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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】駅ホームの補強構造、及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20240328BHJP
   E02D 29/02 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
E02D17/20 103H
E02D29/02 304
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020219472
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104328
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中島 進
(72)【発明者】
【氏名】野城 一栄
(72)【発明者】
【氏名】杉山 健太
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀憲
(72)【発明者】
【氏名】讃岐 賢太
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-165098(JP,A)
【文献】特開2016-108881(JP,A)
【文献】特開2013-159950(JP,A)
【文献】特開2014-133971(JP,A)
【文献】特開2002-194727(JP,A)
【文献】特開2005-009210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックが積み重ねられた壁体によって、盛土を支持する駅ホームの補強構造であって、
前記壁体の上部に設置される、前記駅ホームの長手方向に延在する上部固定部材と、
前記壁体の上部から前記盛土に向けて打ち込まれることで設置される棒状部材と、
前記壁体の表面に一体となる表層を形成するポリウレア樹脂層と、を備え、
前記棒状部材は、芯材としての鉄筋と、前記鉄筋を覆うモルタル又はコンクリートにより形成され、
前記棒状部材の一端は、前記壁体のうち前記ポリウレア樹脂層に覆われていない部分に配置されている当て板を介して前記上部固定部材に接続されている
ことを特徴とする、駅ホームの補強構造。
【請求項2】
前記ブロック間の目地には、補填材が埋め込まれている
ことを特徴とする、請求項1に記載の駅ホームの補強構造。
【請求項3】
ブロックが積み重ねられた壁体によって、盛土を支持する駅ホームの補強構造の施工方法であって、
前記駅ホームを構造計算する構造計算ステップと、
前記構造計算ステップの計算情報に基づいて、前記壁体の上部から前記盛土に向けて打ち込まれることで設置される棒状部材の仕様を決定する仕様決定ステップと、
前記仕様決定ステップで決定した仕様の前記棒状部材を、前記壁体の上部から前記盛土に向けて打ち込んで、前記棒状部材の頭部間を前記駅ホームの長手方向に延在するように前記壁体の上部に設置される上部固定部材に接続する棒状部材設置ステップと、
前記壁体の表面にポリウレア樹脂を吹き付けて、ポリウレア樹脂層を形成するポリウレア樹脂層形成ステップと、を備え、
前記棒状部材は、芯材としての鉄筋と、前記鉄筋を覆うモルタル又はコンクリートにより形成され、
前記棒状部材設置ステップでは、前記棒状部材の一端を、前記壁体のうち前記ポリウレア樹脂層に覆われていない部分に配置されている当て板を介して前記上部固定部材に接続する
ことを特徴とする、補強構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックが積み重ねられた壁体によって、盛土を支持する駅ホームの補強構造、及びその補強構造の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、盛土を支持する壁体によって形成された駅ホームの補強構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、駅ホームの延在方向の全長に亘って石積壁の外面に添設されているカバー部材と、駅ホームの延在方向に亘って、カバー部材の上縁を石積ブロックに定着させている第1の定着部材と、駅ホームの延在方向に亘って、カバー部材の下縁を石積ブロックに定着させている第2の定着部材と、石積壁における最上段の石積ブロックを貫いて盛土に埋入されている棒状部材と、を備える駅ホームの補強構造が開示されている。