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特許7461469CLDN18.2を標的とする抗体及びその製造方法並びに使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】CLDN18.2を標的とする抗体及びその製造方法並びに使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240327BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240327BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240327BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240327BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240327BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240327BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240327BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240327BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240327BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240327BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240327BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240327BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240327BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240327BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240327BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240327BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20240327BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/28
C07K19/00
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
A61K47/68
A61K45/00
A61P43/00 121
G01N33/53 D
C12N5/0783
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022520345
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 CN2020118650
(87)【国際公開番号】W WO2021063336
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】201910941316.3
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522127793
【氏名又は名称】▲諾▼▲納▼生物(▲蘇▼州)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲鄭▼ 明晋
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ ▲偉▼
(72)【発明者】
【氏名】王 杰利
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109762067(CN,A)
【文献】特表2009-517354(JP,A)
【文献】特表2017-522024(JP,A)
【文献】特表2018-513146(JP,A)
【文献】国際公開第2019/174617(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/173420(WO,A1)
【文献】J. Natl. Cancer Inst.,2019年04月01日,Vol.111, No.4,pp.409-418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
Google/Google Scholar
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域はHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域はLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、
前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号7に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号17に示すとおりであり、前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号27に示すとおりであり、且つ前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号41に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号48に示すとおりであり、前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号56に示すとおりである、又は
前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号8に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号18に示すとおりであり、前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号28に示すとおりであり、且つ前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号42に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号47に示すとおりであり、前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号57に示すとおりである、又は
前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号8に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号16に示すとおりであり、前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号29に示すとおりであり、且つ前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号42に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号47に示すとおりであり、前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号55もしくは58に示すとおりである、又は
前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号8に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号19に示すとおりであり、前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号28に示すとおりであり、且つ前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号42に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号47に示すとおりであり、前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号57に示すとおりであることを特徴とするCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
前記重鎖可変領域は配列番号64に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖可変領域は配列番号71に示すアミノ酸配列を含む、又は
前記重鎖可変領域は配列番号67に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖可変領域は配列番号73に示すアミノ酸配列を含む、又は
前記重鎖可変領域は配列番号65に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖可変領域は配列番号72に示すアミノ酸配列を含む、又は
前記重鎖可変領域は配列番号68に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖可変領域は配列番号74に示すアミノ酸配列を含む、又は、
前記重鎖可変領域は配列番号66に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖可変領域は配列番号72に示すアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1に記載のCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
前記CLDN18.2を標的とする抗体は全長抗体、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、scFv、二重特異性抗体、又は多重特異性抗体であることを特徴とする請求項1に記載のCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
前記全長抗体は重鎖と軽鎖とを含み、
前記重鎖は配列番号77に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号93に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号78に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号94に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号79に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号93に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号85に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号93に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号83に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号93に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号84に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号93に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号81に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号95に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号82に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号96に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号80に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号94に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号86に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号95に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号87に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号96に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号88に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号94に示すアミノ酸配列を含む、
前記重鎖は配列番号89に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号95に示すアミノ酸配列を含む、又は、
前記重鎖は配列番号90に示すアミノ酸配列を含み、且つ前記軽鎖は配列番号96に示すアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項3に記載のCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする、分離された核酸。
【請求項6】
請求項5に記載の分離された核酸を含む組換え発現ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の組換え発現ベクターを含む宿主細胞である、形質転換体。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメントを含むキメラ抗原受容体。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメントを含む、遺伝子修飾細胞。
【請求項10】
前記遺伝子修飾細胞はT細胞又はNK細胞である、請求項9に記載の遺伝子修飾細胞。
【請求項11】
請求項7に記載の形質転換体を培養し、培養物からCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメントを得ることを含むCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメントの製造方法。
【請求項12】
細胞毒性剤と、請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメントとを含む、抗体-薬物複合体。
【請求項13】
前記細胞毒性剤はMMAF又はMMAEである、請求項12に記載の抗体-薬物複合体。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2を標的とする抗体もしくはその抗原結合フラグメント、及び/又は請求項12もしくは13に記載の抗体-薬物複合体と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項15】
ホルモン製剤、標的化小分子製剤、プロテアソーム阻害剤、造影剤、診断剤、化学療法薬、腫瘍溶解薬、細胞毒性剤、サイトカイン、共刺激分子活性化剤、抑制性分子阻害剤及びワクチンからなる群のうちの1種又は複数種をさらに含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
腫瘍の診断、予防及び/又は治療における使用のための、請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2を標的とする抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項12もしくは13に記載の抗体-薬物複合体、及び/又は請求項14もしくは15に記載の医薬組成物であって、前記腫瘍は、CLDN18.2陽性腫瘍である、抗体もしくはその抗原結合フラグメント、抗体-薬物複合体、及び/又は医薬組成物。
【請求項17】
