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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】給電装置、及び、給電方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/40 20160101AFI20240328BHJP
   H02J 50/20 20160101ALI20240328BHJP
   H02J 50/80 20160101ALI20240328BHJP
【FI】
H02J50/40
H02J50/20
H02J50/80
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020117894
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022015204
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正明
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098770(JP,A)
【文献】特開2018-148619(JP,A)
【文献】特開2019-083648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を送電可能な複数のアンテナのうち、第1受電装置の周囲に位置する複数の第1アンテナの送電信号の位相を制御する第1送電制御部と、
前記複数のアンテナのうち、前記複数の第1アンテナ以外の1又は複数の第2アンテナの送電信号の位相を制御する第2送電制御部と
を含み、
前記第1送電制御部は、前記複数の第1アンテナから前記第1受電装置が受電する信号の位相が揃うように前記複数の第1アンテナの送電信号の位相関係を保持しながら前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を時系列的に変化させ、
前記第2送電制御部は、前記1又は複数の第2アンテナが1又は複数の第2受電装置に送電する送電信号の位相を時系列に変化させる、給電装置。
【請求項2】
前記位相関係は、前記第1送電制御部が前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を時系列的にランダムに変化させたときに、前記第1受電装置の受電電力が所定の閾値以上になったときの前記複数の第1アンテナの送電信号の位相の関係である、請求項1に記載の給電装置。
【請求項3】
前記第1送電制御部は、1又は複数のタイムスロット毎に前記複数の第1アンテナの送電信号の位相関係を保持しながら前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を時系列的に変化させており、
前記第1受電装置は、受電電力が所定の閾値以上になったときのタイムスロットを特定する情報を前記第1送電制御部に通知し、
前記第1送電制御部は、前記通知された情報で特定されるタイムスロットにおける前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を前記位相関係として設定する、請求項1又は2に記載の給電装置。
【請求項4】
前記位相関係は、前記第1送電制御部が前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を時系列的にランダムに変化させたときに、第1タイミングで前記第1受電装置の受電電力が所定の閾値以上になったときの第1位相関係と、第2タイミングで前記第1受電装置の受電電力が前記所定の閾値以上になったときの第2位相関係とを有し、
前記第1送電制御部は、前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を前記第1位相関係と前記第2位相関係とに時系列的に切り替える、請求項2に記載の給電装置。
【請求項5】
前記複数の第1アンテナは、前記複数のアンテナのうち、前記第1受電装置が信号を送信したときの受電電力が所定値以上の複数のアンテナである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の給電装置。
【請求項6】
前記第1送電制御部は、
前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を制御するとともに、前記複数のアンテナのうち、第3受電装置の周囲に位置する複数の第3アンテナの送電信号の位相を制御し、
前記複数の第1アンテナと、前記複数の第3アンテナとのうち、少なくともいずれか1つが共通である場合は、当該共通のアンテナの送電信号の位相を基準として、前記複数の第1アンテナから前記第1受電装置が受電する信号の位相が揃うように前記複数の第1アンテナの送電信号の位相関係を保持しながら前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を時系列的に変化させるとともに、前記複数の第3アンテナから前記第3受電装置が受電する信号の位相が揃うように前記複数の第3アンテナの送電信号の位相関係を保持しながら前記複数の第3アンテナの送電信号の位相を時系列的に変化させる、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の給電装置。
【請求項7】
前記第1送電制御部は、前記複数の第1アンテナの送電信号の位相関係を保持しながら前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を時系列的に変化させる際に、前記複数の第1アンテナの送電信号の位相の変化量を±π/2又は±πに設定して前記送電信号の差動符号化を行うことで、前記第1受電装置に情報を通知する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の給電装置。
【請求項8】
電力を送電可能な複数のアンテナのうち、第1受電装置の周囲に位置する複数の第1アンテナの送電信号の位相を制御することと、
前記複数のアンテナのうち、前記複数の第1アンテナ以外の1又は複数の第2アンテナの送電信号の位相を制御することと
を含む給電方法であって、
前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を制御することは、前記複数の第1アンテナから前記第1受電装置が受電する信号の位相が揃うように前記複数の第1アンテナの送電信号の位相関係を保持しながら前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を時系列的に変化させることであり、