これにより、盛土が崩れるような土圧が石積壁に作用しても、石積ブロックがカバー部材側に押し出されることはなく、石積壁はその土圧に抗することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-165098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の駅ホームの補強構造は、カバー部材を駅ホームの延在方向の全長に亘って石積壁の外面に添設する必要がある。そのため、簡易な構成の駅ホームの補強構造が望まれていた。
【0006】
そこで、本発明は、大きな土圧が石積壁などの壁体に作用しても、駅ホームの崩落を防止することができる、簡易な構成の駅ホームの補強構造、及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の駅ホームの補強構造は、ブロックが積み重ねられた壁体によって、盛土を支持する駅ホームの補強構造であって、前記壁体の上部に設置される、前記駅ホームの長手方向に延在する上部固定部材と、前記壁体の上部から前記盛土に向けて打ち込まれることで設置される棒状部材と、前記壁体の表面に一体となる表層を形成するポリウレア樹脂層と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
ここで、本発明の駅ホームの補強構造では、前記ブロック間の目地には、補填材が埋め込まれてもよい。
【0009】
さらに、本発明の補強構造の施工方法は、ブロックが積み重ねられた壁体によって、盛土を支持する駅ホームの補強構造の施工方法であって、前記駅ホームを構造計算する構造計算ステップと、前記構造計算ステップの計算情報に基づいて、前記壁体の上部から前記盛土に向けて打ち込まれることで設置される棒状部材の仕様を決定する仕様決定ステップと、前記仕様決定ステップで決定した仕様の前記棒状部材を、前記壁体の上部から前記盛土に向けて打ち込んで、前記棒状部材の頭部間を前記駅ホームの長手方向に延在するように前記壁体の上部に設置される上部固定部材に接続する棒状部材設置ステップと、前記壁体の表面にポリウレア樹脂を吹き付けて、ポリウレア樹脂層を形成するポリウレア樹脂層形成ステップと、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明の駅ホームの補強構造は、壁体の上部に設置される、駅ホームの長手方向に延在する上部固定部材と、壁体の上部から盛土に向けて打ち込まれることで設置される棒状部材と、壁体の表面に一体となる表層を形成するポリウレア樹脂層と、を備えている。そのため、上部固定部材及び棒状部材によって、壁体の転倒を防止することができる。また、ポリウレア樹脂層によって、壁体からブロックが抜け出すことを防止することができる。そのため、大きな土圧が壁体に作用しても、壁体の転倒による駅ホームの崩落と、ブロックの抜け出しによる駅ホームの崩落を、壁体の表面を一体にするポリウレア樹脂層という簡易な構成で防止することができる。
【0011】
また、本発明の駅ホームの補強構造では、ブロック間の目地に補填材が埋め込まれている場合、壁体の表見を平坦にすることができる。そのため、壁体に形成されるポリウレア樹脂層を平坦に形成することができる。そして、ブロックからの荷重をポリウレア樹脂層の広範囲に分散させ、効果的にブロックの抜け出しを防止することができる。
【0012】
さらに、本発明の補強構造の施工方法では、駅ホームを構造計算する構造計算ステップと、構造計算ステップの計算情報に基づいて、壁体の上部から盛土に向けて打ち込まれることで設置される棒状部材の仕様を決定する仕様決定ステップと、仕様決定ステップで決定した仕様の棒状部材を、壁体の上部から盛土に向けて打ち込んで、棒状部材の頭部間を駅ホームの長手方向に延在するように壁体の上部に設置される上部固定部材に接続する棒状部材設置ステップと、壁体の表面にポリウレア樹脂を吹き付けて、ポリウレア樹脂層を形成するポリウレア樹脂層形成ステップと、を備える。この場合、壁体の表面にポリウレア樹脂層を形成するため、壁体の壁面を平面保持することができる。そして、ポリウレア樹脂層によって、壁体からブロックが抜け出すことを防止することができる。壁体の転倒又は滑動モードを考慮した構造計算に基づいて、壁体の転倒を防止する棒状部材の仕様(材質や長さや配置ピッチ)を決定することができる。そのため、大きな土圧が壁体に作用しても、壁体の転倒による駅ホームの崩落と、ブロックの抜け出しによる駅ホームの崩落とを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の駅ホームの補強構造を示す正面図である。
