(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】ナノ低分子ペプチドFH及びその眼底血管疾患の治療用薬物又は予防用薬物の調製への使用
(51)【国際特許分類】
C07K 7/08 20060101AFI20240328BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240328BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
A61P27/02
A61K38/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022135521
(22)【出願日】2022-08-29
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】202110999537.3
(32)【優先日】2021-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522342684
【氏名又は名称】武漢夫図生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】胡 波
(72)【発明者】
【氏名】李 亜男
(72)【発明者】
【氏名】王 浩
(72)【発明者】
【氏名】王 磊
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111562(JP,A)
【文献】特表2008-531733(JP,A)
【文献】EMBO Molecular Medicine,2020年,Vol.12, e10154,p.1-23
【文献】Advanced Drug Delivery Reviews,2017年,Vol.122,p.31-64
【文献】Biomaterials,2021年05月,Vol.275, article No.120900,p.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/REGISTRY/FSTA/CABA/AGRICOLA/BIOTECHNO/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子式が
XFFVL
KKQKRPRHであり、
前記Xは
、
【化1】
からなる群より選択される炭素鎖である、人工合成型のナノ低分子ペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ低分子ペプチドの眼底血管疾患の治療
用薬物又は予防用薬物の調製への
使用。
【請求項3】
前記疾患は眼底血管の新生による疾患である、請求項2に記載の
使用。
【請求項4】
前記疾患は眼底病理学的血管外漏出による疾患である、請求項2に記載の
使用。
【請求項5】
前記疾患は周皮細胞の遷移による疾患である、請求項2に記載の
使用。
【請求項6】
前記疾患は内皮細胞の遷移又は漏出による疾患である、請求項2に記載の
使用。
【請求項7】
請求項1に記載のナノ低分子ペプチドを薬物活性成分として、薬学的に許容可能な投与形態のいずれかに調製することを特徴とする、請求項2に記載の
使用。
【請求項8】
前記投与形態は錠剤、カプセル、顆粒剤、注射剤、粉剤又は滴剤であることを特徴とする、請求項7に記載の
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物医薬の分野に属し、具体的には、ナノ低分子ペプチドFH及びその眼底血管疾患の治療や予防用薬物の調製への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性網膜症(DR)は、糖尿病に最も一般的で最も深刻な合併症であり、DRの主な病理学的変化は、網膜血管の過剰新生と漏出であり、中核なメカニズムは、局所的な低酸素により、血管新生促進因子の「過量」放出を誘導し、硝子体液内に血管新生促進因子を多く蓄積させ、血管を「過剰」に新生するように誘導するということであるが、これらの新生血管壁は完全ではなく、漏出が増加し、黄斑浮腫、網膜剥離を起こし、失明につながる。以上のメカニズムに対して、現在、DRの治療は、主に、(1)レーザー光凝治療、(2)硝子体切除術、(3)血管新生阻害薬の硝子体注射の3種類に分けられ、レーザー光凝治療は、周辺の視野を犠牲して中央視野を保持する「棄車保帥」の治療法であり、徐々に血管新生阻害薬の硝子体注射で代替され、VEGF-Aが血管新生及び漏出に重要な役割を果たすため、anti-VEGFの硝子体内注射は糖尿病黄斑浮腫と増殖性糖尿病網膜症の臨床治療に広く用いられ、anti-VEGF治療は臨床患者に多くのメリットをもたらすが、anti-VEGFに関する治療には以下のボトルネックとなる問題が存在する。
