(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び穿刺支援プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2023032074
(22)【出願日】2023-03-02
(62)【分割の表示】P 2018086957の分割
【原出願日】2018-04-27
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 史生
(72)【発明者】
【氏名】栗田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 貴志
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0184029(US,A1)
【文献】特開2017-192479(JP,A)
【文献】特開2016-055092(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0080166(US,A1)
【文献】特表2009-506830(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0073155(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブにより実行された超音波スキャンの結果に基づいて、被検体内のスキャン領域のスキャン方向の中心
とその近傍を表す第1領域にある血管を識別し、当該第1領域にある血管と前記超音波プローブとの間の距離を計算する計算部と、
前記超音波スキャンの結果に基づく超音波画像を表示部に表示させる表示制御部と、を備え、
前記表示制御部は、前記スキャン領域の前記第1領域に血管がある場合に、前記計算部によって計算された前記距離を前記超音波画像とともに前記表示部に表示させ、前記スキャン領域の前記第1領域に血管がある間、前記計算部によって計算された前記距離を、順次、前記超音波画像とともに前記表示部に表示させ、一方、前記第1領域に血管がなく、前記スキャン領域における前記第1領域以外の第2領域に血管がある場合は、前記計算部によって計算された前記距離を前記表示部に表示させない、
超音波診断装置。
【請求項2】
前記超音波スキャンは、前記スキャン領域のBモード画像データを取得するための第1スキャンと、前記スキャン領域に含まれる関心領域のドプラ画像データを取得するための第2スキャンを含み、
前記計算部は、前記第1スキャン又は前記第2スキャンの結果のうち、前記スキャン領域の中央部分に対応する一部を解析することで、前記距離を計算する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記超音波スキャンは、前記スキャン領域のBモード画像データを取得するためのスキャンを含み、
前記計算部は、前記スキャンの結果のうち、前記スキャン領域の中央部分に対応する一部を解析することで前記距離を計算する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記表示制御部は、前記距離に基づく数値を前記表示部に表示させ、
前記数値は、前記距離に√2を乗算して得られる数値である、請求項1乃至3のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記表示制御部は、前記スキャン領域の中央部分に血管が含まれていない場合、前記距離及び前記距離に基づく数値を前記表示部に表示させない、請求項1乃至4のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記表示制御部は、前記スキャン領域の中央部分に含まれる血管と前記被検体の体表とをつなぐ計測ラインを前記表示部に表示させる、請求項1乃至4のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、前記スキャン領域の中央部分に血管が含まれていない場合、前記距離、前記距離に基づく数値、及び前記計測ラインを前記表示部に表示させない、請求項6に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
超音波プローブにより実行された超音波スキャンの結果に基づいて、被検体内のスキャン領域のスキャン方向の中心
とその近傍を表す第1領域にある血管を識別し、当該第1領域にある血管と前記超音波プローブとの間の距離を計算する計算部と、
前記超音波スキャンの結果に基づく超音波画像を表示部に表示させる表示制御部と、を備え、
前記表示制御部は、前記スキャン領域の前記第1領域に血管がある場合に、前記計算部によって計算された前記距離を前記超音波画像とともに前記表示部に表示させ、一方、前記第1領域に血管がなく、前記スキャン領域における前記第1領域以外の第2領域に血管がある場合は、前記計算部によって計算された前記距離を前記表示部に表示させない、
超音波診断装置。
【請求項9】
超音波プローブにより実行された超音波スキャンの結果に基づいて、被検体内のスキャン領域のスキャン方向の中心
とその近傍を表す第1領域にある血管を識別し、当該第1領域にある血管と前記超音波プローブとの間の距離を計算する計算部と、
前記超音波スキャンの結果に基づく超音波画像を表示部に表示させる表示制御部と、を備え、
前記表示制御部は、前記スキャン領域の前記第1領域に血管がある間、前記計算部によって計算された前記距離を、順次、前記超音波画像とともに前記表示部に表示させ、一方、前記第1領域に血管がなく、前記スキャン領域における前記第1領域以外の第2領域に血管がある場合は、前記計算部によって計算された前記距離を前記表示部に表示させない、
超音波診断装置。
【請求項10】
超音波プローブにより実行された超音波スキャンの結果に基づいて、被検体内のスキャン領域のスキャン方向の中心
とその近傍を表す第1領域にある血管を識別し、当該第1領域にある血管と前記超音波プローブとの間の距離を計算する計算処理と、
前記超音波スキャンの結果に基づく超音波画像を表示部に表示させる表示制御処理と、をプロセッサに実行させる穿刺支援プログラムであって、
前記表示制御処理は、前記スキャン領域の前記第1領域に血管がある場合に、前記計算処理によって計算された前記距離を前記超音波画像とともに前記表示部に表示させ、前記スキャン領域の前記第1領域に血管がある間、前記計算処理によって計算された前記距離を、順次、前記超音波画像とともに前記表示部に表示させ、一方、前記第1領域に血管がなく、前記スキャン領域における前記第1領域以外の第2領域に血管がある場合は、前記計算処理によって計算された前記距離を前記表示部に表示させない、
穿刺支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波診断装置及び穿刺支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、複数の超音波振動子が配列された超音波プローブにより被検体に対して超音波を放射し、放射した超音波の反射波を超音波プローブにより受信することで、超音波画像を生成する。
【0003】