前記腫瘍は、胃がん、食道がん、肺がん、卵巣がん、黒色腫、腎臓がん、乳がん、結腸直腸がん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がん、頭頸部がん、気管支がん、神経膠腫及び/又は白血病である、請求項16に記載の使用のための請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2を標的とする抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項12もしくは13に記載の抗体-薬物複合体、及び/又は請求項14もしくは15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2を標的とする抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項8に記載のキメラ抗原受容体、請求項9もしくは10に記載の遺伝子修飾細胞、請求項12もしくは13に記載の抗体-薬物複合体、又は請求項14もしくは15に記載の医薬組成物を含む、キット。
【請求項19】
(i)抗体もしくはその抗原結合フラグメント又は抗体-薬物複合体又は医薬組成物の投与装置、及び/又は(ii)取扱説明書をさらに含む、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2を標的とする抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項8に記載のキメラ抗原受容体、請求項9もしくは10に記載の遺伝子修飾細胞、請求項12もしくは13に記載の抗体-薬物複合体、及び/又は請求項14もしくは15に記載の医薬組成物を含むキットAと、
他の抗腫瘍抗体もしくは前記他の抗腫瘍抗体を含む医薬組成物、及び/又はホルモン製剤、標的化小分子製剤、プロテアソーム阻害剤、造影剤、診断剤、化学療法薬、腫瘍溶解薬、細胞毒性剤、サイトカイン、共刺激分子活性化剤、抑制性分子阻害剤及びワクチンからなる群のうちの1種又は複数種を含むキットBとを含む組み合わせのキット。
【請求項21】
請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2を標的とする抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項8に記載のキメラ抗原受容体、請求項12もしくは13に記載の抗体-薬物複合体、又は請求項14もしくは15に記載の医薬組成物を使用するステップを含むCLDN18.2を免疫学的に検出又は測定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願には出願日が2019年9月30日の中国特許出願第2019109413163号の優先権が主張され、前記中国特許出願の全文が引用される。
【0002】
本発明は、バイオ医薬品分野に関し、特に、CLDN18.2を標的とする抗体及びその製造方法並びに使用に関する。
【背景技術】
【0003】
今やがんは人類にとって最も致命的な疾患の1つである。2018年世界保健機関(WHO)の報告によると、毎年の新規がん症例は約1807万例である。毎年がんのため死亡したのは約955万例である。WHOの推定によると、胃がんは世界で5番目に多く診断されるがんである。また胃がんはがん関連の死亡で男性に3番目に多く、女性に4番目に多い。世界で毎年胃がんと新規に診断される患者は100万で、米国で初めて胃がんと診断される患者のうち約35%は転移性胃がんである。晩期胃がんと確診される患者の5年生存率は5%で、生存期間の中央値は約6ヶ月である。転移性/再発性胃がん患者の治療の第一選択薬は次の2種である。(1)HER2-neu陽性症例の場合は、トラスツズマブ(Transtuzumab)と化学療法薬を組み合わせて治療する。(2)HER2-neu陰性症例の場合は、化学療法薬でのみ治療するが、治療効果は満足できなかった(Front Pharmacol.2018 Sep 13;9:404)。
【0004】
CLDN18(クローディン18、Claudin18)分子スプライスバリアント1(CLD18A1、即ちCLDN18.1)のGenbankアクセッション番号はNP_057453、NM016369で、スプライスバリアント2(CLD18A2、即ちCLDN18.2)のGenbankアクセッション番号はNM_001002026、NP_001002026)であり、分子量が約27.9/27.72kDの内因性膜貫通型タンパク質である。クローディンは上皮と内皮の密着結合に位置する内因性膜タンパク質である。他に主な密着結合ファミリータンパク質はオクルディン(occludin)と接合接着分子(JAM)の2つである。クローディンは密着結合に欠かせない成分で、上皮細胞の極性を維持し、傍細胞輸送を制御し、細胞の成長と分化を調節する上で重要な役割を果たす。クローディンは構造が整っている上皮では殆ど抗体に近づけないが、腫瘍細胞では露出すると推定される。クローディン分子は細胞膜を4回通過し、N末端とC末端の両方が細胞質に着地している。そのうち、ヒトCLDN18.2(クローディン18.2、Claudin 18.2)タンパク質は全長261アミノ酸の膜貫通型タンパク質で、そのうち1~23番目はシグナルペプチドであり、シグナルペプチド後方の約55アミノ酸の細胞外ループ1(Extracellular loop 1、ECL1)と23アミノ酸のECL2の2つの膜外領域を有する。CLDN18.1(クローディン18.1、Claudin 18.1)とCLDN18.2は最初のTMとループ1(即ちECL1)を含むN末端の最初の21のアミノ酸に違いがあるが、C末端の一次タンパク質配列は同じである。ヒトCLDN18.2とヒトCLDN18.1のECL1領域は非常に類似しており、しかもヒトCLDN18.2とヒトCLDN18.1のECL2領域は全く同じである。したがって、ヒトCLDN18.2タンパク質を標的とする抗体の開発には、ヒトCLDN18.2タンパク質のECL1領域又は空間構造に対する抗体を見つける必要がある。これによってその方の作業は難しくなる。CLDN18.1は正常な肺と胃の上皮において選択的に発現される(Mol Cell Biol.2001 Nov;21(21):7380~90.)。CLDN18.2は正常な組織での発現が胃上皮の分化細胞と高度に限定されており、胃幹細胞領域には存在しない。しかし、胃、食道、膵臓、肺の腫瘍とヒトのがん細胞株など、いくつかの種類のがんでは高度な発現が認められる。当該タンパク質の分子量はいくつかのがんと隣接する正常な組織とで異なる。健常な組織で観察された高分子量のタンパク質は脱グリコシル化合物PNGaseFによって組織溶解物を処理することによりがんで観察されるのと同じ分子量に変換することができる。これは正常な組織での対応する物質と比べて、がんではクローディンのN-グリコシル化が少ないことを示唆している。このような構造の違いにより、変化したエピトープが生成される可能性が高い。標準的なN-グリコシル化モチーフは当該分子のループD3ドメインの116位アミノ酸に位置する(CN103509110B)。
【0005】
今や、ヒトCLDN18.2抗体に関する研究で臨床試験段階に来ているのはクラウジキシマブ(Claudiximab、IMAB362)抗体だけである(WO2014/146672参照)。IMAB362はADCC(antibody-dependentcell-mediated cytotoxicity、抗体依存-細胞媒介細胞傷害)効果、CDC(complement dependent cytotoxicity、補体依存性細胞傷害)効果を誘発し、腫瘍の殺傷を媒介することができる。IMAB362は晩期胃・食道がんの治療のための第I相及び第II相臨床試験で喜ばしい結果を示している(Eur J Cancer.2018 Sep;100:17~26)。しかし、IMAB362はヒト-マウスキメラ抗体で、免疫原性のリスクがあり、親和性は不十分である。細胞学的実験により、内在化活性が弱く、ADCの開発には適さず、しかも治療効果は非常に限定的であることが示されている。悪性腫瘍に関してなおも多くの事項が実現されていないため、望ましい薬理学的特性を備えている他のCLDN18.2抗体はなおも必要である。当技術分野では効果的にヒトCLDN18.2タンパク質を標的とする抗体、特に完全ヒト抗体や、細胞結合活性、ADCC活性、CDC活性、成長阻害効果、内在化活性などがより優れた抗体が欠如すると言える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする技術的課題は本分野ではCLDN18.2を標的とする抗体が欠如するという欠点を克服するために、CLDN18.2(ヒトクローディン18.2)を標的とする抗体及びその製造方法並びに使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的課題を解決するための本発明の第1態様は、軽鎖可変領域(VL)及び/又は重鎖可変領域(VH)を含みCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメントを提供し、前記重鎖可変領域はHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域はLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含み、前記HCDR1は配列番号8に示すアミノ酸配列又はそのバリアント1を含み、前記HCDR2は配列番号16及びそのバリアント2、配列番号18及びそのバリアント3から選ばれるアミノ酸配列を含み、前記HCDR3は配列番号26~29のいずれか一つに示すアミノ酸配列を含み、前記LCDR1は配列番号42に示す配列又はそのバリアント4を含み、前記LCDR2は配列番号47に示す配列又はそのバリアント5を含み、前記LCDR3は配列番号55に示す配列又はそのバリアント6を含み、前記バリアントとは初期配列に1つ、2つ又は3つのアミノ酸が置換、欠失又は追加されたものであり、前記バリアントを含む抗体又は抗原結合フラグメントにはCLDN18.2との結合能が保持されている。
【0008】
「3つ、2つ又は1つのアミノ酸変異を有する」又は類似する文脈において、「アミノ酸変異」とは初期のアミノ酸配列と比べて、バリアントの配列にアミノ酸の変異が存在することを指し、それは初期のアミノ酸配列にアミノ酸の挿入、削除又は置換が起こったものを含む。例示的には、3つ、2つ又は1つのアミノ酸の変異を含んでもよいCDRの変異と理解され、これらのCDRには任意選択で同じ又は異なる数のアミノ酸残基を選択して変異させてもよく、例えば、CDR1に1つのアミノ酸を変異させて、CDR2とCDR3のアミノ酸を変異させないものであってもよい。
【0009】
本発明では、前記変異は当業者が知っている従来の変異を含んでもよく、例えば、抗体を生産又は使用する過程で、抗体にいくつかの変異を行わせるこができ、例えば、存在し得る、特にCDR領域の翻訳後修飾(Potential post-translational modifications、PTMs)部位に変異を行わせ、抗体の凝集、脱アミド化感受性(asparagine deamidation)部位(NG、NS、NHなど)、アスパラギン酸異性(DG、DP)感受性部位、N-グリコシル化(N-{P}S/T)感受性部位、酸化感受性部位などの関連の変異を含む。
【0010】
上記の「バリアント」に関して、
前記バリアント1の変異は少なくとも配列番号8に示すアミノ酸配列の6位及び/又は7位に起こることが好ましい。
【0011】
前記バリアント2の変異は少なくとも配列番号16に示すアミノ酸配列の5位に起こることが好ましい。
【0012】
前記バリアント3の変異は少なくとも配列番号18に示すアミノ酸配列の3位に起こることが好ましい。
【0013】
前記バリアント4の変異は少なくとも配列番号42に示すアミノ酸配列の8位及び/又は9位に起こることが好ましい。
【0014】
前記バリアント5の変異は少なくとも配列番号47に示すアミノ酸配列の1位及び/又は4位に起こることが好ましい。
【0015】
前記バリアント6の変異は少なくとも配列番号55に示すアミノ酸配列の3~5位の1つ又は複数に起こることが好ましい。
【0016】
好ましくは、前記バリアント1は変異S6G及び/又はY7Fを含み、前記バリアント2は変異G5Rを含み、前記バリアント3は変異D3Eを含み、前記バリアント4は変異S8R及び/又はN9Yを含み、前記バリアント5は変異G1D及び/又はT4Nを含み、前記バリアント6は変異Y3R/N、N4S及びN5Yの1つ又は複数を含む。
【0017】
本発明の好ましい実施形態で、前記バリアント1のアミノ酸配列は配列番号6又は7に示すとおりであり、
本発明の好ましい実施形態で、前記バリアント2のアミノ酸配列は配列番号17に示すとおりであり、
本発明の好ましい実施形態で、前記バリアント3のアミノ酸配列は配列番号19に示すとおりであり、
本発明の好ましい実施形態で、前記バリアント4のアミノ酸配列は配列番号40又は41に示すとおりであり、
本発明の好ましい実施形態で、前記バリアント5のアミノ酸配列は配列番号48に示すとおりであり、
本発明の好ましい実施形態で、前記バリアント6のアミノ酸配列は配列番号56~58いずれか一つに示すとおりである。
【0018】
本発明のより好ましい実施形態で、前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号7に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号17に示すとおりであり且つ前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号27に示すとおりであり、前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号8に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号18に示すとおりであり且つ前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号28に示すとおりであり、前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号8に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号16に示すとおりであり且つ前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号29に示すとおりであり、又は、前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号8に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号19に示すとおりであり且つ前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号28に示すとおりであり、
且つ/又は、前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号41に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号48に示すとおりであり且つ前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号56に示すとおりであり、前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号42に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号47に示すとおりであり且つ前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号57に示すとおりであり、前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号42に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号47に示すとおりであり且つ前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号55に示すとおりであり、又は、前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号42に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号47に示すとおりであり且つ前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号58に示すとおりである。
【0019】
好ましくは、前記VHは重鎖可変領域フレームワーク領域(VH FWR)をさらに含み、且つ/又は、前記VLは軽鎖可変領域フレームワーク領域(VL FWR)をさらに含み、
より好ましくは、前記VH FWRはヒト抗体の重鎖可変領域フレームワーク領域であり、前記VL FWRはヒト抗体の軽鎖可変領域フレームワーク領域である。
なお、前記重鎖可変領域フレームワーク領域をコードする遺伝子は生殖細胞系列V遺伝子IGHV3-23に由来することが好ましく、好ましくは、前記重鎖可変領域フレームワーク領域で、HFR1は配列番号2~4のいずれか一つに示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、HFR2は配列番号10~14のいずれか一つに示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、HFR3は配列番号21~24のいずれか一つに示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、HFR4は配列番号31~33のいずれか一つに示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含む。
