(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】樹脂ガラス用コーティング剤および樹脂ガラス
(51)【国際特許分類】
C09D 175/14 20060101AFI20240328BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20240328BHJP
C09D 169/00 20060101ALI20240328BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240328BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240328BHJP
C09D 7/48 20180101ALI20240328BHJP
C09D 7/47 20180101ALI20240328BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240328BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240328BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
C09D175/14
C09D4/00
C09D169/00
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/48
C09D7/47
B32B27/36 102
B32B27/40
B32B27/18 Z
B32B27/18 A
(21)【出願番号】P 2020142609
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗像 秀典
(72)【発明者】
【氏名】磯部 元成
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 咲也子
(72)【発明者】
【氏名】野田 謙
(72)【発明者】
【氏名】後藤 宏太
(72)【発明者】
【氏名】上里 直子
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-002315(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099131(WO,A1)
【文献】特開2015-178550(JP,A)
【文献】特開2019-18449(JP,A)
【文献】特開2015-78274(JP,A)
【文献】特開2018-51906(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155643(WO,A1)
【文献】特表2018-528999(JP,A)
【文献】特開2017-82118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00ー 43/00
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートからなるA成分と、
イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレートからなるB成分と、
脂環構造を含むポリカーボネートジオールに由来するポリカーボネート骨格及び1分子当たり3個以上の重合性不飽和基を備え、重量平均分子量が10,000以上40,000以下であり、前記脂環構造の含有率が10質量%以上25質量%以下である重合性ウレタンからなるC成分と、
(メタ)アクリロイル基を備えたコロイダルシリカからなるD成分と、を含む膜形成成分と、
光ラジカル重合開始剤からなるE成分と、を含み、
前記膜形成成分の合計100質量部に対して、前記A成分の含有量は3質量部以上60質量部以下であり、前記B成分の含有量は10質量部以上50質量部以下であり、前記C成分の含有量は10質量部以上50質量部以下であり、前記D成分の含有量は1質量部以上30質量部以下であり、前記E成分の含有量
は0.1質量部以上10質量部以下である、樹脂ガラス用コーティング剤。
【請求項2】
前記樹脂ガラス用コーティング剤は、さらに、紫外線吸収剤からなるF成分を含有しており、前記F成分の含有量は、前記膜形成成分の合計100質量部に対して1質量部以上12質量部以下である、
請求項1に記載の樹脂ガラス用コーティング剤。
【請求項3】
前記樹脂ガラス用コーティング剤は、更に、シリコーン系表面調整剤およびフッ素系表面調整剤から選択される1種以上の化合物からなるG成分を含有しており、前記G成分の含有量は、前記膜形成成分の合計100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下である、
請求項1または2に記載の樹脂ガラス用コーティング剤。
【請求項4】
透明樹脂からなる基材と、
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂ガラス用コーティング剤の硬化物からなり、前記基材の表面を被覆するコーティング膜と、を有する、樹脂ガラス。
【請求項5】
前記基材は前記透明樹脂としてのポリカーボネートから構成されている、
請求項4に記載の樹脂ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ガラス用コーティング剤および樹脂ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や鉄道等の車両における窓は、無機ガラスから構成されている。近年では、車両の軽量化を目的として、窓などを構成する無機ガラスを、無機ガラスよりも軽量な透明樹脂からなる樹脂ガラスへ置き換えることが検討されている。しかし、樹脂ガラスは、無機ガラスに比べて耐摩耗性や耐候性が低いという問題がある。
【0003】
かかる問題を解決し、樹脂ガラスの耐摩耗性および耐候性を向上させるため、透明樹脂の表面に硬い皮膜を形成する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリカーボネートの板状成形体と、当該成形体の少なくとも片面上に設けられたプライマー層と、プライマー層の上に形成されたハードコート層とを有する被覆ポリカーボネート板状成形体の形成方法が記載されている。ハードコート層は、コロイダルシリカとトリアルコキシシランの加水分解縮合物とを含むハードコート塗液を加熱して硬化させることにより形成されている。
【0004】
この種の板状成形体は、意匠性を高めるなどの目的で、曲面状を呈していることがある。曲面状の板状成形体の表面に皮膜を形成するに当たっては、予め所望の形状に成形された板状成形体を準備し、この板状成形体の表面に皮膜を形成する方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の被覆ポリカーボネート板状成形体のように、プライマー層とハードコート層との2層構造からなる皮膜を形成するに当たっては、板状成形体上にプライマーを塗布する工程、プライマーを乾燥させてプライマー層を形成する工程、プライマー層上にコーティング剤を塗布する工程およびコーティング剤を硬化させてハードコート層を形成する工程を順次行う必要がある。そのため、皮膜の形成作業が煩雑になるとともに、皮膜の形成作業に要するコストの増大を招いている。
【0007】
また、特許文献1に記載された皮膜は靭性が低いため、皮膜が板状成形体の熱膨張等による変形に追従しきれず、クラックが発生しやすいという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で高い硬さと優れた靭性とを兼ね備えたコーティング膜を形成することができる樹脂ガラス用コーティング剤およびこの樹脂ガラス用コーティング剤を用いて作製された樹脂ガラスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートからなるA成分と、
イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレートからなるB成分と、
