(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H01M 50/35 20210101AFI20240328BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20240328BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240328BHJP
H01M 50/213 20210101ALI20240328BHJP
H01M 50/375 20210101ALI20240328BHJP
H01M 50/367 20210101ALI20240328BHJP
【FI】
H01M50/35 101
H01M50/342 101
H01M50/204 401H
H01M50/213
H01M50/375
H01M50/367
(21)【出願番号】P 2019140321
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河上 聡
(72)【発明者】
【氏名】岸田 裕司
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-110138(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038184(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/092773(WO,A1)
【文献】特開2012-119138(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021881(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/017586(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/130259(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0138478(US,A1)
【文献】国際公開第2014/156001(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/014449(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065169(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが外装缶を有し、一方の端面を電極としつつ、内圧上昇時にガスを排出する排出弁を備える複数の電池セルと、
前記複数の電池セルを、前記外装缶を平行状の姿勢で、前記一方の端面が同一平面状となるように保持する複数の電池ブロックと、
前記複数の電池ブロックの端面で、前記複数の電池セルの端面に配置され、前記排出弁が開弁された際に放出されるガスの熱及び圧力で少なくとも一部が破断させて、該ガスを透過させる吸熱シートと、
前記複数の電池ブロック同士の間に配置され、かつ前記吸熱シートから離間して配置され、前記排出弁が開弁された際に放出されて前記吸熱シートを破断して透過されたガスを受ける隔離板と、
を備え
、
前記隔離板は、少なくとも前記吸熱シートと対向する一面に、前記ガスの流路を規定するガス排出方向規制壁を形成してなる電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載される電源装置であって、
前記吸熱シートは、前記排出弁が開弁された際に放出されるガスで少なくとも一部を破断されて、該ガスを透過させて前記隔離板に向かって進行させると共に、該ガスが前記隔離板に当たって拡散、反射されたガスが、隣接する電池セルの端面に至る事態を、未破断の領域で阻止してなる電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載される電源装置であって、
前記吸熱シートは、前記排出弁が開弁された際に放出されるガスで少なくとも一部を破断されることで、該ガスの熱を吸熱すると共に、該ガスの熱が前記隔離板で反射されて生じる輻射熱が、隣接する電池セルの端面に至る事態を、未破断の領域で阻止してなる電源装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載される電源装置であって、さらに、
前記電池ブロックの端面において、前記複数の電池セルの各電極を接続したリード板を備えており、