近年、術中の安全を確保するため、中心静脈穿刺において超音波診断装置が用いられるようになっている。超音波ガイド下の中心静脈穿刺では、例えば、ターゲットとなる血管の短軸像を参照し、超音波プローブから血管までの距離を取得する。そして、被検体の体表において、取得した距離と同一距離だけ超音波プローブから離れた位置に、血管の走行に沿って皮膚に対して45度の角度で穿刺針を刺すことで、狙った血管を穿刺する。
【0004】
しかしながら、超音波ガイド下の中心静脈穿刺では、超音波プローブの中心と、ターゲットとなる血管とがずれる場合等がある。このような場合、画像から血管の位置を見誤って針が血管に入らなかったり、画像から血管の深さを見誤って針を深く刺しすぎてしまったり、という手技の失敗が有り得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明が解決しようとする課題は、穿刺術をより簡便かつ安全に実施することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、超音波診断装置は、超音波プローブ、解析部、及び表示制御部を備える。超音波プローブは、被検体の体表に押し当てられ、前記被検体内のスキャン領域について超音波スキャンを実行する。解析部は、前記超音波スキャンの結果のうち、前記スキャン領域の中央部分に対応する一部を解析することで、前記中央部分に含まれる血管と前記体表との間の距離を計算する。表示制御部は、前記距離及び前記距離に基づく数値のうち少なくともいずれかを、表示部に表示させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される処理回路が穿刺を支援するための画像を表示する際の動作を表すフローチャートである。
【
図3】
図3は、ROI内の血管のドプラデータを取得する処理を表す図である。
【
図4】
図4は、ROI内の血管について取得したドプラデータに基づき血管中心までの距離を算出する処理を表す図である。
【
図5】
図5は、
図1に示される表示機器に表示される断層画像を表す図である。
【
図6】
図6は、
図5に示される血管について取得したドプラデータに基づき血管中心までの距離を算出する処理を表す図である。
【
図7】
図7は、
図1に示される表示機器に表示されるBモードの短軸画像を表す図である。
【
図8】
図8は、
図7に示される血管について取得したBモードデータに基づき血管中心までの距離を算出する処理を表す図である。
【
図9】
図9は、
図1に示される表示機器40に表示される断層画像を表す図である。
【
図10】
図10は、ドプラ画像を合成しない場合の表示機器の表示を表す図である。
【
図11】
図11は、計測値と共に穿刺針長が表示される場合の表示機器の表示を表す図である。
【
図13】
図13は、穿刺針長のその他の算出例を表す図である。
【
図14】
図14は、穿刺針長のその他の算出例を表す図である。
【
図15】
図15は、バイプレーンモードにおける表示機器の表示を表す図である。
【
図16】
図16は、補正前のプレーンBにおける断面画像を表す図である。
【
図17】
図17は、補正後のプレーンBにおける断面画像を表す図である。
【
図18】
図18は、針先周囲のドプラ画像のカラー表示が排除された場合の表示を表す図である。
【
図19】
図19は、第2の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図20】
図20は、
図19に示される支援画像生成機能により生成される支援画像を表す図である。
【
図21】
図21は、
図19に示される支援画像生成機能により生成される支援画像のその他の例を表す図である。
【
図22】
図22は、針先の位置を中心とした所定範囲のドプラ画像のカラー表示が排除された場合の表示を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1の構成例を示すブロック図である。
図1に示されるように、超音波診断装置1は、装置本体10、及び超音波プローブ20を備える。装置本体10は、ネットワーク100を介して外部装置30と接続される。また、装置本体10は、表示機器40及び入力装置50と接続される。
【0011】
超音波プローブ20は、例えば、装置本体10からの制御に従い、生体P内のスキャン領域について超音波スキャンを実行する。超音波プローブ20は、例えば、複数の圧電振動子、圧電振動子に設けられる整合層、及び圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。本実施形態においては、超音波プローブ20は、例えば、複数の超音波振動子が所定の方向に沿って配列された一次元アレイリニアプローブである。超音波プローブ20は、装置本体10と着脱自在に接続される。超音波プローブ20には、オフセット処理、及び超音波画像のフリーズ等の際に押下されるボタンが配置されてもよい。
【0012】
複数の圧電振動子は、装置本体10が有する超音波送信回路11から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。これにより、超音波プローブ20から生体Pへ超音波が送信される。超音波プローブ20から生体Pへ超音波が送信されると、送信された超音波は、生体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。また、送信された超音波パルスが、移動している血流又は心臓壁等の表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向の速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。超音波プローブ20は、生体Pからの反射波信号を受信して電気信号に変換する。
【0013】
なお、
図1においては、撮影に用いられる超音波プローブ20と装置本体10との接続関係のみを例示している。しかしながら、装置本体10には、複数の超音波プローブを接続することが可能である。接続された複数の超音波プローブのうちいずれを撮影に使用するかは、切り替え操作によって任意に選択することができる。
【0014】
図1に示される装置本体10は、超音波プローブ20により受信された反射波信号に基づいて超音波画像を生成する装置である。装置本体10は、
図1に示されるように、超音波送信回路11、超音波受信回路12、内部記憶回路13、画像メモリ14(シネメモリ)、入力インタフェース15、通信インタフェース16、及び処理回路17を有する。
【0015】
超音波送信回路11は、超音波プローブ20に駆動信号を供給するプロセッサである。超音波送信回路11は、例えば、トリガ発生回路、遅延回路、及びパルサ回路等により実現される。トリガ発生回路は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。遅延回路は、超音波プローブ20から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な圧電振動子毎の遅延時間を、トリガ発生回路が発生する各レートパルスに対し与える。パルサ回路は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ20に設けられる複数の超音波振動子へ駆動信号(駆動パルス)を印加する。遅延回路により各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面からの送信方向が任意に調整可能となる。
