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特許7461678推定方法、推定プログラム、および推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】推定方法、推定プログラム、および推定装置
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/30 20190101AFI20240328BHJP
   G16C 20/70 20190101ALI20240328BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20240328BHJP
   A01N 37/18 20060101ALI20240328BHJP
   A01N 57/16 20060101ALI20240328BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20240328BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20240328BHJP
   C09K 23/00 20220101ALI20240328BHJP
【FI】
G16C20/30
G16C20/70
A01N25/30
A01N37/18 A
A01N57/16 102B
A01P7/04
A01P13/00
C09K23/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023067654
(22)【出願日】2023-04-18
【審査請求日】2023-04-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 信臣
(72)【発明者】
【氏名】松永 千晶
【審査官】松野 広一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-135184(JP,A)
【文献】特開2022-023482(JP,A)
【文献】特開2019-020791(JP,A)
【文献】特開2023-051511(JP,A)
【文献】特表2016-537699(JP,A)
【文献】特開2021-043600(JP,A)
【文献】製造分野におけるAI・デジタル技術活用実績のご紹介,第13回 オートモーティブ ワールド [online] ,2021年01月21日
【文献】酒井 憲一 外5名,機械学習モデルのスクリーニングによる製剤製造因子の抽出,2019年度人工知能学会全国大会(第33回) [online],2019年07月01日,pp.1,2(4J2-J-13-02)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00-99/00
A01N 25/30
A01P 13/00
A01P 7/04
A01N 37/18
A01N 57/16
C09K 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いて農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を推定する推定方法であって、
農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを前記コンピュータに生成させるモデル生成工程と、
前記学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を示す目的変数の推定値を前記コンピュータに出力させる推定工程と、を備え、
前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする推定方法。
【請求項2】
前記説明変数が、農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含む請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記化学種情報が、前記化合物の分子記述子を含む請求項2に記載の推定方法。
【請求項4】
前記目的変数が、農薬製剤用界面活性剤組成物の、HLB、静的表面張力、動的表面張力、接触角、滑落角、浸透力、臨界ミセル濃度、曇点、およびクラフト点からなる群から選択される少なくとも一つの物性値をさらに含む請求項1~3のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項5】
前記目的変数が、農薬製剤用界面活性剤組成物を含む農薬製剤の、乳化性、乳化安定性、自己乳化性、再乳化性、製剤安定性、製剤粘度、乳化粒子径、粒子径、主剤安定性、分散性、水和性、懸垂性、起泡性、崩壊性、製剤硬度、溶出性、拡展性、湿展性、浸透性、造粒性、拡展挙動、色相、除草性、殺虫性、殺菌性、展着性、および浸透移行性からなる群から選択される少なくとも一つの物性値をさらに含む請求項1~3のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項6】
農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数をコンピュータに複数生成させる生成工程と、
農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を前記コンピュータに出力させる推定工程と、
所定の基準に基づいて、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として前記コンピュータに出力させる出力工程と、を備え、
前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする推定方法。
【請求項7】
前記生成工程および前記推定工程が複数回実行され、
二回目以降の前記生成工程において、当該生成工程より前に実行された前記生成工程および前記推定工程の結果を利用する最適化アルゴリズムを用いて複数の説明変数を前記コンピュータに生成させる請求項6に記載の推定方法。
【請求項8】
前記出力工程において解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、前記コンピュータに前記学習済みモデルを再生成させるモデル再生成工程をさらに含む請求項6または7に記載の推定方法。
【請求項9】
農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を推定する推定プログラムであって、
コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、
農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、
前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させ、
前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする推定プログラム。
【請求項10】
コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、
農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、
農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、
所定の基準に基づいて、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの最良の目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該最良の目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させ、
前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする推定プログラム。
【請求項11】
演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、
前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、
前記推定プログラムは、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、
農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、
前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させ、
前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする推定装置。
【請求項12】
演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、
前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、
前記推定プログラムは、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、
農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、
農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、