前記吸熱シートは、絶縁性を備えると共に、前記リード板に密着させてなる電源装置。
【請求項5】
請求項4に記載される電源装置であって、
前記吸熱シートは、一面を粘着性を有する面としてなる電源装置。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載される電源装置であって、
前記電池ブロックが複数、連結されており、
前記隔離板が、前記電池ブロック同士を連結する面同士の間に介在されてなる電源装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載される電源装置であって、
前記電池セルの外装缶が、円筒形状である電源装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載される電源装置であって、
前記吸熱シートが、シリコーン系樹脂で構成されてなる電源装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載される電源装置であって、
前記隔離板が、マイカ、ガラスエポキシ又はアルミニウムで構成されてなる電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アシスト自転車や電動バイク、電動工具や電動クリーナーなどの電源として、電池パック等の電源装置が用いられている。電源装置は、電池セルを多数並べて、直列や並列に接続することで、高出力化や高容量化を図っている。各電池セルは、何らかの異常により、セル内部で高圧、高温のガスが発生した際、これをセル外部に放出するため、円筒形の外装缶の一方の端面、例えば正極側に、安全弁を設けている。安全弁は、外装缶が高圧になった際にこれを検出して開弁し、外装缶内部の高圧、高温のガスをセル外部に排出する。
【0003】
万一、いずれかの電池セルから高温のガスが排出された場合に、このガスが他の正常な電池セルを加熱して異常が拡大していく事態を回避する必要がある。特に、電池ブロックで平行姿勢に保持される複数の電池セルの安全弁を設けた端面同士が隣接するように配置されている場合は、一の電池セルから放出された高温のガスが、他の電池セルの安全弁に悪影響を与えることが考えられる。例えば
図14の分解斜視図に示すように、電源装置800の端面に、高温、高圧のガスが他の部位に直接吹き付けなられないように隔離板864を配置している構成においては、
図15の拡大斜視図に示すように、高温のガスが隔離板864で跳ね返される結果、隣接する電池セルの安全弁を加熱する事態が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-251472号公報
【文献】特開2008-251470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的の一は、いずれかの電池セルから万一、高温のガスが排出されたとしても、隣接する電池セルを保護して安全性を高めた電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面に係る電源装置は、それぞれが外装缶を有し、一方の端面を電極としつつ、内圧上昇時にガスを排出する排出弁を備える複数の電池セルと、前記複数の電池セルを、前記外装缶を平行状の姿勢で、前記一方の端面が同一平面状となるように保持する複数の電池ブロックと、前記複数の電池ブロックの端面で、前記複数の電池セルの端面に配置され、前記排出弁が開弁された際に放出されるガスの熱及び圧力で少なくとも一部が破断させて、該ガスを透過させる吸熱シートと、前記複数の電池ブロック同士の間に配置され、かつ前記吸熱シートから離間して配置され、前記排出弁が開弁された際に放出されて前記吸熱シートを破断して透過されたガスを受ける隔離板とを備え、前記隔離板は、少なくとも前記吸熱シートと対向する一面に、前記ガスの流路を規定するガス排出方向規制壁を形成している。
【発明の効果】
【0007】
上記構成により、一の電池セルが万一、排出弁から高温、高圧のガスを放出する場合でも、放出されたガスは、吸熱シートでもってガスの勢いと熱を弱めた状態になって、隔離板に吹き付けることになる。よって、放出されたガスは、吸熱シートで弱められ隔離板でさらに拡散されて温度と圧力が低下する。したがって、隣接する電池セルを放出されたガスから保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電源装置を示す垂直断面図である。
【
図2】
