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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240328BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019123031
(22)【出願日】2019-07-01
(65)【公開番号】P2020007549
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018126104
(32)【優先日】2018-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】竹内 耕
(72)【発明者】
【氏名】吉田 猛
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-003010(JP,A)
【文献】特開2015-127370(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208644(WO,A1)
【文献】特開2016-191029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
C08G 73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴を有するポリイミド(PI)フィルム。
1)PIが、ジアミン成分として、全ジアミン成分に対し、10モル%以上、25モル%以下のダイマージアミンを含み、かつ全ジアミン成分に対し70モル%以上の4,4′-オキシジアニリンを含む。
2)PIフィルムの線膨張係数(CTE)が、30ppm/K超、60ppm/K以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド(PI)フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
PIは、耐熱性、耐薬品性、電気的特性、機械的特性などの特性が優れているので、電気・電子部品等で広く用いられている。なかでも、PI前駆体として、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物と、4,4′-オキシジアニリン、p-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと、を重合反応させて得られるポリアミック酸(以下、このような化学構造を有するポリアミック酸を「PAA」と略記することがある)を含有する溶液を基材上に塗布し、その塗膜を熱硬化して得られるPIフィルムは、耐熱性、寸法安定性、力学的特性等が優れていることから、電線用被覆材、電子素子用の絶縁材(表面保護膜、シ-ルド膜、層間絶縁膜等)、複写機用ベルト(定着ベルト、中間転写ベルト等)として、広く用いられている。
【0003】
このようなPIフィルムの特性を改良する方法として、PIを構成するジアミン成分としてダイマージアミン(DDA)を用いたPIフィルムが提案されている。
【0004】
特許文献1には、全ジアミン成分に対し、50質量%以上のDDAを用いたPIからなる、靭性や自己回復性が改良されたPIフィルムが開示されている。
【0005】
特許文献2には、全ジアミン成分に対し、1~15モル%のDDAを用いたPIからなる、誘電特性が改良されたPIフィルムが開示されている。このPIフィルムは、これを銅箔等の金属層に積層した金属張積層体(CCL)として好適に用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6306586号公報
【文献】国際公開2014/208644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたPIフィルムは、高い靭性や良好な自己回復特性は確保されるものの、汎用溶剤に可溶であるため、耐溶剤性が不足し、このフィルムを、例えば、電線用の被覆材として用いることは困難であった。 また、DDAを多量に用いているため、ガラス転移点が低下し、PIとして充分な耐熱性が得られないという問題があった。
特許文献2に開示されたPIフィルムは、その線膨張係数(CTE)が、1~30ppm/Kと低く、剛性が高すぎるため、結果として、例えば、このフィルムを電線用の絶縁被覆材として用いた際、靭性が不足するという問題があった。この被覆材に靭性が不足すると、被覆電線をねじれ加工や曲げ加工した際に、絶縁被膜に亀裂が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明は、前記課題を解決するものであって、誘電特性に優れ、かつ耐熱性、靭性に優れたPIフィルムの提供を目的とする。
【0009】
本発明者らは、PIのジアミン成分を特定のものとした上で、PIフィルムのCTEを特定の範囲とすることにより、前記問題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
本発明は下記を趣旨とするPIフィルムである。
1)PIが、ジアミン成分として、全ジアミン成分に対し、10モル%以上、25モル%以下のDDAを含む。
2)PIフィルムのCTEが、30ppm/K超、60ppm/K以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のPIフィルムは、誘電特性に優れ、かつ耐熱性、靭性に優れるので、電線用の被覆材、電子素子用の絶縁材等として好適に用いることができ、特に電線用の被覆材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明で用いられるPIは、溶媒中で、芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸成分と、ジアミン成分と、を反応させて得られ、前記ジアミン成分が、芳香族ジアミンを含むとともに、DDAが、全ジアミン成分に対し、5モル%以上、25モル%以下の範囲としたものである。ここで、DDAは、炭素原子数24~48のダイマ酸から誘導される脂肪族アミン類であり、例えばオレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸を重合させてダイマ酸とし、これを還元、アミノ化(還元的アミノ化)することにより得られる。DDAは、「プリアミン1074、同1075」(クローダジャパン社製の商品名)、「バーサミン551、同552」(コグニスジャパン社製の商品名)等の市販品を用いることができる。
