(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】膨張ひずみの測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20240328BHJP
G01B 11/16 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
G01N33/38
G01B11/16 Z
(21)【出願番号】P 2020060170
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】三谷 裕二
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-001983(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102621041(CN,A)
【文献】平尾 宙 Hiroshi HIRAO,よくわかる非破壊検査 第5回,プレストレストコンクリート 第47巻第5号 JOURNAL OF PRESTRESSED CONCREAT, JAPAN ,第47巻,社団法人技術協会 渡邉 史夫,2005年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1個以上のレーザー変位計、(B)膨張ひずみ測定用の供試体を載置するための台座、および、(C)該供試体の位置決め治具、を少なくとも有する、膨張ひずみ測定装置の台座上に、前記供試体を載置した後、
レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定することにより、供試体の膨張ひずみを測る、膨張ひずみの測定方法。
ただし、前記供試体は、コンクリート硬化体であって、該供試体の厚さが、粗骨材の最大寸法より大きい供試体である。
【請求項2】
前記膨張ひずみ測定装置の台座上に、前記供試体が、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように載置される、請求項1に記載の膨張ひずみの測定方法。
【請求項3】
前記供試体は円板状または多角形状である、請求項1または2に記載の膨張ひずみの測定方法。
【請求項4】
前記供試体を時計回りまたは反時計回りに回転して、レーザー変位計と該供試体の周囲の側面の間の距離を複数回測り、これらの距離の平均値を該供試体の膨張ひずみとして求める、請求項1~3のいずれか1項に記載の膨張ひずみの測定方法。
【請求項5】
前記供試体の厚さが15~25mmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の膨張ひずみの測定方法。
【請求項6】
所定の期間が経過する度に、供試体を台座上に載置して膨張ひずみを測る、請求項1~5のいずれか1項に記載の膨張ひずみの測定方法。
【請求項7】
膨張前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板(基長板)を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の周囲の側面の間の距離(L
1)を測定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離(L
2)を測定し、L
1とL
2の差(L
1-L
2)を膨張ひずみとする、請求項1~6のいずれか1項に記載の膨張ひずみの測定方法。
【請求項8】
膨張前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板(基長板)を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の周囲の側面の間の距離を測定し、該距離(の表示)をゼロに設定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定して膨張ひずみとする、請求項1~
6のいずれか1項に記載の膨張ひずみの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ASR(アルカリシリカ反応)、およびDEF(エトリンガイトの遅延生成、Delayed Ettringite Formation)、コンクリート構造物の残存膨張量などのコンクリートの膨張ひずみを、簡易かつ効率的に測定できる膨張ひずみの測定方法と、膨張ひずみ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ASRは、反応性骨材中のシリカと、コンクリート中のアルカリ金属イオンが、高いpH条件下で反応して生成するアルカリシリカゲルが、吸水して膨張することにより、コンクリートにひび割れが生じる現象である。そして、このASRは、コンクリートの耐久性を低下させる主因の一つとして知られている。したがって、コンクリートの耐久性を確保するには、ひび割れの発生を予測して事前に補強等の対策をとる必要がある。
【0003】
また、DEFは、セメントが水和して生成するエトリンガイト(〔Ca6Al2(OH)12・24H2O〕(SO4)3・2H2O)が、数か月から数年後にコンクリート中で膨張して、コンクリートにひび割れを生じさせる現象である。DEFは、セメントペースト全体が膨張マトリックスであるため、反応性骨材が膨張マトリックスであるASRに比べ、膨張ひずみは数倍になる。
