(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】撮像装置及びその制御方法、プログラム、記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G03B 5/00 20210101AFI20240328BHJP
H04N 23/68 20230101ALI20240328BHJP
【FI】
G03B5/00 J
H04N23/68
(21)【出願番号】P 2020005411
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 進洋
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-109426(JP,A)
【文献】特開2015-188199(JP,A)
【文献】特開2017-021253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00
H04N 23/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置であって、
被写体像を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子を、光軸回りに回転させる方向および光軸に垂直な方向に移動させることが可能な駆動手段と、
振れ検出手段によって検出された前記撮像装置の振れに基づく像ブレを補正するように、前記駆動手段が前記撮像素子を移動させる目標移動量を算出する算出手段と、
前記撮像素子の
、基準位置からの光軸回りの回転方向への傾き
位置に応じて、前記撮像素子の露光開始の前に、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の傾きを
、前記基準位置まで、または前記傾き位置から前記基準位置に向けて所定量回転した所定の位置まで戻すように前記駆動手段
の戻し制御を行う戻し制御手段と、
前記撮像素子の露光を制御するシャッタが、電子先幕であるか否かと、前記戻し制御で、前記撮像素子の傾きを戻した位置との少なくともいずれかに基づいて、
前記撮像素子の光軸回りの回転方向の像ブレ補正における最大移動量を決定し、該最大移動量に基づいて、前記撮像素子の前記撮像装置のピッチ方向への振れに基づく像ブレを補正するための第1の最大移動量と、前記撮像素子の前記撮像装置のヨー方向への振れに基づく像ブレを補正するための第2の最大移動量とを変更する変更手段と、
を備え
、
前記駆動手段は、前記撮像素子の露光を制御するシャッタが電子先幕であり、かつシャッタ速度が画角の周辺の露出ムラが目立つ程度に高速である場合に、画像を撮影する露光中において、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の像ブレ補正を行わないことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記戻し制御手段は、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の
前記基準位置からの傾き量が
前記所定量以下の場合に、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の傾き量が
前記基準位置に対してゼロになるように、前記撮像素子を回転させることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記戻し制御手段は、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の
前記基準位置からの傾き量が前記所定量より大きい場合に、前記撮像素子を光軸回りに
、前記基準位置に近づく方向に、前記所定量だけ回転させることを特徴とする請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記所定量とは、前記撮像素子を光軸回りに
前記基準位置に向けて回転させたときに、