所定の基準に基づいて、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの最良の目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該最良の目的変数を生成する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させ、
前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を推定する推定方法、推定プログラム、および推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農薬製剤は、除草剤、殺虫剤、殺菌剤などの農薬原体を、圃場等への散布に適した剤形に製剤したものである。農薬製剤において、農薬原体を均一に分散させて圃場等への散布に適した剤形の製剤とするための助剤として農薬製剤用界面活性剤組成物が汎用される。この種の農薬製剤用界面活性剤組成物が、たとえば特開2022-135184号公報(特許文献1)および特表2015-533813号公報(特許文献2)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2022-135184号公報
【文献】特表2015-533813号公報(または国際公開第2014/047602号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
農薬製剤用界面活性剤組成物の開発は、古典的な実験科学的手法に頼らざるを得なかった。すなわち、候補となる組成物の製造と評価とを繰り返しながら、好適な性能を発現する組成物を絞り込む必要があった。しかし、農薬製剤用界面活性剤組成物には多数の構成成分が含まれるため、各構成成分の化学種および構成比率は多岐にわたり、無限大に存在する候補から好適な組成物を見出すことが求められた。そのため、新規の農薬製剤用界面活性剤組成物の開発には、膨大な工数、時間、および費用を要していた。
【0005】
そこで、好適な性能を発現する農薬製剤用界面活性剤組成物を推定しうる推定方法、推定プログラム、および推定装置の実現が求められる
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第一の推定方法は、コンピュータを用いて農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を推定する推定方法であって、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを前記コンピュータに生成させるモデル生成工程と、前記学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を示す目的変数の推定値を前記コンピュータに出力させる推定工程と、を備え、前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る第一の推定プログラムは、農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を推定する推定プログラムであって、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させ、前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る第一の推定装置は、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムは、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させ、前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、所与の製造条件により得られる農薬製剤用界面活性剤組成物の目的変数を、学習モデルを用いて推定するので、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を、製造および評価を行うことなく検証できる。これによって、好適な農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0010】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記説明変数が、農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含むことが好ましい。
【0011】
この構成によれば、農薬製剤用界面活性剤組成物の性能に特に影響が大きいことが多い化学種情報および割合情報を考慮した推定がなされるので、精度が高い推定結果が得られやすい。
【0012】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記化学種情報が、前記化合物の分子記述子を含むことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、好適な目的変数を与えうる化学種を体系的に理解できる。
【0014】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記目的変数が、農薬製剤用界面活性剤組成物の、HLB、静的表面張力、動的表面張力、接触角、滑落角、浸透力、臨界ミセル濃度、曇点、およびクラフト点からなる群から選択される少なくとも一つの物性値をさらに含むことが好ましい。
【0015】
この構成によれば、農薬製剤用界面活性剤組成物の機能として特に注目される物性を評価基準として、好適な農薬製剤用界面活性剤組成物を導き出すことができる。
【0016】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記目的変数が、農薬製剤用界面活性剤組成物を含む農薬製剤の、乳化性、乳化安定性、自己乳化性、再乳化性、製剤安定性、製剤粘度、乳化粒子径、粒子径、主剤安定性、分散性、水和性、懸垂性、起泡性、崩壊性、製剤硬度、溶出性、拡展性、湿展性、浸透性、造粒性、拡展挙動、色相、除草性、殺虫性、殺菌性、展着性、および浸透移行性からなる群から選択される少なくとも一つの物性値をさらに含むことが好ましい。
【0017】
この構成によれば、農薬製剤用界面活性剤組成物の機能として特に注目される物性を評価基準として、好適な農薬製剤用界面活性剤組成物を導き出すことができる。
【0018】
本発明に係る第二の推定方法は、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数をコンピュータに複数生成させる生成工程と、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を前記コンピュータに出力させる推定工程と、所定の基準に基づいて、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として前記コンピュータに出力させる出力工程と、を備え、前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る第二の推定プログラムは、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、所定の基準に基づいて、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの最良の目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該最良の目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させ、前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る第二の推定装置は、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムは、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、所定の基準に基づいて、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの最良の目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該最良の目的変数を生成する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させ、前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0021】
これらの構成によれば、所望の性能を発揮する農薬製剤用界面活性剤組成物が得られうる製造条件(説明変数)を、学習モデルを用いて推定するので、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造および物性測定を行うことなく好適な製造条件を特定しうる。これによって、好適な農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0022】
本発明に係る第二の推定方法は、一態様として、前記生成工程および前記推定工程が複数回実行され、二回目以降の前記生成工程において、当該生成工程より前に実行された前記生成工程および前記推定工程の結果を利用する最適化アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成することが好ましい。
【0023】
この構成によれば、得られる解がより好適な範囲に絞り込まれることを期待できる。
【0024】
