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  • 特許-動物の皮をなめす方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】動物の皮をなめす方法
(51)【国際特許分類】
   C14C 3/16 20060101AFI20240328BHJP
【FI】
C14C3/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020510129
(86)(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 IB2018056353
(87)【国際公開番号】W WO2019038691
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】102017000095318
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518010441
【氏名又は名称】ディービー パテンツ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】ラモン コロメール ドゥラン
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01029930(EP,A1)
【文献】特開平08-232000(JP,A)
【文献】特表2018-520253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68F 1/00 - 3/04
C14B 1/00 - 99/00
C14C 1/00 - 99/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の皮をなめす方法であって、
(a)前記動物の皮を、一般式(I)の少なくとも1つのジアルデヒドを含む第1のなめし浴と接触させて配置すること、
O=CH-(CH)n-HC=O・・・(I)
式中、nは、0または1~8の範囲の整数であり、前記なめし浴は、1~5の範囲のpHを有し;
(b)前記なめし浴のpHを5より高く8未満のpHにすること;
(c)前記第1のなめし浴の代わりに第2のなめし浴を使用して、前記ステップ(b)からの前記皮に対して、前記ステップ(a)および(b)を繰り返すこと;前記第2のなめし浴は、前記第1のなめし浴と同じ初期化学組成を有し;
を含み、
前記第1のおよび第2のなめし浴、界面活性剤の含有量が前記皮の裸皮の重量に対して0重量%以上0.05重量%未満である、動物の皮をなめす方法。
【請求項2】
前記第2のなめし浴の代わりに第3のなめし浴を使用して、前記第2のなめし浴の前記ステップ(b)を出た前記皮に対して前記ステップ(a)および(b)を繰り返すステップ(d)をさらに含み;前記第3のなめし浴は、前記第1のなめし浴と同じ初期化学組成を有し;
前記第3のなめし浴、界面活性剤の含有量が前記皮の裸皮の重量に対して0重量%以上0.05重量%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一般式(I)のジアルデヒドが、前記皮の裸皮の重量に対して0.1重量%~30重量%の量で、前記第1および第2のなめし浴中に存在する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(b)における前記なめし浴のpHが、5.5以上7.5以下の値にされる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記一般式(I)のジアルデヒドが、グリオキサール、マロン酸ジアルデヒド、コハク酸ジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、アジピン酸ジアルデヒド、ピメリン酸ジアルデヒドおよびそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記一般式(I)のジアルデヒドが、グルタルジアルデヒドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(a)の処理が、1~7時間の期間を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(a)の前記なめし浴と前記動物の皮との重量パーセント比が、前記皮の裸皮の重量に対して、20重量%~1000重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記一般式(I)のジアルデヒドと異なるなめし剤を用いたなめし処理を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記動物の皮が、ウシ皮、ヒツジ皮、ヤギ皮および爬虫類皮から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記動物の皮が、ウシ皮である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の皮をなめす方法に関する。
【0002】
本発明のなめし方法は、動物の皮をなめし、表面の欠陥(例えば、血筋)の少ない皮革を得るために有利に使用することができる。また、本発明によるなめし方法は、軽量の皮から出発しても、従来技術の方法よりも比較的厚くかつ表面の歩留まりが高い皮を得ることを可能にする。本発明によるなめし方法は、アルデヒドなめし剤を使用し、クロムなめし剤の使用を必要としないため、環境への影響も小さい。
【背景技術】
【0003】
靴、バッグ、衣服などの高級皮革製品の生産には、高品質の皮革、つまり、表面的な欠陥が可能な限り少ない皮革を使用する必要がある。特に、高級皮革品を生産するために加工された皮革は、可能な限り血筋がないようにしなければならない。
【0004】
皮革の品質は、主に出発生皮の品質に依存し、それは可能な限り、感染または寄生虫に由来する傷跡、その動物の烙印操作に由来する切り込みなどの欠陥がないことが必要である。
【0005】
なめしサイクルでは、例えば、石灰漬け、脱毛、またはベイティングの操作で特定の予防措置を採用することによって、皮革の表面の血筋と伸展線の視認性を部分的に低下させることができる。さらに、皮革の軽微な欠陥は、機械的な仕上げ作業(例えば、研削、フィラーの塗布)によって除去または隠すことができる。
【0006】
しかし、なめしサイクルでは表面的な皮革の欠陥を完全に除去することはできず、使用可能な生皮のごく一部が高級皮革製品の分野で使用されるため、原料の深刻な不足の影響を被る。
【0007】
高級皮革製品の生産に使用できるようにするために皮革が有しなければならない別の重要な特性は、比較的厚いことである。皮革の厚さは、主に動物のタイプ、性別、年齢、そしてそれほどではないが適用されるなめしサイクルの特性に依存する。例えば、一般に、ウシ由来の皮革は、0.9mm~1.4mmの範囲の厚さで得られる。しかし、高級皮革製品には、厚さが1.1~1.4mmの範囲の皮革のみが使用される。
【0008】
なめされる生皮は、一般に、その動物の年齢に基づいて、体重の観点から分類される。実際には、同じ重量範囲の生皮に対して、厚さのある皮革を製造できるなめしサイクルは一般に、比較的低い面積歩留りによって特徴付けられることが観察されている。それどころか、厚さの薄い皮革を製造するなめしサイクルは、比較的高い面積歩留まりによって特徴付けられる。さらに、等しいなめしサイクルの場合、使用される生皮の重量範囲が増加するにつれて、面積歩留まりが減少する。例えば、重量範囲が12~14kgのウシの生皮から出発して、生皮1kgあたり約1.8平方フィートの平均面積歩留まりで、厚さ1.4mmの皮革を得ることができ;重量範囲が14~16kgのウシの生皮から出発して、生皮1kgあたり約1.6平方フィートの平均面積歩留まりで、厚さ1.4mmの同じ皮革を得ることができる。さらに、低重量範囲(例えば、10~12kg)の生皮からは、厚さの厚い皮革(例えば、1.2mm~1.4mm)を簡単に入手できないことが観察されている。
【0009】
皮革の厚さとなめしプロセスの面積歩留まりの間の前述の関係のため、厚い皮革を入手するには、主により高い重量範囲の生皮になめしサイクルを適用する必要があることは明らかであるが、しかし、なめしプロセスの面積歩留まりが低くなることに加えて、重量範囲の低い生皮よりもコストが高くなる。厚い皮革を使用する皮革製品の製造業者にとって、これはコストと原材料の調達の重大な問題を伴う。
【0010】
なめしサイクルまたはプロセスは、動物の皮革を保存するため、または他の製品を製造するためにさらに処理するための、動物の皮を革に変換する手動、機械、および化学物理処理のセットである。
【0011】
