(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】粘着フィルム
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240328BHJP
C09J 7/40 20180101ALI20240328BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240328BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20240328BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240328BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20240328BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240328BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240328BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240328BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240328BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/40
C09J201/00
B32B3/30
B32B7/027
B32B7/06
B32B27/00 L
B32B27/00 M
B32B27/20 Z
H01M10/052
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2021507345
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011514
(87)【国際公開番号】W WO2020189635
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2019049668
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226091
【氏名又は名称】日榮新化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛史
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-153460(JP,A)
【文献】特開2009-221346(JP,A)
【文献】特開2017-183115(JP,A)
【文献】特開2019-011222(JP,A)
【文献】特開2017-066211(JP,A)
【文献】特開2019-057360(JP,A)
【文献】特開2019-111906(JP,A)
【文献】特開2019-137060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/38
C09J 7/40
C09J 201/00
B32B 27/00
B32B 7/027
B32B 7/06
B32B 3/30
B32B 27/20
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性を有する粘着剤層と、
前記粘着剤層の第1の面に接して設けられたコート層と、
前記コート層の前記粘着剤層と反対側の面に設けられた第1の剥離ライナーと、
前記粘着剤層の第2の面に設けられた第2の剥離ライナーとを備え、
前記コート層と前記粘着剤層との間の剥離力は、前記第1の剥離ライナーと前記コート層との間の剥離力よりも小さく且つ前記第2の剥離ライナーと前記粘着剤層との間の剥離力よりも大きく、
前記コート層は、離型成分を含み、且つ前記第1の剥離ライナーよりもガラス転移温度が低い樹脂層である、固体粒子の固定に用いられる粘着フィルム。
【請求項2】
前記コート層は、ウレタン系の自己修復材又はシリコーン系のゴム材を含む、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項3】
前記コート層は、硬化処理を行っていない前記粘着剤層と比べてガラス転移温度が高い、請求項1又は2に記載の粘着フィルム。
【請求項4】
前記粘着剤層は、固体粒子を貫通するように埋め込む層であり、
前記粘着剤層の膜厚は、前記固体粒子の平均一次粒子径の0.1倍以上、0.45倍以下であり、
前記コート層の膜厚は、前記固体粒子の平均一次粒子径の0.1倍以上、1.2倍以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着フィルム。
【請求項5】
前記粘着剤層の膜厚をA(μm)、前記コート層の膜厚をB(μm)とするとき、
0.2≦B/A≦12の関係が成り立つ、請求項1~4のいずれか1項に記載の粘着フィルム。
【請求項6】
硬化性を有する粘着剤組成物の硬化物である樹脂膜と、
一方の端部が前記樹脂膜の第1の面から突出し、他方の端部が前記樹脂膜の第2の面から突出するように前記樹脂膜を貫通
して保持された複数の固体粒子と
、
前記樹脂膜の第1の面に接して且つ剥離可能に設けられたコート層とを備えている、複合膜。
【請求項7】
前記固体粒子は、イオン伝導性を有する固体電解質粒子、導電性粒子又は熱伝導性粒子である、請求項6に記載の複合膜。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の複合膜
から前記コート層を剥離する工程と、
前記複合膜の一方の面の上に
、前記固体粒子と接する固体の正極層
を形成する工程と、
前記複合膜の他方の面の上に
、前記固体粒子と接する固体の負極層
を形成する工程とを備え
、
前記固体粒子は、イオン伝導性を有する固体電解質粒子である、全固体電池
の製造方法。
【請求項9】
硬化性を有する粘着剤層と、前記粘着剤層の第1の面に接して設けられたコート層と、前記コート層の前記粘着剤層と反対側の面に設けられた剥離ライナーとを備え、前記コート層が離型成分を含み、且つ前記剥離ライナーよりもガラス転移温度が低い樹脂層である、粘着フィルムを準備する工程と、
前記粘着フィルムの第2の面の上に、固体粒子を単層となるように分散させて配置する工程と、
前記固体粒子を配置した第2の面の上に剥離可能なフィルムを配置して、圧力及び熱を加えることにより、前記粘着剤層を貫通するように前記固体粒子を押し込む工程と、
前記固体粒子を押し込む工程の後で、前記粘着剤層を硬化させる工程とを備えている、複合膜の製造方法。