【0020】
前記軽鎖可変領域フレームワーク領域をコードする遺伝子は生殖細胞系列V遺伝子IGKV3-11又はIGKV3-15に由来することが好ましく、
好ましくは、前記軽鎖可変領域フレームワーク領域で、LFR1は配列番号35~38のいずれか一つに示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、LFR2は配列番号44又は45に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、LFR3は配列番号50~53のいずれか一つに示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、LFR4は配列番号60又は61に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含む。
【0021】
本発明の最も好ましい実施形態で、前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号7に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号17に示すとおりであり、前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号27に示すとおりであり、前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号41に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号48に示すとおりであり且つ前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号56に示すとおりであり、
前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号8に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号18に示すとおりであり、前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号28に示すとおりであり、前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号42に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号47に示すとおりであり且つ前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号57に示すとおりであり、
前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号8に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号16に示すとおりであり、前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号29に示すとおりであり、前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号42に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号47に示すとおりであり且つ前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号55に示すとおりであり、
前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号8に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号16に示すとおりであり、前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号29に示すとおりであり、前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号42に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号47に示すとおりであり且つ前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号58に示すとおりであり、
又は、前記HCDR1のアミノ酸配列は配列番号8に示すとおりであり、前記HCDR2のアミノ酸配列は配列番号19に示すとおりであり、前記HCDR3のアミノ酸配列は配列番号28に示すとおりであり、前記LCDR1のアミノ酸配列は配列番号42に示すとおりであり、前記LCDR2のアミノ酸配列は配列番号47に示すとおりであり且つ前記LCDR3のアミノ酸配列は配列番号57に示すとおりであり。
【0022】
本発明の特定の実施形態で、前記重鎖可変領域は配列番号64に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、且つ前記軽鎖可変領域は配列番号71に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、
前記重鎖可変領域は配列番号67に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、且つ前記軽鎖可変領域は配列番号73に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、
前記重鎖可変領域は配列番号65に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、且つ前記軽鎖可変領域は配列番号72に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、
前記重鎖可変領域は配列番号68に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、且つ前記軽鎖可変領域は配列番号74に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、
又は、前記重鎖可変領域は配列番号66に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、且つ前記軽鎖可変領域は配列番号72に示すアミノ酸配列又はそのバリアントを含み、
なお、前記バリアントには少なくとも変異前配列の機能が保持されており、且つ前記バリアントと変異前配列の相同性は少なくとも85%であり、好ましくは少なくとも90%であり、より好ましくは少なくとも95%であり、さらに好ましくは少なくとも99%である。
【0023】
本願では、上記のCDRのアミノ酸配列は全てChothia定義方式で示される(本発明の請求項に記載の配列もChothia定義方式で示される)。当業者が知っているように、本分野では、例えば、配列可変性に基づくKabat定義方式(Kabat,et.al,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Edition,National Institutes of Health,Bethesda,Md(1991)参照)、構造ループ領域の位置に基づくChothia定義方式(JMol Biol 273:927~48,1997参照)など、様々な方式で抗体のCDRを定義することができる。本願では、Kabat定義とChothia定義を組み合わせた(Combined)定義方式を採用して可変ドメイン配列のアミノ酸残基を決定することもできる。組み合わせた(Combined)定義方式はKabat定義とChothia定義の範囲を合わせたものであるため、範囲が拡大しており、その詳細は表1-1を参照する。当業者が理解しているように、他に規定がある場合を除いて、特定の抗体又はその領域(例えば、可変領域)の「相補性決定領域」又は「CDR」は本発明で説明した前記実施形態のいずれかにおいて限定された相補性決定領域を含むものと理解される。本発明の請求項で保護を求める範囲はChothia定義方式で配列を示しているが、他のCDR定義方式に基づく対応するアミノ酸配列も本発明の保護範囲に含まれる。
【表1-1】
【0024】
ここで、Laa-Lbbとは抗体軽鎖のN末端からのaa位からbb位までのアミノ酸配列を指してもよく、Haa-Hbbとは抗体重鎖のN末端からのaa位からbb位までのアミノ酸配列を指してもよい。例えば、L24-L34とは抗体軽鎖N末端から、Chothia番号付け方式による24位から34位までのアミノ酸配列を指してもよく、H26-H32とは抗体重鎖N末端から、Chothia番号付け方式による26位から32位までのアミノ酸配列を指してもよい。当業者が知っているように、Chothia方式でCDRを番号付けする場合に、特定の位置には挿入部位がある可能性がある。例えば、本発明の配列番号17に示すVH CDR2アミノ酸配列の場合、次の表1-2に示すように、52位後に52Aが挿入された場合がある。
【表1-2】
【0025】
好ましくは、前記CLDN18.2を標的とする抗体は抗体重鎖定常領域と抗体軽鎖定常領域とをさらに含み、
より好ましくは、前記重鎖定常領域はhIgG1、hIgG2、hIgG3又はhIgG4又はそのバリアントから選ばれ、前記軽鎖定常領域はヒト抗体の軽鎖κ鎖又はλ鎖又はそのバリアントから選ばれ、
さらに好ましくは、前記重鎖定常領域はhIgG1であり、且つ前記軽鎖定常領域はヒト抗体の軽鎖κ鎖である。
【0026】
好ましくは、前記CLDN18.2を標的とする抗体は全長抗体、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、scFv(single chain antibody fragment、一本鎖抗体)、二重特異性抗体、多重特異性抗体、重鎖抗体もしくは単一ドメイン抗体、又は前記抗体から製造されたモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体である。前記モノクローナル抗体はハイブリドーマ技術、ファージディスプレイ技術、単一リンパ球遺伝子クローニング技術など、様々な手段と技術で開発することができるが、ハイブリドーマ技術によって野生型又はトランスジェニックマウスからモノクローナル抗体を製造するのが主流である。
【0027】
前記CLDN18.2を標的とする抗体が二重特異性抗体である場合に、それは第1タンパク質ドメインと第2タンパク質ドメインとを含んでもよい。前記第1タンパク質ドメインはCLDN18.2を標的にして結合する上記のタンパク質であってもよく、前記第2タンパク質ドメインはCLDN18.2を標的とせず結合するタンパク質又は同じくCLDN18.2を標的にして結合するが本発明に記載のCLDN18.2を標的とする抗体でないものである。前記第1タンパク質ドメインは免疫グロブリンであってもよく、前記第2タンパク質ドメインは1つ又は複数のscFvであってもよく、又は、前記第2タンパク質ドメインは免疫グロブリンであってもよく、前記第1タンパク質ドメインは1つ又は複数のscFvであってもよい。
【0028】
好ましくは、前記CLDN18.2を標的とする抗体は全長抗体であり、前記全長抗体は重鎖と軽鎖とを含み、前記重鎖は配列番号77~90のいずれか一つに示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号93~96のいずれか一つに示すアミノ酸配列を含む。
【0029】
さらに特定の実施形態で、前記重鎖は配列番号77に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号93に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号78に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号94に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号79に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号93に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号85に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号93に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号83に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号93に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号84に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号93に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号81に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号95に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号82に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号96に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号80に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号94に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号86に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号95に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号87に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号96に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号88に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号94に示すアミノ酸配列を含み、
前記重鎖は配列番号89に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号95に示すアミノ酸配列を含み、
又は、前記重鎖は配列番号90に示すアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列番号96に示すアミノ酸配列を含む。以下、表1-3にまとめた抗体例の配列番号を使用する。
【表1-3】
【表1-4】
【0030】
前記変異とは前記VL及び/又はVHのアミノ酸配列に1つ又は複数のアミノ酸残基が削除、置換又は追加されたものであり、且つ前記変異アミノ酸配列は前記VL及び/又はVHのアミノ酸配列と少なくとも85%の配列相同性を有し、しかも前記抗体のCLDN18.2との結合が保持又は改善されており、前記少なくとも85%の配列相同性は少なくとも90%の配列相同性であることが好ましく、少なくとも95%の配列相同性であることがより好ましく、少なくとも99%の配列相同性であることが最も好ましい。
【0031】
本発明では、「Fabフラグメント」は1つの軽鎖及び1つの重鎖のCH1と可変領域とからなる。Fab分子の重鎖は別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することができない。「Fc」領域は抗体のCH1及びCH2ドメインを含む2つの重鎖フラグメントを含む。2つの重鎖フラグメントは2つ又はそれ以上のジスルフィド結合とCH3ドメインの疎水性相互作用によって一体的に保持されている。「Fab’フラグメント」は1つの軽鎖と、VHドメインとCH1ドメイン及びCH1とCH2ドメインの間の領域を含む1つの重鎖との部分を含み、これによって2つのFab’フラグメントの2つの重鎖の間に鎖間ジスルフィド結合が形成されてF(ab’)分子が生成される。「F(ab’)フラグメント」は2つの軽鎖と、CH1とCH2ドメインの間の定常領域の一部を含む2つの重鎖とを含み、これによって2つの重鎖の間に鎖間ジスルフィド結合が形成される。これによってF(ab’)フラグメントは2つの重鎖間のジスルフィド結合によって一体的に保持された2つのFab’フラグメントからなる。用語「Fv」とは抗体のシングルアームのVLとVHドメインからなり、定常領域を欠く抗体フラグメントを指す。
【0032】