脂環構造を含むポリカーボネートジオールに由来するポリカーボネート骨格及び1分子当たり3個以上の重合性不飽和基を備え、重量平均分子量が10,000以上40,000以下であり、前記脂環構造の含有率が10質量%以上25質量%以下である重合性ウレタンからなるC成分と、
(メタ)アクリロイル基を備えたコロイダルシリカからなるD成分と、を含む膜形成成分と、
光ラジカル重合開始剤からなるE成分と、を含み、
前記膜形成成分の合計100質量部に対して、前記A成分の含有量は3質量部以上60質量部以下であり、前記B成分の含有量は10質量部以上50質量部以下であり、前記C成分の含有量は10質量部以上50質量部以下であり、前記D成分の含有量は1質量部以上30質量部以下であり、前記E成分の含有量は0.1質量部以上10質量部以下である、樹脂ガラス用コーティング剤にある。
【0010】
本発明の他の態様は、透明樹脂からなる基材と、
前記の態様の樹脂ガラス用コーティング剤の硬化物からなり、前記基材の表面を被覆するコーティング膜と、を有する、樹脂ガラスにある。
【発明の効果】
【0011】
前記樹脂ガラス用コーティング剤(以下、「コーティング剤」という。)は、前記A成分~前記D成分を含む膜形成成分と、光ラジカル重合開始剤からなるE成分とを含有している。前記A成分~前記D成分は、いずれも、(メタ)アクリロイル基等の光ラジカル重合性官能基を有している。そのため、前記コーティング剤を基材上に塗布した後、コーティング剤に光を照射してE成分からラジカルを発生させるという簡便な方法により、膜形成成分を硬化させてコーティング膜を形成することができる。
【0012】
前記コーティング剤を硬化させてなるコーティング膜は、各成分が三次元的に架橋してなる網状構造を有しているため、高い硬さを有している。また、コーティング膜の網状構造中には、脂環構造を含むポリカーボネート骨格を有し、比較的分子量が大きいC成分に由来する構造が組み込まれている。これにより、コーティング膜の靭性を向上させることができる。
【0013】
従って、前記の態様によれば、簡便な方法で高い硬さと優れた靭性とを兼ね備えたコーティング膜を形成することができる樹脂ガラス用コーティング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(樹脂ガラス用コーティング剤)
前記コーティング剤における膜形成成分には、A成分~D成分が含まれている。これらの成分を含むコーティング剤を硬化させることにより、高い硬さと優れた靭性とを兼ね備えたコーティング膜を形成することができる。また、前記コーティング剤を硬化させてなるコーティング膜は、基材との密着性、耐摩耗性および耐候性にも優れている。以下、コーティング剤に含まれる各成分について説明する。
【0015】
・A成分:イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレート
前記コーティング剤中には、必須成分として、イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートからなるA成分が含まれている。前記コーティング剤中にA成分を配合することにより、前記コーティング剤を硬化させてなるコーティング膜の耐候性を向上させることができる。
【0016】
前記コーティング剤中のA成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して3質量部以上60質量部以下である。これにより、A成分による耐候性向上の効果を確保しつつ、A成分以外の成分の含有量を十分に多くし、これらの成分による作用効果をバランスよく高めることができる。その結果、コーティング膜の硬さ、基材との密着性、耐摩耗性、耐候性および靭性をバランスよく向上させることができる。かかる作用効果をより高める観点からは、前記コーティング剤中のA成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して20質量部以上60質量部以下であることがより好ましく、30質量部以上60質量部以下であることがさらに好ましく、35質量部以上60質量部以下であることが特に好ましい。
【0017】
A成分としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物を採用することができる。下記一般式(1)で表される化合物は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはそのε-カプロラクトン変性体との付加反応によって合成することができる。A成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0018】
【0019】
なお、前記一般式(1)におけるR1、R2およびR3は炭素数2~10の2価の有機基である。R1、R2およびR3は同一の有機基であってもよいし、互いに異なる有機基であってもよい。ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン変性体が付加された場合には、前述した2価の有機基に-COCH2CH2CH2CH2CH2-または-OCOCH2CH2CH2CH2CH2-のいずれかの部分構造が含まれる。
【0020】
R1、R2およびR3は、例えばエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の、炭素数2~4のアルキレン基であることが好ましく、テトラメチレン基であることがより好ましい。この場合には、コーティング膜の耐摩耗性および耐候性をより向上させることができる。
【0021】
前記一般式(1)におけるR4、R5およびR6は水素原子またはメチル基である。R4、R5およびR6は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。R4、R5およびR6は、水素原子であることが好ましい。この場合には、前記コーティング剤の硬化性をより向上させることができる。
【0022】
ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはそのε-カプロラクトン変性体との付加反応は、触媒を用いずに行ってもよいし、反応を促進させるために触媒を用いて行ってもよい。触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウリレート等のスズ系触媒や、トリエチルアミン等のアミン系触媒を使用することができる。
【0023】
・B成分:イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレート
前記コーティング剤中には、必須成分として、イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレートからなるB成分が含まれている。前記コーティング剤中にB成分を配合することにより、硬化後のコーティング膜の耐候性を向上させるとともに、コーティング膜と基材との密着性を向上させることができる。
【0024】
前記コーティング剤中のB成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して10質量部以上50質量部以下である。これにより、B成分による耐候性および密着性向上の効果を確保しつつ、B成分以外の成分の含有量を十分に多くし、これらの成分による作用効果をバランスよく高めることができる。その結果、コーティング膜の硬さ、基材との密着性、耐摩耗性、耐候性および靭性をバランスよく向上させることができる。
【0025】
かかる作用効果をより高める観点からは、前記コーティング剤中のB成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して10質量部以上45質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上40質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以上30質量部以下であることが特に好ましい。
【0026】