【請求項10】
前記固体粒子を押し込む前の状態では、前記粘着剤層の膜厚は、前記固体粒子の平均一次粒子径の0.1倍以上、0.45倍以下であり、前記コート層の膜厚は、前記固体粒子の平均一次粒子径の0.1倍以上、1.2倍以下である、請求項9に記載の複合膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粘着フィルム、それを用いた複合膜、全固体電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂膜を貫通するように固体粒子が固定された複合膜は、種々の分野において用いられている。例えば、次世代の電池として注目されているリチウムイオン全固体電池及びリチウム空気電池等には、樹脂膜に固体電解質粒子を固定した複合膜が用いられている(例えば、特許文献1を参照。)。固体電解質粒子を固定した複合膜を用いることにより、可燃性の電解液が不要となり、安全性を飛躍的に向上させることができる。
【0003】
固体電解質粒子が樹脂膜を貫通した複合膜を製造するための種々の方法が検討されている。例えば、固体電解質粒子にバインダー樹脂を塗布して乾燥させた後、樹脂の一部を除去することにより、固体電解質粒子を樹脂膜から露出させる方法が検討されている(例えば、特許文献1及び3を参照。)。また、固体電解質粒子が含まれたシリコーンゴム等の樹脂を基材に塗布した後、ローラーにより圧延することにより、固体電解質粒子が露出した樹脂膜を形成する方法も検討されている(例えば、特許文献2を参照)。さらに、樹脂粒子と固体電解質粒子とを同一面に一層に配列し、樹脂の融点以上に加熱することにより、固体電解質粒子が樹脂膜の両面に露出した複合膜を形成する方法も検討されている(例えば、特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-509748号公報
【文献】米国特許第4977007号
【文献】特開2018-6297号公報
【文献】特開2017-216066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、後から樹脂の一部を除去する方法では、エッチング工程が必要となるので、工数が増加するため製造コストが上昇すると共に、量産性も劣る。ローラーにより圧延する方法の場合、成膜の際に余剰な固体電解質粒子が除去されるため、材料に無駄が生じやすい。また、基材と固体電解質粒子とを十分に密着させられない場合があり、固体電解質が脱落するおそれがある。樹脂粒子を溶融させる方法の場合、膜内に間隙が残存し、十分な性能が得られないおそれがある。さらに、熱可塑性樹脂が用いられるため、高温になった場合に膜が変形して形状が維持できなくなるおそれもある。
【0006】
このような問題は、固体電解質を固定したリチウムイオン電池用の複合膜だけでなく、導電性粒子を固定した異方性導電膜や熱伝導性粒子を固定した熱伝導性膜等においても生じ得る。
【0007】
本開示の課題は、固体粒子を固定した複合膜を容易に製造できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の粘着フィルムの一態様は、固体粒子の固定に用いられ、硬化性を有する粘着剤層と、粘着剤層の第1の面に接して設けられたコート層と、コート層の粘着剤層と反対側の面に設けられた剥離ライナーと、粘着剤層の第2の面に設けられた第2の剥離ライナーとを備えている。コート層と粘着剤層との間の剥離力は、第1の剥離ライナーとコート層との間の剥離力よりも小さく且つ第2の剥離ライナーと粘着剤層との間の剥離力よりも大きく、コート層は、離型成分を含み、且つ第1の剥離ライナーよりもガラス転移温度が低い樹脂層である。
【0009】
本開示の複合膜の一態様は、硬化性を有する粘着剤組成物の硬化物である樹脂膜と、樹脂膜を貫通するように埋め込まれた複数の固体粒子とを備え、樹脂膜は、第1の面において突出した固体粒子の間の部分に凹部を有し、第2の面において固体粒子を囲む周壁部を有する。
【0010】
本開示の全固体電池の一態様は、本開示の複合膜と、複合膜の一方の面の上に設けられ、固体粒子と接する固体の正極層と、複合膜の他方の面の上に設けられ、固体粒子と接する固体の負極層とを備えており、固体粒子は、イオン伝導性を有する固体電解質粒子である。
【0011】
本開示の複合膜の製造方法の一態様は、硬化性を有する粘着剤層と、粘着剤層の第1の面に接して設けられたコート層と、コート層と反対側の面に設けられた剥離ライナーとを備え、コート層が離型成分を含み、且つ剥離ライナーよりもガラス転移温度が低い樹脂層である、粘着フィルムを準備する工程と、粘着フィルムの第2の面の上に、固体粒子を単層となるように分散させて配置する工程と、固体粒子を配置した第2の面の上に剥離可能なフィルムを配置して、圧力及び熱を加えることにより、粘着剤層を貫通するように固体粒子を押し込む工程と、固体粒子を押し込む工程の後で、粘着剤層を硬化させる工程とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本開示の粘着フィルムによれば、固体電解質膜や異方性導電膜等として使用できる複合膜を容易に製造することができる。また、得られた複合膜を用いることにより、全固体電池等の特性を向上させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る複合膜を示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係る粘着フィルムを示す断面図である。
【
図3】粘着フィルムを用いた複合膜の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図4】粘着フィルムを用いた複合膜の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図5】粘着フィルムを用いた複合膜の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図6】粘着フィルムを用いた複合膜の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図7】一実施形態に係る複合膜を用いた全固体電池を示す断面図である。
【
図8A】膜厚が5μmのコート層を用いて形成した複合膜の第1の面を示す顕微鏡写真である。
【
図8B】膜厚が5μmのコート層を用いて形成した複合膜の第2の面を示す顕微鏡写真である。
【
図8C】膜厚が20μmのコート層を用いて形成した複合膜の第1の面を示す顕微鏡写真である。
【
図8D】膜厚が20μmのコート層を用いて形成した複合膜の第2の面を示す顕微鏡写真である。
【
