(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】循環動態解析装置、および循環動態解析プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20240328BHJP
A61B 5/029 20060101ALI20240328BHJP
A61B 5/022 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
A61B5/02 B
A61B5/029
A61B5/022 400Z
(21)【出願番号】P 2020103191
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽香
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-104341(JP,A)
【文献】特開2019-170709(JP,A)
【文献】特表2004-527296(JP,A)
【文献】特開2017-029622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03、5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の生体情報に基づいて算出された静脈圧および心拍出量を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記静脈圧および心拍出量に基づいて、前記被検者の循環動態を解析する循環動態解析部と、
静脈圧および心拍出量に対して閾値を設定する閾値設定部と、を有
し、
前記循環動態解析部は、
前記静脈圧から推定される前記被検者のうっ血の程度、および前記心拍出量から推定される被検者の循環不全の程度と、を推定し、
前記静脈圧の閾値、および前記心拍出量の閾値に基づいて分類された、うっ血および循環不全に関する分類群から、前記被検者のうっ血の程度および前記被検者の循環不全の程度に対応する分類を判定する、循環動態解析装置。
【請求項2】
被検者の生体情報に基づいて算出された静脈圧および心拍出量を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記静脈圧および心拍出量に基づいて、前記被検者の循環動態を解析する循環動態解析部と、
静脈圧および心拍出量に対して閾値を設定する閾値設定部と、
前記被検者の生体情報を取得する生体情報取得部と、を有し、
前記取得部は、異なる時刻における前記被検者の静脈圧および心拍出量を取得し、
前記生体情報取得部は、前記異なる時刻の間に、
(a)前記取得部によって取得された静脈圧が閾値を超えている、
(b)前記静脈圧が所定の増加率を超えている、
(c)前記取得部によって取得された心拍出量が閾値を超えて減少している、
(d)前記心拍出量が所定の減少率を超えて減少している、の前記(a)~(d)の条件のうち、少なくともいずれかの条件を満たした場合に前記被検者の生体情報を取得する頻度を増加させる、循環動態解析装置。
【請求項3】
前記循環動態解析部は、
前記静脈圧および心拍出量に基づいて、前記被検者のうっ血、および前記被検者の循環不全のうちの少なくともいずれかを解析する、請求項
1または2に記載の循環動態解析装置。
【請求項4】
前記閾値設定部は、
性別および年齢を含む前記被検者の属性、ならびに前記被検者の疾患の状態のうちの少なくとも1つに基づいて、静脈圧の閾値、および/または心拍出量の閾値を調整する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の循環動態解析装置。
【請求項5】
報知
部をさらに有し、
前記取得部は、異なる時刻における前記被検者の静脈圧および心拍出量を取得し、
前記報知部は、前記異なる時刻の間に、
(a)前記取得部によって取得された静脈圧が閾値を超えている、
(b)前記静脈圧が所定の増加率を超えている、
(c)前記取得部によって取得された心拍出量が閾値を超えて減少している、
(d)前記心拍出量が所定の減少率を超えて減少している、の前記(a)~(d)の条件のうち、少なくともいずれかの条件を満たした場合にアラームを発報する、請求項1
、3、4のいずれか1項に記載の循環動態解析装置。
【請求項6】
前記循環動態解析部によって解析された前記被検者の循環動態の解析結果を出力する出力部をさらに有する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の循環動態解析装置。
【請求項7】
前記出力部は、
前記解析結果を表示する表示部を有し、
前記表示部は、
静脈圧および心拍出量を座標軸にとった座標平面上に、前記被検者の循環動態の解析結果を表示する、請求項
6に記載の循環動態解析装置。
【請求項8】
被検者の体表に接触又は接近したセンサが取得した信号を基に静脈圧を非侵襲的に算出するとともに、前記被検者の心拍数および脈波から求めた脈波伝搬時間を基に非侵襲的に算出した心拍出量を取得する取得部と、
静脈圧および心拍出量を座標軸にとった座標平面上に、前記取得部によって取得された静脈圧および心拍出量を表示する表示部と、
前記座標平面を複数の領域に区分するための閾値を静脈圧および心拍出量に対して設定する閾値設定部と、を有し、
前記表示部は、
前記座標平面上の前記閾値によって区分された各々の領域にうっ血および末梢循環不全の程度を表示する、循環動態解析装置。
【請求項9】
前記取得部は、前記被検者から取得した脈波及び前記被検者に与えた印加圧力に基づいて前記静脈圧を非侵襲的に算出する、請求項
8に記載の循環動態解析装置。
【請求項10】
前記被検者の生体情報に基づいて、前記被検者の静脈圧および心拍出量を算出する演算部をさらに有し、
前記取得部は、前記演算部で算出された静脈圧および心拍出量を取得する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の循環動態解析装置。
【請求項11】
前記閾値設定部は、
前記座標平面を4つの領域に区分するために、静脈圧および心拍出量に対して静脈圧の閾値および心拍出量の閾値を各々設定し、
前記表示部は、
前記座標平面上の静脈圧が前記静脈圧の閾値よりも大きい領域では、うっ血の可能性がある旨を表示し、
前記座標平面上の心拍出量が前記心拍出量の閾値よりも小さい領域では、末梢循環不全の可能性がある旨を表示する、請求項
8に記載の循環動態解析装置。
【請求項12】
前記取得部は、
異なる時刻における前記被検者の静脈圧および心拍出量を取得し、
前記表示部は、
前記異なる時刻における静脈圧および心拍出量に対応する、前記座標平面の各々の位置にマーカをプロットすることにより、前記静脈圧および心拍出量の履歴を表示する、請求項
7、8、9、11のいずれか1項に記載の循環動態解析装置。
【請求項13】
報知部をさらに有し、
前記報知部は、前記異なる時刻の間に、
(a)前記取得部によって取得された静脈圧が閾値を超えている、
(b)前記静脈圧が所定の増加率を超えている、
(c)前記取得部によって取得された心拍出量が閾値を超えて減少している、
(d)前記心拍出量が所定の減少率を超えて減少している、
(e)前記座標平面において、直近の時刻とその直前の時刻におけるマーカ間距離が所定距離以上ある、の前記(a)~(e)の条件のうち、少なくともいずれかの条件を満たした場合にアラームを発報する、請求項
12に記載の循環動態解析装置。
【請求項14】
前記被検者の生体情報を取得する生体情報取得部をさらに有し、
前記生体情報取得部は、前記異なる時刻の間に、
(a)前記取得部によって取得された静脈圧が閾値を超えている、
(b)前記静脈圧が所定の増加率を超えている、
(c)前記取得部によって取得された心拍出量が閾値を超えて減少している、
(d)前記心拍出量が所定の減少率を超えて減少している、
(e)前記座標平面において、直近の時刻とその直前の時刻におけるマーカ間距離が所定距離以上ある、の前記(a)~(e)の条件のうち、少なくともいずれかの条件を満たした場合に前記被検者の生体情報を取得する頻度を増加させる、請求項
12に記載の循環動態解析装置。
【請求項15】
前記表示部は、
前記被検者の生体情報および/または当該生体情報に基づいて測定された測定値を表示するための第1の画面と、前記被検者の循環動態の解析結果を表示するための第2の画面とを切り替え可能に構成され、
前記第1の画面が表示されているときに、前記取得部で取得された静脈圧が前記静脈圧の閾値を超えた場合、うっ血の可能性がある旨を前記第1の画面に表示し、前記取得部で取得された心拍出量が前記心拍出量の閾値を超えた場合、末梢循環不全の可能性がある旨を前記第1の画面に表示する、請求項
11に記載の循環動態解析装置。
【請求項16】
前記表示部は、
前記被検者の循環動態の解析結果と、当該解析結果に関連する前記被検者の生体情報および/または当該生体情報に基づいて測定された測定値とを併せて表示する、請求項
7~9、11~14のいずれか1項に記載の循環動態解析装置。
【請求項17】
前記取得部は、
異なる時刻における前記被検者の静脈圧および心拍出量を取得し、
