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  • 特許-脂環族ポリカーボネートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】脂環族ポリカーボネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/26 20060101AFI20240327BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20240327BHJP
   C07C 69/96 20060101ALN20240327BHJP
   C07C 68/06 20200101ALN20240327BHJP
【FI】
C08G64/26
C08G64/02
C07C69/96 Z ZAB
C07C68/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022126939
(22)【出願日】2022-08-09
(65)【公開番号】P2023074459
(43)【公開日】2023-05-29
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】110142768
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】519380314
【氏名又は名称】中國石油化學工業開發股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】張 羽 瑩
(72)【発明者】
【氏名】林 敬 浤
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-066236(JP,A)
【文献】特開2001-163967(JP,A)
【文献】特表2010-539264(JP,A)
【文献】特表2010-507010(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004279(WO,A1)
【文献】特開2009-046519(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第03440141(DE,A1)
【文献】BRUNELLE D.J. et al.,Remarkably selective formation of macrocyclic aromatic carbonates: versatile new intermediates for the synthesis of aromatic polycarbonates,Journal of the American Chemical Society,米国,1990 Vol.112(6),p.2399-2402,DOI:10.1021/ja00162a049
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の溶剤、有機塩基触媒及び助触媒の存在下で、2,2-ビス(4-ヒドロキシシク
ロヘキシル)プロパンを溶解させ、混合溶液における前記2,2-ビス(4-ヒドロキシ
シクロヘキシル)プロパンの含有量が0.5~1.0容積モル濃度である前記混合溶液を
形成すること、及び、
第二の溶剤に溶解したビス(トリクロロメチル)カーボネートを前記混合溶液に添加し
て縮重合反応を行い、分子量のピーク値が12000より大きい脂環族ポリカーボネート
を製造することを含み、
前記有機塩基触媒は、4-ジメチルアミノピリジンであり、前記助触媒は、ピリジンである、脂環族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項2】
前記製造した脂環族ポリカーボネートの多分散指数は1.7以下である、請求項1に記
載の製造方法。
【請求項3】
前記第一の溶剤は、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、アジポ
ニトリル、2,6-ジクロロトルエン、テトラヒドロフラン及びピリジンからなる群から
選ばれる1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第二の溶剤は、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、アジポ
ニトリル、2,6-ジクロロトルエン、テトラヒドロフラン及びピリジンからなる群から
選ばれる1種の溶剤である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記4-ジメチルアミノピリジンと前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、0.01:1~0.3:1である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ピリジンと前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、2:1~18:1である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートの供給量は、0.05~0.5g/分間で
ある、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと前記ビス(トリクロロ