図9A】コート層を用いずに形成した複合膜の第1の面を示す顕微鏡写真である。
【
図9B】コート層を用いずに形成した複合膜の第2の面を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、本開示の複合膜100は、樹脂膜101と、樹脂膜101を貫通して埋め込まれた固体粒子103とを有している。本実施形態において、樹脂膜101の第1の面111においては、突出した固体粒子103に沿って覆うように樹脂膜101が密着しており、固体粒子103の端部は、樹脂膜101に覆われずに露出し、樹脂膜101から突出している。また、突出した固体粒子103の間には凹部115が形成されている。樹脂膜101の第2の面112においては、突出した固体粒子103の廻りを囲むように、周壁部116が形成されている。第2の面112においても、固体粒子103の端部は、樹脂膜101に覆われずに露出し、樹脂膜101から突出している。
【0015】
本実施形態の複合膜100は、両面において、固体粒子103がきれいに露出しているため、リチウムイオン電池等の固体電解質膜として用いる場合、イオンの伝導を効率良く行うことができる。また、電子部品同士を接続する異方性導電膜として用いる場合には、導通抵抗を低く抑えることが可能となる。
【0016】
また、本実施形態の複合膜100において、固体粒子103は第1の面111において端部を除いて樹脂膜101に覆われている。また、第2の面112においても端部を除いて樹脂膜101の周壁部116に囲まれている。このため、固体粒子103は樹脂膜101にしっかりと固定されており、容易に脱落しない。
【0017】
なお、埋め込まれた全ての固体粒子103の両端部が樹脂膜101から露出していることが好ましいが、埋め込まれた固体粒子103の少なくとも一部において両端部が樹脂膜101から露出していれば、固体電解質膜又は異方性導電膜等として用いることができる。例えば、実施例において示す測定方法による固体粒子の露出状態の指標が1以上であれば、第1の面と第2の面との間の導通を確保でき、固体電解質膜又は異方性導電膜等として用いることができる。露出状態の指標が、2以上であればより性能を向上させることができるためより好ましく、3であればさらに性能を向上させることができるためさらに好ましい。
【0018】
本実施形態の複合膜100において、固体粒子103は、樹脂膜101を貫通して両端部が樹脂膜101の第1の面111及び第2の面112から露出している。このように、固体粒子103が単層の状態で樹脂膜101に埋め込まれていることにより、第1の面111と第2の面112との間におけるイオン伝導又は電子移動が、粒子-粒子間の接触を介さずに行われる。従って、インピーダンスの増加を抑制できる。
【0019】
本実施形態の複合膜100において、樹脂膜101に埋め込まれている固体粒子103の密度は特に限定されないが、イオン伝導や電子移動のチャネルを十分に確保する観点から固体粒子充填率pが30%以上であることが好ましい。全固体電池の電流密度を向上させる観点からは、二次元上で固体粒子103が最密充填構造に近いことが理想である。従って、固体粒子充填率pは高い方がよいが、通常の条件で達成可能な好ましい範囲としては80%以下である。但し、複合膜100を異方性導電膜とする場合は、平面方向に導通することを防ぐ観点から、固体粒子充填率pの好ましい範囲を例えば5%以上、より好ましくは10%以上で、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下とすることができる。
【0020】
なお、複合膜100中の固体粒子103の一部又は全部は、隣接する固体粒子103と互いに接触していてもよい。この場合、複合膜100は、膜厚方向に導通し、面方向の導通が部分的にのみ見られる導電膜であってもよい。このような複合膜100は、例えば携帯機器のフェライトシート固定膜や、部材の帯電防止膜として使用することができる。フェライトシート固定膜では、固体粒子充填密度は高い方が電磁波に対するシールド効果が高くなるので好ましく、隣接する固体粒子103同士が接触していてもよい。
【0021】
また、固体粒子103が窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素、アルミナ又はシリカ等、10W/m・K以上の高い熱伝導性を有する材料で構成されている粒子(すなわち熱伝導性粒子)である場合、複合膜100は電子機器中の部材で生じた熱を放散させる熱伝導性膜として用いることができる。熱伝導性膜とする場合、固体粒子充填率pは、熱伝導の効率を高くする観点から30%以上が好ましい。固体粒子充填率pは、高い方が好ましいが、実現可能性の観点からは80%以下とすることができる。
【0022】
なお、固体粒子充填率pは、以下の式(1)により求めることができる。
p=s1/s2 ・・・ 式(1)
ここでs1は、平面視における固体粒子103の外形面積の合計値であり、s2は、樹脂膜101における固体粒子103が固定された領域の面積である。樹脂膜101における固体粒子103が固定された領域の面積とは、当該領域内に含まれる固体粒子103の面積を含む樹脂膜101全体の面積である。s1及びs2は、画像寸法測定装置等により測定することができる。
【0023】
固体粒子103は、複合膜100の用途に応じて種々のものを選択することができる。例えば、複合膜100を固体電解質膜として用いる場合には、固体粒子103としてイオン伝導性を有する固体電解質粒子を用いることができる。イオン伝導性を有する固体電解質粒子は、特に限定されないが、例えば硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質の粒子とすることができる。酸化物系固体電解質としては、例えばγ-LiPO4型酸化物、逆蛍石型酸化物、NASICON型酸化物、ペロブスカイト型酸化物、及びガーネット型酸化物等を用いることができる。NASICON型酸化物としては、例えばLi1+xMxTi2-x(PO4)3(ただしMはAl及び希土類から選ばれた少なくとも1種の元素、xは、0.1~1.9を示す。)、ペロブスカイト型酸化物としては、例えばLa2/3-xLi3xTiO3、ガーネット型酸化物としては、例えばLi7La3Zr2O12を用いることができる。イオン伝導性を高める観点、化学的な安定性を高める観点、及び加工性を高める観点から、基本結晶構造に対して元素を置換及び/又はドープした結晶性酸化物系固体電解質粒子を用いることもできる。中でも好ましい化合物として、NASICON型酸化物としてはLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、ガーネット型酸化物としてはLi7La3Zr2O12、元素置換体Li6.25Al0.25La3Zr2O12、Li7La3Zr2-xNbxO12(0<X<0.95)、及びLi7La3Zr2-xTaxO12(0<X<0.95)等を挙げることができる。
