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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】表皮材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20240328BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240328BHJP
   D06N 3/14 20060101ALN20240328BHJP
【FI】
B32B27/40
B32B27/36
D06N3/14 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020119382
(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公開番号】P2021024277
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2019141703
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】池田 祥太郎
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/107933(WO,A1)
【文献】特開2019-123847(JP,A)
【文献】特開2019-65426(JP,A)
【文献】特開2019-77961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B、D06N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の少なくとも一方側面に設けられた最表面処理層と、を有し、
前記最表面処理層が、水系ポリウレタン樹脂、架橋剤、親水性ポリエステル、および艶消し剤を含むことを特徴とする表皮材。
【請求項2】
前記基材が合成皮革である請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記水系ポリウレタン樹脂100質量部に対し、前記親水性ポリエステルが20質量部以上100質量部以下の範囲で含まれる請求項1または2に記載の表皮材。
【請求項4】
前記最表面処理層に前記艶消し剤が2.5質量%以上50質量%以下の範囲で含まれる請
求項1から3のいずれか一項に記載の表皮材。
【請求項5】
前記艶消し剤が有機フィラーである請求項1から4のいずれか一項に記載の表皮材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水拭きによる汚れ落ちに優れるとともに表面光沢が抑制された表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
基材に表面処理層が設けられた表皮材は、自動車の内装材や家具の表面部材など種々の分野において利用されている。上記表面処理層は、表皮材の摩耗性を向上させるとともに色味や光沢、艶などの外観を調整するために設けられる層である。上記表面処理層は、一般的にはポリウレタン樹脂を主剤とする。
【0003】
より詳しくはポリウレタン含有液を基材表面に塗布し、あるいは含浸させるなどして表面処理層が形成される。上記ポリウレタン含有液としては、従来、有機溶剤を溶剤として用いる親油性の溶剤が用いられることが一般的であった。しかしながら、環境に対する揮発性有機溶剤の影響あるいは製造現場の作業環境の問題を鑑み、水系ポリウレタン樹脂の使用が提案されている。
【0004】
たとえば下記特許文献1には、繊維布帛基材上に水系ポリウレタン樹脂膜を備える合成皮革の表面に、アクリルシリコン系化合物を主成分とする膜を設けてなる防汚性合成皮革(以下、従来技術1ともいう)が開示されている。従来技術1は、有機溶剤系のポリウレタン樹脂ではなく、水系ポリウレタン樹脂を用いることによって環境等の問題に対応するものである。
【0005】
従来技術1は、表面層としてアクリルシリコン系化合物を主成分とする膜を設けることで汚れ落ちが改善された旨、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-191820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで表皮材は、従来、表面光沢に優れるものが好まれる傾向にあった。しかし近年は、車両用内装材や家具などにおける用途を中心に、表面光沢が抑制され高級感や重厚感のある外観の表皮材が好まれる傾向にある。
【0008】
本発明者の検討によれば、従来技術1に例示される汚れ落ちの優れた表皮材は、汚れ落ち性能が充分であるほど、表面光沢に富む傾向にあることがわかった。特に水拭きでも汚れが落ち易い表皮材の表面は、マクロレベルにおける表面凹凸が小さく、その結果、光反射率が高いため、表面光沢が顕著になるものと推察された。
【0009】
一般的に、表面光沢が抑制された表皮材を提供する場合には、表皮材の最表面層に有機フィラーまたは無機フィラーなどの艶消し剤を含有させる手段が知られる。しかし艶消し剤が含有された最表面層は、表面光沢が抑制されるほど水拭きによる汚れ落ちが悪くなる傾向にある。
【0010】