停止時の振動により画質に影響を与えない程度の量であることを特徴とする請求項2または3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記変更手段は、前記撮像素子の露光を制御するシャッタが、電子先幕であり、かつシャッタ速度が画角の周辺の露出ムラが目立つ程度に高速である場合に、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の全ての移動可能量を、前記第1の最大移動量と前記第2の最大移動量とに振り分けることを特徴とする請求項
1乃至4のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記変更手段は、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の最大移動量を決めた後に、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の移動可能量を、前記第1の最大移動量と前記第2の最大移動量とに振り分けることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記変更手段は、前記撮像素子の露光開始の直前の光軸回りの回転方向への
前記基準位置からの傾き量がゼロでない場合は、その位置を新たな基準位置として、正方向の回転量と負方向の回転量が同じになるように光軸回りの回転方向の最大移動量を確保した後、残りの移動可能量を前記第1の最大移動量と前記第2の最大移動量とに振り分けることを特徴とする請求項
6に記載の撮像装置。
【請求項8】
シャッタ速度が画角の周辺の露出ムラが目立つ程度に高速である場合とは、シャッタ速度が1/1000秒より短い場合であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項9】
被写体像を撮像する撮像素子と、前記撮像素子を、光軸回りに回転させる方向および光軸に垂直な方向に移動させることが可能な駆動手段と、を備える撮像装置を制御する方法であって、
振れ検出手段によって検出された前記撮像装置の振れに基づく像ブレを補正するように、前記駆動手段が前記撮像素子を移動させる目標移動量を算出する算出工程と、
前記撮像素子の
、基準位置からの光軸回りの回転方向への傾き
位置に応じて、前記撮像素子の露光開始の前に、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の傾きを
、前記基準位置まで、または前記傾き位置から前記基準位置に向けて所定量回転した所定の位置まで戻すように前記駆動手段
の戻し制御を行う戻し制御工程と、
前記撮像素子の露光を制御するシャッタが、電子先幕であるか否かと、前記戻し制御で、前記撮像素子の傾きを戻した位置との少なくともいずれかに基づいて、
前記撮像素子の光軸回りの回転方向の像ブレ補正における最大移動量を決定し、該最大移動量に基づいて、前記撮像素子の前記撮像装置のピッチ方向への振れに基づく像ブレを補正するための第1の最大移動量と、前記撮像素子の前記撮像装置のヨー方向への振れに基づく像ブレを補正するための第2の最大移動量とを変更する変更工程と、を有
し、
前記駆動手段は、前記撮像素子の露光を制御するシャッタが電子先幕であり、かつシャッタ速度が画角の周辺の露出ムラが目立つ程度に高速である場合に、画像を撮影する露光中において、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の像ブレ補正を行わないことを特徴とする撮像装置の制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の制御方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項11】
請求項9に記載の制御方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶したコンピュータが読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置において、像ブレを補正する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスチルカメラ、ビデオカメラ等の撮像装置には、像ブレ補正機能が備えられているのが一般的である。特に光学的に像ブレ補正を行う場合には通常2つのタイプがある。
【0003】
