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特許7461519ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20240327BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240327BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240327BHJP
   C08F 4/654 20060101ALI20240327BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240327BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20240327BHJP
   B65D 65/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/08
C08K3/013
C08F4/654
B29C45/00
B29C45/26
B65D65/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023003794
(22)【出願日】2023-01-13
【審査請求日】2023-10-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】中島 武
(72)【発明者】
【氏名】丸山 真範
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-102090(JP,A)
【文献】特開2022-149485(JP,A)
【文献】特開2017-222850(JP,A)
【文献】特開2012-241055(JP,A)
【文献】特開2012-001655(JP,A)
【文献】国際公開第2022/270630(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08F 4/00- 4/82
B29C45/00
B29C45/26
B65D65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン重合体(a1)からなる連続相と、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体(a2)からなるゴム相とを含むポリプロピレン系樹脂(A)、
エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体である任意成分のエチレン・αオレフィン共重合体(B)、及び無機フィラー(C)を含有するポリプロピレン系樹脂組成物であって、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対して、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の含有割合が、70質量%以上90質量%未満であり、
前記エチレン・αオレフィン共重合体(B)の含有割合が、0~20質量%であり、 前記無機フィラー(C)の含有割合が、7~55質量%であり、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRが70~130g/10分であり、
前記プロピレン重合体(a1)の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比率(Mw/Mn)が4~10であり、
前記プロピレン重合体(a1)中のエチレン由来単位含有量が、前記プロピレン重合体(a1)の総質量に対して0.5質量%以下であり、
前記共重合体(a2)の含有量が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)の総質量に対して25~45質量%であり、
前記共重合体(a2)中のエチレン由来単位含有量が、前記共重合体(a2)の総質量に対して20~50質量%であり、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)のキシレン可溶分の、135℃のテトラヒドロナフタレン中での極限粘度が1.2~7.0dl/gであり、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRが70~130g/10分である、ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記プロピレン重合体(a1)と、前記共重合体(a2)とは重合によって混合され、前記ポリプロピレン系樹脂(A)は、下記(ア)~(ウ)の成分を含む触媒を用いて製造された重合混合物である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
(ア)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び電子供与体化合物としてのフタレート系化合物を含有する固体触媒
(イ)有機アルミニウム化合物
(ウ)外部電子供与体化合物である有機ケイ素化合物
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、下記(ア)~(ウ)の成分を含む触媒を用いて、前記プロピレン重合体(a1)の存在下で、エチレン単量体及び炭素数3~10のαオレフィン単量体を重合して前記ポリプロピレン系樹脂(A)を得る工程を有する、ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
(ア)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び電子供与体化合物としてのフタレート系化合物を必須成分として含有する固体触媒
(イ)有機アルミニウム化合物
(ウ)外部電子供与体化合物である有機ケイ素化合物
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物の射出成形品。
【請求項5】
最も薄肉の部分の厚さが1mm以下である、請求項4に記載の射出成形品。
【請求項6】
容器の形状に成形されており、前記容器の側壁の厚さが0.1~1mmである、請求項4に記載の射出成形品。
【請求項7】
-10℃以下の低温環境下で使用される用途の請求項4に記載の射出成形品。
【請求項8】
食品に接する、容器又は包装体として使用される用途の請求項4に記載の射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、耐衝撃性、剛性、透明性、耐薬品性、耐熱性等の物性に優れることから、種々の用途に使用されている。世界的に使用量の多い樹脂であるため、焼却処分時のCO排出量も必然的に多い問題がある。この問題に対して、樹脂成形品に含まれる樹脂成分を低減するべく、無機物質からなるフィラーを原料として配合する試みがある。例えば特許文献1には、スルホン酸又はその塩を含有する表面処理剤によって処理された炭酸カルシウムを樹脂成分よりも多く配合した成形品が開示されている。この発明によれば、食品容器の用途において酸性条件下で炭酸カルシウムが溶出することを抑制できる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6962631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では当該樹脂組成物を射出成形することまでは具体的に検討されていない。特許文献1の実施例では樹脂としてポリプロピレン単独重合体を使用した例のみが記載され、押出成形で厚さ0.3mmのシートを成形したに過ぎない。炭酸カルシウムを高充填しており、樹脂成分は何ら工夫されていないことから、溶融成形時の樹脂組成物の流動性は射出成形に適していない。
【0005】
本発明者らの検討によれば、ポリプロピレン系樹脂組成物の射出成形によって食品容器を良好に形成するためには樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)の調整が必要である。無機フィラーを高濃度で配合すると流動性は悪化するので、混合する樹脂成分の流動性を高める必要がある。例えば、重合や混錬条件の制御により低分子量化したポリプロピレン単独重合体を用いることや、プロピレン系ワックスを添加することによりMFRを高めることが考えられるが、射出成形品の耐衝撃性が劣化する懸念がある。
【0006】
ポリプロピレン単独重合体に代えて、耐衝撃性ポリプロピレンを使用することが考えられる。耐衝撃性ポリプロピレンは、プロピレン重合体の存在下でエチレン・αオレフィン共重合体を重合することにより、プロピレン重合体の連続相とその連続相に分散されたエチレン・αオレフィン共重合体のゴム相を含むものである。
しかしながら、そのゴム相の濃度を高めると、恐らくはゴム相に由来する成分が射出成形品の使用時に溶出する懸念がある。
【0007】
食品に接する容器等の包装材として使用される成形体には、成形体の成分が食品に滲出し難いことが求められる。国が定める基準(厚生省告示第370号)には、ポリプロピレンを主成分とする容器(試験片)をn-ヘプタンに浸漬する溶出試験を行い、溶出された成分の量が所定値以下であることが求められている。その所定値は使用温度によって異なるが、加熱する用途も考慮に入れると、その基準は30μg/ml以下が望ましい。
【0008】
本発明は、焼却処分時のCOの排出量を削減しつつ、成形性、剛性、耐衝撃性に優れ、n-ヘプタンへの溶出成分が少ない射出成形品が得られる、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] プロピレン重合体(a1)からなる連続相と、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体(a2)からなるゴム相とを含むポリプロピレン系樹脂(A)、
エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体である任意成分のエチレン・αオレフィン共重合体(B)、及び無機フィラー(C)を含有するポリプロピレン系樹脂組成物であって、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対して、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の含有割合が、45~93質量%であり、
前記エチレン・αオレフィン共重合体(B)の含有割合が、0~20質量%であり、
前記無機フィラー(C)の含有割合が、7~55質量%であり、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRが10~130g/10分であり、
前記プロピレン重合体(a1)の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比率(Mw/Mn)が4~10であり、
前記プロピレン重合体(a1)中のエチレン由来単位含有量が、前記プロピレン重合体(a1)の総質量に対して0.5質量%以下であり、
前記共重合体(a2)の含有量が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)の総質量に対して25~45質量%であり、
前記共重合体(a2)中のエチレン由来単位含有量が、前記共重合体(a2)の総質量に対して20~50質量%であり、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)のキシレン可溶分の、135℃のテトラヒドロナフタレン中での極限粘度が1.2~7.0dl/gであり、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRが10~130g/10分である、ポリプロピレン系樹脂組成物。