即ち、従来技術1は、汚れ落ちが改善されたものの、その分、表面光沢が増し、昨今の高級感や重厚感のある外観の表皮材を提供することが困難であった。
【0011】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、水拭きによる汚れ落ちに優れるとともに表面光沢が抑制された表皮材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の表皮材は、基材と、上記基材の少なくとも一方側面に設けられた最表面処理層と、を有し、上記最表面処理層が、水系ポリウレタン樹脂、架橋剤、親水性ポリエステル、および艶消し剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記構成を有する本発明の表皮材は、最表面処理層に水系ポリウレタン、親水性ポリエステル、および艶消し剤を含み、水拭きによる汚れ落ちに優れるとともに表面光沢が抑制された表皮材を提供可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の表皮材の一実施態様の断面図である。
図2】本発明の実施例1の汚れ付着部と、拭き取り部とを有する表面の写真である。
図3】本発明の比較例1の汚れ付着部と、拭き取り部とを有する表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図1を用いて本発明を説明する。図1は、本発明の一実施態様である表皮材100を厚み方向に切断してなる切断面を示す断面図である。尚、図1に示す表皮材100は、本発明の一実施態様であり、本発明を何ら限定するものではない。
本発明の表皮材は、図1に示すとおり、基材10と、基材10の少なくとも一方側面に設けられた最表面処理層20と、を有する。最表面処理層20は、水系ポリウレタン樹脂、架橋剤、親水性ポリエステル、および艶消し剤を含んで構成されている。
【0016】
表皮材100は、任意の成形体の表面を覆い表皮を形成するために用いられる部材である。表皮材100の用途は特に限定されないが、たとえば、座席やダッシュボードなどの表面を被覆する車両用内装材、または家具、衣類、バック若しくは文房具などの表面を被覆する表皮材として用いることができる。特に本発明は、表面光沢が抑えられ高級感または重厚感のある外観を提供可能であるため、車両用内装材として好ましく用いることができる。
【0017】
本発明は、最表面処理層20に親水性ポリエステルを含有させることによって、表面光沢が抑制されつつも、水拭きによる汚れ落ちに優れる表皮材100を提供可能である。
本発明における最表面処理層20には、後述する艶消し剤(図示省略)が含有されており、これによって最表面処理層20のグロス値を低めに調整可能である。最表面処理層20に艶消し剤を含有させた場合、表面に微小な凹凸が形成され、これによって最表面処理層20に入射した光が拡散反射して、結果として、グロス値が低下し表面光沢が抑制されるためである。一般的にはこのように表面に微小な凹凸が形成されると、凹部に入り込んだ汚れは、水拭きで綺麗に拭き取ることは困難である。
しかし、本発明は、最表面処理層20に親水性ポリエステルを含有させることで、グロス値を下げつつも、水拭きによる汚れ落ちに優れる表皮材100の提供が可能となった。
かかる理由は明らかではないが、親水性ポリエステルにおける親水基によって最表面処理層20に吸水性が付与されるものと推察される。そして、これによって最表面処理層20を水拭きした際に、水分が当該親水基に吸水されて汚れを浮き上がらせ、さらに拭き取りの摩擦力によって当該汚れを拭きとることができるものと推察される。
【0018】
以下に本発明の表皮材100の各構成についてさらに詳細に説明する。
図1に示すとおり、表皮材100は、基材10および最表面処理層20を備える。たとえば基材10は、最表面処理層20を担持可能なシート状の部材である。最表面処理層20は、表皮材100の少なくとも一方側面において最も外側に配置された層である。
【0019】
[基材]
本発明において基材10は、合成皮革、天然皮革、布帛、および樹脂シートから選択される一部材または、二以上の積層体である。
【0020】
図1では、基材10として合成皮革を用いた態様を示している。具体的には、合成皮革である基材10は、生布12、接着層14、発泡層16、表皮層18をこの順に備えている。ただし、本発明の基材として用いられる合成皮革はかかる態様に限定されず、一般的な合成皮革を広く包含する。たとえば、基材10である合成皮革は、適宜、接着層14および/または発泡層18を有しない態様であってもよい。
【0021】
尚、本発明の表皮材100は、図示省略する他の態様として、基材10として、天然皮革、布帛、樹脂シートなどを単層、または任意の組合せで積層してなる多層で用いることもできる。合成皮革以外の部材の少なくとも一方側面に、直接に最表面処理層20が設けられてもよいし、当該部材と最表面処理層との間に任意の中間層が設けられてもよい。上記中間層としては、接着層、任意の樹脂層などが挙げられるがこれに限定されない。
【0022】
基材10が合成皮革である表皮材100は、天然皮革と同等の風合いや柔軟性を有し、高級感がありつつ経済性に優れるシート状物であって、車両内装材や家具の表皮材として好ましい。
尚、本発明に関し合成皮革とは、所謂、塩化ビニル樹脂を含んで構成される塩ビレザーあるいはポリウレタン樹脂を含んで構成されるポリウレタンレザーだけでなく、不織布に合成樹脂を含浸させた人工皮革を包含する。
