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特許7461464熱間成形用鋼板と、熱間成形部材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】熱間成形用鋼板と、熱間成形部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240327BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240327BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240327BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240327BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240327BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20240327BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 302Z
C22C38/00 301Z
C22C38/38
C22C38/58
C22C38/00 301W
C21D9/46 G
C21D9/00 A
C21D1/18 C
B21D22/20 H
B21D22/20 E
C21D9/46 P
C21D9/46 T
C21D9/46 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022513945
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-02
(86)【国際出願番号】 KR2020011684
(87)【国際公開番号】W WO2021045476
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0108827
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェ‐ファ
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,ギュジン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヒョシク
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ドンチョル
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ヒョンソン
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-065293(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179839(WO,A1)
【文献】特開2018-178194(JP,A)
【文献】国際公開第2019/127240(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.5~3.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:3.0~7.0%、N:0超過0.2%未満、Nb:0.03~1.0%、P:0.1%未満、S:0.01%未満、残部Feおよびその他不可避な不純物からなり、
フェライト基地組織内に20体積%以下の炭窒化物で構成される微細組織を含み、
前記フェライト基地組織内フェライト相の平均結晶粒径が、100μm以下であり、
下記式(1)を満たすことを特徴とする熱間成形用鋼板。
(1)0.80*Si+0.57*Cr-3.53*C-1.45*Mn-1.9>0
(ここで、Si、Cr、C、Mnは各元素の含有量(重量%)を意味する)
【請求項2】
重量%で、Crの含有量が、3.5~5.5%であることを特徴とする請求項1に記載の熱間成形用鋼板。
【請求項3】
重量%で、Ni:3.0%未満を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱間成形用鋼板。
【請求項4】
重量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.5~3.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:3.0~7.0%、N:0超過0.2%未満、Nb:0.03~1.0%、P:0.1%未満、S:0.01%未満、残部Feおよびその他不可避な不純物からなり、
下記式(1)を満たし、
表面から深さ0.1μmの地点で平均酸素含有量が20重量%以下であり、
降伏強度1,100MPa以上および引張強度1,500MPa以上であることを特徴とする熱間成形部材。
(1)0.80*Si+0.57*Cr-3.53*C-1.45*Mn-1.9>0
(ここで、Si、Cr、C、Mnは各元素の含有量(重量%)を意味する)
