(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法及びキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6827 20180101AFI20240328BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20240328BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240328BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6876 Z
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2019200888
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-10-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、肝炎等克服実用化研究事業、「B型肝炎ウイルス排除、慢性化および肝発がんの機序解明を目指す研究」、及び平成28年度、臨床ゲノム情報統合データベース整備事業、「B型肝炎に関する統合的臨床ゲノムデータベースの構築を目指す研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】溝上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】徳永 勝士
(72)【発明者】
【氏名】西田 奈央
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】Nishida, N. et al.,"Key HLA-DRB1-DQB1 haplotypes and role of the BTNL2 gene for response to a hepatitis B vaccine",Hepatology,2018年,Vol. 68,pp. 848-858
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Genotype C(HBV/C)由来のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法であって、
被験者由来のDNA含有試料中のCELF2遺伝子座における1以上の一塩基多型を検出することを含み、
前記一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs10905822、rs7921103及びrs11256840からなる群より選択される少なくとも1種であって、
前記
試料中にCELF2遺伝子座の1以上の前記一塩基多型が検出された場合に、前記
被験者が前記B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性を有することを示し、前記
被験者が前記B型肝炎ワクチンを接種した後である場合には、前記
被験者がHBs抗体を有する可能性があることを示す、方法。
【請求項2】
前記一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs11256840である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験者由来のDNA含有試料中のIL1RL1遺伝子座、STOX2遺伝子座、MCPH1遺伝子座、OXA1L遺伝子座及びBCL11B遺伝子座からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子座における一塩基多型を検出することを更に含み、
前記IL1RL1遺伝子座における一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs9646944であり、
前記STOX2遺伝子座における一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2871385であり、
前記MCPH1遺伝子座における一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2732977であり、
前記OXA1L遺伝子座における一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs3132969であり、
前記BCL11B遺伝子座における一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs1951122であり、
前記
試料中に前記IL1RL1遺伝子座、STOX2遺伝子座、MCPH1遺伝子座、OXA1L遺伝子座及びBCL11B遺伝子座からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子座における一塩基多型が検出された場合に、前記
被験者が前記B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性を有することを示し、前記
被験者が前記B型肝炎ワクチンを接種した後である場合には、前記
被験者がHBs抗体を有する可能性があることを示す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Genotype C(HBV/C)由来のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出するキットであって、
CELF2遺伝子座における1以上の一塩基多型を検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを含
み、
前記一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs10905822、rs7921103及びrs11256840からなる群より選択される少なくとも1種である、キット。
【請求項5】
IL1RL1遺伝子座、STOX2遺伝子座、MCPH1遺伝子座、OXA1L遺伝子座及びBCL11B遺伝子座からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子座における一塩基多型を検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを更に含
み、
前記IL1RL1遺伝子座における一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs9646944であり、
前記STOX2遺伝子座における一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2871385であり、