本発明に係る第二の推定方法は、一態様として、前記出力工程において解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、前記学習済みモデルを再生成するモデル再生成工程をさらに含むことが好ましい。
【0025】
この構成によれば、解の出力、解の検証、および、検証結果の学習済みモデルへのフィードバック、を経て、学習済みモデルの精度を向上できる。
【0026】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例1における学習済みモデルの検証結果を示すグラフである。
図2】実施例2における学習済みモデルの検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る推定方法、推定プログラム、推定装置、農薬製剤用界面活性剤組成物、および農薬製剤の実施形態について説明する。
【0029】
〔農薬製剤用界面活性剤組成物に係る説明変数および目的変数〕
本実施形態に係る推定方法では、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、を取り扱う。推定方法の実施形態の説明に先立ち、説明変数および目的変数について説明する。また、説明変数について説明する前提として、農薬製剤および農薬製剤用界面活性剤組成物について説明する。
【0030】
(農薬製剤)
農薬製剤用界面活性剤組成物は、農薬製剤を製造する際に使用される界面活性剤組成物である。農薬製剤は、農薬原体および農薬製剤用界面活性剤組成物を含む。農薬製剤用界面活性剤組成物を適用する対象の農薬原体としては、除草剤、殺虫剤、殺菌剤などが例示されるが、これらに限定されない。
【0031】
農薬製剤用界面活性剤組成物は、農薬製剤において農薬原体を均一に分散させて圃場等への散布に適した剤形の製剤とするための助剤として働く。すなわち農薬製剤は、圃場等への散布に適した剤形の、有効成分として農薬原体を含む製剤である。圃場等への散布に適した剤形として、農薬原体が均一に分散または溶解した液体、農薬原体を含む粉体、農薬原体を含む顆粒、などの剤形が例示されるが、これらに限定されない。
【0032】
除草剤は、アイオキシニル、アジムスルフロン、アシュラム、アトラジン、アニロホス、アラクロール、イソウロン、イソキサベン、イマザキン、イマザピル、イマゾスルフロン、インダノファン、エスプロカルブ、エトキシスルホン、エトベンザニド、オキサジアゾン、オキサジアルギル、オキサジクロメホン、オルソベンカーブ、オリザリン、カフェンストロール、カルフェントラゾンエチル、カルブチレート、キザロホップメチル、クミルロン、グリホサートアンモニウム塩、グリホサートイソプロピルアミン塩、グリホサートカリウム塩、グリホサートトリメシウム塩、グルホシネート、クレトジム、クロメプロップ、クロルフタリム、シアナジン、シクロスルファムロン、ジクワット、ジチオピル、シデュロン、シノスルフロン、シハロホップブチル、ジフルフェニカン、ジメタメトリン、ジナテナミド、シメトリン、シンメトリン、セトキシジム、ダイムロン、ダゾメット、チフェンスルフロンメチル、デスメディファム、テトラピオン、テニルクロール、テプラロキシジム、トリアジフラム、トリクロピル、トリフルラリン、トリフロキシスルフロンナトリウム塩、ナプロパミド、ニコスルフロン、パラコート、ハロスルフロンメチル、ビアラホス、ビスピリバックナトリウム塩、ビフェノックス、ピラゾキシフェン、ピラゾスルフロンメチル、ピラゾエート、ピラフルフェンチオン、ピリフタリド、ピリブチカルブ、ピリミノバックメチル、フェノチオール、フェントラザミド、フェンメディファム、ブタクロール、ブタミホス、フラザスルフロン、フルアジホップ、フルチアセットメチル、フルミオキサジン、プレチラクロール、プロジアミン、プロピサミド、ブロマシル、プロメトリン、ブロモブチド、フロラスラム、ベスロジン、ベンスルフロンメチル、ベンゾフェナップ、ベンゾビシクロン、ベンタゾンナトリウム塩、ベンチオカーブ、ペンディメタリン、ペントキサゾン、ベンフレセート、メタミトロン、メトスルフロンメチル、メトラクロール、メトリブジン、メフェナセット、モリネート、リニュロン、リムスルフロン、レナシル、ACN,シマジン、ジクロベニル、クロルチアミド、ジウロン、プロパニル、MCP、MCPイソプロピルアミン塩、MCPB、MCPP、MDBA、MDBAイソプロピルアミン塩、PAC、SAP、2,4-PAなど、または上記の群から選択される複数の物質の混合物、でありうる。
【0033】
殺虫剤は、アクリナトリン、アセキノシル、アセタミプリド、アセフェート、アミトラズ、アラニカルブ、アレスリン、イソキサチオン、イミダクロプリド、インドキサカルブMP、エスフェンバレレート、エチオフェンカルブ、エチプロール、エチルチオメトン、エトキサゾール、エトフェンプロックス、エマメクチン安息香酸塩、塩酸レバミゾール、オキサミル、カズサホス、カルタップ塩酸塩、カルボスルファン、クロチアニジン、クロフェンテジン、クロマフェノジド、クロルピリホス、クロルフェナピル、クロルフルアズロン、シクロプロトリン、ジノテフラン、シフルトリン、ジメトエート、スピノサド、ダイアジノン、チアクロプリド、チアメトキサム、チオジカルブ、チオシクラムシュウ酸塩、テブフェノジド、テブフェンピラド、テフルトリン、テフルベンズロン、トラロメトリン、トルフェンピラド、ノバルロン、ハルフェンプロックス、ビフェナゼート、ビフェントリン、ピメトロジン、ピラクロホス、ピリダフェンチオン、ピリダベン、ピリダリル、ピリプロキシフェン、ピリミジフェン、ピリミホスメチル、ピレトリン、フィプロニル、フェニソブロモエート、フェノチオカルブ、フルアクリピリム、フルシトリネート、フルバリネート、フルフェノクスロン、プロパホス、プロフェノホス、ヘキシチアゾクス、ペルメトリン、ベンスルタップ、ベンゾエピン、ベンフラカルブ、ボーベリア・バシアーナ、ボーベリア・ブロンニアティ、ホサロン、マシン油、マラソン、メスルフェンホス、メソミル、メトキシフェノジド、ルフェヌロン、BPMC、BT(バチルス・チューリンゲンシス菌)、メチダチオン、フェニトロチオン、イソプロカルブ、フェンチオン、NACなど、または上記の群から選択される複数の物質の混合物、でありうる。
【0034】
殺菌剤は、アシベンゾランSメチル、アゾキシストロビン、アンバム、硫黄、イソプロチオラン、イプコナゾール、イプロジオン、イミノクタジンアルベシル酸塩、イミノクタジン酢酸塩、イミベンコナゾール、エクロメゾール、オキサジキシル、オキシテトラサイクリン、オキスポコナゾールフマル酸塩、オキソリニック酸、カスガマイシン、カルプロパミド、キノメチオナート、キャプタン、クレソキシムメチル、クロロネブ、シアゾファミド、ジエトフェンカルブ、ジクロシメット、ジクロメジン、ジチアノン、ジネブ、ジフェノコナゾール、シフルフェナミド、ジフルメトリム、シプロコナゾール、シプロジニル、シメコナゾール、ジメトモルフ、シモキサニル、シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナスCAB-02、ジラム、水和硫黄、ストレプトマイシン、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、チアジアジン、チアジニル、チアベンダゾール、チウラム、チオファネートメチル、チフルザミド、テクロフタラム、テトラコナゾール、テブコナゾール、銅、トリアジメホン、トリアジン、トリコデルマ・アトロビリデ、トリシクラゾール、トリフルミゾール、トリフロキシストロビン、トリホリン、トルクルホスメチル、バチルスズブチリス、バリダマイシン、ビテルタノール、ヒドロキシイソキサゾール、ピラゾホス、ピリフェノックス、ピリメタニル、ピロキロン、ファモキサドン、フェナリモル、フェノキサニル、フェリムゾン、フェンブコナゾール、フェンヘキサミド、フサライド、フラメトピル、フルアジナム、フルオルイミド、フルジオキソニル、フルスルファミド、フルトラニル、プロシミドン、プロパモカルブ塩酸塩、プロピコナゾール、プロピネブ、プロベナゾール、ヘキサコナゾール、ベノミル、ペフラゾエート、ペンシクロン、ボスカリド、ホセチル、ポリカーバメート、マンゼブ、マンネブ、ミクロブタニル、ミルディオマイシン、メタスルホカルブ、メトミノストロビン、メパニピリム、有機銅、硫酸亜鉛、硫酸銅、エジフェンホス、イプロベンホス、クロロタロニルなど、または上記の群から選択される複数の物質の混合物、でありうる。
【0035】
また、農薬製剤は添加剤を含みうる。かかる添加剤としては、増量剤、防腐剤、凍結防止剤、結合剤、酸化防止剤、安定剤、消泡剤、pH調整剤などが例示される。このうち増量剤は液状増量剤および固状増量剤に大別される。
【0036】
液状増量剤は、水、1号灯油、煙霧灯油、溶剤灯油、キシレン、メチルナフタレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、石油蒸留物、大豆油、ナタネ油、コーン油、綿実油等植物油、オレイン酸メチルエステル、ラウリン酸メチルエステル等脂肪酸アルキルエステル、鉱物油、n-メチルピロリドン、n-ブチルピロリドン、n-オクチルピロリドン、N,N-ジメチルオクタンアミド、N,N-ジメチルデカンアミド、二塩基酸エステル、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノールなど)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、グルコールエーテル類(プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなど)、など、または上記の群から選択される複数の物質の混合物でありうる。
【0037】
