(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-26
(45)【発行日】2024-04-03
(54)【発明の名称】チューンドマスダンパー及びチューンドマスダンパーの固有周期の調整方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20240327BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
F16F15/04 E
F16F15/02 C
(21)【出願番号】P 2023100780
(22)【出願日】2023-06-20
【審査請求日】2023-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山崎 伸介
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-042622(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105863098(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/04
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面滑り支承と、
前記球面滑り支承の上に載置される錘と、
を備えるチューンドマスダンパーであって、
弾性部材をさらに備え、
前記球面滑り支承は、沓を含み、
前記沓は、上方又は下方に面する凹球面を含み、
前記チューンドマスダンパーの固有周期は、前記凹球面の曲率半径の大きさ及び前記弾性部材の弾性の大きさによって決定され、
前記弾性部材の少なくとも一部は、前記球面滑り支承及び前記錘の平面視最外郭よりも外側の領域に存在する、
ことを特徴とするチューンドマスダンパー。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記沓の転倒を防止可能である、
ことを特徴とする請求項
1に記載のチューンドマスダンパー。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記沓に連結される、
ことを特徴とする請求項
2に記載のチューンドマスダンパー。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記錘に連結される、
ことを特徴とする請求項
2に記載のチューンドマスダンパー。
【請求項5】
前記沓は、上沓を含み、
前記上沓は、前記錘が載置される台として機能する、
ことを特徴とする請求項
1乃至
4のいずれか1項に記載のチューンドマスダンパー。
【請求項6】
前記球面滑り支承を複数備える、
ことを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のチューンドマスダンパー。
【請求項7】
球面滑り支承と、
前記球面滑り支承の上に載置される錘と、
弾性部材と、
を備え
、
前記球面滑り支承は、沓を含み、
前記沓は、上方又は下方に面する凹球面を含み、
前記弾性部材の少なくとも一部は、前記球面滑り支承及び前記錘の平面視最外郭よりも外側の領域に存在する、
チューンドマスダンパーの固有周期の調整方法であって、
前記固有周期は、
前記凹球面の曲率半径の大きさ及び前記弾性部材の弾性の大きさによって調整される、
ことを特徴とするチューンドマスダンパーの固有周期の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューンドマスダンパー及びチューンドマスダンパーの固有周期の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物において、地震等による振動を抑える制振装置が設置されることがある。例えば、特許文献1では、円弧面を有する上下挟圧部材間に円柱状ころ部材を介在させてなる制振機構の上部にウエイトを載置した制振装置(チューンドマスダンパー)において、円柱状ころ部材にはずみ車を付設したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チューンドマスダンパーにおいて、構造を簡素にすること、及び費用を削減することが求められている。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、簡素な構造を備え、かつ費用を削減したチューンドマスダンパー及びチューンドマスダンパーの固有周期の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の態様1に係るチューンドマスダンパーは、球面滑り支承と、前記球面滑り支承の上に載置される錘と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、球面滑り支承の上に載置される錘を備える。これにより、簡素な構造によってチューンドマスダンパーを構成することができる。よって、チューンドマスダンパーの費用を削減することができる。