[2] 前記プロピレン重合体(a1)と、前記共重合体(a2)とは重合によって混合され、前記ポリプロピレン系樹脂(A)は、下記(ア)~(ウ)の成分を含む触媒を用いて製造された重合混合物である、[1]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
(ア)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び電子供与体化合物としてのフタレート系化合物を含有する固体触媒
(イ)有機アルミニウム化合物
(ウ)外部電子供与体化合物である有機ケイ素化合物
[3] [1]又は[2]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、下記(ア)~(ウ)の成分を含む触媒を用いて、前記プロピレン重合体(a1)の存在下で、エチレン単量体及び炭素数3~10のαオレフィン単量体を重合して前記ポリプロピレン系樹脂(A)を得る工程を有する、ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
(ア)マグネシウム、チタン、ハロゲン、及び電子供与体化合物としてのフタレート系化合物を必須成分として含有する固体触媒
(イ)有機アルミニウム化合物
(ウ)外部電子供与体化合物である有機ケイ素化合物
[4] [1]又は[2]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物の射出成形品。
[5] 最も薄肉の部分の厚さが1mm以下である、[4]に記載の射出成形品。
[6] 容器の形状に成形されており、前記容器の側壁の厚さが0.1~1mmである、[4]又は[5]に記載の射出成形品。
[7] -10℃以下の低温環境下で使用される用途の[4]~[6]の何れか一項に記載の射出成形品。
[8] 食品に接する、容器又は包装体として使用される用途の[4]~[7]の何れか一項に記載の射出成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を使用すれば、焼却処分時のCOの排出量を削減しつつ、成形性、剛性、耐衝撃性に優れ、さらに食品衛生性にも優れる(n-ヘプタンへの溶出成分が少ない)射出成形品が得られる。
また、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、薄肉射出成形に適している。
本発明の射出成形品は、上記の機械物性のバランスに優れるので、食品包装用途(容器・ドリンクカップ等)に特に適している。また、食品包装用途以外にも、例えば、雑貨、日用品、家電部品、電機電子部品、自動車部品、筐体部材、玩具部材、家具部材、建材部材、包装部材、工業資材、物流資材、農業資材等の用途に使用してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪ポリプロピレン系樹脂組成物≫
本発明の第一態様は、プロピレン重合体(以下、成分(a1)ともいう)からなる連続相と、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体(以下、成分(a2)ともいう)からなるゴム相とを含むポリプロピレン系樹脂(A)(以下、成分(A)ともいう)を含有し、さらに、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体である任意成分のエチレン・αオレフィン共重合体(B)(以下、成分(B)ともいう)、及び無機フィラー(C)(以下、成分(C)ともいう)を含有する、ポリプロピレン系樹脂組成物である。
成分(B)は任意成分であり、本態様のポリプロピレン系樹脂組成物に含まれてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0012】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の含有割合は、前記ポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対して45~93質量%であり、55~93質量%が好ましく、65~93質量%がより好ましく、70~93質量%がさらに好ましい。
前記範囲の下限値以上であれば、成形性が高まる。
前記範囲の上限値以下であれば、成分(C)を充分に含有することができる。
【0013】
前記エチレン・αオレフィン共重合体(B)の含有割合は、前記ポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対して0~20質量%であり、0~15質量%が好ましく、0~10質量%がより好ましく、0質量%がさらに好ましい。
(B)成分を含有すると、射出成形品の耐衝撃性が高まる。
前記範囲の上限値以下であると、射出成形品の剛性が高まる。
【0014】
前記無機フィラー(C)の含有割合は、前記ポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対して7~55質量%であり、10~50質量%が好ましく、15~45質量%がより好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。後述する無機フィラー(C)のマスターバッチのドライブレンドにより、成形品の用途に応じて樹脂組成物中の無機フィラー(C)の含有割合を容易に調整できる。
(C)成分を含有することにより、焼却処分時のCO排出量を削減することができる。
前記範囲の下限値以上であると、射出成形品の剛性が高まる。
前記範囲の上限値以下であると、射出成形品の耐衝撃性が高まる。
【0015】
ポリプロピレン系樹脂組成物の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRは、10~130g/10分であり、15~120g/10分がより好ましく、20~110g/10分がより好ましく、25~100g/10分がさらに好ましく、30~90g/10分が最も好ましい。ここで、前記MFRは後述する測定方法で測定された値である。
前記範囲の下限値以上であると、薄肉射出成形の際にも成形型内への充填不良が発生し難く、ハイサイクル(高速)の成形にも対応することができる。
前記範囲の上限値以下であると、射出成形品の耐衝撃性を高めることができる。
【0016】
[ポリプロピレン系樹脂(A)]
本態様のポリプロピレン系樹脂組成物に含有されるポリプロピレン系樹脂(A)は、JIS K6921-1で規定される耐衝撃性ポリプロピレンポリマーの一態様であり、プロピレン重合体(成分(a1))の連続相と、その連続相の中に分散相として存在するエチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))のゴム相を含む二つ以上の相で構成される。
ポリプロピレン系樹脂(A)は、成分(a1)と成分(a2)とが重合時に混合された混合樹脂であってもよいし、別々に得られた成分(a1)と成分(a2)とが、溶融混練によって混合された混合樹脂であってもよい。剛性と低温耐衝撃性と引張特性とのバランス(以下「機械物性バランス」ともいう。)に優れるものがより安価で得られることから、成分(a1)と成分(a2)とが重合時に混合されたもの(重合混合物)であることが好ましい。
重合混合物では、成分(a1)と成分(a2)とがサブミクロンオーダーで混じり合うことが可能であるため、重合混合物をベースとしたポリプロピレン系樹脂組成物は、優れた機械物性バランスを示す。
一方、別々に得られた成分(a1)と成分(a2)とを溶融混練して得た単なる機械混合物で同様な均一混合を実現して優れた機械物性バランスを得る場合には、貯蔵・保管・移送・計量・混合・溶融混練等の別工程を経る必要性から製造コストが高くなる。エネルギーコストの観点からも好ましくない。
なお、前記重合混合物と機械混合物とが異なる物性を示す場合があるのは、成分(a1)中の成分(a2)の分散状態が異なっているためと推測されるが、成分(a2)の成分(a1)との界面の状態を含めた分子レベルでの分散状態を分析する現実的手段は現状知られていない。ポリプロピレン系樹脂(A)の製造方法については後で詳しく説明する。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂(A)のキシレン可溶分の極限粘度(以下、「XSIV」ともいう。)は1.2~7.0dl/gであり、1.3~4.0dl/gが好ましく、1.4~3.5dl/gがより好ましく、1.5~3.0dl/gがさらに好ましく、1.6~2.7dl/gが特に好ましく、1.7~2.5dl/gが最も好ましい。
上記範囲であると、射出成形品の耐衝撃性が高まる。
ここで、XSIVは、135℃のテトラヒドロナフタレン中での測定値である。キシレン可溶分は、ポリプロピレン系樹脂の試料をo-キシレン中、135℃で溶解させた後、25℃に冷却し、その冷却した溶液を、濾紙を用いて濾過し、濾液を蒸発乾固して得られる成分である。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂(A)を構成するプロピレン重合体(成分(a1))の分子量分布の指標である重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比率(Mw/Mn)は、4~10であり、5~8が好ましく、6~7がより好ましい。
ここで、プロピレン重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した値であり、具体的には後述する方法で測定された値である。
【0019】
ポリプロピレン系樹脂(A)を構成するプロピレン重合体(成分(a1))中のエチレン由来単位含有量(以下、「C2-a1」ともいう。)は、前記プロピレン重合体の総質量に対して0.5質量%以下であり、0.3質量%以下が好ましい。
C2-a1が前記上限値以下であると、射出成形品の剛性が高まる。C2-a1の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
本実施形態のプロピレン重合体は、プロピレン由来単位のみからなるポリプロピレンホモポリマーであってもよく、99.5質量%以上100質量%未満のプロピレン由来単位と0質量%超0.5質量%以下のエチレン由来単位とからなる共重合体であってもよい。
C2-a1は、13C-NMR法によって測定される。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂(A)を構成するエチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))は、エチレン由来単位と炭素数3~10のαオレフィン由来単位を有する共重合体である。
成分(a2)中のエチレン由来単位含有量は、成分(a2)の総質量に対して、20~50質量%であり、25~45質量%が好ましく、30~40質量%がより好ましく、30~35質量%がさらに好ましい。
前記範囲の下限値以上であると、射出成形品の耐衝撃性が高まる。
前記範囲の上限値以下であると、射出成形品の食品衛生性が高まる(n-ヘプタンへの溶出量を充分に低減できる)。
成分(a2)中のエチレン由来単位含有量は、13C-NMR法によって測定される。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂(A)の総質量に対する、エチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))の含有量は、25~45質量%であり、25~40質量%が好ましく、25~38質量%がより好ましく、25~36質量%がさらに好ましく、25~33質量%が特に好ましく、26~30質量%が最も好ましい。
前記範囲の下限値以上であると、射出成形品の耐衝撃性が高まる。