前記MCPH1遺伝子座における一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2732977であり、
前記OXA1L遺伝子座における一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs3132969であり、
前記BCL11B遺伝子座における一塩基多型が、NCBI SNP Databaにおける登録番号rs1951122である、請求項
4に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、世界180か国以上でB型肝炎ウイルス(HBV)に対してB型肝炎ワクチン(HBワクチン)接種が行われている。HBVには複数の遺伝子型(Genotype)が存在しており、本邦ではGenotype C(HBV/C)が最も多い。そのため、HBV/Cに対応する組換え沈降HBワクチン(酵母由来)であるビームゲン(登録商標)(以下、「登録商標」との記載を省略する)が使用されている。しかしながら、ビームゲン接種者のうち、約10%はその中和抗体であるHBs抗体を獲得できないという問題があるが、その原因は未だ不明である。
【0003】
発明者らは、日本人成人に対するビームゲン接種におけるワクチン低反応(HBs抗体価が10mIU/mL以下)には、HLA class II遺伝子であるHLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01及びHLA-DRB1*14:06-DQB1*03:01の2つのハロタイプが強く寄与することを明らかにしている。一方でビームゲン応答性(HBs抗体価が10mIU/mL超)には、HLA class II遺伝子であるHLA-DRB1*08:03-DQB1*06:01及びHLA-DRB1*15:01-DQB1*06:02の2つのハロタイプ、並びに、BTNL2遺伝子が強く寄与することを明らかにしている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nishida N et al., “Key HLA-DRB1-DQB1 Haplotypes and Role of the BTNL2 Gene for Response to a Hepatitis B Vaccine.”, Hepatology, Vol. 68, No. 3, pp. 848-858, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、HBワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因については未だ不明な点が多く、その検出方法は確立されていない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法及びキットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法であって、被験者由来のDNA含有試料中のCELF2遺伝子座における1以上の一塩基多型を検出することを含む、方法。
(2) 前記一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs10905822、rs7921103、rs11256840、rs10752206、rs7083756、rs7904961、rs397712695、rs9633776及びrs11595366からなる群より選択される少なくとも1種である、(1)に記載の方法。
(3) 前記一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs11256840である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記被験者由来のDNA含有試料中のHLA class II遺伝子のハプロタイプを検出することを更に含む、(1)~(3)のいずれか一つに記載の方法。
(5) 前記被験者由来のDNA含有試料中のBTNL2遺伝子座における一塩基多型を検出することを更に含む、(1)~(4)のいずれか一つに記載の方法。
(6) 前記被験者由来のDNA含有試料中のIL1RL1遺伝子座、STOX2遺伝子座、MCPH1遺伝子座、OXA1L遺伝子座及びBCL11B遺伝子座からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子座における一塩基多型を検出することを更に含む、(1)~(5)のいずれか一つに記載の方法。
【0008】
(7) B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出するキットであって、
CELF2遺伝子座における1以上の一塩基多型を検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを含む、キット。
(8) 前記一塩基多型が、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs10905822、rs7921103、rs11256840、rs10752206、rs7083756、rs7904961、rs397712695、rs9633776及びrs11595366からなる群より選択される少なくとも1種である、(7)に記載のキット。
(9) 前記被験者由来のDNA含有試料中のHLA class II遺伝子のハプロタイプを検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを含む、(7)又は(8)に記載のキット。
(10) BTNL2遺伝子座における一塩基多型を検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを更に含む、(7)~(9)のいずれか一つに記載のキット。
(11) IL1RL1遺伝子座、STOX2遺伝子座、MCPH1遺伝子座、OXA1L遺伝子座及びBCL11B遺伝子座からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子座における一塩基多型を検出する1以上の核酸プローブ又はプライマーを更に含む、(7)~(10)のいずれか一つに記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
上記態様の方法及びキットによれば、被験者におけるB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を簡便且つ確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1におけるStatus-2のゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果を示す図である。
