(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】判定標識および液体測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/01 20060101AFI20240328BHJP
G01N 21/59 20060101ALI20240328BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
G01N21/01 A
G01N21/59 Z
G01N33/18 A
(21)【出願番号】P 2020065446
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 耕大
(72)【発明者】
【氏名】冨田 麻未
(72)【発明者】
【氏名】池田 俊一
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-023270(JP,U)
【文献】特開2005-205787(JP,A)
【文献】特開2003-053908(JP,A)
【文献】特開2005-342900(JP,A)
【文献】特開平06-031862(JP,A)
【文献】特開平09-281100(JP,A)
【文献】特開平11-072433(JP,A)
【文献】実公昭34-015896(JP,Y1)
【文献】特開2021-037471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
G01J 3/42-3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象の液体を介して観察することで液体の濁り具合及び色味の少なくともいずれかを評価するために使用する判定標識であって、
半透明部材と着色部材を有し、
半透明部材は、観察される側である観察表面側に配置されて、厚みが変化するように形成され、
着色部材は観察される側とは反対側である観察裏面側に配置されて
おり、
観察表面側から見たときの色の濃淡が、着色部材の厚みではなく、半透明部材の厚みの変化に応じて異なることを特徴とする判定標識。
【請求項2】
着色部材は単一色に着色されていることを特徴とする請求項1記載の判定標識。
【請求項3】
半透明部材の表面が平坦であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の判定標識。
【請求項4】
半透明部材は、観察裏面側に、厚み方向において傾斜する傾斜面を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の判定標識。
【請求項5】
半透明部材がフッ素樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の判定標識。
【請求項6】
半透明部材の裏面形状と着色部材の表面形状が一致し、
半透明部材と着色部材とを重ね合わせて形成された標識本体の厚みが均一となることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の判定標識。
【請求項7】
観察対象の液体を介して観察することで液体の濁り具合及び色味の少なくともいずれかを評価するために使用する判定標識であって、
厚みが変化するように形成された半透明部材を有し、
半透明部材は観察される側とは反対側である観察裏面側が着色されていることを特徴とする判定標識。
【請求項8】
上記請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の判定標識を備えた液体測定装置であって、
筒部材と、
筒部材内に設けられた判定標識を観察表面側から撮影可能な撮影手段とを有し、
筒部材は、測定対象の液体の液面下に没する水没部と、液面上に突出する突出部と、水没部の下端に形成された下端開口部とを有し、
判定標識は筒部材内の液面下に没しており、
撮影手段は筒部材内の液面よりも上方に位置することを特徴とする液体測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水等の液体の濁り具合及び色味の少なくともいずれかを測定する際に使用される判定標識および液体測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水の濁り具合を評価するために使用される判定標識としては、例えば