【0014】
本発明で用いられるPIは、溶媒中で、芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸成分と、ジアミン成分と、を反応させて得られるPAAを熱硬化することにより得ることができる。 ここで、ジアミン成分は、芳香族ジアミンを含むとともに、DDAを、全ジアミン成分に対し、10モル%以上、25モル%以下含むことが必要である。
【0015】
テトラカルボン酸成分としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4′-オキシジフタル酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物等、およびこれらの混合物を挙げることができる。これらの中で、PMDA、BPDA、およびこれらの混合物が好ましく、PMDAを全テトラカルボン酸成分に対し80モル%以上用いることが特に好ましい。
【0016】
芳香族ジアミン成分としては、例えば、4,4′-オキシジアニリン(ODA)、p-フェニレンジアミン(PDA)、m-フェニレンジアミン、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,2-ビス(アニリノ)エタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンズアニリド、ジアミノベンゾエート、ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(p-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,5-ジアミノナフタレン、ジアミノトルエン、ジアミノベンゾトリフルオライド、1,4-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(p-アミノフェノキシ)ビフェニル、ジアミノアントラキノン、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシフェニル)ジフェニルスルホン、2,2′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、2,2′-ジビニル-4,4′-ジアミノビフェニル等、およびこれらの混合物を挙げることができる。これらの芳香族ジアミンは、単体または混合物として使用することができる。 これらの中で、ODA、PDA、BAPPおよびこれらの混合物が好ましく、ODAを全ジアミン成分に対し70モル%以上用いることが特に好ましい。
【0017】
本発明で用いられるPIフィルムは、溶媒中で、略等モルの、前記テトラカルボン酸二無水物と、前記ジアミン(DDAを、全ジアミン成分に対し、5モル%以上、25モル%以下含む)と、を反応させて得られるPAA溶液を、基材上に、塗布、乾燥、熱硬化することにより得ることができる。DDAの配合量としては、6モル%以上、23モル%以下とすることが好ましい。DDAの配合量をこのようにし、かつ前記テトラカルボン酸二無水物および前記ジアミンの種類を選ぶことにより、熱硬化後のPIフィルムのCTEを30ppm/K超、60ppm/K以下とすることができる。
【0018】
PAA製造の際に用いられる溶媒に制限はなく、アミド系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、水等を用いることができる。これらの溶媒の中で、アミド系溶媒を好ましく用いることができる。アミド系溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上混合して用いることができる。これらの中で、NMP、DMAcおよびこれらの混合物が好ましい。
【0019】
PAA溶液製造の際の反応温度としては、10℃~100℃とすることが好ましく、PAAの固形分濃度としては、PAA溶液に対し、5~30質量%とすることが好ましい。
【0020】
PAA溶液には、必要に応じて、例えば、各種界面活性剤、レベリング剤、シランカップリング剤等、公知の添加物を添加することができる。
【0021】
このようにして得られたPAA溶液を、基材上に塗布、乾燥、熱硬化することにより基材上にPIフィルムからなる被膜を形成することができる。基材としては、アルミ箔、銅箔等の金属箔、ガラス板等の無機基板、銅線、アルミ線等の線状基材、PIフィルム等のプラスチックフィルム等を用いることができる。乾燥、熱硬化に際しては、通常の熱風乾燥器、赤外線ランプ等を用い、40℃から500℃程度まで、徐々に昇温していくことが好ましい。また、乾燥、熱硬化は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。このようにすることにより、塗膜の発泡等を起こさせることなく、均一な表面のPIフィルムを得ることができる。基材上に形成されたPI被膜は、基材と密着させたままの積層体、または基材から剥離したPIフィルム単体として用いることができる。特にPI被膜が形成された銅線は、絶縁被膜付き電線(エナメル線)として好適に用いることができる。
【0022】
このようにして得られるPIフィルムは、CTEが、30ppm/K超、60ppm/K以下であることが必要であり、32ppm/K超、55ppm/K以下とすることが好ましい。このようにすることにより、PIフィルムとしての寸法安定性を確保しつつ、PIフィルムとしての靭性を確保することができる。 CTEは、JIS K7197の規格に基づき、引張モードでのTMA(温度範囲100℃~200℃)により測定することができる。なお、PIフィルムとしての靭性は、JIS C 2151:2006に基づく引張伸度を測定することにより、評価することができる。本発明のPIフィルムは、その引張伸度を、50%以上、90%以下とすることが好ましい。このようにすることにより、適度な剛性を確保しつつ、良好な靭性を確保することができ、例えば、電線被覆材として好適に用いることができる。
【0023】
本発明のPIフィルムは、DDAが所定の範囲で、共重合されているので、未共重合PIフィルムに対し、その比誘電率を低下させることができる。 比誘電率としては、3.3以下とすることが好ましく、3.0以下とすることがより好ましい。このようにすることにより、本発明のPIフィルムをエナメル線の絶縁被膜として用いた際、その耐インバータサージ特性を改善することができる。 ここで、インバータサージとは、インバータ駆動モータにかかる急峻でかつ高い電圧のことである。 このインバータサージ電圧がモータコイルに用いられるエナメル線の部分放電開始電圧(PDIV)を超えた場合、エナメル線間で部分放電が発生し、絶縁皮膜が侵食することにより、モータの絶縁破壊が起こることがある。耐インバータサージ特性が改善されたエナメル線とは、ここの部分放電に対する耐性が高いエナメル線をいう。なお、エナメル線において、被膜の比誘電率を低下させることにより、PDIVを高めることができることは、公知である。
