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特許7461606食道用送液カテーテル及び食道用送液カテーテル製造用中間部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】食道用送液カテーテル及び食道用送液カテーテル製造用中間部品
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20240328BHJP
   A61B 18/12 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
A61M25/00 540
A61B18/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019571077
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2019049815
(87)【国際公開番号】W WO2020130074
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2018238594
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 博樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 智彦
(72)【発明者】
【氏名】松熊 哲律
(72)【発明者】
【氏名】岡田 達弥
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-504284(JP,A)
【文献】特開平11-197251(JP,A)
【文献】特表2013-518675(JP,A)
【文献】国際公開第99/13934(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部材と、基端が前記筒状部材の先端部に固定された複数のアームと、該アームの先端に固定された先端チップと、を具備し、
前記複数のアームが変形して前記筒状部材の径方向の外側に拡張可能であり、
前記筒状部材に挿通され、先端が前記先端チップに固定されたシャフトを有し、該シャフトを前記筒状部材に対して相対的に基端側にスライドさせることにより、前記アームが径方向の外側に拡張し、
前記筒状部材の内壁と前記シャフトの外壁との間に空間が存在し、該空間に食道に供給される液が流通される、
食道用送液カテーテル。
【請求項2】
前記筒状部材の外壁上に設けられた、送液用のチューブをさらに具備する請求項1記載の食道用送液カテーテル。
【請求項3】
前記シャフトがカテーテルの形態にあり、送液される液が、該シャフト内を流通する、請求項1記載の食道用送液カテーテル。
【請求項4】
前記アーム又は前記シャフトが温度センサを有する、請求項1~3のいずれか一項記載の食道用送液カテーテル。
【請求項5】
前記筒状部材は2つ以上のスリットを有し、前記アームは、該スリット間に存在する筒状部材から構成される、請求項1~4のいずれか一項記載の食道用送液カテーテル。
【請求項6】
前記アーム断面の最大幅は、1mm以上である、請求項1~5のいずれか一項記載の食道用送液カテーテル。
【請求項7】
前記先端チップと前記シャフトの先端は、互いに嵌合・分離可能である、請求項1~6のいずれか一項記載の食道用送液カテーテル。
【請求項8】
前記シャフトは、1.667mm~5mmの直径を有するカテーテルである、請求項1、3~7のいずれか一項記載の食道用送液カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食道用送液カテーテル及び食道用送液カテーテル製造用中間部品に関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動等の不整脈等を治療するカテーテルアブレーションは、カテーテルを体内に挿入するとともに、カテーテルの先端を加熱や冷却する等の方法によって、心臓内の標的部位を破壊し治療する方法である。
【0003】
この治療方法に用いるためのアブレーションカテーテルとして、様々なカテーテルが開発されており、例えば、カテーテルの先端にバルーンを取付けると共に、心房内でバルーンを加熱することが可能なバルーン付きアブレーションカテーテルや、冷凍アブレーションが可能なバルーン付きアブレーションカテーテルが知られている。
【0004】
このように心臓内をアブレーションする場合に、アブレーションによる影響(温度)が心臓に近接する食道へ伝達することで食道の合併症を引き起こす可能性があり、様々な対策が採られている。
【0005】
特許文献1には、栄養カテーテルが挙げられている。当該カテーテルに限らず類似のカテーテルチューブを用いて食道へ液体を送液し、食道への温度伝達を低減する対策が採られている場合がある。
【0006】
特許文献2には、食道への温度伝達を低減する為に、食道の位置をアブレーションの部位から遠ざけるデバイスが挙げられている。
【0007】
