(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】シクロデキストリン誘導体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/16 20060101AFI20240328BHJP
【FI】
C08B37/16
(21)【出願番号】P 2019103587
(22)【出願日】2019-06-03
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2018161374
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石倉 幹大
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-323002(JP,A)
【文献】特開2001-081104(JP,A)
【文献】特開2016-069652(JP,A)
【文献】国際公開第2004/085487(WO,A1)
【文献】Macromolecules,2001,Vol.34, No.11,pp.3574-3580
【文献】Carbohydrate Polymers,2013年,Vol.92, No.2,pp.1308-1314
【文献】Carbohydrate Research,2013年,Vol.380,pp.149-155
【文献】Cyclodextrin: From Basic Research to Market,International Cyclodextrin Symposium,米国,2000年,10th, May21-24,pp.71-75
【文献】Polymer Journal,1997年,Vol.29, No.7,pp.563-567
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,1997年,Vol.7, No.2,pp.109-112
【文献】Journal of Inclusion Phenomena and Molecular Recognition in Chemistry,1996年,Vol.25, No.1-3,pp.69-72
【文献】Journal ofInclusion Phenomena and Macrocyclic Chemistry,2003年,Vol.44, No.1-4,pp.39-47
【文献】Journal of DrugDelivery Science and Technology,2006年,Vol.16, No.1,pp.45-48
【文献】Advanced Materials,2011年,Vol.23, No.31,pp.3526-3530
【文献】カルボン酸および誘導体 1.7 酸アミドおよび酸イミド 1.7.1 カルボン酸およびそお誘導体からの合成,実験化学講座16有機化合物の合成IV-カルボン酸・アミノ酸・ペプチド-,第5版,2005年03月31日,pp.119-127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(4)で表されるシクロデキストリン誘導体。
【化1】
【化2】
[上記一般式(1)又は(4)において、mは0~7、nは1~8、かつm+n=6~8であり、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水酸基又は下記式(a)で表される基を示し、下記式(a)は少なくとも1つ存在する。]
-NH-Z ・・・(a)
[式中、Zは、
グルクロン酸のカルボキシル基がアミノ基と縮合して形成される、
ヘミアセタール構造を有する
単糖の残基である。]
【請求項2】
前記m+n=7である、請求項
1に記載のシクロデキストリン誘導体。
【請求項3】
前記R1は前記式(a)で示される基であり、前記R2、R3は水酸基である、請求項1
または2のいずれか1項に記載のシクロデキストリン誘導体。
【請求項4】
前記nは1である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のシクロデキストリン誘導体。
【請求項5】
シクロデキストリンを構成するいずれか1つ以上の糖の、6位、2位、3位のいずれか1以上のヒドロキシル基をアミノ化してなる、アミノ化シクロデキストリンと、
へミアセタール構造を有するウロン酸とを、縮合剤の存在下で縮合反応させることにより、下記一般式
(1)又は(4)で表されるシクロデキストリン誘導体を製造することを特徴とするシクロデキストリン誘導体の製造方法。
【化3】
【化4】
[上記一般式(1)及び(4)において、mは0~7、nは1~8、かつm+n=6~8であり、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水酸基又は下記式(a)で表される基を示し、下記式(a)は少なくとも1つ存在する。]
-NH-Z ・・・(a)
[式中、Zは、
ウロン酸と、アミノ基とが縮合して形成される、
へミアセタール構造を有する
単糖の残基を示す。]
【請求項6】
前記アミノ化シクロデキストリンは、シクロデキストリンをトシル化又は塩素化し、得られたトシル化シクロデキストリン又は塩素化シクロデキストリンをアジド化し、得られたアジド化シクロデキストリンをアミノ化することにより調製する、請求項
