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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】炭酸ガスパック用キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20240328BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240328BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240328BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/73
A61K8/49
A61Q19/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023559051
(86)(22)【出願日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2023023346
【審査請求日】2023-09-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500214532
【氏名又は名称】株式会社アンプリー
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】谷 光正
(72)【発明者】
【氏名】小林 克己
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-107928(JP,A)
【文献】特開2023-91312(JP,A)
【文献】特表2001-527032(JP,A)
【文献】特開2014-181192(JP,A)
【文献】特開平6-321733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)とシート(C)を含む炭酸ガスパック用キットであり、
前記粘性組成物(A)は、炭酸塩、増粘剤、水、カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤、及び水難溶性カルシウム塩を含み、
前記二酸化炭素補助剤(B)は、加水分解されて酸を生じる物質を含み、
前記シート(C)には、水易溶性カルシウム塩が付着しており、
前記水難溶性カルシウム塩は、25℃でpH7.0の水に対する溶解度が3.7g/100ml未満であるカルシウム塩であり、
前記水易溶性カルシウム塩は、25℃でpH7.0の水に対する溶解度が3.7g/100ml以上であるカルシウム塩であり、
前記ゲル化剤は、アルギン酸ナトリウム、カラゲニン、タラガム、及びローカストビーンガムからなる群から選択される1種以上であり、
前記加水分解されて酸を生じる物質は、グルコノデルタラクトン、パントラクトン、D,L-又はL-ラクチド、及びD,L-又はL-グリコリドからなる群から選択される1種以上であり、
前記シート(C)は、繊維で構成される繊維シートであることを特徴とする炭酸ガスパック用キット。
【請求項2】
前記シート(C)は、前記水易溶性カルシウム塩の付着量が1.0~100g/mである請求項1に記載の炭酸ガスパック用キット。
【請求項3】
前記水易溶性カルシウム塩が、20℃でpH7.0の水に対する溶解度が10.0g/100ml以上のカルシウム塩である請求項1に記載の炭酸ガスパック用キット。
【請求項4】
炭酸塩、増粘剤、水、カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤、及び水難溶性カルシウム塩を含む粘性組成物(A)と、加水分解されて酸を生じる物質を含む二酸化炭素補助剤(B)と、の混合物に接触させるためのシート(C)であって、
前記シート(C)には、水易溶性カルシウム塩が付着しており、
前記水難溶性カルシウム塩は、25℃でpH7.0の水に対する溶解度が3.7g/100ml未満であるカルシウム塩であり、
前記水易溶性カルシウム塩は、25℃でpH7.0の水に対する溶解度が3.7g/100ml以上であるカルシウム塩であり、
前記ゲル化剤は、アルギン酸ナトリウム、カラゲニン、タラガム、及びローカストビーンガムからなる群から選択される1種以上であり、
前記加水分解されて酸を生じる物質は、グルコノデルタラクトン、パントラクトン、D,L-又はL-ラクチド、及びD,L-又はL-グリコリドからなる群から選択される1種以上であり、
前記シート(C)は、繊維で構成される繊維シートであることを特徴とするシート(C)。
【請求項5】
前記水易溶性カルシウム塩の付着量が1.0~100g/mである請求項に記載のシート(C)。
【請求項6】
前記水易溶性カルシウム塩が、20℃でpH7.0の水に対する溶解度が10.0g/100ml以上のカルシウム塩である請求項に記載のシート(C)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスを発生する炭酸ガスパック用のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガスは、経皮(経粘膜)吸収させることで、皮膚や皮下組織や筋肉の血行を促進し、新陳代謝を活性化することが知られている。このため、近年では、美容や医療の分野において、炭酸ガスを発生する外用剤(以下、「炭酸ガスパック」ともいう)が注目されている。このような炭酸ガスパックは、炭酸ガスを発生するように設計されており、皮膚に塗布して使用される。皮膚に塗布された炭酸ガスパックでは、炭酸ガスが発生し、発生した炭酸ガスが、皮膚との接触面を介して放出されて経皮吸収される。
【0003】
炭酸ガスパックは、炭酸ガスを経皮吸収できるよう、炭酸ガスを持続的に発生させることや、発生した炭酸ガスがパックの外表面まで移動できることが求められる。このため、炭酸ガスパックには、一般的に、流動性を示す粘性物(粘性を有する物質)が用いられる。しかしながら、流動性を示す粘性物の炭酸ガスパックは、パック中に液だれすることがあり、また、パック終了後にはふき取りや洗浄の手間がかかるという問題がある。