本発明では、前記scFv(single chain antibody fragment、一本鎖抗体)は重鎖可変領域と、軽鎖可変領域と、15~20のアミノ酸の短ペプチドとを含む本分野通常の一本鎖抗体であってもよい。VLとVHドメインは単一のポリペプチド鎖を生成させられるリンかーによってペアリングされて一価分子を形成させる[例えば、Bird,et.al,Science 242:423~426(1988)、Huston,et.al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879~5883(1988)参照]。このようなscFv分子の一般的な構造はNH2-VL-リンカー-VH-COOH又はNH2-VH-リンカー-VL-COOHであってもよい。適切な従来のリンカーは繰り返すアミノ酸配列GS又はそのバリアントからなる。例えば、アミノ酸配列(GS)又は(GS)を有するリンカーを使用してもよいし、そのバリアントを使用してもよい。
【0033】
用語「多重特異性抗体」は、複数のエピトープに特異的な抗体を含むと最も広い範囲で使用される。当該多重特異性抗体は、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)とを含み当該VH-VL単位は複数のエピトープに対する特異性を有する抗体と、2つ又はそれ以上のVLとVH領域を有し各VH-VL単位は異なる標的又は同じ標的の異なるエピトープと結合する抗体、2つ又はそれ以上の単一可変ドメインを有し各単一可変ドメインは異なる標的又は同じ標的の異なるエピトープと結合する抗体や、全長抗体、抗体フラグメント、二重特異性抗体(diabodies)、三重特異性抗体(triabodies)、共有又は非共有に接続された抗体フラグメントなどを含み、ただしそれらに限定されない。
【0034】
本発明の抗体はモノクローナル抗体を含む。本発明に記載のモノクローナル抗体又はmAb又はAbとは、単一のクローン細胞株から得られる抗体であり、前記細胞株は真核、原核又はファージのクローン細胞株のいずれかに限定されるものではない。
【0035】
本発明では、前記「重鎖抗体」とは1つの重鎖可変領域(VHH)と2つの通常のCH2及びCH3領域とを含む抗体であり、HCAbsとも呼ばれる。
【0036】
本発明では、前記「単一ドメイン抗体」は「ナノボディ」とも呼ばれ、重鎖抗体からクローニングしたVHH構造を指し、目的抗原と結合できる既知の最小単位である。
【0037】
上記の技術的課題を解決するための本発明の第2態様は、本発明の第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体をコードする、分離された核酸を提供する。
【0038】
前記核酸の製造方法は本分野通常の製造方法であり、好ましくは、遺伝子クローニング技術によって前記抗体をコードする核酸分子を得るステップ、又は人工完全配列合成により前記抗体をコードする核酸分子を得るステップを含む。
【0039】
当業者が知っているように、前記抗体のアミノ酸配列をコードする塩基配列に置換、削除、改変、挿入又は追加を適切に導入してポリヌクレオチドのホモログを提供することができる。本発明でポリヌクレオチドのホモログは当該抗体配列をコードする遺伝子の1つ又は複数の塩基を、抗体の活性を保持させる範囲で置換、欠失又は追加することによって製造することができる。
【0040】
上記の技術的課題を解決するための本発明の第3態様は、本発明の第2態様に記載の分離された核酸を含む組換え発現ベクターを提供する。
【0041】
前記組換え発現ベクターは、本発明に記載の核酸分子を様々な発現ベクターに接続させるという本分野の通常の方法で構築することができる。前記発現ベクターは本分野の通常の様々なベクターで、前記核酸分子を受け入れられるものであれば問題はない。
【0042】
好ましくは、前記組換え発現ベクターはプラスミド、コスミド、ファージ又はウイルスベクターであり、前記ウイルスベクターはレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターであることが好ましい。
【0043】
上記の技術的課題を解決するための本発明の第4態様は、宿主細胞に本発明の第3態様に記載の組換え発現ベクターが含まれる形質転換体を提供する。
【0044】
前記組換え発現形質転換体の製造方法は、例えば、前記組換え発現ベクターを宿主細胞に導入するなど、本分野の通常の製造方法であってもよい。前記宿主細胞は本分野の通常の様々な宿主細胞で、前記組換え発現ベクターは自ら安定的に複製することができ、しかも保有する前記核酸が効果的に発現されるものであれば問題はない。好ましくは、前記宿主細胞はE.coli TG1又はBL21細胞(一本鎖抗体又はFab抗体を発現する)、又はCHO-K1細胞(全長IgG抗体を発現する)である。前記組換え発現プラスミドを宿主細胞に導入すれば、本発明の好ましい組換え発現形質転換体を得る。前記導入方法は本分野の通常の形質転換方法で、好ましくは、化学的形質転換法、熱処理法、又は電気穿孔法である。
【0045】
本発明では、前記CLDN18.2を標的とする抗体をキメラ抗原受容体(CAR)などとすることによって、それを用いて、例えば、T細胞又はNK細胞などの細胞を修飾することができる。そのために、本発明は第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体又はその抗原結合フラグメントを含むものを提供する。例えば、それは前記CLDN18.2を標的とする抗体のscFvを細胞外抗原結合ドメインとして利用するキメラ抗原受容体である。これに鑑みて、上記の技術的課題を解決するための本発明の第5態様は、本発明の第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体を含む遺伝子修飾細胞を提供する。
【0046】
好ましくは、前記遺伝子修飾細胞は真核細胞であり、好ましくは分離されたヒト細胞であり、より好ましくはT細胞(例えば、CAR-Tの形態)、又はNK細胞などの免疫細胞である。
【0047】
上記の技術的課題を解決するための本発明の第6態様は、本発明の第4態様に記載の形質転換体を培養し、培養物からCLDN18.2を標的とする抗体を得ることを含む、CLDN18.2を標的とする抗体の製造方法を提供する。
【0048】
上記の技術的課題を解決するための本発明の第7態様は、細胞毒性薬と、本発明の第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体とを含む抗体-薬物複合体(ADC)を提供する。
【0049】
前記細胞毒性薬は、細胞毒素、化学療法剤、放射性同位体、治療用核酸、免疫調節剤、抗血管新生剤、抗増殖性アポトーシス促進剤又は細胞溶解酵素であることが好ましく、前記細胞毒性薬はチュウブリン合成酵素阻害剤であるメチルアウリスタチンF(MMAF)、又はメチルアウリスタチンE(MMAE)であることがより好ましい。
【0050】
前記抗体-薬物複合体の製造方法は本分野の通常の方法であってもよく、好ましくは、「Doronina,2006,Bioconjugate Chem.17,114~124」に記載の製造方法を採用する。好ましくは、前記製造方法で最小低結合分画(LCF)が10%未満の抗体-薬物複合体が生成される。
【0051】
前記抗体-薬物複合体は本分野で知られている任意の物理的形態で存在してもよく、好ましくは、透明な溶液である。
【0052】
上記の技術的課題を解決するための本発明の第8態様は、本発明の第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体及び/又は本発明の第7態様に記載の抗体-薬物複合体と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0053】
前記医薬組成物は、有効成分として他の抗腫瘍抗体をさらに含み、且つ/又は、ホルモン製剤、標的化小分子製剤、プロテアソーム阻害剤、造影剤、診断剤、化学療法薬、腫瘍溶解薬、細胞毒性剤、サイトカイン、共刺激分子活性化剤、抑制性分子阻害剤及びワクチンからなる群のうちの1種又は複数種を含むことが好ましい。
【0054】
前記薬学的に許容される担体は本分野の通常の担体であってもよく、前記担体は生理学的に又は薬学的に許容される任意の適切な医薬添加物であってもよい。前記医薬添加物は本分野の通常の医薬添加物であり、好ましくは、薬学的に許容される賦形剤、充填剤、安定剤又は希釈剤などを含む。より好ましくは、前記医薬組成物は0.01~99.99%の前記タンパク質及び/又は前記抗体-薬物複合体と、0.01~99.99%の医薬担体とを含み、前記パーセンテージは前記医薬組成物に占める質量パーセンテージである。
【0055】
好ましくは、前記医薬組成物は抗腫瘍薬である。より好ましくは、胃がん、食道がん、肺がん、卵巣がん、黒色腫、腎臓がん、乳がん、結腸直腸がん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がん、頭頸部がん、気管支がん、神経膠腫及び/又は白血病を治療する薬物である。
【0056】
本発明に記載の医薬組成物の投与経路は、非経口投与、注射投与又は経口投与であることが好ましい。前記注射投与として好ましいのは、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮内注射又は皮下注射などが挙げられる。前記医薬組成物は本分野の通常の様々な剤形で、好ましくは、固体、半固体又は液体の形態であり、即ち水溶液、非水溶液又は懸濁液であってもよく、より好ましくは、錠剤、カプセル、顆粒剤、注射剤又は注入剤などである。より好ましくは、血管内、皮下、腹腔内又は筋肉内で投与される。好ましくは、前記医薬組成物はエアロゾル又はスプレー剤として、即ち、鼻腔内で投与されてもよく、又は、髄腔内、髓内又は心室内で投与される。より好ましくは、前記医薬組成物は経皮、局所、経腸、膣内、舌下又は経直腸で投与されてもよい。
【0057】
本発明に記載の医薬組成物の投与量レベルは所望の診断又は治療結果を得られる組成物の量に応じて調整されてもよい。投与計画は単回注射又は複数回注射であってもよいし、又は調整してもよい。選択される用量レベルと計画は、前記医薬組成物の活性や安定性(半減期)、剤型、投与経路、他の薬物又は治療との組み合わせ、検出及び/又は治療の対象となる疾患もしくは障害、及び治療対象の健康状態や治療歴などを含む様々な要因に応じて合理的に調整される。
【0058】
本発明に記載の医薬組成物の治療上有効な用量は、最初に細胞培養実験、又は、げっ歯類、ウサギ、イヌ、ブタ及び/又は霊長類などの動物モデルを用いて推定することができる。動物モデルは適切な投与濃度範囲と経路の決定に用いることもできる。その後、ヒトへの投与の有効な用量と経路を決定するために利用することができる。一般に、投与有効量又は用量の決定及び調整、並びにそのような調整をいつどのように行うかの評価は当業者に知られている事項である。
【0059】
併用療法の場合は、前記CLDN18.2を標的とする抗体、前記抗体-薬物複合体及び/又は他の治療又は診断剤はそれぞれ、所望の治療又は診断を行うのに適する任意の時間枠内で単一の薬剤として投与されてもよい。したがって、これらの単一の薬剤は実質的に同時に(即ち、単一の製剤として又は数分間もしくは数時間以内に)又は連続して投与することができる。例えば、これらの単一の薬剤は、1年以内、又は10、8、6、4もしくは2ヶ月以内に、又は4、3、2もしくは1週間以内に、又は5、4、3、2もしくは1日以内に投与される。
【0060】
製剤、用量、投与計画や測定可能な治療結果についての説明は、Berkow,et.al(2000),The Merck Manual of Medical Information、Merck&Co.Inc.,Whitehouse Station,New Jersey;Ebadi(1998)CRC Desk Reference of Clinical Pharmacologyなどの文献を参照する。
【0061】
上記の技術的課題を解決するための本発明の第9態様は、腫瘍を診断、予防及び/又は治療する薬物を製造するための、本発明の第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体、本発明の第7態様に記載の抗体-薬物複合体及び/又は本発明の第8態様に記載の医薬組成物の使用を参照する。
【0062】
好ましくは、前記腫瘍はCLDN18.2陽性腫瘍であり、より好ましくは、前記腫瘍は胃がん、食道がん、肺がん、黒色腫、腎臓がん、乳がん、結腸直腸がん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がん、神経膠腫及び/又は白血病である。
【0063】
本発明はまた、上記の技術的課題を解決するために、腫瘍を診断、予防及び/又は治療するための、本発明の第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体、本発明の第7態様に記載の抗体-薬物複合体及び/又は本発明の第8態様に記載の医薬組成物の使用を提供する。好ましくは、前記腫瘍は本発明の第9態様に記載のとおりである。
【0064】
上記の技術的課題を解決するための本発明の第10態様は、キットAとキットBとを含む組み合わせのキットを提供し、前記キットAは本発明の第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体、及び/又は本発明の第7態様に記載の抗体-薬物複合体、及び/又は本発明の第8態様に記載の医薬組成物であり、前記キットBは他の抗腫瘍抗体、又は前記他の抗腫瘍抗体を含む医薬組成物を含み、前記キットBは化学療法薬、腫瘍溶解薬、細胞毒性剤、サイトカイン、共刺激分子活性化剤、抑制性分子阻害剤、ワクチン、造影剤、診断剤、ホルモン製剤、標的化小分子製剤、プロテアソーム阻害剤などを含んでもよく、又は前記キットBは他の抗腫瘍抗体もしくは前記他の抗腫瘍抗体を含む医薬組成物と、ホルモン製剤、標的化小分子製剤、プロテアソーム阻害剤、造影剤、診断剤、化学療法薬、腫瘍溶解薬、細胞毒性剤、サイトカイン、共刺激分子活性化剤、抑制性分子阻害剤、ワクチンなどの両方を含む。前記キットAとキットBを同時に使用してもよいし、まずキットA、次にキットBを使用してもよいし、又はまずキットB、次にキットAを使用してもよく、実際のニーズに応じて使用方法を決定することができる。
【0065】
上記の技術的課題を解決するためには、本発明の第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体もしくはその抗原結合フラグメント、本発明に記載のキメラ抗原受容体、本発明の第5態様に記載の遺伝子修飾細胞、本発明の第7態様に記載の抗体-薬物複合体、及び/又は本発明の第8態様に記載の医薬組成物は他の薬物と組み合わせて投与されてもよく、例えば、ホルモン製剤、標的化小分子製剤、プロテアソーム阻害剤、造影剤、診断剤、化学療法薬、腫瘍溶解薬、細胞毒性剤、サイトカイン、共刺激分子活性化剤、抑制性分子阻害剤、ワクチンなど、及び/又は他の抗腫瘍抗体(又は、前記他の抗腫瘍抗体を含む医薬組成物)と組み合わせて投与されてもよい。本発明に記載の「CLDN18.2陽性」細胞とはCLDN18.2タンパク質を過剰発現する細胞で、例えば、NUGC4_D8細胞株であり、逆の場合に、「CLDN18.2陰性」細胞と呼ばれる。
【0066】
本発明の第11態様は、それを必要とする患者に治療有効量の、第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体もしくはその抗原結合フラグメント、第7態様に記載の抗体-薬物複合体、又は第8態様に記載の医薬組成物を投与し、又は第10態様に記載の組み合わせのキットを使用してそれを必要とする患者を治療することを含む、CLDN18.2が媒介する疾患又は障害を診断、治療及び/又は予防する方法を提供する。
【0067】
前記CLDN18.2が媒介する疾患又は障害は腫瘍であってもよく、好ましくは、CLDN18.2陽性腫瘍であり、より好ましくは、胃がん、食道がん、肺がん、卵巣がん、黒色腫、腎臓がん、乳がん、結腸直腸がん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がん、頭頸部がん、気管支がん、神経膠腫及び/又は白血病である。
【0068】
本発明の第12態様は、第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体もしくはその抗原結合フラグメント、第7態様に記載の抗体-薬物複合体、又は第8態様に記載の医薬組成物を使用することを含む、CLDN18.2を免疫学的に検出又は測定する方法を提供する。
【0069】
本発明の第13態様は、第1態様に記載のCLDN18.2を標的とする抗体もしくはその抗原結合フラグメント、第7態様に記載の抗体-薬物複合体、又は第8態様に記載の医薬組成物と、第2治療薬とをそれぞれそれを必要とする患者に投与するステップを含む併用療法を提供し、前記第2治療薬は他の抗腫瘍抗体もしくは前記他の抗腫瘍抗体を含む医薬組成物、及び/又はホルモン製剤、標的化小分子製剤、プロテアソーム阻害剤、造影剤、診断剤、化学療法薬、腫瘍溶解薬、細胞毒性剤、サイトカイン、共刺激分子活性化剤、抑制性分子阻害剤及びワクチンからなる群のうちの1種又は複数種を含むことが好ましい。
【0070】
本発明では、特に説明がある場合を除いて、本明細書で使用される科学技術用語は当業者が理解している一般的な意味を有する。また、本明細書で使用される細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、免疫学的な実験操作ステップは全て対応する分野で一般的に利用されるステップである。以下、本発明の一層の理解のために、関連する用語の定義と解釈を提供する。
【0071】
