(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】無線給電用電極
(51)【国際特許分類】
B60M 7/00 20060101AFI20240328BHJP
H02J 50/12 20160101ALI20240328BHJP
B60L 50/53 20190101ALI20240328BHJP
E01B 25/28 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
B60M7/00 X
H02J50/12
B60L50/53
E01B25/28 Z
(21)【出願番号】P 2020027865
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝
(72)【発明者】
【氏名】坂井 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】水谷 豊
(72)【発明者】
【氏名】柴田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】望月 勇杜
(72)【発明者】
【氏名】左近 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】上松 正和
(72)【発明者】
【氏名】大橋 寛之
(72)【発明者】
【氏名】東 清久
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-163798(JP,A)
【文献】特開2014-168370(JP,A)
【文献】特開2019-064155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 7/00
H02J 50/12
B60L 50/53
E01B 25/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両に対し、高周波電源からの電力を無線で伝送する走行路に配置される給電用電極であって、
(1)前記電極は、アルミニウム系基材及びその表面の一部又は全部に形成された皮膜を含み、
(2)前記皮膜が樹脂成分を含
み、
(3)前記皮膜中に耐食性金属粒子がさらに含まれる、
ことを特徴とする無線給電用電極。
【請求項2】
アルミニウム系基材が、複数の貫通孔を有し、(1)
貫通孔1個当たりの面積が2~18mm
2であり、(2)前記基材の開口率が2~40%であり、(3)前記基材が8~100メッシュである、請求項1に記載の無線給電用電極。
【請求項3】
アルミニウム系基材の厚みが40~170μmである、請求項1又は2に記載の無線給電用電極。
【請求項4】
アルミニウム系基材が、
(1)0.5≦Mn≦3.0質量%、
(2)0.0001≦Cr<0.20質量%、
(3)0.2≦Mg≦1.8質量%、
(4)0.0001≦Ti≦0.6質量%、
(5)0<Cu≦0.005質量%、
(6)0<Si≦0.1質量%、
(7)0<Fe≦0.2質量%
(8)残部としてAl及び不可避不純物
を含む、請求項1~3のいずれかに記載の無線給電用電極。
【請求項5】
前記皮膜は、前記アルミニウム系基材表面に0.5~15.0g/m
2積層されている、請求項1~4のいずれかに記載の無線給電用電極。
【請求項6】
耐食性金属粒子がフレーク状のステンレス鋼である、請求項1~5のいずれかに記載の無線給電用電極。
【請求項7】
電動車両に対し、高周波電源からの電力を無線で伝送するための構造体であって、
(1)a)少なくとも1層の誘電層及びb)請求項1~6のいずれかに記載の無線給電用電極を含み、かつ、前記無線給電用電極に含まれるアルミニウム系基材がアルミニウム箔であり、
(2)無線給電用電極の一対が互いに長尺方向において略平行となるように誘電層中に配置されている、
ことを特徴とする無線給電用構造体。
【請求項8】
絶縁性基体に無線給電用電極の一対が敷設されている面とは反対側の面にグランド層がさらに積層されている、請求項7に記載の無線給電用構造体。
【請求項9】