【0004】
そこで、ゲル化する炭酸ガスパックが開発されている。例えば、特許文献1には、加水分解されて酸を生じる物質、炭酸塩、増粘剤、水、カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤、及び水難溶性(水不溶性)カルシウム塩からなる二酸化炭素外用剤調製用組成物(以下、「特許文献1の炭酸ガスパック」ともいう)が開示されている。特許文献1の炭酸ガスパックでは、水難溶性カルシウム塩から発生するカルシウムイオンをゲル化剤に作用させることで、炭酸ガスパックをゲル化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2006/080398号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭酸ガスパックがゲル化してしまうと、発生した炭酸ガスの移動がゲルに阻まれてしまい、炭酸ガスを皮膚に到達させにくくなる。このため、ゲル化する炭酸ガスパックであっても、炭酸ガスを経皮吸収させている間はゲル化しないことが求められる。
【0007】
特許文献1の炭酸ガスパックでは、ゲル化剤に作用させるカルシウムイオンの発生源として、水難溶性カルシウム塩を用いることで、ゲル化の反応速度を低下させている。水難溶性カルシウム塩は、水に溶解しやすい水易溶性カルシウム塩と比較して水に対する溶解度が低く、酸と反応することでカルシウムイオンを発生させることから、ゲル化反応の反応速度を低下させることができる。これにより、特許文献1の炭酸ガスパックは、ゲル化させることと炭酸ガスを皮膚に到達させることの両立を図っている。
【0008】
しかしながら、特許文献1の炭酸ガスパックは、ゲル化するまでの間は流動性を示している(粘性を有している)。このため、特許文献1の炭酸ガスパックであっても、依然として、ゲル化するまでの間は、液だれが生じやすいという問題がある。
【0009】
また、特許文献1の炭酸ガスパックでは、ゲル化するまでの間、流動性を示す粘性物の状態にしておくことで、発生した炭酸ガスが皮膚との接触面まで移動できるようにしているが、パック中で発生した炭酸ガスは、あらゆる方向に向けて拡散するため、皮膚との接触面からだけでなく、皮膚との接触面以外の外表面からも放出されてしまう。つまり、特許文献1の炭酸ガスパックは、発生した炭酸ガスを効率的に皮膚に到達させることができないという問題もある。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされた発明であり、液だれが生じにくく、且つ、発生した炭酸ガスを効率的に皮膚に到達させることができる炭酸ガスパック用のキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)とシート(C)を含む炭酸ガスパック用キットであり、前記粘性組成物(A)は、炭酸塩、増粘剤、水、カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤、及び水難溶性カルシウム塩を含み、前記二酸化炭素補助剤(B)は、酸と加水分解されて酸を生じる物質の少なくともいずれか一方を含み、前記シート(C)には、水易溶性カルシウム塩が付着していることを特徴とする炭酸ガスパック用キット。
[2]前記シート(C)が、繊維で構成される繊維シートである[1]に記載の炭酸ガスパック用キット。
[3]前記シート(C)は、前記水易溶性カルシウム塩の付着量が1.0~100g/mである[1]又は[2]に記載の炭酸ガスパック用キット。
[4]前記水易溶性カルシウム塩が、20℃でpH7.0の水に対する溶解度が10.0g/100ml以上のカルシウム塩である[1]から[3]のいずれか一つに記載の炭酸ガスパック用キット。
[5]炭酸塩、増粘剤、水、カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤、及び水難溶性カルシウム塩を含む粘性組成物(A)と、酸と加水分解されて酸を生じる物質の少なくともいずれか一方を含む二酸化炭素補助剤(B)と、の混合物に接触させるためのシート(C)であって、水易溶性カルシウム塩が付着していることを特徴とするシート(C)。
[6]繊維で構成される繊維シートである[5]に記載のシート(C)。
[7]前記水易溶性カルシウム塩の付着量が1.0~100g/mである[5]又は[6]に記載のシート(C)。
[8]前記水易溶性カルシウム塩が、20℃でpH7.0の水に対する溶解度が10.0g/100ml以上のカルシウム塩である[5]から[7]のいずれか一つに記載のシート(C)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液だれが生じにくく、且つ、発生した炭酸ガスを効率的に皮膚に到達させることができる炭酸ガスパック用のキットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態は、粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)とシート(C)を含む炭酸ガスパック用キットである。まず、粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)とシート(C)のうち、粘性組成物(A)について説明する。
【0015】
粘性組成物(A)は、少なくとも、炭酸塩、増粘剤、水、カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤、及び水難溶性カルシウム塩を含む組成物である。
【0016】