図17に示すように、プレート状のスケール201の表面が複数のブロックの明度サンプル202a~202jに区分けされ、最上位のブロックの明度サンプル202aが最も明度の低い黒色とされ、最下位のブロックの明度サンプル202jが最も明度の高い白色とされ、明度サンプル202aと明度サンプル202jとの間の明度サンプル202b~202iは白黒の濃淡の度合いが段階的に異なった灰色であるものがある。
【0003】
これによると、スケール201を水槽内の水中に設置して観察すると、水槽内の水が黒く汚濁しているほどスケール201の明度が低下し、黒と認識される面積が増えるとともに、白と認識される面積が減る。また、水槽内の水の濁り具合が低下すると、黒と認識される面積が減るとともに、白と認識される面積が増える。これにより、水槽内の水の濁り具合を評価する。
【0004】
尚、上記のようなスケールは例えば下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記の従来形式では、白色と黒色と濃淡が微妙に異なる多種類の灰色の各種塗料をスケール201の表面に塗装したり或いは印刷する必要があるため、スケール201の製作に手間がかかり、製作コストが高くなる虞がある。
【0007】
本発明は、製作が容易な判定標識および液体測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本第1発明は、観察対象の液体を介して観察することで液体の濁り具合及び色味の少なくともいずれかを評価するために使用する判定標識であって、
半透明部材と着色部材を有し、
半透明部材は、観察される側である観察表面側に配置されて、厚みが変化するように形成され、
着色部材は観察される側とは反対側である観察裏面側に配置されており、
観察表面側から見たときの色の濃淡が、着色部材の厚みではなく、半透明部材の厚みの変化に応じて異なるものである。
【0009】
これによると、半透明部材の厚みの薄い部分は着色部材の色が透けて濃く見え、半透明部材の厚い部分ほど着色部材の色が淡く見えるため、濃淡が微妙に異なる判定標識を容易に製作することができる。
【0010】
本第2発明における判定標識は、着色部材は単一色に着色されているものである。
【0011】
これによると、単一色の着色部材を用いて、濃淡が微妙に異なる判定標識を製作することができるため、濃淡の異なる多種類の色を用意する必要はなく、判定標識を容易に製作することができる。
【0012】
本第3発明における判定標識は、半透明部材の表面が平坦であるものである。
【0013】
これによると、半透明部材の表面を容易に洗浄することができる。
【0014】
本第4発明における判定標識は、半透明部材は、観察裏面側に、厚み方向において傾斜する傾斜面を有するものである。
【0015】
これによると、半透明部材の厚みを連続的に変化させることができる。
【0016】
本第5発明における判定標識は、半透明部材がフッ素樹脂であるものである。
【0017】
これによると、半透明部材の観察表面に汚れが付着し難い。
【0018】
本第6発明における判定標識は、半透明部材の裏面形状と着色部材の表面形状が一致し、
半透明部材と着色部材とを重ね合わせて形成された標識本体の厚みが均一となるものである。
【0019】
これによると、均一な厚みを有する標識本体を容易に製作することができる。
【0020】
本第7発明は、観察対象の液体を介して観察することで液体の濁り具合及び色味の少なくともいずれかを評価するために使用する判定標識であって、
厚みが変化するように形成された半透明部材を有し、
半透明部材は観察される側とは反対側である観察裏面側が着色されているものである。
【0021】
これによると、半透明部材の厚みの薄い部分は観察裏面側に着色された色が透けて濃く見え、半透明部材の厚い部分ほど観察裏面側に着色された色が淡く見えるため、濃淡が微妙に異なる濁質判定標識を容易に製作することができる。
【0022】
本第8発明は、上記第1発明から第7発明のいずれか1項に記載の判定標識を備えた液体測定装置であって、
