IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジキンの特許一覧

<>
  • 特許-制御器及び気化供給装置 図1
  • 特許-制御器及び気化供給装置 図2
  • 特許-制御器及び気化供給装置 図3
  • 特許-制御器及び気化供給装置 図4
  • 特許-制御器及び気化供給装置 図5
  • 特許-制御器及び気化供給装置 図6
  • 特許-制御器及び気化供給装置 図7
  • 特許-制御器及び気化供給装置 図8
  • 特許-制御器及び気化供給装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】制御器及び気化供給装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 7/12 20060101AFI20240328BHJP
   F16K 7/17 20060101ALI20240328BHJP
   B01J 7/02 20060101ALN20240328BHJP
【FI】
F16K7/12 A
F16K7/17 C
B01J7/02 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023510759
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2022010096
(87)【国際公開番号】W WO2022209639
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2021063133
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】日高 敦志
(72)【発明者】
【氏名】田中 一輝
(72)【発明者】
【氏名】中谷 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】森崎 和之
(72)【発明者】
【氏名】北野 真史
(72)【発明者】
【氏名】平田 薫
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-25293(JP,A)
【文献】特開2020-45917(JP,A)
【文献】特開2004-263576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/12
F16K 7/17
F16J 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
前記弁座の材質は、ニッケル又はニッケル合金を含む、請求項1に記載の制御器。
【請求項11】
原料を加熱して気化させる気化器と、
前記気化器によって気化された気体の流れを制御する、請求項1~10の何れかに記載の制御器と、
を備える気化供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を制御する制御器、及び、気化器で気化させたガスの流れを前記制御器により制御して供給する気化供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や化学プラント等において、流体を制御する制御器、及び気化供給装置が知られている。(特許文献1、2等)。前記制御器は、流路を備えるボディと、前記流路に介在された弁座と、前記弁座に当離座するダイヤフラムと、前記ダイヤフラムを前記弁座に当離座させるアクチュエータと、を備える。前記気化供給装置は、液体原料を加熱して気化させる気化器と、気化したガスを制御するための前記制御器とを備える。
【0003】
前記ダイヤフラムは、極薄金属板で形成される。この種のダイヤフラムは、弁座とのシール性の向上を図るため、及び、ある種のガスとの接触による腐食を防止するため、弁座に当接する側の面に合成樹脂被膜を備える。前記合成樹脂被膜として、例えばフッ素樹脂が用いられる。また、ボディの材質は、耐食性に優れるステンレス鋼が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/067891号パンフレット
【文献】国際公開第2016/174832号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記気化供給装置に組み込まれている一部の制御器において、前記合成樹被膜の一部を消失することがあった。前記合成樹脂被膜の消失は、弁座と接触する部分の一部に生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意研究の結果、前記制御弁が制御すべき流体(原料ガス)に本来含まれていないはずの酸素や水蒸気が存在している可能性があること、原料ガスに本来含まれていないはずの酸素や水蒸気が含まれている場合に前記合成樹脂被膜の分解開始温度が低下すること、及び、弁座の材質を変えることで前記合成樹脂被膜の分解開始温度を高めることができること、を見出した。