固状増量剤は、クレー、珪石、タルク、白土、珪藻土、シリカ、ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、でんぷん、乳糖、塩化カリウム、尿素、中空ガラス、ホワイトカーボン、木粉、コルク粉、発泡性シラス、マイクロスフィア、カルボキシメチルセルロースなど、または上記の群から選択される複数の物質の混合物でありうる。
【0038】
農薬製剤は、農薬原体および農薬製剤用界面活性剤組成物、ならびにその他の任意の添加剤を混合して製造される。上記の構成成分を混合する方法は、所望される剤形に応じて適宜選択される。たとえば農薬製剤が液体である場合は、プロペラ撹拌機、ホモミキサー、ホモジナイザー、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ビスコミル、グレンミルなどの装置を用いる混合方法が使用されうる。また、たとえば農薬製剤が顆粒である場合は、スクリュー型押出造粒機、ロール型押出造粒機、ディスクペレッター型押出造粒機、ペレットミル型押出造粒機、バスケット型押出造粒機、ブレード型押出造粒機、オシレーティング型押出造粒機、ギア式押出造粒機、リングダイス式押出造粒機、パン型造粒器、スプレードライヤーなどの装置を用いる混合方法が使用されうる。
【0039】
農薬製剤の剤形は、乳剤、液剤、油剤、マイクロカプセル剤、粒剤、1kg粒剤、粉粒剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤、ドライフロアブル剤、エマルジョン剤、サスポエマルジョン剤、オイルフロアブル剤、DC剤、ジャンボ剤、などでありうるが、これらに限定されない。このうち乳剤は、農薬原体を有機溶剤等に溶解した態様であり、水へ乳化させて散布する農薬製剤である。また、フロアブル剤は、農薬原体を含む固体粒子が水中に分散している分散液である。
【0040】
(農薬製剤用界面活性剤組成物)
農薬製剤用界面活性剤組成物は、一種類または複数種類の界面活性剤を含む組成物である。農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれうる界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、両性、非イオン性の各種界面活性剤を用いることができる。かかる界面活性剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合物、アルキルポリグリコシド、ショ糖脂肪酸エステル、ジアルキルスルホコハク酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルナフタレンスルホン酸金属塩、アルキルナフタレンスルホン酸金属塩縮合物、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸塩、ポリカルボン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルアミン塩酸塩、アルキル四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、脂肪酸エステルなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0041】
また、農薬製剤用界面活性剤組成物は添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、防腐剤、酸化防止剤、凍結防止剤、消泡剤、キレート剤、レオロジー調整剤、pH調整剤、色素などが例示されるが、これらに限定されない。
【0042】
(説明変数)
上記のように、農薬製剤用界面活性剤組成物は、一種類または複数種類の界面活性剤を含み、任意の添加剤を含みうる組成物である。農薬製剤用界面活性剤組成物が含む各成分の化学種(化学種情報)および含有割合(割合情報)、各成分の物性に係る物性情報(HLB、静的表面張力、動的表面張力、接触角、滑落角、浸透力など)、ならびに組成物の物性に係る物性情報(HLB、静的表面張力、動的表面張力、接触角、滑落角、浸透力など)は、説明変数として取り扱われうる。
【0043】
また、農薬製剤用界面活性剤組成物を製造する工程に係る工程条件も、農薬製剤用界面活性剤組成物の性能(目的変数)に影響を与えうる。したがって、たとえば、各成分を生じさせる反応における反応方法、反応温度、反応時間、反応圧力、反応容器の容量および形状、攪拌速度、触媒の有無、触媒の種類および濃度、反応雰囲気、ならびに原料を添加する順序などの諸条件や、各成分を混合する際の温度、圧力、容器の容量および形状、攪拌速度、助剤の有無、助剤の種類および濃度、ならびに原料を添加する順序などの諸条件、といった事項が、説明変数になりうる。
【0044】
さらに、農薬製剤用界面活性剤組成物を適用する対象の農薬原体および当該農薬原体と併用される添加剤、得られる農薬製剤、ならびに農薬製剤の製造、に係る諸条件を、説明変数とすることも可能である。この種の説明変数としては、農薬原体および添加剤の化学種(化学種情報)および含有割合(割合情報)、農薬製剤の剤形、剤形が液体である場合の粘度、分散粒子の粒子径、pHなど、剤形が固体である場合の粒子径、粒硬度、水中崩壊性、表面平滑性など、農薬製剤の製造に用いる装置およびその運転条件、などが例示される。
【0045】
なお、説明変数は、学習済みモデルを生成するために使用されるので、定量化されていることが好ましい。たとえば、農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる成分(化合物)の化学種により決定づけられる化学種情報を説明変数として取り扱う場合は、化学種の名称を示す文字列を化学種情報としてもよいが、分子記述子を化学種情報とすることが好ましい。分子記述子は、化学種の分子構造をSMILES記法、SMARTS記法、InChI記法、などの記法で表した上で、RDKit、Dragon、などの公知のツールを用いて求めることができる。また、農薬原体および当該農薬原体と併用される添加剤の種類を説明変数として取り扱う場合も、農薬原体および当該農薬原体と併用される添加剤の種類(化学種)を表す分子記述子を用いることが好ましい。
【0046】
(目的変数)
農薬製剤用界面活性剤組成物が、農薬原体が均一に分散した農薬製剤を得る目的で使用されるところ、その目的が果たされるか否かを評価した変数が、目的変数である。たとえば、農薬製剤用界面活性剤組成物の、HLB、静的表面張力、動的表面張力、接触角、滑落角、浸透力、臨界ミセル濃度、曇点、およびクラフト点は、目的変数として取り扱われうる。また、農薬製剤用界面活性剤組成物を含む農薬製剤の、乳化性、乳化安定性、自己乳化性、再乳化性、製剤安定性、製剤粘度、乳化粒子径、粒子径、粒子成長率、主剤安定性、分散性、分散安定性、希釈分散安定性、水和性、懸垂性、起泡性、崩壊性、製剤硬度、溶出性、拡展性、湿展性、浸透性、造粒性、拡展挙動、色相、除草性、殺虫性、殺菌性、展着性、および浸透移行性も、目的変数として取り扱われうる。
【0047】
上記に例示した項目を含む目的変数を特定する方法は、当該目的変数を一義的に特定できる方法である限りで、特に限定されない。たとえば、JIS規格、ASTM規格、ISO規格等の工業規格や、取引者間で独自に定めた規格、などが存在する項目を目的変数とする場合は、これらの規格に従って特定される物性値を目的変数とすることができる。また、特に工業規格が存在しない項目であっても、当該項目を一義的に決定できるのであれば、目的変数として取り扱いうる。
【0048】
〔学習済みモデル〕
上記に説明した説明変数と目的変数との間には、相関がある。たとえば、農薬製剤の粒子成長率(目的変数の例である。)は、農薬製剤の製剤安定性を評価する指標の一つであり、農薬製剤用界面活性剤組成物のHLBなど(説明変数の例である。)と相関があることが知られている。この例のように、説明変数と目的変数との関係は、理論的または経験的に、知られているか、または予測可能である部分がある。しかし、本実施形態において取扱対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物は、多くの場合において数多くの成分の混合物であり、その説明変数は多岐にわたる。そのため、農薬製剤用界面活性剤組成物に係る説明変数と目的変数との相関を人が特定することは非現実的であるか、または非常に困難である。そこで本実施形態では、説明変数と目的変数との複数の組を教師データとして用いて、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成し、これを活用する。
【0049】
教師データから学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズムは、特に限定されない。たとえば、サポートベクタマシン(回帰、分類)、決定木、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク(単純パーセプトロン、多層パーセプトロン)、ガウス過程回帰、ベイジアンネットワーク、k近傍法、ラッソ回帰、重回帰分析、リッジ回帰、エラスティックネット、部分的最小二乗回帰、などが例示されるが、これらに限定されない。
【0050】
〔第一の実施形態〕
第一の実施形態に係る推定方法は、農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を推定する推定方法であって、モデル生成工程と推定工程とを備える。なお、第一の実施形態に係る推定方法は、コンピュータを用いて実施される。
【0051】