前記範囲の上限値以下であると、ポリプロピレン系樹脂(A)製造時に粉体流動性悪化により生産設備上での流路が閉塞するリスクを低減できるので、ポリプロピレン系樹脂(A)を安定的に連続生産することができる。
【0022】
前記エチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))を構成するαオレフィンとしては、プロピレン(1-プロペン)、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。
具体的な成分(a2)としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・ペンテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・オクテン共重合体等が挙げられる。
これらの中でも、ポリプロピレン系樹脂(A)の生産性向上を考慮すると、エチレン・プロピレン共重合体が好ましい。
【0023】
ポリプロピレン系樹脂(A)の温度230℃、荷重2.16kgでのMFRは、10~130g/10分であり、15~120g/10分がより好ましく、20~110g/10分がより好ましく、25~100g/10分がさらに好ましく、30~90g/10分が最も好ましい。ここで、前記MFRは後述する測定方法で測定された値である。
前記範囲の下限値以上であると、薄肉射出成形の際にも成形型内への充填不良が発生し難く、ハイサイクル(高速)の成形にも対応することができる。
前記範囲の上限値以下であると、射出成形品の耐衝撃性を高めることができる。
【0024】
[エチレン・αオレフィン共重合体(B)]
エチレン・αオレフィン共重合体(B)は、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体である。αオレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。
具体的なエチレン・αオレフィン共重合体(B)としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・ペンテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・オクテン共重合体等が挙げられる。
これらの中でも、原料としての調達容易性や経済性等を考慮すると、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、またはエチレン・オクテン共重合体が好ましい。
【0025】
エチレン・αオレフィン共重合体(B)の温度190℃、荷重2.16kgでのMFRは、1.0~40g/10分が好ましい。ここで、MFRはJIS K6921-2に基づき測定された値である。
前記範囲の下限値以上であると、前記ポリプロピレン系樹脂組成物の流動性が高まる。
前記範囲の上限値以下であると、前記ポリプロピレン系樹脂組成物におけるブロッキングの発生を抑制し、当該組成物の連続生産性を高めることができる。また、射出成形品の耐衝撃性および剛性が高まる。
【0026】
[無機フィラー(C)]
無機フィラー(C)としては、例えば、タルク、カオリナイト、クレー、バイロフィライト、セリナイト、ウォラストナイト、マイカのような天然珪酸または珪酸塩;含水珪酸カルシウム、含水珪酸アルミニウム、含水珪酸、無水珪酸のような合成珪酸または珪酸塩;沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのような炭酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムのような水酸化物;酸化亜鉛、酸化マグネシウムのような酸化物が挙げられる。
また、無機フィラーとしては形状の観点から、例えば、以下のものが挙げられる。
含水珪酸カルシウム、含水珪酸アルミニウム、含水珪酸、無水珪酸のような合成珪酸または珪酸塩のような粉末状充填剤;タルク、カオリナイト、クレー、マイカのような板状充填剤;塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、セピオライト、PMF(Processed Mineral
Filler)、ゾノトライト、チタン酸カリウム、およびエレスタダイトのようなウィスカー状充填剤;ガラスバルン、フライアッシュバルンのようなバルン状充填剤;ガラスファイバーのような繊維状充填剤。
無機フィラーとして1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの充填剤の分散性を向上させるため、必要に応じて無機フィラーの表面処理を行ってもよい。
本発明に用いる無機フィラーは制限されないが、射出成形品においてポリプロピレン結晶の配向を促進することにより機械物性バランスを高める観点から、板状無機フィラーが好ましい。
板状無機フィラーとしてはタルク、カオリナイト、クレー、マイカ等の公知のものを使用できるが、ポリプロピレン系樹脂との親和性や原料としての調達容易性や経済性等を考慮すると、好ましくはタルク、マイカであり、さらに好ましくはタルクである。
【0027】
無機フィラー(C)の体積平均粒子径は、好ましくは1~10μm、より好ましくは2~7μmである。体積平均粒子径が前記範囲内であれば、シート成形体の機械物性バランスが高くなる。前記体積平均粒子径は、レーザ回折法(JIS R1629に基づく)によって体積基準の積算分率における50%径として測定できる。
【0028】
[プロピレン系ワックス]
本態様のポリプロピレン系樹脂組成物は、成分(A)~(C)以外に、プロピレン系ワックス(以下、成分(D)の1種以上を含んでも構わない。
本態様のポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対する成分(D)の含有量は、例えば、1~10質量%とすればよい。
【0029】
成分(D)の重量平均分子量(Mw)は、例えば50000以下、好ましくは40000~1000が挙げられる。ここで、Mwは、高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(高温GPC)によって、分子量既知のポリプロピレン標準品を用いて測定される。
成分(D)の融点は100℃以上が好ましい。融点はDSCを用いて測定される。
【0030】
成分(D)としては、例えばポリプロピレンを熱分解し、低分子量化したものが挙げられる。このような成分(D)として、例えば、三洋化成工業社製のビスコールシリーズなどの市販品が挙げられる。
【0031】
[その他の成分]
本態様のポリプロピレン系樹脂組成物は、任意成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン系樹脂(A)、エチレン・αオレフィン共重合体(B)、及び無機フィラー(C)以外の添加剤が含まれてもよい。
前記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、中和剤、核剤、耐候剤、顔料(有機または無機)、内部滑剤および外部滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、塩素吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、スリップ剤、防曇剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、可塑剤、発泡剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物、油展等が挙げられる。これらの添加剤は1種のみでもよいし、2種以上でもよい。含有量は公知の量としてよい。
【0032】
≪ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法≫
本発明の第二態様は、後述の(ア)~(ウ)の成分を含む触媒を用いて、前記プロピレン重合体(a1)の存在下で、エチレン単量体及び炭素数3~10のαオレフィン単量体を重合して前記ポリプロピレン系樹脂(A)を得る工程を有する、ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法である。
【0033】
本態様の製造方法は、ポリプロピレン系樹脂(A)と、任意成分のエチレン・αオレフィン共重合体(B)と、無機フィラー(C)と、必要に応じて他の成分を混合した後、溶融混練する工程をさらに有することが好ましい。
混合方法としては、ヘンシェルミキサー、タンブラーおよびリボンミキサー等の混合機を使用してドライブレンドする方法が挙げられる。
溶融混練方法としては、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等の混合機を用いて溶融しながら混合する方法が挙げられる。溶融混練する場合の溶融温度は160~350℃であることが好ましく、170~260℃であることがより好ましい。溶融混練した後でさらにペレット化してもよい。
無機フィラー(C)は、ポリプロピレンやポリエチレンなどをベース樹脂とするマスターバッチとして、(A)と(B)が溶融混錬されたペレットに対して成形直前にドライブレンドしてもよい。この場合、成形品の用途に応じて樹脂組成物中の無機フィラー(C)の含有割合を容易に調整できるメリットがあるが、マスターバッチ中のベース樹脂の影響やフィラーの分散状態悪化に起因する機械物性バランスの低下が懸念されるとともに、マスターバッチの製造コストが発生することから、無機フィラー(C)のみを(A)及び(B)と溶融混錬することが好ましい。
【0034】
[ポリプロピレン系樹脂(A)の製造方法]
ポリプロピレン系樹脂(A)は、プロピレン重合体(成分(a1))とエチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))とを重合時に混合して得てもよいし、別々に製造された成分(a1)と成分(a2)とを溶融混練によって混合して得てもよい。
ポリプロピレン系樹脂(A)は、成分(a1)と成分(a2)とが重合時に混合された重合混合物であることが好ましい。
このような重合混合物は、成分(a1)の存在下で、エチレン単量体及びαオレフィン単量体を重合することにより得られる。この方法によれば、生産性が高くなる上に、成分(a1)中の成分(a2)の分散性が高くなるため、これを用いて得た射出成形品の機械物性バランスが向上する。
【0035】
以下、αオレフィン単量体としてプロピレン単量体を使用する場合を説明するが、他のαオレフィン単量体を使用する場合にも同様にして製造することができる。
【0036】
前記重合混合物の製造方法としては、典型的には、多段重合法が用いられる。例えば、二段の重合反応器を備える重合装置の一段目の重合反応器にて、プロピレン単量体及び必要に応じてエチレン単量体を重合してプロピレン重合体を得て、得られたプロピレン重合体を二段目の重合反応器に供給すると共に、この二段目の重合反応器にてエチレン単量体及びプロピレン単量体を重合することで前記重合混合物を得ることができる。
重合条件は、公知の重合条件と同様であってよい。例えば一段目の重合条件としては、プロピレンが液相でモノマー密度と生産性の高いスラリー重合法が挙げられる。二段目の重合条件としては、一般的にプロピレンへの溶解性が高い共重合体の製造が容易な気相重合法が挙げられる。
重合温度は50~90℃が好ましく、60~90℃がより好ましく、70~90℃がさらに好ましい。該重合温度が上記範囲の下限値以上であると、生産性及び得られたポリプロピレンの立体規則性がより優れる。
重合圧力は、液相中で行われる場合には25~60bar(2.5~6.0MPa)が好ましく、33~45bar(3.3~4.5MPa)がより好ましい。気相中で行われる場合には、5~30bar(0.5~3.0MPa)が好ましく、8~30bar(0.8~3.0MPa)がより好ましい。