筒部材と、
筒部材内に設けられた判定標識を観察表面側から撮影可能な撮影手段とを有し、
筒部材は、測定対象の液体の液面下に没する水没部と、液面上に突出する突出部と、水没部の下端に形成された下端開口部とを有し、
判定標識は筒部材内の液面下に没しており、
撮影手段は筒部材内の液面よりも上方に位置するものである。
【0023】
これによると、撮影手段で筒部材内の判定標識を撮影し、この画像に基づいて筒部材内の液体の濁り具合(濁質)及び色味の少なくともいずれかを求める。この際、筒部材の水没部が槽内の液面下に没しているため、筒部材の周囲の液面が波打っていても、この波は筒部材に当って遮断され、筒部材内の液面は波立ちの少ない平穏な状態に保たれる。これにより、安定した画像を得ることができる。
【0024】
また、撮影手段は、液面下に没せず、筒部材内の液面よりも上方に位置するため、液体中の汚れが撮影手段に付着することはなく、撮影手段を清掃するための特別な清掃手段が不要になる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように本発明によると、濃淡が微妙に異なる判定標識を容易に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1の実施の形態における液体測定装置を備えた産業廃水処理システムの一部を示す図である。
【
図4】同、液体測定装置に備えられた判定標識の標識本体の平面図である。
【
図8】同、判定標識の半透明部材に使用されるPFA樹脂の厚みと吸光度および透過率の関係を示すグラフである。
【
図9】同、判定標識を撮影した画像を二値化処理し、画像における黒と認識される部分の面積が占める割合と濁質との関係を示すグラフである。
【
図10】本発明の第2の実施の形態における判定標識の標識本体の平面図である。
【
図13】本発明の第3の実施の形態における判定標識の標識本体の平面図である。
【
図16】本発明の第4の実施の形態における判定標識の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0028】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、
図1に示すように、1は産業廃水処理システムの一部であり、凝集槽2と、その下流側に設置された沈殿池3とを有している。凝集槽2には、凝集槽2内に貯留される汚泥5(液体の一例)に凝集剤6を注入する注入装置7と、凝集槽2内の汚泥5を攪拌する攪拌装置8と、濁質測定装置10(液体測定装置の一例)とが備えられている。
【0029】
凝集剤6を注入装置7から凝集槽2内の汚泥5に注入し、攪拌装置8で攪拌することにより、径の大きな凝集フロック12(粗大フロック)が汚泥5中に形成される。
【0030】
また、沈殿池3では汚泥5中の凝集フロック12を沈殿させ、上澄み液13を沈殿池3の出口から取り出して中和処理等を行った後に放流する。
【0031】
図2,
図3に示すように、濁質測定装置10は、上端が閉口し下端が開口する円形の筒部材20と、筒部材20内に設けられた濁質判定標識21(判定標識の一例)と、濁質判定標識21を上方側(観察表面側の一例)から撮影可能なカメラ22(撮影手段の一例)と、照明装置23と、筒部材20内に圧縮空気24(気体の一例)を供給する空気供給装置25(気体供給装置の一例)と、筒部材20内の汚泥5を揚水して筒部材20外へ排出する揚水管26と、筒部材20を凝集槽2に取り付ける取付部材27とを有している。
【0032】
筒部材20は、金属製又は樹脂製の遮光体からなり、円筒状の周壁部30と、周壁部30の上端に設けられた天井部31とを有している。また、周壁部30は、液面35下に没する水没部32と、液面35上に突出する突出部33と、水没部32の下端に形成された下端開口部34とを有している。
【0033】
また、筒部材20内の液面37は筒部材20外の液面35よりも低く、濁質判定標識21は筒部材20内の液面37下に没している。尚、筒部材20内の液面37から筒部材20の下端までの長さBは下端開口部34の直径Dの1~10倍(より好ましくは4~6倍)に設定されている。
【0034】