図1の電源装置の電池集合体を示す斜視図である。
【
図4】
図3の電池集合体の更なる分解斜視図である。
【
図6】
図5の電池ブロックのVI-VI線における垂直断面図である。
【
図7】
図5の電池ブロックのVII-VII線における垂直断面図である。
【
図9】
図3の一方の電池ブロックに隔離板を装着した状態を示す斜視図である。
【
図10】
図9から隔離板を外した状態を示す斜視図である。
【
図13】電池ブロック同士の間に排気空間を形成する様子を示す分解斜視図である。
【
図14】他の電池ブロックを示す分解斜視図である。
【
図15】
図14の電源装置の一の電池セルからガスが排出された場合の進行方向を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のある態様の電源装置は、上述の構成に加えて、以下のように構成してもよい。前記吸熱シートは、前記排出弁が開弁された際に放出されるガスで少なくとも一部を破断されて、該ガスを透過させて前記隔離板に向かって進行させると共に、該ガスが前記隔離板に当たって拡散、反射されたガスが、隣接する電池セルの端面に至る事態を、未破断の領域で阻止することができる。上記構成により、ガスが隔離板で反射されて隣接する電池セルに悪影響を与える事態を、吸熱シートの未破断領域でもって該隣接する電池セルの端面を遮ることで効果的に保護することができる。
【0010】
また前記吸熱シートは、前記排出弁が開弁された際に放出されるガスで少なくとも一部を破断されることで、該ガスの熱を吸熱すると共に、該ガスの熱が前記隔離板で反射されて生じる輻射熱が、隣接する電池セルの端面に至る事態を、未破断の領域で阻止することができる。上記構成により、ガスの熱を吸熱シートで吸熱し、かつ未破断領域でもって隣接する電池セルの端面を保護することができる。
【0011】
また電源装置はさらに、前記電池ブロックの端面において、前記複数の電池セルの各電極を接続したリード板を備えることができる。前記吸熱シートは、絶縁性を備えると共に、前記リード板に密着させることができる。上記構成により、リード板の表面に吸熱シートを密着させて、電池セルの安全弁から放出される高温、高圧のガスを、吸熱シートを破断させながら効果的に弱めることができる。
【0012】
前記吸熱シートは、一面を粘着性を有する面としている。上記構成により、吸熱シートを容易にリード板に貼付することができる。
【0013】
前記電池ブロックは複数、連結されており、前記隔離板が、前記電池ブロック同士を連結する面同士の間に介在させてもよい。
【0014】
前記電池セルの外装缶は、円筒形状としてもよい。
【0015】
前記吸熱シートは、シリコーン系樹脂で構成できる。
【0016】
前記隔離板は、マイカ、ガラスエポキシ又はアルミニウムで構成することができる。
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明は以下のものに特定されない。また、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0018】
以下に示す電源装置は、主として、モータのみで走行する電動スクーターや電動カート、電気自動車などの電動車両の駆動用電源に適用する例を説明する。なお本発明の電源装置を、エンジンとモータの両方で走行するハイブリッド車に使用したり、電動車両以外の大出力が要求される用途、例えば家庭用、工場用の蓄電装置等に使用してもよい。
[実施形態1]
【0019】
実施形態1に係る電源装置を、
図1~
図8に示す。これらの図において、
図1は本発明の一実施形態に係る電源装置100を示す垂直断面図、
図2は
図1の電源装置100の電池集合体40を示す斜視図、
図3は
図2の電池集合体40の分解斜視図、
図4は
図3の電池集合体40の更なる分解斜視図、
図5は
図3の電池ブロック40Aの側面図、
図6は
図5の電池ブロック40AのVI-VI線における垂直断面図、
図7は
図5の電池ブロック40AのVII-VII線における垂直断面図、
図8は
図6の要部拡大断面図を、それぞれ示している。これらの図に示す電源装置100は、外装ケース9に電池集合体40を内蔵している。電池集合体40は、
図2、
図3、
図4等に示すようにその一面に絶縁プレート4を被覆している。電池集合体40は、一対の電池ブロック40A、40Bを備えており、一対の電池ブロック40A、40Bを対向位置(
図1において左右)に配置して連結している。また電池ブロック40A、40Bの間には、
図3に示すように隔離板64を配置している。さらに
