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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】音声秘匿システム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20240328BHJP
   G10K 11/175 20060101ALN20240328BHJP
【FI】
G10K11/178 120
G10K11/175
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020115547
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022022742
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 望
(72)【発明者】
【氏名】梶川 嘉延
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-339975(JP,A)
【文献】特表2015-515202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
G10K 11/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の位置である秘匿対象位置に対して秘匿の対象とする音声である秘匿対象音声を秘匿する音声秘匿システムであって、
秘匿対象音声を出力する第1スピーカと、
第2スピーカと、
キャンセル音を前記第2スピーカから出力する騒音制御手段と、
所定の音である所定音のレベルを調整し、前記第2スピーカから出力するレベル調整手段とを有し、
前記騒音制御手段は、秘匿対象位置において秘匿対象音声を打ち消すと推定される音をキャンセル音として生成し、
前記レベル調整手段は、前記第1スピーカに出力する秘匿対象音声と、当該秘匿対象音声の秘匿対象位置までの伝達関数と、前記第2スピーカに出力するキャンセル音と、当該キャンセル音の秘匿対象位置までの伝達関数とから、秘匿対象位置における前記キャンセル音による打ち消し後に残る秘匿対象音声のレベルを算定し、算定したレベルの秘匿対象音声が、秘匿対象位置において、前記第2スピーカから出力される所定音によってマスキングされるレベルに、前記所定音のレベルの調整を行うことを特徴とする音声秘匿システム。
【請求項2】
請求項1記載の音声秘匿システムであって、
前記レベル調整手段は、前記第2スピーカに出力する前記所定音と、当該所定音の秘匿対象位置までの伝達関数とに基づいて求まる、前記秘匿対象位置における前記所定音のレベルが、前記算定した打ち消し後に残る秘匿対象音声のレベルよりも、所定量大きくなるように、前記所定音のレベルの調整を行うことを特徴とする音声秘匿システム。
【請求項3】
請求項1記載の音声秘匿システムであって、
前記レベル調整手段は、秘匿対象位置における前記キャンセル音による打ち消し後に残る秘匿対象音声のレベルを、予め設定した複数の帯域の各々毎に算定すると共に、前記所定音のレベルの調整を前記帯域毎に行うことを特徴とする音声秘匿システム。
【請求項4】
請求項3記載の音声秘匿システムであって、
前記レベル調整手段は、前記第2スピーカに出力する前記所定音と、当該所定音の秘匿対象位置までの伝達関数とに基づいて求まる、前記秘匿対象位置における前記所定音の各帯域のレベルが、前記算定した打ち消し後に残る秘匿対象音声の同帯域レベルよりも、所定レベル大きくなるように、所定音のレベルの調整を帯域毎に行うことを特徴とする音声秘匿システム。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載の音声秘匿システムであって、
オーディオコンテンツの音声であるコンテンツ音を出力するオーディオ装置と、
所定のマスキング音を生成するマスキング音源とを有し、
前記所定音は、前記コンテンツ音とマスキング音とを少なくとも合成した合成音であり、
前記レベル調整手段は、前記第2スピーカに出力するマスキング音のレベルを調整することにより、前記所定音のレベルの調整を行うことを特徴とする音声秘匿システム。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の音声秘匿システムであって
前記騒音制御手段は、
マイクと、