図2】実施例1の駅ホームの補強構造を示す断面図である。
図3】実施例1の壁体を拡大して示す断面図である。
図4】実施例1の駅ホームの補強構造の施工方法を示すフローチャートである。
図5】実施例1の構造計算の流れを示すフローチャートである。
図6】実施例1の安定計算を説明するための図である。
図7】実施例1の残留変位算定に使用する残留変位算定用モノグラムである。
図8】実施例1の駅ホームの補強構造の模型に対して、加振実験をした後の図である。
図9】供試体に対する押し抜き試験について説明する図であり、図9(a)は、押し抜き試験を説明する図であり、図9(b)は、押し抜き試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による駅ホームの補強構造、及びその施工方法を実現する実施形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1では、本発明による補強構造、及びその施工方法を、ブロックが積み重ねられた壁体10によって、盛土2を支持する駅ホーム1に適用した例を説明する。
【0016】
[駅ホームの補強構造の構成]
図1は、実施例1の駅ホーム1の補強構造を示す正面図である。図2は、実施例1の駅ホーム1の補強構造を示す断面図である。図3は、実施例1の壁体10を拡大して示す断面図である。以下、実施例1の駅ホーム1の補強構造の構成を説明する。
【0017】
図1及び図2に示すように、駅ホーム1は、盛土2を側方から支持する壁体10と、壁体10を支持する土台ブロック5と、盛土2の上面に設置された舗装部6と、壁体10の表面に設けられたポリウレア樹脂層40と、壁体10の上部に設けられた棒状部材20と、壁体10の上部に設けられた上部固定部材30と、を備えている。
【0018】
(壁体)
壁体10は、土台ブロック5の上面に設置されている。壁体10は、例えば、矩形のブロック11が6段に積み重なって形成されている。ブロック11としては、例えば、コンクリートブロックや大谷石等があげられる。最下段のブロック11の一部は、地中に埋没している。なお、壁体10は、一部が地中に埋没していてもよいし、埋没していなくてもよい。最上段のブロック11は、笠石として構成されている。
【0019】
図3に示すように、ブロック11間の目地11aには、補填材45が埋め込まれている。補填材45の表面と、ブロック11の表面とが略同一面を形成するように、補填材45が目地11aに埋め込められている。補填材45は、例えば、スポンジやコーキング材等の隙間を埋める材料とすることができる。
【0020】
(舗装部)
図2に示すように、舗装部6は、例えば、アスファルト舗装やコンクリート舗装とすることができ、盛土2の上面に敷設されている。
【0021】
(上部固定部材)
図1及び図2に示すように、上部固定部材30は、断面L字状のアングル材が駅ホーム1の長手方向に延在して形成されている。上部固定部材30は、壁体10の上部に取り付けられている。上部固定部材30は、ネジ等の締結部材31によって、最上段のブロック11の1つ下段のブロック11の上縁に取り付けられている。上部固定部材30は、複数のブロック11に跨るようにして、最上段のブロック11の1つ下段のブロック11の上縁に取り付けられている。
【0022】
(棒状部材)
図1及び図2に示すように、棒状部材20は、例えば、芯材としての鉄筋と、鉄筋を覆うモルタルとによって、棒状に形成されている。なお、棒状部材20は、鋼材のみで形成することもできるし、モルタルの代わりにコンクリートを使用することもできる。棒状部材20は、壁体10の延在方向に、所定の間隔で複数設置されている。棒状部材20は、壁体10の上部から盛土2に向けて打ち込まれることで設置されている。棒状部材20は、ブロック11に形成した貫通孔から、盛土2に挿入して設置される。
