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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】熱量計
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/28 20060101AFI20240328BHJP
   G01K 17/00 20060101ALN20240328BHJP
【FI】
G01N25/28
G01K17/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020141623
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037471
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 尚史
(72)【発明者】
【氏名】奥野 辰行
(72)【発明者】
【氏名】名川 良春
(72)【発明者】
【氏名】白木 正浩
(72)【発明者】
【氏名】南 辰志
(72)【発明者】
【氏名】河越 雅雄
【審査官】野口 聖彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-044855(JP,A)
【文献】特開昭54-033783(JP,A)
【文献】特開昭60-198443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00
G01K 17/00
G01K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の燃料ガスが流入する管材と、
前記管材に挿入され測温接点を備える測温体と、
前記管材の内側における前記測温接点よりも下流側に設けられ、前記燃料ガスが通過する第1のストッパー部材と、
前記第1のストッパー部材により堰き止められ、前記測温接点を覆うように前記管材の内側に充填された顆粒状の触媒と、
前記触媒を加熱する加熱部と
前記管材に固定された固定部と
を備え
前記測温体は、前記固定部に固定され、前記固定部から前記管材の内側に挿入され前記第1のストッパー部材を貫通し、
前記第1のストッパー部材は、前記測温体の被覆材に固定され、
前記第1のストッパー部材は、板材であり、前記板材の中心部に前記被覆材が挿通される孔が形成され、前記板材における前記中心部の周囲の全域に直径が前記触媒の粒径よりも小さい複数の通気孔が形成されている熱量計。
【請求項2】
前記触媒の粒径は、100μm以上1000μm以下である請求項1に記載の熱量計。
【請求項3】
前記第1のストッパー部材と共に前記触媒を挟み込むように前記管材の内側に設けられ、前記燃料ガスが通過する第2のストッパー部材を備える請求項1又は2に記載の熱量計。
【請求項4】
前記管材は縦向きに配されている請求項1からまでの何れか1項に記載の熱量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱量計に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスの熱量測定に用いられる熱量計として、燃料ガスの通路内に熱電対と触媒とを設け、通路内を通過する燃料ガスの触媒燃焼による発熱量を熱電対で測定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の熱量計では、ガラス管内の触媒室に粒径が300オングストロームの粉末状のパラジウム及びアルミナが触媒として充填され、この触媒室の上流側と下流側とにガラスウールが充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-44855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の熱量計では、ガラス管内を通過する燃料ガスの流体抵抗の観点から、粉末状の触媒及びガラスウールをガラス管内に密に詰め込むことは好ましくないとされている。ここで、粉末状の触媒及びガラスウールをガラス管内に密に詰め込まない場合、ガラス管内の触媒室に触媒が少ない又は無い空間ができる。この触媒が少ない又は無い空間に熱電対の測温接点が位置する場合、測温接点の周囲において、燃料ガスの燃焼反応が生じ難くなり、熱電対で計測される温度上昇幅が小さくなり、その温度上昇幅から算出される燃料ガスの燃焼時の発熱量が小さくなる。