前記1又は複数の第2アンテナの送電信号の位相を制御することは、前記1又は複数の第2アンテナが1又は複数の第2受電装置に送電する送電信号の位相を時系列に変化させることである、給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電装置、及び、給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、受電機器の方向を検出する第1の検出手段と、第1の検出手段によって検出された受電機器の方向に無線で給電電力を放射する第1の放射、及び、給電電力を放射する方向を定められた範囲で変更しながら無線で給電電力を放射する第2の放射を行うよう、給電電力を放射する放射部を制御する制御手段とを有する給電機器がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-083648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の給電機器は、複数の受電装置に対して給電する場合に、多くの受電量が必要な特定の受電装置への給電と、特定の受電装置以外の受電装置への給電とを両立することを行っていない。
【0005】
そこで、多くの受電量が必要な特定の受電装置への給電と、特定の受電装置以外の受電装置への給電とを両立可能な給電装置、及び、給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の給電装置は、電力を送電可能な複数のアンテナのうち、第1受電装置の周囲に位置する複数の第1アンテナの送電信号の位相を制御する第1送電制御部と、前記複数のアンテナのうち、前記複数の第1アンテナ以外の1又は複数の第2アンテナの送電信号の位相を制御する第2送電制御部とを含み、前記第1送電制御部は、前記複数の第1アンテナから前記第1受電装置が受電する信号の位相が揃うように前記複数の第1アンテナの送電信号の位相関係を保持しながら前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を時系列的に変化させ、前記第2送電制御部は、前記1又は複数の第2アンテナが1又は複数の第2受電装置に送電する送電信号の位相を時系列に変化させる。
【発明の効果】
【0007】
多くの受電量が必要な特定の受電装置への給電と、特定の受電装置以外の受電装置への給電とを両立可能な給電装置、及び、給電方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の給電装置100を示す図である。
図2】制御装置140の構成を示す図である。
図3】アンテナサブセット110Aの一例を示す図である。
図4】特定デバイス50Aの受電信号の位相を説明する図である。
図5】サブセットモードで複数のアンテナ素子111の送電信号の位相関係を決定する方法を説明する図である。
図6】位相インデックスを説明する図である。
図7】アンテナサブセット110Aのアンテナ素子に割り当てる位相インデックスPIの一例を示す図である。
図8】サブセットモードでアンテナサブセット110Aのアンテナ素子111に設定する位相インデックスの一例を示す図である。
図9】制御装置140が実行する処理を表すフローチャートを示す図である。
図10】受電電力の累積分布関数のシミュレーション結果を示す図である。
図11】アンテナサブセット110A1、110A2を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の給電装置、及び、給電方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、実施形態の給電装置100を示す図である。以下では、XYZ座標系を用いて説明する。平面視とはXY平面視のことである。
【0011】
給電装置100は、一例として、スマート工場、大規模プラント、物流センタ、倉庫等の大規模な施設の領域10に配置される。給電装置100は、アレイアンテナ110、フェーズシフタ120、ICチップ125、マイクロ波発生源130、及び制御装置140を含み、領域10内に存在する複数のデバイス50に非接触で給電(マイクロ波給電)を行う。実施形態の給電方法は、給電装置100によって実現される給電方法であり、特に制御装置140が実行する処理によって実現される。
【0012】
給電装置100は、不特定多数のデバイス50に給電を行う際に、アレイアンテナ110にビームフォーミングでの送電を行わせる。アレイアンテナ110の複数のアンテナ素子111は、後述する送電制御部が指定した送電位相で送信可能である。複数のアンテナ素子111が出力する送電信号の位相を固定すると、複数のアンテナ出力信号から形成されるビームによって領域10内に定在波が生じ、定在波の節の位置に存在するデバイス50には電力が殆ど供給されなくなる。このような事態を避けるために、給電装置100は、複数のアンテナ素子111から出力される複数の送電信号の位相を時系列的にランダムにシフトさせて、定在波の節が特定の場所に長時間にわたり生じないようにしている。換言すれば、定在波の節が領域10内で移動するようにしている。送電信号の位相は、タイムスロットに従ってシフトされる。なお、送電信号とは、アンテナ素子111から送電(送信)される信号であり、所定の電力を有する信号である。
【0013】
このように複数のアンテナ素子111から出力される複数の送電信号の位相をタイムスロットに従ってランダムにシフトさせて形成するビームでの送電を行うことを以下ではランダムビームフォーミングと称す。
【0014】
また、複数のデバイス50の中には、内部のバッテリ53を充電するためにより多くの受電電力を必要とするデバイス50が存在しうる。例えば、他のデバイス50よりも多くの電力を消費して内部のバッテリ53の残量が少なくなっているデバイス50である。このようにより多くの受電電力を必要とするデバイス50を特定デバイス50Aと称す。図1には、ある時点における1つのデバイス50を特定デバイス50Aとして示す。特定デバイス50Aは、第1受電装置の一例である。
【0015】
特定デバイス50Aは、複数のアンテナ素子111のうちのアンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111から主に受電する。ランダムビームフォーミングよりも、より集中的に送電を行うことにより、特定デバイス50Aのバッテリ53を早期に充電するためである。アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111は、第1アンテナの一例である。アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111は、第2アンテナの一例である。