【0007】
例えば、気化供給装置が組み込まれる半導体製造ラインでは、気化供給装置の下流側にガス供給ラインを介してプロセスチャンバが接続され、気化供給装置の上流側から原料液供給ラインを介してTEOS(Tetraethyl orthosilicate)等の液体原料が気化供給装置に供給される。前記ガス供給ラインには、酸素ガスを供給する酸素供給ラインが接続される場合があり、供給された酸素ガスが前記ガス供給ラインを通じて上流側に逆流し、気化供給装置の制御器まで到達する可能性があった。また、前記原料液供給ラインに水分が混入する可能性があった。このような場合に、制御器で制御される原料ガスに本来含まれていないはずの酸素や水蒸気が含まれている可能性があった。
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、制御器は、流入路及び流出路を備えるボディと、前記流入路と前記流出路との間に設けられた弁座と、前記弁座に当離座可能なダイヤフラムと、前記ダイヤフラムを前記弁座に当離座させるアクチュエータと、を備え、前記弁座の材質は、ニッケルをベースとし、前記ダイヤフラムは、前記弁座に当接する側の面に合成樹脂被膜を備える。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、前記弁座の材質は、ニッケル又はニッケル合金を含む。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、前記弁座は前記ボディの一部である。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、前記ボディに組み込まれる弁座体を更に備え、前記弁座は前記弁座体の一部であり、前記ボディの材質はステンレス鋼である。
【0012】
本発明の他の一態様によれば、前記弁座体を前記ボディに保持する保持体を更に備え、前記保持体及び前記ボディの材質はステンレス鋼である。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、前記弁座は、ニッケル以外の母材にニッケルメッキされている。
【0014】
本発明の他の一態様によれば、前記合成樹脂被膜は、フッ素樹脂被膜である。
【0015】
本発明の他の一態様によれば、前記弁座の材質は、ステンレス鋼よりも前記合成樹脂被膜の分解開始温度が高い材質である。
【0016】
本発明の他の一態様によれば、酸素原子を含む流体が前記合成樹脂被膜に接する状態で前記ダイヤフラムが駆動される。
【0017】
本発明の他の一態様によれば、前記酸素原子を含む流体は、酸素及び水蒸気を含む。
【0018】
また、本発明の一態様によれば、気化供給装置は、原料を加熱して気化させる気化器と、前記気化器によって気化された気体の流れを制御する本発明の前記制御器と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、弁座の材質を、ニッケルをベースとしたことにより、従来のステンレス鋼の弁座よりも合成樹脂被膜の分解開始温度を高くすることができる。そのため、気化供給装置のように高温流体を扱う制御器において、より高温の流体を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る気化供給装置の一実施形態を示す概略構成図である。
図2】本発明に係る制御器の一実施形態を示す一部拡大部分断面図である。
図3図2の部分拡大図である。
図4】PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)の熱分解挙動を示すグラフである。
図5】酸素及び水蒸気を含む流体中でのPFAの熱分解挙動を示すグラフである。
図6】フッ素系ガス(NF)の熱分解挙動を示すグラフである。
図7】本発明に係る制御器の他の実施形態を示す一部拡大部分断面図である。
図8】本発明に係る制御器の他の実施形態を示す一部拡大部分断面図である。
図9】本発明に係る制御器の他の実施形態を示す一部拡大部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、以下に図1図9を参照しつつ説明する。なお、全図及び全実施形態を通じて同一又は類似の構成要素については同符号を付している。
【0022】
図1は気化供給装置の一実施形態を示す概略構成図、図2は制御器の一実施形態を示す部分拡大図、図3図2の部分拡大図である。
【0023】
