(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】車両用シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20240328BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20240328BHJP
B60N 2/22 20060101ALI20240328BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240328BHJP
B23K 26/382 20140101ALI20240328BHJP
【FI】
B60N2/58
B68G7/05 Z
B60N2/22
B23K26/00 G
B23K26/382
(21)【出願番号】P 2020070120
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】新道 隆
(72)【発明者】
【氏名】田口 雅之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝行
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-020636(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010005488(DE,A1)
【文献】特開2009-160261(JP,A)
【文献】特開2006-240567(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0000262(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-2/90
B60N 3/00-99/00
B23K 26/00-26/70
B68G 1/00-99/00
A47C 7/00-7/74
A47C 27/00-27/22;31/00-31/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートクッションは搭乗者が着座する着座部と、前記着座部の両側にサイドサポートを備え、
前記シートバックは、前記シートクッションに着座した搭乗者の背中を支持する背もたれ部と、前記背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートを備え、
前記着座部と前記着座部の両側に配置された前記サイドサポートの表面、又は前記背もたれ部と前記背もたれ部の両側に配置された前記サイドサポートの表面の少なくとも何れか一方は一枚の
表皮で覆われており、
前記少なくとも何れか一方の前記一枚の
表皮で覆われた前記シートクッションの前記着座部と前記着座部の両側に配置された前記サイドサポートの境界部分又は前記シートバックの前記背もたれ部と前記背もたれ部の両側に配置された前記サイドサポートの境界部分において、前記
表皮に複数の微小な孔が線状に形成されて
おり、
前記表皮はトリムカバーの裏面にワディングが積層して形成されており、
前記ワディングの一部が除去されて前記表皮に形成された溝によって前記トリムカバーの前記裏面が露出している部分に前記複数の微小な孔が形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1記載の車両用シートであって
、前記トリムカバーに形成された前記複数の微小な孔は、前記トリムカバーの前記裏面の前記ワディングが形成された側からレーザを照射して形成された孔であることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項2記載の車両用シートであって
、前記
表皮に形成された
前記溝は、前記ワディングに前記レーザを照射することによ
り形成された
溝であることを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
請求項1記載の車両用シートであって、前記境界部分は、前記トリムカバーに形成された前記複数の微小な孔に沿って形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項5】
請求項1記載の車両用シートであって、前記トリムカバーの前記複数の微小な孔は、中間部を挟んで二列形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項6】
請求項5記載の車両用シートであって、前記トリムカバーは、前記中間部を挟んで二列形成された前記複数の微小な孔のそれぞれの列
を折り目として前記中間部を挟んで折り曲げられていることを特徴とする車両用シート。
【請求項7】
請求項5記載の車両用シートであって、前記トリムカバーの前記二列形成され前記複数の微小な孔のそれぞれの列
