(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】照射線量推定装置および照射線量推定方法
(51)【国際特許分類】
G01T 7/00 20060101AFI20240328BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20240328BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20240328BHJP
G01T 1/29 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
G01T7/00 A
A61N5/10 Q
A61N5/10 H
G21K5/04 A
G01T1/29 C
(21)【出願番号】P 2022026417
(22)【出願日】2022-02-24
【審査請求日】2023-03-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究 ERATO「片岡ラインX線ガンマ線イメージング」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】片岡 淳
(72)【発明者】
【氏名】細淵 真那
(72)【発明者】
【氏名】横川 広歩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 将吾
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08632448(US,B1)
【文献】特開2010-032419(JP,A)
【文献】特開2016-176948(JP,A)
【文献】特開2021-043081(JP,A)
【文献】特開平05-281360(JP,A)
【文献】特表2009-526213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
A61M 36/10-36/14
A61N 5/00-5/10
G21K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に照射され内部で散乱し外部に漏出した粒子線を検出する粒子線検知センサと、
前記粒子線検知センサに検出された粒子線をもとに、前記被験者に照射された粒子線の照射線量を算出する照射線量算出部と、
前記粒子線検知センサの位置情報を取得する位置情報取得部とを有し、
前記照射線量算出部は、前記照射線量を算出する際に、前記位置情報を反映させ、
前記位置情報取得部は、
前記粒子線検知センサの設置位置に関連づけられたマーカと、
前記マーカをセンシングして前記粒子線検知センサの前記位置情報を特定するマーカセンシング部と、を有する照射線量推定装置。
【請求項2】
前記粒子線検知センサは、取得した粒子線の量を電流に変換して前記照射線量算出部に出力する、請求項1に記載の照射線量推定装置。
【請求項3】
前記粒子線検知センサは、粒子線を取得して光に変換する粒子線光変換部と、前記粒子線光変換部で変換された光を電流に変換して出力する光センサと、を有する請求項2に記載の照射線量推定装置。
【請求項4】
前記粒子線光変換部と前記光センサとは一体に設けられている、請求項3に記載の照射線量推定装置。
【請求項5】
前記粒子線検知センサは、粒子線を取得して直接電流に変換して出力する粒子線電流変換部を有する請求項2に記載の照射線量推定装置。
【請求項6】
前記粒子線検知センサは複数設けられており、
前記照射線量算出部は、複数の前記粒子線検知センサそれぞれの検出結果と、前記位置情報とをもとに、前記照射線量の空間分布を算出する、請求項
1から5までのいずれか1項に記載の照射線量推定装置。
【請求項7】
所定のアルゴリズムまたは電流値と照射線量の空間分布とを関連付けたデータを用いて機械学習された学習済みモデルを保持するモデル保持部を有し、
前記照射線量算出部は、前記粒子線を検出した位置と、検出した粒子線の量とからなるデータセットを、前記アルゴリズムまたは前記学習済みモデルに入力して前記照射線量の前記空間分布を算出する、請求項1から
6までのいずれか1項に記載の照射線量推定装置。
【請求項8】
前記被験者に前記粒子線を照射したときの前記粒子線の入射位置および照射量を取得する入射粒子取得部を有し、
前記照射線量算出部は、前記入射粒子取得部が取得した前記入射位置および前記照射量を反映させて、前記照射線量を算出する、請求項1から
7までのいずれか1項に記載の照射線量推定装置。
【請求項9】
前記照射線量算出部による前記照射線量の算出結果をリアルタイムで表示出力する表示出力部を有する、請求項1から
8までのいずれか1項に記載の照射線量推定装置。
【請求項10】
被験者が装着する胴衣を更に有し、
前記粒子線検知センサが前記胴衣に取り付けられる、請求項1から
9までのいずれか1項に記載の照射線量推定装置。
【請求項11】
被験者に照射され内部で散乱し外部に漏出した粒子線を検出する粒子線検知センサと、
前記粒子線検知センサに検出された粒子線をもとに、前記被験者に照射された粒子線の照射線量を算出する照射線量算出部と、
被験者が装着する胴衣と、
を有し、
前記粒子線検知センサが前記胴衣に取り付けられる、照射線量推定装置。