特許文献3には、食道にバルーンを挿入してバルーン内に温度調節された液体を循環させるデバイスが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-078456
【文献】特開2016-067728
【文献】特開2017-225791
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に代表されるカテーテルチューブを用いて食道に液体を送液する場合、患者状態や臓器の重量等により外側から食道が圧迫され潰れている状態では、効率的な送液ができない可能性がある。
【0010】
また、特許文献2のように食道の位置を変位させたとしても、温度伝達を完全に防ぐことができない可能性がある。
【0011】
特許文献3では、内部に液体を循環させたバルーンを食道に接触することで温度調整を行なうが、バルーンの接触部位のみで温度調整をすることになるため、食道内に直接液体を送液する方法よりも効率的に温度伝達を低減できない可能性がある。
【0012】
本発明は、食道に対して効率的に液体を送液することで、食道に対してアブレーションによる加熱や冷却等の温度伝達を低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、送液カテーテルの先端近傍に複数のアームを設け、食道内で該アームを変形させてカテーテルの径方向の外側に拡張可能とし、アームが拡張した状態で送液することにより、食道に対してアブレーションによる加熱や冷却等の温度伝達を低減することが可能であることに想到し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0015】
(1) 筒状部材と、基端が前記筒状部材の先端部に固定された複数のアームと、該アームの先端に固定された先端チップと、を具備し、
前記複数のアームが変形して前記筒状部材の径方向の外側に拡張可能であり、
前記筒状部材に挿通され、先端が前記先端チップに固定されたシャフトを有し、該シャフトを前記筒状部材に対して相対的に基端側にスライドさせることにより、前記アームが径方向の外側に拡張し、
前記筒状部材の内壁と前記シャフトの外壁との間に空間が存在し、該空間に食道に供給される液が流通される、
食道用送液カテーテル。
(2) 前記筒状部材の外壁上に設けられた、送液用のチューブをさらに具備する(1)記載の食道用送液カテーテル。
(3) 前記シャフトがカテーテルの形態にあり、送液される液が、該シャフト内を流通する、(1)記載の食道用送液カテーテル。
(4) 前記アーム又は前記シャフトが温度センサを有する、(1)~(3)のいずれか記載の食道用送液カテーテル。
(5) 前記筒状部材は2つ以上のスリットを有し、前記アームは、該スリット間に存在する筒状部材から構成される、(1)~(4)のいずれか記載の食道用送液カテーテル。
(6) 前記アーム断面の最大幅は、1mm以上である、(1)~(5)のいずれか記載の食道用送液カテーテル。
(7) 前記先端チップと前記シャフトの先端は、互いに嵌合・分離可能である、(1)~(6)のいずれか記載の食道用送液カテーテル。
(8) 前記シャフトは、1.667mm~5mmの直径を有するカテーテルである、(1)、(3)~(7)のいずれか記載の食道用送液カテーテル。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、アームを食道内で拡張することができ、この状態で送液を行うことにより、食道に対してアブレーションによる加熱や冷却等の温度伝達を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第一の実施形態に係る食道送液カテーテルの概略図である。
図2】アームの断面形状の例を示す概略図である。
図3】第二の実施形態に係る食道送液カテーテルの概略図である。
図4】第三の実施形態に係る食道送液カテーテルの概略図である。
図5】第四の実施形態に係る食道送液カテーテルの概略図である。図5Aはアームが閉じた状態、図5Bはアームが径方向の外側に拡張した状態を示す。
図6】第五の実施形態に係る食道送液カテーテルの概略図である。
図7】食道送液カテーテルの比較例1を示す概略図である。
図8】食道送液カテーテルによる温度伝達低減効果を確認するための評価系を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。同一の要素には同一符号を用いるものとして、重複する説明は省略する。また、図面の比率は説明のものとは必ずしも一致しない。なお、「長さ」というときには、長手方向における長さを表すものとする。
【0019】
本発明の第一実施形態に係る食道送液カテーテル1を、図1を用いて説明する。
【0020】
食道送液カテーテル1は、筒状部材2と、筒状部材2のルーメン(空間)に挿入されたシャフト4を有し、筒状部材2とシャフト4が互いに摺動可能な構造を持つ。筒状部材2の内壁とシャフト4の外壁との間に空間が存在し、操作時にはこの空間に液が流通される。
【0021】