【0016】
アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111から特定デバイス50Aへの送電もタイムスロットに従って位相がシフトされる。図1では、アンテナサブセット110Aに4つのアンテナ素子111が含まれている。アンテナサブセット110A、及び、特定デバイス50Aへの送電信号の位相シフトについては後述する。
【0017】
複数のデバイス50のうち、特定デバイス50A以外を非特定デバイス50Bと称す。非特定デバイス50Bは、第2受電装置の一例である。すべてのデバイス50は、状況に応じて特定デバイス50Aになり得る。特定デバイス50Aは、バッテリ53の充電量が十分な量になれば、アンテナサブセット110Aからの集中的な電力供給が行われなくなり、非特定デバイス50Bになる。非特定デバイス50Bは、アンテナサブセット110Aを含むアンテナ素子111からランダムビームフォーミングによる送電を受ける。
【0018】
給電装置100は、非特定デバイス50Bへのランダムビームフォーミングによる送電と、特定デバイス50Aへのアンテナサブセット110Aからの送電とを両立する給電装置である。なお、以下では、特定デバイス50Aと非特定デバイス50Bとを特に区別しない場合には、単にデバイス50と称す。
【0019】
デバイス50は、図1の下側に拡大して示すように、アンテナ51、制御部52、及びバッテリ53を有する。
【0020】
アンテナ51は、1又は複数のアンテナ素子111から電力を受電するためのアンテナである。アンテナ51は、受電した電力を制御部52及びバッテリ53に出力する。
【0021】
制御部52は、アンテナ51を介してアンテナ素子111から電力を受電しているときに受電電力をバッテリ53に充電する充電制御を行うとともに、バッテリ53の充電量が所定値以下になるとアラームを制御装置140に送信する。制御部52は、一例としてBLE(Bluetooth Low Energy(登録商標))等の近距離無線通信部を含んでおり、BLEのビーコン信号にアラームを表すデータを書き込んで制御装置140に送信する。また、制御部52は、制御装置140から送電コマンドを受信すると、アンテナ51から所定電力で送電を行う。この送電は、ビーコン信号の送信によるものであってもよい。また、制御部52は、送電を行った後に制御装置140から後述するタイムスロットインデックス検出コマンドを受信すると、所定期間にわたって受電した後に、受電電力が最も大きいタイムスロットインデックス(タイムスロットの番号)を表すインデックスデータを制御装置140に送信する。制御部52が制御装置140から送電コマンドを受信するのは、バッテリ53の充電量が所定値以下になったときである。制御装置140からデバイス50への送電コマンドとタイムスロットインデックス検出コマンドの送信は、一例としてBLEによる通信で行えばよい。なお、インデックスデータは、タイムスロットを特定する情報の一例である。
【0022】
バッテリ53は、一例として二次電池又はキャパシタであり、アンテナ51から供給される電力を充電する。バッテリ53には、電力を消費する負荷が接続されていてもよい。例えば、負荷は、温度や湿度等を検出するセンサであってもよく、この場合にはデバイス50をセンサデバイスとして取り扱うことができる。また、負荷は、モータやアクチュエータ等の動力源であってもよく、デバイス50は動的な作業を行うデバイスであってもよい。
【0023】
また、デバイス50が移動可能な移動体に取り付けられている場合には、バッテリ53が充電する電力は、負荷としての移動体のモータ等の動力源や制御部等を駆動するための電力として利用することができる。
【0024】
アレイアンテナ110は、2次元アンテナグリッドの一例であり、一例としてマトリクス状に配置されるアンテナ素子111を含む。アンテナ素子111は、一例として、X方向に16個、Y方向に16個で256個ある。256個のアンテナ素子111は、XY平面上に位置する。
【0025】
各アンテナ素子111は、送電ケーブル130Aを介してマイクロ波発生源130に接続されており、マイクロ波帯の電力が供給される。制御装置140によって制御されることにより、256個のアンテナ素子111のうちのアンテナサブセット110Aを構成するアンテナ素子111として選択された4つのアンテナ素子111は、特定デバイス50Aに向けて送電を行うが特定デバイス50Aの近傍に位置する非特定デバイス50Bにも副次的に給電がなされる。アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111は、ランダムビームフォーミングによって非特定デバイス50Bに送電を行うが特定デバイス50Aの比較的近傍に位置するアンテナ素子111からも副次的に給電がなされる。なお、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数は複数であれば幾つであってもよい。アンテナ素子111は、平面視で矩形状のパッチアンテナである。アンテナ素子111は、-Z方向側にグランド電位に保持されるグランド板を有していてもよい。
【0026】
各アンテナ素子111は、上述したスマート工場等の大規模な施設の天井や柱等に取り付けられている。各アンテナ素子111の間の間隔は、一例として、アンテナ素子111の通信周波数における波長の数波長に相当する。アンテナ素子111の通信周波数は、一例としてマイクロ波帯を想定しており、一例として915MHzである。
【0027】
また、図1には、一例として、特定デバイス50Aがアレイアンテナ110に含まれる256個のアンテナ素子111のうちの4個のアンテナ素子111から電力を受電している状態を示す。このように、特定デバイス50Aに送電するために制御装置140によって選択された複数のアンテナ素子111の集合をアンテナサブセット110Aと称す。アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111は、タイムスロットに従って送信信号の位相をシフトさせながらランダムビームフォーミングによって送電を行い、ランダムビームフォーミングによって送電される電力は、非特定デバイス50Bによって受電されるが特定デバイス50Aにも副次的に受電される。
【0028】
フェーズシフタ120は、各アンテナ素子111に1個ずつ接続されており、各アンテナ素子111と送電ケーブル130Aとの間に挿入されている。図1では、説明の便宜上、1個のアンテナ素子111、フェーズシフタ120、及びICチップ125を拡大して示す。
【0029】