【請求項12】
前記粒子線検知センサは、取得した粒子線の量を電流に変換して前記照射線量算出部に出力する、請求項11に記載の照射線量推定装置。
【請求項13】
前記粒子線検知センサは、粒子線を取得して光に変換する粒子線光変換部と、前記粒子線光変換部で変換された光を電流に変換して出力する光センサと、を有する請求項12に記載の照射線量推定装置。
【請求項14】
前記粒子線光変換部と前記光センサとは一体に設けられている、請求項13に記載の照射線量推定装置。
【請求項15】
前記粒子線検知センサは、粒子線を取得して直接電流に変換して出力する粒子線電流変換部を有する請求項12に記載の照射線量推定装置。
【請求項16】
前記粒子線検知センサの位置情報を取得する位置情報取得部を有し、
前記照射線量算出部は、前記照射線量を算出する際に、前記位置情報を反映させる、請求項11から15までのいずれか1項に記載の照射線量推定装置。
【請求項17】
前記粒子線検知センサは複数設けられており、
前記照射線量算出部は、複数の前記粒子線検知センサそれぞれの検出結果と、前記位置情報とをもとに、前記照射線量の空間分布を算出する、請求項16に記載の照射線量推定装置。
【請求項18】
所定のアルゴリズムまたは電流値と照射線量の空間分布とを関連付けたデータを用いて機械学習された学習済みモデルを保持するモデル保持部を有し、
前記照射線量算出部は、前記粒子線を検出した位置と、検出した粒子線の量とからなるデータセットを、前記アルゴリズムまたは前記学習済みモデルに入力して前記照射線量の前記空間分布を算出する、請求項11から17までのいずれか1項に記載の照射線量推定装置。
【請求項19】
前記被験者に前記粒子線を照射したときの前記粒子線の入射位置および照射量を取得する入射粒子取得部を有し、
前記照射線量算出部は、前記入射粒子取得部が取得した前記入射位置および前記照射量を反映させて、前記照射線量を算出する、請求項11から18までのいずれか1項に記載の照射線量推定装置。
【請求項20】
前記照射線量算出部による前記照射線量の算出結果をリアルタイムで表示出力する表示出力部を有する、請求項11から19までのいずれか1項に記載の照射線量推定装置。
【請求項21】
被験者の内部に粒子線を照射する照射工程と、
前記被験者の外部に漏れた粒子線を検知する漏洩粒子線検知工程と、
前記漏洩粒子線検知工程において検出した粒子線をもとに照射された粒子線の照射線量を算出する照射線量算出工程と、
を有
し、
前記漏洩粒子線検知工程は、
前記粒子線を検出する
粒子線検知センサの位置情報を取得する位置情報取得工程を有し、
前記照射線量算出工程は、前記照射線量を算出する際に、前記位置情報を反映させ、
前記位置情報取得工程は、
前記粒子線検知センサの設置位置に関連づけられたマーカをセンシングして前記粒子線検知センサの前記位置情報を特定するマーカセンシング工程を有する、照射線量推定方法。
【請求項22】
前記漏洩粒子線検知工程は、検知した粒子線の量を電流値に変換して出力する、請求項
21に記載の照射線量推定方法。
【請求項23】
前記漏洩粒子線検知工程は、複数の位置で前記外部に漏れた粒子線を検出し、
前記照射線量算出工程は、前記粒子線を検出した位置の位置情報と、検出した粒子線量とからなるデータセットをもとに、前記照射線量の空間分布を算出する、請求項
21または
22に記載の照射線量推定方法。
【請求項24】
前記照射線量算出工程は、前記粒子線を検出した前記位置の位置情報と、検出した電流値とからなるデータセットをアルゴリズム計算、もしくは前記電流値と前記位置情報とを関連付けたデータを用いて機械学習された学習済みモデルに入力することにより前記照射線量の前記空間分布を算出する、請求項
23に記載の照射線量推定方法。
【請求項25】
前記被験者に前記粒子線を照射したとの前記粒子線の入射位置および照射量を取得する入射粒子取得工程を有し、
前記照射線量算出工程は、前記入射粒子取得工程が取得した前記入射位置および前記照射量を反映させて、前記照射線量を算出する、請求項
21から
24までのいずれか1項に記載の照射線量推定方法。
【請求項26】
前記照射線量算出工程により算出した前記照射線量をリアルタイムで表示出力する表示出力工程を有する、請求項
21から
25までのいずれか1項に記載の照射線量推定方法。
【請求項27】
被験者の内部に粒子線を照射する照射工程と、
前記被験者の外部に漏れた出た粒子線を検知する漏洩粒子線検知工程と、
前記漏洩粒子線検知工程において検出した粒子線をもとに照射された粒子線の照射線量を算出する照射線量算出工程と、
を有し、
前記漏洩粒子線検知工程は、被験者が装着する胴衣に取り付けられた粒子線検知センサが前記粒子線を検知する照射線量推定方法。
【請求項28】
前記漏洩粒子線検知工程は、検知した粒子線の量を電流値に変換して出力する、請求項27に記載の照射線量推定方法。
【請求項29】
前記漏洩粒子線検知工程は、複数の位置で前記外部に漏れた粒子線を検出し、
前記照射線量算出工程は、前記粒子線を検出した位置の位置情報と、検出した粒子線量とからなるデータセットをもとに、前記照射線量の空間分布を算出する、請求項27または28に記載の照射線量推定方法。
【請求項30】