本発明では、用語「可変」とは一般に、抗体の可変ドメインの配列の特定の部分が大きく変化し、特定の抗原に対する様々な特定の抗体の結合と特異性に寄与することを指す。しかし、可変性は抗体の可変領域全体に均等に分布するのではない。それは軽鎖及び重鎖可変領域の、相補性決定領域(CDR)又は超可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインで高度に保存された部分はフレームワーク(FWR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインのそれぞれは4つのFWR領域を含み、殆どは3つのCDRによって接続されてループを形成させるβシート構造であるが、場合によってはβシート構造の一部として形成される。各鎖でCDRはFWR領域によって緊密に結合され、しかも別の鎖からのCDRと一緒に抗体の抗原結合部位を形成し、定常領域は抗体と抗原の結合に直接的に関与しないが、抗体の抗体依存性細胞傷害に関与するなど、様々なエフェクター機能を示す。
【0072】
本発明で使用されるアミノ酸の3文字コード及び1文字コードは当業者に知られている事項で、「J.Biol.Chem,243,p3558(1968)」にも記載されている。
【0073】
本明細書で使用される用語「含む」は組成物又は方法が記載された要素を含み、他の要素は除外しないことを意味し、文脈によって、「からなる」を含む場合もある。
【0074】
用語「CLDN18.2」はアイソフォーム、哺乳類(例えば、ヒト)CLDN18.2、ヒトCLDN18.2の種相同体、CLDN18.2との少なくとも1つの共通エピトープを含むアナログを含む。CLDN18.2(例えば、ヒトCLDN18.2)のアミノ酸配列はNCBIデータベースに示されているように、本分野で知られている事項である。
【0075】
用語「CLDN18.1」はアイソフォーム、哺乳類(例えば、ヒト)CLDN18.1、ヒトCLDN18.1の種相同体、CLDN18.1との少なくとも1つの共通エピトープを含むアナログを含む。CLDN18.1(例えば、ヒトCLDN18.1)のアミノ酸配列はNCBIデータベースに示されているように、本分野で知られている事項である。
【0076】
用語「エピトープ」とは抗体分子と特異的に相互作用する抗原(例えば、ヒトCLDN18.2)の部分を指す。本発明で用語「競合」とは抗体分子の抗CLDN18.2抗体分子の標的(例えば、ヒトCLDN18.2)との結合を妨害する能力を指す。結合への妨害は直接的ものであってもよいし又は間接的であってもよい(例えば、抗体分子又は標的のアロステリック調節を介するもの)。競合的結合アッセイ(例えば、FACSアッセイ、ELISA又はBIACOREアッセイ)を用いて、抗体分子が別の抗体分子とその標的の結合を妨害する程度を決定することができる。
【0077】
本発明で使用される用語「抗体」は、2つの同じ重鎖と2つの同じ軽鎖が鎖間ジスルフィド結合によって接続されたテトラペプチド鎖構造である免疫グロブリンを含む。免疫グロブリンの重鎖定常領域のアミノ酸構成と配列が異なるため、その抗原性も異なる。これによって免疫グロブリンを、免疫グロブリンのアイソフォームとも呼ばれるIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEの5つのクラスに分けることができ、対応する重鎖はそれぞれμ鎖、δ鎖、γ鎖、α鎖及びε鎖である。同じクラスのIgはそのヒンジ領域のアミノ酸構成と重鎖のジスルフィド結合の数や位置の違いによって、異なるサブクラスに分けられ、例えば、IgGはIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4に分けられる。軽鎖は定常領域によってκ鎖、λ鎖に分けられる。5つのクラスのIgの各クラスは、いずれもκ鎖又はλ鎖を備えてもよい。
【0078】
本発明では、前記抗体軽鎖可変領域は軽鎖定常領域をさらに含んでもよく、前記軽鎖定常領域はヒトκ、λ鎖又はそのバリアントを含む。本発明では、本発明に記載の抗体重鎖可変領域は重鎖定常領域をさらに含んでもよく、前記重鎖定常領域はヒトIgG1、2、3、4又はそのバリアントを含む。
【0079】
抗体の重鎖と軽鎖のN末端付近の約110のアミノ酸の配列は大きく変化するものであるから、可変領域(V領域)である。C末端付近の残りのアミノ酸配列は比較的安定しており、定常領域(C領域)である。可変領域は3つの超可変領域(HVR)と、配列が保存された4つのフレームワーク領域(FWR)とを含む。3つの超可変領域は抗体の特異性を決定し、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる。軽鎖可変領域(VL)と重鎖可変領域(VH)のそれぞれは3つのCDR領域と4つのFWR領域からなり、アミノ末端からカルボキシ末端まではFWR1、CDR1、FWR2、CDR2、FWR3、CDR3、FWR4の順に配列される。軽鎖の3つのCDR領域とはLCDR1、LCDR2及びLCDR3で、重鎖の3つのCDR領域とはHCDR1、HCDR2及びHCDR3である。
【0080】
軽鎖と重鎖内で、可変領域と定常領域は約12又はそれ以上のアミノ酸の「J」領域によって接続され、重鎖は約3つ又はそれ以上のアミノ酸の「D」領域をさらに含む。各重鎖は重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域(CH)からなる。重鎖定常領域は3つのドメイン(CH1、CH2及びCH3)からなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)からなる。軽鎖定常領域は1つのドメインCLからなる。抗体の定常領域は免疫グロブリンと宿主組織、又は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)や古典的な補体系の最初の成分(C1q)などの因子との結合を媒介することができる。VHとVL領域はさらに、フレームワーク領域(FWR)と呼ばれる保存された領域が点在する変動性の高い領域[相補性決定領域(CDR)と呼ばれる]に細分することができる。VH及びVLのそれぞれは、FWR1、CDR1、FWR2、CDR2、FWR3、CDR3、FWR4の順にアミノ末端からカルボキシ末端まで配列された3つのCDRと4つのFWRからなる。重鎖/軽鎖のそれぞれに対応する可変領域(VH及びVL)はそれぞれ抗体結合部位を形成する。特に、重鎖は3つ以上、例えば、6つ、9つ又は12のCDRをさらに含んでもよい。例えば、本発明の二重特異性抗体では、重鎖はIgG抗体の重鎖のN末端が別の抗体に接続されているScFvであってもよく、この場合に重鎖は9つのCDRを含む。
【0081】
用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列の可変及び定常領域を有する抗体を含む。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム又は部位特異的変異誘発又はインビボでの体細胞変異によって導入される変異)を含む。ただし、用語「ヒト抗体」は、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフト化された抗体(即ち、「ヒト化抗体」)を含まない。
【0082】
本発明で抗体に関して使用される用語「特異性」とは、特異性抗原を認識するが、サンプルの他の分子を実質的には認識又は結合しない抗体である。例えば、1つの種からの抗原と特異的に結合する抗体は、1つ又は複数の種からの当該抗原とも結合できる。ただし、このような種間交差反応性は特異性に基づく抗体の分類を変えない。もう1つの例では、抗原と特異的に結合する抗体は異なる対立遺伝子の当該抗原のとも結合できる。ただし、このような交差反応性は特異性に基づく抗体の分類を変えない。場合によっては、用語「特異性」又は「特異的結合」とは抗体、タンパク質又はペプチドの第2化学物質との相互作用を指し、当該相互作用は化学物質の特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、抗体は一般に、タンパク質ではなく、特定のタンパク質構造を認識してそれと結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的である場合に、標識された「A」と抗体を含む反応において、エピトープAを含む分子(又は遊離の非標識A)の存在で抗体と結合する標識されたAの量が減少する。
【0083】
本明細書で使用される用語「キメラ抗原受容体」又は「CAR」とは、抗原と結合できる細胞外ドメイン(細胞外結合ドメイン)、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン(膜貫通領域)及び細胞質シグナルを伝達させるドメイン(即ち、細胞内シグナル伝達ドメイン)を含むポリペプチドを指す。ヒンジドメインを細胞外抗原結合領域に柔軟性を提供するための部分と見なすことができる。細胞内シグナル伝達ドメインとは、決定されたシグナル伝達経路がセカンドメッセンジャーを生成することによって情報を細胞内に伝達して細胞の活動を調節するタンパク質、又はそのようなメッセンジャーに対応してエフェクターとして機能するタンパク質を指し、それはCAR細胞(例えば、CAR T細胞)の免疫エフェクター機能を促進するシグナルを生成する。細胞内シグナル伝達ドメインはシグナル伝達ドメインを含み、共刺激分子に由来する共刺激細胞内ドメインをさらに含んでもよい。
【0084】
「相同性」、「変異配列」、「変異」とは2つのポリヌクレオチド配列間又は2つのポリペプチド間の配列類似性を指す。2つの対象配列における位置がいずれも同じ塩基又はアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合に、例えば、2つのDNA分子の各位置がアデニンによって占められている場合に、前記分子は当該位置で相同である。2つの配列間のパーセント相同性は2つの配列に共有する一致又は相同位置の数を対象位置の数×100で割った関数である。例えば、配列が最適に整列されている場合に、2つの配列の10の位置で6つが一致する又は相同であれば、2つの配列は60%相同である。一般に、2つの配列を比較して最大のパーセント相同性を得ると比較する。「最適化」とは前記抗体の抗原との結合が保持又は改善されている変異であり、本発明では、CLDN18.2との結合が保持、維持又は改善されている変異である。
【0085】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」と「タンパク質」(一本鎖の場合)は本発明で入れ替えて使用される。用語「核酸」、「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」又は「ポリヌクレオチド配列」と「ポリヌクレオチド」は入れ替えて使用される。
【0086】
用語「変異」はアミノ酸又はヌクレオチドの置換、追加及び/又は削除を含み、「アミノ酸置換」はアミノ酸残基が別のアミノ酸残基によって置換されること、「保存的アミノ酸置換」は類似する側鎖を有するアミノ酸残基によって置換されることである。
【0087】
本明細書で使用される「レンチウイルス」とはレトロウイルス科(Retroviridae family)の属を指す。レンチウイルスは非分裂細胞に感染できるためレトロウイルスの中でも独特なものであり、大量の遺伝情報を宿主細胞のDNAに送達できるため、遺伝子送達ベクターとして最も効果的な手段である。HIV、SIV、FIVはいずれもレンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターはインビボで有意な遺伝子水平伝播を実現する手段を提供している。
【0088】
本明細書で使用される用語「ベクター」は分離された核酸を含み、分離された核酸を細胞の内部に送達するために利用できる組成物である。線状ポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性化合物に関連するポリヌクレオチド、プラスミド、ウイルスを含みただしそれらに限定されない多くのベクターは、本分野で知られている。したがって、用語「ベクター」は自律的に複製するプラスミド又はウイルスを含む。当該用語は細胞への核酸の転移を促す非プラスミド及び非ウイルス化合物、例えば、ポリリシン化合物、リポソームなどを含むとも解釈される。ウイルスベクターの例はアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどを含み、ただしそれらに限定されない。
【0089】
本発明で使用される用語「細胞」、「細胞株」は入れ替えて使用され、しかもそのように命名するものには子孫が含まれる。用語「宿主細胞」とは、ベクターを導入するために使用できる細胞を指し、それは、大腸菌などの原核細胞、酵母細胞などの真菌細胞、又は、線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞又はヒト細胞などの動物細胞を含み、ただしそれらに限定されない。
【0090】
用語「トランスフェクション」とは外因性核酸を真核細胞に導入することを指す。DNA-リン酸カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染、バイオリスティック法(biolistics)など、本分野で知られている様々な手段でトランスフェクションを実現することができる。
【0091】
用語「免疫細胞」とは免疫応答を誘発できる細胞を指し、「免疫細胞」と同等な用語は任意の由来の免疫細胞を指すことができる。「免疫細胞」は、例えば、骨髄で生成される造血幹細胞(HSC)に由来する白血球、リンパ球(T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、骨髄に由来する細胞(好中球、好酸球、好塩基球、単球、マクロファージ、樹状細胞)を含む。用語「免疫細胞」は、ヒトであってもよいし、又は非ヒトであってもよい。
【0092】
本明細書で使用される用語「T細胞」とは、胸腺で成熟するリンパ球のクラスを指す。T細胞は細胞性免疫において重要な役割を果たし、細胞の表面にT細胞受容体が存在することで他のリンパ球(例えば、B細胞)と違う。「T細胞」には、Tヘルパー細胞(CD4+細胞)、細胞傷害性T細胞(CD8+細胞)、ナチュラルキラーT細胞、T制御性細胞(Treg)、γ-δT細胞など、CD3を発現する全ての種類の免疫細胞が含まれる。「細胞傷害性細胞」にはCD8+T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球が含まれ、これらの細胞は細胞傷害性応答を媒介することができる。本明細書で使用される用語「NK細胞」とは、骨髄に由来し、自然免疫系において重要な役割を果たすリンパ球のクラスを指す。NK細胞は細胞の表面に抗体や主要な組織適合性複合体が存在しなくても、ウイルス感染細胞、腫瘍細胞又は他のストレスを受けた細胞に対する迅速な免疫応答を提供する。
【0093】
例えば、免疫細胞は、自家T細胞、他家T細胞、自家NK細胞、他家NK細胞など、血液に由来するものであってもよいし、EBVウイルス感染によって得られたNK細胞株、胚性幹細胞やiPSCから誘発分化されたNK細胞やNK92細胞株など、細胞株に由来するものであってもよい。
【0094】
「任意選択」、「いずれか」、「任意」又は「いずれか一項」とは、後で説明する事象又は状況が発生する可能性はあるが、必ずしもそうであるとは限らないことを意味し、当該説明には当該事象又は状況が発生する場合と発生しない場合が含まれる。例えば、「任意選択で1つの抗体重鎖可変領域を含む」とは特定の配列の抗体重鎖可変領域が存在してもよいが、必ずしもそうであるとは限らないことを意味する。本発明で使用される「1つ」又は「1種」は1つ又はそれ以上の対象を指す。明確な説明がある場合を除いて、用語「又は」は本発明で用語「及び/又は」の意味でそれと入れ替えて使用される。「約」は一般に測定の性質又は精度により、測定された量に認められる誤差の程度を指すように使用される。例示的に、誤差は一般に10%の範囲にあり、より一般的には5%の範囲である。本発明で開示されている方法と組成物には、所定の配列、変異配列又はそれらと実質的に同じもしくは類似する配列、例えば、所定の配列と少なくとも85%、90%、95%、99%又はそれ以上同じである配列を有する、ポリペプチドと核酸が含まれる。アミノ酸配列である場合に、用語「実質的に同じ」は本発明で第1アミノ酸配列を指す。
【0095】
本明細書で使用される用語「EC50」とは、半数効果濃度(concentration for 50% of maximal effect)、即ち、最大反応の50%を示す濃度を指す。
【0096】
本発明の医薬組成物は、所望により様々な剤形に製剤化することができ、しかも医師は患者のタイプ、年齢、体重、一般的な病状、投与経路などの要因で患者に有効な用量を決定して投与することができる。投与経路としては、例えば、注射又は他の治療方式を採用する。
【0097】
本発明で用語「抗体-薬物複合体」と「ADC」は入れ替えて使用される。
【0098】