B成分としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物等を使用することができる。下記一般式(2)で表される化合物は、例えば、イソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加体と(メタ)アクリル酸またはそのε-カプロラクトン変性体との縮合反応によって合成することができる。B成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0027】
【0028】
なお、前記一般式(2)におけるR7、R8およびR9は炭素数2~10の2価の有機基である。また、n1=1~3であり、n2=1~3であり、n3=1~3であり、n1+n2+n3=3~9である。n1+n2+n3の値は、前記一般式(2)で表される化合物1分子当たりのアルキレンオキサイドの平均付加モル数を表す。
【0029】
前記一般式(2)におけるR7、R8およびR9は同一の有機基であってもよいし、互いに異なる有機基であってもよい。また、n1、n2、n3は同一の値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。イソシアヌル酸に(メタ)アクリル酸のε-カプロラクトン変性体が縮合した場合には、前述した2価の有機基に-COCH2CH2CH2CH2CH2-または-OCOCH2CH2CH2CH2CH2-のいずれかの部分構造が含まれる。
【0030】
前記一般式(2)におけるR7、R8およびR9は、例えばエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の、炭素数2~4のアルキレン基であることが好ましく、エチレン基であることがより好ましい。この場合には、コーティング膜の耐摩耗性および耐候性をより向上させることができる。
【0031】
また、前記一般式(2)におけるn1の値、n2の値およびn3の値は1であることが好ましい。この場合には、基材に対するコーティング膜の密着性をより向上させることができる。
【0032】
前記一般式(2)におけるR10、R11およびR12は水素原子またはメチル基である。R10、R11およびR12は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。R10、R11およびR12は、水素原子であることが好ましい。この場合には、前記コーティング剤の硬化性をより向上させることができる。
【0033】
・C成分:重合性ウレタン
前記コーティング剤中には、必須成分として、脂環構造を含むポリカーボネートジオールに由来するポリカーボネート骨格及び1分子当たり3個以上の重合性不飽和基を備え、重量平均分子量が10,000以上40,000以下であり、前記脂環構造の含有率が10質量%以上25質量%以下である重合性ウレタンからなるC成分が含まれている。前記コーティング剤中にC成分を配合することにより、硬化後のコーティング膜の靭性を向上させることができる。そして、コーティング膜の靭性を向上させることにより、樹脂ガラスが熱膨張した際等におけるコーティング膜のクラックの発生を抑制することができる。
【0034】
前記コーティング剤中のC成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して10質量部以上50質量部以下である。これにより、C成分による靭性向上の効果を確保しつつ、C成分以外の成分の含有量を十分に多くし、これらの成分による作用効果をバランスよく高めることができる。その結果、コーティング膜の硬さ、基材との密着性、耐摩耗性、耐候性および靭性をバランスよく向上させることができる。
【0035】
C成分中に含まれる重合性不飽和基の数は、1分子当たり3個以上である。これによりコーティング膜の架橋密度を高くし、硬いコーティング膜を形成することができる。コーティング膜の硬さと靭性とを両立させる観点からは、C成分中に含まれる重合性不飽和基の数は、1分子当たり3個以上10個以下であることが好ましく、4個以上6個以下であることがより好ましい。
【0036】
C成分に含まれる重合性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、プロペニル基、ブタジエニル基、スチリル基、エチニル基、シンナモイル基、マレエート基、アクリルアミド基等を挙げることができる。硬化性の観点からは、C成分に含まれる重合性不飽和基は、(メタ)アクリロイル基であることが好ましく、アクリロイル基であることがより好ましい。
【0037】
C成分の重量平均分子量は、10,000以上40,000以下である。C成分の重量平均分子量を10,000以上とすることにより、コーティング膜の靭性を向上させることができる。また、C成分の重量平均分子量を40,000以下とすることにより、コーティング膜の硬さ、耐摩耗性、耐候性及び基材との密着性を向上させることができる。前述した諸特性をバランスよく高める観点から、C成分の重量平均分子量は、10,000以上30,000以下であることが好ましく、11,000以上25,000以下であることがより好ましく、12,000以上18,000以下であることがさらに好ましい。
【0038】
C成分の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により得られるポリスチレン換算の重量平均分子量の値である。GPCの測定条件は、具体的には以下の通りである。
装置:HPLC-8220(東ソー株式会社製)
カラム構成:TSKgel SuperHZ3000 + TSKgel SuperHZ1000(いずれも東ソー株式会社製)
検出器:示差屈折率検出器
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液の流速:0.6mL/min
温度:40℃
キャリブレーション:ポリスチレン換算
試料濃度:0.01g/5mL
【0039】
C成分中の脂環構造の含有率は、C成分の含有量に対して10質量%以上25質量%以下である。これにより、コーティング膜の靭性、硬さ、基材との密着性、耐摩耗性及び耐候性をバランスよく高めることができる。かかる作用効果をより高める観点からは、C成分中の脂環構造の含有率は、C成分の含有量に対して15質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。前述した脂環構造の含有量は、化合物の合成時に使用した原料の構造式と、当該原料の使用割合とから算出される理論値である。
【0040】
なお、前述した「脂環構造」とは、例えば、環状の飽和脂肪族炭化水素基や環状の不飽和脂肪族炭化水素基等の、芳香族性(つまり、π電子共役系)を有さない環構造をいう。
「脂環構造」は、炭素原子のみで構成された環構造のほか、構成原子としてヘテロ原子を含む複素環構造をも含む概念である。
【0041】
C成分としては、例えば、市販されている重合性ウレタンを使用することができる。C成分として使用可能な市販品としては、例えば、宇部興産株式会社製の「UA0581B」や「UA0499B」、「UA0582B-30」、「UA0592B」、「UA0503B」、「UA0505B」、「UA0500B」等が挙げられる。また、上記C成分としては、例えば、脂環構造を含むポリカーボネートジオール(c1)と、ポリイソシアネート化合物(c2)と、重合性不飽和化合物(c3)との反応によって生じる重合性ウレタンを使用することもできる。
【0042】
<脂環構造を含むポリカーボネートジオール(c1)>
脂環構造を含むポリカーボネートジオール(c1)としては、脂環式ジオールに由来する構造単位と、カーボネート基とを含む化合物を使用することができる。ポリカーボネートジオール(c1)には、さらに、脂環構造を有しないジオールに由来する構造単位が含まれていてもよい。
【0043】
ポリカーボネートジオール(c1)中の脂環構造の含有率は、C成分の含有量に対して5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、8質量%以上15質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。ポリカーボネートジオール(c1)中の脂環構造の含有率を前記特定の範囲内とすることにより、コーティング膜の硬さと靭性とをバランスよく向上させることができる。