【0023】
棒状部材20は、斜め下方を向く傾斜姿勢で設置されている。これにより、盛土2が崩れるような土圧が壁体10に作用した場合に、棒状部材20の引抜抵抗力が土圧に対して好適に抗するようになる。
【0024】
棒状部材20の一端は、最上段のブロック11の1つ下段のブロック11に設置されている。棒状部材20の一端には、当て板21が取り付けられている。当て板21は、上部固定部材30の下端に当接することで、上部固定部材30に接続されている。すなわち、駅ホーム1の長手方向に間隔を置いて配置される棒状部材20の頭部間は、上部固定部材30によって接続されている。
【0025】
(ポリウレア樹脂層)
図1及び図2に示すように、ポリウレア樹脂層40は、壁体10の表面に一体となる表層を形成する。ポリウレア樹脂層40は、壁体10の上部から下部にわたって形成されている。ポリウレア樹脂層40の厚さは、例えば、0.5mm程度にすることができる。
【0026】
ポリウレア樹脂層40は、スプレーガンによって、壁体10の表面に吹き付けることで、形成される。なお、スプレーガンによって吹き付ける前に、必要により壁体10の表面をプライマー処理する。
【0027】
ポリウレア樹脂層40は、最上段のブロック11の1つ下段のブロック11の上縁から、最下段のブロック11の1つ上段のブロック11の下縁にわたって形成されている。なお、ポリウレア樹脂層40は、最上段のブロック11から、最下段のブロック11にわたって形成されてもよい。
【0028】
[駅ホームの補強構造の施工方法]
図4は、実施例1の駅ホーム1の補強構造の施工方法を示すフローチャートである。図5は、実施例1の構造計算の流れを示すフローチャートである。図6は、実施例1の安定計算を説明するための図である。図7は、実施例1の残留変位算定に使用する残留変位算定用モノグラムである。以下、実施例1の駅ホーム1の補強構造の施工方法を説明する。
【0029】
図4に示すように、構造計算ステップ(ステップS101)と、仕様決定ステップ(ステップS102)と、棒状部材設置ステップ(ステップS103)と、上部固定部材設置ステップ(ステップS104)と、ポリウレア樹脂層形成ステップ(ステップS105)と、を経て駅ホーム1の補強構造が施工される。
【0030】
(構造計算ステップ)
構造計算ステップでは駅ホーム1の構造計算を実施する。図5に示すように、まず、安定計算を実施する(ステップS110)。具体的には、図6に示すように、壁体10の転倒又は滑動モードを仮定して、ある材質・長さ・ピッチの棒状部材20によって補強した場合の、ブロック11の各段支点での降伏震度を計算する。各段支点での降伏震度の計算は、各段支点より上方の各ブロック11の表層が一体化した壁体10の転倒又は滑動モードを仮定(設定)して、駅ホーム1の構造計算を実施してもよい。
【0031】
次いで、各段支点での降伏震度に基づいて、最小降伏震度を算定する(ステップS111)。次いで、図7に示す、数値解析に基づいて作成された、残留変位と降伏震度との関係の残留変位算定用モノグラムを用いて、残留変位を算定する(ステップS112)。数値解析は、組積壁を構成する石積ブロックが崩壊、変形する状態まで解析可能な手法によるものとし、例えば、粒子法や個別要素法が挙げられる。
【0032】
次いで、残留変位算定用モノグラムに基づいて算定された残留変位が制限値未満であるか否かを判断する(ステップS113)。残留変位が制限値未満であると判断した場合(ステップS113でYES)、構造計算ステップを終了する。一方、残留変位が制限値以上であると判断した場合(ステップS113でNO)、ステップS110に戻って安定計算からやり直す。
【0033】
(仕様決定ステップ)
仕様決定ステップでは、構造計算ステップの計算情報に基づいて、棒状部材20の材質や長さや配置ピッチ等の仕様を決定する。
【0034】
(棒状部材設置ステップ)
棒状部材設置ステップでは、仕様決定ステップで決定した仕様の棒状部材20を、壁体10の上部から盛土2に向けて打ち込む。また、上部固定部材30を壁体10の上部に、ネジ等の締結部材31によって取り付ける。そして、棒状部材20の頭部を、当て板21を介して、上部固定部材30に接続する。
【0035】
(ポリウレア樹脂層形成ステップ)
