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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】設備監視支援装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240328BHJP
   B21D 1/02 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
G05B23/02 302T
B21D1/02 Z
G05B23/02 T
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020094445
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021189756
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄テックスエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】中川 繁政
(72)【発明者】
【氏名】木之下 汰世
(72)【発明者】
【氏名】山口 善三
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼元 勲
(72)【発明者】
【氏名】岩村 健
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215864(JP,A)
【文献】特開2012-61513(JP,A)
【文献】特開2017-215765(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0196014(US,A1)
【文献】特開2015-39356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
B21D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援装置であって、
前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記複数箇所での前記状態情報に基づいて、前記センサの識別子i、j、前記センサの設置箇所の数N(N≧2)、前記センサi、jで測定した前記状態情報x i 、x j 、時間tを用いて、式(1)により表される指標a PE を算出する指標算出手段とを備え
前記式(1)は、バネのポテンシャルエネルギーの概念をデータ間に応用して、N個の標本(x 1 ,x 2 ,・・・,x N )が互いにバネに繋がれた状態に拡張し、式(6)のように、ポテンシャルエネルギーの総和を、組合せの総数N 2 で割って平均値としたものであることを特徴とする設備監視支援装置。
【数1】
【請求項2】
設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援装置であって、
前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記複数箇所での前記状態情報に基づいて、前記センサの識別子i、前記センサの設置箇所の数N(N≧2)、前記センサiで測定した前記状態情報xi、N個の前記状態情報の平均値μ、時間tを用いて、式(2)により表される指標aSDを算出する指標算出手段とを備えたことを特徴とする設備監視支援装置。
【数2】
【請求項3】
前記指標算出手段で算出した前記指標を、予め設定された閾値と比較する比較手段と、
前記比較手段での比較の結果、前記指標が前記閾値を超えている場合に通知を行う通知手段とを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の設備監視支援装置。
【請求項4】
過去の所定の期間における前記設備の稼働時に、前記複数箇所に設置された前記センサで測定した前記状態情報の実績値のデータセットに基づいて、前記閾値を設定する閾値設定手段を備えたことを特徴とする請求項に記載の設備監視支援装置。
【請求項5】
前記閾値設定手段は、前記データセットを用いて算出した前記指標を値の大きいものから順に並べ、上位から所定の割合に該当する値を、前記閾値とすることを特徴とする請求項に記載の設備監視支援装置。
【請求項6】
前記設備は、前記対象部とするローラを含み、
前記ローラの両端の軸受に前記センサが設置されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の設備監視支援装置。
【請求項7】
設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援方法であって、
前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記複数箇所での前記状態情報に基づいて、前記センサの識別子i、j、前記センサの設置箇所の数N(N≧2)、前記センサi、jで測定した前記状態情報x i 、x j 、時間tを用いて、式(1)により表される指標a PE を算出する指標算出ステップとを有し