フェーズシフタ120は、マイクロ波発生源130から送電ケーブル130Aを介して伝送される電力の送信位相をシフトしてアンテナ素子111に出力する。フェーズシフタ120は、位相調節部の一例である。ICチップ125は、受電電力のRSSI(Received Signal Strength Indicator)を測定する測定部と、BLEの通信部とを含み、測定したRSSI値を表すデータを含むビーコン信号を制御装置140に送信する。ICチップ125の通信部は、BLE通信用のアンテナを有する。
【0030】
マイクロ波発生源130は、256個のフェーズシフタ120に接続されており、所定の電力のマイクロ波を供給する。マイクロ波発生源130は、電波発生源の一例である。マイクロ波の周波数は、一例として915MHzである。なお、ここでは給電装置100がマイクロ波発生源130を含む形態について説明するが、マイクロ波に限られるものではなく、所定の周波数の電波であればよい。
【0031】
制御装置140は、制御部の一例であり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び不揮発性メモリ等を有するマイクロコンピュータであり、一例として、離散型ウェーブレット・マルチトーン(DWMT)を用いることができる。
【0032】
制御装置140は、アンテナ140Aを有し、デバイス50からアラームが書き込まれたビーコン信号を受信するとともに、各アンテナ素子111に接続されたICチップ125からRSSI値を含むビーコン信号を受信する。また、制御装置140は、特定デバイス50Aからタイムスロットインデックスを表すインデックスデータを受信する。インデックスデータは、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111の送電信号の位相の関係を決定する際に、特定デバイス50Aの受電電力が最大になるときのタイムスロットインデックスを表すデータである。特定デバイス50Aから受信するインデックスデータによって、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111の送電信号の位相の関係(位相関係)が決定される。この詳細については後述する。
【0033】
制御装置140は、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の選択制御、256個のフェーズシフタ120における位相の制御、及び、マイクロ波発生源130の電力の出力制御を行う。アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の送電信号の位相制御と、アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111のランダムビームフォーミングによる送電信号の位相制御とは、フェーズシフタ120における位相の制御によって実現される。
【0034】
図2は、制御装置140の構成を示す図である。制御装置140は、主制御部141、サブセット選択部142、送電制御部143、及びメモリ144を有する。主制御部141、サブセット選択部142、及び送電制御部143は、制御装置140が実行するプログラムの機能を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ144は、制御装置140のメモリを機能的に表したものである。
【0035】
主制御部141は、制御装置140の処理を統括する処理部であり、サブセット選択部142及び送電制御部143が実行する処理以外の処理を実行する。
【0036】
サブセット選択部142は、いずれかのデバイス50からアラームを含むビーコン信号を受信すると、そのデバイス50に送電コマンドを送信する。アラームを含むビーコン信号を送信したデバイス50は、充電量が所定値以下になっているデバイス50であり、特定デバイス50Aの候補になっているデバイス50である。サブセット選択部142は、送電コマンドの送信後にすべてのアンテナ素子111の受電電力を監視し、受電電力の強度(RSSI)が所定値以上の複数のアンテナ素子111をアンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111として選択する。また、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111が選択されると、特定デバイス50Aの候補になっているデバイス50は、特定デバイス50Aとして扱われることになる。
【0037】
送電制御部143は、すべてのアンテナ素子111から送電を行う送電制御を行う。送電制御部143は、すべてのアンテナ素子111から送電を行う際には、すべてのアンテナ素子111の送電信号の位相をランダムに設定し、かつ、タイムスロット毎に位相をランダムにシフトさせるランダムビームフォーミングによる送電制御を行う(ランダムモード)。これにより、領域10(図1参照)で送電信号の定在波が生じる位置が時間的に固定されないようにすることができ、すべてのデバイス50が比較的均等に受電することができる。
【0038】
また、送電制御部143は、サブセット選択部142によってアンテナサブセット110Aが構築されると、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111の送電制御をランダムモードからサブセットモードに切り替えるために特定デバイス50Aでの受電電力をモニタリングする受電電力モニタリングモードを実行する。受電電力モニタリングモードでは、ランダムモードと同様に、複数のアンテナ素子111の送電信号の位相をランダムに設定し、かつ、タイムスロット毎に位相をランダムにシフトさせる処理を所定期間にわたって行う。所定期間は、例えば256個のタイムスロット分の期間である。送電制御部143は、所定期間の経過後に特定デバイス50Aからタイムスロットインデックスを表すインデックスデータを受信すると、サブセットモードに移行し、インデックスデータが表すタイムスロットにおける複数のアンテナ素子111の送電信号の位相の関係(位相関係)を保持したまま、タイムスロット毎に複数のアンテナ素子111の送電信号の位相セット(複数のアンテナ素子111の送電信号の位相のセット)をランダムにシフトさせながら送電を行う送電制御を実行する。位相関係とは、複数のアンテナ素子111の送電信号の位相同士の関係であり、複数のアンテナ素子111の送電信号の位相差の関係である。送電制御部143は、特定デバイス50Aから充電完了を表すデータを含むビーコン信号を受信すると、サブセットモードを終了し、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111の送電モードをランダムモードに復帰させる。
【0039】