【
図2】実施例1におけるStatus-1のGWASの結果を示す図である。
【
図3】実施例1におけるStatus-4のGWASの結果を示す図である。
【
図4】実施例1におけるModel 1のロジスティクス回帰モデルの解析結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1におけるModel 2のロジスティクス回帰モデルの解析結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1におけるModel 3のロジスティクス回帰モデルの解析結果を示すグラフである。
【
図7】実施例1におけるModel 4のロジスティクス回帰モデルの解析結果を示すグラフである。
【
図8】実施例2におけるStatus-2のGWASの結果を示す図である。
【
図9】実施例2におけるStatus-1のGWASの結果を示す図である。
【
図10】実施例2におけるStatus-4のGWASの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係るB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法及びキット(以下、「本実施形態の方法」、「本実施形態のキット」とそれぞれ略記する場合がある)の詳細を以下に説明する。
【0012】
<B型肝炎ワクチン(HBワクチン)>
本明細書において、B型肝炎ワクチンは、B型肝炎ウイルスの感染や再活性化を予防するために用いられるものであり、例えば、ヘプタバックス(登録商標)-II(以下、「登録商標」との記載を省略する)等のGenotype A(HBV/A)由来のワクチン;Engerix-B、Recombivax HB等のGenotype A2(HBV/A2)由来のワクチン;ビームゲン等のGenotype C(HBV/C)由来のワクチン等が挙げられる。
中でも、本実施形態の方法で対象となるHBワクチンとしては、本邦においてはGenotype C(HBV/C)が最も多いことから、HBV/Cに対応するHBワクチンが好ましく、ビームゲンがより好ましい。
【0013】
<B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法>
本実施形態の方法は、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法であって、被験者由来のDNA含有試料中のCELF2遺伝子座における1以上の一塩基多型(SNP)を検出することを含む。
【0014】
発明者らは、ビームゲンワクチンを接種した日本人成人1193検体及びヘプタバックス-IIを接種した日本人成人555検体について、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行ない、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性に関連するSNPとして、CELF2(CUGBP Elav-like family member 2)遺伝子座におけるSNPを同定した。CELF2遺伝子座におけるSNPとしては、例えば、NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs10905822、rs7921103、rs11256840、rs10752206、rs7083756、rs7904961、rs397712695、rs9633776、rs11595366等が挙げられる。これらSNPを1種単独で検出対象としてよく、2種以上組み合わせて検出対象としてもよい。中でも、CELF2遺伝子座におけるSNPとしては、後述する実施例に示すように、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性への関連性が特に高かったことから、rs11256840が好ましい。
【0015】
本実施形態の方法によれば、被験者におけるB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を簡便且つ確実に検出することができる。
【0016】
被験者由来のDNA含有試料としては、被験者の生体から採取されたものであれば特別な限定はないが、例えば、血液、血清、血漿、尿、パフィーコート、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液、気管支肺胞洗浄液、毛髪、便、生体から直接採取された細胞又は組織等が挙げられ、これらに限定されない。これら試料からDNAを抽出して、後述する検出に用いられる試料とすることが好ましい。
【0017】
DNAの抽出方法としては、特別な限定はなく、公知の方法を用いて抽出することができる。例えば、フェノール/クロロホルム法、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)法等が挙げられる。DNAの抽出には、市販のキットを用いてもよい。当該キットとしては、例えば、Wizard Genomic DNA Purification Kit(Promega製)等が挙げられる。
【0018】
また、DNAは、mRNAを抽出し、当該mRNAを鋳型として合成されたcDNAであってもよい。mRNAの抽出方法としては、特別な限定はなく、公知の方法を用いて抽出することができる。例えば、グアニジンイソチオシアネート法等が挙げられる。mRNAの抽出には、市販のキットを用いてもよい。当該キットとしては、例えば、NucleoTrap(登録商標) mRNA Kit(Clontech製)等が挙げられる。cDNAの合成方法についても、特別な限定はなく、公知の方法を用いて合成することができる。例えば、ランダムプライマー又はポリTプライマーを用いて、RNAから逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりcDNAを合成することができる。
【0019】
CELF2遺伝子座における1以上の上記SNPの検出は、公知のSNP検出法を用いて検出することができる。例えば、直接配列決定法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、制限酵素断片長多型(RFLP)法、ハイブリダイゼーション法、TaqMan(登録商標) PCR法(以下、「登録商標」との記載を省略する)、質量分析法等を用いる方法が挙げられる。
【0020】
