(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】半導体膜
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20240328BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20240328BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20240328BHJP
H01L 21/365 20060101ALI20240328BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20240328BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20240328BHJP
C23C 14/00 20060101ALI20240328BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B25/18
C23C16/40
H01L21/365
H01L21/368 Z
H01L21/363
C23C14/00 Z
C23C14/08 J
(21)【出願番号】P 2020176244
(22)【出願日】2020-10-20
(62)【分割の表示】P 2020538744の分割
【原出願日】2019-09-10
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/017516
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 守道
(72)【発明者】
【氏名】福井 宏史
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093207(JP,A)
【文献】特開2016-157878(JP,A)
【文献】特開2015-134717(JP,A)
【文献】特開2015-196603(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084304(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/16
C30B 25/18
C23C 16/40
H01L 21/365
H01L 21/368
H01L 21/363
C23C 14/00
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-Ga
2O
3、又はα-Ga
2O
3系固溶体で構成されるコランダム型結晶構造を有する半導体膜であって、
前記半導体膜の一方の表面(おもて面)における(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅(FWHM-T)に対する、前記半導体膜の前記表面に対向する表面(裏面)における(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅(FWHM-B)の比であるFWHM-B/FWHM-Tが、1.0を超え
、
前記半導体膜の少なくとも一方の表面における(006)面のX線ロッキングカーブ半値幅が50arcsec以下である、半導体膜。
【請求項2】
前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10
6/cm
2以下である、請求項
1に記載の半導体膜。
【請求項3】
前記半導体膜の厚さが0.3μm以上である、請求項1
又は2に記載の半導体膜。
【請求項4】
前記半導体膜が、ドーパントとして14族元素を1.0×10
16~1.0×10
21/cm
3の割合で含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の半導体膜。
【請求項5】
前記半導体膜がc軸配向膜である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の半導体膜。
【請求項6】
前記半導体膜の片面が20cm
2以上の面積を有する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の半導体膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体膜、特にα-Ga2O3系半導体膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化ガリウム(Ga2O3)が半導体用材料として着目されている。酸化ガリウムはα、β、γ、δ及びεの5つの結晶形を有することが知られているが、この中で、準安定相であるα-Ga2O3はバンドギャップが5.3eVと非常に大きく、パワー半導体用材料として期待を集めている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2014-72533号公報)には、コランダム型結晶構造を有する下地基板と、コランダム型結晶構造を有する半導体層と、コランダム型結晶構造を有する絶縁膜とを備えた半導体装置が開示されており、サファイア基板上に、半導体層としてα-Ga2O3膜を成膜した例が記載されている。また、特許文献2(特開2016-25256号公報)には、コランダム構造を有する結晶性酸化物半導体を主成分として含むn型半導体層と、六方晶の結晶構造を有する無機化合物を主成分とするp型半導体層と、電極とを備えた半導体装置が開示されている。この特許文献2の実施例には、c面サファイア基板上に、n型半導体層として準安定相であるコランダム構造を有するα-Ga2O3膜を、p型半導体層として六方晶の結晶構造を有するα-Rh2O3膜を形成して、ダイオードを作製することが開示されている。
【0004】
しかしながら、α-Ga2O3は準安定相であるため、単結晶基板が実用化されておらず、サファイア基板等へのヘテロエピタキシャル成長で形成されるのが一般的である。このような場合、サファイアとの格子定数差に起因して半導体膜中に応力が印加され、結晶欠陥が多数形成されたり、半導体膜に反りが生じたりする場合がある。
【0005】
α-Ga2O3中の結晶欠陥低減に向けて、サファイアとα-Ga2O3層間にバッファ層を形成する手法が報告されている。例えば、非特許文献1(Applied Physics Express, vol.9, pages 071101-1~071101-4)には、サファイアとα-Ga2O3層間にバッファ層として(Alx,Ga1-x)2O3層(x=0.2~0.9)を導入することで、刃状転位とらせん転位が、それぞれ3×108/cm2及び6×108/cm2となるとされる例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-72533号公報
【文献】特開2016-25256号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Riena Jinno et al., Reduction in edge dislocation density in corundum-structured α-Ga2O3 layers on sapphire substrates with quasi-graded α-(Al,Ga)2O3 buffer layers, Applied Physics Express, Japan, The Japan Society of Applied Physics, June 1, 2016, vol.9, pages 071101-1 to 071101-4
【発明の概要】
【0008】
しかしながら、α-Ga2O3膜を、高耐圧が要求されるパワー半導体等に利用する場合、結晶欠陥の多寡によって絶縁破壊電界特性が左右されるため、更なる結晶欠陥の低減が望まれる。