これにより、燃料ガスの燃焼時の発熱量の測定分解能および測定精度が低くなる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、燃料ガスの熱量測定の精度を向上させることができる熱量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る熱量計は、測定対象の燃料ガスが流入する管材と、前記管材に挿入され測温接点を備える測温体と、前記管材の内側における前記測温接点よりも下流側に設けられ、前記燃料ガスが通過する第1のストッパー部材と、前記第1のストッパー部材により堰き止められ、前記測温接点を覆うように前記管材の内側に充填された顆粒状の触媒と、前記触媒を加熱する加熱部と、前記管材に固定された固定部とを備え、前記測温体は、前記固定部に固定され、前記固定部から前記管材の内側に挿入され前記第1のストッパー部材を貫通し、前記第1のストッパー部材は、前記測温体の被覆材に固定され、前記第1のストッパー部材は、板材であり、前記板材の中心部に前記被覆材が挿通される孔が形成され、前記板材における前記中心部の周囲の全域に直径が前記触媒の粒径よりも小さい複数の通気孔が形成されている。
【0010】
本発明に係る熱量計において、前記触媒の粒径は、100μm以上1000μm以下であってもよい。
【0011】
本発明に係る熱量計において、前記第1のストッパー部材と共に前記触媒を挟み込むように前記管材の内側に設けられ、前記燃料ガスが通過する第2のストッパー部材を備えてもよい。
【0012】
本発明に係る熱量計において、前記管材は縦向きに配されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱量計によれば、熱電対の測温接点の周囲に顆粒状の触媒が存在するので、測温接点の周囲において燃料ガスの燃焼反応が生じ、熱電対で計測される温度上昇幅が大きくなるため、その温度上昇幅から算出される燃料ガスの燃焼時の発熱量が大きくなる。これにより、燃料ガスの燃焼時の発熱量の分解能および測定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る熱量計を備える測定システムの概略を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示す熱量計の構成を模式的に示す断面図である。
図3図3は、図2に示す熱量計の燃焼機能部を拡大して示す断面図である。
図4図4は、図3に示す燃焼機能部の第1のストッパー部材を示す平面図である。
図5図5は、実施例の燃焼特性を確認する実験の結果を示すグラフ及び表である。
図6図6は、比較例の燃焼特性を確認する実験の結果を示すグラフ及び表である。
図7図7は、実施例の触媒室と比較例の触媒室とを拡大して示す図である。
図8図8は、本発明の他の実施形態に係る熱量計の燃焼機能部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱量計20を備える測定システム1の概略を示すブロック図である。この図に示すように、測定システム1は、ガス混合装置10と、熱量計20とを備える。ガス混合装置10は、可燃ガスと空気とを混合することにより混合ガスを燃料ガスとして熱量計20に供給する。熱量計20は、ガス混合装置10から供給された燃料ガスを燃焼させて発熱量を測定する。
【0017】
ガス混合装置10は、第1配管11と、第2配管12と、第3配管13と、第1流量計14aと、第2流量計14bと、第1バルブ15aと、第2バルブ15bと、混合器16と、第1レギュレーターR1と、第2レギュレーターR2とを備える。
【0018】
第1配管11は、第1レギュレーターR1と混合器16とを接続し、第1レギュレーターR1を通して供給される可燃ガスを混合器16まで導く。第1流量計14aは、第1配管11に設けられ、第1配管11を流れる可燃ガスの流量を測定する。第1バルブ15aは、第1配管11における第1流量計14aより下流側に設けられ、混合器16に供給される可燃ガスの流量を調整するニードルバルブ等の流量調整バルブである。
【0019】
第2配管12は、第2レギュレーターR2と混合器16とを接続し、第2レギュレーターR2を通して供給される空気を混合器16に導く。第2流量計14bは、第2配管12に設けられ、第2配管12を流れる空気の流量を測定する。第2バルブ15bは、第2配管12における第2流量計14bより下流側に設けられ、混合器16に供給される空気の流量を調整するニードルバルブ等の流量調整バルブである。
【0020】
