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  • 特許-要防水土木構造物の防水施工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】要防水土木構造物の防水施工方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/38 20060101AFI20240328BHJP
   G01S 17/894 20200101ALI20240328BHJP
【FI】
E21D11/38 Z
G01S17/894
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020147276
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042083
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(72)【発明者】
【氏名】扇畑 邦史
(72)【発明者】
【氏名】細田 優介
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-133323(JP,A)
【文献】特開2020-133118(JP,A)
【文献】特開2017-197942(JP,A)
【文献】特開2011-131427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/38
G01S 17/894
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
要防水土木構造物の被塗布面に防水塗膜を塗布する防水施工方法であって、
前記塗布の前に前記被塗布面の表面形状データ及び三次元スキャナの測定領域内に固定しておいた基準点部材の位置データである基準点データを、前記三次元スキャナを含む表面形状データ取得手段によって取得する工程と、
前記塗布の後に前記防水塗膜の表面の表面形状データ及び前記基準点部材の位置データである基準点データを、前記表面形状データ取得手段によって取得する工程と、
前記塗布前に取得した基準点データと前記塗布後に取得した基準点データとによって、前記塗布前に取得した表面形状データと前記塗布後に取得した表面形状データとを互いに共通の空間座標上に置いたデータに補正し、当該補正後のこれら2つの表面形状データの差分を前記防水塗膜の各所の厚みとして算出する工程と、
を備えたことを特徴とする防水施工方法。
【請求項2】
前記要防水土木構造物に下地層を張設し、前記下地層の表面を前記被塗布面とすることを特徴とする請求項1に記載の防水施工方法。
【請求項3】
前記防水塗膜が、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンポリウレアハイブリッド樹脂、又はエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防水施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、要防水土木構造物の被塗布面に防水塗膜を塗布する防水施工方法に関し、特に、防水塗膜の膜厚を測定可能な防水施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルその他の地下構造物や廃棄物処分場などの要防水土木構造物においては、一般に不透水樹脂などからなる防水シートを張って防水性を確保している。
特許文献1においては、多数の固体粒状物を接着剤で接合した下地層をトンネル壁面に敷設し、その上に2液の原料液を塗布してポリウレア樹脂からなる塗膜を形成し、防水などを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-131427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原料液を吹き付けて防水塗膜を形成する場合、所定の膜厚で吹き付けられることが重要である。この種の防水塗膜の厚みは、膜の一部を切り裂いて測定することが考えられる。測定後、切り裂いた部分を手作業で補修する。
しかし、防水塗膜を切り裂いて補修する作業は極めて煩雑であり、補修跡が残る可能性もある。しかも、それによって、切り裂いた部分の膜厚しか把握できず、全体的な膜厚は測定不能である。
本発明は、かかる事情に鑑み、要防水土木構造物に塗布された防水塗膜の膜厚を容易に測定可能な防水施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、要防水土木構造物の被塗布面に防水塗膜を塗布する防水施工方法であって、
前記塗布の前に前記被塗布面の表面形状データを、三次元スキャナを含む表面形状データ取得手段によって取得する工程と、
前記塗布の後に前記防水塗膜の表面の表面形状データを、前記表面形状データ取得手段によって取得する工程と、
これら表面形状データに基づいて前記防水塗膜の各所の厚みを算出する工程と、
を備えたことを特徴とする。
要するに、塗布後の表面形状データと塗布前の表面形状データとの差分ないしは変化分を算出することによって、防水塗膜の厚みを算出できる。防水塗膜の一箇所に厚みに限らず、防水塗膜の各所の厚みを算出でき、防水塗膜の全域にわたる厚みをも算出可能である。