前記式(1)は、バネのポテンシャルエネルギーの概念をデータ間に応用して、N個の標本(x 1 ,x 2 ,・・・,x N )が互いにバネに繋がれた状態に拡張し、式(6)のように、ポテンシャルエネルギーの総和を、組合せの総数N 2 で割って平均値としたものであることを特徴とする設備監視支援方法。
【数3】
【請求項8】
設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援方法であって、
前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記複数箇所での前記状態情報に基づいて、前記センサの識別子i、前記センサの設置箇所の数N(N≧2)、前記センサiで測定した前記状態情報xi、N個の前記状態情報の平均値μ、時間tを用いて、式(2)により表される指標aSDを算出する指標算出ステップとを有することを特徴とする設備監視支援方法。
【数4】
【請求項9】
設備の状態変化の監視を支援するためのプログラムであって、
前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記複数箇所での前記状態情報に基づいて、前記センサの識別子i、j、前記センサの設置箇所の数N(N≧2)、前記センサi、jで測定した前記状態情報x i 、x j 、時間tを用いて、式(1)により表される指標a PE を算出する指標算出手段としてコンピュータを機能させ
前記式(1)は、バネのポテンシャルエネルギーの概念をデータ間に応用して、N個の標本(x 1 ,x 2 ,・・・,x N )が互いにバネに繋がれた状態に拡張し、式(6)のように、ポテンシャルエネルギーの総和を、組合せの総数N 2 で割って平均値としたものであることを特徴とするプログラム。
【数5】
【請求項10】
設備の状態変化の監視を支援するためのプログラムであって、
前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記複数箇所での前記状態情報に基づいて、前記センサの識別子i、前記センサの設置箇所の数N(N≧2)、前記センサiで測定した前記状態情報xi、N個の前記状態情報の平均値μ、時間tを用いて、式(2)により表される指標aSDを算出する指標算出手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【数6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
設備を監視するために、設備に、状態情報を測定するセンサを設置することがある。
この場合に、センサで測定した状態情報をセンサ単位で解析するだけでは、設備の状態変化を的確に捉えられないおそれがある。
【0003】
設備の監視に関する技術として、例えば特許文献1には、診断対象のプラントに設置される各種センサからの複数の計測データに対し、適応共鳴理論により正常時のデータで判別したカテゴリーに属するデータと複数の計測データとの空間上の距離の差分に基づき、診断対象のプラント全体の異常度を求める構成が開示されている。また、例えば特許文献2には、機械設備の稼動情報の正常範囲を示す正常モデルに基づいて、機械設備の異常予兆の有無を診断する異常予兆診断装置であって、センサが属するグループに対応付けられた正常モデルと、当該正常モデルに対応するセンサの各検出値と、に基づいて、機械設備の異常予兆の有無を診断する構成が開示されている。
しかしながら、特許文献1、2の技術では、カテゴリー判別や正常モデルが必要で、監視の仕組みが複雑になり、適用できる対象が限定される懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/051568号
【文献】特許第6615963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、設備の状態変化を容易かつ的確に捉えられるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の設備監視支援装置は、設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援装置であって、前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得手段と、前記取得手段で取得した前記複数箇所での前記状態情報に基づいて、前記センサの識別子i、j、前記センサの設置箇所の数N(N≧2)、前記センサi、jで測定した前記状態情報xi、xj、時間tを用いて、式(1)により表される指標aPEを算出する指標算出手段とを備え、前記式(1)は、バネのポテンシャルエネルギーの概念をデータ間に応用して、N個の標本(x1,x2,・・・,xN)が互いにバネに繋がれた状態に拡張し、式(6)のように、ポテンシャルエネルギーの総和を、組合せの総数N2で割って平均値としたものであることを特徴とする。
【数5】