一対の無線給電用電極に高周波電源が接続されている、請求項7又は8に記載の無線給電用構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な無線給電用電極に関する。本発明は、特に電界結合式無線給電に用いられる電導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、環境負荷低減を目的として、電気自動車、電動駆動機能を備えるハイブリッド自動車のほか、工場内での高速搬送ロボット等(以下、これらを総称して「電動車両」と呼ぶ。)の普及が進みつつあり、それに伴って動力駆動のための電力を蓄える蓄電池の大容量化技術の開発が盛んになっている。ところが、蓄電池の大容量化に伴い、蓄電池の重量も増加する結果、電動車両の総車重が増加することで運搬に必要なエネルギーも増大してしまうというジレンマが問題視されている。また、上記のような蓄電池を搭載する電気自動車及びハイブリット自動車においては、その航続距離の短さに課題があるとともに、充電スタンド等の環境整備不足により普及速度が鈍重であるという問題も残されている。
【0003】
これに対し、移動中の電動車両に対して無線で給電する技術(ワイヤレス給電)が提案されている。ワイヤレス給電の方式としては、非放射型と放射型に大別され、電動車両に給電する方式としてはその伝送電力等との関係から非放射型が適しており、この非放射型としては磁界結合式、電界結合式等がある。
【0004】
磁界結合式では、磁界によって送信側部材と受信側部材とが結合される。しかし、電動車両に十分な電力を供給する際に強い磁界が生じ、これにより近傍に金属体等の被誘電体があると渦電流により発熱が生じるおそれがある。加えて、電流によって磁界を形成するために大電流が必要であり、その安全性が危惧されている。
【0005】
一方、電界結合式では、静電容量を利用して電力を供給するものであるため、より近傍にある被誘電体には渦電流が生じず、ジュール熱によるやけど、感電、発火等のリスクが低減される。
【0006】
しかも、磁界結合式無線給電又は電磁誘導式無線給電による無線給電を行う車両には、車両に乗っている人を磁界から保護するためにフェライト等による保護層を車両の床面部分に必要とする。この保護層の存在により車両の重量が増加するため、エネルギー消費量が増えたり、またフェライト等の保護層という特別な部品が追加されるため、車両価格が上昇する。この点において、電界結合式無線給電では、これらの車両に生じる問題も回避することができる。
【0007】
このような見地より、電動車両に対するワイヤレス給電方式としては、電界結合式がより適しているといえる。電界結合式では、例えば
図1に示すように、一対の電極(電源側電極)11A,11Bを路面30側に敷設し、各電極に対応するように電動車両の車輪21A,21B又はその周辺部品に電極(負荷側電極)22A,22Bを搭載する。路面側の電源側電極11A,11Bは、高周波電源(インバーター)14に接続されており、電力が印加されることで電極内で極性が変化することに伴って電荷の移動が起こる結果、電流が流れることになる。つまり、電動車両側の電極21Aと21Bとの間で電流が流れることによってモーター23を駆動させることが可能となる。
【0008】
このような電界結合式による電動車両に対する給電システムとして、既にいくつかの技術が提案されている。例えば、特許文献1及び非特許文献1には、道路にステンレス鋼板等の二本の給電導体を離間して並設した状態で埋設し、この給電導体に高周波電力を流し、走行中の電動車両のタイヤ内のスチールベルトとの間に静電容量を形成して自動車に高周波電力を伝送する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】日刊建設工業新聞2016年3月14日付け1面記事
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、電界結合式無線給電において、ステンレス鋼板を給電用電極として用いて実験を行ったところ、高周波電力の伝送効率が低く、電力のエネルギーロスが生じることが確認されている。この場合、ステンレス鋼以外の金属材料を電極材料として用いることも考えられるが、ステンレス鋼のような耐食性が得られない。例えば、道路用に供される電極材料においては、コンクリート又は凍結防止剤として散布される塩化カルシウムの影響によりアルカリ性に曝されるために腐食してしまい、数ヶ月以上の長期使用に耐えられないという問題が起こり得る。
【0012】
従って、本発明の主な目的は、高周波電力の伝送効率が高く、かつ、耐腐食性に優れた無線給電用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の構造からなる電極を採用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の無線給電用電極に係る。
1. 電動車両に対し、高周波電源からの電力を無線で伝送する走行路に配置される給電用電極であって、
(1)前記電極は、アルミニウム系基材及びその表面の一部又は全部に形成された皮膜を含み、