【0006】
前記要防水土木構造物に下地層を張設し、前記下地層の表面を前記被塗布面とすることが好ましい。
前記下地層の前記被塗布面は、防水塗膜に対する固着性が良好な固着層によって構成されていることが好ましい。前記固着層としては不織布層が挙げられる。
前記下地層が、前記要防水土木構造物の地山掘削面や吹付コンクリートなどの不整面と接して整面化する緩衝層を含んでいてもよい。前記緩衝層としては不織布層が挙げられる。
前記下地層が、前記要防水土木構造物の地山からの湧水を排水する排水層を含んでいてもよい。前記排水層としては不織布層が挙げられる。前記緩衝層及び排水層が、互いに共通の1つの不織布層によって構成されていてもよい。
前記下地層が、前記要防水土木構造物の地山からの湧水が前記被塗布面へ染み出すのを阻止する遮水層を含んでいてもよい。これによって、防水塗膜の被塗布面への付着を良好化できる。前記遮水層としては、樹脂フィルム、目が非常に細かい不織布層等があげられる。
【0007】
前記防水塗膜が、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンポリウレアハイブリッド樹脂、又はエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、要防水土木構造物に塗布された防水塗膜の膜厚を容易に測定できる。防水塗膜の各所の厚みを算出でき、防水塗膜の全域にわたる厚みをも算出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る要防水土木構造物であるNATMトンネルを、防水塗膜の塗布後、二次覆工の構築前の状態で示す解説断面図である。
図2図2は、前記防水塗膜の塗布前における被塗布面の表面形状データ取得工程を示す解説断面図である。
図3図3は、塗布後の前記防水塗膜の表面の表面形状データ取得工程を示し、図1の円部IIIを拡大した解説断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態>
図1は、要防水土木構造物の一例として、NATM工法によって構築された防水型(非排水型)のNATMトンネル1を示したものである。地山2の掘削面2aの全周にわたって吹付けコンクリート3が吹付けられている。図示は省略するが、吹付けコンクリート3から地山2にロックボルトが打ち込まれている。
【0011】
吹付けコンクリート3の表側面3aの全周にわたって防水構造4が設けられている。防水構造4は、吹付けコンクリート3の表側面3aの全域を切れ目無く、継ぎ目も無く覆っている。防水構造4のトンネル内側には、図示しない二次覆工が構築される。
なお、トンネル1は、防水型(非排水型)に限らず、排水型であってもよい。
【0012】
防水構造4は、吹付けコンクリート3の表側面3aに張設された防水下地層10と、該防水下地層10に積層された防水塗膜20とを含む。防水塗膜20は、例えばポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンポリウレアハイブリッド樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)樹脂などによって構成されている。防水塗膜20は、1又は2液以上の原料液を混合して塗布することによって形成される。
【0013】
図2及び図3に示すように、防水下地層10は、基層11(緩衝層)と、遮水層12と、固着層14を含む。吹付けコンクリート3の側から、基層11、遮水層12、固着層14の順に積層されている。
【0014】
基層11は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維を主に含む比較的目の粗い不織布によって構成されている。好ましくは、基層11は、吹付けコンクリート3の凸凹な表側面3aに被さって整面化する緩衝層の機能を有している。更に好ましくは、基層11は、地山2からの湧水を排水する透水性(排水性)を有している。
なお、基層11を構成する不織布は、PET繊維を主とするPET不織布に限らず、ポリプロピレン(PP)繊維を主とするPP不織布でもよく、ポリエチレン(PE)繊維を主とするPE不織布でもよく、その他の不織布であってもよい。
【0015】
基層11の表面側(トンネル内側、図2及び図3において上側)には、接着剤層(図示省略)を介して遮水層12が重ねられている。遮水層12は、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂を主成分とするPEフィルムによって構成され、前記湧水の透過を阻止可能な遮水性を有している。前記PEフィルムには、水の透過を阻止する一方、ガスの透過を許容する大きさの微多孔が形成されていてもよい。
なお、遮水層12は、遮水性を有していればよく、PEフィルムに限らず、ポリプロピレン(PP)樹脂を主成分とするPPフィルムでもよく、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とするPETフィルムでもよい。
遮水層12が、高密度ポリエチレン(HDPE)繊維を主成分として含み、水の透過を阻止し得る微細な目を有するHDPE不織布によって構成されていてもよい。