【請求項5】
重量%で、Crの含有量が、3.5~5.5%であることを特徴とする請求項4に記載の熱間成形部材。
【請求項6】
重量%で、Ni:3.0%未満を含むことを特徴とする請求項4に記載の熱間成形部材。
【請求項7】
重量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.5~3.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:3.0~7.0%、N:0超過0.2%未満、Nb:0.03~1.0%、P:0.1%未満、S:0.01%未満、残部Feおよびその他不可避な不純物からなる熱間成形用鋼板を用意する段階と、
前記鋼板を1~1,000℃/秒の速度でAc3+50℃~Ac3+200℃の温度範囲まで加熱して1~1,000秒間維持する段階と、を含み、
前記鋼板は下記式(1)を満たし、
前記加熱および維持した前記鋼板を熱間成形し、1~1,000℃/秒の速度でMf以下の温度まで冷却して得た熱間成形部材は、フェライト基地組織内に20体積%以下の炭窒化物で構成される微細組織を含み、
前記フェライト基地組織内フェライト相の平均結晶粒径が、100μm以下であり、
表面から深さ0.1μmの地点で平均酸素含有量が20重量%以下であり、
降伏強度1,100MPa以上および引張強度1,500MPa以上であることを特徴とする熱間成形部材の製造方法。
(1)0.80*Si+0.57*Cr-3.53*C-1.45*Mn-1.9>0
(ここで、Si、Cr、C、Mnは各元素の含有量(重量%)を意味する)
【請求項8】
前記熱間成形用鋼板のCrの含有量が、重量%で、3.5~5.5%であることを特徴とする請求項7に記載の熱間成形部材の製造方法。
【請求項9】
前記熱間成形用鋼板が、重量%で、Ni:3.0%未満を含むことを特徴とする請求項7に記載の熱間成形部材の製造方法。
【請求項10】
前記熱間成形用鋼板を用意する段階は、
スラブを1,000~1,300℃の温度範囲で再加熱する段階と、
前記再加熱したスラブをAr3超過1,000℃以下の温度範囲で仕上げ圧延して、熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板をMs超過850℃以下の温度範囲で巻き取る段階と、
前記巻き取った熱延鋼板を酸洗する段階と、を含むことを特徴とする請求項7に記載の熱間成形部材の製造方法。
【請求項11】
前記酸洗した熱延鋼板を30~80%の圧下率で圧延して、冷延鋼鈑を製造する段階と、
前記冷延鋼鈑を700~900℃の温度範囲で連続焼鈍する段階と、をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の熱間成形部材の製造方法。
【請求項12】
前記巻き取った熱延鋼板または酸洗した熱延鋼板を、500~850℃の温度範囲で1~100時間箱焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の熱間成形部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間成形用鋼板と、熱間成形部材およびその製造方法に係り、より詳しくは、耐衝突特性が要求される自動車用構造部材などでの使用に適している高強度および無メッキの熱間成形用鋼板と、熱間成形部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車乗客保護のための各種安全法規が強化されていると共に、環境に対する高い関心による燃費規制およびCO排出量に対する規制が強化されている。
これにより、自動車の燃費向上のために使用される素材の厚さを低減させることができるが、厚さを低減させた場合、自動車の安定性に問題が発生することがあり、必ず素材の強度向上が裏付けられなければならない。
素材の強度を高める作業は、降伏強度の上昇と共に伸び率の低下を招いて、それによる成形性の劣化を誘発する場合が大部分である。このため、多様な素材の研究を通じてDP(dual phase)鋼、TRIP鋼などの先端高強度鋼材(AHSS,Advanced High Strength Steel)が開発されて、実際に自動車部品に適用されており、このような鋼板は、従来の自動車用高強度鋼と比べて優れた成形性を有している。
【0003】
しかしながら、上記のとおり、素材の強度が高くなると、自動車部品を成形するに際してさらに高い成形力が要求されることになり、プレスの容量および荷重増大が要求される。また、高強度素材の成形に起因する金型寿命の短縮とそれによる生産性の低下がもたらされる。
1,000MPa級以上の超高強度特性の具現が可能なマルテンサイト鋼を自動車部材に適用した場合、車体軽量化には効果的であるが、組織特性に起因する成形性の低下によってマルテンサイト組織状態では製品化が困難である。
このようなマルテンサイト鋼を活用した製品化方法としては、成形性が良好な初期フェライト組織状態で冷間成形を行い、その後、高温での熱処理を通したオーステナイト形成および急冷で高強度マルテンサイト組織を確保する方法が挙げられる。しかしながら、上記の成形方法の場合、非閉じ込め状態での相変態に起因して形状凍結性が低下する問題がある。特にオーステナイトからマルテンサイトへの冷却過程中の相変態時にFCC→BCTの結晶構造の変化によって体積変化を伴い、これによる寸法精密度が低下するためさらなる寸法補正作業が要求される短所がある。