【0008】
<2>本発明の態様2に係るチューンドマスダンパーは、態様1に係るチューンドマスダンパーにおいて、前記球面滑り支承は、沓を含み、前記沓は、上方又は下方に面する凹球面を含み、前記チューンドマスダンパーの固有周期は、前記凹球面の曲率半径の大きさによって決定されることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、チューンドマスダンパーの固有周期は、沓の備える凹球面の曲率半径の大きさによって決定される。これにより、例えば、チューンドマスダンパーの固有周期を確実に決定することができる。
【0010】
<3>本発明の態様3に係るチューンドマスダンパーは、態様2に係るチューンドマスダンパーにおいて、弾性部材、を更に備え、前記固有周期は、前記凹球面の曲率半径の大きさ及び前記弾性部材の弾性の大きさによって決定されることを特徴とする。
【0011】
ここで、チューンドマスダンパーを設置する建造物の固有周期は、設計検討時の予測値と実測値とで差が生じることがある。このため、設計検討時に決定した球面滑り支承の曲率半径の大きさによるチューンドマスダンパーの固有周期を、施工後に調整することが必要となる場合がある。
チューンドマスダンパーの固有周期は、沓の備える凹球面の曲率半径の大きさ及び弾性部材の弾性の大きさによって決定される。これにより、例えば、沓の凹球面の曲率半径の大きさを変更してチューンドマスダンパーの固有周期を調整した後、更に、チューンドマスダンパーの固有周期を調整する必要がある場合等に、沓の凹球面の曲率半径の大きさを追加で変更することなく、チューンドマスダンパーの固有周期を調整することができる。よって、例えば、チューンドマスダンパーの設計の効率を向上させることができる。
【0012】
<4>本発明の態様4に係るチューンドマスダンパーは、態様3に係るチューンドマスダンパーにおいて、前記弾性部材は、前記沓の転倒を防止可能であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、弾性部材は、沓の転倒を防止可能である。弾性部材によってチューンドマスダンパーの固有周期を調整可能であるとともに、錘の転倒を防止可能であることで、錘の転倒を防止するために別の構成を設けることを不要とすることができる。したがって、例えば、チューンドマスダンパーの構成をよりシンプルなものにすることができる。よって、例えば、チューンドマスダンパーの費用をより抑えることができる。
【0014】
<5>本発明の態様5に係るチューンドマスダンパーは、態様3又は態様4に係るチューンドマスダンパーにおいて、前記弾性部材は、前記沓に連結されることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、弾性部材は、沓に連結される。これにより、沓に、弾性部材の連結部材としての機能を担保させることができる。したがって、例えば、チューンドマスダンパーの構成をよりシンプルなものにすることができる。よって、例えば、チューンドマスダンパーの費用をより抑えることができる。
【0016】
<6>本発明の態様6に係るチューンドマスダンパーは、態様3から態様5のいずれか1つに係るチューンドマスダンパーにおいて、前記弾性部材は、前記錘に連結されることを特徴とする。
【0017】
ここで、弾性部材の直径及び球面滑り支承の上下方向の寸法によっては、弾性部材を沓に連結した際に、弾性部材が床面に干渉することがある。
弾性部材は、錘に連結される。これにより、例えば、弾性部材と床面との干渉を抑えることができる。よって、弾性部材の取り付け位置の自由度を高くすることができる。
【0018】
<7>本発明の態様7に係るチューンドマスダンパーは、態様2から態様6のいずれか1つに係るチューンドマスダンパーにおいて、前記沓は、上沓を含み、前記上沓は、前記錘が載置される台として機能することを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、上沓は、錘が載置される台として機能する。これにより、上沓に、固有周期調整手段及び錘の台の両方の機能を担保させることができる。したがって、例えば、チューンドマスダンパーの構成をよりシンプルなものにすることができる。よって、例えば、チューンドマスダンパーの費用をより抑えることができる。
【0020】