直接配列決定法は、上記被験者由来のDNA含有試料中の検出対象であるCELF2遺伝子座における1以上の上記SNPを含む領域を、ベクターにクローニングするか又はPCRで増幅し、当該領域の塩基配列を決定することにより行う。クローニングの方法としては、適切なプローブを用いてcDNAライブラリーからスクリーニングすることにより、クローニングすることができる。また、適切なプライマーを用いてPCR反応により増幅し、適切なベクターに連結することによりクローニングすることができる。さらに、別のベクターにサブクローニングすることもできるが、これらに限定されない。ベクターとしては、例えば、pBlue-Script SK(+)(Stratagene製)、pGEM-T(Promega製)、pAmp(Gibco-BRL製)、p-Direct(Clontech製)、pCR2.1-TOPO(Invitrogene製)等の市販のプラスミドベクター、ウイルスベクター、人口染色体ベクターやコスミドベクターを用いることができる。塩基配列の決定としては、公知の方法を用いることができ、例えば、放射性マーカーヌクレオチドを使用する手動式配列決定法や、ダイターミネーターを使用する自動配列決定法が挙げられるが、これらに限定されない。このようにして得られた塩基配列に基づき、検体がCELF2遺伝子座における上記SNPを有するか否かを決定する。
【0021】
PCR法は、CELF2遺伝子座における1以上の上記SNPを有する配列にのみハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー(以下、「CELF2遺伝子座のSNP検出用プライマー」と称する場合がある)を用いて行う。上述のとおりCELF2遺伝子座には複数のSNPが存在することから、CELF2遺伝子座のSNP検出用プライマーは、全てのSNPを検出し得るプライマーを1種単独で用いてもよく、各SNPを検出し得るプライマーを2種以上組み合わせて用いてもよい。このプライマーを使用して検体のDNAを増幅する。CELF2遺伝子座のSNP検出用プライマーがPCR産物を生成した場合には、検体はCELF2遺伝子座における1以上の上記SNPを有することになる。PCR産物が生成されなかった場合には、検体にはCELF2遺伝子座における上記SNPがないことが示される。
【0022】
RFLP法は、まず、検出対象のCELF2遺伝子座における1以上の上記SNPを含む領域をPCRで増幅する。続いてこのPCR産物を、CELF2遺伝子座における1以上の上記SNPを含む領域に適する制限酵素で切断する。制限酵素により消化されたPCR産物は、ゲル電気泳動で分離し、エチジウムブロマイド染色で可視化する。当該断片長を、分子量マーカー、並びに、対照として、制限酵素処理していない上記PCR産物等と比較して、検体におけるCELF2遺伝子座における1以上の上記SNPの存在を検出することができる。
【0023】
ハイブリダイゼーション法は、検体由来のDNAが、それに対し相補的なDNA分子(例えば、オリゴヌクレオチドプローブ)とハイブリダイズする性質に基づき、検体におけるCELF2遺伝子座における1以上の上記SNPの有無を決定する方法である。コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション等のハイブリダイゼーション及び検出のための種々の技術を利用してこのハイブリダイゼーション法を行うことができる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning、A Laboratory Manual 3rd ed.」(Cold Spring Harbor Press(2001);特にSection6-7)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley&Sons(1987-1997);特にSection6.3-6.4)、「DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach 2nd ed.」(Oxford University(1995);ハイブリダイゼーション条件については特にSection2.10)等を参照することができる。さらに、ハイブリダイゼーションはDNAチップを利用して検出することもできる。当該方法としては、CELF2遺伝子座における上記SNPに特異的なオリゴヌクレオチドプローブを設計し、それを固相支持体に貼りつけたものを用いる。そして、検体由来のDNAサンプルを当該DNAチップと接触させて、ハイブリダイゼーションを検出する。
【0024】
TaqMan PCR法は、CELF2遺伝子座における上記SNPに特異的なTaqManプローブとTaqポリメラーゼを用い、SNPの検出とSNPを含む領域の増幅とを同時並行で行う方法である。TaqManプローブは、5’末端が蛍光物質、3’末端がクエンチャーで標識されている約20塩基前後のオリゴヌクレオチドであり、目的のSNP部位にハイブリダイズするよう設計されている。Taqポリメラーゼは5’→3’ヌクレアーゼ活性がある。これらのTaqManプローブ及びTaqポリメラーゼ存在下で目的のSNP部位を含む領域を増幅するよう設計されたPCRプライマーを用いて該SNP部位を含む領域を増幅すると、増幅と並行して、TaqManプローブが鋳型DNAの目的のSNP部位にハイブリダイズする。フォワードプライマー側からの伸長反応が、鋳型にハイブリダイズした、TaqManプローブに到達すると、Taqポリメラーゼの5’→3’ヌクレアーゼ活性により、TaqManプローブの5’末端に結合していた蛍光物質が切断される。その結果、遊離した蛍光物質はクエンチャーの影響を受けなくなり、蛍光を発生する。蛍光強度の測定により、SNP検出が可能となる。
【0025】
質量分析法を用いた方法としては、例えば、MALDI-TOF/MS法を応用したSNPタイピング方法として、プライマー伸長法と組み合わせた方法もあげられる。この方法はハイスループットな解析が可能であり、1)PCR、2)PCR産物の精製、3)プライマー伸長反応、4)伸長産物の精製、5)質量分析、6)ジェノタイプ決定、のステップにより解析する。まずPCRによって、目的とするSNP部位を含む領域をゲノムDNAから増幅する。PCRプライマーは、SNP部位塩基と重複しないように設計する。そして、エキソヌクレアーゼとエビのアルカリホスファターゼを用いて酵素的除去方法により精製するかエタノール沈殿法を用いて精製する。次に、3’末端がSNP部位に直接隣接するように設計したジェノタイピングプライマーを用いて、プライマー伸長反応を行う。PCR産物を高温で変性し、過剰のジェノタイピングプライマーを加えて、アニールさせる。ddNTPとDNAポリメラーゼを反応系に添加し、サーマルサイクル反応させると、ジェノタイピングプライマーよりも1塩基長いオリゴマーが生じる。この伸長反応で生じる1塩基長いオリゴマーは、ジェノタイピングプライマーの上記設計により、アリルに応じて異なる。精製した伸長反応産物について質量分析を行い、マススペクトルから解析する。
【0026】