5に記載のシクロデキストリン誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記縮合剤として、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩(BOP)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロりん酸(PyBOP)、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(WSC)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’)-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸(HBTU)から選ばれた少なくとも1種を用いる、請求項
5又は
6に記載のシクロデキストリン誘導体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のシクロデキストリン誘導体を含有することを特徴とする食品。
【請求項9】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のシクロデキストリン誘導体を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項10】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のシクロデキストリン誘導体を含有することを特徴とする化粧品。
【請求項11】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のシクロデキストリン誘導体を含有することを特徴とする農薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシクロデキストリン誘導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンは、立体的に見れば、いわば底のないバケツ様の構造であり、空洞外部が親水性であるのに対し、空洞内部が疎水性を示すという特徴を有する。この特徴により、シクロデキストリンは空洞内部に特定の有機分子(ゲスト分子)を包み込むように取り込む現象(包接)を示すことが知られている。このシクロデキストリンの包接作用により、ゲスト分子の安定性の向上、苦味や異臭のマスキング、溶解性の改善などが可能であるため、シクロデキストリンは、医薬品、農薬、化粧品、食品、化成品、塗料、繊維などの様々な分野に幅広く利用されている。
【0003】
また、シクロデキストリンの水や有機溶媒への溶解性の改善、水への不溶化、高分子表面の改質への利用、特性付加などを目的に、種々のシクロデキストリン誘導体が開発されており、その1つとしてシクロデキストリンに対し分岐状に糖を結合させた分岐シクロデキストリンが知られている。具体的には、グルコース、マルトース、マルトオリゴ糖、ガラクトース、マンノースなどの糖を分岐構造として有する分岐シクロデキストリンが知られている(非特許文献1~3、特許文献1~4)。しかしながら、上記分岐シクロデキストリンは、酵素反応により合成されるものであり、シクロデキストリンを構成するグルコース残基のいずれかの水酸基と上記糖の1位炭素に結合する水酸基が脱水縮合してグリコシド結合を形成するため、いずれも還元性を有していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】シクロデキストリンの応用技術、株式会社シーエムシー出版発行、2008年2月、P.262~268
【文献】澱粉科学の事典、株式会社朝倉書店発行、2003年3月、P.479~483
【文献】オリゴ糖類I 澱粉関連オリゴ糖、一般社団法人菓子・食品新素材技術センター出版発行、2015年3月、P.61~76
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-70996号
【文献】特開昭和61-92592号
【文献】特開平10-36406号
【文献】特開平08-107794号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、還元性を有する新規なシクロデキストリン誘導体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)で表されるシクロデキストリン誘導体を提供する。
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
[上記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)において、mは0~7、nは1~8、かつm+n=6~8であり、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水酸基又は下記式(a)で表される基を示し、下記式(a)は少なくとも1つ存在する。]
-NH-Z ・・・(a)
[式中、Zは、ウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖のカルボキシル基がアミノ基と縮合して形成される、還元性基を有する単糖又はオリゴ糖の残基を示す。]