【0023】
基材10である合成皮革の厚みは特に限定されないが、上記厚みは例えば0.6mm以上1.5mm以下の範囲とすることが好ましい。かかる厚み範囲とすることで、基材10を所望の構造物の表面に沿って被覆させ易く、基材10の取扱い性が容易である。
【0024】
(生布)
生布12としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等の合成繊維、綿、麻等の天然繊維、およびレーヨン、アセテート等の再生繊維から選択される単独の繊維あるいはこれらの混紡繊維よりなる編布、織布、不織布等が挙げられる。生布12としては、一般的な合成皮革の生布として利用されているものであれば何れも使用できる。生布12は起毛したものであっても、起毛していないものであっても良い。
【0025】
生布12の厚みは、特に限定されないが、例えば400μm以上800μm以下の範囲のものが適当である。
【0026】
(接着層)
接着層14は、生布12の一方側面に設けられる他の層(図1では発泡層16)を接着させる。接着層14を構成する樹脂としては、たとえばポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂またはポリオレフィン樹脂などの接着剤として使用可能な樹脂から選択するよい。接着層14は、適宜省略することもできる。たとえば生布12として織布などを用い、発泡層16を構成する樹脂組成物を、当該織布の表面に含侵させつつ発泡層16を形成することにより、接着層14を設けることなく、生布12に対し発泡層16を密着させて積層させることができる。
【0027】
接着層14の厚みは、特に限定されないが、表皮材100の柔軟性を損なわず、かつ充分な密着性を発揮させるという観点からは、50μm以上100μm以下の範囲であることが好ましい。
【0028】
(発泡層)
発泡層16は、基材10として用いられる合成皮革において任意の層であるが、発泡層16を設けることで、表皮材100の柔軟性および衝撃吸収性が向上し、質感が良好となる。そのため、表皮材100の用途にもよるが、生布12と最表面処理層20との間に発泡層16が設けられることは好ましい。また、合成皮革ではない基材10に関しても、発泡層16と同様の構成の層が設けられてもよい。
【0029】
発泡層16は、内部に多数の気泡を有する樹脂層である。気泡は、独立気泡であってもよいし、一部または全部が連続気泡を構成していてもよい。
樹脂層を構成する樹脂は、特に限定されず、発泡層を構成可能な樹脂から適宜選択することができる。発泡層16は、ポリウレタン発泡層または塩化ビニル発泡層であること好ましい。上記ポリウレタン発泡層を構成するポリウレタン樹脂としては、後述する表皮層18を構成するポリウレタン樹脂の例示が適宜参照される。また上記塩化ビニル樹脂発泡層を構成する塩化ビニル樹脂としては、後述する表皮層18を構成する塩化ビニル樹脂の例示が適宜参照される。
【0030】
上記ポリウレタン発泡層の形成方法は特に限定されないが、発泡剤としては、水(イオン交換水など)を好ましく用いることができる。
たとえば、後述する表皮層18を予め準備するとともに、ウレタンポリマー溶液を調製する。上記ウレタンポリマー溶液は、ポリオール成分、イソシアネート成分、および発泡剤(水)を含む。そして、表皮層18上にウレタンポリマー溶液を塗工する。続いて適度な温度で加熱してウレタンポリマー中のイソシアネート基と水とを反応させて二酸化炭素を発生させるとともに、イソシアネートとポリオールとを反応させて硬化させる。これにより、ウレタンポリマー中に二酸化炭素が取り込まれてなるポリウレタン発泡層(発泡層16)を形成することができる。
上述において、ポリウレタン原料組成物(ウレタンポリマー溶液)における、発泡剤である水の添加量は、特に限定されないが、たとえば、ポリオール成分100質量部に対し、0.5質量部以上3質量部以下が好ましい。上記添加量が0.5質量部未満であれば、発泡が不十分な場合がある。上記添加量が3質量部を超えると、発泡しすぎてセルが荒れ、生布との密着性が低下する虞がある。
【0031】
上記塩化ビニル発泡層の形成方法は特に限定されない。たとえば、後述する表皮材18を予め準備するとともに塩化ビニル樹脂および発泡剤を含む樹脂材料を調製する。そして上記樹脂材料を表皮層18の一方側面に塗布し、その後、加熱して発泡剤を発泡させて微細な気泡を含む塩化ビニル発泡層(発泡層16)を形成することができる。
【0032】
発泡層16の厚みは、特に限定されないが、高耐久性の観点からは、50μm以上であることが好ましく、柔軟性の観点からは1000μm以下の範囲であることが好ましい。
【0033】
(表皮層)
表皮層18は、任意の合成樹脂からなる層である。例えば、基材10である合成皮革としてポリウレタンレザーを採用する場合には、表皮層18は、ポリウレタン樹脂から構成される。また上記合成皮革として塩ビレザーを採用する場合には、表皮層18は塩化ビニル系樹脂から構成される。
【0034】
上記ポリウレタンレザーや上記塩ビレザーの形成方法は特に限定されないが、たとえば、樹脂含有塗工剤を離型紙に塗布し、適度な温度で加熱乾燥させて形成することができる。
【0035】