メチル)カーボネートとのモル比は、1:1~4:1である、請求項1に記載の製造方法
【請求項9】
前記縮重合反応の反応温度は、15~180℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記縮重合反応の反応時間は、4~24時間である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
前記縮重合反応の温度は、第一の反応温度及び温度が前記第一の反応温度より大きい第
二の反応温度を含む二段階の温度に設定し、前記第一の反応温度は15~60℃であり、
且つ反応時間は1~4時間であり、前記第二の反応温度は60~180℃であり、且つ反
応時間は8~15時間である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネートの製造方法に関し、特に、脂環族ポリカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート(PC)は、総合的な性能が優れているエンジニアリング・プラスチックであり、高温耐性、高透明度、高強度、耐衝撃性及び高熱抵抗等の特性を持ち、食品包装、医療機器、建築建材、電子コンピューター、自動車、航空宇宙及び光学等の分野に広く適用され、そのうち、ビスフェノールA(BPA)型の芳香族ポリカーボネートは最も一般的なものである。
【0003】
しかしながら、この芳香族ポリカーボネートは、ベンゼン環構造を有するため、製造したポリカーボネートは、紫外線の照射に耐えられないだけでなく、さらに、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネートに残存しているビスフェノールA(BPA、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)モノマーには、内分泌系の攪乱、またはメスの早熟を引き起こす環境ホルモン等の問題がある。そのため、ビスフェノールAの代替として他のモノマーの研究開発は注目されている。特に、水添ビスフェノールA(HBPA、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)は、その構造がビスフェノールAモノマーに類似し、且つベンゼン環構造を有せず、ビスフェノールAの代替として理想的なモノマーではあるが、現在、国内外で脂環族ポリカーボネートを工業的に製造する技術は、未だに具体的な報告がない。
【0004】
文献によれば、脂環族ポリカーボネートの合成方法は、ホスゲン化法及び非ホスゲン化法に分類される。しかしながら、ホスゲン化法の反応危険性が高く、且つホスゲンの供給源は入手し難く、非ホスゲン化法は、高温低圧下で行う必要があり、その反応条件は、ホスゲン化法よりも厳しい。また、現有の技術で製造した脂環族ポリカーボネートの分子量が低いので、元ポリカーボネート材料の適用の代替としては困難である。上記のことを鑑み、上記公知技術に存在する問題を解決するために、高分子量の脂環族ポリカーボネートを効果的に生産する製造方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
上記の問題を解決するために、本発明は、第一の溶剤、有機塩基触媒及び助触媒の存在下で、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンを溶解させ、混合溶液における前記2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンの含有量が0.5~1.0容積モル濃度である前記混合溶液を形成すること、及び、第二の溶剤に溶解したビス(トリクロロメチル)カーボネートを前記混合溶液に添加して縮重合反応を行い、分子量のピーク値が12000より大きい脂環族ポリカーボネートを製造することを含む、脂環族ポリカーボネートの製造方法を提供する。
【0006】
本発明の一つの具体的な実施態様において、前記製造した脂環族ポリカーボネートの多分散指数(PDI値)は1.7以下である。
【0007】
本発明の一つの具体的な実施態様において、前記混合溶液における第一の溶剤は、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、アジポニトリル、2,6-ジクロロトルエン、テトラヒドロフラン及びピリジンからなる群から選ばれる1種である。好ましくは、前記第一の溶剤は、沸点が60℃より高く、且つ塩素を含有する溶剤を選択し、例えば、クロロホルム、クロロベンゼン及び2,6-ジクロロトルエンを選択する。また、一つの具体的な実施態様において、前記第一の溶剤は、沸点が60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190℃より高く、且つ沸点が200℃より低い溶剤を選択してもよい。また、ビス(トリクロロメチル)カーボネートを溶解する第二の溶剤は、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンを溶解する第一の溶剤と同様である。例えば、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、アジポニトリル、2,6-ジクロロトルエン、テトラヒドロフラン及びピリジンからなる群から選ばれる1種の溶剤であってもよい。また、本発明は、反応に影響を与えないために、水性溶剤を添加しない。
