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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】位置調整治具、及び鋼製支保工建込方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/40 20060101AFI20240328BHJP
   E21D 11/18 20060101ALI20240328BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
E21D11/40 A
E21D11/18
E21D11/10 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020081328
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021175858
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】505356491
【氏名又は名称】株式会社マシノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】副島 幸也
(72)【発明者】
【氏名】日向 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】稲田 匠吾
(72)【発明者】
【氏名】土永 直毅
(72)【発明者】
【氏名】西原 直哉
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-061395(JP,A)
【文献】特開平03-107098(JP,A)
【文献】特開2018-112199(JP,A)
【文献】特開2001-173394(JP,A)
【文献】特開2012-112104(JP,A)
【文献】特開2016-118040(JP,A)
【文献】特開2019-056282(JP,A)
【文献】実開昭52-130941(JP,U)
【文献】特開昭59-091265(JP,A)
【文献】特開平10-204985(JP,A)
【文献】特開2013-104198(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0301223(US,A1)
【文献】特開2006-200162(JP,A)
【文献】特開平09-088329(JP,A)
【文献】特公昭48-014099(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-9/14
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの一次覆工に用いられる鋼製支保工の位置を調整する位置調整治具であって、
調整体と、張出体と、を備え、
前記調整体は、前記鋼製支保工の一部に着脱可能に装着し得る装着部と、該調整体の一部に設けられたボルト孔と、該ボルト孔の一方の開口部に固定された固定ナットと、を有し、
前記張出体は、棒状部材の外周にネジが設けられた挿入ボルトと、該挿入ボルトの一方端に該挿入ボルト軸に対して垂直又は略垂直となるように取り付けられた当接板と、を有し、
前記挿入ボルトは、前記固定ナットに螺合され、
前記装着部によって前記鋼製支保工の脚部に装着し、地山に当接した前記当接板と前記固定ナットとの間隔が拡がるように前記調整体を移動させると、該鋼製支保工が地山から離れる方向に移動する
ことを特徴とする位置調整治具。
【請求項2】
トンネルの一次覆工に用いられる鋼製支保工の位置を調整する位置調整治具であって、
調整体と、第1張出体と、第2張出体と、を備え、
前記調整体は、前記鋼製支保工の一部に着脱可能に装着し得る装着部と、該調整体の一部に設けられた第1ボルト孔及び第2ボルト孔と、該第1ボルト孔の一方の開口部に固定された固定ナットと、該第2ボルト孔の一方の開口部に固定された固定ナットと、を有し、
前記第1張出体及び前記第2張出体は、棒状部材の外周にネジが設けられた挿入ボルトと、該挿入ボルトの一方端に該挿入ボルト軸に対して垂直又は略垂直となるように取り付けられた当接板と、を有し、
前記第1張出体の前記挿入ボルトが、前記第1ボルト孔の前記固定ナットに螺合されるとともに、前記第2張出体の前記挿入ボルトが、該第1張出体の該挿入ボルトに対して垂直又は略垂直となるように前記第2ボルト孔の前記固定ナットに螺合され、
前記第1張出体の前記挿入ボルトが鉛直又は略鉛直となるように、前記装着部によって前記鋼製支保工の脚部に装着し、地山に当接した該第1張出体の前記当接板に対して前記調整体を上下に移動させるとともに、地山に当接した前記第2張出体の前記当接板に対して該調整体を左右に移動させることによって、該鋼製支保工の設置位置を調整し得る、
ことを特徴とする位置調整治具。
【請求項3】
前記固定ナットは、入口から出口まで貫通する貫通孔が設けられるとともに、該貫通孔内に、複数の分割ネジと、反力体と、を有し、
前記貫通孔の内周壁の一部には、出口側に向かって広がるテーパ―部が形成され、
前記分割ネジは、内周側に前記挿入ボルトが螺合するネジが設けられるとともに、外周側に前記テーパ―部に応じた傾斜部が形成され、
また複数の前記分割ネジは、前記貫通孔内で周方向に分散配置されるとともに、それぞれ前記傾斜部が前記テーパ―部に当接した状態で前記貫通孔の軸方向にスライド可能であり、
前記反力体は、弾性体であって、前記分割ネジに対して入口方向の弾性力を付与し、
前記挿入ボルトは、前記当接板が出口側となるように、前記固定ナットに螺合され、
前記反力体の入口方向の弾性力以上の力で前記挿入ボルトを出口側に押し込むと、前記分割ネジが前記テーパ―部に沿って出口側にスライドし、それぞれの該分割ネジは該挿入ボルトから外周側に離れ、