1つは、主に像ブレ補正専用の補正レンズを光軸に垂直な方向に移動させることにより像ブレ補正動作を実現するタイプ(以下、レンズシフト像ブレ補正と呼ぶ)である。また、もう1つは、撮像素子を光軸に垂直な方向に移動させることにより像ブレ補正動作を実現するタイプ(以下、センサシフト像ブレ補正と呼ぶ)である。
【0004】
これら2つの像ブレ補正機構を同時に駆動させることにより、何れか一方の像ブレ補正だけの場合と比較して、補正範囲を広くすることができる。それにより、更なるスローシャッタスピードでの像ブレ補正動作が可能となり、像ブレ補正性能を高めることができる。
【0005】
ここで、垂直方向の像ブレをピッチブレ、水平方向の像ブレをヨーブレ、回転方向の像ブレをロールブレと呼ぶことにする。
【0006】
センサシフト像ブレ補正では、撮像素子が光軸に対して水平方向、垂直方向に動作するだけでなく、回転方向にも動作することができるため、ロールブレをも補正できる。レンズシフト像ブレ補正では、補正レンズはロールブレを補正することはできないが、先に述べた通りピッチブレとヨーブレは補正レンズと撮像素子のシフトで協働して補正することができる。
【0007】
センサシフト像ブレ補正、レンズシフト像ブレ補正のいずれを使用する場合であっても、像ブレ補正範囲にはメカニカルな限界(以下補正限界と呼ぶ)が存在する。特に、センサシフト像ブレ補正では、ピッチブレ、ヨーブレ、ロールブレの全ての補正量を合わせた量が、補正限界を超えないように制御を行っている。このことからロール方向の補正を行っていない場合は、ピッチ方向とヨー方向に対して補正限界を使い切ることができる。それに対し、ロール方向の補正を行っている場合は、その回転角度に応じてピッチ方向とヨー方向の補正限界の割り当ては少なくなる。
【0008】
そもそも、ピッチブレとヨーブレは撮像装置の焦点距離が短いと目立たなくなることが知られているが、実際には、ロールブレも同時に目立たなくなる特徴がある。そのため、特許文献1では、焦点距離によってロールブレの補正を行わずにピッチブレとヨーブレの補正に専念する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
センサシフト像ブレ補正において、先に述べたピッチ方向、ヨー方向、ロール方向の補正割り当て(それぞれの方向の最大補正量)を決める方法には大きく分けて2つの方法がある。
【0011】
ピッチ方向、ヨー方向、ロール方向の最大補正量を予め決めておく静的方法と、ピッチ方向、ヨー方向、ロール方向の最大補正量をリアルタイムに変更する動的方法である。
【0012】
前者は、動的に補正範囲を変更する場合と比較すると、最大補正量の切り替わり時の不自然なブレ残りなどが発生するリスクがなく、ピッチ方向、ヨー方向、ロール方向の補正計算が単純になる。ただし、例えば予めロール最大補正量を確保しておくと、ロール補正量が小さいときは確保した分の補正量が無駄になる場合がある。
【0013】
後者は、静的に補正範囲を固定にする場合と比較すると、状況に応じて最適な補正範囲を確保することができる。ただし、動的に補正範囲を切り替えることにより、急な状況変化に対して最大補正範囲を縮小する場合に、不自然なブレ残りが発生する場合がある。また、それだけでなく、ピッチ方向、ヨー方向、ロール方向の補正計算も複雑となる。
【0014】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、センサシフト方式の像ブレ補正において、ピッチ方向、ヨー方向、ロール方向への補正量の割り当てを最適化することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係わる撮像装置は、被写体像を撮像する撮像素子と、前記撮像素子を、光軸回りに回転させる方向および光軸に垂直な方向に移動させることが可能な駆動手段と、振れ検出手段によって検出された前記撮像装置の振れに基づく像ブレを補正するように、前記駆動手段が前記撮像素子を移動させる目標移動量を算出する算出手段と、前記撮像素子の、基準位置からの光軸回りの回転方向への傾き位置に応じて、前記撮像素子の露光開始の前に、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の傾きを、前記基準位置まで、または前記傾き位置から前記基準位置に向けて所定量回転した所定の位置まで戻すように前記駆動手段の戻し制御を行う戻し制御手