メモリ144は、主制御部141、サブセット選択部142、及び送電制御部143が処理を実行する際に用いるデータやプログラム等を格納する。各タイムスロットにおける送電信号の位相を表すデータもメモリ144に格納される。
【0040】
図3は、アンテナサブセット110Aの一例を示す図である。図3には、256個のアンテナ素子111のうちの20個を示す。一例として、アンテナサブセット110Aに4つのアンテナ素子111が含まれており、アンテナグリッドインデックスは(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)である。アンテナグリッドインデックスとは、領域10(図1参照)内におけるアンテナ素子111の位置を示すインデックスである。アンテナサブセット110Aの略中心付近には特定デバイス50Aが位置している。
【0041】
図4は、特定デバイス50Aの受電信号の位相を説明する図である。I軸は実軸、Q軸は虚軸である。(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)で示す4つのベクトルは、アンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111から特定デバイス50Aが受電する信号をベクトルで表したものである。
【0042】
特定デバイス50Aが4つのアンテナ素子111から受電する信号の位相が揃っていれば、アンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111から受電する信号を足し合わせると直線状のベクトルAが得られる。ベクトルAは、アンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111から特定デバイス50Aが受電する信号の位相が揃っていることによって、最大化された受電電力を表す。
【0043】
このように、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111から特定デバイス50Aが受電する信号の位相を揃えれば、4つの受電信号の合成ベクトルを最大化することができる。ここで、位相が揃っていることは、位相が完全に同一である場合に限らず、完全に同一である状態に略等しい状態も含む。厳密な意味で位相を揃えるのは容易ではない場合もあり、例えば位相のずれが±5%程度であれば、位相が揃っていると考えて問題ないからである。
【0044】
アンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111から送電される送電信号の位相関係を保持しながら、4つの送電信号の位相をシフトさせると、ベクトルAはI軸及びQ軸に対して回転する。4つの送電信号の位相関係を保持しながら4つの送電信号の位相をシフトさせれば、特定デバイス50Aの受電電力が最大化された状態を保持でき、より短い時間で効率的に特定デバイス50Aを充電することができる。
【0045】
また、アンテナサブセット110Aの周囲では、アンテナサブセット110Aに含まれない多数のアンテナ素子111がランダムモードで送電しているため、特定デバイス50Aはランダムモードによる送電信号を受電する。特定デバイス50Aが受電するランダムモードによる受電電力は、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111から受電する受電電力よりも小さい。特定デバイス50Aは、アンテナサブセット110A外のアンテナ素子111よりもアンテナサブセット110A内のアンテナ素子111に近い位置に存在するからである。ここでは、特定デバイス50Aが受電するランダムモードによる電力をベクトルBで表す。ランダムモードによってタイムスロット毎に位相がシフトされるため、ベクトルBは、破線の矢印で示すようにランダムに360度回転する。
【0046】
すなわち、領域10(図1参照)内でランダムモードとサブセットモードによる送電を行うと、特定デバイス50Aの受電電力は、図4に示すベクトルAとベクトルBとの合成ベクトルで表される受電電力になり、ランダムモードの変動分が含まれることになるが特定デバイス50Aが受電する信号はベクトルAによる寄与が支配的となり受電電力の増大が図られる。
【0047】
図5は、サブセットモードで複数のアンテナ素子111の送電信号の位相関係を決定する方法を説明する図である。図5の上側の表は、横方向にタイムスロットに分けられており、一例としてタイムスロットインデックスは、1~Lである。Lは、例えば256である。また、表の縦方向には、アンテナグリッドインデックスが示されており、(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相を示す。4つの送電信号の位相は各タイムスロットにおいてアンテナ素子111間でランダムに設定されており、かつ、タイムスロット毎にランダムにシフトしている。
【0048】
図5の下側には、タイムスロットインデックス1~Lにおける特定デバイス50Aの受電電力(dBm)を示す。特定デバイス50Aは、各タイムスロットでの受電電力を制御部52内のメモリに記憶させてもよいし、受電電力を比較して現時点までにおいて受電電力が最大となったタイムインデックスに更新してもよい。図5は、一例として、タイムスロットインデックス1からLまでの受電において受電電力が最大になったのはタイムスロットインデックスが4のときであり、アンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相インデックスが29、11、3、24であったことを表している。この場合に、特定デバイス50Aは、タイムスロットインデックスが4であることを表すインデックスデータを制御装置140に送信する。位相インデックスは、位相を規格化した値で示すものであり、値が大きいほど位相の値が大きいことを表す。なお、特定デバイス50Aは、ビーコン信号を送信するタイミング、又は、アレイアンテナ110から送電が行われていない期間を利用してタイムスロットのカウントを開始すればよい。このようなタイミングであれば、タイムスロットのカウントを開始するトリガとして特定デバイス50Aが利用しやすいからである。また、特定デバイス50A及び制御装置140でタイムスロットの情報を共有している場合には、例えば、1~Lのタイムスロットインデックスを含むフレームのフレームヘッダを検出したタイミングでタイムスロットのカウントを開始すればよい。
【0049】
このように、インデックスデータで特定デバイス50Aの受電電力が最大のときのタイムスロットインデックスを制御装置140に通知することにより、受電電力が最大のときの送信信号の位相の関係を特定デバイス50Aから制御装置140に通知でき、効率的な受電を可能にする位相関係での送電を実現することができる。インデックスデータは、256個のタイムスロットインデックスのうちの1つを特定可能なデータであればよいため、8ビットのデータサイズで済む。