前記挿入ボルトを出口側に押し込む力を解除すると、前記反力体による入口方向の弾性力によって前記分割ネジが前記テーパ―部に沿って入口側にスライドし、それぞれの該分割ネジが該挿入ボルトに螺合する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の位置調整治具。
【請求項4】
前記装着部は、2つの挟持板を有するとともに、一方の該挟持板には装着用ボルト孔が設けられ、
2つの前記挟持板で前記鋼製支保工の一部を挟み、前記装着用ボルト孔に挿通したボルトを締め付けることによって、前記鋼製支保工に着脱可能に装着し得る、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の位置調整治具。
【請求項5】
トンネル一次覆工用の鋼製支保工の脚部の一部に、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の前記位置調整治具を取り付ける治具取付工程と、
前記鋼製支保工を、所定位置に設置する暫定設置工程と、
前記治具取付工程で前記鋼製支保工の脚部の一部に取り付けられた前記位置調整治具によって、前記鋼製支保工の設置位置を調整する調整工程と、
を備えたことを特徴とする鋼製支保工建込方法。
【請求項6】
前記調整工程の後、所定期間待機したうえで、前記治具取付工程で前記鋼製支保工の脚部の一部に取り付けられた前記位置調整治具を前記鋼製支保工から取り外す治具取外工程を、さらに備え、
前記治具取外工程で取り外された前記位置調整治具を、新たな前記治具取付工程に利用する、
ことを特徴とする請求項5記載の鋼製支保工建込方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、トンネルの一次覆工に用いられる鋼製支保工に関するものであり、より具体的には、設置された鋼製支保工の位置を調整することができる位置調整治具と、これを用いた建込方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の国土は、およそ2/3が山地であるといわれており、そのため道路や線路など(以下、「道路等」という。)は必ずといっていいほど山地部を通過する区間がある。この山地部で道路等を構築するには、斜面の一部を掘削する切土工法か、地山の内部をくり抜くトンネル工法のいずれかを採用するのが一般的である。トンネル工法は、切土工法に比べて施工単価(道路等延長当たりの工事費)が高くなる傾向にある一方で、切土工法よりも掘削土量(つまり排土量)が少なくなる傾向にあるうえ、道路等の線形計画の自由度が高い(例えば、ショートカットできる)といった特長があり、これまでに建設された国内のトンネルは10,000を超えるといわれている。
【0003】
山岳トンネルの施工方法としては、昭和50年代までは鋼アーチ支保工に木矢板を組み合わせて地山を支保する「矢板工法」が主流であったが、現在では地山強度を積極的に活かすNATM(New Austrian Tunneling Method)が主流となっている。NATMは、地山が有する強度(アーチ効果)に期待する設計思想が主な特徴であり、そのため従来の矢板工法に比べトンネル支保工の規模を小さくすることができ、しかも施工速度を上げることができることから施工コストを減縮することができる。
【0004】
また我が国におけるNATMは、本格的に実施されて以来、飛躍的に掘削技術が進歩しており、種々の補助工法が開発されることによって様々な地山に対応することができるようになり、さらに掘削機械(特に、自由断面掘削機)の進歩によって発破掘削のほか機械掘削も選択できるようになった。この機械掘削は、掘削断面積や線形にもよるものの一般的には比較的低い強度(例えば、一軸圧縮強度が49N/mm以下)の地山に対して採用されることが多く、一方、対象地山に岩盤が存在する場合はやはり発破掘削が採用されることが多い。
【0005】
ここでNATMによる掘削手順について簡単に説明する。はじめに、トンネル切羽の掘削を行う。発破掘削の場合は、ドリルジャンボによって削孔して火薬(ダイナマイト)を装填し、作業者と機械が退避したうえで発破する。一方、機械掘削の場合は、自由断面掘削機によってトンネル切羽を切削していく。1回(1サイクル)の掘削進行長(スパン長)は地山の強度に応じて設定される支保パターンによって異なるが、一般的には1.0~2.0mのスパン長で掘削が行われる。1スパン長の掘削を行うと、不安定化した地山部分(浮石など)を落とす「こそく」を行いながらダンプトラック(あるいはレール工法)によってずりを搬出(ずり出し)する。そしてずり出し後に、鏡吹付けや1次コンクリート吹付けを行ったうえで必要に応じて(支保パターンによって)鋼製支保工を建て込み、2次コンクリート吹付けを行った後にロックボルトの打設を行う。なお、1次コンクリート吹付けと2次コンクリート吹付け、ロックボルト打設は、掘進したスパン長分、すなわち素掘り部分のトンネル内周面(側壁から天端にかけた周面)に対して行われる。
【0006】
このようにNATMは、削岩(例えば、切羽削孔~発破)、ずり出し、鋼製支保工建て込み、コンクリート吹付け、ロックボルト打設といった一連の工程を繰り返し行うことによって、1スパンずつ支保工(鋼製支保工、コンクリート吹付工、ロックボルト工)を構築して地山の安定を図りながら掘進していく工法である。つまりトンネル掘削の作業者(いわゆる坑夫)らは、まだ地山が安定していない切羽での作業が求められる。そのため、作業中は常に鏡面や天端など地山からの肌落ち、落石といったおそれがあり、実際に切羽で生じる労働災害も少なからず発生していた。そこで厚生労働省は、2016年12月に「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」を策定し、切羽における労働災害防止対策の推進を図るよう促しているところである。
【0007】