を折り目として折り曲げられた部分に挟まれた前記中間部は、前記シートクッション又は前記シートバックのウレタンパッドに形成された溝部に接着剤で接続されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項8】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートバック又は前記シートクッションの少なくとも何れか一方には、前記シートバック又は前記シートクッション
のウレタンパッドを覆う
表皮に前記
表皮の裏面からレーザを照射して形成された微小な孔又は微小な溝が複数形成されて
おり、
前記表皮はトリムカバーの裏面にワディングが積層して形成されており、
前記ワディングおよび前記ウレタンパッドが部分的に除去されて空洞領域が形成された部分に位置する前記トリムカバーに複数の前記微小な孔又は複数の前記微小な溝が形成されており、
前記空洞領域に照明装置が設けられていることを特徴とする車両用シート。
【請求項9】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートの製造方法であって、
一枚のトリムカバーに一枚の前記トリムカバーの裏面のワディングが貼り付けられた
表皮の前記ワディング側からレーザを第1の条件で照射して前記ワディングの一部を除去して前記トリムカバーを露出させ、
前記露出させた前記トリムカバーに前記レーザを第2の条件で照射して、前記露出させた前記トリムカバーの前記露出させた領域に複数の微小な孔を線状に形成し、
前記複数の微小な孔を線状に形成した
前記表皮で前記シートクッション又は前記シートバックの表面を覆
い、
前記ワディングの一部を除去する前記レーザを照射する前記第1の条件は、前記一枚のトリムカバーに照射しても前記トリムカバーが加工されない条件であることを特徴とする車両用シートの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の車両用シートの製造方法であって、
前記表皮の前記微小な孔を複数形成した部分で、前記シートバックの背もたれ部の表面と前記背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートの表面との境界部分を覆って前記シートバックを形成することを特徴とする車両用シートの製造方法。
【請求項11】
請求項9記載の車両用シートの製造方法であって
、
前記レーザを
所定の走査速度で所定の時間照射
して前記ワディングの一部を除去することを特徴とする車両用シートの製造方法。
【請求項12】
請求項9記載の車両用シートの製造方法であって、
前記
表皮の前記微小な孔を複数形成した部分で、前記シートバックの背もたれ部の表面を覆って前記シートバックを形成することを特徴とする車両用シートの製造方法。
【請求項13】
請求項9記載の車両用シートの製造方法であって、
前記
表皮の前記微小な孔を複数形成した部分で、前記シートクッションの座部の表面と前記座部の両側に配置されたサイドサポートの表面との境界部分を覆って前記シートクッションを形成することを特徴とする車両用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートは、骨格部材であるシートフレーム(シートクッションフレーム、シート
バックフレーム)をクッション材であるウレタンパッドで覆い、このウレタンパッドの表面を、裏面にワディング材が張り付けられたトリムカバーで覆うように構成されている。そしてこのトリムカバーは、ウレタンパッドの表面を覆うために、従来は、複数のトリムカバー部材を縫製して形成していた。
【0003】
この複数のトリムカバー部材を縫製する方法として、例えば特許文献1には、二枚のトリムカバー部材を重ね合わせた状態でトリムカバーの端部のワディングが張り付けられていない部分を縫い合せ、その後、二枚のトリムカバーを開いて各トリムカバーに対応したワディングの下に更に長尺のワディングを張り付ける構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているような、二枚のトリムカバーを重ね合わせた状態でトリムカバーの端部のワディングが張り付けられていない部分を縫い合させ、その後、二枚のトリムカバーを開いて各トリムカバーに対応したワディングの下に更に長尺のワディングを張り付ける方法では、トリムカバーへのワディングの貼り付けを2度行うことになり、工程数が増える。また、2枚のトリムカバーを縫合するので、縫製工程が必要になる。
【0006】
本発明の目的は、従来技術の課題を解決して、トリムカバーへのワディングの貼り付けを1工程だけにするとともに、シートクッションを構成するウレタンパッド表面とシートバックを構成するウレタンパッド表面のそれぞれを、縫製工程を経ることなく形成した一枚のトリムカバーで覆うことを可能にする車両用シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明では、