【0024】
また、複合膜100を電子部品同士を接続する異方性導電膜として用いる場合には、固体粒子103として金属粒子又は金属により被覆された粒子を用いることができる。
【0025】
金属粒子としては、例えば、ニッケル、コバルト、銀、銅、金、パラジウム、及び半田等からなる粒子が挙げられる。これらは、1種単独で用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。また、金属粒子の表面を他の金属で被覆して用いることもできる。
【0026】
金属により被覆された粒子としては、樹脂等からなる粒子の表面を金属膜により被覆した粒子を用いることができる。粒子の表面を被覆する金属膜に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ニッケル、銀、半田、銅、金、及びパラジウム等の少なくとも1種からなる膜とすることができる。中でも、金又は銀は、電気抵抗を小さくできるので好ましい。金属膜を被覆する粒子は、特に限定されず、樹脂粒子、又は金属酸化物等の無機粒子とすることができる。
【0027】
固体粒子103の粒子径は特に限定されないが、一般的な固体電解質粒子の場合、平均一次粒子径(D)は、1μm~100μm程度である。固体電解質粒子に限らず異方性導電膜に用いる導電性粒子においてもほぼ同様である。平均一次粒子径が好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上の固体粒子103を用いることにより、樹脂膜101の厚さをある程度厚くすることができるので、複合膜100の強度を確保することが容易となる。また、樹脂膜101の厚さを均一にすることも容易となる。平均一次粒子径が100μm以下、好ましくは90μm以下、より好ましくは80μm以下の固体粒子103を用いることにより、樹脂膜の厚さを薄くすることができるので、複合膜100の柔軟性の確保が容易となる。固体粒子103が固体電解質粒子である場合には、上記の理由及び電池の性能の観点から、平均一次粒径が10μm以上、50μm以下であるとより好ましい。固体粒子103が導電性粒子である場合には、抵抗値を低く保つ観点から、平均一次粒子径は1μm以上、5μm以下とするとより好ましい。また、複合膜100を使用する電子機器の厚さやサイズを小さくすることも容易となる。なお、固体粒子103の平均一次粒子径はレーザー回折式粒度分布計により測定することができる。
【0028】
固体粒子103は、球形の粒子に限らず、楕円形、棒状、針状、鱗片状等であってもよい。また、表面に凹凸を有する不定形状の粒子であってもよい。固体粒子103が球形又は略球形でない場合、平均一次粒子径は二軸平均径とすることができる。
【0029】
固体粒子103の両端を樹脂膜101の表面に露出させることを容易にする観点から、固体粒子103は一次粒子径の分布が小さい方が好ましく、平均一次粒子径の±10%の範囲内に、全粒子の90%が含まれるような分布が好ましい。なお、固体粒子103の一次粒子径の分布はレーザー回折式粒度分布計により測定することができる。
【0030】
本実施形態において、樹脂膜101は硬化性を有する粘着剤組成物の硬化物である。硬化性を有する粘着剤組成物とは、熱又は光等のエネルギーを供給することにより貯蔵弾性率が上昇する樹脂組成物である。例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤及びゴム系粘着剤等から選択した1種又は2種以上の混合物を用いることができる。中でも光又は電子線等を照射することにより硬化するものは、熱収縮や残留応力を低減できるため好ましく、紫外線を照射することにより硬化するものがさらに好ましい。なお、硬化して得られた樹脂膜101は、粘着剤組成物に含まれていた重合開始剤に由来する成分や、架橋剤に由来する成分を含んでいてもよい。
【0031】
樹脂膜101を絶縁性を有する膜とすることにより、複合膜100を固体電解質膜又は異方性導電膜として用いることができる。なお、異方性導電膜として複合膜100の一方又は両方の面上に熱可塑性樹脂等からなる薄い絶縁膜を付加的に設けてもよい。例えば、電極を有する2枚の板状物品の間に複合膜100を挟んだ状態で加熱しながら圧力を加えることにより、2枚の板状物品の電極が導電性粒子とそれぞれ接触して両電極間を電気的に導通させることができる。
【0032】
樹脂膜101は、複合膜100の用途にもよるが、適度な柔軟性を有していることが好ましい。適度な柔軟性を有していることにより、複合膜を折り曲げて積層することが可能となり、フィルム型の全固体電池に用いることが可能となる。
【0033】
本実施形態の複合膜100は以下のようにして形成することができる。まず、
図2に示すような粘着フィルム150を準備する。本実施形態の粘着フィルム150は、硬化性 を有する粘着剤層151と、粘着剤層151の第1の面111に接して設けられたコート層155と、コート層155の粘着剤層151と反対側の面に設けられた第1の剥離ライナー153と、粘着剤層151の第2の面112に設けられた第2の剥離ライナー154とを有している。コート層155は、第1の剥離ライナー153よりもガラス転移温度が低い樹脂層であり、離型成分を含んでいる。なお、粘着フィルム150は、ロール状のものを適宜送り出しながら使用することも、シート状に裁断して使用することもできる。
【0034】
図3に示すように、第2の剥離ライナー154を剥離した後、露出した第2の面の上に固体粒子103を単層となるようにできるだけ均一に分散させて配置する。粘着剤層151がタック性を有していれば、固体粒子103を第2の面の上に容易に保持させることができる。これにより、最終的に得られる複合膜における固体粒子103の充填密度を大きくすることが容易となる。具体的には、粘着剤層151のプローブタック試験により得られる測定値が0N/cm
2よりも大きいことが好ましく、1N/cm
2以上であることがより好ましい。
【0035】
次に、
図4に示すように、固体粒子103を配置した第2の面の上に第3の剥離ライナー156を配置する。第3の剥離ライナー156は、剥離可能なフィルムであればよいが、コート層155よりも剥離が容易であることが好ましい。なお、第3の剥離ライナー156として、剥離した第2の剥離ライナー154を再利用することもできる。
【0036】
次に、