【0004】
このような問題を解決するために、最近では、熱間プレス成形法(Hot Press Forming、以下HPFという)または熱間成形(Hot Forming)と呼ばれる成形法が提案された。熱間プレス成形法は、鋼板を加工しやすいAc1以上の高温に加熱してオーステナイト単相を確保した後、プレス成形で鋼材の熱間成形を行い、以後、急冷(Quenching)することによりマルテンサイトなどの低温組織を形成させて、最終製品の強度を高める成形法である。このような熱間成形法を使用する場合、高強度の部材を製造するとき、加工性の問題を最小化できるという長所がある。
しかしながら、前記熱間プレス成形法による場合、鋼板を高温で加熱しなければならないので、鋼板の表面が酸化し、プレス成形後に鋼板表面の酸化物を除去する過程を追加しなければならないという問題があった。
【0005】
このような問題点を解決するための方法として、特許文献1の発明が提案されている。特許文献1には、Al-Siメッキを実施した鋼板を850℃以上に加熱後、熱間プレス成形して、素材の組織をマルテンサイトで形成させるが、アルミニウムメッキ層が鋼板の表面に存在するので、加熱時に鋼板が酸化しない。アルミニウムメッキ鋼板を活用して熱間プレス成形時に、1,000MPa以上の超高強度製品を容易に得ることができるだけでなく、寸法精密度も非常に優れた成形製品を確保できるので、自動車軽量化や剛性の改善に非常に効果的な部品成形法として脚光を浴びている。
しかしながら、最近、アルミニウムメッキ鋼板を活用した熱間プレス成形法は、成形工程および以後に他部材間の接合/溶接工程時にいくつかの問題点が台頭している。
【0006】
その一つとして、特許文献2によれば、メッキ層は、アルミニウムを主相とするので、ブランク(blank)を加熱炉で加熱時に、メッキ層の融点以上でアルミニウムが液状化して、加熱炉のロールに融着したり、応力により部分的に剥離が発生することがあるという問題点を有する。
また、特許文献3によれば、熱間プレス成形された部材は、2つ以上の部材が接着剤により接着されて使用される場合があり、このような場合には、十分な接着強度が維持される必要がある。接着強度を確認するために、接着面に垂直な方向に引張応力を加えて、接着部が高強度にも容易に維持されるかを判断する試験法がたびたび使用される。この際、メッキ層の内部またはメッキ層と素地鋼板との間の界面などでメッキ層が剥離する場合がたびたび発生し、このような場合には、低い応力でも2つの部材が分離してしまう問題が発生する。
【0007】
また、特許文献4によれば、車両の軽量化のために厚さの異なる板材を予備接合して部品化するテーラ・ウェルド・ブランク(TWB)も、熱間プレス成形における主要な素材として活用されている。このようなTWBは、主にレーザー接合方式によって製作されるが、素材の表面状態および元素材の強度組み合わせが特性に大きく影響を及ぼすことが知られている。しかしながら、アルミニウム溶融メッキ鋼材の場合、熱処理後にプレス成形による変形を受けるとき、溶接部が破損する現象が観察され、これは、TWB予備素材のレーザー溶接時に表面被膜のアルミニウムが溶接部内に浸透して、熱処理後にフェライト相を溶接部に残存させることによって、溶接部を脆化させることが知られている。これを克服するために、アルミニウム溶融メッキ鋼板のレーザー溶接前に表面被膜を除去させるさらなる工程が必要であることが提示されている。
上記のとおり、マルテンサイト鋼の熱間プレス成形のための加熱時に、酸化防止のためにアルミニウムメッキが必須であるが、それによって発生する様々な問題点の改善技術の開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第6,296,805号明細書
【文献】韓国登録特許第10-1696121号公報
【文献】韓国公開特許第10-2018-0131943号公報
【文献】韓国公開特許第10-2015-0075277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解消するためになされたものであって、メッキ層がなくても、熱間プレス成形時に表面酸化が防止されると同時に、超高強度を有する熱間成形用鋼板と、熱間成形部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施例による熱間成形用鋼板は、重量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.5~3.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:3.0~9.0%、N:0超過0.2%未満、Nb:0.03~1.0%、残部Feおよびその他不可避な不純物からなり、微細組織は、フェライト相および20体積%以下の炭窒化物を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施例によれば、前記フェライト相の平均結晶粒径が100μm以下であることがよい。