カメラ22は、筒部材20の天井部31に取り付けられて、筒部材20内の液面37よりも上方に位置している。尚、カメラ22の撮影中心軸41は筒部材20内の液面37に対して直交している。また、カメラ22にはケーブル42を介して画像処理装置(図示省略)が接続されている。
【0035】
照明装置23は、円環状の照明であり、カメラ22のレンズ部分の周囲を取り囲むようにして筒部材20の天井部31に取り付けられており、筒部材20内の液面37よりも上方位置から濁質判定標識21を照射する。尚、照明装置23の光源には例えばLED等が使用されている。
【0036】
筒部材20の周壁部30は濁質判定標識21よりも下方に延伸されており、筒部材20の水没部32内で且つ濁質判定標識21の下方に、汚泥5中の凝集フロック12が沈降する凝集フロック沈降領域44が形成されている。
【0037】
空気供給装置25は、エアポンプ等からなり、給気管46を介して筒部材20の天井部31に接続されている。
【0038】
揚水管26は、一端が筒部材20内で開口するとともに、他端が筒部材20外で開口し、上下方向の直管部26aが筒部材20内に設けられている逆L形の管である。揚水管26の一端開口部47は、筒部材20外の液面35よりも下位にあり、下向きに開口している。また、揚水管26の他端開口部48は、筒部材20外の液面35よりも上位にあり、横向きに開口している。
【0039】
図2~
図7に示すように、濁質判定標識21は、液体の濁り具合を評価する際に使用される標識であって、取付板51と、取付板51に取り付けられた標識本体52とを有している。取付板51は取付軸53を介して筒部材20に取り付けられている。
【0040】
標識本体52は、長方形の平板状の部材であって、半透明部材55と着色部材56とを上下に重ね合わせて形成されている。
【0041】
このうち、半透明部材55は、カメラ22で撮影される側である標識本体52の上面側(観察される側である観察表面側の一例)に配置されており、
図6に示すように厚みT1が変化するように形成されている。
【0042】
尚、半透明部材55の厚みT1は、標識本体52の長手方向Cにおける一端部58が最も薄く、反対の他端部59が最も厚く、一端部58から他端部59に向かうほど増している。また、半透明部材55の上面(表面)は凹凸の無い平坦な面である。
【0043】
半透明部材55の材質には、例えばパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)又はパーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)等の半透明のフッ素樹脂が用いられている。これら半透明のフッ素樹脂は、その向こう側が完全に透けて見える透明な状態と全く見えない不透明な状態との間の状態を有し、その向こう側の色彩や明暗等が目視できる程度の薄い乳白色を呈している。従って、半透明部材55の厚みT1が増加するほど、乳白色が強くなり、半透明部材55の透明度が低下する。反対に、半透明部材55の厚みT1が減少するほど、乳白色が弱くなり、半透明部材55の透明度が向上する。
【0044】
尚、一般に、透過率をT%とすると、吸光度Aは、A=log10100/Tと定義される。この吸光度Aは樹脂の厚みhと比例し、A=εhと表すことができる。このときのεを吸光係数とし、樹脂の厚みhの単位をmmとすれば、吸光係数εの単位はmm-1となる。ここで、波長550nm(可視光のほぼ中央の波長)の吸光係数εが0.05~0.5mm-1となる樹脂を半透明の樹脂とする。
【0045】
一例として、
図8のグラフG1はPFAの厚みhと吸光度Aとの関係を示し、グラフG2はPFAの厚みhと透過率との関係を示している。これら吸光度Aおよび透過率は波長550nmの可視光に対する値であり、この場合、吸光係数εが0.084mm
-1となる。これによると、例えば厚みhが10mmのときの透過率は15%となり、入射した光のうち85%が遮られることになる。
【0046】
また、半透明部材55は、下面側(観察される側とは反対側である観察裏面側の一例)に、厚み方向において傾斜する第1の傾斜面57を有している。
【0047】
着色部材56は、カメラ22で撮影される側である上面側とは反対側である標識本体52の下面側(観察裏面側の一例)に配置されており、黒色(単一色の一例)に着色されている。
