(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】保守支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/20 20230101AFI20240328BHJP
G06Q 10/087 20230101ALI20240328BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20240328BHJP
G16Y 10/30 20200101ALI20240328BHJP
G16Y 20/20 20200101ALI20240328BHJP
【FI】
G06Q10/20
G06Q10/087
G05B19/418 Z
G16Y10/30
G16Y20/20
(21)【出願番号】P 2021002368
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】馮 益祥
(72)【発明者】
【氏名】新谷 寛
【審査官】岡北 有平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-21627(JP,A)
【文献】特開2004-110709(JP,A)
【文献】特開2007-219573(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061604(WO,A1)
【文献】特開2012-104058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
G05B 19/418
G16Y 10/30
G16Y 20/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理対象機械の保守要求を通知するアラームを所定の出力装置に出力する保守支援システムにおいて、
前記管理対象機械の稼働データを集積した稼働データデータベースと、
前記管理対象機械の故障項目毎に保守に用いる必要品及びその数量を規定した必要品データベースと、
前記管理対象機械の健全性を評価するために演算した評価値に基づき異常判定がされてから実際に故障が発生するまでの期間について過去のデータを集積した故障事例データベースと、
前記必要品毎に在庫数量のデータを集積した部品在庫データベースと、
前記アラームを生成して前記出力装置に出力する処理装置とを備え、
前記処理装置は、
前記稼働データデータベースに基づき前記評価値を演算し、
前記評価値に基づき前記管理対象機械が正常であるか異常であるかを判定し、
前記管理対象機械について異常判定がされた場合、発生が予想される故障項目に関し、保守に用いる必要品及びその数量を前記必要品データベースに基づき推定し、
前記異常判定の基礎とした前記評価値と前記故障事例データベースとに基づき、前記予想される故障項目について故障発生までの猶予期間を推定し、
前記必要品の調達に要する調達期間を前記部品在庫データベースから推定し、
前記猶予期間から前記調達期間を減算した値が予め設定された設定値以下である場合に、前記予想される故障項目、前記必要品の情報を含め、前記保守要求を通知するアラームを前記出力装置に出力する
ことを特徴とする保守支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の保守支援システムにおいて、前記処理装置は、前記稼働データにより規定される特徴量ベクトルに基づき前記評価値を演算することを特徴とする保守支援システム。
【請求項3】
請求項1に記載の保守支援システムにおいて、
前記必要品毎に仕入先の所在地と運送手段のデータを集積した運送手段データベースと、
前記必要品の生産計画及び入荷計画を集積した部品生産データベースとを有し、
前記処理装置は、
前記部品在庫データベース及び前記部品生産データベースに基づき前記必要品について在庫数量の推移を推定し、
前記運送手段データベースに基づき前記必要品の運送に要する運送期間を演算し、
前記在庫数量の推移及び前記運送期間に基づき前記必要品を発注してから指定場所に前記必要品が到着するまでの期間を前記調達期間として演算する
ことを特徴とする保守支援システム。
【請求項4】
