(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】傾倒防止具
(51)【国際特許分類】
A61H 33/00 20060101AFI20240328BHJP
A61G 7/053 20060101ALI20240328BHJP
A47K 3/00 20060101ALI20240328BHJP
A47K 3/02 20060101ALI20240328BHJP
A47K 3/12 20060101ALI20240328BHJP
E04F 11/18 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
A61H33/00 310Z
A61G7/053
A47K3/00 Z
A47K3/02
A47K3/12
E04F11/18
(21)【出願番号】P 2021172998
(22)【出願日】2021-10-22
【審査請求日】2023-07-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 マツ六株式会社は、令和3年9月29日、株式会社フロンティアのFP推進室・プロダクツ事業部北村智也室長宛に、桑田貴喜及び森勇信が発明した傾倒防止具をサンプル出荷した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000113779
【氏名又は名称】マツ六株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑田 貴喜
(72)【発明者】
【氏名】森 勇信
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-030040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 33/00
A61G 7/00-7/16
A47K 3/00
A47K 3/12
A47K 3/02
E04F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に近接して立設された支柱に着脱可能且つ回動可能に装着され、前記壁面と前記支柱との間に介装されることにより、前記支柱が前記壁面側に不測に傾倒するのを防止する傾倒防止具であって、
前記傾倒防止具は、その外周面が曲面とされ、該曲面の、前記支柱の軸芯を中心とする曲率半径が該軸芯周りの一方向に向かうに従って漸次増大されていることを特徴とする傾倒防止具。
【請求項2】
請求項1に記載の傾倒防止具であって、
床面に設置されるベース部と、該ベース部に立設された支持部と、該支持部の上端に設けられた手摺部とを含む補助手摺の前記支持部に装着されるものである傾倒防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護や福祉の分野での使用に適した補助手摺に好適に使用される傾倒防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
椅子やベッドからの立ち座り動作が人の介助までは要しないものの自力では困難な高齢者や要介護支援者等(以下、使用者という。)用に、従来、可搬型で据置型の補助手摺が使用されている。
【0003】
この種の補助手摺としては、例えば、ベース部と、このベース部に立設された支柱部と、この支柱部により支持された手摺部と、を備えたものが一般的である(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、上記したもの以外にも、使用者が立ち上がる際に加わる横荷重によって転倒することがないようにベッド等の被取付物に掛止可能な転倒防止機構を取り付けた補助手摺が公知である(例えば、特許文献3,4参照)。
【0005】
さらに、支柱部に位置決部材を設けることでベッドとの水平方向の離間寸法を所定寸法以上とすることができるようにした補助手摺も提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
上記した補助手摺はどれも主に寝室や居間での使用を前提としたものである。そこで、浴室用として特に洗場と浴槽内との間の移動を補助する手摺が種々提案されている(例えば、特許文献6、7参照)。
【0007】
特許文献6に開示された浴槽用手摺は、浴槽の壁体部と洗場とにそれぞれ形成された取付孔に手摺の脚部を挿入することで設置されるものであり、特許文献7に開示された浴槽用手摺は、浴槽の壁体部を挟持部で挟持することで設置されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実用新案登録第3034536号公報