【0048】
着色部材56は、上面側に、厚み方向において傾斜する第2の傾斜面62を有している。尚、着色部材56の厚みT2は、標識本体52の長手方向Cにおける一端部58が最も厚く、反対の他端部59が最も薄く、一端部58から他端部59に向かうほど減少している。
【0049】
着色部材56の材質には、例えば、黒色に着色したウレタン又はポリエチレン等の樹脂が用いられている。
【0050】
図6,
図7に示すように、半透明部材55の裏面形状と着色部材56の表面形状とは第1および第2の傾斜面57,62によって一致しており、半透明部材55と着色部材56とを上下に重ね合わせることにより、第1の傾斜面57と第2の傾斜面62とが接合されて、均一な厚みを有する平板状の標識本体52が形成される。尚、第1の傾斜面57と第2の傾斜面62との間には、水分や空気の侵入を防止するために、無色透明なシリコングリスが塗布されている。
【0051】
尚、半透明部材55と着色部材56とは、重ね合わされた状態で、複数本のねじ64によって取付板51に取り付けられている。
【0052】
以下、上記構成における作用を説明する。
【0053】
図3,
図4に示すように、濁質判定標識21の標識本体52を上方から目視した際、半透明部材55の厚みT1が最も薄い一端部58において、着色部材56の黒色が十分に透けて濃く見え、半透明部材55の厚みT1が最も厚い他端部59において、半透明部材55のフッ素樹脂の乳白色が見え、標識本体52の一端部58から他端部59になるほど、黒色から白色へと次第に濃淡が変化する。これにより、濃淡が微妙に異なる濁質判定標識21を容易に製作することができる。
【0054】
また、黒色(単一色)の着色部材56を用いて、白黒の濃淡が微妙に異なる濁質判定標識21を製作することができるため、濃淡の異なる多種類の色を用意する必要はなく、濁質判定標識21を容易に製作することができる。
【0055】
また、
図6に示すように、半透明部材55は下面側に第1の傾斜面57を有しているため、半透明部材55の厚みT1を連続的に変化させることができる。
【0056】
また、汚泥5(凝集フロック12)は親水性であるため、表面が親水性である樹脂ほど汚れ易いと言える。これに対して、半透明部材55の材質はPFA又はFEP等のフッ素樹脂であり、フッ素樹脂は濡れ難い性質すなわち疎水性であるため、半透明部材55の上面(観察表面)に汚れが付着し難い。また、半透明部材55の上面が汚れても、半透明部材55の上面は平坦な面であるため、半透明部材55の上面を容易に洗浄することができる。
【0057】
また、
図6に示すように、半透明部材55の第1の傾斜面57と着色部材56の第2の傾斜面62とを接合することにより、
図5に示すように、均一な厚みを有する標識本体52を容易に製作することができる。
【0058】
また、
図1,
図2に示すように、凝集剤6を注入装置7から凝集槽2内の汚泥5に注入し、凝集槽2内の汚泥5を攪拌装置8で攪拌することにより、径の大きな凝集フロック12を凝集槽2内の汚泥5中に形成することができる。
【0059】
この際、後述するように、筒部材20内の汚泥5が揚水管26を通じて筒部材20外へ排出されるため、筒部材20外の汚泥5が下端開口部34から筒部材20内に流入するが、筒部材20内の凝集フロック沈降領域44において汚泥5中の凝集フロック12が沈降するため、筒部材20内の液面37付近には、粗大化した凝集フロック12が少ない上澄み液50が出現し、濁質判定標識21は筒部材20内の液面37下に没した状態で上澄み液50中に存在する。そして、照明装置23で濁質判定標識21を照射し、カメラ22で濁質判定標識21を撮影し、撮影した濁質判定標識21の標識本体52の画像を二値化処理等することにより、汚泥5中の凝集フロック12に妨げられることなく、筒部材20内の上澄み液50の濁り具合(濁質)を求めることができる。
【0060】
この際、攪拌装置8が凝集槽2内の汚泥5を攪拌することによって、筒部材20の周囲の液面35が波打ったとしても、筒部材20の水没部32が液面35下に没しているため、この波は筒部材20の周壁部30に当って遮断され、筒部材20内の液面37は波立ちの少ない平穏な状態に保たれる。これにより、安定した画像を得ることができる。
【0061】