モデル生成工程は、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成する工程である。第一の実施形態では、説明変数と目的変数との対応関係が実験やシミュレーションなどの方法によって明らかにされているデータ群を、教師データとして使用する。
【0052】
教師データを実験によって得る場合、まず、製造条件、すなわち説明変数が異なる農薬製剤用界面活性剤組成物を複数作製する。このとき、説明変数として使用する製造条件を記録しておく。次に、作製した複数の農薬製剤用界面活性剤組成物について、当該農薬製剤用界面活性剤組成物に要求される性能を表す物性値、すなわち目的変数を測定し、これを記録する。以上の操作により、説明変数と目的変数との複数の組である教師データが得られる。なお、教師データを構成する変数の一部または全部をシミュレーションによって得てもよいが、学習済みモデルを利用することなく説明変数と目的変数との関係を明らかにできるのであれば、学習済みモデルを生成する利益が小さいことに留意するべきである。
【0053】
得るべき教師データの数は、使用する説明変数と目的変数との組合せ、要求される推定の精度、学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズム、などに応じて適宜決定されうる。
【0054】
モデル生成工程において、説明変数が、農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含むことが好ましい。農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる化合物の化学種およびその含有割合は、農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を決定づける要素として特に支配的だからである。また、前述のように化学種の分子構造から求められる分子記述子を化学種情報とすると、好適な目的変数を与えうる化学種を体系的に理解できるため、より好ましい。
【0055】
目的変数は、本実施形態に係る推定方法の目的に応じた物性値が選択されうる。上記に例示した物性値は、いずれも本実施形態に係る推定方法における目的変数の好ましい例である。
【0056】
得られた教師データに対して上記のアルゴリズムを適用して、学習済みモデルを得る。典型的には、得られた教師データの一部を訓練データとして学習済みモデルを得るとともに、残りをテストデータとして得られた学習済みモデルの検証を行う。このとき、得られた学習済みモデルの妥当性が低い場合は、学習に用いる説明変数の数を変更する、説明変数に主成分分析等による次元削減を施す、教師データを追加または変更する、アルゴリズムを適用する際のパラメータを変更する、などの措置を行い、学習済みモデルの妥当性の向上を図る。なお、教師データに対して適宜前処理を加えてもよい。
【0057】
推定工程は、生成工程において生成した学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件(以下、所与の製造条件と称する。)を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数の推定値を出力する工程である。
【0058】
従来は、所与の製造条件により得られる農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を検証するためには、実際に農薬製剤用界面活性剤組成物および農薬製剤を製造して物性値を測定する必要があった。一方、本実施形態によれば、所与の製造条件により得られる農薬製剤用界面活性剤組成物の目的変数を、学習モデルを用いて推定するので、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を、農薬製剤用界面活性剤組成物および農薬製剤の製造および物性測定を行うことなく検証できる。これによって、好適な農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0059】
なお、上記の生成工程および推定工程に対応する機能をコンピュータに実現させうる推定プログラムも、本発明の一つの実施形態である。また、この推定プログラムを記憶している記憶装置、および、この推定プログラムを実行する演算装置、を備える推定装置も、本発明の一つの実施形態である。
【0060】
〔第二の実施形態〕
第二の実施形態に係る推定方法は、複数の説明変数の候補の中から、所定の基準を満たす農薬製剤用界面活性剤組成物を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力する推定方法であって、生成工程、推定工程、および出力工程を備える。なお、第二の実施形態に係る推定方法は、コンピュータを用いて実施される。
【0061】
第二の実施形態に係る推定方法では、生成済みの学習済みモデルを使用する。ここでは、第一の実施形態に係る推定方法のモデル生成工程において生成された学習済みモデルを使用するものとして説明する。
【0062】
生成工程は、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数を複数生成する工程である。本実施形態に係る推定方法では、最終的に、所定の基準を満たす農薬製剤用界面活性剤組成物を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力することになるが、生成工程ではその候補群となる説明変数を生成する。
【0063】
生成工程において説明変数を複数生成する方法、および生成される説明変数の数は特に限定されない。ただし、生成工程において生成する説明変数が多いほど、推定工程および出力工程における演算処理量が増加する一方で、好適な解が得られる可能性が高くなる。説明変数の生成は、人為的な方法により、または演算処理により実施されうるが、これらに限定されない。
【0064】
推定工程は、学習済みモデルを用いて、生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する工程である。第一の実施形態における推定工程と比較すると、学習済みモデルに与えられる説明変数の出自に差があるが、学習済みモデルに説明変数を与えて目的変数の推定値を得る、という手順自体は同一である。
【0065】
出力工程は、所定の基準を満たす農薬製剤用界面活性剤組成物を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力する工程である。所定の基準は、たとえば、農薬製剤用界面活性剤組成物に望まれる性能に基づいて決定される基準である。出力工程において出力される解は、一例として、単数または複数の所定の物性値(目的変数)が所定の基準値を超える農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数、所定の物性値(目的変数)についての順位が所定の基準値を超える農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数、などの基準で選択された説明変数でありうる。
【0066】
出力工程では、まず、推定工程において出力された複数の説明変数のうち、所定の基準を満たす目的変数を特定する。次に、特定された目的変数について、その目的変数を出力するために学習済みモデルに入力された説明変数を特定する。そして、ここで特定された説明変数が、解として出力される。
【0067】
従来は、所望の性能を発揮する農薬製剤用界面活性剤組成物を得るためには、種々の製造条件による種々の農薬製剤用界面活性剤組成物および農薬製剤を製造して物性値を測定し、製造条件と性能との相関を明らかにして、好適な製造条件を特定する必要があった。一方、本実施形態によれば、所望の性能を発揮する農薬製剤用界面活性剤組成物が得られうる製造条件(説明変数)を、学習モデルを用いて推定するので、農薬製剤用界面活性剤組成物および農薬製剤の製造および物性測定を行うことなく好適な製造条件を特定しうる。これによって、好適な農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0068】
なお、上記の生成工程、推定工程、および出力工程に対応する機能をコンピュータに実現させうる推定プログラムも、本発明の一つの実施形態である。また、この推定プログラムを記憶している記憶装置、および、この推定プログラムを実行する演算装置、を備える推定装置も、本発明の一つの実施形態である。さらに、上記の生成工程、推定工程、および出力工程に加えて、出力工程において解として出力された説明変数に基づいて農薬製剤用界面活性剤組成物を製造する製造工程を備える製造方法によって農薬製剤用界面活性剤組成物が製造された場合、その農薬製剤用界面活性剤組成物も本発明の一つの実施形態である。さらに、製造された農薬製剤用界面活性剤組成物を含む農薬製剤も本発明の一つの実施形態でありうる。
【0069】
(変形例1:最適化アルゴリズムの利用)
より好適な解を得るためには、生成工程および推定工程を複数回実行することが好ましい。一例として、遺伝的アルゴリズム(最適化アルゴリズムの一例である。)を用いる方法を説明する。
【0070】
一回目の生成工程および推定工程の手順は、上記の説明の通りである。ここで、一回目の生成工程において生成された説明変数の群を第一世代の説明変数群といい、一回目の推定工程において出力された目的変数の群を第一世代の目的変数群ということにする。ここで、第一世代の目的変数群のうち、出力工程における所定の基準への適応度が上位にある所定数の目的変数を特定し、特定された目的変数を与える説明変数の群を特定する。これを、第一世代の解ということにする。なお、以降もn回目に生成される説明変数群、目的変数群、および解について、第n世代の用語を用いる。