【0003】
1、anti-VEGF治療の有効率が低い:anti-VEGF治療を受けた患者の30%のみが有効であり、これらの患者のanti-VEGF治療に対する反応性が低く、anti-VEGF注射を単独して頻繁的に行っても、黄斑浮腫が持続的に発生する。
【0004】
2、潜在的な侵害性が高い:(1)反復注射投薬によって、感染、白内障形成、硝子体出血が併発することで、病状を悪化させ、網膜剥離や失明を加速する可能性がある。(2)VEGFはニューロンに対して保護効果を有し、VEGFのレベルを低すぎるように下げる場合、神経毒性が起こり、網膜萎縮を起こし、視力を失う恐れがある。
【0005】
3、注射技術への要求が高い:anti-VEGF治療は硝子体注射を必要とする侵襲的治療方式であり、一部の患者は鏡下で操作する必要があるため、基幹病院で展開して普及しにくく、しかし、DR患者が多く、有効な治療を受けられない患者も多い。
【0006】
4、抗体類薬物のコストが高い:anti-VEGF治療が有効な黄斑浮腫患者に関して、有効性が一時的なものに過ぎず、浮腫を抑えるために、月1回注射し、さらに頻繁的に注射する必要があり、治療期間が数年と長く、一般的な家族では耐えにくく、家族や社会に重い経済的負担をもたらす。
【0007】
5、anti-VEGFに対応する阻害ターゲットが単一である:VEGFファミリーは、VEGF121、165、181等を含み、異なる細胞において異なる抗体を有し、結合ターゲットが複数あり、anti-VEGFの調製には、相対的に最も有効な結合部位を選択し、他の結合部位を無視し、これにより、VEGFは、一部の患者において、他の結合部位を介して有効な作用を発揮することができ、これは、30%だけのanti-VEGFの有効性につながる可能性があり、そして、anti-VEGF薬物の限界だけでなく、抗体類薬物に共通の欠陥でもある。
【0008】
6、sSema4Dは血管新生促進、漏出に重要な役割を果たす:出願人は、114例の糖尿病網膜病(DR)の眼房水検体に対してプロテインチップ分析を行い、275種類のタンパク質をスクリーニングしたところ、140KD Sema4D断片の特異性が高く発現され、且つ房水におけるsSema4Dのレベルが高いほど、anti-VEGF治療の有効性が低いことを発見し、同時に、以下のことが発見され、つまり、(1)Sema4Dをノックアウトしたマウスの網膜新生血管モデル(OIRモデル)において、病理学的血管新生が顕著に減少し、ストレプトゾトシンで誘導した糖尿病マウスモデル(STZモデル)において、血管外漏出が顕著に低下する。(2)anti-Sema4Dの一回注射とanti-VEGFの相乗治療効果は、単一のanti-VEGF治療よりも顕著に高い。(3)漏出減少の面で、anti-Sema4Dの複数回注射はanti-VEGF治療よりも高い。以上の結果によると、anti-Sema4Dは、anti-VEGFと比べて、治療上の優位性を有することが検証される。つまり、sSema4Dのレベルの低減は、眼底血管新生及び漏出を阻害するための治療に有効なターゲットであり、しかし、現在、臨床的には、複数の受容体拮抗薬を使用すれば、互いの免疫メカニズムを励起し、効果を低くし又は副作用を増加させる可能性があるというジレンマがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、分子式がX-FFVLK-KQKRPRHであり、前記XがC12、C14、C16、C18である人工合成型のナノ低分子ペプチドを提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、人工合成型のナノ低分子ペプチドの眼底血管疾患の治療や予防用薬物の調製への応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