混合器16は、第1配管11から供給された可燃ガスと第2配管12から供給された空気とを混合する。この混合器16には、第3配管13が接続されている。この第3配管13は、混合器16において混合された混合ガスを燃料ガスとして熱量計20に供給する。
【0021】
熱量計20は、燃焼機能部21と、定電圧源(電圧源)22と、データロガー23と、演算装置24とを備える。燃焼機能部21には、第3配管13から燃料ガスが供給される。定電圧源22は、燃焼機能部21に電力を供給する。燃焼機能部21は、定電圧源22から供給される電力により駆動され、第3配管13から供給された燃料ガスを燃焼させる。
【0022】
図2は、図1に示す熱量計20の構成を模式的に示す断面図である。この図に示すように、燃焼機能部21は、管材211と、シース熱電対212と、ヒーター213と、触媒214と、第1のストッパー部材215と、第2のストッパー部材216とを備える。管材211は、燃料ガスの燃焼時の温度に対する耐熱性と、燃焼時の燃料ガスの管材211外への放熱を抑える低い伝熱性とを有する管材である。本実施形態の管材211は、内径が4mmの円筒状のセラミックチューブである。なお、管材211の内径は、2mm以上10mm以下が好ましい。
【0023】
管材211は縦向きに配されており、管材211の上端に第3配管13が接続されている。管材211の下端の近傍には、排気孔211aが形成されている。
【0024】
シース熱電対212は、熱電対素線212aと、シース212bと、スリーブ212cと、アダプター212dと、ケーブル212eとを備え、ゼーベック効果を利用して温度を測定する。熱電対素線212aは、一端(上端)に測温接点Pが設けられている。シース212bは、直線性の高い形状を維持する硬質で細い管材であり、熱電対素線212aを被覆している。本実施形態のシース212bは、外径が0.5mmの金属製の管材である。シース212b内には絶縁物が充填されている。本実施形態のシース熱電対212は、非接地型である。なお、シース熱電対212を接地型や露出型に変えてもよい。
【0025】
スリーブ212cは、直線性の高い形状を維持する硬質で細い管材であり、熱電対素線212aの他端側を被覆している。このスリーブ212cの一端とシース212bの他端とが銀ろう付け等により接合されている。本実施形態のスリーブ212cは、外径が6mmで金属製である。
【0026】
アダプター212dは、円筒状の管材取付部212zと、ナット形状の張出部212yとを備える。管材取付部212zと張出部212yとは、一体で形成され同軸的に配されている。張出部212yは、管材取付部212zの外面から径方向外側に張り出す部位である。管材取付部212zと張出部212yとには、スリーブ212cが挿通されている。管材取付部212zは、管材211の下端から管材211内に挿入されている。張出部212yとスリーブ212cとは、溶接等により接合されている。また、張出部212yと管材211の下端とは、接着等により接合されている。なお、張出部212yが、ナット形状であることは必須ではない。また、張出部212yと管材211の下端とを接着等で接合することによりアダプター212dと管材211の下端とを接合することは必須ではなく、管材取付部212zと管材211の下端とを相互に螺合させることによりアダプター212dと管材211の下端とを接合してもよい。
【0027】
ここで、管材211の下端は、アダプター212dにより閉塞されている。他方で、管材211に形成された排気孔211aは、管材取付部212zの上端よりも上側に配されている。これによって、管材211内を下向きに流れた燃料ガスは、排気孔211aを通して管材211外へ流出する。
【0028】
ケーブル212eは、柔軟性のある補償導線であり、このケーブル212eの一端が熱電対素線212aの他端(下端)に接続されている。このケーブル212eの他端には不図示の圧着端子が取り付けられており、この圧着端子がデータロガー23に取り付けられている。ケーブル212eの一部は、スリーブ212cに挿入されている。
【0029】
ヒーター213は、管材211が挿通されたコイル型のヒーターである。このヒーター213のコイル部213aは、少なくとも管材211の触媒室211bを含む範囲の周囲に巻回されている。コイル部213aは、リード部213bを介して定電圧源22に接続されており、定電圧源22から電圧を印加されることにより発熱する。
【0030】