前記表示部は、
前記異なる時刻における前記被検者の循環動態の解析結果と、各々の当該解析結果に関連する前記被検者の生体情報および/または当該生体情報に基づいて測定された測定値とを併せて表示する、請求項
16に記載の循環動態解析装置。
【請求項18】
前記被検者の生体情報および/または当該生体情報に基づいて測定された測定値を表示する優先順位を設定する優先順位設定部をさらに有し、
前記表示部は、
前記優先順位設定部で設定された優先順位に従って前記被検者の生体情報および/または当該生体情報に基づいて測定された測定値を表示する、請求項
17に記載の循環動態解析装置。
【請求項19】
前記表示部は、
前記被検者に対して医療従事者が行った処置によって、前記異なる時刻の間に、取得された静脈圧が閾値を超えて減少または増加した場合、あるいは取得された心拍出量が閾値を超えて減少または増加した場合、前記医療従事者が行った処置に関する情報と、前記処置が行われた時刻とを表示する、請求項
12に記載の循環動態解析装置。
【請求項20】
被検者の生体情報に基づいて算出された静脈圧および心拍出量を取得するステップ(a)と、
前記ステップ(a)で取得された前記静脈圧および前記心拍出量に基づいて、前記被検者の循環動態を解析するステップ(b)と、
静脈圧および心拍出量に対して閾値を設定するステップ(c)と、を含み、
前記ステップ(b)においては、
前記静脈圧から推定される前記被検者のうっ血の程度、および前記心拍出量から推定される被検者の循環不全の程度と、を推定し、
前記静脈圧の閾値、および前記心拍出量の閾値に基づいて分類された、うっ血および循環不全に関する分類群から、前記被検者のうっ血の程度および前記被検者の循環不全の程度に対応する分類を判定する、処理をコンピュータに実行させるための循環動態解析プログラム。
【請求項21】
被検者の体表に接触又は接近したセンサが取得した信号を基に静脈圧を非侵襲的に算出するとともに、前記被検者の心拍数および脈波から求めた脈波伝搬時間を基に非侵襲的に算出した心拍出量を取得するステップ(a)と、
静脈圧および心拍出量を座標軸にとった座標平面を複数の領域に区分するための閾値を静脈圧および心拍出量に対して設定するステップ(b)と、
前記座標平面上に、前記ステップ(a)によって取得された静脈圧および心拍出量を表示する
ステップであって、前記座標平面上の前記閾値によって区分された各々の領域にうっ血および末梢循環不全の程度を表示するステップ(
c)と、を含む処理をコンピュータに実行させるための循環動態解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環動態解析装置、および循環動態解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
病院等の医療現場において、患者の循環動態を監視することは、手術中や手術後における患者の状態管理を行う上で不可欠になっている。医療従事者は、手術中や手術後において、例えば、動脈圧、静脈圧、尿量等を監視し、患者の身体の各部へ心臓から必要な血液が供給されていることを確認している。
【0003】
心臓の機能は、例えば、1分間に心臓から拍出される血液量(心拍出量(CO:Cardiac Output))を測定することにより、評価することができる。心拍出量は、一般に、スワン・ガンツカテーテルを使用して、肺動脈を流れる血液の温度変化を検知することにより侵襲的に測定される。また、近年、患者の負担を考慮して、心電図および光電脈波に基づいて心拍出量を推定する技術が開発されている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【0004】
心拍出量を測定した結果、心拍出量が少ない場合、血液の循環に何らかの問題が生じている可能性がある。しかし、心拍出量のみを測定するのでは、心拍出量の減少が心臓の収縮機能が低下したことに起因するものなのか、心臓に戻る血液量、すなわち循環血液量が減少したことに起因するものなのかを区別することはできない。心臓の収縮機能が低下している場合と、循環血液量が減少している場合とでは、患者に対する治療が異なるため、これらの2つの場合を切り分ける必要がある。
【0005】
これに関連して、従来から、患者の心不全の重症度をチャートで表した分類が知られている。この分類では、スワン・ガンツカテーテルにより侵襲的に測定した肺動脈楔入圧(PCWP:Pulmonary Capillary Wedge Pressure)と、心拍出量から算出された心係数(CI:Cardiac Index)とに基づいて、患者の肺うっ血および末梢循環不全の有無が分類される。
【0006】
肺動脈楔入圧は、肺動脈がカテーテルのバルーンによって塞がれ、肺動脈の末梢で血流が閉ざされた状態のときのカテーテルの先端にかかる圧であり、その下流にある肺毛細血管および左房圧を反映するため、左房の前負荷や肺うっ血の指標になっている。医療従事者は、上記の分類の分類結果を参照し、患者に対して適切な治療方針を立てることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の分類を使用するには、肺動脈楔入圧を侵襲的に測定する必要があるため、測定に対する患者への負担が大きいという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。したがって、本発明の主たる目的は、測定に対する患者への負担を抑制しつつ、患者の循環動態を解析できる循環動態解析装置および循環動態解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記によって達成される。
【0011】
本発明の一態様では、循環動態解析装置は、取得部、循環動態解析部、および閾値設定部を有する。取得部は、被検者の生体情報に基づいて算出された静脈圧および心拍出量を取得する。循環動態解析部は、取得部によって取得された静脈圧および心拍出量に基づいて、被検者の循環動態を解析する。閾値設定部は、静脈圧および心拍出量に対して閾値を設定する。循環動態解析部は、静脈圧から推定される被検者のうっ血の程度、および心拍出量から推定される被検者の循環不全の程度と、を推定し、静脈圧の閾値、および前記心拍出量の閾値に基づいて分類された、うっ血および循環不全に関する分類群から、被検者のうっ血の程度および被検者の循環不全の程度に対応する分類を判定する。
また、本発明の別の態様では、循環動態解析装置は、取得部、循環動態解析部、閾値設定部、および生体情報取得部を有する。取得部は、被検者の生体情報に基づいて算出された静脈圧および心拍出量を取得する。循環動態解析部は、取得部によって取得された静脈圧および心拍出量に基づいて、被検者の循環動態を解析する。閾値設定部は、静脈圧および心拍出量に対して閾値を設定する。生体情報取得部は、被検者の生体情報を取得する。取得部は、異なる時刻における被検者の静脈圧および心拍出量を取得し、生体情報取得部は、異なる時刻の間に、(a)取得部によって取得された静脈圧が閾値を超えている、(b)静脈圧が所定の増加率を超えている、(c)取得部によって取得された心拍出量が閾値を超えて減少している、(d)心拍出量が所定の減少率を超えて減少している、の(a)~(d)の条件のうち、少なくともいずれかの条件を満たした場合に被検者の生体情報を取得する頻度を増加させる。
【0012】
また、本発明の別の態様では、循環動態解析装置は、取得部、表示部、および閾値設定部を有する。取得部は、被検者の体表に接触又は接近したセンサが取得した信号を基に静脈圧を非侵襲的に算出するとともに、被検者の心拍数および脈波から求めた脈波伝搬時間を基に非侵襲的に算出した心拍出量を取得する。表示部は、静脈圧および心拍出量を座標軸にとった座標平面上に、取得部によって取得された静脈圧および心拍出量を表示する。閾値設定部は、座標平面を複数の領域に区分するための閾値を静脈圧および心拍出量に対して設定する。表示部は、座標平面上の前記閾値によって区分された各々の領域にうっ血および末梢循環不全の程度を表示する。
【0013】
また、本発明の別の態様では、コンピュータに実行させるための循環動態解析プログラムは、被検者の生体情報に基づいて算出された静脈圧および心拍出量を取得するステップ(a)と、ステップ(a)で取得された静脈圧および心拍出量に基づいて、被検者の循環動態を解析するステップ(b)と、静脈圧および心拍出量に対して閾値を設定するステップ(c)と、を含み、前記ステップ(b)においては、前記静脈圧から推定される前記被検者のうっ血の程度、および前記心拍出量から推定される被検者の循環不全の程度と、を推定し、前記静脈圧の閾値、および前記心拍出量の閾値に基づいて分類された、うっ血および循環不全に関する分類群から、前記被検者のうっ血の程度および前記被検者の循環不全の程度に対応する分類を判定する、処理を含む。
【0014】