人工合成型のナノ低分子ペプチドであって、その分子式はX-FFVLK-KQKRPRHであり、前記XはC
12、C
14、C
16、C
18であり、XがC
16である時の構造式は以下のとおりである。
【化1】
【0012】
上記人工合成型のナノ低分子ペプチドの眼底血管疾患の治療や予防用薬物の調製への応用であって、前記眼底血管疾患は、眼底血管新生による疾患、眼底病理学的血管外漏出による疾患、周皮細胞の遷移による疾患、内皮細胞の遷移又は漏出による疾患を含むが、これらに限定されない。
【0013】
以上に記載の応用において、前記薬物の投与形態は、薬学的に許容可能な全ての投与形態であり、錠剤、カプセル、顆粒剤、注射剤、粉剤又は滴剤等を含むが、これらに限定されない。
【発明の効果】
【0014】
1.本発明が提供するナノ低分子ペプチドは、非侵襲的で、安全で、有効であると共に、操作しやすい点眼薬の形態で投薬可能であり、現在、臨床薬物を侵襲的に硝子体に反復して注射しなければならないという技術的ボトルネックを打ち破る。
【0015】
2.本発明が提供するナノ低分子ペプチドは、受容体を特異的に選択してsSema4Dタンパク質を内包することができ、これによって、sSema4Dのレベルを効果的に低減し、それを任意の受容体と結合できないようにし、抗体類薬物阻害ターゲットが単一であるという欠陥が解消される。
【0016】
3.該ナノ低分子ペプチド分子(FH)は構造が簡単な非タンパク質類製品であり、抗体類薬物と混合して使用可能であり、相互間の免疫反応を発生させず、複数の血管新生促進分子を低減する役割を果たした。
【0017】
4.該ナノ低分子ペプチド分子(FH)は、現在、臨床的に応用される抗体類薬物の質量の百分の一であり、質量の面でも顕著な優位性を有する。1分子量が小さく、点眼でき、ペプチド自体が異なる。
【0018】
5.該ナノ低分子ペプチド分子(FH)の作用時間は抗体薬物と比べて顕著な優位性を有し、患者に投薬する回数を低減し、臨床治療上のボトルネックを打ち破れる。
【0019】
6.該ナノ低分子ペプチド分子(FH)は調製しやすく、調製コストが低く、治療費を大幅に低減することができる。且つ関連するメカニズムが明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ナノ低分子ペプチドFHとFGの分子構造概略図である。
【
図2】ナノ低分子ペプチドFHとFGの一部の物理化学的性質である。FH、FGナノ顆粒のCDスペクトルと動的光散乱(DLS)スペクトルであり、中心の図は動的光散乱(DLS)スペクトルであり、左側はFHのCDスペクトル図であり、右側はFGのCDスペクトル図である。
【
図3】ナノ低分子ペプチドFH、FGがsSema4Dのレベルを持続的に低減可能であり、持続時間の面で抗体薬物よりも明らかに優れることを示す概略図である。A:ナノ低分子ペプチドFH、FGは、純粋な培地システムにおいてsSema4Dのレベルを持続的に低減することができ、持続時間の面で抗体薬物よりも明らかに優れる。B:ナノ低分子ペプチドFH、FGを内皮細胞に添加することで、sSema4Dのレベルを持続的に低減することができ、持続時間の面で抗体薬物よりも明らかに優れる。
【
図4】ナノ低分子ペプチドFH、FGがOIRモデルの眼底血管新生を顕著に阻害できることを示す概略図である。Aにおいて、免疫蛍光染色結果によると、ナノ低分子ペプチドFH、FGが眼底病理学的血管新生を顕著に阻害することができる。Bは、免疫蛍光染色結果によると、ナノ低分子ペプチドFH、FGが眼底病理学的血管新生を顕著に阻害できることを示す統計図である。
【
図5】ナノ低分子ペプチドFH、FGがSTZモデルの眼底血管外漏出を顕著に阻害できることを示す概略図である。Aにおいて、エバンスブルー漏出試験結果によると、ナノ低分子ペプチドFH、FGが眼底病理学的血管外漏出を顕著に阻害できる。Bは、エバンスブルー漏出試験結果によると、ナノ低分子ペプチドFH、FGが眼底病理学的血管外漏出を顕著に阻害できることを示す統計図である。
【
図6】ナノ低分子ペプチドFH、FGが内皮細胞の遷移、漏出を顕著に阻害することを示す概略図である。A-B:transwell試験とスクラッチ試験によると、ナノ低分子ペプチドFH、FGがsSema4Dの内皮細胞遷移促進作用を遮断できることが実証される。E:TEERとフルオレセイン漏出試験によると、ナノ低分子ペプチドFH、FGがsSema4Dの内皮細胞漏出促進作用を遮断できることが実証される。