【0016】
超音波受信回路12は、超音波プローブ20が受信した反射波信号に対して各種処理を施し、受信信号を生成するプロセッサである。超音波受信回路12は、例えば、アンプ回路、A/D変換器、受信遅延回路、及び加算器等により実現される。アンプ回路は、超音波プローブ20が受信した反射波信号をチャンネル毎に増幅してゲイン補正処理を行う。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をデジタル信号に変換する。受信遅延回路は、デジタル信号に受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与える。加算器は、遅延時間が与えられた複数のデジタル信号を加算する。加算器の加算処理により、受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調された受信信号が発生する。
【0017】
内部記憶回路13は、例えば、磁気的若しくは光学的記録媒体、又は半導体メモリ等のプロセッサにより読み取り可能な記録媒体等を有する。内部記憶回路13は、超音波送受信を実現するためのプログラム、及び穿刺を支援するためのプログラム等を記憶している。また、内部記憶回路13は、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)、診断プロトコル、送信条件、受信条件、信号処理条件、画像生成条件、画像処理条件、ボディマーク生成プログラム、表示条件、及び映像化に用いるカラーデータの範囲を診断部位毎に予め設定する変換テーブル等の各種データを記憶している。なお、上記プログラム、及び各種データは、例えば、内部記憶回路13に予め記憶されていてもよい。また、例えば、非一過性の記憶媒体に記憶されて配布され、非一過性の記憶媒体から読み出されて内部記憶回路13にインストールされてもよい。
【0018】
また、内部記憶回路13は、入力インタフェース15を介して入力される記憶操作に従い、処理回路17で発生される2次元Bモード画像データ、及び2次元ドプラ画像データ等を記憶する。内部記憶回路13は、記憶しているデータを、通信インタフェース16を介して外部装置30へ転送することも可能である。
【0019】
なお、内部記憶回路13は、CD-ROMドライブ、DVDドライブ、及びフラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であってもよい。内部記憶回路13は、記憶しているデータを可搬性記憶媒体へ書き込み、可搬性記憶媒体を介してデータを外部装置30に記憶させることも可能である。
【0020】
画像メモリ14は、例えば、磁気的若しくは光学的記録媒体、又は半導体メモリ等のプロセッサにより読み取り可能な記録媒体等を有する。画像メモリ14は、入力インタフェース15を介して入力されるフリーズ操作直前の複数フレームに対応する画像データを保存する。画像メモリ14に記憶されている画像データは、例えば、連続表示(シネ表示)される。
【0021】
内部記憶回路13及び画像メモリ14は、必ずしもそれぞれが独立した記憶装置により実現される訳ではない。内部記憶回路13及び画像メモリ14は単一の記憶装置により実現されても構わない。また、内部記憶回路13及び画像メモリ14は、それぞれが複数の記憶装置により実現されても構わない。
【0022】
入力インタフェース15は、入力装置50を介し、操作者からの各種指示を受け付ける。入力装置50は、例えば、マウス、キーボード、パネルスイッチ、スライダースイッチ、トラックボール、ロータリーエンコーダ、操作パネル、及びタッチコマンドスクリーン(TCS)である。入力インタフェース15は、例えばバスを介して処理回路17に接続され、操作者から入力される操作指示を電気信号へ変換し、電気信号を処理回路17へ出力する。なお、本実施形態において入力インタフェース15は、マウス及びキーボード等の物理的な操作部品と接続するものだけに限られない。例えば、超音波診断装置1とは別体に設けられた外部の入力機器から入力される操作指示に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路17へ出力する回路も入力インタフェース15の例に含まれる。
【0023】
通信インタフェース16は、ネットワーク100等を介して外部装置30と接続され、外部装置30との間でデータ通信を行う。外部装置30は、例えば、各種の医用画像のデータを管理するシステムであるPACS(Picture Archiving and Communication System)、医用画像が添付された電子カルテを管理する電子カルテシステム等のデータベースである。なお、外部装置30との通信の規格は、如何なる規格であってもよいが、例えば、DICOM(digital imaging and communication in medicine)が挙げられる。
【0024】
処理回路17は、例えば、超音波診断装置1の中枢として機能するプロセッサである。処理回路17は、内部記憶回路13に記憶されているプログラムを実行することで、当該プログラムに対応する機能を実現する。処理回路17は、例えば、Bモード処理機能171、ドプラ処理機能172、解析機能173、画像生成機能174、画像処理機能175、表示制御機能176、及びシステム制御機能177を有する。
【0025】
Bモード処理機能171は、超音波受信回路12から受け取った受信信号に基づき、Bモードデータを生成する機能である。具体的には、Bモード処理機能171において処理回路17は、例えば、超音波受信回路12から受け取った受信信号に対して包絡線検波処理、及び対数増幅処理等を施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。生成されたBモードデータは、2次元的な超音波走査線(ラスタ)上のBモードRAWデータとして不図示のRAWデータメモリに記憶される。
【0026】
ドプラ処理機能172は、超音波受信回路12から受け取った受信信号を周波数解析することで、スキャン領域に設定されるROI(Region Of Interest:関心領域)内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報を抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する機能である。具体的には、ドプラ処理機能172において処理回路17は、例えば、移動体の運動情報として、平均速度、平均分散値、平均パワー値等を、複数のサンプル点それぞれで推定したドプラデータを生成する。ここで、移動体とは、例えば、血流、心壁等の組織、及び造影剤等である。本実施形態では、処理回路17は、血流の運動情報(血流情報)として、血流の平均速度、血流の平均分散値、血流の平均パワー値等を、複数のサンプル点それぞれで推定したドプラデータを生成する。生成されたドプラデータは、2次元的な超音波走査線上のドプラRAWデータとして不図示のRAWデータメモリに記憶される。