【文献】実用新案登録第3217350号公報
【文献】実用新案登録第3127542号公報
【文献】特開2015-202317号公報
【文献】実用新案登録第3148521号公報
【文献】特開平8-275894号公報
【文献】特開2019-180680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1~5に開示された補助手摺は、椅子やベッドから立ち座る際に使用者が補助手摺の手摺部等を片手で掴むことを前提にしている。一方、特許文献6,7に開示された浴槽用補助手摺は、浴槽の壁体部に設置されることにより洗場と浴槽内との間の移動を補助することに特化されている。
【0010】
しかし上記従来の補助手摺は汎用性の点でまだ改良の余地が残されているものであった。以下、詳述する。
【0011】
上記特許文献1~5に開示された補助手摺は、いずれも、使用場所が寝室や居間などである場合に適しているが、浴室の使用には大きさや耐水性或いは耐食性といった点から不向きなものが多い。一方、特許文献6及び7に開示された浴槽用手摺は浴室内での使用に特化されていてそれ以外の場所では使用し得ないものであった。このため、寝室や居間にもまた浴室にも手摺を設置しようとすると、上記した2種類のタイプの手摺をそれぞれ用意する必要があり、その分使用者の経済的負担が高くなるといった問題があった。
【0012】
また、座ったままでシャワーを浴びることができるようにしたシャワー椅子を浴室で使用する場合、上記したような浴槽用手摺は、その設置位置が浴槽の壁体上に限られていることから、シャワー椅子からの立ち座りに利用するには使い辛い位置にあるため、シャワー椅子からの立ち座りの補助に適するものではなかった。この点を解消するため、特許文献1~5に開示された補助手摺を浴室内に別途持ち込んで浴槽用手摺と併用することも想定されるが、洗場が広くてゆったりとした空間を有する浴室であればまだしも、例えばユニットバスなど洗場が狭い浴室では上記したような2種類の手摺の併用は非現実的である。このため、シャワー椅子からの立ち座りの際、その補助には使い辛い浴槽用手摺に頼らざるを得ないといった問題があった。
【0013】
さらに、洗場に特許文献1~5に開示された補助手摺をシャワー椅子と共に設置できるスペースがある場合、浴槽用手摺を設置せずに補助手摺だけを設置し、この補助手摺を、シャワー椅子からの立ち座りの補助と、洗場と浴槽間の移動の補助との両方に使用することが想定される。しかしこの場合、ベース部の縁が浴槽の壁体に当接して補助手摺の支柱と浴槽の壁体との間に必然的に空間が形成されることから、補助手摺に浴槽方向への横荷重が加わると補助手摺がベース部の縁を支点として浴槽側に傾倒する虞が高いため、これが原因で使用者が転倒するといった事故を招来する危険性がある。また、浴槽の壁体の下部が窪んでおりそこにベース部の縁が収まることにより支柱が壁体に沿う場合は、補助手摺に浴槽方向への横荷重が加わっても浴槽の壁体が支柱と接してこれを支えるため、上記したような転倒事故を招来する虞はないが、使用の都度浴槽の壁体と支柱とが擦れることから、壁体の表面が傷つくため、これが原因で浴槽の外観が損なわれるだけでなく傷ついた部分からカビが発生し易くなり浴室の衛生を保つことが困難にもなるといった問題があった。
【0014】
このような問題を解消するために、補助手摺の支柱と浴槽の壁体との間に補助手摺の傾倒を阻止するための部材を介装することが想定される。その例として、特許文献3、4に開示されたような転倒防止機構が挙げられる。しかしながら、それら特許文献に開示された転倒防止機構はベッドの隙間に挿入されるか又はベッドの壁体を挟持するようにしたものであって、対浴槽用の部材としてそのまま採用することは、ベッドと浴槽とではその形態が大きく異なるためにできない。また仮に、そのような転倒防止機構を上記したような使い方ではなく、特許文献5に開示されているような、転倒防止機構の先端を浴槽の壁体に当接させるといった使い方が想定されたとしても、浴槽は多種多様でありその形状は浴槽ごとに変わることから、浴槽の壁体と支柱との間隔のバリエーションに限りがないため、長さが一定である上記転倒防止機構では対応できず、また、例え長さの異なる複数種類の転倒防止機構を予め用意しておき、支柱と浴槽の壁体との間隔に応じたものを選択するといったことも想定されるが、あらゆる間隔に対応し得る転倒防止機構を予め用意しておくことは非現実的である。さらに、転倒防止機構に伸縮機能を持たせ浴槽の壁体と支柱との間隔に応じて延出長さを調節できるようなものとすることも想定される。