【
図7】ナノ低分子ペプチドFHが周皮細胞の遷移を顕著に阻害することを示す概略図である。Aにおいて、transwell試験によると、ナノ低分子ペプチドFH、FGがsSema4Dの周皮細胞遷移促進作用を遮断できることが実証される。Bは、transwell試験によると、ナノ低分子ペプチドFH、FGがsSema4Dの周皮細胞遷移促進を遮断できることを示す統計図である。
【
図8】ナノ低分子ペプチドFHが点眼薬の形態で硝子体液に入ってsSema4Dのレベルを低減することを示す図である。Aにおいて、小動物生体イメージングによると、ナノ低分子ペプチドFH、FGが点眼薬の形態でマウス硝子体液に入ることが実証される。Bにおいて、Elisaによると、FH、FG点眼薬が硝子体液内のsSema4Dのレベルを低減できることが発見される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、具体的な実施例と組み合わせて本発明をさらに説明する。本発明に記載の技術的解決手段は、特に説明されていない限り、本分野の一般的な解決手段である。前記試薬又は材料は、特に説明されていない限り、いずれも商業的供給源から由来する。本発明のsSema4Dタンパク質は、Sema4Dに対して酵素切除を行った後の遊離Sema4Dタンパク質であり、即ち、sSema4Dタンパク質であり、R&D Systems会社から購入される。本発明の実施例におけるFH配列中のC16は、さらにC18又はC14又はC12に置換されてもよく、本発明は、C16を例としてその効果を説明するが、簡素化するために、上記の他の長さの炭素鎖に置換されても、本発明の技術的効果を得ることができる。
【0022】
本発明の実施例におけるFG配列中のC16は、さらにC18又はC14又はC12に置換されてもよく、本発明はC16を例として説明するが、簡素化するために、上記の他の長さの炭素鎖に置換されても、本発明の技術的効果を得ることができる。
【0023】
実施例1:
ナノ低分子ペプチドFHとFGの分子構造は以下のとおりであり、直接商業的に合成可能である。
【化2】
【0024】
実施例2:
ナノ顆粒FH、FGの特徴づけ及び細胞毒性:
まず、濃度が20μMのFGとFHナノ顆粒溶液を調製し、調製方法では、FG(又はFH)を0.01mmol計り、1mLのDMSO溶液に溶解し、その後、5倍希釈し、濃度を2mMにし、母液Aとする。母液Aを10μL取って1mLの水に迅速に添加し、ボルテックス振盪を30秒行い、ナノ顆粒溶液を得る。次に、試料を調製する。FG(又はFH)溶液10ulを取り出して銅メッシュに滴下し、5分間経過後、濾紙で余計な溶液を吸い取る。10μLの酢酸ウラニル染色剤を滴下し、5分間経過後、濾紙で余計な染色剤を吸い取る。10マイクロリットルの脱イオン水で1回洗浄する。試料を一晩真空乾燥する。最後に、HT-7700透過型電子顕微鏡(日本東京日立会社)上に置いて、透過型電子顕微鏡によって観察を行う。縮尺は200nmである。
【0025】
FH、FGナノ顆粒のCDスペクトル:
室温で、光路長1mmのCD分光計(JASCO-1500、日本東京)を使用してFH、FGナノ粒子(20μM)を収集するCDスペクトルである。解像度1.0nm、走査速度300nm/分で、190と300nmの間に測定を行う。毎回の測定に、3つのスペクトルを収集して平均値を取る。
【0026】
結果は、
図2に示すとおりであり、CDスペクトル測定したところ、FH、FGナノ粒子(20μM、H
2Oに0.5%ジメチルスルホキシドを含有する)に誘導するsSema4Dタンパク質がない場合、200nmでのシグナルは負の値であり、ランダムコイル構造であることを示し、sSema4Dタンパク質を添加して誘導した後に、200nmでのシグナルが正の値であり、且つ220nmでのシグナルが負の値であり、βシート層折り畳み構造に変換されることを示す。
【0027】
FH、FGナノ粒子の動的光散乱(DLS)スペクトル:
25℃でzeta sizer(Nano ZZ90、イギリスマルバーン)を用いてFH、FGナノ粒子の粒径とζ電位を測定する。
【0028】
結果は
図2に示すとおりであり、FH、FGナノ粒子の粒径がそれぞれ54.43±2.8nm、57.67±2.6nmであり、FH、FGナノ粒子の電荷がそれぞれ+40.4mV、+44.8mVである。