<8>本発明の態様8に係るチューンドマスダンパーは、態様1から態様7のいずれか1つに係るチューンドマスダンパーにおいて、前記球面滑り支承を複数備えることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、錘の下に、球面滑り支承を複数備える。錘を複数の球面滑り支承によって支持することで、例えば、錘が球面滑り支承の上で転倒することを抑えることができる。よって、より錘を安定して支持することができる。
【0022】
<9>本発明の態様9に係るチューンドマスダンパーの固有周期の調整方法は、球面滑り支承と、前記球面滑り支承の上に載置される錘と、弾性部材と、を備えるチューンドマスダンパーの固有周期の調整方法であって、前記固有周期は、前記弾性部材の弾性の大きさによって調整されることを特徴とする。
【0023】
ここで、チューンドマスダンパーの施工後において、チューンドマスダンパーの固有周期を更に調整することが必要となる場合がある。
チューンドマスダンパーの固有周期は、弾性部材の弾性の大きさによって調整される。これにより、例えば、球面滑り支承の形状等を変更することなく、チューンドマスダンパーの固有周期を調整することができる。よって、例えば、チューンドマスダンパーの設計の効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、簡素な構造を備え、かつ費用を削減したチューンドマスダンパー及びチューンドマスダンパーの固有周期の調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】チューンドマスダンパーの斜視図の第1例である。
【
図2】チューンドマスダンパーの斜視図の第2例である。
【
図3】チューンドマスダンパーの正面図の第1例である。
【
図4】チューンドマスダンパーの正面図の第2例である。
【
図5】チューンドマスダンパーの正面図の第3例である。
【
図6】チューンドマスダンパーの正面図の第4例である。
【
図7】チューンドマスダンパーの正面図の第5例である。
【
図8】チューンドマスダンパーにおける錘と球面滑り支承との取り付けの第1例である。
【
図9】チューンドマスダンパーにおける錘と球面滑り支承との取り付けの第2例である。
【
図10】チューンドマスダンパーにおける弾性部材の配置の第1例である。
【
図11】チューンドマスダンパーにおける弾性部材の配置の第2例である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係るチューンドマスダンパー100を説明する。チューンドマスダンパー100は、例えば、建造物の上層部に配置される。建造物とは、例えば、高層ビルや風車タワー、風車ジャケット構造体、風車モノパイル、橋梁の橋桁、橋梁の主塔、石油掘削ジャケットである。すなわち、チューンドマスダンパー100は、例えば、高層ビル、風車タワー、橋梁、ジャケット構造体等の上部に設けられる。チューンドマスダンパー100は、例えば、前述の風車ジャケット構造体や風車モノパイル等の上部に設けられてもよい。チューンドマスダンパー100は、例えば、地震や強風等が発生した際に、建造物の上層部の振動を減衰することで、建造物の振動を抑える為に用いられる。
図1に示すように、チューンドマスダンパー100は、球面滑り支承10と、錘20と、弾性部材30と、を備える。
【0027】
球面滑り支承10は、例えば、
図3又は
図4に示すように、公知の構造である。球面滑り支承10は、沓11と、スライダー部12と、を含む。
沓11は、上沓11Uと、下沓11Lと、を含む。沓11は、上方又は下方に面する凹球面を含む。すなわち、例えば、上沓11Uは、下方に面する上沓凹球面11Udを備える。下沓11Lは、上方に面する下沓凹球面11Ldを備える。
スライダー部12は、上沓11Uと下沓11Lとの間に配置される。スライダー部12は、上方に面し、上沓凹球面11Udと摺動する上凸球面12PUと、下方に面し、下沓凹球面11Ldと摺動する下凸球面12PLと、を備える。
球面滑り支承10において、上沓凹球面11Udの曲率半径と上凸球面12PUの曲率半径とは、同じである。下沓凹球面11Ldの曲率半径と下凸球面12PLの曲率半径とは、例えば、同じである。
なお、上沓凹球面11Udの曲率半径と下沓凹球面11Ldの曲率半径とは、同じでなくてもよい。その場合は、例えば、
図5に示すように、スライダー部12にヒンジ部12Hを設けることで、制御対象振動領域を2つにすることが好ましい。すなわち、上沓凹球面11Udの曲率半径と下沓凹球面11Ldの曲率半径とを異なるものとし、スライダー部12の形状も上沓凹球面11Ud及び下沓凹球面11Ldのそれぞれに合う形状として、スライダー部12が上沓11Uと下沓11Lとの間で回転するようにしてもよい。