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートクッションは搭乗者が着座する着座部と、この着座部の両側にサイドサポートを備え、シートバックは、シートクッションに着座した搭乗者の背中を支持する背もたれ部と、この背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートを備え、着座部とこの着座部の両側に配置されたサイドサポートの表面、又は背もたれ部とこの背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートの表面の少なくとも何れか一方は一枚のトリムカバーで覆われており、少なくとも何れか一方の一枚のトリムカバーで覆われたシートクッションの着座部とこの着座部の両側に配置されたサイドサポートの境界部分又はシートバックの背もたれ部とこの背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートの境界部分において、トリムカバーに複数の微小な孔を線状に形成した。
【0008】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートバック又はシートクッションの少なくとも何れか一方には、シートバック又はシートクッションを覆うトリムカバーにこのトリムカバーの裏面からレーザを照射して形成された微小な孔を複数形成した。
【0009】
更に、上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートの製造方法において、一枚のトリムカバーにこの一枚のトリムカバーの裏面のワディングが貼り付けられた側からレーザを第1の条件で照射してワディングの一部を除去してトリムカバーの裏面を露出させ、この露出させたトリムカバーの裏面にレーザを第2の条件で照射して、トリムカバーの裏面の露出させた領域に複数の微小な孔を線状に形成し、この複数の微小な孔を線状に形成した一枚のトリムカバーでシートクッション又はシートバックの表面を覆うようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トリムカバーへのワディングの貼り付け(積層)を1工程だけにするとともに、縫製工程を経ることなく形成した一枚のトリムカバーでシートクッション又はシートバックを構成するウレタンパッドの表面を覆うことを可能になり、車両用シートの製造工程を簡素化することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
【
図2】
図1におけるA-A断面を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る表皮部材にワディングを積層して一体に形成したトリムカバーの一部を示す部分断面図である。
【
図5】本発明の実施例1に係るトリムカバーに貼り付けたワディングにレーザを第1のパワーで照射している状態を示すトリムカバーの断面図である。
【
図6】本発明の実施例1に係るトリムカバーに貼り付けたワディングにレーザを第1のパワーで照射してワディングの一部を溶融して除去した状態を示すトリムカバーの断面図である。
【
図7】本発明の実施例1に係るトリムカバーに貼り付けたワディングにレーザを第1のパワーで照射してワディングの一部を溶融して除去したのちに、露出したトリムカバーにレーザを第2のパワーで照射してトリムカバーを線状に除去した状態を示すトリムカバーの断面図である。
【
図8】本発明の実施例1に係る露出したトリムカバーにレーザを第2のパワーで照射してトリムカバーを線状に除去した状態を示すトリムカバーの平面図である。
【
図9】本発明の実施例1に係る露出したトリムカバーにレーザを第2のパワーで照射してトリムカバーを線状に除去して微小な孔を複数形成したのちに、この複数形成した微小な孔を中心にトリムカバーを折り曲げた状態を示すトリムカバーの断面図である。
【
図10】本発明の実施例1に係る露出したトリムカバーにレーザを第2のパワーで照射して線状に除去した状態のトリムカバーを接着型に装着してワディングの表面に接着剤を塗布した状態で、成形したウレタンパッドを上方から接着型に近づけている状態を示す、トリムカバーと接着型及びウレタンパッドの断面図である。
【
図11】本発明の実施例1に係るトリムカバーを装着した接着型にウレタンパッドを上方から押付けてワディングとウレタンパッドとを接着している状態を示すトリムカバーと接着型及びウレタンパッドの断面図である。
【
図12】本発明の実施例1に係るトリムカバーのワディングとウレタンパッドとを接着した後に接着型から取り出して、上下を反転させた状態における断面図である。
【
図13】本発明の実施例1に係るトリムカバーのワディングとウレタンパッドとを接着した状態におけるトリムカバーのワディングとウレタンパッドとの関係を示す図で、
図12のD部の拡大図である。
【
図14】本発明の実施例1に係るトリムカバーのワディングとウレタンパッドとを接着した状態におけるトリムカバーの状態を示す平面図で、