【0029】
CCK8法で検出したところ、12、14、36時間時に、20μMのナノ低分子ペプチドFH、FGは、内皮細胞(マウス脳微小血管初代内皮細胞)に毒性作用を与えない。
【0030】
実施例3:
ナノ低分子ペプチドFH、FGは、sSema4Dのレベルを持続的に低減することができ、持続時間の面で抗体薬物よりも明らかに優れる。
1)ナノ低分子ペプチドFH、FGは、純粋な培地システムにおいてsSema4Dのレベルを持続的に低減することができ、持続時間の面で抗体薬物よりも明らかに優れる。
それぞれナノ低分子ペプチドFH、FG、DMSO、Sema4D中和抗体(BMA-12)を培地(培地におけるsSema4Dが1600ng/mLである)に添加し、FH、FGの最終濃度を20μMにし、Sema4D中和抗体(BMA-12)(BMA-12、即ち、anti-Sema4D)の最終濃度を2μg/μLにし、等体積DMSOを添加して対照とし、それぞれ培養プレートを37℃で12、24、36、48時間静置させ、培地を収集し、ELISA試薬キット(上海遠慕科技有限公司)で上澄みにおけるSema4Dタンパク質の発現量を検出する。
【0031】
結果は
図3のAに示すとおりであり、結果によると、24時間時に、FH、FG、Sema4D中和抗体(BMA-12)はいずれもsSema4Dの濃度を低減することができ、36時間時に、FH、FGはsSema4Dの濃度を低減できるが、anti-Sema4DがsSema4Dの濃度を低減できず、同一の作用時間内に、FHの作用強度はFGよりも高い。
【0032】
2)ナノ低分子ペプチドFH、FGを内皮細胞(マウス脳微小血管初代内皮細胞)に添加することで、sSema4Dのレベルを持続的に低減することができ、持続時間の面で抗体薬物よりも明らかに優れる。
6ウェル細胞培養プレートに内皮細胞を均一に接種し、37℃ 5%CO2インキュベータで24時間培養し、それぞれナノ低分子ペプチドFH、FG、DMSO、Sema4D中和抗体(BMA-12)を培地(培地におけるsSema4Dが1600ng/mLである)に添加し、FHの最終濃度を20μMにし、Sema4D中和抗体(BMA-12)の最終濃度を2μg/μLにし、等体積DMSOを添加して対照とし、それぞれ培養プレートをインキュベータで12、24、36、48時間培養し、細胞培地を収集して遠心分離し、上澄みを取り、ELISA試薬キット(上海遠慕科技有限公司)で上澄みにおけるsSema4Dタンパク質の発現量を検出する。
【0033】
結果は
図3のBに示すとおりであり、結果によると、24時間時に、FH、Sema4D中和抗体(BMA-12)はいずれもsSema4Dの濃度を低減することができ、36時間時に、FHはsSema4Dの濃度を低減できるが、Sema4D中和抗体(BMA-12)がsSema4Dの濃度を低減できず、同一の作用時間内に、FHの作用強度はFGよりも高い。
【0034】
実施例4:
共焦点でナノ低分子ペプチドFH、FGがOIRモデルの眼底血管新生を顕著に阻害できることを検出する。
試験群(OIR):3-4ヶ月齢のC57BL/6メスマウスが出産した後、生後7日目のベイビーマウスと共に75%酸素含有の酸素室に入れ、生後12日目に、ベイビーマウスとメスマウスを取り出したすぐに、ベイビーマウスを麻酔し、その後、硝子体に2nmolFH、2nmolFG、1μgSema4D中和抗体(BMA-12)(BMA-12、即ち、anti-Sema4D)を注射し、等体積のDMSOを対照とし、継続的に正常の空気中で5日飼育し、生後17日目のベイビーマウスを麻酔し、生理食塩水を心臓に灌注した後、眼球を分離して固定し、Isolectin B4で染色して4℃で一晩放置し、スプレッドで撮影する。
【0035】
対照群(Normal):生まれたベイビーマウスであり、正常酸素の条件下で成長させ、生後17日目のマウスを麻酔し、生理食塩水を心臓に灌注した後、眼球を取り、網膜を剥離し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、Isolectin B4で染色して4℃で一晩放置し、スプレッドで撮影する。
【0036】
結果は