その他の検出方法としては、ハイスループットが可能なSNPタイピング法として、1分子蛍光分析法を応用した方法等が挙げられる。例えば、MF20/10S(オリンパス製)は、当該方法を採用したシステムである。具体的には、共焦点レーザー光学系と高感度光検出器を用いて、約1フェムトリットル(1000兆分の1リットル)の超微小領域中で、相補的及び非相補的なプライマーを用いたPCR法によって増幅した蛍光ラベルプライマーの1分子レベルの並進拡散時間を計測及び解析するものである。
【0027】
また、DNAチップによる方法も、ハイスループットが可能なタイピングの1つである。DNAチップは、基板上に多種類のDNAプローブを整列して固定したもので、標識したDNA試料をチップ上でハイブリダイゼーションし、プローブによる蛍光シグナルを検出する。
【0028】
PCR法以外の遺伝子増幅法を利用したSNPタイピング方法の例として、Snipper法が挙げられる。当該方法は、環状一本鎖DNAを鋳型としてDNAポリメラーゼがその上を移動しながら相補鎖DNAを合成するDNA増幅方法であるRCA(rolling circle amplification)法を応用したSNPタイピング法である。プローブは80塩基長以上90塩基長以下のオリゴDNAで、標的SNP部位の5’末端及び3’末端近傍のそれぞれに相補的な10塩基長20塩基長以下の配列を両末端に含んでおり、標的DNAにアニールして環状になるように設計されている。また、プローブの3’末端が標的SNP部位に相補的配列となるよう設計されている。プローブの3’末端が標的SNP部位と完全に相補的であれば、プローブは環状化されるが、プローブの3’末端がミスマッチであるとプローブは環状化されない。またプローブには、40塩基長以上50塩基長以下のバックボーン配列があり、2種類のRCA増幅プライマーと相補的な配列が含まれる。
【0029】
PCR法以外の遺伝子増幅法を利用したSNPタイピング方法の他の例としては、例えば、UCAN法やLAMP法を利用したタイピング方法が挙げられる。
【0030】
UCAN法は、タカラバイオが開発した遺伝子等温増幅法であるICAN法を応用した方法である。UCAN法では、プライマー前駆体としてDNA-RNA-DNAキメラオリゴヌクレオチド(DRD)を用いる。このDRDプライマー前駆体は、DNAポリメラーゼによる鋳型DNAの複製が起こらないように、3’末端のDNAが修飾されており、SNPサイトにRNA部分が結合するように設計されている。このDRDプライマー前駆体を鋳型とインキュベートすると、DRDプライマーと鋳型が完全にマッチしている場合のみ、共存するRNase Hが対合したDRDプライマーのRNA部分を切断する。これにより、プライマー3’末端は修飾DNAが外れて新しくなるため、DNAポリメラーゼによる伸長反応が進み、鋳型DNAが増幅される。一方、DRDプライマーと鋳型DNAがマッチしない場合、RNase HはDRDプライマーを切断せず、DNA増幅も起こらない。パーフェクトマッチしたDRDプライマー前駆体がRNase Hによって切断された後の増幅反応は、ICAN反応メカニズムによって進行する。
【0031】
LAMP法は、栄研化学によって開発された遺伝子等温増幅法で、標的遺伝子の6箇所の領域(3’末端側からF3c、F2c、F1c、5’末端側からB3、B2、B1)を規定し、当該6領域に対する4種類のプライマー(FIPプライマー、F3プライマー、BIPプライマー、B3プライマー)を用いて増幅する。タイピングを目的とする場合は、F1-B1間は標的SNP部位(1塩基)のみでよく、FIPプライマー及びBIPプライマーを、その5’末端にSNPの1塩基がくるように設計する。SNPがない場合、LAMP法の起点構造であるダンベル構造からDNAの合成反応が起こり、増幅反応が連続的に進行する。SNPがある場合は、ダンベル構造からのDNA合成反応が起こらず、増幅反応は進行しない。
【0032】
インベーダー(Invader)法は、核酸増幅法を用いず、2種類の非蛍光標識プローブ(アレルプローブ、インベーダープローブ) と1種類の蛍光標識プローブ(FRETプローブ)及びエンドヌクレアーゼであるCleavaseを用いる方法である。アレルプローブは、鋳型DNAに対しSNP部位から3’末端側に相補的な配列があり、プローブの5’末端側にフラップという鋳型DNAと無関係な配列がある。インベーダープローブは、鋳型DNAのSNP部位から5’末端側に相補的な配列があり、SNP部位に相当する部分の塩基は任意の塩基がある。FRETプローブは、3’末端側にフラップ配列に相補的な配列がある。一方の5’末端側は蛍光色素及びクエンチャーで標識されているが、FRETプローブは分子内で2本鎖を形成するよう設計されており、通常は消光されている。これらを鋳型DNAと反応させると、アレルプローブが鋳型DNAと2本鎖を形成したときに、SNP部位にインベーダープローブの3’末端(任意塩基部分)が侵入する。Cleavaseは、当該塩基が侵入した構造を認識して、アレルプローブのフラップ部分を切断する。次に、この遊離したフラップがFRETプローブの相補配列と結合すると、フラップの3’末端がFRETプローブの分子内二本鎖部分に侵入する。Cleavaseは、上記アレルプローブとインベーダープローブの場合と同様に、このFRETプローブにフラップの塩基が侵入した構造を認識し、FRETプローブの蛍光色素を切断する。蛍光色素はクエンチャーから離れるため、蛍光が発生する。アレルプローブが鋳型DNAとマッチしない場合は、Cleavaseが認識する、上記特異的な構造が形成されないため、フラップは切断されない。
【0033】
SNPの検出にプライマーを用いる場合は、増幅する領域及びタイピング方法に即したプライマーとなるように設計する。例えば、上記領域を完全に増幅できることが好ましく、上記領域の両端付近の配列に基づいて配列を設計できる。プライマーの設計手法は当技術分野で周知であり、本実施形態の方法において使用可能なプライマーは、特異的なアニーリングが可能な条件を満たす、例えば特異的なアニーリングが可能な長さ及び塩基組成(融解温度)を有するように設計される。増幅する領域の長さは、タイピングに支障がない限り制限はないし、検出方法により適宜増減してよい。また、増幅される領域の一部にはSNP部位が含まれるが、増幅される領域内における当該部位の位置に制限はなく、検出方法(タイピング方法)にしたがって適切な位置に配置してよい。そのためプライマーの設計にあたり、プライマーとSNP部位との位置関係は、検出方法にあわせて自由に設計でき、検出しようとするSNPを含む領域(例えば、連続した50塩基長以上500塩基長以下)にハイブリダイズする限り、タイピング方法の特性を考慮しながら、プライマーを設計できる。プライマーとしての機能を発揮する長さとしては、10塩基以上100塩基以下が好ましく、15塩基以上50塩基以下がより好ましく、15塩基以上30塩基以下がさらに好ましい。また設計の際には、任意の核酸鎖の50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度であるプライマーの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。鋳型となるDNAとプライマーとが二本鎖を形成してアニーリングするためには、アニーリングの温度を最適化する必要があるが、その一方で、この温度をより低すぎると非特異的な反応がおこるため、好ましくないからである。Tmの確認には、公知のプライマー設計用ソフトウェアを利用することができる。