【0027】
処理回路17は、ドプラ処理機能172を用い、カラーフローマッピング(CFM:Color Flow Mapping)法と称されるカラードプラ法を実行可能である。CFM法では、超音波の送受信が複数の走査線上で複数回行なわれる。ドプラ処理機能172において処理回路17は、同一位置のデータ列に対してMTI(Moving Target Indicator)フィルタを掛けることで、静止している組織、又は動きの遅い組織に由来する信号(クラッタ信号)を抑制し、血流に由来する信号を抽出する。そして、処理回路17は、抽出した血流信号から血流の速度、血流の分散、血流のパワー等の血流情報を推定する。
【0028】
解析機能173は、超音波スキャンの結果のうち、スキャン領域の中央部分に対応する一部を解析する機能であり、解析部の一例である。具体的には、解析機能173において処理回路17は、例えば、スキャン領域の中央部分のドプラデータを解析することで、血管と体表との間の距離を計算する。なお、処理回路17は、スキャン領域の中央部分のBモードデータを解析することで、血管と体表との間の距離を計算するようにしてもよい。また、ドプラデータの解析と、Bモードデータの解析とを組み合わせ、血管と体表との間の距離を計算するようにしてもよい。
【0029】
画像生成機能174は、Bモード処理機能171、及びドプラ処理機能172により生成されたデータに基づき、画像データを生成する機能である。例えば、画像生成機能174において処理回路17は、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の画像データを生成する。具体的には、処理回路17は、RAWデータメモリに記憶されたBモードRAWデータに対してRAW-ピクセル変換、例えば、超音波プローブ20による超音波の走査形態に応じた座標変換を実行することで、ピクセルから構成される2次元Bモード画像データを生成する。
【0030】
また、処理回路17は、RAWデータメモリに記憶されたドプラRAWデータに対してRAW-ピクセル変換を実行することで、血流情報が映像化された2次元ドプラ画像データを生成する。2次元ドプラ画像データは、速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又はこれらを組み合わせた画像データを含む。
【0031】
また、処理回路17は、生成した2次元Bモード画像データ、及び2次元ドプラ画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、及びボディマーク等を合成しても構わない。
【0032】
画像処理機能175は、2次元Bモード画像データ、及び2次元ドプラ画像データに対し、所定の画像処理を施す機能である。具体的には、画像処理機能175において処理回路17は、例えば、画像生成機能174により生成された2次元Bモード画像データ、又は2次元ドプラ画像データにおける複数の画像フレームを用いて輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を実施する。
【0033】
表示制御機能176は、画像処理機能175で生成・処理された2次元Bモード画像データ、及び2次元ドプラ画像データの表示機器40における表示を制御する機能である。具体的には、表示制御機能176において処理回路17は、例えば、2次元Bモード画像データに、ドプラデータを収集するためのROIを表す表示を合成する。処理回路17は、入力装置50から入力される操作者からの指示に従い、2次元Bモード画像データにおける対応する部位に、2次元ドプラ画像データを合成する。このとき、処理回路17は、操作者からの指示に従い、合成する2次元ドプラ画像データの不透明度を調整するようにしてもよい。
【0034】
また、処理回路17は、2次元ドプラ画像データが合成された2次元Bモード画像データに、計測ライン、及び計測値を合成する。計測ラインは、スキャン領域の中央部分に位置する走査線において、超音波プローブ20の表面から血管中心までの線を表す。計測値は、計測ラインにおける、超音波プローブ20の表面から血管中心までの距離を表す。なお、処理回路17は、2次元Bモード画像データに、計測ライン、及び計測値を合成してもよい。
【0035】
また、処理回路17は、2次元Bモード画像データ、又は2次元ドプラ画像データが合成された2次元Bモード画像データに対し、ダイナミックレンジ、輝度(ブライトネス)、コントラスト、γカーブ補正、及びRGB変換等の各種処理を実行することで、画像データをビデオ信号に変換する。処理回路17は、ビデオ信号を表示機器40に表示させる。なお、処理回路17は、操作者が入力装置50により各種指示を入力するためのユーザインタフェース(GUI:Graphical User Interface)を生成し、GUIを表示機器40に表示させてもよい。表示機器40としては、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイが適宜利用可能である。
【0036】
システム制御機能177は、超音波診断装置1の処理全体を制御する機能である。具体的には、システム制御機能177において処理回路17は、入力装置50を介して操作者から入力された各種設定要求、並びに、内部記憶回路13から読み出した各種制御プログラム、及び各種データに基づき、超音波送信回路11、超音波受信回路12、及び処理回路17の機能を制御する。
【0037】
例えば、処理回路17は、超音波送信回路11、及び超音波受信回路12を制御することで、超音波プローブ20に超音波スキャンを実行させる。具体的には、処理回路17は、例えば、CFM法を実行するため、操作者からの指示に基づき、ドプラデータを収集するためのROIを設定する。処理回路17は、超音波送信回路11、及び超音波受信回路12を制御することで、ROIにおけるドプラデータを収集するための超音波スキャンを超音波プローブ20に実行させる。また、処理回路17は、超音波送信回路11、及び超音波受信回路12を制御することで、ROI以外の領域におけるBモードデータを収集するための超音波スキャンを超音波プローブ20に実行させる。
【0038】
次に、以上のように構成された超音波診断装置1を用いて中心静脈穿刺を実施する際の超音波診断装置1の動作について説明する。
【0039】
まず、操作者である術者は、患者を穿刺に適した体位に載置する。患者を載置すると、術者は、超音波プローブ20を用いて静脈のプレスキャンを実施する。プレスキャンは、Bモードデータの収集とドプラデータの収集するためのスキャンを含む。Bモードデータはスキャン領域について収集され、ドプラデータはスキャン領域内に設定されたROIについて収集される。超音波プローブ20から患者へ送信された超音波は、患者の体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ20で受信される。超音波受信回路12は、超音波プローブ20が受信した反射波信号に対して各種処理を施し、受信信号を生成する。
【0040】