図4の分解斜視図に示すように、隔離板64と電池ブロック40A、40Bとの間には、吸熱シート68を配置している。加えて電池集合体40の上面には、電池セル1の充放電を制御する充放電回路や保護回路等を実装した回路基板8が配置されている。
(電池ブロック40A、40B)
【0020】
各電池ブロック40A、40Bは、
図1~
図7に示すように、複数の電池セル1を平行姿勢に並べて、両端を同一平面に配置して、両端の端部電極13にリード板45を接続している。電池集合体40は、対向位置に配置する一対の電池ブロック40A、40Bを電池セル1の軸方向に並べて配置すると共に、一対の電池ブロック40A、40Bの間に空間として絶縁スペース6を設けている。リード板45は
図5等に示すように、金属板等で構成された集電端子である。各々の電池ブロック40A、40Bは、
図8の拡大断面図に示すように、絶縁スペース6の対向位置に端部電極13を配置している。
(電池セル1)
【0021】
電池セル1は、
図8の拡大断面図に示すように、設定圧力で開弁する排出弁2の排出口を端面に設けている。電池セル1は両端に端部電極13を設けている。この電池セル1は、アルミニウム等の金属製外装缶の開口部を封口板で気密に密閉して、封口板に凸部電極を設けて第一端部電極13Aとし、外装缶の底面を第二端部電極13Bとしている。排出弁2の排出口は、凸部電極側に設けられ、あるいは外装缶の底面に設けられる。
【0022】
電池セル1は、円筒形電池のリチウムイオン電池である。リチウムイオン電池は、大きさや重量に対する容量が大きく、電源装置のトータル容量を大きくできる。ただ本発明の電源装置は、電池セルをリチウムイオン電池には特定しない。電池セルには、充電できる他の二次電池が使用できる。また、
図1の電源装置100は、電池セル1を円筒形電池とするが、電池セルには角形電池も使用できる。各々の電池セル1は、その両端の端部電極13にリード板45を溶接して、隣接する電池セル1を直列又は並列に接続している。
(電池ホルダ44)
【0023】
電池ブロック40A、40Bは、複数の電池セル1を、それぞれ外装缶を平行状とする姿勢で、一方の端面が同一平面状となるように保持する電池ホルダ44を備える。
図4や
図7に示すように、電池ホルダ44でもって電池セル1を定位置に配置している。電池ホルダ44はプラスチック等の絶縁材を成形して制作される。図の電池ホルダ44は、すべての電池セル1を平行な姿勢で定位置に配置している。電池ホルダ44で定位置に配置される電池セル1は、その両端にリード板45を溶接するので、各々の端部に溶接されるリード板45を同一面に位置するように、各々の電池セル1をその両端部がほぼ同一面に位置するように、電池ホルダ44に配置している。
【0024】
電池ホルダ44は、電池セル1を挿入して定位置に配置する挿入部44Aを設けている。
図4、
図6、
図7等の電源装置100は、電池セル1を円筒形電池とするので、挿入部44Aを円柱状としている。電池ホルダ44は、プラスチックを筒状に成形して内側に挿入部44Aを設けている。挿入部44Aは、電池端部を露出させる開口部44Bを両端に設けている。開口部44Bは、挿入部44Aに挿入される電池セル1の端部を挿入部44Aから外部に露出させる。開口部44Bに露出される電池セル1の端面は、端部電極13となってここにリード板45が溶接して固定される。
(絶縁スペース6)
【0025】
図1に示すように、一対の電池ブロック40A、40Bの間に絶縁スペース6を設けて、絶縁スペース6の両側に電池セル1の端面を配置する電池集合体40は、排出弁2の排出口が絶縁スペース6の方向に配置される。排出弁2が開弁すると、排出口から排出される高温の噴出ガスが対向する電池ブロック40A、40Bの端面に向かって噴射される。対向位置にある電池セル1の対向面に噴射される高温の噴出ガスは、電池セル1の熱暴走を誘発する原因となる。
図4、
図6の電源装置100は、絶縁スペース6の中間に隔離板64を配置している。
(隔離板64)
【0026】
隔離板64は、排出弁2から排出される噴出ガスで溶融されない耐熱温度すなわち融点を備える耐熱性の絶縁シートである。絶縁シートは、例えば難燃処理した耐熱紙が利用できる。ただ隔離板64には、耐熱紙に代わって噴出ガスで溶融されない無機繊維をシート状に集合した紙や不織布、あるいは無機材を薄いシート状に結合した無機シート等も使用できる。これらの隔離板64は薄くできるので、隔離板64が絶縁スペース6の実質容積を減少することなく、絶縁スペース6を広くして噴出ガスをスムーズに排出できる。絶縁性の隔離板64は、両面に配置される電池セル1の端面やリード板45を絶縁状態に配置できる。ただ、隔離板を構成する材質は、必ずしも絶縁材とする必要はない。例えば隔離板の表面に絶縁シートを積層して表面を絶縁できる。ただ、隔離板を絶縁材としてその表面に絶縁材を積層する構造は、隔離板による絶縁性をさらに向上できる。