また、本発明の別の態様では、コンピュータに実行させるための循環動態解析プログラムは、被検者の体表に接触又は接近したセンサが取得した信号を基に静脈圧を非侵襲的に算出するとともに、前記被検者の心拍数および脈波から求めた脈波伝搬時間を基に非侵襲的に算出した心拍出量を取得するステップ(a)と、静脈圧および心拍出量を座標軸にとった座標平面を複数の領域に区分するための閾値を静脈圧および心拍出量に対して設定するステップ(b)と、前記座標平面上に、前記ステップ(a)によって取得された静脈圧および心拍出量を表示するステップであって、前記座標平面上の前記閾値によって区分された各々の領域にうっ血および末梢循環不全の程度を表示するステップ(c)と、を含む処理を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、患者の生体情報に基づいて算出された中心静脈圧(CVP:Central Venous Pressure)および心拍出量に基づいて、患者の循環動態を解析するので、測定に対する患者への負担を抑制しつつ、患者の循環動態を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る生体情報表示システムの概略的なハードウェア構成を例示するブロック図である。
【
図2】
図1に示す制御部の概略的なハードウェア構成を例示するブロック図である。
【
図3】
図1に示す制御部の主要な機能を例示する機能ブロック図である。
【
図4】制御部の循環動態解析方法の処理手順について例示するためのフローチャートである。
【
図5】循環動態の解析結果をマトリックス形式で表示した例を示す模式図である。
【
図6】循環動態の解析結果を表形式で表示した例を示す模式図である。
【
図7】中心静脈圧および心拍出量を座標軸にとった座標平面上においてうっ血および末梢循環不全の可能性がある領域を例示する模式図である。
【
図8】循環動態の解析結果を座標平面上に表示した例を示す模式図である。
【
図9】中心静脈圧および心拍出量の閾値を調整した場合を例示する模式図である。
【
図10】中心静脈圧および心拍出量に対して複数の閾値を設定した場合を例示する模式図である。
【
図11】生体情報表示装置の基本モニタ画面を例示する模式図である。
【
図12】循環動脈の解析結果の履歴を例示する模式図である。
【
図13】循環動脈の解析結果の履歴を例示する模式図である。
【
図14】循環動脈の解析結果と、解析結果に関連する測定値等とを併せて表示する場合について例示する模式図である。
【
図15】循環動脈の解析結果と、解析結果に関連する測定値等とを併せて表示する場合について例示する模式図である。
【
図16】循環動脈の解析結果と、解析結果に関連する処置情報とを併せて表示する場合について例示する模式図である。
【
図17】静脈圧を算出する処理手順を例示するためのフローチャートである。
【
図18】心拍出量を算出する処理手順を例示するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、図中、同一の部材には同一の符号を用いた。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
<生体情報表示システム100>
図1は一実施形態に係る生体情報表示システム100の概略的なハードウェア構成を例示するブロック図であり、
図2は
図1に示す制御部170の概略的なハードウェア構成を例示するブロック図である。
【0019】
本実施形態の生体情報表示システム100(以下、単に「表示システム100」という)は、患者(被検者)から収集した生体情報(例えば、脈波、心電図等)に基づいて中心静脈圧および心拍出量を非侵襲で測定し、測定された中心静脈圧および心拍出量に基づいて、患者の循環動態を解析、または循環動態に関する情報を表示する。したがって、表示システム100のユーザ(例えば、医師や看護師等の医療従事者)は、ディスプレイに表示された解析結果または循環動態に関連する情報に応じて、患者に対して適切な治療や処置を行うことができる。
【0020】
なお、以下では、生体情報として、脈波および心電図を取得し、脈波および心電図から中心静脈圧および心拍出量を推定する場合について例示するが、取得する生体情報はこれらに限定されず、これらの代わり、またはこれらに加えて他の生体情報を取得してもよい。
【0021】
中心静脈圧は、右心房で測定された圧(右房圧)を反映する指標であり、心臓に戻る血液量および右房の前負荷を反映しうる。したがって、中心静脈圧は、循環血液量を反映するので、医療従事者は、その上昇から体うっ血を評価することができる。また、心拍出量は、心臓の収縮機能を反映する指標であり、心拍出量の減少は、心臓の収縮機能の低下の可能性を示す。
【0022】
しかし、従来、中心静脈圧および心拍出量は、例えば、スワン・ガンツカテーテルを使用し、侵襲的(観血的)に測定することが一般的であった。これに対して、本実施形態では、生体情報を取得し、生体情報から中心静脈圧および心拍出量を推定することで、患者に対して中心静脈圧および心拍出量を侵襲的に測定することを回避し、非侵襲的に測定することができる。これにより、測定に対する患者の負担を大幅に軽減できる。
【0023】
上記の分類では、侵襲的に測定した肺動脈楔入圧および心拍出量(心係数)に基づいて、肺うっ血および末梢心不全の有無を判定するが、本実施形態では、それらの代わりに、非侵襲的に測定した中心静脈圧および心拍出量を使用して患者の循環動態解析を実施する。中心静脈圧は、肺動脈楔入圧とは異なるが、うっ血を評価するという観点からは、中心静脈圧で代替できると考えられる。なぜなら、心機能が低下し、心臓が十分に血液を拍出できない場合は、心臓の左側の血流が渋滞するとともに、右側へ影響が及ぶと考えられるからである。また、心不全増悪の主な要因はうっ血であるが、この場合は中心静脈圧が上昇していることが知られている。
【0024】
図1に示すように、表示システム100は、カフ111、心電図測定用電極121、光電脈波検出センサ131、および生体情報表示装置180(循環動態解析装置)を有する。カフ111は、生体情報表示装置180に接続可能に構成される。また、生体情報表示装置180は、加圧ポンプ112、排気弁113、圧力センサ114、カフ圧検出部115、ADコンバーター(ADC)116、心電図測定部122、脈波検出部132、ADC133、入力装置140、出力装置(出力部)150、ネットワークインターフェース160、および制御部170を有する。
【0025】
生体情報表示装置(以下、単に「表示装置」ともいう)180は、患者の循環動態を解析し、解析結果を表示する医療装置(例えば、生体情報モニタ等)でありうる。以下、表示システム100が有する主要な構成について説明する。
【0026】
カフ111、圧力センサ114、カフ圧検出部115、およびADC116は、血圧測定部として機能し、患者の動脈血圧(収縮期血圧および/または拡張期血圧)を測定する。
【0027】
カフ111は、患者の上腕に空気袋が巻回されることにより装着される。加圧ポンプ112は、制御部170の指示に応じて、カフ111の空気袋に空気を送り込み、空気袋内の圧力(以下、「カフ内圧」という)を増加させる。これにより、カフ111による患者の上腕への圧迫圧力(以下、「カフ圧」という)を増加させうる。また、排気弁113は、空気袋内の空気を大気に開放することにより、カフ111から徐々に空気を排気し、カフ内圧を減少させる。これにより、カフ圧が減少しうる。
【0028】
圧力センサ114はカフ内圧を検出する。カフ内圧には、カフ圧が増加および減少される過程における患者の脈波(以下、「カフ脈波」という)が重畳する。カフ圧検出部115は、検出されたカフ内圧からカフ内圧に重畳したカフ脈波を抽出し、カフ内圧および抽出したカフ脈波をそれぞれアナログ信号としてADC116に出力する。ADC116は、カフ内圧およびカフ脈波のアナログ信号をディジタル信号に変換して制御部170に送信する。なお、圧力センサ114、カフ圧検出部115、およびADC116がカフ111と一体化された構造であっても良い。この場合、制御部170がカフ脈波のディジタル信号を受信する。同様に圧力センサ114およびカフ圧検出部115がカフ111と一体化され、ADC116が生体情報表示装置180内にある構成であっても良い。
【0029】
心電図測定部122は、患者の心筋の興奮により生じる活動電位を示す心電図を連続的に検出し、検出した心電図のデータを制御部170に送信する。より具体的には、心電図測定部122は、患者の身体の所定の部位に装着された複数の心電図測定用電極121を介して心電図を検出する。心電図データは、制御部170の補助記憶部173(後述)に保存される。心電図は、時間軸上に連続して発生する複数の心拍波形を含む。心拍波形は、心拍、すなわち心臓の拍動を示す波形である。
【0030】
光電脈波検出センサ131(以下、「脈波センサ131」という)、脈波検出部132、およびADC133は、光電脈波測定部として機能し、光電脈波法を用いて患者の脈波を検出し、検出された脈波のデータを制御部170に送信する。なお脈波検出部132及びADC133が光電脈波検出センサ131内に内蔵される構成とし、光電脈波検出センサ131が脈波データを制御部170に送信する構成としても良い。同様にADC133のみ生体情報表示装置180内にある構成としても良い。
【0031】