上記ポリウレタン樹脂としては、従来から合成皮革(ポリウレタンレザー)の表皮層に用いられているものであればいずれも使用できる。具体的には、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂、ポリエステル/ポリエーテル共重合系ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸/ポリウレタン共重合系ポリウレタン樹脂、およびポリカーボネートジオール成分と無黄変型ジイソシアネート成分及び低分子鎖伸長剤等を反応させて得られる無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などが挙げられる。また、合成皮革(ポリウレタンレザー)としての諸物性を損なわない範囲であれば、上記ポリウレタン樹脂にポリ塩化ビニル樹脂や合成ゴムなどを混合しても差し支えない。尚、表皮層18にポリウレタン樹脂および塩化ビニル樹脂が含まれている場合、ポリウレタン樹脂の配合量が塩化ビニル樹脂の配合量よりも多い場合には、ポリウレタンレザーと呼び、塩化ビニル樹脂の配合量がポリウレタン樹脂の配合量よりも多い場合には、塩ビレザーと呼ぶ。
【0036】
表皮層18を形成する上記ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ポリイソシアネート、および架橋剤を、メチルエチルケトン、トルエン、またはジメチルホルムアミドなどの有機溶媒や水等の溶媒に溶解させて調製されたポリウレタン樹脂溶液を用いて形成される。上記ポリウレタン樹脂溶液には、必要に応じて、着色剤、充填剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、および架橋剤等の各種添加剤が一種以上添加されてもよい。上述のとおり調製されたポリウレタン樹脂溶液を離型紙などに塗布し、乾燥させ、架橋させてポリウレタン樹脂からなる表皮層18が形成される。なお、ポリウレタン樹脂溶液は、1液型または2液型のどちらでも採用することができる。
【0037】
表皮層18である塩ビレザーを構成する塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニルに由来する構造単位を含むものであれば、特に限定されない。具体例としては、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・メタクリル酸エステル共重合体、および塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体等から選択される1種以上が挙げられる。上記表皮層18に含まれる塩化ビニル樹脂は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0038】
また基材10である合成皮革として人工皮革が選択される場合には、生布12として不織布を選択し、当該不織布の一方側面に直接または間接に任意の合成樹脂から成る層を形成するとよい。たとえば、基材10として選択された人工皮革は、接着層14および発泡層16を割愛し、表皮層18を構成する合成樹脂材料を当該不織布に含侵させて硬化させることで表皮層18を形成することができる。
【0039】
表皮層18の厚みは、特に限定されないが、耐久性の観点からは10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることはより好ましく、柔軟性の観点からは60μm以下の範囲であることが好ましく、50μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0040】
[最表面処理層]
最表面処理層20は、水系ポリウレタン樹脂、架橋剤、親水性ポリエステル、および艶消し剤を含む。これらの部材は図1では図示省略されている。
【0041】
(水系ポリウレタン樹脂)
水系ポリウレタン樹脂とは、水に溶解可能または水に乳化可能なポリウレタン樹脂のことをいう。
水に溶解可能な水系ポリウレタン樹脂とは、親水性基を有するポリウレタン樹脂を指す。かかるポリウレタン樹脂は、自己乳化型の水系ポリウレタンともいわれる。かかる水系ポリウレタン樹脂としては、たとえば分子内に親水基(アニオン性親水基、カチオン性親水基、またはノニオン性親水基)を有するポリウレタン、または親水性のセグメントが付与されたポリウレタンが挙げられる。
【0042】
また水に乳化可能な水系ポリウレタン樹脂とは、ポリウレタン樹脂が界面活性剤に包まれることで水中に分散可能となった状態のポリウレタン樹脂を指す。かかるポリウレタン樹脂は、強制乳化型の水系ポリウレタンともいわれる。一般的には、乳化可能な水系ポリウレタン樹脂は疎水性ポリウレタン樹脂である。
【0043】
水に乳化可能な水系ポリウレタン樹脂を得るために用いられる界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤から選択される1種以上である。
たとえばアニオン性界面活性剤としては、高級脂肪酸、樹脂酸、酸性脂肪アルコール、硫酸エステル、スルフォン酸高級アルキル、スルフォン酸アルキルアリル、スルフォン化ひまし油、およびスルフォコハク酸エステル等から選択される1種以上が挙げられる。
またノニオン性界面活性剤としては、エチレンオキサイドと長鎖脂肪アルコールまたはフェノール類との公知の反応生成物などが挙げられる。
【0044】