【0009】
また、半導体膜の反りが大きいと、クラックが生じやすく、ハンドリング時に破断するおそれがある。すなわち、反りが大きい半導体膜上にミストCVDなどの成膜方法で機能層を形成する場合、膜厚や膜品質に分布が出るおそれがある。このため、反りが小さい半導体膜が望まれる。
【0010】
さらに、α-Ga2O3膜は、チルト(成長方位の結晶軸の傾き)やツイスト(表面面内の結晶軸の回転)がわずかに異なる領域(ドメイン)が存在する、いわゆるモザイク結晶となる場合がある。これはα-Ga2O3層が準安定相であるため成膜温度が比較的低いことが原因の一つと考えられる。しかし、パワー半導体等に利用する場合、ドメイン間の粒界の存在によって絶縁破壊電界特性が低下するおそれがあるため、ドメイン形成の抑制も望まれる。
【0011】
本発明者らは、今般、α-Ga2O3系半導体膜の少なくとも一方の表面における(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅を500arcsec以下とすることで、結晶欠陥が著しく少ないα-Ga2O3系半導体膜を提供できるとの知見を得た。
【0012】
したがって、本発明の目的は、結晶欠陥が著しく少ないα-Ga2O3系半導体膜を提供することにある。
【0013】
本発明によれば、α-Ga2O3、又はα-Ga2O3系固溶体で構成されるコランダム型結晶構造を有する半導体膜であって、前記半導体膜の少なくとも一方の表面における(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅が500arcsec以下である、半導体膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】エアロゾルデポジション(AD)装置の構成を示す模式断面図である。
【
図2】HVPE法を用いた気相成長装置の構成を示す模式断面図である。
【
図3】ミストCVD(化学気相成長)装置の構成を示す模式断面図である。
【
図4】例1で得られたα-Ga
2O
3膜の成膜側表面のTEM像である。
【
図5】例5における複合下地基板の作製工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
半導体膜
本発明の半導体膜は、α-Ga2O3、又はα-Ga2O3系固溶体で構成されるコランダム型結晶構造を有する。α-Ga2O3は、三方晶系の結晶群に属し、コランダム型結晶構造をとる。また、α-Ga2O3系固溶体は、α-Ga2O3に他の成分が固溶したものであり、コランダム型結晶構造が維持されている。
【0016】
本発明のα-Ga2O3系半導体膜は、その少なくとも一方の表面における(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅(以下、XRC半値幅という)が500arcsec以下であり、好ましくは150arcsec以下、より好ましくは100arcsec以下、さらに好ましくは50arcsec以下、特に好ましくは40arcsec以下である。すなわち、結晶欠陥やドメインを評価する手法として、(006)面や(104)面のX線ロッキングカーブ(XRC)測定を実施し、その半値幅で評価する方法が知られている。XRC測定では、真空チャック等で試料の反りを矯正して測定するのが一般的であるが、反り量が大きい場合は矯正困難な場合が多い。このため、X線ロッキングカーブ半値幅(以下、XRC半値幅という)は結晶欠陥やドメインに加え、反り量も反映するといえる。特に(104)面のXRC半値幅は、貫通刃状転位や貫通らせん転位等の各種欠陥、チルト(成長方位の結晶軸の傾き)やツイスト(表面面内の結晶軸の回転)が異なる領域(ドメイン)のモザイク性、及び反りの状態を全て反映するため、半導体膜の評価手法として好適である。したがって、上記範囲内のXRC範囲幅であると、結晶欠陥が少なく、モザイク性が小さく(ドメインが少なく)、反りも小さいことになり、その結果、このような半導体膜の表面上(又は内部)に機能層を形成する場合、機能層の内部に結晶欠陥が伝搬せず、高い絶縁破壊電界特性等の優れた特性を有する高品位な機能層が得られる。このように、半導体膜の表面における(104)面のXRC半値幅は小さいほど好ましく、測定に使用したX線源固有の半値幅と同等の値でも問題はないが、実際には30arcsec以上が好ましい。なお、本明細書において、少なくとも一方の表面とは、半導体膜の互いに対向する2つの主面(すなわち膜面ないし板面)の少なくともいずれか一方を意味し、おもて面及び裏面を問わない趣旨である。また、本明細書において、「表面」(ひょうめん)は物の外側をなす面を意味し、外部に露出しているか否かを問わないものとする(例えば、他の物に接触又は結合していてもよい)。一方、「おもて面」は「裏面」と対向する面を意味するものとする。
【0017】
α-Ga2O3系半導体膜の表面における、(104)面のXRCプロファイルの測定は、一般的なXRD装置を用いて行うことができる。例えば、XRD装置としてBruker-AXS製D8-DISCOVERを用いる場合、2θ、ω、χ、及びφを調整してα-Ga2O3の(104)面のピークが出るように軸立てを行った後、管電圧40kV、管電流40mA、コリメータ径0.5mm、アンチスキャッタリングスリット3mmで、ω=15.5~19.5°の範囲、ωステップ幅0.005°、及び計数時間0.5秒の条件で測定を行えばよい。この測定は、Ge(022)非対称反射モノクロメーターでCuKα線を平行単色光化した上で行うのが好ましい。そして、(104)面のXRCプロファイルにおける半値幅は、XRD解析ソフトウェア(Bruker-AXS製、「LEPTOS」Ver4.03)を使用し、プロファイルのスムージングを行った後にピークサーチを行うことにより決定することができる。
【0018】
また、本発明の半導体膜の少なくとも一方の表面における(006)面のXRC半値幅も小さい方が望ましく、好ましくは50arcsec以下、より好ましくは40arcsec以下である。(006)面のXRC半値幅は、測定に使用したX線源固有の半値幅と同等の値でも問題はないが、実際には30arcsec以上が好ましい。(006)面のXRC半値幅は、貫通らせん転位、チルト及び反りの情報を反映する。このため、上記範囲内のXRC半値幅であると、結晶欠陥が少なく、モザイク性が小さく(ドメインが少なく)、反りも小さいことになり、その結果、このような半導体膜の表面上(又は内部)に機能層を形成する場合、機能層の内部に結晶欠陥が伝搬せず、より一層高い絶縁破壊電界特性等の優れた特性を有する高品位な機能層が得られる。α-Ga2O3系半導体膜に対する、(006)面のXRCプロファイルの測定も、一般的なXRD装置を用いて行うことができる。例えば、XRD装置としてBruker-AXS製D8-DISCOVERを用いる場合の測定条件は、2θ、ω、χ、及びφを調整してα-Ga2O3の(006)面のピークが出るように軸立てを行った後、ω=18.0~22.0°とすること以外は(104)面に関して前述した条件と同様であることができる。
【0019】