シャフト4の形状は、ルーメンを有するチューブ、素線、より線等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
筒状部材2及びシャフト4の長さは、それぞれ200mm~1000mmであることが好ましい。また、筒状部材2及びシャフト4の材料は、抗血栓性に優れる可撓性材料であることが好ましく、フッ素ポリマー、ポリアミド、ポリウレタン系ポリマー、ポリイミド又は金属類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
筒状部材2の先端には筒状部材2に接続された複数のアーム3を有しており、アーム3の先端側及びシャフト4の先端側は先端チップ5に固定されている。シャフト4を筒状部材2に対して相対的に基端側に、すなわち、先端チップ5が筒状部材2に近づく方向にスライドさせると、シャフト4に引っ張られて先端チップ5とアーム3の先端側が基端側に引っ張られる。一方、アーム3の基端側は筒状部材2に固定されているため、動かない。このため、当該シャフト4と筒状部材2のスライド動作により、図示のようにアーム3が変形して径方向の外側に拡張する。人の口ないし鼻の開口から挿入する場合にはアーム3は非拡張状態で挿入し、目的部位においてアーム3を径方向の外側に拡張状態とする、など必要に応じた拡張操作が可能である。図1はアーム3が拡張している状態を示している。
【0024】
アーム3の長さは、20mm~100mmであることが好ましい。また、アーム3の断面形状は、図2Aに示す円形、図2Bに示す正方形、図2Cに示す長方形等どのような形状でもよい。さらに、アーム3の断面の最大幅は1mm以上であることが好ましい。最大幅の上限値は特に限定されないが、通常10mm以下、特には5mm以下である。なお、断面の最大幅とは、断面上で最も離れた2点間の距離であり、図2A図2B及び図2Cに示すとおり、例えばアーム3の断面形状が円形状であれば当該直径を表し、アーム3形状が正方形形状や長方形形状であれば当該対角線長さを表す。
【0025】
アーム3及び先端チップ5は、抗血栓性に優れる可撓性材料であることが好ましく、フッ素ポリマー、ポリアミド、ポリウレタン系ポリマー、ポリイミド又は金属類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
なお、図1においては、シャフト4と筒状部材2のスライド動作により、アーム3が変形して径方向の外側に拡張する実施形態を説明しているが、アーム3を例えば熱で変形する形状記憶合金又は形状記憶ポリマーや、熱膨張率が異なる2枚の金属板を貼り合わせたバイメタルにより構成することで、シャフト4を用いなくてもアーム3が径方向の外側に拡張することができる。該形状記憶合金又は形状記憶ポリマーとして、例えば、ニッケルチタン合金やポリウレタン系ポリマーが挙げられるが、限定されるものではない。さらにアーム3を予め拡張状態で成型し、食道送液カテーテル1を別のチューブで体内に導入することで、アーム3が該チューブ先端から突出した時点でアーム3が変形して径方向の外側に拡張することができる。
【0027】
食道送液カテーテル1の手元側の形状は、筒状部材2及びシャフト4のスライド及び固定を可能とする、弁構造7を有するY型コネクタ6等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
食道送液カテーテル1の手元側は、筒状部材2のルーメンに液体を送液・吸引可能な延長チューブ10と接続している。この延長チューブ10に接続したシリンジ11から液体を送液すると、筒状部材2の内壁とシャフト4の外壁との間の空間(隙間)を通って、筒状部材2の先端とシャフト4との隙間で構成される流体孔13から液体が吐出する。食道に送液される液体は、温度調整された液体であることが好ましい。例えば、加熱するアブレーションカテーテルと併用する場合は、5℃以下が好ましく、冷却するアブレーションカテーテルと併用する場合は25℃以上40℃以下が好ましい。また、シリンジ11の他、食道送液カテーテル1に対し液体を送液・吸引するために用いる食道送液カテーテル1の外部に配置する装置は、食道送液カテーテルに使用される公知の装置を用いることができる。
【0029】
シャフト4には温度センサ8が1つ以上配置される。温度センサリード線(図示せず)は、シャフト4の内部又は筒状部材2のルーメン内を食道送液カテーテル1の後端にまで延伸しており、そこから手元側に配置されたコネクタ9に接続されている。コネクタ9を温度表示装置と接続することで、食道内部の温度を測定することが可能となる。
【0030】
図3は本発明の第二実施形態に係る食道送液カテーテル1を示す。すなわち、アーム3に温度センサ8が1つ以上配置される。なお、この場合、温度センサリード線は、アーム3の内部又は筒状部材2のルーメン内を食道送液カテーテル1の後端にまで延伸しており、そこから手元側に配置されたコネクタ9に接続されている。また、当該温度センサ8は、シャフト4及びアーム3の両方に1つ以上配置されてもよい。
【0031】
図4は本発明の第三実施形態に係る食道送液カテーテル1を示す。図4Aにおいて、流体孔13は筒状部材2上に配置される。