【0071】
第一世代の解は、第一世代の説明変数群のうち好適な性能(目的変数)の農薬製剤用界面活性剤組成物を与える説明変数の群であるから、第一世代の解が得られている時点で、好適な製造条件がある程度絞り込まれているといえる。その一方で、第一世代の解は、あくまで第一世代の説明変数群から選択された好適範囲であり、取りうる説明変数群の全体に対する好適範囲ではない。そのため、第一世代の説明変数群自体が好適な範囲を大きく外れている場合は、第一世代の解は、取りうる説明変数群の全体の中では、それほど好適な範囲だと言えない可能性がある。また、第一世代の解の中においても、最適化の余地が残されている場合がある。
【0072】
そこで、二回目の生成工程では、第一世代の解に基づいて再び説明変数群(第二世代の説明変数群)を複数生成する。具体的には、第一世代の解を中心として探索範囲を広げる形で、説明変数群を生成する。すなわち、第一世代の説明変数群が、手がかりがない、または手がかりが乏しい状態で取りうる説明変数群の全体から網羅的に抽出された説明変数の候補であるのに対し、第二世代の説明変数群は、第一世代の解という一応の指針に基づいて絞り込まれた範囲から抽出された説明変数の候補である。したがって、第二世代の説明変数群は、第一世代の説明変数群に比べて、より好適な解を含む期待度が高いといえる。
【0073】
このように生成された第二世代の説明変数群を用いて二回目の推定工程を実施すると、第二世代の目的変数群が得られる。また、一回目と同様に、第二世代の解も得られる。以下同様に、生成工程と推定工程とを繰り返して、第三世代、第四世代と順次世代を重ねていくと、得られる解がより好適な範囲に絞り込まれることを期待できる。
【0074】
なお、ここまで最適化アルゴリズムの一例として遺伝的アルゴリズムを適用した例を説明したが、利用可能な最適化アルゴリズムは遺伝的アルゴリズムに限定されない。たとえば、ベイズ最適化、最急降下法なども、利用可能な最適化アルゴリズムの例である。
【0075】
(変形例2:学習済みモデルの再生成)
上記のように生成工程、推定工程、および出力工程を実施すると、解(第一の解と称する。)として説明変数が出力される。ここで出力される説明変数は、好適な性能(目的変数)の農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示すことが期待されるものではあるが、実際に当該製造条件により製造された農薬製剤用界面活性剤組成物が、実際には好適な性能を発現しない場合がある。この場合は、学習済みモデルの精度に改善の余地があるといえる。
【0076】
そこで、モデル再生成工程をさらに実施することが好ましい。モデル再生成工程は、第一の解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、学習済みモデルを再生成する工程である。すなわち、第一の解として出力された説明変数に対する実際の評価(典型的には実験的な実証)を加えて、その結果を反映して学習済みデータを再生成(更新)するのである。
【0077】
なお、再生成工程を実施して学習済みモデルを再生成したのちは、生成工程、推定工程、および出力工程を再度実施して、再び解(第二の解と称する。)を得てもよい。再生成工程を経て学習済みモデルを再生成しているので、第二の解は、第一の解とは異なる可能性がある。そして、再生成工程を経て学習済みモデルの精度が向上していることが期待されるので、第二の解は、第一の解に比べてより好適な解であることが期待される。
【0078】
なお、第二の解によっても満足な性能が得られない場合は、第二の解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の組を用いてモデル再生成工程を再び行えばよい。すなわち、解の出力、解の検証、および、検証結果の学習済みモデルへのフィードバック、を繰り返して、学習済みモデルの精度を向上できる。
【0079】
第一の変形例(最適化アルゴリズムの利用)と第二の変形例(学習済みモデルの再生成)とは、同時に適用されうる。この場合は、たとえば、生成工程、推定工程、および出力工程の組を複数世代繰り返して解を得る段階と、得られた解を用いて再生成工程を行なって学習済みモデルを更新する段階と、を交互に繰り返す。
【0080】
〔農薬製剤用界面活性剤組成物および農薬製剤〕
上記の第二の実施形態に係る推定方法によって出力された説明変数によって特定される製造方法に従って製造される農薬製剤用界面活性剤組成物は、本発明に係る農薬製剤用界面活性剤組成物の一実施形態である。また、当該農薬製剤用界面活性剤組成物を含む農薬製剤は、本発明に係る農薬製剤の一実施形態である。
【0081】
〔その他の実施形態〕
本発明は、一態様として、農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を推定する推定方法であって、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、前記学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を示す目的変数の推定値を出力する推定工程と、を備えることを特徴とする推定方法でありうる。
【0082】
当該推定方法は、一態様として、前記目的変数が、農薬製剤用界面活性剤組成物を含む農薬製剤の、乳化性、乳化安定性、自己乳化性、再乳化性、製剤安定性、製剤粘度、乳化粒子径、粒子径、粒子成長率、主剤安定性、分散性、分散安定性、希釈分散安定性、水和性、懸垂性、起泡性、崩壊性、製剤硬度、溶出性、拡展性、湿展性、浸透性、造粒性、拡展挙動、色相、除草性、殺虫性、殺菌性、展着性、および浸透移行性からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含むものでありうる。
【0083】
本発明は、一態様として、農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を推定する推定プログラムであって、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させることを特徴とする推定プログラムでありうる。
【0084】
本発明は、一態様として、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムは、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させることを特徴とする推定装置でありうる。
【0085】
本発明は、一態様として、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、所定の基準に基づいて、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、を備えることを特徴とする推定方法でありうる。
【0086】
本発明は、一態様として、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、所定の基準に基づいて、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの最良の目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該最良の目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることを特徴とする推定プログラムでありうる。
【0087】
本発明は、一態様として、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムは、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、所定の基準に基づいて、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの最良の目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該最良の目的変数を生成する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることを特徴とする推定装置でありうる。
【0088】
本発明は、一態様として、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、所定の基準に基づいて、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、前記出力工程において解として出力された説明変数に基づいて、農薬製剤用界面活性剤組成物を製造する製造工程と、を備える製造方法によって製造されることを特徴とする農薬製剤用界面活性剤組成物でありうる。
【0089】
本発明は、一態様として、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数をコンピュータに複数生成させる生成工程と、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を前記コンピュータに出力させる推定工程と、所定の基準に基づいて、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として前記コンピュータに出力させる出力工程と、前記出力工程において前記コンピュータに解として出力させた説明変数に基づいて、農薬製剤用界面活性剤組成物を製造する製造工程と、を備える製造方法によって製造され、前記目的変数が、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含むフロアブル剤の粒子成長率、および、前記農薬製剤用界面活性剤組成物を含む乳剤の分離量、の少なくとも一つを含む農薬製剤用界面活性剤組成物でありうる。この構成によれば、好適な性能を発現する期待度が高い農薬製剤用界面活性剤組成物を、従来に比べて容易に実現できる。