【0008】
本発明の一つの具体的な実施態様において、前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートの供給量は、0.05~0.5g/分間である。具体的には、前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートを第二の溶剤に溶解させ、形成したビス(トリクロロメチル)カーボネート溶液を、数回に分けてゆっくりと前記混合溶液に添加する。前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートの供給量とは、ビス(トリクロロメチル)カーボネート溶液におけるビス(トリクロロメチル)カーボネート量を指す。
【0009】
本発明の一つの具体的な実施態様において、前記2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、1:1~4:1である。
【0010】
本発明の一つの具体的な実施態様において、前記有機塩基触媒は、窒素を含有する有機塩基であり、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、3-メチルピペリジン、4-メチルピペリジン及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)からなる群から選ばれる少なくとも1種である。本発明の一つの具体的な実施態様において、前記有機塩基触媒と前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、0.01:1~0.3:1である。
【0011】
一つの具体的な実施態様において、前記助触媒は、トリエチルアミンまたはピリジンである。本発明において、助触媒は、有機塩基触媒とは異なる。有機塩基触媒が3-メチルピペリジン、4-メチルピペリジン及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)からなる群から選ばれる少なくとも1種であれば、助触媒はトリエチルアミンまたはピリジンである。具体的には、前記触媒/助触媒の組合は、トリエチルアミン/ピリジン、ピリジン/トリエチルアミン、3-メチルピペリジン/ピリジン、3-メチルピペリジン/トリエチルアミン、4-メチルピペリジン/ピリジン、4-メチルピペリジン/トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン/ピリジン及び4-ジメチルアミノピリジン/トリエチルアミンからなる群から選ばれる1種である。本発明の一つの具体的な実施態様において、前記助触媒と前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、2:1~18:1である。すなわち、助触媒の使用量は、有機塩基触媒より大きい。
【0012】
一つの具体的な実施態様において、前記縮重合反応の温度は、15~180℃、例えば、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170または180℃である。
【0013】
もう一つの具体的な実施態様において、前記縮重合反応の時間は、4~24時間、例えば、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24時間である。
【0014】
もう一つの具体的な実施態様において、前記縮重合反応の温度は、第一の反応温度及び温度が前記第一の反応温度より大きい第二の反応温度を含む二段階の温度に設定し、前記第一の反応温度は15~60℃であり、且つ前記第一の反応温度の段階における反応時間は1~4時間であり、前記第二の反応温度は60~180℃であり、且つ前記第二の反応温度の段階における反応時間は8~15時間である。
【0015】
本発明によれば、有機塩基触媒及び助触媒により、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンの溶解度を向上させ、効果的に反応に参加することができる。特に前記助触媒の使用により、有機塩基触媒の活性を効果的に制御でき、後続の縮重合における即時の反応性を与え、混合溶液の製造が常温で製造できるようにして、反応物の析出による加水分解のリスクを取り除くだけでなく、大量生産にも有利である。また、反応モノマーであるビス(トリクロロメチル)カーボネートを数回に分けて添加することにより、本発明の脂環族ポリカーボネートは、穏やかな反応条件下で製造できる。
【0016】
さらに、本発明の製造方法は、高度な反応選択性を有するため、製造した脂環族ポリカーボネートは、高分子量及び高純度という特性を有し、食品用容器、光学、医療産品の使用要求に符合し、その適用価値を上げる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
例示的の参考図面により、本開示の実施形態を説明する。