また、熱間成形用鋼板は、下記式(1)を満たすことができる。
(1)0.80*Si+0.57*Cr-3.53*C-1.45*Mn-1.9>0
【0012】
本発明の熱間成形用鋼板のCrの含有量は、3.5~5.5%であることがよい。
また、熱間成形用鋼板は、Ni:3.0%未満を含むことができる。
また、熱間成形用鋼板は、P:0.1%未満、S:0.01%未満を含むことができる。
【0013】
本発明の一実施例による熱間成形部材は、重量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.5~3.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:3.0~9.0%、N:0超過0.2%未満、Nb:0.03~1.0%、残部Feおよびその他不可避な不純物からなることを特徴とする。
上記熱間成形部材は、下記式(1)を満たすことができる。
(1)0.80*Si+0.57*Cr-3.53*C-1.45*Mn-1.9>0
【0014】
本発明の熱間成形部材は、表面から深さ0.1μmの地点で平均酸素含有量が20重量%以下であることが好ましい。
また、熱間成形部材は、降伏強度1,100MPa以上および引張強度1,500MPa以上であることがよい。
【0015】
熱間成形部材のCrの含有量は、3.5~5.5%であることがよい。
熱間成形部材は、Ni:3.0%未満を含むことができる。
また、熱間成形部材は、P:0.1%未満、S:0.01%未満を含むことができる。
【0016】
本発明の一実施例による熱間成形部材の製造方法は、重量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.5~3.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:3.0~9.0%、N:0超過0.2%未満、Nb:0.03~1.0%、残部Feおよびその他不可避な不純物からなる熱間成形用鋼板を用意する段階と、前記鋼板を1~1,000℃/秒の速度でAc3+50℃~Ac3+200℃の温度範囲まで加熱して1~1,000秒間維持する段階と、前記加熱および維持した鋼板を熱間成形し、1~1,000℃/秒の速度でMf以下の温度まで冷却する段階と、を含むことを特徴とする。
本発明の熱間成形用鋼板は、下記式(1)を満たすことができる。
(1)0.80*Si+0.57*Cr-3.53*C-1.45*Mn-1.9>0
【0017】
前記熱間成形用鋼板は、微細組織としてフェライト相および20体積%以下の炭窒化物を含み、前記フェライト相の平均結晶粒径が100μm以下であることが好ましい。
前記熱間成形用鋼板のCrの含有量は、3.5~5.5%であることがよい。
前記熱間成形用鋼板は、Ni:3.0%未満を含むことができる。
また、前記熱間成形用鋼板は、P:0.1%未満、S:0.01%未満を含むことができる。
【0018】
前記熱間成形用鋼板を用意する段階は、スラブを1,000~1,300℃の温度範囲で再加熱する段階と、前記再加熱したスラブをAr3超過1,000℃以下の温度範囲で仕上げ圧延して、熱延鋼板を製造する段階と、前記熱延鋼板をMs超過850℃以下の温度範囲で巻き取る段階と、前記巻き取った熱延鋼板を酸洗する段階と、を含むことができる。
また、前記熱間成形用鋼板を用意する段階は、酸洗した熱延鋼板を30~80%の圧下率で圧延して、冷延鋼鈑を製造する段階と、冷延鋼鈑を700~900℃の温度範囲で連続焼鈍する段階と、をさらに含むことができる。
また、本発明の前記巻き取った熱延鋼板または酸洗した熱延鋼板を、500~850℃の温度範囲で1~100時間箱焼鈍する段階と、をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施例による熱間成形用鋼板および熱間成形部材は、合金成分の制御による耐酸化性の改善を通じて熱間プレス成形時に表面酸化が抑制され、したがって、従来のアルミニウムメッキの省略が可能である。
また、アルミニウムメッキ鋼材の適用時に発生しうる熱間プレス成形工程および他部材間の接合/溶接工程での問題点を解決できる。
更に、従来のアルミニウムメッキ鋼材と同等レベルの高強度物性の具現が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施例による熱間成形用鋼板の微細組織を示す電子顕微鏡写真である。
図2】ミニバンパー金型で熱間成形時に成形性良好(a)、成形性不良(b)の例示を示す写真である。
図3】板状金型で熱間成形された実施例および比較例試験片の引張試験結果を示すグラフである。
図4】本発明の実施例の熱間成形用鋼板の成形前の微細組織を示す電子顕微鏡写真である。
図5】本発明の比較例の熱間成形用鋼板の成形前の微細組織を示す電子顕微鏡写真である。
図6】ミニバンパー金型で熱間成形された耐酸化性良好実施例の表面から深さによるGDS分析を示すグラフである。