図12のE-E矢視図である。
【
図15】本発明の実施例1の変形例に係るレーザを第1の条件で照射してワディングの一部を溶融して除去しトリムカバーを露出させたのちに、この露出させたトリムカバーにレーザを第2のパワーで線状に照射して、トリムカバーに複数の微小な孔を中間部を挟んで二列形成した状態を示すトリムカバーの平面図である。
【
図16】本発明の実施例1の変形例に係るトリムカバーに複数の微小な孔を中間部を挟んで線状に二列形成した状態で、トリムカバーをそれぞれの孔の列に沿って折り曲げた状態を示す断面図である。
【
図17】本発明の実施例1の変形例に係るトリムカバーのワディングとウレタンパッドとを接着した状態におけるトリムカバーのワディングとウレタンパッドとの関係を示す断面図で、
図12のD部の拡大図に相当する図である。
【
図18】本発明の実施例1の変形例に係るトリムカバーに複数の微小な孔を中間部を挟んで線状に二列形成した状態で、トリムカバーをそれぞれの孔の列に沿って折り曲げた状態で中間部分に接着剤を塗布した状態を示す断面図である。
【
図19】本発明の実施例1の変形例に係る
図18に示したトリムカバーの中間部をウレタンパッドに形成された溝部の底面に接着した状態を示す断面図である。
【
図20】本発明の実施例2に係るシートバックの正面図である。
【
図21】本発明の実施例2に係るシートバックに形成した空洞部を含む領域の断面図である。
【
図22】本発明の実施例2に係る発明を適用した別の例を示すシートバックの正面図である。
【
図23】本発明の実施例2の変形例に係るシートバックに形成した溝部を含む領域の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、トリムカバーに積層したワディングをレーザを用いて2段階に加工することによりワディングの折り曲げ加工を容易にし、一枚のトリムカバーでシートクッション又はシートバックを構成するウレタンパッド表面を覆うことを可能にしたものである。本発明は、従来行っていた複数のトリムカバーを縫い合わせる縫製工程を必要とせず、車両用シートの製造工程を簡素化することを可能にしたものである。
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0014】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例1】
【0015】
図1は、本実施例に係る車両用シート100の外観を示す。本実施例に係る車両用シート100は、搭乗者が着座するシートクッション20と、着座した搭乗者が背をもたれかけるシートバック30、搭乗者の頭部を保護するヘッドレスト40を備えている。
【0016】
シートクッション20は、搭乗者が着座する座部21と、境界部23を挟んで座部21の両側にサイドサポート22を備えている。シートバック30は、着座した搭乗者が背をもたれかける背もたれ部31と、境界部33を挟んで背もたれ部31の両側にサイドサポート32を備えている。
【0017】
シートバック30のA-A断面を
図2に示す。
図2において、310は背もたれ部31の表面を覆う背もたれ部表皮、311は背もたれ部表皮310で覆われた背もたれ部31の背もたれ部側ウレタンパッド、320はサイドサポート32の表面を覆うサイドサポート表皮、321はサイドサポート表皮320で覆われたサイドサポート側ウレタンパッド、33は背もたれ部31とサイドサポート32の境界部である。
【0018】
背もたれ部側ウレタンパッド311(以下、単にウレタンパッド311と記載する場合もある)とサイドサポート側ウレタンパッド321(以下、単にウレタンパッド321と記載する場合もある)は一体物であり、背もたれ部31に対応する位置、サイドサポート32に対応する位置ということで、便宜上分けて読んでいる。
【0019】
サイドサポート側ウレタンパッド321には、シートバック30の図示していないフレームを構成する左右一対のフレームパイプ36を挟み込まれており、裏面を、裏面カバー37で覆われている。
【0020】
図2におけるBの丸で囲んだ背もたれ部31の表面付近の領域の拡大図を
図3に示す。
図3において、3101は表皮部材(トリムカバー)、3102はワディング、311はウレタンパッドである。表皮部材(トリムカバー)3101とワディング3102とで背もたれ部表皮310を構成する。
【0021】
ワディング3102は、表皮部材(トリムカバー)3101とウレタンパッド311とに挟まれて、表皮部材 (トリムカバー) 3101とウレタンパッド311との緩衝材の役割を果たす。表皮部材(トリムカバー)3101は、例えば合皮(合成皮革)材料で形成される。ワディング3102は、表皮部材(トリムカバー)3101に積層して形成されている。
【0022】
図4乃至
図9を用いて、本実施例における表皮部材(トリムカバー)3101に積層して形成したワディング3102と表皮部材(トリムカバー)3101とを加工する手順について説明する。
【0023】