前記照射線量算出工程は、前記粒子線を検出した前記位置の位置情報と、検出した電流値とからなるデータセットをアルゴリズム計算、もしくは前記電流値と前記位置情報とを関連付けたデータを用いて機械学習された学習済みモデルに入力することにより前記照射線量の前記空間分布を算出する、請求項29に記載の照射線量推定方法。
【請求項31】
前記被験者に前記粒子線を照射したとの前記粒子線の入射位置および照射量を取得する入射粒子取得工程を有し、
前記照射線量算出工程は、前記入射粒子取得工程が取得した前記入射位置および前記照射量を反映させて、前記照射線量を算出する、請求項27から30までのいずれか1項に記載の照射線量推定方法。
【請求項32】
前記照射線量算出工程により算出した前記照射線量をリアルタイムで表示出力する表示出力工程を有する、請求項27から31までのいずれか1項に記載の照射線量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射線量推定装置および照射線量推定方法に関し、特に、被験者に照射された粒子線を検出する照射線量推定装置および照射線量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの治療は、大きく分けて「外科的手術」、「抗がん剤による化学療法」および「放射線治療」の3つに分けられる。放射線治療は、QOL(Quality of Life)が高い治療法として近年ますます注目を集めている。なかでも、陽子線や重粒子線等の粒子線を患部に照射する粒子線治療は先進医療の代表であり、年間8000件もの治療が実施されている。一方で、粒子線は正確に照射しないと正常組織にまで予期せぬダメージを与える可能性があり、高精度な照射が求められる。そこで、治療前の計画段階において、CTやMRIから得られる生体内情報を活用したシミュレーション、さらには簡易モデルを用いた実測による線量推定技術が提案されている(たとえば特許文献1~4参照)
【0003】
特許文献1に開示の技術では、被験者に見立てた液体シンチレータに粒子線を照射して、液体シンチレータの発光をカメラで計測し、CTの原理によりその3次元分布を再現することで、治療計画における線量分布を可視化している。
特許文献2に開示の技術では、被験者の体内に入射前の粒子線を、多層の物質で厚みを変えて多数回測定することで、実際に被験者の体内に照射された粒子線の分布を計算している。
特許文献3に開示の技術では、特許文献2と同様に被験者の体内に入射前の粒子線を測定して、特に粒子線の深さ方向線量分布を計算している。
特許文献4に開示の技術では、治療計画の一環として粒子ビームの深度分布を測定している。上記はいずれも、治療前の計画段階で行うものであり、治療中に照射線量を実測する技術ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-79755号公報
【文献】特開2010-32419号公報
【文献】特開2012-2772号公報
【文献】特開2014-124407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
治療計画とあわせ、粒子線の照射後(すなわち治療後)においては、全く異なるアプローチで事後の照射線量推定が行われる。入射粒子線は体内にある酸素や炭素と反応し、多数の陽電子放出核種を生成する。これら陽電子放出核種は数十分程度の寿命を持ち、最終的に511keVのガンマ線を対方向に放出するため、現行の陽電子放射断層撮影装置(以下、「PET装置」という)を用いて可視化することができる。一方で、生成された核種は時間経過とともに体内を移動してしまう(ウォッシュアウト効果)。推定精度の向上のため、照射中かつリアルタイムで体内から生ずる様々なガンマ線(511keVに限らない即発ガンマ線)の可視化など、あらゆる技術が試みられているが、いまだ実用化には至っていない。さらに、より根本的な課題として、特に511keVガンマ線の空間分布は粒子線による実際の線量分布とは大きく掛け離れていることが知られている。これは次のような理由による。すなわち、粒子線治療は粒子線が体内で起こす電離作用により高い生物学的効果をもたらすが、ガンマ線は粒子線と体内元素が偶発的に起こす核反応で生じるため、本来目的とする電離作用とは何ら関係がない。両者に物理的な因果関係が一切ないため、上述のようにガンマ線の発生分布と、粒子線がもたらす線量付与の空間分布には大きな違いが生じる。
また、PET装置自体が10億円程度の高額装置であり、広く一般に普及する技術にはなっておらず新たな技術が求められていた。
【0006】
本発明は以上のような状況に鑑みなされたものでありその目的は、照射された粒子線の線量を治療中でも精度良く検出する技術を提供することにある。また別の観点では、そのような技術をコストを抑えて実現する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
被験者に照射され内部で散乱し外部に漏出した粒子線を検出する粒子線検知センサと、
前記粒子線検知センサに検出された粒子線をもとに、前記被験者に照射された粒子線の照射線量を算出する照射線量算出部と、
を有する照射線量推定装置が提供される。
本発明によれば、
被験者の内部に粒子線を照射する照射工程と、
前記被験者の外部に漏れた出た粒子線を検知する漏洩粒子線検知工程と、