【0027】
隔離板64は、電池セル1の端面と平行な姿勢で配置される。
図6の電源装置100は、絶縁スペース6の中間に隔離板64を配置して、隔離板64の両面には噴出ガスの絶縁スペース6を設けている。隔離板64は、この隔離板64と対向する電池ブロック40A、40Bからの発熱(あおり熱)が、隔離板64の裏面側に位置する電池ブロック40B、40Aに伝導することを防止する。
(ガス排出方向規制壁65)
【0028】
ガス排出方向規制壁65は、電池セル1からガスが排出された場合に、ガスの流路を規定する。ガス排出方向規制壁65でガスの流れを規制することで、任意の方向にガスを誘導して、安全に電源装置100から外部に排出することが可能となる。
【0029】
図3の一方の電池ブロック40Aに隔離板64を装着した状態を示す斜視図を
図9に示す。この図に示すように、隔離板64は、少なくとも一面に、排出弁2が開弁された際に放出されるガスを所定の方向に案内するガス排出路66を画成するガス排出方向規制壁65を形成している。この構成により、電池セル1のいずれかが万一、内圧が上昇してガスを排出する事態となっても、ガスの排出方向を、隔離板64に設けたガス排出方向規制壁65によって規制することができる。この結果、望ましくない部位に高温高圧のガスが吹きかけられることがないように設計して、電源装置の安全性を高めることができる。
【0030】
図3、
図9等に示すように隔離板64にガス排出方向規制壁65を設けることで、ガスの排出方向を、ガス排出方向規制壁65に沿って規制できる。この結果、ガス排出方向規制壁65でもって高温高圧のガスが、熱に弱い部材の方向に流れることを避け、電源装置の外部に安全に排出されるように案内することができる。これによって、絶縁スペース6を介して、対向する電池ブロック40A、40Bに含まれる電池セル1のいずれかが、排出弁2同士が向かい合う姿勢に配置されていても、ガス放出時のガスの流れを規制して安全に電源装置の外部に排出できる。
【0031】
また、絶縁スペース6にはその周囲を囲む枠部のような閉塞部材等の障壁を設けない。このため、電池セル1から排出されて絶縁スペース6に導入された高温高圧のガスは、一旦絶縁スペース6に導入された後、ガス排出方向規制壁65に案内されてスムーズに絶縁スペース6の外部に排出される。これにより、高温高圧のガスが電池ブロック40A、40B同士の間に止まる事態を避け、高温高圧のガスが熱暴走した電池セル以外の電池セルまで加熱する事態を回避することができる。
【0032】
ガス排出方向規制壁65は、隔離板64上で、電池セル1の一方の端面同士が隣接する領域に設けられている。これにより、万一、一の電池セルからガスが排出されても、このガスが隣接する電池セルの排出弁2を設けた弁を加熱する事態を、端面同士の間に介在されたガス排出方向規制壁65でもって防ぎ、安全性を高めることができる。またガス排出方向規制壁65は、凸条に形成することで、隔離板64と一体に形成し易く、またガスの圧力に対する強度も発揮できる。
【0033】
ガス排出方向規制壁65は、好ましくは隔離板64の両面に形成される。これにより、電池ブロック40A、40B同士の間に介在された隔離板64のガス排出方向規制壁65でもって、隔離板64の両面に配置した電池セルに対して、ガスの排出方向を規制することが可能となり、安全性が一層高められる。ただ、ガス排出方向規制壁65を隔離板64の片面にのみ形成する構成としてもよい。例えば、電池ブロックの片面側に負極側のみが面するように電池セルを配置できるような構成であれば、ガス排出方向規制壁を省略してもよい。また、片面にのみガス排出方向規制壁を設けた隔離板を2枚組み合わせて、ガス排出方向規制壁を設けた面が電池ブロックと対向する姿勢に積層してもよい。
【0034】
ガス排出方向規制壁65は、好ましくは隔離板64に一体に形成する。また隔離板64と別部材で構成したガス排出方向規制壁65を、隔離板64に接着してもよい。このようなガス排出方向規制壁65は、ガラス繊維入りPBTで構成できる。あるいは隔離板64を、耐熱性に優れたマイカ、ガラスエポキシ又はアルミニウムで構成してもよい。なお、ガス排出方向規制壁65を、隔離板64と別部材で構成することもできる。この場合、ガス排出方向規制壁65は、隔離板64と同じ材質で構成する他、耐熱性のあるクッション材やゴム材などとしてもよい。