重合(プロピレン単量体の重合、エチレン単量体及びプロピレン単量体等の重合)は、通常、触媒を用いて行われる。重合の際、必要に応じて、分子量の調整のために、水素が添加されてもよい。プロピレン重合体やエチレン・プロピレン共重合体の分子量を調整することで、ポリプロピレン系樹脂(A)のMFR、ひいてはポリプロピレン系樹脂組成物のMFRを調整できる。
一段目の重合反応器での重合の前に、その後の本重合の足がかりとなるポリマー鎖を固体触媒成分に形成させるために、プロピレンの予重合を行ってもよい。予重合は、通常は40℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下で行われる。
【0037】
触媒としては、公知のオレフィン重合触媒を用いることができる。
前記プロピレン重合体の存在下でエチレン単量体及びプロピレン単量体を重合する際の触媒としては、立体特異性チーグラー・ナッタ触媒が好ましく、以下の成分(ア)と成分(イ)と成分(ウ)とを含む触媒(以下、「触媒(X)」ともいう。)が特に好ましい。
(ア)マグネシウム、チタン、ハロゲン及び電子供与体化合物としてフタレート系化合物を必須成分として含有する固体触媒。
(イ)有機アルミニウム化合物。
(ウ)外部電子供与体化合物である有機ケイ素化合物。
【0038】
ポリプロピレン系樹脂(A)は、触媒(X)を用いて、前記プロピレン重合体の存在下で、エチレン単量体及びαオレフィン単量体(例えばプロピレン単量体)を重合して前記ポリプロピレン系樹脂を得る工程を有する方法で製造することが好ましい。触媒(X)を用いることで、各物性が前記範囲内であるポリプロピレン系樹脂(A)が容易に得られる。
なお、使用する触媒(特に成分(ア)の電子供与体化合物)によって得られるプロピレン重合体の分子量や立体規則性の分布は異なり、その違いは結晶化挙動等に影響を与えるが、その関係性についての詳細が明らかになっていない。これを明らかにしようとする場合、分子構造として分子量分布と立体規則性分布を併せて解析する必要があるが、結晶化過程において分子量と立体規則性が異なる成分同士が影響を及ぼし合うため複雑であり、立体規則性の分布が結晶化挙動に及ぼす影響についての解釈をより困難にしている。さらに、実際の射出成形は非常に高速でかつ流動状態にて実施されるので、たとえ高度な解析技術を用いてもその現象を把握することは容易ではない。よって、特定の触媒を用いて得られたポリプロピレン系樹脂組成物において、立体規則性の分布による結晶化挙動の違いを数値等で特定することはおよそ不可能である。分子量分布や立体規則性分布は、上述した触媒の種類以外に溶融混錬時の熱劣化や過酸化物処理等によっても変化する。
【0039】
成分(ア)は、例えば、チタン化合物、マグネシウム化合物及び電子供与体化合物を用いて調製される。
成分(ア)に用いられるチタン化合物として、一般式:Ti(OR)4-g(Rは炭化水素基、Xはハロゲン、0≦g≦4)で表される4価のチタン化合物が好適である。
炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等が挙げられ、ハロゲンとしては、Cl、Br等が挙げられる。
より具体的なチタン化合物としては、TiCl、TiBr、TiIのようなテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH)Cl、Ti(OC)Cl、Ti(O-C)Cl、Ti(OC)Br、Ti(O-isoC)Brのようなトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCHCl、Ti(OCCl、Ti(O-CCl、Ti(OCBrのようなジハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCHCl、Ti(OCCl、Ti(O-CCl、Ti(OCBrなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン;Ti(OCH、Ti(OC、Ti(O-Cのようなテトラアルコキシチタン等が挙げられる。これらチタン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記チタン化合物の中で好ましいものはハロゲン含有チタン化合物であり、より好ましくはテトラハロゲン化チタンであり、特に好ましくは四塩化チタン(TiCl)である。
【0040】
成分(ア)に用いられるマグネシウム化合物として、マグネシウム-炭素結合やマグネシウム-水素結合を有するマグネシウム化合物、例えばジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジアミルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジデシルマグネシウム、エチル塩化マグネシウム、プロピル塩化マグネシウム、ブチル塩化マグネシウム、ヘキシル塩化マグネシウム、アミル塩化マグネシウム、ブチルエトキシマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、ブチルマグネシウムハイドライド等が挙げられる。これらのマグネシウム化合物は、例えば有機アルミニウム等との錯化合物の形で用いることもでき、また、液状であっても固体状であってもよい。さらに好適なマグネシウム化合物として、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、フッ化マグネシウムのようなハロゲン化マグネシウム;メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、イソプロポキシ塩化マグネシウム、ブトキシ塩化マグネシウム、オクトキシ塩化マグネシウムのようなアルコキシマグネシウムハライド;フェノキシ塩化マグネシウム、メチルフェノキシ塩化マグネシウムのようなアリロキシマグネシウムハライド;エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、n-オクトキシマグネシウム、2-エチルヘキソキシマグネシウムのようなアルコキシマグネシウム;ジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム、エトキシメトキシマグネシウムのようなジアルコキシマグネシウム;エトキシプロポキシマグネシウム、ブトキシエトキシマグネシウム、フェノキシマグネシウム、ジメチルフェノキシマグネシウムのようなアリロキシマグネシウム等を挙げることができる。これらマグネシウム化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
成分(ア)に用いられる電子供与体化合物は、フタレート系化合物を必須成分として含有することが好ましい。フタレート系化合物を電子供与体として含む触媒(X)を用いると、プロピレン重合体のM/Mが前記範囲内であるポリプロピレン系樹脂が容易に得られる。
フタレート系化合物としては、例えば、モノエチルフタレート、ジメチルフタレート、メチルエチルフタレート、モノイソブチルフタレート、モノノルマルブチルフタレート、ジエチルフタレート、エチルイソブチルフタレート、エチルノルマルブチルフタレート、ジn-プロピルフタレート、ジイソプロピルフタレート、ジn-ブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジn-ヘプチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジn-オクチルフタレート、ジネオペンチルフタレート、ジデシルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ジフェニルフタレート等が挙げられる。中でもジイソブチルフタレートが特に好ましい。
【0042】
フタレート系化合物以外の前記固体触媒中の電子供与体化合物としては、スクシネート系化合物、ジエーテル系化合物等が挙げられる。
【0043】
スクシネート系化合物は、コハク酸のエステルであってもよく、コハク酸の1位又は2位にアルキル基等の置換基を持つ置換コハク酸のエステルであってもよい。具体例としては、ジエチルスクシネート、ジブチルスクシネート、ジエチルメチルスクシネート、ジエチルジイソプロピルスクシネート、ジアリルエチルスクシネート等が挙げられる。
【0044】
ジエーテル系化合物としては、例えば、2-(2-エチルヘキシル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-sec-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-シクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2-フェニル-1,3-ジメトキシプロパン、2-tert-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-クミル-1,3-ジメトキシプロパン、2-(2-フェニルエチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(2-シクロヘキシルエチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(p-クロロフェニル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(ジフェニルメチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(1-ナフチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(p-フルオロフェニル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(1-デカヒドロナフチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジエチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジエチル-1,3-ジエトキシプロパン、2,2-ジシクロペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジプロピル-1,3-ジエトキシプロパン、2,2-ジブチル-1,3-ジエトキシプロパン、2-メチル-2-エチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-プロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2-プロピル-2-ペンチル-1,3-ジエトキシプロパン、2-メチル-2-ベンジル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-フェニル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-シクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-メチルシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(p-クロロフェニル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(2-フェニルエチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(2-シクロヘキシルエチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-(2-エチルヘキシル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(2-エチルヘキシル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(p-メチルフェニル)-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジフェニル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジベンジル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-シクロペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(シクロヘキシルメチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジエトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジブトキシプロパン、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジ-sec-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジ-tert-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジネオペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-フェニル-2-ベンジル-1,3-ジメトキシプロパン、2-シクロヘキシル-2-シクロヘキシルメチル-1,3-ジメトキシプロパン等1,3-ジエーテルが挙げられる。