気化供給装置1は、気化器2と、気化器2に接続された制御器3とを備えている。気化器2は、供給された液体原料Lを加熱することにより気化させる。気化器2は、液体原料Lを、その種類に応じて気化に必要な温度に加熱することができる。気化された原料ガスGは、制御器3で制御されて、気化器2の下流側に接続されるプロセスチャンバ4等に供給される。図中、符号5は真空ポンプを示している。
【0024】
制御器3は、流入路6及び流出路7を備えるボディ8と、流入路6と流出路7との間に設けられた弁座9と、弁座9に当離座可能なダイヤフラム10と、ダイヤフラム10を弁座9に当離座させるアクチュエータ11と、を備えている。
【0025】
アクチュエータ11は、軸方向に往復動可能に支持されステム12と、ステム12を作動させる駆動源13とを備える。駆動源13は、図示例では、エアシリンダを内蔵するエア駆動源であるが、オイルシリンダを備える油圧駆動源、電磁石を備える電磁式駆動源、圧電素子を備える圧電式駆動源等の公知の駆動源とすることができる。ステム12は、ダイヤフラム10に当接する押え14を備えている。コイルバネ15は、ステム12を図の下方へ付勢する。
【0026】
ダイヤフラム10は、極薄金属板により円形の皿状に形成されている。ダイヤフラム10の母材の材質は、スプロン等の金属(合金を含む。)である。ダイヤフラム10は、例えば、直径5~50mm、厚さ20~400μmである。
【0027】
図3に示された弁座9は、ボディ8に組み込まれた弁座体16の一部である。具体的には、弁座体16の頂部が、ダイヤフラム10と当座する弁座9である。弁座体16は、円環形状を有している。弁座体16は、ボディ8の第1収容部17に収容され、保持体18によって保持されている。弁座体16と保持体18とは、互いに係合し合う段部19、20を備えている。
【0028】
保持体18は、ボディ8の第2収容部21に収容されている。保持体18は、中央孔22と、複数の周囲孔23とを備える。中央孔22の内周面に弁座体16が係合する。複数の周囲孔23は、流入路6と連通する。
【0029】
ダイヤフラム10の周縁部は、保持体18とリングガスケット24との間に挟まれている。リングガスケット24は、ボンネット25によってボディ8に押圧されている。ボンネット25は、ボディ8に螺締されたナット26によって、ボディ8に固定されている。保持体18は、ガスケットとしての機能も有する。
【0030】
ダイヤフラム10は、弁座9に当接する側の面に、合成樹脂被膜27を備える。合成樹脂被膜27は、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、非粘着性、絶縁性、耐候性などに優れるフッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂は、例えば、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、PTFE樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)、或いは、FEP樹脂(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)である。
【0031】
合成樹脂被膜27の厚さは、例えば、20~50μm程度、好ましくは、30~35μmである。合成樹脂被膜27は、例えば、フッ素樹脂被膜の下層に、ダイヤフラム10の母材金属との接着層を設けることができる。前記接着層は、例えば、厚さ5~10μmのPAI(ポリアミドイミド)の層をエージング熱処理により設けることができる。
【0032】
図4は、PFAの熱分解挙動に関し、PFAが接触する表面の材質に対する依存性を評価した試験結果を示すグラフである。グラフの横軸が温度、縦軸が吸光度である。評価試験では、PFAのテストピースを、不活性ガス(アルゴンガス)の雰囲気中で4種類の材質と接触させ、PFAの熱分解によって生じたガスの成分(C,C-O-Rf)をフーリエ変換赤外分光光度計によって測定した。図4のグラフから分かるように、PFAの分解開始温度は、ステンレス鋼(SUS316L)及びAlと接触させた場合より、Ni又はNiFと接触させた場合の方が高い。
【0033】
次に、上記の評価試験を、酸素濃度20%及び水蒸気1%を含む空気雰囲気中で行った結果を図5のグラフに示す。図5のグラフは、図4のグラフに比べて、PFAの熱分解開始温度が下がっている。これは、酸素及び水蒸気のPFA樹脂に対する酸化分解反応促進作用により、PFAの熱分解が促進されているためと考えられる。また、図5のグラフは、酸素及び水蒸気を含む雰囲気中であっても、PFAの分解開始温度が、ステンレス鋼よりNiの方が高いことを示している。
【0034】