【0090】
本発明は、一態様として、上記の農薬製剤用界面活性剤組成物を含む農薬製剤でありうる。この構成によれば、好適な性能を発現する期待度が高い農薬製剤を、従来に比べて容易に実現できる。
【0091】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0092】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0093】
〔実施例1〕フロアブル剤向け農薬製剤用界面活性剤組成物の最適組成の推定
(教師データ作成用試料)
それぞれ異なる条件(説明変数)で、農薬原体として除草剤を含むフロアブル剤(農薬製剤の一例である。)を29種類作製した。フロアブル剤の組成は、ブロモブチド(除草剤原体である。)50質量%、農薬製剤用界面活性剤組成物7.0質量%、1%キサンタンガム水溶液10質量%、消泡剤0.10質量%、市水33質量%とした。なお、合計が100質量%を超えているのは、フロアブル剤の組成を有効数字二桁の数値で特定したためである。試料間で変更した説明変数は、農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる成分の化学種情報および割合情報、ならびに、農薬製剤製造時の温度、粉砕媒体、および粉砕時間、とした。
【0094】
(粒子成長率の評価)
上記の29種類のフロアブル剤のそれぞれについて、次の手順で粒子成長率を評価した。まず、製造直後のフロアブル剤の粒子径を、レーザー回折粒度分布計(堀場製作所製LA-920)を用いて測定した。次に、フロアブル剤を設定温度54℃の恒温器に静置した。2週間経過後にフロアブル剤を恒温器から取り出し、製造直後と同様の方法で粒子径を測定した。2週間後の粒子径と製造直後の粒子径との差の製造直後の粒子径に対する割合(百分率)を、測定対象のフロアブル剤の粒子成長率とした。
【0095】
(教師データ)
以上の試料作製および測定により、農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる成分の化学種情報および割合情報、ならびに、農薬製剤製造時の温度、粉砕媒体、および粉砕時間を説明変数とし、粒子成長率を目的変数とする教師データを得た。なお、化学種情報には分子記述子が含まれており、分子記述子はSMILES記法で表した各化合物の分子構造から、Python環境下でケモインフォマティクスツールRDKitを用いて求めた。
【0096】
〔学習済みモデルの生成および検証〕
Python環境下で機械学習ライブラリscikit-learnを用いて、上記の教師データを用いた学習済みモデルの生成および検証を行った。学習済みモデルの生成に使用するアルゴリズムの候補を、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクタ回帰、およびランダムフォレストの5種類とし、クロスバリデーションのフォールド数5以上15以下および使用する説明変数の個数5以上15以下を探索範囲として複数の学習済みモデルを生成した。生成した学習済みモデルのうち、決定係数Rが最も大きくなる学習済みモデルを採用した。採用された学習済みモデルにおける説明変数のうち重要度が高いものは、たとえば、農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる成分の化学種情報および割合情報だった。
【0097】
採用された学習済みモデルの妥当性を検証した結果を図1に示す。図1に示したグラフは、教師データを構成する各データについて、粒子成長率の実測値を横軸に取り、採用された学習済みモデルを用いて説明変数から推定された粒子成長率の推定値を縦軸に取ったものである。採用された学習済みモデルの決定係数Rは0.83であり、実用上十分な予測精度を有することを確認した。
【0098】
〔説明変数群の生成〕
次に、好適な農薬製剤用界面活性剤組成物を得るための製造条件を解として得る推定に供する説明変数群の生成を行った。説明変数の生成は、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによって実施した。それぞれの説明変数について範囲をあらかじめ設定し、この範囲内で各条件がランダムで決定されるようにして初期集団を生成した。適応度は、上記の学習済みモデルを用いて推定される粒子成長率が小さい順に適応度が高いと評価した。次世代に残す個体の選択は、エリート保存戦略によることとした。終了条件は、発生世代数が100に達した時とした。
【0099】
〔好適な製造条件の推定および検証〕
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、上記の学習済みモデルを用いて粒子成長率を推定した。得られた粒子成長率の推定値のうち、小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択した。第一候補の説明変数から推定される粒子成長率は25.1%であり、第二候補の説明変数から推定される粒子成長率は27.5%だった。いずれの候補においても、推定された粒子成長率は従来技術に比して低い値だとは言い難く、学習済みモデルに改善の余地があることがわかった。
【0100】
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従って農薬製剤用界面活性剤組成物を実際に製造し、得られた農薬製剤用界面活性剤組成物を配合して製造したフロアブル剤の粒子成長率を実際に測定した。粒子成長率の実測値は、第一候補の製造条件について18.9%であり、第二候補の製造条件について22.3%だった。いずれの候補も推定値と実測値との乖離が大きく、推定精度の点からも学習済みモデルに改善の余地があることがわかった。
【0101】
〔学習済みモデルの改善〕
続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測の粒子成長率との組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。さらに、再生成した学習済みモデルを用いて、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによる説明変数の生成を行なった。適応度、次世代に残す個体の選択、および終了条件は、一回目の説明変数群の生成と同様にした。
【0102】
新たな説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いて粒子成長率を推定した。一回目の推定と同様に小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定される粒子成長率は21.2%であり、第四候補の説明変数から推定される粒子成長率は26.5%だった。一回目の推定に比べると粒子成長率の推定値が小さくなったものの、十分に小さい値だとはいえず、依然として学習済みモデルに改善の余地があることがわかった。
【0103】
第三候補および第四候補についても同様に、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造、フロアブル剤の製造、および粒子成長率の測定を行った。粒子成長率の実測値は、第三候補について17.8%であり、第四候補について23.8%だった。いずれの候補も推定値と実測値との乖離が大きく、推定精度の点からも学習済みモデルに改善の余地があることがわかった。
【0104】
続いて、第三候補および第四候補について得られた説明変数と実測の粒子成長率との組を用いて、学習済みモデルの二回目の再生成および説明変数群の生成を行った。
【0105】
新たな説明変数群に含まれる各説明変数について、二回目の再生成に係る学習済みモデルを用いて粒子成長率を推定した。一回目および二回目の推定と同様に小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第五候補および第六候補とした。第五候補の説明変数から推定される粒子成長率は15.2%であり、第六候補の説明変数から推定される粒子成長率は18.5%だった。特に第五候補について、粒子成長率を低減しうる農薬製剤用界面活性剤組成物を与えることが期待された。
【0106】
第五候補および第六候補についても同様に、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造、フロアブル剤の製造、および粒子成長率の測定を行った。粒子成長率の実測値は、第五候補について16.4%であり、第六候補について17.2%だった。一回目および二回目の推定に比べて推定値と実測値との乖離が小さくなっており、学習済みモデルの改善を確認できた。
【0107】
なお、従来の実験的手法により粒子成長率の最小化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに29点の実験(農薬製剤用界面活性剤組成物の製造、フロアブル剤の製造、および粒子成長率の測定)を要した。また、従来の実験的手法を経て得られた対照試料では粒子成長率が18.7%であり、第五候補および第六候補に劣る水準だった。第五候補および第六候補では、従来の実験的手法により求められる解より高い水準の農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を、わずか6点の実測を経て特定できた。すなわち、本発明によって、従来の実験的手法により得られうる水準を超える解に大規模な実験を伴うことなくたどり着くことができたといえる。これによって、新規の農薬製剤用界面活性剤組成物の開発に要する工数、時間、および費用を低減しうると期待される。