図5に示すように、プレス装置を用いて、第1の面及び第2の面の両側から熱及び圧力を加える。これにより、固体粒子103が粘着剤層151に押し込まれ、固体粒子103の第1の面側の端部は、粘着剤層151を突き抜けてコート層155に達する。この際に、第2の面側の端部は第2の面から露出した状態となるようにする。なお、プレス終了時に、第3の剥離ライナー156と粘着剤層151とが、完全に密着していなくてよい。
【0037】
なお、異方性導電膜を作成する場合は、第1の剥離ライナー153及び第3の剥離ライナー156を加熱、延伸した後、圧力を加えて固体粒子103を押し込むようにすることもできる。このようにすることで、固体粒子103の充填密度を適切な範囲に下げることができる。
【0038】
次に、
図6に示すように、粘着剤層151を硬化させて樹脂膜101を形成する。これにより、固体粒子103が樹脂膜101を貫通して埋め込まれた複合膜100が得られる。粘着剤層151の硬化は、粘着剤層151の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、粘着剤層151が紫外線硬化型である場合には、400mJ/cm
2程度からそれ以上の照射量となるように紫外線を照射すればよい。
【0039】
プレスにより、固体粒子103を粘着剤層151に押し込むと、第2の面において固体粒子103の間の粘着剤層151は、固体粒子103に圧迫されて第2の面から突出するように盛り上がり、周壁部116を形成する。第1の面においては、粘着剤層151の固体粒子103に押された部分は、固体粒子103に密着してコート層155側に盛り上がった後、固体粒子103に突き破られる。このため、突出する固体粒子103の間に凹部115が形成される。
【0040】
本実施形態において、コート層155は、第1の剥離ライナー153よりもガラス転移点が低い樹脂層であるため、第1の剥離ライナー153よりも低い温度において軟化する。このため、プレスの際の温度を低くしても、固体粒子103の端部は、粘着剤層151を容易に突き抜けてコート層155に達することができる。このため、プレスの際の温度は、20℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上、100℃以下、好ましくは60℃以下程度とすることができる。プレスの際の温度を50℃以上とすることで、粘着剤層151の流動性が上がり、硬化後の樹脂層101の凹凸が緩やかになり、複合膜100にしわが入りにくくなる。プレス温度を100℃以下とすることで、プレス機の構成を簡易にできる。プレス温度を60℃以下とすることで、第2の面112側で固体粒子103が樹脂膜101内に埋もれにくくすることができる。また、条件によっては、熱を加えることなくプレスを行うこともできる。温度を低くすることによりプレスの際に粘着剤層151の温度のばらつきを小さくでき、複合膜100の均一性を向上させることができる。
【0041】
プレスの際に粘着剤層151に加わる圧力は、用いる粘着フィルム150及び固体粒子103に応じて適宜選択することができるが、1MPa/cm2以上、好ましくは3MPa/cm2以上、より好ましくは5MPa/cm2以上、20MPa/cm2以下程度とすることができる。また、プレス時間も適宜選択することができるが、1秒以上、10分以下程度とすることができる。
【0042】
形成された複合膜100を使用する際には、例えばまず第3の剥離ライナー156を剥離して、第2の面を被着体に貼付する。次に、第1の剥離ライナー153と共にコート層155を剥離して、第1の面を露出させる。露出させた第1の面に第1の面側の被着体を貼付して、圧力等を加えればよい。なお、粘着剤層151を硬化させた後の樹脂膜101がタック性を有していると、被着体への貼付が容易となるが、樹脂膜101はタック性を有していなくてもよい。樹脂膜101がタック性を有していないか、タック性が非常に小さい場合、樹脂膜101が折れ曲がる等して樹脂膜101同士が接触した際に、貼り付いたりしにくいため、取り扱いが容易となるという利点が得られる。具体的には樹脂膜101のプローブタック試験による測定値を0N/cm2とすることができる。一方、部材を固定するためにも複合膜100が用いられる場合は、ある程度のタック性を有していることが好ましく、プローブタック試験による測定値を1N/cm2以上とすることが好ましい。
【0043】
また、粘着剤層151を硬化させた樹脂膜101の貯蔵弾性率は、硬化前よりも大きい。例えば、硬化後の樹脂膜101の周波数1Hzにおける23℃での貯蔵弾性率は、熱プレス時の残存応力による複合膜100の収縮を低減する観点から、好ましくは1×105Pa以上、より好ましくは1×106Pa以上とすることができる。また、複合膜100の柔軟性を確保する観点から、好ましくは5×109Pa以下、より好ましくは5×108Pa以下とすることができる。なお、貯蔵弾性率はレオメータにより測定することができる。
【0044】
粘着剤層151は、硬化させることにより複合膜100の樹脂膜101となる材料により形成することができる。例えば、硬化性を有するアクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、及びゴム系粘着剤等の粘着剤により形成することができる。これらの材料は、単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。中でも、光により硬化する光硬化性の粘着剤は、固体粒子103を埋め込んだ後で、熱を加えることなく硬化させることができる。このため、硬化させた樹脂膜101の収縮を抑えることができ、残留応力も生じにくいため、樹脂膜101の変形を生じにくくできる。
【0045】
光硬化性の粘着剤は、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、分子内水素引き抜き型光重合開始剤、オキシムエステル系光重合剤、及びカチオン系光重合開始剤等の重合開始剤を含むことが好ましい。これらの重合開始剤は、単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0046】
例えば、第1の波長の光を吸収してラジカルを発生させる第1の光重合開始剤と、第1の波長とは異なる第2の波長の光を吸収してラジカルを発生させる第2の光重合開始剤とを含む粘着剤組成物とすることができる。このような構成とすれば、塗工後に第1の波長の光を照射して、一段階目の硬化を行い、固体粒子103を埋め込んだ後で、第2の波長の光を照射して、2段階目の硬化を行うことができる。このような二段階硬化型である必要はなく、塗工後の乾燥によりゲル状になり、後に光により硬化可能な粘着剤を用いることもできる。
【0047】
また、粘着剤層151を構成する粘着剤は、イソシアネート系又はエポキシ系等の硬化剤成分を含んでいてもよい。例えば、アクリル系粘着剤を用いる場合、添加する硬化剤の量を当量点以下の範囲で増やすことにより、粘着剤層151の貯蔵弾性率を大きくすることができる。また、硬化後の貯蔵弾性率を調整するために、粘着剤はマレイミド等を含んでいてもよい。
