(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 123/08 20060101AFI20240328BHJP
C09J 131/04 20060101ALI20240328BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20240328BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
C09J123/08
C09J131/04
C09J175/04
C09J11/06
(21)【出願番号】P 2020069956
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】津路 隆裕
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-060712(JP,A)
【文献】特開2009-155538(JP,A)
【文献】特開2008-050465(JP,A)
【文献】特開2004-155997(JP,A)
【文献】特開平06-256749(JP,A)
【文献】特開平09-188862(JP,A)
【文献】特表2013-508520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-5/10
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン(A)、ウレタン樹脂エマルジョン(B)
を含む第一液と、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)を含有し、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)が、水と相溶し且つ官能基としてアルコールを含まない溶剤にて
希釈率が0.5~90%希釈されている第二液を混合して得られる、二液硬化型接着剤組成物。
【請求項2】
エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンの固形分合計100重量部に対し、ウレタン樹脂エマルジョンを固形分基準として1~50重量部含有する請求項1に記載の
二液硬化型接着剤組成物。
【請求項3】
エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンとウレタン樹脂エマルジョンの合計100 重量部に対して、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートを1~30重量部含
む、請求項1および請求項2いずれかに記載の
二液硬化型接着剤組成物。
【請求項4】
水と相溶し且つ官能基としてアルコールを含まない溶剤が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジエチルカルビトール(DEDG)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BDGAC)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BMGAC)、テトラヒドロフラン(THF)から選択される請求項1~3いずれかに記載の
二液硬化型接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
トルエン、キシレン等を配合することなく5℃等の低温環境下にて木質ボード類とプラスチックシートを接着した場合においても、優れた耐熱クリープ性能、耐湿熱クリープ性能を発揮する接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
合板、MDF、パーティクルボードなどの木質ボード類に意匠を施したプラスチックシートをラミネート接着したラミネート化粧材は、内外装建材や家具等に用いられている。プラスチックシートのラミネート接着には、主にエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンが用いられてきた。ラミネート化粧材が使用される部位によっては高度の耐熱性、耐湿熱性、耐水性、耐寒性等が求められる場合があり、このような要求に対して種々の検討が行われてきた。
【0003】
プラスチックシートとしては従来から塩化ビニルシートが用いられていたが、焼却時にダイオキシン等の有害性化合物を生成するおそれがあった。そこで、ポリオレフィンシートやポリエステルシートが採用されるようになったが、一方、依然として塩化ビニルシートが使用される場合もあり、幅広いシートに対して安定した接着性能が得られることが要求されている。また、低温下における接着においても、十分な性能を有することが求められている。
【0004】
さらに、いわゆるシックハウス症候群が社会問題になっていることから、建築材料に対する安全性が厳しく求められるようになっており、特定の化合物については使用しないことや、放散速度を一定以下に抑えることが要求されている。前記化合物の具体的として、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等が挙げられ、これらの化合物の使用を避ける必要があるため、水溶性または水分散性であることが求められている。仮に溶剤を使用する場合においても、水と相溶する様な毒性の低い溶剤を使用することが求められている。
【0005】
また、合板、MDF、パーティクルボードなどの木質ボード類に、プラスチックシートをラミネート接着するラミネート化粧材が作製される環境は、ある程度クリーン度は保たれているものの、一年中ある一定温度に保たれていることは稀である。
おおよそ夏場は30℃等の高温環境、冬場は5℃等の低温環境にて、ラミネート接着が行われるが、水性樹脂エマルジョンを用いて接着する場合、冬場の5℃等の低温環境下にてラミネート化粧材を作製した場合でも、安定した耐熱クリープ性能、耐湿熱クリープ性能を示すことが求められている。
【0006】