ポリウレア樹脂層形成ステップでは、ブロック11間の目地11aには、補填材45を埋め込む。また、壁体10の表面をプライマー処理することもできる。そして、壁体10の表面にポリウレア樹脂を吹き付けて、ポリウレア樹脂層40を形成する。
【0036】
[加振実験]
実施例1の駅ホーム1の補強構造の効果を確認するために、大型振動台において、実施例1の駅ホーム1の補強構造の実物大模型を用いた加振実験を実施した。図8は、実施例1の駅ホーム1の補強構造の模型に対して、加振実験をした後の図である。以下、実施例1の駅ホーム1の補強構造の模型に対する加振実験について説明する。
【0037】
この加振実験に使用した模型は、図8に示すように、ブロック11を数段に積み重ねて形成し、一方の片側(右側)の第1エリアS1にポリウレア樹脂を吹き付けてポリウレア樹脂層40を形成し、他方の片側(左側)の第2エリアS2にポリウレア樹脂を塗布していないものを使用した。この模型を、大型振動台に乗せて、正弦波800galで1回加振した。
【0038】
図8に示すように、加振後において、ポリウレア樹脂層40が形成された第1エリアS1では、ブロック11の水平変位(面外方向への抜け出し)は確認されなかった。一方、ポリウレア樹脂層40が形成されていない第2エリアS2では、ブロック11の高さの半分程度が、ばらばらに水平変位していることが確認された。
【0039】
[押し抜き試験]
実施例1のポリウレア樹脂層40の効果を確認するために、押し抜き試験機を用いて、供試体を用いた押し抜き試験を実施した。図9は、供試体に対する押し抜き試験について説明する図であり、図9(a)は、押し抜き試験を説明する図であり、図9(b)は、押し抜き試験の結果を示すグラフである。以下、供試体に対する押し抜き試験について説明する。
【0040】
図9(a)に示すように、押し抜き試験機60では、荷重付加部61から荷重Pがロードセル62と球座63を介して、供試体50に荷重Pを付加する。荷重付加部61には、変位計64が取り付けられ、供試体50の変位δが分かるようにした。
【0041】
供試体50は、コンクリート版とした。供試体50の表面には、ポリウレア樹脂層40を形成した。供試体50の裏面には、幅100mm間隔の切り込み51を形成した。
【0042】
供試体50は、標準供試体50Aと、コンクリート版の表面に大小の凹凸を施した供試体50Bと、漏水条件下で温冷繰り返し試験を行った後の供試体50Cと、を用意した。はく落対策工の基準では、図9(b)のエリアFで示した性能満足範囲に一度でも入ることが求められるが、いずれも基準を満足していた。すなわち、押し抜き抵抗は、1.0~2.0kN程度有することが分かった。
【0043】
1つのブロック11に作用する慣性力を1.0khとすると、ブロック11が大谷石の場合、以下の計算式で表される。
密度17.0×体積(0.4×0.3×1.0)×慣性力1.0=2.0kN
【0044】
ブロック11がコンクリートブロックの場合、以下の計算式で表される。
密度24.0×体積(0.5×0.3×0.25)×慣性力1.0=2.0kN
【0045】
以上のことから、1つのブロック11の抜け出し防止に対して、十分な強度を有することが分かった。
【0046】
[駅ホームの補強構造及びその施工方法の作用]
次に、実施例1の駅ホーム1の補強構造、及びその施工方法の作用を説明する。実施例1の駅ホーム1の補強構造は、ブロック11が積み重ねられた壁体10によって、盛土2を支持する駅ホーム1の補強構造である。この補強構造は、壁体10の上部に設置される、駅ホーム1の長手方向に延在する上部固定部材30と、壁体10の上部から盛土2に向けて打ち込まれることで設置される棒状部材20と、壁体10の表面に一体となる表層を形成するポリウレア樹脂層40と、を備えている(図2)。
【0047】
これにより、上部固定部材30及び棒状部材20によって、壁体10の転倒を防止することができる。また、ポリウレア樹脂層40によって、壁体10からブロック11が抜け出すことを防止することができる。そのため、盛土2が崩れるような大きな土圧が壁体10に作用しても、壁体10の転倒による駅ホーム1の崩落と、ブロック11の抜け出しによる駅ホーム1の崩落を、簡易な構成で防止することができる。
【0048】
実施例1の駅ホーム1の補強構造において、ブロック11間の目地11aには、補填材45が埋め込まれている(図3)。
【0049】
