパク質を抽出し、レムリ(Laemmli)サンプルバッファー(米国カリフォルニア州ヘラクレスのバイオラッド(BioRad))/β‐メルカプトエタノールを使用して還元及び変性させて、SDS‐PAGEに供した。
【0198】
変性した試料を、還元性の10%のビス‐トリス‐ゲルポリアクリルアミドゲル(Novex(登録商標);米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャー)の中で電気泳動し、0.25μm PVDFメンブレン(米国マサチューセッツ州ビレリカのイーエムディー・ミリポア(EMD Millipore ))に転写した。メンブレンを、抗pMLC2 T18/S19(1:500;米国マサチューセッツ州ダンヴァーズのセル・シグナリング(Cell Signaling))又は抗pコフィリンS9(1:500、米国マサチューセッツ州ダンヴァーズのセル・シグナリング)、及び抗グリセルアルデヒド3‐リン酸デヒドロゲナーゼ装荷量対照(GAPDH、1:10000;アブカム(Abcam ))を使用して探査する。タンパク質レベルを、化学ルミネセンス基質(Super Signal(商標)West、米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャー)を使用して検出し、FluoroChem(商標)SPイメージングシステムを使用して画像を取り込んだ。
【0199】
b. 内皮単層の完全性
HUVEC単層の完全性を調べるために、フィブロネクチン、コラーゲン‐1及びゼラチンでコーティングしたPDLコートカバーガラス(コーニング)に細胞をプレーティングした。50,000個の細胞を24ウェルプレートに置かれた各カバーガラス上に播種した。細胞を37℃/5%COで3日間増殖させた。様々な細胞試料を、0.1%ヒト血清アルブミン(HSA、シグマ(Sigma ))を補足したMedium200(米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャー)で希釈された5種の異なる用量(1μΜ、10μΜ、25μΜ、50μΜ、及び100μΜ)のBA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、N‐オキシド‐BA‐1049(R)又はBA‐1076(S)で、1時間前処理した。培地を、0.1%HSA及び20μΜのLPA(サンタクルーズ)を補足したMedium200に交換し、60分間インキュベートした。
【0200】
LPA刺激の後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、アクチン‐ファロイジン(米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャー)及びV‐カドヘリン(米国マサチューセッツ州ダンヴァーズのセル・シグナリング)について染色し、顕微鏡用スライド上に載せた。カバーガラスを蛍光顕微鏡法によって画像化し、単層中の細胞の無い穴をImageJ(フリーウェア;https://imagej.nih.gov/ij/)を使用して計測する。
【0201】
3. 結果
LPAで処理されたHUVECでは、BA‐1049(R)、BA‐1049(S)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)はMLC2の二リン酸化を低減する一方、N‐オキシド‐BA‐1049(R)はそのような効果を示さなかった(図24)。BA‐1049(R)は、BA‐1049(S)よりもpMLC2 T18/S19の低減においてより高い効力を示す(図24)。1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、10μΜ以上の濃度でMLC2の二リン酸化を完全に排除して、全ての試験化合物の中で最も高い効力を示している(図24)。ROCKの活性化を刺激するためにLPAで処理されたHUVECは、ストレスファイバーの増加及び細胞‐細胞間ジャンクションにおける変化を示し、これは対照(図25A)と比較して、単層中に細胞の無い穴を生じる(図25D)。LPAと、1μΜのBA‐1049(R)(図25B)又は10μΜのBA‐1049(R)(図25C)で処理された細胞は、正常な単層の外観を備えた対照培養物に類似している。細胞をLPAに加えて1μΜのBA‐1049(S)(図25E)又は10μΜのBA‐1049(S)(図25F)で処理する場合、いずれの濃度もLPAの作用を解消しない。よって、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、リゾホスファチジン酸(LPA)への曝露後のRho/ROCKの活性化を防止してヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)における単層の完全性を回復させるが、BA‐1049(S)及びN‐オキシド‐BA‐1049(R)はいずれも、そうではない。
【0202】
実施例16
[BA‐1049(R)、BA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049、及びBA‐1076 Rho/Rock活性化(S)の、Rho/Rock活性化後の脳微小血管内皮細胞に対するin vitroでの効果]
BA‐1049(R)、BA‐1049(S)、及びBA‐1049(R)の代謝物の活性について、初代ヒト脳微小血管内皮細胞を使用して調査する。
【0203】
1. 細胞培養
初代hBMVEC(米国ミネソタ州イーダイナのニューロミクス(Neuromics))を、コラーゲン‐1(70μg/mL、コーニング)でコーティングされた75cm組織培養フラスコで、ENDO増殖培地(ENDO基本培地+ENDO増殖サプリメント、いずれも米国ミネソタ州イーダイナのニューロミクス)を使用して増殖させる。90%コンフルエントに達した後、0.25%トリプシン‐EDTAを使用して細胞を取り出し、下記に述べるような組織培養基質上にプレーティングする。
【0204】
2. 投薬及び分析のタイミング
5種の個別の用量のBA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、N‐オキシド‐BA‐1049(R)及びBA‐1049(S)を、LPA処理されたhBMVECにおいて正常なRho/ROCK活性を回復させる能力について評価する。細胞を各用量に1時間曝露し、次いで下記に述べるように20μΜのLPAを用いて5分間又は1時間刺激する。全ての実験を三連で実行し、細胞株及び処理のいずれについても知らされていない2名の独立な判定者により分析を行う。
【0205】
a. ROCK2下流の標的であるミオシン軽鎖2(MLC2)及びコフィリンのリン酸化
細胞を、SDS‐PAGE及びイムノブロッティングを使用する二リン酸化MLC2(トレオニン18/セリン19リン酸化部位)及びリン酸化コフィリン(セリン9リン酸化部位)の生化学分析に供する。細胞を、70μg/mlのラットコラーゲン‐1(コーニング)でコーティングされた24ウェル組織培養プレートにプレーティングし、ENDO増殖培地(ニューロミクス)においてコンフルエントになるまで37℃/5%COで3日間増殖させる。細胞を、0.1%ヒト血清アルブミン(HSA、シグマ・アルドリッチ)を補足したENDO基本培地(ニューロミクス)で希釈された5種の個別の用量(1μΜ、10μΜ、25μΜ、50μΜ、及び100μΜ)のBA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、N‐オキシド‐BA‐1049(R)及びBA‐1049(S)で、1時間前処理する。培地を、1%HSA、20μΜのLPA(サンタクルーズ・バイオテク;米国カリフォルニア州サンタクルーズ)及び適正量の試験されている化合物を補足したENDO基本培地に交換する。5分後、培地を吸引除去し、細胞を1×PBSで短時間洗浄する。完全プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤(HALT、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を補足したRIPAバッファーを用いる溶解によって細胞からタンパク質を抽出し、レムリサンプルバッファー(バイオラッド;米国カリフォルニア州ヘラクレス、β‐メルカプトエタノールを使用して還元及び変性させて、SDS‐PAGEに供する。