図7】ミニバンパー金型で熱間成形された耐酸化性劣位比較例の表面から深さによるGDS分析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施例による熱間成形用鋼板は、重量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.5~3.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:3.0~9.0%、N:0超過0.2%未満、Nb:0.03~1.0%、残部Feおよびその他不可避な不純物からなり、微細組織は、フェライト相および20体積%以下の炭窒化物を含む。
【0022】
以下では、本発明の実施例を添付の図面を参照して詳細に説明する。
以下の実施例は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例のみに限定されず、他の形態で具体化されることもできる。図面は、本発明を明確にするために説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素の大きさを多少誇張して表現することができる。
熱間成形工程および接合/溶接工程で発生する上記の問題点は全部メッキ層の存在に起因する。本発明者らは、同等レベルの高強度物性を確保しながらも、メッキ層なしで表面酸化を抑制し、成形部材の製造に適した優れた成形性を有するように、Cr、Si、Mnなどの合金元素を最適設計した。
【0023】
本発明の一実施例による熱間成形用鋼板および熱間成形部材は、重量%で、C:0.05~0.3%、Si:0.5~3.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:3.0~9.0%、N:0超過0.2%未満、Nb:0.03~1.0%、残部Feおよびその他不可避な不純物からなる。
以下、本発明の実施例における合金成分含有量の数値限定理由について説明する。以下では、特別な言及がない限り、単位は重量%である。
【0024】
Cの含有量は、0.05~0.3%である。
Cは、オーステナイト相安定化元素であり、固溶強化による高強度物性の具現に効果的な元素である。しかし、過剰添加時に微細組織内の炭化物の生成量の増大に起因して加工性を低下させるだけでなく、溶接部および熱影響部の物理的、機械的特性(軟性、靭性、耐食性)などを低下させる問題を誘発させる虞があるので、上限を0.3%に制限する。また、上記のとおり、オーステナイト相安定性の確保および最終目標とする機械的特性を確保するためには、0.05%以上の添加が必要である。好ましくは、高強度の確保のために0.15%以上添加できるが、Nの添加により高強度物性の具現の補完が可能であり、Cr炭化物の生成は、耐酸化性を劣化させるので、必ずしも0.15%以上添加する必要はない。
【0025】
Siの含有量は、0.5~3.0%である。
Siは、製鋼工程中に脱酸剤の役割をすると同時に、耐食性および耐酸化性を向上させるのに効果的であり、0.5%以上の添加時にその特性が有効となる。しかしながら、Siは、フェライト相安定化に効果的な元素であって、過剰添加時に鋳造スラブ内デルタフェライト(δ-ferrite)の形成を促進して、熱間加工性を低下させるだけでなく、固溶強化効果による鋼材の軟性、靭性を低下させる。そのため、上限を3.0%にする。好ましくは、1.0~2.0%の範囲で添加する。
【0026】
Mnの含有量は、0.1~2.0%である。
Mnは、オーステナイト相安定化に効果的な元素であって、熱処理時に高温でのオーステナイト相を確保するために必須であり、0.1%以上の添加を要する。しかしながら、過剰添加時にS系介在物(MnS)の増加をもたらして、鋼材の軟性、靭性および耐食性の低下を招くだけでなく、オーステナイト組織の形成のための酸化雰囲気での高温熱処理時に、鋼材の表面にMnOの生成の増加による耐酸化性の劣化を招く虞がある。そのため、その上限を2.0%に制限する。
【0027】
Crの含有量は、3.0~9.0%である。
Crは、フェライト安定化元素であり、耐食性および耐酸化性を改善させるのに効果的であり、3.0%以上の添加時にその特性が有効である。しかしながら、過剰添加するとフェライトの安定性が増加し、Ac1の上昇を招いて、鋼材の熱処理時にオーステナイト相の確保が難しくなるため、その上限を9.0%に制限する。熱間成形性および経済性を考慮して、3.5~7.0%が好ましく、より好ましくは、3.5~5.5%の範囲である。
【0028】
Nの含有量は、0超過0.2%未満である。
Nは、オーステナイト相安定化元素であり、固溶強化により高強度物性の具現化に効果的な元素である。Ni、Mnのさらに低い使用を可能にすることによって、素材費用の上昇を抑制させることができる。しかしながら、Nの過剰添加は、微細組織内多量の窒化物が生成されて、加工性を低下させるだけでなく、一定水準以上のNが添加された場合、鋳造後の冷却過程でのデルタフェライト(δ-ferrite)の生成に起因する局部的窒素ピンホール(pin hole)が形成されて、品質劣化を誘発する虞がある。そのため、その上限を0.2%に制限する。
【0029】
Nbの含有量は、0.03~1.0%である。