アウリスタチンは、その物理的特性と創薬可能性を最適化するために化学構造が比較的変えやすい完全合成薬である。抗体との結合に使用されるアウリスタチン誘導体には主にモノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)が含まれ、前者は天然のチュウブリンポリメラーゼ阻害剤であるドラスタチン10(dolastatin-10)から誘導された合成ペンタペプチドであり、C末端に2-アミノ-1-フェニルプロピル-1-オールを付加して合成される。MMAEは様々なヒト腫瘍細胞株に対する阻害活性が1nmol未満である。MMAE自体の細胞毒性活性を低減させるために、MMAFにはドラスタチン10のC末端にフェニルアラニンを付加させている。1つのカルボキシ基が導入されているため、細胞膜透過性が悪く、細胞に対するMMAFの生物学的活性が明らかに低下するが、抗体と結合した後、細胞に対する阻害活性が大幅に向上している(US7750116)。
【0099】
いくつかの実施形態で、抗体-細胞毒性薬物複合体、又は薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物は1つ又は複数のメイタンシノイド分子を結合した本発明の抗体を含む。メイタンシノイドはチュウブリンの多量体化を阻害することによって機能しない有糸分裂阻害剤である。マイタンシンは最初にアフリカの低木メイテナス・セラタ(Maytenus serrata)から分離されていた(米国特許第3896111号)。その後、一部の微生物が、マイタンシノールやマイタンシノールのC-3エステル(米国特許第4151042号)などのメイタンシノイドを生成することを発見した。メイタンシノイド薬物部分は抗体-薬物複合体で有益な部分である。その理由としては(i)発酵又は発酵生成物の化学修飾又は誘導体化によって製造しやすいこと、(ii)非ジスルフィドリンカーによって抗体に結合するのに適する官能基から誘導体化しやすいこと、(iii)血漿中で安定していること、(iv)様々な腫瘍細胞株に対して有効であることが挙げられる。メイタンシノイド薬物部分として使用するのに適するマイタンシン化合物は本分野で知られている事項で、しかも既知の方法に従って天然源から分離するか、又は遺伝子工学技術を使用して生産することができる(Yu,et.al,(2002)PNAS99:7968~7973参照)。マイタンシノールとマイタンシノールアナログは既知の方法に従って合成することができる。メイタンシノイド薬物部分の例示的な実施形態としては、本明細書で開示されているDM1、DM3、DM4が挙げられる。
【0100】
本発明に記載の方法、組成物、併用療法は他の活性剤又は治療手段と組み合わせることができ、前記方法は疾患(例えば、がん)の治療又は予防に有効な量の、本発明に記載の抗CLDN18.2抗体分子、任意選択でPD-1、PD-L1、PD-L2、LAG-3、CTLA-4、Tim-3抗体(免疫療法)又はHer-2、EGFR、VEGF、VEGFR抗体などの他の腫瘍治療抗体、ADC(例えば、T-DM1)、二重特異性抗体、化学療法薬などの1種又は複数種の阻害剤との組み合わせを対象に投与するステップを含み、さらに、抗CLDN18.2抗体分子、追加の活性剤又はその全てを、単独(例えば、単剤療法)で使用する各種の活性剤の量又は用量より高く、より低く又は等しい量又は用量で投与するステップをさらに含む。抗CLDN18.2抗体、追加の活性剤又はその全ての投与量又は用量は単独(例えば、単剤療法)で使用する各種の活性剤の量又は用量より(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%又は少なくとも50%)低い。
【0101】
さらに、本発明の実施例で説明したように、抗CLDN18.2抗体及びCLDN18.2抗体-薬物複合体はCLDN18.2と結合して標的細胞(腫瘍細胞)のアポトーシスを誘発し、腫瘍細胞の成長を阻害し、インビボで腫瘍細胞に対するエフェクター細胞のADCC、CDC殺傷効果を高めてがん患者を治療する目的を達成する。したがって、いくつかの実施形態で、本発明に記載の抗CLDN18.2抗体及びCLDN18.2抗体-薬物複合体は上記の原理により本発明に係る抗体抗腫瘍効果、及び、治療有効量の本発明に記載の抗CLDN18.2抗体及びCLDN18.2抗体-薬物複合体を受験者に投与するステップを含む腫瘍細胞成長の阻害方法を実現する。当該方法はがんのインビボ治療に適する。標的特異的な治療効果を得るために、抗CLDN18.2抗体分子を他の抗体と一緒に投与することができる。CLDN18.2抗体とCLDN18.2抗体-薬物複合体を1種又は複数種の活性剤と組み合わせて投与する場合に、当該組み合わせを任意の順番で又は同時に、がん患者に、特にCLDN18.2を高発現する腫瘍患者に投与することができる。いくつかの態様で、対象における過形成状態又は疾患(例えば、がん)を治療(例えば、軽減又は緩和)する方法を提供する。当該方法は、本発明に記載の1種又は複数種の抗CLDN18.2抗体又はCLDN18.2抗体-薬物複合体を単独で又は他の活性剤又は治療手段と組み合わせて対象に投与するステップを含む。
【0102】
抗CLDN18.2抗体分子を単独で又は別の免疫調節剤(例えば、抗LAG-3、抗Tim-3、抗PD-1又は抗PD-L1、抗CTLA-4抗体分子)と組み合わせて使用して胃がん、膵臓がん、肺がん、食道がん、卵巣がんなどを治療する。抗CLDN18.2抗体分子は、免疫療法、標的薬(例えば、VEGFに対するモノクローナル抗体などのVEGF阻害剤)、スニチニブ、ソラフェニブ、アパチニブなどのVEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤、哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)阻害剤などのRNAi阻害剤又はVEGFシグナル伝達下流メディエーターの阻害剤の1種又は複数種と組み合わせて投与することができる。
【0103】
本発明で使用される用語「がん」、「がん患者」には、組織病理学的タイプ又は侵襲性の段階に関係なく、全種類のがん性増殖物又は腫瘍形成過程、転移性組織又は悪性形質転換細胞、組織又は器官を含むことが意図されている。その例は、固形腫瘍、血液がん、軟部組織腫瘍、転移性病変を含み、ただしそれらに限定されない。
【0104】
本発明で開示されているCLDN18.2を標的とする抗体を使用して治療するのに適するがんの例は、胃がん、食道がん、肺がん、黒色腫、腎臓がん、乳がん、結腸直腸がん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がん、神経膠腫及び/又は白血病、又はその転移性病変を含み、ただしそれらに限定されない。
【0105】
なお、本発明で「バリアント1」、「バリアント2」などが言及される場合に、その数字「1」、「2」には実際の意味を持たず、同じものを指す。
【0106】
本分野の常識に矛盾しない限り、前記各好ましい条件を任意に組み合わせれば、本発明の各好ましい実施例を得ることができる。本発明で使用する試薬と原料はいずれも市販品であってもよい。
【0107】
本発明の有益な効果は次のとおりである。
本発明の抗体は従来技術と比べて、その結合親和性、ADCC(antibody-dependentcell-mediated cytotoxicity、抗体依存-細胞媒介細胞傷害)、CDC(complement dependent cytotoxicity、補体依存性細胞傷害)、成長阻害効果、内在化活性などにいずれも明らかな利点があるため、腫瘍の治療のための利用が見込まれる。本発明の好ましい実施例で、抗体HBM1029、PR003197、PR003340、PR003292、PR003293、PR003240、PR003291、PR003289、PR003890、PR003891、PR003894、PR003897及びPR003898はIMAB362アナログと比べて、CLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞に対してより高い結合親和性を示している。本発明の抗体HBM1029、PR003197、PR003340、PR003240、PR003894は用量依存的にNUGC4_D8においてIMAB362アナログより強いADCC効果を特異的に誘発することができ、抗体HBM1029、PR003197、PR003340は用量依存的にHEK293 hCLDN18.2においてIMAB362アナログより強いCDC効果を誘発することができ、抗体HBM1029は用量依存的にHEK293 hCLDN18.2においてIMAB362アナログより強い成長阻害効果を誘発することができ、抗体HBM1029は用量依存的にNUGC4_D8においてIMAB362アナログより強い内在化活性を誘発することができ、抗体HBM1029をMMAF結合抗ヒトIgG抗体と共培養する場合に、用量依存的にNUGC4_D8細胞及びHEK293 hCLDN18.2細胞においてIMAB362アナログより強い細胞毒性効果を生み出すこができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
図1図1のA、B、Cはそれぞれ、抗体HBM1029及びPR002727の、NUGC4_D8、HEK293 hCLDN18.2、HEK293 hCLDN18.1細胞に対する結合親和性を示す。
図2図2のA、Bは、抗体PR003197、PR003292、PR003293、PR003340のNUGC4_D8、HEK293 hCLDN18.2細胞に対する結合親和性を示し、図2のCは抗体PR003197、PR003292、PR003293、PR003340、PR002725のHEK293 hCLDN18.1細胞に対する結合親和性を示す。
図3図3のA、Bはそれぞれ、抗体PR003240、PR003291、PR003289及びHBM1029の、NUGC4_D8、HEK293 hCLDN18.1細胞に対する結合親和性を示す。
図4図4のA、Bはそれぞれ、抗体PR003890、PR003891、PR003894、PR003897、PR003898のNUGC4_D8、HEK293 hCLDN18.2細胞に対する結合親和性を示し、Cは抗体PR003890、PR003891、PR003894、PR003897、PR003898、PR002725及びHBM1029のHEK293 hCLDN18.1細胞に対する結合親和性を示す。
図5図5は抗体HBM1029がヒトPBMCによってNUGC4_D8、HEK293 hCLDN18.1細胞にADCC活性をを示すことを示す。
図6図6はPR003894、PR003240、PR003340、PR003197及びHBM1029がヒトPBMCによってNUGC4_D8細胞にADCC活性を示すことを示す。
図7図7はHBM1029、PR003894、PR003240、PR003340、PR003197、PR003891、PR003898がレポーター(reporter)細胞によってNUGC4_D8細胞にADCC活性を示すことを示す。
図8図8は抗体HBM1029がHEK293 hCLDN18.2細胞、HEK293 hCLDN18.1細胞及びNUGC4_D8細胞にCDC効果を誘発することを示す。
図9図9はHBM1029、PR003197、PR003340がHEK293 hCLDN18.2細胞にCDC効果を誘発することを示す。
図10図10は抗体HBM1029がHEK293 hCLDN18.1及びHEK293 hCLDN18.2に誘発した成長阻害活性を示す。
図11図11はNUGC4_D8細胞における抗体HBM1029の内在化活性を示す。(A)はNUGC4_D8細胞を200nM抗体と混合して異なる時間インキュベートしたもの、(B)はNUGC4_D8細胞を異なる濃度の抗体と混合して1時間インキュベートしたものである。
図12図12は抗体HBM1029をMMAF結合抗ヒトIgG抗体と共培養する場合の標的細胞の生存率である。
図13図13は抗体HBM1029とIMAB362-FITCアナログのHEK293 hCLDN18.2細胞における競合的結合親和性である。異なる濃度の抗体HBM1029、20nM IMAB362-FITCアナログ、HEK293 hCLDN18.2細胞を混合してインキュベートした。
図14図14はIMAB362アナログ、HBM1029の薬物動態プロファイルである。
図15図15はIMAB362アナログ、HBM1029のインビボ薬力学的研究である。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下、実施例によって本発明を一層説明し、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されない。下記の実施例で条件を詳しく記載していない実験方法は、通常の方法と条件で行われ、又は商品の取扱説明書に基づいて選択する。
【0110】
実施例1:抗原の製造、マウスの免疫化及びハイブリドーマの調製
a.マウスの免疫化のための発現ベクターの調製
完全ヒト化トランスジェニックマウスを免疫化するためのヒトCLDN18.2発現ベクターの調製方法は次のとおりである。ヒトCLDN18.2(Uniprot ID P56856-iso2)をコードするcDNA配列を合成し、酵素消化により前記遺伝子のコード配列をpCAGGSプラスミド(YOUBIO、VT1076)ににクローニングする。
【0111】
b.安定発現細胞株の調製
ヒトCLDN18.1又はCLDN18.2を安定的に発現するHEK293(ATCC、Cat#CRL-1573)細胞株の構築は具体的に次のとおりである。ヒトCLDN18.1(GenScript、OHu29174D)又はCLDN18.2(GenScript、OHu03374D)をコードするプラスミドをHEK293細胞にトランスフェクトして、ヒトCLDN18.1又はCLDN18.2を過剰発現する安定細胞株を生成した。蛍光活性化セルソーティング(FACS)によってCLDN18.1及びCLDN18.2の発現を検出した。具体的には、2万個の遺伝子導入細胞を96ウェルプレートの各ウェルにプレーティングし、その後、ウサギ抗ヒトCLDN18抗体(LifeSpan Bio、Cat#LS-C168812-400)市販品を加えた。4℃下で1時間インキュベートした後、プレートをPBSで2回洗浄し、さらにAF-680結合ヤギ抗ウサギIgG二次抗体(Invitrogen、Cat#A21109)を加えた。4℃下で1時間インキュベートした後、プレートをPBSで3回洗浄し、その後、FACS装置(IntelliCytiQue Plus BR)を使用して細胞の蛍光を監視した。
【0112】
実施例2:CLDN18.2モノクローナル抗体の生成及びスクリーニング
上記のように調製したヒトCLDN18.2発現ベクター及びヒトCLDN18.2を発現するHEK293細胞(HEK293 hCLDN18.2細胞)を使用して、完全ヒト化トランスジェニックマウス(HarbourH2L2マウス、市販品、和ハク医薬より購入)を免疫化した。ヒトCLDN18.2ベクターと金粉で遺伝子銃の弾丸を作って、遺伝子銃を用いてマウスの腹部の複数の部位で免疫化した。毎回は発現ベクターのDNA50μgで免疫化し、2週間の間隔で3回免疫化した後、HEK293 hCLDN18.2細胞で免疫化し、各マウスを毎回4×10の細胞で免疫化し、2週間の間隔で、2回免疫化した後にマウスから採血して力価を測定した。ヒトCLDN18.2を発現するCHOK1細胞(CHOK1 hCLDN18.2、kyinnoより購入(KC-1180))又はCLDN18.1を発現するCHOK1細胞(CHOK1 hCLDN18.1、kyinnoより購入(KC-1181))を使用してFACSによってマウス血清の結合親和性を検出した。免疫化マウスの血清力価検出結果に基づいて、ハイブリドーマ融合用のマウスを選択し、融合の3日前にマウスを強化免疫し、免疫原はHEK293 hCLDN18.2細胞であり、用量は4×10の細胞であった。マウスの脾臓細胞及びリンパ節細胞を採取してマウス骨髄腫細胞SP2/0と2:1の比率(細胞数比)で混合し、電気融合装置(BTX ECM2001)を用いて混合後の細胞を融合させ、融合した細胞を96ウェル細胞培養プレートにプレーティングし、二酸化炭素インキュベータにおいて37℃下で10日間培養した後、ハイブリドーマの一次スクリーニングを行った。一次スクリーニングではMirrorballにおいてヒトCLDN18.2を発現するCHOK1細胞を用いて検出し、詳しくは次のとおりである。細胞を培地(F12K 10%FBS)に再懸濁させて、細胞の密度を5×10細胞/mLに調整し、384ウェルプレートの各ウェルに40μLの細胞懸濁液を加えて、二酸化炭素インキュベータにおいて37℃下で一晩培養した。ウェルに核染色色素DRAQ5を加えて染色し、次にウェルプレートから上清を捨て、ハイブリドーマ培養プレートから50μLの上清を取り分けて384マイクロウェルプレートに加え、4℃下で2時間インキュベートした後、AF488結合蛍光二次抗体(invitrogen、Cat#A11006)を加えて4℃下で一晩インキュベートし、次に384マイクロウェルプレートをMirrorballにセットして検出した。陽性ハイブリドーマを選別し、96ウェル培養プレートから24ウェル培養プレートに移して拡大培養し、5日後に24ウェル培養プレートのウェルから上清を取って再スクリーニングした。再スクリーニングではCHOK1 hCLDN18.1及びCHOK1 hCLDN18.2細胞を使用してFACSによって検出した。細胞を300gで5分間遠心分離し、次に、FACSバッファー(2%FBSを含むPBS)で再懸濁させた。細胞の密度を10細胞/mLに調整し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの細胞懸濁液を加えた。96ウェルプレートの各ウェルに50μLの上清を加えた。4℃下で2時間インキュベートした後、プレートをFACSバッファーで2回洗浄した。その後、APC結合ヤギ抗ラットIgG二次抗体を含むFACSバッファー(Biolegend、Cat#405407)を加えた。4℃下で1時間インキュベートした後、プレートをFACSバッファーで2回洗浄した。細胞を固定液で再懸濁させた後、FACS装置(ACEA NovoCyte)を使用して細胞の蛍光を監視した。特異性の良いハイブリドーマを限界希釈によってサブクローニングし、二酸化炭素インキュベータにおいて37℃下で7日間培養した後、サブクローンの一次スクリーニングを行った。サブクローンの一次スクリーニングではMirrorballにおいてヒトCLDN18.2を発現するCHOK1細胞を使用して検出した。検出結果と顕微鏡下での観察により、モノクローナルであって且つCHOK1/CLDN18.2との結合が陽性であるクローンを選択し、24ウェル細胞培養プレートに拡大し、二酸化炭素インキュベータにおいて37℃下で3日間培養した後、ウェルから上清を取って再スクリーニングした。再スクリーニングではCHOK1 hCLDN18.1及びCHOK1 hCLDN18.2細胞株を使用してFACSによって検出した(ステップは上記の再スクリーニングと同じ)。特異的に結合するモノクローナルに対し、サブタイプ同定キット(invitrogen、Cat#88-50640-88)を用いてサブタイプを同定した。抗体サブタイプがIgG2bの細胞を選択して配列決定を行った(実施は金唯智生物科技有限公司)。