このように、凝集槽2内の汚泥5の上澄み液50の濁り具合を濁質測定装置10で測定することができるため、測定された濁り具合に基づいて、注入装置7から凝集槽2内に注入される凝集剤6の注入量を調節することにより、タイムラグが短縮され、凝集剤6の注入量を最適な注入量に調節することができる。
【0062】
また、カメラ22は、液面37下に没せず、筒部材20内の液面37よりも上方に位置するため、汚泥5中の汚れがカメラ22に付着することはなく、カメラ22を清掃するための特別な清掃手段が不要になる。
【0063】
また、空気供給装置25から筒部材20内に圧縮空気24を供給することにより、筒部材20内の上澄み液50が、揚水管26の一端開口部47から流入する圧縮空気24の気泡に同伴して押し上げられて揚水管26内を上昇し、他端開口部48から筒部材20外に排出される。
【0064】
このようなエアリフト作用によって筒部材20内の上澄み液50が揚水管26を通って筒部材20外に排出されると、これに伴って、凝集槽2内の汚泥5が筒部材20の下端開口部34から筒部材20内に流入するため、筒部材20内の汚泥5が筒部材20の外部との間でゆっくりと循環して入れ替えられる。これにより、常に最新の性状の汚泥5を筒部材20内に導入して、その濁質を測定することができる。
【0065】
この際、筒部材20内は大気圧よりも高い正圧で水封された状態となり、筒部材20内の液面37の変動と波立ちが抑制される。
【0066】
また、凝集フロック12の沈降速度をV1(通常は数cm/分)とし、上澄み液50と気泡との混合流体が揚水管26内を下から上へ流れる時の管内流速をV2とすると、管内流速V2が沈降速度V1よりも低速(すなわちV1>V2)になるように設計されている。
【0067】
これにより、凝集フロック沈降領域44において凝集フロック12が確実に沈降し、凝集フロック沈降領域44の凝集フロック12が上昇して揚水管26内に流入するのを防止することができる。
【0068】
尚、
図2に示すように、筒部材20内の液面37から筒部材20の下端までの長さBを下端開口部34の直径Dの1~10倍に設定しているため、攪拌装置8による攪拌の影響を受け難くなり、濁質測定までのタイムラグを短くすることができる。例えば、仮に上記長さBを上記直径Dの1倍未満に設定すると、下端開口部34が濁質判定標識21の下方近傍に位置することになるため、攪拌装置8による攪拌の影響を受け易くなってしまう。また、仮に上記長さBが上記直径Dの10倍を超えると、下端開口部34から筒部材20内に流入した汚泥5が上昇して濁質判定標識21に達するまでに時間を要し、濁質測定までのタイムラグが長くなってしまう。
【0069】
また、筒部材20は遮光体からなるため、外部から筒部材20内に入射しようとする光が遮断され、これにより、外部からの光が筒部材20内の液面37で反射する等の悪影響を防止することができる。
【0070】
尚、撮影された濁質判定標識21の標識本体52は以下のような画像処理を施される。カメラ22で撮影された標識本体52の画像を所定の明度閾値で二値化し、二値化後の標識本体52の画像の黒(又は白)の面積と濁質との相関関係に基づいて、濁質を求める。
【0071】
例えば、筒部材20内の上澄み液50中の濁質が黒色等の有色成分を含んでいる場合、上澄み液50の濁り具合が上昇すると、撮影された標識本体52の画像を所定の明度閾値で二値化した場合、標識本体52の画像のうちの黒と認識される部分の面積が増えるとともに、白と認識される部分の面積が減る関係がある。
【0072】
このようにして、標識本体52の画像において黒と認識される部分の面積が占める割合を求め、この面積の割合と濁質との相関関係に基づいて、濁質を求める。尚、
図9は、二値化後の標識本体52の画像における黒と認識される部分の面積が占める割合と濁質との相関関係を示すグラフである。これによると、濁質が上昇した場合、二値化後の標識本体52の画像における黒と認識される部分の面積の割合が比例して増加する。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、
図10~
図12に示すように、濁質判定標識21の標識本体81は、長方形の平板状の部材であり、半透明部材82と着色部材83とを上下に重ね合わせて形成されている。
【0073】