前記秘匿対象音声を入力とし、出力を前記キャンセル音として前記第2スピーカに出力する適応フィルタと、
前記秘匿対象音声を入力とする補助フィルタと、
前記マイクの出力に補助フィルタの出力を加算してエラー信号として前記適応フィルタに出力するエラー補正手段とを有し、
前記適応フィルタは、前記エラー補正手段から入力するエラー信号が0となるように当該適応フィルタの伝達関数を更新し、
前記補助フィルタには、秘匿対象位置において第2スピーカから出力されたキャンセル音によって秘匿対象音声が打ち消されたときに、前記マイクの出力に前記補助フィルタの出力を加算した信号が0となる伝達関数として学習した伝達関数が予め設定されていることを特徴とする音声秘匿システム。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6記載の音声秘匿システムであって、
当該音声秘匿システムは、自動車に搭載されており、
前記秘匿対象位置は、前記自動車の座席に着座したユーザが音を聴取する位置であることを特徴とする音声秘匿システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声の漏れ聞こえを防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
音声の漏れ聞こえを防止する技術としては、会話の理解を阻害するマスキング音を出力することにより、会話の漏れ聞こえを防止するサウンドマスキングの技術が知られている。
【0003】
また、このようなサウンドマスキングの技術としては、マスキングする音声のレベルを帯域毎に求め、求めた各帯域のレベルに応じて、所定のソース音のレベルを帯域毎に調整してマスキング音として出力する技術が知られている(たとえば、特許文献1)
また、本発明に関する技術としては、騒音をキャンセルする位置である騒音キャンセル位置の近くに配置したマイクと、騒音キャンセル位置において騒音と打ち消しあって騒音をキャンセルするキャンセル音を出力するスピーカと、騒音源の出力信号もしくは当該出力信号を疑似した信号に適応的に設定した伝達関数を施してスピーカから出力するキャンセル音を生成する適応フィルタとを設け、適応フィルタにおいて、マイクの出力を補助フィルタを用いて補正した信号をエラー信号として伝達関数を適応的に設定する能動型騒音制御(ANC; Active Noise Control)の技術が知られている(たとえば、特許文献2)。
【0004】
ここで、この技術では、補助フィルタには、予め学習した、騒音キャンセル位置にマイクが配置されていた場合にマイクから出力される信号に、マイクが実際に出力する信号を補正する伝達関数が設定されており、このような補助フィルタを用いることにより、マイクの位置と異なる騒音キャンセル位置において、騒音をキャンセルしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-187714号公報
【文献】特開2018- 72770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
秘匿したい音声を秘匿対象音声、秘匿対象音声を聞かれたくないユーザを秘匿対象ユーザとして、上述したサウンドマスキングの技術によって、秘匿対象ユーザへの秘匿対象音声の漏れ聞こえを防止する場合、出力されるマスキング音は、当該秘匿対象ユーザにとって騒音となる場合がある。
【0007】
そこで、秘匿対象音声を騒音として、上述した能動型騒音制御等の騒音をキャンセルする騒音キャンセルの技術を適用し、秘匿対象ユーザに聞こえる秘匿対象音声を打ち消すことによって、秘匿対象ユーザへの秘匿対象音声の漏れ聞こえを防止することが考えられる。
【0008】
しかし、音響的な条件が変化する環境下等では、騒音キャンセルの技術によっては、秘匿対象ユーザへの秘匿対象音声の漏れ聞こえを充分に防止できなくなる場合が生じることが想定される。
【0009】