【0113】
当業者が知っているように、本分野では、例えば、配列可変性に基づくKabat定義方式(Kabat,et.al,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Edition,National Institutes of Health,Bethesda,Md(1991)参照)、構造ループ領域の位置に基づくChothia定義方式(JMol Biol 273:927-48,1997参照)など様々な方式で抗体のCDRを定義することができる。本願では、Kabat定義とChothia定義を組み合わせた(Combined)定義方式を採用して可変ドメイン配列のアミノ酸残基を決定することもできる。組み合わせた(Combined)定義方式はKabat定義とChothia定義の範囲を合わせたものであるため、範囲が拡大しており、詳細は発明の開示の部分の表1-1を参照する。当該実施例で配列決定した後の生殖細胞系列遺伝子分析及びPTM部位分析は次の表2に示すとおりである。抗原結合タンパク質変異部位の設計情報は次の表3に示すとおりである。抗原結合タンパク質の配列番号情報は次の表4に示すとおりである。
【表2】
【表3】
【表4】
【0114】
実施例3:全長CLDN18.2モノクローナル抗体の発現、精製及び特性評価
抗体分子の軽鎖、重鎖可変ドメインをコードする配列を得た後、通常の組換えDNA技術を採用して、軽鎖、重鎖可変ドメイン配列と対応するヒト抗体の軽鎖、重鎖定常ドメイン配列の融合発現を行って、組換え抗体分子を得ることができる。本実施例では、抗体重鎖可変ドメイン配列(VH)を遺伝的に合成しヒトIgG1抗体重鎖定常ドメイン配列をコードする哺乳動物細胞発現プラスミドベクターにクローニングすることによってIgG1抗体を生成する全長重鎖をコードする。抗体軽鎖可変ドメイン配列(VL)を遺伝的に合成しヒト抗体Igκ軽鎖定常ドメイン配列をコードする哺乳動物細胞発現プラスミドベクターにクローニングすることによって抗体を生成する全長軽鎖をコードする。本実施例では、免疫化されたHarbour H2L2マウスから得たモノクローナル抗体分子の可変ドメインの配列がヒト抗体配列であるため、本実施例では完全ヒト抗CLDN18.2組換えIgG1抗体を得た。
【0115】
抗体重鎖をコードするプラスミド(米Genscript)と抗体軽鎖をコードするプラスミド(米Genscript)の両方で哺乳動物宿主細胞(例えば、ヒト胎児腎細胞HEK293)をトランスフェクトし、通常の組換えタンパク質の発現と精製技術を利用して、軽鎖と重鎖が正しくペアリングして組み立てられた精製組換え抗体を得ることができる。具体的には、HEK293細胞をFreeStyle(商標)F17 Expression Medium培地(Thermo、Cat#A1383504)において拡大培養した。一過性トランスフェクションを始める前に、細胞濃度を6~8×10細胞/mLに調整し、37℃と8%COでシェーカーにおいて24時間培養し、細胞濃度は1.2×10細胞/mLであった。培養細胞を30mL用意した。前記抗体重鎖をコードするプラスミドと抗体軽鎖をコードするプラスミドを質量比2:3で混合し合計で30μgのプラスミドを1.5mLのOpti-MEM低血清培地(Thermo、Cat#31985088)に溶解し、0.22μmメンブレンフィルターで濾過して除菌した。さらに1.5mLのOpti-MEMを1mg/mL PEI(Polysciences、Cat#23966-2)120μLに溶解し、5分間静置した。PEIをゆっくりとプラスミドに加えて、室温下で10分間インキュベートし、培養フラスコを振りながらゆっくりとプラスミドとPEIの混合溶液を滴加し、37℃と8%COでシェーカーにおいて5日間培養した。5日後に細胞生存率を計測した。培養物を回収し、3300gで10分間遠心分離した後に上清を得、次に、高速遠心分離で上清から不純物を除去した。PBS(pH7.4)を用いて、MabSelect(商標)(GE Healthcare Life Science、Cat#71-5020-91 AE)を含む重力流カラム(Bio-Rad、Cat#7311550)を平衡化し、カラム2~5個分の体積で洗い流した。上清サンプルをカラムに通し、カラム5~10個分の体積のPBSでカラムを洗い流し、さらにpH3.5の0.1Mグリシンで目的タンパク質を溶出し、その後、pH8.0のTris-HClで中性に調整し、最後に限外濾過遠心管(Millipore、Cat#UFC901024)で濃縮してPBSバッファーに交換して、精製抗体溶液を得た。最後にNanoDrop(Thermo Scientific(商標)NanoDrop(商標)One)で濃度を測定し、分注して、保管しておく。
【0116】
上記のように精製したサンプルの適量を、それぞれ分析用SECカラムTSKgel G3000SWxl(HPLC装置型番はアジレント・テクノロジー、1260 Infinity II)に注入して、サンプルの純度を検出し、均質なサンプルの純度が95%以上となることを確認した。当該方法で移動相はpH7.4の1×PBS(生工生物工程、Cat#E607016)であり、室温で、流速は1.0mL/minであり、サンプル濃度は1mg/mLであり、注入量は20μLであり、検出波長は280nmである。データを収集した後、ソフトウェアChemStationを用いてクロマトグラムを積分して関連データを計算した。上記のように精製したサンプルの適量を、それぞれ分析用HICカラムTSKge1 Buty1-NPR 4.6×35(HPLC装置型番はアジレント・テクノロジー、1260 Infinity II)に注入して、サンプルの純度と疎水性を検出した。当該方法で100%移動相A(20mM PB、1.8M (NH4)SO、pH6.0)から100%移動相B(20mM PB、pH6.0)までの16分間の線形勾配で構成される。流速を0.7mL/minに設定し、サンプル濃度は1mg/mLであり、注入量は20μLであり、検出波長は280nmである。データを収集した後、ソフトウェアChemStationを用いてクロマトグラムを積分して関連データを計算した。示差走査蛍光定量法(Differential Scanning Fluorimetry、DSF)はタンパク質の熱安定性を測定するために一般的に利用されるハイスループットな方法である。リアルタイム蛍光定量PCR装置を使用して、折り畳まれていないタンパク質分子と結合した色素の蛍光強度の変化を監視することによって、タンパク質変性のプロセスを反映し、タンパク質分子の熱安定性を反映するものである。本実施例ではDSF法を用いてタンパク質分子の熱変性温度(Tm)を測定した。10μgのタンパク質を96ウェルPCRプレート(Thermo、Cat#AB-0700/W)に加え、続いて2μLの100×希釈した色素SYPROTM(Invitrogen、2008138)を加え、次にバッファーを加えて最終体積は各ウェル40μLとした。PCRプレートを密封し、リアルタイム蛍光定量PCR装置(Bio-Rad CFX96 PCR System)に静置して、まず25℃下で5分間インキュベートし、次に0.2℃/0.2minの勾配で25℃から徐々に95℃に加熱し、試験が終了した時に温度を25℃に下げた。FRET走査方式でソフトウェアBio-Rad CFX Maestroを用いてデータを分析しサンプルのTmを算出した。結果は次の表5に示すとおりである。
【表5】
【0117】
実施例4:CLDN18.2モノクローナル抗体の結合親和性
ヒトCLDN18.2又はCLDN18.1を発現するHEK293細胞及びヒトCLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞(JCRBより購入したNUGC細胞株(Cat#JCRB0834)を、限界希釈でスクリーニングしてNUGC4_D8サブクローン細胞を得る)を使用してFACSによって抗体の結合親和性を検出し、具体的には次のとおりである。細胞を300gで5分間遠心分離し、次に、FACSバッファー(2%FBSを含むPBS)で再懸濁させた。細胞の密度を10細胞/mLに調整し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの細胞懸濁液を加えた。抗体をFACSバッファーで異なる濃度に希釈し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの抗体希釈液を加えた。4℃下で2時間インキュベートした後、プレートをFACSバッファーで2回洗浄した。その後、APC結合ヤギ抗ヒトIgG二次抗体を含むFACSバッファー(最終濃度1.5μg/mL、Jackson、Cat#109-605-098)を加えた。4℃下で1時間インキュベートした後、プレートをFACSバッファーで2回洗浄した。細胞を固定液で再懸濁させた後、FACS装置(ACEA NovoCyte)を使用して細胞の蛍光を監視した。IMAB362アナログ(IMAB362アナログは自ら調製したもので、重鎖アミノ酸配列は配列番号75に示すとおりであり、軽鎖アミノ酸配列は配列番号91に示すとおりである(合成はGenscript社)。IMAB362と可変領域が全く同じで、定常領域ではいくつかのアミノ酸が違うだけで、活性は類似している)を陽性コントロールとし、human Iso IgG1(CrownBio、Cat#C0001-4)抗体を陰性コントロールとした。図1は、CLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞及びヒトCLDN18.2を過剰発現するHEK293細胞(HEK293 hCLDN18.2)又はヒトCLDN18.1を過剰発現するHEK293細胞(HEK293 hCLDN18.1)に対する抗体HBM1029の結合親和性を示す。抗体PR002727は用量依存的にNUGC4_D8細胞と結合することができる。抗体HBM1029は用量依存的にHEK293 hCLDN18.2及びNUGC4_D8細胞と結合することができる。抗体HBM1029はHEK293 hCLDN18.2細胞に対する結合親和性がIMAB362アナログと同等であり、抗体HBM1029はIMAB362アナログよりもCLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞と高い結合親和性を示している。HBM1029のEC50を表7に示し、HBM1029はIMAB362アナログよりもCLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞に対する結合親和性を示すEC50が低かった。HBM1029はHEK293 hCLDN18.1細胞との結合親和性が低い。また、HBM1029はヒトCLDN18.2タンパク質のECL2ではなくECL1(細胞外ループ1、Extracellular loop 1)と結合すると推察できよう。図2図3及び図4はCLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞又はヒトCLDN18.2を過剰発現するHEK293細胞(HEK293 hCLDN18.2)又はヒトCLDN18.1を過剰発現するHEK293細胞(HEK293 hCLDN18.1)に対するCLDN18.2抗体の結合親和性を示す。結果では、抗体HBM1029、PR003197、PR003340、PR003292、PR003293、PR003240、PR003291、PR003289、PR003890、PR003891、PR003894、PR003897、PR003898はIMAB362アナログよりもCLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞と高い結合親和性を示し、HEK293 hCLDN18.1細胞との結合親和性が低く、PR002725の方はHEK293 hCLDN18.1との親和性が高いことが示されている。
【表6】
【表7】
【0118】
実施例5:CLDN18.2抗体のADCC活性
CytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害アッセイキット(Promega、Cat#G1780)を使用して、CLDN18.2抗体のヒトCLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞及びHEK293 hCLDN18.1にADCC効果を誘発する活性を検出した。ヒトPBMC(Miaotong)を300gで5分間遠心分離し、培地(RPMI1640+10%FBS)で一晩培養した。標的細胞及びヒトPBMCを300gで5分間遠心分離し、次に、培地(RPMI1640+2%FBS)で再懸濁させた。標的細胞の密度を2×10細胞/mLに調整して、PBMCの細胞密度を少なくとも6×106/mLに調整し、2種類の細胞を各50μL、96ウェルプレートのウェルに加えた(感染多重度は少なくとも30:1)。被検抗体を培地(RPMI1640+2%FBS)で異なる濃度に希釈して各ウェルに加えた。サンプルを37℃下で少なくとも4時間インキュベートし、次に、標的細胞最大LDH放出コントロールウェル及び体積補正コントロールウェル(Volume correction control)に10×Triton-X 100 Lysate(RPMI1640+2%FBS+10%Triton-X 100)を加え、均一に混合して37℃下で30分間インキュベートした。96ウェルプレートを300gで5分間遠心分離し、上清から50μL取り分けて、次に50μL/ウェルでLDH発色溶液を加えた。混合物を暗所で常温下20分間静置した後、プレートをMD StakMaxにセットしてOD490を読み取った。IMAB362アナログを陽性コントロールとし、human Iso IgG1(CrownBio、Cat#C0001-4)抗体を陰性コントロールとした。結果を得てまず補正測定値を計算し、試験ウェル、標的細胞LDH自発放出コントロールウェル、エフェクター細胞LDH自発放出コントロールウェルの測定値から培地バックグラウンドコントロールウェルの測定値を差し引き、次に、標的細胞最大LDH放出コントロールウェルの測定値から体積補正コントロールウェルの測定値を差し引いた。ADCC活性(%)=(試験ウェルの補正測定値-エフェクター細胞LDH自発放出コントロールウェルの補正測定値-標的細胞LDH自発放出コントロールウェルの補正測定値)/(標的細胞最大LDH放出コントロールウェルの補正測定値-標的細胞LDH自発放出コントロールウェルの補正測定値)×100。図5はCLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞及びHEK293 hCLDN18.1に対する抗体HBM1029のADCC活性を示す。抗体HBM1029は用量依存的にNUGC4_D8においてIMAB362アナログより強いADCC効果を特異的に誘発することができるが、CLDN18.1を過剰発現するHEK-293細胞には細胞毒性効果が見られなかった。HBM1029のEC50を表8に示し、HBM1029はIMAB362アナログよりNUGC4_D8にADCCを誘発するEC50が低かった。
【表8】
【0119】
図6はHBM1029、PR003197、PR003340、PR003240、PR003894のCLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞に対するADCC活性を示し、HBM1029、PR003197、PR003340、PR003240、PR003894は用量依存的にNUGC4_D8においてIMAB362アナログより強いADCC効果を特異的に誘発することができる。
【0120】