粘性組成物(A)に含有される炭酸塩は、炭酸ガスの発生源であり、酸と反応することで二酸化炭素(炭酸ガス)を発生させる。炭酸塩は、酸と反応して二酸化炭素を発生する炭酸塩であればよく、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、セスキ炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、セスキ炭酸リチウム、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、セスキ炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水酸化マグネシウム、炭酸バリウムを例示することができ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。炭酸塩は、前述した炭酸塩の中でも、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウム等の水易溶性炭酸塩であることが好ましい。
【0017】
炭酸塩の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、粘性組成物(A)100質量%に対して、0.1~10質量%とすることができ、0.1~5質量%であることが好ましい。前述した炭酸塩の含有量は、粘性組成物(A)に2種以上の炭酸塩が含有されている場合、含有される炭酸塩の含有量の合計量を意味する。
【0018】
なお、上述した炭酸塩の中には、炭酸カルシウムなどの水難溶性カルシウム塩も含まれている。このような炭酸塩であり且つ水難溶性カルシウム塩である物質については、当該物質を含有することで、炭酸塩と水難溶性カルシウム塩の両方が粘性組成物(A)に含有されているとみなすことができる。粘性組成物(A)には、炭酸塩であり且つ水難溶性カルシウム塩である物質に加えて、当該物質とは異なる炭酸塩がさらに含有されていたり、当該物質とは異なる水難溶性カルシウム塩がさらに含有されていたりしてもよい。
【0019】
粘性組成物(A)に含有される増粘剤は、特に限定されるものではなく、天然高分子、半合成高分子、合成高分子及び、無機物から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。また、増粘剤は、酸性、中性、アルカリ性のいずれの性質を有するものであってもよいが、炭酸ガスを適時発生させる観点からは、中性又はアルカリ性であることが好ましい。
【0020】
中性又はアルカリ性の増粘剤としては以下のものを例示することができる。
【0021】
天然高分子(中性又はアルカリ性の増粘剤)としては、アラビアゴム、カラゲニン、ガラクタン、寒天、クインスシード、グアガム、トラガント、マンナン、ローカストビーンガム、小麦澱粉、米澱粉、タラガム、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉などの植物系高分子、カードラン、キサンタンガム、サクシノグルカン、デキストラン、プルランなどの微生物系高分子、アルブミン、カゼイン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロインなどの蛋白系高分子を例示することができ、これらの1種若しくは2種以上を使用することができる。
【0022】
半合成高分子(中性又はアルカリ性の増粘剤)としては、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びその塩類、カルボキシメチルエチルセルロース及びその塩類、カルボキシメチルスターチ及びその塩類、クロスカルメロース及びその塩類、結晶セルロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系高分子、アルファー化澱粉、部分アルファー化澱粉、カルボキシメチル澱粉、デキストリン、メチル澱粉などの澱粉系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどのアルギン酸系高分子、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウムなどのその他の多糖類系高分子を例示することができ、これらの1種若しくは2種以上を使用することができる。
【0023】
合成高分子(中性又はアルカリ性の増粘剤)としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メタアクリル酸-アクリル酸エチルコポリマー、メタアクリル酸-メタアクリル酸エチルコポリマー、メタアクリル酸エチル・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルコポリマー、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル・メタアクリル酸メチルコポリマーを例示することができ、これらの1種若しくは2種以上を使用することができる。
【0024】
無機物(中性又はアルカリ性の増粘剤)としては、含水二酸化ケイ素、コロイダルアルミナ、ベントナイト、ラポナイトを例示することができ、これらの1種若しくは2種以上を使用することができる。
【0025】
酸性の増粘剤としては、以下のものを例示することができる。
【0026】
天然高分子(酸性の増粘剤)としては、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸を例示することができ、半合成高分子(酸性の増粘剤)としては、カルボキシビニルポリマーを例示することができ、無機物(酸性の増粘剤)としては、軽質無水ケイ酸を例示することができ、これらは1種若しくは2種以上を使用することができる。
【0027】
増粘剤の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、粘性組成物(A)100質量%に対して、0.5~20質量%とすることができ、1.0~10質量%であることが好ましい。前述した増粘剤の含有量は、粘性組成物(A)に2種以上の増粘剤が含有されている場合、含有される増粘剤の含有量の合計量を意味する。
【0028】