図1図1は、本発明の実施例のフーリエ変換赤外スペクトルであり、図1において、実線は2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン(HBPA)を表し、点線は産物である脂環族ポリカーボネート(HPC)を表する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を特定の具体的な実施態様により説明するが、当業者は、本発明の利点および効果を本明細書の記載内容により容易に理解することができる。本発明は、他の異なる実施態様によって行うかまたは適用することができ、本明細書における各詳細説明は、さまざまな観点や適用に基づいて、本発明の精神から逸脱しない限り、異なる修飾および変更を行うことができる。なお、本明細書のすべての範囲と値は、包括的であり、組み合わせることが可能である。本明細書に記載されている範囲内に入る任意の値または点、例えば、任意の整数は、最小値または最大値として、サブ範囲などを導き出すことができる。
【0019】
本発明によれば、第一の溶剤、有機塩基触媒及び助触媒の存在下で、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンを室温で溶解させて混合溶液を形成すること、及び、室温で第二の溶剤に溶解したビス(トリクロロメチル)カーボネートを前記混合溶液に添加して縮重合反応を行い、下記式(I)の脂環族ポリカーボネートを製造することを含む、脂環族ポリカーボネートの製造方法を提供する。
【化1】

式中、nは、40より大きい。
【0020】
上記の製造方法により、製造した脂環族ポリカーボネートの分子量のピーク値は、12000より大きくなれる。一つの具体的な実施態様において、nは、40~80である。一つの具体的な実施態様において、製造した脂環族ポリカーボネートの多分散指数(PDI値)は、1.7以下である。
【0021】
本明細書において、上記の2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンは、純度が95%以上の2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンを使用する。
【0022】
本発明の一つの具体的な実施態様において、前記混合溶液における第一の溶剤は、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、アジポニトリル、2,6-ジクロロトルエン、テトラヒドロフラン及びピリジンからなる群から選ばれる1種である。好ましくは、前記第一の溶剤は、沸点が60℃より高く、且つ塩素を含有する溶剤を選択し、例えば、クロロホルム、クロロベンゼン及び2,6-ジクロロトルエンを選択することで、縮重合反応の反応速度を向上させる。また、一つの具体的な実施態様において、前記第一の溶剤は、沸点が60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190℃より高く、且つ沸点が200℃より低い溶剤を選択してもよい。また、ビス(トリクロロメチル)カーボネートを溶解する第二の溶剤は、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンを溶解する第一の溶剤と同様である。例えば、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、アジポニトリル、2,6-ジクロロトルエン、テトラヒドロフラン及びピリジンからなる群から選ばれる1種の溶剤であってもよい。
【0023】
本発明の一つの具体的な実施態様において、縮重合反応を行う時に、前記混合溶液における2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンの含有量は、0.5~1.0容積モル濃度(M)である。
【0024】
他の実施態様において、前記混合溶液における2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンの含有量は、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9または0.95Mであってもよいが、これらに限定されない。
【0025】
2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンを溶解させて混合溶液を形成する過程は、常温常圧環境下で行いながら、撹拌し続けて、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと有機塩基触媒及び助触媒との間の衝突を増加させて溶解を促進させる必要があり、完全に溶解した後で、縮重合反応を行い始められる。本発明の実施態様において、本発明の製造方法に使用される反応装置は、さらに、撹拌装置、例えば、撹拌槽型反応器を含み、前記撹拌装置の回転速度を50~500rpmに制御する。一つの具体的な実施態様において、前記撹拌装置は、傾斜パドル翼式撹拌機、タービン翼式撹拌機、パドル翼式撹拌機、アンカー翼式撹拌機、傾斜翼式撹拌機、横型撹拌機、プロペラ翼式撹拌機、磁気加熱式撹拌機またはリボン翼式撹拌機から選んでもよい。
【0026】
他の実施態様において、前記撹拌装置の回転速度は、75、100、150、200、250、300、350、400または450rpmであってもよいが、これらに限定されない。
【0027】
本明細書において、前記有機塩基触媒は、窒素を含有する有機塩基であることで、穏やかな条件下で縮重合反応を行うのに有利であり、前記有機塩基触媒の具体例は、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、3-メチルピペリジン、4-メチルピペリジンまたは4-ジメチルアミノピリジンである。本発明の一つの具体的な実施態様において、前記有機塩基触媒と前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、0.01:1~0.3:1である。