脈波センサ131は、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定するためのSpO2プローブであり、患者の身体の末梢部(例えば、手指の先等)に装着される。本実施形態では、脈波センサ131は、患者の左手指の先に装着されることが好ましいが、これに限定されるものではない。光電脈波測定装置130は、SpO2を測定する目的に使用されるだけではなく、後述する脈波伝播時間の測定にも使用されうる。
【0032】
脈波センサ131は、発光部および受光部を備え、赤色光または赤外光を所定の発光タイミングで患者に照射し、透過光を受光する。発光部は、例えば、波長が660nm付近(赤色)または940nm付近(赤外)で発光する発光ダイオードを備え、患者の生体表面(指先)に向けて発光する。受光部は、例えば、フォトダイオードを備え、血管および生体組織を透過した透過光を受光し、透過光に応じた電気信号に変換する。
【0033】
脈波検出部132は、脈波センサ131で生成された電気信号から脈波を検出し、光電脈波信号として、ADC133に出力する。ADC133は、光電脈波信号をディジタル信号に変換して制御部170に出力する。
【0034】
入力装置140は、表示装置180を操作するユーザの入力操作を受け付け、当該入力操作に対応する入力信号を生成するように構成されている。入力装置140は、例えば、後述する出力装置150のディスプレイ151上に重ねて配置されたタッチパネル、表示装置180の筐体に取り付けられた操作ボタン、マウス、またはキーボード等を有する。入力装置140によって生成された入力信号は、制御部170に送信されて、制御部170は、入力信号に応じて所定の処理を実行する。
【0035】
出力装置150は、循環動態の解析結果を出力する。出力装置150は、ディスプレイ151およびスピーカ152を有する。ディスプレイ151は、表示部として機能し、表示装置180の筐体に取り付けられた液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等でありうる。また、ディスプレイ151は、ユーザの頭部に装着される透過型、または非透過型のヘッドマウントディスプレイ等の表示装置であってもよい。
【0036】
スピーカ152は、表示装置180の筐体に取り付けられ、ユーザに対して、音声によりアラームを発報する。また、循環動態の解析結果を音声で出力するように構成してもよい。また、出力装置150は、LED等を備える発光部を有し、LED等の光によってアラートを発する構成とすることもできる。
【0037】
なお、出力装置150は、ディスプレイ151およびスピーカ152に限らず、例えば、循環動態の解析結果を印刷して出力するためのプリンタを備えることもできる。
【0038】
ネットワークインターフェース160は、制御部170を通信ネットワークに接続するように構成されている。具体的には、ネットワークインターフェース160は、通信ネットワークを介してサーバ等の外部装置と通信するための各種インターフェース用の処理回路を含んでおり、通信ネットワークを介して通信するための通信規格に適合するように構成されている。通信ネットワークは、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等である。
【0039】
制御部170は、患者の循環動態の解析を行う。制御部170は、生体情報表示装置180の主たる制御を司るソフトウェアおよびハードウェアであっても良く、制御部170が独立した装置であっても良い。例えば制御部170は、循環動態の解析を行う専用の医療装置であってもよいし、循環動態の解析を行うための循環動態解析プログラム(以下、「解析プログラム」という)がインストールされたパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等であってもよい。さらに、制御部170は、ユーザの身体(例えば、腕や頭部等)に装着されるウェアラブルデバイス等であってもよい。
【0040】
図2に示すように、制御部170は、CPU(Central Processing Unit)171、メモリ172、補助記憶部173、および入出力インターフェース174を有する。
【0041】
メモリ172は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を有する。ROMには、各種プログラムやパラメータ等が記憶されている。また、RAMは、CPU171により実行される各種プログラム等が格納されるワークエリアを備える。CPU171は、ROMや補助記憶部173に記憶されている各種プログラムから指定されたプログラムをRAM上に展開し、RAMと協働することにより各種処理を実行するように構成されている。
【0042】
補助記憶部173は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、USBフラッシュメモリ等の記憶装置(ストレージ)を有する。補助記憶部173は、解析プログラムや各種データを格納するように構成されている。また、補助記憶部173は、生体情報としての心電図データや脈波データを保存する。
【0043】
入出力インターフェース174は、CPU171と、入力装置140および出力装置150とのインターフェースとして機能する。入出力インターフェース174は、マウスやキーボード等の入力デバイスとの通信を行う各種の通信モジュールや、ディスプレイ151およびスピーカを駆動する駆動モジュール等を有する。
【0044】
CPU171が解析プログラムを実行することにより、制御部170は、表示システム100の各部を制御し、様々な機能を実現する。
図3は、制御部170の主要な機能を例示する機能ブロック図である。制御部170は、測定制御部(生体情報取得部)201、演算部202、取得部203、循環動態解析部204、表示制御部205、閾値設定部206、報知制御部207、および優先順位設定部208として機能する。
【0045】
測定制御部201は、血圧測定部、心電図測定部122、および光電脈波測定部の各測定装置を統合的に制御し、これらから、それぞれ生体情報(カフ脈波、心電図、および光電脈波)のデータを取得する。測定制御部201は、患者の循環動態解析を行うタイミングを管理し、このタイミングに合わせて、各測定装置に対して必要な制御を行う。循環動態解析は、通常、所定の時間間隔をおいて実施されうる。所定の時間間隔は、患者の容態が安定している場合、医療従事者によって、特に限定されるものではないが、例えば、30分~数時間間隔に設定されうる。しかし、測定制御部201は、医療従事者からの測定要求、あるいは患者の容態が急激に変化している場合、患者の容態の変化の程度に応じて、より短い時間間隔で患者の循環動態解析を実施するように制御することもできる。
【0046】
測定制御部201は、患者の循環動態解析を行うタイミングになった場合、血圧測定部に対して、測定開始の指示を出力し、測定する動脈血圧に応じて、加圧ポンプ112および排気弁113の制御を行う。また、測定制御部201は、心電図測定部122、および光電脈波測定部に対して、それぞれ所定のタイミングで測定の開始の指示を出力する。
なおカフによる加圧に比べて、心電図及び光電脈波の取得は被検者に与える負担が少ない。そのため心電図及び光電脈波の測定は連続的に行い、カフを用いたカフ脈波の測定を所定のタイミングで行う事がより好ましい。
【0047】
演算部202は、測定制御部201によって取得された、患者の生体情報に基づいて、患者の中心静脈圧(以下、単に「静脈圧」ともいう)、および心拍出量を算出する。本実施形態では、演算によって患者の静脈圧および心拍出量を測定できるので、侵襲的な測定を回避できる。静脈圧および心拍出量の具体的な算出方法については後述する。
【0048】
<循環動態解析方法>
図4は、制御部170の循環動態解析方法の処理手順について例示するためのフローチャートである。同図のフローチャートの処理は、CPU171が解析プログラムを実行することにより実現される。
図5は循環動態の解析結果をマトリックス形式で表示した例を示す模式図であり、
図6は循環動態の解析結果を表形式で表示した例を示す模式図である。また、
図7は中心静脈圧および心拍出量を座標軸にとった座標平面上においてうっ血および末梢循環不全の可能性がある領域を例示する模式図であり、
図8は循環動態の解析結果を座標平面上に表示した例を示す模式図である。また、
図9は中心静脈圧および心拍出量の閾値を調整した場合を例示する模式図であり、
図10は中心静脈圧および心拍出量に対して複数の閾値を設定した場合を例示する模式図である。
【0049】
図4に示すように、まず、患者の静脈圧および心拍出量を取得する(ステップS101)。取得部203は、患者の生体情報に基づいて演算部202で算出された静脈圧および心拍出量を取得する。なお、静脈圧および心拍出量は、演算部202で算出された演算結果に限らず、他のシステムで非侵襲的に測定され、通信ネットワーク上に配置されたサーバ(コンピュータ)からネットワークインターフェース160を介して取得されてもよい。
【0050】