また、本発明の設備監視支援装置は、設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援装置であって、前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得手段と、前記取得手段で取得した前記複数箇所での前記状態情報に基づいて、前記センサの識別子i、前記センサの設置箇所の数N(N≧2)、前記センサiで測定した前記状態情報xi、N個の前記状態情報の平均値μ、時間tを用いて、式(2)により表される指標aSDを算出する指標算出手段とを備えたことを特徴とする。
【数6】
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、設備の状態変化を容易かつ的確に捉えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る設備監視支援装置の機能構成を示す図である。
図2】対象部の例であるプレッシャロールの概要を説明するための図である。
図3】バネのポテンシャルエネルギーを説明するための図である。
図4】データ間のポテンシャルエネルギーの概念図である。
図5】指標aPEの時系列変化及び閾値aPEthの例を示す特性図である。
図6】実績値のデータセットにおける、降順に並べた際のデータ数と指標aPEとの関係の例を示す特性図である。
図7】第1の実施形態に係る設備監視支援装置が実行する処理を示すフローチャートである。
図8】指標aSDの時系列変化及び閾値aSDthの例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
まず、図2を参照して、本実施形態で対象とする設備、及び設備に含まれる対象部について述べる。
本実施形態では、鋼板の矯正用の設備に含まれるプレッシャロール201を対象部とする。図2は、プレッシャロール201の概要を説明するための図であり、(a)はプレッシャロール201を含む機器の正面図、(b)はプレッシャロール201及びバックアップロール202を示す側面図である。プレッシャロール201は、不図示のペイオフリールから巻き戻される鋼板を押圧するためのロールであり、その両端(ワークサイド(WS)、ドライブサイド(DS))が軸受203a、203bを介して支持部204で支持される。プレッシャロール201の背部には、バックアップロール202が設置される。
【0010】
対象部とするプレッシャロール201において、その両端の軸受203a、203bに、センサ205a、205bが設置される。センサ205a、205bは、例えばセンサ機能及び無線通信機能が一体となった無線センサであり、状態情報を測定して、その測定値を無線通信で送信することができる。本実施形態では、センサ205a、205bは、状態情報として温度を測定して、その測定値を無線通信で送信する。
【0011】
図1に、実施形態に係る設備監視支援装置100の機能構成を示す。
設備監視支援装置100は、入力部101と、閾値設定部102と、指標算出部103と、比較部104と、通知部105とを備える。
【0012】
入力部101は、設備の稼働時に、各センサ205a、205bから、無線通信を介して温度の測定値を入力して取得する。入力部101は、設備の稼働時に例えば一定間隔(時刻t毎)で、各センサ205a、205bから温度の測定値を取得する。本実施形態では、入力部101が本発明でいう取得手段として機能する。
【0013】
閾値設定部102は、過去の所定の期間における設備の稼働時に、各センサ205a、205bで測定した温度の実績値のデータセットに基づいて、後述する指標aPEに対する閾値aPEthを設定する。所定の期間は、設備の稼働状況や、対象部の種別等に応じて適宜設定されればよいが、多数の実績値を含むデータセットを用意するために例えば数カ月程度とすればよい。本実施形態では、閾値設定部102が本発明でいう閾値設定手段として機能する。
【0014】
指標算出部103は、入力部101で取得した各センサ205a、205bで測定した温度に基づいて、式(1)により表される、対象部の状態変化を監視するための指標aPEを算出する。i,jはセンサの識別子、N(N≧2)はセンサの設置箇所の数(=センサの数)、xi、xjはセンサi、jで測定した温度、tは時間である。式(1)に示すように、指標aPEは、センサが設置される複数箇所のうちの2箇所での温度の差の2乗和を含む。本実施形態では、プレッシャロール201の両端の軸受203a、203bにセンサ205a、205bが設置されており、N=2である。本実施形態では、指標算出部103が本発明でいう指標算出手段として機能する。
【0015】
【数1】
【0016】
比較部104は、指標算出部103で算出した指標aPEを、設定部102で予め設定された閾値aPEthと比較する。本実施形態では、比較部104が本発明でいう比較手段として機能する。
【0017】
通知部105は、比較部104での比較の結果、指標aPEが閾値aPEthを超えている場合に、対象部の状態変化があったものとして、例えばアラームを発する等の通知を行う。本実施形態では、通知部105が本発明でいう通知手段として機能する。
【0018】