【0044】
ポリカーボネートジオール(c1)は、例えば、脂環式ジオールとカルボニル化剤とを重縮合反応させることにより得ることができる。
【0045】
ポリカーボネートジオール(c1)の合成に用いられる脂環式ジオールとしては、例えば、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。これらの脂環式ジオールは、単独で使用されていてもよいし、2種以上が併用されていてもよい。
【0046】
ポリカーボネートジオール(c1)の合成に用いられるカルボニル化剤は、ポリカーボネートの製造に用いることができるカルボニル化剤であれば、特に限定されることはない。カルボニル化剤としては、例えば、アルキレンカーボネート、ジアルキルカーボネート、ジアリルカーボネート、ホスゲン等を挙げることができる。これらのカルボニル化剤は、単独で使用されていてもよいし、2種以上が併用されていてもよい。カルボニル化剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート及びジフェニルカーボネートを使用することが好ましい。
【0047】
また、脂環構造を含むポリカーボネートジオール(c1)としては、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、宇部興産株式会社製の「ETERNACOLL UC-100」(ジオール成分:1,4-シクロヘキサンジメタノール)、「ETERNACOLL UM-90(1/1)」(ジオール成分:1,6-ヘキサンジオール及び1,4-シクロヘキサンジメタノール)などを挙げることができる。なお、「ETERNACOLL」は宇部興産株式会社の登録商標である。
【0048】
<ポリイソシアネート化合物(c2)>
ポリイソシアネート化合物(c2)としては、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物を使用することができる。ポリイソシアネート化合物(c2)としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート及び芳香族ポリイソシアネート並びにこれらのポリイソシアネートの誘導体等が挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物(c2)は、単独で使用されていてもよいし、2種以上が併用されていてもよい。
【0049】
前記脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート及び2,6-ジイソシアナトヘキサン酸メチル(慣用名:リジンジイソシアネート)等の脂肪族ジイソシアネート並びに2,6-ジイソシアナトヘキサン酸2-イソシアナトエチル、1,6-ジイソシアナト-3-イソシアナトメチルヘキサン、1,4,8-トリイソシアナトオクタン、1,6,11-トリイソシアナトウンデカン、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、1,3,6-トリイソシアナトヘキサン及び2,5,7-トリメチル-1,8-ジイソシアナト-5-イソシアナトメチルオクタン等の脂肪族トリイソシアネート等を挙げることができる。
【0050】
前記脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(慣用名:イソホロンジイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-若しくは1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(慣用名:水添キシリレンジイソシアネート)又はその混合物、メチレンビス(1,4-シクロヘキサンジイル)ジイソシアネート(慣用名:水添MDI)及びノルボルナンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート並びに1,3,5-トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2-(3-イソシアナトプロピル)-2,5-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2-(3-イソシアナトプロピル)-2,6-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3-(3-イソシアナトプロピル)-2,5-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)-ヘプタン及び6-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン等の脂環族トリイソシアネート等を挙げることができる。
【0051】
前記芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、メチレンビス(1,4-フェニレン)ジイソシアネート(慣用名:MDI)、1,3-若しくは1,4-キシリレンジイソシアネート又はその混合物、ω,ω’-ジイソシアナト-1,4-ジエチルベンゼン及び1,3-若しくは1,4-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)又はその混合物等の芳香脂肪族ジイソシアネート並びに1,3,5-トリイソシアナトメチルベンゼン等の芳香脂肪族トリイソシアネート等を挙げることができる。
【0052】
前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,4-若しくは2,6-トリレンジイソシアネート又はその混合物、4,4’-トルイジンジイソシアネート及び4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネート、1,3,5-トリイソシアナトベンゼン及び2,4,6-トリイソシアナトトルエン等の芳香族トリイソシアネート並びに4,4’-ジフェニルメタン-2,2’,5,5’-テトライソシアネート等の芳香族テトライソシアネート等を挙げることができる。
【0053】
また、前記ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、前記ポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、オキサジアジントリオン、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)及びクルードTDI等を挙げることができる。
【0054】
ポリイソシアネート化合物(c2)としては、コーティング膜の硬度及び耐候性の観点から、脂環族ジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0055】
<重合性不飽和化合物(c3)>
重合性不飽和化合物(c3)としては、水酸基及び重合性不飽和基を有する化合物を使用することができる。
【0056】
重合性不飽和化合物(c3)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの重合性不飽和化合物(c3)は、単独で使用されていてもよいし、2種以上が併用されていてもよい。
【0057】
重合性不飽和化合物(c3)としては、コーティング膜の硬度及び耐候性の観点から、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及び/又はジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートを使用することが好ましく、ペンタエリスリトールトリアクリレート及び/又はジペンタエリスリトールペンタアクリレートを使用することがより好ましく、ペンタエリスリトールトリアクリレートを使用することがさらに好ましい。
【0058】
<C成分の合成>