段と、前記撮像素子の露光を制御するシャッタが、電子先幕であるか否かと、前記戻し制御で、前記撮像素子の傾きを戻した位置との少なくともいずれかに基づいて、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の像ブレ補正における最大移動量を決定し、該最大移動量に基づいて、前記撮像素子の前記撮像装置のピッチ方向への振れに基づく像ブレを補正するための第1の最大移動量と、前記撮像素子の前記撮像装置のヨー方向への振れに基づく像ブレを補正するための第2の最大移動量とを変更する変更手段と、を備え、前記駆動手段は、前記撮像素子の露光を制御するシャッタが電子先幕であり、かつシャッタ速度が画角の周辺の露出ムラが目立つ程度に高速である場合に、画像を撮影する露光中において、前記撮像素子の光軸回りの回転方向の像ブレ補正を行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、センサシフト方式の像ブレ補正において、ピッチ方向、ヨー方向、ロール方向への補正量の割り当てを最適化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の撮像装置の一実施形態であるデジタルカメラの構成を示すブロック図。
【
図2】撮影条件判定部の動作について説明するための図。
【
図3】ロール戻し指令部の動作について説明するための図。
【
図5】軸毎最大補正範囲変更部の動作を説明するための図。
【
図6】像ブレ補正動作のシーケンスを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0019】
図1は、本発明の撮像装置の一実施形態であるデジタルカメラ100の構成を示すブロック図である。
図1では、レンズ交換型のデジタルカメラを示すが、本発明は、レンズ一体型のデジタルカメラにも適用可能である。
【0020】
図1において、シャッタユニット105は、機械式のフォーカルプレーンシャッタであり、先幕羽根および後幕羽根を備える。非撮影時および動画撮影時は、先幕羽根および後幕羽根は撮影光軸から退避した露光位置にあり、撮像素子106へ撮影光束を通過させる。
【0021】
撮影時は、先幕羽根が遮光位置から露光位置へ移動する露光走行を行うことにより撮影光束を通過させる。そして、設定された露光時間(シャッタ秒時)が経過した後、後幕羽根は露光位置から遮光位置へ移動する遮光走行を行い、これにより1つの画像データの撮影が完了する。
【0022】
以上は、シャッタユニット105のメカ先幕とメカ後幕を使用して光量を調節する露出制御である。一方で、電気的なリセットとシャッタユニット105の後幕を組み合わせた電子先幕かつメカ後幕の露出制御の方式もある。
【0023】
レンズ交換型、もしくはレンズ一体型の撮影光学系を通過して結像された被写体像は、CCD(電荷結合素子)やCMOSセンサ(相補型金属酸化膜半導体)等を用いた撮像素子106により受光され、光信号から電気信号へと変換される。撮像素子106は、光軸回りの回転方向及び光軸に垂直な方向に移動することにより光学的に像ブレを補正する機構を有する。
【0024】
ADコンバータ107は、撮像素子106から読み出された撮像信号に対して、ノイズ除去処理、ゲイン調整処理、AD変換処理を行う。タイミングジェネレータ108は、カメラ制御部115の指令に従い、撮像素子106の駆動タイミングとADコンバータ107の出力タイミングを制御する。
【0025】
画像処理回路109は、ADコンバータ107から出力される画像データに対して、画素補間処理や色変換処理等を施した後、処理された画像データを内部メモリ110に送る。表示部111は内部メモリ110に保持されている画像データとともに、撮影情報などを表示する。圧縮伸長処理部112は、内部メモリ110に保存されているデータに対して、画像フォーマットに応じて圧縮処理または伸長処理を行う。記憶メモリ113は、パラメータなどの様々なデータを記憶する。操作部114は、ユーザが各種のメニュー操作、モード切り換え操作を行うためのユーザインタフェースである。
【0026】
カメラ制御部115は、CPU(中央演算処理装置)等の演算装置で構成され、操作部114によるユーザの操作に応じて、内部メモリ110に記憶されている各種の制御プログラムを実行する。制御プログラムは、例えば像ブレ補正制御、自動露出制御、自動焦点調節制御などを行うためのプログラムである。レンズ交換型のカメラの場合は、通信部116によりカメラとレンズ間の情報伝達を行う。