請求項3に記載の保守支援システムにおいて、前記処理装置は、前記必要品の発注を想定した日に前記必要品の在庫がないと推定される場合、前記部品生産データベースに基づき前記必要品の生産期間を演算し、前記運送期間に前記生産期間を加算して前記調達期間を演算することを特徴とする保守支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械(油圧ショベル等)や発電設備(風力発電設備等)といった長時間稼働する機械やその部品を管理対象機械とし、この管理対象機械の保守が必要な場合に通知し保守の支援を行う保守支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械のように連続して長時間稼働する機械においては、顧客(機械のオーナー、ユーザー、代理店、営業所等)の収益が増すように稼働率の向上が要求される。この要求に応えるためには、機械の稼働不能な期間を極力短縮することが重要である。具体的には、機械が故障する前に部品交換を早めに実施したり、仮に機械が故障しても迅速に修理できるようにしたりすることが重要である。そのために有効な一手段として、機械の状態を常時監視し、機械の保守要求を適切に所定の通知対象者(保守担当者、保守担当部署等)に通知するシステムが挙げられる。この分野の技術として、稼働データから監視対象の機械の健全性指標を算出し、健全な状態の機械で得た健全状態値から健全性指標が逸脱した場合にアラームを出力する例が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した特許文献1の技術を適用することで、稼働データから算出した健全性指標に基づき所定の通知対象者に機械の保守要求を通知し、保守に用いる必要品の手配を促すことができる。
【0005】
しかし、部品によって仕入先や在庫状況は異なり、部品の調達に要する期間は不定である。特に建設機械のように構造が複雑な機械は、構成部品の数が膨大であり、部品の仕入先や在庫状況等も多様である。そのため、単純に機械の稼働データに基づき保守を要求するだけでは、部品調達に予定外の長期間を要し、保守作業の予定時期に必要品の入手が間に合わない恐れがある。この場合、機械の稼働不能な期間が長期化し、機械の稼働率低下により顧客の運営コストの増加につながる可能性がある。
【0006】
他方、部品調達に想定される期間を一様に長く見積もり、余裕をもって必要品を手配できるようにすることも考えられる。しかし、そのためには機械の健全性が早期に判定されるようにする必要がある。この場合、判定の基礎となる稼働データのサンプリング量が不十分な状態でアラームが送信される傾向が強まる可能性がある。その結果として、機械が現実には正常であるにも関わらず誤って異常であると判定され、本来必要のない部品交換や部品発注が行われることで、やはり顧客の運営コストの増加につながる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、部品調達に要する期間を加味して適正なタイミングで機械の保守要求を所定の通知対象者に通知し、機械の稼働不能な期間を効果的に短縮すると共に、不要な部品交換作業を減らすことができる保守支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、管理対象機械の保守要求を通知するアラームを所定の出力装置に出力する保守支援システムにおいて、前記管理対象機械の稼働データを集積した稼働データデータベースと、前記管理対象機械の故障項目毎に保守に用いる必要品及びその数量を規定した必要品データベースと、前記管理対象機械の健全性を評価するために演算した評価値に基づき異常判定がされてから実際に故障が発生するまでの期間について過去のデータを集積した故障事例データベースと、前記必要品毎に在庫数量のデータを集積した部品在庫データベースと、前記アラームを生成して前記出力装置に出力する処理装置とを備え、前記処理装置は、前記稼働データデータベースに基づき前記評価値を演算し、前記評価値に基づき前記管理対象機械が正常であるか異常であるかを判定し、前記管理対象機械について異常判定がされた場合、発生が予想される故障項目に関し、保守に用いる必要品及びその数量を前記必要品データベースに基づき推定し、前記異常判定の基礎とした前記評価値と前記故障事例データベースとに基づき、前記予想される故障項目について故障発生までの猶予期間を推定し、前記必要品の調達に要する調達期間を前記部品在庫データベースから推定し、前記猶予期間から前記調達期間を減算した値が予め設定された設定値以下である場合に、前記予想される故障項目、前記必要品の情報を含め、前記保守要求を通知するアラームを前記出力装置に出力する保守支援システムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部品調達に要する期間を加味して適正なタイミングで機械の保守要求を通知し、機械の稼働不能な期間を効果的に短縮すると共に、不要な部品交換作業を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る保守支援システムを適用する管理対象機械の一例として油圧ショベルの外観を表す斜視図