一般に、なめしサイクルは以下の操作手順を含む:なめし用の生皮を準備する予備ステップ(ビームハウス操作);その皮を傷つけないようにする実際のなめしステップ;なめした皮の美的および製品特性が必要に応じて変更される再なめしステップ;最終的な皮革の性能、外観、銀面を改善または変更する仕上げステップ。
【0012】
なめしステップは、生皮を鉱物、植物、または合成(シンタン)なめし剤で処理して行われる。当該技術分野でよく使用されているなめし剤の1つのクラスはアルデヒドのものである。アルデヒド、特にグルタルアルデヒド(1,5-ペンタンジアール)は、一般に生皮のプレなめしのなめし剤として使用される。プレなめしの主な目的は、より高い温度でより効果的な脂肪除去処理を可能にするために、熱水処理に対してある程度の安定性をその皮革に付与することである。アルデヒドなめし剤は、再なめしステップでも使用され、最終的な皮革により豊かさと緻密性を付与する、または、クロムなめしの二次なめし剤として、クロム化合物の一部で皮のなめし反応を促進する。
【0013】
アルデヒドは、後者に比べて環境への影響が少ないため、クロムなめし剤の使用に代わる有効な代替手段であるが、アルデヒドは一般に、特に高い収縮温度(Tc)(通常、約80℃以下)を達成できないため、皮をなめすための単一のなめし剤としては使用されない。さらに、アルデヒドを用いたなめしは、特にそれらが比較的高濃度で使用される場合、これらのなめし剤の高い収れん効果のために、皮に表面的な欠陥(例えば、しわ)を生じさせる可能性がある。
【0014】
同じ出願人による国際公開第2017/009786号は、C2~C8脂肪族ジアルデヒドおよび非イオン性界面活性剤を含むなめし浴での皮の処理に基づいて動物の皮をなめす改良された方法を記載している。一実施形態では、この方法は、前述の非イオン性界面活性剤が実質的に存在しない、前述のジアルデヒドのみを含むなめし浴で皮を処理する追加のステップも含む。前述のなめし方法は、クロムなめし剤を使用することなく、比較的高いTcと高い機械的耐性を有する皮革を得ることを可能にする。
【発明の概要】
【0015】
前述の最新技術を考慮して、出願人は、上記の最新技術の欠点の1つ以上を克服することができる、動物の皮を処理する方法を提供することを主たる目的とする。
【0016】
特に、上記の主たる目的の範囲内で、本発明の目的は、表面の欠陥、特に筋がほとんどない皮革を得ることができる動物の皮を処理する方法を提供することである。
【0017】
本発明の第2の目的は、厚さのある、好ましくは高い面積歩留まりで、皮革を得ることができる動物の皮を処理する方法を提供することである。
【0018】
本発明の第3の目的は、アルデヒドなめし剤を唯一のなめし剤として使用して動物の皮をなめす方法を提供することであり、これにより、非アルデヒドなめし剤、特にクロムなめし剤による追加のなめし処理を防ぐことができる。
【0019】
出願人は、以下の説明でより良く説明される、これらおよび他の目的が、少なくとも2つの連続した段階のそれぞれのなめし浴における皮の処理を含むプロセス-界面活性剤の実質的な不存在下で、その浴のそれぞれが少なくとも1つのアルデヒドなめし剤を含む-によって達成できることを発見した。
【0020】
出願人は、アルデヒドなめし剤を用いたなめし処理の最後にpHを適切に調整することによって、良好な水熱安定性を有し、アルデヒドを用いた既知のなめし方法で典型的に見られるしわなどの表面欠陥が実質的にない、なめし皮が得られることを実際に観察した。なめし処理の第1段階後に得られた皮は、アルデヒドなめし剤を用いた1つ以上の追加のなめし処理を受けるのに適している。アルデヒドなめし剤を用いた2つ以上の連続なめしステップの実行によって、コラーゲンの完全な架橋(高Tc)と、同時に、表面的な欠陥の少ない最終皮革を得ることができる。
【0021】
本発明によるなめし方法は、特にウシの皮、特に子牛の皮および若い子牛の皮から得られる皮革の場合、最終的な皮革に見られる表面欠陥の数を減らすことを可能にする。欠陥のない表面に関して最良の結果が得られるのは、皮の銀面側である。
【0022】
さらに、本発明によるなめし処理の有効性は、低品質の生皮から出発しても、目に見える表面欠陥、特に血筋の少ない高品質の皮革の製造を可能にすることである。
【0023】
本発明によるなめし方法で処理された皮は、非アルデヒドなめし剤、特にクロムなめし剤を用いた追加の処理、例えばプレなめし、なめしおよび再なめし処理を必要としない。