【0028】
球面滑り支承10において、下沓11Lは、例えば、建造物の床に固定される。上沓11Uは、スライダー部12を介して下沓11Lの上に配置される。このことで、上記構成を備えた球面滑り支承10は、上沓11Uと下沓11Lとが水平方向に相対変位する。このとき、スライダー部12が上沓11U及び下沓11Lとそれぞれ摺動することで、上沓11Uと下沓11Lとの相対移動を円滑にする。本実施形態において、球面滑り支承10は、例えば、以下の2例が好適に用いられる。
【0029】
(球面滑り支承10の第1例)
第1例に係る球面滑り支承10は、
図3に示すダブルペンデュラム方式である。すなわち、上沓11U及びスライダー部12が、水平方向に変位する。具体的には、スライダー部12は、下沓11Lに対して水平方向に相対変位する。更に、上沓11Uは、スライダー部12と水平方向に相対移動する。上沓11U、スライダー部12、及び下沓11Lの板厚又は平面寸法は、例えば、上沓11Uの上に載置される錘20の重さ及び大きさに合わせて適宜決定されることが好ましい。上沓11U、スライダー部12、及び下沓11Lの曲率半径や摩擦係数、及び錘20の重さは、例えば、チューンドマスダンパー100が配置される建造物の固有周期、有効質量、目標とする減衰等によって適宜決定されることが好ましい。
【0030】
(球面滑り支承10の第2例)
第1例に係る球面滑り支承10は、
図4に示すシングルペンデュラム方式である。すなわち、上沓11Uは水平方向に変位するが、スライダー部12は水平方向に移動しない。具体的には、スライダー部12は、下沓11Lの下沓凹球面11Ldの内部で回転するようにのみ変位する。換言すれば、スライダー部12は、下沓11Lと水平方向に相対変位しない。上沓11Uは、スライダー部12と水平方向に相対移動する。球面滑り支承10をシングルペンデュラム方式とする場合は、上沓11Uの移動量を確保するため、例えば、ダブルペンデュラム方式の上沓11Uよりも大きくすることが好ましい。具体的には、例えば、シングルペンデュラム方式の球面滑り支承10をダブルペンデュラム方式の球面滑り支承10と同じ性能とするためには、上沓11Uの大きさをダブルペンデュラム方式の2倍とし、かつ、上沓凹球面11Udの曲率半径をダブルペンデュラム方式の2倍とする。
【0031】
本実施形態に係るチューンドマスダンパー100において、
図2及び
図3に示すように、球面滑り支承10は例えば、1つ設けられる。これに限らず、例えば、
図6に示すように、チューンドマスダンパー100において、球面滑り支承10は複数設けられてもよい。この場合、球面滑り支承10は、例えば、平面視において錘20の重心を中心とした円に沿って、3つ以上設けられることが好ましい。このことで、球面滑り支承10の上で錘20が転倒することを抑えることが好ましい。
【0032】
錘20は、球面滑り支承10の上に載置される。すなわち、錘20は、球面滑り支承10の上沓11Uに連結される。換言すれば、チューンドマスダンパー100において、上沓11Uは、錘20が載置される台として機能する。このことで、球面滑り支承10の上沓11Uが下沓11Lに対して相対移動する時は、上沓11Uに伴って錘20も移動する。このとき、錘20は、質量による慣性によって、建造物の振動を抑える(詳細は後述する)。本実施形態において、錘20は、例えば、チューンドマスダンパー100が設けられる建造物の重さの0.5%~1.0%程度の重さのものが好適に用いられる。
【0033】
錘20は、例えば、上沓11Uに対して次のように連結される。すなわち、例えば、
図8に示すように、錘20と上沓11Uとを、ボルトBによって固定する。
あるいは、例えば、
図9に示すように、まず、錘20の周囲に固定部材Fを配置することで連結する。具体的には、固定部材Fの両端が、上沓11Uの側面に位置するように、かつ、固定部材Fの両端以外の部分が錘20に接するように配置する。そして、固定部材Fの両端を、例えば、ボルトBによって上沓11Uの側面に固定する。固定部材Fは、例えば、錘20の周囲に巻き付けることが可能なベルト状の部材である。あるいは、固定部材Fは、例えば、錘20の周囲を覆うことが可能な布状あるいは板状の部材であってもよい。
上記いずれかの方法により、錘20は上沓11Uに連結される。
【0034】
弾性部材30は、例えば、上沓11Uの下沓11Lに対する相対変位量を制御する。弾性部材30には、例えば、バネや、高弾性ゴムが好適に用いられる。弾性部材30は、例えば、球面滑り支承10及び錘20の四方に配置される。このことで、上沓11Uが水平方向のいずれの方向に移動した場合にも対応可能とする。弾性部材30は、例えば、下記の2例のようにして配置される。