【
図2】本発明の一実施形態に係る保守支援システムの模式図
【
図3】本発明の一実施形態に係る保守支援システムに備わった各種データベースの模式図
【
図4】本発明の一実施形態に係る保守支援システムに用いられる故障事例データベースの模式図
【
図5】本発明の一実施形態に係る保守支援システムに用いられる必要品データベースの模式図
【
図6】本発明の一実施形態に係る保守支援システムを構成する処理装置のブロック図
【
図8】本発明の一実施形態に係る保守支援システムを構成する処理装置による在庫推定の処理における出力結果の一例を表す図
【
図9】本発明の一実施形態に係る保守支援システムを構成する処理装置による調達時間予測の手順の一例を表すフローチャート
【
図10】本発明の一実施形態に係る保守支援システムを構成する処理装置による調達時間予測の処理における出力結果の一例を表す図
【
図12】本発明の一実施形態に係る保守支援システムを構成する処理装置によるアラーム通知の一例を表す図
【
図13】本発明の一実施形態に係る保守支援システムを構成する処理装置によるアラーム通知までの一連の手順の一例を概略的に表すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
-管理対象機械-
図1は本発明の一実施形態に係る保守支援システムを適用する管理対象機械の一例として油圧ショベルの外観を表す斜視図である。以下の説明において、運転室14の前方(
図1中の左上側)を油圧ショベルの旋回体の前方とする。本実施形態では油圧ショベルを本発明の保守支援システムの管理対象機械の例に挙げて説明するが、例えばダンプトラック等の他の建設機械や風力発電機等の他分野の機械の保守支援にも本発明の保守支援システムは適用され得る。
【0013】
同図に示した油圧ショベル1は、車体10及び作業装置20を備えている。車体10は、走行体11及び旋回体12を備えている。
【0014】
走行体11は、本実施形態では無限軌道履帯を有する左右のクローラ(走行装置)13を備えており、左右の走行モータ(不図示)により左右のクローラ13をそれぞれ駆動することで走行する。走行モータには例えば油圧モータが用いられる。
【0015】
旋回体12は、走行体11の上部に旋回装置(不図示)を介して旋回可能に設けられている。旋回体12の前部(本実施形態では前部左側)には、オペレータが搭乗する運転室14が設けられている。旋回体12における運転室14の後側にはエンジンや油圧システム等を収容した動力室15が、後端には作業装置20との重量のバランスをとるカウンタウェイト16が搭載されている。旋回体12を走行体11に対して連結する旋回装置には旋回モータ(不図示)が含まれており、旋回モータによって走行体11に対して旋回体12が旋回駆動される。旋回モータ34には例えば油圧モータが用いられる。運転室14には、運転席から視認し易い位置にモニタ(出力装置)が設けられており、このモニタ等によって運転席に座るオペレータに各種情報を報知できるように構成されている。
【0016】
作業装置20は土砂の掘削等の作業を行うための多関節型の作業腕であり、旋回体12の前部(本実施形態では運転室14の右側)に取り付けられている。この作業装置20は、ブーム21、アーム22及びバケット23を含んで構成されている。ブーム21は、左右に延びるピン(不図示)によって旋回フレームと呼ばれる旋回体12のベースフレームに連結され、ブームシリンダ31で駆動されて旋回体12に対して上下に回動する。ブームシリンダ31の両端は、左右に延びるピン(不図示)を介してブーム21及び旋回体12に回動自在に連結されている。アーム22は、左右に延びるピン(不図示)によってブーム21の先端に連結され、アームシリンダ32で駆動されてブーム21に対して前後に回動する。アームシリンダ32の両端は、左右に延びるピン(不図示)を介してアーム22及びブーム21に回動自在に連結されている。バケット23は、水平左右に延びるピン(不図示)によってアーム22の先端に連結され、バケットシリンダ33で駆動されてアーム22に対して回動する。バケットシリンダ33の基端はアーム22に、先端はリンクを介してバケットに連結されている。
【0017】