また、1,3-ジエーテル系化合物のさらなる具体例としては、以下が挙げられる。
1,1-ビス(メトキシメチル)-シクロペンタジエン;1,1-ビス(メトキシメチル)-2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタジエン;1,1-ビス(メトキシメチル)-2,3,4,5-テトラフェニルシクロペンタジエン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-2,3,4,5-テトラフルオロシクロペンタジエン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-3,4-ジシクロペンチルシクロペンタジエン;1,1-ビス(メトキシメチル)インデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-2,3-ジメチルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-4,5,6,7-テトラヒドロインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-2,3,6,7-テトラフルオロインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-4,7-ジメチルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-3,6-ジメチルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-4-フェニルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-4-フェニル-2-メチルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-4-シクロヘキシルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-7-(3,3,3-トリフルオロプロピル)インデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-トリメチルシリルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-7-トリフルオロメチルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-4,7-ジメチル-4,5,6,7-テトラヒドロインデン;
1,1-ビス(メトキシメチル)-7-メチルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-7-シクロペンチルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-7-イソプロピルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-7-シクロヘキシルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-7-tert-ブチルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-7-tert-ブチル-2-メチルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-7-フェニルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-2-フェニルインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-1H-ベンズインデン;1,1-ビス(メトキシメチル)-1H-2-メチルベンズインデン;9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-2,3,6,7-テトラメチルフルオレン;9,9-ビス(メトキシメチル)-2,3,4,5,6,7-ヘキサフルオロフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-2,3-ベンゾフルオレン;9,9-ビス(メトキシメチル)-2,3,6,7-ジベンゾフルオレン;9,9-ビス(メトキシメチル)-2,7-ジイソプロピルフルオレン;9,9-ビス(メトキシメチル)-1,8-ジクロロフルオレン;9,9-ビス(メトキシメチル)-2,7-ジシクロペンチルフルオレン;9,9-ビス(メトキシメチル)-1,8-ジフルオロフルオレン;9,9-ビス(メトキシメチル)-1,2,3,4-テトラヒドロフルオレン;9,9-ビス(メトキシメチル)-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロフルオレン;
9,9-ビス(メトキシメチル)-4-tert-ブチルフルオレン。
【0045】
なお、上記の成分(ア)に用いられる電子供与体化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
成分(ア)を構成するハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素又はこれらの混合物が挙げられ、特に塩素が好ましい。
【0047】
成分(イ)の有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウムのようなトリアルキルアルミニウム、トリイソプレニルアルミニウムのようなトリアルケニルアルミニウム、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシドのようなジアルキルアルミニウムアルコキシド、エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシドのようなアルキルアルミニウムセスキアルコキシド、R 2.5Al(OR0.5(R,Rは、各々異なってもよいし同じでもよい炭化水素基である。)で表される平均組成を有する、部分的にアルコキシ化されたアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミドのようなジアルキルアルミニウムハロゲニド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドのようなアルキルアルミニウムセスキハロゲニド、エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミドのようなアルキルアルミニウムジハロゲニド等が部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジブチルアルミニウムヒドリドのようなジアルキルアルミニウムヒドリド、エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリドのようなアルキルアルミニウムジヒドリドなどの部分的に水素化されたアルキルアルミニウム、エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドのような部分的にアルコキシ化及びハロゲン化されたアルキルアルミニウム等が挙げられる。上記成分(イ)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
成分(ウ)の外部電子供与体化合物としては、有機ケイ素化合物が用いられる。
好ましい有機ケイ素化合物として、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-アミルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビスo-トリルジメトキシシラン、ビスm-トリルジメトキシシラン、ビスp-トリルジメトキシシラン、ビスp-トリルジエトキシシラン、ビスエチルフェニルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ-クロルプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、テキシルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、iso-ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、クロルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、2-ノルボルナントリメトキシシラン、2-ノルボルナントリエトキシシラン、2-ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ケイ酸エチル、ケイ酸ブチル、トリメチルフエノキシシラン、メチルトリアリルオキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシシラン)、ビニルトリアセトキシシラン、ジメチルテトラエトキシジシロキサン、メチル(3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル)ジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、シクロペンチル-t-ブトキシジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、イソブチルイソプロピルジメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、t-ブチルプロピルジメトキシシラン、t-ブチル-t-ブトキシジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルイソブチルジメトキシシラン、ジ-sec-ブチルジメトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、ビス(デカヒドロイソキノリン-2-イル)ジメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ジシクロペンチル-ビス(エチルアミノ)シラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、t-