【0035】
図7や
図9に示すガス排出方向規制壁65は、縦方向に形成された直線状に形成している。このようなガス排出方向規制壁65の詳細を、
図5の側面図に示す。ガス排出方向規制壁65は、電池セル1の排出弁2を設けた側の電極同士の間に配置されることが好ましい。これによって、排出弁2から排出されたガスが、隣接する他の電池セルの排出弁2に噴射されて、この電池セルを熱暴走させる事態を回避できる。上述の通り、一般には正極側の電極に排出弁2が設けられるため、結果として電池セル1の正極同士の間にガス排出方向規制壁65を設けることが好ましい。また
図5等に示す電源装置では、ガス排出方向規制壁65でもって図において上下方向にガスが案内される。このため電源装置の上下方向に、ガスを安全に外部に排出できる構造、例えば排気ダクト等を必要に応じて設ける。
(吸熱シート68)
【0036】
さらに電源装置100は、複数の電池セル1の端面に吸熱シート68を配置して、電池セルから万一ガスが放出された場合の安全性を高めている。
図9の電池ブロック40Aから隔離板64を外した状態を示す斜視図を
図10に示す。この図に示すように、電池ブロック40A、40Bの端面で、複数の電池セル1の端面に吸熱シート68が配置される。吸熱シート68は、排出弁2が開弁された際に放出されるガスの熱及び圧力で少なくとも一部が破断させて、このガスを透過させる。一方で隔離板64は、
図11の要部拡大断面図に示すように、電池ブロック40A、40Bの端面で、吸熱シート68から離間して配置されている。隔離板64は、排出弁2が開弁された際に放出されて吸熱シート68を破断して透過されたガスを受ける。このような構成により、一の電池セル1が万一、排出弁2から高温、高圧のガスを放出することがあっても、吸熱シート68でもってガスの勢いと熱を弱めた状態で隔離板64に吹き付ける構成としたことで、吸熱シート68と弱められたガスが隔離板64でさらに拡散されて温度と圧力を低下させ、隣接する電池セル1を保護することが可能となる。
【0037】
電池セルを複数接続した電池ブロックにおいては、従来、電池同士の隙間をポッティング樹脂でポッティングすることが行われていた。ポッティング樹脂を複数の電池セルの表面に一体的に密着させることで、電池セルの熱エネルギーをポッティング樹脂に伝導し、ポッティング樹脂でもって熱容量を確保することにより、電池セルを保護していた。このような構成においては、
図13の電源装置900の分解斜視図に示すように、電池ブロック940A、940Bを複数連結する構造において、排気空間963の周囲に枠部962を形成して、排気空間963内にポッティング樹脂が流入することを阻止している。また電池セルの排出弁の排出口からポッティング樹脂が流入してガスの排出を阻害する事態を回避していた。
【0038】
また、
図14の分解斜視図に示す電源装置800のように、電池ブロック840Aの端面に隔離板864を配置する構成においては、
図15の拡大断面図に示すように、電池ブロック840と隔離板864との間に排気空間863を設けることで、電池セルからのガスや高温の影響を防いでいる。しかしながら、この構成では排気空間863の大きさが十分に確保できないと、電池セルから噴出された高温高圧のガスや炎が隔離板864で跳ね返されて、排気空間863内に滞留することで生じる高熱の影響を十分に減じることができないという問題があった。
【0039】
これに対して本実施形態に係る電源装置100では、隔離板64を電池ブロック40Aの端面から離間して配置することで、電池ブロック40Aの高温時のあおり熱を抑制すると共に、上述の通り吸熱シート68をリード板45に設けたことで、ガスを放出した電池セルの周囲の電池セルの端面を保護することができる。また、吸熱シート68でもって熱容量を確保できるので、従来必要であったポッティング樹脂を省略することもでき、軽量化や製造工程の簡素化、低コスト化も図られる。
【0040】
吸熱シート68は、絶縁性を備えると共に、リード板45に密着されている。これにより、リード板45の表面に吸熱シート68を設けて、電池セル1の安全弁から放出される高温、高圧のガスを、吸熱シート68を破断させながら効果的に弱めることができる。このため吸熱シート68は、一面を粘着性を有する面とすることが好ましい。これにより吸熱シート68を容易にリード板45に貼付することができる。
【0041】