本発明のα-Ga2O3系半導体膜において、半導体膜の一方の表面(以下、おもて面という)における(104)面のXRC半値幅(FWHM-T)に対する、半導体膜のおもて面に対向する表面(以下、裏面という)における(104)面のXRC半値幅(FWHM-B)の比であるFWHM-B/FWHM-Tは、FWHM-B/FWHM-T>1の関係にあることが好ましい。例えば、成膜用下地基板上に半導体膜を形成し、成膜側の表面とそれに対向する側の表面(成膜用下地基板と隣接する表面)のXRC半値幅を測定したとき、成膜側の表面のXRC半値幅の方が成膜用下地基板と隣接する表面のXRC半値幅より小さくなる場合がある。このとき、成膜側表面(おもて面)のXRC半値幅をFWHM-T、成膜用下地基板と隣接する表面(裏面)のXRC半値幅をFWHM-Bとすると、FWHM-B/FWHM-T>1となる。前述したとおり、XRC半値幅は各種欠陥やモザイク性を反映するため、上記関係は裏面よりも表面の方が品質が改善したことを示す。言い換えると、半導体膜の成膜中に結晶欠陥やモザイク性が低減したことを意味する。このような膜において、XRC半値幅が小さい表面上(又は内部)に機能層を形成することで、高品質な機能層等を形成することができる。具体的には、FWHM-B/FWHM-Tは、1.0を超えるのが好ましく、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.3以上、特に好ましくは1.7以上である。FWHM-B/FWHM-Tの上限は特に限定されないが、例えば5.0以下である。ここで、前述したとおり、半導体膜の裏面は、XRC半値幅が小さい側の表面(おもて面)に対向する側の表面を指すが、典型的には、半導体膜の成膜に用いた下地基板と隣接している(又は隣接していた)側の面を指す。
【0020】
なお、α-Ga2O3系半導体膜の成膜用下地基板と隣接する表面(すなわち裏面)における(104)面のXRCプロファイルの測定は、自立した半導体膜の場合は成膜側の表面(おもて面)と同様の方法で実施することができる。半導体膜が成膜用下地基板等の支持基板(以下、第1の支持基板という)上に形成されている場合は、第1の支持基板上の半導体膜の表面(すなわち第1の支持基板とは反対側の面)に異なる支持基板(以下、第2の支持基板という)を接着及び接合し、その後、半導体膜から第1の支持基板を剥離又は研削及び研磨にて除去して半導体膜裏面を露出させた後に測定することが可能である。第2の支持基板や接合及び接着方法は、半導体膜に反りを生じることなく半導体膜を支持できれば特に限定されない。例えば、第2の支持基板としてサファイア等の単結晶基板や、Cu-Mo複合材料等の熱膨張特性が半導体膜と近い材料で構成された基板を用いることができる。また、半導体膜と第2の支持基板の接着方法としては、ロウ付け、半田、固相接合、エポキシ等の接着剤を用いることができる。第1の支持基板の除去方法は、半導体膜の品質に影響しない限り特に限定されない。例えば、研削及び研磨により第1の支持基板を除去する場合、半導体膜に加工による変質層が導入され、XRCプロファイルに影響する恐れがある。このため、支持基板を除去した後、CMPやイオンミリングによって半導体膜に導入された加工変質層を除去することが望ましい。また、半導体膜のXRCプロファイルが得ることができる限り、第1の支持基板を全て除去する必要はない。すなわち、第1の支持基板を薄くすることで(例えば厚さ1μm程度)、第1の支持基板をX線が透過して半導体膜のXRCプロファイルを得ることができる。
【0021】
本発明のα-Ga2O3系半導体膜は、その少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×106/cm2以下であることが好ましく、より好ましくは1.0×105/cm2以下、さらに好ましくは4.0×103/cm2以下、特に好ましくは1.0×103/cm2以下である。このように結晶欠陥密度が著しく低い半導体膜は、絶縁破壊電界特性に優れ、パワー半導体の用途に適している。また、このような表面上(又は内部)に機能層を形成する場合、高い絶縁破壊電界特性等の優れた特性を有する高品位な機能層が得られる。結晶欠陥密度の下限は特に限定がなく、低い方が好ましい。なお、本明細書において、結晶欠陥とは、貫通刃状転位、貫通らせん転位、貫通混合転位、及び基底面転位を指し、結晶欠陥密度は、各転位密度の合計のことである。なお、基底面転位は、半導体膜にオフ角がある場合に問題となるものであり、オフ角がない場合は半導体膜の表面まで露出しないため、問題とならない。例えば、貫通刃状転位を3×104/cm2、貫通らせん転位を6×104/cm2、貫通混合転位を4×104/cm2含むとすれば、結晶欠陥密度は1.3×105/cm2となる。
【0022】
α-Ga2O3系半導体膜の結晶欠陥密度は、平面TEM観察(プランビュー)、又は断面TEM観察により評価することができる。例えば、半導体膜表面の平面TEM観察を実施する場合、一般的な透過型電子顕微鏡を用いて行うことができる。例えば、透過型電子顕微鏡として日立製H-90001UHR-Iを用いる場合、加速電圧300kVでTEM観察を行えばよい。TEM観察に用いる試験片は、半導体膜の一方の表面が含まれるようにサンプルを切り出し、測定視野50μm×50μmの範囲が観察できるようなものが好ましい。より具体的には、測定視野4.1μm×3.1μmの領域が8箇所以上観察可能で、測定視野周辺の厚さが150nmとなるようにイオンミリングによって加工すればよい。こうして得られた試験片表面の平面TEM像から結晶欠陥密度を評価することができる。
【0023】
本発明の半導体膜は、α-Ga2O3に、Cr2O3、Fe2O3、Ti2O3、V2O3、Ir2O3、Rh2O3、In2O3及びAl2O3からなる群から選択される1種以上の成分が固溶したα-Ga2O3系固溶体で構成されるものとすることができる。これらの成分はいずれもコランダム型結晶構造を有し、かつ、互いに格子定数が比較的近い。したがって、これらの成分の金属原子は固溶体中で容易にGa原子を置換する。また、これらの成分を固溶させることで半導体膜のバンドギャップ、電気特性、及び/又は格子定数を制御することが可能となる。これらの成分の固溶量は所望の特性に合わせて適宜変更することができる。
【0024】
半導体膜は、ドーパントとして14族元素を1.0×1016~1.0×1021/cm3の割合で含むことができる。ここで、14族元素はIUPAC(国際純正・応用化学連合)が策定した周期律表による第14族元素のことであり、具体的には、炭素(C)、珪素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)及び鉛(Pb)のいずれかの元素である。ドーパント量は所望の特性に合わせて適宜変更することができるが、好ましくは、1.0×1016~1.0×1021/cm3、より好ましくは1.0×1017~1.0×1019/cm3である。これらのドーパントは膜中に均一に分布し、一方の表面(おもて面)とそれに対向する側の表面(裏面)の濃度は同程度であることが好ましい。すなわち、半導体膜はドーパントとして14族元素を上記割合で均一に含むのが好ましい。
【0025】
さらに、半導体膜が特定の面方位に配向した配向膜であるのが好ましく、例えばc軸配向膜である。半導体膜の配向性は公知の手法を用いて調べることができるが、例えば、電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いて、逆極点図方位マッピングを行うことで、調べることができる。
【0026】
半導体膜の厚さは、コスト面及び要求される特性の観点から適宜調整すればよい。すなわち、厚すぎると成膜に時間がかかるため、コスト面からは極端に厚くない方が好ましい。また、特に高い絶縁耐圧が要求されるデバイスを作製する場合には、厚い膜とすることが好ましい。一方、縦方向(厚さ方向)の導電性が要求されるデバイスを作製する場合には、薄い膜とすることが好ましい。このように所望の特性に合わせて膜厚を適宜調整すればよいが、半導体膜の厚さは、典型的には0.3μm以上、より典型的には0.3~50μm、又は0.5~20μm、又は0.5~10μmである。このような範囲の厚さとすることで、コスト面と半導体特性の両立が可能となる。また、自立した半導体膜が必要な場合は厚い膜とすればよく、例えば50μm以上、又は100μm以上であり、コスト面の制限がない限り特に上限はない。
【0027】
半導体膜は、その片面が、好ましくは20cm2以上、より好ましくは70cm2以上、さらに好ましくは170cm2以上の面積を有する。このように半導体膜を大面積化することにより、一枚の半導体膜から半導体素子を多数個取りすることが可能となり、製造コストの低減化を図ることができる。半導体膜の大きさの上限は特に限定されるものではないが、典型的には、片面700cm2以下である。