【0035】
(弾性部材30の配置の第1例)
第1例において、弾性部材30は、
図1に示すように、沓11に連結される。具体的には、弾性部材30は、例えば、
図10に示すように、上沓11Uに連結されるようにして設けられる。このことで、例えば、上沓11Uに、チューンドマスダンパー100における弾性部材30の連結部材としての機能を担保させることが好ましい。
【0036】
(弾性部材30の配置の第2例)
第2例において、弾性部材30は、
図11に示すように、錘20に連結されるようにして設けられる。ここで、弾性部材30がバネである場合において、弾性部材30の直径及び球面滑り支承10の上下方向の寸法によっては、弾性部材30を上沓11Uに連結した際に、弾性部材30が床面に干渉することがある。このような場合に、弾性部材30を錘20に連結することで、弾性部材30が床面に干渉することを抑えることができるようにすることが好ましい。弾性部材30を錘20に連結した場合は、例えば、弾性部材30によって沓11の転倒を防止可能となるようにすることがより好ましい。
【0037】
(チューンドマスダンパー100による振動の減衰について)
上記の各構成を備えるチューンドマスダンパー100は、上述のように、建造物の上層部に設けられ、地震や強風等が発生した際に、建造物の上層部の振動を減衰することで、建造物の振動を抑える。具体的には、建造物が振動した際、チューンドマスダンパー100の錘20を、建造物の固有周期に合わせて逆位相に振動させることで、建造物の振動を減衰する。このため、建造物にチューンドマスダンパー100を設置する際は、建造物の固有周期に合わせて、チューンドマスダンパー100の固有周期を調整する。
【0038】
チューンドマスダンパー100の等価周期をTeffとしたとき、錘20の重さをW、球面滑り支承10の摩擦係数をμ、球面滑り支承10の変位をu、球面滑り支承10の凹球面の曲率半径をR、弾性部材30(バネ)の個数をn、弾性部材30(バネ)のバネ定数をk、重力加速度をgとして、次の2式で表される。すなわち、下記数1は、
図4、
図7、
図8、
図9、
図10、
図11に示すシングルペンデュラム方式の球面滑り支承10の等価周期を求める式である。下記数2は、
図3に示すダブルペンデュラム方式の球面滑り支承10の等価周期を求める式である。なお、数2は、ダブルペンデュラム方式の球面滑り支承10のうち、特に上沓凹球面11Udの曲率半径と下沓凹球面11Ldの曲率半径が同じものの等価周期を求める式である。
【数1】
【数2】
【0039】
(チューンドマスダンパー100の固有周期の決定、及び調整方法)
本実施形態において、チューンドマスダンパー100の固有周期は、例えば、球面滑り支承10の備える凹球面の曲率半径の大きさによって決定される。具体的には、チューンドマスダンパー100の固有周期は、振り子の原理に沿って振動する球面滑り支承10の振り子の長さによって決定される。すなわち、例えば、上沓凹球面11Udや下沓凹球面11Ldの曲率半径を大きくすることで、チューンドマスダンパー100の固有周期を長くする。例えば、上沓凹球面11Udや下沓凹球面11Ldの曲率半径を小さくすることで、チューンドマスダンパー100の固有周期を短くする。
【0040】
本実施形態において、チューンドマスダンパー100の固有周期は、凹球面の曲率半径の大きさに加えて、弾性部材30の弾性の大きさによって決定あるいは調整されてもよい。ここで、建造物の固有周期は、設計検討時の予測値と実測値とで差が生じることがある。このため、設計検討時に決定した球面滑り支承10の曲率半径の大きさによるチューンドマスダンパー100の固有周期を、施工後に調整することが必要となる場合がある。このような場合に、弾性部材30の弾性の大きさを調整することで、チューンドマスダンパー100の固有周期を調整することが好ましい。すなわち、例えば、弾性部材30を設置する数を増減したり、弾性部材30のバネ定数を変更したりすることで、チューンドマスダンパー100の固有周期を調整することが好ましい。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係るチューンドマスダンパー100によれば、球面滑り支承10の上に載置される錘20を備える。これにより、簡素な構造によってチューンドマスダンパー100を構成することができる。よって、チューンドマスダンパー100の費用を削減することができる。
【0042】
また、チューンドマスダンパー100の固有周期は、沓11の備える凹球面の曲率半径の大きさによって決定される。これにより、例えば、チューンドマスダンパー100の固有周期を確実に決定することができる。
【0043】