また、本発明は、シクロデキストリンを構成するいずれか1つ以上の糖の、6位、2位、3位のいずれか1以上のヒドロキシル基をアミノ化してなる、アミノ化シクロデキストリンと、ウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖とを、縮合剤の存在下で縮合反応させることにより、下記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)で表されるシクロデキストリン誘導体を製造することを特徴とするシクロデキストリン誘導体の製造方法を提供する。
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
[上記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)において、mは0~7、nは1~8、かつm+n=6~8であり、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水酸基又は下記式(a)で表される基を示し、下記式(a)は少なくとも1つ存在する。]
-NH-Z ・・・(a)
[式中、Zは、ウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖と、アミノ基とが縮合して形成される、還元性基を有する単糖又はオリゴ糖の残基を示す。]
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、還元性を有する新規なシクロデキストリン誘導体およびその製造方法を提供することができる。本発明のシクロデキストリンは還元性を有するという特徴をもつため、当該化学的特徴を生かして医薬品、農薬、化粧品、食品、化成品、塗料、繊維など様々な分野への利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例1の反応物1の
1H-NMR解析結果を示す図。
【
図2】本発明の実施例1の反応物1の
13C-NMR解析結果を示す図。
【
図3】本発明の実施例1のCD誘導体の構造式を示す図。
【
図4】本発明の実施例2の反応物2の
1H-NMR解析結果を示す図。
【
図5】本発明の実施例2の反応物2の
13C-NMR解析結果を示す図。
【
図6】本発明の実施例2のCD誘導体の構造式を示す図。
【
図7】本発明の実施例3の反応物3の
1H-NMR解析結果を示す図。
【
図8】本発明の実施例3の反応物3の
13C-NMR解析結果を示す図。
【
図9】本発明の実施例3のCD誘導体の構造式を示す図。
【
図10】本発明の実施例4の反応物4の
1H-NMR解析結果を示す図。
【
図11】本発明の実施例4の反応物4の
13C-NMR解析結果を示す図。
【
図12】本発明の実施例6の反応物6の
1H-NMR解析結果を示す図。
【
図13】本発明の実施例6の反応物6の
13C-NMR解析結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
シクロデキストリン(以下、「CD」と表記する場合がある。)は、環状のα-1,4-グルカンであり、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼが澱粉などのα-1,4-グルカンに作用することにより、その分子内転移反応によって生成される。その重合度は主として6~8であり、それぞれα-CD、β-CD、γ-CDと呼ばれる。シクロデキストリンは、立体的に見れば、いわば底のないバケツ様の構造をしており、空洞外部が親水性であるのに対し、空洞内部が疎水性を示すという特徴を有する。この特徴により、シクロデキストリンは空洞内部に特定の有機分子など(ゲスト分子)を包み込むように取込む現象(包接)を示し、包接複合体が形成される。一般にシクロデキストリンによるゲスト分子の包接は、シクロデキストリンの空洞のサイズ及びゲスト分子のサイズ又はゲスト分子の構造の一部のサイズが一致する場合に起こり得る。また、シクロデキストリン空洞内部は疎水性であるため、ゲスト分子が疎水性である場合の方が比較的包接されやすい傾向がある。
【0022】
本発明の新規なCD誘導体は、下記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物からなる。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
[上記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)において、mは0~7、nは1~8、かつm+n=6~8であり、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水酸基又は下記式(a)で表される基を示し、下記式(a)は少なくとも1つ存在する。]
-NH-Z ・・・(a)
[式中、Zは、ウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖と、アミノ基とが縮合して形成される、還元性基を有する単糖又はオリゴ糖の残基を示す。]
上記に示されたとおり、本発明のCD誘導体は、シクロデキストリンにアミノ基を修飾させ、さらに当該アミノ基とウロン酸(例えばグルクロン酸)の6位炭素のカルボキシル基がアミド結合により結合した構造を有する。当該構造のため、分岐構造を形成するウロン酸(例えばグルクロン酸)の1位炭素がアルデヒド基となり還元性を示す。
【0028】
本発明のCD誘導体は、α-CD、β-CD、γ-CDのいずれに上記分岐構造が付与されたものでもよい。各CDはそれぞれ性質が異なるため、求められる性質に応じていずれかを適宜選択すればよい。
【0029】