超音波診断装置1の処理回路17は、Bモード処理機能171により、超音波受信回路12から受け取った受信信号に基づき、2次元的な超音波走査線上のBモードRAWデータを生成する。処理回路17は、画像生成機能174により、BモードRAWデータに対してRAW-ピクセル変換を実行することで、2次元Bモード画像データを発生する。
【0041】
また、処理回路17は、ドプラ処理機能172により、超音波受信回路12から受け取った受信信号に基づき、ROI内の超音波走査線上のドプラRAWデータを生成する。処理回路17は、画像生成機能174により、ドプラRAWデータに対してRAW-ピクセル変換を実行することで、2次元ドプラ画像データを発生する。処理回路17は、表示制御機能176により、発生した2次元Bモード画像データに2次元ドプラ画像データを合成し、合成した画像データを断層画像として表示機器40に表示させる。
【0042】
術者は、プレスキャンで表示される断層画像に基づいて動静脈を確認すると共に、静脈が穿刺に適しているか否かを評価する。以下では、術者が穿刺部位として、内頸静脈を選択する場合を例に説明する。なお、中心静脈穿刺の穿刺部位は、内頸静脈に限らず、鎖骨下静脈、大腿静脈、及び上腕の尺側皮静脈のいずれかから選択されてもよい。術者は、表示機器40に表示された、スキャン領域に対応する断層画像を確認しながら、断層画像が内頸静脈の短軸画像となり、内頸静脈が断層画像の中央部分に含まれるように、超音波プローブを動かす。
【0043】
穿刺部位として内頸静脈を選択すると、例えば、術者は、超音波診断装置1に対し、穿刺支援プログラムの実行を指示する。
【0044】
超音波診断装置1の処理回路17は、上記指示に従って、内部記憶回路13から穿刺支援プログラムを読み出し、読み出したプログラムを実行する。なお、穿刺支援プログラムは、プレスキャンのときから実行されていても構わない。
【0045】
図2は、
図1に示される処理回路17が穿刺を支援するための画像を表示する際の動作の例を表すフローチャートである。
図2に示される処理は、所定の周期、例えば、フレーム周期で実行される。
【0046】
画像処理プログラムを実行すると、処理回路17は、例えば、解析機能173を実行する。解析機能173を実行すると処理回路17は、スキャン領域の中央部分に位置するN本の超音波走査線上の平均パワー値を取得する(ステップS21)。処理回路17は、取得したN本の超音波走査線上の平均パワー値について加算平均をとる(ステップS22)。処理回路17は、加算平均したMフレーム分の平均パワー値を保持し、保持したMフレーム分の平均パワー値のうち、最大値を出力する(ステップS23)。処理回路17は、新たな平均パワー値の加算平均が算出されると、最も古い平均パワー値を削除し、新たな平均パワー値を保持する。
【0047】
図3は、ROI内の内頸静脈に対してステップS21~S23の処理を実施する際の模式図の例を表す。
図3によれば、スキャン領域の中央部分に位置する内頸静脈の中央を通過する走査線上の平均パワー値が取得される。取得された平均パワー値は、中央の走査線の両側に位置する、例えば2本ずつの走査線上の平均パワー値と加算平均がとられる。そして、Mフレーム中に加算平均された平均パワー値のうち、最大の平均パワー値が出力される。
【0048】
処理回路17は、出力された平均パワー値が予め設定している閾値を超えるか否かを判断する(ステップS24)。出力された平均パワー値が閾値を超える場合(ステップS24のYes)、処理回路17は、出力された平均パワー値におけるピーク値を検出し、検出したピーク値が測定される深さ方向のピーク位置を取得する(ステップS25)。
【0049】
処理回路17は、検出したピーク値からの減衰率が予め設定された値T[dB]以下のサンプルを、出力された平均パワー値から抽出する(ステップS26)。なお、サンプルを抽出する際の基準は、減衰率に限定されない。減衰幅が予め設定した値以下のサンプルを抽出するようにしてもよい。処理回路17は、抽出したサンプルが連続する範囲を、「血流エリア」と判定する(ステップS27)。処理回路17は、超音波プローブ20の表面、つまり体表から「血流エリア」の中心位置までの距離(深さ)を算出する(ステップS28)。
【0050】
図4は、ROI内の内頸静脈について取得した平均パワー値に対してステップS25~S28の処理を実施する際の模式図の例を表す。
図4によれば、出力された平均パワー値におけるピーク値が検出される。検出されたピーク値から減衰率T[dB]以下のサンプルが、出力された平均パワー値から抽出され、「血流エリア」と判定される。そして、「血流エリア」の中心位置までの距離が算出される。
【0051】
なお、穿刺部位によっては、
図5に示されるように、スキャン領域の中央部分に位置する走査線上に複数の血管が含まれる場合がある。
図5に示されるように血管が配置される場合、例えば、
図6に示される平均パワー値が、ステップS23の処理により出力される。
図6に示される平均パワー値が出力される場合、ステップS25~S27の処理により、血流エリア1、及び血流エリア2が抽出される。血流エリアを複数抽出すると処理回路17は、超音波プローブ20の表面に近い方を計測対象として採用する。すなわち、血流エリア1を計測対象とし、血流エリアの中心位置までの距離を算出する。
【0052】
なお、処理回路17の解析機能173による血流エリアの抽出は、ドプラデータを利用するものに限定されない。たとえば、解析機能173において、Bモードデータを利用して血流エリアが抽出されても構わない。例えば、
図7に示されるBモード画像が表示機器40に表示されているとする。このとき、処理回路17は、スキャン領域の中央に位置するN本の超音波走査線上の輝度値を取得する。処理回路17は、取得したN本の超音波走査線上の輝度値について加算平均をとる。
【0053】
血管壁部分における輝度値は、他の部位の輝度値よりも高く、血管内の輝度値は、他の部位の輝度値よりも低い。処理回路17は、加算平均した輝度値において、高輝度から低輝度へ遷移するパターン、及び低輝度から高輝度へ遷移するパターンを検出することで、血流エリアを抽出する。
【0054】
図8は、
図7に示されるBモードの短軸画像に基づいて出力される輝度値の例を表す模式図である。
図8によれば、血管壁部分における輝度値は、他の部位の輝度値よりも高く、血管内の輝度値は、他の部位の輝度値よりも低くなっている。処理回路17は、出力された輝度値において、高輝度から低輝度へ遷移するパターン、及び低輝度から高輝度へ遷移するパターンを検出する。これにより、出力された輝度値から、血流エリア1、及び血流エリア2が抽出される。処理回路17は、超音波プローブ20の表面、つまり体表から、体表により近い血流エリア1の中心位置までの距離を算出する。
【0055】
また、解析機能173による血流エリアの抽出は、ドプラデータを利用する解析と、Bモードデータを利用する解析とが組み合わされて実施されてもよい。例えば、処理回路17は、ドプラデータを利用して取得した血流エリアと、Bモードデータを利用して取得した血流エリアとが一致する場合、その血流エリアについての中心位置を取得する。
【0056】