図4は、表皮部材(トリムカバー)3101にワディング3102を積層して形成した状態の断面図を示す。このように、表皮部材(トリムカバー)3101にワディング3102を積層した状態では、比較的硬い合皮材料で形成された表皮部材(トリムカバー)3101の特定の個所に応力を集中させて表皮部材(トリムカバー)3101を所定の個所で確実に折り曲げるような加工を行うことが難しい。
【0024】
図5は、ワディング3102に、レーザ光源50からレーザ51を照射している状態を示している。ここで、レーザ光源50としては、パルスレーザを発射するパルスレーザ光源を用いる。この時のレーザ光源50から発射されるレーザのパワーは、ワディング3102に所定の時間(所定のパルス数)照射した時にワディング3102を溶融させるのに十分なパワーであり、且つ、表皮部材(トリムカバー)3101に同じ所定の時間(所定のパルス数)照射しても表皮部材(トリムカバー)3101を溶融するのには不十分なパワーに調整されている。以下、これを第1の照射条件と記す。
【0025】
図6は、レーザ光源50からレーザ51を第1の照射条件で所定の時間(所定のパルス数)照射してワディング3102を溶融して一部を気化させることにより、ワディング3102の一部に溝部3103を形成した状態を示している。レーザ51をワディング3102に照射しながら
図6の紙面に垂直な方向に移動(走査)させることにより、溝部3103が
図6の紙面に垂直な方向に沿って連続的に形成される。
【0026】
この時、レーザ51は第1の照射条件に設定され、一定の走査速度で表皮部材(トリムカバー)3101に同じ所定の時間(所定のパルス数)照射しても合皮で形成された表皮部材(トリムカバー)3101を溶融するのには不十分なパワーに調整されている。従って、第1の照射条件に設定されたレーザ51を照射することにより、ワディング3102の一部が溶融・気化して溝部3103が形成されるが、この溝部3103において露出した表皮部材(トリムカバー)3101は、そのままの状態で残っている。
【0027】
次に、
図7に示すように、ワディング3102に形成した溝部3103で表皮部材(トリムカバー)3101が露出した領域の一部に、レーザ51をワディング3102を溶融させたときよりも遅い走査速度で線状に狭い範囲に順次照射する(以下、これを第2の照射条件と記す)。レーザ51をこの第2の照射条件で照射することにより、レーザ51が照射された領域の表皮部材(トリムカバー)3101が溶融して微小な孔3104が複数形成される。
【0028】
このように第2の照射条件に設定したレーザ51の照射をワディング3102に形成した溝部3103に沿って直線又は曲線の線状に行うことにより、
図7をC-C矢視の方向から見た
図8の平面図に示すように、表皮部材(トリムカバー)3101に複数の微小な孔3104を線状に形成することができる。
【0029】
このように、ワディング3102を一部除去して表皮部材(トリムカバー)3101に複数の微小な孔3104を線状に形成することにより、ワディング3102を積層した表皮部材(トリムカバー)3101をこの線状に形成した複数の微小な孔3104に沿って折り曲げようとしたときに、この複数の微小な孔3104の部分に曲げ応力が集中する。これにより、
図9に示すように、ワディング3102を積層した表皮部材(トリムカバー)3101を、この線状に形成した複数の微小な孔3104の部分に沿って容易に、確実に折り曲げることが可能になる。
【0030】
これにより、従来、背もたれ部表皮(背もたれ部側トリムカバー)とサイドサポート表皮とを別個に形成して縫合して一体化していたのを、表皮部材(トリムカバー)3101にワディング3102を積層した一枚のシートから形成することが可能になる。
【0031】
すなわち、表皮部材(トリムカバー)3101にワディング3102を積層した一枚のシートの背もたれ部表皮310に対応する領域とサイドサポート表皮320に対応する領域の境界部に沿ってレーザ51を第1の照射条件で連続的に移動させながら照射してワディング3102を溶融して溝部3103を形成する。
【0032】
次に、この形成した溝部3103に沿ってレーザ51を第2の照射条件で第1の照射条件よりも遅い速度で線状に照射することにより、溝部3103に露出した表皮部材(トリムカバー)3101に、溝部3103に沿って複数の微小な孔3104を形成することができる。
【0033】
次に、このようにして成形した一枚のシートを、ワディング3102を上面にして
図10に示すように型60に乗せ、この状態でワディング3102の表面に接着剤を塗布し、別途成形したウレタンパッド35を型60の上方から押し下げ、
図11に示すように、ウレタンパッド35を型60にはめ込んだ状態で図示していない押圧手段でウレタンパッド35をワディング3102に押付けることにより、ウレタンパッド35とワディング3102とを接着剤で接着させる。
【0034】