【0028】
もう一つの具体的な実施態様において、前記有機塩基触媒は、4-ジメチルアミノピリジンであり、且つ前記4-ジメチルアミノピリジンと前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、0.01:1~0.3:1である。
【0029】
他の実施態様において、前記4-ジメチルアミノピリジンと前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、0.05:1、0.1:1、0.15:1、0.2:1または0.25:1であってもよいが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書において、上記の助触媒は、前記2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン及び触媒の均一分布に寄与し、そのpH値を安定させる特性を維持し、そのうち、前記助触媒は、有機塩基化合物であることが好ましい。
【0031】
一つの具体的な実施態様において、前記助触媒は、トリエチルアミンまたはピリジンであり、且つ前記助触媒は、有機塩基触媒とは異なる。いくつかの具体的な実施態様において、前記触媒/助触媒の組合は、トリエチルアミン/ピリジン、ピリジン/トリエチルアミン、3-メチルピペリジン/ピリジン、3-メチルピペリジン/トリエチルアミン、4-メチルピペリジン/ピリジン、4-メチルピペリジン/トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン/ピリジン及び4-ジメチルアミノピリジン/トリエチルアミンからなる群から選ばれる1種である。
【0032】
反応系において、有機塩基触媒として、置換基を有する含窒素複素環、例えば、3-メチルピペリジン、4-メチルピペリジンまたは4-ジメチルアミノピリジンを選択して使用する場合、その構造に立体障害が存在しているため、助触媒が存在しないと、反応過程で副生成物が形成しやすく、製品の純度に影響を与え;本発明の製造方法において、助触媒の使用、例えば、トリエチルアミンまたはピリジンの使用により、有機塩基触媒の副反応の発生を抑制でき、縮重合反応が脂環族ポリカーボネートの形成に偏ることに有利であるため、前記助触媒の使用量は、前記触媒の使用量より高くあるべきが、高すぎることは好ましくなく;助触媒の使用量が高すぎると、反応物の2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンが直接に加水分解することを引き起こしやすく、反応収率に影響を与える。一つの具体的な実施態様において、前記助触媒と前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、2:1~18:1である。例えば、前記助触媒は、ピリジンであり、且つ前記ピリジンと前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、2:1~18:1である。
【0033】
他の実施態様において、前記助触媒と前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1、11:1、12:1、13:1、14:1、15:1、16:1または17:1であってもよいが、これらに限定されない。
【0034】
また、本発明の有機塩基触媒及び助触媒は、反応装置での導入方式及び順番を制限しないが、前記有機塩基触媒及び助触媒は、反応装置に同時に導入することが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法において、前記2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、1:1~4:1である。
【0036】
他の実施態様において、前記2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートとのモル比は、1.5:1、2:1、2.5:1、2.7:1、3:1、3.2:1、3.5:1または3.7:1であってもよいが、これらに限定されない。
【0037】
本発明の縮重合反応は、反応の最適化と製品の分子量及び純度の向上のために、少なくとも一段階の温度設定、または一温度範囲内の連続の昇温設定を含んでもよく、且つ反応温度は、15~180℃の範囲内である。
【0038】
他の実施態様において、前記縮重合反応の反応温度は、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160または170℃であってもよいが、これらに限定されない。
【0039】
もう一つの具体的な実施態様において、前記縮重合反応の温度は、15~180℃の範囲内から選ばれる二段階の温度設定であり;その例としては、前記縮重合反応の第一の反応温度は、15~60℃、例えば、20、30、40または50℃であってもよく、その反応時間は、1~4時間であり;前記縮重合反応の第二の反応温度は、第一の反応温度より大きく、且つ60~180℃、例えば、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170または180℃であってもよく、その反応時間は、8~15時間であることが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