特許文献1は、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等の溶剤を含まないため、シックハウス症候群に対する対策は取られているものの、5℃等の低温環境下にて木質ボード類とプラスチックシートを接着した場合の耐熱クリープ性能、耐湿熱クリープ性能に関して、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、トルエン、キシレン等の有機溶剤を配合することなく、5℃等の低温環境下にて木質ボード類とプラスチックシートを接着した場合においても、優れた耐熱クリープ性能、耐湿熱クリープ性能を発揮する接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン(A)、ウレタン樹脂エマルジョン(B)、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)を含有し、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)が、水と相溶し且つ官能基としてアルコールを含まない溶剤にて希釈されていることを特徴とする接着剤組成物を得ることに成功した。
【0010】
前記、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン(A)のエチレン酢酸ビニル共重合系樹脂が、エチレン、酢酸ビニル、共重合可能な二個以上のエチレン性二重結合を有する多官能性モノマーを必須成分とし、トルエン不溶分が70重量%以上であり、前記ウレタン樹脂エマルジョン(B)が分子内にスルホン酸塩基および/またはスルファミン酸塩基を含有することが好ましい。また、前記ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)が、水溶性あるいは水分散性であることが好ましい。
ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)は硬化剤で、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン(A)とウレタン樹脂エマルジョン(B)を含む主剤と混合される時は、水と相溶し、且つ官能基としてアルコールを含まない溶剤で希釈されていることが好ましい。さらに、希釈溶剤として、トルエンおよびキシレンを用いない事が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の接着剤組成物は、5℃等の低温環境下にて木質ボード類とプラスチックシートを接着した場合においても、優れた耐熱クリープ性能、耐湿熱クリープ性能を示す。さらに、トルエンおよびキシレンを配合していないため、本接着剤組成物を用いて製造されたラミネート化粧材は内外装部材や家具等に使用するのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン(A)、ポリビニルアルコール、界面活性剤などの乳化剤の存在下で少なくとも酢酸ビニル及びエチレンを共重合することによって得られる。特に本発明においては高度な耐熱、耐湿熱性能を得るため、前記酢酸ビニル及びエチレンに加え、共重合可能な二個以上のエチレン性二重結合を有する多官能性モノマーを用いることが好ましい。また、同理由により、トルエン不溶分は70%以上であることが好ましい。具体的な製造方法は、特開平9-194811号公報等に開示されている。
【0013】
ウレタン樹脂エマルジョン(B)は、接着剤組成物の耐熱性能や耐湿熱性能を向上させるために用いられる。中でも分子内にスルホン酸塩基および/またはスルファミン酸塩基を含有するものは酸性領域でも安定であり、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンとの混和安定性に優れることから好ましい。具体的な製造方法は、特開平8-337767号公報等に開示されている。エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンの固形分合計100重量部に対するウレタン樹脂エマルジョンの好ましい配合量は、固形分を基準として1~50重量部である。
【0014】
ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)は、ビューレット骨格を有するヘキサメチレンジイソシアネートである。イソシアネート化合物は、接着剤や塗料の硬化剤として多様なものが用いられているが、本発明の接着剤組成物においては、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートのみが適している。また、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートが水溶性または水分散性であり、水と相溶し、且つ官能基としてアルコールを含まない溶剤にて希釈することにより、本接着剤組成物との混和性が向上する。
ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートの好ましい配合量は、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンとウレタン樹脂エマルジョンの合計100重量部に対して、1~30重量部である。
トルエン、キシレン等を含まず、水と相溶し、且つ官能基としてアルコールを含まない溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジエチルカルビトール(DEDG)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BDGAC)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BMGAC)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。水と相溶し、且つ官能基としてアルコールを含まない溶剤でビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)を希釈する際の希釈率は、0.5~90%、より好適には1~20%である。
【0015】
本発明の接着剤組成物は上記各必須成分の他、必要に応じて各種配合材料を添加することができる。例えば、可塑剤の添加により、接着剤の皮膜を軟化してプラスチックフィルムへの密着性を向上させることができる。なお、可塑剤の過剰な使用は耐熱クリープ性能を低下させるため、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョンとウレタン樹脂エマルジョンの合計100重量部に対する可塑剤の好ましい使用量は1~30重量部である。