その場合摺動部材とこの摺動部材を支持する支持部材とを要するが、強度確保の点からそれら部材の必要長さを考慮した場合、その必要長さが浴槽の壁体と支柱との間隔を超えるときには対応できないため、これもまた解決策とはならない。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、壁面に近接して立設された支柱の支持に適し、各種支柱の安全性や従来の補助手摺の安全性を高めてその使用範囲を広げることのできる傾倒防止具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本願開示の傾倒防止具は、壁面に近接して立設された支柱に着脱可能且つ回動可能に装着され、前記壁面と前記支柱との間に介装されることにより、前記支柱が前記壁面側に不測に傾倒するのを防止する傾倒防止具であって、その外周面が、前記支柱の軸芯を中心とした曲率半径が該軸芯周りの一方向に向かうに従って漸次増大する曲線状とされたことを特徴とするものである。
【0017】
また、上記傾倒防止具であって、床面に設置されるベース部と、該ベース部に立設された支持部と、該支持部の上端に設けられた手摺部とを含む補助手摺の前記支持部に装着されるものである。
【0018】
本発明によれば、例えば、床面と天井との間に突っ張った状態で壁面に近接して立設される、所謂突張支柱に適用した場合、この支柱に傾倒防止具を装着することで、支柱に壁面方向の横荷重が加えられてもこれに抗して支柱を支持することができ、支柱の傾倒や転倒を防止することができる。
【0019】
また、同様に補助手摺の支柱に適用した場合、この補助手摺を従来の浴槽用手摺の代わりに浴室で使用した際に、洗場と浴槽内との間の移動に伴い補助手摺に浴槽方向への横荷重が加わっても傾倒防止具が浴槽の壁体と接して支持部を支えるため、補助手摺が傾倒することがなく、転倒事故を防止することができる。
【0020】
そして傾倒防止具は、その外周面が曲面とされ、該曲面の、前記支柱の軸芯を中心とする曲率半径が該軸芯周りの一方向に向かうに従って漸次増大されているとともに、前記支柱に対して回動可能とされているから、支柱の表面と傾倒防止具の外周面との間隔が、該外周面周りに無段階に変化するため、壁面と支柱との間隔がどのような寸法であっても傾倒防止具を支柱を中心に回動させるだけで壁面に傾倒防止具を適切に当接させることができる。
なお、外周面の曲面は、フィボナッチ数列を適用した曲面とされていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、壁面に近接して立設された支柱の支持に適し、各種支柱の安全性や従来の補助手摺の安全性を高めてその使用範囲を広げることのできる傾倒防止具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本願開示の傾倒防止具の使用例を示す概略斜視図である。
【
図2】本願開示の傾倒防止具の支柱への装着状態を示す部分拡大概略斜視図である。
【
図3】本願開示の傾倒防止具を装着した補助手摺を浴室内で浴槽用手摺として利用する場合の一例を示す概略斜視図である。
【
図4】本願開示の傾倒防止具が装着される補助手摺の概略分解斜視図である。
【
図5】本願開示の傾倒防止具の一例を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略斜視図である。
【
図6】本願開示の傾倒防止具の他の例を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略斜視図である。
【
図7】本願開示の傾倒防止具のさらに他の例を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略斜視図である。
【
図8】傾倒防止具を使用しない場合に発生し得る傾倒状態を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。なお、以下の各実施形態は、本発明を具現化した実施形態の例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。また、以下の説明及び図面において共通する構成要素には同一符号を付している。
【0024】
<補助手摺への適用例>
本願開示の傾倒防止具を補助手摺に適用した例について、
図1~
図4を参照して説明する。
【0025】
図1は浴槽用手摺として使用する補助手摺に本願開示の傾倒防止具を適用した例を示す概略斜視図、
図2は傾倒防止具の補助手摺への装着状態を示す部分拡大概略斜視図、
図3は補助手摺を浴室内で浴槽用手摺として利用する場合の一例を示す概略斜視図、
図4は本願開示の傾倒防止具が装着される補助手摺の概略分解斜視図である。