さらにもう一つの具体的な実施態様において、前記縮重合反応の温度は、15~180℃の範囲内の連続の昇温設定である。前記縮重合反応の連続の昇温設定の範囲は、15~100℃、15~120℃、15~140℃、25~100℃、25~120℃、または25~140℃を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0041】
一つの具体的な実施態様において、前記縮重合反応の反応時間は、4~24時間である。
【0042】
他の実施態様において、前記縮重合反応の反応時間は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22または23時間であってもよい。
【0043】
ホスゲン化法に比べて、本発明は、固体状態のビス(トリクロロメチル)カーボネートを第二の溶剤に溶解させ、数回に分けて逐次に添加する方式で反応系に導入してもよく、これにより、縮重合反応の速度及び選択性をより精密に制御できる。一つの具体的な実施態様において、前記ビス(トリクロロメチル)カーボネートの供給量は、0.05~0.5g/分間である。
【0044】
縮重合反応後、反応過程で形成した粘液性の副生成物は変換不完全な生成物であり、その反応産物の後続の運用に不利であるため、上記式(I)の脂環族ポリカーボネートを溶解せず、且つ副生成物及び未反応の2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンに対して溶解性を有する溶剤を選択して、本発明の製品を反応混合物から沈殿析出させる必要がある。
【0045】
前記の上記式(I)の脂環族ポリカーボネートを溶解しない溶剤は、アルコール系溶剤、そのうち、特にメタノールが好ましい。
【実施例
【0046】
以下、具体的な実施例により本発明の利点および効果についてより詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例の説明に限定されない。
【0047】
比較例1
【0048】
10gの2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、25mlのクロロベンゼン及び90mlの5重量%水酸化ナトリウム水溶液を、機械撹拌機、凝縮管及び供給ホッパーを備えた三つ口フラスコに入れ、温度を-8℃に設定して撹拌を行った;十分に混合した後、-8℃で0.21gの有機塩基触媒であるトリエチルアミンを入れた。
【0049】
次に、10gのビス(トリクロロメチル)カーボネートを20mlのクロロベンゼンに溶解させ、ビス(トリクロロメチル)カーボネート溶液を製作し、滴下漏斗で前記ビス(トリクロロメチル)カーボネート溶液をゆっくりと前記三つ口フラスコに滴下した;滴下及び撹拌の過程で、反応液を室温に徐々に昇温し、30分間の滴下工程の後に縮重合反応を開始させ、12時間反応した後、メタノールを上記反応溶液に入れ、何かの産物も沈殿析出していなかった。その主な原因は、上記2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンが水酸化ナトリウム水溶液に溶解できないため、反応に参加していない。
【0050】
実施例1
【0051】
10gの2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン(HBPA)、25mlの反応溶剤であるクロロベンゼン、9.32gの助触媒(Co-cat)であるピリジン及び0.26gの有機塩基触媒(Org-cat)である4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を、機械撹拌機、凝縮管及び供給ホッパーを備えた三つ口フラスコに入れ、混合溶液を形成し、常温常圧条件(25℃、1atm)下で撹拌を行った。前記混合溶液における2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンの含有量は0.95Mであった。
【0052】
次に、25℃の温度条件下で、10gのビス(トリクロロメチル)カーボネート(BTC)を20mlのクロロベンゼンに溶解させ、ビス(トリクロロメチル)カーボネート溶液を製作し、滴下漏斗で前記ビス(トリクロロメチル)カーボネート溶液を30分間内でゆっくりと混合溶液に滴下して縮重合反応を12時間行った。また、前記縮重合反応の温度は、第一の反応温度15℃で2時間反応し、第二の反応温度120℃で10時間反応する二段階の温度設定である;縮重合反応が完成した後、メタノールを上記反応溶液に入れ、抽気、濾過、乾燥した後、白色の脂環族ポリカーボネート製品を得た。
【0053】
上記製品について下記の測定分析を行い、その結果を表1に記録した。
【0054】
(1)フーリエ変換赤外分光分析
前記反応物である2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン(HBPA)及び上記で製造した脂環族ポリカーボネート(HPC)製品を、それぞれ、粉末試料にして、フーリエ変換赤外分光光度計(PerkinElmer、Spectrum Two)を使用し、波数400~4000cm-1の範囲内で分析を行い、測定結果を図1に記録した。
【0055】
(2)分子量測定