【0206】
変性した試料を、還元性の10%ビス‐トリス‐PAゲル(Novex;サーモフィッシャー)において電気泳動し、0.25μmのPVDFメンブレン(イーエムディー・ミリポア)に転写する。メンブレンを、抗pMLC2 T18/S19(1:500;セル・シグナリング)又は抗pコフィリン(1:500、セル・シグナリング S9)、及び抗グリセルアルデヒド3‐リン酸デヒドロゲナーゼ装荷量対照(GAPDH、1:10000;米国マサチューセッツ州ケンブリッジのアブカム)を使用して探査する。タンパク質レベルを、化学ルミネセンス基質(Super Signal West、サーモフィッシャー)を使用して検出し、FluoroChem SPイメージングシステムを使用して画像を取り込む。
【0207】
b. 内皮単層の完全性
hBMVEC単層の完全性を調べるために、フィブロネクチン、コラーゲン‐1及びゼラチンでコーティングされたPDLコートカバーガラス(コーニング)に細胞をプレーティングする。50,000個の細胞を、24ウェルプレートに置かれた各カバーガラス上に播種する。細胞を、37℃/5%COでENDO増殖培地(ニューロミクス)にて3日間増殖させる。様々な細胞試料を、0.1%ヒト血清アルブミン(HSA、シグマ・アルドリッチ)を補足したENDO基本培地(ニューロミクス)で希釈された5種の異なる用量のBA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、N‐オキシド‐BA‐1049(R)又はBA‐1076(S)で、1時間前処理する。培地を、1%HSA、20μΜのLPA(サンタクルーズ・バイオテク;米国カリフォルニア州サンタクルーズ)及び適正量の試験されている化合物を補足したENDO基本培地に交換する。60分後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、アクチン‐ファロイジン(サーモフィッシャー)及びV‐カドヘリン(セル・シグナリング)について染色し、次いで顕微鏡用スライド上に載せた。カバーガラスを蛍光顕微鏡法によって画像化し、単層中の細胞の無い穴をImageJを使用して計測する。
【0208】
3. 結果
LPAで処理されたhBMVECでは、BA‐1049(R)、BA‐1049(S)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)はMLC2の二リン酸化を低減する一方、N‐オキシド‐BA‐1049(R)はそのような効果を示さない。BA‐1049(R)は、BA‐1049(S)よりもpMLC2 T18/S19の低減においてより高い効力を示す。1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、10μΜ以上の濃度でMLC2の二リン酸化を完全に排除して、全ての試験化合物の中で最も高い効力を示す。ROCKの活性化を刺激するためにLPAで処理されたhBMVECは、対照と比較して、ストレスファイバーの増加及び細胞‐細胞間ジャンクションにおける変化を示し、単層中に細胞の無い穴を生じる。LPAと、1μΜのBA‐1049(R)又は10μΜのBA‐1049(R)とで処理された細胞は、正常な単層の外観を備えた対照培養物に類似している。細胞を、LPAに加えて1μΜのBA‐1049(S)又は10μΜのBA‐1049(S)で処理する場合、いずれの濃度もLPAの作用を解消しない。
【0209】
BA‐1049(R)は内皮細胞におけるROCK活性化のLPA刺激によって誘発された細胞の変化を解消することができるが、BA‐1049(S)にはできない。
よって、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、リゾホスファチジン酸(LPA)への曝露後のRho/ROCKの活性化を防止してヒト脳微小血管内皮細胞(hBMVEC)におけるタイトジャンクションの維持を保護するが、BA‐1049(S)又はN‐オキシド‐BA‐1049(R)はそうではない。
【0210】
実施例17
[ヒト内皮細胞におけるBA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の効能及び効力]
1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)を、初代ヒト内皮細胞におけるその効能を測定するために試験した。培養されたヒト内皮細胞(HUVEC)におけるBA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のEC50についても、両化合物の効力を比較し、かつin vivoでの必要曝露量に関する情報を提供するために調査した。
【0211】
1. 細胞培養
初代ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC;ATCC)を、プラスチックの組織培養フラスコで、大血管内皮増殖サプリメント(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を補足したMedium‐200を使用して増殖させた。80%コンフルエントに達した後、0.25%トリプシン‐EDTAを使用して細胞を取り出し、下記に述べるような24ウェル組織培養プレート(ファルコン)にプレーティングした。
【0212】
2. 投薬及び分析のタイミング
8種の異なる用量のBA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)(0nM、10nM、100nM、1μΜ、10μΜ、50μΜ、100μΜ、及び1mM)を、細胞内ROCK活性に対するそれらの効果について評価した。細胞を各用量に1時間曝露した。全ての実験を三連で実行し、化合物及び化合物濃度について知らされていない2名の独立な判定者により分析を行った。
【0213】
a. ROCK2下流の標的であるミオシン軽鎖2(MLC2)のリン酸化
細胞を、SDS‐PAGE及びイムノブロッティングを使用する二リン酸化MLC2(トレオニン18/セリン19のリン酸化部位)の生化学的タンパク質分析に供した。細胞を、70μg/mlのラットコラーゲン‐1(コーニング)でコーティングされた24ウェル組織培養プレートにプレーティングし、コンフルエントになるまで37℃/5%COで2~3日間増殖させた。細胞を、様々な用量のBA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)で1時間前処理した。薬物は、0.1%ヒト血清アルブミン(HSA、シグマ・アルドリッチ)を補足したMedium200(サーモフィッシャーサイエンティフィック)中で希釈した。1時間後、細胞を、完全プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤(HALT、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を補足したRIPAバッファー(ボストン・バイオプロダクツ(Boston Bioproducts);米国マサチューセッツ州アシュランド)で溶解し、還元し、レムリサンプルバッファー(バイオラッド)/β‐メルカプトエタノールで変性させた。変性試料を、還元性の10%ビス‐トリス‐PAゲル(Novex)で電気泳動し、次いで0.25μmのPVDFメンブレン(イーエムディー・ミリポア)に転写した。メンブレンを、非特異的な抗体結合部位をブロックするために4%ウシ血清アルブミン溶液とともにインキュベートし、次いでppMLC2 T18/S19(1:500、セル・シグナリング)及びグリセルアルデヒド3‐リン酸デヒドロゲナーゼ装荷量対照(GAPDH、1:10,000;アブカム)について免疫標識した。タンパク質レベルを、化学ルミネセンス基質(Super Signal West、サーモフィッシャー)を使用して検出し、かつFluoroChem SPイメージングシステムで取り込んだ。ppMLC2及びGAPDHの化学ルミネセンスをデンシトメトリー分析によって計測した。ppMLC2のシグナルをGAPDHのシグナルに対して標準化し、未処理対照(0μΜ)の百分率としてプロットした。EC50値を、GraphPadソフトウェアを使用して用量‐応答分析により測定した。