前記漏洩粒子線検知工程において検出した粒子線をもとに照射された粒子線の照射線量を算出する照射線量算出工程と、
を有する照射線量推定方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、照射された粒子線と同じ線種の粒子線を検出するため、照射された粒子線の線量を精度良く検出する技術を提供できる。また別の観点では、そのような技術をコストを抑えて実現する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る粒子線照射システムによる照射線量空間分布の算出手順を説明する図である。
【
図2】実施形態に係る粒子線照射システムの概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】実施形態に係るファントムに粒子線(陽子線)を照射したときの実際の線量分布と電流測定値の例を示した図である。
【
図4】実施形態に係るファントムに粒子線(陽子線)を照射したときの実際の照射線量空間分布の例を示した図である。
【
図5】実施形態に係る、
図4の照射線量空間分布に対応した、機械学習モデルにより推定した照射線量空間分布の例を示した図である。
【
図6】実施形態に係るマーカを有する粒子線検知センサの概略構成を示す図である。
【
図8】実施形態に係る照射線量空間分布を算出して表示させる処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
本実施形態を図面を参照して説明する。
図1は本実施形態に係る粒子線照射システム100による照射線量空間分布の算出手順を説明する図である。
図2は粒子線照射システム100の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0011】
本実施形態の概要は次の通りである。
(1)粒子線治療中に、粒子線照射装置90から照射された粒子線(以下、便宜的に「入射粒子線X1」という)が被験者99の体内に入射し体内で散乱して体外に漏れた出た粒子線(以下、便宜的に「散乱粒子線X2」という)そのものを粒子線検知センサ2で検知することで、照射線量を把握する。特に、治療で用いるのと同じ線種である散乱粒子線を用いることで、上記の間接的な核反応を通じて生ずるガンマ線よりも正確な線量分布推定が可能となる。粒子の散乱断面積は、粒子のエネルギーEに対して ∝ 1/E2 で変化する。粒子線治療では、粒子の止まり際ほど線量付与が大きく、ブラッグ・ピーク(BP)とよばれる特徴的な線量分布を形成する。つまり、BP付近の低速(低エネルギー)な粒子ほど、より多くの散乱を体内で起こすことになり、散乱線の分布を抑えることで線量分布を良く反映することが期待される。
なお、実際の治療では、治療計画段階で患者99ごとにCT画像やMRI画像を取得することから、それらを生体内情報として参照し初期情報として用いてもよい。そのような処理をすることで、より正確な線量分布推定を行うことができる。
(2)粒子線検知センサ2はセンサ値(散乱粒子線X2の量)を電流値として照射線量算出部3に出力する。
(3)被験者99は、粒子線検知センサ2を複数取り付けた胴衣8を装着する。照射線量算出部3は、粒子線検知センサ2が検出した散乱粒子線X2(より具体的には電流値)および粒子線検知センサ2の位置情報をもとに照射線量の空間分布(以下、「照射線量空間分布」ともいう)を可視化して、ほぼリアルタイムで表示する。なお、照射線量空間分布の精度向上の観点から入射粒子線X1を検出する粒子線検知センサ2Aが設けられ、入射粒子線X1およびその位置情報が利用される。
(4)照射線量空間分布は、アルゴリズム計算またはディープラーニング等の機械学習(AI学習)により得られた学習済みモデルに対して検出した電流値および位置情報からなるデータセットを入力することで算出する。
【0012】
<基本技術>
まず、
図3~5を参照して、散乱粒子線を用いた照射線量空間分布の算出の検証結果を示す。
図3は、ファントムに粒子線(陽子線)を照射したときの実際の線量分布と電流測定値の例を示した図である。放射線医学総合研究所のサイクロトロン施設を用いて、1次元の装置で概念検証を行った。センサ(粒子線検知センサ2)としては薄板プラスチックシンチレータをMPPC(Multi-pixel Photon Counter)に光学接着し、出力電流をリアルタイムで読みだした。ここでは、70MeV陽子線をPMMA(Poly Methyl Methacrylate)フォームに打ち込んだ場合の散乱粒子線(散乱陽子線)による1次元電流分布および粒子線の線量分布を示している。ピーク位置(すなわちブラックピークの位置)がよく一致していることが分かる。グラフ形状は、実測値がややなまっているが、これは機械学習により補正可能であると想定し、次の
図4および5に示す機械学習による補正の可能性を検証した。機械学習を用いた理由は次の通りである。すなわち、散乱粒子線の経路に沿って非常に多くの相互作用が生じ、照射線量空間分布を算出するにあたり適用すべきアルゴリズムの推定が非常に困難である。そこで、学習ベースで推定する機械学習を採用した。
【0013】
図4はある条件下における正しい照射線量空間分布を示している。
図5は、電流値と位置情報とからなるデータセットを用いて得られた機械学習モデルに、