【0004】
ここで、コンクリートのアルカリシリカ反応性を判定する方法は、JCI-S-101-2017「コンクリートのアルカリシリカ反応性試験方法」と、JASS 5N T-603「コンクリートの反応性試験」がある。そして、JCI-S-101-2017の方法は、アルカリ総量がNa2O換算で5.5kg/コンクリート1m3のコンクリートを打設した後、材齢24時間で脱型して、得られた100×100×400mmの供試体を40℃で湿潤養生し、脱型後1~6か月、9か月、および12か月の供試体の長さ変化を、ダイヤルゲージ法を用いて測定する方法である。また、JASS 5N T-603の方法は、アルカリ総量がNa2O換算で1.2、1.8、および2.4kg/コンクリート1m3のコンクリートをそれぞれ打設した後、前記JCI規準と同じ方法で、同じ大きさの供試体を作製して同様に養生し、脱型後6か月の長さ変化をダイヤルゲージ法を用いて測定して、膨張ひずみが0.1%となる臨界アルカリ量を算出し、この臨界アルカリ量に基づきコンクリートのアルカリシリカ反応性を判定する方法である。
【0005】
しかし、JCI-S-101-2017の方法は、前記のとおり、供試体が大きく、専用の型枠、器具、および測定機器が必要であり、試験期間が最短でも1年と長期に亘る。また、JASS 5N T-603の方法は、前記のとおり、アルカリ量を3水準設定して、供試体を作製する必要がある。さらに、JCI-S-101-2017およびJASS 5N T-603の方法に共通する問題として、大きさが100×100×400mmの供試体は、ペシマム現象を伴うような膨張量が大きいコンクリートでは、骨材量やアルカリ溶脱の影響で供試体に捩れや歪みが生じて、個体差のばらつきが大きくなる可能性や、ダイヤルゲージによる測定が困難な場合がある。
一般的に、コンクリートの収縮ひずみは、比較的均一に生じ、長手方向の一次元的な長さの変位として捉えることができ、最大でも0.1%程度であるが、膨張ひずみでは、不均一な挙動を示し、無拘束の場合には膨張の際に、捩れや歪みが生じることがあり、これらの中には1~2%の膨張を引き起こす場合がある。したがって、ASRやDERなどの膨張は、個体間のばらつきが大きいため、膨張ひずみを正確に測定できないという課題があった。
【0006】
また、従来のDEF促進評価方法でも、ASRの判定方法と同じ100×100×400mm、またはφ100×200mmの大きさの供試体を用いるため、膨張ひずみのオーダーが数%と過大になることが多く、また、規準化された評価方法は存在しない。
また、ASRのおそれがある構造物は、今後どの程度膨張するかを推測する必要があり、前記残存膨張量とは、この「今後どの程度膨張するか」の推測値である。残存膨張量の試験方法の一つにJCI-DD2がある。この試験方法では、コアは原則として直径100mm、長さ約250mmと規定している。しかし、実際は、コンクリート中の鉄筋等により、この大きさのコアを採取するのは困難である。
【0007】
そこで、ASRやDEFを継続的に追跡する方法や、早期に判定する方法が提案されている。例えば、
特許文献1に記載のASRによるひび割れを継続的に追跡する方法は、コンクリート構造物に小口径のモニタリングホールを削孔し、該ホールの壁面を第1センサーによりスキャニングし、画像解析によりASRの1次診断を行い、追跡調査が必要であれば、残存耐荷力の照査を行い、残存耐荷力が必要耐荷力以上であれば、さらに、ASRの進行性を確認するため、前記ホールの壁面に第2センサーを設置して、ひび割れの進行性をモニタリングするなどの方法である。しかし、該方法は、コンクリート構造物を削孔しなければならず、また追跡作業が煩雑である。
特許文献2に記載のDEFの判定方法は、高温養生を受ける前のセメント組成物から採取した水和試料中のエトリンガイトの粉末X線回折の相対強度と、高温養生を受けた後のセメント組成物から採取した水和試料中のエトリンガイトの粉末X線回折の相対強度との差が5%以下の場合に、DEFが発生しないと判定する方法である。しかし、該方法は、試料の採取時点での観察に基づく判定であって、高温養生後の膨張挙動の経時変化は観察できず、装置も高額である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-189961号公報
【文献】特開2010-223634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明はASRやDEFなどにより生じるコンクリートの膨張ひずみを、簡易かつ効率的に測定できる方法と、膨張ひずみ測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記目的にかなう膨張ひずみの測定方法を鋭意検討した結果、特定の形状の供試体の膨張を、レーザーを用いて測定すれば、前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する膨張ひずみの測定方法、および膨張ひずみ測定装置である。
【0011】
[1](A)1個以上のレーザー変位計、(B)膨張ひずみ測定用の供試体を載置するための台座、および、(C)該供試体の位置決め治具、を少なくとも有する、膨張ひずみ測定装置の台座上に、前記供試体を載置した後、
レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定することにより、供試体の膨張ひずみを測る、膨張ひずみの測定方法。