【0016】
遮水層12の表側(図2及び図3において上側)に固着層14が重ねられている。固着層14は、例えばPET繊維を主とするPET不織布によって構成されている。固着層14の厚みは、基層11の厚みより小さくてもよい。固着層14は、防水塗膜20との固着性に優れていれば、PET不織布に限らず、PP不織布でもよく、PE不織布でもよく、不織布以外の材質であってもよい。
固着層14の表面14aが、防水塗膜20の被塗布面を構成する。
【0017】
要防水土木構造物であるNATMトンネル1は、次のようにして防水施工される。
防水下地層10を用意し、トンネル1の施工現場に搬入する。
地山2を掘削して、掘削面2aに吹付コンクリート3を吹き付けた後、基層11を吹付コンクリート3へ向けて、防水下地層10を吹付コンクリート3の表側面3aに張設する。基層11が比較的厚い不織布を含むことで、吹付コンクリート3の表側面3a(要防水土木構造物の表面)が凹凸な不整面であっても、基層11の厚みによって、ある程度整面化できる。
地山2からの湧水等によって吹付コンクリート3の表側面3aに水が染み出ていたり該表側面3aが濡れていたりしたとしても、防水下地層10を張設したとき、遮水層12の遮水機能によって、防水下地層10の表側面(トンネル内側を向く面)に水が染み出すのを防止できる。遮水層12によって止められた水は、基層11内を通って排水できる。
【0018】
図2に示すように、ここで、表面形状データ取得手段40を用意する。表面形状データ取得手段40は、三次元スキャナ41と、データ処理部42を含む。三次元スキャナ41は、物体の表面形状を非接触で光学的に測定する。詳細な図示は省略するが、三次元スキャナ41は、レーザー光43の発光部、及び物体の表面で反射したレーザー光の受光部、並びにこれら発光部及び受光部をレーザー光43の光軸と直交する2軸のまわりに回転させる回転機構を有し、レーザー光43の照射点p43の位置座標の集合からなる点群データを得る。データ処理部42は、パソコン、スマートフォンなどのコンピュータによって構成され、前記点群データを補間することで面データに変換する。これによって、物体の表面形状データを取得できる。
【0019】
防水下地層10の張設後、防水塗膜20の塗布前に、被塗布面14aの表面形状データを表面形状データ取得手段40によって取得する。好ましくは、三次元スキャナ41の測定領域内に基準点部材49を固定しておき、該基準点部材49の位置すなわち基準点データをも取得しておく。
【0020】
次に、防水塗膜20となる原料液をエア噴霧等によって防水下地層10の固着層14上に塗布する。遮水層12の遮水機能の結果、固着層14の表側面が水で濡れていないために、原料液ひいては防水塗膜20を防水下地層10に良好かつ安定的に付着させることができる。固着層14が不織布によって構成されているため、原料液が固着されやすい。したがって、防水塗膜20の防水下地層10への固着性を確保できる。
【0021】
図3に示すように、防水塗膜20の塗布後、表面形状データ取得手段40によって、防水塗膜20の表面21の表面形状データを取得する。好ましくは、前記固定された基準点部材49の位置(基準点データ)をも取得する。
【0022】
さらに、表面形状データ取得手段40のデータ処理42において、前記被塗布面14aの表面形状データと、防水塗膜20の表面21の表面形状データとに基づいて、防水塗膜20の厚みを算出する。具体的には、防水塗膜20の表面21の表面形状データと被塗布面14aの表面形状データとの差分ないしは変化分を算出する。好ましくは、被塗布面14aの表面形状データ取得時の基準点データと、防水塗膜20の表面21の表面形状データ取得時の基準点データを用いて、これら2つの表面形状データを互いに共通の空間座標上に置いたデータに補正したうえで、これら2つの表面形状データの差分を取る。これによって、防水塗膜20の厚みを算出できる。防水塗膜20の一箇所に厚みに限らず、防水塗膜20の各所の厚みを算出でき、防水塗膜20の全域にわたる厚みをも容易に算出することができる。
この結果、防水塗膜20の品質管理を容易に行うことができる。
その後、防水構造4のトンネル内側に二次覆工(図示せず)を構築する。
【0023】
本発明は、前記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の改変をなすことができる。
例えば、防水下地層の積層構造は適宜変更可能である。
防水施工対象の要防水土木構造物は、トンネルに限らず、廃棄物処分場その他の地下構造物、基礎、河川敷、法面などであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、例えばNATM工法によるトンネルの防水施工に適用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 NATMトンネル
2 地山
2a 掘削面
3 吹付けコンクリート
3a 表側面
4 防水構造
10 防水下地層
11 基層(緩衝層)
12 遮水層
14 固着層
14a 被塗布面
20 防水塗膜
21 表面
40 表面形状データ取得手段
41 三次元スキャナ
42 データ処理部
43 レーザー光
49 基準点部材
図1
図2
図3