触媒214は、触媒室211bに充填された顆粒状の触媒である。触媒214の粒径は、粉末の粒径に比して数十倍~数百倍と大きい。触媒214の粒径は、100μm未満に篩にかけて整粒するのは困難であり、1000μmより大きくすると管材211の内径と近くなって燃料ガスとの接触が悪くなるという観点から、100μm以上1000μm以下が好ましく、355μm以上710μm以下がより好ましい。また、触媒214は、例えば、パラジウムや白金等を金属や金属酸化物が担持したもの等である。触媒室211bに充填される触媒214の質量は、0.1g以上0.5g以下が好ましい。ここで、本実施形態の触媒214の質量は、0.12gであり、後述するように触媒室211bの上端から測温接点Pまでの距離は、約1mmであり、触媒室211bの下端から上端までの距離は、約5mmである。それに対して、触媒室211bに充填される触媒214の質量を0.1gとする場合、触媒室211bの下端から触媒214の上端までの距離は、4.17(=(0.1/0.12)×5)mmとなる。この場合、測温接点Pが触媒214から露出しない。
【0031】
第1のストッパー部材215は、触媒室211bの下側に配されている。この第1のストッパー部材215は、管材211の内周面に嵌合したステンレス等の金属製の板である。本実施形態の第1のストッパー部材215は円板である。また、本実施形態の第1のストッパー部材215の厚みは約1mmである。
【0032】
図3は、図2に示す熱量計20の燃焼機能部21を拡大して示す断面図である。図4は、図3に示す燃焼機能部21の第1のストッパー部材215を示す平面図である。これらの図に示すように、第1のストッパー部材215には複数の通気孔215aが形成されている。この通気孔215aの直径は、触媒214の粒径(平均値)よりも小さい。これにより、燃料ガスは、通気孔215aを通過するが、触媒214は、通気孔215aを通過せずに第1のストッパー部材215の上に堆積する。本実施形態の通気孔215aの直径は0.3mmである。
【0033】
通気孔215aは、第1のストッパー部材215の中心部を除く全域に密に形成されている。それに対して、第1のストッパー部材215の中心部には、通気孔215aに比して大径の孔215bが形成されている。この孔215bにはシース212bが挿通されている。ここで、第1のストッパー部材215の中心部とシース212bとはセラミック接着剤等の接着剤により接着されている。この接着剤により、孔215bとシース212bとの隙間が埋められている。
【0034】
図3に示すように、第2のストッパー部材216は、触媒室211bの上側に配されている。この第2のストッパー部材216は、管材211の内周面に嵌合したステンレス等の金属製の板である。本実施形態の第2のストッパー部材216は円板である。ここで、第2のストッパー部材216の全域に複数の通気孔216aが密に形成されている。この通気孔216aの直径は、触媒214の粒径(平均値)よりも小さい。これにより、燃料ガスは、第2のストッパー部材216の通気孔216aを通過するが、触媒214は、第2のストッパー部材216の通気孔216aを通過せずに第2のストッパー部材216の下側に留まる。本実施形態の第2のストッパー部材216の通気孔216aの直径は0.3mmである。また、本実施形態の第2のストッパー部材216の厚みは約1mmである。なお、触媒214が振動によって揺れ動いたり飛散したりすることが抑えられていればよく、かかる条件を満たしているのであれば、第2のストッパー部材216の構成を変更したり、第2のストッパー部材216を非設置にしたりすることが可能である。例えば、流路抵抗を抑える観点から、第2のストッパー部材216の通気孔216aの直径を触媒214の粒径よりも大きくしたり、第2のストッパー部材216を網目状部材にしたり、第2のストッパー部材216の厚みを上記の約1mmに比して小さくしたりすること等が可能である。
【0035】
ここで、熱電対素線212aの先端の測温接点Pは、触媒室211bに配されている。測温接点Pの位置は、触媒室211bの径方向の中央部が好ましい。また、触媒室211bの上端(第2のストッパー部材216の下面)から測温接点Pまでの距離は、触媒214の粒径の最大値よりも大きいことが好ましい。本実施形態では、触媒室211bの上端から測温接点Pまでの距離は、約1mmに設定されている。
【0036】
コイル部213aが定電圧源22から電圧を印加されることにより発熱すると、触媒214が所定の温度に加熱される。データロガー23は、シース熱電対212から出力される信号、すなわち、測温接点Pの周囲の温度を記録する。
【0037】
演算装置24は、データロガー23の記録内容に基づいて燃焼機能部21に供給された燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。発熱量を演算するに際し、演算装置24には、第1流量計14a及び第2流量計14bの測定値も入力される。演算装置24としては、例えばPC(Personal Computer)を用いることができる。