切羽作業のなかでも鋼製支保工の建て込みは、作業者にとって特に危険な作業といえる。ここで図11を参照しながら、従来の鋼製支保工の建て込み作業について説明する。削岩後にずり出しを行い、そして1次コンクリート吹付けを行うと、図11(a)に示すように、左右1組の鋼製支保工を切羽側の所定位置に設置し、天端付近で左右の鋼製支保工の継手板をボルトで連結する。また、既設の鋼製支保工(つまり、坑口側の鋼製支保工)と新設した鋼製支保工(つまり、切羽側の鋼製支保工)を連結するため、つなぎ材も設置する。このつなぎ材は、図11(b)に示すように棒状の部材(例えば鋼棒)の両端を折り曲げたもので、その一端を既設の鋼製支保工に設けられたさや管に挿入するとともに、他端を新設の鋼製支保工に設けられたさや管に挿入することで、つなぎ材は設置される。
【0008】
継手板のボルト連結やつなぎ材の設置を行うにあたっては、鋼製支保工の位置を調整する必要がある。左右1組の鋼製支保工を設置しても、左右の継手板のボルト孔位置が合っているとは限らず、また前後(坑口側と切羽側)の鋼製支保工のさや管の間隔がつなぎ材の長さになっているとは限らないからである。
【0009】
鋼製支保工の建て込みのうち、継手板のボルト連結やつなぎ材の設置は概ね作業者の手作業によって行われ、また鋼製支保工の設置位置の調整も主に作業者によって行われていた。具体的には、鋤簾などを用いて路盤や背面を掘削したり、鋼製支保工の背面や底板の下に矢板を挟み込んだり、あるいはバールなどを用いて鋼製支保工の足元を移動したりすることで、その設置位置を調整していた。
【0010】
鋼製支保工を建て込む際には、1次コンクリート吹付けを行っているものの、地山に対していわば仮支保(仮吹付)を施した状態に過ぎず、しかも急結剤を添加しているとはいえコンクリ―トはまだ十分に硬化していない。このような環境下で、継手板のボルト連結やつなぎ材の設置、設置位置の調整作業を行わなければならないことから、鋼製支保工の建て込みは作業者にとって特に危険な作業となるわけである。すなわち、鋼製支保工の建て込み作業を改善することが、切羽における労働災害防止にとって極めて有効な手段となる。
【0011】
これまでも、鋼製支保工の建て込みにおける作業の効率化や省力化を図る種々の技術が提案されてきた。例えば特許文献1では、エレクタで鋼製支保工を把持した状態で2次コンクリート吹付けを行う技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2020-26695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に開示される技術によれば、鋼製支保工の建て込みとコンクリート吹付けに係る作業時間が短縮されるうえ、鋼製支保工の建て込みの際に作業者の省力化を図ることが期待できることから、切羽における労働災害防止の点においても好適といえる。
【0014】
しかしながら、エレクタで鋼製支保工を把持した状態で2次コンクリート吹付けを行うためには、吹付ロボット本体から支保に向かって伸びる両エレクタの間から吹付ノズルで吹き付ける必要があり、そのため腕をくぐらせるように吹き付けるなど、現実的には著しく困難な作業となる。また、把持するアームが邪魔となる部分については吹付を確実に行うことに支障があり、部分的に設計吹付厚が確保できないなど施工品質の劣化を招くおそれもある。さらに、従来は一旦地盤で鋼製支保工を支持していたところ、特許文献1の技術によれば鋼製支保工の足元は吹付コンクリートで支持されることになるが、急結剤を添加しているとはいえコンクリ―トが十分に硬化するまではある程度時間を要することから、鋼製支保工が徐々に沈下していくとともに天端や肩部の吹付コンクリートにひび割れが生じるおそれもある。
【0015】
さらに特許文献1では、作業時間の短縮と作業者の省力化を図るため、つなぎ材の設置も省略することとしている。鋼製支保工と吹付コンクリートを一体化することから、つなぎ材によって新設の鋼製支保工を安定させる必要がなく、これによりつなぎ材を省略することができるわけである。しかしながらつなぎ材は、新設の鋼製支保工を安定させる機能のほか、正確な間隔で鋼製支保工を設置する(つまり、計画された掘削進行長を確保する)機能や、鋼製支保工の捩れや開きなどを防ぐ機能なども有している。そのため特許文献1の技術によれば、鋼製支保工が正確な間隔で設置されなかったり、捩れや開きが生じたまま鋼製支保工が設置されたりするおそれもある。つまり特許文献1によれば、鋼製支保工の設置位置を調整することなく、換言すれば適切な位置や姿勢で設置されることなくトンネル掘削が行われていくこととなる。
【0016】
また、従来技術のように作業者によって行われる鋼製支保工の位置調整に関しても問題を指摘することができる。作業者は、地山が十分安定しているとはいえない切羽での作業を強いられ、しかも適切な位置に調整するには相当の時間を要することから、地山からの肌落ちや落石による労働災害のおそれが高まる。また、矢板によって鋼製支保工の位置(左右や上下)を調整していたため、矢板厚の倍数分の調整となり、繊細な位置調整を行うことができなかった。
【0017】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して鋼製支保工の位置調整にかかる作業時間を短縮するとともに、繊細な位置調整を行うことができる位置調整治具と、これを用いた建込方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明は、当接板とボルトで地山を押すことによって、すなわち地山からの反力を利用することによって鋼製支保工の位置を調整する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0019】