【0027】
シャッタ駆動部128は、シャッタユニット105の駆動を行う。輝度信号検出部130は、撮像素子106から読み出され、ADコンバータ107を通過した信号を、被写体及び場面の輝度として検出する。
【0028】
露出制御部129は、輝度信号検出部130により得られた輝度情報に基づいて露出値(シャッタ速度)の演算を行い、その演算結果をシャッタ駆動部128へ通達する。また、露出制御部129は、撮像素子106から読み出された撮像信号を増幅する制御も同時に行う。これにより、自動露出制御(AE制御)が行われる。
【0029】
振れ検出部131は、デジタルカメラ100に加わる振れ、揺れを検出する。一般的に、振れ、揺れ等の振動を検出するセンサとしては、ジャイロセンサ(以下ジャイロと呼ぶ)が用いられ、振れ、揺れの角速度を検出する。
【0030】
撮像素子駆動部121は、撮像素子106の駆動を行う。撮像素子位置検出部120は、光軸と垂直な方向に駆動される撮像素子106の位置を検出する。撮像素子駆動部121は、撮像素子106の駆動を行う。撮像素子PID制御部122は、撮像素子106の目標位置と撮像素子位置検出部120により検出される現在位置との偏差に対して、PID制御(比率制御、積分制御、微制御分)を行う。PID制御は一般的な技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0031】
次に、目標位置の算出方法について説明する。
【0032】
振れ検出部131が検出した角速度を、次元を1つ上げた角度に変換することで撮像素子106の位置制御が可能になる。角速度の次元を1つ上げる方法として、積分部125による積分処理、又はローパスフィルタ処理(LPF処理)を用いる方法があるが、本実施形態では積分処理を行うものとする。
【0033】
振れ補正量演算部124は、積分部125の出力値に対して、通信部116により取得したレンズ敏感度情報を乗算して、像ブレを補正するための撮像素子106の目標移動量を算出する。レンズ敏感度情報は、レンズの焦点距離、被写体距離に応じて変化する値であり、レンズ毎、及びレンズの状態毎に応じて、最適な振れ補正量の重み付けを行う。
【0034】
次に、撮影条件判定部127について
図2を用いて説明する。
【0035】
図2(a)は、撮像素子106を含む振れ補正駆動ユニット201の構成を示す図である。左側に示した部分が上部201aであり、右側に示した部分が下部201bであり、それらが貼り合わされて、振れ補正駆動ユニット201が構成されている。
【0036】
上部201aには、X軸駆動コイル203、X軸方向の変移を検出する位置センサ202(通常はホール素子を用いる)、Y軸駆動コイル204a,204b、Y軸方向の変移を検出する位置センサ205a,205bが配置されている。
【0037】
下部201bには、X軸駆動コイル203と対を成すX軸永久磁石206、Y軸コイル204aと対を成すY軸永久磁石207a、Y軸コイル204bと対を成すY軸永久磁石207bが配置されている。
【0038】
図2(b)は、X軸駆動コイル203に通電した場合の状態を示す図である。X軸駆動コイル203に通電を行うことにより、コイルに発生する磁束と、X軸永久磁石206により発生する磁束とが磁気的に干渉して、ローレンツ力を発生させる。振れ補正駆動ユニット201は、このローレンツ力を推力(駆動力)としてX方向に直線的に移動する。
【0039】
その際、X軸方向+側、もしくは-側に極端に駆動すると、右側の撮像装置の表示部111に映る画像のイメージ図のように、レンズを通過する光が撮像素子106に露出ムラを生じさせることになる。そのため、通常は限界まで駆動しないようにする。
【0040】
図2(c)は、Y軸駆動コイル204a,204bに同方向に通電した場合の状態を示す図である。Y軸駆動コイル204a,204bに同じ方向に通電を行うことにより、X軸と同じ原理で振れ補正駆動ユニット201は、ローレンツ力を推力(駆動力)としてY方向に直線的に移動する。
【0041】