ウロン酸は、単糖を酸化して得られ、単糖のアルデヒド基またはカルボニル基と共にカルボキシル基1個を有するカルボン酸である。
【0030】
分岐構造を形成するウロン酸は特に制限はないが、例えば、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、アラビノン酸、フルクツロン酸、タガツロン酸、イズロン酸、グルロン酸などを用いることができ、これらウロン酸から選ばれた1種又は2種以上のものを用いることができる。また、ウロン酸を含むオリゴ糖なども分岐構造として用いることができる。ウロン酸を含むオリゴ糖としては、例えばヒアルロン酸オリゴ糖が挙げられる。
【0031】
また、ウロン酸、ウロン酸を含むオリゴ糖としては、ウロン酸ナトリウムなどの塩の状態としたウロン酸塩、ウロン酸オリゴ糖塩を用いることもでき、本発明におけるウロン酸、ウロン酸オリゴ糖とは、上記のような塩の形態のものも含む意味である。ウロン酸、ウロン酸オリゴ糖として、塩の形態ではないもの、塩の形態のもののいずれを用いるかは、所望とするCD誘導体の種類によって適宜選択すればよいが、塩の形態のものを用いると、反応時に水等の溶媒に溶解しやすく、かつ、安価に入手できるというメリットが得られる場合がある。
【0032】
本発明のCD誘導体は、アミノ化CDとウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖とを縮合剤の存在下で縮合反応させることで製造することが出来る。すなわち、本発明のシクロデキストリン誘導体の製造方法は、シクロデキストリンを構成するいずれか1つ以上の糖の、6位、2位、3位のいずれか1以上のヒドロキシル基をアミノ化してなる、アミノ化シクロデキストリンと、ウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖とを、縮合剤の存在下で縮合反応させることにより、上記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)で表されるシクロデキストリン誘導体を製造する方法である。例えば、上記製造方法により、アミノ化CDのアミノ基とウロン酸の6位炭素のカルボキシル基がアミド結合により結合した構造のCD誘導体を得ることができる。
【0033】
本発明のCD誘導体の出発物質のアミノ化CDは、下記構造である。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
[上記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)において、mは0~7、nは1~8、かつm+n=6~8であり、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水酸基又はアミノ基を示し、アミノ基は少なくとも1つ存在する。]
本発明に用いるアミノ化CDもCDにアミノ基が付与されたものであればよく、α-CD、β-CD、γ-CDのいずれにアミノ基が付与されたものでもよく、6位炭素にアミノ基が付与されたものや3位炭素にアミノ基が付与されたもの、2位炭素にアミノ基が付与されたもの、さらにはグルコース残基(糖残基)中の複数の炭素にアミノ基が付与されたものも用いることができる。アミノ基の数も特に制限はなく、CD分子中の1つのグルコース残基(糖残基)にアミノ基が付与されたものや複数のグルコース残基(糖残基)にアミノ基が付与されたものを用いることができる。
【0039】
当該アミノ化CDは、CDをトシル化し、得られたトシル化CDをアジド化し、得られたアジド化CDをアミノ化することにより調製することができる。例えば、CDの6位の水酸基のアミノ基への変換は、水酸基を例えば、塩化p-トルエンスルホニル(塩化トシル)でトシル化する。その後、トシル化された水酸基をナトリウムアミドでアジド基へ変換し、最後にアジド基をトリフェニルホスフィンで還元することによりアミノ化CDを得ることができる。また、トシル化された水酸基は、アンモニア水と反応させることでより簡便にアミノ基へ変換してアミノ化CDを得ることもできるが、他の方法で合成してもよい。さらに、当該アミノ化CDは、CDを塩素化し、得られた塩素化CDをアジド化し、得られたアジド化CDをアミノ化することによっても調製することができる。また、トシル化又は塩素化の後に特定の置換度のトシル化CD又は塩素化CDを液体クロマトグラフィーにより分取してアジド化及びアミノ化することにより、特定の置換度を持つアミノ化CDを合成することができる。さらに、試薬として販売されている種々のアミノ化CDを購入して用いることもできる。また、アミノ化CDを塩酸等の酸により塩の状態としたアミノ化CD塩も用いることができる。本発明のアミノ化CDとは、上記アミノ化CD塩も含む意味である。本発明においては、アミノ化CD及びアミノ化CD塩のいずれを用いてもよく、所望とするCD誘導体の種類により適宜選択すればよいが、アミノ化CD塩を用いると、反応時に水等の溶媒に溶解しやすく、かつ、安価に入手できるといったメリットが得られる場合がある。
【0040】