このようにした設備監視支援装置100は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により構成され、CPUが例えばROMに記憶された所定のプログラムを実行することにより、各部101~105の機能が実現される。
【0019】
ここで、対象部の状態変化を監視するための指標aPEについて説明する。
本願発明者は、データ間のポテンシャルエネルギーを用いた指標aPEを検討した。
図3は、バネのポテンシャルエネルギーを説明するための図である。また、図4は、データ間のポテンシャルエネルギーの概念図である。
図3に示すように、バネのポテンシャルエネルギーPEは、バネ定数をkとし、バネの自然長からの伸びをΔxとすれば、式(3)で与えられる。
PE=k(Δx)2/2 ・・・(3)
【0020】
このようなバネのポテンシャルエネルギーの概念を、2つのデータ間に応用することを検討する。バネ定数をk=1とし、バネの伸びΔxはデータ間の差と考える。すなわち、
2つの変数をxA,xBとするとき、Δxは式(4)のように表される。
Δx=xA-xB ・・・(4)
このとき、2つの変数xA,xBのデータ間のポテンシャルエネルギーPE(xA,xB)は、式(5)で与えられる。
PE(xA,xB)=(xA-xB2/2 ・・・(5)
【0021】
式(5)は、2個の標本(xA,xB)がバネで繋がれた状態のポテンシャルエネルギーを示すが、図4に示すように、この考えをN個の標本(x1,x2,・・・,xN)が互いにバネに繋がれた状態に拡張し、ポテンシャルエネルギーの平均値を求める。すなわち、式(6)のように、ポテンシャルエネルギーの総和を、組合せの総数N2で割って平均値とする。
【0022】
【数2】
【0023】
指標算出部103では、この考えに従って、式(1)により表される、データ間のポテンシャルエネルギーを用いた指標aPEを算出する。ある時刻tにおけるN個のセンサで測定した温度(x1(t),x2(t),・・・,xN(t))に対して、センサiで測定した温度をxi、センサjで測定した温度をxjとして、その差の2乗和を2N2で割ることにより、指標aPEを算出する。式(1)は、上述したように、バネのポテンシャルエネルギーPEの式(3)を拡張したものであり、力学的にはN個の標本が互いにバネで繋がれた状態のポテンシャルエネルギーの平均値と解釈することができる。すなわち、各温度間の差のポテンシャルエネルギーの平均値を求めるものである。
【0024】
設備の稼働時において、対象部が安定な状態にあるとき、指標aPEの値は比較的小さく、その変動は少ないが、対象部が不安定な状態に変化するとき、データ間のポテンシャルエネルギーが大きくなり、指標aPEが大きくなる傾向になる。このように時刻t毎に、式(1)により表される指標aPEを算出することにより、対象部の状態変化の監視を行うことが可能になる。
図5に、プレッシャロール201を対象部とした場合に指標算出部103で算出した指標aPEの時系列変化の例を示す。横軸が時間、縦軸が指標aPEであり、特性線501が指標aPEの時系列変化を表す。
【0025】
次に、指標aPEに対する閾値aPEthについて説明する。
閾値aPEthは、過去の所定の期間における設備の稼働時に、対象部の複数箇所に設置されたセンサで測定した状態情報の実績値のデータセットに基づいて設定される。
具体的には、実績値のデータセットを用いて算出した指標aPEを値の大きいものから順に並べ、上位から所定の割合(パーセンタイル)に該当する値を、閾値aPEthとする。閾値aPEthは、設備の異常を判断するものではなく、対象部の状態変化を抽出するものであり、データセットは、設備が正常といえる期間、換言すれば設備に明らかな異常が発生していない期間における実績値により構成されるものとする。
【0026】
例えばデータセットD=[X(1),X(2),・・・,X(L)]に対して、実績値X()毎に指標aPE、すなわち[aPE(X(1)),aPE(X(2)),・・・,aPE(X(L))]を算出し、値の大きいものから降順に並べる。実績値X()の数L=2000とした場合、例えば上位から1%に該当する指標aPEの値(1パーセンタイル値)は、指標aPE、具体的には[aPE(X(1)),aPE(X(2)),・・・,aPE(X(L))]の大きい方から20番目の値になり、この値を閾値aPEthとして設定する。なお、パーセンタイルとしては1%、3%、5%等、対象部の種別や状態情報の種別等に応じて適宜設定されればよい。
【0027】
図6に、プレッシャロール201を対象部とした場合の実績値のデータセットにおける、降順に並べた際のデータ数と指標aPEとの関係の例を示す。図6に示すように、当該データセットにおいて、設備の稼働時の大部分では、対象部が安定な状態にあり、指標aPEの値は比較的小さく、その変動は少ない。そして、当該データセットにおいて、データ数は少ないが、対象部が不安定な状態に変化する事象が含まれ、指標aPEの値が比較的大きくなることがある。
【0028】
閾値設定部102では、この考えに従って、過去の所定の期間における設備の稼働時に、各センサ205a、205bで測定した温度の実績値のデータセットに基づいて、閾値aPEthを設定する。