「血流エリア」の中心位置までの距離を算出すると、処理回路17は、表示制御機能176を実行する。表示制御機能176を実行すると処理回路17は、2次元Bモード画像データに2次元ドプラ画像データを合成した断層画像に、計測ライン、及び計測値を合成する(ステップS29)。計測ラインは、スキャン領域の中央部分に位置する走査線において、超音波プローブ20の表面からステップS28で算出した中心位置までをつなぐ線を表す。計測値は、超音波プローブ20の表面からステップS28で算出した中心位置までの距離を表す。
【0057】
図9は、
図1に示される表示機器40に表示される断層画像の例を表す図である。
図9によれば、ROI表示R1内に内頸静脈についてのドプラ画像I1が表示されている。そして、ドプラ画像I1の中心から超音波プローブ20の表面までが計測ラインL1により表示され、計測ラインL1と交わる超音波プローブ20の表面直上には計測値V1が表示されている。
【0058】
なお、
図9では、ドプラ画像I1の不透明度が高い状態での表示例を表している。一方で、穿刺針の針先をBモード画像で確認したい場合には、ドプラ画像を合成しない、又はドプラ画像の不透明度を下げるようにしてもよい。
図10は、ドプラ画像を合成しない場合の表示機器40の表示例を表す模式図である。
図10によれば、ROI表示R1内に表示されるBモードの短軸画像の中心から超音波プローブ20の表面までの線を表す計測ラインL1が表示され、計測ラインL1と交わる超音波プローブ20の表面直上に計測値V1が表示されている。
【0059】
ステップS24において、出力された平均パワー値が閾値を超えない場合(ステップS24のNo)、処理回路17は、計測ライン、及び計測値の合成を停止し(ステップS210)、処理を終了させる。
【0060】
断層画像上に表示される、計測ライン、及び計測値を確認すると、術者は、表示に従い、被検体に穿刺針を刺す。このとき、術者は、被検体の体表において、計測値により把握される距離と同一距離だけ超音波プローブ20から離れた位置に、血管の走行に沿って皮膚に対して45度の角度で穿刺針を刺す。これにより、術者は、狙った血管に穿刺することが可能となる。なお、穿刺角度を45度以外、例えば、60度、及び30度としたい場合には、穿刺角度に応じた距離だけ超音波プローブ20から離れた位置に穿刺針を刺す。
【0061】
以上のように、第1の実施形態では、超音波プローブ20は、被検体内のスキャン領域について超音波スキャンを実施する。超音波診断装置1の処理回路17は、超音波スキャンの結果のうち、スキャン領域の中央部分に対応する一部を解析することで、中央部分に含まれる血管と体表との間の距離を計算する。そして、処理回路17は、計算した距離をリアルタイムに表示機器40に表示させるようにしている。これにより、超音波診断装置1は、術者が穿刺深さを見誤ることを防ぐことが可能となる。
【0062】
また、第1の実施形態では、処理回路17は、スキャン領域の中央部分に位置する走査線上のドプラデータを利用して血管と体表との間の距離を計算するようにしている。これにより、超音波診断装置1は、血管と体表との間の距離を正確に計算することが可能となる。
【0063】
また、第1の実施形態では、処理回路17は、超音波プローブ20の中心と血管中心とを結ぶ計測ラインを、表示機器40に表示させるようにしている。これにより、超音波診断装置1は、超音波プローブ20の中心と血管とがずれたまま穿刺が実施されるのを防ぐことが可能となる。
【0064】
また、第1の実施形態では、処理回路17は、取得した平均パワー値が予め設定した値より小さい場合、計測ライン、及び計測値を表示機器40に表示させないようにしている。これにより、スキャン領域の中央部分に血管が含まれていない場合、計測ライン、及び計測値が表示機器40に表示されないようになる。このため、超音波診断装置1は、超音波プローブ20の中心と、血管とがずれていることを術者へ伝えることが可能となる。
【0065】
なお、第1の実施形態に関わる超音波診断装置1は、上記に限定される訳ではない。例えば、上記実施形態では、処理回路17が、スキャンコンバージョン前のBモードデータ、ドプラデータ、及びこれらのうち少なくとも一方のデータを使用して血管と体表との間の距離を計算する場合を例に説明した。しかしながら、これに限定されない。処理回路17は、ビデオフォーマットの走査線信号列に、スキャンコンバージョンされたBモードデータ、ドプラデータ、及びこれらのうち少なくとも一方のデータを使用して血管と体表との間の距離を計算しても構わない。
【0066】
また、上記実施形態では、断層画像、又はBモード画像に計測値が合成される場合を例に説明した。しかしながら、これに限定されない。処理回路17は、例えば、計測値に代えて、又は計測値と共に、血管と体表との間の距離に基づいて算出される数値を合成しても構わない。血管と体表との間の距離に基づいて算出される数値は、例えば、穿刺に要する穿刺針の長さである。
図11は、計測値と共に穿刺針長が表示される場合の表示機器40の表示例を表す模式図である。
図11によれば、計測値V1と並列して穿刺針長V2が表示されている。穿刺針長は、例えば、皮膚に対して45度の角度で穿刺針を刺す場合、
図12で示されるように、血管と体表との間の距離に√2をかけた値となる。また、皮膚に対して60度の角度で穿刺針を刺す場合、穿刺針長は、
図13で示されるように、血管と体表との間の距離に2/√3をかけた値となる。また、皮膚に対して30度の角度で穿刺針を刺す場合、穿刺針長は、
図14で示されるように、血管と体表との間の距離に2をかけた値となる。
【0067】
また、上記実施形態では、超音波プローブ20に、オフセット処理、及び超音波画像のフリーズ等の際に押下されるボタンが配置される例を説明した。しかしながら、超音波プローブ20に設けられるボタンは、これらに限定されない。例えば、超音波プローブ20には、断層画像、又はBモード画像に対し、計測値、及び計測ラインを合成するか否かを切り替える切替ボタンが設けられてもよい。例えば、術者は、計測値、及び計測ラインの表示が不要となった場合に切替ボタンを押下することで、断層画像、又はBモード画像に表示されている計測値、及び計測ラインを非表示とすることが可能となる。
【0068】
また、超音波プローブ20には、断層画像、又はBモード画像に表示されている計測値、及び計測ラインを表示のまま保持させるための保持ボタンが設けられていてもよい。例えば、術者は、血流の拍動性が大きいために血管中心の検出が安定しない等の場合、保持ボタンを押下することで、押下時点の計測値、及び計測ラインの表示を画面上に保持させることが可能となる。超音波プローブ20には、保持ボタンと共に、画面上に保持させた表示を解除するための解除ボタンが設けられていても構わない。
【0069】
(その他の実施例)
第1の実施形態では、超音波プローブ20が、一次元アレイリニアプローブである場合を例に説明した。しかしながら、これに限定されない。超音波プローブ20は、複数の超音波振動子が二次元マトリックス状に配列されたプローブである、二次元アレイリニアプローブ、特に二次元アレイリニアプローブであっても構わない。このとき、処理回路17は、Bモード処理機能171により、超音波受信回路12から受け取った3次元の受信信号に基づき、3次元的な超音波走査線上のBモードRAWデータを生成する。また、処理回路17は、ドプラ処理機能172により、超音波受信回路12から受け取った3次元の受信信号に基づき、3次元的な超音波走査線上のドプラRAWデータを生成する。