【0028】
半導体膜は、膜単独の自立膜の形態であってもよいし、支持基板上に形成されたものであってもよい。支持基板として、コランダム構造を有し、c軸及びa軸の二軸に配向した基板(二軸配向基板)が好ましい。支持基板にコランダム構造を有する二軸配向基板を用いることで、半導体膜がヘテロエピタキシャル成長するための種結晶(成膜用下地基板)を兼ねることが可能となる。二軸配向基板は、多結晶やモザイク結晶(結晶方位が若干ずれた結晶の集合)であってもよいし、単結晶であってもよい。コランダム構造を有する限り、単一の材料で構成されるものでもよいし、複数の材料の固溶体であってもよい。支持基板の主成分は、α-Al2O3、α-Cr2O3、α-Fe2O3、α-Ti2O3、α-V2O3、及びα-Rh2O3からなる群から選択される材料、又はα-Al2O3、α-Cr2O3、α-Fe2O3、α-Ti2O3、α-V2O3、及びα-Rh2O3からなる群から選択される2種以上を含む固溶体が好ましく、α-Cr2O3、又はα-Cr2O3と異種材料との固溶体が特に好ましい。
【0029】
また、支持基板兼ヘテロエピタキシャル成長用の種結晶(成膜用下地基板)として、サファイア、Cr2O3等のコランダム単結晶上に、サファイアよりも大きいa軸長及び/又はc軸長を有するコランダム型結晶構造を有する材料で構成された配向層を形成した複合下地基板も用いることができる。この場合、配向層は、α-Cr2O3、α-Fe2O3、α-Ti2O3、α-V2O3、及びα-Rh2O3からなる群から選択される材料、又はα-Al2O3、α-Cr2O3、α-Fe2O3、α-Ti2O3、α-V2O3、及びα-Rh2O3からなる群から選択される2種以上を含む固溶体を含むのが好ましい。
【0030】
また、成膜用下地基板上に作製した半導体膜を分離し、別の支持基板に転載してもよい。別の支持基板の材質は特に限定はないが、材料物性の観点から好適なものを選択すればよい。例えば、熱伝導率の観点では、Cu等の金属基板、SiC、AlN等のセラミックス基板等が好ましい。また、25~400℃での熱膨張率が6~13ppm/Kである基板を用いるのも好ましい。すなわち、半導体膜は25~400℃での熱膨張率が6~13ppm/Kである支持基板上に設けられるのも好ましく、そのような半導体膜ないし複合材料も本発明の好ましい態様として提供される。このような熱膨張率を有する支持基板を用いることで、半導体膜との熱膨張差を小さくすることができ、その結果、熱応力による半導体膜中のクラック発生や膜剥がれ等を抑制できる。このような支持基板の例としては、Cu-Mo複合材料で構成される基板が挙げられる。CuとMoの複合比率は、半導体膜との熱膨張率マッチング、熱伝導率、導電率等を勘案して、適宜選択することができる。
【0031】
半導体膜の支持基板としては、α-Cr2O3、若しくはα-Cr2O3と異種材料との固溶体で構成される二軸配向基板、又はα-Cr2O3、若しくはα-Cr2O3と異種材料との固溶体で構成される配向層を有する複合基板のいずれかが好ましい。こうすることで、半導体膜がヘテロエピタキシャル成長するための種結晶(成膜用下地基板)と支持基板を兼ねることができる上、半導体膜中の結晶欠陥を著しく低減することができる。
【0032】
前述のとおり、本発明の半導体膜は、結晶欠陥が著しく少なく、高い絶縁破壊電界特性を呈することが可能である。本発明者の知る限り、このように結晶欠陥密度が低い半導体膜を得る技術は従来知られていない。例えば、非特許文献1には、サファイアとα-Ga2O3層間にバッファ層として(Alx,Ga1-x)2O3層(x=0.2~0.9)を導入した基板を用いてα-Ga2O3層を成膜することが開示されているが、得られたα-Ga2O3層は、その刃状転位とらせん転位の密度が、それぞれ3×108/cm2及び6×108/cm2である。
【0033】
半導体膜の製造方法
半導体膜は、α-Ga2O3、又はα-Ga2O3系固溶体で構成されるコランダム型結晶構造を有する半導体膜を、少なくとも一方の表面における(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅が500arcsec以下となるように成膜できる限り、その製法は特に限定されるものではない。しかしながら、前述したような、α-Cr2O3、若しくはα-Cr2O3と異種材料との固溶体で構成される二軸配向基板、又はα-Cr2O3、若しくはα-Cr2O3と異種材料との固溶体で構成される配向層を有する複合下地基板のいずれかを成膜用下地基板として使用することが好ましい。以下に、半導体膜の製造方法を、(1)複合下地基板の作製、(2)半導体膜の形成の順に説明する。
【0034】
(1)複合下地基板の作製
複合下地基板は、(a)サファイア基板を準備し、(b)所定の配向前駆体層を作製し、(c)サファイア基板上で配向前駆体層を熱処理してその少なくともサファイア基板近くの部分を配向層に変換し、所望により(d)研削や研磨等の加工を施して配向層の表面を露出させることにより好ましく製造することができる。この配向前駆体層は熱処理により配向層となるものであり、a軸長及び/又はc軸長がサファイアより大きいコランダム型結晶構造を有する材料、あるいは後述する熱処理によってa軸長及び/又はc軸長がサファイアより大きいコランダム型結晶構造となる材料を含む。また、配向前駆体層はコランダム型結晶構造を有する材料の他に、微量成分を含んでいてもよい。このような製造方法によれば、サファイア基板を種結晶として配向層の成長を促すことができる。すなわち、サファイア基板の単結晶特有の高い結晶性と結晶配向方位が配向層に引き継がれる。
【0035】
(a)サファイア基板の準備
複合下地基板を作製するには、まず、サファイア基板を準備する。用いるサファイア基板は、いずれの方位面を有するものであってもよい。すなわち、a面、c面、r面、m面を有するものであってもよく、これらの面に対して所定のオフ角を有するものであってもよい。例えばc面サファイアを用いた場合、表面に対してc軸配向しているため、その上に、容易にc軸配向させた配向層をヘテロエピタキシャル成長させることが可能となる。また、電気特性を調整するために、ドーパントを加えたサファイア基板を用いることも可能である。このようなドーパントとしては公知のものが使用可能である。
【0036】
(b)配向前駆体層の作製
a軸長及び/又はc軸長がサファイアより大きいコランダム型結晶構造を有する材料、又は熱処理によってa軸長及び/又はc軸長がサファイアより大きいコランダム型結晶構造となる材料を含む配向前駆体層を作製する。配向前駆体層を形成する方法は特に限定されず、公知の手法が採用可能である。配向前駆体層を形成する方法の例としては、AD(エアロゾルデポジション)法、ゾルゲル法、水熱法、スパッタリング法、蒸着法、各種CVD(化学気相成長)法、PLD法、CVT(化学気相輸送)法、昇華法等の手法等が挙げられる。CVD法の例としては、熱CVD法、プラズマCVD法、ミストCVD法、MO(有機金属)CVD法等が挙げられる。あるいは、配向前駆体の成形体を予め作製し、この成形体をサファイア基板上に載置する手法であってもよい。このような成形体は、配向前駆体の材料を、テープ成形又はプレス成形等の手法で成形することで作製可能である。また、配向前駆体層として予め各種CVD法や焼結等で作製した多結晶体を使用し、サファイア基板上に載置する方法も用いることができる。
【0037】