図4に対応する照射線量空間分布に対応する電流値と位置情報を入力して得られた照射線量空間分布を示している。
図4および
図5において、上段は2次元の照射線量空間分布、下段はこれを粒子線の進行方向に射影した1次元の照射線量分布を示している。
図4および
図5から分かるように、両者の照射線量空間分布は非常に類似しており、機械学習を用いることで照射線量空間分布を高い精度で推定できる。
以下、照射線量推定装置1を有する粒子線照射システム100の具体的な構成・処理を説明する。
【0014】
<粒子線照射システム100の概要>
図1や
図2に示すように、粒子線照射システム100は、粒子線照射装置90と、照射線量推定装置1とを有する。なお、粒子線照射装置90と照射線量推定装置1は、異なる装置として例示しているが、一つの装置として構成されてもよいし、それぞれが複数の装置として構成されてそれらがネットワークを介して接続されてもよい。
【0015】
被験者99は、粒子線検知センサ2を複数取り付けたコルセット型の胴衣8を装着する。粒子線検知センサ2の位置情報は、各粒子線検知センサ2に取り付けられているマーカ41(ARマーカ)を撮影・解析することで、粒子線照射前に、予め3次元データとして把握されている。
【0016】
粒子線照射装置90から出力された入射粒子線X1は、被験者99の体内に入射し、体内で散乱して体外に散乱粒子線X2として漏出する。粒子線検知センサ2は、散乱粒子線X2を検出し、電流値をセンサ値として照射線量算出部3に出力する。
【0017】
照射線量算出部3は、電流値と位置情報のデータを、所定のアルゴリズムを用いて計算する、または機械学習モデルに入力することで、被験者99に照射された粒子線の照射線量空間分布を算出して、リアルタイムで表示出力する。
なお、実際の治療では、治療計画段階で患者99ごとにCT画像やMRI画像を取得することから、それらを生体内情報として参照し初期情報として用いてもよい。そのような処理をすることで、より正確な治療線量分布推定を行うことができる。
以下、詳細に説明する。
【0018】
<粒子線照射装置90>
粒子線照射装置90は、公知の技術を用いることができ、アイソセンタP1に対して、被験者99の患部の位置を一致させ、粒子線を照射する。粒子線は、例えば、陽子線、中性子線、又は重粒子線である。
粒子線照射装置90は、粒子線を生成する加速器(例えばシンクロトロンや線形加速器等)、粒子線の方向、強度、およびサイズ等を調整する粒子線ガイド、粒子線を患者の照射すべき部位に向けて出射する照射ノズル、および粒子線照射装置90全体を制御する照射制御部を含む。
加速器で生成された粒子線は、粒子線ガイドにより照射ノズルに導かれる。照射ノズルは、粒子線治療室内に設けられ、粒子線ガイドからの粒子線は被験者99の患部へ向けて出射される。
【0019】
<照射線量推定装置1>
照射線量推定装置1は、主制御部11と、粒子線検知センサ2と、照射線量算出部3と、位置情報取得部4と、モデル保持部5と、表示出力部6と、入射粒子取得部7と、胴衣8と、データ記憶部12と、入出力IF13とを有する。
主制御部11は、照射線量推定装置1の各構成要素を統括的に制御する。
入出力IF13は、粒子線照射装置90や粒子線検知センサ2、2A、その他の外部機器を接続する。
【0020】
<粒子線検知センサ2>
粒子線検知センサ2は、被験者99に照射されて内部で散乱し外部に漏出した散乱粒子線X2を検出する。粒子線検知センサ2は、被験者99が装着する胴衣8の複数箇所に取り付けられ、取得した散乱粒子線X2を電流に変換して照射線量算出部3にリアルタイムで出力する。また、粒子線検知センサ2から出力されたデータ(電流値)は、データ記憶部12に粒子線検知センサ2の位置情報と関連づけて記憶される。すなわち、各粒子線検知センサ2から出力された電流値と位置情報との組からなるデータセットがデータ記憶部12に保存される。なお、粒子線検知センサ2の設置数や設置位置は、照射線量空間分布の精度、実際の処理負荷、物理的な設置スペース、患部(アイソセンタP1)の位置等を考慮して適宜選択される。
【0021】
図6は、マーカ41が取り付けられている粒子線検知センサ2の概略構成を示す図である。図視のように、粒子線検知センサ2は、粒子線光変換部21と、光センサ22とを有し、それらは重ね合わせて光学接着により一体に設けられた構成となっている。
【0022】
粒子線光変換部21は、例えば、プラスチックシンチレータであって、散乱粒子線X2を取得して光に変換する。すなわち、粒子線光変換部21は、散乱粒子線X2が入射するとそのエネルギーを吸収し内部の電子が基底状態から励起状態に移動したときに、その電子が元の安定な状態に戻る際、そのエネルギーを可視光や紫外線光として出力する。
【0023】
光センサ22は、例えば、MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)であって、粒子線光変換部21で変換された光をさらに電流に変換して、電流値を照射線量算出部3に出力する。MPPCは、複数のガイガーモードAPD(Avalanche Photodiode)のピクセルから成り、常温で使用できる光半導体素子である。MPPCは、低電圧動作で電磁ノイズや外部磁場の影響を受けにくい小型の光半導体素子という特徴から、胴衣8に装着されて使用される粒子線検知センサ2(より具体的には光センサ22)に好適である。