【0034】
SNPの検出にプローブを用いる場合は、プローブがSNP部位を認識するように設計する。プローブ設計において、SNP部位は、タイピング方法にあわせて、プローブ内のいずれかの場所で認識されればよく、タイピング方法によっては、プローブの末端で認識されてもよい。SNP検出用ポリヌクレオチドをプローブとする場合、ゲノムDNAに相補的な塩基配列の長さは、通常15塩基以上200塩基以下であり、15塩基以上100塩基以下が好ましく、15塩基以上50塩基以下がより好ましいが、タイピング方法によってはこれより長くても短くてもよい。
【0035】
本実施形態の方法において、検体中にCELF2遺伝子座の1以上の上記SNPが検出された場合に、当該検体がHBワクチンに対する免疫応答性を有することを示す。また、当該検体がHBワクチンを接種した後である場合には、当該検体がHBs抗体を有する可能性があることを示す。
【0036】
また、診断実用性の計算に用いて、HBワクチンに対する免疫応答性の陽性率を解析することもできる。ここでいう陽性率とは、検体全体のうち、CELF2遺伝子座の1以上の上記SNPがある検体の割合を意味する。例えば、本明細書の実施例に記載した日本人成人1193人については、CELF2遺伝子座の1以上の上記SNPを有する検体は667人であり、CELF2遺伝子座の1以上の上記SNPを有さない検体は526人であり、陽性率は55.9%となる。
【0037】
HBワクチンに対する免疫応答性の有無は、HBワクチンをこれから接種する健常者やHBワクチンを接種した健常者だけでなく、HBV感染者にとっても重要な情報であり、例えば、B型肝炎の治療方法や治療薬の選定及びB型肝炎の予防及び発症防止に関する重要な情報となる。特に、HBV感染者においては、免疫力が低下等することでHBVが再活性化して肝炎が劇症化することを予防するために重要な情報となり得る。
【0038】
なお、CELF2遺伝子座の上記SNPの存在は、ホモ又はヘテロのいずれでもよい。
【0039】
本実施形態の方法において、CELF2遺伝子座の上記SNPの検出に加えて、他のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無に関連するSNPやハプロタイプを検出してもよい。後述する実施例に示すように、CELF2遺伝子座の上記SNPの検出と組み合わせてこれらSNPやハプロタイプを検出することで、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無をより精度が高く判断することができ、診断の信頼度がより高まる。
【0040】
他のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無に関連するSNPとしては、例えば、BTNL2遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs4248166等)、IL1RL1遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs9646944等)、STOX2遺伝子材におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2871385等)、MCPH1遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs2732977等)、OXA1L遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs3132969等)、BCL11B遺伝子座におけるSNP(NCBI SNP Databaseにおける登録番号rs1951122等)が挙げられる。これらのSNPを1種単独で検出対象としてもよく、2種以上組み合わせて検出対象としてもよい。検体中にこれらのSNPが検出された場合に、当該検体がHBワクチンに対する免疫応答性を有すると判定することができる。
【0041】
B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無に関連するハプロタイプとしては、HLA class II遺伝子のハプロタイプ(HLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01、HLA-DRB1*08:03-DQB1*06:01、HLA-DRB1*14:06-DQB1*03:01、HLA-DRB1*15:01-DQB1*06:02、HLA-DRB1*01:01-DQB1*05:01等)等が挙げられる。これらのハプロタイプを1種単独で検出対象としてもよく、2種以上組み合わせて検出対象としてもよい。検体中にHLA-DRB1*08:03-DQB1*06:01及びHLA-DRB1*15:01-DQB1*06:02のうち少なくともいずれか一方のハプロタイプが検出された場合に、当該検体がHBワクチンに対する免疫応答性を有すると判定することができる。一方で、検体中にHLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01及びHLA-DRB1*14:06-DQB1*03:01のうち少なくともいずれか一方のハプロタイプが検出された場合に、当該検体がHBワクチンに対する免疫応答性を有さない、又は免疫応答性が低いと判定することができる。
また、検体中に、HLA-DRB1*08:03-DQB1*06:01及びHLA-DRB1*15:01-DQB1*06:02のうち少なくともいずれか一方のハプロタイプ、及び、HLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01及びHLA-DRB1*14:06-DQB1*03:01のうち少なくともいずれか一方のハプロタイプ、の両方が検出された場合には、ワクチンへの高反応性が有意となることから、当該検体がHBワクチンに対する免疫応答性を有すると判定することができる。
【0042】
これらSNPやハプロタイプの検出方法としては、上述したCELF2遺伝子座の上記SNPの検出と同様の方法が挙げられる。
【0043】
<B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出するキット>