水系ポリウレタン樹脂に含まれるポリウレタン樹脂は、ポリオール成分、イソシアネート成分、架橋剤を含むポリウレタン原料組成物を反応させることで形成される。上記ポリウレタン樹脂は、公知のポリウレタンの製造方法にて製造することができる。
水系ポリウレタン樹脂の中でも耐久性、耐摩耗性、および耐加水分解性の観点からは、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリカーボネート系ポリウレタンは、たとえばポリカーボネート系ジオールおよびポリイソシアネートを用い重付加反応させることで得られる。
【0045】
ポリオール成分:
水系ポリウレタン樹脂を構成するために用いられるポリオール成分は、たとえばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールが挙げられる。
【0046】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、アルキレンオキシドの開環重合により得られるポリエーテルポリオールが好適である。該アルキレンオキシドとしては、プロピレンオキシド(PO)、エチレンオキシド(EO)、ブチレンオキシド等が挙げられ、これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。より具体的な好ましい例としては、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、またはポリプロピレングリコールが挙げられる。
【0047】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、マロン酸、コハク酸、もしくはアジピン酸等の脂肪族カルボン酸、またはフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、もしくはプロピレングリコール等の多価アルコールとを重縮合させて得られたものを使用できる。
【0048】
イソシアネート成分:
水系ポリウレタン樹脂を構成するために用いられるイソシアネート成分は、一般的に、ポリオールと反応させてウレタンを製造する際に用いられるイソシアネートから適宜選択される。具体的には、芳香族イソシアネート類、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、またはイソシアネート基末端プレポリマーなどが挙げられる。
【0049】
より具体的に、ポリオールと反応させるためのイソシアネート成分としては、ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4'-MDI)、ポリメリックMDI(クルードMDI)、ウレタン変性MDI、ウレア変性MDI、アロファネート変性MDI、ビウレット変性MDI、カルボジイミド変性MDI、ウレトンイミン変性MDI、ウレトジオン変性MDI、イソシアヌレート変性MDI、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、もしくは2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)などの芳香族イソシアネート類、テトラメチレンジイソシアネート、もしくはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加TDI、もしくは水素添加MDIなどの脂環族ジイソシアネート、またはこれらをプレポリマー化したイソシアネート基末端プレポリマーなどが挙げられる。上述に例示されるイソシアネート成分は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することもできる。イソシアネート成分としては、上述した化合物の中でも、イソシアネート基末端プレポリマーが好ましい。
【0050】
架橋剤:
最表面処理層20に含まれる架橋剤は、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、およびオキサゾリン系架橋剤からなる群から選択される1種以上が例示される。上記架橋剤は、水系ポリウレタン樹脂の物性の向上のために用いられる。
【0051】
触媒:
水系ポリウレタン樹脂の製造の際には、適宜、触媒を用いるとよい。触媒としては、一般的にポリウレタン樹脂を製造するために使用可能なものであればよく、特に限定されるものではない。触媒として、従来から使用されているものとしては、例えば、トリエチレンジアミン、もしくはジエタノールアミンなどのアミン系触媒、またはビスマス触媒などの金属触媒が挙げられる。
【0052】
他の添加剤:
水系ポリウレタン樹脂を構成するために用いられるポリウレタン原料組成物には、上述するポリオール成分、イソシアネート成分、触媒、架橋剤の他に、必要に応じて、さらに他の添加剤が添加されてもよい。他の添加剤としては、可塑剤、整泡剤、充填剤、酸化防止剤、脱泡剤、相溶化剤、着色剤、安定剤、紫外線吸収剤などポリウレタンフォームの製造に際して一般的に使用可能な添加剤をあげることができる。他の添加剤の添加量は、本発明の効果を阻害しない範囲内において適宜選択されてよい。
【0053】
尚、本発明に用いられる水系ポリウレタン樹脂は、市販品から適宜選択して使用することもできる。市販品の例としては、たとえばラックコートWN157M(セイコー化成株式会社製、水性ポリカーボネート系ポリウレタン)が挙げられるがこれに限定されない。