ただし、前記供試体は、コンクリート硬化体であって、該供試体の厚さが、粗骨材の最大寸法より大きい供試体である。
[2]前記膨張ひずみ測定装置の台座上に、前記供試体が、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように載置される、前記[1]に記載の膨張ひずみの測定方法。
[3]前記供試体は円板状または多角形状である、前記[1]または[2]に記載の膨張ひずみの測定方法。
[4]前記供試体を時計回りまたは反時計回りに回転して、レーザー変位計と該供試体の周囲の側面の間の距離を複数回測り、これらの距離の平均値を該供試体の膨張ひずみとして求める、前記[1]~[3]のいずれかに記載の膨張ひずみの測定方法。
[5]前記供試体の厚さが15~25mmである、前記[1]~[4]のいずれかに記載の膨張ひずみの測定方法。
[6]所定の期間が経過する度に、供試体を台座上に載置して膨張ひずみを測る、前記[1]~[5]のいずれかに記載の膨張ひずみの測定方法。
[7]膨張前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板(基長板)を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の周囲の側面の間の距離(L1)を測定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離(L2)を測定し、L1とL2の差(L1-L2)を膨張ひずみとする、前記[1]~[6]のいずれかに記載の膨張ひずみの測定方法。
[8]膨張前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板(基長板)を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の周囲の側面の間の距離を測定し、該距離(の表示)をゼロに設定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定して膨張ひずみとする、前記[1]~[6]のいずれかに記載の膨張ひずみの測定方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の膨張ひずみの測定方法および膨張ひずみ測定装置は、以下の効果を有する。
(i)ASRおよびDEFなどにより生じるコンクリートの膨張ひずみを、簡易かつ効率的に測定できる。
(ii)ゲージプラグや器具の設置は不要で、直接、供試体の長さを測定できるため、長さ変化の限界値がない。具体的には、従来のコンタクトゲージ法では、測定器の膨張ひずみの測定可能範囲が±0.5mm程度であり、これを超える膨張ひずみは測定できない。また、ゲージプラグを設置する方法では捩じれや歪みが生じると、ゲージプラグ同士が一直線上にならないので、測定できない。一方、本発明は、レーザー変位計の測定可能範囲は±5mm程度と大きく、捩じれや歪みが生じても、円板供試体の周囲の側面にレーザーを照射するだけで、膨張ひずみを簡易に測定できる。
(iii)本発明で用いる供試体は、JCI-S-101-2017、JASS 5N T-603、およびJCI-DD2の方法で用いる供試体に比べて小さくて軽く、供試体を動かすなどの作業が容易で、多くの試験水準を実施できるため、比較的短期間で試験が終わる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】1個のレーザー変位計を有する本発明の膨張ひずみ測定装置の上に、供試体を載置した状態の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。
【
図2】2個のレーザー変位計を有する本発明の膨張ひずみ測定装置の上に、供試体を載置した状態の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。
【
図3】支持部材の下部の一部を、台座に埋め込んだ状態で設置してなる支持部材の上に、供試体を載置した状態の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。ただし、
図3では、レーザー変位計の記載は省略した。
【
図4】
図2の膨張ひずみ測定装置を用いて測定した、保管期間182日における円板供試体の膨張ひずみである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、前記のとおりの膨張ひずみの測定方法、および膨張ひずみ測定装置である。以下、本発明について、膨張ひずみ測定装置、および膨張ひずみの測定方法の順に詳細に説明する。
【0015】
1.膨張ひずみ測定装置
(A)レーザー変位計
本発明で用いるレーザー変位計4は、特に制限されず、反射型や透過型等の市販のレーザー変位計が挙げられる。
本発明では、レーザー変位計の数を増やせばデータ数が増え、その分、測定精度が向上するが、装置はコスト高になるため、レーザー変位計の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは1~2個である。
前記レーザー変位計は、台座上に載置した円板状または四角板状の供試体1の中心に向けてレーザーを照射できるように設置する。レーザー変位計の設置位置は、例えば、
図1や
図2に示す位置が挙げられる。
【0016】
(B)台座