そこで、本発明は、騒音キャンセルの技術を用いつつ、秘匿したい音声の漏れ聞こえを確実に防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題達成のために、本発明は、所定の位置である秘匿対象位置に対して秘匿の対象とする音声である秘匿対象音声を秘匿する音声秘匿システムに、秘匿対象音声を出力する第1スピーカと、第2スピーカと、キャンセル音を前記第2スピーカから出力する騒音制御手段と、所定の音である所定音のレベルを調整し、前記第2スピーカから出力するレベル調整手段とを備えたものである。ここで、前記騒音制御手段は、秘匿対象位置において秘匿対象音声を打ち消すと推定される音をキャンセル音として生成し、前記レベル調整手段は、前記第1スピーカに出力する秘匿対象音声と、当該秘匿対象音声の秘匿対象位置までの伝達関数と、前記第2スピーカに出力するキャンセル音と、当該キャンセル音の秘匿対象位置までの伝達関数とから、秘匿対象位置における前記キャンセル音による打ち消し後に残る秘匿対象音声のレベルを算定し、算定したレベルの秘匿対象音声が、秘匿対象位置において、前記第2スピーカから出力される所定音によってマスキングされるレベルに、前記所定音のレベルの調整を行う。
【0011】
ここで、このような音声秘匿システムは、前記レベル調整手段において、前記第2スピーカに出力する前記所定音と、当該所定音の秘匿対象位置までの伝達関数とに基づいて求まる、前記秘匿対象位置における前記所定音のレベルが、前記算定した打ち消し後に残る秘匿対象音声のレベルよりも、所定量大きくなるように、前記所定音のレベルの調整を行うように構成してもよい。
【0012】
また、このような音声秘匿システムは、前記レベル調整手段において、秘匿対象位置における前記キャンセル音による打ち消し後に残る秘匿対象音声のレベルを、予め設定した複数の帯域の各々毎に算定すると共に、前記所定音のレベルの調整を前記帯域毎に行うように構成してもよい。
【0013】
また、この場合には、前記レベル調整手段において、前記第2スピーカに出力する前記所定音と、当該所定音の秘匿対象位置までの伝達関数とに基づいて求まる、前記秘匿対象位置における前記所定音の各帯域のレベルが、前記算定した打ち消し後に残る秘匿対象音声の同帯域レベルよりも、所定レベル大きくなるように、所定音のレベルの調整を帯域毎に行ってもよい。
【0014】
また、以上の音声秘匿システムは、当該音声秘匿システムに、オーディオコンテンツの音声であるコンテンツ音を出力するオーディオ装置と、所定のマスキング音を生成するマスキング音源とを設け、前記所定音を、前記コンテンツ音とマスキング音とを少なくとも合成した合成音とし、前記レベル調整手段において、前記第2スピーカに出力するマスキング音のレベルを調整することにより、前記所定音のレベルの調整を行うようにしてもよい。
【0015】
また、以上の音声秘匿システムにおいて、前記騒音制御手段は、マイクと、前記秘匿対象音声を入力とし、出力を前記キャンセル音として前記第2スピーカに出力する適応フィルタと、前記秘匿対象音声を入力とする補助フィルタと、前記マイクの出力に補助フィルタの出力を加算してエラー信号として前記適応フィルタに出力するエラー補正手段とを備えたものとしてもよい。ここで、前記適応フィルタは、前記エラー補正手段から入力するエラー信号が0となるように当該適応フィルタの伝達関数を更新し、前記補助フィルタには、秘匿対象位置において第2スピーカから出力されたキャンセル音によって秘匿対象音声が打ち消されたときに、前記マイクの出力に前記補助フィルタの出力を加算した信号が0となる伝達関数として学習した伝達関数が予め設定されている。
【0016】
また、以上の音声秘匿システムは、自動車に搭載されたシステムであってよく、この場合、前記秘匿対象位置は、前記自動車の座席に着座したユーザが音を聴取する位置としてよい。
【0017】
以上のような音声秘匿システムによれば、秘匿対象位置において秘匿対象音声を打ち消すキャンセル音を出力する騒音キャンセルの技術を用いて秘匿対象音声の秘匿化を図りつつ、秘匿対象位置における前記キャンセル音による打ち消し後に残る秘匿対象音声のレベルに応じて、出力する所定音のレベルを、当該打ち消し後に残る秘匿対象音声を秘匿対象位置においてマスキングするレベルに調整するので、秘匿対象音声の漏れ聞こえを確実に防止することができる。また、マスキング音声の出力のみによって秘匿対象音声の漏れ聞こえを防止する場合に比べ、音声秘匿システムが秘匿対象音声を秘匿するために出力する、秘匿対象位置のユーザにとって不要な音の大きさを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、騒音キャンセルの技術を用いつつ、秘匿したい音声の漏れ聞こえを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る音声秘匿システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係るマスキング音調整部の構成を示すブロック図である。。