【0038】
ここで、燃焼機能部21の作製方法について説明する。まず、第1のストッパー部材215をシース212bに接着する。次に、シース熱電対212を第1のストッパー部材215と共に管材211に挿入する。次に、シース熱電対212のアダプター212dを管材211の下端に接着する。次に、触媒214を、管材211の上端から第1のストッパー部材215の上に充填する。次に、管材211の上端から棒材(図示省略)を挿入して、この棒材により触媒室211b内の上層の触媒214を平らにする。その後、第2のストッパー部材216を管材211の上端から挿入する。
【0039】
図2に示すように、保護容器29は、縦方向の寸法が横方向の寸法に比して大きい断熱性の筐体であり、管材211の上端側を除く全体と、この管材211に収納された触媒214等を収容する。この保護容器29は、例えば風の影響により、シース熱電対212の測定温度が変動することを抑制している。
【0040】
保護容器29の天板29aには、管材211が挿通される開口が形成されている。他方で、保護容器29の底板29bには、スリーブ212cが挿通される開口が形成されている。保護容器29の側板29cには、リード部213bが挿通される溝が形成されている。保護容器29の底板29bは、シース熱電対212の張出部212yを支持することで燃焼機能部21を支持している。なお、側板29cがリード部213bを支持することで燃焼機能部21が保護容器29に支持されるようにしてもよい。
【0041】
保護容器29の背板29dには、開口29fが形成されており、この開口29fには、金属製の網目状の部材である金網29gが設けられている。即ち、背板29dには、網目状に仕切られた多数の開口が形成されている。これにより、燃料ガスの燃焼により触媒室211bで発生した排ガスが、排気孔211aを通して管材211内から保護容器29へ排出され、背板29dの多数の開口を通して保護容器29外へ排出される。
【0042】
以上のような構成の熱量計20において、演算装置24は、シース熱電対212により測定されてデータロガー23に記録された温度に基づいて、燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。演算装置24には、触媒214における温度変化と燃料ガスの燃焼時の発熱量との相関関係を示す相関データが記憶されており、演算装置24は、この相関データを利用して、燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。
【0043】
具体的には、制御装置(図示省略)が、第1バルブ15a、第2バルブ15b、及び混合器16を制御し、可燃ガスを第1配管11に流し、空気を第2配管12に流し、可燃ガスと空気とを混合器16にて混合する。これにより、所定濃度の可燃ガスを含む燃料ガスを生成する。この燃料ガスは、第3配管13を通じて熱量計20に供給される。この際、第1流量計14aは、第1配管11を流れる可燃ガスの流量を測定して測定情報を演算装置24に出力し、第2流量計14bは、第2配管12を流れる空気の流量を測定して測定情報を演算装置24に出力する。
【0044】
定電圧源22はヒーター213に電圧を印加しており、触媒214の温度は例えば250~400℃程度となる。この状態において、燃料ガスの燃焼時の発熱によって測温接点Pの周囲の温度が上昇する。シース熱電対212は、測温接点Pの周囲の温度に応じた信号をデータロガー23に送信し、データロガー23はこれを記憶する。
【0045】
演算装置24は、予め記憶している相関データと、データロガー23が記憶したシース熱電対212の測温情報と、第1流量計14a及び第2流量計14bの流量情報とから、燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。
【0046】
以下、本実施形態に係る燃焼機能部21の燃焼特性を確認するために実施された実験について説明する。本実験では、顆粒状の触媒214を用いた実施例の燃焼特性と、触媒を塗布した多孔質体を用いた比較例の燃焼特性とについて確認した。本実験では、触媒に対する加熱温度を200℃から360℃まで上昇させ、シース熱電対212による燃焼時の測定温度と燃焼前の触媒の加熱温度との差ΔT(℃)(以下、単にΔT(℃)という)の変化を確認した。本実験ではメタン濃度3.0%の燃料ガスを用いた。
【0047】