Nbは、高温でNb(C、N)の炭窒化物を形成して、熱処理時に結晶粒の粗大化を防止するのに効果的であり、0.03%以上の添加時にその特性が有効である。このような結晶粒微細化は、鋼材の高温成形時に加工性の改善だけでなく、衝撃特性を向上させるのに効果的である。しかしながら、過剰添加時にはNb(C、N)の炭窒化物が多量に生成して固溶CおよびN含有量を低減させ、最終目標とする機械的物性の確保が困難になる。そのため、その上限を1.0%に制限する。好ましくは、0.3%以下である。
【0030】
Niの含有量は、3.0%未満である。
Niは、強力なオーステナイト相の安定化元素として活用され得るが、高い原料コストによって価格上昇を招く。Nbは本発明には必須なものではない。しかしながら、規定された限界である最大値3.0%以内のNiが添加された場合、高温でのオーステナイト相を確保するにあたって有利になる。しかしながら、3.0%以上添加された場合、熱処理後に冷却組織で残留オーステナイトの過度な生成を誘き、強度の低下を招く虞がある。そのため、上限を3.0%未満に制限する。
【0031】
Pの含有量は、0.1%未満である。
Pは、耐食性や熱間加工性を低下させるので、その上限を0.1%未満に制限する。
【0032】
Sの含有量は、0.01%未満である。
Sは、耐食性や熱間加工性を低下させるので、その上限を0.01%未満に制限する。
【0033】
本発明の残部の成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入され、これを排除することはできない。前記不純物は、通常の製造過程の技術者なら誰でも知るところであるので、すべての内容を特に本明細書で言及しない。
【0034】
本発明の熱間成形用鋼板は、微細組織としてフェライト相と20体積%以下の炭窒化物を含む。熱間成形、例えば熱間プレス成形(HPF)時に表面のクラックまたは破裂現象を防止するためには、良好な熱間成形性が要求されるが、このためには、フェライト相の結晶粒径を微細化する必要がある。
【0035】
本発明の一実施例による熱間成形用鋼板は、フェライト相の平均結晶粒径が100μm以下であることがよい。本発明では、合金成分の配合によってフェライト相の平均結晶粒径を制御しようとした。上記のとおり、Nbの添加は、炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、高温での結晶粒の粗大化を防止するので、Nbの添加は必須である。Nbと炭窒化物を形成するC、Nの含有量の範囲も、平均結晶粒径の制御に重要である。Crも、その含有量が3.0%未満と過度に低い場合、結晶粒が粗大化して、成形性が低下する。後述するように、熱間成形用鋼板は、箱焼鈍が行われた熱延鋼板であってもよく、連続焼鈍が行われた冷延鋼鈑であってもよく、焼鈍なしで酸洗した熱延鋼板であってもよい。一般的に、焼鈍によって熱間成形に提供される鋼板の結晶粒径を制御できるが、本発明の合金成分の配合範囲を満たす場合、焼鈍の実行の可否と関係なく、熱間成形時に良好な成形性を示すことができる。
【0036】
また、本発明の一実施例によれば、熱間成形用鋼板は、下記式(1)を満たすことができる。
(1)0.80*Si+0.57*Cr-3.53*C-1.45*Mn-1.9>0
【0037】
本発明は、メッキ層が存在しなくても、Si、Cr、C、Mnの含有量を式(1)を満たすように制御することによって、優れた耐酸化性を示すことができる。熱間成形部材の耐酸化性には、Cr、Siなどの酸化抑制元素の含有量が最も大きく影響を及ぼすが、これだけでなく、析出物および酸化物の形成を促進させるC、Mnなどの含有量にも敏感に反応することから、前記式(1)を導き出した。Cr、Siの含有量が低い場合、表層部に緻密なCr、Si酸化物の形成が抑制され、厚いFe酸化物が形成される現象が発生する。また、Cの多量添加の場合にも、Cr炭化物生成の増加によって基地内Cr含有量が低減されて、Fe酸化物の形成を誘発する。また、Mnが局部的に多量添加された場合、Mn酸化物が形成されて、表面の耐酸化性が低下する。
このように多様な合金元素の影響から、熱間成形時に表層部の酸化挙動が敏感に変化する。このような表層部の耐酸化品質を定義することが重要であり、本発明の一実施例による熱間成形部材は、表面から深さ0.1μmの地点で平均酸素含有量が20重量%以下であってもよい。
【0038】
次に、熱間成形用鋼板および熱間成形部材の製造方法について説明する。
まず、熱間成形用鋼板の製造は、通常の製造工程によって冷延鋼鈑または酸洗した熱延鋼板を製造することができ、特別な製造条件に制限されない。熱間成形用鋼板の製造方法の一例を記述すると、次のとおりである。
上記の合金成分系を含むインゴットまたはスラブを1,000~1,300℃の温度範囲で加熱した後、熱間圧延を実施する。加熱温度1,000℃未満では、スラブ組織の均質化が難しく、1,300℃を超過すると、過多な酸化層の形成および製造費用の上昇が発生する虞がある。
引き続いて、熱間仕上げ圧延をAr3超過1,000℃以下の温度範囲で実施する。仕上げ圧延温度がAr3以下では、二相域圧延になりやすくて、表層混粒組織および板形成の制御に困難が発生する虞がある。1,000℃を超過すると、熱延結晶粒の粗大化が発生しやすい。