【0024】
さらに、本発明による方法は、低重量の生皮から出発しても、面積歩留まりが高く、厚さが1.4mmを超えるような、厚い皮革を得ることを可能にする。
【0025】
次に、本発明は、簡単で経済的な方法で、環境への影響を低減した高品質の皮革を提供することを可能にする。
【0026】
第1の態様によれば、本発明は、以下のステップを含む動物の皮をなめす方法に関する。
(a)前記動物の皮を、一般式(I)の少なくとも1つのジアルデヒドを含む第1のなめし浴と接触させて配置すること、
O=CH-(CH )n-HC=O・・・(I)
式中、nは、0または1~8の範囲の整数であり、前記なめし浴は、1~5の範囲のpHを有し;
(b)なめし浴のpHを5より高く8未満のpHにすること;
(c)第2のまたはさらなるなめし浴を使用して、前記ステップ(b)からの前記皮に対して、前記ステップ(a)および(b)を1回以上繰り返すこと;
前記第1、第2およびさらなるなめし浴は、界面活性剤を実質的に含まない。
【0027】
本説明および添付の請求項の目的のために、「含む」という動詞およびそれから派生する用語は、「からなる」および「から本質的になる」という動詞、ならびにそれらから派生する用語も含む。
【0028】
一般式(I)のジアルデヒドは、好ましくはグリオキサール、マロン酸ジアルデヒド、コハク酸ジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、アジピン酸ジアルデヒドおよびピメリン酸ジアルデヒドまたはそれらの混合物から選択される脂肪族ジアルデヒドである。好ましくは、一般式(I)のジアルデヒドは、グルタルジアルデヒドである。
【0029】
なめし浴は、一般式(I)の1つ以上のジアルデヒドを含み得る。
【0030】
なめし浴中の一般式(I)のジアルデヒドの総量は、裸皮の重量を基準にして0.1重量%~30重量%、好ましくは0.5重量%~15重量%である。
【0031】
本発明および添付の特許請求の範囲の目的において、表現「裸皮」は、本発明によるアルデヒドなめし剤を用いた最初の処理(ステップa)にかけられる状態の皮を示す。
【0032】
なめし浴は、一般式(I)のジアルデヒドとは異なる補助なめし剤も含むことができる。存在する場合、補助なめし剤の総濃度は、好ましくは、裸皮の重量を基準にして30重量%以下である。好ましくは、補助なめし剤は、クロムなめし剤を含まない。好ましくは、補助なめし剤は、なめし浴に添加されない。
【0033】
本発明によれば、なめし浴は、非イオン性界面活性剤を実質的に含まない。本説明および添付の特許請求の範囲の目的において、表現「界面活性剤を実質的に含まない」は、界面活性剤が裸皮の重量に対して0.05重量%未満の総量で存在することを示す。
【0034】
しかしながら、例えば、比較的高い脂肪含有量を有する皮が処理される場合、なめし浴はまた、1つ以上の追加の界面活性剤を含むことができる。界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、非イオン性および両親媒性であり得る。好ましくは、存在する任意の界面活性剤は、例えば国際公開第2017/009786号に記載されている界面活性剤などの非イオン性界面活性剤である。
【0035】
好ましくは、界面活性剤は、なめし浴に添加されない。
【0036】
なめし浴は、好ましくは3~10ボーメ度の範囲の密度を有する。浴の密度は、アルカリの塩およびアルカリ土類金属の塩、特に塩化ナトリウムの添加によって調整できる。
【0037】
なめし浴での処理は、好ましくは1~7時間、より好ましくは1.5~5時間の持続時間を有する。
【0038】
なめし浴の温度は、好ましくは10~50℃、より好ましくは15~40℃である。
【0039】
使用されるなめし浴の量は、処理される皮の特性に関連して広い範囲で変わり得る。
【0040】
好ましくは、なめし浴と動物の皮との百分率で表した重量比は、20%~1000%、より好ましくは50%~600%である(裸皮の重量に対する重量パーセント)。
【0041】
処理の開始時に、なめし浴は、好ましくは1~4、より好ましくは1.5~3.5のpHを有する。
【0042】
本発明によれば、アルデヒドなめし剤を用いた処理の終わりに(ステップa)、なめし浴のpHは、5より高く8未満の値にされ(ステップb);好ましくは、pHは、5.5以上7.5以下の値にされ;特に好ましい実施形態では、pHは、6以上7以下の値にされる。