【0026】
補助手摺1は、床面に設置されるベース部10と、該ベース部10に立設された支持部20と、該支持部20の上端に設けられた手摺部30と、を含んでいる。以下、各部について詳述する。
【0027】
<ベース部>
ベース部10は、補助手摺1を床面に定着させる機能を有する。ベース部10の周端部には床面の方向に向かう傾斜面11が設けられており、これによってベース部10の中央部を床面から浮かせることで、支持部20の固定に使用される固定部材25や、図示しない重錘等をベース部10の裏面に取り付けるスペースが確保されている。このようになるベース部10は、補助手摺1の転倒による事故を回避するために、重心が低く床面との接触面積が大きくされている。
【0028】
このベース部10を構成する材料としては、金属製の板や強度の高い合成樹脂製の板を用いることができる。金属製の板を採用する場合は、浴槽での使用に鑑み、防錆処理が施されているとよく、例えばベース部10の表面及び裏面とにウレタン塗装と化粧塗装との両方またはそれらの何れか一方が施されているとよい。また、上記した傾斜面11の周端縁部12には、さらに、例えばゴム製や合成樹脂製の緩衝材が装着されていてもよく、その場合、床面の傷の発生防止と使用者の安全確保とを図ることができる。
【0029】
このようになるベース部10には2組の支持部取付部13,14が設けられている。そのうちの一組13,13はベース部の一側縁寄りの位置に配され、他の一組14,14はベース部の中央部に配されている。これら支持部取付部13,14は、一列に並んだ3つの通孔15~17と、これら通孔15~17を使用しないときに閉塞する化粧キャップ18とを備えている。3つの通孔15~17のうち、外側の2つの通孔15,17は取付ネジ25dが挿通されるネジ挿通孔とされ、中央の通孔16は水抜き孔とされている。化粧キャップ18は、使用者が裸足で触れても怪我をしないように軟性の樹脂製のものが好ましい。化粧キャップ18の支持部取付部13,14への取付は、化粧キャップ18の裏面に設けられた一対の嵌合突部18a,18aをネジ挿通孔(外側の2つの通孔15,17)に嵌入させることで行われる。
【0030】
<支持部>
支持部20は、図示例では2本の支柱部材21,21から構成されている。これら支柱部材21,21は、下端部に化粧カバー22aが固設された筒状のホルダ部22と、このホルダ部22内に挿脱自在に差し込まれる支柱23とを備えたものである。
【0031】
ホルダ部22には、相互に対峙する側面に高さ調整用ネジ(不図示)が挿通される挿通孔22bが設けられている。ホルダ部22の下端に固設された化粧カバー22aの内部には、ナット25bが上面に固着された固定盤25aが内装されている。なお、
図2では、ホルダ部22、化粧カバー22a及び固定盤25aが分かれて描かれているが、これは説明のためであって、実際にはこれら3つの部材は例えば溶接等により一体化されている。このようになるホルダ部22は、ベース部10の裏面に当接される当接板25cの下方から挿通される取付ネジ25dを固定盤25aのナット25bに螺合させて固定盤25aと当接板25cとでベース部10を挟持することによりベース部10上に立設固定される。また、固定盤25a及び当接板25cにもベース部の水抜き孔(中央の通孔16)と対応して水抜き孔24がそれぞれ設けられている。なお、化粧カバー22aはホルダ部22に固着せず、単に固定盤25aに被せて取り付けるようにされていてもよい。また、取付ネジ5dを当接板25cに固着する一方、固定盤25aとナット25bとを別体とし、ナット25bを取付ネジ25dに螺着するようにしてもよい。
【0032】
支柱23にはホルダ部22の挿通孔22bに対応して高さ調整用ネジと螺合する複数のネジ孔23bが縦一列に設けられている。これらネジ孔23bのいずれかを適宜選択することでホルダ部22からの支柱23の突出長さが変わるので、これによって手摺部30の高さを調整することができる。
【0033】
以上説明した支持部20は、取付ネジ25dを着脱することで、ベース部10の2組の支持部取付部13,14のいずれか一方に選択的に立設固定され、支持部20が取り付けられない支持部取付部13,14には化粧キャップ18が装着される。
【0034】
なお、上記の例では、支持部20は2本の支柱部材21,21から構成されているが、これに限らず、例えば1本又は3本以上の支柱部材から構成されていてもよく、また柱状のものに代えて板状のものであってもよい。
【0035】
<手摺部>
手摺部30は、支持部20と連結される横杆31と、該横杆31の両端部から同方向に向かって延出された一対の把持杆32,32と、これら一対の把持杆32,32の両先端部32a,32a間に架設された手摺杆33と、を備えている。