【0050】
アンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相が29、11、3、24の位相差を有する位相関係を維持する場合に、特定デバイス50Aの受電電力は最大になっていることになる。このような位相差の関係を保持すれば、特定デバイス50Aの受電電力は、図4に示すように4つの受電電力のベクトルが揃った状態(又は揃った状態に近い状態)が得られていることになり、効率的な受電が可能になる。
【0051】
このため、給電装置100は、この位相関係を保持しながら、タイムスロット毎にアンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相をランダムにシフトさせて、アンテナサブセット110Aから特定デバイス50Aに給電を行う。
【0052】
図6は、位相インデックスを説明する図である。図6では、一例として360度を64分割して得る位相インデックスを示す。位相インデックスが1のときには位相は0度であり、位相インデックスが増える度に、360度/64ずつ位相が増大する。このような位相インデックスは、PSK(Phase Shift Keying)で得られるものである。
【0053】
図7は、アンテナサブセット110Aのアンテナ素子111に割り当てる位相インデックスPIの一例を示す図である。アンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の送電位相インデックスPIは、29、11、3、24に設定されている。給電装置100は、この位相関係を保持しながら、タイムスロット毎に送電信号の位相をランダムにシフトさせながら、アンテナサブセット110Aから特定デバイス50Aに給電を行う。
【0054】
図8は、サブセットモードでアンテナサブセット110Aのアンテナ素子111に設定する位相インデックスの一例を示す図である。図8に示すように、タイムスロットインデックスが1のときには、アンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相インデックスPIは、29、11、3、24に設定されている。また、タイムスロットインデックスが2以降のアンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相インデックスPIは、タイムスロットインデックスが1のときの位相関係を保持しながら、ランダムにシフトしている。
【0055】
タイムスロットインデックスが1のときには、アンテナグリッドインデックスが(4,4)と(4,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相インデックスPIは29と11で、その差は18である。タイムスロットインデックスが1のときには、アンテナグリッドインデックスが(4,4)と(5,4)のアンテナ素子111の送電信号の位相インデックスPIは29と3で、その差は26である。タイムスロットインデックスが1のときには、アンテナグリッドインデックスが(4,4)と(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相インデックスPIは29と24で、その差は5である。
【0056】
タイムスロットインデックスが2以降のアンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相インデックスPIは、上述のような位相差を保持しながら、ランダムにシフトしている。一例として、タイムスロットインデックスが1から2に遷移すると、4つの位相インデックスは、30ずつ増加している。タイムスロットインデックスが2から3に遷移すると、4つの位相インデックスは、40ずつ減少している。なお、ここでは一例として位相インデックスを1~64の数値で示しているため、アンテナグリッドインデックスが(5,4)のアンテナ素子111の送電信号の位相インデックスPIは、タイムスロットインデックスが2から3に遷移したときに、33-40=-7であり、-7に64を加えた57で示されている。このような4つの位相インデックスの位相関係は、タイムスロットインデックスが3から4に遷移した以後も同様である。
【0057】
図9は、制御装置140が実行する処理を表すフローチャートを示す図である。処理がスタートすると、送電制御部143は、ランダムモードですべてのアンテナ素子111から送電を行う(ステップS1)。ランダムモードでは、送電制御部143は、すべてのアンテナ素子111の送電信号の位相をランダムに設定し、かつ、タイムスロット毎に位相をランダムにシフトさせるランダムビームフォーミングによる送電制御を行う。
【0058】
サブセット選択部142は、いずれかのデバイス50からアラームを含むビーコン信号を受信したかどうかを判定する(ステップS2)。バッテリ53の充電量が所定値以下になったデバイス50は、BLEのビーコン信号にアラームを表すデータを書き込んで制御装置140に送信する。ステップS2の処理は、このようなアラームを含むビーコン信号を受信したかどうかを判定する処理である。ビーコン信号は各デバイス50のID(Identifier)を含むため、ビーコン信号によって送信元のデバイス50を識別することができる。サブセット選択部142は、アラームを含むビーコン信号を受信すると、充電量が所定値以下になったデバイス50があることを検知する。
【0059】
サブセット選択部142は、アラームを含むビーコン信号を受信した(S2:YES)と判定すると、該当するデバイス50に送電コマンドを送信し、送電を行わせる(ステップS3)。
【0060】
サブセット選択部142は、すべてのアンテナ素子111の受電電力を監視し、受電信号のRSSI値が所定値以上の複数のアンテナ素子111があるかどうかを判定する(ステップS4)。
【0061】
サブセット選択部142は、受電信号のRSSI値が所定値以上の複数のアンテナ素子111がある(S4:YES)と判定すると、RSSI値が所定値以上の複数のアンテナ素子111を選択し、その複数のアンテナ素子111でアンテナサブセット110Aを構築する(ステップS5)。
【0062】
送電制御部143は、サブセット選択部142によってアンテナサブセット110Aが設定されると、特定デバイス50Aにタイムスロットインデックス検出コマンドを送信する(ステップS6)。タイムスロットインデックス検出コマンドは、所定期間にわたって図5に示すようにアンテナサブセット110Aの複数のアンテナ素子111の送電信号の位相をランダムに設定し、かつ、タイムスロット毎に送電信号の位相をランダムにシフトさせる処理を所定期間にわたって行い、特定デバイス50Aに受電電力が最大になるタイムスロットインデックスを検出させるコマンドである。