【0214】
3. 結果
図26に示されるように、用量‐応答分析は、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の両方がMLC2の二リン酸化を用量依存的に低減したことを示している(図2A)。いずれの薬物も、試験した最も高い用量(=1mM)でBA‐1049(R)について89%及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)について94%の、ppMLC2レベルの最大限の低減を伴う同様の効能を示した。しかしながら、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049は、BA‐1049(R)について3830nMのEC50値と比較して1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)については449.1nMのEC50値によって示される、BA‐1049(R)よりも1log分高い効力を示した(図26B)。
【0215】
これらの結果は、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)が細胞透過性でありかつ生物活性を有すること、並びに1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は、その親のBA‐1049(R)と比べてHUVECにおけるROCKの阻害において同様の効能を有するがより高い効力を有すること、を示唆している。
【0216】
実施例18
[マウスの収縮期血圧値に対するBA‐1049(R)及びBA‐1049(S)の影響]
次の実験は、マウスの収縮期血圧の低下に対するBA‐1049(R)及びBA‐1049(S)の影響の差について実証する。Rhoキナーゼは血管緊張の調節において重要な役割を果たすが、血圧はそれ以上に末梢血管に依存しており、末梢血管ではROCK1の発現がROCK2よりも高い。マウスを、その飲料水を介して送達される漸増用量のBA‐1049(R)又はBA‐1049(S)のいずれかに曝露させ、該マウスの血圧をモニタリングする。BA‐1049(S)のROCK2に対する選択性の低さにより、ROCK2に対してより高い選択性を示すBA‐1049(R)よりも著しく低い用量での、収縮期血圧の低下が引き起こされる。
【0217】
マウスの3つの被験コホートを、通常の食事及び飲料水へのアクセスを無制限として飼育する。最初の5日間、マウスを接触に慣れさせるために毎日ハンドリングし、また該マウスの血圧を、多動物テールカフ式プレチスモグラフィー装置(エムアールビーピー・テールカフ血圧システム(MRBP Tail Cuff Blood Pressure System);アイアイティーシー・ライフ・サイエンス(IITC Life Science);米国カリフォルニア州ウッドランドヒルズ)を使用して計測する。各マウスの収縮期血圧を、2日目及び5日目の5分の期間で複数回記録する。これらの値はベースラインとしての役割を果たす。
【0218】
5日目に、1コホートのマウスを体重1kgあたり0.5mgのBA‐1049(R)を含有する飲料水に切り替える。第2のコホートには、体重1kgあたり0.5mgのBA‐1049(S)を含有する水を与える。第3のコホートには、通常の混じり物のない飲料水を与える。8日目に、全てのマウスについて血圧を計測する。
【0219】
8日目の血圧計測の後、2つの被験コホートの薬物投与量を体重1kgあたり1mgに増大し、該コホートをその新しい用量で3日間継続する。11日目に、血圧をテールカフ式プレチスモグラフィーにより全てのマウスについて5分の記録期間の間、再び記録する。
【0220】
血圧の記録に続き、11日目に、試験群の飲料水中の薬物投与量を体重1kgあたり3mgまで増大し、該コホートをその新しい用量で3日間継続する。14日目に、血圧をテールカフ式プレチスモグラフィーにより全てのマウスについて5分の記録期間の間、記録する。
【0221】
BA‐1049(S)の試験用量のうち1以上は、所与の治療コホート内の平均収縮期血圧を低下させる。BA‐1049(S)の用量を高めると、収縮期血圧のより大きな低下が示される。BA‐1049(R)は、ROCK2に対するその選択性がより高いので、平均収縮期血圧に対する影響をほとんど又は全く示さない。
【0222】
実施例19
[CCMタンパク質が枯渇した血管内皮細胞に対するBA‐1049(R)及びBA‐1049(S)のin vitroでの効果]
次の実験は、CCMタンパク質が枯渇した血管内皮細胞において重要な野生型(WT)の特徴を回復させる能力がBA‐1049(R)にはあり、BA‐1049(S)にはないことを実証する。これらのin vitroの実験は、Ccm1、Ccm2、又はCcm3突然変異を有する患者のCCM病変生検に由来する内皮細胞株において、及びヒト微小血管内皮細胞株(HMVEC)において実施する。
【0223】
1. 細胞株の準備
HMVEC細胞を、Ccm1、Ccm2又はCcm3に特異的な小型干渉RNA(siRNA)(米国コロラド州ラファイエットのダーマコン(Dharmacon))を用いたトランスフェクションによってCCMタンパク質の各々について枯渇させ;野生型細胞株は、未処理のHMVEC細胞で構成される。患者の生検細胞株(野生型、Ccm1突然変異;Ccm2突然変異;Ccm3突然変異)は、特定のCcm突然変異を有する患者の生検中に得られた内皮細胞から生成し;野生型細胞株は、Ccm突然変異を持たない対象者の生検試料に由来する。
【0224】
2. 投薬及び分析のタイミング
5種の個別の用量(1μΜ、10μΜ、25μΜ、50μΜ、100μΜ)のBA‐1049(R)及びBA‐1049(S)を、各CCM HMVEC細胞株及び各Ccm突然変異体生検細胞株において野生型表現型を回復させる能力について評価する。細胞株を、次の各用量:(1)培地中の1日用量を反復;(2)毎日30分の曝露及び洗い流し;並びに(3)最初の24時間のみの処置、に曝露させる。
【0225】
後述のエンドポイントは、各用量が各時点で各細胞株において野生型の内皮の表現型を回復させる能力を評価するために使用する。各エンドポイントは、最初の処置後24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、144時間、及び168時間で評価を行う。全ての実験を三連で実行し、細胞株及び処理のいずれについても知らされていない2名の独立な判定者により分析を行う。
【0226】
a. 内皮細胞の血管形成
細胞をコラーゲン・マトリックス中に懸濁させて、該細胞が血管様チューブを形成する能力を分析できるようにする。マトリックスは以下のように作製する、すなわち:コラーゲンを、Medium199(米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャーサイエンティフィック)及びNaOHの混合物が入った0℃のチューブに添加する。細胞を添加して最終コラーゲン濃度3.75mg/mLとし、この細胞‐コラーゲン混合物を4.5mmのマイクロウェル中に播種する。コラーゲンをゲル化させ、COインキュベータ中37℃で平衡化する。無血清培地(低血清IIサプリメント(米国ニューヨーク州レークプラシッドのアップステート・バイオテクノロジー(Upstate Biotechnology ))、bFGF(40ng/mL)、VEGF(40ng/mL)、ホルボールエステル(50ng/mL)、及びアスコルビン酸(50μg/mL)を含有しているMedium199)の中で3時間のインキュベーションの後、培養物を3%グルタルアルデヒドを用いて30分間固定する。