C成分を合成するに当たっては、例えば、脂環構造に由来するポリカーボネートジオール(c1)、ポリイソシアネート化合物(c2)及び重合性不飽和化合物(c3)を公知のウレタン化反応により縮重合させればよい。C成分中に前述した化合物以外の化合物に由来する構造単位を導入しようとする場合には、前述した縮重合の際に、ポリカーボネートジオール(c1)、ポリイソシアネート化合物(c2)及び重合性不飽和化合物(c3)と共に、これら以外の化合物を縮重合させればよい。
【0059】
上記ウレタン化反応は、有機溶液中で行うことができる。有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で使用されていてもよいし、2種以上が併用されていてもよい。
【0060】
ウレタン化反応における反応温度は常温から100℃までの範囲内であることが好ましい。また、ウレタン化反応における反応時間は1時間以上10時間以下の範囲内であることが好ましい。
【0061】
上記ウレタン化反応においては、反応液のイソシアネート当量を追跡することにより、反応の進行状態を確認することができる。イソシアネート当量は、ジブチルアミンを用いた逆滴定により求めることができる。逆滴定は、具体的には、試料に過剰のジブチルアミンを加えて反応させ、滴定指示薬としてブロモフェノールブルーを用い残余のジブチルアミンを塩酸水溶液で滴定することにより行うことができる。
【0062】
上記ウレタン化反応においては、必要に応じてジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエート、ジブチルスズサルファイト等の有機スズ触媒を使用してもよい。触媒の量は、反応原料の総量100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上0.5質量部以下であることがより好ましい。
【0063】
また、ウレタン化反応においては、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の重合禁止剤を使用してもよい。重合禁止剤を使用する場合、その添加量は、反応原料の総量100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下であることが好ましい。
【0064】
・D成分:(メタ)アクリロイル基を備えたコロイダルシリカ
前記コーティング剤は、必須成分として、(メタ)アクリロイル基を備えたコロイダルシリカからなるD成分を含有している。コーティング剤中にD成分を配合することにより、コーティング剤の硬化性を向上させるとともに、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性、耐水性を向上させることができる。
【0065】
D成分は、(メタ)アクリロイル基および炭化水素基を備えたコロイダルシリカであることが好ましい。この場合には、コーティング膜の耐候性および耐水性をさらに向上させることができる。前述した作用効果をより高める観点からは、炭化水素基の炭素数は、3以上13以下であることが好ましく、4以上8以下であることがより好ましい。
【0066】
前記コーティング剤中のD成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。この場合には、コーティング膜の耐摩耗性をより向上させることができる。
【0067】
また、コーティング剤中のD成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。この場合には、D成分による硬化性および耐摩耗性向上の効果を確保しつつ、D成分以外の成分の含有量を十分に多くし、これらの成分による作用効果をバランスよく高めることができる。その結果、コーティング膜の硬さ、基材との密着性、耐摩耗性、耐候性および靭性をバランスよく向上させることができる。
【0068】
D成分としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を備えたシランカップリング剤(d2)を用いてコロイダルシリカ(d1)を化学的に修飾した物質や、(メタ)アクリロイル基を備えたシランカップリング剤(d2)および炭化水素基を備えたシランカップリング剤(d3)を用いてコロイダルシリカ(d1)を化学的に修飾した物質などを使用することができる。
【0069】
D成分を作製する際に用いられるコロイダルシリカ(d1)は、例えば、アルコール系分散媒と、アルコール系分散媒中に分散したシリカ一次粒子とを有していてもよい。シリカ一次粒子は、アルコール系分散媒中において、互いに分離した状態で存在していてもよいし、複数個のシリカ一次粒子が凝集してなる二次粒子として存在していてもよい。
【0070】
シリカ一次粒子の平均一次粒子径は、1nm以上50nm以上であることが好ましく、1nm以上30nm以下であることがより好ましい。シリカ一次粒子の平均一次粒子径を1nm以上とすることにより、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性をより向上させることができる。また、シリカ一次粒子の平均一次粒子径を50nm以下とすることにより、コロイダルシリカの分散安定性をより向上させることができる。
【0071】
なお、シリカ一次粒子の平均一次粒子径は、BET法によって測定された比表面積に基づいて算出することができる。例えば、シリカ一次粒子の平均一次粒子径が1nm以上50nm以下の場合、BET法によって測定される比表面積は30m2/g以上3000m2/g以下である。
【0072】
コロイダルシリカ(d1)と反応させる、(メタ)アクリロイル基を備えたシランカップリング剤(d2)としては、例えば、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン等を使用することができる。これらのシランカップリング剤(d2)は、単独で使用されていてもよいし、2種以上が併用されていてもよい。
【0073】
コロイダルシリカ(d1)と反応させる、炭化水素基を備えたシランカップリング剤(d3)としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等を使用することができる。シランカップリング剤(d3)における炭化水素基の炭素数は、3以上13以下であることが好ましく、4以上8以下であることがより好ましい。これらのシランカップリング剤(d3)は、単独で使用されていてもよいし、2種以上が併用されていてもよい。
【0074】
D成分を合成するに当たっては、例えば、コロイダルシリカ(d1)とシランカップリング剤(d2)とを有機溶媒の存在下で反応させる方法を採用することができる。シランカップリング剤(d2)の添加量は、100質量部のシリカ一次粒子に対して10質量部以上40質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0075】
D成分としての(メタ)アクリロイル基および炭化水素基を備えたコロイダルシリカを作製しようとする場合には、例えば、コロイダルシリカ(d1)とシランカップリング剤(d2)及びシランカップリング剤(d3)とを有機溶媒の存在下で反応させる方法を採用することができる。この場合、シランカップリング剤(d2)の添加量は、100質量部のシリカ一次粒子に対して10質量部以上40質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。また、シランカップリング剤(d3)の添加量は、100質量部のシリカ一次粒子に対して0質量部超30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
【0076】
・E成分:光ラジカル重合開始剤
前記コーティング剤中には、必須成分として、光ラジカル重合開始剤からなるE成分が含まれている。E成分は、コーティング剤に、E成分の分子構造に応じて定まる特定の波長の光を照射することにより、コーティング剤中にラジカルを発生させることができる。そして、このラジカルによって、(メタ)アクリロイル基等の膜形成成分中に含まれる光ラジカル重合性官能基同士の重合反応を開始させることができる。