ここで、チューンドマスダンパー100を設置する建造物の固有周期は、設計検討時の予測値と実測値とで差が生じることがある。このため、設計検討時に決定した球面滑り支承10の曲率半径の大きさによるチューンドマスダンパー100の固有周期を、施工後に調整することが必要となる場合がある。
チューンドマスダンパー100の固有周期は、沓11の備える凹球面の曲率半径の大きさ及び弾性部材30の弾性の大きさによって決定される。これにより、例えば、沓11の凹球面の曲率半径の大きさを変更してチューンドマスダンパー100の固有周期を調整した後、更に、チューンドマスダンパー100の固有周期を調整する必要がある場合等に、沓11の凹球面の曲率半径の大きさを追加で変更することなく、チューンドマスダンパー100の固有周期を調整することができる。よって、例えば、チューンドマスダンパー100の設計の効率を向上させることができる。
【0044】
また、弾性部材30は、沓11の転倒を防止可能である。弾性部材30によってチューンドマスダンパー100の固有周期を調整可能であるとともに、錘20の転倒を防止可能であることで、錘20の転倒を防止するために別の構成を設けることを不要とすることができる。したがって、例えば、チューンドマスダンパー100の構成をよりシンプルなものにすることができる。よって、例えば、チューンドマスダンパー100の費用をより抑えることができる。
【0045】
また、弾性部材30は、沓11に連結される。これにより、沓11に、弾性部材30の連結部材としての機能を担保させることができる。したがって、例えば、チューンドマスダンパー100の構成をよりシンプルなものにすることができる。よって、例えば、チューンドマスダンパー100の費用をより抑えることができる。
【0046】
ここで、弾性部材30の直径及び球面滑り支承10の上下方向の寸法によっては、弾性部材30を沓11に連結した際に、弾性部材30が床面に干渉することがある。
弾性部材30は、錘20に連結される。これにより、例えば、弾性部材30と床面との干渉を抑えることができる。よって、弾性部材30の取り付け位置の自由度を高くすることができる。
【0047】
また、上沓11Uは、錘20が載置される台として機能する。これにより、上沓11Uに、固有周期調整手段及び錘20の台の両方の機能を担保させることができる。したがって、例えば、チューンドマスダンパー100の構成をよりシンプルなものにすることができる。よって、例えば、チューンドマスダンパー100の費用をより抑えることができる。
【0048】
また、錘20の下に、球面滑り支承10を複数備える。錘20を複数の球面滑り支承10によって支持することで、例えば、錘20が球面滑り支承10の上で転倒することを抑えることができる。よって、より錘20を安定して支持することができる。
【0049】
ここで、チューンドマスダンパー100の施工後において、チューンドマスダンパー100の固有周期を更に調整することが必要となる場合がある。
チューンドマスダンパー100の固有周期は、弾性部材30の弾性の大きさによって調整される。これにより、例えば、球面滑り支承10の形状等を変更することなく、チューンドマスダンパー100の固有周期を調整することができる。よって、例えば、チューンドマスダンパー100の設計の効率を向上させることができる。
【0050】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、弾性部材30を用いたチューンドマスダンパー100の固有周期の調整の結果、弾性部材30によって錘20の転倒を抑えることができない場合は、錘20が球面滑り支承10の上で転倒することを抑えるために、
図7に示すように、上沓11Uの下に転倒防止ローラFRを備えてもよい。
例えば、弾性部材30を上沓11Uに連結する際、弾性部材30と床面との干渉を抑えるために、下沓11Lを設置する床面に凸部を設けることで、弾性部材30と凸部以外の床面とのに隙間を設けるようにしてもよい。
【0051】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 球面滑り支承
11 沓
11L 下沓
11Ld 下沓凹球面
11U 上沓
11Ud 上沓凹球面
12 スライダー部
12PL 下凸球面
12PU 上凸球面
20 錘
30 弾性部材
100 チューンドマスダンパー
B ボルト
F 固定部材
FR 転倒防止ローラ
【要約】
【課題】簡素な構造を備え、かつ費用を削減したチューンドマスダンパー及びチューンドマスダンパーの固有周期の調整方法を提供することを目的とする。
【解決手段】球面滑り支承10と、球面滑り支承10の上に載置される錘20と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1