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルセク-ブチルジメトキシシラン、エチル(パーヒドロイソキノリン2-イル)ジメトキシシラン、トリ(イソプロペニロキシ)フェニルシラン、i-ブチルi-プロピルジメトキシシラン、シクロヘキシルi-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルi-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルイソプロピルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、p-トリルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、t-ブチルプロピルジメトキシシラン、t-ブチルt-ブトキシジメトキシシラン、t-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、i-ブチルセク-ブチルジメトキシシラン、エチル(パーヒドロイソキノリン2-イル)ジメトキシシラン、ビス(デカヒドロイソキノリン-2-イル)ジメトキシシラン、トリ(イソプロペニロキシ)フェニルシラン、テキシルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、i-ブチルi-プロピルジメトキシシラン、シクロペンチルt-ブトキシジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルi-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルi-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルイソプロピルジメトキシシラン、ジ-sec-ブチルジメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、ビスp-トリルジメトキシシラン、p-トリルメチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、2-ノルボルナントリエトキシシラン、2-ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチル(3、3、3-トリフルオロ-n-プロピル)ジメトキシシラン、ケイ酸エチル等が好ましい。
上記成分(ウ)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
有機ケイ素化合物は、特にキシレン不溶分の量を調整するのに重要な役割を果たす。他の触媒成分が同じ場合、キシレン不溶分の量は、有機ケイ素化合物の種類と量および重合温度に依存するが、適切な有機ケイ素化合物を用いた場合においても、通常ジエーテル系触媒を除き、有機ケイ素化合物の量が特定の値以下になると大きく低下する。このため、重合温度が75℃の場合、有機ケイ素化合物と有機アルミニウム化合物とのモル比(有機ケイ素化合物/有機アルミニウム)の下限は0.015が好ましく、0.018がより好ましい。当該比の上限は、0.30が好ましく、0.20がより好ましく、0.10がさらに好ましい。
内部電子供与体化合物としてフタレート系化合物を用いる場合は、重合温度を上げるとキシレン不溶分が増加するので、好ましい有機ケイ素化合物と有機アルミニウム化合物とのモル比(有機ケイ素化合物/有機アルミニウム)の下限および上限が低下する。具体的には、フタレート系化合物を用いて80℃で重合する場合の前記モル比の下限は、0.010が好ましく、0.015がより好ましく、0.018がさらに好ましい。前記モル比の上限は、0.20が好ましく、0.14がより好ましく、0.08がさらに好ましい。
【0050】
触媒(X)としては、成分(イ)が、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムであり、成分(ウ)が、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン等の有機ケイ素化合物であるものが好ましい。
【0051】
なお、多段重合法により前記重合混合物を得る方法は上記の方法に限定されず、プロピレン重合体(成分(a1))を複数の重合反応器にて重合してもよいし、エチレン・αオレフィン共重合体(成分(a2))を複数の重合反応器にて重合してもよい。
前記重合混合物を得る方法として、単量体濃度や重合条件の勾配を有する重合器を用いて行う方法も挙げられる。このような重合器では、例えば、少なくとも2つの重合領域が接合されたものを使用し、気相重合でモノマーを重合することができる。
具体的には、触媒の存在下、上昇管からなる重合領域にてモノマーを供給して重合し、上昇管に接続された下降管にてモノマーを供給して重合し、上昇管と下降管とを循環しながら、重合生成物を回収する。この方法では、上昇管中に存在する気体混合物が下降管に入るのを全面的又は部分的に防止する手段を備える。また、上昇管中に存在する気体混合物とは異なる組成を有する気体及び/又は液体混合物を下降管中に導入する。この重合方法は、例えば、特表2002-520426号公報に記載された方法を適用することができる。
【0052】
(エチレン・αオレフィン共重合体(B)の製造方法)
エチレン・αオレフィン共重合体(B)は、重合の際にメタロセン触媒又はハーフメタロセン触媒を用いる公知の方法(例えば、国際公開WO2006/102155号に記載の方法)によって製造することができる。
前記重合の際に、連鎖移動剤(例えば、水素またはジエチル亜鉛)等の公知の分子量自動調整剤を使用してもよい。
【0053】
<射出成形品>
本発明の第三態様は、第一態様のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形した射出成形品である。
射出成形温度は一般的には150~350℃、好ましくは170~250℃で実施される。成形温度が350℃を超えると、樹脂組成物の劣化及び成形不良の原因となり、150℃より低いと流動性が低下することで金型内への充填不足による外観不良や成形不良が発生する。金型温度については、10~60℃の範囲で行うことが好ましい。金型温度が60℃を超えると成形体の表面仕上げ度が優れ、剛性に優れた成形体が得られるものの、成形サイクルが長くなり生産性が低下する。逆に、金型温度を10℃より低温に設定すると反りや収縮などが顕著になり、満足な成形体が得られにくくなるばかりか、金型に結露が生じやすくなるために金型腐食を進行させる原因となる。冷却に関わるエネルギーコストの観点からも適さない。
【0054】
第一態様のポリプロピレン系樹脂組成物は、薄肉射出成形に適している。例えば、最も薄肉の部分の厚さが1mm以下、好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下の射出成形品を形成することができる。薄肉部の厚さの下限値の目安は0.1mm程度である。薄肉部の厚さは、測定箇所の断面を光学顕微鏡等の公知手段で観察して測定される。
【0055】
本態様の射出成形品の形状は特に制限されず、剛性や耐衝撃性に優れ、薄肉化も可能であることから、容器に適している。前記容器の側壁の厚さは、例えば0.1~1mm、好ましくは0.1~0.7mm、より好ましくは0.1~0.5mmとすることができる。側壁の厚さは、測定箇所の断面を測定顕微鏡等の公知手段で観察して測定される。
【0056】
本態様の射出成形品は、食品衛生性に優れた第一態様のポリプロピレン系樹脂組成物によって形成されているので、食品に接する容器又は包装体としての用途に適している。
前記ポリプロピレン系樹脂組成物からなる射出成形品について、後述するn-ヘプタン溶出試験によって求められる蒸発残留物の量は、30μg/ml以下が好ましく、20μg/ml以下がより好ましく、10μg/ml以下がさらに好ましい。
【0057】
本態様の射出成形品について、後述する試験方法で測定される曲げ弾性率は、1500MPa以上が好ましく、1800MPa以上がより好ましく、2000MPa以上がさらに好ましい。その上限値の目安は4000MPa以下であり、3500MPa以下でもよい。曲げ弾性率が高い程、剛性に優れた射出成形品であり、薄肉部を有する容器に適している。
【0058】
本態様の射出成形品について、後述する試験方法で測定されるCharpy衝撃強さは、1.5kJ/m以上が好ましく、2.0kJ/m以上がより好ましく、10.0kJ/m以上がさらに好ましい。その上限値の目安は50kJ/m以下であり、40kJ/m以下でもよい。Charpy衝撃強さが大きい程、耐衝撃性に優れた射出成形品であり、薄肉部を有する容器に適している。
【0059】
本態様の射出成形品について、後述する試験方法で測定される面衝撃強度パンクチャーエネルギーは、5J以上が好ましく、8J以上がより好ましく、12J以上がさらに好ましい。その上限値の目安は30J以下であり、20J以下でもよい。面衝撃強度パンクチャーエネルギーが大きい程、耐衝撃性に優れた射出成形品であり、薄肉部を有する容器に適している。
【実施例
【0060】
以下に実施例及び比較例を示すが、本発明は以下の実施例だけに限定されない。
【0061】
<触媒の調製(1):Pht-1>
MgCl上にTiClと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを担持させた固体触媒を、欧州特許第728769号公報の実施例5の46~53行に記載された方法により調製した。具体的には下記のように行った。
微小長球形MgCl・2.1COHを、次のようにして製造した。タービン撹拌機および吸引パイプを備えた2Lオートクレーブ中に、不活性ガス中、常温で、無水MgCl 48g、無水COH 77g、および灯油830mLを入れた。内容物を撹拌しながら120℃に加熱することにより、MgClとアルコールの間の付加物が生じたが、この付加物を融解し、分散剤と混合した。オートクレーブ内の窒素圧を15気圧に維持した。オートクレーブの吸引パイプを加熱ジャケットを用いて外部から120℃に加熱した。吸引パイプは内径が1mmで、加熱ジャケットの一端から他端までの長さが3mであった。このパイプを通して混合物を7m/secの速度で流した。パイプの出口にて、灯油2.5Lを含み、初期温度を-40℃に維持したジャケットで外部から冷却されている5Lフラスコ中に、分散液を撹拌しながら採取した。分散液の最終温度は0℃であった。エマルションの分散相を構成する球状固体生成物を沈降させ、濾過して分離し、ヘプタンで洗浄して乾燥した。これらの操作はすべて不活性ガス雰囲気中で行った。最大直径が50μm以下の固体球状粒子形のMgCl・3COHを得た。収量は130gであった。こうして得られた生成物から、MgCl 1モルあたりのアルコール含有量が2.1モルに減少するまで、窒素気流中で温度を50℃から100℃に徐々に上昇してアルコールを除去した。
【0062】
濾過バリヤーを備えた500mL円筒形ガラス製反応器に0℃で、TiCl 225mLを入れ、さらに上記のようにして得た微小長球形MgCl・2.1COH
10.1g(54mmol)を、内容物を撹拌しながら15分間かけて入れた。その後、温度を40℃に上げフタル酸ジイソブチル9mmolを入れた。温度を1時間かけて100℃に上げ、撹拌をさらに2時間続行した。次いで、TiClを濾過により除去し、120℃でさらに1時間撹拌しながらTiCl 200mLを加えた。最後に、内容物を濾過し、濾液から塩素イオンが完全に消失するまで60℃のn-ヘプタンで洗浄した。このようにして得た触媒成分は、Ti=3.3重量%、フタル酸ジイソブチル=8.2重量%を含んでいた。
ここで得た固体触媒を用いた試験例について、表1では「Pht-1」と記載した。
【0063】
<共重合体A-1の作製>