図5に、プレッシャロール201を対象部とした場合に閾値設定部102で設定した閾値aPEthを示す。閾値502は1パーセンタイル値とした閾値aPEth、閾値503は3パーセンタイル値とした閾値aPEth、閾値504は5パーセンタイル値とした閾値aPEthを示す。
【0029】
図7は、設備監視支援装置100が実行する処理を示すフローチャートである。設備監視支援装置100は、設備の稼働時に例えば一定間隔(時刻t毎)で、図7のフローチャートの処理を繰り返し実行する。なお、閾値aPEthは、オフラインでの解析により既に設定されているものとする。
【0030】
ステップS1で、入力部101は、各センサ205a、205bから、無線通信を介して温度の測定値を入力して取得する。
【0031】
ステップS2で、指標算出部103は、ステップS1で取得した各センサ205a、205bで測定した温度に基づいて、上述した式(1)により表される指標aPEを算出する。
【0032】
ステップS3で、比較部104は、ステップS2で算出した指標aPEを、予め設定された閾値aPEthと比較する。比較の結果、指標aPEが閾値aPEthを超えている場合、ステップS4に進み、指標aPEが閾値aPEthを超えていない場合、処理を終了する。
【0033】
ステップS4で、通知部105は、対象部の状態変化があったものとして、例えばアラームを発する等の通知を行う。
【0034】
設備の稼働時において、プレッシャロール201が安定な状態にあるとき、その両端WS、DSの軸受203a、203bの温度は同程度であり、指標aPEの値は比較的小さく、その変動は少ない。この状態から、例えば軸受203a、203bの油脂不足、プレッシャロール201の水平度の劣化、軸受203a、203bの損傷等の不安定な状態に変化するとき、データ間のポテンシャルエネルギーが大きくなり、指標aPEが大きくなる傾向になる。
実機において両端WS、DSの軸受203a、203bの温度と、プレッシャロール201の状態との履歴を実際に解析したところ、指標aPEを利用して状態変化を的確に捉えられることが確認された。このように指標aPEが閾値aPEthを超えて通知があった場合、例えば給油脂を行ったり、水平度の調整を行ったり、休止時に軸受203a、203bを交換したりする等の設備保全を行うようにすれば、操業ラインのトラブルの未然防止が可能となり、生産性維持、品質維持に有効である。
【0035】
以上述べたように、設備の稼働時に対象部の複数箇所で同時多点測定を行い、データ間のポテンシャルエネルギーを用いた指標aPEを算出するようにした。
このようにデータ間のポテンシャルエネルギーを用いた指標aPEを利用することにより、オンラインで、対象部が不安定な状態に変化することを検知して、対象部の状態変化を的確に捉えることが可能になる。
指標aPEは、センサ単位でなく、複数箇所のうちの2箇所での状態情報の差の2乗和を含んでおり、対象部単位で解析するものであり、対象部の状態変化を的確に捉えることができる。例えばセンサで温度を測定する場合、センサで測定した温度には環境温度の変化の影響も含まれる。そのため、センサ単位で解析するだけでは、環境温度の変化の影響を受けてしまう。それに対して、指標aPEは、複数箇所のうちの2箇所での温度の差の2乗和を含むようにしたので、環境温度の変化の影響を除くことができる。
また、指標aPEを監視すればよく、特許文献1、2の技術のようにカテゴリー判別や正常モデルが不要であり、監視の仕組みが容易で、適用できる対象が限定されない。
以上のように、設備の状態変化を容易かつ的確に捉えることが可能になる。
【0036】
本実施形態では、鋼板の矯正用の設備に含まれるプレッシャロールを対象部として説明したが、これに限定されるものではなく、例えば鋼板の矯正用の設備以外の設備でもよいし、鋼板の矯正用の設備に含まれる他の機器等を対象部としてもよい。
また、一の設備を複数の区分に分け、各区分を対象部として、それぞれに複数のセンサを設置して、複数の区分で同時並行的に状態変化を監視するようにしてもよい。この場合に、区分毎に物理的に同じ状態情報を用いるようにし、各区分においてそれぞれ閾値を設定すればよい。
また、対象部に設置するセンサの数や位置は、対象部の種別や状態情報の種別等に応じて適宜設定されればよい。また、センサで測定する状態情報も、温度に限定されるものではなく、振動、変位、圧力等、対象部の種別等に応じて適宜設定されればよい。
【0037】
また、本実施形態では、設備監視支援装置100が閾値設定部102を備える構成を説明したが、これに限定されるものではない。例えば閾値設定部102は、設備監視支援装置100とは別の装置として構成され、当該別の装置で求められた閾値aPEthを設備監視支援装置100に入力するようにしてもよい。また、ユーザが閾値aPEthを設備監視支援装置100に手動で入力するようにしてもよい。
【0038】