【0070】
処理回路17は、解析機能173により、例えば、超音波スキャンの結果のうち、3次元のスキャン領域の中央部分に対応する一部を解析する。具体的には、処理回路17は、例えば、3次元のスキャン領域の中央部分の走査線上のドプラデータを解析することで、血管と体表との間の距離を計算する。なお、処理回路17は、3次元のスキャン領域の中央部分のBモードデータを解析することで、血管と体表との間の距離を計算するようにしてもよい。また、処理回路17は、解析機能173を、画像生成機能174によるスキャンコンバージョン後に実行しても構わない。
【0071】
処理回路17は、画像生成機能174により、3次元のBモードRAWデータに対してRAW-ボクセル変換を実行することで、所望の範囲のボクセルから構成される3次元のBモード画像データを生成する。また、処理回路17は、画像生成機能174により、3次元のドプラRAWデータに対してRAW-ボクセル変換を実行することで、所望の範囲のボクセルから構成される3次元のドプラ画像データを生成する。
【0072】
処理回路17は、内部記憶回路13に記憶されているプログラムを実行することで、画像処理機能をさらに実現する。画像処理機能において処理回路17は、3次元のBモード画像データ、及び3次元のドプラ画像データを、表示機器40にて2次元表示するためのレンダリング処理を実施する。レンダリング処理には、例えば、ボリュームレンダリング処理、サーフェスレンダリング処理、及び多断面変換処理(MPR:Multi Planar Reconstruction)等が含まれる。
【0073】
処理回路17は、例えば、入力装置50を介してバイプレーンモードの設定が指示されると、3次元のBモード画像データ、及び3次元のドプラ画像データに基づき、プレーンAについての第1断面画像と、プレーンAに対して直交するプレーンBについての第2断面画像とを生成する。本実施形態において、プレーンAは、超音波プローブ20の超音波振動子の配列方向に形成される面であり、第1断面画像には血管の短軸画像が表示される。プレーンBは、超音波プローブ20の超音波振動子の配列方向に対して垂直の面であり、第2断面画像には血管の長軸画像が表示される。
【0074】
そして、処理回路17は、表示制御機能176により、例えば、第1断面画像と第2断面画像とを並列表示させる共に、第1断面画像に、ROIを表す表示と、超音波プローブ20の表面から血管中心までの線を表す第1計測ラインとを合成する。また、処理回路17は、例えば、第2断面画像に、第1計測ラインと対応する第2計測ラインと、この第2計測ラインと交差して穿刺針の挿入経路を表すガイドラインとを合成する。ガイドラインは、例えば、第2計測ラインと、穿刺針の穿刺角度との関係から求められる。また、処理回路17は、例えば、第1断面画像と第2断面画像との間に、第1計測ライン、及び第2計測ラインにおける、超音波プローブ20の表面から血管中心までの距離を表す計測値を表示させる。
【0075】
図15は、バイプレーンモードにおける表示機器40の表示例を表す模式図である。
図15によれば、プレーンAの第1断面画像I2では、ROI表示R1内に表示されるBモードの短軸画像の中心から超音波プローブ20の表面までの線を表す第1計測ラインL1が表示されている。また、プレーンBの第2断面画像I3では、第1計測ラインL1に対応する第2計測ラインL2と、第2計測ラインL2と交差して穿刺針の挿入経路を表すガイドラインL3とが表示されている。また、第1断面画像I2と第2断面画像I3との間には、計測値V1が表示されている。
【0076】
なお、
図15では、第1断面画像I2、及び第2断面画像I3において、ドプラ画像が合成されていない場合を例に示している。しかしながら、これに限定されない。処理回路17は、表示制御機能176により、第1断面画像I2、及び第2断面画像I3において、Bモード画像にドプラ画像を合成しても構わない。
【0077】
また、バイプレーンモードで表示されるプレーンBは、超音波プローブ20の超音波振動子の配列方向に対して垂直の面に限定されない。処理回路17は、例えば、穿刺針が被検体内を進行する方向に沿った面をプレーンBとしても構わない。
【0078】
具体的には、例えば、処理回路17は、画像処理機能により、プレーンAと直交する面、及びこの面に対して所定の角度だけ傾いている複数の面についてそれぞれ断面画像を生成する。
【0079】
処理回路17は、解析機能173により、生成した複数の断面画像それぞれにおいて、プレーンAの第1断面画像に合成された第1計測ラインと対応する第2計測ラインを設定する。処理回路17は、複数の断面画像それぞれにおいて、第2計測ラインと交差して穿刺針の挿入経路を表すガイドラインを設定する。処理回路17は、複数の断面画像それぞれにおいて、設定したガイドライン上の輝度の総和を計算する。処理回路17は、輝度の総和が最大となる断面画像が得られた面をプレーンBとする。
【0080】
図16、及び
図17は、プレーンBの設定角度を補正する場合の例を表す模式図である。
図16、及び
図17では、プレーンBにおける第2断面画像I3、及び角度アイコン画像I4が表示されている。
図16は、プレーンBの設定角度を補正する前、すなわち、プレーンBがプレーンAに対して直交している場合の第2断面画像I3、及び角度アイコン画像I4を表す。
図17は、プレーンBの設定角度を補正した後、すなわち、プレーンBがプレーンAに対して90度+X度だけ傾いている場合の第2断面画像I3、及び角度アイコン画像I4を表す。
【0081】
処理回路17は、例えば、プレーンAと直交する面、及びこの面に対して±X度だけ傾いている複数の面についてそれぞれ断面画像を生成する。処理回路17は、生成した複数の断面画像それぞれにおいて、ガイドラインL3を設定し、設定したガイドラインL3上の輝度の総和を計算する。処理回路17は、輝度の総和が最大となる断面画像が得られた、X度をプレーンBの補正角とする。
【0082】
なお、
図16、及び
図17では、第2断面画像I3において、ドプラ画像が合成されていない場合を例に示している。しかしながら、これに限定されない。処理回路17は、表示制御機能176により、第2断面画像I3において、Bモード画像にドプラ画像を合成しても構わない。
【0083】
上記第1の実施形態では、Bモード画像にドプラ画像を合成する場合、生成したドプラ画像を合成する例を説明した。しかしながら、これに限定されない。Bモード画像に合成されるドプラ画像は一部のカラー表示が排除されていても構わない。
【0084】
具体的には、例えば、Bモードで表される血管の短軸画像に、不透明度が低下されたドプラ画像が合成されているとする。処理回路17は、解析機能173により、短軸画像において予め設定した輝度を超える高輝度の物体を検出したか否かを判断する。ここで、予め設定した輝度を超える高輝度の物体は、例えば、穿刺により血管中心に到達した穿刺針の針先を表す。短軸画像に針先を検出すると、処理回路17は、表示制御機能176により、検出した針先を中心とした所定の範囲において、合成されているドプラ画像のカラー表示を排除する。
【0085】