Jurkat FcγRIIIa-V158/NFAT-Luc細胞を使用して、CLDN18.2抗体のNUGC4_D8及びHEK293 hCLDN18.1にADCC効果を誘発する活性を検出した。NUGC4_D8及びHEK293 hCLDN18.1を300gで5分間遠心分離し、次に、RPMI1640+4%FBS血清培地で再懸濁させた。細胞の密度を6×10細胞/mLに調整し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの細胞懸濁液を加えて、37℃下で一晩インキュベートした。Jurkat FcγRIIIa-V158/NFAT-Luc細胞を400gで4分間遠心分離し、次に、RPMI1640+4%FBS血清培地で再懸濁させた。細胞の密度を3×10細胞/mLに調整し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの細胞懸濁液を加えた。抗体をRPMI1640+4%FBS培地で異なる濃度に希釈し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの抗体希釈液を加えた。細胞と抗体を37℃下で5時間インキュベートした。96ウェルプレートを常温下で30分間静置し、60μL/ウェルで常温のOne-Glo発色溶液(Promega)を加えた。その後、サンプルを暗所で常温下10分間インキュベートした。PE Enspireにおいて読み取った。IMAB362アナログを陽性コントロールとし、human Iso IgG1(CrownBio、Cat#C0001-4)抗体を陰性コントロールとした。図7はCLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞に対するCLDN18.2抗体のADCC活性を示し、HBM1029、PR003197、PR003340、PR003240、PR003894、PR003891、PR003898は用量依存的にNUGC4_D8においてIMAB362アナログより強いADCC効果を特異的に誘発することができる。
【0121】
実施例6:CLDN18.2抗体のCDC活性
CellTiter-Glo発光細胞生存率アッセイキット(Promega、Cat#G7573)を使用して、CLDN18.2抗体のHEK293 hCLDN18.1、HEK293 hCLDN18.2及びNUGC4_D8細胞にCDC効果を誘発する能力を検出した。標的細胞HEK293 hCLDN18.1及びHEK293 hCLDN18.2を300gで5分間遠心分離し、次に、DMEM無血清培地で再懸濁させた。標的細胞NUGC4_D8を300gで5分間遠心分離し、次に、RPMI1640無血清培地で再懸濁させた。標的細胞の密度を4×10細胞/mLに調整し、96ウェルプレートの各ウェルに25μLの細胞懸濁液を加えた。抗体を無血清培地で異なる濃度に希釈し、96ウェルプレートの各ウェルに25μLの抗体希釈液を加えた。50μLの正常ヒト血清(GemCell、Cat#100-512)を加えて、最終濃度は50%であり、混合物を得て37℃下で24時間インキュベートした。96ウェルプレートを常温下で30分間静置し、100μL/ウェルで常温のCellTiter-Glo発色溶液を加えた。その後、サンプルを暗所で常温下10分間インキュベートした。PE Enspireにおいて読み取った。CDC活性(%)=[1-(発光サンプル[luminescent sample])/(発光モックコントロール[luminescent mock control])]×100。IMAB362アナログを陽性コントロールとし、human Iso IgG1(CrownBio、Cat#C0001-4)抗体を陰性コントロールとした。図8はCLDN18.2を内因的に発現するNUGC4_D8細胞、ヒトCLDN18.1を過剰発現するHEK293細胞及びヒトCLDN18.2を過剰発現するHEK293細胞に対する抗体HBM1029のCDC活性を示す。抗体HBM1029は用量依存的にHEK293 hCLDN18.2においてIMAB362アナログより強いCDC効果を誘発することができるが、NUGC4_D8細胞及びヒトCLDN18.1を過剰発現するHEK293細胞にはCDC活性が見られなかった。HBM1029のEC50を表9に示し、HBM1029はIMAB362アナログよりもHEK293 hCLDN18.2にCDCを誘発するEC50が低かった。
【表9】
【0122】
図9はヒトCLDN18.2を過剰発現するHEK293細胞に対するPR003197、PR003340のCDC活性を示す。抗体PR003197、PR003340は用量依存的にHEK293 hCLDN18.2においてIMAB362アナログより強いCDC効果を誘発することができる。
【0123】
実施例7:CLDN18.2抗体の成長阻害活性
CellTiter-Glo発光細胞生存率アッセイキット(Promega、Cat#G7573)を使用して、CLDN18.2抗体のHEK293 hCLDN18.1及びHEK293 hCLDN18.2に成長阻害を誘発する能力を検出した。HEK293 hCLDN18.1及びHEK293 hCLDN18.2細胞を300gで5分間遠心分離し、次に、DMEM+0.5%FBS血清培地で再懸濁させた。細胞の密度を1.2×10細胞/mLに調整し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの細胞懸濁液を加えて、37℃下で一晩インキュベートした。抗体を培地で異なる濃度に希釈し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの抗体希釈液を加えた。HEK293 hCLDN18.1及びHEK293 hCLDN18.2細胞と抗体を37℃下で3日間インキュベートした。96ウェルプレートを常温下で30分間静置し、100μL/ウェルで常温のCellTiter-Glo発色溶液を加えた。その後、サンプルを暗所で常温下10分間インキュベートした。PE Enspireにおいて読み取った。成長阻害活性(%)=[1-(発光サンプル[luminescent sample])/(発光モックコントロール[luminescent mock control])]×100。IMAB362アナログを陽性コントロールとし、human Iso IgG1(CrownBio、Cat#C0001-4)抗体を陰性コントロールとした。図10は抗体HBM1029のHEK293 hCLDN18.1及びHEK293 hCLDN18.2に成長阻害を誘発する活性を示す。抗体HBM1029は用量依存的にHEK293 hCLDN18.2においてIMAB362アナログより強い成長阻害効果を誘発することができる。HBM1029のEC50を表10に示す。
【表10】
【0124】
実施例8:CLDN18.2抗体の内在化(internalization)活性(FACSに基づくアッセイ[FACS-based assay])
NUGC4_D8細胞を使用してFACSによって抗体の内在化活性を検出した。トリプシンで細胞を処理し、FACSバッファー(2%FBSを含むPBS)で1回洗浄した。細胞を300gで5分間遠心分離し、次に、FACSバッファーで再懸濁させた。細胞の密度を4×10細胞/mLに調整して、氷上に置いて30分間予冷した。抗体をFACSバッファーで異なる濃度に希釈して、氷上に置いて30分間予冷した。予冷したディープウェルプレートのウェルに700μLの細胞懸濁液、及び700μLの抗体希釈液を加えた。4℃下で2時間インキュベートした後、予冷したFACSバッファーでプレートを3回洗浄した。250μLの予冷したFACSバッファーで細胞を再懸濁させ、37℃下で予熱したディープウェルプレートのウェルに100μLの細胞懸濁液、及び1.1mLの37℃下で予熱したFACSバッファーを加え、4℃下で予冷したディープウェルプレートのウェルに100μLの細胞懸濁液、及び1.1mLの4℃下で予冷したFACSバッファーを加えた。混合物を得てそれぞれ0、30、60、120及び240分間で50μLの細胞懸濁液を取り分けて(10/ウェルで)、予め予冷したディープウェルプレート(1.2mLのFACSバッファーを含む)に入れた。細胞を300gで5分間遠心分離し、その後、AF647結合ヤギ抗ヒトIgG二次抗体を含む予冷FACSバッファー(最終濃度1.5μg/mL、Jackson、Cat#109-605-088)を加えた。4℃下で1時間インキュベートした後、予冷したFACSバッファーでプレートを2回洗浄した。細胞を固定液で再懸濁させ、その後、FACS装置(BD Canto II)を使用して細胞の蛍光を検出した。内在化活性(%)=(1-MFI37℃/MFI4℃)×100。IMAB362アナログを陽性コントロールとし、human Iso IgG1(CrownBio、Cat#C0001-4)抗体を陰性コントロールとした。図11は異なる時間インキュベートした抗体HBM1029のNUGC4_D8細胞に対する内在化活性を示す。抗体HBM1029を30分間インキュベートした後、約50%の内在化活性が誘発された。また図11には、抗体HBM1029は用量依存的にNUGC4_D8においてIMAB362アナログより強い内在化活性を誘発できることが示されている。HBM1029のEC50を表11に示し、HBM1029はIMAB362アナログよりもNUGC4_D8に内在化を誘発するEC50が低かった。
【表11】
【0125】
実施例9:CLDN18.2抗体の内在化活性(細胞毒性に基づく方法[cytotoxicity-based method])
CellTiter-Glo発光細胞生存率アッセイキット(Promega、Cat#G7573)を使用して、HEK293 hCLDN18.1、HEK293 hCLDN18.2及びNUGC4_D8細胞に対し、MMAF結合抗ヒトIgG抗体(Moradec、Cat#AH-102-AF)と共培養した抗体HBM1029の細胞毒性を誘発する能力を検出した。HEK293 hCLDN18.1及びHEK293 hCLDN18.2細胞を300gで5分間遠心分離し、次に、DMEM+10%FBS血清培地で再懸濁させ、細胞の密度を4×10細胞/mLに調整した。NUGC4_D8細胞を300gで5分間遠心分離し、次に、RPMI1640+10%FBS血清培地で再懸濁させ、細胞の密度を2×10細胞/mLに調整し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの細胞懸濁液を加えて、37℃下で一晩インキュベートした。抗体HBM1029を培地で異なる濃度に希釈し、96ウェルプレートの各ウェルに25μLの抗体希釈液を加えた。MMAF結合抗ヒトIgG抗体を培地で希釈し、96ウェルプレートの各ウェルに25μLの抗体希釈液を加え、最終濃度は6.6nMであった。細胞と抗体を37℃下で3日間インキュベートした。96ウェルプレートを常温下で30分間静置し、100μL/ウェルで常温のCellTiter-Glo発色溶液を加えた。その後、サンプルを暗所で常温下10分間インキュベートした。PE Enspireにおいて読み取った。細胞生存率(%)=[(発光サンプル[luminescent sample])/(発光モックコントロール[luminescent mock control])]×100。IMAB362アナログを陽性コントロールとし、human Iso IgG1(CrownBio、Cat#C0001-4)抗体を陰性コントロールとした。図12は抗体HBM1029をMMAF結合抗ヒトIgG抗体と共培養する場合の標的細胞の生存率を示す。抗体HBM1029をMMAF結合抗ヒトIgG抗体と共培養する場合に、用量依存的にNUGC4_D8細胞及びHEK293 hCLDN18.2細胞においてIMAB362アナログより強い細胞毒性効果を生み出すこができるが、HEK293 hCLDN18.1細胞には細胞毒性効果が見られなかった。
【0126】
実施例10:抗体HBM1029の競合的結合活性
ヒトCLDN18.2を発現するHEK293細胞を使用して、FACSによって抗体の競合的結合親和性を検出した。IMAB362アナログはFITC蛍光カップリングキット(Abcam、Cat#ab188285)を使用して結合させてIMAB362-FITCアナログにした。細胞を300gで5分間遠心分離し、次に、FACSバッファー(2%FBSを含むPBS)で再懸濁させた。細胞の密度を10細胞/mLに調整し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの細胞懸濁液を加えた。FITCカップリング抗体をFACSバッファーで希釈し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLのカップリング抗体希釈液を加えた。競合的結合に用いる抗体をFACSバッファーで異なる濃度に希釈し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLの抗体希釈液を加えた。4℃下で2時間インキュベートした後、プレートをFACSバッファーで2回洗浄した。細胞を固定液で再懸濁させた後、FACS装置(ACEA NovoCyte)を使用して細胞の蛍光を監視した。human Iso IgG1(CrownBio、Cat#C0001-4)抗体を陰性コントロールとした。図13は抗体HBM1029とIMAB362-FITCアナログのHEK293 hCLDN18.2細胞における競合的結合親和性を示す。抗体HBM1029は用量依存的にHEK293 hCLDN18.2細胞と競合的に結合することができるため、抗体HBM1029はIMAB362アナログと結合するエピトープが類似すると推察できよう。HBM1029はIMAB362アナログと競合して、CLDN18.2発現細胞とのその結合を阻害することができ、またIMAB362アナログはCLDN18.1と結合せずCLDN18.2としか結合しないと知っているため、HBM1029はヒトCLDN18.2タンパク質のECL2ではなくECL1(細胞外ループ1、Extracellular loop 1)と結合すると推察できよう。
【0127】
実施例11:CLDN18.2抗体の薬物動態研究
以下の手順でCLDN18.2抗体の薬物動態を検討した。体重18~22gの雌BALB/cヌード(nude)マウス6匹を選択し、5mg/kgの用量で静脈内注射により抗体薬を投与し、1群の3匹は投与前及び投与後の15分、24時間(1日)、4日目、10日目に全血を採取し、もう1群の3匹は投与前及び投与後の5時間、2日目、7日目、14日目に全血を採取した。全血を30分間静置して凝固させ、その後、4℃下で2000rpmで5分間遠心分離し、分離した血清サンプルを-80℃下で分析に備えて凍結させた。本実施例ではELISA法でマウス血清中の薬物濃度を定量的に測定した。ELISA法とは、96ウェルプレートにコーティングされたヤギ抗ヒトFcポリクローナル抗体でマウス血清中のヒトFc含有抗体を捕捉し、次に、HRP標識ヤギ抗ヒトFc二次抗体を加えて検出した。ソフトウェアPhoenix WinNonlinのバージョン8.2を用いて、非コンパートメントモデル(NCA)で血中薬物濃度データを分析することによってその薬物動態パラメーターを評価した。
【0128】
図14及び表12に示すのはIMAB362アナログ、HBM1029の薬物動態パラメーターである。結果では、マウスにおけるIMAB362アナログ、HBM1029の半減期がそれぞれ248、282時間であることが示されていた。
【表12】
【0129】
実施例11:CLDN18.2抗体のインビボ薬力学的研究
以下の手順でCLDN18.2抗体のインビボ薬力学的研究を行った。細胞播種の当日に、各NCGマウスに5×10のNUGC4_D8腫瘍細胞を皮下接種し、腫瘍細胞をまずPBSとマトリゲル(Matrigel)の1:1混合液(0.1mL)に再懸濁させ、次に、PBMC(0.05mLのPBSに再懸濁したもの)と混合して、皮下接種した。各群のマウスの平均腫瘍体積が90mmになると群分け投与を行い、18匹のマウスを3群に分け、群分けした後に投与を開始し、投与頻度は週2回で、合計で6回投与し、投与経路は尾静脈注射であった。投与が始まってから、週2回体重と腫瘍体積を測定し、腫瘍体積の計算式は腫瘍体積(mm)=0.5×腫瘍長径×腫瘍短径である。投与後21日目に実験を終了し、その後、全てのマウスを安楽死させた。データ分析ではt検定(t-test)を採用した。図15に示すのはIMAB362アナログ、HBM1029のインビボ薬力学的研究結果である。投与後21日目に、コントロール群のマウスの平均腫瘍体積は1526mmであった。試験薬IMAB362アナログ(50mg/kg)治療群では投与後21日目に平均腫瘍体積が728mmで、ビヒクルコントロール群と有意差が認められ(p=0.0052)、腫瘍阻害率TGI(%)は52.29%であった。試験薬HBM1029(50mg/kg)治療群は投与後21日目に平均腫瘍体積が618mmで、ビヒクルコントロール群と有意な腫瘍阻害効果が認められ(p=0.0009)、腫瘍阻害率TGI(%)は59.47%であった。治療-投与期間全体を通じて、動物は良好な忍容性を示しており、深刻な体重減少又は死亡はなかった。
【0130】
本発明の実施形態は上記のように詳しく記載されているが、当業者は、これらが単なる例に過ぎず、本発明の原理と趣旨を逸脱することなく、これらの実施形態に様々な変更又は修正を行えることを理解できる。したがって、本発明の保護範囲は添付の特許請求の範囲から限定される。
図1
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【配列表】
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