また、油圧ショベル1には、動作中の各種状態量を検出する複数のセンサが適所に設けられている。センサの例として、ブーム21、アーム22及びバケット23の各回動支点にそれぞれ角度センサS1(不図示),S2,S3が設けられている。旋回体12に対するブーム21の角度が角度センサS1により、ブーム21に対するアーム22の角度が角度センサS2により、アーム22に対するバケット23の回動角が角度センサS3によりそれぞれ検出される。また、油圧ショベル1には、傾斜センサ(不図示)、圧力センサ(不図示)が備わっている。傾斜センサは、旋回体12の前後方向及び左右方向の少なくとも一方の傾斜を検出する。圧力センサは、ブームシリンダ31、アームシリンダ32及びバケットシリンダ33の各油室に対応して複数設けられている。ブームシリンダ31のボトム側及びロッド側の油室の圧力、アームシリンダ32のボトム側及びロッド側の油室の圧力、バケットシリンダ33の油室のボトム側及びロッド側の圧力が、それぞれ対応する圧力センサで検出される。その他にも、油圧ショベル1に搭載された発電機の発電量を計測する電力計、原動機の回転数を計測する回転数センサ、冷却水や作動油の温度を計測する温度計、機体振動を計測する加速度計等、様々なセンサが油圧ショベル1には設けられている。バッテリーの充電残量を出力する回路も一種のセンサである。
【0018】
これらセンサの検出値は、油圧ショベル1に搭載された車載コントローラ(不図示)に入力され、車載コントローラから通信回線を経由して、油圧ショベル1の稼働データとして、油圧ショベル1の機体IDや計測時刻と共に後述する処理装置100に送信される。また、本実施形態の場合、タイマで計時した原動機の稼働時間や各種操作時間のデータや、油圧ショベル1に搭載されたGNSSによる機体の位置データ等も、稼働データとしてセンサの出力と共に車載コントローラから処理装置100に送信する。
【0019】
-保守支援システム-
図2は本発明の一実施形態に係る保守支援システムの模式図である。同図の保守支援システムは、油圧ショベル1(管理対象機械)の保守要求を通知するアラームを所定の出力装置300に出力し、所定の通知対象者(保守担当者、保守担当部署等)にアラームを通知することにより油圧ショベル1の保守を支援するシステムである。
【0020】
この保守支援システムは、処理装置100、サーバ200及び出力装置300を含んで構成されている。同図には、LAN(Local Area Network)或いはインターネットといったネットワークNWを介し、処理装置100、サーバ200及び出力装置300を接続した構成を例示している。但し、こうしたシステム構成は適宜変更可能であり、例えば処理装置100と出力装置300とを有線又は無線で接続した構成とする場合もある。処理装置100としてのコンピュータに出力装置300としてのモニタを接続した構成が、その一例である。また、サーバ200を省略し、後述する各データベース(以下、データベースをDBと略称する)を処理装置100の記憶装置に記憶させた構成とすることもできる。以下、出力装置300、サーバ200、処理装置100について順次説明する。
【0021】
-出力装置-
出力装置300は、油圧ショベル1の保守を要求するアラームを出力して所定の通知対象者に保守要求を通知する装置であり、例えば表示出力装置や音声出力装置等を用いることができる。表示出力装置の典型例は、モニタやランプ等であり、処理装置100から入力される指令信号に応じて表示(例えばテキストメッセージ)で所定の通知対象者にアラームを通知する。音声出力装置の典型例は、スピーカーやブザー等であり、処理装置100から入力される指令信号に応じて音声(例えばメッセージの読み上げ)で所定の通知対象者にアラームを通知する。出力装置300は、典型的には、通知対象者が在籍又は所在する施設(例えば管理事務所やサービス営業所)に設置されている、又は所定の通知担当者(人)が携帯している。油圧ショベル1のオペレータを通知対象者とする場合、運転室14の内部に設けられた表示出力装置や音声出力装置等を出力装置300に適用することもできる。
【0022】
-サーバ-
サーバ200は所定場所に設置されてネットワークNWに接続されたコンピュータであり、各種DBを記憶した記憶装置(メモリ)210を含んで構成されている。各種DBは、1つの記憶装置210に記憶する構成とすることもできるし、複数の記憶装置210で分担して記憶する構成とすることもできる。記憶装置210は、サーバ200に内蔵された内部メモリでも良いし、サーバ200に有線又は無線で接続された外部メモリでも良い。前述したように、サーバ200を省略し、処理装置100に内蔵された記憶装置又は処理装置100に接続した記憶装置に各種DBを格納する構成とすることもできる。
【0023】
図3は本発明の一実施形態に係る保守支援システムに備わった各種DBの模式図である。記憶装置210には、稼働データDB211、故障事例DB212、部品生産DB213、運送手段DB214、管理者DB215、アラーム対応DB216、必要品DB217、保守計画DB218、部品在庫DB219が格納されている。記憶装置210に記憶された各DBは、典型的にはリレーショナルデータベースである。