上記した例では、ウレタンパッド35を別途成形した状態で型60を用いて表面にワディング3102を接着剤で貼り付ける例を示したが、型60をウレタンパッド35の成形用の型として用い、型60に成形した一枚のシートを装着した状態で、ウレタンを発泡成形することにより、ウレタンパッド35を形成すると同時にウレタンパッド35とワディング3102を接着するようにしてもよい。
【0035】
ウレタンパッド35とワディング3102を接着して型60から取り出した状態を、
図12に示す。
図12では、
図11に対して上下を逆にした状態を示している。背もたれ部表皮310とこの背もたれ部表皮310で覆われた背もたれ部側ウレタンパッド311で構成される背もたれ部31と、サイドサポート表皮320とこのサイドサポート表皮320で覆われたサイドサポート側ウレタンパッド321で形成されるサイドサポート32との境界部33は、
図8で説明したような、表皮部材(トリムカバー)3101に複数の微小な孔3104を線状に形成した部分に対応する。
【0036】
図12において、Dの円で囲んだ境界部33とその周辺部分の拡大図を
図13に示す。ワディング3102を表皮部材(トリムカバー)3101に積層して形成された背もたれ部表皮310と背もたれ部側ウレタンパッド311で構成される背もたれ部31と、ワディング3202を表皮部材(トリムカバー)3201に積層して形成されたサイドサポート表皮320とサイドサポート側ウレタンパッド321で構成されるサイドサポート32との境界部33は、表皮部材(トリムカバー)3101に線状に形成された複数の微小な孔3104に沿って形成されている。
【0037】
この境界部33は、線状に形成された複数の微小な孔3104に沿った領域に形成されるので、従来の二枚のシートを縫合して形成する境界部と比べて境界部33の幅を狭くして形成することができる。
【0038】
これにより、従来の二枚のシートを縫合して形成する境界部と比べて境界部33における背もたれ部表皮310側の表皮部材(トリムカバー)3101とサイドサポート表皮320側の表皮部材(トリムカバー)3201とのなす角度をより鋭角に形成することができ、従来の二枚のシートを縫合して形成する境界部と比べて境界部33の幅を狭く形成することができる。
【0039】
図14は、
図12の境界部33を、E-E矢視の方向から見た正面図である。背もたれ部31の側の表皮部材(トリムカバー)3101とサイドサポート32の側の表皮部材(トリムカバー)3201とは、連続した一枚のシートで形成され、背もたれ部31の側の表皮部材(トリムカバー)3101とサイドサポート32の側の表皮部材(トリムカバー)3201との境界の領域に境界部33が形成されている。
【0040】
この境界部33の中心には線状に形成された複数の微小な孔3104が見える。ここで、複数の微小な孔3104を縦長に形成することにより、複数の微小な孔3104は縫製加工して形成された縫い目のように見え、意匠性を向上させることができる。
【0041】
この
図14に示した境界部33は、
図1に示した車両用シートにおけるシートバック30の境界部33に対応する。すなわち、シートバック30を構成する背もたれ部31の側の表皮部材(トリムカバー)3101とその両側のサイドサポート32の側の表皮部材(トリムカバー)3201とは一枚のシートで形成され、その境界に線状に形成された複数の微小な孔3104に沿った領域に境界部33が形成されている。
【0042】
また、
図1のシートクッション20における境界部23も、
図14に示した境界部33と同様に、線状に形成された複数の微小な孔3104に沿った領域に形成されている。すなわち、シートクッション20を構成する座部21側の表皮部材(トリムカバー3101に相当する部材)と、境界部23を挟んで座部21の両側のサイドサポート22側の表皮部材(トリムカバー3201に相当する部材)とは一枚のシートで形成され、その境界に線状に形成された、シートバック30の側の複数の微小な孔3104に相当する孔に沿った領域に境界部23が形成されている。
【0043】
本実施例によれば、レーザを第1の照射条件で照射してワディングを部分的に除去して表皮部材(トリムカバー)の裏面を露出させ、この露出させた表皮部材(トリムカバー)の裏面にレーザを第2の照射条件で照射し表皮部材(トリムカバー)に微細な孔を線状に形成して表皮部材(トリムカバー)をこの線状に形成した微細な孔に沿って折り曲げ易くした。
【0044】
これにより、従来の二枚の部材を縫合して一体化するための縫製工程を経ることなく、表皮部材(トリムカバー)の裏面にワディングを張り付けた一枚の部材からシートバック30を構成する背もたれ部表皮310とサイドサポート表皮320とを形成することができる。
【0045】
同様にシートクッションの側についても、表皮部材(トリムカバー)の裏面にワディングを張り付けた一枚の部材から座部21側の表皮部材(トリムカバー3101に相当する部材)と、サイドサポート22側の表皮部材(トリムカバー3201に相当する部材) とを形成することができ、工程を簡素化することができるようになった。
【0046】