次に、患者の循環動態を解析する(ステップS102)。循環動態解析部204は、ステップ101で取得された静脈圧および心拍出量に基づいて、患者の循環動態を解析する。例えば、循環動態解析部204は、静脈圧および心拍出量に基づいて、患者のうっ血、および心臓の血液拍出能力(循環不全)、のうちの少なくともいずれかを解析する。
【0051】
より具体的には、循環動態解析部204は、取得された静脈圧に基づいて、患者の血管におけるうっ血の程度を推定し、取得された心拍出量に基づいて患者の循環不全の程度を推定する。したがって、医療従事者は、患者の心臓の収縮機能が低下している場合と、循環血液量が減少している場合との2つの場合を切り分けることができる。さらに、循環動態解析部204は、うっ血の程度および循環不全の程度に従って予め分類された、患者の容態に関する分類群(分類表)から、患者のうっ血の程度および患者の循環不全の程度に対応する分類(うっ血の程度と循環不全の程度との対応関係)を判定する。後述するように、分類群は、静脈圧の閾値、および心拍出量の閾値に基づいて複数の群(例えば、I群~IV群)に分類されている。分類群に関するデータは、予めメモリ172または補助記憶部173に記憶されている。分類群の詳細については後述する。
【0052】
循環動態の解析は、例えば、次のように行われうる。なお、以下では、うっ血は、血管におけるうっ血(体うっ血)であり、循環不全は、末梢循環不全である場合を例示して説明するが、このような場合に限定されない。
【0053】
まず、静脈圧の閾値、および心拍出量の閾値が、閾値設定部206により設定される。静脈圧の閾値は、患者に体うっ血(以下、単に「うっ血」という)が有るか否かを判定するための閾値であり、心拍出量の閾値は、患者に末梢循環不全が有るか否かを判定するための閾値である。これらの閾値は、メモリ172に予め記憶されている値が設定されてもよいし、ユーザが入力装置140を通じて入力することにより設定することもできる。静脈圧の閾値は、デフォルトで、例えば10mmHgに設定されうる。また、心拍出量の閾値は、デフォルトで、例えば、5.5L/minに設定されうる。
【0054】
循環動態解析部204は、取得された静脈圧が、閾値よりも大きい場合、患者にうっ血がある可能性が高いと判定する(例えば、「うっ血(+)」と表記されうる)。一方、取得された静脈圧が、閾値以下である場合、患者にうっ血がある可能性は低いと判定する(例えば、「うっ血(-)」と表記されうる)。
【0055】
また、循環動態解析部204は、取得された心拍出量が、閾値よりも小さい場合、末梢循環不全がある可能性が高いと判定する(例えば、「末梢循環不全(+)」と表記されうる)。一方、取得された心拍出量が、閾値以下である場合、末梢循環不全がある可能性は低いと判定する(例えば、「末梢循環不全(-)」と表記されうる)。
【0056】
次に、患者の循環動態の解析結果を出力する(ステップS103)。表示制御部205は、循環動態の解析結果、例えば、うっ血および末梢循環不全の可能性の判定結果をディスプレイ151に表示するように制御する。より具体的には、静脈圧が、閾値よりも大きい場合、患者にうっ血がある可能性が高い旨が表示される一方で、閾値以下である場合、患者にうっ血がある可能性は低い旨が表示される。また、心拍出量が、閾値よりも小さい場合、末梢循環不全がある可能性が高い旨が表示される一方で、閾値以上である場合、末梢循環不全がある可能性は低い旨が表示される。
【0057】
図5に示すように、例えば、循環動態の解析結果は、マトリックス形式で表示されうる。同図において、2×2のマトリックスの要素[0,0]~[1,1]は、それぞれI群~IV群に割り当てられている。表示制御部205は、例えば、静脈圧および心拍出量の値に応じて、I群~IV群のうちの対応する領域の色を変更することで、上記分類(対応関係)を表示する。医療従事者は、上記分類が表示されることにより、患者にうっ血および/または末梢循環不全がある可能性を即座に把握できるとともに、閾値を基準としたうっ血の程度、および末梢循環不全の程度を一見して理解できる。
図5に示す例では、[0,1]のマトリックスの領域がグレーに塗られ、取得された静脈圧および心拍出量の値がII群に分類されていることが表示されている。
【0058】
ここで、本実施形態における患者の容態に関する分類群(I群~IV群)について説明する。I群~IV群は、設定された静脈圧の閾値、および心拍出量の閾値に基づいて分類されている。I群は、取得された静脈圧が閾値よりも小さく、かつ取得された心拍出量が閾値よりも大きい領域である。I群では、患者の容態が「正常」であると判定されている。医療従事者が現時点で行うべき治療は特になく、経過観察を行いつつ、合併症の予防、治療を行うことが促される。II群は、静脈圧が閾値よりも大きく、かつ心拍出量が閾値よりも大きい領域である。II群では、うっ血の可能性が高く、末梢循環不全の可能性は低いと判定されている。医療従事者により、患者に血管拡張薬および利尿薬が投与されることが促される。III群は、静脈圧が閾値よりも小さく、かつ心拍出量が閾値よりも小さい領域である。III群では、うっ血の可能性は低いが、末梢循環不全の可能性が高いと判定されている。医療従事者により、患者に輸液および輸血が行われることが促される。IV群は、静脈圧が閾値よりも大きく、かつ心拍出量が閾値よりも小さい領域である。IV群では、うっ血および末梢循環不全の可能性がともに高いと判定されている。医療従事者により、患者に血管拡張薬および利尿薬、ならびにカテラコラミンの投与および補助循環の使用が促される。
【0059】
また、分類群が同じでも静脈圧の大きさに応じてうっ血の程度が異なる可能性がある。同様に、分類群が同じでも心拍出量の大きさに応じて末梢循環不全の程度が異なる可能性がある。静脈圧が高いほどうっ血の程度は重く、心拍出量が低い(少ない)ほど末梢循環不全の程度は重い。例えば、II群やIV群と判定された場合でも、静脈圧が閾値から遠い方がうっ血の程度は重く、閾値に近い方がうっ血の程度は軽い。また、III群やIV群と判定された場合でも、心拍出量が閾値から遠い方が末梢循環不全の程度は重く、閾値に近い方が末梢循環不全の程度は軽い。
【0060】
また、
図6に示すように、例えば、循環動態の解析結果は、表形式で表示されうる。同図において、静脈圧が「高い」とは、静脈圧が閾値よりも高い場合を示し、静脈圧が「低い」とは、静脈圧が閾値以下である場合を示す。また、心拍出量が「高い」とは、心拍出量が閾値以上である場合を示し、心拍出量が「低い」とは、心拍出量が閾値よりも小さい場合を示す。
【0061】
例えば、静脈圧が低く、心拍出量が高い場合、患者の容態はI群に分類され、静脈圧および心拍出量がともに高い場合、患者の容態はII群に分類される。また、静脈圧および心拍出量がともに低い場合、患者の容態はIII群に分類され、静脈圧が高く、心拍出量が低い場合、患者の容態はIV群に分類される。
【0062】
表示制御部205は、例えば、静脈圧および心拍出量の値に応じて、I群~IV群のうちの対応する領域の色を変更することで、上記分類を表示する。
図6の例では、取得された静脈圧および心拍出量の値がIV群に対応していることが表示されている。なお、領域の色を変更する代わりに、領域に表示される文字の色や太さ等を変更するようにしてもよい。
【0063】
また、
図7に示すように、静脈圧および心拍出量を座標軸にとった座標平面上において、うっ血および末梢循環不全の可能性がある領域を表示するように構成してもよい。なお、
図7には、横軸(X軸)に静脈圧、縦軸(Y軸)に心拍出量をとる場合を例示しているが、縦軸に静脈圧、横軸に心拍出量をとるようにしてもよい。
【0064】
例えば、
図8に示すように、表示制御部205は、取得された静脈圧および心拍出量に対応する、座標平面上の位置にマーカ10をプロットすることにより、静脈圧および心拍出量に対応するうっ血、および末梢循環不全の程度を座標平面上に表示する。同図の例では、マーカ10により、取得された静脈圧および心拍出量の値がIII群に対応していることが表示されている。
【0065】
なお、分類群(例えば、「I群」等)、患者の容態(「うっ血(+)等」)、処置の種類(「血管拡張薬」等)の情報を、マーカ10と同時に表示すると、互いに重なって表示が見難くなる可能性がある。表示が見難くなることを防止するため、マーカ10を表示する際に、分類群、患者の容態、および処置の種類の情報の全てまたは一部の表示が停止されうる。
【0066】
また、閾値設定部206は、性別および年齢を含む患者の属性、ならびに疾患の状態の少なくとも1つ応じて、静脈圧の閾値および/または心拍出量の閾値を調整できる。例えば、
図9に示すように、閾値設定部206は、患者が心臓の疾患を有し、定常状態において静脈圧が健常者よりも高く、心拍出量が健常者よりも少ない場合、静脈圧の閾値をより大きな値(例えば、15mmHg)に設定するとともに、心拍出量の閾値をより小さな値(例えば、5.0L/min)に調整しうる。これにより、現在の患者の容態の良し悪しを、定常状態と比較して評価できる。
【0067】
さらに、