上記で調製した固体触媒である「Pht-1」と、有機アルミニウム化合物としてトリエチルアルミニウム(TEAL)と、外部電子供与体化合物としてジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を用い、固体触媒に対するTEALの質量比が20、TEAL/DCPMSの質量比が10(上述した有機ケイ素化合物/有機アルミニウムのモル比に換算すると0.05)となるような量で、12℃において24分間接触させた。
得られた触媒(X)を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予重合を行った。
得られた予重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入し、プロピレンを供給してプロピレン単独重合体を製造した。続いて、二段目の重合反応器に、プロピレン単独重合体、プロピレン及びエチレンを供給してエチレン-プロピレン共重合体を製造した。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。
重合温度と反応物の比率は、一段目の反応器では、重合温度、水素濃度が、それぞれ70℃、2.88モル%、二段目の反応器では、重合温度、水素濃度、エチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合が、それぞれ80℃、2.69モル%、0.28モル比であった。また、エチレン-プロピレン共重合体の量が28質量%となるように一段目と二段目の重合時間を調整した。以上の方法により、目的の共重合体A-1を得た。
得られた共重合体A-1は、連続相を構成するプロピレン重合体である成分(a1)とゴム相を構成するエチレン・プロピレン共重合体である成分(a2)との重合混合物であり、前述のポリプロピレン系樹脂(A)である。
【0064】
共重合体A-1について、成分(a1)の分子量分布 Mw/Mn、成分(a1)のエチレン由来単位含有量、質量比 成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]、成分(a2)のエチレン由来単位含有量、成分(a1)+成分(a2)のXSIV、成分(a1)+成分(a2)のMFRは表1に示すものであった。
【0065】
<触媒の調製(2):Suc>
特表2011-500907号公報の実施例に記載の調製法に従い、固体触媒を以下の手順で調製した。
窒素でパージした500mLの4つ口丸底フラスコ中に、250mLのTiClを0℃において導入した。撹拌しながら、10.0gの微細球状MgCl・1.8COH(USP-4,399,054の実施例2に記載の方法にしたがって、ただし10000rpmに代えて3000rpmで運転して製造した)、及び9.1ミリモルのジエチル-2,3-(ジイソプロピル)スクシネートを加えた。温度を100℃に上昇させ、120分間保持した。次に、撹拌を停止し、固体生成物を沈降させ、上澄み液を吸い出した。次に、以下の操作を2回繰り返した:250mLの新しいTiClを加え、混合物を120℃において60分間反応させ、上澄み液を吸い出した。得られた固体触媒を、60℃において無水ヘキサン(6×100mL)で6回洗浄した。
ここで得た固体触媒を用いた試験例について、表1では「Suc」と記載した。
【0066】
<共重合体A-2の作製>
上記で調製した固体触媒である「Suc」と、TEAL及びDCPMSを、固体触媒に対するTEALの質量比が18であり、TEAL/DCPMSの質量比が10となるような量で、室温において5分間接触させた。得られた触媒を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行った。
得られた予重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入し、プロピレンを供給してプロピレン単独重合体を製造した。続いて、二段目の重合反応器に、プロピレン単独重合体、プロピレン及びエチレンを供給してエチレン-プロピレン共重合体を製造した。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。
重合温度と反応物の比率は、一段目の反応器では、重合温度、水素濃度が、それぞれ80℃、1.51モル%、二段目の反応器では、重合温度、水素濃度、エチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合が、それぞれ80℃、2.69モル%、0.27モル比であった。また、質量比 成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]が27質量%となるように一段目と二段目の重合時間を調整した。以上の方法により、表1に示す共重合体A-2を得た。共重合体A-1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0067】
<共重合体A-3の作製>
上記で調製した固体触媒である「Pht-1」を用い、共重合体A-1と同様の製造方法にて、表1に記載した共重合体A-3を得た。ただし、一段目の反応器の水素濃度を2.40モル%、二段目の反応器の水素濃度とエチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合を、それぞれ2.04モル%と0.20モル比に変更するとともに、成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]の質量比が35質量%となるように一段目と二段目の重合時間を調整した。
【0068】
<共重合体A-4の作製>
上記で調製した固体触媒である「Pht-1」を用い、共重合体A-1と同様の製造方法にて、表1に記載した共重合体A-4を得た。ただし、一段目の反応器の水素濃度を3.00モル%、二段目の反応器のエチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合を0.44モル比に変更するとともに、成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]の質量比が35質量%となるように一段目と二段目の重合時間を調整した。
【0069】
<共重合体A-5の作製>
上記で調製した固体触媒である「Pht-1」を用い、共重合体A-4と同様の製造方法にて、表1に記載した共重合体A-5を得た。ただし、二段目の反応器のエチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合を0.53モル比に変更した。
【0070】
<触媒の調製(3):Pht-2>
MgCl上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを担持した固体触媒を、特開2004-27218公報の段落0032の21~36行に記載された方法により調製した。具体的には下記のように行った。
窒素雰囲気下、120℃にて、無水塩化マグネシウム56.8gを、無水エタノール100g、出光興産株式会社製のワセリンオイル「CP15N」500mLおよび信越シリコーン株式会社製のシリコーン油「KF96」500mLに完全に溶解した。この溶液を、特殊機化工業株式会社製のTKホモミキサーを用いて120℃、5000回転/分で2分間撹拌した。撹拌を保持しながら、2Lの無水ヘプタン中に0℃を越えないようにして注いだ。得られた白色固体を無水ヘプタンで十分に洗浄し室温下で真空乾燥し、さらに窒素気流下で部分的に脱エタノール化し、MgCl・1.2COHの球状固体30gを得た。
上記球状固体30gを無水ヘプタン200mL中に懸濁した。0℃で撹拌しながら、四塩化チタン500mLを1時間かけて滴下した。次に、加熱を始めて40℃になったところで、フタル酸ジイソブチル4.96gを加えて、100℃まで約1時間で昇温した。100℃で2時間反応した後、熱時濾過にて固体部分を採取した。その後、この反応物に四塩化チタン500mLを加え撹拌した後、120℃で1時間反応を行った。反応終了後、再度、熱時濾過にて固体部分を採取し、60℃のヘキサン1.0Lで7回、室温のヘキサン1.0Lで3回洗浄して固体触媒を得た。得られた固体触媒成分中のチタン含有率を測定したところ、2.36質量%であった。
ここで得た固体触媒を用いた試験例について、表1では「Pht-2」と記載した。
【0071】
<共重合体A-6の作製>
上記で調製した固体触媒である「Pht-2」を用いた以外は共重合体A-1と同様の製造方法にて、表1に記載した共重合体A-6を得た。ただし、一段目の反応器の水素濃度を1.90モル%、二段目の反応器の水素濃度とエチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合をそれぞれ1.88モル%と0.46モル比に変更するとともに、成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]の質量比が15質量%となるように一段目と二段目の重合時間を調整した。
【0072】
<共重合体A-7の作製>
上記で調製した固体触媒である「Pht-2」を用いた以外は共重合体A-1と同様の製造方法にて、表1に記載した共重合体A-7を得た。ただし、一段目の反応器の水素濃度を0.42モル%、二段目の反応器の水素濃度とエチレンとプロピレンとの合計に対するエチレンの割合をそれぞれ1.44モル%と0.44モル比に変更するとともに、成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]の質量比が20質量%となるように一段目と二段目の重合時間を調整した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1の測定結果は下記の測定方法によって測定された値である。
【0075】
<成分(a1)のMw/Mn>
一段目の反応器で重合した成分(a1)を採取した試料2.5gを測定試料とし、以下のように、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の測定を行い、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除して分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
装置としてポリマーラボラトリーズ社製PL GPC220を使用し、酸化防止剤を含む1,2,4-トリクロロベンゼンを移動相とし、カラムとして昭和電工社製UT-G(1本)、UT-807(1本)、UT-806M(2本)を直列に接続したものを使用し、検出器として示差屈折率計を使用した。また、試料溶液の溶媒としては移動相と同じものを使用し、1mg/mLの試料濃度で、150℃の温度で振とうさせながら2時間溶解して測定試料を調製した。これにより得た試料溶液500μLをカラムに注入し、流速1.0mL/分、温度145℃、データ取り込み間隔1秒で測定した。カラムの較正には、分子量580~745万のポリスチレン標準試料(Shodex STANDARD、昭和電工株式会社製)を使用し、三次式近似で行った。Mark-Houwink-Sakuradaの係数は、ポリスチレン標準試料に関しては、K=1.21×10-4、α=0.707、ポリプロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、およびポリプロピレン系重合体に関しては、K=1.37×10-4、α=0.75を使用した。
【0076】
<共重合体の総エチレン量、成分(a1)のエチレン由来単位含有量>
1,2,4-トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼン/ヘキサメチルジシロキサン=30/10/1(容積比)の混合溶媒に溶解した共重合体試料について、Bruker社製AVANCEIII HD400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、測定温度120℃、フリップ角45度、パルス間隔7秒、試料回転数20Hz、積算回数6000回の条件で13C-NMRのスペクトルを得た。