【0043】
なめし浴のpHを前述の範囲の値に上げることによって、アルデヒドなめし剤を実質的に恒久的な方法で皮に固定することが可能になる。以下、ステップbの浴のpHの値を「固定pH」とも呼ぶ。
【0044】
なめし浴のpHは、固定値まで、当業者に知られている方法で、例えば、炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウム、酸化マグネシウムなどのアルカリ炭酸塩およびアルカリ酸化物をなめし浴に加えることによって、上げることができる。
【0045】
好ましくは、皮は、0.5時間~5時間、より好ましくは1時間~3時間の時間、固定pHの浴中に維持される。
【0046】
なめし剤を皮に固定した後(ステップb)、皮は、上記のステップaおよびbを含む少なくとも2回目の処理サイクルにかけられる。第2の処理サイクルを達成するために、例えば、使用済みの第1のなめし浴を、上述の第1のなめし浴の初期特性を有する新しい第2のなめし浴と交換することができる。次に、第2のなめし浴でのアルデヒドなめし剤を用いた処理の後に、pHを固定pH値まで上げる。第2の処理サイクルのステップaおよびbは、第1の処理サイクルを参照して例示した同じ手順で実行される。
【0047】
第2の処理サイクルによって、動物の皮のコラーゲンのポリペプチド鎖の架橋が完了し、最大収縮温度Tcに実質的に達する。本発明によるなめし処理後の皮のTcは、主に、皮のタイプおよび使用される具体的なアルデヒドなめし剤によって異なる。典型的には、第2の処理サイクルの後、なめした皮のTcは、通常、85℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは85℃~95℃である。
【0048】
本発明によれば、任意に、第2の処理サイクルを出る皮は、上記のステップaおよびbを含む1つ以上の追加の処理サイクルを受け得る。有利には、特定の数の処理サイクル(例えば、1または2サイクル)後にTcが十分に高くない場合、追加の処理サイクルを実施することができる。
【0049】
一般に、第3のサイクルに続く処理サイクルは、Tcおよびなめした皮の他の特性の著しい改善につながらないことが観察されている。
【0050】
任意の処理サイクルで使用されるなめし浴は、第1のなめし浴と同じ初期化学組成を有し、同じ方法で使用される。任意の処理サイクルのステップaおよびbは、第1および第2の処理サイクルを参照して説明したのと同じ手順で実行される。
【0051】
処理サイクルの終わりに、例えば、処理中に皮に付着した残留物または不純物を除去する目的で、皮を任意に水で洗浄することができる。
【0052】
好ましくは、洗浄は、20~60℃、より好ましくは30~50℃の温度の水浴で実施される。洗浄は、1回または数回行うことができる。各洗浄ステップは、0.5~4時間の範囲の期間を有し得る。
【0053】
本発明によるなめし方法は、異なる動物起源の皮に適用することができる。皮は、好ましくは、ウシ皮、ヒツジ皮、ヤギ皮および爬虫類皮(例えば、ワニ、ヘビ)から選択される。
【0054】
好ましい実施形態では、動物の皮は、ウシの皮であり、より好ましくは子牛または若い子牛の皮である。
【0055】
本発明によるなめし方法で処理される皮は、無毛の皮であり、なめしの準備ができている。この目的のために、皮は、当業者に知られているプロセスに従って調製することができ、それらを、例えば、水漬け、裏打ち、脱毛、石灰漬け、すき、脱灰、ベイティング、ピックリングおよび脱脂などのビームハウス操作にかけることができる。
【0056】
好ましい実施形態によれば、本発明によるなめし処理を受ける皮は、皮のpHを、例えば4未満、好ましくは1~3の値にするために、ピックリング処理に予めかけることができる。
【0057】
ピックリングステップは、当技術分野で知られている技術に従って達成することができる。例えば、硫酸水溶液あるいはギ酸と混合した硫酸水溶液を含むピックリング浴に皮を接触させて配置して、ピックリングを行うことができる。必要に応じて、例えば、pHが2未満になるまで皮をピックリングする場合、ピックリング浴は、塩類(例えば、塩化ナトリウム)を含んで溶液の密度を高め、皮の膨潤を防ぐことができる。通常、ピックリング浴は、3~15ボーメ度の密度を有する。
【0058】
しかしながら、本発明による方法で処理された皮は、実質的に完全になめされるため、本発明による方法は、好ましくは、非アルデヒドなめし剤、特にクロムを含むなめし剤を用いた、プレなめし、なめしまたは再なめしのステップを含まない。