図6は、フッ素系ガス(NF)の熱分解挙動の接触表面依存性を示すグラフである。グラフの横軸は温度、縦軸はNFガス濃度である。図6のグラフにおいて、フッ素ガスを接触させた表面の材質は、Ni,ハステロイ、及び、ステンレス鋼(SUS316L)である。ハステロイ(HASTELLOY-C22)の組成(質量%)は、Fe:4.0、Cr:21.2、Ni:54.7、Mo:13.5、Co:2.5以下、W:4.5である。ステンレス鋼(SUS316L-EP)の組成(質量%)は、Cr:17.2、Ni:15.1、Mo:2.8、残部がFeである。図6のグラフから、Ni含有量が多いほど、フッ素系ガス(NF)の分解開始温度が高いことが分る。これは、Niが他の金属に比べて、フッ素原子との反応性が低いためと考えられる。
【0035】
上記より、本発明に於いては、合成樹脂被膜27と接触する弁座9の材質として、ステンレス鋼より合成樹脂被膜27の分解開始温度が高い材質が用いられ、ニッケルをベースとする材質が用いられる。特に、弁座9の材質は、酸素及び水蒸気の少なくとも何れかを含む流体と接触する状態においても、ステンレス鋼より合成樹脂被膜27の分解開始温度が高い材質が好ましい。本明細書において「ニッケルをベースとする材質」は、ニッケル又はニッケル合金を含む。ニッケル合金としては、ハステロイ、インバー、SPRON510、インコネル等のニッケル基合金を含む。
【0036】
図3に示す実施形態では、弁座体16の材質が、ニッケルをベースとする材質である。ニッケルやニッケル合金は、ステンレス鋼よりかなり高価であるため、好ましくは、保持体18及びボディ8の材質は、ステンレス鋼である。
【0037】
図7は、弁座体の他の実施形態を含む制御器を示す部分断面図である。弁座体16は、保持体18の環状凹部に嵌入されて、加締め等により、保持体18に保持されている。この例においても、弁座体16の材質がニッケルをベースとする材質であり、好ましくは、保持体18及びボディ8の材質がステンレス鋼である。
【0038】
図8は、弁座体の更に他の実施形態を含む制御器を示す部分断面図である。図8の弁座体16は、図7に示したような保持体18と別体ではなく、図7の保持体18と弁座体16とが一体となったような構成である。従って、図8の弁座体16は、中央孔22及び周囲孔23を備える。また、弁座体16の周縁部が、第2収容部21及びダイヤフラム10に当接し、ボディ8に固定される。また、弁座体16の中央孔22の周縁部が第1収容部17に載置される。この例では、弁座体16の材質はニッケルをベースとする材質であり、好ましくは、ボディ8の材質はステンレス鋼である。
【0039】
図3図7、及び図8に示す構成において、弁座体16は、母材をステンレスとし、その母材にニッケルメッキを施すこともできる。前記母材は、銅、鉄、或いは他のニッケル以外の金属とすることもできる。
【0040】
図9に示す実施形態は、弁座9がボディ8の一部である。従って、ボディ8の材質がニッケルをベースとする材質である。図9に示す構成においても、ボディ8は、母材をステンレスとし、その母材にニッケルメッキを施したものとすることができる。前記母材は、銅、鉄、或いは他のニッケル以外の金属とすることもできる。
【0041】
上記構成を備える制御器3は、高温下で酸素や水分を含む流体を制御する場合であっても、ステンレス製の弁座に比べて合成樹脂被膜27の分解開始温度が高い。そのため、気化供給装置のように高温流体を扱う制御器において、より高温の流体を制御することができる。
【0042】
特に半導体製造ラインの気化供給装置は、TEOS(Tetraethyl orthosilicate)等の液体原料を気化させて、気化した原料ガスをプロセスチャンバ4に供給する。本来は酸素や水蒸気を含まない原料ガスを気化供給装置からプロセスチャンバに供給する場合であっても、制御器を通るガスに酸素や水分が含まれる恐れがある。例えば、気化供給装置とプロセスチャンバとを接続するガス供給ラインの途中に、酸素供給ラインが接続される場合がある。そのような場合に、酸素が前記ガス供給ラインを逆流して気化供給装置に達する恐れがある。また、気化供給装置に液体原料を供給する原料液供給ラインに水分が混入する恐れもある。酸素や水蒸気のPFA樹脂に対する酸化分解反応促進作用によりダイヤフラムの合成樹脂被膜の分解開始温度が低下する。そのような状況であっても、本発明は、上記で説明したように、従来のステンレス製の弁座より、前記合成樹脂被膜の分解開始温度が高い。そのため、より高温の流体を供給することが可能となる。
【0043】
本発明は上記実施形態に限定解釈されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 気化供給装置
2 気化器
3 制御器
6 流入路
7 流出路
8 ボディ
9 弁座
10 ダイヤフラム
11 アクチュエータ
16 弁座体
18 保持体
27 合成樹脂被膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9