図10に示すように、座標平面を複数の領域に区分する複数の閾値(例えば、閾値1~4)が、静脈圧および心拍出量に対して設定されるように構成してもよい。同図では、閾値1~4により、静脈圧および心拍出量の軸が、それぞれ3つの領域に分割される場合を示している。この場合、座標平面は、9つの領域(1群~9群)に区分される。また、うっ血の程度に応じて、「うっ血(1+)」、または「うっ血(2+)」のように表記されうる。末梢循環不全についても同様に、「末梢循環不全(1+)」、または「末梢循環不全(2+)」のように表記されうる。
【0068】
このように、うっ血および末梢循環不全の程度が細分化されることにより、医療従事者は、患者のうっ血および末梢循環不全の程度に応じて、治療に使用する薬剤の量や使用する医療機器を調整できる。したがって、医療従事者は、患者に対して、よりきめの細かい治療を行うことができる。
【0069】
上述したように、
図4のフローチャートの処理では、患者の生体情報に基づいて算出された静脈圧および心拍出量を取得し、算出された静脈圧および心拍出量に基づいて、患者の循環動態を解析し、解析結果を出力する。測定制御部201は、各測定装置を制御して断続的に生体情報を取得する。取得部203は、演算部202で算出された静脈圧および心拍出量を取得する。
【0070】
<表示システム100の動作例>
以下、
図11~
図16を参照して、表示システム100の動作について説明する。
図11は、表示装置180の基本モニタ画面を例示する模式図である。また、
図12、
図13は、循環動脈の解析結果の履歴を例示する模式図である。また、
図14、
図15は、循環動脈の解析結果と、解析結果に関連する測定値等とを併せて表示する場合について例示する模式図である。また、
図16は、循環動脈の解析結果と、解析結果に関連する処置情報とを併せて表示する場合について例示する模式図である。
【0071】
表示装置180は、生体情報モニタであり、例えば、心拍数、動脈血圧、SpO2等を測定し、測定結果をディスプレイ151に表示する。
図11に示すように、表示システム100が動作を開始すると、ディスプレイ151には、基本モニタ画面300が表示される。
【0072】
上述した血圧測定部、心電図測定部122、および光電脈波測定部によって検知された生体情報や、生体情報に基づいて算出された測定値等は、基本モニタ画面300の生体情報表示領域301にリアルタイムで表示される。また、本実施形態では、これらの生体情報に加えて、演算部202で算出された静脈圧および心拍出量についても生体情報表示領域301に表示することもできる。
【0073】
また、循環動態を解析した結果、循環動態に異常がある可能性が高いと判定された場合、例えば、うっ血または末梢循環不全の可能性が高いと判定された場合、アラートメッセージが表示される。
図11に示す例では、末梢循環不全の可能性が高いと判定された場合であり、ディスプレイ151に「末梢循環不全の可能性があります」というアラートメッセージ302が表示されている。
【0074】
さらに、循環動態に異常がある可能性が高いと判定された場合、循環動態の解析結果を表示する画面(以下、「循環動態解析画面」という)に移行するための画面切り替えボタン303が表示されうる。これにより、基本モニタ画面300(第1の画面)と、循環動態解析画面(第2の画面)とが切り替え可能に構成されている。ユーザが、画面切り替えボタン303を押下(画面をタッチ、あるいはポインタをクリック)することにより、循環動態解析画面に切り替わる。これにより、医療従事者は、必要に応じて容易に循環動態の解析結果を確認できる。なお循環動態解析画面は、前述の
図5~
図10に示す(又は類する)画面であっても良いが、後述する
図12等のように履歴を確認できる画面である方がより好ましい。
【0075】
なお、アラートメッセージおよび画面切り替えボタンを表示する位置は、
図11に示すアラートメッセージ302の位置や、画面切り替えボタン303の位置に限定されない。例えば、画面切り替えボタンは、符号304が示す位置に表示されてよいし、循環動態の異常の可能性にかかわらず常時表示されてもよい。
【0076】
図12に示すように、循環動態解析画面400において、循環動態の解析結果の履歴が表示されうる。同図には、12時から14時まで1時間間隔で、3人の患者A,B,Cの循環動態の解析結果の履歴が例示されている。なお、この例では、複数の患者の循環動態の解析結果が同じ解析マップ401上に表示されているが、通常は、1つの解析マップ401上に1人の患者の解析結果の履歴が表示されることが好ましい。
【0077】
12時(12:00)、13時(13:00)、および14時(14:00)における患者A,B,Cの循環動態の解析結果は、それぞれ「●」、「〇」、および「■」のマーカで表されている。また、患者A,B,Cのそれぞれについて、各時刻のマーカとそれらを結ぶ直線とにより、解析結果の履歴が表されている。これにより、医療従事者は、解析結果の時間経過を一見して把握できる。
【0078】
例えば、患者A,Bは、12時および13時おいてI群(正常)であると判定されたが、その後、容態が悪化し、14時(直近の測定時刻)にはII群(うっ血の可能性が高い)と判定されている。一方、患者Cは、時間の経過とともに容態は悪化しているが、14時の時点でも正常と判定されている。
【0079】
また、患者A,Bについて、14時時点の静脈圧および心拍出量の値に大きな違いはないが、13時から14時のマーカ間距離は大きく異なる。すなわち、患者Aでは、13時から14時の間の容態の悪化が急激であったのに対して、患者Bでは、13時から14時の間の容態の悪化は急激ではない。直近の測定時刻では、患者A,Bの測定値に大きな違いはないが、容態の悪化の速度が異なるので、医療従事者による患者A,Bに対する治療方針(例えば、薬剤の投薬量等)が異なる可能性がある。
【0080】
報知制御部207は、異なる時刻の間に、静脈圧および心拍出量のうちの少なくともいずれかが以下の条件(a)~(e)の少なくともいずれかような変化をした場合に、アラームを発報するように制御する。報知制御部207、入出力インターフェース174、および出力装置150は、報知部として機能する。
【0081】
(a)静脈圧が閾値を超えて増加した場合
静脈圧が閾値を超えて増加した場合、すなわち解析マップ401(座標平面)上で静脈圧がI群から、II群またはIV群に移動した場合、患者の容態が正常な状態からうっ血の可能性が高い状態に移行したことを示す。
【0082】
(b)静脈圧が所定の増加率を超えて増加した場合
静脈圧が所定の増加率を超えて増加した場合、すなわち解析マップ401(座標平面)上において、静脈圧が大きな速度でX方向に時間の経過とともに移動し、患者の容態が急激に悪化したことを示す。増加率は、単位時間(例えば、1min、1hr)あたりの静脈圧の増加割合であり、静脈圧が単位時間間隔で測定されている場合、マーカ間の水平距離(マーカ間距離のX方向成分)に対応する。所定の増加率は、特に限定されるものではないが、例えば、5mmHg/1hrに設定されうる。
【0083】
(c)心拍出量が閾値を超えて減少した場合
心拍出量が閾値を超えて減少した場合、すなわち解析マップ401(座標平面)上で心拍出量がI群から、III群またはIV群に移動した場合、患者の容態が正常な状態から末梢循環不全の可能性が高い状態に移行したことを示す。
【0084】
(d)心拍出量が所定の減少率を超えて減少した場合
心拍出量が所定の減少率を超えて減少した場合、すなわち解析マップ401(座標平面)上において、心拍出量が大きな速度でY方向に移動し、患者の容態が急激に悪化したことを示す。減少率は、単位時間(例えば、1min、1hr)あたりの心拍出量の減少割合であり、心拍出量が単位時間間隔で測定されている場合、マーカ間の垂直距離(マーカ間距離のY方向成分)に対応する。所定の減少率は、特に限定されるものではないが、例えば、1L/min/1hrに設定されうる。
【0085】
(e)座標平面において、直近の時刻とその直前の時刻におけるマーカ間距離が所定距離以上ある場合
マーカ間距離が所定距離以上である場合、すなわち解析マップ401(座標平面)上において、静脈圧および/または心拍出量が大きな速度でX方向および/またはY方向に時間の経過とともに移動し、患者の容態が急激に悪化したことを示す。所定距離は、メモリ172に予め保存されているが、ユーザが入力装置140を介して入力し、設定することもできる。なお座標展開しなくとも、ある時刻の静脈圧及び心拍出量と異なる時刻の静脈圧及び心拍出量の変化率が大きい状態を任意の手法で検出して、患者の容態が急激に悪化したと判断すればよい。
【0086】
例えば、患者A,Bのいずれについても、13時から14時の間に静脈圧が閾値を超えて増加した(上記(a)に該当)ので、報知制御部207は、スピーカ152がアラーム音を発するように、入出力インターフェース174を制御する。また、患者Cについても、上記(b)に該当する場合は、アラームが発報される。これにより、患者の容態が悪化した場合や、急変した場合に、医療従事者は患者に対して即座に処置を実施できる。
【0087】