【0108】
〔実施例2〕乳剤向け農薬製剤用界面活性剤組成物の最適組成の推定
(教師データ作成用試料)
それぞれ異なる条件(説明変数)で、農薬原体として殺虫剤を含む乳剤(農薬製剤の一例である。)を23種類作製した。クロルピリホス(殺虫剤原体である。)60質量%、農薬製剤用界面活性剤組成物5.0質量%、およびキシレン35質量%の混合物し、乳剤を得た。試料間で変更した説明変数は、農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる成分の化学種情報および割合情報、上記混合物と水との比率、ならびに、農薬製剤製造時の温度、とした。
【0109】
(分離量の評価)
上記の23種類の乳剤のそれぞれについて、次の手順で分離量を評価した。まず、100mlメスシリンダーに95mlの3度硬水を入れ、これを30℃に温調した恒温水槽において1時間静置した。静置後、恒温水槽からメスシリンダーを取り出し、マイクロピペットを用いて製造直後の乳剤5mlを滴下し、蓋をしたのち、1秒に1回の速さで10回転倒して乳化液を調製した。10回の転倒操作を終えた後の乳化液をメスシリンダーから懸垂管に移し替え、これを30℃の恒温水槽にて2時間静置した。2時間後に、懸垂管の下部に分離した層の体積を、懸垂管の目盛りに基づいて読み取り、これを測定試料の分離量とした。
【0110】
(教師データ)
以上の試料作製および測定により、農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる成分の化学種情報および割合情報、混合物と水との比率、ならびに、農薬製剤製造時の温度、を説明変数とし、分離量を目的変数とする教師データを得た。なお、化学種情報には分子記述子が含まれており、分子記述子はSMILES記法で表した各化合物の分子構造から、Python環境下でケモインフォマティクスツールRDKitを用いて求めた。
【0111】
〔学習済みモデルの生成および検証〕
Python環境下で機械学習ライブラリscikit-learnを用いて、上記の教師データを用いた学習済みモデルの生成および検証を行った。学習済みモデルの生成に使用するアルゴリズムの候補を、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクタ回帰、およびランダムフォレストの5種類とし、クロスバリデーションのフォールド数5以上15以下および使用する説明変数の個数5以上15以下を探索範囲として複数の学習済みモデルを生成した。生成した学習済みモデルのうち、決定係数Rが最も大きくなる学習済みモデルを採用した。採用された学習済みモデルにおける説明変数のうち重要度が高いものは、たとえば、農薬製剤用界面活性剤組成物に含まれる成分の化学種情報および割合情報だった。
【0112】
採用された学習済みモデルの妥当性を検証した結果を図2に示す。図2に示したグラフは、教師データを構成する各データについて、分離量の実測値を横軸に取り、採用された学習済みモデルを用いて説明変数から推定された分離量の推定値を縦軸に取ったものである。採用された学習済みモデルの決定係数Rは0.87であり、実用上十分な予測精度を有することを確認した。
【0113】
〔説明変数群の生成〕
次に、好適な農薬製剤用界面活性剤組成物を得るための製造条件を解として得る推定に供する説明変数群の生成を行った。説明変数の生成は、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによって実施した。それぞれの説明変数について範囲をあらかじめ設定し、この範囲内で各条件がランダムで決定されるようにして初期集団を生成した。適応度は、上記の学習済みモデルを用いて推定される分離量が小さい順に適応度が高いと評価した。次世代に残す個体の選択は、エリート保存戦略によることとした。終了条件は、発生世代数が100に達した時とした。
【0114】
〔好適な製造条件の推定および検証〕
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、上記の学習済みモデルを用いて分離量を推定した。得られた分離量の推定値のうち、小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択した。第一候補の説明変数から推定される分離量は0.12mLであり、第二候補の説明変数から推定される分離量は0.19mLだった。いずれの候補においても、推定された分離量は従来技術に比して低い値だとは言い難く、学習済みモデルに改善の余地があることがわかった。
【0115】
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従って農薬製剤用界面活性剤組成物を実際に製造し、得られた農薬製剤用界面活性剤組成物を配合して製造した乳剤の分離量を実際に測定した。分離量の実測値は、第一候補の製造条件について0.22mLであり、第二候補の製造条件について0.20mLだった。
【0116】
〔学習済みモデルの改善〕
続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測の分離量との組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。さらに、再生成した学習済みモデルを用いて、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによる説明変数の生成を行なった。適応度、次世代に残す個体の選択、および終了条件は、一回目の説明変数群の生成と同様にした。
【0117】
新たな説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いて分離量を推定した。一回目の推定と同様に小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定される分離量は0.07mLであり、第四候補の説明変数から推定される分離量は0.18mLだった。
【0118】
第三候補および第四候補についても同様に、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造、乳剤の製造、および分離量の測定を行った。分離量の実測値は、第三候補について0.17mLであり、第四候補について0.11mLだった。
【0119】
続いて、第三候補および第四候補について得られた説明変数と実測の分離量との組を用いて、学習済みモデルの二回目の再生成および説明変数群の生成を行った。
【0120】
新たな説明変数群に含まれる各説明変数について、二回目の再生成に係る学習済みモデルを用いて分離量を推定した。一回目および二回目の推定と同様に小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第五候補および第六候補とした。第五候補の説明変数から推定される分離量は0.02mLであり、第六候補の説明変数から推定される分離量は0.03mLだった。第五候補および第六候補について、分離量を低減しうる農薬製剤用界面活性剤組成物を与えることが期待された。
【0121】
第五候補および第六候補についても同様に、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造、乳剤の製造、および分離量の測定を行った。分離量の実測値は、第五候補について0.03mLであり、第六候補について0.08mLだった。
【0122】
なお、従来の実験的手法により分離量の最小化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに25点の実験(農薬製剤用界面活性剤組成物の製造、乳剤の製造、および分離量の測定)を要した。また、従来の実験的手法を経て得られた対照試料では分離量が0.04mLであり、第五候補と同等の水準だった。第五候補では、従来の実験的手法により求められる解と同等の水準の農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を、わずか6点の実測を経て特定できた。すなわち、本発明によって、従来の実験的手法により得られうる水準と同等の解に大規模な実験を伴うことなくたどり着くことができたといえる。これによって、新規の農薬製剤用界面活性剤組成物の開発に要する工数、時間、および費用を低減しうると期待される。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、たとえば農薬製剤用界面活性剤組成物の性能の推定および好適な農薬製剤用界面活性剤組成物を与える製造条件の推定に利用できる。

【要約】
【課題】好適な性能を発現する農薬製剤用界面活性剤組成物を推定する。
【解決手段】農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を推定する推定方法であって、農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数と、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする農薬製剤用界面活性剤組成物の製造条件を示す説明変数から、当該農薬製剤用界面活性剤組成物の特性を示す目的変数の推定値を出力する推定工程と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2