図3】本発明の実施形態に係るマスキング音レベル制御部の構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係る騒音制御システムの構成を示すブロック図である。
図5】本発明の実施形態に係る騒音制御システムの補助フィルタの伝達関数の学習の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る音声秘匿システムの構成を示す。
図示するように、音声秘匿システムは、移動電話装置1、オーディオ装置2、マスキング原音生成器3、通話マイク4、第1スピーカ5、第2スピーカ6、騒音制御システム7、マスキング音調整部8、マスキング音制御部9、第1加算器10、第2加算器11を備えている。
【0021】
音声秘匿システムは、自動車に搭載されるシステムであり、座席Z1に着座したユーザU1は、移動電話装置1を用いて移動電話による通話を行うことができる。ここで、この移動電話による通話では、通話マイク4が送話音声の入力に用いられ、座席Z1用のスピーカである第1スピーカ5が受話音声Tの出力に用いられる。
【0022】
そして、音声秘匿システムは、第1スピーカ5から出力される受話音声Tの、座席Z2に着座したユーザU2への漏れ聞こえを防止するものである。
さて、オーディオ装置2は楽曲等のオーディオコンテンツの再生音Aを出力する。
【0023】
次に、マスキング原音生成器3は、ホワイトノイズ音などの所定のマスキング原音MSKを出力し、マスキング音調整部8は、マスキング原音MSKのレベルを帯域毎に調整し、マスキング音Mとして出力する。
【0024】
また、騒音制御システム7は、移動電話装置1が出力する受話音声Tから、キャンセル音Cを生成し出力する。
第1加算器10は、オーディオ装置2が出力する再生音Aにマスキング音調整部8が出力するマスキング音Mを加算してA+M音を出力し、第2加算器11はA+M音に騒音制御システム7が出力するキャンセル音Cを加算し、A+M+C音を出力音Xとして座席Z2用のスピーカである第2スピーカ6から出力する。
そして、オーディオ装置2が出力したオーディオコンテンツの再生音Aは、座席Z2に着座したユーザU2によって聴取される。
【0025】
ここで、騒音制御システム7は、キャンセル音Cとして、第2スピーカ6から出力されるキャンセル音によって、座席Z2のユーザU2の位置で、第1スピーカ5から車内に放射された受話音声Tが打ち消されると推定される音を、移動電話装置1が出力する受話音声Tから生成する。
【0026】
マスキング音制御部9は、騒音制御システム7が出力するキャンセル音C、移動電話装置1が出力する受話音声T、オーディオ装置2が出力する再生音A、マスキング音調整部8が出力するマスキング音Mに応じて、マスキング音調整部8におけるマスキング原音MSKの帯域毎のレベル調整動作を制御する。
【0027】
ここで、本実施形態では、可聴周波数範囲または移動電話装置1が出力する受話音声Tの周波数範囲を、1からnまでのn個の帯域に分割し、マスキング音調整部8において、n個の帯域毎にマスキング原音MSKのレベルの調整を行う。
【0028】
また、マスキング音制御部9は、n個の制御信号CNT1-CNTnをマスキング音調整部8に出力する。i番目の制御信号CNTiは、マスキング音調整部8の、マスキング原音MSKのi番目の帯域のゲインを制御するものである。
【0029】
図2に、このような帯域毎のレベル調整を行うマスキング音調整部8の構成を示す。
図示するように、マスキング音調整部8は、1からnまでのn個の帯域に対応するn個のバンドパスフィルタ81を備えており、各バンドパスフィルタ81はマスキング原音MSKの対応する帯域の成分を抽出する。ここで、図中のBPFiは、i番目の帯域に対応するバンドパスフィルタ81を表している。
【0030】
また、マスキング音調整部8は、1からnまでのn個の帯域に対応するn個の可変増幅器82を備えており、各可変増幅器82は対応する帯域が同じバンドパスフィルタ81から出力される、マスキング原音MSKの対応する帯域の成分を増幅する。ここで、図中のGiは、i番目の帯域に対応する可変増幅器82のゲインを表している。
【0031】
そして、各可変増幅器82の出力は帯域合成用加算器83で加算されマスキング音Mとして出力される。
ここで、各可変増幅器82のゲインはマスキング音制御部9によって制御される。すなわち、i番目の帯域に対応する可変増幅器82のゲインGiは、マスキング音制御部9から出力される制御信号CNTiによって制御される。