【0227】
固定後0時間、3時間、6時間、9時間、12時間、16時間、20時間、及び24時間において、培養物の画像を収集するために蛍光タイムラプス顕微鏡法を実行する。経時的な空胞及び内腔のエリアを、MetaMorph(登録商標)イメージングソフトウェア(米国カリフォルニア州サニーヴェールのモレキュラー・デバイシズ・コーポレイション(Molecular Devices Corp. ))を使用してトレース及び定量化し(n=時点ごとに5つの独立した視野)、また24時間での1視野当たりの内腔の数を計数する(n=5つの独立した視野)。
【0228】
b. 内皮細胞の遊走
走触性の遊走について以下のように検査する:20,000個の細胞を、内皮増殖培地‐2(米国メリーランド州ウォーカーズヴィルのロンザ(Lonza ))に含めてボイデンチャンバ(米国メリーランド州ゲーサーズバーグのニューロ・プローブ(Neuro Probe ))の上部ウェルに播種し、下面にヒトフィブロネクチン(1μg/mL)(米国マサチューセッツ州ウォードヒルのバイオメディカル・テクノロジーズ(Biomedical Technologies ))がコーティングされたポリカーボネートメンブレン(8μΜ細孔)(シグマ・アルドリッチ)の中へと3時間遊走させる。
【0229】
遊走していない細胞を除去した後、メンブレンを固定及び染色し(Hema3(登録商標))キット、米国マサチューセッツ州ウォルサムのフィッシャーサイエンティフィック)、スライドガラス上に載せる。高倍率の顕微鏡視野あたりの遊走した細胞の数を定量化する(n=条件ごとに10視野)。
【0230】
c. 内皮細胞の透過性
ホースラディッシュペルオキシダーゼに対する内皮細胞の透過性を、以下のようにしてトランスウェルアッセイを使用して計測する:Trans‐well(登録商標)インサート(48ウェル、3μΜ細孔)(米国ニューヨーク州コーニングのコーニング・インコーポレイテッド(Corning Inc.))をヒトフィブロネクチンでコーティングし、1ウェルあたり30,000個の細胞を播種する。ホースラディッシュペルオキシダーゼ(25μg/mL)をインサートの上部に添加し、6時間透過させる。6時間後、各ウェルの底部からの溶液を0.1mLのグアイアコール及び0.2mLの過酸化水素とともに混合し、A490nmで吸光度を計測する(n=各6ウェル)。
【0231】
d. 内皮内部のRhoキナーゼ活性
内皮内部のROCK活性を、リン酸化ミオシン軽鎖2(ホスホMLC2)のレベルを以下のようにして計測することにより評価する:サブコンフルエント状態の細胞を収集し、RIPA溶解バッファー(米国テキサス州ダラスのサンタクルーズ・バイオテクノロジー・インコーポレイテッド(Santa Cruz Biotechnology, Inc.))の中で溶解させる。細胞溶解物を、SDS‐PAGE(7%ゲル)及び二リン酸化ミオシン軽鎖2に特異的な抗体(セル・シグナリング・テクノロジー(Cell Signaling Technology);米国マサチューセッツ州ダンヴァーズ)(3674)を使用するウエスタンブロットにより分析する。ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート型の二次抗体を、発色及び画像化を可能にするために使用し;リン酸化ミオシン軽鎖2の相対レベルを、ImageJにおいて、ImageJユーザ・マニュアルのゲル分析に関する説明書(http://rsb.info.nih.gov/ij/docs/menus/analyze.html#gels)に従い、バンド強度のデンシトメトリーによる定量化によって定量する。
【0232】
e. 内皮内部のROCK1とROCK2の比率
内皮細胞内のROCK1とROCK2の比率を以下のように評価する:サブコンフルエント状態の細胞を収集し、RIPA溶解バッファー(サンタクルーズ・バイオテクノロジー・インコーポレイテッド)の中で溶解させる。細胞溶解物を、SDS‐PAGE(7%ゲル)並びに抗ROCK1及び抗ROCK2抗体(611136及び610623)(ビーディー・バイオサイエンシズ(BD Biosciences)、米国カリフォルニア州サンホセ))を使用するウエスタンブロットによって分析する。HRPコンジュゲート型の二次抗体を、発色及び画像化を可能にするために使用し;ROCK1及びROCK2の相対レベルを、ImageJにおいて、ImageJユーザ・マニュアルのゲル分析に関する説明書(http://rsb.info.nih.gov/ij/docs/menus/analyze.html#gels)に従い、バンド強度のデンシトメトリーによる定量化によって定量する。
【0233】
B. 結果
試験したBA‐1049用量のうち1以上が、試験した投薬レジメンに従って投与された時に内皮細胞の血管形成、遊走、透過性、Rhoキナーゼ活性、及びROCK1:ROCK2比率をWTレベルまで回復させ;試験したBA‐1049(R)、1049(S)用量のうちいずれも、試験した投薬レジメンに従って投与された時に内皮細胞の血管形成、遊走、透過性、Rhoキナーゼ活性、及びROCK1:ROCK2比率をWTレベルには回復させない。
【0234】
実施例20
[BA‐1049(R)又はBA‐1049(S)を用いた処理の後の内皮の透過性]
標識されたアルブミンの経血管輸送を、内皮の透過性を研究するために使用する。BA‐1049(R)及びBA‐1049(S)を、血管外漏出の網膜モデルにおける血液網膜関門の修復に対するその効果について比較する。網膜における血管外漏出を、蛍光トレーサであるアルブミン‐FITCの静脈内注射の後に検出する。このトレーサは血液脳関門又は血液網膜関門を通常は横断できないが、検出可能な内皮細胞透過性が存在する場合には網膜内へと漏れることになる。該トレーサの血管外漏出は、網膜血管構造の視覚化を可能にする網膜全載標本において検出可能である。
【0235】
成体ラットの血液網膜関門を破壊するために、4μL、10μgの細胞透過性C3トランスフェラーゼ(米国コロラド州デンバーのサイトスケルトン・インコーポレイテッド(Cytoskeleton, Inc.))を、8匹のスプレーグ・ドーリーラットの左右の眼内に、ラットをイソフルランで麻酔した後に注射する。硝子体内注射は、10μlハミルトンシリンジを使用して後眼房内に行う。24時間後、1μΜのBA‐1049(R)を4匹のラットの左眼に注射し、1μΜのBA‐1049(S)を残りの4匹のラットの左眼に注射する。右眼は、高濃度の細胞透過性C3トランスフェラーゼによって誘発された血管外漏出を検出するための未処理の対照としての役割を果たす。24時間後、ウシ血清アルブミン(BSA、米国ミズーリ州セントルイスのシグマ・アルドリッチ)にタグ付けされたフルオレセインイソチオシアネート(FITC、300μg/ml)を次いで動脈内注射し(体重100gあたり0.2ml)、10分間循環させ、次に網膜全載標本の調製のために眼球を摘出する。眼球を、全載標本の調製に先立ち、ラベル付きチューブの中の4%パラホルムアルデヒドで1時間固定する。
【0236】
網膜全載標本は、強膜の周囲で切断し、かつ水晶体を静かに除去することにより調製する。この眼球をワックスプレート上にピンで留め、単一の鮮やかな切り口を備えた杯状眼球構造(eye cup)中の4つの四分円部位へと割断する。この組織片を、網膜ではなく強膜にピンを刺して固定し、次いで該組織片を折り返して網膜を露出させる。4つ全てを折り返したとき、網膜を視神経から解放するために視神経を中心窩において切る。網膜をスライドに移すために小さな絵筆を使用しながら、これを神経節細胞層を上にして置き、濾紙に添着し、そして後固定する(眼球は神経節層を内側にして自然にカールする)。神経節細胞層を上に維持する(網膜は神経節細胞層を内側にして自然にカールし、濾紙がこれを平らに固定する)。該試料を、網膜を平らにするためにリン酸緩衝液中4%のパラホルムアルデヒドにおいて後固定し、PBSで一晩すすぐ。網膜を、筆を使用して濾紙から少しずつ剥がす。過剰な硝子体液を紙芯で吸い取る。スライドにカバーグラスをかけ、FLTC標識された血管を、落射蛍光顕微鏡法によって検出する。
【0237】