本発明で用いる台座2は、膨張ひずみ測定用の供試体を載置するために用いる。台座の形状は、特に限定されず、例えば、
図1や
図2に示す正方形の板状や、円板状である。また、測定精度の向上のために、台座は水平に保たれていることが好ましい。
さらに、当該台座は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0017】
さらに、台座は、膨張ひずみ測定用の供試体を支持するための支持部材5を設置してもよい。支持部材を設置すると、膨張ひずみ測定用の供試体と台座の間の熱の移動を低減できるため、膨張ひずみの測定精度が向上する。
支持部材の形状は、特に制限されず、
図3に示すような球状(
図3では、支持部材の下部の一部が、台座に埋め込まれている。)や、柱状等が挙げられる。なお、支持部材を柱状にする場合は、上部を半球状にすることが好ましい。
支持部材の数は、3点以上あれば供試体を安定して載置できるから好ましいが、支持部材を多くすると装置の製造に手間がかかる。そのため、支持部材の数は3~4が好ましい。また、前記支持部材は、供試体を安定して載置するためには、正三角形または正方形を形成するように設置するのが好ましい。
図3は、支持部材が正方形を形成するように設置されている例である。
さらに、支持部材は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0018】
(C)位置決め治具
本発明で用いる位置決め治具3は、供試体の膨張ひずみを測定する際に、供試体の載置位置を決めて固定するために用いるもので、例えば、
図1や
図2に示すように、台座上に倒立した状態で設置してなる2本のピン等が挙げられる。
図1や
図2では、測定開始の時点で、円板状の供試体を台座に載置した場合、円板状の供試体の中心と台座の中心が一致するように、位置決め治具が円板状の供試体の周囲の側面と接触する位置に配置されている。この配置により、測定対象である供試体の周囲の側面の照射位置が、正確に固定できるため、膨張ひずみの膨張精度が向上する。
さらに、当該位置決め治具は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0019】
また、本発明の膨張ひずみ測定装置は、レーザー変位計、台座、および位置決め治具を、基盤を用いて一体化して構成することが好ましい。この場合、レーザー変位計、台座、および位置決め治具を設置するために用いる基盤は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0020】
2.膨張ひずみの測定方法
本発明の膨張ひずみの測定方法は、前記膨張ひずみ測定装置の台座上に、円板状または四角板状の供試体を、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように載置した後、レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定することにより、供試体の膨張ひずみを測る方法である。
なお、前記供試体は、コンクリートまたはモルタルなどのセメント組成物の硬化体である。
供試体が円板状の場合、供試体の直径は、10~30cmであれば、供試体の製造は容易で好ましい。なお、供試体の直径は、より好ましくは10~20cmである。また、供試体の厚さは5mm以上であれば供試体は割れ難く、50mm以下であれば作業性がよく、好ましい。なお、供試体の厚さは、より好ましくは8~40mm、さらに好ましくは10~30mm、特に好ましくは15~25mmである。供試体がコンクリートの場合、その厚さは、JISで規定する粗骨材の最大寸法よりも大きいことが好ましい。供試体の厚さが、粗骨材の最大寸法より小さいと、ASRの膨張性のゲルが漏出し、膨張ひずみを正確に捉えられない場合がある。
また、供試体が四角板状の場合、四角板の1辺の長さは、好ましくは10~30cm、より好ましくは10~20cmであり、さらに好ましくは、1辺の長さが10~30cmの正方形、特に好ましくは、1辺の長さが10~20cmの正方形である。1辺の長さが10~30cmであれば、供試体の製造は容易である。また、四角板状の供試体の厚さは、好ましくは粗骨材の最大寸法程度であり、より好ましくは8~40mm、さらに好ましくは10~30mm、特に好ましくは15~25mmである。供試体の厚さが8mm以上であれば、供試体は割れ難く、40mm以下であれば作業性がよい。供試体の厚さが、粗骨材の最大寸法より小さいと、ASRの膨張性のゲルが漏出し、膨張ひずみを正確に捉えられない場合がある。
なお、本発明の膨張ひずみ測定装置の台座に支持部材が設置されている場合、該支持部材上に、円板状または四角板状の供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように、該供試体を載置する。
【0021】
本発明の測定方法では、所定の期間毎に、供試体を台座上に載置して膨張ひずみを測る。そして、膨張ひずみの測定精度を向上させるため、好ましくは、供試体は円板状であり、該供試体を時計回りまたは反時計回りに回転して、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触した状態で、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を、複数回、好ましくは3~5回測る。例えば、