【0032】
次に、図3に、マスキング音制御部9の構成を示す。
図示するようにマスキング音制御部9は、第1フィルタ91、第2フィルタ92、第3フィルタ93、第4フィルタ94、残存音算出用加算器95、帯域毎ゲイン設定部96を備えている。
【0033】
第1フィルタ91は、移動電話装置1が出力する受話音声Tに伝達関数Pv(z)を施して出力する。ここで、伝達関数Pv(z)は、移動電話装置1が出力する受話音声Tの座席Z2に着座したユーザU2の音聴取位置までの伝達関数、すなわち、図1に示すように、第1スピーカ5の入力から座席Z2に着座したユーザU2の音聴取位置までの伝達関数であり、伝達関数Pv(z)は、予め計測して第1フィルタ91に設定する。
【0034】
また、第2フィルタ92は、騒音制御システム7が出力するキャンセル音Cに伝達関数Cv(z)を施して出力する。ここで、伝達関数Cv(z)は、騒音制御システム7が出力するキャンセル音Cやオーディオ装置2が出力する再生音Aやマスキング音調整部8が出力するマスキング音Mの座席Z2のユーザU2の音聴取位置までの伝達関数、すなわち、図1に示すように、第2スピーカ6の入力から座席Z2のユーザU2の音聴取位置までの伝達関数であり、伝達関数Cv(z)は、予め計測して第2フィルタ92に設定する。
【0035】
そして、第3フィルタ93は、オーディオ装置2が出力する再生音Aに伝達関数Cv(z)を施して出力し、第4フィルタ94は、マスキング音調整部8が出力するマスキング音Mに伝達関数Cv(z)を施して出力する。
【0036】
残存音算出用加算器95は、第1フィルタ91から出力される伝達関数Pv(z)が施された受話音声Pv(z)・Tと、第2フィルタ92から出力される伝達関数Cv(z)が施されたキャンセル音Cv(z)・Cとを加算し、残存音Ceとして帯域毎ゲイン設定部96に出力する。
【0037】
ここで、このようにして出力される残存音Ceは、伝達関数Pv(z)と伝達関数Cv(z)から推定した、座席Z2のユーザU2の音聴取位置においてキャンセル音Cでキャンセルしきれなかった受話音声Tの残りとなる。
【0038】
次に、帯域毎ゲイン設定部96は、上述した1からnまでのn個の帯域の各々について、当該帯域のマスキング音調整部8のゲインを算出する。
すなわち、帯域毎ゲイン設定部96は、第3フィルタ93から出力される伝達関数Cv(z)が施された再生音Cv(z)・Aと、第4フィルタ94から出力される伝達関数Cv(z)が施されたマスキング音Cv(z)・Mとを加算した音を、マスキング実効音とする。
【0039】
そして、1からnまでのn個の帯域の各々について、マスキング実効音の当該帯域の成分の大きさと、残存音Ceの当該帯域の成分の大きさとを算定する。
そして、算定した大きさに応じて、マスキング実効音の当該帯域の成分の大きさが、残存音Ceの当該帯域の成分をマスキングして、残存音Ceの当該帯域の成分が聞き取れなくなる大きさとなるように、マスキング音調整部8の当該帯域のゲインを算出する。
【0040】
すなわち、たとえば、マスキング音調整部8において当該ゲインでマスキング原音MSKの当該帯域の成分を増幅したときに、マスキング実効音の当該帯域の成分の大きさが、残存音Ceの当該帯域の成分の大きさより、所定音量Δk(たとえば、Δkは12dB)大きくなるゲインを、マスキング音調整部8の当該帯域のゲインとして算出する。
【0041】
そして、n個の帯域の各々について、算出した当該帯域のゲインにマスキング音調整部8の当該帯域に対応する可変増幅器82のゲインを制御する制御信号CNT1-CNTnを生成し、マスキング音調整部8に出力する。
【0042】
すなわち、i番目の帯域iについては、たとえば、残存音Ceの帯域iの成分の大きさをL1i、伝達関数Cv(z)が施された再生音Cv(z)・Aの帯域iの成分の大きさをL2iとして、
ΔGi=(L1i+Δk-L2i)/Cv(z)・M
を、帯域iのマスキング音調整部8のゲインの増加量ΔGiとして、現在の帯域iのマスキング音調整部8のゲインを増加量ΔGi増加させたゲインGiを算出する。
【0043】
そして、マスキング音調整部8の帯域iに対応する可変増幅器82のゲインを算出したゲインGiに制御する制御信号CNTiを生成し、マスキング音調整部8に出力する。
次に、騒音制御システム7の構成を図4に示す。