【0024】
粒子線検知センサ2は、上記の構成に限る趣旨では無く、散乱粒子線X2を直接検出して電流として出力する装置であればよい。例えば、光センサとしてMPPCの代わりに、アバランシェ・フォトダイオード(APD)やフォトダイオード(PD)を用いても良い。また、粒子線検知センサ2として、それ自体が粒子線に感度があり直接電流に変換して出力するフォトダイオードやSSD(表面障壁型検出器)などの粒子線電流変換型センサ(粒子線電流変換部)が胴衣8に取り付けられて使用されてもよい。
【0025】
なお、粒子線検知センサ2には、粒子線検知センサ2の取り付け位置の情報(すなわち位置情報)を検知するために用いられるマーカ41が取り付けられている。マーカ41をセンシングして粒子線検知センサ2の位置情報を取得するための構成・処理については後述する。
【0026】
<照射線量算出部3>
照射線量算出部3は、粒子線検知センサ2から取得した散乱粒子線X2の線量、より具体的には散乱粒子線X2のエネルギーに対応した電流値および粒子線検知センサ2の位置情報からなるデータをもとに、照射線量空間分布を算出する。ここでは、照射線量算出部3は、モデル保持部5の所定のアルゴリズムまたは学習済みモデルにデータを入力することで、照射線量空間分布を算出する。なお、照射線量空間分布を算出する際に、粒子線照射装置90から出力された入射粒子線X1の線量と入射位置P2とのデータとが反映されてもよい。入射粒子線X1の照射量と入射位置P2は、入射位置P2の取り付けられた粒子線検知センサ2Aおよびマーカ41Aにより得られる。
【0027】
<モデル保持部5(アルゴリズム計算、機械学習モデル)>
モデル保持部5は、アルゴリズムや電流値と照射線量の空間分布とを関連付けたデータを用いて機械学習(AI学習)された学習済みモデルを保持する。アルゴリズム計算では、データにある単純な相関や経験則から、おおまかな照射線量分布を計算することができる。より高度な線量推定には、機械学習を用いることが望ましい。学習済みモデルの作成方法は、公知の機械学習の技術を用いることができ、教師あり学習、自己教師あり学習、教師無し学習などいずれの手法を用いてもよい。モデル保持部5自体が機械学習の機能を有して学習済みモデルを生成もよいし、他の装置で機械学習されて生成されてモデル保持部5に保存されてもよい。粒子線照射装置90から出力された入射粒子線X1と入射位置P2とのデータを用いる場合には、そのようなデータを用いて機械学習された学習済みモデルが用いられる。
【0028】
<位置情報取得部4>
位置情報取得部4は、胴衣8に取り付けられた粒子線検知センサ2の位置情報を取得する。具体的には、位置情報取得部4は、マーカ41と、マーカセンシング部42とを有し、マーカ測位技術により粒子線検知センサ2の位置情報取得する。マーカ測位技術により位置情報取得処理は、公知の技術を用いることができる。
【0029】
マーカ41は、バーコードや2次元コードの様なパターン画像からなるAR(Augmented Reality)マーカである。
図7にマーカ41の例を示す。
【0030】
マーカセンシング部42は、カメラおよび画像処理装置を有し、胴衣8に取り付けられているマーカ41の画像を複数方向から撮影し、各マーカ41の3次元空間上の配置(すなわち位置情報)を取得する。これによって、それぞれのマーカ41が取り付けられている粒子線検知センサ2の3次元空間上の配置を把握できる。算出された各粒子線検知センサ2の位置情報および入射位置P2は、データ記憶部12に記録される。
【0031】
なお、粒子線検知センサ2の位置情報の検出手法は、上記のマーカ測位技術に限らず、高速点滅パターンを計測する可視光測位技術や、無線を用いた測位技術を用いることができる。また、入射位置P2の算出は、位置情報取得部4のマーカセンシング部42がマーカ41を検出して求める方法に限らず、粒子線照射装置90が粒子線を照射する際に、粒子線照射装置90に備わるアイソセンタP1を合わせるための装置が用いられてもよい。
【0032】
<表示出力部6>
表示出力部6は、照射線量算出部3による照射線量の算出結果をリアルタイムで出力する。算出結果の出力態様は、例えば照射線量空間分布を3次元や2次元のカラー画像として表示してもよいし、単に数値データとして表示してもよい。
【0033】
<入射粒子取得部7>
入射粒子取得部7は、被験者99に入射する入射粒子線X1の照射量および入射位置P2を取得する。入射粒子線X1の照射量としては、胴衣8の治療計画で想定されている入射位置P2に粒子線検知センサ2Aを取り付けて取得してもよいし、粒子線照射装置90から入射粒子線X1として設定された照射量を取得してもよい。粒子線検知センサ2Aを用いる場合、マーカセンシング部42がそのマーカ41Aの位置情報、すなわち照射位置を算出し、データ記憶部12に記録される。
【0034】
<照射線量推定方法>
図8のフローチャートを参照して、粒子線照射システム100による照射線量推定方法について説明する。
【0035】
<位置情報取得工程(S10)>