本願発明の位置調整治具は、トンネルの一次覆工に用いられる鋼製支保工の位置を調整する位置調整治具であって、調整体と張出体を備えたものである。このうち調整体は、鋼製支保工の一部に着脱可能に装着し得る装着部と、この調整体の一部に設けられたボルト孔、ボルト孔の一方の開口部に固定された固定ナットを有するものである。一方の張出体は、棒状部材の外周にネジが設けられた挿入ボルトと、この挿入ボルトの一方端に挿入ボルト軸に対して略垂直(垂直含む)となるように取り付けられた当接板を有するものである。なお挿入ボルトは、固定ナットに螺合される。装着部によって本願発明の位置調整治具を鋼製支保工の脚部に装着したうえで、地山に当接した当接板と固定ナットとの間隔が拡がるように調整体を移動させると、鋼製支保工が地山から離れる方向に移動する
【0020】
本願発明の位置調整治具は、第1張出体と第2張出体を備えたものとすることもできる。この場合の調整体は、調整体の一部に設けられた第1ボルト孔及び第2ボルト孔と、第1ボルト孔の一方の開口部に固定された固定ナット、第2ボルト孔の一方の開口部に固定された固定ナットを有するものである。なお第1張出体及び第2張出体は、棒状部材の外周にネジが設けられた挿入ボルトと、この挿入ボルトの一方端に挿入ボルト軸に対して略垂直(垂直含む)となるように取り付けられた当接板を有するものである。また第1張出体の挿入ボルトが第1ボルト孔の固定ナットに螺合されるとともに、第2張出体の挿入ボルトが第1張出体の挿入ボルトに対して略垂直(垂直含む)となるように第2ボルト孔の固定ナットに螺合される。第1張出体の挿入ボルトが略鉛直(鉛直含む)となるように、装着部によって本願発明の位置調整治具を鋼製支保工の脚部に装着したうえで、地山に当接した第1張出体の当接板に対して調整体を上下に移動させるとともに、地山に当接した第2張出体の当接板に対して調整体を左右に移動させることによって、鋼製支保工の設置位置を調整する。
【0021】
本願発明の位置調整治具は、固定ナットに「片押式ナット」を利用したものとすることもできる。この片押式ナットは、入口から出口まで貫通する貫通孔が設けられるとともに、貫通孔内に複数の分割ネジと反力体を有するものである。貫通孔の内周壁の一部には出口側に向かって広がるテーパ―部が形成され、分割ネジは、内周側に挿入ボルトが螺合するネジが設けられるとともに外周側にテーパ―部に応じた傾斜部が形成される。また複数の分割ネジは、貫通孔内で周方向に分散配置されるとともに、それぞれ傾斜部がテーパ―部に当接した状態で貫通孔の軸方向にスライド可能である。反力体は、弾性体であって分割ネジに対して「入口方向の弾性力」を付与し、挿入ボルトは、当接板が出口側となるように固定ナットに螺合される。そして、反力体による「入口方向の弾性力」以上の力で挿入ボルトを出口側に押し込むと、分割ネジがテーパ―部に沿って出口側にスライドすることによってそれぞれの分割ネジは挿入ボルトから外周側に離れていく。その後、挿入ボルトを出口側に押し込む力を解除すると、反力体による「入口方向の弾性力」によって分割ネジがテーパ―部に沿って入口側にスライドするとともに挿入ボルト側に近づき、それぞれの分割ネジが挿入ボルトに螺合する。
【0022】
本願発明の位置調整治具は、装着部が2つの挟持板を有するものとすることもできる。この場合、2つの挟持板で鋼製支保工の一部を挟み、一方の挟持板に設けられた装着用ボルト孔にボルトを挿通し、このボルトを締め付けることによって鋼製支保工に着脱可能に装着する。
【0023】
本願発明の鋼製支保工建込方法は、本願発明の位置調整治具を用いて鋼製支保工建込方法を建て込む方法であって、治具取付工程と暫定設置工程、調整工程を備えた方法である。このうち、治具取付工程では、鋼製支保工の脚部の一部に本願発明の位置調整治具を取り付け、暫定設置工程では、鋼製支保工を所定位置に設置する。また調整工程では、治具取付工程で鋼製支保工の脚部の一部に取り付けられた位置調整治具によって鋼製支保工の設置位置を調整する。
【0024】
本願発明の鋼製支保工建込方法は、治具取付工程で鋼製支保工の脚部の一部に取り付けられた治具取外工程をさらに備えた方法とすることもできる。この治具取外工程では、所定期間待機したうえで鋼製支保工から位置調整治具を取り外す。この場合は、治具取外工程で取り外された位置調整治具を新たな治具取付工に利用する。
【発明の効果】
【0025】
本願発明の位置調整治具、及び鋼製支保工建込方法には、次のような効果がある。
(1)張出体の挿入ボルトを固定ナットに対して出し入れするだけで鋼製支保工の位置を調整することができるため、鋼製支保工の建て込みにおける作業時間が短縮され、その結果、切羽における労働災害の防止を図ることができる。
(2)固定ナットとして「片押式ナット」を利用すれば、挿入ボルトを押し込むだけで鋼製支保工の位置を調整することができ、建て込みの作業時間をさらに短縮することができる。
(3)また挿入ボルトの出し入れで位置を調整することから、従来の矢板による調整に比べてより繊細な位置調整を行うことができる。
(4)着脱可能な位置調整治具は繰り返し利用することができることから、従来の矢板による調整と対比しても大きなコスト差が生じない。
(5)吹付コンクリートが十分に硬化するまで、鋼製支保工の足元は位置調整治具(特に張出体)によって支持されることから、鋼製支保工が沈下することもなく、天端や肩部の吹付コンクリートに生ずるひび割れも回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】左右1組の鋼製支保工の設置位置を調整する状況を模式的に示す正面図。
図2】(a)は底板に装着した位置調整治具によって鋼製支保工を上下方向に調整する状況を模式的に示す斜視、(b)はフランジに装着した位置調整治具によって鋼製支保工を左右方向に調整する状況を模式的に示す斜視。
図3】(a)は位置調整治具を構成する張出体を示す側面図、(b)は張出体のうち当接板を示す正面図。
図4】(a)は位置調整治具を構成する調整体を示す側面図、(b)は上方から見た調整体を示す平面図。
図5】(a)は片押式ナットを示す断面図、(b)は分割ネジを示す側面図、(c)は片押式ナットを示す正面図。