(2)前記皮膜が樹脂成分を含む、
ことを特徴とする無線給電用電極。
2. アルミニウム系基材が、複数の貫通孔を有し、(1)1つの貫通孔の孔径が2~18mm2であり、(2)前記基材の開口率が2~40%であり、(3)前記基材が8~100メッシュである、前記項1に記載の無線給電用電極。
3. アルミニウム系基材の厚みが40~170μmである、前記項1又は2に記載の無線給電用電極。
4. アルミニウム系基材が、
(1)0.5≦Mn≦3.0質量%、
(2)0.0001≦Cr<0.20質量%、
(3)0.2≦Mg≦1.8質量%、
(4)0.0001≦Ti≦0.6質量%、
(5)0<Cu≦0.005質量%、
(6)0<Si≦0.1質量%、
(7)0<Fe≦0.2質量%
(8)残部としてAl及び不可避不純物
を含む、前記項1~3のいずれかに記載の無線給電用電極。
5. 前記皮膜は、前記アルミニウム系基材表面に0.5~15.0g/m2積層されている、前記項1~4のいずれかに記載の無線給電用電極。
6. 皮膜中に耐食性金属粒子がさらに含まれる、前記項1~5のいずれかに記載の無線給電用電極。
7. 電動車両に対し、高周波電源からの電力を無線で伝送するための構造体であって、
(1)a)少なくとも1層の誘電層及びb)前記項1~6のいずれかに記載の無線給電用電極を含み、かつ、前記無線給電用電極に含まれるアルミニウム系基材がアルミニウム箔であり、
(2)無線給電用電極の一対が互いに長尺方向において略平行となるように誘電層中に配置されている、
ことを特徴とする無線給電用構造体。
8. 絶縁性基体に無線給電用電極の一対が敷設されている面とは反対側の面にグランド層がさらに積層されている、前記項7に記載の無線給電用構造体。
9. 一対の無線給電用電極に高周波電源が接続されている、前記項7又は8に記載の無線給電用構造体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高周波電力の伝送効率が高く、かつ、耐腐食性に優れた無線給電用電極を提供することができる。
【0016】
特に、本発明の無線給電用電極は、アルミニウム系基材及びその表面に形成された皮膜を含む電極が採用されているので、従来のステンレス鋼を用いた電極と同等の耐食性を発揮しつつも、より優れた送電効率等を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】電動車両とそれに対するワイヤレス給電方式(路面側)との配置構成例を示す図である。
【
図2】本発明の無線給電用構造体の層構成例を示す図である。
【
図4】本発明の無線給電用構造体の層構成例を示す図である。
【
図5】本発明の無線給電用構造体の層構成例を示す図である。
【
図6】実施例1で構築した無線給電用構造体の層構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
10 無線給電用構造体
11A,11B 無線給電用電極(電源側電極)
12 誘電層
13 グランド層
14 高周波電源
21A,21B 車輪
22A,22B 負荷側電極
23 モーター
30 路面
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.無線給電用電極
本発明の無線給電用電極(本発明電極)は、電動車両に対し、高周波電源からの電力を無線で伝送する走行路に配置される給電用電極であって、
(1)前記電極は、アルミニウム系基材及びその表面の一部又は全部に形成された皮膜を含み、
(2)前記皮膜が樹脂成分を含む、
ことを特徴とする。
【0020】
本発明電極は、電動車両に対し、高周波電源からの電力を無線で伝送する走行路に配置される給電用電極として用いられるものである。無線給電方式としては、限定的ではないが、前述したような理由から、電界結合式であることが望ましい。すなわち、電源側電極(送電側電極)と負荷側電極(受電側電極)とが互いに接近させた時に生じる電界のエネルギーを媒介して伝送する方式を採用することが好ましい。
【0021】
これは、さきに
図1で示したように、電源側電極11A,11Bと負荷側電極22A,22Bとの間が絶縁体によって離間されており、電界を介して電力伝送できる技術である。より詳細には、上記電極間にコンデンサが形成され、このコンデンサに高周波電流を流すことにより、電源側電極から負荷側電極に対して電力が伝送される。このような電界結合式としては、例えば直列共振方式、並列共振方式、アクティブキャパシタンス方式等の各方式に分類されるが、いずれも採用することができる。
【0022】