【0059】
第2または追加の処理サイクルの終わりに、なめされ、任意に洗浄された皮は、おそらく加脂または染色のステップなどの1つ以上の後続の仕上げステップにかけられ得る。
【0060】
加脂ステップは、先行技術に従って実施することができる。例えば、加脂ステップは、少なくとも1つのグリースおよび/または1つの加脂剤(例えば、硫酸化油)および場合により1つ以上の界面活性剤を含む水浴になめした皮を置くことにより実施できる。好ましくは、加脂は、20℃~60℃、より好ましくは30℃~50℃の温度で実施される。
【0061】
加脂処理は、好ましくは0.5~4時間の持続時間を有する。
【0062】
好ましくは、加脂処理の最後に、加脂液を皮に固定するために、浴のpHが3~6の範囲の値に低下するまで、加脂浴にギ酸が添加される。
【0063】
本発明によるなめし方法は、当業者に知られている技術および装置を使用して実行することができる。例えば、処理される皮は、ドラム内のなめし浴のアルデヒドなめし剤と接触するように配置することができる。
【0064】
以下の実施形態の例は、単に本発明を説明するために提供されるものであり、添付の特許請求の範囲によって定められる保護の範囲を制限する意味で解釈されるべきではない。
【0065】
以下の例では、以下を説明する添付の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1図1は、本発明によるなめし方法を用いて得られた第1の皮革の表面の写真画像である。
図2図2は、本発明によるなめし方法を用いて得られた第2の皮革の表面の写真画像である。
図3図3は、従来のクロムなめし法で得られた皮革の表面の写真画像である。
【実施例
【0067】
・例1
重量範囲11~13のバッチに含まれる第1のオランダ産の子牛の生皮(漬物)に、本発明の方法に従ってなめし処理を施した。
【0068】
第1のなめし浴の組成は、次のとおりである(処理される皮の裸皮の重量に対する重量パーセント):
・水、
・1.5%のグルタルアルデヒド、
・pH=3
・9ボーメ度(塩化ナトリウムの添加による)。
【0069】
皮を、25℃、ドラム内で4時間、なめし浴で処理した(ステップa)。なめし浴の水の重量と裸皮の重量との百分率比は、400%であった。
【0070】
処理の最後に、浴のpHが約6.5の値に調整されるまで、炭酸ナトリウムを浴に加えた。アルデヒドなめし剤を固定するために、皮を前述のpHの浴に1.5時間維持した(ステップb)。
【0071】
前述のステップaおよびb(第1の処理サイクル)の終わりに、使用済みの第1のなめし浴をドラムから取り外し、第1のなめし浴と同じ組成を有する第2のなめし浴と交換した。第2のなめし浴を、処理した皮の裸皮の重量に対して同じ重量比で使用した。次に、上記のステップaおよびbを1回繰り返した(2回目の処理サイクル)。
【0072】
第2の処理サイクルの終わりに、なめした皮は次の特徴を有していた。
・Tc=90℃、
・厚さ1.7mm、
・約2.2ft/kgに等しいプロセスの面積歩留まり。
【0073】
図1に示すように、皮革の銀面側には目に見える表面的な欠陥はほとんどなかった。
【0074】
・例2
例1の皮と同じバッチに含まれる第2のオランダ産の子牛の生皮に、例1で記載したのと同じなめし処理を施した。この第2の皮について、例1で観察したプロセスのTc、皮の厚さおよび面積歩留まりの同じ結果が得られた。これは、先の発明によるプロセスの結果の再現性を実証している。
【0075】
図2に示すように、皮革の銀面側には目に見える表面欠陥がほとんどなかった。
【0076】
・例3
比較のために、実施例1で使用したオランダ産の子牛の生皮に、従来のクロムなめし処理を施した。
【0077】
クロムなめし皮は、次の特徴を有していた:
・Tc=100℃、
・厚さ1.3mm
・約1.9ft/kgに等しいプロセスの面積歩留まり。
【0078】
図3に示すように、皮革の銀面側には、例1および2の皮革よりも、多くの目に見える表面欠陥があった。
【0079】
本発明による方法で得られた皮革の厚さ(例1および2)は、同じ生皮に従来のクロムなめしプロセスを施して得られた皮革の厚さよりも約30%大きい。
【0080】
さらに、本発明による方法で処理された生皮の面積歩留まりは、クロムなめし法の面積歩留まりよりも約15%高い。
図1
図2
図3