実施例の仕様は以下のとおりである。まず、顆粒状の触媒214の粒径は、355μm以上710μm以下であり、触媒214の質量は、0.1181gである。管材211の内径は4.0mmであり、触媒室211bの上端から測温接点Pまでの距離は1.0mmである。管材211の材質はセラミックである。
【0048】
比較例の仕様は以下のとおりである。まず、金属多孔質体は、内部に多数の連続性気孔を有する構造体であり、ステンレスで形成されている。触媒は、ディップコーティングにより金属多孔質体に塗布されている。触媒の質量は0.0515gである。また、管材211の内径は4.0mmであり、触媒室211bの上端から測温接点Pまでの距離は1.0mmである。管材211の材質はセラミックである。
【0049】
図5は、実施例の燃焼特性を確認する実験の結果を示すグラフ及び表である。このグラフ及び表に示すように、触媒214の加熱温度が200℃~260℃の場合には、ΔT(℃)の上昇は僅か(触媒214の加熱温度が260.1℃のときにΔT(℃)が2.5℃)であるのに対して、触媒214の加熱温度が280℃以上の場合には、ΔT(℃)が210℃を超える。触媒214の加熱温度が330℃の場合には、ΔT(℃)は約214℃である。触媒214の加熱温度が280℃以上の場合に、ΔT(℃)が210℃以上の範囲で安定する。この実験結果から、触媒214の加熱温度が280℃以上の場合に、燃料ガスと触媒214との反応による発熱量がシース熱電対212の測定値に顕著に出現すると共に、反応開始温度付近で発熱量の測定値が安定することを確認できる。
【0050】
図6は、比較例の燃焼特性を確認する実験の結果を示すグラフ及び表である。このグラフ及び表に示すように、触媒の加熱温度が0~270℃の場合には、ΔT(℃)の上昇は僅か(触媒の加熱温度が269.2℃のときにΔT(℃)が4.1℃)であるのに対して、触媒の加熱温度が300℃以上の場合には、ΔT(℃)が120℃を超える。触媒の加熱温度が330℃の場合には、ΔT(℃)は約145℃である。この実験結果から、触媒の加熱温度が280℃以上の場合に、燃料ガスの燃焼反応による発熱量が熱電対の測定値に顕著に出現することを確認できる。
【0051】
ここで、触媒の加熱温度が330℃という条件で実施例と比較例とを比較すると、実施例のΔT(℃)は214℃であるのに対して、比較例のΔT(℃)は145℃であり、実施例が比較例を大きく上回ることを確認できる。ここで、ΔT(℃)が大きいほどシース熱電対212による測温の分解能が高くなり、シース熱電対212による測温の精度が向上する。また、実施例のΔT(℃)は反応開始温度(280℃)付近で安定するのに対して、比較例のΔT(℃)は反応開始温度(280℃)から離れた温度(320~330℃)で安定すること、即ち、実施例が比較例よりも速応性に優れることを確認できる。
【0052】
図7は、実施例の触媒室211bと比較例の触媒室とを拡大して示す図である。この図に示すように、実施例の触媒室211bと比較例の触媒室とを比較すると、実施例の触媒214間の隙間の大きさが、比較例の多孔質体の空洞Hの大きさに比して小さい。ここで、比較例の触媒室では、測温接点Pの周囲に空洞Hが位置する場合も想定され、この場合には、測温接点Pの周囲に触媒が存在しないことになり、温度の測定値が低くなる可能性がある。それに対して、実施例の触媒室211bでは、測温接点Pの周囲に触媒214が存在するので、比較例に比して温度の測定値が高くなる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の熱量計20では、顆粒状の触媒214が、熱電対素線212aの先端の測温接点Pを覆うように管材211内の触媒室211bに充填され、第1のストッパー部材215により堰き止められている。ここで、顆粒に比して粒径が小さい粉末状の触媒を用いる場合には、燃料ガスの流体抵抗の観点から、触媒を触媒室211bに密に充填することができない。それに対して、本実施形態の熱量計20によれば、触媒214を触媒室211bに密に充填した場合でも、触媒214間の通気路を確保でき、燃料ガスの流体抵抗を抑えることができる。他方で、多孔質体に触媒を担持させた構造体を用いる場合には、燃料ガスの流体抵抗は抑えられるものの、構造体の各所に大きな空洞Hが存在することになる。それに対して、本実施形態の熱量計20によれば、触媒214を触媒室211bに密に充填できることにより、触媒214間に大きな空洞ができない。
【0054】