また、従来の二枚の部材を縫合し一体化して形成した境界部に対して、本実施例では線状に形成した微細な孔に沿って境界部が形成されるので、境界部の幅を狭く形成することができる。
[変形例1]
実施例1では、
図8に示したように、ワディング3102と3202との間に形成した溝部3103に複数の微小な孔3104を線状に一列に形成したが、本変形例では、
図15に示すように、実施例1と比べて幅を比較的広く形成した溝部3105の内部で、複数の微小な孔3106と3107とを、中間部3108を挟んで互いに位相をずらして線状に二列形成する。
【0047】
このように中間部3108を挟んで互いに位相をずらして二列形成した孔3106と3107とを折り目としてワディング3102を張り付けた側を孔3107に沿って折り曲げ、ワディング3202を張り付けた側を孔3106に沿って折り曲げた状態を、
図16に示す。
【0048】
ワディング3102を張り付けた側を孔3107に沿って折り曲げた部分と、ワディング3202を張り付けた側を孔3106に沿って折り曲げた部分とは、中間部3108の幅分だけ離れているが、その上方では表皮部材(トリムカバー)3101と3201とを接触して接続部33-1を形成している。このように、表皮部材(トリムカバー)3101と3201とは、互いに接触している接続部33-1における幅寸法に対して、中間部3108を挟んで折り曲げた部分の幅寸法が大きく、
図16に示した断面においては、略三角形状になっている。
【0049】
このようにして形成した一枚のシートを、ワディング3102を上面にして
図10に示すように型60に装着した状態で、ウレタンを発泡成形する。これにより、ウレタンパッド311と321とが形成され、それぞれワディング3102と3202に接着する。この時、表皮部材(トリムカバー)3101と3201との中間部3108を挟んで折り曲げた部分も、ウレタンパッド311と321とに挟まれて固定される。この状態における実施例1の
図13に相当する断面を、
図17に示す。
【0050】
図17に示すように、ウレタンパッド311と321とに挟まれて固定された表皮部材(トリムカバー)3101と3201との中間部3108を挟んで折り曲げた部分は、表皮部材(トリムカバー)3101と3201とが接触している接続部33-1の幅寸法よりも大きい。
【0051】
そのために、表皮部材(トリムカバー)3101と3201とを
図17で上方に引張る力が作用しても、周囲を取り囲んだウレタンパッド311と321とにより押さえられて、表皮部材(トリムカバー)3101と3201との中間部3108を挟んで折り曲げた部分がウレタンパッド311と321とから抜けにくくなる。
【0052】
従って、
図17に示したような構造とすることにより、従来用いられていた表皮部材をウレタンパッドに固定するための吊り込み部材を用いる必要がなくなり、部品点数を減らすことができるとともに、吊り込み部材と表皮部材とを接続する工程を省くことができ、車両用シートの組み立て性を改善することができる。
【0053】
一方、シートをウレタンパッドと一体成形せずに、発泡成形後のウレタンパッドにシートを張り付ける場合には、
図18に示すように、二列形成した孔3106と3107との間の中間部3108に接着剤3109を塗布して中間部3108をウレタンパッドに接着する。
【0054】
図19には、このように構成したシートを、発泡成形されたウレタンパッドに張り付けた状態を示している。発泡成形されたウレタンパッド311と321との間に形成された溝部330に、背もたれ部表皮310とサイドサポート表皮320との中間部3108が挿入されて、中間部3108とウレタンパッドの溝部330の底の部分とが接着剤3109で接着されている。
【0055】
このような構成とすることにより、表皮部材(トリムカバー)3101と3201とを
図19で上方に引張る力が作用しても、周囲を取り囲んだウレタンパッドの溝部330により押さえられて、表皮部材(トリムカバー)3101と3201との中間部3108を挟んで折り曲げた部分がウレタンパッドの溝部330から抜けにくくなる。
【0056】
従って、
図19に示したような構造とすることにより、従来用いられていた表皮部材をウレタンパッドに固定するための吊り込み部材を用いる必要がなくなり、部品点数を減らすことができるとともに、吊り込み部材と表皮部材とを接続する工程を省くことができ、車両用シートの組み立て性を改善することができる。
【実施例2】
【0057】
本実施例では、表皮部材にレーザを照射して表皮部材に微細な孔を形成し、その表皮部材が組み込まれたシートの情報を記録しておくことにより、シートを使用するときに、このシートに形成された孔を読み取ることで、シートの情報を取得できるようにした例を説明する。
【0058】
図20は、本実施例に係るシートバック30の正面図である。シートバック30の背もたれ部31の右下の隅に、ワディング3102とウレタンパッド311を除去して表皮部材(トリムカバー)3101だけにした空洞領域70を形成し、この空洞領域70において、表皮部材(トリムカバー)3101にレーザで微細な孔71を形成した状態を示している。