【0039】
熱間圧延した鋼板は、Ms超過850℃以下の温度範囲でコイル状に巻き取られる。巻き取り温度がMs以下では熱延材の強度があまり高いため、以後に冷間圧延を行うことが困難になる。850℃超過で巻き取ると、酸化層の厚さが過度に増加して、表面酸洗が難しくなる問題が発生する。
熱延鋼板は、酸洗後直ちに熱間成形することができる。なお、より精密な鋼板厚さの制御のために、酸洗および冷間圧延を実施することが好ましい。酸洗後、冷間圧下率は、強く限定しないが、所定の目標厚さを得るために、30~80%の圧下率で冷間圧延することができる。ここで、冷間圧延の圧延負荷を減らすために、必要に応じて熱延鋼板またはあらかじめ酸洗した熱延鋼板に対して箱焼鈍を実施することもできる。この際、箱焼鈍の条件は、強く限定しないが、熱延鋼板の強度を低減するために、500~850℃で1~100時間実施することができる。
冷間圧延した冷延鋼鈑は、連続焼鈍を実施することができる。連続焼鈍熱処理工程については、強く限定しないが、700~900℃の温度範囲で実施することが好ましい。
【0040】
次に、上記のように製造された熱延鋼板または冷然焼鈍鋼板を熱間成形して、熱間成形部材を製造することができる。
用意した熱間成形用鋼板を1~1,000℃/秒の速度でAc3+50℃~Ac3+200℃の温度範囲まで加熱する。昇温速度が1℃/秒未満では、十分な生産性を確保しにくい。また、過多な加熱時間になると結晶粒径があまり大きくなって、衝撃靭性を低下させるだけでなく、成形部材の表面に過多な酸化物が形成されて、スポット溶接性を低下させる。さらに昇温速度が1,000℃/秒を超過するには、高費用の設備を必要とする。
【0041】
引き続いて、Ac3+50℃~Ac3+200℃の加熱温度の範囲で1~1,000秒間維持することが好ましい。加熱温度がAc3+50℃未満では、ブランク(blank)を加熱炉から金型に移送途中にフェライトが生成される可能性が高く、所定の強度を確保しにくい。加熱温度がAc3+200℃を超過すると、成形部材の表面に過多な酸化物が生成し、以後のスポット溶接性および塗装性の確保が難しくなる。
熱間成形部材は、熱間成形と同時にMf以下の温度まで冷却し、この際、冷却速度は、1~1,000℃/秒に制御することが好ましい。冷却速度が1℃/秒未満では、所望しないフェライトが形成されて、引張強度1,500MPa以上を確保しにくくなる。他方、1,000℃/秒を超過を実現するためには、高価な特別な冷却設備が必要である。
【0042】
以下、本発明の好ましい実施例に基づいてより詳細に説明する。
実施例
次の表1に記載した合金組成を有するインゴット材を溶解し、1,180℃加熱炉で2時間の間加熱した後、熱間圧延して、最終厚さ3mmの熱延鋼板を製造した。引き続いて、熱延鋼板は、冷間圧延のために酸洗し、圧下率60%で冷間圧延を実施した後、760℃で焼鈍して、熱間成形用鋼板を製造した。
【0043】
【表1】
【0044】
図1は、本発明の一実施例による熱間成形用鋼板の微細組織を示す電子顕微鏡写真である。図1に示したとおり、冷然焼鈍した熱間成形用鋼板の微細組織は、フェライト基地組織内に20体積%以下の炭窒化物で構成されることを確認できる。
【0045】
上記のように製造された熱間成形用鋼板を利用して熱間成形を実施し、この際の熱処理条件を次の表2に示した。あらかじめ950℃に加熱した加熱炉に熱間成形用鋼板を装入し、5.5分間維持し、12秒間空冷後に金型で熱間成形し、30℃/秒以上の冷却速度で常温まで急冷した。
熱間成形部材を形成するための金型は2つを活用した。第一に活用した金型は、熱間成形後に物性評価のための引張試験を行うために、板状金型で成形部材を製造し、第二の金型は、成形性および耐酸化性を評価するために、ミニバンパー金型で製造した。
板状金型で成形された部材からJIS 13 B規格の引張試験片を採取して引張試験を実施し、その結果を表2に示した。また、同じ熱間成形熱処理条件を適用して、ミニバンパー金型で成形された部材の成形性および耐酸化性を評価し、表2に示した。
【0046】
図2は、ミニバンパー金型で熱間成形時に、成形性良好(a)、成形性不良(b)の例示を示す写真である。図2の(b)のとおり、熱間成形時に、一部の比較例の場合、表面にクラックまたは破裂現象が発生し、これを表2に「不良」で表示した。他方では、図2の(a)のように良好な成形品質を示した場合、「良好」で表示した。
ミニバンパー金型で熱間成形された部材の耐酸化性は、表面に局部的に過度な酸化スケールが発生したか否かによって区分し、表面酸化が抑制された場合、「良好」で表示し、局部的に過度な酸化スケールが発生した場合、「劣位」で表示した。
【0047】
【表2】
【0048】
図3は、板状金型で熱間成形された実施例および比較例試験片のJIS 13 B規格の引張試験結果を示すグラフである。実施例および比較例に対するすべての引張試験曲線を比較したとき、最大強度を示す前に破断が発生する試験片はないことが確認され、図3に示したとおり、最大引張強度を示した後に破断に達することが確認された。