これによって、本実施形態の熱量計20によれば、燃料ガスの流体抵抗を抑えたうえで、熱電対素線212aの測温接点Pの周囲に大きな空洞を作らずに触媒214を存在させることができ、測温接点Pの周囲における燃料ガスと触媒214との反応を促進させることができる。従って、測温接点Pの周囲における燃料ガスの燃焼時の発熱量を大きくすることができ、シース熱電対212による測温の分解能を高め、熱量計20による燃料ガスの燃焼時の発熱量の測定精度を向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態の熱量計20によれば、シース熱電対212のシース212bがアダプター212dに固定され、このアダプター212dが管材211の下端に固定されることにより、熱電対素線212aの測温接点Pと管材211とが相対的に位置決めされている。さらに、第1のストッパー部材215がシース212bに固定されることで、第1のストッパー部材215と測温接点Pとが相対的に位置決めされている。従って、測温接点Pを触媒室211b内の所望の位置に配置することができる。
【0056】
また、本実施形態の熱量計20には、管材211におけるアダプター212dと第1のストッパー部材215との間に排気孔211aが形成されている。これにより、熱電対素線212aの測温接点Pと管材211との相対的な位置決めを行ったうえで、燃焼機能部21での燃料ガスの燃焼により生じた排ガスを管材211外へ排出することができる。
【0057】
また、本実施形態の熱量計20では、板材である第1のストッパー部材215の中心部に、シース212bが挿通される孔215bが形成され、第1のストッパー部材215の中心部の周囲の全域に、複数の通気孔215aが密に形成されている。これにより、第1のストッパー部材215を多孔質体にする場合に比して、燃料ガスの流体抵抗を抑えることができる。
【0058】
また、本実施形態の熱量計20では、顆粒状の触媒214の粒径が、100μm以上1000μm以下である。即ち、本実施形態の触媒214は、粉末状の触媒に比して、粒径が格段に大きい。従って、触媒214を触媒室211bに密に充填した場合でも、粉末状の触媒を用いる場合に比して、燃料ガスの流体抵抗を抑えることができる。
【0059】
また、本実施形態の熱量計20では、第1のストッパー部材215と第2のストッパー部材216とが、顆粒状の触媒214を挟み込むように管材211の内側に設けられている。これにより、顆粒状の触媒214が、燃料ガスの下流側のみならず上流側にも飛散しない。
【0060】
また、本実施形態の熱量計20では、管材211とシース熱電対212とは縦向きに配されている。このため、顆粒状の触媒214を管材211内に充填する作業を、管材211の上端から管材211内に流し込むという簡易な作業で実施できる。
【0061】
図8は、本発明の他の実施形態に係る熱量計の燃焼機能部321を拡大して示す断面図である。この図に示すように、本実施形態の燃焼機能部321は、上述の実施形態の燃焼機能部21の第1のストッパー部材215及び第2のストッパー部材216に代えて、第1のストッパー部材315及び第2のストッパー部材316を備える。
【0062】
第1のストッパー部材315及び第2のストッパー部材316は、金属多孔質体である。この金属多孔質体は、多数の連続性気孔を内部に有する構造体であり、本実施形態では例えばステンレスから形成されている。第1のストッパー部材315及び第2のストッパー部材316の気孔径は、触媒214の粒径よりも小さいことが望ましい。
【0063】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【0064】
例えば、上記実施形態では、管材211を縦向きとしたが、管材211を横向きにしてもよい。また、上記実施形態では、シース熱電対212を管材211の下流端から管材211内に挿入したが、熱電対素線212aを管材211の上流端や中間部から管材211内に挿入してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、測温体として熱電対を用いたが、測温抵抗体等の他の測温体を用いてもよい。
【符号の説明】
【0066】
20 熱量計
211 管材
211a 排気孔
212 シース熱電対(測温体)
212b シース(被覆材)
212d アダプター(固定部)
213 ヒーター(加熱部)
214 触媒
215 第1のストッパー部材
215a 通気孔
215b 孔
216 第2のストッパー部材
315 第1のストッパー部材
316 第2のストッパー部材
P 測温接点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8