しかしながら、エアロゾルデポジション(AD)法、各種CVD法、又はスパッタリング法を用いて配向前駆体層を直接形成する手法が好ましい。これらの方法を用いることで緻密な配向前駆体層を比較的短時間で形成することが可能となり、サファイア基板を種結晶としたヘテロエピタキシャル成長を生じさせることが容易になる。特に、AD法は高真空のプロセスを必要とせず、成膜速度も相対的に速いため、製造コストの面でも好ましい。スパッタリング法を用いる場合は、配向前駆体層と同材料のターゲットを用いて成膜することも可能であるが、金属ターゲットを使用し、酸素雰囲気下で成膜する反応性スパッタ法も用いることができる。予め作製した成形体をサファイア上に載置する手法も簡易な手法として好ましいが、配向前駆体層が緻密ではないため、後述する熱処理工程において緻密化するプロセスを必要とする。配向前駆体層として予め作製した多結晶体を用いる手法では、多結晶体を作製する工程と、サファイア基板上で熱処理する工程の二つが必要となる。また、多結晶体とサファイア基板の密着性を高めるため、多結晶体の表面を十分に平滑にしておく等の工夫も必要である。いずれの手法も公知の条件を用いることができるが、AD法を用いて配向前駆体層を直接形成する手法と、予め作製した成形体をサファイア基板上に載置する手法について、以下に説明する。
【0038】
AD法は、微粒子や微粒子原料をガスと混合してエアロゾル化し、このエアロゾルをノズルから高速噴射して基板に衝突させ、被膜を形成する技術であり、常温で緻密化された被膜を形成できるという特徴を有している。このようなAD法で用いられる成膜装置(エアロゾルデポジション(AD)装置)の一例を
図1に示す。
図1に示される成膜装置20は、大気圧より低い気圧の雰囲気下で原料粉末を基板上に噴射するAD法に用いられる装置として構成されている。この成膜装置20は、原料成分を含む原料粉末のエアロゾルを生成するエアロゾル生成部22と、原料粉末をサファイア基板21に噴射して原料成分を含む膜を形成する成膜部30とを備えている。エアロゾル生成部22は、原料粉末を収容し図示しないガスボンベからのキャリアガスの供給を受けてエアロゾルを生成するエアロゾル生成室23と、生成したエアロゾルを成膜部30へ供給する原料供給管24と、エアロゾル生成室23及びその中のエアロゾルに10~100Hzの振動数で振動が付与する加振器25とを備えている。成膜部30は、サファイア基板21にエアロゾルを噴射する成膜チャンバ32と、成膜チャンバ32の内部に配設されサファイア基板21を固定する基板ホルダ34と、基板ホルダ34をX軸-Y軸方向に移動するX-Yステージ33とを備えている。また、成膜部30は、先端にスリット37が形成されエアロゾルをサファイア基板21へ噴射する噴射ノズル36と、成膜チャンバ32を減圧する真空ポンプ38とを備えている。
【0039】
AD法は、成膜条件によって膜厚や膜質等を制御できることが知られている。例えば、AD膜の形態は、原料粉末の基板への衝突速度、原料粉末の粒径、エアロゾル中の原料粉末の凝集状態、単位時間当たりの噴射量等に影響を受けやすい。原料粉末の基板への衝突速度は、成膜チャンバ32と噴射ノズル36内の差圧や、噴射ノズルの開口面積等に影響を受ける。適切な条件を用いない場合、被膜が圧粉体となったり気孔を生じたりする場合があるので、これらのファクターを適切に制御することが必要である。
【0040】
配向前駆体層を予め作製した成形体を用いる場合、配向前駆体の原料粉末を成形して成形体を作製することができる。例えば、プレス成形を用いる場合、配向前駆体層はプレス成形体である。プレス成形体は、配向前駆体の原料粉末を公知の手法に基づきプレス成形することで作製可能であり、例えば、原料粉末を金型に入れ、好ましくは100~400kgf/cm2、より好ましくは150~300kgf/cm2の圧力でプレスすることにより作製すればよい。また、成形方法は特に限定されず、プレス成形の他、テープ成形、鋳込み成形、押出し成形、ドクターブレード法、及びこれらの任意の組合せを用いることができる。例えば、テープ成形を用いる場合、原料粉末にバインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等の添加物を適宜加えてスラリー化し、このスラリーをスリット状の細い吐出口を通過させることにより、シート状に吐出及び成形するのが好ましい。シート状に成形した成形体の厚さに限定はないが、ハンドリングの観点では5~500μmであるのが好ましい。また、厚い配向前駆体層が必要な場合はこのシート成形体を多数枚積み重ねて、所望の厚さとして使用すればよい。
【0041】
これらの成形体はその後のサファイア基板上での熱処理によりサファイア基板近くの部分が配向層となるものである。上述したように、このような手法では後述する熱処理工程において成形体を焼結させ、緻密化する必要がある。このため、成形体はコランダム型結晶構造を有する又はもたらす材料の他に、焼結助剤等の微量成分を含んでいてもよい。
【0042】
(c)サファイア基板上の配向前駆体層の熱処理
配向前駆体層が形成されたサファイア基板を1000℃以上の温度で熱処理する。この熱処理により、配向前駆体層の少なくともサファイア基板近くの部分を緻密な配向層に変換することが可能となる。また、この熱処理により、配向層をヘテロエピタキシャル成長させることが可能となる。すなわち、配向層をコランダム型結晶構造を有する材料で構成することで、熱処理時にコランダム型結晶構造を有する材料がサファイア基板を種結晶として結晶成長するヘテロエピタキシャル成長が生じる。その際、結晶の再配列が起こり、サファイア基板の結晶面に倣って結晶が配列する。この結果、サファイア基板と配向層の結晶軸を揃えることができる。例えば、c面サファイア基板を用いると、サファイア基板と配向層が下地基板の表面に対していずれもc軸配向した態様とすることが可能となる。その上、この熱処理により、配向層の一部に傾斜組成領域を形成することが可能となる。すなわち、熱処理の際に、サファイア基板と配向前駆体層の界面で反応が生じ、サファイア基板中のAl成分が配向前駆体層中に拡散する及び/又は配向前駆体層中の成分がサファイア基板中に拡散して、α-Al2O3を含む固溶体で構成される傾斜組成領域が形成される。
【0043】
なお、各種CVD法やスパッタリング法、PLD法、CVT法、昇華法等の方法では、1000℃以上の熱処理を経ることなくサファイア基板上にヘテロエピタキシャル成長を生じる場合があることが知られている。しかし、配向前駆体層はその作製時には配向していない状態、すなわち非晶質や無配向の多結晶であり、本熱処理工程時にサファイアを種結晶として結晶の再配列を生じさせることが好ましい。こうすることで、配向層表面に到達する結晶欠陥を効果的に低減することができる。この理由は定かではないが、一旦成膜された固相の配向前駆体層がサファイアを種として結晶構造の再配列を生じることが結晶欠陥の消滅に効果があるのではないかと考えている。
【0044】
熱処理は、コランダム型結晶構造が得られ、サファイア基板を種としたヘテロエピタキシャル成長が生じるかぎり特に限定されず、管状炉やホットプレート等、公知の熱処理炉で実施することができる。また、これらの常圧(プレスレス)での熱処理だけでなく、ホットプレスやHIP等の加圧熱処理や、常圧熱処理と加圧熱処理の組み合わせも用いることができる。熱処理条件は、配向層に用いる材料によって適宜選択できる。例えば、熱処理の雰囲気は大気、真空、窒素及び不活性ガス雰囲気から選択することができる。好ましい熱処理温度も配向層に用いる材料によって変わるが、例えば1000~2000℃が好ましく、1200~2000℃がさらに好ましい。熱処理温度や保持時間はヘテロエピタキシャル成長で生じる配向層の厚さやサファイア基板との拡散で形成される傾斜組成領域の厚さと関係しており、材料の種類、狙いとする配向層、傾斜組成領域の厚さ等によって適宜調整することができる。ただし、予め作製した成形体を配向前駆体層として用いる場合、熱処理中に焼結して緻密化させる必要があり、高温での常圧焼成、ホットプレス、HIP、又はそれらの組み合わせが好適である。例えば、ホットプレスを用いる場合、面圧は50kgf/cm2以上が好ましく、より好ましくは100kgf/cm2以上、特に好ましくは200kgf/cm2以上であり、上限は特に限定されない。また、焼成温度も、焼結及び緻密化並びにヘテロエピタキシャル成長が生じる限り、特に限定されないが、1000℃以上が好ましく、1200℃以上がより好ましく、1400℃以上がさらに好ましく、1600℃以上が特に好ましい。焼成雰囲気も大気、真空、窒素及び不活性ガス雰囲気から選択することができる。モールド等の焼成冶具は黒鉛製やアルミナ製のもの等が利用できる。