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、Waters、1515 System)を使用して製品の分子量のピーク値及び多分散指数(PDI値)を測定した。前記の操作条件は以下の通りである。(1)移動相:1.0ml/min,THF;(2)検出器型番:Waters 2414屈折率検出器;測定温度:40℃;(3)GPC測定に使用される製品の濃度:10mg/ml;(4)注入量:3μL;(5)クロマトグラフ用カラム型番:Phenogel 00H-0442-K0、00H-0443-K0、00H-0444-K0。
【0056】
上記の分析では、前記製品の測定した分子量のピーク値は17,428であり、PDI値は1.5であり、また、フーリエ変換赤外分光分析により、前記反応物HBPAのOHの吸収ピーク値は3305cm-1であり;製造したHPC製品のC=O及びO-C-Oの吸収ピーク値は、それぞれ、1734cm-1及び1251cm-1であった。
【0057】
実施例2
【0058】
脂環族ポリカーボネートの製造及び分析方法は、前記ビス(トリクロロメチル)カーボネート溶液におけるビス(トリクロロメチル)カーボネートの使用量を5gに変更し、その縮重合反応における第二の反応温度を100℃に調整すること以外は、実施例1と同様にして、白色の脂環族ポリカーボネート製品を得た。その結果は、表1に示す通り、分子量測定分析後、製造した脂環族ポリカーボネート製品の分子量のピーク値は16,813であり、PDI値は1.5であり、また、フーリエ変換赤外分光分析により、そのC=O及びO-C-Oの吸収ピーク値は、それぞれ、1734cm-1及び1251cm-1であった。
【0059】
実施例3
【0060】
脂環族ポリカーボネートの製造及び分析方法は、前記混合溶液における助触媒であるピリジンの使用量を16gに変更すること以外は、実施例1と同様にした;表1に示す通り、製造した脂環族ポリカーボネート製品は、分子量測定分析により、その分子量のピーク値は15,718であり、PDI値は1.6であった。また、フーリエ変換赤外分光分析により、そのC=O及びO-C-Oの吸収ピーク値は、それぞれ、1734cm-1及び1251cm-1であった。
【0061】
実施例4
【0062】
脂環族ポリカーボネートの製造及び分析方法は、前記混合溶液における有機塩基触媒である4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)の使用量を0.52gに変更し、前記縮重合反応における第二の反応温度を100℃に調整すること以外は、実施例1と同様にした;表1に示す通り、製造した脂環族ポリカーボネート製品は、分子量測定分析により、その分子量のピーク値は14,931であり、PDI値は1.7であった。また、フーリエ変換赤外分光分析により、そのC=O及びO-C-Oの吸収ピーク値は、それぞれ、1734cm-1及び1251cm-1であった。
【0063】
実施例5
【0064】
脂環族ポリカーボネートの製造及び分析方法は、前記2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンの含有量を0.5Mに変更し、前記縮重合反応における第二の反応温度を140℃に調整すること以外は、実施例1と同様にした;表1に示す通り、製造した脂環族ポリカーボネート製品は、分子量測定分析により、そのピーク値分子量は12,276であり、PDI値は1.7であった。フーリエ変換赤外分光分析により、そのC=O及びO-C-Oの吸収ピーク値は、それぞれ、1738cm-1及び1254cm-1であった。
【0065】
比較例2
【0066】
脂環族ポリカーボネートの製造方法は、前記混合溶液の組成を、反応溶剤クロロホルム、助触媒トリエチルアミン(Et3N)に変更し、前記混合溶液における2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンの含有量を0.4Mに変更し、前記ビス(トリクロロメチル)カーボネート溶液の組成を、5gのビス(トリクロロメチル)カーボネート及び50mlのクロロホルムに変更し、縮重合反応における第二の反応温度を60℃に調整すること以外は、実施例1と同様にしたが、最後は何かの産物も沈殿析出していなかった。
【0067】
【表1】

HBPA:2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン
BTC:ビス(トリクロロメチル)カーボネート
Org-cat:有機塩基触媒
Co-cat:助触媒
【0068】
上記のように、本発明は、有機塩基触媒及び助触媒の存在下で予め反応を行うことで、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンの溶解度を向上させ、効果的に反応に参加することができ、また、反応モノマーであるビス(トリクロロメチル)カーボネートの使用との組み合わせで、本発明の脂環族ポリカーボネートは、穏やかな反応条件下で製造できる。さらに、本発明の製造方法は、高度な反応選択性を有するため、製造した脂環族ポリカーボネートは、高分子量及び高純度という特性を有し、食品用容器、光学、医療産品の使用要求に符合し、その適用価値を上げる。
【0069】
上記の実施態様は、例示的な説明に過ぎず、本発明を制限するものではない。本発明の精神および範囲に反しない限り、当業者が上記の実施態様を修飾および変更を行ってもよい。したがって、本発明の権利保護範囲は、本発明の特許請求の範囲によって定義され、本発明の効果および実施の目的に影響を及ぼさない限り、本開示の技術内容に含まれる。
図1