【0024】
・稼働データDB
稼働データDB211は、油圧ショベル1の稼働データのデータセットを集積したものである。油圧ショベル1の稼働データには、前述した各種センサの出力やバッテリー残量、各種計測時間、GNSSによる機体の位置データ、機体IDの他、位置データに基づく移動情報、機体の製造年月日、仕様等も含めることができる。油圧ショベル1には通信装置(不図示)が備わっており、油圧ショベル1の各種センサの出力や各種計測時間、位置データ等は、例えば、衛星回線その他の通信網、基地局を適宜経由して処理装置100で受信される。処理装置100で受信したデータは、ネットワークNWを介してサーバ200に送信され、稼働データDB211に蓄積される。但し、油圧ショベル1からサーバ200への稼働データの伝達経路は適宜変更可能であり、例えば処理装置100を経由せずに基地局からサーバ200に油圧ショベル1の稼働データが送信される構成としても良い。稼働データは管理対象機械のID毎に集積され、油圧ショベル1についての稼働データは他の管理対象機械の稼働データと識別可能である。
【0025】
・故障事例DB
故障事例DB212は、油圧ショベル1の健全性を評価するための評価値a(後述)を演算し、評価値aに基づき異常判定がされてから実際に故障が発生するまでの期間について過去のデータを集積したものである。故障事例DB212には、油圧ショベル1(特定IDの機体)の過去の故障事例に限らず、油圧ショベル1と同一型式の多数の機体の他、保守支援システムが管理対象とする他種の管理対象機械の過去の故障事例が含まれる。
【0026】
図4に示すように、故障事例DB212には、事例No、故障項目、機体ID、異常検知日、評価値、故障発生日、使用品目等のデータセットが集積されている。事例Noは、過去の故障事例にそれぞれ与えられた固有の番号である。故障項目は、例えばバッテリーの劣化、ツース(バケットの歯)の損傷といった故障の内容を表すものである。機体IDは、その故障事例における機体のIDである。機体IDで機種が特定されない場合には、機種のデータも故障事例DB212に含めることができる。異常検知日は、評価値aに基づき油圧ショベル1の異常が検知された日付である。評価値は、異常検知日に異常判定の基礎となった値である。故障発生日は、その故障事例について油圧ショベル1が実際に故障した日付である。使用品目は、その故障事例において故障の修理に使用した一又は複数の交換部品、手配した工具や設備等の情報である。本実施形態において、異常判定がされてから実際に故障が発生するまでの期間は、異常検知日から故障発生日までの期間(日数)に相当し、異常検知日と故障発生日で表現した場合を例示している。
【0027】
・部品生産DB
部品生産DB213は、部品の各仕入先(倉庫等)が取り扱う部品の生産計画や入荷計画、出荷計画についてのデータベースである。各仕入先の管理者は、部品の生産者(製造元)との間で部品の生産計画の情報を共有(例えばファイル共有)しており、生産者と共有する部品の生産計画のデータが、仕入先の管理者により部品生産DB213に登録される。部品の入荷計画や出荷計画についても、仕入先の管理者により部品生産DB213に登録される。但し、部品生産DB213にデータを登録する者は任意であり、例えば、仕入先の管理者から提供された部品の生産計画や入出荷計画のデータを油圧ショベル1の保守担当者が部品生産DB213に登録するようにしても良い。また、仕入先の管理者からネットワークNWを介して提供された部品の生産計画や入出荷計画のデータが、一定時間毎に処理装置100又はサーバ200にダウンロードされて部品生産DB213が自動更新されるようにしても良い。
【0028】
・運送手段DB
運送手段DB214は、必要品毎に仕入先の所在地と運送手段のデータを集積したものである。この運送手段DB214には、油圧ショベル1の保守のために手配すべき必要品の仕入先の所在地、運送手段、運送に要する運送時間等のデータセットが含まれる。油圧ショベル1の保守のために手配すべき必要品には、油圧ショベル1に組み込む部品の他、保守に用いる工具や設備を含めることができる。保守に用いる工具や設備には、必要時に一時的に手配して使用するレンタル品を含めることもできる。運送手段としては、過去の必要品の調達実績又は運送会社から提供される情報に基づき、例えばα社の空運、β社の空運、γ社の海運、δ社の陸運といった情報が手動又は自動で登録される。運送時間も過去の調達実績から手動入力により設定することができる。但し、運送手段に運航又は運行のスケジュールのデータがネットワークNWを介して提供される場合には、ダウンロードしたスケジュールに基づき運送時間が自動で設定されるようにしても良い。
【0029】