【0063】
送電制御部143は、アンテナサブセット110Aの複数のアンテナ素子111の送電信号の位相をランダムに設定し、かつ、タイムスロット毎にランダムに位相をシフトさせて送電を行う処理を所定期間にわたって行う受電電力モニタリングモードを実行する(ステップS7)。これにより、図5に示すような位相インデックスの送電信号がアンテナサブセット110Aの複数のアンテナ素子111から送電される。
【0064】
送電制御部143は、特定デバイス50Aからタイムスロットインデックスを表すインデックスデータを受信したかどうかを判定する(ステップS8)。特定デバイス50Aは、ステップS7の所定期間において検出した受電電力が最大になるタイムスロットインデックスをインデックスデータとして送電制御部143に送信する。
【0065】
送電制御部143は、インデックスデータを受信した(S8:YES)と判定すると、インデックスデータが表すタイムスロットにおける位相関係を保持したまま、タイムスロット毎にアンテナサブセット110Aの複数のアンテナ素子111の送電信号の位相をシフトさせながら送電を行う送電制御を実行する(ステップS9)。これにより、図8に示すような受電電力が最大になる位相関係を保持したまま、タイムスロット毎にアンテナサブセット110Aの複数のアンテナ素子111の送電信号の位相をシフトさせるサブセットモードを実行する。
【0066】
送電制御部143は、特定デバイス50Aの充電が完了したかどうかを判定する(ステップS10)。送電制御部143は、特定デバイス50Aから充電完了を表すデータを含むビーコン信号を受信すると、特定デバイス50Aの充電が完了したと判定する。
【0067】
送電制御部143は、特定デバイス50Aの充電が完了した(S10:YES)と判定すると、サブセットモードを終了し、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111の送電モードをランダムモードに復帰させる(ステップS11)。以上で一連の処理が終了する(エンド)。
【0068】
なお、サブセット選択部142は、ステップS2において、アラームを含むビーコン信号を受信していない(S2:NO)と判定すると、フローをステップS1にリターンしてランダムモードを継続させる。アンテナサブセット110Aを構築して充電すべきデバイス50が存在しないからである。
【0069】
また、サブセット選択部142は、ステップS4において、受電信号のRSSI値が所定値以上の複数のアンテナ素子111がない(S4:NO)と判定すると、フローをステップS3にリターンする。該当するデバイス50に送電を行わせて、アンテナサブセット110Aを構築するアンテナ素子111の探索を再度行うためである。なお、フローをステップS3にリターンした後のステップS4でサブセット選択部142が受電信号のRSSI値が所定値以上の複数のアンテナ素子111がない(S4:NO)と判定した場合には、一連の処理を終了してもよい(エンド)。初めから再度やり直すためである。
【0070】
また、送電制御部143は、ステップS8において、インデックスデータを受信していない(S8:NO)と判定すると、フローをステップS6にリターンする。ステップS6、S7の処理を再度行うためである。なお、ステップS6、S7の処理を再度行った後に再びステップS8でインデックスデータを受信していない(S8:NO)と判定した場合には、一連の処理を終了してもよい(エンド)。初めから再度やり直すためである。
【0071】
また、送電制御部143は、ステップS10において、特定デバイス50Aの充電が完了していない(S10:NO)と判定すると、フローをステップS9にリターンする。引き続き充電を行うためである。
【0072】
図10は、受電電力の累積分布関数(CDF(Cumulative Distribution Function))のシミュレーション結果を示す図である。図10において、破線の特性は、アンテナサブセット110Aのアンテナ素子111の数を4に設定して受電電力モニタリングモードにおけるタイムスロットインデックスLの数を256に設定して受電電力が最大となったタイムスロットインデックスを帰還した後のサブセットモードにおいて特定デバイス50Aが受電した場合の分布を示す。なお、アンテナサブセット110Aのアンテナ素子111以外の周辺のランダムモードでのアンテナ素子111からの影響も受けている。一点鎖線の特性は、アンテナサブセット110Aのアンテナ素子111の数を12、受電電力モニタリングモードにおけるタイムスロットインデックスLの数を1024に設定して受電電力が最大となったタイムスロットインデックスを帰還した後のサブセットモードにおいて特定デバイス50Aが受電した場合の分布を示す。実線の特性は、サブセットモードにおいて、アンテナサブセット110Aのアンテナ素子111の数を4に設定し、従来技術による送電信号の位相の完全な最適化を行って特定デバイス50Aが受電した場合の分布を示す。また、二点鎖線の特性は、ランダムモードですべてのアンテナ素子111から送電して特定デバイス50Aが受電した場合の分布を示す。
【0073】
二点鎖線のランダムモードは、受電電力が-40dBmから-5dBmの間で大きく変動している。一方、破線のサブセットモードは、CDFが0.5において、受電電力が約5dBm増加するとともに受電電力の変動を小さくすることができる。サブセットモードは、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111が配置される所定の領域内において、ランダムモードより送電信号の定在波が生じる位置が時間的に固定さることを犠牲にして受電電力を増加させることができる。
【0074】
また、一点鎖線のサブセットモードのように破線のサブセットモードと比してタイムスロットインデックスLを1024に増加させた場合は、受電電力が増加しているが改善はわずかである。サブセットモードは、タイムスロットインデックスLが小さい場合であっても受電電力を増加させることができる。すなわち、サブセットモードは、タイムスロットインデックスLが小さい場合でも受電電力を増加させることができる。また、タイムスロットインデックスLが小さくなる短い探索時間(または試行回数)で受電電力を増加させる最適な送電信号の位相関係を検知する事ができる。
【0075】
実線のサブセットモードも同様に破線のサブセットモードと比して受電電力の改善はわずかである。実線のサブセットモードにおける送電信号の位相の最適化はチャネル状態情報(CSI: channel state information)帰還法に代表される各アンテナアレイに特定デバイスから送信されたパイロット信号の給電装置のアンテナアレイにおける受電信号の位相に基づいて送電信号の位相を最適化する従来技術である。従来技術は各アンテナアレイが受電信号の位相を検知するためのハードが必要であり、給電装置の装置規模が大きくなる。すなわち、サブセットモードは給電装置を小型化することができる。