図4のAに示すとおりであり、レーザー共焦点で網膜血管新生を検出し、ImageJで網膜新生血管クラスタ面積の網膜面積に占める割合、即ち新生血管の割合を統計し、結果によると、FH、FGは異常な血管の網膜総面積に占めるパーセントを低減し、FH、FG治療がOIRモデルマウスの眼底血管新生を阻害でき、その治療効果がSema4D中和抗体(BMA-12)に相当することを示し、
図4のBから分かるように、FHの治療効果は最高である。
【0037】
実施例5:
エバンスブルー漏出試験でナノ低分子ペプチドFH、FGがOIRモデルの眼底血管外漏出を顕著に阻害できることを検出する。
試験群(OIR):3-4ヶ月齢のC57BL/6メスマウスが出産した後、生後7日目のベイビーマウスと共に75%酸素含有の酸素室に入れ、生後12日目に、ベイビーマウスとメスマウスを取り出したすぐに、ベイビーマウスを麻酔し、その後、硝子体に2nmolFH、FG、1μg Sema4D中和抗体(BMA-12)を注射し、等体積のDMSOを対照とし、継続的に正常空気中で5日飼育し、生後17日目のベイビーマウスを麻酔し、生理食塩水を心臓に灌注した後、眼球を分離して固定し、Isolectin B4で染色して4℃で一晩放置し、スプレッドで撮影する。
対照群(Normal):生まれたベイビーマウスであり、正常酸素の条件下で成長させ、生後17日目のマウスを麻酔し、生理食塩水を心臓に灌注した後、眼球を取り、網膜を剥離し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、3‰トリトンで破膜し、15%ロバ血清でブロッキングした後、Isolectin B4で染色して4℃で一晩放置し、染色した網膜を4リーフを有する花弁状にせん断し、スライドガラスに平に広げ、蛍光顕微鏡で撮影する。
【0038】
結果は
図5に示すとおりであり、結果によると、FH、FGは異常な血管の網膜総面積に占めるパーセントを低減し、FH、FG治療がOIRモデルマウスの眼底血管外漏出を阻害でき、その治療効果がanti-Sema4Dに相当することを示す。
【0039】
実施例6:
ナノ低分子ペプチドFHが内皮細胞遷移、漏出を顕著に阻害する。
1)ナノ低分子ペプチドFHが内皮細胞の遷移(transwell試験)を顕著に阻害する。
マウス脳微小血管初代内皮細胞を0.5%ECMで4-6時間飢餓させ、24ウェルのtranswellセル(8μm)の上層にマウス脳微小血管内皮細胞を接種し、セルにFH(20μM)、FG(20μM)、Sema4D中和抗体(BMA-12)(2μg/μL)を含有する1%ECM培地(培地におけるsSema4Dが1600ng/mLである)を添加し、等体積DMSOを添加して対照とし、37℃ 5%CO2インキュベータで24時間インキュベートし、24時間後、セル底面の細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、クリスタルバイオレットで染色した後、顕微鏡下でセル底面に貫入する内皮細胞をカウントする。
【0040】
結果は
図6のAとBに示すとおりであり、24時間時に、FH、FGはsSema4Dで誘導した内皮細胞遷移を顕著に阻害でき、FH、FGが内皮細胞遷移を阻害する効果はSema4D中和抗体(BMA-12)よりも高い。
【0041】
2)ナノ低分子ペプチドFH、FGが内皮細胞の漏出(TEER試験)を顕著に阻害する。
24ウェルのtranswellセル(0.4um)の上層に一層のフィブロネクチンを先にコーティングし、室温で1時間インキュベートし、コーティングした後にマウス脳微小血管内皮細胞を接種し、細胞が満たすように5日培養した後、培地(培地におけるsSema4Dが1600ng/mL)内でそれぞれFH(20μM)、FG(20μM)、Sema4D中和抗体(BMA-12)(2μg/μL)を添加し、等体積DMSOを添加して対照とし、ECMをブランク対照とし、36時間インキュベートした後、細胞膜貫通抵抗測定器を使用してその抵抗値を測定する。
【0042】
結果は
図6のCに示すとおりであり、36時間時に、FH、FGはsSema4Dで誘導した内皮細胞の漏出を明らかに阻害でき、FH、FG効果がSema4D中和抗体(BMA-12)に相当する。
【0043】
実施例7:
ナノ低分子ペプチドFH、FGが周皮細胞の遷移(transwell試験)を顕著に阻害する。