上述した増粘剤の中には、アルギン酸ナトリウムなどのカルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤も含まれている。このような増粘剤であり且つカルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤である物質については、当該物質を含有することで、増粘剤とカルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤の両方が粘性組成物(A)に含有されているとみなすことができる。粘性組成物(A)には、増粘剤であり且つカルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤である物質に加えて、当該物質とは異なる増粘剤がさらに含有されていたり、当該物質とは異なるカルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤がさらに含有されていたりしてもよい。
【0029】
粘性組成物(A)に含有される水は、特に限定されるものではなく、天然水、水道水、蒸留水、精製水等を使用することができる。
【0030】
水の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、粘性組成物(A)100質量%に対して、40~95質量%とすることができる。
【0031】
粘性組成物(A)に含有される、カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤は、カルシウムイオンが作用することでゲル化する物質であればよく、特に限定されるものではないが、アルギン酸ナトリウム、カラゲニン、タラガム、及びローカストビーンガムを例示することができ、これらの1種若しくは2種以上を使用することができる。カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤は、前述したゲル化剤の中でも、アルギン酸ナトリウムであることが好ましい。なお、本明細書において、ゲルとは、分子が架橋されることなどにより互いにつながりあって三次元的な網目構造を形成し、その内部が水などの溶媒で満たされているものを指す。
【0032】
カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、粘性組成物(A)100質量%に対して、0.5~10質量%とすることができ、1.0~5.0質量%であることが好ましい。前述したゲル化剤の含有量は、粘性組成物(A)に2種以上のゲル化剤が含有されている場合、含有されるゲル化剤の含有量の合計量を意味する。
【0033】
粘性組成物(A)に含有される水難溶性カルシウム塩は、25℃でpH7.0の水に対する溶解度が3.7g/100ml未満のカルシウム塩である。粘性組成物(A)に含有される水難溶性カルシウム塩としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、アルギン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、及び安息香酸カルシウムを例示することができ、これらの1種若しくは2種以上を使用することができる。水難溶性カルシウム塩は、前述した水難溶性カルシウム塩の中でも、炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0034】
水難溶性カルシウム塩の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、粘性組成物(A)100質量%に対して、0.1~5質量%とすることができ、0.3~3.0質量%であることが好ましい。前述した水難溶性カルシウム塩の含有量は、粘性組成物(A)に2種以上の水難溶性カルシウム塩が含有されている場合、含有される水難溶性カルシウム塩の含有量の合計量を意味する。
【0035】
粘性組成物(A)は、上述した、炭酸塩、増粘剤、水、カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤、及び水難溶性カルシウム塩のみより構成されていてもよいが、これらの成分以外の他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、公知の外用剤や化粧料に含有される成分を挙げることができ、具体的には、香料、色素、界面活性剤、油分、保湿剤、アルコール類、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、分散剤、金属イオン封鎖剤、着色防止剤、紫外線吸収・散乱剤、ビタミン類、アミノ酸類、アルブチン、コウジ酸、栄養剤、抗炎症剤、血管拡張剤、ホルモン剤、収斂剤、抗ヒスタミン剤、殺菌剤、皮脂抑制剤、角質剥離・溶解剤、抗脂漏剤、鎮痒剤を例示することができ、これらの1種若しくは2種以上が含有されていてもよい。
【0036】
粘性組成物(A)は、水よりも高い粘性を有する粘性物であり、より具体的には、流動性を示す粘性物(ゾル物質)である。粘性組成物(A)の粘度については特に限定されるものではないが、例えば、20,000~1,100,000mPa・sであることが例示でき、50,000~1,100,000mPa・sであることが好ましい。なお、粘度とは、B型粘度計を用いて、25℃、回転数0.5rpm、スピンドル番号LV4で測定される粘度を意味する。
【0037】
粘性組成物(A)のpHは、皮膚に適用する観点から、弱アルカリ性~弱酸性(例えば、4~9)であることが好ましく、炭酸ガスを適時発生させる観点からは、弱アルカリ性から中性(例えば、7~9)であることが好ましい。
【0038】
粘性組成物(A)は、炭酸塩、増粘剤、水、カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤、及び水難溶性カルシウム塩と、必要に応じて含有される他の成分を適宜混合することにより製造することができる。
【0039】
次に、本実施形態の炭酸ガスパック用キットに含まれる、二酸化炭素補助剤(B)について説明する。
【0040】