【0077】
前記コーティング剤中のE成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下とする。前記コーティング剤中のE成分の含有量を0.1質量部以上とすることにより、基材上に配置した前記コーティング剤を硬化させてコーティング膜を形成することができる。
【0078】
E成分の含有量が0.1質量部未満の場合には、重合反応の開始点となるラジカルの量が不足するため、コーティング剤を十分に硬化させることが難しくなる。その結果、コーティング膜の硬さが低くなり、傷に対する耐久性が低下するおそれがある。また、この場合には、コーティング膜の基材に対する密着性の低下や耐候性の低下などの問題が生じるおそれもある。
【0079】
一方、E成分の含有量が過度に多くなると、コーティング剤の保管中に意図しないラジカル重合反応が開始されやすくなる等、コーティング剤の保存安定性の低下を招くおそれがある。また、この場合には、硬化後のコーティング膜中に未反応の重合開始剤が残存しやすくなる。コーティング膜中に残存する未反応の重合開始剤の量が過度に多くなると、コーティング膜の劣化が促進されるおそれがある。更に、この場合には、材料コストの増大を招くおそれもある。
【0080】
E成分の含有量を10質量部以下とすることにより、前述した問題を回避しつつ重合反応の開始点となるラジカルの量を十分に多くし、コーティング剤を十分に硬化させることができる。
【0081】
E成分としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、α-ケトエステル系化合物、フォスフィンオキサイド系化合物、ベンゾイン化合物、チタノセン系化合物、アセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤およびカンファーキノン等を使用することができる。
【0082】
アセトフェノン系化合物としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパノン}および2-ヒドロキシ-1-{4-〔4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等が挙げられる。
【0083】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノンおよび4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルファイド等が挙げられる。α-ケトエステル系化合物としては、例えば、メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2-(2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステルおよびオキシフェニル酢酸の2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等が挙げられる。
【0084】
フォスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。ベンゾイン化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。アセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤としては、例えば、1-〔4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕-2-メチル-2-(4-メチルフェニルスルフィニル)プロパン-1-オン等が挙げられる。オキシムエステル系光重合開始剤としては、例えば、2-(O-ベンゾイルオキシム)-1-〔4-(フェニルチオ)〕-1,2-オクタンジオン等が挙げられる。
【0085】
E成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0086】
・F成分:紫外線吸収剤
前記コーティング剤は、任意成分として、紫外線吸収剤からなるF成分を含有していてもよい。F成分は、紫外線によるコーティング膜の劣化を抑制する作用を有している。F成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して1質量部以上12質量部以下の範囲から適宜設定することができる。前記コーティング剤中のF成分の含有量を1質量部以上とすることにより、硬化後のコーティング膜の耐候性をより向上させることができる。
【0087】
一方、F成分の含有量が過度に多い場合には、コーティング膜の耐摩耗性の低下を招くおそれがある。さらに、この場合には、かえってコーティング膜の耐候性が低下するおそれもある。F成分の含有量を12質量部以下とすることにより、これらの問題を回避することができる。
【0088】
F成分としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、紫外線を吸収する無機微粒子等を使用することができる。
【0089】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-ドデシロキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-トリデシロキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-(2-エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチロキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0090】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-5-{2-(メタ)アクリロイルオキシエチル}フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0091】
ベンゾフェノン系紫外線としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等を使用することができる。シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、オクチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等が挙げられる。無機微粒子としては、例えば、酸化チタン微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化錫微粒子等が挙げられる。
【0092】
F成分としては、前述した化合物および無機微粒子から選択された1種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。F成分としては、(メタ)アクリロイル基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を使用することが好ましい。この場合には、コーティング膜の耐候性および耐摩耗性をバランスよく高めることができる。
【0093】
・G成分:シリコーン系表面調整剤およびフッ素系表面調整剤
前記コーティング剤は、任意成分として、シリコーン系表面調整剤およびフッ素系表面調整剤のうち1種以上の化合物からなるG成分を含有していてもよい。G成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下の範囲から適宜設定することができる。前記コーティング剤中のG成分の含有量を0.01質量部以上とすることにより、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性をより向上させることができる。
【0094】
一方、コーティング剤中のG成分の含有量が過度に多い場合には、硬化後にコーティング膜の表面が粗くなる等の外観の悪化を招くおそれがある。更に、G成分の含有量が多くなると、材料コストの増大を招くおそれもある。G成分の含有量を1質量部以下とすることにより、かかる問題を回避することができる。