本発明に用いる縮合剤は、上記アミド結合を形成できるものならばよく、通常用いる縮合剤を用いることができる。例えば、アミノ酸を縮合させペプチド結合を形成させる反応に用いる触媒を縮合剤として用いることができ、具体的には、縮合剤として、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩(BOP試薬)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt試薬)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロりん酸(PyBOP試薬)、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC試薬)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(WSC試薬)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC試薬)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM試薬)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’)-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸(HBTU試薬)などを用いることができ、また、これら縮合剤から選ばれた少なくとも1種だけでなく複数種を用いることができる。
【0041】
本発明の製造方法において、縮合剤を用いた縮合反応は、用いる縮合剤の性質などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、BOP試薬の場合は室温においてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中で3時間反応させればよい。
【0042】
本発明のCD誘導体は、通常のCDや他の分岐CDと比べ還元性を有しているという特徴を持つ。当該特徴により化学反応性に富むので、例えば他の化合物との反応(高分子材料を合成する場合の原料への利用など)や生体内での各種反応(生体内での還元剤としての利用など)が期待できる。すなわち、本発明のCD誘導体は、上述の特徴を生かして、種々の食品、医薬品、化粧品、農薬などに用いることができる。
【0043】
本発明のCD誘導体を配合することで当該CD誘導体を含有する医薬品、農薬、化粧品又は食品などを得ることができる。この場合のCD誘導体の含有量は、求められる品質・性能に併せて適宜調整すればよいが、例えば、医薬品の場合は0.01~50質量%、農薬の場合は0.01~10質量%、化粧品の場合は0.01~10質量%、食品の場合は0.01~10質量%とすることができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン(mono-6-NH
2-β-CD)100mgをDMF10mLに溶解し、BOP試薬390mg、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)135mgおよびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)342mgを添加した。上記溶液にグルクロン酸を171mg添加し、Arガスにより封入して常温で3時間反応させた。その後アセトンにより反応物1を沈殿させて回収した。アセトンおよびメタノールにより沈殿を洗浄し、溶媒を除去して反応物1を回収した。収率は、82%であった。さらに、反応物1をODSカラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィーにて精製した。精製して得られた反応物1をESI-MSにより分析したところ、[M+Na]+の場合のモノアイソトピック質量はm/z1332.41、[M-H]-の場合のモノアイソトピック質量はm/z1308.41であった。さらに、核磁気共鳴(NMR)法による
1H-NMR解析結果(
図1)および
13C-NMR解析結果(
図2)より、反応物1は、mono-6-NH
2-β-CD分子内のアミノ基とグルクロン酸分子内のカルボキシル基が脱水縮合してアミド結合を形成した還元性を有するCD誘導体(
図3)であることが確認された。
【0046】
(実施例2)
mono-6-NH
2-β-CD100mgをDMF10mLに溶解し、BOP試薬117mg、HOBt41mgおよびDIEA103mgを添加した。上記溶液にガラクツロン酸一水和物を56mg添加し、Arガスにより封入して常温で3時間反応させた。その後アセトンにより反応物2を沈殿させて回収した。アセトンおよびメタノールにより沈殿を洗浄し、溶媒を除去して反応物2を回収した。収率は、91%であった。得られた反応物2について、
1H-NMRおよび
13C-NMR解析した。
1H-NMR解析結果(
図4)および
13C-NMR解析結果(
図5)より、反応物2は、mono-6-NH
2-β-CD分子内のアミノ基とガラクツロン酸分子内のカルボキシル基が脱水縮合してアミド結合を形成した還元性を有するCD誘導体(
図6)であることが確認された。
【0047】
(実施例3)
3A-アミノ-3A-デオキシ-(2AS,3AS)-β-シクロデキストリン水和物(mono-3-NH
2-β-CD)100mgをDMF10mLに溶解し、BOP試薬117mg、HOBt41mgおよびDIEA103mgを添加した。上記溶液にグルクロン酸を52mg添加し、Arガスにより封入して常温で3時間反応させた。その後アセトンにより反応物3を沈殿させて回収した。アセトンおよびメタノールにより沈殿を洗浄し、溶媒を除去して反応物3を回収した。収率は、50%であった。得られた反応物3について、
1H-NMRおよび
13C-NMR解析した。
1H-NMR解析結果(