二酸化炭素補助剤(B)は、粘性組成物(A)に混合されることで、粘性組成物(A)中で炭酸ガスが発生する反応を進行させるための剤であり、酸と加水分解されて酸を生じる物質の少なくともいずれか一方を含む。
【0041】
二酸化炭素補助剤(B)に含まれ得る酸は、有機酸、無機酸のいずれでもよく、これらの1種または2種以上を用いることができる。酸は、塩の形態の酸であってもよい。
【0042】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の直鎖脂肪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、α-オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、サリチル酸、没食子酸、トロパ酸、アスコルビン酸、グルコン酸等のオキシ酸を例示することができ、これを1種又は2種以上用いることができる。
【0043】
無機酸としては、例えば、リン酸、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、酸性ヘキサメタリン酸ナトリウム、酸性ヘキサメタリン酸カリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、スルファミン酸を例示することができ、これを1種又は2種以上用いることができる。
【0044】
二酸化炭素補助剤(B)に含まれ得る、加水分解されて酸を生じる物質は、水との接触により加水分解されて酸を生じる物質であればよく、特に限定されるものではないが、ラクトンや有機酸の環状二量体を例示することができ、これを1種又は2種以上用いることができる。加水分解されて酸を生じる物質は、結晶状態の、ラクトン、及び/又は有機酸の環状二量体であることが好ましく、グルコノデルタラクトン、パントラクトン、D,L-又はL-ラクチド(3,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2,5ジオン)、及びD,L-又はL-グリコリドからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0045】
二酸化炭素補助剤(B)における酸の含有量や、加水分解されて酸を生じる物質の含有量は、炭酸ガスの発生量やゲル化までの時間を考慮して適宜設定することができるが、より多くの炭酸ガスを経皮吸収させる観点からは、粘性組成物(A)に含まれる炭酸塩の含有量に対して1~100倍量(1~100倍の質量)となる量であることが好ましく、1~50倍量(1~50倍の質量)であることがより好ましく、1~10倍量(1~10倍の質量)であることがよりさらに好ましい。一方で、炭酸ガスを十分に経皮吸収させる時間を確保する観点からは、二酸化炭素補助剤(B)における酸の含有量は、粘性組成物(A)に含まれる水難溶性カルシウム塩の含有量に対して1~500倍量(1~500倍の質量)となる量であることが好ましく、5~400倍量(5~400倍の質量)となる量であることがより好ましく、8~20倍量(8~20倍の質量)であることがよりさらに好ましい。なお、前述した含有量は、二酸化炭素補助剤(B)に酸と加水分解されて酸を生じる物質の両方が含まれる場合、これらの両方の含有量の合計を指し、二酸化炭素補助剤(B)に酸と加水分解されて酸を生じる物質のいずれか一方しか含まれない場合、その一方の含有量を指す。
【0046】
二酸化炭素補助剤(B)は、上述した酸や加水分解されて酸を生じる物質のみにより構成されていてもよいが、これらの成分以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、公知の外用剤や化粧料に含有される成分を挙げることができ、香料、色素、界面活性剤、油分、保湿剤、アルコール類、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、分散剤、金属イオン封鎖剤、着色防止剤、紫外線吸収・散乱剤、賦形剤、結合剤、安定剤、崩壊剤、滑沢剤、分散媒、ビタミン類、アミノ酸類、アルブチン、コウジ酸、栄養剤、抗炎症剤、血管拡張剤、ホルモン剤、収斂剤、抗ヒスタミン剤、殺菌剤、皮脂抑制剤、角質剥離・溶解剤、抗脂漏剤、鎮痒剤を例示することができ、これらの1種若しくは2種以上が含有されていてもよい。
【0047】
二酸化炭素補助剤(B)の形態は、特に限定されるものではなく、液体、固体のいずれの形態であってもよいが、固体の形態であることが好ましく、顆粒、細粒、粉末などの粒状物であることがより好ましい。
【0048】
二酸化炭素補助剤(B)は、上述した酸や加水分解されて酸を生じる物質と、必要に応じて含有される上述した他の成分を適宜混合することにより製造することができる。また、二酸化炭素補助剤(B)を粒状物の形態にする場合には、通常医薬品等の製造で使用される造粒方法(圧縮成形法、押出し造粒法、転動造粒法、噴霧造粒法、攪拌造粒法等)を用いて粒状物の形態にすることができる。二酸化炭素補助剤(B)が粒状物である場合、その粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、1~1000μmとすることができ、5~600μmであることが好ましい。なお、粒子径は、篩を用いて篩分けすることにより求められる粒子径を指す。
【0049】
次に、本実施形態の炭酸ガスパック用キットに含まれる、シート(C)について説明する。
【0050】
シート(C)は、皮膚に塗布された二酸化炭素補助剤(B)と粘性組成物(A)の混合物(以下、「混合物(A)(B)」ともいう)に接触するように、皮膚上の該混合物に覆い被せられるシートであり、少なくとも水易溶性カルシウム塩が付着している。
【0051】