また、本実施形態では、設備監視支援装置100が比較部104及び通知部105を備える構成を説明したが、これに限定されるものではない。例えば設備監視支援装置100は、指標算出部103で算出した指標aPEをユーザに提示するだけの構成にしてもよい。ユーザは、提示された指標aPEに基づいて、設備の状態変化を判断することができるので、指標aPEをユーザに提示するだけでも設備の状態変化の監視を支援することができる。
【0039】
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、対象部の状態変化を監視するための指標として、統計解析による指標aSDを利用する例である。
以下では、第1の実施形態と共通する内容の説明は省略し、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。設備監視支援装置100の機能構成及び設備監視支援装置100が実行する処理は、基本的には第1の実施形態で述べたものと同様であり、指標aPE及び閾値aPEthをそれぞれ指標aSD及び閾値aSDthと読み替える。
【0040】
指標算出部103は、入力部101で入力した各センサ205a、205bで測定した温度に基づいて、式(2)により表される、対象部の状態変化を監視するための指標aSDを算出する。iはセンサの識別子、N(N≧2)はセンサの設置箇所の数(=センサの数)、xiはセンサiで測定した温度、μはN個の温度の平均値、tは時間である。式(2)に示すように、指標aSDは、センサが設置される複数箇所のうちの1箇所での温度と複数箇所での温度の平均値との差、すなわち偏差の2乗和を含む。本実施形態では、プレッシャロール201の両端の軸受203a、203bにセンサ205a、205bが設置されており、N=2である。
【0041】
【数3】
【0042】
指標aSDに対する閾値aSDthについては、第1の実施形態の閾値aPEthと同様に、実績値のデータセットを用い算出した指標aSDを値の大きいものから降順に並べ、上位から所定の割合(パーセンタイル)に該当する値を、閾値aSDthとすればよい。
【0043】
ここで、指標aPEを変形すると、式(7)のようになり、aSD=√aPEであると解釈が可能である。
【0044】
【数4】
【0045】
設備の稼働時において、指標aPEと同様に、対象部が安定な状態にあるとき、指標aSDの値は比較的小さく、その変動は少ないが、対象部が不安定な状態に変化するとき、指標aSDが大きくなる傾向になる。このように時刻t毎に、式(2)により表される指標aSDを算出することにより、対象部の状態変化の監視を行うことが可能になる。
図8に、プレッシャロール201を対象部とした場合に指標算出部103で算出した指標aSDの時系列変化及び閾値aSDthの例を示す。横軸が時間、縦軸が指標aSDであり、特性線801が指標aSDの時系列変化を表す。また、閾値802は1パーセンタイル値とした閾値aSDth、閾値803は3パーセンタイル値とした閾値aSDth、閾値804は5パーセンタイル値とした閾値aSDthを示す。
【0046】
以上述べたように、設備の稼働時に対象部の複数箇所で同時多点測定を行い、aSD=√aPEの関係にある指標aSDを算出するようにした。
このように指標aSDを利用することにより、オンラインで、対象部が不安定な状態に変化することを検知して、対象部の状態変化を的確に捉えることが可能になる。
指標aSDは、センサ単位でなく、偏差の2乗和を含んでおり、対象部単位で解析するものであり、対象部の状態変化を的確に捉えることができる。例えばセンサで温度を測定する場合、センサで測定した温度には環境温度の変化の影響も含まれる。そのため、センサ単位で解析するだけでは、環境温度の変化の影響を受けてしまう。それに対して、指標aSDは、偏差の2乗和を含むようにしたので、環境温度の変化の影響を除くことができる。
また、指標aSDを監視すればよく、特許文献1、2の技術のようにカテゴリー判別や正常モデルが不要であり、監視の仕組みが容易で、適用できる対象が限定されない。
以上のように、設備の状態変化を容易かつ的確に捉えることが可能になる。
【0047】
なお、指標aPE及び指標aSDのいずれを利用するかは、対象部の種別や状態情報の種別等に応じて適宜選択すればよい。例えば指標aPEは指標aSDの2乗の関係にあるので、指標aPEの時系列変化は、指標aSDの時系列変化に比べて強調して表現することが可能である。したがって、指標aPEの時系列変化が比較的小さく表れるような場合は、指標aPEを利用すればよい。
【0048】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、上記実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
本発明は、実施形態で述べた鋼板の矯正用の設備に限られず、機械要素を含む各種設備に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
100:設備監視支援装置、101:入力部、102:閾値設定部、103:指標算出部、104:比較部、105:通知部、201:プレッシャロール、205a、205b:センサ
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図8