【0016】
その他の添加剤として、増粘剤、充填材、pH調整剤、粘着付与樹脂、界面活性剤、防腐剤、消泡剤、防錆剤等が挙げられる。
【0017】
なお、本発明の課題の一つはトルエンやキシレンを配合しない接着剤組成物を提供することであり、原料としてトルエンやキシレンを配合しないことにより達成される。ところで、接着剤は様々な原料の配合組成物であるため、原料中にコンタミネーションレベルで含まれる有機溶剤まで取り除くことは現実的には困難であるが、トルエンやキシレンを1%以上含有しない原料はSDS(製品安全データシート)から判別可能であるため、このような原料を使用すれば、実質的にシックハウス症候群の原因となるおそれがない接着剤組成物を製造できる。
【0018】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
実施例1の接着剤組成物の作製
エチレン、酢酸ビニル、共重合可能な二個以上のエチレン性二重結合を有する多官能性モノマーを含有する単量体の共重合系樹脂エマルジョンであるS456HQ(住化ケムテックス社製、Tg0℃、不揮発分55%、トルエン不溶分90%、商品名)900重量部、分子内にスルホン酸塩基を有するウレタン樹脂エマルジョンであるECOS3000(DIC社製、不揮発分40%、商品名)100重量部、可塑剤としてDBE(山一化学工業社製、商品名)100重量部を混合し、増粘剤としてアキュゾール880(ローム・アンド・ハース・カンパニー社製、商品名)を用いて増粘させることによって主剤組成物(20Pa・s/23℃)を得た。
水分散性ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネートであるWB40-100(旭化成社製、商品名)2重量部をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(三協化学社製、商品名)0.5重量部に溶解させ、硬化剤とした。
主剤組成物100重量部と、硬化剤2.5重量部を混合し、実施例1の接着剤組成物を得た。
【0020】
実施例2~21、比較例1~2の接着剤組成物の作製
表1、表2に示す割合で、実施例1の手順で、実施例2~21、比較例1~2の接着剤組成物を得た。
【0021】
試験片作成方法
5℃に調温したMDF(広葉樹、2.5mm厚)に5℃に調温した接着剤組成物を80g/m2で塗布し、5℃に調温したポリオレフィン化粧シートであるWSサフマーレ(大日本印刷株式会社製、商品名)を貼り合せ、ハンドローラーにて接着剤/シート間に残存する空気を脱気した後、油圧プレス機を用いて0.4MPaの圧力を30分加えて圧締を行い、5℃下にて5日間養生した。養生後、25mm幅に切断して試験片を作製した。
【0022】
常態剥離試験
試験片MDFとオレフィンシートの一端部をチャックに固定して引張り試験機で引張り速度200mm/分にて180度角の剥離試験を行った。n=5平均である。結果を表3、表4に示す。
判断基準としては、25N/mm以上は合格、25N/mm未満は不合格である。
【0023】
耐熱クリープ試験
80℃恒温機中において、試験片のポリオレフィン化粧シートに、90°方向に500gの荷重を24時間かけ、はく離した長さを測定した。n=5平均である。
判断基準としては、2.5mm以内は合格、2.5mm超過は不合格である。結果を表3、表4に示す。
【0024】
耐湿熱クリープ試験
60℃/70%RHに設定した恒温恒湿機中において、試験片のポリオレフィン化粧シートに、90°方向に500gの荷重を24時間かけ、はく離した長さを測定した。n=5平均である。
判断基準としては、3mm以内は合格、3mm超過は不合格である。結果を表3、表4に示す。
【0025】
エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン(A)、ウレタン樹脂エマルジョン(B)、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)を含有し、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)が、水と相溶し且つ官能基としてアルコールを含まない溶剤にて希釈されていることを特徴とする接着剤組成物である実施例1~21は常態剥離試験、耐熱クリープ試験、耐湿熱クリープ試験において何れも合格となった。
【0026】
ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)が、水と相溶し、且つ官能基としてアルコールを含まない溶剤にて希釈されていない比較例1は、常態剥離試験、耐熱クリープ試験こそ合格と成ったが、耐湿熱クリープ試験は不合格と成った。5℃等の低温環境下では、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)が1%と、少しでも水と相溶し、且つ官能基としてアルコールを含まない溶剤にて希釈されていないと、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)のイソシアネート基とエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(A)、ウレタン樹脂エマルジョン(B)の水酸基が反応しきれず、耐湿熱クリープ性能が低下したと考えられる。
ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)が、水と相溶し、且つ官能基としてアルコールを含むメタノールにて20%希釈された比較例2は、常態剥離試験こそ合格と成ったが、耐熱クリープ試験、耐湿熱クリープ試験にて不合格と成った。
これは、ビューレット型ヘキサメチレンジイソシアネート(C)のイソシアネート基と、メタノールの水酸基が反応して、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン(A)、ウレタン樹脂エマルジョン(B)の水酸基と反応できずに、耐熱クリープ性能、耐湿熱クリープ性能が低下したと考えられる。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】