本結果と関連して、アルミニウムメッキ熱間成形部材の耐水素遅れ破壊特性を判断する方法で鋼板内の水素含有量を測定することが知られている。前記特許文献2によれば、引張曲線で最大強度を示す前に破断が発生する現象が観察され、これは、鋼板内高い水素含有量によって引張試験で正常破断を示さないという結果が記載されている。すなわち引張試験による引張曲線の結果を通じて、耐水素遅れ破壊特性を類推できることを意味し、本発明の合金成分系の組成範囲で製造された熱間成形部材の場合、最大引張強度を示した後に破断に達する引張挙動を示すところ、耐水素遅れ破壊特性に優れていることが確認された。
【0049】
表2に示した熱間成形部材の成形性を評価したとき、成形品質に最も大きく影響を及ぼす因子は、熱間成形用鋼板の結晶粒径であることが確認された。すなわち表2の成形性「不良」で表示された鋼種は、大部分Cの含有量が低かったり、Nbなどの結晶粒微細化元素が添加されておらず、これは、微細組織の観察によりさらに明確に示された。図4および図5は、それぞれ実施例と比較例の熱間成形用鋼板の成形前の微細組織を示した電子顕微鏡写真である。図4は、実施例2の熱間成形前の微細組織写真であり、図5は、比較例1の熱間成形前の微細組織写真である。成形性「不良」で表示された鋼種は、図5のとおり、熱間成形前のフェライト結晶粒径が100μm以上と粗大であることが確認された。このような結果から、最終熱間成形部材の良好な成形性の確保のためには、微細組織内フェライト平均結晶粒径を100μm以下に制御しなければならないことが分かった。
なお、熱間成形部材の耐酸化性は、上記のとおり、酸化抑制元素であるCr、Siと析出物および酸化物形成元素であるC、Mnの含有量が式(1)を満たすとき、優れていることを表2から確認できる。
【0050】
熱間成形時に表層部の耐酸化品質は、目視で観察される耐酸化性良好材および劣位材に対するGDS(Glow Discharge Spectrometer)分析結果によって区分し、その代表的な結果を図6および図7に示した。
図6および図7は、ミニバンパー金型で熱間成形された耐酸化性良好実施例と耐酸化性劣位比較例の表面から深さによるGDS分析を示したグラフである。
GDSを通じて表面から厚さ方向に深さによる合金成分の含有量を分析した結果、耐酸化性良好材と劣位材の深さによる酸素含有量の差異が明確に観察された。図7の耐酸化性が劣位にある比較例は、表面から深さ0.1μmの地点で平均酸素含有量が20重量%を超過するのに対し、図6の耐酸化性が良好な実施例の場合、表面から深さ0.1μmの地点で平均酸素含有量が約2~3重量%と低いことを確認できた。このような結果から、最終熱間成形部材の良好な耐酸化性の確保のためには、表面から深さ0.1μmの地点で平均酸素含有量が20重量%以下に制御しなければならないことが分かった。
【0051】
表2の比較例および実施例を具体的に説明すると、次のとおりである。
比較例1~9は、Nbの無添加によって熱間成形前に結晶粒微細化が行われなかったので、成形性が不良であり、そのうち、比較例3~5は、式(1)が負の値を示して、耐酸化性も劣位になった。ただし、比較例6、7の場合には、耐酸化性に有用なAlが0.5%以上添加されて、式(1)が負の値であるにもかかわらず、耐酸化性が改善された。
比較例10は、Nbが添加されたにもかかわらず、高いCr含有量によって成形性が不良であり、Si含有量が低いが、Cr含有量が高くて、式(1)を満たすところ、耐酸化性は良好であることが認められた。
比較例10~15は、Cの含有量が本発明の範囲内であるが、やや低く、そのため、降伏強度および引張強度がそれぞれ1,100MPaおよび1,500Mpaに達しないことを確認できた。ただし、比較例10は、N含有量が0.05%と高くて、目標とする強度に近接した結果を示し、これから、Nの添加によって高強度物性の具現の補完が可能であることが確認できた。
【0052】
比較例16および17は、Nbが添加されなかったにもかかわらず、成形性が良好に示されたが、これは、やや高いC含有量によってCr炭化物が多量生成されて、耐酸化性がさらに劣位になったが、かえって酸化スケールによって成形性が良好になった結果と判断された。
比較例18~23は、いずれも、Sbがさらに添加された鋼種である。Sbは、熱間成形温度950℃で酸化して、成形部材の表面に灰のような形態のスケールで存在し、これは、比較例18~20が式(1)を満たすにもかかわらず、耐酸化性を劣位にした。
比較例21~23は、Nbが添加されたにもかかわらず、成形性が不良であったが、低いCr含有量によって結晶粒径が粗大になって、成形性に不利に作用したことを確認した。
【0053】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野における通常の知識を有する者なら、下記に記載する請求範囲の概念と範囲を逸脱しない範囲内で多様な変更および変形が可能であることを理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明による熱間成形用鋼板は、メッキ層がなくても、熱間プレス成形時に表面酸化が防止されると同時に、超高強度を確保することができ、自動車用構造部材に適用が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7