シート(C)に付着する水易溶性カルシウム塩は、25℃でpH7.0の水に対する溶解度が3.7g/100ml以上のカルシウム塩である。水易溶性カルシウム塩としては、塩化カルシウム、塩素酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、過マンガン酸カルシウム、ギ酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、酢酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、臭化カルシウム、臭素酸カルシウム、硝酸カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、プロピロン酸カルシウム、リン酸化オリゴ糖カルシウムを例示することができ、これらの1種若しくは2種以上を使用することができる。
【0052】
発生した炭酸ガスをより効率的に皮膚に到達させる観点からは、水易溶性カルシウム塩は、前述した水易溶性カルシウム塩の中でも、20℃でpH7.0の水に対する溶解度が10.0g/100ml以上のカルシウム塩であることが好ましく、20℃でpH7.0の水に対する溶解度が30.0g/100ml以上のカルシウム塩であることがより好ましく、20℃でpH7.0の水に対する溶解度が50.0g/100ml以上のカルシウム塩であることがさらにより好ましく、塩化カルシウムであることが特に好ましい。
【0053】
水易溶性カルシウム塩の付着量は、特に限定されるものではないが、発生した炭酸ガスをより効率的に皮膚に到達させる観点からは、1.0~100g/mであることが好ましく、1.5~80.0g/mであることがより好ましく、2.3~55.8g/mであることがよりさらに好ましい。なお、前述した水易溶性カルシウム塩の付着量(g/m)は、シートの単位面積当たりの水易溶性カルシウムの質量であり、シートに付着する水易溶性カルシウム塩の質量(g)をシートの面積(m)で除すことにより求められる。また、シートの面積とは、シートの厚さ方向からの投影面積(シートの上面又は下面の面積)を意味し、シートを構成する原料(例えば、繊維)間に形成される微細な空隙や細孔を考慮しない面積である。なお、シートに穴(開口)が設けられている場合、穴(開口)の面積は、シートの面積に考慮しない(シートの面積に含めない)ものとする。
【0054】
シート(C)には、上述した水易溶性カルシウム塩が付着していれば、水易溶性カルシウム塩以外の他の成分が付着していてもよい。このような他の成分としては、例えば、アスコルビルグルコシド、3-O-エチルアスコルビン酸、アルブチン、ヒアルロン酸Na、加水分解ヒアルロン酸、加水分解ヒアルロン酸Na、アセチルヒアルロン酸Na、カルボキシメチルヒアルロン酸Na、加水分解ヒアルロン酸アルキル(C12-13)グリセリル、加水分解コラーゲン、ナイアシンアミド、グリチルリチン酸ジカリウムを例示することができ、これらの1種若しくは2種以上を使用することができる。
【0055】
シート(C)は、水易溶性カルシウム塩を付着することができれば、どのようなもので構成されていてもよく、例えば、フィルム、多孔質体、発泡体、不織布、織布、紙であることが例示できる。
【0056】
フィルムや多孔質体や発泡体の材質としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリロニトリル、フッ素系樹脂、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエステル系、スチレン系、ポリエステル系あるいは共重合ゴムの熱可塑性エラストマー等を例示することができ、これを1種又は2種以上用いることができる。
【0057】
不織布や織布や紙の材質としては、例えば、レーヨン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステルエーテル、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリスチレン系樹脂、コットン、麻等が挙げられ、これを1種又は2種以上用いることができる。
【0058】
シート(C)は、前述した材料の中でも、不織布や織布や紙などの繊維で構成される繊維シートであることが好ましい。シート(C)が繊維シートである場合には、シート(C)に混合物(A)(B)が接触すると、毛細管現象によって、混合物(A)(B)に含まれる水がシート(C)を構成する繊維間の微細な空隙に移動しやすくなる。その結果、シート(C)に付着する水易溶性カルシウム塩からカルシウムイオンが発生しやすくなり、シート(C)に接触する混合物(A)(B)の外表面をより早くゲル化することができる。繊維シートの坪量は、特に限定されるものではないが、10~120g/mであることが例示できる。
【0059】
シート(C)の形状は、特に限定されるものではなく、混合物(A)(B)を塗布する部位に応じて適宜設定することができる。また、シート(C)には、目や鼻などを被覆しないよう穴(開口)が設けられていたり、屈曲部に沿った形状に変形できるよう切り込みが設けられていたりしてもよい。
【0060】
シート(C)は、シート基材に対して水易溶性カルシウム塩を付着(固着)させることで製造することができる。水易溶性カルシウム塩を付着する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、水易溶性カルシウム塩が溶解又は分散した溶液をシート基材に塗布し、これを乾燥させる方法を例示することができる。水易溶性カルシウム塩を溶解又は分散する溶液は、特に限定されるものではなく、水やアルコールを例示することができる。
【0061】
本実施形態の炭酸ガスパック用キットは、上述した粘性組成物(A)、二酸化炭素補助剤(B)、及びシート(C)のみより構成されていてもよいが、これら以外の他の物品を含んでいてもよい。例えば、本実施形態の炭酸ガスパック用キットは、粘性組成物(A)、二酸化炭素補助剤(B)、及びシート(C)に加えて、粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)を混合するためのヘラ(スパチュラ)を含んでいても良い。
【0062】
次に、粘性組成物(A)、二酸化炭素補助剤(B)、及びシート(C)を含む本実施形態の炭酸ガスパック用キットの使用方法について説明する。本実施形態の炭酸ガスパック用キットの使用方法は、混合工程と、塗布工程と、被覆工程の少なくとも3つの工程を有する。