上記で得られたスペクトルを用いて、Kakugo,Y.Naito,K.Mizunuma and T.Miyatake,Macromolecules,15,1150-1152(1982)の文献に記載された方法により、共重合体試料の総エチレン量(質量%)を求めた。なお、成分(a1)を試料として測定する場合、上記方法により得られる総エチレン量(質量%)は、成分(a1)のエチレン由来単位含有量(C2-a1)(質量%)となる。
【0077】
<成分(a2)中のエチレン由来単位含有量>
上記文献に記載された方法で共重合体の総エチレン量を測定するに際して求めたTββの積分強度の替わりに、下記式で求めた積分強度T’ββを使用した以外は、総エチレン量と同様の方法で計算を行い、成分(a2)のエチレン由来単位含有量(質量%)を求めた。
T’ββ=0.98×Sαγ×A/(1-0.98×A)
ここで、A=Sαγ/(Sαγ+Sαδ)であり、上記文献に記載のSαγ及びSαδより算出される。
なお、成分(a1)と成分(a2)からなる共重合体において、成分(a1)がエチレン単位を含む場合の成分(a2)中のエチレン由来単位含有量は、質量比 成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]が重合条件より明らかな場合、下記式により求めた。
成分(a2)のエチレン由来単位含有量(単位:質量%)=
[共重合体の総エチレン量
-成分(a1)のエチレン由来単位含有量×共重合体中の成分(a1)の含有割合]/(共重合体中の成分(a2)の含有割合)
【0078】
<質量比 成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)]>
下記式により求めた。
成分(a2)/[成分(a1)+成分(a2)](単位:質量%)=共重合体の総エチレン量/(成分(a2)中のエチレン由来単位含有量/100)
【0079】
<成分(a1)+成分(a2)のXSIV>
以下の方法によって共重合体のキシレン可溶分を得て、キシレン可溶分の極限粘度(XSIV)を測定した。
共重合体のサンプル2.5gを、o-キシレン(溶媒)を250mL入れたフラスコに入れ、ホットプレート及び還流装置を用いて、135℃で、窒素パージを行いながら、30分間撹拌し完全溶解させた後、25℃で1時間、冷却した。これにより得られた溶液を、濾紙を用いて濾過した。濾過後の濾液を100mL採取し、アルミニウムカップ等に移し、窒素パージを行いながら、140℃で蒸発乾固を行い、室温で30分間静置して、キシレン可溶分を得た。
極限粘度は、テトラヒドロナフタレン中、135℃において毛細管自動粘度測定装置(SS-780-H1、株式会社柴山科学器械製作所製)を用いて測定した。
【0080】
<成分(a1)+成分(a2)のMFR>
共重合体の試料5gに対し、本州化学工業株式会社製H-BHTを0.05g添加し、ドライブレンドにより均一化した後、JIS K6921-2に従い、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0081】
[実施例1~9、比較例1~8]
表2に示す組成で成分(A)~(D)を配合し、これらの総量100質量部に対し、酸化防止剤としてBASF社製のIrganox1010及びIrgafors168を0.2質量部、中和剤として淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレートを0.05質量部加え、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌、混合した。当該混合物を、株式会社JSW製同方向2軸押出機TEX-30αを用いて、シリンダー温度200℃で溶融混練して押出した。ストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ポリプロピレン系組成物のペレットを得た。このようにして製造したポリプロピレン系樹脂組成物、およびこれらを用いて得た射出成形品について各種物性を評価した。結果を表2に示す。
なお、実施例4,7,9は参考例である。
【0082】
【表2A】
【0083】
【表2B】
【0084】
表2の各成分は次の通りである。
成分(A)は、表1の共重合体A-1~A-7である。
【0085】
成分(B)は、下記のエチレン・αオレフィン共重合体である。
B-1:住友化学社製、エクセレンEP3721E1、エチレン・プロピレン共重合体MFR(190℃、2.16kg)=2.5g/10分
B-2:ダウケミカル製、エンゲージ8200、エチレン・オクテン共重合体、MFR(190℃、2.16kg)=10g/10分
B-3:ダウケミカル製、エンゲージ8407、エチレン・オクテン共重合体、MFR(190℃、2.16kg)=60g/10分
【0086】
成分(C)は、下記の無機フィラーである。
C-1:ネオライト興産製、タルクUNI-05、タルク
C-2:三共製粉製、エスカロン♯200、炭酸カルシウム
C-3:巴工業製、マイカ♯325、マイカ
【0087】
成分(D)は、下記のプロピレン系ワックスである。
D-1:三洋化成工業製、ビスコール330-P、Mw=30,000
【0088】
他の成分は、次の添加剤である。
酸化防止剤:BASF社製、Irganox1010、Irgafors168
中和剤:淡南化学工業株式会社製、カルシウムステアレート
【0089】
表2の測定結果及び評価結果は下記の方法によって測定及び評価された値である。
【0090】
<流動性 MFR>
JIS K7210-1に従い、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRについては、JIS K6921-2に基づき温度230℃および荷重2.16kgの条件下で測定した。
【0091】
<剛性 曲げ弾性率>
JIS K6921-2に従い、射出成形機(ファナック株式会社製FANUC ROBOSHOT S2000i)を用い、溶融樹脂温度を200℃、金型温度40℃、平均射出速度200mm/秒、保圧時間40秒、全サイクル時間60秒の条件にて、ポリプロピレン系樹脂組成物からJIS K7139に規定する多目的試験片(タイプA1)を射出成形し、測定用試験片を得た。JIS K7161-2に従い、株式会社島津製作所製精密万能試験機(オートグラフAG-X 10kN)を用い、温度23℃、相対湿度50%、試験速度2mm/分の条件で曲げ弾性率を測定した。
【0092】
<耐衝撃性 Charpy衝撃強さ>
JIS K6921-2と、JIS K7139に従い、上記と同様にタイプA1の測定用試験片を得た。さらに、JIS K7111-1に従い、株式会社東洋精機製作所製ノッチングツールA-4を用いて幅10mm、厚み4mm、長さ80mmに加工してから幅方向に2mmのノッチを入れ、形状Aの測定用試験片を得た。その測定用試験片について、株式会社安田精機製作所製低温槽付き全自動衝撃試験機(No.258-ZA)を用い、温度0℃におけるシャルピー衝撃強さ(エッジワイズ打撃、1eA法)を測定した。
【0093】
<耐衝撃性 面衝撃強度(ハイレートインパクト)>
縦×横×厚さが130×130×2mmである射出成形平板をファナック(株)製α100C射出成形機を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度40℃、射出速度35mm/sの条件で得た。パンクチャー衝撃試験機(島津製作所製ハイドロショットHITS-P10)を用い、JIS K7211-2に準拠し、上記平板試験片の-10℃における面衝撃強度パンクチャーエネルギーを測定した。エネルギー値が大きい程、耐衝撃性が優れる。
【0094】
<食品衛生性 n-ヘプタン溶出試験 蒸発残留物>
縦×横×厚さが100×100×0.75mmである射出成形平板をファナック(株)製α100C射出成形機を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度40℃、射出速度35mm/sの条件で得た。この射出成形平板を50×70×0.75mmにカットしたものを試験片として、250mlのn-ヘプタン(25℃)に浸漬し、1時間放置した。次に試験片を取り出して得たn-ヘプタン(試験溶液)をナス型フラスコに移し、減圧濃縮して数mlとしたその濃縮液及びそのフラスコをヘプタン約5mlずつで2回洗った。その洗液を、あらかじめ105℃で乾燥した重量既知の耐熱ガラス製の蒸発皿にとり、水浴上で蒸発乾固させた。次いで、105℃で2時間乾燥し、デシケーター中で放冷した後、秤量して蒸発皿の前後の重量差を求めて、蒸発残留物の量(単位:μg/ml)を算出した。以上の試験は、厚生省告示第370号に記載の方法に準拠して行った。
算出した蒸発残留物の量が30μg/ml以下である場合に、食品容器として加熱する場合も想定し、基準を満たすとした。当該量は少ない程好ましい。
【0095】
<成形性>
薄肉容器を射出成形性する際の射出圧力を基準として、成形性を評価した。
具体的には、射出成形機(SE230HY、住友重機(株)製)を用い、シリンダー設定温度290℃又は230℃、金型温度15℃の条件で、ポリプロピレン系樹脂組成物を、外径71mm、高さ110mm、厚さ0.5mmの飲料用容器に成形した。この際の射出圧力を下記1,2の基準で評価した。
1)シリンダー設定温度が290℃である場合、射出圧力が170MPa以下であれば良好と判断した。
2)シリンダー設定温度が230℃である場合、射出圧力が180MPa以下であれば良好と判断した。
【0096】
≪考察≫
実施例1~9の射出成形品を形成したポリプロピレン系樹脂組成物は、無機フィラー(成分(C))の含有量が多いので、焼却廃棄時のCO排出量が少なくなっている。一般には、無機フィラーの含有量が多いと、射出成形性が悪くなったり、射出成形品の機械物性が悪化したりするが、本発明にあっては所定の物性を有するポリプロピレン系樹脂組成物を用いているので、射出成形性が良好であり、剛性及び耐衝撃性も良好である。さらに食品容器や食品包装用途に求められる食品衛生性(n-ヘプタン溶出試験蒸発残留物が基準値(ここでは30μg/ml)以下であること)を満たしている。
【0097】
比較例1は、成分(C)の含有量が少ないので、CO排出の削減量が劣り、剛性も劣る。
比較例2は、成分(C)の含有量が多いので、耐衝撃性が劣る。
比較例3は、共重合体(A-5)の成分(a2)中のエチレン由来単位含有量が多いので、食品衛生性が劣る。
比較例4(共重合体A-6)は、成分(A)の総質量に対する成分(a2)の含有量が少ないので、耐衝撃性が劣る。
比較例5(共重合体A-7)は、成分(A)の総質量に対する成分(a2)の含有量が少なく、成分(A)のMFRが小さく、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRも低いので、射出圧力が高く、成形性が劣る。
比較例6~8では、耐衝撃性を維持しつつ、共重合体A-7のMFRの低さを改善すべく、成分(B)及び成分(D)を配合したが、耐衝撃性が劣る。
【要約】
【課題】焼却処分時のCOの排出量を削減しつつ、成形性、剛性、耐衝撃性に優れ、n-ヘプタンへの溶出成分が少ない射出成形品が得られる、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形品を提供する。
【解決手段】プロピレン重合体(a1)からなる連続相と、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体(a2)からなるゴム相とを含むポリプロピレン系樹脂(A)、エチレンと炭素数3~10のαオレフィンとの共重合体である任意成分のエチレン・αオレフィン共重合体(B)、及び無機フィラー(C)を含有するポリプロピレン系樹脂組成物であって、その樹脂組成物の総質量に対する無機フィラー(C)の含有割合が7~55質量%であるポリプロピレン系樹脂組成物。
【選択図】なし