図6】鋼製支保工の底板に装着した位置調整治具を示す鉛直断面図。
図7】(a)は鋼製支保工のフランジに装着した位置調整治具を示す鉛直断面図、(b)は鋼製支保工のフランジに装着した位置調整治具を示す水平断面図。
図8】(a)は2方向式の位置調整治具を構成する調整体を示す側面図、(b)は2方向式の位置調整治具を構成する調整体を示す正面図。
図9】(a)は鋼製支保工のフランジに装着した2方向式の位置調整治具を示す鉛直断面図、(b)は矢視c-cで示す鉛直断面図。
図10】本願発明の鋼製支保工建込方法の主な工程を示すフロー図。
図11】(a)は従来方法によって建て込まれた鋼製支保工を示す斜視図、(b)は従来のつなぎ材を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明の位置調整治具、及び鋼製支保工建込方法の実施の例を図に基づいて説明する。
【0028】
1.全体概要
図1は、左右1組の鋼製支保工ASの設置位置を調整する状況を模式的に示す正面図である。鋼製支保工ASは、この図に示すようにH形鋼を略半円形に曲げ加工したものであり、その一端(天端側)には継手板が固定され、他端(地盤側)には底板BPが固定されている。通常、鋼製支保工ASの建て込みを行う場合、エレクタ吹付け機やドリルジャンボで鋼製支保工ASを把持し、切羽付近まで運搬したうえで所定の位置に設置される。ただしこの段階では、左右の継手板のボルト孔位置が一致せず、また前後(坑口側と切羽側)の鋼製支保工ASのさや管の間隔がつなぎ材の長さになっていないことが多く、そのため図1の矢印で示すように特に鋼製支保工ASの足元を中心にその設置位置が調整される。本願発明は、鋼製支保工ASの設置位置を調整することができる位置調整治具と、これを用いた建込方法である。
【0029】
本願発明の位置調整治具100は、図2に示すように張出体200と調整体300を含んで構成される。そして鋼製支保工ASの足元に装着された位置調整治具100は、エレクタ吹付け機等によっていわば暫定的に設置された鋼製支保工ASの位置を調整することができる。例えば図2(a)では、位置調整治具100を鋼製支保工ASの底板BPの一部に装着し、地山(地盤)に当接した張出体200の一部(当接板)に対して調整体300を移動させることによって鋼製支保工ASの設置高さを調整している。また図2(b)では、位置調整治具100を鋼製支保工ASのフランジの一部に装着し、地山(側壁)に当接した張出体200の一部(当接板)に対して調整体300を移動させることによって鋼製支保工ASの設置位置(水平位置)を調整している。このように位置調整治具100は、張出体200で地山を押しつけることによって、換言すれば地山からの反力を利用することによって、鋼製支保工ASの位置を調整することをひとつの特徴としている。
【0030】
2.位置調整治具
次に、本願発明の位置調整治具100について詳しく説明する。なお、本願発明の鋼製支保工建込方法は、本願発明の位置調整治具100を用いて鋼製支保工ASの建て込みを行う方法である。したがって、まずは本願発明の位置調整治具100について説明し、その後に本願発明の鋼製支保工建込方法について説明することとする。
【0031】
(張出体)
図3は、位置調整治具100を構成する張出体200を示す図であり、(a)はその側面図、(b)は張出体200のうち当接板220を示す正面図である。図3(a)に示すように張出体200は、挿入ボルト210と当接板220を含んで構成される。この挿入ボルト210は、棒状の部材であり、その外周の全部(あるいは一部)にはネジが設けられている。一方、当接板220は、図3(b)に示すように板状の部材(例えば鋼板)である。なお、鋼製支保工ASの背後に設置する金網など他の部材と干渉しないよう、当接板220の各コーナー部は曲線状(いわゆる角落とし)にするとよい。
【0032】
また図3に示すように当接板220は、挿入ボルト210の一方端(図では右端)に、挿入ボルト210の軸に対して板面が略垂直(垂直含む)となるように取り付けられる。例えば、当接板220にナット(以下、便宜上「当接板ナット230」という。)を溶接や接着等によって固定し、この当接板ナット230に挿入ボルト210の先端を螺合することによって、当接板220を挿入ボルト210に取り付けることができる。
【0033】
(調整体)
図4は、位置調整治具100を構成する調整体300を示す図であり、(a)はその側面図、(b)は上方から見た平面図である。図4(a)に示すように調整体300は、装着部310とボルト孔320、固定ナット330を含んで構成される。また調整体300は、大きく装着部310と本体部340に分けることができ、ボルト孔320と固定ナット330は本体部340に設けられる。
【0034】
装着部310は、調整体300を鋼製支保工ASに取り付けるためのものである。例えば図4に示す装着部310は、上挟持版311と下挟持版312、ボルト孔(以下、便宜上「装着用ボルト孔313」という。)を含む構成としている。上挟持版311と下挟持版312の間に形成される「挟持空間」に、底板BPやフランジなど鋼製支保工ASの一部を挿入した状態で、上挟持版311(あるいは下挟持版312)に設けられた装着用ボルト孔313から挿入したボルト(以下、便宜上「装着用ボルト314」という。)を締め付けることによって、調整体300を鋼製支保工ASに装着するわけである。そのため、装着用ボルト孔313の内周に装着用ボルト314と螺合するネジを設けるか、あるいは装着用ボルト孔313の一方の開口部にナットを固定しておくとよい。
【0035】
このように装着部310は、着脱可能に調整体300を鋼製支保工ASに装着する機能を有するものである。なお、着脱可能に装着することができるものであれば、図4に示す装着部310のほか、鋼製支保工ASにボルトで縫い付ける(この場合、鋼製支保工ASにもボルト孔を設ける)構成としたり、電磁石を利用した装着部310としたり、種々の構成の装着部310を採用することができる。