【0054】
(親水性ポリエステル)
親水性ポリエステルは、親水基を備えるポリエステルまたは親水性のセグメントが付与されたポリエステルを指す。
【0055】
本発明において、ポリエステルとは、多価カルボン酸とポリアルコールとの重縮合体であり、たとえば、エチレンテレフタレートの繰り返し単位を主たる骨格とするものをいう。上記エチレンテレフタレートの繰り返し単位には、任意の成分がさらに共重合されていてもよく、上記任意の成分としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリエチレンテレフタレートなどが例示されるがこれに限定されない。
【0056】
最表面処理層20において、水系ポリウレタン樹脂100質量部に対し、親水性ポリエステルは、20質量部以上含まれることが好ましく、30質量部以上含まれることがより好ましく、40質量部以上含まれることがさらに好ましく、45質量部以上含まれることが特に好ましい。
一方、最表面処理層20において、水系ポリウレタン樹脂100質量部に対し、親水性ポリエステルは、100質量部以下含まれることが好ましく、75質量部以下含まれることがより好ましい。
上記範囲が、20質量部未満であると水拭き性能が充分でない場合があり、また100質量部を超えて含有させても、さらなる水拭き性の向上が得られ難い。
【0057】
本発明に用いられる親水性ポリエステルは、市販品から適宜選択して使用することもできる。市販品の例としては、たとえばSR-1800(高松油脂株式会社製)、PR-99(日華化学株式会社製)が挙げられるがこれに限定されない。
【0058】
(艶消し剤)
最表面処理層20には、艶消し剤が含まれる。これによって、表皮材100の最表面処理層20側の表面のグロス値を下げることができ、光沢性が抑制され高級感または重厚感のある風合いの表皮材100を提供することができる。
【0059】
艶消し剤は、最表面処理層20において、2.5質量%以上50質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、10質量%以上30質量%以下の範囲で含まれるがより好ましく、10質量%以上25質量%以下の範囲で含まれることがさらに好ましい。
上記範囲が、2.5質量%未満であると、光沢性の抑制効果が十分でない場合があり、一方、50質量%を超えると、親水性ポリエステルの含有量にもよるが、水拭き性能が充分でなくなる虞がある。
【0060】
艶消し剤として、一般的に有機フィラーおよび無機フィラーが挙げられる。艶消し剤は一種のフィラーであってもよいし、二種以上のフィラーを混合させてもよい。
有機フィラーを構成する部材としては、たとえば、ウレタン系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂などからなる粒子状物が挙げられる。
無機フィラーを構成する部材としては、たとえば酸化チタン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、アルミ粉、マイカなどが挙げられる。
艶消し剤として有機フィラーが好ましく、最表面処理層に含有される水系ポリウレタンとの相溶性が良好であるという観点からは、ウレタン系樹脂よりなるフィラーがより好ましい。
【0061】
上記艶消し剤の平均粒径は、特に限定されず、最表面処理層の厚み等から適宜決定してよいが、たとえば、艶消し剤の平均粒径は、2.0μm以上20μm以下であることが好ましく、5.0μm以上16μm以下であることがより好ましい。
艶消し剤の平均粒径は、2.0μm未満であると、粒子の凝集が生じ、最表面処理層における艶消し剤の分散性が悪くなる虞があり、20μmを超える場合には、汚れが落ちにくい虞がある。
【0062】
表皮材のグロス値(Gloss Unit、GU)は、特に限定されないが、表皮材の明度(L値)が70以上の場合は3.0以下、明度(L値)が60以上70未満の場合は2.5以下、明度(L値)が60未満の場合は2.0以下であることが好ましい。表皮材のグロス値が上記の範囲であることにより、表面光沢が抑制され、高級感および重厚感に十分優れた表皮材を提供することができる。
【0063】
本発明に関し、グロス値(Gloss Unit、GU)は、市販の光沢度測定装置を用いて測定することができる。本発明の表皮材は、概ね入射角度60度で測定するとよい。
【実施例
【0064】
基材として、平均厚み500μmのポリエステル製の編布の一方側面に接着層、発泡層、表皮層がこの順で積層されてなる、明度(L値)70、ベージュ色の合成皮革を準備した。
上記接着層は、ポリエステル系ポリウレタン樹脂を主成分とする接着剤を用い、厚み50μmとなるよう設計した。
上記発泡層は、平均厚み300μmの発泡塩化ビニル層とした。
上記表皮層は、平均厚み200μmの塩化ビニル層とした。
【0065】
(実施例1~10)
表1に示す組成を含む最表面処理層形成材料を調製し、これを上述する合成皮革の表皮層面に対しリバースコーターで約25g/mの量で塗布して塗膜を形成した。その後、130℃、2分の条件で上記塗膜を乾燥させ、平均厚み略5μmの最表面処理層を備える表皮材を作成し、それぞれ実施例1~10とした。
【0066】
(比較例1~10)