・管理者DB
管理者DB215は、油圧ショベル1の管理者(営業所、代理店)、管理者の所在地、利用する運送手段、過去の必要品調達履歴等のデータセットを集積したものである。管理者は、例えば油圧ショベル1の保守を請け負う営業所や代理店等である。管理者の所在地は、必要品の届け先に相当し、管理者そのものの所在地の他、管理者が油圧ショベル1の保守作業をする場所の所在地を設定することもできる。利用する運送手段は、管理者が利用する傾向が強い運送手段である。例えば必要品の調達履歴から、ある営業所が部品調達にδ社の陸運を利用することが想定される場合、その営業所が利用する運送手段としてδ社の陸運が登録される。必要品の調達履歴において使用する運送手段が変化した場合には、利用する運送手段が自動更新される(又は手動選択のために運送手段の選択肢が増える)ようにシステムを構成することが好ましい。
【0030】
・アラーム対応DB
アラーム対応DB216は、保守支援システムから通知されたアラームについて、油圧ショベル1の保守担当者が行った対応のデータを集積したものである。このアラーム対応DB216には、油圧ショベル1の保守担当者が保守に用いる必要品を発注した日付、発注した品目とその数量、油圧ショベル1が行った保守(メンテナンス)の開始日時及び終了日時等のデータセットが含まれる。
【0031】
・必要品DB
必要品DB217は、油圧ショベル1の故障項目毎に保守に用いる必要品及びその数量を規定したものである。必要品DB217には、
図5に示したように、機種、故障項目、必要品No、品目、数量等のデータセットが含まれる。機種は、管理対象機械の型式等、機種を特定するためのデータである。故障項目は、故障事例DB212(
図4)と同様、例えばバッテリーの劣化といった故障の内容を表すものである。必要品Noは、故障項目について保守に用いる各必要品に与えられた識別番号である。必要品は、1つの故障項目に対して1つであるとは限らず、複数の品目のリストが登録される場合もある。品目は、例えば圧力センサ、リング、ネジといった各必要品の名称である。数量は、各必要品の必要数量である。必要品や数量は、過去の故障事例の対応や経験則、知識等に基づき保守担当者が手動で設定することができる。また、例えば、処理装置100において故障事例DB212及びアラーム対応DB216の少なくとも一方を統計し、必要品DB217の必要品(必要品No、品目)や数量のデータが自動的に設定或いは更新されるようにしても良い。この場合、故障事例DB212又はアラーム対応DB216のデータ集積量が十分であることが望ましく、データ集積量が設定値を超えた場合に処理が実行されるようにすることが考えられる。
【0032】
・保守計画DB
保守計画DB218は、保守計画及び保守に用いられる品目のリスト等について管理対象機械の機体毎(機体ID毎)にデータを集めたものである。この保守計画DB218には、例えば、管理対象機械、保守対象部位、保守の開始予定日、保守の完了予定日、必要品のリスト等のデータセットが含まれる。管理対象機械は、保守対象の機体であり、例えば機体IDで表すことができる。保守対象部位は、例えばバッテリー、ブームシリンダといった管理対象とする機体の保守対象の部位である。必要品のリストは、保守対象部位の保守に必要な必要品及びその数量のリストである。
【0033】
・部品在庫DB
部品在庫DB219は、必要品毎に在庫数量のデータを集積したものである。この部品在庫DB219には、必要品、仕入先、必要品の属性(必要品No、品目、重量、価格等)、在庫数量、販売実績等のデータセットが含まれる。仕入先は、必要品の取り扱い倉庫、必要品の発注先等である。必要品Noは、必要品に与えられた識別番号である。品目は、例えば圧力センサ、リング、ネジといった必要品の名称である。重量は、その必要品の重量である。価格は、必要品のその仕入先における販売価格である。在庫数量は、必要品のその仕入先における現在の在庫数量である。販売実績は、必要品のその仕入先における過去の販売実績である。
【0034】
-処理装置-
図6は処理装置100のブロック図である。処理装置100は、アラームを生成して出力装置300に出力するコンピュータであり、入出力インターフェース101、ROM(例えばEPROM)102、RAM103、CPU104、及びタイマ105が備わっている。処理装置100は、単数のコンピュータで構成しても良いが、有線、無線又はネットワークNWを介して互いに接続した複数のコンピュータで構成しても良い。
【0035】