これにより、ブロック11間の目地11aを、補填材45で埋めることができる。そのため、壁体10の表面を平坦にすることができる。その結果、壁体10に形成されるポリウレア樹脂層40を平坦に形成することができる。すなわち、ポリウレア樹脂は一定の厚さで吹き付けられるので、表面に凹凸があるとその影響を受けてしまうことになるが、補填材45によって壁体10の表面を平坦にしておくことによって、ポリウレア樹脂層40を平坦に形成することができる。そして、ブロック11からの荷重を分散させ、効果的にブロック11の抜け出しを防止することができる。
【0050】
実施例1の駅ホーム1の補強構造の施工方法は、ブロック11が積み重ねられた壁体10によって、盛土2を支持する駅ホーム1の補強構造の施工方法である。この施工方法は、駅ホーム1を構造計算する構造計算ステップと、構造計算ステップの計算情報に基づいて、壁体10の上部から盛土2に向けて打ち込まれることで設置される棒状部材20の仕様を決定する仕様決定ステップと、仕様決定ステップで決定した仕様の棒状部材20を、壁体10の上部から盛土2に向けて打ち込んで、棒状部材20の頭部間を駅ホーム1の長手方向に延在するように壁体10の上部に設置される上部固定部材30に接続する棒状部材設置ステップと、壁体10の表面にポリウレア樹脂を吹き付けて、ポリウレア樹脂層40を形成するポリウレア樹脂層形成ステップと、を備える(図4及び図5)。
【0051】
壁体10の表面にポリウレア樹脂層40を形成するため、壁体10の壁面を平面保持することができる。そして、ポリウレア樹脂層40によって、壁体10からブロック11が抜け出すことを防止することができる。
【0052】
壁体10の転倒又は滑動モードを考慮した構造計算に基づいて、壁体10の転倒を防止する棒状部材20の仕様(材質や長さや配置ピッチ)を決定することができる。
【0053】
そのため、盛土2が崩れるような大きな土圧が壁体10に作用しても、壁体10の転倒による駅ホーム1の崩落と、ブロック11の抜け出しによる駅ホーム1の崩落とを防止することができる。
【0054】
以上、本発明の駅ホーム1の補強構造、及びその施工方法を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や、追加等は許容される。
【0055】
実施例1では、ポリウレア樹脂層40は、最上段のブロック11の1つ下段のブロック11の上縁から、最下段のブロック11の1つ上段のブロック11の下縁にわたって形成されている例を示した。しかし、ポリウレア樹脂層40は、壁体10の表面の少なくとも一部に形成されていればよい。例えば、ポリウレア樹脂層は、最上段のブロック11の上縁から、最下段のブロック11の下縁にわたって形成されてもよい。
【0056】
実施例1では、壁体10は、矩形のブロック11が6段に積み重なって形成される例を示した。しかし、壁体は、この態様に限定されず、例えば、異なる形状のブロックが積み重なって形成されていてもよい。また、壁体は、ブロックが7段以上に積み重なって形成されても、5段以下に積み重ねって形成されていてもよい。
【0057】
実施例1では、上部固定部材30を断面L字状のアングル材とする例を示した。しかし、上部固定部材は、この態様に限定されず、例えば、平鋼とすることもできる。
【0058】
実施例1では、壁体10は、一部が地中に埋没している例を示した。しかし、壁体は、地中に埋没していなくてもよい。
【0059】
実施例1では、壁体10を形成する最上段のブロック11を笠石とする例を示した。しかし、壁体を形成する最上段のブロックを笠石としなくてもよい。
【0060】
実施例1では、駅ホーム1の補強構造は、補填材45を備える例を示した。しかし、駅ホームの補強構造は、補填材45を備えていなくてもよい。
【0061】
実施例1では、駅ホーム1の補強構造の施工順序として、棒状部材設置ステップを実施し、次に上部固定部材設置ステップを実施し、次にポリウレア樹脂層形成ステップを実施する例を示した。しかし、駅ホーム1の補強構造の施工順序は、この順序に限定されることはない。
【符号の説明】
【0062】
1 駅ホーム
11 ブロック
10 壁体
2 盛土
30 上部固定部材
20 棒状部材
40 ポリウレア樹脂層
45 補填材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9