【0095】
G成分としては、シリコーン系表面調整剤およびフッ素系表面調整剤から選択される1種または2種以上の化合物を使用することができる。
【0096】
シリコーン系表面調整剤としては、例えば、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するシリコーン系ポリマーおよびシリコーン系オリゴマー、シリコーン鎖とポリエステル鎖とを有するシリコーン系ポリマーおよびシリコーン系オリゴマー、EBECRYL350、EBECRYL1360(以上、ダイセル・オルネクス株式会社製)、BYK-315、BYK-349、BYK-375、BYK-378、BYK-371、BYK-UV3500、BYK-UV3570(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、X-22-164、X-22-164AS、X-22-164A、X-22-164B、X-22-164C、X-22-164E、X-22-174DX、X-22-2426、X-22-2475(以上、信越化学工業株式会社製)、AC-SQTA-100、AC-SQSI-20、MAC-SQTM-100、MAC-SQSI-20、MAC-SQHDM(以上、東亞合成株式会社製)、8019additive(東レ・ダウコーニング株式会社製)、ポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン等を使用することができる。なお、「EBECRYL」はダイセル・オルネクス株式会社の登録商標であり、「BYK」はビックケミー・ジャパン株式会社の登録商標である。
【0097】
フッ素系表面調整剤としては、例えば、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド基とを有するフッ素系ポリマーおよびフッ素系オリゴマー、パーフルオロアルキルエーテル基とポリアルキレンオキサイド基とを有するフッ素系ポリマーおよびフッ素系オリゴマー、メガファックRS-75、メガファックRS-76-E、メガファックRS-72-K、メガファックRS-76-NS、メガファックRS-90(以上、DIC株式会社製)、オプツールDAC-HP(ダイキン工業株式会社製)、ZX-058-A、ZX-201、ZX-202、ZX-212、ZX-214-A(以上、株式会社T&KTOKA製)等を使用することができる。なお、「メガファック」はDIC株式会社の登録商標であり、「オプツール」はダイキン工業株式会社の登録商標である。
【0098】
・有機溶媒
前記コーティング剤は、前述した各成分を溶解または分散させるための有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、例えば、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテル;トルエンおよびキシレン等の芳香族化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン;ジブチルエーテル等のエーテル;ジアセトンアルコール;N-メチルピロリドン等を使用することができる。前記コーティング剤は、これらの有機溶媒のうち1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0099】
前記コーティング剤は、有機溶媒としてのアルキレングリコールモノエーテルを含んでいることが好ましい。アルキレングリコールモノエーテルは、前述した各成分の分散性または溶解性に優れているため、基材上に前記コーティング剤を塗布した後に、均一な塗膜を形成することができる。また、基材がポリカーボネートから構成されている場合には、有機溶媒としてアルキレングリコールモノエーテルを使用することにより、基材を溶かすことなく塗膜を形成することができる。
【0100】
・その他の添加剤
前記コーティング剤中には、必須成分としてのA成分~E成分の他に、コーティング剤の硬化を損なわない範囲で、コーティング剤用の添加剤が含まれていてもよい。例えば、前記コーティング剤中には、添加剤として、ラジカル捕捉剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の、コーティング膜の劣化を抑制するための添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤を使用することにより、コーティング膜の耐候性を向上させる効果を期待することができる。
【0101】
(樹脂ガラス)
前記樹脂ガラス用コーティング剤を透明樹脂からなる基材の表面に塗布した後硬化させることにより、透明樹脂からなる基材と、前記樹脂ガラス用コーティング剤の硬化物からなり、基材の表面を被覆するコーティング膜と、を有する樹脂ガラスを得ることができる。基材が板状である場合には、コーティング膜は、基材の片面にのみ形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。コーティング膜の膜厚は特に限定されることはないが、例えば、1μm以上50μm以下の範囲から適宜設定することができる。コーティング膜の膜厚は5μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0102】
前記コーティング剤の硬化物は透明であるため、透明樹脂からなる基材の表面に前記コーティング膜を形成することにより、無機ガラスに比べて軽量な樹脂ガラスを得ることができる。また、前記コーティング膜は高い硬さを有しているため、樹脂ガラスの耐摩耗性を向上させることができる。さらに、前記コーティング膜は、靭性にも優れているため、樹脂ガラスが熱膨張した場合などに、基材に容易に追従し、クラックの発生を抑制することができる。
【0103】
基材を構成する透明樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、ポリカーボネートを採用することができる。ポリカーボネートは耐候性、強度、透明性等の窓用透明部材に要求される諸特性に優れているため、ポリカーボネートからなる基材の表面に前記コーティング膜を形成することにより、窓用透明部材として好適な樹脂ガラスを得ることができる。
【0104】
前記樹脂ガラスを作製するに当たっては、例えば、基材を準備する準備工程と、
基材の表面上にコーティング剤を塗布する塗布工程と、
コーティング剤中のE成分からラジカルを発生させ、基材の表面上においてコーティング剤を硬化させる硬化工程と、
を有する製造方法を採用することができる。
【0105】
前記製造方法において、塗布工程でのコーティング剤の塗布には、スプレーコーター、フローコーター、スピンコーター、ディップコーター、バーコーター、アプリケーター等の公知の塗布装置の中から、所望する膜厚や基材の形状等に応じて適切な装置を選択して使用することができる
【0106】
塗布工程の後、必要に応じてコーティング剤を加熱して乾燥させる工程を行ってもよい。
【0107】
硬化工程においては、E成分の分子構造に応じて定まる適切な波長の光をコーティング剤に照射することにより、E成分からラジカルを発生させることができる。
【0108】
硬化工程の後、必要に応じてコーティング膜を加熱し、硬化を促進させる工程を行ってもよい。
【実施例】
【0109】
前記コーティング剤および樹脂ガラスの実施例について説明する。なお、本発明に係るコーティング剤および樹脂ガラスの態様は、以下に示す態様に限定されるものではなく、その趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0110】
本例のコーティング剤には、イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートからなるA成分と、イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレートからなるB成分と、脂環構造を含むポリカーボネートジオールに由来するポリカーボネート骨格及び1分子当たり3個以上の重合性不飽和基を備え、重量平均分子量が10,000以上40,000以下であり、前記脂環構造の含有率が10質量%以上25質量%以下である重合性ウレタンからなるC成分と、(メタ)アクリロイル基を備えたコロイダルシリカからなるD成分と、を含む膜形成成分と、