粒子線照射装置90から入射粒子線X1を照射する前段階として、被験者99に胴衣8を装着させ、胴衣8に取り付けられている粒子線検知センサ2の位置情報を取得する。具体的には、胴衣8を装着している被験者99をマーカセンシング部42のカメラで複数方向から撮影し、取得した画像を解析して、全ての粒子線検知センサ2の位置情報を特定し、データ記憶部12に記憶する。なお、被験者99に入射する入射粒子線X1の照射量と入射位置P2の位置情報を利用する場合は、粒子線検知センサ2Aに取り付けられているマーカ41Aの位置情報も同様にして取得される。
【0036】
<照射工程(S11)>
位置情報取得工程(S10)により粒子線検知センサ2、2Aの位置情報が確定し、被験者99を入射粒子線X1を照射するための所定位置に配置すると、粒子線照射装置90から被験者99のアイソセンタP1に向けて入射粒子線X1が照射される。
【0037】
<入射粒子取得工程(S12)>
入射粒子取得部7は、入射位置P2の粒子線検知センサ2Aから入射粒子線X1の照射量、すなわちエネルギーを電流値として取得して、入射位置P2の位置情報と関連づけてデータ記憶部12に記憶する。
<漏洩粒子線検知工程S13>
胴衣8に取り付けられている粒子線検知センサ2は、被験者99の体内で散乱して体外に漏れ出た散乱粒子線X2を検知し線量、より具体的には散乱粒子線X2のエネルギーに対応した電流値を照射線量算出部3に出力する。照射線量算出部3は、各粒子線検知センサ2の電流値とそれら粒子線検知センサ2に対応した位置情報とを関連づけて、モデル保持部5に投入するデータセットを準備する。
【0038】
<照射線量算出工程S14>
照射線量算出部3は、モデル保持部5に記憶されている所定のアルゴリズムまたは学習済みモデルに電流値と位置情報とからなるデータセットを入力することで照射線量空間分布を算出する。
【0039】
<表示出力工程S15>
照射線量算出部3によって照射線量空間分布が算出されると、表示出力部6は、照射線量空間分布を例えば3次元でリアルタイムで表示する。また、算出された照射線量空間分布は、データ記憶部12に記憶され、必要に応じて呼び出されて表示される。
【0040】
<特徴・効果のまとめ>
以上、本実施形態の特徴・効果を簡単にまとめると次の通りである。
(1)本実施形態の照射線量推定装置10は、
被験者に照射され内部で散乱して外部に漏出した粒子線を検出する粒子線検知センサ2と、
粒子線検知センサ2により検出された粒子線をもとに、被験者99に照射された粒子線の照射線量を算出する照射線量算出部3と、
を有する。
従来であれば、照射線量の算出は、PET装置等のように実際に照射した粒子線とは異なるガンマ線を用いたオフライン処理が必要であり、実際の照射線量分布と類似性が低くなるという課題があった。しかし、本実施形態では、ガンマ線ではなく、照射した粒子線が被験者99の体内で散乱して体外に漏れた粒子線(散乱粒子線X2)をセンシングする。すなわち、治療の線種と同じ粒子をほぼリアルタイムで計測するため、迅速かつ正確に測定できる。
(2)粒子線検知センサ2は、粒子線(散乱粒子線X2)を取得して取得した粒子線の線量、より具体的にはエネルギーを電流に変換して照射線量算出部3に出力する。
すなわち、粒子線検知センサ2は、センシング結果を取り扱いが容易な電流値として照射線量算出部3に対して常時出力できる。その結果、照射線量算出部3は、照射線量の算出処理が容易であり、算出結果の出力まで短時間で、より具体的にはリアルタイムで行うことができる。
(3)粒子線検知センサ2は、粒子線を取得して光に変換する粒子線光変換部21と、粒子線光変換部21で変換された光を電流に変換して出力する光センサ22と、を有する。
粒子線光変換部21として例えばプラスチックシンチレータ、光センサ22としてMPPCを用いることができ、高精度で小型なセンサを安価に実現することができる。
(4)粒子線光変換部21と光センサ22とは一体に設けられている。
薄型のプラスチックシンチレータとMPPCとを重ね合わせて一体とし、電流読み出しを採用することで、粒子線検知センサ2を非常に小型にすることができ、胴衣8への取り付けが容易であり、また交換自体、取り付け位置の調整も容易である。
(5)粒子線検知センサ2は、粒子線を取得して直接電流に変換して出力する粒子線電流変換部を有する。すなわち、シンチレータ等の粒子線光変換部21とMPPC等の光センサ22とからなる構成の代わりに、粒子線に反応して直接電流を出力するフォトダイオードやSSD(表面障壁型検出器)などの粒子線電流変換型センサ(粒子線電流変換部)が胴衣8に取り付けられて使用されてもよい。
(6)粒子線検知センサ2の位置情報を取得する位置情報取得部4を有し、
照射線量算出部3は、照射線量を算出する際に、位置情報を反映させる。
(7)粒子線検知センサ2は複数設けられており、
照射線量算出部3は、複数の粒子線検知センサ2それぞれの検出結果と位置情報とをもとに、照射線量空間分布を算出する。
複数の粒子線検知センサ2の出力(すなわち電流値)とそれらの位置情報をもとにして照射線量空間分布を算出するため、照射線量空間分布の精度を高めることができる。
(8)位置情報取得部4は、
粒子線検知センサ2の設置位置に関連づけられたマーカ41と、
マーカ41をセンシングして粒子線検知センサ2の位置情報を特定するマーカセンシング部42と、
を有する。
ARマーカを撮影し位置情報を解析する技術が市場に導入されており、そのような技術を用いることで、リアルタイムで照射線量空間分布を表示する粒子線照射システム100を低コストで実現できる。