【0045】
(d)配向層表面の露出
熱処理によりサファイア基板近くに形成される配向層の上には、配向前駆体層や配向性に劣る又は無配向の表面層が存在又は残留しうる。この場合、配向前駆体層に由来する側の面に研削や研磨等の加工を施して配向層の表面を露出させるのが好ましい。こうすることで、配向層の表面に優れた配向性を有する材料が露出することになるため、その上に効果的に半導体層をエピタキシャル成長させることができる。配向前駆体層や表面層を除去する手法は特に限定されるものではないが、例えば、研削及び研磨する手法やイオンビームミリングする手法を挙げることができる。配向層の表面の研磨は、砥粒を用いたラップ加工や化学機械研磨(CMP)により行われるのが好ましい。
【0046】
(2)半導体膜の形成
次に、得られた複合下地基板の配向層上に半導体膜を形成する。半導体膜の形成手法としては、本発明で特定される特性を有する半導体膜が得られる限り、言い換えると半導体膜の少なくとも一方の表面における(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅が500arcsec以下となるように成膜できる限り、公知の手法が可能である。しかしながら、ミストCVD法、HVPE法、MBE法、MOCVD法、水熱法及びスパッタリング法のいずれかが好ましく、ミストCVD法、水熱法、又はHVPE法が特に好ましい。これらの方法のうち、HVPE法について以下に説明する。
【0047】
HVPE法(ハライド気相成長法)はCVDの一種であり、Ga2O3やGaN等の化合物半導体の成膜に適用可能な方法である。この方法では、Ga原料とハロゲン化物を反応させてハロゲン化ガリウムガスを発生させ、成膜用下地基板上に供給する。同時にO2ガスを成膜用下地基板上に供給し、ハロゲン化ガリウムガスとO2ガスが反応することで成膜用下地基板上にGa2O3が成長する。高速及び厚膜成長が可能であり、工業的にも広く実績を有する方法であり、α-Ga2O3だけでなくβ-Ga2O3の成膜例が報告されている。
【0048】
図2にHVPE法を用いた気相成長装置の一例を示す。HVPE法を用いた気相成長装置40は、反応炉50と、成膜用下地基板56を載置するサセプタ58と、酸素原料供給源51と、キャリアガス供給源52と、Ga原料供給源53と、ヒーター54と、ガス排出部57を備えている。反応炉50は、原料と反応しない任意の反応炉が適用され、例えば石英管である。ヒーター54は少なくとも700℃(好ましくは900℃以上)まで加熱可能な任意のヒーターが適用され、例えば抵抗加熱式のヒーターである。
【0049】
Ga原料供給源53には内部に金属Ga55が載置されており、ハロゲンガス又はハロゲン化水素ガス、例えばHClが供給される。ハロゲンガス又はハロゲン化ガスは好ましくはCl2又はHClである。供給されたハロゲンガス又はハロゲン化ガスは金属Ga55と反応し、ハロゲン化ガリウムガスが生じ、成膜用下地基板56に供給される。ハロゲン化ガリウムガスは、好ましくはGaCl及び又はGaCl3を含む。酸素原料供給源51は、O2、H2O及びN2Oからなる群から選択される酸素源が供給可能だが、O2が好ましい。これらの酸素原料ガスは、ハロゲン化ガリウムガスと同時に成膜用下地基板56に供給される。なお、Ga原料や酸素原料ガスはN2や希ガス等のキャリアガスととともに供給してもよい。
【0050】
ガス排出部57は、例えば、拡散ポンプ、ロータリーポンプ等の真空ポンプに接続されていてもよく、反応炉50内の未反応のガスの排出だけでなく、反応炉50内を減圧下に制御してもよい。これにより、気相反応の抑制、及び成長速度分布が改善され得る。
【0051】
ヒーター54を用いて所定の温度まで成膜用下地基板56を加熱し、ハロゲン化ガリウムガスと酸素原料ガスを同時に供給することで、成膜用下地基板56上にα-Ga2O3が形成される。成膜温度はα-Ga2O3が成膜される限り特に限定されないが、例えば250℃~900℃が典型的である。Ga原料ガスや酸素原料ガスの分圧も特に限定されない。例えば、Ga原料ガス(ハロゲン化ガリウムガス)の分圧は0.05kPa以上10kPa以下の範囲としてもよく、酸素原料ガスの分圧は0.25kPa以上50kPa以下の範囲としてもよい。
【0052】
ドーパントとして14族元素を含有するα-Ga2O3系半導体膜を成膜する場合や、InやAlの酸化物等を含むα-Ga2O3との混晶膜を成膜する場合においては、別途供給源を設けてそれらのハロゲン化物等を供給してもよいし、Ga原料供給源53からハロゲン化物を混合して供給してもよい。また、金属Ga55と同じ箇所に14族元素やIn、Al等を含有する材料を載置し、ハロゲンガス又はハロゲン化水素ガスと反応させ、ハロゲン化物として供給してもよい。成膜用下地基板56に供給されたそれらのハロゲン化物ガスは、ハロゲン化ガリウムと同様、酸素原料ガスと反応して酸化物となり、α-Ga2O3系半導体膜中に取り込まれる。
【0053】
HVPE法で半導体膜を形成する際には、Ga原料、酸素原料等の供給量を一定のままとし、成膜条件を適切に制御することで単層構造の膜を形成することができる。このようにして、表面における(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅が500arcsec以下と極めて小さい半導体膜を複合下地基板上に成膜することができる。
【0054】
なお、本発明の半導体膜は、成膜用下地基板に成膜した後や成膜用下地基板から分離して自立膜とした場合の反りが著しく小さい。特に、成膜用下地基板として、α-Cr2O3、若しくはα-Cr2O3と異種材料との固溶体で構成される二軸配向基板、又はα-Cr2O3、若しくはα-Cr2O3と異種材料との固溶体で構成される配向層を有する複合基板のいずれかを用いた場合、特に反り量を小さくすることができる。例えば、2インチサイズの半導体膜を作製した場合の反り量を30μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下とすることができる。
【0055】
前述したとおり、本発明の半導体膜は、モザイク性が小さい膜とすることができる。従来のサファイア基板上に成膜したα-Ga2O3膜は、結晶方位がわずかに異なるドメインの集合体(モザイク結晶)となる場合がある。この原因は定かではないが、α-Ga2O3が準安定相のため成膜温度が比較的低温であることが挙げられる。成膜温度が低温のため、吸着成分が基板表面でマイグレーションしづらく、ステップフロー成長しにくい。このため、島状成長(三次元成長)する成長モードが支配的となりやすい。また、成膜用下地基板にサファイア基板を用いた場合、半導体膜とサファイア間の格子不整合があり、それぞれの島状成長部(ドメイン)はわずかに結晶配向方位が異なる場合がある。このため、各ドメインは完全には会合せず、モザイク結晶となりやすい。本発明の半導体膜は、特に成膜用下地基板として、α-Cr2O3、若しくはα-Cr2O3と異種材料との固溶体で構成される単結晶基板、又はα-Cr2O3、若しくはα-Cr2O3と異種材料との固溶体で構成される単結晶層を有する複合基板のいずれかを使用し、成膜条件を適切に制御した場合、モザイク性の無い(すなわち単結晶)又はモザイク性の小さい半導体膜を得ることができる。モザイク性の観点においては、成膜温度は、例えば600℃以上、好ましくは700℃以上、より好ましくは800℃以上、さらに好ましくは900℃以上である。半導体膜のモザイク性を評価するには、XRC測定、EBSD測定、TEM等の公知の手法を用いることができるが、特に前述したようなXRC半値幅での評価が好適である。