入出力インターフェース101は、ネットワークNWを介して油圧ショベル1やサーバ200、出力装置300との間で授受するデータを入力及び出力する。例えば、ネットワークNWを介して受信した油圧ショベル1の稼働データやサーバ200から読み込んだ各種データが、入出力インターフェース101を介して処理装置100に入力される。また、処理装置100で生成又は演算されたアラームその他のデータが、出力インターフェース101を介して出力され、適宜ネットワークNWを介して出力装置300、サーバ200或いは油圧ショベル1に送信される。
【0036】
ROM102は、各種判定やアラームの生成に必要な演算式やプログラム、データを格納した記憶装置である。例えば後述する状態分析P1から対応記録P7の各処理のプログラムや特徴ベクトルによる故障項目の分類の学習モデル等も、このROM102に格納されている。
【0037】
CPU104は、ROM102からロードしたプログラム等に従って、入出力インターフェース101を介して入力された各データに基づき所定の処理を実行する装置である。
【0038】
RAM103は、演算途中のデータ等を一時的に記憶する記憶装置である。このRAM103には、例えば、各処理の過程で演算されるデータ等が一時記録される。
【0039】
タイマ105は、各種時間を計時する。
【0040】
-処理装置の機能-
処理装置100は、先に
図2に模式的に表したように、状態分析P1、必要品推定P2、在庫推定P3、調達時間予測P4、アラーム通知時期判定P5、アラーム送信P6、対応記録P7の各処理を実行する機能を備えている。これらの機能は、ROM102に格納されたプログラムに従ってCPU104により実行される。
【0041】
・状態分析
状態分析P1は、稼働データDB211に基づき油圧ショベル1について所定の評価値aを演算し、演算した評価値aに基づき油圧ショベル1が正常であるか異常であるかを判定する処理である。評価値aは、管理対象機械の健全性を評価するために定義された値である。例えば、稼働データにより規定される特徴量ベクトルに基づき、処理装置100で評価値aを演算することができる。評価値aの演算には、典型的には、データマイニング、機械学習、余寿命診断等のアルゴリズムを用いることができる。例えば、故障項目は、複数種類の稼働データをパラメータとする特徴量空間(座標系)内の領域で分類することができる。この場合、特徴量空間内において、多様な稼働データで定義される特徴量ベクトル(特徴量空間における座標)と、ある故障項目Z1に分類された領域の代表点(例えば中心点)との距離が、故障項目Z1についての評価値aとして例示できる。例えば、この評価値aについて閾値ax,ay(ax<ay)を設定し、処理装置100において、a≦axであれば故障項目Z1に関し故障が推定され、ax<a≦ayであれば故障項目Z1に関し故障の兆候が推定される構成することができる。
【0042】
また、異常検知アルゴリズムを用いた状態分析P1の簡単な例を説明する。例えば油圧ショベル1の故障項目Z2について、油圧ショベル1が健全な状態であれば、油圧ショベル1の走行時間tとエンジン温度Teの間に、Te=C×tの関係が成立するとする(Cは定数)。この(Te=C×t)の関係を故障項目Z2の正常モデルと定義した場合に、tとTeで定義される特徴量ベクトルがこの正常モデルから許容値を超えて離れた場合に故障項目Z2について油圧ショベル1の異常が疑われる。この例における特徴量ベクトルは、t,Teで定義される座標系における座標に等しい。この場合、例えばマハラノビス・タグチ法という統計的アルゴリズムを用い、評価値aを次式で演算することができる。
a=(x-μ)2/σ2
ここで、xは特徴量ベクトル、μは特徴量の平均値、σは特徴量の分散である。
【0043】
図7はこの評価値aを用いた典型的な異常判定の例の説明図である。同図のように、評価値aについて閾値a1を設定し、評価値aが閾値a1より大きい場合(a>a1)は異常、評価値aが閾値a1以下である場合(a≦a1)は正常と判定することができる。この例では、評価値aと閾値a1を用い、学習モデルを次のような擬似コードで記述することができる。
IF a≧a1 THEN 油圧ショベルは異常である。
ELSE 油圧ショベルは正常である。
【0044】
以上、本実施形態では稼働データDB211に基づき評価値aを演算する例を説明した。但し、油圧ショベル1が稼働する現場の工事計画に関するデータ(予定される稼働時間、作業量等)や過去のメンテナンス履歴(各部品の使用年数等)を稼働データと共にパラメータに含めて評価値aを演算することもできる。
【0045】
・必要品推定
必要品推定P2は、油圧ショベル1について異常判定がされた場合、発生が予想される故障項目に関し、保守に用いる必要品及びその数量を必要品DB217に基づき推定する処理である。必要品の品目は故障項目により異なり、故障項目によっては1種類である場合もあるし、複数種類である場合もある。