【0032】
図4Bにおいて、流体孔13は筒状部材2に這わせた流体用チューブ14の先端である。その場合、流体用チューブ14の後端側にシリンジ15が接続される。
【0033】
図4Cにおいて、流体孔13はシャフト4上に配置される。この場合、シャフト4はルーメンを有するチューブ(カテーテル)であり、当該ルーメン基端側にシリンジ15が接続される。なお、この実施形態では、液は、シリンジ15から、カテーテルの形態にあるシャフト4内のルーメンに流される。
【0034】
上記の通り、流体孔13は食道用送液カテーテル1のいずれかに配置されていればよく、図1図4A図4B図4Cの組み合わせでもよい。また、いずれの流体孔13は液体の送液だけではなく、過剰に送液した液体を吸引する為等の液体の吸引に用いることもできる。また、シリンジ11とシリンジ15を併用することもできる。
【0035】
図5A及び図5Bは本発明の第四実施形態に係る食道送液カテーテル1を示す。すなわち、筒状部材2に2つ以上のスリット12を入れることで、該スリット間に存在する筒状部材によってアーム3が構成される。図5Aはアーム3が閉じた状態、図5Bはアーム3が径方向の外側に拡張した状態を示す。
【0036】
図6は本発明の第五実施形態に係る食道送液カテーテル1を示す。すなわち、先端チップ5はシャフト4の先端と互いに嵌合・分離可能なアタッチメント機能16を有しており、シャフト4は用途に応じて様々なカテーテルと代替できる。
【0037】
アタッチメント機構16は、例えばスリットや5Fr(French catheter scale)=1.667mm程度の孔を開けた円柱状のシリコンゴム等であり、当該アタッチメント機構16を先端チップ5に固定することで、市販品を包含する様々なカテーテルをシャフト4として先端チップ5に嵌合・分離可能となる。それに限らずアタッチメント機構16は、様々なカテーテルを先端チップ5に固定できる機構であればどのような機構でもよい。また、温度測定機能を有し、1.667mm~5mmの直径を有するカテーテルをシャフトとして用いる場合、食道内部の温度を測定することが可能となるため、より好ましい。
【0038】
このように、本発明においては、市販のカテーテルをシャフトとして使用でき、上記したアタッチメント機構16を先端チップ5に固定しておけば、ユーザー(医師)が、使用前に所望のカテーテルをシャフトとして用いて本発明の食道用送液カテーテルを組み立てることができる。すなわち、上記した本発明の食道用送液カテーテルから、シャフトを除外したものは、本発明の食道用送液カテーテルを製造するための中間部品として用いることができ、本発明は、このような中間部品をも提供するものである。
【実施例
【0039】
以下、本発明の食道用送液カテーテルの具体的な実施例を説明する。なお、「長さ」というときには、長手方向における長さを表すものとする。
【0040】
(実施例1)
外径4.7mm、内径3.8mm、長さ550mmのポリ塩化ビニル製チューブを形成し、筒状部材2とした。
【0041】
外径2.3mm、内径1.2mm、長さ580mmのポリウレタン製チューブを形成し、シャフト4とした。ポリテトラフルオロエチレン製の電気絶縁性の保護被覆が施された直径0.1mm、長さ650mmの銅線とポリテトラフルオロエチレン製の電気絶縁性の保護被覆が施された直径0.1mm、長さ650mmのコンスタンタン線の2本の金属線の先端部のみを互いに溶接して熱電対を形成し、外径2.5mm、内径2.3mm、長さ4.4mmのSUS304製パイプの内側に当該溶接した熱電対をはんだ固定することで温度センサ8を形成した。シャフト4の先端側から30mm、40mm、50mmの位置に3つの温度センサ8をかしめ固定し、銅線及びコンスタンタン線はシャフト4のルーメンを介して、いずれもコネクタ9が有する金属ピンに接続した。
【0042】
筒状部材2の後端にY型コネクタ6を接着剤で固定し、Y型コネクタ6の後端側からシャフト4を挿通して二重管シャフトとした。Y型コネクタ6は弁構造7を有しており、シャフト4がスライド可能、かつ筒状部材2とシャフト4の隙間からの液体の漏れを防ぐことができる。Y型コネクタ6には、長さ20mmの延長チューブ10と容量30mLのシリンジ11を接続し、筒状部材2内部に液体を送液可能とした。
【0043】
外径4.7mm、内径3.8mm、長さ20mmのポリ塩化ビニル製チューブを形成し、先端チップ5とした。外径3.8mm、内1.7mm、長さ20mmのシリコンチューブをアタッチメント機構16として、先端チップ5の内側に接着固定した。シャフト4の先端側をアタッチメント機構16に差し込むことで先端チップ5とシャフト4を固定した。
【0044】
幅4.5mm、厚み0.5mm、長さ50mmの塩化ビニル製平板4つを形成し、アーム3とした。すなわちアーム3断面の最大幅は4.5mmである。4つのアーム3は、シャフト4中心軸とのそれぞれの角度が90°となるように(すなわち、シャフト4の周りに等間隔で)、それぞれ筒状部材2と先端チップ5に熱溶着固定し、実施例1の食道用送液カテーテル(以下、「実施例1」)を作製した。
【0045】