【0048】
コート層155は、第1の剥離ライナー153よりもガラス転移温度が低くできれば、どのような樹脂により形成してもよい。第1の剥離ライナー153の材質にもよるが、例えば、ウレタン樹脂やウレタンアクリレート樹脂で構成された自己修復材料、及びシリコーン系ゴム材料等により形成することができる。
【0049】
一般的に用いられているPETを基材とする剥離ライナーのガラス転移温度は、69℃程度である。このような剥離ライナーを第1の剥離ライナー153として用いる場合、コート層155のガラス転移温度は、これよりも低い68℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。なお、ガラス転移温度は、JIS K 7121:1987に準じ、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0050】
固体粒子103が粘着剤層151だけでなくコート層155も突き抜けて、第2の面側の端部が埋まってしまうことを防ぐ観点から、コート層155は、硬化処理を行っていない粘着剤層151と比べてガラス転移温度が高いことが好ましい。また、コート層155の貯蔵弾性率は、硬化処理を行っていない粘着剤層151よりも大きいことが好ましい。
【0051】
コート層155は、離型成分を含んでいる。離型成分は、特に限定されないが例えば、フッ素系及びシリコーン系等の離型剤を用いることができる。これらの離型剤は、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0052】
コート層155と粘着剤層151との間の剥離力は、第2の剥離ライナー154と粘着剤層151との間の剥離力よりも大きいことが好ましい。このようにすれば、固体粒子103を第2の面に配置する際に、第1の面側に設けられたコート層155を剥離してしまうような誤操作を生じにくくすることができる。また、コート層155と粘着剤層151との間の剥離力は、コート層155と第1の剥離ライナー153との間の剥離力よりも大きいことが好ましい。このようにすれば、第1の剥離ライナー153を剥離することにより、コート層155も粘着剤層151から剥離することができる。このような離型性を実現する観点から、コート層155表面の水滴接触角は少なくとも90°以上であればよい。
【0053】
第1の剥離ライナー153及び第2の剥離ライナー154は、特に限定されないが例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、及びポリカーボネート等の樹脂フィルムとすることができる。第1の剥離ライナー153及び第2の剥離ライナー154の表面には、離型剤層を設けることもできる。
【0054】
粘着剤層151及びコート層155の膜厚は、固定する固体粒子103の大きさに応じて適宜設定すればよい。例えば、粘着剤層151の膜厚は、固定する固体粒子103の平均一次粒子径をDとすると、0.45D以下であることが好ましい。0.45D以下とすることにより、プレスにより固体粒子3の両端を粘着剤層151から露出させることが容易となる。また、粘着剤層151の余剰部分がプレス機からはみ出しにくくすることもできる。粘着剤層151の膜厚は、0.35D以下であることがより好ましい。0.35D以下とすることにより、固体粒子103の平均粒子径にばらつきがある場合においてもプレス工程後に固体粒子103の両端を粘着剤層151から露出させることが容易となる。
【0055】
固体粒子103の両端を粘着剤層151から露出させるためには、粘着剤層151の膜厚は薄い方がよいが、固体粒子103を埋め込んだ複合膜100の強度を確保する観点からは、0.1D以上が好ましく、0.15D以上がより好ましい。
【0056】
コート層155の膜厚は、固体粒子103の粒子径及び粘着剤層151の膜厚等に応じて適宜選択することができる。例えば、固定する固体粒子103の平均一次粒子径をDとすると、コート層155の膜厚は、好ましくは0.1D以上、より好ましくは0.2D以上、さらに好ましくは0.3D以上とすることができる。コート層155の膜厚をこのように設定することにより、粘着剤層151の第1の面から固体粒子103の端部を突出させることが容易となる。固体粒子103の端部が粘着剤層151の第2の面に埋もれにくくする観点からは、コート層155の膜厚は、好ましくは1.5D以下、より好ましくは1.2D以下、さらに好ましくは1.0D以下、よりさらに好ましくは0.8D以下とすることができる。中でも、プレスの際の温度を低く抑える観点から0.2D以上、1.2D以下が好ましく、プレスの際の加熱を不要とする観点から0.3D以上、0.6D未満とすることがより好ましい。
【0057】
また、安定した品質の複合膜を容易に作製する観点から、粘着剤層151の膜厚をA(μm)、コート層155の膜厚をB(μm)とするとき、0.2≦B/A≦12の関係が成り立っていることが好ましく、0.3≦B/A≦3.5であればより好ましく、0.5≦B/A≦3.0であればさらに好ましい。
【0058】
本実施形態の粘着フィルムは、例えば以下のようにして形成することができる。まず、第1の剥離ライナー153となる樹脂フィルムの一方の面に、コーターを用いてコート層155となる樹脂材料を塗布した後、乾燥させてコート層155を形成する。次に、コート層155の上に粘着剤層151となる樹脂材料をコーターを用いて塗布した後、乾燥させて粘着剤層151を形成する。次に、粘着剤層151の表面に第2の剥離ライナー154を貼り合わせる。第2の剥離ライナー154を貼り合わせた後、数日間エージングを行うことが好ましい。このような形成方法に限らず、例えば、第2の剥離ライナー154の一方の面に粘着剤層151を形成した後、コート層155を形成した第1の剥離ライナー153を粘着剤層151に貼り合わせることもできる。
【0059】
本実施形態の複合膜100は、例えば、
図7に示すような全固体電池200に用いることができる。全固体電池200は、複数の固体粒子103が樹脂膜101に固定された複合膜100と、複合膜100の一方の面に積層された正極層161と、他方の面に積層された負極層171とを有している。
【0060】
全固体電池200は、リチウムイオン二次電池とすることができるが、リチウムイオン一次電池等の他の電池とすることもできる。
【0061】