図12に、電池ブロック40Aから放出されたガスの進行方向と吸熱シート68の要部拡大模式断面図を示す。この図に示すように、吸熱シート68は、排出弁2が開弁された際に放出されるガスで少なくとも一部が破断される。このガスは吸熱シートを透過して隔離板64に向かって進行する。さらに、このガスが隔離板64に当たって拡散、反射された後、このガスが隣接する電池セルの端面に至る事態を、吸熱シート68の未破断の領域で阻止する。すなわち電池セル1から噴射される高圧、高温のガスによって、吸熱シート68が部分的に破断されるものの、ガスの圧力と熱は吸熱シート68の破断時に一部が失われる。さらに、噴射されたガスは隔離板64に衝突して反射される際にも熱と圧力が部分的に減じられると共に、衝突時に隔離板64で拡散される。この結果、隔離板64で跳ね返されて再び吸熱シート68に至った時点では、ガスの温度も圧力も当初の勢いに比べて相当弱められている。そして、噴射されたガスは隔離版で拡散されてその進行方向を変え、ガスを放出した電池セル1の周囲に隣接する電池セルの端面に向かう。しかしながら、これらの隣接する電池セルは吸熱シート68の未破断の領域で覆われている。そして、上述の通り温度や圧力を減じられたガスは、吸熱シート68を再度破断する程の勢いを有していないことから、これらの電池セルの端面は吸熱シート68によって保護される。これによって、ガスを放出した電池セルの周囲に位置する電池セルの保護を、吸熱シート68の未破断の領域でもって効果的に図ることが可能となる。このようにして、高温高圧のガスの発生による類焼を抑制し、ガスが隔離板64で反射されて隣接する電池セルにまで広範囲に悪影響を与える事態を、吸熱シート68でもって阻止することができる。
【0042】
吸熱シート68は、排出弁2が開弁された際に放出されるガスで少なくとも一部を破断されることで、このガスの熱を吸熱して温度を低下させる。加えて、温度を奪われたガスの熱が隔離板64で反射されて生じる輻射熱が、隣接する電池セルの端面に至る事態を、未破断の領域で阻止することができる。このように、吸熱シート68は高圧ガスで破断されることにより、ガスの衝撃を弱めると共に、ガスの熱を奪って温度を低下させる吸熱作用を発揮できる。さらに、ガスの輻射熱に対しても、吸熱シート68の未破断領域でもって隣接する電池セルの端面を保護することができる。
【0043】
このような吸熱シート68は、例えばシリコーン系樹脂やウレタン系材料等で構成できる。実施形態で用いた吸熱シート68の物性は、以下の通りである。
(1)硬度:20AskerC
(2)比重:1.9
(3)引張強さ:0.14MPa
【0044】
伸び率:100%
(4)引裂強さ:0.51N/mm
(5)熱導率:2.0W/m・K
(6)誘電率:
50Hz:4.84
1kHz:4.25
1MHz:3.93
(7)誘電正接:
50Hz:1.19×10-1
1kHz:4.61×10-2
1MHz:7.01×10-3
(8)体積抵抗率:4.5×1013Ω・cm
(9)絶縁破壊電圧:16.6kV/mm
(10)耐電圧:10.0kV/mm
(11)難燃性V-0
【0045】
なお、以上の構成では電池ブロック40A、40Bを2個連結して電池集合体を構成する例を説明したが、本発明は電池ブロックの個数を2個に限定するものでなく、1個としてもよい。すなわち、一個の電池ブロックの端面におけるガスや熱の影響を低減できる。あるいは、電池ブロックの個数を3個以上としてもよい。3個以上の電池ブロックを連結する電源装置においては、電池ブロックは絶縁スペース6を隔てて離間して配置している。また電池ブロック同士を連結する界面において、それぞれ隔離板64を配置すると共に、隔離板64にガス排出方向規制壁65を設けて、各連結界面におけるガスの排出を安全に行わせることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の電源装置は、電動スクーターや電動カート、電気自動車などの電動車両の駆動用電源、家庭用や工場用の蓄電装置の電源として、好適に利用できる。
【符号の説明】
【0047】
100、800、900…電源装置
1…電池セル
2…排出弁
4…絶縁プレート
6…絶縁スペース
8…回路基板
9…外装ケース
13…端部電極;13A…第一端部電極;13B…第二端部電極
40、940…電池集合体
40A、40B、840A、940A、940B…電池ブロック;40a…対向面
44…電池ホルダ;44A…挿入部;44B…開口部
45…リード板
61…閉塞カバー
64、864…隔離板
65…ガス排出方向規制壁
66…ガス排出路
68…吸熱シート
962…枠部
863、963…排気空間