【0063】
混合工程は、粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)を混合する工程である。粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)を混合することで、炭酸ガスを発生する外用剤(炭酸ガスパック)が得られる。粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)の混合は、二酸化炭素補助剤(B)に含まれる酸や加水分解されて酸を生じる物質が、粘性組成物(A)中に偏在しないように(均一になるように)混合すればよく、混合方法について特にされるものではない。
【0064】
二酸化炭素補助剤(B)に酸が含まれる場合、混合工程において、粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)が混合されると、二酸化炭素補助剤(B)に含まれる酸が、粘性組成物(A)に含まれる炭酸塩と反応して炭酸ガスを発生させる。また、二酸化炭素補助剤(B)に含まれる酸は、粘性組成物(A)に含まれる水難溶性カルシウム塩とも反応してカルシウムイオンを発生させる。発生したカルシウムイオンは、粘性組成物(A)に含まれるゲル化剤と反応してゲル化反応を進行させる。
【0065】
また、二酸化炭素補助剤(B)に加水分解されて酸を生じる物質が含まれる場合、混合工程において、粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)が混合されると、二酸化炭素補助剤(B)中の加水分解されて酸を生じる物質が、粘性組成物(A)に含まれる水と反応して酸を発生する。そして、発生した酸は、粘性組成物(A)に含まれる炭酸塩と反応して炭酸ガスを発生する。また、発生した酸は、粘性組成物(A)に含まれる水難溶性カルシウム塩とも反応してカルシウムイオンを発生させる。発生したカルシウムイオンは、粘性組成物(A)に含まれるゲル化剤と反応してゲル化反応を進行する。
【0066】
塗布工程は、粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)の混合物(つまり、混合物(A)(B))を皮膚に塗布する工程である。混合物(A)(B)の塗布方法は、特に限定されるものではないが、発生した炭酸ガスがより経皮吸収されやすくなる観点からは、皮膚上に塗布された混合物(A)(B)の厚みが0.2mm~50.0mmとなるように、混合物(A)(B)を塗布することが好ましい。なお、混合物(A)(B)がゲル化してしまうと、炭酸ガスが経皮吸収されにくくなるため、塗布工程は、混合工程が完了した後、直ちに行われることが好ましい。
【0067】
塗布工程において、混合物(A)(B)が皮膚に塗布されることで、混合物(A)(B)中に発生した炭酸ガスの一部が皮膚との接触面から放出される。その結果、炭酸ガスを経皮吸収させることができる。
【0068】
被覆工程は、皮膚に塗布された混合物(A)(B)にシート(C)が接触するように、シート(C)を皮膚上の混合物(A)(B)に覆い被せる工程である。シート(C)は、皮膚上の混合物(A)(B)に覆い被せたときに、水易溶性カルシウム塩が付着する部位が混合物(A)(B)に接触すればよく、シート(C)の全ての面が混合物(A)(B)に接触しなくてもよい。
【0069】
被覆工程において、皮膚に塗布された混合物(A)(B)にシート(C)が接触することで、シート(C)に付着する水易溶性カルシウム塩が、混合物(A)(B)に含まれる水によって溶解され、カルシウムイオンが発生する。このカルシウムイオンは、混合物(A)(B)に含まれるゲル化剤(カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤)と反応し、混合物(A)(B)中で発生しているゲル化反応を促進させる。このゲル化反応の促進は、水易溶性カルシウム塩が付着するシート(C)との接触面(及びその周辺部)で発生するため、混合物(A)(B)のうち、シート(C)との接触面(及びその周辺部)が、シート(C)との接触面(及びその周辺部)以外の部位(以下、「その他の部位」ともいう)と比較してより早くゲル化する。従って、皮膚に塗布された混合物(A)(B)は、液だれしにくくなる。
【0070】
また、ゲル化反応の促進は、混合物(A)(B)のうちのシート(C)との接触面(及びその周辺部)で発生するため、シート(C)との接触面(及びその周辺部)がゲル化しても、その他の部位は、粘性(流動性)を保つことができる。このため、皮膚との接触面に向かう炭酸ガスの移動は許容されるため、皮膚との接触面から炭酸ガスを放出することができる。また、シート(C)との接触面はゲル化しているため、シート(C)との接触面に向かう炭酸ガスの移動は阻止されるため、皮膚との接触面に向かう炭酸ガスの量が増加し、より多くの炭酸ガスが皮膚との接触面から放出されやすくなる。その結果、混合物(A)(B)で発生した炭酸ガスが、より効率的に皮膚に到達しやすくなる。
【0071】
混合物(A)(B)の液だれをより早く抑制したり、混合物(A)(B)中で発生した炭酸ガスをより効率的に皮膚に到達させたりする観点からは、被覆工程は、塗布工程が完了した後、直ちに行われることが好ましい。また、被覆工程では、シート(C)との接触面がゲル化した後、混合物(A)(B)に被覆されるシート(C)を混合物(A)(B)から剥離してもよい。
【0072】
本実施形態の炭酸ガスパック用キットは、上述した、混合工程、塗布工程、及び被覆工程を含む方法により使用することができるが、これらの工程に加えて、炭酸ガスをより多く経皮吸収させるために、炭酸ガスが発生している混合物(A)(B)を皮膚上で所定期間放置する放置工程や、混合物(A)(B)全体がゲル化した後に、ゲル化した混合物(A)(B)を皮膚から除去する除去工程を含んでいてもよい。
【0073】