全固体電池200は、正極層161と、複合膜100と、負極層171とを重ねた積層体を、円筒型、コイン型、角型、フィルム型、及びその他任意の形状に形成することにより作製することができる。フィルム型の全固体電池の場合、正極層161及び負極層171も膜状にしたものを使用し、積層体を適宜折り曲げた状態で収納容器内に収納してもよい。また、正極層161、複合膜100及び負極層171を一つのユニットとし、これらユニットを複数枚直列に接続してもよい。
【0062】
正極層161は、特に限定されず全固体電池において一般に用いられている材料及び構成とすることができる。例えば、正極活物質を含む正極活物質層をアルミ箔等の集電体の表面に形成することにより得ることができる。
【0063】
正極活物質としてはリチウムイオンを可逆的に放出及び吸蔵でき、電子輸送が容易に行える電子伝導度が高い材料を用いることができる。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)、固溶体酸化物(Li2MnO3-LiMO2(M=Co、Niなど))、リチウム-マンガン-ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)、及びオリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO4)等の複合酸化物;ポリアニリン及びポリピロール等の導電性高分子;Li2S、CuS、Li-Cu-S化合物、TiS2、FeS、MoS2、及びLi-Mo-S化合物等の硫化物;硫黄とカーボンの混合物等を用いることができる。これらの正極活物質は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
正極活物質層は、正極活物質同士及び正極活物質と集電体とを結着させる役割を持つバインダーを含んでもよい。バインダーは全固体電池に使用可能な通常のバインダーであれば特に限定されない。例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、及びポリイミド等から選択した1種又は2種以上の混合物とすることができる。
【0065】
正極活物質層は、正極層161の導電性を向上させる観点から、導電助剤を含んでもよい。導電助剤は、全固体電池に使用可能な通常の導電助剤であれば特に限定されない。例えば、アセチレンブラックやケチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンファイバー、黒鉛粉末、及びカーボンナノチューブ等の炭素材料を用いることができる。
【0066】
正極層161には、固体電解質材料が含まれていてもよい。固体電解質材料としては、固体粒子103と同様の材料を用いることができる。
【0067】
負極層171は、特に限定されず全固体電池において一般に用いられている材料及び構成とすることができる。例えば、負極活物質を含む負極活物質層を銅等の集電体の表面に形成することにより得ることができる。負極活物質層の厚さや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0068】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に放出及び吸蔵でき、電子伝導度が高い材料であれば特に限定されない。例えば、黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、及びソフトカーボン等の炭素質材料や、スズ、スズ合金、シリコン、シリコン合金、ガリウム、ガリウム合金、インジウム、インジウム合金、アルミニウム、及びアルミニウム合金等を主体とした合金系材料、ポリアセン、ポリアセチレン、及びポリピロール等の導電性ポリマー、金属リチウム、並びにリチウムチタン複合酸化物(例えばLi4Ti5O12)等を負極活物質として用いることができる。これらの負極活物質は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。負極活物質層は、例示したような負極活物質以外の成分として、固体電解質材料を含んでいてもよい。負極活物質層は、バインダー及び導電助剤等を含んでもよい。
【0069】
実施例を用いて、本発明についてさらに詳細に説明する。以下の実施例は、例示であり、本発明を限定することを意図しない。
【実施例】
【0070】
-粘着フィルムの作製-
市販のウレタン系自己修復材料と市販のシリコーン系の離型剤とを含む塗液を膜厚が50μmのPETフィルム上に塗布し、加熱して硬化させることにより、所定の膜厚のコート層を第1の剥離ライナーの上に形成した。コート層の膜厚は5μm、10μm、20μm、30μm及び50μmとした。
【0071】
第1の剥離ライナーとしたPETフィルムのガラス転移温度は約69℃であり、コート層のガラス転移温度は約-1℃であり、硬化前の粘着剤層のガラス転移温度は約-61℃であった。ガラス転移温度は、JIS K 7121:1987に準じ、示差走査熱量計(DSC)を用いて中間点ガラス転移温度を測定することにより求めた。
【0072】
PETフィルムを基材とする市販の剥離ライナーを第2の剥離ライナーとし、第2の剥離ライナーの離型面にコーターを用いて後硬化型アクリル系粘着剤組成物を塗布し、乾燥させて膜厚が15μmの粘着剤層を形成した。この後、所定の厚さのコート層を形成した第1の剥離ライナーを、コート層側から粘着剤層に貼り合わせて粘着フィルムを作製した。また、比較例としてコート層を形成していない第1の剥離ライナーを粘着剤層に貼り合わせた。コート層及び粘着剤層の膜厚は、JIS K6783に準拠した定圧厚さ測定器(TECLOCK CORPORATION社製「PG-02」)を用いて測定した。
【0073】
-複合膜の作製-
作製した粘着フィルムから第2の剥離ライナーを剥離した後、固体粒子を第2の面に単層となるように配置した。この後、第3の剥離ライナーを第2の面の上に配置し、プレスを行い、固体粒子を粘着剤層内に押し込んだ。固体粒子として、樹脂製の球状粒子の表面にニッケルメッキ及び金メッキがこの順で形成された導電性粒子を用いた。レーザー回折式粒度分布計により測定した固体粒子の平均一次粒径Dは50μmであった。従って、本実施例における粘着剤層の膜厚は0.30Dである。プレス圧力は、プレス圧力は1MPa/cm2、3MPa/cm2、5MPa/cm2及び7MPa/cm2とし、プレス時の温度は23℃、40℃及び60℃とした。
【0074】
この後、照射量を700mJ/cm2として紫外線を照射して粘着剤層を硬化させて樹脂膜とし、複合膜を得た。
【0075】
-複合膜の評価-