【0076】
以上のように、給電装置100は、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111からはサブセットモードで特定デバイス50Aに送電し、アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111からはランダムモードで非特定デバイス50Bに送電する。サブセットモードは、特定デバイス50Aで受電電力が最大となった送電信号の位相関係を保持しながら、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111の送電信号の位相セットをタイムスロット毎にランダムにシフトさせる。また、ランダムモードは、非特定デバイス50Bに送電する送電信号の位相をアンテナ素子111毎に、かつ、タイムスロット毎にランダムにシフトさせる。
【0077】
したがって、多くの受電量が必要な特定デバイス50Aへの給電と、非特定デバイス50Bへの給電とを両立可能な給電装置100、及び、給電方法を提供することができる。また、サブセットモードにおいても、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111の送電信号の位相関係を保持しながらタイムスロット毎に複数のアンテナ素子111の送電信号の位相をランダムにシフトさせているので、アンテナサブセット110A外のアンテナ素子111のランダムモードによる送電に与えるランダム効果を減ずることなく、アンテナサブセット110A内におけるサブセットモードと、アンテナサブセット110A外におけるランダムモードとを効率的に両立できる。
【0078】
なお、以上では、特定デバイス50A及びアンテナサブセット110Aが1つずつである形態について説明したが、特定デバイス50A及びアンテナサブセット110Aは複数個ずつあってもよい。図11は、アンテナサブセット110A1、110A2を示す図である。図11において、特定デバイス50A1とアンテナサブセット110A1は、図3に示す特定デバイス50Aとアンテナサブセット110Aに相当する。
【0079】
図11では、2つ目の特定デバイス50A2があり、アンテナサブセット110A2が構築されている。アンテナサブセット110A2は、アンテナグリッドインデックスが(5,5)、(5,6)、(6,5)、(6,6)のアンテナ素子111を含む。アンテナサブセット110A1、110A2では、アンテナグリッドインデックスが(5,5)のアンテナ素子111が共通である。
【0080】
このような場合には、アンテナサブセット110A1におけるアンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相関係と同様に、アンテナサブセット110A2におけるアンテナグリッドインデックスが(5,5)、(5,6)、(6,5)、(6,6)のアンテナ素子111の送電信号についても位相関係を設定すればよい。
【0081】
その際に、アンテナグリッドインデックスが(5,5)のアンテナ素子111の送電信号の位相を基準として、アンテナサブセット110A1、110A2の両方において、特定デバイス50A1、50A2で受電電力が最大になる送電信号の位相関係を保持しながら、アンテナサブセット110A1、110A2に含まれる複数のアンテナ素子111の送電信号の位相をタイムスロット毎にランダムにシフトさせればよい。なお、この場合に、特定デバイス50A2は第3受電装置の一例であり、アンテナサブセット110A2に含まれるアンテナ素子111は、第3アンテナの一例である。
【0082】
また、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111から特定デバイス50Aに送電する際に、送電信号にQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)のようなデジタル位相変調を施して、送電信号を介してアンテナ素子111から特定デバイス50Aに情報を通知してもよい。例えば、送電信号の位相の変化量を±π/2又は±πに設定して送電信号の差動符号化を行うことで、アンテナ素子111から特定デバイス50Aに情報を通知してもよい。
【0083】
また、以上では、特定デバイス50Aの受電電力が最大になるときのタイムスロットインデックスを表すインデックスデータを制御装置140に送信する形態について説明した。位相の関係は1種類である。
【0084】
しかしながら、受電電力が所定値以上になる複数のタイムスロットインデックスを特定デバイス50Aが検出し、複数のタイムスロットインデックスにおける複数の送電信号の位相関係を切り替えながら、送電を行ってもよい。例えば、アンテナグリッドインデックスが(4,4)、(4,5)、(5,4)、(5,5)のアンテナ素子111の送電電力の位相インデックスが29、11、3、24であるときと、送電信号の位相インデックスが32、46、15、59であるときとに特定デバイス50Aの受電電力が所定値以上になった場合には、送電信号の位相インデックスが29、11、3、24の位相差を有する位相関係と、送電信号の位相インデックスが32、46、15、59の位相差を有する位相関係とを時系列的に切り替えて保持しながら送電を行ってもよい。
【0085】
この場合に、送電信号の位相インデックスが29、11、3、24であるときは第1タイミングの一例であり、送電信号の位相インデックスが29、11、3、24の位相差を有する位相関係は第1位相関係の一例である。送電信号の位相インデックスが32、46、15、59であるときは第2タイミングの一例であり、送電信号の位相インデックスが32、46、15、59の位相差を有する位相関係は第2位相関係の一例である。
【0086】
以上、本発明の例示的な実施形態の給電装置、及び、給電方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0087】
10 領域
50 デバイス
50A、50A1、50A2 特定デバイス
50B 非特定デバイス
100 給電装置
110 アレイアンテナ
110A、110A1、110A2 アンテナサブセット
111 アンテナ素子
120 フェーズシフタ
130 マイクロ波発生源
140 制御装置
141 主制御部
142 サブセット選択部
143 送電制御部
144 メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11