本発明電極は、アルミニウム系基材及びその表面の一部又は全部に形成された皮膜を含むことを特徴とする。
【0023】
アルミニウム系基材は、ステンレス鋼よりも電界結合式無線給電の送電側電極として高周波電流の伝送効率が高く、また道路等の構造物への埋設において柔軟かつ軽量なために施工作業が容易であり、かつ、表面のアルミニウム酸化皮膜により深部が錆びにくい。さらに、アルミニウム箔の表面に樹脂及び/又はステンレス鋼を含む皮膜が積層されていることにより、アスファルト等の強アルカリ性を呈する材料又は水に接する環境、海水等の塩分又はその他のミネラルを含む水分が触れ得る環境、黄鉄鉱等由来の酸性浸出水等の酸性を呈する水又は材料に触れ得る環境等で使用する際にも、当該皮膜がアルミニウム系基材を保護するので腐食しにくい。
【0024】
このようなアルミニウム系基材の材質(組成)としては、アルミニウム及びアルミニウム系合金の少なくとも1種を好適に用いることができる。アルミニウム系合金としては、特に限定されず、例えばAlと、Mn、Mg、Cr、Ti、Cu、Fe、Si等の少なくとも1種との合金を好適に採用することができる。アルミニウム系合金は、上記のような特徴を十分に発揮させるためにAl含有量が90質量%以上であることが好ましく、特に95~99質量%であることがより好ましい。
【0025】
従って、例えば0.5≦Mn≦3.0質量%、0.0001≦Cr<0.20質量%、0.2≦Mg≦1.8質量%、0.0001≦Ti≦0.6質量%、0<Cu≦0.005質量%、0<Si≦0.1質量%、0<Fe≦0.2質量%を含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなる組成もアルミニウム系基材として好適に採用することができる。
【0026】
アルミニウム系基材の厚みは、特に限定されず、例えば設置する箇所、電動車両の種類等に応じて適宜設定することができる。一例としては、アルミニウム系基材としてアルミニウム箔を用いる場合、通常は40~170μmであることが好ましい。この範囲内の厚みのアルミニウム箔を用いることにより、埋設時又は電動車両走行時の繰り返し動的荷重に耐えることができるととともに、埋設時に良好な施工性を得ることができる。
【0027】
また、アルミニウム系基材は、複数の貫通孔を有していることが好ましい。これにより、道路への埋設作業等において発生し得るブリスタリングを効果的に抑制ないしは防止することができる。貫通孔の形態は、例えば貫通孔1個あたりの面積2~18mm2であり、開口率2~40%程度であり、8~100メッシュ程度の範囲内とすることができるが、これに限定されない。
【0028】
貫通孔の形成方法は、特に限定されず、例えばパンチングによる加工、エッチングによる加工、レーザーによる加工等の公知の方法をいずれも採用することができる。
【0029】
アルミニウム系基材では、その表面の一部又は全部において、樹脂成分を含む皮膜が形成されている。このような皮膜をアルミニウム系基材表面に形成することにより、アルミニウム系基材の腐食を効果的に抑制できるとともに、アルミニウム系基材が例えば石、砂利等のほか、電動車両等の荷重によって裂けたり、大きな穴が開いてしまったりすることを抑制することもできる。その結果、アルミニウム系基材を外部から保護することができ、長期間にわたって所望の性能を持続させることができる。
【0030】
皮膜は、アルミニウム系基材表面に直に接するように形成されていることが望ましい。また、本発明では、皮膜は、アルミニウム系基材の表面の全部に形成されていても良いが、特にアスファルト、コンクリート等の無機材料系構造物と直に接する面に皮膜を形成することが望ましい。一般的には、アルミニウム系基材の上方に無機材料系構造物が配置されることから、少なくともアルミニウム系基材の上面に皮膜が形成されていることが好ましい。特に、アルミニウム系基材の両面に皮膜が形成されていることがより好ましい。
【0031】
皮膜に含まれる樹脂成分としては、特に限定されず、例えばエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイソシアネート系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等の少なくとも1種を用いることができる。この中でも、アルミニウム系金属に対する密着性のほか、硬度、耐摩耗性、加工性、コスト等の点でエポキシ系樹脂を用いることが好ましい。
【0032】
皮膜中における樹脂成分の含有量は、限定的ではないが、例えば50~100重量%程度とすることができ、特に55~95重量%とすることが好ましい。