形成した複合膜から第3の剥離ライナー及び第1の剥離ライナーを剥離し、目視により両面の光沢の有無を確認した。光沢が失われている面では固体粒子が露出していると判断した。また、複合膜を膜厚方向に切断し、切断面を光学顕微鏡及び電子顕微鏡により観察することにより、固体粒子の露出の有無を判断し、固体粒子の露出状態を指標により表した。目視において光沢が確認され、顕微鏡観察の結果においても粒子が露出していない場合を0、光沢が失われており、粒子の露出が認められる場合を1、光沢が失われており、大部分の粒子が露出している場合を2、光沢が失われており、ほぼ均一に粒子が露出している場合を3として評価した。
【0076】
第1の剥離ライナー及び第3の剥離ライナーを剥離した後、複合膜を2枚の金属電極板の間に挟んでテスター(CUSTOM社製ポケットテスター「CDM-03D」)を用いて両電極間の導通の有無を確認した。
【0077】
プレス温度が40℃でプレス圧力を7MPa/cm2、5MPa/cm2、3MPa/cm2、及び1MPa/cm2とした場合には、コート層の膜厚が5μm(0.1D、B/A=0.33)、10μm(0.2D、B/A=0.67)、20μm(0.4D、B/A=1.3)、30μm(0.6D、B/A=2.0)及び50μm(1.0D、B/A=3.3)のいずれの場合においても、第1の面及び第2の面の両方において固体粒子の端部の露出が認められ、露出状態の指標は1以上であった。露出状態の指標が1以上の場合には、第1の面と第2の面との間に導通が認められ、固体電解質膜又は異方性導電膜として使用可能な状態となっていた。
【0078】
プレス温度が40℃の場合、プレス圧力が5MPa/cm2以上の場合には、いずれの膜厚においても第1の面における露出状態の指標は3となり、非常に良好な露出状態を示した。プレス圧力が3MPa/cm2の場合には、膜厚が5μmの場合に、第1の面における露出状態の指標が低下する傾向が認められたが、固体電解質膜又は異方性導電膜として使用可能な状態を維持できている。プレス圧力が1MPa/cm2の場合には、膜厚が5μm及び10μmの場合に、第1の面における露出状態の指標が低下する傾向が認められたが、固体電解質膜又は異方性導電膜として使用可能な状態を維持できている。
【0079】
一方、第2の面における露出状態の指標は、コート層の膜厚が厚く且つプレス圧力が高くなると、低くなる傾向が認められた。これは、粘着剤層への固体粒子の埋め込みが非常に容易になったことを示しており、固体粒子の埋込性の低下を示すものではない。
【0080】
図8A及び
図8Bには、露出状態の指標が第1の面及び第2の面のいずれにおいても3であった、圧力が5MPa/cm
2で、コート層の膜厚が5μmの場合における第1の面及び第2の面の状態を示す。第1の面においては、突出した固体粒子に沿って覆うように樹脂膜が密着しており、固体粒子の端部は、樹脂膜に覆われずに露出し、端部が樹脂膜から突出している。また、突出した固体粒子の間には凹部が形成されている。第2の面においては、突出した固体粒子の廻りを囲むように、周壁部が形成されている。第2の面においても、固体粒子の端部は、樹脂膜に覆われずに露出し、樹脂膜から突出している。
【0081】
図8C及び
図8Dには、露出状態の指標が第1の面では3であり、第2の面では2であった、圧力が5MPa/cm
2で、コート層の膜厚が20μmの場合における第1の面及び第2の面の状態を示す。第1の面においては、突出した固体粒子に沿って覆うように樹脂膜が密着しており、固体粒子の端部は、樹脂膜に覆われずに露出し、端部が樹脂膜から突出している。また、突出した固体粒子の間には凹部が形成されている。第2の面においては、突出した固体粒子の廻りを囲むように、周壁部が形成されている。コート層の膜厚が20μmの場合にも、固体粒子の端部は、樹脂膜に覆われずに露出しているが、端部が周壁よりも低くなっている粒子も認められた。しかし、第1の面と第2の面との間に十分な導通を確保することができた。
【0082】
一方、コート層を設けていない比較例においては、いずれのプレス圧力においても、第1の面において固体粒子の端部の露出は認められず、露出状態の指標は0であった。
【0083】
図9A及び
図9Bには、コート層を形成していない場合の第1の面及び第2の面の状態を示す。第2の面において、固体粒子の端部は樹脂膜に覆われておらず、露出状態の指標は3となった。しかし、固体粒子はほとんど樹脂膜中に埋まっておらず、固体粒子の周りを囲むような周壁部は存在しない。そのため、固体粒子は樹脂膜に十分に固定されておらず、手で触れると容易に脱落した。一方、第1の面においては、僅かな数の固体粒子だけが、露出している。また、露出している固体粒子においても、樹脂膜が形成する凹部の中に位置しており、端部が樹脂膜から突出しておらず、露出状態の指標は0であった。この場合には、第1の面と第2の面との間に導通を確保できなかった。
【0084】
プレス温度が23℃で、プレス圧力を7MPa/cm2、又は5MPa/cm2とした場合には、コート層の膜厚が5μm、10μm、20μm、30μm及び50μmのいずれの場合においても、第1の面及び第2の面の両方において固体粒子の端部の露出が認められ、露出状態の指標は1以上となった。露出状態の指標が1以上の場合には、第1の面と第2の面との間に導通が認められ、固体電解質膜又は異方性導電膜として使用可能な状態となっていた。いずれのプレス圧力及び膜厚においても、第1の面における露出状態の指標は3となり、非常に良好な露出状態を示した。
【0085】
一方、コート層を設けていない場合には、第1の面における露出状態の指標は0となり、固体粒子の端部は第1の面から露出しておらず、第1の面と第2の面との間の導通は確認できなかった。コート層を設けていない場合、第2の面における露出状態の指標が3であるが、固体粒子は粘着剤層に埋め込まれておらず、第2の面に手を触れると、固体粒子が容易に脱落した。
【0086】
プレス温度が60℃で、プレス圧力を5MPa/cm2とした場合には、コート層155の膜厚が5μm、10μm、20μm、30μm及び50μmのいずれの場合においても、第1の面及び第2の面の両方において露出状態の指標は1以上となり、固体粒子が露出し、固体電解質膜又は異方性導電膜として使用可能な状態となった。いずれの膜厚においても第1の面における露出状態の指標は3となり、非常に良好な露出状態を示した。
【0087】
表1に各実施例及び比較例の評価結果をまとめて示す。
【0088】
【産業上の利用可能性】
【0089】
本開示の粘着フィルムは、固体電解質膜や異方性導電膜等として使用可能な固体粒子を固定した複合膜を容易に製造でき、電池分野や電子機器分野において有用である。
【符号の説明】
【0090】
100 複合膜
101 樹脂膜
103 固体粒子
111 第1の面
112 第2の面
115 凹部
116 周壁部
150 粘着フィルム
151 粘着剤層
153 第1の剥離ライナー
154 第2の剥離ライナー
155 コート層
156 第3の剥離ライナー
161 正極層
171 負極層
200 全固体電池