【0059】
図21には、空洞領域70を含むシートバック30の部分断面図を示す。ワディング3102とウレタンパッド311を除去して形成された空洞領域70の内部には、電線81で図示していないスイッチを介して電源と接続されている小型の照明器具80が組み込まれている。
【0060】
このような構成で、図示していないスイッチをオンにして照明器具80を点灯することにより、表皮部材(トリムカバー)3101に形成された微細な孔71から光が漏れて、
図21において表皮部材(トリムカバー)3101の左側であるシートバック30の前面から微細な孔71の位置を確認することができる。
【0061】
ここで、表皮部材(トリムカバー)3101に形成する微細な孔71の位置や数を、シートバック30の製品情報に応じて変えることにより、孔71の位置や数とそれに対応した製品情報データとを照合することにより、製品識別情報や、コーションタグの情報、車両用シート100に装着するチャイルドシートの情報を読み取ることが可能になる。
【0062】
本実施例では、シートに形成された孔を読み取ることで、シートの情報を取得できるようにした例について説明したが、シートに形成する孔の位置を変えることにより、シートの意匠性を変えることもできる。
【0063】
すなわち、
図22にその一例を示したように、シートバック30の背もたれ部31にレーザを照射して複数の孔90を形成することにより、背もたれ部31に表皮部材(トリムカバー)3101が欠けた部分により意匠性を持った模様を形成することができる。
【0064】
本実施例によれば、シートにレーザ加工を行うことで、シートに関する情報をシートに記録することができる。また、シートにレーザ加工を行うことで、シートの意匠性を変えることもできる。本実施例は、シートクッションの側にも適用することができる。
[変形例]
【0065】
上記に説明した実施例2においては、表皮部材(トリムカバー)3101に微細な孔71を形成した例について説明したが、本変形例では、微細な孔に替えて表皮部材(トリムカバー)3101を部分的に光が透過する程度までに薄く形成した例について説明する。
【0066】
すなわち、本変形例においては、実施例2において
図21に示したような微細な孔71に替えて
図23に示すように、表皮部材(トリムカバー)3101の裏面側に溝72を形成して、この溝を形成した部分において表皮部材(トリムカバー)3101を部分的に光が透過する程度までに薄くした。
【0067】
この溝72は、実施例1において
図5乃至
図7を用いて説明したのと同様な工程を経て形成するが、
図7の工程では表皮部材(トリムカバー)3101に微細な孔3104を形成したのに対して、本変形例の場合は、表皮部材(トリムカバー)3101を光が透過する程度の薄さになった段階でレーザ52の照射を停止する。
【0068】
このように、表皮部材(トリムカバー)3101に孔を開けないので、表皮部材(トリムカバー)3101を表面から見たときには、溝72が形成された部分と他の部分との見分けがつかない。一方、図示していないスイッチをオンにして照明器具80を点灯することにより、表皮部材(トリムカバー)3101に形成された溝72の部分を光が透過して、
図23において表皮部材(トリムカバー)3101の左側であるシートバック30の前面から溝72の位置を確認することができる。
【0069】
実施例2で説明したのと同様に、表皮部材(トリムカバー)3101に形成する溝72の位置や数、長さを、シートバック30の製品情報に応じて変えることにより、溝72の位置や数とそれに対応した製品情報データとを照合することにより、製品識別情報や、コーションタグの情報、車両用シート100に装着するチャイルドシートの情報を読み取ることが可能になる。
【0070】
また、実施例2において
図20を用いて説明したように、本変形例においても、シートバック30の背もたれ部31にレーザを照射して複数の孔90に替えて溝72を線状に形成して照明器具80を点灯させることにより、背もたれ部31に表皮部材(トリムカバー)3101が溝72により意匠性を持った模様を形成することができる。
【0071】
本実施例によれば、シートにレーザ加工を行って部分的に光が透過する程度まで薄くすることで、シートに関する情報をシートに記録したり、シートの意匠性を変えることができる。
【0072】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
20 シートクッション
21 座部
22、32 サイドサポート
23、33 境界部
30 シートバック
31 背もたれ部
50 レーザ光源
100 車両用シート
310 背もたれ部表皮
311 背もたれ部側ウレタンパッド(ウレタンパッド)
320 サイドサポート表皮
321 サイドサポート側ウレタンパッド
3101、3201 表皮部材(トリムカバー)
3102、3202 ワディング
3103,3105 溝部
3104,3106,3107 孔
3108 中間部