【実施例
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0025】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、ODA:0.51モルと、DDA(クローダジャパン株式会社製「プリアミン1075」、分子量:549):0.09モルと、脱水したNMP(重合溶媒)とを投入して攪拌し、ODAおよびDDAを溶解した。この溶液をジャケットで30℃以下に冷却しながら、PMDA(0.606モル)を徐々に加えた後、60℃で100分重合反応させることにより、PAA固形分濃度が20質量%のPAA溶液を得た。次に、この溶液を、ガラス基板(20cm角)上にテーブルコータにより塗布し、120℃で30分、乾燥後、窒素雰囲気下、5℃/分の昇温速度で350℃まで昇温することより、ガラス基板上に厚み約25μmのPIフィルム(A-1)が形成された積層体を得た。A-1をガラス基板から剥離して、前記したJISの規格に基づき、CTEおよび伸度を測定した。その結果を表1に示した。
次に、温度25℃、湿度50%の恒温恒湿槽中に50時間放置した後、その両面に金属電極を蒸着し、これを市販のインピーダンスアナライザ(周波数:1kHz)を用いて、金属電極間の静電容量を測定することにより、A-1の比誘電率を算出した。その結果を表1に示した。
【0026】
<実施例2>
ジアミン成分として、ODA:0.54モルとDDA:0.06モルとを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、PIフィルム(A-2)を得た。A-2のフィルム特性評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0027】
<実施例3>
ジアミン成分として、ODA:0.468モルとDDA:0.132モルとを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、PIフィルム(A-3)を得た。A-3のフィルム特性評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0028】
<実施例4>
ジアミン成分として、ODA:0.528モルとDDA:0.072モルとを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、PIフィルム(A-4)を得た。A-4のフィルム特性評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0029】
参考例5>
ジアミン成分として、ODA:0.558モルとDDA:0.042モルとを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、PIフィルム(A-5)を得た。A-5のフィルム特性評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0030】
<実施例6>
ジアミン成分として、ODA:0.44モルとBAPP:0.1モルとDDA:0.06モルとを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、PIフィルム(A-6)を得た。A-6のフィルム特性評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0031】
<実施例7>
テトラカルボン酸成分として、PMDA:0.506モルとBPDA:0.1モルとを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、PIフィルム(A-7)を得た。A-7のフィルム特性評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0032】
<比較例1>
ジアミン成分として、ODA:0.60モルのみを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、PIフィルム(B-1)を得た。B-1のフィルム特性評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0033】
<比較例2>
ジアミン成分として、ODA:0.438モルとDDA:0.162モルとを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、PIフィルム(B-2)を得た。B-2のフィルム特性評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0034】
<比較例3>
ジアミン成分として、ODA:0.576モルとDDA:0.024モルとを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、PIフィルム(B-3)を得た。B-3のフィルム特性評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0035】
<比較例4>
ジアミン成分として、2,2′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル:0.558モルとDDA:0.042モルとを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、PIフィルム(B-4)を得た。B-4のフィルム特性評価を実施例1と同様に行い、その結果を表1に示した。
【表1】

【0036】
実施例で示したように、本発明のPIフィルムは、CTEが30ppm/K超、60ppm/K以下であるので、伸度が適度に高く、PIフィルムとしての良好な靭性と剛性とが確保されている。また、本発明のPIは、ジアミン成分として用いるDDAを所定の範囲としているので、良好な力学的特性を確保した上で、比誘電率が低いPIフィルムとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のPIフィルムは、誘電特性に優れ、かつ耐熱性、靭性に優れるので、電線用の被覆材、電子素子用の絶縁材等として好適に用いることができ、特に電線用の被覆材として好適に用いることができる。