図1に示す供試体の点aを測定した後、供試体を時計回りに90°回転して点bを測定し、さらに時計回りに90°回転して点cを測定して、3点の平均値を膨張ひずみとして求める。具体的には、円板供試体は全方向に比較的均一に膨張するものと考えられるが、不均一に膨張した場合でも、回転して測定することにより、異なる直径方向の長さを測定できるので、その平均値を用いれば測定値は安定し、精度が向上する。
本発明の測定方法では、膨張ひずみを測定する間隔は任意であるが、測定の手間を低減するためには、好ましくは1~10日毎、より好ましくは1~7日毎である。
【0022】
また、本発明の測定方法は、膨張ひずみをより正確に測定するために、膨張前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板(基長板)を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の周囲の側面の間の距離(L1)を測定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離(L2)を測定し、L1とL2の差(L1-L2)を膨張ひずみとする方法である。
また、前記測定した距離が画面上に表示される測定装置を用いる場合、本発明の測定方法は、膨張前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板(基長板)を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の周囲の側面の間の距離を測定し、該距離(の表示)をゼロに設定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定して膨張ひずみとする方法である。具体的には、前記金属板(基長板)を用いることにより、装置を校正でき、前回の測定からの誤差を補正することができる。
基長板は温度や湿度、摩耗などの影響を受けにくい材質の金属が望ましく、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)セメント(略号:C):普通ポルトランドセメントで、太平洋セメント社製である。
(2)細骨材(略号:S):山砂である。
(3)粗骨材(略号:G1):最大寸法が20mmの反応性骨材(安山岩)である。なお安山岩は反応性の高いシリカ鉱物(クリストバライト、トリジマイト、結晶の小さい石英、および非晶質の火山ガラス)などを多く含んでいる。
(4)粗骨材(略号:G2):最大寸法が20mmの砕石(硬質砂岩)である。
(5)水(略号:W):水道水である。
(6)AE減水剤(略号:AD):リグニンスルホン酸系AE減水剤で、商品名はポゾリスNo.70[登録商標](BASF社製)である。
(7)NaOH(略号:Na):水酸化ナトリウムの試薬である。
なお、反応性骨材とは、反応性の高い鉱物(シリカ鉱物等)を含んだ骨材であり、例えば、安山岩などの火山岩、チャートのような堆積岩などが挙げられる。
【0024】
2.膨張ひずみ測定用の供試体の作製
表1に示す配合に従い、各配合のそれぞれについて、前記の各材料を容量50リッターのパン型ミキサに一括して投入し、2分間混練した後、混練物を円柱状の型枠に打設して成形し、直径10cm、高さ20cmで、アルカリ総量がNa2O換算で5.5kg/コンクリート1m3のコンクリートの供試体を得た。次に、該コンクリートを厚さ2cmにスライスして、膨張ひずみ測定用の円板供試体をそれぞれ3枚ずつ作製した。これら合計9枚について、それぞれ、配合毎に、供試体No1、No2、およびNo3の名称を付した。
【0025】
【0026】
3.供試体の膨張ひずみの測定
前記円板供試体を、保管期間(材齢)56日まで20℃で湿潤養生した後、40℃の湿潤養生に切り替えて、7日おきに供試体の長さを測定して、膨張ひずみを算出した。具体的には、前記膨張ひずみ測定装置の台座上に、円板供試体を、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように載置した後、レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定した。
また、参考のため、大きさが100×100×400mmの角柱供試体の膨張ひずみを、JCI-S-101-2017の方法に準拠して測定した。
これらの結果を表2と
図4に示す。
【0027】
【0028】
表2と
図4に示すように、角柱供試体を用いたJCI法では配合1および配合3において大きな膨張ひずみが生じており、反応性骨材によるASRのゲルも観察された。一方、厚さ2cmの円板供試体の配合1および3における保管期間182日時点の膨張ひずみは、供試体No.1~3の平均で800~600×10
-6程度であり、ばらつきも少なく、膨張ひずみを捉えることができている。
さらに本発明は、相対的に膨張ひずみを比較できるので、配合1と配合3の比較のように、反応性骨材の混合割合を変化させたペシマムの評価を簡易的に把握・比較することができ、他にも反応性骨材の種類の差、温度や湿度など環境の影響についても評価可能である。
なお、本発明はこれらのASRによる膨張ひずみに限定されず、DEFに起因する膨張ひずみにも適用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 供試体
2 台座
3 位置決め治具
4 レーザー変位計(ただし、黒色の矢印はレーザーを示す。)
5 支持部材