光ラジカル重合開始剤からなるE成分と、が含まれている。
E成分の含有量は、膜形成成分の合計100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下である。
【0111】
本例においてコーティング剤の作製に用いられる化合物は、具体的には以下の通りである。
【0112】
・A成分
A-1:ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの付加生成物
・B成分
B-1:M-315(東亞合成株式会社製、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性トリアクリレートを含む混合物)
【0113】
・C成分
C-1:ウレタンアクリレート(宇部興産株式会社製「UA0581」)
C-2:ウレタンアクリレート(宇部興産株式会社製「UA0499B」)
C-3:ウレタンアクリレート(宇部興産株式会社製「UA0582B-30」)
C-4:ウレタンアクリレート(宇部興産株式会社製「UA0592B」)
C-5:ウレタンアクリレート(宇部興産株式会社製「UA0503B」)
C-6:ウレタンアクリレート(宇部興産株式会社製「UA0505B」)
C-7:ウレタンアクリレート(宇部興産株式会社製「UA0500B」)
【0114】
前述したC-1からC-7は、いずれも、脂環構造を含むポリカーボネート骨格を備えたポリカーボネートポリジオール(c1)と、ポリイソシアネート化合物(c2)と、重合性不飽和化合物(c3)との反応生成物である。
【0115】
表1に、C-1からC-7の重量平均分子量、1分子当たりの重合性不飽和基の数、C成分中の脂環構造の含有率、ポリカーボネートジオール(c1)中の脂環構造の含有率、使用されたポリイソシアネート化合物(c2)及び重合性不飽和化合物(c3)を示す。なお、表1に示したC成分中の脂環構造の含有率は、C成分の含有量に対するC成分中に存在する全ての脂環構造の含有量の比率を百分率で表した値である。また、表1に示したポリカーボネートジオール(c1)中の脂環構造の含有率は、C成分の含有量に対するポリカーボネートジオール(c1)中に存在する脂環構造の含有量の比率を百分率で表した値である。
【0116】
・D成分
D-1:(メタ)アクリロイル基および炭化水素基を備えたコロイダルシリカ
・E成分
E-1:Omnirad754(IGM Resins B.V.社製、フォスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤)
E-2:Omnirad819(IGM Resins B.V.社製、α-ケトエステル系化合物を含む光ラジカル重合開始剤)
【0117】
・F成分
RUVA-93(大塚化学株式会社製、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)及びTinuvin479(BASF社製、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤)
・G成分
8019additive(東レ・ダウコーニング株式会社製、シリコーン系表面調整剤)
【0118】
・その他の成分
Tinuvin152(BASF社製、ヒンダードアミン系光安定剤)
セルムスーパーポリマー SM3403P(ASM社製、ロタキサン)
【0119】
なお、「Omnirad」はIGM Group B.V.社の登録商標であり、「Tinuvin」はBASF社の登録商標であり、「セルム」はASM社の登録商標である。
【0120】
表2に、これらの化合物を用いて作製されるコーティング剤の組成の例(試験剤1~試験剤10)を示す。試験剤1~試験剤10を作製するに当たっては、有機溶媒中に表2に示す質量比で各成分を溶解または分散させればよい。なお、表2に示す試験剤11~試験剤14は、試験剤1~試験剤10との比較のための試験剤である。試験剤11~試験剤14の作製方法は、各成分の質量比を表2に示すように変更する以外は、試験剤1~試験剤10の作製方法と同様である。
【0121】
次に、コーティング剤を用いた樹脂ガラスの作製方法の例を説明する。まず、コーティング剤を塗布するための基材を準備する。本例で用いる基材は、ポリカーボネートからなる板厚5mmの板材である。
【0122】
フローコーターを用いて基材の片面上にコーティング剤を塗布した後、基材を100℃の温度で10分間加熱してコーティング剤を乾燥させる。その後、コーティング剤中のE成分からラジカルを発生させることにより、コーティング剤を硬化させてコーティング膜とすることができる。表2に示す試験剤1~試験剤14においては、例えば、試験剤に、ピーク照度300mW/cm2の高圧水銀ランプから発生する紫外光を照射すればよい。
【0123】
以上により、基材の片面上に試験剤の硬化物からなるコーティング膜を形成し、樹脂ガラスを得ることができる。
【0124】
コーティング膜の靭性および耐摩耗性は、以下の方法により評価することができる。
【0125】
・耐摩耗性
コーティング膜の耐摩耗性は、摩耗試験前後でのヘイズ値の増加量ΔH(単位:%)に基づいて評価することができる。摩耗試験においては、予め試験前のヘイズ値を測定した樹脂ガラスをテーバー式摩耗試験機に取り付ける。そして、摩耗輪を用いて樹脂ガラス上のコーティング膜を摩耗させる。本例におけるテーバー式摩耗試験機の摩耗輪はCS-10Fである。また、摩耗試験における荷重は500gfとし、回転数は500回とする。
【0126】
前述の条件で摩耗試験を行った後、ヘイズメーターを用いて試験後の樹脂ガラスのヘイズ値を測定する。そして、試験後の樹脂ガラスのヘイズ値から試験前の樹脂ガラスのヘイズ値を差し引いた値をヘイズ値の増加量とする。各試験剤を用いて得られたコーティング膜のヘイズ値の増加量ΔHは表2に示した値となる。耐摩耗性の評価においては、ヘイズ値の増加量ΔHが10%以下の場合を十分に高い耐摩耗性を有しているため合格と判定し、10%を超える場合を耐摩耗性に劣るため不合格と判定する。
【0127】
・コーティング膜の靭性
コーティング膜の靭性は、樹脂ガラスに三点曲げ試験を行った際の破断ひずみ(単位:%)、つまり、コーティング膜にクラックが生じた際のひずみの大きさに基づいて評価することができる。三点曲げ試験においては、樹脂ガラスにおけるコーティング膜が設けられている側が凸となるようにして樹脂ガラスを湾曲させればよい。各試験剤を用いて得られたコーティング膜の破断ひずみは、表2の「靭性」欄に示した値となる。
【0128】
【0129】
【0130】
表2に示したように、試験剤1~試験剤10は、前述したA成分~E成分をすべて含有している。そのため、これらの試験剤からなるコーティング膜は、優れた耐摩耗性と、優れた靭性とを有している。
【0131】
試験剤11は、C成分を含まない以外は試験剤1~試験剤7と概ね同様の組成を有している。試験剤1~試験剤7と試験剤11とを比較すると、試験剤11は、試験剤1~試験剤7と同程度の耐摩耗性を有する一方で、試験剤1~試験剤7に比べて靭性に劣る。
【0132】
試験剤12~試験剤14には、コーティング膜の靭性を高める目的で比較的多量のロタキサンが含まれている。そのため、これらの試験剤からなるコーティング膜は、ロタキサンを含まない試験剤1~試験剤7や試験剤11に比べて柔らかく、耐摩耗性に劣る。
【0133】
また、試験剤12~試験剤14と、これらの試験剤と同様にロタキサンを含む試験剤8~試験剤10とを比較すると、試験剤8~試験剤10におけるロタキサンの含有量は試験剤12~試験剤14に比べて少なくなっている。しかし、試験剤8~試験剤10は、靭性を高める作用を有するC成分を含有しているため、靭性を確保しつつロタキサンの含有量を試験剤12~試験剤14よりも低減し、耐摩耗性を向上させることができる。
【0134】
以上の結果から、膜形成成分中にC成分を配合することにより、高い硬さと優れた靭性とを兼ね備えたコーティング膜を形成可能であることが理解できる。