結果から、BA‐1049(R)がBA‐1049(S)よりも効果的に内皮の透過性及びFITC‐BSAの血管外漏出を解消することが可能であることが示される。
タイトジャンクションタンパク質であるオクルディンに対するBA‐1049(R)及びBA‐1076(S)の効果についても4匹のラットで調査する。オクルディンは、細胞透過性C3トランスフェラーゼの注射後最初の24時間で網膜内皮細胞においてダウンレギュレートされる。4匹のラットでは、細胞透過性C3トランスフェラーゼを上記のようにして注射し、24時間後にBA‐1049(R)又はBA‐1076(S)を上述のようにして注射する。3日後、網膜を摘出してオクルディン発現の定量のためのウエスタンブロッティング用に処理する。
【0238】
タイトジャンクションの緩みは血液網膜関門の崩壊をもたらし、結果として血管外漏出を生じる。BA‐1049(R)の適用はオクルディンの発現を回復させる。
実施例21
[BA‐1049R及び代謝物の選択的重水素化]
重水素は、電子を1つだけ含有しているが1個の陽子及び1個の中性子を含有する原子核を備えている、水素の安定同位体である。従って、重水素は2.0の原子質量(AMU)を有する一方、原子核が1個の陽子しか含有していない水素は1.0AMUである。炭素‐重水素結合における重水素の存在は、炭素‐水素結合とは全く異なり、結合を開裂するためにより大きなエネルギーを必要とし、かつ化合物の薬物動態学的プロファイルに影響を及ぼして、重水素化された化合物をより長く存続させる。化合物の選択的な重水素化は、ひとたび投与されたときの生物体における該化合物の代謝又は半減期を変化させる可能性があるが、該化合物を、生物学的挙動の変化が重水素化されていない化合物と比較して重水素化によってもたらされているということを確かめるために試験する。
【0239】
化合物を、多くは現在市販されている特殊重水素化前駆的化学物質を使用して、又はDO存在下でのフローケミストリーのような方法を用いて、重水素化することが可能である(エトヴェス(Oetvoes)ら、モレキュラー・ダイバーシティ(Molec. Diversity)、2011年、第15巻、第3号、605-11)。
【0240】
次の実験は、経口及び静脈内投与の後のラット血漿における、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)並びにそれらの重水素化相当物の出現及び消失の時間的経過を実証する。
【0241】
1. 動物及び投薬
頚静脈に二重にカニューレが挿入された成体オスのスプレーグ・ドーリーラット(チャールス・リバー・ラボラトリーズ)を、本研究に使用する。ラットには静脈内(IV)投与又は経口(PO)投与のいずれかによって投薬する。IVで投薬されるラットには、1mg/kgのBA‐1049(R)及び1mg/kgの重水素化BA‐1049(R)の1:1混合物の単回投与量を、外科的に埋め込んだ頚静脈カニューレを介して行う一方、POで投薬されるラットには、正常化合物及び重水素化化合物の1:1混合物の10mg/kgの単回投与量を、経口強制投与によって与える。いずれの用量もリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で調合する。水素の代わりに重水素が存在することにより、1つの交換部位につき1AMUだけ各イオンの質量が増大する。したがって、例えば4つの部位で水素を重水素に交換した場合、結果として生じる重水素化イオンは4AMUだけ大きい全質量を有することになる。
【0242】
ラットを、投与された化合物の副作用の臨床徴候について、投与後にモニタリングした。
IV又はPO投薬の後、血液試料を、0.083時間、0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、16時間、及び24時間で採取する。各時点において、0.3mLの血液を頚静脈カニューレから採取し、抗凝血薬としてEDTA二カリウムが入っているチューブに入れる。各血液試料の採取後すぐに、0.3mLの無菌の注射用0.9%塩化ナトリウム(USP)を、採取した血液量を補充するためにカニューレを通して投与する。血液試料は、遠心分離処理するまでは氷上に置く。試料を遠心分離処理し、血漿を新しいチューブにピペットで移してドライアイス上に置いてから、詳しい分析に先立ち保管のために-80℃に移動させる。
【0243】
2. 試料の分析
血漿試料を、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、並びに各々の重水素化相当物の、血漿中濃度の測定のために分析する。25μLの各血漿試料並びに標準品及び精度管理(QC)試料を、アセトニトリル/メタノール(50/50 v/v)中に10ng/mLのプロプラノロールを含有する200μLの内部標準溶液と混合する。試料をボルテックス混合して4℃で遠心分離処理する。結果として生じる上清のうち100μLを300μLの水/ギ酸(100/0.1 v/v)と混合し、アリコートを取り出す。
【0244】
これらの試料を、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)並びにこれらの重水素化体の検出のためにLC‐MS/MS(液体クロマトグラフィータンデム型質量分析)システムに注入する。
【0245】
3. データ分析
分析物の血漿中濃度を同定し、平均し、時間に対してプロットして、様々な薬物動態学的な値、例えば出現及び消失の時間的経過(T1/2)、血漿中最大濃度(Cmax)並びに最大血漿中濃度に達する時間(Tmax)、並びに化合物への全体的な全身曝露の指標としての濃度曲線下面積(AUC)を測定する。
【0246】
4. 結果
BA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)及びこれらの重水素化相当物は、図22に表わされた方法を用いて見られるように、IV投与後又はPO投与後のいずれにおいても血漿中に全て検出可能である。BA‐1049(R)又はその重水素化形態のIV投薬による投与の後、各々の形態が血漿から消失する時間の速さは、重水素化がBA‐1049(R)の代謝又は循環系からの除去をどのように変化させるかを示す。経口経路による投与は、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)及びその重水素化形態の生成は検出可能であること、並びに重水素化形態は血液循環からの消失速度が異なるようであることを示している。
【0247】
これらの結果は、BA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)の化学構造中の様々な位置における水素の重水素による置換は、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のいずれの重水素化形態が投薬後に血漿から消失する速度も、変化させることを実証している。この結果は、特定の重水素化形態はより有利な薬物動態プロファイルを有し、したがって疾患、障害、又は損傷を治療又は管理するためのより長期にわたる効果を有することを示している。
【0248】
実施例22
[1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)代謝物が神経突起の成長を引き起こす能力]
1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)代謝物が特定の状況において活性を有するかどうかを測定するために、神経突起成長アッセイを使用する。実施例9に記載された方法に従い、様々な化合物が神経突起の成長を促進する能力を比較するためのBA‐1049(S)、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049。
【0249】
BA‐1049(R)の1‐ヒドロキシ代謝物は、他の試験化合物のどれよりも低い濃度で神経突起の成長を刺激する。
実施例23
[BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のキナーゼ阻害スクリーニング検査]