上述する実施例と同様の合成皮革を準備した。そして、表2に示す組成を含む最表面処理層形成材料を調製し、これを当該合成皮革の表皮層面に対し、実施例と同様の方法で表塗布して乾燥させ、平均厚み略5μmの最表面処理層を備える表皮材を作成し、それぞれ比較例1~10とした。尚、比較例において用いた代替添加物とは、親水性ポリエステルの替りに用いられた化合物のことを意味する。
【0067】
尚、実施例および比較例に用いた各組成の詳細は、以下のとおりである。尚、表1および表2において単位を「部」として示す組成は、いずれも固形分量(固形分質量)に関する配合比を示す。また同様に「質量%」として示す組成は、固形分量をもとに算出された配合比を示す。
<水系ポリウレタン樹脂>
・水性ポリカーボネート系ポリウレタン(ラックコートWN157M:固形分20質量%、セイコー化成株式会社製)
<架橋剤>
・カルボジイミド架橋剤(ラックコートCL7070:固形分40質量%、セイコー化成株式会社製)
<親水性ポリエステル>
・PE1(商品名PR99:固形分10質量%、日華化学株式会社製)
・PE2(商品名SR-D10:固形分10質量%、高松油脂株式会社製)
・PE3(商品名SR-1800:固形分10質量%、高松油脂株式会社製)
<代替添加物>
・ポリエーテル型水系ポリウレタン(USV:固形分27質量%、タナテックスケミカルズジャパン株式会社製)
・水溶性ポリウレタン(PLC Asol:固形分15質量%、コタニ化学工業株式会社製)
・シリコーンアクリル系樹脂(FE-502:固形分30質量%、親水タイプ、信越化学工業株式会社製)
・シリコーンアクリル系樹脂(FE-230N:固形分30質量%、撥水タイプ、信越化学工業株式会社製)
<艶消し剤>
艶消し剤1
・ウレタンビーズ、平均粒径10μm、ラックコートWN157M由来
水系ポリウレタン樹脂として用いたラックコートWN157Mは、平均粒径10μmのウレタンビーズを、水系ポリウレタン樹脂100質量部に対して26質量部含有する。当該ウレタンビーズが、実施例および比較例における艶消し剤として機能する。
艶消し剤2
・C-400(アクリルビース、透明、平均粒径15μm、根上工業株式会社製)
・C-800(アクリルビース、透明、平均粒径6μm、根上工業株式会社製)
【0068】
上述のとおり得られた実施例および比較例を以下の通り試験し、評価した。試験における測定値、および評価は、いずれも表1および表2に示す。
【0069】
(光沢度の評価)
光沢度測定装置(日本電色工業株式会社製、携帯用光沢計PG-1型)を用い、入射角を60度に設定して、各実施例および各比較例における最表面処理層の光沢度(グロス値;Gloss Unit、GU)を測定した。そして測定されたグロス値(GU)から光沢度を以下の通り評価した。
○・・・・・グロス値(GU)が3.0以下であった。
×・・・・・グロス値(GU)が3.0を上回った。
【0070】
(土埃試験)
<汚れ付着作業>
土埃の汚れを人工的に再現するために、人工汚染布(EMPA104、日本資材株式会社製)を用い、学振型摩耗試験機にて荷重9.8N、摩擦往復速度30回/min、摩擦往復距離200mmで50往復、最表面処理層の表面を擦った。その後、人工汚染布を新しいものに交換し、再度、50往復擦り、土埃の付着した表皮材を得た。
【0071】
<拭取り作業>
上記汚れ付着作業にて得られた土埃の付着した表皮材の最表面処理層を、水気を絞ったタオルで10往復程度擦り、汚れを拭きとった。拭取り作業はいずれも同一の試験者が同程度の力で行った。
【0072】
<色差ΔEの測定>
色差計(コニカミノルタ株式会社製、分光測色計 CM-2500d、光源:D65)を用いて色相を測定し、色差ΔEを算出した。具体的には以下のとおりである。
土埃に関する汚れ付着作業前の最表面処理層の色相(L1、a1、b1)を3点測定し平均値を算出、その後、汚れ付着作業後および拭取り作業後それぞれにおいて、最表面処理層の色相(汚れ付着作業後;L2、a2、b2/拭取り作業後;L3、a3、b3)を3点測定し、平均値を算出した。
そして、汚れ付着作業前の色の濃さ及び色相に対する、汚れ付着作業後における色の濃さ及び色相の差ΔL1、Δa1、Δb1を以下の式(1)~(3)の通り求めた。
ΔL1=L2-L1・・・・・(1)
Δa1=a2-a1・・・・・(2)
Δb1=b2-b1・・・・・(3)
そして、以下に示すCIE1976色差計算式(4)に基づき色差ΔE1(土埃)を求めた。
ΔE1=[(ΔL1)+(Δa1)+(Δb1)1/2 ・・・・・(4)
また汚れ付着作業前の色の濃さ及び色相に対する、拭き取り作業後における色の濃さ及び色相の差ΔL2、Δa2、Δb2を以下の式(5)~(7)の通り求めた。
ΔL2=L3-L1・・・・・(5)
Δa2=a3-a1・・・・・(6)
Δb2=b3-b1・・・・・(7)
そして、以下に示すCIE1976色差計算式(8)に基づき色差ΔE2(土埃)を求めた。
ΔE2=[(ΔL2)+(Δa2)+(Δb2)1/2 ・・・・・(8)
【0073】
<土埃拭取り評価>
上述のとおり得たΔE2(土埃)の値を用い、表皮材の水拭きによる汚れ取り評価を以下のとおり行った。
○・・・・・ΔE2(土埃)が2.0以下であった。
×・・・・・ΔE2(土埃)が2.0を上回った。
【0074】
(デニム試験)
<汚れ付着作業>