【0036】
横杆31は、その両端部から、支持部20の各支柱23の先端部23aが連結される連結部31aが垂設されている。連結部31aと支柱23とは、連結部31a内の芯材と支柱23の先端部23aとが溶着されることにより連結されている。なお、横杆1の連結部31aと各支柱23との連結手段は上記したものに限らず、例えば、連結部31a内に支柱23の先端部23aを嵌入するとともに固定ネジを連結部31aの外側から支柱23の先端部23aに向けて螺入することにより連結されるようにしてもよい。この場合、先端部23aの連結部31a内への嵌入深さを調節することにより手摺部30の高さを微調整することもできる。
【0037】
一対の把持杆32,32は、手摺杆33に向かって上り勾配とされるとともに相互の間隔が手摺杆33に向かうほど狭められている。また、把持杆32,32の長さは、
図6及び
図7に示すように、把持杆32,32を握った際に手Hと手摺杆33とが干渉し合わないような長さを最短で有しておればよい。
【0038】
手摺杆33は、その両端部に垂設された連結部33aを介して把持杆32,32の先端部と連結されている。この手摺杆33は、例えば
図9に示すように、便器Bからの立ち座りの際に使用者Mが把持したり、
図10に示すように、浴室に入る際にその入口Eの前で使用者Mが立った姿勢で把持したり、
図12に示すように、浴室内で洗場Wと浴槽Tとの間を移動する際に使用者が把持したりするのに供される。連結部33aの長さ(立ち上がり寸法)は、横杆31とのレベル差や手摺杆33の高さ位置を考慮して適宜設定される。
【0039】
このような手摺部30によれば、椅子やベッドからの立ち座りの際に、左右それぞれの手で手摺部30の各把持杆32,32を把持することができる。そしてそのような把持姿勢を使用者Mにとらせることによって、使用者が椅子やベッドに座っている姿勢から上体を補助手摺1側に倒して手摺部30に体重を預けた際に、手首の角度及び前腕の角度(両肘の間隔)がそれぞれ手首や上腕に無理な負荷をかけない理想的な角度に自然と導かれるため、立ち上がり動作時に把持杆32,32を安定して十二分に押すことができることになる。その結果、非力な使用者であっても立ち座りの際に補助手摺1に力をしっかりと伝えることができるので、前重心となって円滑な立ち上がり動作を促すことができる。
【0040】
以上説明した手摺部30は、横杆31及び手摺杆33のすべて又は一部が、断面形状が略楕円形状のものとすると、握った場合に手との馴染みが極めて良好なものとなる。一方、把持杆32,32は断面形状が円形とするのが握り易さの点で好ましい。また、それらの材質及び太さも、握った際に滑りにくくしっくりとした感じを使用者に与えることのできるものが好ましい。さらに、手摺部30はそのすべてが一体成型されたものであってもよい。
【0041】
<傾倒防止具>
傾倒防止具40は、
図1乃至
図3に示すように、補助手摺1を浴室内で浴槽用手摺として使用する場合に適しており、補助手摺1の支持部20に着脱可能であって、住設機器の壁面や室内の壁面と支持部20との間に介装されることにより、補助手摺1全体が壁面側に不測に傾倒するのを防止するためのものである。すなわち、従来の浴槽用手摺の代わりに浴室で使用した場合に、
図3に示すように、洗場Wと浴槽T内との間の移動の際、補助手摺1に浴槽T方向への横荷重が加わっても、
図1乃至
図3に示すように、傾倒防止具40が浴槽Tの壁体T1と接して支持部20を支えるため、
図8に示すように、補助手摺1が傾倒することがなく、転倒事故を防止することができるのである。
【0042】
上記の傾倒防止具40としては、
図5乃至
図7に示すように、その外周面47がフィボナッチ数列を適用した曲線状とされ、
図2に示すように、支柱部材21のホルダ部22に対して回動可能に取り付けられるものが適している。このような形態のものであると、支柱部材21のホルダ部22の表面と傾倒防止具40の外周面47との間隔rが、外周面47周りに無段階に変化するため、浴槽Tの壁体T1と支柱部材21との間隔がどのような寸法であっても傾倒防止具40を支柱部材21を中心に回動させるだけで浴槽Tの壁体T1に傾倒防止具40を適切に当接させることができる。
【0043】
具体的には、