次の実験は、BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)をキノムスクリーニングによってどのように評価したかを実証する。KINOMEscan(商標)スクリーニングプラットフォーム(米国カリフォルニア州フリーモントのディスカバーエックス・コーポレイション)は、試験化合物と、450種を超えるヒトキナーゼ及び疾患関連の突然変異バリアントとの間の相互作用を定量的に計測するために、新規な活性部位特異的競合結合アッセイを使用する。これらのアッセイはATPを必要とせず、その結果として、ATP濃度に左右される可能性のあるIC50値とは対照的に、真の熱力学的な相互作用親和性を報告する。キナーゼ活性部位に結合し、かつ固定化リガンドへのキナーゼ結合を直接的(立体的)に又は間接的(アロステリック的)に防止する化合物は、固体支持体上に捕捉されるキナーゼの量を低減することになる。反対に、キナーゼに結合しない被験分子は、固体支持体上に捕捉されるキナーゼの量に対して影響を及ぼさない。スクリーニングの「ヒット」は、関連するDNA標識を検出する定量的で正確かつ超高感度のqPCR法を使用して、被験試料中と対照試料中とを対比して捕捉されるキナーゼの量を計測することにより同定される。
【0250】
キナーゼタグ付きのT7ファージ株を、24ウェルブロックにおいて並行して、BL21株に由来する大腸菌宿主において増殖させた。大腸菌を対数増殖期まで増殖させ、凍結ストックのT7ファージに感染させ(感染多重度=0.4)、溶菌するまで振盪しながら32℃でインキュベートした(90~150分)。溶解物を遠心分離処理し(6,000×g)、細胞残屑を除去するために濾過した(0.2μm)。残りのキナーゼはHEK‐293細胞で生産し、続いてqPCR検出用にDNAでタグ付けした(ウエイン(Wein)ら、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nat. Comm.)、2016年、第7巻)。ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズを、ビオチン化された小分子リガンドを用いてRTで30分間処理し、キナーゼアッセイ用の親和性樹脂を生成した(ペゴラロ(Pegoraro)ら、ネイチャー・コミュニケーションズ、2017年、第8巻)。このリガンド付きビーズを過剰量のビオチンでブロッキングし、そして未結合のリガンドを除去するため及び非特異的なファージ結合を低減するために、ブロッキングバッファー(SeaBlock(商標)、(ピアース・バイオケミカル(Pierce Biochemical);米国イリノイ州ロックフォード)、1%BSA、0.05%Tween20、1mM DTT)で洗浄した。結合反応は、キナーゼ、リガンド付き親和性ビーズ、及び試験化合物を1×結合バッファー(20%SeaBlock、0.17×PBS、0.05%Tween20、6mM DTT)中で組み合わせることにより組み立てた。試験化合物は、100%DMSO中で40×ストックとして調製し、アッセイ中で直接希釈した。反応は全て、ポリプロピレンの384ウェルプレート中で0.02mlの最終体積で実施した。アッセイプレートを1時間振盪しながらRTでインキュベートし、親和性ビーズを洗浄バッファー(1×PBS、0.05%Tween20)で洗浄した。次いでビーズを溶離バッファー(1×PBS、0.05%Tween20、0.5μΜの非ビオチン化親和性リガンド)の中に再懸濁し、30分間振盪しながらRTでインキュベートした。溶離液中のキナーゼ濃度をqPCRによって計測した。
【0251】
表17は、468種のキナーゼに対して、及び心臓毒性に関与するキナーゼについてスクリーニングした1‐ヒドロキシ‐BA‐1049及びBA‐1049の研究結果を示す。
【0252】
【表18】
【0253】
この値は、陰性対照の結合に対する百分率を表す(すなわち、100%は化合物による結合の妨害がないことに相当し;有意な結合が存在するのは陰性対照の30%以下の場合である)。いずれの化合物も、化合物のうちいずれかに対する生物学的に関連性のある親和性を伴った相互作用はしなかった。しかしながら、これらのアッセイ条件では、化合物はROCK1及びROCK2の両方に結合する。
【0254】
実施例24
[BA‐1049(R)のアジピン酸塩の性質]
BA‐1049(R)は、遊離塩基の形態である時は適切な条件下で陽イオンとして存在し、かつ許容可能な陰イオンとともに塩を形成する、イオン性化合物である。次の塩のスクリーニングは、優れた結晶性及び許容可能な物理化学的性質を達成するように該分子と対合する適切なカウンターイオンを同定するために実施した。安定な結晶格子を備えた結晶の形成は、生産の際の原薬の結晶から不純物を保護し、かつさらにその安定性を高める助けとなることができる。
【0255】
実験方法
遊離塩基としておよそ100mgのBA‐1049(R)を、2mLのイソプロピルアルコール、続いて0.5mLのジクロロメタン中に溶解し、該溶液をBA‐1049(R)が完全に溶解されるまで撹拌した。1モル当量又は0.5モル当量のいずれかの薬学的に許容可能なカウンターイオンを該溶液に添加し、塩形成のプロセスを開始するために68℃で2時間~6時間撹拌した。許容可能なカウンターイオンには、塩酸、トシル酸、アジピン酸、メシル酸、D‐酒石酸、L‐酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、マンデル酸、コハク酸、リン酸及びその他が挙げられる。溶液を連続して撹拌しながらRTに冷却し、塩を濾過によって回収し、続いて、粉末X線回折(XRPD)、吸湿性による吸水量、融点及び他の物理化学的パラメータによる結晶性及び物性の詳しい分析のために脱水した。
【0256】
結果
試験したカウンターイオンのうちかなりの割合がBA‐1049(R)とともに安定結晶を生成し、かつ様々な手段を使用してさらに評価された。BA‐1049(R)の多数の様々な塩形態は、動的走査熱量測定によって決定されるように遊離塩基と比較して融解温度プロファイルの大幅な上昇を示し、かつ熱重量分析(TGA)及び動的水蒸気吸着(DVS)によって評価された。
【0257】
XRPDにて良好な結晶性を備えた固体を形成した塩の多くが融解温度の上昇を示した一方、DVSにおけるそのそれぞれの挙動は様々であった。加湿及び除湿の反復サイクルは特に、アジピン酸塩を、少量の水蒸気を吸収することが可能であると明らかにした。図27に示されるように、BA‐1049(R)のアジピン酸塩形態は乾燥に際して水を排出することが可能であり、かつ結晶格子の挙動の変化を示すことなくそうしており、また水和とその後の脱水の複数のサイクルにわたってそうすることが可能であった(図27)。アジピン酸塩が結晶性固体としては低含水率を保持する一方で水に容易に溶解する能力(RTで>200mg/mL)と相まって、これらの性質からアジピン酸塩が治療的適応のための有用な塩であることが明らかになった。
【0258】
実施例25
[オフターゲットの安全性の精査]
小分子キナーゼ阻害剤は特定のキナーゼ又はキナーゼ群を標的とする。しかしながら、全てのキナーゼ阻害剤は他のキナーゼに対する意図せぬオフターゲット効果を示し、かつさらには非キナーゼの標的にも影響を与える場合がある。非キナーゼの標的に対するオフターゲット活性の一例は、ノルエピネフリン輸送体(NET)及びセロトニン輸送体(SERT)をも不活性化する化合物AR‐13324である(表19)(スターディヴァント(Sturdivant)ら、バイオオーガニック・アンド・メディシナル・ケミストリー・レターズ(Bio-organic Med. Chem. Lett.)、2016年、第36巻、p.2475)。オフターゲット効果に関する困難の一部は、多くのキナーゼ阻害剤がアデノシン三リン酸(ATP)の結合を直接又は間接に妨害するように合成されることから生じる。キナーゼ阻害剤と他の標的との間のオフターゲット相互作用についてのスクリーニングは、キナーゼ阻害剤が適切な薬剤特性を有するかどうかを明らかにすることができる。
【0259】