【0056】
得られた半導体膜は、そのままの形態又は分割して半導体素子とすることが可能である。あるいは、半導体膜を複合下地基板から剥離して膜単体の形態としてもよい。この場合、複合下地基板からの剥離を容易にするために、複合下地基板の配向層表面(成膜面)に予め剥離層を設けたものを用いてもよい。このような剥離層は、複合下地基板表面にC注入層やH注入層を設けたものが挙げられる。また、半導体膜の成膜初期にCやHを膜中に注入させ、半導体膜側に剥離層を設けてもよい。さらに、複合下地基板上に成膜された半導体膜の表面(すなわち複合下地基板とは反対側の面)に複合下地基板とは異なる支持基板(実装基板)を接着及び接合し、その後、半導体膜から複合下地基板を剥離除去することも可能である。このような支持基板(実装基板)として、25~400℃での熱膨張率が6~13ppm/Kであるもの、例えばCu-Mo複合材料で構成される基板を用いることができる。また、半導体膜と支持基板(実装基板)を接着及び接合する手法の例としては、ロウ付け、半田、固相接合等の公知の手法を挙げることができる。さらに、半導体膜と支持基板との間に、オーミック電極、ショットキー電極等の電極、又は接着層等の他の層を設けてもよい。
【実施例】
【0057】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0058】
例1
成膜用下地基板として市販のCr2O3単結晶(サイズ8mm×8mm、厚さ0.5mm、c面、オフ角なし)(以下、Cr2O3基板という)を使用し、以下のようにしてα-Ga2O3膜(半導体膜)の形成を行った。
【0059】
(1)ミストCVD法によるα-Ga
2O
3膜の形成
(1a)ミストCVD装置
図3に本例で用いたミストCVD装置61を模式的に示す。ミストCVD装置61は、希釈ガス源62a、キャリアガス源62b、流量調節弁63b、ミスト発生源64、容器65、超音波振動子66、石英管67、ヒーター68、サセプタ70、及び排気口71を備えている。サセプタ70には基板69が載置される。流量調節弁63aは希釈ガス源62aから送り出される希釈ガスの流量を調節可能に構成される一方、流量調節弁63bはキャリアガス源62bから送り出されるキャリアガスの流量を調節可能に構成される。ミスト発生源64には原料溶液64aが収容される一方、容器65には水65aが入れられる。超音波振動子66は容器65の底面に取り付けられる。石英管67は成膜室を成しており、ヒーター68が石英管67の周辺部に設置される。サセプタ70は石英で構成され、基板69を載置する面が水平面から傾斜している。
【0060】
(1b)原料溶液の調製
ガリウムアセチルアセトナート濃度が0.05mol/Lの水溶液を調製した。この際、36%塩酸を体積比で1.5%を含有させ、原料溶液64aとした。
【0061】
(1c)成膜準備
得られた原料溶液64aをミスト発生源64内に収容した。上述した成膜用下地基板(Cr2O3基板)を基板69としてサセプタ70上に設置させ、ヒーター68を作動させて石英管67内の温度を600℃にまで上昇させた。次に、流量調節弁63a及び63bを開いて希釈ガス源62a及びキャリアガス源62bから希釈ガス及びキャリアガスをそれぞれ石英管67内に供給した。石英管67内の雰囲気を希釈ガス及びキャリアガスで十分に置換した後、希釈ガスの流量を0.5L/min、キャリアガスの流量を1L/minにそれぞれ調節した。希釈ガス及びキャリアガスとしては、窒素ガスを用いた。
【0062】
(1d)膜形成
超音波振動子66を2.4MHzで振動させ、その振動を、水65aを通じて原料溶液64aに伝播させることによって、原料溶液64aをミスト化させて、ミスト64bを生成した。このミスト64bが、希釈ガス及びキャリアガスによって成膜室である石英管67内に導入され、石英管67内で反応して、基板69の表面でのCVD反応によって基板69上に膜を形成させた。こうして結晶性半導体膜(半導体層)を得た。成膜時間は60分とした。
【0063】
(2)半導体膜の評価
(2a)表面EDS
得られた膜の成膜側(すなわちCr2O3基板と反対側)の膜表面のEDS測定を実施した結果、Ga及びOのみが検出され、得られた膜はGa酸化物であることが分かった。
【0064】
(2b)EBSD
電子線後方散乱回折装置(EBSD)(オックスフォード・インストゥルメンツ社製Nordlys Nano)を取り付けたSEM(日立ハイテクノロジーズ社製、SU-5000)にてGa酸化物で構成される成膜側の膜表面の逆極点図方位マッピングを500μm×500μmの視野で実施した。このEBSD測定の諸条件は以下のとおりとした。
【0065】
<EBSD測定条件>
・加速電圧:15kv
・スポット強度:70
・ワーキングディスタンス:22.5mm
・ステップサイズ:0.5μm
・試料傾斜角:70°
・測定プログラム:Aztec(version 3.3)
【0066】
得られた逆極点図方位マッピングから、Ga酸化物膜は基板法線方向にc軸配向、面内も配向した二軸配向のコランダム型結晶構造を有することが分かった。これらより、α-Ga2O3からなる配向膜が形成されていることが示された。
【0067】
(2c)成膜側表面のXRC
XRD装置(Bruker-AXS株式会社製D8-DISCOVER)を用いてα-Ga2O3膜の成膜側表面の(104)面のXRC測定を実施した。実際には2θ、ω、χ、φを調整してα-Ga2O3の(104)面のピークが出るように軸立てを行った後、管電圧40kV、管電流40mA、コリメータ径0.5mm、アンチスキャッタリングスリット3mmで、ω=15.5~19.5°の範囲、ωステップ幅0.005°、及び計数時間0.5秒の条件を用いた。また、X線源にはGe(022)非対称反射モノクロメーターでCuKα線を平行単色光化したものを用いた。得られた(104)面のXRCプロファイルの半値幅(FWHM)は、XRD解析ソフトウェア(Bruker-AXS製、「LEPTOS」Ver4.03)を使用し、プロファイルのスムージングを行った後にピークサーチを行うことにより決定した。その結果、α-Ga2O3膜の成膜側表面の(104)面XRCプロファイルの半値幅は127arcsec.であった。
【0068】
また、α-Ga2O3膜の成膜側表面の(006)面のXRC測定も実施した。XRD装置にて、2θ、ω、χ、及びφを調整してα-Ga2O3の(006)面のピークが出るように軸立てを行った後、ω=18.0~22.0°として測定した。その他の条件や解析方法は、上述した(104)面のXRC測定と同条件で実施した。その結果、α-Ga2O3膜の成膜側表面の(006)面XRCプロファイルの半値幅は204arcsec.であった。
【0069】
(2d)成膜側表面の平面TEM
α-Ga
2O
3膜表面の結晶欠陥密度を評価するため、平面TEM観察(プランビュー)を実施した。成膜側の表面が含まれるように切り出し、測定視野周辺の試料厚さ(T)が150nmとなるようにイオンミリングによって加工した。得られた切片に対し、透過型電子顕微鏡(日立製H-90001UHR-I)を使用して加速電圧300kVでTEM観察を行い、結晶欠陥密度を評価した。実際には測定視野4.1μm×3.1μmのTEM像を8視野観察し、その中で認められた欠陥の数を算出した。その結果、得られたTEM像内には結晶欠陥が観察されず、結晶欠陥密度は9.9×10
5/cm
2未満であることが分かった。得られたTEM像の一例を
図4に示す。
【0070】
(2e)断面TEM
α-Ga2O3膜から成膜側の表面とCr2O3基板に隣接する表面の両方が含まれ、測定視野周辺の試料厚さ(T)が200nmとなるように断面試験片を切り出した。得られた試験片を用いて、透過型電子顕微鏡(日立製H-90001UHR-I)を使用して、加速電圧300kVでTEM観察をした。得られたTEM像からα-Ga2O3膜の厚さを測定した結果、0.7μmであった。