図5に示す例では、略勾玉状を呈する防止具本体41の一端部側に、支柱部材21のホルダ部22が挿通される挿通孔42と挟持部43とが一体的に設けられている。挿通孔42は支柱部材21のホルダ部22の外径よりもやや大きな内径を有しており、その内方空間は、挿通孔42の内周面の一箇所から屈曲形成された間隙部44を介して防止具本体41の外部と連通している。そして、間隙部44によって画成された部分が、挟持部43とされている。この挟持部43には、支柱部材21を締め付けるための締付ボルト(不図示)が挿通されるボルト挿通孔45貫設されており、このボルト挿通孔45の延長線上に間隙部44に臨む開口を有する雌ネジ部(不図示)が防止具本体41内部に刻設されている。そして、防止具本体41の挿通孔42の外側から反対側の先細部46にかけての外周面47が曲面とされ、該曲面の、支柱部20の軸芯を中心とする曲率半径rが該軸芯周りの一方向に向かうに従って漸次増大されている。このようになる傾倒防止具40としては、浴槽等の住設機器の壁面や室内の壁面を傷つけないよう樹脂製など表面が弾性を有するものが好適である。なお、外周面47の曲面は、フィボナッチ数列を適用した曲面とされていてもよい。
【0044】
図6に示す例は、
図5で示した例が一定の厚みの中実物であったのに対し、ボルト挿通孔45の部分及び雌ネジ部の部分以外の全域を薄肉化して、軽量化、薄型化及び材料コストの低廉化を図ったものである。その余の構成は
図5で説明したものと同じである。
【0045】
図7に示す例は、
図5で示した例と
図6で示した例の中間にあたるもので、挿通孔42と挟持部43以外の領域の肉を盗み外周面47の幅を
図5に示したものと略同じにしたものである。
【0046】
なお、傾倒防止具40を補助手摺1に取り付ける場合は、手摺部30と連結部31aで一体となっている支柱23を支柱部材21のホルダ部22から引き抜いたうえで、ホルダ部22の先端から傾倒防止具40を嵌めて所定の高さ位置まで降ろし、その後挟持部43を締付ボルトで締め付けることで取り付ける。
【0047】
<使用例>
図1に示す例では、支持部20はベース部10の端縁寄りにある支持部取付部13,13に、手摺部30の手摺杆33がベース部10の外側に位置するように立設されており、浴槽Tの壁体T1に支持部20が近接するようにして浴槽Tの壁体T1の上方又は浴槽Tの内壁面の上方に手摺杆33が位置するように設置されている。この場合、ベース部10の周端縁部12が浴槽Tの壁体T1に当接して補助手摺1の支持部20と浴槽Tの壁体T1との間に必然的に空間が形成されることから、補助手摺1に浴槽T方向への横荷重が加わると、
図8に示すように、補助手摺1がベース部10の周端縁部12を支点として浴槽T側に傾倒する虞が高いため、これが原因で使用者が転倒するといった事故を招来する危険性がある。そこで、支持部20に前述したように傾倒防止具40を取り付ける。その取付位置は、
図1乃至
図3に示すように、浴槽Tの壁体T1の上端寄りが好ましい。ここで、傾倒防止具40はその外周面47が曲面とされ、該曲面の、支柱部20の軸芯を中心とする曲率半径rが該軸芯周りの一方向に向かうに従って漸次増大するとともに、支持部20に対して回動可能とされていることから、支持部20の表面と傾倒防止具40の外周面47との間隔(曲率半径rに相当)が、該外周面47周りに無段階に変化するため、浴槽Tの壁体T1と支持部20との間隔がどのような寸法であっても傾倒防止具40を支持部20を中心に回動させるだけで浴槽Tの壁体T1に傾倒防止具40を適切に当接させることができる。その結果、上記したような補助手摺1の傾倒に起因する転倒事故を確実に防止することができる。
【0048】
そして使用者Mは、洗場Wと浴槽Tとの間を移動する際、
図3に示すように、両手H,Hで把持杆32,32を掴み、浴槽Tの壁体T1を跨ぐことになる。その際、補助手摺1は傾倒防止具40の作用により浴槽T側に傾倒することなく洗場W上に安定的に維持されるため、使用者Mは、いずれもが滑りやすい洗場Wと浴槽Tとの間を安心して移動することができる。
【0049】
本願開示の傾倒防止具は、上記したような補助手摺以外にも適用することができる。例えば、特開2013-92034号公報や特開2014-214473号公報等に開示されているような、床面と天井との間に突っ張った状態で壁面に近接して立設される、所謂突張支柱にも適用することができる。このような突張支柱に本願開示の傾倒防止具を装着することで、支柱に壁面方向の横荷重が加えられてもこれに抗して支柱を支持することができ、支柱の傾倒や転倒を防止することができる。なお、支柱の種類は上記したようなものに限らない。
【0050】
なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲の記載によって示すものであって、明細書本文及び図面の記載にはなんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0051】
1 補助手摺
10 ベース部
20 支持部
30 手摺部
40 傾倒防止具
47 外周面