【0033】
本発明では、皮膜中に耐食性金属粒子をさらに含むことが好ましい。これによって、アルミニウム系基材の腐食をよりいっそう効果的に抑制ないしは防止することができる。
【0034】
耐食性金属粒子としては、酸又はアルカリに対して耐食性のある金属(合金を含む。)を用いることができる。例えば、ステンレス鋼、チタン合金、ニッケル合金等を挙げることができるが、耐食性、加工性、コスト等の点からステンレス鋼が好ましい。ステンレス鋼としては、特に限定されず、例えばフェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、2相系ステンレス鋼等の公知又は市販のステンレス鋼の少なくとも1種を好適に用いることができる。特に、高い耐食性と加工性を有する点でフェライト系ステンレス鋼及びオーステナイト系ステンレス鋼の少なくとも1種を用いることが好ましい。具体的に例示するとSUS430、SUS304、SUS316、SUS316L等が挙げられる。
【0035】
上記粒子の大きさは、皮膜中に分散できる限りは、特に制限されない。例えば平均粒径が2~30μm程度の範囲を採ることができるが、これに限定されない。
【0036】
また、上記粒子の形状は、例えば球状、楕円球状、フレーク状、繊維状、不定形状等のいずれでも良いが、この中でもフレーク状であることが好ましい。フレーク状とすることにより、比較的少量でより高い耐食性を発現させることができる。フレーク状である場合の平均アスペクト比(平均粒子径/フレーク厚み)は、例えば5~500程度とすることができるが、これに限定されない。
【0037】
皮膜中における耐食性金属粒子の含有量は、特に限定されないが、通常は1~55重量%程度とし、特に4~40重量%とすることが好ましい。
【0038】
本発明では、本発明の効果を妨げない範囲内において、皮膜中に他の成分が含まれていても良い。例えば、着色剤、界面活性剤(分散剤)、粘度調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、展色剤、消泡剤、沈降防止剤、硬化触媒、滑剤等が挙げられる。
【0039】
皮膜の形成量は、限定的ではないが、通常は0.5~15g/cm2の範囲で積層されていることが好ましい。この範囲に設定することにより、長期耐食性が付与でき、かつ、車両等の通行荷重による皮膜の欠落を効果的に防止することができる。
【0040】
皮膜の形成方法は、特に限定されないが、例えば樹脂成分を含む塗工液をアルミニウム系基材表面に塗布する工程を含む方法によって好適に皮膜を形成することができる。これにより、特に皮膜中に耐食性金属粒子を含有させる場合、アルミニウム系基材と耐食性金属粒子とが直接接触して電食が生じるおそれを効果的に低減させることができる。従って、例えば、1)樹脂成分を含み、かつ、金属粒子を含まない塗工液を予めアルミニウム系基材表面に塗布することにより樹脂層を形成する工程、2)樹脂成分及び耐食性金属粒子を含む塗工液を前記樹脂層表面に塗布する工程を含む方法も採用することができる。
【0041】
塗工液としては、樹脂成分のほか、必要に応じて耐食性金属粒子等の成分を含むものを用いることができる。この場合、溶媒を用いて塗工液を調製することができる。溶媒としては、例えばアルコール系溶媒、ケトン径溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒等の公知の溶媒(特に有機溶剤)中から樹脂成分及び耐食性金属粒子の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0042】
塗工液の固形分含量としては、円滑に塗工できる粘度等が確保できる限りは特に限定されず、例えば10~90重量%の範囲内で適宜設定することができる。
【0043】
塗布する方法は、特に制限されず、例えばスプレー、刷毛、ローラー、バーコーター、スピンコーター等の各種の塗布方法を採用することができる。また、例えばグラビア印刷、シルクスクリーン印刷等の公知の印刷方法も適用することができる。
【0044】
塗工液を塗布した後は、必要に応じて乾燥工程を実施することができる。乾燥は、自然乾燥又は加熱乾燥のいずれでも良い。加熱乾燥の場合は、例えば50~350℃程度で加熱することもできる。
【0045】
本発明電極の合計厚みは、限定的ではないが、通常は40~200μm程度の範囲となるようにすれば良い。
【0046】