半透明部材82の厚みT1は、標識本体81の長手方向Cにおける中央部85が最も薄く、両端部58,59が最も厚く、中央部85から両端部58,59に向かうほど増している。
【0074】
半透明部材82は、下面側に、厚み方向において傾斜する第1の傾斜面86を有している。第1の傾斜面86は標識本体81の中央部85から両端部58,59に向かって円弧状に傾斜している。
【0075】
着色部材83は、上面側に、厚み方向において傾斜する第2の傾斜面87を有している。第2の傾斜面87は標識本体81の中央部85から両端部58,59に向かって円弧状に傾斜している。尚、着色部材83の厚みT2は、標識本体81の長手方向Cにおける中央部85が最も厚く、中央部85から両端部58,59に向かうほど減少している。
【0076】
これによると、
図10に示すように、濁質判定標識21の標識本体81を上方から目視した際、半透明部材82の厚みT1が最も薄い中央部85において、着色部材83の黒色が十分に透けて濃く見え、半透明部材82の厚みT1が最も厚い両端部58,59において、半透明部材82のフッ素樹脂の乳白色が見え、標識本体81の中央部85から両端部58,59になるほど、黒色から白色へと次第に濃淡が変化する。これにより、濃淡が微妙に異なる濁質判定標識21を容易に製作することができる。
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態では、
図13~
図15に示すように、濁質判定標識21の標識本体91は、円形の平板状の部材であり、半透明部材92と着色部材93とを上下に重ね合わせて形成されている。
【0077】
半透明部材92の厚みT1は、標識本体91の径方向における中央部95が最も薄く、周縁部96が最も厚く、中央部95から周縁部96に向かうほど増している。
【0078】
半透明部材92は、下面側に、厚み方向において傾斜する第1の傾斜面97を有している。第1の傾斜面97は標識本体91の中央部95から周縁部96に向かって円錐状に傾斜している。
【0079】
着色部材93は、上面側に、厚み方向において傾斜する第2の傾斜面98を有している。第2の傾斜面98は標識本体91の中央部95から周縁部96に向かって円錐状に傾斜している。尚、着色部材93の厚みT2は、標識本体91の径方向における中央部95が最も厚く、周縁部96が最も薄く、中央部95から周縁部96に向かうほど減少している。
【0080】
これによると、
図13に示すように、濁質判定標識21の標識本体91を上方から目視した際、半透明部材92の厚みT1が最も薄い中央部95において、着色部材93の黒色が十分に透けて濃く見え、半透明部材92の厚みT1が最も厚い周縁部96において、半透明部材92のフッ素樹脂の乳白色が見え、標識本体91の中央部95から周縁部96になるほど、黒色から白色へと次第に濃淡が変化する。これにより、濃淡が微妙に異なる濁質判定標識21を容易に製作することができる。
【0081】
上記第1~第3の実施の形態では、
図4,
図10,
図13に示すように、各標識本体52,81,91を平面視において長方形又は円形に形成しているが、これらの形状に限定されるものではなく、例えば長方形以外の多角形や楕円形等の他の形状に形成してもよい。
【0082】
上記第1~第3の実施の形態では、汚泥5に凝集剤6を注入して形成された凝集フロック12を沈降させて除いた後の汚泥5の濁り具合を測定しているが、凝集剤6を注入する前の汚泥5や液体の濁り具合を測定してもよい。また、液体の一例として汚泥5の濁り具合を測定しているが、汚泥5以外の液体の濁り具合を測定してもよい。また、着色部材56を単一色の一例である黒色に着色しているが、汚泥5の色合い或いは測定対象である液体の種類等に応じて、着色部材56を黒色以外の単一色(例えば赤色や青色等)に着色してもよい。
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態では、
図16に示すように、濁質判定標識101は、取付板51と、取付板51に取り付けられた半透明部材55とを有している。
【0083】
半透明部材55は、平面視において長方形の部材であって、下面側(観察される側とは反対側である観察裏面側の一例)に、厚み方向において傾斜する第1の傾斜面57を有している。