以上説明した本実施形態の炭酸ガスパック用キットは、皮膚に塗布した混合物(A)(B)おいて、シート(C)との接触面(及びその周辺部)をゲル化する第1のゲル化と、それに続く、その他の部位をゲル化する第2のゲル化を引き起こすことができる。このため、本実施形態の炭酸ガスパック用キットによれば、炭酸ガスパック(つまり、混合物(A)(B))が液だれしにくく、且つ、炭酸ガスパック(つまり、混合物(A)(B))中で発生した炭酸ガスを効率的に皮膚に到達させることができる。
【実施例
【0074】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
(粘性組成物(A))
下記表1に示す各成分を用意し、これらを混合することで粘性組成物aを得た。これを、粘性組成物(A)として用いた。
【表1】
【0076】
(二酸化炭素補助剤(B))
二酸化炭素補助剤bとしてグルコノデルタラクトン(10~500μmの粒子径)を用意した。粘性組成物(A)に含まれる炭酸カルシウムに対して9倍量の二酸化炭素補助剤bを二酸化炭素補助剤(B)として用いた。
【表2】
【0077】
(シート(C))
20質量%の塩化カルシウム水溶液を用意し、これをコットンからなる不織布シート(坪量40g/m)にスプレー塗布して乾燥させることで、塩化カルシウム(20℃でpH7.0の水への溶解度:74.5g/100mL)が付着した下記表3の不織布シートc1~c10を得た。これらの不織布シートをシート(C)として用いた。
【表3】
【0078】
[実施例及び比較例]
粘性組成物(A)、二酸化炭素補助剤(B)、及びシート(C)を、下記表4に示すように組わせて実施例1~10及び比較例1の炭酸ガスパック用キットを得た。なお、下記表4において、aは粘性組成物aを示し、bは二酸化炭素補助剤bを示し、c1~c10はそれぞれ不織布シートc1~c10を示す。
【表4】
【0079】
[評価1(皮膚との接触面以外の外表面のゲル化確認試験)]
各実施例及び比較例の炭酸ガスパック用キットについて、粘性組成物(A)に二酸化炭素補助剤(B)を添加し、粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)を混合した。得られた混合物(A)(B)から計量スプーン一杯分(約5g)を取り出し、皮膚に塗布した。実施例1については、混合物(A)(B)を皮膚に塗布した直後に、シート(C)が混合物(A)(B)に接触するように、シート(C)を混合物(A)(B)に覆い被せた。一方、比較例については、混合物(A)(B)を皮膚に塗布した後は放置した。
【0080】
なお、実施例と比較例の間で混合時間を一致させるため、粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)の混合は、粘性組成物(A)に対して二酸化炭素補助剤(B)を添加してから30秒間とした。また、実施例と比較例の間で塗布対象の面積を一致させるため、予めマークしておいた皮膚上の同一面積の領域に混合物(A)(B)を塗布した。なお、皮膚に塗布された混合物(A)(B)の厚みは、約5mmであった。
【0081】
各実施例については、混合物(A)(B)を皮膚に塗布してから3分経過した後、覆い被せたシート(C)を混合物(A)(B)から剥離した。その後、各実施例及び比較例について、混合物(A)(B)の外表面(皮膚に接触していない面)を指で触り、指を離しても混合物(A)(B)が指に付着して離れないものをゲル化していない(評価:×)と判断し、混合物(A)(B)が指に付着しないものをゲル化した(評価:〇)と判断した。また、混合物(A)(B)が指に付着しないもののうち、ゲル化した部分の厚みが0.5mm以上あるものを◎と評価した。結果を表5に示す。
【0082】
[評価2(皮膚との接触面のゲル化確認試験)]
評価1と同様の方法で、混合物(A)(B)を皮膚に塗布し、シート(C)を混合物(A)(B)に覆い被せた(シート(C)による被覆は実施例1のみ)。実施例1については、混合物(A)(B)を皮膚に塗布してから10分経過した後、覆い被せたシート(C)を混合物(A)(B)から剥離した。その後、実施例と比較例ともに、皮膚に塗布された混合物(A)(B)の厚みが2mm以下となるように、皮膚に塗布した混合物(A)(B)の表層部をヘラで取り除いた。皮膚上に残存する混合物(A)(B)を指で触ってから離し、混合物(A)(B)が指に付着して離れないものをゲル化していない(評価:×)と判断し、混合物(A)(B)が指に付着しないものをゲル化した(評価:〇)と判断した。結果を表2に示す。
【0083】
【表5】
【0084】
表2に示すように、実施例1~10では、皮膚に塗布されてから3分経過した混合物(A)(B)において、皮膚との接触面以外の外表面(シート(C)との接触面)がゲル化していたが、皮膚との接触面については10分経過後もゲル化していなかった。一方、比較例1では、皮膚に塗布されてから3分経過した混合物(A)(B)において、皮膚との接触面以外の外表面についても、皮膚との接触面についても、ゲル化していなかった。この結果から、実施例1~10の炭酸ガスパック用キットによれば、炭酸ガスパック(つまり、混合物(A)(B))が液だれしにくく、且つ、炭酸ガスパック(つまり、混合物(A)(B))中で発生した炭酸ガスを効率的に皮膚に到達させることができることが理解できた。
【0085】
なお、実施例1及び比較例1ともに、皮膚に塗布されてから30分経過した後には、混合物(A)(B)全体がゲル化していることが確認された。
【要約】
【課題】液だれが生じにくく、且つ、発生した炭酸ガスを効率的に皮膚に到達させることができる炭酸ガスパック用のキットを提供することを目的とする。
【解決手段】粘性組成物(A)と二酸化炭素補助剤(B)とシート(C)を含む炭酸ガスパック用キットであり、前記粘性組成物(A)は、炭酸塩、増粘剤、水、カルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤、及び水難溶性カルシウム塩を含み、前記二酸化炭素補助剤(B)は、酸と加水分解されて酸を生じる物質の少なくともいずれか一方を含み、前記シート(C)には、水易溶性カルシウム塩が付着していることを特徴とする炭酸ガスパック用キット。
【選択図】 なし