また、測定制御部201は、上記(a)~(e)の少なくともいずれかの場合、患者の循環動態解析を実施する頻度を増加させる。また、測定制御部201は、循環動態解析の頻度の増加に伴い、生体情報を取得する頻度も増加させる。測定制御部201は、例えば、静脈圧の増加率が大きい患者Cについて、1時間間隔で行っていた循環動態解析を20分間隔とし、15時に実施予定になっている次回の測定を前倒しして14時20分に変更する。患者の循環動態解析の頻度が増加することで、患者の容態の悪化を、医療従事者に早急に通知できる。
【0088】
図13に示すように、12時(12:00)、13時(13:00)、および14時(14:00)における患者C,Dの循環動態の解析結果が、それぞれ「●」、および「〇」のマーカで表されている。また、患者C,Dのそれぞれについて、各時刻のマーカとそれらを結ぶ直線とにより、解析結果の履歴が表されている。
【0089】
患者C,Dは、12時の時点で、それぞれII群およびIV群と判定されている。しかし、この後、医療従事者により投薬の処置が行われた結果、容態が改善し、13時にはI群と判定されている。このように、解析結果の履歴が表示されることにより、医療従事者は、患者の容態に異常が認められた場合において、処置(治療)による効果(治療の予後)を容易に把握できる。
【0090】
また、解析結果に関連する、患者の生体情報(脈波波形、心電図波形等)および/または測定値(動脈血圧、心拍数、呼吸数、SpO2、静脈圧、心拍出量等)を、循環動態の解析結果と併せて表示することもできる。より具体的には、
図14に示すように、表示制御部205は、循環動態の解析結果と、解析結果に関連する、患者の生体情報および/または測定値(以下、「測定値等」という)とを並べてディスプレイ151に表示する。同図に示す例では、患者の生体情報(例えば、心拍波形)が、解析マップ402の下側に、解析マップ402と並んで表示されている。なお、測定値等は、複数種類または複数個表示されてもよい。
【0091】
ユーザは、解析マップ402上で解析結果の時刻を、ポインタ(図中の矢印a)でクリックまたは画面にタッチすることで、表示させたい測定値等の時刻を指定できる。例えば、ユーザが解析マップ402上の「13:00」を、ポインタでクリックした場合、測定値等の表示領域403には、指定時刻(13時)を中心とした第1の所定時間(例えば、指定時刻の前後1分程度)の心拍波形が表示される。また、この範囲内における平均の心拍数(HR100)が表示されている。また、解析マップ402上の時刻をポインタでクリックする代わりに、測定時刻(または測定の基準時刻からの経過時間)を別途ディスプレイ151に一覧表示し、ユーザが表示させたい時刻(経過時間)を選択できるように構成してもよい。
【0092】
また、指定時刻を含む第2の所定時間(例えば、指定時刻の前後2時間程度)について、測定値のトレンドグラムを波形(トレンド波形)で表示してもよい。例えば、指定時刻が13時である場合、11時から15時までのトレンド波形が表示される。測定値は、血圧値、心拍数、SpO2等でありうる。また、トレンド波形とともに静脈圧および心拍出量も表示することができる。
【0093】
このように、解析結果に関連する、患者の測定値等を、循環動態の解析結果と併せて表示することにより、医療従事者は、患者の循環動態が、解析結果のようになった理由を、測定値等から推察できる。
【0094】
さらに、異なる時刻における測定値等を並べて表示することもできる。より具体的には、
図15に示すように、表示制御部205は、複数の測定値等を並べてディスプレイ151に表示する。同図に示す例では、2つの異なる時刻(13時および14時)における患者の生体情報(例えば、心拍波形)が、解析マップ404の下側に、上下に並んで表示されている。なお、1つの表示領域において、測定値等は、複数種類または複数個表示されてもよい。
【0095】
ユーザは、解析マップ404上で解析結果の時刻を、ポインタ(図中の矢印a,b)でクリックまたは画面にタッチすることで、表示させたい測定値等の時刻を指定できる。例えば、ユーザが解析マップ404上の「13:00」および「14:00」を、ポインタでクリックした場合、測定値等の表示領域405,406には、指定された時刻(13時および14時)を中心とした第1の所定時間の心拍波形がそれぞれ表示される。また、この範囲内における平均の心拍数(HR100,HR80)がそれぞれ表示されている。
【0096】
このように、解析結果に関連する、異なる時刻における測定値等を並べて表示することにより、医療従事者は、異なる時刻における測定値等を容易に比較できる。また、例えば、患者の容態がII群~IV群(すなわち、循環動態に異常の可能性がある)と判定されているときと、I群(すなわち、循環動態が正常)と判定されているときとで、測定値を比較することにより、医療従事者は、患者の循環動態が正常の場合と異常の可能性がある場合とについて測定値等を比較することにより、循環動態が異常になった理由を、測定値等から推察できる。
【0097】
しかし、複数の測定値等を表示する場合、ディスプレイ151の表示領域には限りがあるので、解析結果に関連するすべての測定値等を表示できるとは限らない。そこで、患者の測定値等を表示する優先順位を設定することができる。
【0098】
優先順位設定部208は、患者の測定値等を表示する優先順位を設定する。優先順位は、例えば、メモリ172に予めデフォルト値が記憶されている。この場合、測定値等は、例えば、下記の表1に示される優先順位に従って表示される。
【0099】
【0100】
また、優先順位設定部208は、ユーザの入力に基づいて、優先順位を設定することもできる。例えば、ユーザは、入力装置140を使用して、上記表1の各々の測定値等について優先順位を「高」、「中」、および「低」の文字や数値等で入力することができる。
【0101】
また、優先順位設定部208は、循環動態解析部204によって判定された分類群に応じて、優先順位を設定することもできる。例えば、心臓の収縮機能が低下している状態(III群またはIV群)から正常(I群)へ容態が改善した場合、心拍数および心拍出量の優先順位を「高」に設定する。一方、循環血液量が減少している状態(II群またはIV群)から正常(I群)へ容態が改善した場合、血圧値および静脈圧の優先順位を「高」に設定する。表示制御部205は、優先順位設定部208によって設定された優先順位に従って患者の測定値等を選択し、ディスプレイ151に表示する。これにより、ディスプレイ151の限られた表示領域に医療従事者が必要とする測定値等を効果的に表示できる。
【0102】
また、解析結果と関連して、医療従事者の処置に関する情報(以下、「処置情報」という)を表示することもできる。処置情報は、処置実施時に医療従事者が表示装置180に直接入力してもよいし、通信ネットワーク上の各種システム(例えば術中管理システム等)において管理されている情報を取得してもよい。
【0103】
実施した処置により、患者の容態が変化(改善または悪化)した場合、処置を実施した医療従事者自身、または患者の治療に携わる医療チームのメンバーは、どのような処置を行った結果、患者の容態が変化したのかを知る必要がある。例えば、患者に薬剤を投与した場合、どのような薬剤をどのくらいの量投与したのかについて知る必要がある。
【0104】
これに対して、表示制御部205は、対象としている患者の動態解析の解析結果に関連するすべての処置情報をディスプレイ151に表示してもよいが、限られた表示領域に多くの情報が表示されると煩雑になる可能性がある。そこで、表示制御部205は、ユーザが所望する期間に行われた処置のみを選択して表示することもできる。例えば、
図16に示すように、ユーザは、解析マップ407上の異なる時刻における解析結果を示す2つのマーカを結ぶ直線、または直線上のひし形(「◇」)のアイコン11をクリック、もしくは画面にタッチすることで、処置情報を表示させる期間を指定できる。
【0105】
例えば、12時に、患者の容態はII群と判定されていたが、医師Eが患者に利尿剤をXX[cc]投与したため、容態が改善し、13時にI群と判定された。ユーザが解析マップ407上の「12:00」のマーカと「13:00」のマーカとの間の直線、またはアイコン11を、矢印のポインタでクリックした場合、処置情報の表示領域408には、指定された期間の処置情報が表示される。処置情報の表示領域408には「12:00 利尿剤 XX cc 投与(by 医師E)」と表示されている。すなわち、12時に医師Eにより患者に利尿剤が投与された旨が表示されている。なお、処置情報は解析マップ407上に表示されてもよい。また、
図16に示す例では、アイコン11の近傍に、吹き出しに入れられた形で処置情報が表示されうる。
【0106】
このように、解析結果に関連して、ユーザの所望する期間の処置情報が表示される。したがって、実施した処置により、患者の容態に変化(改善または悪化)があった場合、医療従事者は、どのような処置を実施した結果、患者の容態が変化したのかを容易に確認することができる。
【0107】
<静脈圧の算出方法>
図17は、静脈圧を算出する処理手順を例示するためのフローチャートである。同図のフローチャートの処理は、CPU171が解析プログラムを実行することにより実現される。
【0108】