図18は、針先周囲のドプラ画像のカラー表示が排除された場合の表示例を表す模式図である。
図18によれば、短軸画像の中心近傍に出現した高輝度物体、すなわち、穿刺針の針先の周囲においてドプラ画像のカラー表示が排除されている。
【0086】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、針ナビゲーションシステムに対応していない超音波診断装置1を例に説明した。第2の実施形態では、針ナビゲーションシステムに対応している超音波診断装置1aについて説明する。
【0087】
図19は、第2の実施形態に係る超音波診断装置1aの構成例を示すブロック図である。
図19に示されるように、超音波診断装置1aは、装置本体10a、超音波プローブ20、及び位置センサシステム60を備える。
【0088】
位置センサシステム60は、超音波プローブ20、及び穿刺針の3次元の位置情報を取得するためのシステムである。位置センサシステム60は、例えば、磁気発生器61、位置センサ62、及び位置検出装置63を備える。磁気発生器61は、例えば磁気発生コイル等を有する。磁気発生器61は、任意の位置に配置され、自器を中心として外側に向かって磁場を形成する。
【0089】
位置センサ62は、例えば、磁気センサであり、磁気発生器61によって形成される3次元の磁場の強度、及び傾きを検出する。位置センサ62は、超音波プローブ20、及び穿刺針に装着される。位置センサ62は、検出した磁場の強度、及び傾きを位置検出装置63へ出力する。
【0090】
位置検出装置63は、位置センサ62で検出された磁場の強度、及び傾きに基づき、所定の位置を原点とした3次元空間における超音波プローブ20、及び穿刺針の位置を算出する。このとき、所定の位置は、例えば、磁気発生器61が配置される位置とする。位置検出装置63は、算出した位置に関する位置情報を装置本体10aへ送信する。
【0091】
通信インタフェース16aは、ネットワーク100等を介して外部装置30と接続され、外部装置30との間でデータ通信を行う。また、通信インタフェース16aは、位置検出装置63から送信される、超音波プローブ20の位置情報、及び穿刺針の位置情報を受信する。
【0092】
超音波診断装置1aの処理回路17aは、内部記憶回路13に記憶されているプログラムを実行することで、当該プログラムに対応する機能を実現する。処理回路17aは、例えば、支援画像生成機能178をさらに有する。
【0093】
支援画像生成機能178は、位置センサシステム60により取得された超音波プローブ20と穿刺針との相対的な位置関係に基づき、支援画像を生成する機能である。具体的には、支援画像生成機能178において処理回路17aは、解析機能173により算出された血管中心と体表との間の距離に基づき、穿刺針の挿入位置を算出する。処理回路17aは、超音波プローブ20、血管中心、穿刺針の挿入位置、及び現在の穿刺針の位置を表す支援画像を生成する。
【0094】
図20は、支援画像生成機能178により生成される支援画像の例を表す模式図である。
図20によれば、超音波プローブ20、血管中心、及び穿刺針の挿入位置が表示されると共に、穿刺前の穿刺針の位置を表すガイドグラフィックが表示されている。この表示により、術者は、穿刺針を刺す前に、現在の穿刺針の位置、及び穿刺針の角度を確認することが可能となる。
【0095】
図21は、支援画像生成機能178により生成される支援画像のその他の例を表す模式図である。
図21によれば、超音波プローブ20、血管中心、及び穿刺針の挿入位置が表示されると共に、穿刺中の穿刺針の位置を表すガイドグラフィックが表示されている。この表示により、術者は、穿刺針を刺している最中において、穿刺針の進行方向、及び刺さっている針の長さを確認することが可能となる。なお、
図21において、血管中心、すなわち、ターゲットまでの残り距離を表示するようにしても構わない。
【0096】
針ナビゲーションシステムに対応している超音波診断装置1aでは、例えば、以下のように処理することで、Bモード画像に合成されるドプラ画像の一部のカラー表示を排除可能である。すなわち、処理回路17aは、例えば、解析機能173により、位置センサシステム60から送信される超音波プローブ20と穿刺針との相対的な位置関係に基づき、穿刺針の針先が血管中心に到達したか否かを判断する。穿刺針の針先が血管中心に到達すると、処理回路17aは、表示制御機能176により、針先の位置を中心とした所定の範囲において、Bモードで表示される血管画像に合成されているドプラ画像のカラー表示を排除する。
【0097】
図22は、針先の位置を中心とした所定範囲のドプラ画像のカラー表示が排除された場合の表示例を表す模式図である。
図22によれば、短軸画像の中心近傍に到達した穿刺針の針先の周囲においてドプラ画像のカラー表示が排除されている。
【0098】
以上のように、第2の実施形態では、超音波プローブ20は、被検体内のスキャン領域について超音波スキャンを実施する。超音波診断装置1aの処理回路17aは、超音波スキャンの結果のうち、スキャン領域の中央部分に対応する一部を解析することで、中央部分に含まれる血管と体表との間の距離を計算する。そして、処理回路17aは、計算した距離をリアルタイムに表示機器40に表示させる。また、処理回路17aは、位置センサシステム60により取得された超音波プローブ20と穿刺針との相対的な位置関係、及び計算した距離に基づき、支援画像を生成するようにしている。これにより、超音波診断装置1aは、術者が穿刺深さを見誤ることを防ぐと共に、穿刺針を挿入する位置、及び角度を術者に確認させることが可能となる。
【0099】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、超音波診断装置1,1aは、より簡便かつ安全に、術者に穿刺術を実施させることができる。
【0100】
実施形態の説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(central processing unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC))、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、上記各実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、上記各実施形態における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0102】
1,1a…超音波診断装置
10,10a…装置本体
11…超音波送信回路
12…超音波受信回路
13…内部記憶回路
14…画像メモリ
15…入力インタフェース
16,16a…通信インタフェース
17,17a…処理回路
171…Bモード処理機能
172…ドプラ処理機能
173…解析機能
174…画像生成機能
175…画像処理機能
176…表示制御機能
177…システム制御機能
178…支援画像生成機能
20…超音波プローブ
30…外部装置
40…表示機器
50…入力装置
60…位置センサシステム
61…磁気発生器
62…位置センサ
63…位置検出装置
100…ネットワーク