次の実験は、組織培養細胞株の選択された細胞表面標的の、又は精製された酵素からの、特異的活性を計測するアッセイを使用する、BA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のいずれかの潜在的なオフターゲット相互作用を同定する。SAFETYscan(商標)(ディスカバーエックス)を、薬剤開発に重要な良く知られた膜タンパク質、例えば選択された電位型イオンチャネル、Gタンパク質共役受容体、神経伝達物質輸送体及びさらには選択された精製細胞酵素群、を含むパネルに対する任意の化合物の迅速な試験のために使用する。
【0260】
ムスカリン性アセチルコリン受容体又はドーパミンD1受容体のような個々の膜貫通型受容体タンパク質を発現するように操作された細胞株を、その標準的な増殖培地における培養でコンフルエントに達するまで増殖させた。BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)を10μΜの濃度で適用し、該培養物を、標的のイオンチャネル又は膜輸送体の活性化又は阻害を評価するために蛍光リポーターを使用してその特定のイオンチャネルの活性が計測されるまで、様々な時間にわたってインキュベートした。実験はさらに、標的の膜タンパク質の既知のアゴニスト及びアンタゴニストなど、比較のための対照も含む。
【0261】
精製された酵素を使用するアッセイについては、酵素アッセイを、標準的な反応バッファー及び活性に必要な指示薬、例えば補因子、バッファー及び合成基質などで組み立てる。次いで活性アッセイを、10μΜのBA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のうちいずれかの存在下又は非存在下で実施し、酵素活性に対するそれらの存在の影響を計測する。陽性対照として、Rhoキナーゼ(ROCK)を使用する結合アッセイをパネルに含めた。パネル中の他の標的には、Gタンパク質共役受容体、核内ホルモン受容体、細胞内の非キナーゼ酵素、イオンチャネル、及び神経伝達物質輸送体を含めた。具体的な標的は、それらが以前に細胞又は動物全体での研究において問題含みのオフターゲット効果の起源であることとの関連性が知られていることから選んだ。
【0262】
結果
表19に示されるように、BA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のいずれも、表に挙げた2つの非ROCK標的に対して有意な影響を示さなかった。加えて、BA‐1049(R)は、5‐HT2b受容体との拮抗的相互作用の可能性について除けばSAFETYscan(商標)全体の標的のうちいずれに対しても活性を示さなかった。
【0263】
【表19】
【0264】
BA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のいずれについても顕著なヒットが存在しないことから、これらの化合物の特異性、及び疾患、障害又は損傷を治療するための該化合物の開発の可能性について、明白な証拠が提供された。
【0265】
実施例26 BA‐1049(R)は脊髄損傷後の機能的回復を改善する
[脊髄損傷に対するBA‐1049(A)の効果]
次の実験は、BA‐1049(R)が脊髄損傷(SCI)後のマウスにおける機能的回復を改善する能力を実証する。
【0266】
1. 動物及び外科手術
成体メスのBALB/cマウス(チャールス・リバー・ラボラトリーズ)を本研究に使用した。マウスに以下の方法で背側の片側過切断(overhemisection)を施した。麻酔の導入を、100%O中5%イソフルランによって行った。残りの手術のために100%O中1~2%イソフルランの下でマウスの麻酔を維持した。マウスには鎮痛用にBuprenorphine SR(商標)を与えた。マウスの背部を剃毛して70%エタノール及びポビドン溶液を交互に用いて滅菌した。切開を下部胸椎の上方で実施した。椎弓切除を脊椎レベルT9~T10において実施した。背側の脊髄に0.5mmの深さかつ横方向に横断して切り込みを入れ、背側の片側過切断を遂行した。
【0267】
筋肉及び皮膚を縫合し、体液補給を支援するためにマウスに0.9%塩化ナトリウム溶液を与えた。マウスの回復期の間、該マウスに水ゲル、柔らかくしたフード、マウス通常食及び水を供給した。マウスが自分で排出する能力を取り戻すまで、マウスの膀胱について1日2回絞り出しを行った。さらにマウスを毎日体重測定し、かつ臨床徴候について毎日モニタリングした。
【0268】
2. 投薬
SCIマウスを、3群すなわち:手術後2日目で開始して2週間継続するBA‐1049(R)治療群、手術後に14日目で開始して2週間継続するBA‐1049(R)治療群、及びBA‐1049(R)を投与しない対照群、のうちの1つに無作為に割り当てた。
【0269】
治療群のマウスには、適切な治療期間中毎日、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に含めたBA‐1049(R)を10mg/kgで腹腔内(IP)投与した。
3. 行動試験
損傷後28日目に、3群全てのマウスを、2つの行動試験における成績について、各マウスの治療の枠組みが何であるかを知らされていない実験者によって類別した。第1はオープンフィールドでの自発運動の試験であり、第2は、マウスが鉛筆のような細い円錐形の物体の近くにその後肢で安全にぶら下げられる、後肢握り行動試験である。損傷を受けていないマウスは自分の後肢を差し伸べて物体を握ることになり;損傷を受けたマウスは、その反応が損傷を受けていないマウスの反応にどれだけ類似しているかについて類別される。
【0270】
「知らされていない」実験者の行動に関する記録を別の科学者により統合し、マウスを各試験における成績に従ってランク付けする。ランク付けの後、マウスがどの治療群であるかを「暴露」した。
【0271】
4. 結果
損傷後最初の2週間にわたり毎日10mg/kg、IPのBA‐1049(R)で治療したマウスは、いずれの行動試験においても損傷を受けていないマウスの成績に近い成績を実証した(図28)。この回復には、後脚での体重支持及びオープンフィールドでの自発運動の際の尾の挙上、並びに握り行動試験の際の後部脚を用いた正常な握り行動が含まれた。BA‐1049(R)治療を受けていないマウスでは、オープンフィールドでの自発運動の際の後部後肢の引きずり、及び握り行動試験の際の握り行動を伴わない後足の外旋が実証された。損傷後14日目に10mg/kgのBA‐1049(R)の腹腔内投与が開始されて14日継続された損傷マウスは、他の群と比較して中間的な回復すなわち;オープンフィールドでの散発的な体重支持及び握り行動試験の際の緩徐又は微弱な握り行動、を示した。
【0272】
図28に示したこれらの結果は、毎日のBA‐1049(R)がSCI後の大幅な自発運動及び後肢運動制御の回復を引き起こすことを実証している。それらはさらに、脊髄損傷後の治療のための時間帯が存在するかもしれないこと、具体的には、BA‐1049(R)を用いる治療は、回復初期に投与された場合、より遅い時点から開始するのに対してより効果的であること、を示唆している。
【0273】
等価物
当業者であれば、本明細書中に具体的に記載された具体的な実施形態の数多くの等価物を認識するであろうし、又は該等価物を日常的な実験作業のみを用いて確認可能であろう。そのような等価物は、添付の特許請求の範囲の範囲内に包含されるように意図されている。
[付記1]
構造:
【化12】

を有している、BA‐1049のR鏡像異性体のヒドロキシ代謝物(1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R))。
[付記2]
アジピン酸塩である、付記1に記載のヒドロキシ代謝物。
[付記3]
重水素化されている、付記1に記載のヒドロキシ代謝物。
[付記4]
付記1に記載のヒドロキシ代謝物を含んでなる医薬製剤。
[付記5]
ヒドロキシ代謝物は重水素化されている、付記4に記載の医薬製剤。
[付記6]
ヒドロキシ代謝物はアジピン酸塩である、付記4に記載の医薬製剤。
[付記7]
BA‐1049(R)をさらに含んでなる、付記5に記載の医薬製剤。
[付記8]