脈波センサ131が患者の左手指に装着されている場合、カフ111は、右腕に装着されることが好ましいが、これに限定されるものではない。また、カフ111と心臓の高さが等しい体位としたときに測定される平均静脈圧は、中心静脈圧と考えることができるため、このような体位とすることで本実施形態に係る血圧測定部により中心静脈圧を測定することができる。
【0109】
まず、カフ111を患者の腋窩部近傍の上腕に装着して、測定制御部201により、カフ111が腋窩部近傍の上腕に加える印加圧力(カフ圧)が0mmHgに設定される(ステップS201)。
【0110】
次に、印加圧力を所定の増加幅で増圧し(ステップS202)、カフ111および圧力センサ114によりカフ脈波を測定する(ステップS203)。所定の増圧幅で増圧される過程において、カフ脈波が測定される。印加圧力に応じて脈波振幅は変化していく。オシロメトリック法の原理に基づき、カフ圧が平均血圧と等しくなった点で脈波振幅は最大となる。印加圧力を増加させつつ行うカフ脈波の測定は、カフ脈波の振幅が所定の変化をするまで繰り返される(ステップS204、NO)。
【0111】
カフ脈波の振幅が所定の変化をした場合(S204:YES)、測定を終了し、印加圧力とカフ脈波の振幅の変化の関係から静脈圧を推定する(ステップS205)。なお、ステップS204において、印加圧力が所定の最大印加圧力に達した場合も安全上の観点から測定を終了する。
【0112】
なお、
図17の例では、印加圧力を0mmHgから昇圧しつつカフ脈波を測定し、カフ脈波の振幅が所定の変化をした印加圧力から静脈圧を推定する場合について説明したが、このような場合に限定されない。印加圧力を所定圧力から降圧しつつカフ脈波を測定し、カフ脈波の振幅が所定の変化をした印加圧力から静脈圧を推定するように構成してもよい。
【0113】
このように、本実施形態においては、演算部202は、最大印加圧力以下の範囲内でカフ圧力を腋窩部近傍の上腕に印加し、印加したカフ圧を変化させることによりカフで検出されるカフ脈波の振幅が所定の変化をしたカフ圧を求める。すなわち、演算部202は、カフ圧が平均静脈圧に至った際に静脈が圧閉されることによる脈圧の振幅の変化を検出することにより平均静脈圧を推定する。
【0114】
このように、本実施形態では、カフ111および圧力センサ114を1つずつ有する簡易な構成で静脈圧を非侵襲的に推定することができる。なお、静脈圧を算出する方法は、上述した方法に限定されず、例えば、特許第5694032号公報の第1実施形態~第6実施形態に記載されている方法を使用することもできる。
【0115】
<心拍出量の算出方法>
図18は、心拍出量を算出する処理手順を例示するためのフローチャートである。同図のフローチャートの処理は、CPU171が解析プログラムを実行することにより実現される。
【0116】
本実施形態では、心電図の所定のR波のピーク点から当該所定のR波の次に出現する所定の脈波波形の立ち上がり点までの時間間隔を示す脈波伝搬時間(以下、「PWTT」ともいう)から心拍出量を算出する方法を例示する。
【0117】
図18に示すように、患者の心電図データおよび光電脈波データを取得する(ステップS301)。測定制御部201は、心電図測定装置120を制御して、患者の心電図を測定し、心電図データを演算部202に送信する。また、測定制御部201は、光電脈波測定部を制御して、患者の光電脈波を測定し、光電脈波データを演算部202に送信する。
【0118】
次に、患者の脈波伝搬時間を算出する(ステップS302)。演算部202は、心電図データと光電脈波データに基づいて、脈波伝搬時間を測定する。より具体的には、演算部202は、心電図データから所定のR波のピーク点の時刻を特定するとともに、光電脈波データから当該所定のR波の次に出現する所定の脈波波形の立ち上がり点の時刻を特定する。そして演算部202は、所定の脈波波形の立ち上がり点の時刻と所定のR波のピーク点の時刻との間の時間間隔を演算することで脈波伝搬時間を測定する。演算部202は、脈波伝搬時間を所定時間(例えば、1秒)ごとに演算する。
【0119】
次に、患者の心拍出量を算出する(ステップS303)。演算部202は、算出された脈波伝搬時間と心拍数に基づいて、患者の心拍出量を推定する。患者の心拍出量は、下記数式(1)を用いて推定できることが知られている(例えば、特開2005-312947号公報を参照)。
【0120】
【0121】
ここで、esCCO(estimated Continuous Cardiac Output)は推定(算出)された患者の心拍出量を表し、HRは患者の心拍数を表す。また、K,α,βは患者者ごとに設定される固有の係数である。
【0122】
このように、心電図データおよび光電脈波データに基づいて、心拍出量を非侵襲的に推定することができる。
【0123】
以上のとおり、本実施形態の生体情報表示装置180によれば、患者の生体情報に基づいて算出された静脈圧および心拍出量に基づいて、患者の循環動態を解析するので、測定に対する患者への負担を抑制しつつ、患者の循環動態を推定できる。
【0124】
以上のとおり、実施形態において、本発明の生体情報表示システム100、生体情報表示装置180、および解析プログラムを説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略できることはいうまでもない。
【0125】
たとえば、上述の実施形態では、解析マップまたは座標平面上において、静脈圧および心拍出量の測定値に対応する位置にマーカをプロットし、測定時刻を表示することで、測定値の時間経過(履歴)を示したが、測定値の時間経過の表示方法はこれに限定されない。
【0126】
また、上述の例では、解析マップまたは座標平面上において、静脈圧および心拍出量の各々の軸を閾値によって複数の領域に分けて表示する場合について説明したが、本発明はこのような場合に限定されず、閾値、および/または領域を表す線を表示しない構成としてもよい。すなわち、表示制御部205は、静脈圧および心拍出量を座標軸にとった座標平面上に、取得部203によって取得された静脈圧および心拍出量をディスプレイに表示させる。医療従事者によっては、閾値や領域とマーカとの位置関係を意識することなく、解析マップまたは座標平面上にプロットされたマーカの位置のみを確認することにより、うっ血の程度や循環不全の程度を判断できるためである。
【0127】
また、上述の例では、静脈圧および心拍出量に基づいて、患者の循環動態を解析、または循環動態に関する情報を表示する場合について説明したが、このような場合に限定されない。例えば、算出された心拍出量から心係数を算出し、静脈圧および心係数に基づいて、患者の循環動態を解析、または循環動態に関する情報を表示するように構成してもよい。心係数は、患者の体格差を補正するために、患者の心拍出量を体表面積で割ることで、体表面積当たりの量に換算した心機能を表す指標である。心係数は、ユーザが入力装置140を通じて直接入力するように構成してもよいし、予め入力されている患者の身長および体重から推定するように構成してもよい。
【0128】
また上述の例では、カフを用い、被検者から取得した脈波及び上記被検者に与えた印加圧力に基づいて静脈圧を非侵襲的に算出したが、必ずしもこれに限られない。すなわち生体情報表示装置180は、被検者の体表に接触又は接近したセンサが取得した信号を基に静脈圧を非侵襲的に算出すればよい。
【0129】
例えば、被検者の頸部に光源とフォトデテクターを内蔵するセンサを配置し、当該センサが取得した光学的信号に対してNIRS(近赤外線分光法)を用いた演算を行う事によって静脈圧を推定しても良い。
【0130】
また、上述した実施形態に係る生体情報表示装置180における各種処理を行う手段および方法は、専用のハードウェア回路、またはプログラムされたコンピュータのいずれによっても実現することが可能である。上記プログラムは、例えば、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部に転送され記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、生体情報表示装置180の一機能としてその装置のソフトウェアに組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0131】
100 生体情報表示システム、
111 カフ、
112 加圧ポンプ、
113 排気弁、
114 圧力センサ、
115 カフ圧検出部、
116 ADC、
121 心電図測定用電極、
122 心電図測定装置、
131 光電脈波検出センサ、
132 脈波検出部、
133 ADC、
140 入力装置、
150 出力装置、
151 ディスプレイ、
152 スピーカ、
160 ネットワークインターフェース、
170 制御部、
171 CPU、
172 メモリ、
173 補助記憶部、
174 入出力インターフェース、
180 生体情報表示装置、
201 測定制御部
202 演算部、
203 取得部、
204 循環動態解析部、
205 表示制御部、
206 閾値設定部、
207 報知制御部、
208 優先順位設定部。