図7)および
13C-NMR解析結果(
図8)より、反応物3は、mono-3-NH
2-β-CD分子内のアミノ基とグルクロン酸分子内のカルボキシル基が脱水縮合してアミド結合を形成した還元性を有するCD誘導体(
図9)であることが確認された。
【0048】
(実施例4)
CDをα-CDとし、縮合剤をDMT-MM試薬として、CD誘導体を製造した。すなわち、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-α-シクロデキストリン(mono-6-NH
2-α-CD)50mgを超純水1mLに溶解し、DMT-MM試薬9.9mgを添加した。上記溶液にグルクロン酸を14.1mg添加し、常温で70時間反応させた。その後、透析およびODSカラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィーにて精製し、反応物4を得た。
1H-NMR解析結果(
図10)および
13C-NMR解析結果(
図11)より、反応物4は、mono-6-NH
2-α-CD分子内のアミノ基とグルクロン酸分子内のカルボキシル基が脱水縮合してアミド結合を形成した還元性を有するCD誘導体であることが確認された。
【0049】
(実施例5)
CDをβ-CDとし、縮合剤をDMT-MM試薬として、CD誘導体を製造した。すなわち、mono-6-NH
2-β-CD50mgを超純水5mLに溶解し、DMT-MM試薬12.2mgを添加した。上記溶液にグルクロン酸を8.6mg添加し、常温で75時間反応させた。その後、透析およびODSカラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィーにて精製し、反応物5を得た。
1H-NMR解析結果および
13C-NMR解析結果より、反応物5は、mono-6-NH
2-β-CD分子内のアミノ基とグルクロン酸分子内のカルボキシル基が脱水縮合してアミド結合を形成した還元性を有するCD誘導体(
図3)であることが確認された。
【0050】
(実施例6)
CDをγ-CDとし、縮合剤をDMT-MM試薬として、CD誘導体を製造した。すなわち、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-γ-シクロデキストリン(mono-6-NH
2-γ-CD)50mgを超純水5mLに溶解し、DMT-MM試薬35.7mgを添加した。上記溶液にグルクロン酸を22.7mg添加し、常温で92時間反応させた。その後、透析およびODSカラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィーにて精製し、反応物6を得た。
1H-NMR解析結果(
図12)および
13C-NMR解析結果(
図13)より、反応物6は、mono-6-NH
2-γ-CD分子内のアミノ基とグルクロン酸分子内のカルボキシル基が脱水縮合してアミド結合を形成した還元性を有するCD誘導体であることが確認された。
【0051】
(実施例7)
CDおよびウロン酸のいずれも塩を用いて、CD誘導体を製造した。すなわち、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン塩酸塩(mono-6-NH
2-β-CD・HCl)50mgを超純水5mLに溶解し、DMT-MM試薬11.8mgを添加した。上記溶液にグルクロン酸ナトリウム水和物を10mg添加し、常温で75時間反応させた。その後、透析およびODSカラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィーにて精製し、反応物7を得た。
1H-NMR解析結果および
13C-NMR解析結果より、反応物7は、mono-6-NH
2-β-CD分子内のアミノ基とグルクロン酸分子内のカルボキシル基が脱水縮合してアミド結合を形成した還元性を有するCD誘導体(
図3)であることが確認された。
【0052】
(実施例8)
ウロン酸のみ塩を用いて、CD誘導体を製造した。すなわち、mono-6-NH
2-β-CD50mgを超純水5mLに溶解し、DMT-MM試薬12.2mgを添加した。上記溶液にグルクロン酸ナトリウム水和物を10.3mg添加し、常温で75時間反応させた。その後、透析およびODSカラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィーにて精製し、反応物8を得た。
1H-NMR解析結果および
13C-NMR解析結果より、反応物8は、mono-6-NH
2-β-CD分子内のアミノ基とグルクロン酸分子内のカルボキシル基が脱水縮合してアミド結合を形成した還元性を有するCD誘導体(
図3)であることが確認された。
【0053】
(実施例9)
CDのみ塩を用いて、CD誘導体を製造した。すなわち、mono-6-NH
2-β-CD・HCl50mgを超純水5mLに溶解し、DMT-MM試薬11.8mgを添加した。上記溶液にグルクロン酸を8.3mg添加し、常温で75時間反応させた。その後、透析およびODSカラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィーにて精製し、反応物9を得た。
1H-NMR解析結果および
13C-NMR解析結果より、反応物9は、mono-6-NH
2-β-CD分子内のアミノ基とグルクロン酸分子内のカルボキシル基が脱水縮合してアミド結合を形成した還元性を有するCD誘導体(
図3)であることが確認された。