本実施形態のキットは、CELF2遺伝子座の1以上のSNPを検出する核酸プローブ又はプライマーを含む。本実施形態のキットは、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無の検査用キットとして有用である。CELF2遺伝子座の1以上のSNPとしては、上記「B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。また、核酸プローブ又はプライマーについては、当業者であれば、上記「B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法」において、CELF2遺伝子座の1以上のSNPの検出方法に記載した方法を用いて適宜作製することができる。
【0044】
本実施形態のキットは、上記核酸プローブ又はプライマーに加えて、SNPタイピングに通常用いられる試薬、陽性コントロール、溶媒及び溶質を更に含むことができる。当該試薬としては、例えば、デオキシヌクレオチド3リン酸(dNTPs)やDNAポリメラーゼ等が挙げられる。溶媒及び溶質としては、例えば、蒸留水、pH緩衝試薬、塩、タンパク質、界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
上記核酸プローブ又はプライマーは、CELF2遺伝子座の1以上のSNPとは無関係な配列が含まれていてもよい。また、上記核酸プローブ又はプライマーは、DNAとRNAのキメラであってもよい。また、上記核酸プローブ又はプライマーは、蛍光物質や、ビオチン又はジゴキシンのような結合親和性物質、酵素、放射性同位元素、発光物質等で標識されていてもよい。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセインイソチオシアネート等が挙げられる。酵素としては、例えば、パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水酵素、α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ等が挙げられる。放射性同位元素としては、例えば、125I、131I、3H、14C等が挙げられる。発光物質としては、例えば、ルシフェリン、ルシゲニン、ルミノール、ルミノール誘導体等が挙げられる。
【0046】
本実施形態のキットは、上記核酸プローブ又はプライマーに加えて、比較基準とするためのあるいは検量線を作成するための照合サンプル、検出器等も含んでもよい。検出器としては、例えば、分光器、放射線検出器、光散乱検出器等の上記核酸プローブ又はプライマーの標識を検出可能なものが挙げられる。
【0047】
本実施形態のキットは、CELF2遺伝子座の1以上のSNPを検出する核酸プローブ又はプライマーに加えて、他のB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の有無に関連するSNPやハプロタイプを検出する核酸プローブ又はプライマーを含むことができる。当該SNPやハプロタイプとしては、上記「B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。また、これらSNPやハプロタイプを検出する核酸プローブ又はプライマーについては、当業者であれば、上記「B型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を検出する方法」において、CELF2遺伝子座の1以上のSNPの検出方法に記載した方法を用いて適宜作製することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
<材料及び測定方法>
[試料及び臨床データ]
本研究でビームゲンに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出に使用された日本人成人1193例のゲノムDNAサンプルは、全て組換え沈降HBワクチン(ビームゲン、化学及血清療法研究所製)で、0、1及び6か月に3回(0.5mL)のワクチン接種を行った健康な成人ボランティア(18歳以上)から得られたものである。ヘプタバックス-IIワクチン(MSD KK製)の予防接種を受けた個人は上記1193例のゲノムDNAサンプルには含まれない。
一方、本研究でヘプタバックス-IIに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出に使用された日本人成人555例のゲノムDNAサンプルは、全て全て組換え沈降HBワクチン(ヘプタバックス-II、MSD KK製)で、0、1及び6か月に3回(0.5mL)のワクチン接種を行った健康な成人ボランティア(18歳以上)から得られたものである。ビームゲンワクチン(化学及血清療法研究所製)の予防接種を受けた個人は上記555例のゲノムDNAサンプルには含まれない。
【0050】
血清抗HBV表面抗体(HBsAb)及び血清抗HBVコア抗体(HBcAb)は、それぞれ、抗HBsキット及び抗HBc II キットを使用し、且つ、Architect i2000SRアナライザー(Abbott Japan製)を使用した完全自動化学発光酵素免疫測定システムで、ワクチン接種前及び最終接種の1か月後に確認した。HBcAb陽性(>1.0 S/CO)の個人は、本研究には含まれない。
本研究では、上記ビームゲンに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出に使用された日本人成人1193例を4つのグループに分類した:group_0、低応答者、HBsAb≦10mIU/mL、n=107。group_1、中間応答者、10mIU/mL<HBsAb≦100mIU/mL、n=351。group_2、高応答者、100mIU/mL<HBsAb≦1000mIU/mL、n=575。group_3、超高応答者、1000mIU/mL<HBsAb、n=160。1193例の個人の臨床情報は、グループ毎に以下のURLにまとめられている。(http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hep.29876/suppinfo)
また、上記ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出に使用された日本人成人555例についても同様に、4つのグループに分類した:group_0、低応答者、HBsAb≦10mIU/mL、n=66。group_1、中間応答者、10mIU/mL<HBsAb≦100mIU/mL、n=124。group_2、高応答者、100mIU/mL<HBsAb≦1000mIU/mL、n=245。group_3、超高応答者、1000mIU/mL<HBsAb、n=60。
【0051】
[ゲノムワイド関連解析(GWAS)]
上記ゲノムDNAサンプルについて、製造元の指示に従い、Affymetrix Axiom Genome-Wide ASI 1 Arrayを使用して、ゲノムワイドSNP解析を実施した。
【0052】
[実施例1]