マウス初代脳微小血管周皮細胞(周皮細胞)を0.5% PMで4-6時間飢餓させ、24ウェルのtranswellセル(8μm)の上層に周皮細胞を接種し、セルにFH(20μM)、FG(20μM)、Sema4D中和抗体(BMA-12)(2μg/μL)を含有する培地(培地におけるsSema4Dが1600ng/mLである)を添加し、等体積DMSOを添加して対照とし、37℃ 5%CO2インキュベータで36時間インキュベートし、36時間後、セル底面の細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、クリスタルバイオレットで染色した後、顕微鏡下でセル底面に貫入する周皮細胞をカウントする。
【0044】
結果は
図7に示すとおりであり、36時間時に、FH、FGはsSema4Dで誘導した周皮細胞の遷移を明らかに阻害でき、FHが周皮細胞の遷移を阻害する効果はSema4D中和抗体(BMA-12)よりも高い。
【0045】
実施例8:
1)小動物生体イメージングでナノ低分子ペプチドFH、FGが点眼薬、硝子体注射の形態でマウスの硝子体液に入ることが実証される。
10μLのFHとFG点眼薬(濃度が20μM、溶媒が人工涙液)をマウス(8週齢のC57オスマウス)の眼球面に滴下し、1時間おきに1回滴下し、3回目点眼した1時間後に、マウスを麻酔すると共に心灌流を行い、マウスの眼球を取り出し、眼球表面の結合組織を切り出し、且つPBS溶液で眼球を複数回洗浄し、眼球表面のナノ点眼薬を除去する。眼球を小動物イメージング装置(発射波長535nm、励起波長490nm)に置いて画像を撮影する。
【0046】
マウス(8週齢のC57オスマウス)を4.3%抱水クロラール(0.01ml/g)で麻酔した後、抗生物質眼薬水(レボフロキサシン点眼薬)、眼球表面用麻薬(ベノキシネート塩酸塩点眼薬)を術前に点眼し、マウスの頭の位置を調整し、マウス眼球の角膜縁を水平に維持し、インスリン注射針を使用して角膜縁の後ろの1mmで小口を開け、続いてhamiltonの33G注射器で小口に沿って硝子体腔内に1μlのナノ薬物FH(20μM)、FG(20μM)又は溶媒を注入し、針の先端を垂直に入れ、その後、傾斜させて注射し、針を0.5-1min残した後、迅速に抜き出し、術後、抗生物質眼薬水で3日点眼し、感染を予防する。
【0047】
【0048】
2)ElisaでFH、FG点眼薬が硝子体液内のsSema4Dのレベルを低減できることを検出する。
本実施例において、8週齢のC57オスマウスを使用し、各群で、5匹のマウス試験結果の平均値であるデータ点を10個取る。
【0049】
20μMのFHとFG点眼薬(溶媒が人工涙液)10μLを朝晩で1回マウスの眼球表面に滴下し、3日点眼した後、マウスを麻酔すると共に心灌流を行い、その後、マウスの眼球を取り出し、且つPBS溶液で眼球を複数回洗浄し、眼球面のナノ点眼薬を除去し、眼球の水分を濾紙で吸い抜き、硝子体液を放出して収集する。ELISA試薬キット(上海遠慕科技有限公司)で硝子体液におけるsSema4Dタンパク質の発現量を検出する。
【0050】
対照群に同一体積のPBS溶液を滴下し、ビヒクル群に同一体積の人工涙液(思然)を滴下する。
【0051】
結果は
図8のBに示すとおりであり、FHとFGはいずれも滴剤として調製することができ、点眼の方式で硝子体液におけるsSema4Dタンパク質の発現量を低減することができる。
【0052】
[付記]
[付記1]
分子式がX-FFVLK-KQKRPRHであり、前記XはC12、C14、C16、C18である、人工合成型のナノ低分子ペプチド。
【0053】
[付記2]
付記1に記載のナノ低分子ペプチドの眼底血管疾患の治療や予防用薬物の調製への応用。
【0054】
[付記3]
前記疾患は眼底血管の新生による疾患である、付記2に記載の応用。
【0055】
[付記4]
前記疾患は眼底病理学的血管外漏出による疾患である、付記2に記載の応用。
【0056】
[付記5]
前記疾患は周皮細胞の遷移による疾患である、付記2に記載の応用。
【0057】
[付記6]
前記疾患は内皮細胞の遷移又は漏出による疾患である、付記2に記載の応用。
【0058】
[付記7]
付記1に記載のナノ低分子ペプチドを薬物活性成分として、薬学的に許容可能な投与形態のいずれかに調製することを特徴とする、付記2に記載の応用。
【0059】
[付記8]
前記投与形態は錠剤、カプセル、顆粒剤、注射剤、粉剤又は滴剤であることを特徴とする、付記7に記載の応用。
【配列表】