【0036】
図4(b)に示すように、装着部310には上挟持版311(あるいは下挟持版312)を貫通する装着用ボルト孔313が設けられ、一方の本体部340にはこの本体部340を貫通するボルト孔320が設けられる。また、このボルト孔320の一方の開口部(図では下側開口部)には、溶接や接着等によって固定ナット330が固定されている。
【0037】
固定ナット330は、張出体200の挿入ボルト210と螺合するものであり、従来用いられている一般的なナットを利用することもできるし、図5に示す「片押式ナット330P」を利用することもできる。図5(a)は片押式ナット330Pを示す断面図、図5(b)は後述する分割ネジを示す側面図、図5(c)は片押式ナット330Pを示す正面図である。なお図5(a)では、中心軸を境界に上半分を断面図、下半分を側面図として示している。
【0038】
片押式ナット330Pは、図5(a)に示すようにナット本体BDと分割ネジDV、反力体RFを含んで構成され、このナット本体BDには入口から出口まで貫通する貫通孔THが設けられている。また、貫通孔THを形成するナット本体BDの内周壁には、貫通孔THの内径が出口側に向かって徐々に大きくなるような(図では上方に向かって傾斜するような)テーパ-部TPが、入口を起点として中心軸方向の途中まで部分的に形成されている。
【0039】
図5(b)に示すように分割ネジDVは、その内周側に挿入ボルト210と螺合するネジ(以下、便宜上「内周ネジCW」という。)が設けられるとともに、その外周側には傾斜部SLが設けられている。この傾斜部SLは、出口側に向かって外周側に広がる傾斜形状であり、その傾斜勾配はテーパ-部TPの勾配と略一致(一致含む)する。そして分割ネジDVは、傾斜部SLが内周壁のテーパ-部TPに当接した状態で、貫通孔TH内を中心軸方向にスライド(摺動)可能とされる。そのため、分割ネジDVが出口側に向かってスライドするときは同時に外周側に移動していき、反対に分割ネジDVが入口側に向かってスライドするときは同時に内周側に移動していく。なお、ナット本体BDの内周壁には、分割ネジDVのスライドを案内するためのガイドレールを設けることもでき、さらにこのガイドレールを螺旋状に形成することもできる。
【0040】
図5(c)に示すように、貫通孔TH内には複数(図では3つ)の分割ネジDVが収容されており、これら複数の分割ネジDVは貫通孔THの周方向に分散配置されている。例えば、図に示すように3つの分割ネジDVを収容するケースでは、それぞれ中心角が120°となる間隔で分散配置するとよい。
【0041】
反力体RFは、バネや合成樹脂(ゴムなど)といった弾性体であり、図5(a)ではナット本体BDの内周壁に沿って渦巻くコイルスプリングを示している。貫通孔THのうち出口付近の外周側には、溶接や接着、カシメ等によって固定板FXが取り付けられている。そして反力体RFの出口側端はこの固定板FXに固定され、また反力体RFの入口側端には支持板HLが取り付けられている。固定板FXは貫通孔TH内を移動することができないため、反力体RFの出口側端もやはり貫通孔TH内を移動することができない。一方の支持板HLは、反力体RFの入口側端にのみ取り付けられており、反力体RFの伸縮とともに貫通孔TH内を移動することができる。すなわちこの反力体RFは、入口側が可動端、出口側が固定端とされる。
【0042】
反力体RFの入口側端に取り付けられた支持板HLは、分割ネジDVの出口側面に当接している。またこの支持板HLは、ナット本体BDの内周壁のうちテーパ-部TPが形成されていない区間(以下、「直壁区間」という。)内を概ね可動域とし、反力体RFは支持板HLがテーパ-部TPと直壁区間との境界に位置するときに圧縮状態(つまり自然長より縮んだ状態)となるように配置される。これにより分割ネジDVは、支持板HLを介して反力体RFから常に入口方向の弾性力(以下、便宜上「復元力」という。)が与えられている。
【0043】
以下、片押式ナット330Pの使用例について説明する。例えば、挿入ボルト210を片押式ナット330Pの入口から挿入し、さらに反力体RFの復元力以上の力で挿入ボルト210を出口側に押し込んでいく。これに伴い複数の分割ネジDVは、出口側に向かってスライドするとともに、挿入ボルト210から離れるように外周側に移動していく。そのため、挿入ボルト210の外周ネジと分割ネジDVの内周ネジCWは螺合せず、容易に挿入ボルト210を片押式ナット330Pに通過させることができる。つまり、挿入ボルト210側のネジ山が分割ネジDV側のネジ山をいわば乗り越えていくことによって、挿入ボルト210を軸周りに回す(ねじ込む)ことなく、単に押し込むだけで挿入ボルト210を片押式ナット330Pに通過させることができるわけである。
【0044】
所定位置まで挿入ボルト210を片押式ナット330Pに挿入すると、挿入ボルト210を押し込む力を解除する。これに伴い複数の分割ネジDVは、反力体RFの復元力によって入口側に向かってスライドするとともに、挿入ボルト210に近づくように内周側に移動していく。その結果、挿入ボルト210の外周ネジと分割ネジDVの内周ネジCWは螺合し、挿入ボルト210を入口方向に引き抜くことができなくなる。ただしこの状態でも、従来のボルトとナットのように挿入ボルト210を軸周りに回すことで入口方向に抜き取ることができるし、挿入ボルト210を出口方向に押し出すことで片押式ナット330Pから挿入ボルト210を抜き取ることができる。
【0045】
(張出体の取り付け)
挿入ボルト210が固定ナット330に螺合されることによって、張出体200は調整体300に取り付けられ、これにより本願発明の位置調整治具100が形成される。ただし、固定ナット330として片押式ナット330Pを利用する場合は、当接板220が貫通孔THの出口側となるように、挿入ボルト210を片押式ナット330Pに螺合するとよい。