(実施例2)
アーム3とする塩化ビニル製平板の幅を0.9mmに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の食道用送液カテーテル(以下、「実施例2」)を作成した。アーム3断面の最大幅は1.0mmである。
【0046】
(比較例1)
図7に食道送液カテーテルの比較例1の概略図を示す。実施例1の食道送液カテーテルからアタッチメント機構16、先端チップ5及びアーム3を排除し、シャフト4の先端を接着剤で封止することで、比較例1の食道用送液カテーテル(以下、「比較例1」)を作製した。図示のように、比較例1ではアーム3を排除しており、径方向の外側に拡張する部材は存在しない。
【0047】
(実施例3)
アーム3とする塩化ビニル製平板の幅を0.5mmに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の食道用送液カテーテル(以下、「実施例3」)を作製した。アーム3断面の最大幅は0.7mmである。
【0048】
以下、実施例1、実施例2、比較例1及び実施例3を用いた比較評価の方法と結果を示す。
【0049】
(温度伝達低減効果)
図8は、食道送液カテーテルによる温度伝達低減効果を確認するための評価系を示した概略図である。当該評価において、心房内でバルーンを加熱することが可能なバルーン付きアブレーションカテーテルを想定して、厚み30μm、直径30mm、ポリウレタン製の風船内に70℃の温水を1L/分の速度で循環させることで熱源18とした。当該温水の循環により37℃温水中において風船の表面温度は約65℃に保たれる。37℃の温水中に、内部に実施例1、実施例2、比較例1、及び実施例3を挿入したブタ食道17、及び熱源18を浸漬した。
【0050】
実施例1、実施例2及び実施例3のシャフト4を筒状部材2に対して、基端側に20mmスライドした。この時、アーム3に長手方向の力がかかることでアーム3が変形し、アーム3が径方向の外側に拡張した状態になった。実施例1、実施例2、比較例1及び実施例3の温度センサ8で食道温度を測定しながら、食道温度が40℃に到達したタイミングで温度5℃、送液量10mL/回の液体を10mL/秒の速度でシリンジ11により送液した。
【0051】
食道が外側から圧迫された場合の温度伝達低減効果を確認するために、熱源18を0N、3N及び5Nの荷重でブタ食道17に押し付けた。
【0052】
実施例1、実施例2、比較例1及び実施例3を用いて上述の送液操作を3回実施した。
【0053】
各例のいずれの場合も、送液しない場合に温度センサ8で測定される食道温度は約50℃であった。各例における、送液による食道温度の下がり幅の測定結果(数値は℃)を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1、実施例2及び比較例1を比較すると、比較例1において荷重0Nや荷重3Nでは食道温度が低下しているが荷重5Nでは送液不可能となり食道温度が下がらないのに対して、実施例1、実施例2では荷重5Nでも約15℃の食道温度低下を確認できた。
【0056】
すなわち、アーム3を有しない筒状部材2を用いて食道に液体を送液する場合、患者状態や臓器の重量等により外側から食道が圧迫され、潰れている状態では効率的に液体が送液できないが、実施例1及び実施例2では、食道を内部から支えることで効率的に液体を送液できることが明らかとなった。
【0057】
実施例1、実施例2及び実施例3を比較すると、実施例3において荷重5Nでも食道温度は低下しているが実施例1、実施例2と比較して食道温度の下がり幅が少ないことが確認できた
【0058】
実施例1のアーム3断面の最大幅は4.5mm、実施例2のアーム3断面の最大幅は1.0mm、実施例3のアーム3断面の最大幅は0.7mmである。すなわち、効率的に液体を送液するためには、アーム3断面の最大幅は1.0mm以上であることが好ましいことが明らかとなった。なお、実施例1、実施例2及び実施例3に用いたアーム3の剛性は、ブタ食道17を熱源方向18に拡張するまでの剛性を有さないポリ塩化ビニル製のアーム3を用いて評価を実施したが、アーム3断面の最大幅は1.0mm以上であれば特に効率的な送液が可能であった。患者状態や臓器の重量等を考慮して更に剛性の高いアーム3を用いてもよいことは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、心房細動等の不整脈等を治療するカテーテルアブレーションと併用が可能な食道用送液カテーテルとして利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 食道用送液カテーテル
2 筒状部材
3 アーム
4 シャフト
5 先端チップ
6 Y型コネクタ
7 弁構造
8 温度センサ
9 コネクタ
10 延長チューブ
11 シリンジ
12 スリット
13 流体孔
14 流体用チューブ
15 シリンジ
16 アタッチメント機構
17 ブタ食道
18 熱源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8