ヒドロキシ代謝物及びBA‐1049(R)のうち少なくともいずれか一方は重水素化されている、付記7に記載の医薬製剤。
[付記9]
ヒドロキシ代謝物及びBA‐1049(R)のうち少なくともいずれか一方はアジピン酸塩である、付記7に記載の医薬製剤。
[付記10]
BA‐1049(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではないrhoキナーゼ阻害剤をさらに含んでなる、付記4に記載の医薬製剤。
[付記11]
CCMに罹患している患者のCCMを治療する方法であって、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)を含んでなる治療上有効な量の医薬製剤を患者に投与することを含む方法。
[付記12]
1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)は重水素化されている、付記11に記載の方法。
[付記13]
1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)はアジピン酸塩である、付記11に記載の方法。
[付記14]
治療用製剤は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではないrhoキナーゼ阻害剤をさらに含む、付記11に記載の方法。
[付記15]
1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではない治療上有効な量のrhoキナーゼ阻害剤を含んでなる第2の医薬製剤を患者に投与するステップをさらに含む、付記11に記載の方法。
[付記16]
脳卒中に罹患している患者の脳卒中を治療する方法であって、BA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、又はこれらの混合物を含んでなる治療上有効な量の医薬製剤を患者に投与することを含む方法。
[付記17]
BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のうち少なくともいずれか一方は重水素化されている、付記16に記載の方法。
[付記18]
BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のうち少なくともいずれか一方はアジピン酸塩である、付記16に記載の方法。
[付記19]
治療用製剤はBA1049‐(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではないrhoキナーゼ阻害剤をさらに含む、付記16に記載の方法。
[付記20]
BA1049‐(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではない治療上の量のrhoキナーゼ阻害剤を含んでなる第2の医薬製剤を患者に投与するステップをさらに含む、付記16に記載の方法。
[付記21]
脳動脈瘤卒中に罹患している患者の脳動脈瘤卒中を治療する方法であって、化合物BA‐1049(R)、1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、又はこれらの混合物を含んでなる治療上有効な量の医薬製剤を患者に投与することを含む方法。
[付記22]
BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のうち少なくともいずれか一方は重水素化されている、付記24に記載の方法。
[付記23]
BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のうち少なくともいずれか一方はアジピン酸塩である、付記24に記載の方法。
[付記24]
治療用製剤はBA1049‐(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではないrhoキナーゼ阻害剤をさらに含む、付記24に記載の方法。
[付記25]
BA1049‐(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではない治療上有効な量のrhoキナーゼ阻害剤を含んでなる第2の医薬製剤を患者に投与するステップをさらに含む、付記24に記載の方法。
[付記26]
脊髄損傷卒中に罹患している患者の脊髄損傷卒中を治療する方法であって、化合物BA‐1049(R)若しくは1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、又はこれらの混合物を含んでなる治療上有効な量の医薬製剤を患者に投与することを含む方法。
[付記27]
BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のうち少なくともいずれか一方は重水素化されている、付記26に記載の方法。
[付記28]
BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のうち少なくともいずれか一方はアジピン酸塩である、付記26に記載の方法。
[付記29]
治療用製剤はBA1049‐(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではないrhoキナーゼ阻害剤をさらに含む、付記26に記載の方法。
[付記30]
BA1049‐(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではない治療上有効な量のrhoキナーゼ阻害剤を含んでなる第2の医薬製剤を患者に投与するステップをさらに含む、付記26に記載の方法。
[付記31]
脊髄損傷に罹患している患者の脊髄損傷を治療する方法であって、化合物BA‐1049(R)若しくは1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、又はこれらの混合物を含んでなる治療上有効な量の医薬製剤を患者に投与することを含む方法。
[付記32]
BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のうち少なくともいずれか一方は、重水素化されているかアジピン酸塩であるかのうち少なくともいずれか一方である、付記31に記載の方法。
[付記33]
治療用製剤は、BA1049‐(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではないrhoキナーゼ阻害剤をさらに含む、付記31に記載の方法。
[付記34]
BA1049‐(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではない治療上の量のrhoキナーゼ阻害剤を含んでなる第2の医薬製剤を患者に投与するステップをさらに含む、付記31に記載の方法。
[付記35]
くも膜下出血後の血管攣縮に罹患している患者のくも膜下出血後の血管攣縮を治療する方法であって、化合物BA‐1049(R)若しくは1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)、又はこれらの混合物を含んでなる治療上有効な量の医薬製剤を患者に投与することを含む方法。
[付記36]
BA‐1049(R)及び1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)のうち少なくともいずれか一方は、重水素化されているかアジピン酸塩であるかのうち少なくともいずれか一方である、付記35に記載の方法。
[付記37]
治療用製剤はBA1049‐(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではないrhoキナーゼ阻害剤をさらに含む、付記35に記載の方法。
[付記38]
BA1049‐(R)又は1‐ヒドロキシ‐BA‐1049(R)ではない治療上の量のrhoキナーゼ阻害剤を含んでなる第2の医薬製剤を患者に投与するステップをさらに含む、付記35に記載の方法。
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