【0084】
尚、半透明部材55の厚みT1は、半透明部材55の長手方向Cにおける一端部58が最も薄く、反対の他端部59が最も厚く、一端部58から他端部59に向かうほど増している。また、半透明部材55の第1の傾斜面57は、黒色(単一色の一例)の塗装102が施されており、これにより、黒色に着色されている。
【0085】
これによると、濁質判定標識101を上方から目視した際、半透明部材55の厚みT1が最も薄い一端部58において、第1の傾斜面57に施された塗装102の黒色が十分に透けて濃く見え、半透明部材55の厚みT1が最も厚い他端部59において、半透明部材55のフッ素樹脂の乳白色が見え、半透明部材55の一端部58から他端部59になるほど、黒色から白色へと次第に濃淡が変化する。これにより、濃淡が微妙に異なる濁質判定標識101を容易に製作することができる。
【0086】
上記第4の実施の形態では、濁質判定標識101は、上記第1~第3の実施の形態で示した着色部材56,83,93を有しておらず、上記第1の実施の形態で示した形状の半透明部材55に塗装102を施しているが、上記第2又は第3の実施の形態で示した形状の半透明部材82,92に塗装102を施したものであってもよい。
【0087】
上記第4の実施の形態では、半透明部材55の第1の傾斜面57に黒色の塗装102を施しているが、第1の傾斜面57に塗装102を施す代わりに、取付板51の上面に黒色の塗装を施してもよい。また、汚泥5の色合い或いは測定対象である液体の種類等に応じて、黒色以外の単一色の塗装を施してもよい。
【0088】
上記各実施の形態では、半透明部材55,82,92の材質には、PFA又はFEPを用いたが、これら以外のフッ素樹脂、例えば四フッ化エチレン樹脂等を用いてもよく、或いは、フッ素樹脂の代わりに、疎水性に優れたポリエチレン又はポリプロピレン等を用いてもよい。また、ナイロン樹脂やアクリル樹脂等は親水性であるが、ナイロン樹脂やアクリル樹脂等で製作した半透明部材55,82,92の上面を疎水性のコーティング剤でコーティングしてもよい。尚、元来、無色透明である樹脂については、意図的に白色原料を添加することで、目的とする半透明部材55,82,92を得ることができる。
【0089】
上記各実施の形態では、濁質判定標識21,101を平面視において長方形又は円形に形成しているが、これらの形状に限定されるものではなく、長方形以外の多角形や楕円形等の他の形状に形成してもよい。
【0090】
上記各実施の形態では、吸光係数εが0.05~0.5mm-1となる樹脂を半透明の樹脂と定義し、このような半透明の樹脂で半透明部材55,82,92を製作しているが、0.05~0.5mm-1の範囲に限定されるものではなく、製作可能な範囲の半透明部材55,82,92の厚みT1に応じて、半透明の樹脂の定義とする吸光係数εの設定範囲を変えてもよい。
【0091】
上記各実施の形態では、半透明部材55,82,92をそれぞれ一体的に製作しているが、厚みの薄いシート状に形成された半透明部材を複数枚重ね合わせて、半透明部材55,82,92を製作してもよい。
【0092】
上記各実施の形態では、液体(例えば汚泥5)中の濁り具合を評価するための判定標識として濁質判定標識21,101を使用しているが、液体が濁質を含まないが有色であり、この液体の色味の程度を評価するための色味判定標識として、濁質判定標識21,101を使用することができる。この場合、液体の色味が濃くなると、測定装置10で撮影された標識本体52の画像を所定の明度閾値で二値化した場合、標識本体52の画像のうちの黒と認識される部分の面積が増えるとともに、白と認識される部分の面積が減る関係となり、この関係に基づいて色味を求めることができる。また、液体の濁り具合と色味との両者を求めることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
5 汚泥(液体)
10 濁質測定装置(液体測定装置)
20 筒部材
21,101 濁質判定標識(判定標識)
22 カメラ(撮影手段)
32 水没部
33 突出部
34 下端開口部
35 液面
37 筒部材内の液面
52,81,91 標識本体
55,82,92 半透明部材
56,83,93 着色部材
57,86,97 第1の傾斜面
T1 半透明部材の厚み