【0071】
(2f)Sn濃度
D-SIMS(CAMECA社製IMS-7f)を用いてα-Ga2O3膜中のSn濃度を測定した。測定時の1次イオン種としてはCs+イオンを用い、一次イオン加速電圧14.5kVで測定した。その結果、α-Ga2O3膜中のSn濃度は検出限界以下であった。
【0072】
例2
上記(1b)における原料溶液の調製を以下のとおり行ったこと、及び上記(1d)における成膜時間を130分としたこと以外は、例1と同様にしてα-Ga2O3膜の形成及び各種評価を行った。結果は、表1に示されるとおりであった。
【0073】
(1b’)原料溶液の調製
ガリウムアセチルアセトナート濃度が0.05mol/Lの水溶液を調製した。この際、36%塩酸を体積比で1.5%を含有させた。得られたガリウムアセチルアセトナート溶液に塩化スズ(II)二水和物(SnCl2・2H2O)を加え、ガリウムに対するスズの原子比が0.2となるように濃度を調整して、原料溶液64aを得た。
【0074】
例3
上記(1c)において石英管67内の温度を460℃としたこと、及び上記(1d)における成膜時間を200分としたこと以外は、例1と同様にしてα-Ga2O3膜の形成及び各種評価を行った。結果は、表1に示されるとおりであった。
【0075】
例4
上記(1b’)においてガリウムに対するスズの原子比が5.0×10-6となるように塩化スズ(II)二水和物を添加したこと、上記(1c)において石英管67内の温度を460℃としたこと、及び上記(1d)において成膜時間を110分としたこと以外は、例2と同様にしてα-Ga2O3膜の形成及び各種評価を実施した。結果は、表1に示されるとおりであった。
【0076】
例5
成膜用下地基板として以下のようにして作製された複合下地基板を用いたこと、上記(1b’)においてガリウムに対するスズの原子比が0.7となるように塩化スズ(II)二水和物を添加したこと、及び上記(1d)において成膜時間を280分としたこと以外は、例2と同様にしてα-Ga2O3膜の形成及び各種評価を行った。結果は、表1に示されるとおりであった。
【0077】
(複合下地基板の作製)
(a)配向前駆体層の作製
原料粉体としてCr
2O
3粉体(ランクセス製、カラーサームグリーン)、基板としてサファイア(直径50.8mm(2インチ)、厚さ0.43mm、c面、オフ角0.2°)を用いて、
図1に示されるエアロゾルデポジション(AD)装置20により種基板(サファイア基板)上にCr
2O
3で構成されるAD膜(配向前駆体層)を形成した。エアロゾルデポジション(AD)装置20の構成については前述したとおりである。
【0078】
AD成膜条件は以下のとおりとした。すなわち、キャリアガスはN2とし、長辺5mm×短辺0.3mmのスリットが形成されたセラミックス製のノズルを用いた。ノズルのスキャン条件は、0.5mm/sのスキャン速度で、スリットの長辺に対して垂直且つ進む方向に55mm移動、スリットの長辺方向に5mm移動、スリットの長辺に対して垂直且つ戻る方向に55mm移動、スリットの長辺方向且つ初期位置とは反対方向に5mm移動、とのスキャンを繰り返し、スリットの長辺方向に初期位置から55mm移動した時点で、それまでとは逆方向にスキャンを行い、初期位置まで戻るサイクルを1サイクルとし、これを500サイクル繰り返した。室温での1サイクルの成膜において、搬送ガスの設定圧力を0.06MPa、流量を6L/min、チャンバ内圧力を100Pa以下に調整した。このようにして形成したAD膜(配向前駆体層)の厚さは約100μmであった。
【0079】
(b)配向前駆体層の熱処理
AD膜(配向前駆体層)を形成したサファイア基板をAD装置から取り出し、窒素雰囲気中で1700℃にて4時間アニールした。
【0080】
(c)研削及び研磨
得られた基板をセラミックスの定盤に固定し、AD膜に由来する側の面を配向層が露出するまで、#2000までの番手の砥石を用いて研削した後、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面をさらに平滑化した。このとき、ダイヤモンド砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつラップ加工を行うことで、板面の平坦性を高めた。その後、コロイダルシリカを用いた化学機械研磨(CMP)により鏡面仕上げを施し、サファイア基板上に配向層を備えた複合下地基板を得た。なお、基板のAD膜に由来する側の面を「おもて面」と称することとした。加工後の配向層のおもて面の算術平均粗さRaは0.1nm、研削及び研磨量は50μmであり、研磨後の複合下地基板の厚さは0.48mmとなった。
【0081】
(d)配向層の評価
(d1)断面EDX
エネルギー分散型X線分析器(EDX)を用いて基板主面に直交する断面の組成分析を行った。その結果、複合下地基板のおもて面から深さ約20μmまでの範囲ではCr及びOのみが検出された。Cr及びOの比率は深さ約20μmの範囲ではほぼ変化がなく、厚さ約20μmのCr酸化物層が形成されていることが分かった。また、そのCr酸化物層からさらに深さ30μmまで範囲ではCr、O及びAlが検出され、Cr酸化物層とサファイア基板の間に厚さ約30μmのCr-Al酸化物層(傾斜組成層)を形成していることが分かった。Cr-Al酸化物層内ではCrとAlの比率が異なり、サファイア基板側ではAl濃度が高く、Cr酸化物層に近い側ではAl濃度が低下している様子が認められた。
【0082】
(d2)表面EBSD
電子線後方散乱回折装置(EBSD)(オックスフォード・インストゥルメンツ社製Nordlys Nano)を取り付けたSEM(日立ハイテクノロジーズ社製、SU-5000)にてCr酸化物層で構成される配向層のおもて面の逆極点図方位マッピングを500μm×500μmの視野で実施した。このEBSD測定の諸条件は以下のとおりとした。
【0083】
<EBSD測定条件>
・加速電圧:15kV
・スポット強度:70
・ワーキングディスタンス:22.5mm
・ステップサイズ:0.5μm
・試料傾斜角:70°
・測定プログラム:Aztec(version 3.3)
【0084】
得られた逆極点図方位マッピングから、Cr酸化物層は基板法線方向にc軸配向するとともに、面内方向にも配向した二軸配向のコランダム型結晶構造を有する層であることが分かった。これらより、基板のおもて面はα-Cr
2O
3からなる配向層が形成されていることが示された。以上の結果を踏まえて、複合下地基板の作製工程を模式的に示すと
図5(a)~(d)に示されるとおりとなる。
【0085】
(d3)XRD
多機能高分解能X線回折(XRD)装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、D8 DISCOVER)を用いて基板のおもて面のXRDインプレーン測定を行った。具体的には、基板表面の高さに合わせてZ軸を調整した後、(11-20)面に対してChi、Phi、ω、2θを調整して軸立てを行い、以下の条件にて2θ-ω測定を行った。
【0086】
<XRD測定条件>
・管電圧:40kV
・管電流:40mA
・検出器:Tripple Ge(220) Analyzer
・Ge(022)非対称反射モノクロメーターにて平行単色光化(半値幅28秒)したCuKα線
・ステップ幅:0.001°
・スキャンスピード:1.0秒/ステップ
【0087】
XRD測定により、配向層のa軸長は4.961Åであることが分かった。
【0088】
例6
上記(1b’)においてガリウムに対するスズの原子比が0.2となるように塩化スズ(II)二水和物を添加したこと、及び上記(1d)において成膜時間を600分としたこと以外は例5と同様にしてα-Ga2O3膜の形成及び各種評価を行った。結果は、表1に示されるとおりであった。
【0089】