図示した構成は、能動型騒音制御(ANC; Active Noise Control)を行う場合の騒音制御システム7の構成であり、この場合、図示するように、座席Z2の近傍に、騒音制御システム7と接続したエラーマイク12を配置する。
【0044】
さて、騒音制御システム7は、可変フィルタ71、適応アルゴリズム実行部72、予め伝達関数S^(z)が設定された推定フィルタ73、減算器74、各々予め伝達関数H(z)が設定された補助フィルタ75を備えている。
【0045】
騒音制御システム7に、移動電話装置1から入力した受話音声Tは、可変フィルタ71を通ってキャンセル音Cとして出力される。
また、入力した受話音声Tは補助フィルタ75を通って減算器74に送られ、減算器74は、エラーマイク12でピックアップしたエラー信号Eから、補助フィルタ75の出力を減算し、エラーとして、適応アルゴリズム実行部72に出力する。
【0046】
可変フィルタ71と適応アルゴリズム実行部72と推定フィルタ73はFiltered-X適応フィルタを構成している。推定フィルタ73には、騒音制御システム7からエラーマイク12までの伝達関数S(z)を実測等により推定した推定伝達特性S^(z)が予め設定されており、推定フィルタ73は、伝達特性S^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、適応アルゴリズム実行部72に入力する。
【0047】
そして、適応アルゴリズム実行部72は、推定フィルタ73で伝達関数S^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、減算器74から出力されるエラーとを入力として、NLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、エラーが0となるように可変フィルタ71の伝達関数W(z)を更新する適応動作を行う。
【0048】
ここで、補助フィルタ75の伝達関数H(z)は、それぞれについて、予め第1段階の学習処理と第2段階の学習処理を行うことにより設定される。
第1段階の学習処理は、騒音制御システム7を図5aに示す第1段階学習処理部20に、エラーマイク12を学習用マイク21に置き換えた構成において行う。
学習用マイク21は、座席Z2に着座したユーザの標準的な音聴取位置に配置する。
ここで、このような学習用マイク21の配置は、頭部に学習用マイク21を固定したダミー人形Dを座席Z2に着座させること等により行う。
第1段階学習処理部20は、図4に示した騒音制御システム7から、補助フィルタ75と減算器74を排して、推定フィルタ73を伝達関数Cv^(z)が設定された推定フィルタ201に置換し、学習用マイク21の出力をエラーとして適応アルゴリズム実行部72に入力した構成を備えている。ただし、伝達関数Cv^(z)は、学習用マイク21を用いて計測した第1段階学習処理部20から学習用マイク21までの伝達関数Cv(z)とする。
【0049】
そして、このような構成において、適応アルゴリズム実行部72による適応動作によって可変フィルタ71の伝達関数W(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数W(z)を第1段階の学習処理の結果として得る。
【0050】
ここで、上述のように学習用マイク21を用いて計測した第1段階学習処理部20から学習用マイク21までの伝達関数Cv(z)は、マスキング音制御部9の第2フィルタ92、第3フィルタ93、第4フィルタ94に設定する伝達関数Cv(z)として用いることができる。
【0051】
また、マスキング音制御部9の第1フィルタ91に設定する、第1スピーカ5の入力から座席Z2に着座したユーザU2の音聴取位置までの伝達関数Pv(z)も、学習用マイク21を用いて計測して設定するようにしてよい。ただし、第1段階学習処理部20において可変フィルタ71の伝達関数W(z)が収束した状態において、Pv(z)・T+Cv(z)・W(z)・T=0が成立しているので、Cv(z)と、第1段階の学習処理の結果として得たW(z)より、Pv(z)を算出して、マスキング音制御部9の第1フィルタ91に設定してもよい。
【0052】
次に、第2段階の学習処理は、騒音制御システム7を図5bに示す第2段階学習処理部30に置き換えた構成において設定する。
第2段階学習処理部30は、第1段階の学習処理の結果として得た伝達関数W(z)を伝達関数として設定した固定フィルタ301と、可変フィルタ302と、適応アルゴリズム実行部303と、減算器304を備えている。