デニムの汚れを人工的に再現するために、0.3gの蒸留水を霧吹きで吹き付けた人工汚染布(Denim2550y、日本資材株式会社製)を用い、学振摩耗試験機にて荷重9.8N、摩擦往復速度30回/min、摩擦往復距離200mmで50往復、最表面処理層の表面を擦った。尚、デニム汚れとは、たとえば座面などに表皮材が用いられた場合に、デニム地の服を着た者が当該座面に座った際に表皮材に転写するデニム汚れを想定したものである。
【0075】
<拭取り作業>
上記デニム試験にて得られたデニム(デニムの色素)の付着した表皮材の最表面処理層を、浴用タオル(JIS L 4105 3a 1号)で10往復程度擦り、汚れを拭きとった。拭取り作業はいずれも同一の試験者が同程度の力で行った。
【0076】
上述する土埃試験における色差の測定と同様に、デニムに関する汚れ付着作業前の最表面処理層の色の濃さ及び色相(L1、a1、b1)を3点測定し平均値を算出、その後、汚れ付着作業後および拭取り作業後それぞれにおいて、最表面処理層の色の濃さ及び色相(汚れ付着作業後;L2、a2、b2/拭取り作業後L3、a3、b3)を3点測定し、平均値を算出した。
そして、上述するCIE1976色差計算式を用い、汚れ付着作業前と汚れ付着作業後の色差ΔE1(デニム)、および汚れ付着作業前および拭取り作業後の色差ΔE2(デニム)を求めた。
【0077】
<デニム拭取り評価>
上述のとおり得たΔE2(デニム)の値を用い、表皮材の水拭きによる汚れ取り評価を以下のとおり行った。
○・・・・・ΔE2(デニム)が2.0以下であった。
×・・・・・ΔE2(デニム)が2.0を上回った。
【0078】
(総合評価)
各実施例および各比較例に関する各評価から、表皮材の総合評価を以下のとおり行った。
○・・・・・土埃拭取り評価、デニム拭取り評価、および光沢度の評価がいずれも○評価であった。
×・・・・・土埃拭取り評価、デニム拭取り評価、および光沢度の評価の少なくとも1つが×評価であった。
【0079】
土埃汚れおよびデニム汚れの付着試験を行った後の最表面処理層側の面であって、汚れが付された領域の一部を拭取り試験によって拭取った後の実施例1および比較例1の写真を図2および図3に示す。
具体的には、図2に示す試験片(A)は、土埃試験を行った実施例1の最表面処理層側の面を示すものである。試験片(A)は、所定領域(領域30)全体において土埃の汚れ付着作業を行った後、境界50よりも紙面右側の領域(拭取り領域34a)において拭取り作業を行った。境界50よりも紙面左側の領域(非拭取り領域32a)は、比較のために土埃の汚れを維持した。
図2に示す試験片(B)は、デニム試験を行った実施例1の最表面処理層側の面を示すものである。試験片(B)は、所定領域(領域40)全体においてデニムの汚れ付着作業を行った後、境界50よりも紙面右側の領域(拭取り領域44b)において拭取り作業を行った。境界50よりも紙面左側の領域(非拭取り領域42b)は、比較のためにデニムの汚れを維持した。
図3に示す試験片(C)は、土埃試験を行った比較例1の最表面処理層側の面を示すものである。試験片(C)は、所定領域(領域30)全体において土埃の汚れ付着作業を行った後、境界50よりも紙面右側の領域(拭取り領域34c)において拭取り作業を行った。境界50よりも紙面左側の領域(非拭取り領域32c)は、比較のために土埃の汚れを維持した。
図3に示す試験片(D)は、デニム試験を行った比較例1の最表面処理層側の面を示すものである。試験片(D)は、所定領域(領域40)全体においてデニムの汚れ付着作業を行った後、境界50よりも紙面右側の領域(拭取り領域44d)において拭取り作業を行った。境界50よりも紙面左側の領域(非拭取り領域42d)は、比較のためにデニムの汚れを維持した。
【0080】
図2において示されるとおり、実施例1では、試験片(A)の拭き取り領域34aおよび試験片(B)の拭き取り領域44bは、いずれも目視でほぼ汚れが確認できない程度に綺麗に汚れが拭取とられたことが確認された。
一方、図3に示す比較例1では、試験片(C)の拭き取り領域34cおよび試験片(D)の拭き取り領域44dは、いずれも目視で汚れがはっきりと確認でき、拭取り作業後も、非拭取り領域32c、42dとの差異が分かり難かった。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)基材と、
前記基材の少なくとも一方側面に設けられた最表面処理層と、を有し、
前記最表面処理層が、水系ポリウレタン樹脂、架橋剤、親水性ポリエステル、および艶消し剤を含むことを特徴とする表皮材。
(2)前記基材が合成皮革である上記(1)に記載の表皮材。
(3)前記水系ポリウレタン樹脂100質量部に対し、前記親水性ポリエステルが20質量部以上100質量部以下の範囲で含まれる上記(1)または(2)に記載の表皮材。
(4)前記最表面処理層に前記艶消し剤が2.5質量%以上50質量%以下の範囲で含まれる上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の表皮材。
(5)前記艶消し剤が有機フィラーである上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の表皮材。
【符号の説明】
【0084】
10・・・基材
12・・・生布
14・・・接着層
16・・・発泡層
18・・・表皮層
20・・・最表面処理層
30、40・・・領域
34a、34c、44b、44d・・・拭取り領域
32a、32c、42b、42d・・・非拭取り領域
50・・・境界
100・・・表皮材
A、B、C、D・・・試験片
図1
図2
図3