【0046】
(使用例)
図6は、鋼製支保工ASの底板BPに装着した位置調整治具100を示す図であり、鉛直面で切断した断面図である。この図では、上挟持版311と下挟持版312の間(挟持空間)に底板BPの一部を挿入し、その状態で装着用ボルト314をねじ込むことによって底板BPを下挟持版312に押し付けている。つまり、装着用ボルト314と下挟持版312で底板BPを挟持することによって、位置調整治具100を装着している。もちろん装着用ボルト314を緩めることで、容易に位置調整治具100を底板BPから取り外すことができる。
【0047】
図6に示すように、位置調整治具100を底板BPに装着し、当接板220を地山(地盤)に接地する(当接する)と、固定ナット330からの挿入ボルト210の突出長を伸ばしていく。このとき、固定ナット330として通常のナットを利用したときは挿入ボルト210を軸周りに回し(つまりねじ込み)、固定ナット330として片押式ナット330Pを利用したときは挿入ボルト210を反力体RFの復元力以上の力で下方に押し込んでいく。その結果、固定ナット330からの挿入ボルト210の突出長が延長され、換言すれば当接板220と固定ナット330との間隔が拡がり、調整体300が上昇するとともに鋼製支保工ASも上昇する。このように、位置調整治具100を用いることによって、鋼製支保工ASの設置高さを容易に調整することができる。
【0048】
図7は、鋼製支保工ASのフランジに装着した位置調整治具100を示す図であり、(a)は鉛直面で切断した断面図、(b)は水平面で切断した((a)の矢視a-aで示す)断面図である。この図では、上挟持版311と下挟持版312の間(挟持空間)にフランジの一部を挿入し、その状態で装着用ボルト314をねじ込むことによってフランジを下挟持版312に押し付けている。つまり、装着用ボルト314と下挟持版312でフランジを挟持することによって、位置調整治具100を装着している。もちろん装着用ボルト314を緩めることで、容易に位置調整治具100をフランジから取り外すことができる。
【0049】
図7に示すように、位置調整治具100をフランジに装着し、当接板220を地山(側壁)に接地する(当接する)と、固定ナット330からの挿入ボルト210の突出長を伸ばしていく。このとき、固定ナット330として通常のナットを利用したときは挿入ボルト210を軸周りに回し(つまりねじ込み)、固定ナット330として片押式ナット330Pを利用したときは挿入ボルト210を反力体RFの復元力以上の力で下方に押し込んでいく。その結果、固定ナット330からの挿入ボルト210の突出長が延長され、換言すれば当接板220と固定ナット330との間隔が拡がり、調整体300が内空側(トンネル中心側)に移動するとともに鋼製支保工ASも内空側に移動する。このように、位置調整治具100を用いることによって、鋼製支保工ASの設置位置(水平位置)を容易に調整することができる。
【0050】
(変形例)
ここまで説明した位置調整治具100は、図6に示すように鋼製支保工ASの設置高さを調整することができ、図7に示すようにその設置位置を左右方向に調整することができる。つまり、鋼製支保工ASを高さ、左右方向ともに調整するためには、第1の位置調整治具100を鋼製支保工ASの底板BPに装着し、さらに第2の位置調整治具100を鋼製支保工ASのフランジに装着する(つまり2つの位置調整治具100を装着する)ことになる。一方、第1張出体と第2張出体を備えた位置調整治具100(以下、「2方向式の位置調整治具100」という。)を装着すれば、高さ、左右方向を同時に調整することができる。
【0051】
図8は、2方向式の位置調整治具100を構成する調整体300(以下、「2方向式の調整体300」という。)を示す図であり、(a)はその側面図、(b)は本体部340側(図8(a)の右側)から見た((a)の矢視b-bで示す)正面図である。図8に示すように2方向式の調整体300は、装着部310と、第1ボルト孔321及び第2ボルト孔322、第1固定ナット331及び第2固定ナット332を含んで構成される。また2方向式の調整体300は、本体部340側の上面に対して略垂直(垂直含む)に立設される垂壁体350を備えており、第2ボルト孔322はこの垂壁体350を貫通するように設けられ、この第2ボルト孔322の一方の開口部(図8(b)では右側開口部)には溶接や接着等によって第2固定ナット332が固定されている。なお、垂壁体350と第2ボルト孔322、第2固定ナット332を具備する点を除けば、他の構成に関しては図4に示す調整体300と同様である。また、第1固定ナット331と第2固定ナット332は、通常のナットを利用することもできるし、片押式ナット330Pを利用することもできる。
【0052】
2方向式の位置調整治具100は、既述したとおり第1張出体と第2張出体を備えている。これら第1張出体と第2張出体は、図3に示す張出体200と同様の構成であり、すなわち、第1張出体は第1挿入ボルト211と第1当接板221を含んで構成され、第2張出体は第2挿入ボルト212と第2当接板222を含んで構成される。また、第1挿入ボルト211が第1固定ナット331に螺合され、第2挿入ボルト212が第2固定ナット332に螺合されることによって、2方向式の位置調整治具100が形成される。この場合も、片押式ナット330Pを利用するときは、第1当接板221や第2当接板222が貫通孔THの出口側となるように、第1挿入ボルト211や第2挿入ボルト212を片押式ナット330Pに螺合するとよい。
【0053】
図8(b)からも分かるように、垂壁体350が本体部340側の上面に対して略垂直(垂直含む)に立設されることから、第1ボルト孔321の中心軸と第2ボルト孔322の中心軸も略垂直(垂直含む)となる。したがって、第1ボルト孔321に螺合された第1挿入ボルト211の軸方向と、第2ボルト孔322に螺合された第2挿入ボルト212の軸方向も、やはり略垂直(垂直含む)となる。