(ビームゲンに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出)
上記1193例のゲノムDNAサンプルを用いて、上記ゲノムワイドSNP解析を実施し、下記に示すStatus-2、Status-1及びStatus-4中の2群をそれぞれ比較するゲノムワイド関連解析(GWAS)を行なった。具体的には、年齢及び性別を共変量として使用してゲノムワイド重回帰分析を実行した。また、下記に示すStatus-2、Status-1及びStatus-4の条件で、3段階のGWASを実施した。各GWASの分析結果を
図1~3に示す。各GWASにおいて、P<0.05となったSNPを抽出後(表1参照)、オッズ比が強まった(又は弱まった)SNPを選択した。選択されたSNP数は4865であった。
【0053】
Status-2:group_0(低応答者、HBsAb≦10mIU/mL、n=107)に対する、group_1+group_2+group_3(中間応答者+高応答者+超高応答者、HBsAb>10mIU/mL、n=1086)
Status-1:group_0(低応答者、HBsAb≦10mIU/mL、n=107)に対する、group_2+group_3(高応答者+超高応答者、HBsAb>100mIU/mL、n=735)
Status-4:group_0(低応答者、HBsAb≦10mIU/mL、n=107)に対する、group_3(超高応答者、HBsAb>1000mIU/mL、n=160)
【0054】
【0055】
選択された4865SNPsのうち、Status-2、Status-1及びStatus-4の順番に効果量が大きくなったSNPであって、且つ、上記3段階のGWASのいずれかでP<0.00001であったSNP数は315であった。そのうち、307個のSNPはHLA領域に存在しており、HLA領域以外に存在するSNPは以下の表2に示す8個であった。中でも、CELF2遺伝子座のrs11256840がトップヒットであり、Chr.6を除く4865SNPsの中で一番低いP値であった。
【0056】
【0057】
次いで、年齢、性別及び上記8個のSNPs(Model 1)、又は、年齢、性別及び上記8個のSNPsのうちCELF2遺伝子座の3個のSNPsを除いた5個のSNPs(Model 2)でロジスティクス回帰モデルを検討した。結果を
図4(Model 1)及び
図5(Model 2)、並びに、表3に示す。表3において、「陽性的中率」はワクチン低応答者の的中率を意味する。
【0058】
【0059】
表3から、低応答者の検体数がn=107と少ないことから、PPVは低く、NPVは高い結果となった。
また、
図4及び
図5から、CELF2遺伝子座のSNPsを用いることで、AUC=0.8508と、ワクチン低応答者の予測能がより高いモデルが得られた。
【0060】
次いで、正確なppvやnpvを求めるために、30歳以下の検体のみを用いて、年齢、性別、HLA(HLA-DRB1
*04:05-DQB1
*04:01、HLA-DRB1
*08:03-DQB1
*06:01、HLA-DRB1
*14:06-DQB1
*03:01、HLA-DRB1
*15:01-DQB1
*06:02、HLA-DRB1
*01:01-DQB1
*05:01の5つのDR-DQ、及び、DPB1
*04:02、DPB1
*05:01の2つのDP)、BTNL2及び上記8個のSNPs(Model 3)、又は、年齢、性別、HLA(5つのDR-DQ、2つのDP)、及びBTNL2(Model 4)でロジスティック回帰モデル検討した。結果を
図6(Model 3)及び
図7(Model 4)、並びに、表4に示す。表4において、「陽性的中率」はワクチン低応答者の的中率を意味する。
【0061】
【0062】
表4、
図6及び
図7から、CELF2遺伝子座のSNPsを含む上記8個のSNPsを用いることで、AUC=0.9486と、AUCを0.054向上されることができ、ワクチン低応答者の予測能がさらに高いモデルが得られた。
【0063】
次いで、GTExポータル(http://gtexportal.org/home/)を用いて、CELF2のmRNAの発現に影響を与える可能性のあるSNPを探索した。その結果、トップヒットとなったrs11256840に加えて、以下の表5に示すSNPがCELF2遺伝子の発現に影響を与える可能性のあるSNPとしてヒットした。
【0064】
【0065】
[実施例2]
(ヘプタバックス-IIに対する免疫応答性の遺伝的要因の検出)
上記555例のゲノムDNAサンプルを用いて、上記ゲノムワイドSNP解析を実施し、下記に示すStatus-2、Status-1及びStatus-4中の2群をそれぞれ比較するゲノムワイド関連解析(GWAS)を行なった。具体的には、年齢及び性別を共変量として使用してゲノムワイド重回帰分析を実行した。また、下記に示すStatus-2、Status-1及びStatus-4を条件として、3段階のGWASを実施した。各GWASの分析結果を
図8~10に示す。各GWASにおいて、P<0.05となったSNPを抽出後(表6参照)、オッズ比が強まった(又は弱まった)SNPを選択した。選択されたSNP数は4487であった。
【0066】
Status-2:group_0(低応答者、HBsAb≦10mIU/mL、n=66)に対する、group_1+group_2+group_3(中間応答者+高応答者+超高応答者、HBsAb>10mIU/mL、n=489)
Status-1:group_0(低応答者、HBsAb≦10mIU/mL、n=107)に対する、group_2+group_3(高応答者+超高応答者、HBsAb>100mIU/mL、n=305)
Status-4:group_0(低応答者、HBsAb≦10mIU/mL、n=107)に対する、group_3(超高応答者、HBsAb>1000mIU/mL、n=60)
【0067】
【0068】
選択された4487SNPsのうち、Status-2、Status-1及びStatus-4の順番に効果量が大きくなったSNPであって、且つ、上記3段階のGWASのいずれかでP<0.00001であったSNP数は10であった。具体的には、以下の表7に示す10個のSNPsである。そのうち、HLA領域に存在するSNPはなかった。また、表8に示すように、CELF2遺伝子座に存在するSNPsについて、有意差は見られなかったが、CELF2遺伝子座のrs11595366はStatus-4においてP=0.000787であり、ビームゲンで検出されたrs11256840も効果量が大きくなっており、ORの向きは同じであった。
【0069】
【0070】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本実施形態の方法及びキットによれば、被験者におけるB型肝炎ワクチンに対する免疫応答性の遺伝的要因を簡便且つ確実に検出することができる。