本発明電極の平面視形状は、電動車両用に用いられる公知の電界結合式無線給電方式の電極と同様とすれば良い。すなわち、道路等の走行路の路面にレール状に敷設されることから、各電極は縦長状の形状とすることが望ましい。従って、例えば直線上の道路には長方形、曲線上の道路には円弧状の形状等を採用することができる。
【0047】
この場合の長尺方向の長さは、複数の本発明電極は、互いに直接又は他の導体(溶接、電線等)を介して接続できるので、比較的短めに設定することもできる。例えば1つの本発明電極の長さを1~50m程度とし、それを複数電気的に接続することで長距離にわたって電力を供給できるシステムを構築することができる。
【0048】
また、各電極の幅方向の長さは、例えば対象となる電動車両に搭載される一対の電極に対向するようにすれば良く、例えば幅0.3~5m程度の範囲内で適宜設定することができるが、これに限定されない。
【0049】
2.無線給電用構造体
本発明は、電動車両に対し、高周波電源からの電力を無線で伝送するための構造体であって、
(1)a)少なくとも1層の誘電層及びb)本発明の無線給電用電極を含み、かつ、前記無線給電用電極に含まれるアルミニウム系基材がアルミニウム箔であり、
(2)無線給電用電極の一対が互いに長尺方向において略平行となるように誘電層中に配置されている
ことを特徴とする無線給電用構造体(本発明構造体)を包含する。
【0050】
本発明構造体の層構成例を
図2に示す。本発明構造体10は、誘電層12の上に一対の無線給電用電極(本発明電極)11A,11Bが配置されている。
図2では、一対の無線給電用電極(本発明電極)11A,11Bが誘電層12中に埋め込まれた形態となっているが、例えば電極表面(上面)が誘電層から露出した形態であっても良い。なお、
図2において、本発明電極11A,11Bの表面に形成されている皮膜の表記は省略されている(以下の図面においても同じ。)。
【0051】
また、
図2をY方向からみた図(斜視図)を
図3に示す。
図3に示すように、無線給電用電極の一対11A,11Bが互いに長尺方向において略平行となるように誘電層(絶縁性基体)12中に敷設されている。
【0052】
本発明構造体の層構成例を
図4に示す。
図4では、誘電層が第1誘電層12a、第2誘電層12bから構成されており、第2誘電層12bの上面に一対の無線給電用電極(本発明電極)11A,11Bが敷設され、第2誘電層12b及び一対の無線給電用電極(本発明電極)11A,11Bを覆うように第1誘電層12aが形成されている。このように、誘電層は、1又は2層で形成されていても良いし、3層以上であっても良い。この場合、各誘電層の組成、厚み等は、適宜設定することができ、互いに同じであっても良く、あるいは互いに異なっても良い。
【0053】
無線給電用電極の一対11A,11Bの長さ及び幅は、前記で説明したような範囲に設定することができるが、例えば適用される電動車両、本発明構造体の設置場所等に応じて適宜設定すれば良い。また、両電極の間隔も、略平行となる限りは限定されず、例えば0.1~3m程度の範囲内で設定することが可能である。
【0054】
誘電層は、一対の本発明電極どうしを電気的に絶縁する役割(誘電体としての機能)を有するとともに、電動車両の走行路の下地として機能する。このような誘電層を構成する材料としては、例えばアスファルト材料、コンクリート材料、石材、粘土、ゴム、プラスチックス(発泡スチロール等)、フッ素樹脂、木材等の少なくとも1種を用いることができる。
【0055】
なお、誘電層は、走行路の最表面を構成する材料と同じでも良いが、走行路を構成する構造体の一部であっても良く、例えば路盤、路床、路体等も含まれる。従って、地上(地面)に設けられたコンクリート製スラブ、アスファルト製スラブ(床スラブ)をそのまま誘電層として適用することもできる。
【0056】
誘電層の厚みは、特に限定されず、例えば1~10cm程度の範囲内で適宜設定することができる。また、本発明電極の上面と誘電層の最表面との厚みは、その電界が電動車両に搭載された電極に届く範囲内とすれば良く、通常は4~8cm程度の範囲内で適宜設定することができるが、これに限定されない。
【0057】
本発明構造体においては、本発明の効果を妨げない範囲内において、必要に応じて他の層を形成しても良い。特に、誘電層の最下層表面にグランド層が積層されていることが望ましい。グランド層を形成することによって、本発明電極により形成される電界の下方向への放出を遮断することができる。例えば、
図5に示すように、誘電層12の最下層表面(裏面)にグランド層13が積層された電極10を含む構造も本発明に包含される。グランド層13として用いられる材質としては、電界遮蔽機能を有するものであれば限定されず、例えば各種の金属板等を好適に用いることができる。従って、例えばアルミニウム、ステンレス鋼等の金属板(あるいは金属箔)を好適に用いることができる。その厚みも、制限されず、通常は0.04~40mm程度とすることができる。