その際、Y軸方向+側、もしくは-側に極端に駆動すると、右側の撮像装置の表示部111に映る画像のイメージ図のように、レンズを通過する光が撮像素子106に露出ムラを生じさせることになる。そのため、X軸方向の場合と同様に、通常は限界まで駆動しないようにする。
【0042】
図2(d)は、Y軸駆動コイル204a,204bに逆方向に通電した場合の状態を示す図である。Y軸駆動コイル204a,204bに逆方向に通電することにより、X軸と同じ原理で、振れ補正駆動ユニット201は、ローレンツ力を推力(駆動力)として回転方向に移動する。その際、左右の上下(画角の周辺部)に不均等な露出ムラが生じやすい。
【0043】
特に、電気的なリセットとシャッタユニット105の後幕を組み合わせた電子先幕かつメカ後幕の露出制御の方式で、かつ高速秒時(例えば1/1000秒よりも短い露光時間)の場合は、スリット走行におけるスリット幅が小さいために露出ズレが生じやすい。このように、電子先幕かつメカ後幕かつ高速秒時の撮影時には、露出ムラ、露出ズレ(以降単に露出ムラと表現する)が生じやすいため、ロール方向の回転を元に戻し(以下、ロール戻しと呼ぶ)、その後、ロール方向の補正をしない方が好ましい。これは、高速秒時の撮影の場合は、手振れの影響が軽微であるため、露出ズレを軽減するような制御を優先する方が違和感のない画像となるためである。撮影条件判定部127は、先幕の方式(電子先幕かメカ先幕か)、後幕の方式(電子後幕かメカ後幕か)、及びシャッタ速度との撮影条件が所定の撮影条件であるか否かを、操作部114による操作と露出制御部129からの出力に基づいて判定する。例えば、操作部114を介して、ユーザが先幕の方式と後幕の方式を設定し、露出制御部129がシャッタ速度を取得している場合は、それらの撮影条件を取得し、所定の撮影条件を満たすか否かを判定する。
【0044】
次に、ロール戻し指令部126について
図3を用いて説明する。
【0045】
図3(a)は、ロール戻し後に画質ムラを抑えるためにロール補正を禁止する場合を示している。横軸が時間を表現しており、縦軸がロール方向の補正量を表現している。縦軸の中央とは、ロール回転が無い状態(回転角度ゼロの状態)であるとする。縦軸の上端と下端は、ロール回転が左右に限界まで回転された状態であるとする。このときの撮影条件は、電子先幕かつメカ後幕であるとし、また連写間に、露出時間が低速秒時、高速秒時、低速秒時の順に変化した場合を例としている。また、デジタルカメラ100の2段階のレリーズボタンを全押しして、レリーズスイッチSW2がONになった状態から露光が複数回行われる。
【0046】
最初の1枚目の露光開始の直前に、ロール戻し指令部126の判断により、コマ間でロール戻しが行われる。最初の露光は低速秒時であるため、露出ムラが目立たないことから、ロール方向の補正が行われる。
【0047】
次の2枚目の露光開始の直前にも、ロール戻し指令部126の判断によりコマ間でロール戻しが行われる。次の露光は高速秒時であるため、露出ムラが目立つことから、ロール方向の補正は行わない。
【0048】
最後の3枚目の露光開始の直前にも、ロール戻し指令部126の判断によりコマ間でロール戻しが行われる。最後の露光は再び低速秒時であるため、露出ムラが目立たないことから、ロール方向の補正が行われる。
【0049】
図3(b)は、急峻なロール戻し動作によりロール補正軸の整定振動が画質へ影響を与える場合を示している。横軸と縦軸は
図3(a)と同じである。
【0050】
図3(a)との違いは、1枚目から2枚目のコマ間でロール戻しをする角度が大きいため、次の露光に間に合わせようとして急峻なロール戻し動作を行った結果、中央への戻り時に振動が発生していることである。この振動は、特に高速秒時の露光において不自然な振動として画質に影響を与える。そのため、ロール戻し指令部126の判断により、このようにロール戻し動作が急峻な場合には、戻す角度を振動が発生しないところまでに抑える。
【0051】
次に、軸毎最大補正範囲変更部123について
図4、
図5を用いて説明する。
【0052】
先に説明した通り、ピッチ方向、ヨー方向、ロール方向の最大補正量の決め方には大きく分けて2つの方法がある。
【0053】
ピッチ方向、ヨー方向、ロール方向の最大補正量(最大移動可能量)を予め決めておく静的方法と、ピッチ方向、ヨー方向、ロール方向の最大補正量をリアルタイムに変更する動的方法である。ここでは、不自然なブレ残りが発生するリスクを排除でき、また処理負荷を軽減できる静的な方法を適用することにする。