(9)所定のアルゴリズムまたは電流値と照射線量の空間分布とを関連付けたデータを用いて機械学習された学習済みモデルを保持するモデル保持部5を有し、
照射線量算出部3は、粒子線を検出した位置と、検出した粒子線量とからなるデータセットを、所定のアルゴリズムまたは学習済みモデルに入力して照射線量の空間分布を算出する。
機械学習を用いて照射線量空間分布を算出するため、最適なモデル化が容易である。また、多様な粒子線検知センサ2の配置に対応したモデル化が可能である。散乱粒子線X2は、粒子線検知センサ2までの経路上で非常に多くの相互作用が生じ、照射線量空間分布を得るための単純なアルゴリズムの構築が難しいが、その場合でも機械学習による学習済みモデルを用いることで、そのような懸念を排除し、精度の高い照射線量空間分布の算出が可能となる。また、データの蓄積とともに学習済みモデルを更新でき、常に最適な学習済みモデルを利用することができる。
(10)被験者99に粒子線を照射したときの粒子線の入射位置P2および照射量を取得する入射粒子取得部7を有し、
照射線量算出部3は、入射粒子取得部7が取得した入射位置および照射量を反映させて、照射線量空間分布を算出する。
被験者99の体内に照射された粒子線の照射量と入射位置とが反映させるため、照射線量算出部3が算出する照射線量空間分布の精度を向上させることができる。
(11)照射線量算出部3による照射線量の算出結果をリアルタイムで表示出力する表示出力部6を有する。リアルタイムで照射線量の算出結果、特に照射線量空間分布を表示できるため、粒子線治療の最適化が可能である。すなわち、従来であれば、粒子線を照射後にオフラインで照射線量空間分布を推定する必要があった。しかし、ほぼリアルタイムで照射線量空間分布を把握できるため、粒子線の照射を無駄なく最適な位置に照射できる。
(12)被験者99が装着する胴衣8を更に有し、
粒子線検知センサ2が胴衣8に取り付けられる。
粒子線検知センサ2を取り付けた胴衣8を装着すればよく、ガントリー型装置のように大がかりになることもなく、粒子線照射システム100の導入が容易である。また、粒子線検知センサ2が被験者99の身体に非常に近い場所に取り付けられるため、粒子線検知センサ2が検出する粒子線量が高精度となる。また、粒子線検知センサ2や胴衣8は安価に入手できるため、被験者99に専用に用意されても大きな経済的負担になることもなく、被験者99に最適化された粒子線検知センサ2を有する胴衣8とすることができる。その結果、粒子線治療の準備が容易となり、被験者99だけでなく医療従事者の負担低減を実現できる。
(13)本実施形態の照射線量推定方法は、
被験者99の内部に粒子線を照射する照射工程(S11)と、
被験者99の外部に漏れた出た粒子線(散乱粒子線X2)を検知する漏洩粒子線検知工程(S13)と、
漏洩粒子線検知工程(S13)において検出した粒子線(散乱粒子線X2)をもとに照射された粒子線の照射線量を算出する照射線量算出工程(S14)と、
を有する。
治療の線種と同じ粒子線をリアルタイムで計測するため、迅速かつ正確に測定できる。
(14)漏洩粒子線検知工程(S13)は、検知した粒子線の量、より具体的にはエネルギーを電流値に変換して出力する。
取り扱いが容易な電流値が粒子線検知センサ2から出力されるため、照射線量の算出処理が容易であり、算出結果の出力まで短時間にすることができる。
(15)漏洩粒子線検知工程(S13)は、複数の位置で外部に漏れた粒子線を検出し、
照射線量算出工程(S14)は、粒子線を検出した位置の位置情報と、検出した粒子線量とからなるデータセットをもとに、照射線量空間分布を算出する。
治療に用いた粒子線そのものを検出し、また検出した位置情報をもとに照射線量空間分布を算出するため、得られた照射線量空間分布の精度を高くすることができる。
(16)照射線量算出工程(S14)は、粒子線を検出した位置の位置情報と、検出した電流値とからなるデータセットを、所定のアルゴリズムまたは学習済みモデルに入力することにより照射線量空間分布を算出し、
学習済みモデルは、電流値と位置情報とを関連付けたデータを用いて機械学習されている。
機械学習を用いて照射線量空間分布を算出するためのモデルを作ることから、最適なモデル化が容易である。また、多様な粒子線検知センサ2の配置に対応したモデル化が可能である。
(17)照射線量算出工程(S14)により算出した照射線量をリアルタイムで表示出力する表示出力工程(S15)を有する。
(18)被験者99に粒子線を照射したときの粒子線の入射位置P2および照射量を取得する入射粒子取得工程(S12)を有し、
照射線量算出工程(S14)は、入射粒子取得工程(S12)が取得した入射位置P2および照射量を反映させて、照射線量空間分布を算出する。
【0041】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0042】
1 照射線量推定装置
2、2A 粒子線検知センサ
3 照射線量算出部
4 位置情報取得部
5 モデル保持部
6 表示出力部
7 入射粒子取得部
8 胴衣
12 データ記憶部
13 入出力IF
21 粒子線光変換部
22 光センサ
41、41A マーカ
42 マーカセンシング部
90 粒子線照射装置
99 被験者
100 粒子線照射システム
X1 入射粒子線
X2 散乱粒子線