【0058】
本発明構造体は、公知の構造体と同様にして用いることができる。例えば、一対の本発明電極を電源側電極とし、両電極に高周波電源を接続する。負荷側電極が電動車両の車輪(例えば左右のタイヤに含まれるスチールベルト、ホイール等)に搭載されている場合は、一対の本発明電極の間隔が、電動車両の左右の車輪の間隔と略同一となるように設置される。これにより、左右の車輪に含まれる電極と本発明電極とが電界結合を形成し、電動車両側に電力伝送されることとなる。
【0059】
なお、電動車両が本発明電極から受ける高周波電流は車輪を介さなくても良く、車輪とは異なる部材を電動車両側に設けて電界結合が形成されるように設計することもできる。
【0060】
本発明構造体に適用できる電動車両としては、電気で駆動できる車両であれば特に限定されず、例えば電気自動車、電動車いす、搬送ロボットのほか、荷役運搬用車両等のいずれにも適用することができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0062】
実施例1
本発明電極を用いて
図6に示すような構造体を構成した。コンクリート床G上の全面に、グランド層13として長さ26m×幅1m×厚さ85μmの市販のアルミニウム箔(東洋アルミニウム社製、ALRIGID)を敷設し、この上に誘電層12として長さ180cm×幅90cm、厚さ20mmのポリスチレンフォーム(ダウ化工(株)製、スタイロフォーム(発泡ポリスチレン断熱材))を敷き詰めた。
【0063】
次いで、給電用電極(電導体)のアルミニウム系基材として、長さ25m×幅53cm×厚さ85μmのアルミニウム箔(Mn:1.7質量%、Cr:0.005質量%、Mg:0.8質量%、Ti:0.1質量%、Cu:0.005質量%、Si:0.1質量%、Fe:0.2質量%、残部アルミニウム)を2本用意した。前記アルミニウム箔に対し、ステンレス鋼フレーク(大阪印刷インキ製造社製,SUSインキ(品番:086-04570)、樹脂成分:エポキシ樹脂)を9.8g/m2(乾燥後)塗布することにより、前記アルミニウム箔の両面に皮膜を形成した。このときの皮膜中のステンレス鋼フレークの含有量は23重量%(乾燥後)であった。
【0064】
このようにして得られた給電用電極2本11A,11Bをポリスチレンフォーム12上にほぼ平行に並べて敷設した。このとき、2つの給電用電極間は4cm離間させた。
【0065】
次いで、それぞれの給電用電極の長尺側の端を銅テープでグランド層上に固定し、各給電用電極の両端にベクトルネットワークアナライザ(VNA)を接続し、周波数13.56MHz、出力1mWの条件にて測定した。このときの伝送効率を表1に示す。
【0066】
また、上記給電用電極として長さ15cm×幅10cm×厚さ85μmのアルミニウム箔を別途用意し、これを飽和水酸化カルシウム溶液に15日間浸漬し、腐食減量法によって腐食の進行のしにくさ(耐腐食度)を確認した。その結果を表1に示す。重量減少率が0.9%未満のものを合格とし、0.9%以上のものを不合格とした。
【0067】
実施例2
アルミニウム箔に1つあたりの約2.0mm2で開口率2.8%の貫通孔を予め形成した後に皮膜を形成した以外は、実施例1と同様にして給電用電極を作製し、高周波電力の伝送効率と耐腐食度を測定した。その結果を表1に示す。
【0068】
実施例3
アルミニウム箔の組成を、A5052(Al-Mg系合金)とした以外は、実施例1と同様にして給電用電極を作製し、高周波電力の伝送効率と耐腐食度を測定した。その結果を表1に示す。
【0069】
比較例1
アルミニウム箔に代えてSUS430(ステンレス鋼板)とした以外は、実施例1と同様にして給電用電極を作製し、高周波電力の伝送効率と耐腐食度を測定した。その結果を表1に示す。
【0070】
比較例2
アルミニウム箔に皮膜を形成していない給電用電極を用いたほかは実施例1と同様にして高周波電力の伝送効率と耐腐食度を測定した。その結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1の結果からも明らかなように、本発明の無線給電用電極は、電界結合式無線給電において従来から使用されてきたステンレス鋼版よりも高周波電力の伝送効率が高く、かつ、ステンレス鋼板並の耐腐食度を有することから、電力のエネルギーロスを低減し、しかも長期にわたる使用に耐えることができる。