【0054】
図9は、鋼製支保工ASの底板BPに装着した2方向式の位置調整治具100を示す図であり、(a)は鉛直面で切断した断面図、(b)は(a)の矢視c-cで示す鉛直断面図である。この図では、上挟持版311と下挟持版312の間(挟持空間)に底板BPの一部を挿入し、その状態で装着用ボルト314をねじ込むことによって底板BPを下挟持版312に押し付けている。つまり、挿入ボルト210と下挟持版312で底板BPを挟持することによって、位置調整治具100を装着している。もちろん装着用ボルト314を緩めることで、容易に位置調整治具100を底板BPから取り外すことができる。
【0055】
また図9に示す2方向式の位置調整治具100は、第1挿入ボルト211が略鉛直方向(鉛直含む)となる姿勢であって、第2挿入ボルト212が略水平方向(水平含む)となる姿勢で底板BPに装着されており、さらに第1当接板221が地山(地盤)に接地する(当接する)とともに、第2当接板222が地山(側壁)に接地(当接)している。この状態で、第1固定ナット331からの第1挿入ボルト211の突出長を伸ばしていくと、第1当接板221と第1固定ナット331との間隔が拡がり、2方向式の調整体300が上昇するとともに鋼製支保工ASも上昇する。また、第2固定ナット332からの第2挿入ボルト212の突出長を伸ばしていくと、第2当接板222と第2固定ナット332との間隔が拡がり、2方向式の調整体300が内空側(トンネル中心側)に移動するとともに鋼製支保工ASも内空側に移動する。このように、2方向式の位置調整治具100を用いることによって、鋼製支保工ASの設置高さと水平位置を容易に且つ同時に調整することができる。
【0056】
3.鋼製支保工建込方法
続いて、本願発明の鋼製支保工建込方法ついて、図10を参照しながら説明する。なお、本願発明の鋼製支保工建込方法は、ここまで説明した位置調整治具100を用いて鋼製支保工ASの建て込みを行う方法である。したがって、位置調整治具100について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の鋼製支保工建込方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.位置調整治具」で説明したものと同様である。
【0057】
図10は、本願発明の鋼製支保工建込方法の主な工程を示すフロー図である。まず、鋼製支保工ASの底板BPやウェブに、位置調整治具100を装着する(Step10)。このとき、底板BPとウェブの両方に位置調整治具100を装着してもよいし、底板BPとウェブのうちいずれか一方に位置調整治具100を装着してもよいし、底板BPに2方向式の位置調整治具100を装着してもよい。
【0058】
鋼製支保工ASの脚部(底板BPやウェブ)に位置調整治具100を装着すると、位置調整治具100が装着された状態の鋼製支保工ASをいわば暫定的に設置する(Step20)。なお、施工状況に応じて、鋼製支保工ASを暫定設置した(Step20)後に、鋼製支保工ASの脚部に位置調整治具100を装着する(Step10)こともできる。ただしこの場合、切羽付近での作業(装着作業)が増えるため、図10に示す手順の方が望ましい。
【0059】
鋼製支保工ASを暫定設置すると、図6図7図9に示すように当接板220が地山に接地した状態とし、既述したとおり固定ナット330からの装着用ボルト314の突出長を伸ばしながら、鋼製支保工ASの設置高さや水平位置を調整していく(Step30)。
【0060】
その後、吹付コンクリートが相当程度の強度を発現するまで待機すると、鋼製支保工ASに装着した位置調整治具100を取り外し(Step40)、新たに建て込まれる鋼製支保工ASの脚部に位置調整治具100を装着する(Step10)。例えば、所定数(例えば、2~3サイクル)の掘削サイクルが進行した時点で位置調整治具100を取り外し、次の掘削サイクルの建て込み時に再利用するとよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本願発明の位置調整治具、及び鋼製支保工建込方法は、道路トンネルや鉄道トンネル、人道トンネルなど種々のトンネル掘削工事で利用することができる。本願発明によれば、切羽での作業時間を短縮することができ、その結果、労働災害の防止につながることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0062】
100 本願発明の位置調整治具
200 (位置調整治具の)張出体
210 (張出体の)挿入ボルト
211 (張出体の)第1挿入ボルト
212 (張出体の)第2挿入ボルト
220 (張出体の)当接板
221 (第1張出体の)第1当接板
222 (第2張出体の)第2当接板
230 (張出体の)当接板ナット
300 (位置調整治具の)調整体
310 (調整体の)装着部
311 (装着部の)上挟持版
312 (装着部の)下挟持版
313 (装着部の)装着用ボルト孔
314 (装着部の)装着用ボルト
320 (調整体の)ボルト孔
321 (2方向式の調整体の)第1ボルト孔
322 (2方向式の調整体の)第2ボルト孔
330 (調整体の)固定ナット
331 (2方向式の調整体の)第1固定ナット
332 (2方向式の調整体の)第2固定ナット
340 (調整体の)本体部
350 (2方向式の調整体の)垂壁体
330P 片押式ナット
BD (片押式ナットの)ナット本体
TH (片押式ナットの)貫通孔
TP (片押式ナットの)テーパ-部
DV (片押式ナットの)分割ネジ
CW (分割ネジの)内周ネジ
SL (分割ネジの)傾斜部
RF (片押式ナットの)反力体
FX (片押式ナットの)固定板
HL (片押式ナットの)支持板
AS 鋼製支保工
BP (鋼製支保工の)底板
図1
図2
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