【0054】
特にロール方向は、メカ構成の都合上、ピッチ方向及びヨー方向と比較すると、補正限界は少ない傾向にあるため、ロール方向の最大補正量(最大移動量)を最初に決めると補正効率がよい。このとき、
ピッチ方向とヨー方向を合わせた最大補正量=補正限界-ロール最大補正量
の関係となる。
【0055】
図4は、このロール最大補正量を確保した状態でのピッチ方向とヨー方向の最大補正量の算出の詳細を示した図である。
【0056】
図4(a)は、デジタルカメラ100に装着されるレンズのイメージサークルに対するロール補正範囲を確保した状態での、ヨー方向の補正範囲を説明する模式図である。円がイメージサークルを表現しており、内部に一部内接している長方形が撮像素子106である。
【0057】
撮像素子106は、ロール方向に角度Θmaxだけ回転しているものとする。撮像素子106の対角線の半分をLとして、長方形の重心において対角線の半分と、短辺の垂直線との成す角をΘLとする。
【0058】
このとき、撮像素子106の4隅の頂点がイメージサークルを超えない範囲でのヨー方向の移動量Xがヨー方向の最大補正範囲となる。撮像素子106の一つの頂点とイメージサークルが接する点の座標は、
(X+Lcos(ΘL-Θmax),Lsin(ΘL-Θmax))
となる。
【0059】
ここで、イメージサークルの半径をRとして三平方の定理を用いると、
X=√{R2-(Lsin(ΘL-Θmax ))2}
-Lcos(ΘL-Θmax)
となる。
【0060】
図4(b)は、デジタルカメラ100に装着されるレンズのイメージサークルに対するロール補正範囲を確保した状態での、ピッチ方向の補正範囲を説明する模式図である。
【0061】
この場合も、
図4(a)と同様となり、ピッチ方向の最大補正範囲をYとすると、撮像素子106の一つの頂点とイメージサークルが接する点の座標は、
(Lcos(ΘL+Θmax),Y+Lsin(ΘL+Θmax))
となる。
【0062】
ここで、イメージサークルの半径をRとして三平方の定理を用いると、
Y=√{R2-(Lcos(ΘL+Θmax ))2}
-Lsin(ΘL+Θmax)
となる。
【0063】
以上により、ロール補正角は常にΘmax分だけ確保しておき、装着されるレンズのイメージサークルに応じて、ピッチ方向の補正範囲±Y、ヨー方向の補正範囲±Xだけ補正可能となる。
【0064】
しかしながら、撮影状況によっては、ロール方向の最大補正量の全て、もしくは一部が無駄になる場合がある。
【0065】
その場合は、ロール方向の最大補正量の全てもしくは一部を、ピッチ方向、ヨー方向の補正に割り振ることが適切な処理となるため、その割り振り方法について
図5を用いて説明する。
【0066】
図5(a)は、ロール戻し後にロール補正が禁止される場合の補正量の振り分けを示す図である。グラフの説明と撮影条件は
図3(a)と同じである。
【0067】
ロール戻しをした後に画質ムラを抑えるためにロール方向の補正を禁止している場合は、確保してあるロール方向の最大補正量が全て無駄になる。そのため、ロール方向の最大補正量をピッチ方向の補正とヨー方向の補正に割り振ることで、最適な像ブレ補正制御を行うことができる。
【0068】
図5(b)は、ロール戻し後にロール補正が禁止されない場合の補正量の振り分けを示す図である。特に、
図3(b)のように、急峻なロール戻し動作によりロール補正軸の整定振動が画質へ影響を与える場合は、ロール戻し量を、振動が発生しないところまでに抑えることが好ましい。
【0069】
そのため、ロール戻しをした位置を基準としてロールの最大補正量を確保する場合は、正方向、負方向の両方のロール方向補正量(回転量)を揃えた方が補正量計算の負荷は軽くなる。この場合、
図5(b)にハッチングで示すように、上部にロール補正で使用しない無駄な領域が生じることになる。この領域を、ピッチ方向の補正とヨー方向の補正に割り振ることで、最適な像ブレ補正制御を行うことが可能となる。
【0070】
図6は、本実施形態における像ブレ補正処理の動作を示すフローチャートである。
【0071】
まず、S101において、像ブレ補正制御が開始される。
【0072】
S102では、後述する像ブレ補正制御ループ処理(S103)の周期制御を開始する。S103は像ブレ補正制御ループ処理である。
【0073】