【0053】
第2段階学習処理部30に入力した受話音声Tは、固定フィルタ301を通って第2スピーカ6に出力される。
また、入力した受話音声Tは可変フィルタ302を通って減算器304に送られ、減算器304はエラーマイク12でピックアップした信号から可変フィルタ302の出力を減算し、エラーとして、適応アルゴリズム実行部303に出力する。
【0054】
そして、このような構成において、適応アルゴリズム実行部303による適応動作によって可変フィルタ302の伝達関数H(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数H(z)を、騒音制御システム7の補助フィルタ75の伝達関数H(z)とする。
【0055】
ここで、このようにして学習された伝達関数H(z)は、騒音制御システム7において、座席Z2に着座したユーザの標準的な音聴取位置にエラーマイク12が位置していた場合にエラーマイク12から出力される信号に、エラーマイク12が実際に出力するエラー信号Eを補正する信号を、補助フィルタ75が出力する伝達関数となる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明した。
以上のように、本実施形態によれば、受話音声Tを打ち消すキャンセル音を出力する騒音キャンセルの技術を用いて受話音声TのユーザU2に対する秘匿化を図りつつ、キャンセル音による打ち消し後に残る受話音声Tのレベルに応じて、出力するマスキング音Mのレベルを、ユーザU2に対して、当該打ち消し後に残る受話音声Tが、マスキング音Mと再生音Aによってマスキングされるレベルに調整するので、受話音声TのユーザU2への漏れ聞こえを確実に防止することができる。また、マスキング音Mの出力のみによって受話音声Tの漏れ聞こえを防止する場合に比べ、音声秘匿システムが出力するユーザU2にとって騒音として聞こえてしまうマスキング音Mを小さくできる。
【0057】
ところで、以上の実施形態は、座席Z2の位置が可変である場合には、第1スピーカ5の入力から座席Z2に着座したユーザU2の音聴取位置までの伝達関数Pv(z)や、第2スピーカ6の入力から座席Z2に着座したユーザU2の音聴取位置までの伝達関数Cv(z)や、補助フィルタ75の伝達関数H(z)を、座席Z2が移動し得る位置毎に求めておき、音声秘匿システムにおいて、座席Z2の位置を検出し、検出した位置に対応する伝達関数に、伝達関数Pv(z)や伝達関数Cv(z)や伝達関数H(z)を切り替えるようにしてもよい。
【0058】
また、以上の実施形態では、受話音声Tの漏れ聞こえを防止する位置を単一の位置としたが、たとえば座席Z2に着座したユーザU2左耳と右耳の位置等の、複数の位置への受話音声Tの漏れ聞こえを、それぞれ防止するように、本実施形態を拡張して適用してもよい。
【0059】
また、以上の実施形態において、マスキング原音生成器3は、受話音声Tを記憶し、マスキング原音MSKとして、過去の受話音声Tを出力するものとしてもよい。
また、以上の実施形態では、移動電話の受話音声Tを秘匿する音声として、その漏れ聞こえを防止したが、秘匿する音声は、ラジオ受信音声や再生音声等の、受話音声T以外の任意の音声であってよい。
【0060】
また、本実施形態では、マスキング音調整部8において、n個の帯域毎にマスキング原音MSKのレベルの調整を行ったが、これは、n=1として帯域の分割を行わずに、マスキング音調整部8において、マスキング原音MSKのレベルの調整を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…移動電話装置、2…オーディオ装置、3…マスキング原音生成器、4…通話マイク、5…第1スピーカ、6…第2スピーカ、7…騒音制御システム、8…マスキング音調整部、9…マスキング音制御部、10…第1加算器、11…第2加算器、12…エラーマイク、20…第1段階学習処理部、21…学習用マイク、30…第2段階学習処理部、71…可変フィルタ、72…適応アルゴリズム実行部、73…推定フィルタ、74…減算器、75…補助フィルタ、81…バンドパスフィルタ、82…可変増幅器、83…帯域合成用加算器、91…第1フィルタ、92…第2フィルタ、93…第3フィルタ、94…第4フィルタ、95…残存音算出用加算器、96…帯域毎ゲイン設定部、201…推定フィルタ、301…固定フィルタ、302…可変フィルタ、303…適応アルゴリズム実行部、304…減算器。
図1
図2
図3
図4
図5