S104では、振れ検出部131から振れデータ(振れの角速度データ)を取得する。
【0074】
S105では、振れ検出部131の温度ドリフト等で発生するオフセット成分を除去するために、HPF演算を行う。
【0075】
S106では、積分部125により、振れデータ(振れの角速度データ)の次元を上げて角度データへ変換する。
【0076】
S107では、振れ補正量演算部124により、積分部125の出力結果である角度データに対して、ズーム倍率や被写体距離に関するゲインを乗じることにより、最終的な振れ補正量の算出を行う。
【0077】
S108では、撮像装置が露光終了のタイミングであるか否かの判定を行う。露光終了のタイミングであれば、S109で、撮像素子106のロール方向において現在位置から基準位置までの距離の算出を行い、露光終了のタイミングでなければ、S117に進み、S109以降の処理を行わない。
【0078】
ここで、ロール方向における基準位置とは、撮像素子106のロール方向の回転角度がゼロ度、即ちデジタルカメラ100を水平面に設置したときに水平面と平行な状態になる位置である。
【0079】
S110では、S109で算出した距離が所定距離(所定量)より大きいか否かを判定する。そして、所定距離より大きい場合は、S111で所定距離分だけロール戻しを行い、所定距離より大きくない(所定量以下の)場合は、S112で基準位置までロール戻しを行う。
【0080】
ここで所定距離とは、ロール戻しをした場合に画質への影響を与えない程度の距離であり、かつ次の撮影の開始には間に合う程度に戻れる距離となる。
【0081】
この所定距離は撮像装置毎、より詳細には撮像素子106毎に設定されるパラメータであり、撮像素子106の重量、駆動コイル203,204a,205b、及び永久磁石206,207a,207bの特性に依存する。
【0082】
S111で、所定距離分だけロール戻しを行った場合は、
図5(b)の2回目の露光直前のように、撮影条件により、基準位置から像ブレ補正処理を開始する場合と、像ブレ補正動作を開始しない場合がある。
【0083】
S113では、撮影条件が電子先幕かつメカ後幕かつシャッタ速度が高速であるか否かを判定し、撮影条件がその条件に当てはまる場合は、露出ムラが目立つためロール方向の補正を行なわない。そのため、S115でロール補正量を全てピッチ方向とヨー方向に振り分けることができる。
【0084】
また、撮影条件がその条件に当てはまらない場合は、S114でロール戻し位置が基準位置か、基準位置でないかを判定する。そして、基準位置でない場合は、先に説明した通り、
図5(b)のハッチング部分をピッチ方向とヨー方向の像ブレ補正に割り振ることができる。
【0085】
これはロール戻しができたところまでを新たな基準位置として、そこから均等の角度を確保した結果の残りになる。仮にハッチング部分まで像ブレ補正に使用した場合は、基準に対して不均等な角度でブレ補正を行うことになり、露出ムラが目立つことになる。
【0086】
S114では、ロール戻し位置が基準位置であった場合は、全域でロール補正を許可する。
【0087】
S117は、S103から開始された像ブレ補正制御ループの終端であり、前述のS103からS117の動作を繰り返す。以上により像ブレ補正制御が終了する。
【0088】
以上説明したように、上記の実施形態によれば、センサシフト方式の像ブレ補正において、ピッチ方向、ヨー方向、ロール方向への補正量の割り当てを最適化することが可能となる。
【0089】
なお以上の説明では、撮像装置を例に挙げて説明したが、本発明は、撮像装置のみに限定されるものではなく、撮像装置を有する携帯機器等にも適用可能である。
【0090】
(他の実施形態)
また本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読み出し実行する処理でも実現できる。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現できる。
【0091】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0092】
105:シャッタユニット、106:撮像素子、107:ADコンバータ、108:タイミングジェネレータ、109:画像処理回路、110:内部メモリ、115:カメラ制御部、100:デジタルカメラ