【0046】
・在庫推定
在庫推定P3は、必要品推定P2の処理で推定される各必要品について、対応する仕入先の今後の在庫数量の推移を推定する処理である。処理装置100は、例えば部品生産DB213及び部品在庫DB219に基づき在庫推定P3の処理を実行する。例えば部品Aについての対応する仕入先のn日後における在庫数量の推定値Nnは、例えば次式のように推定できる。
Nn=N0+ΣNin-ΣNout
但し、N0は現在の在庫数量、ΣNinは今後n日間における部品Aの総入荷数(生産数を含む)の推定値、ΣNoutは今後n日間における部品Aの総出荷数の推定値である。N0は部品在庫DB219から特定でき、ΣNin,ΣNoutについては部品生産DB213から演算することができる。
【0047】
なお、この例では、部品生産DB213に基づきΣNoutを演算する例を説明したが、部品生産DB213と共に保守計画DBをパラメータに含めてΣNoutを演算することもできる。保守計画DBにより各管理対象機械の保守計画、必要品及びその数量が特定できるため、これらデータから推定される部品Aの需要予測をΣNoutの演算に加味することができる。
【0048】
図8は処理装置100による在庫推定P3の処理における出力結果の一例を表す図である。同図のように、本実施形態では、部品Aについて、1日後(i=1)、2日後(i=2)、…n日後(i=n)の在庫数量の推定値Nnが、在庫数量の推移として演算される。
【0049】
・調達時間予測
調達時間予測P4は、必要品推定P2で推定された必要品の調達に要する調達期間を部品在庫DB219から推定する処理である。部品在庫DB219には必要品の仕入先の所在地や在庫数量のデータが含まれるため、処理装置100は、これらデータに基づき必要品の調達期間を概算することができる。
【0050】
特に本実施形態において、前述したように在庫推定P3の処理が実施されるので、処理装置100により、推定した在庫推移を加味することでより正確に調達期間が推定演算される。具体的には、まず、運送手段DB214及び管理者DB215に基づき仕入先から指定場所への必要品の運送に要する運送期間を演算することができる。指定場所は、例えば油圧ショベル1の保守を実施する現場の資材搬入場所等、管理者DB215に登録された指定の必要品受け取り場所である。運送期間は、ルートに応じた運送手段の移動期間として演算することもできるが、過去のデータに基づき仕入先に発注してから指定場所に到着するまでに要した期間を設定しても良い。過去のデータが十分に蓄積されている場合は、ニューラルネットワーク等の機械学習アルゴリズムを用いて運送時間を推定するように処理装置100を構成することもできる。
【0051】
また、想定した発注日において仕入先に必要数量の必要品の在庫がない場合、調達期間は、必要品の生産に要すると予想される生産期間(例えば生産開始から出庫までの期間)を運送期間に加算して演算される。必要品の生産期間は、部品生産DB(例えば生産計画のデータ)に基づき処理装置100により演算される。
【0052】
例えば
図8において2日後の日付に発注することを仮定して演算される調達期間を例にとると、仮に2日後の在庫数量の推定値Nnが必要数量を満たしていれば運送期間に2日を加算した期間が調達期間として演算される。しかし、2日後の在庫数量の推定値Nnが必要数量に満たず、生産又は入荷により必要数量が確保されるのが20日後であると予想される場合、調達期間は運送期間に20日を加算した期間となる。
【0053】
図9は処理装置100による調達時間予測P4の手順の一例を表すフローチャートである。処理装置100は、設定期間(例えば1日)毎に自動的に又はオペレータの操作に応じた任意のタイミングで、
図9のフローチャートを実行する。
【0054】
(ステップS41)
処理装置100は、
図9の手順を開始すると、必要品推定P2の処理で推定された必要品について、在庫推定P3の演算結果から、該当する仕入先の所定の発注日における在庫の推定数量のデータを確認する。所定の発注日とは、必要品の発注を仮定した日付(又は日時)である。所定の発注日の一例として、例えば現在の日付から設定期間後の日付を挙げることができる。設定期間は、例えばアラーム(後述)を通知してから油圧ショベル1の保守担当者等がアラームの確認及び検討をして必要品を決定し発注するのに要する所要期間を考慮して任意に設定することができる。また、アラーム通知後発注までの過去のデータを機械学習し、自動的に設定期間が設定されるようにしても良い。
【0055】
(ステップS42)
次に、処理装置100は、所定の発注日における必要品の在庫の推定数量のデータに基づき、所定の発注日に必要数量の必要品が仕入先にあるかを判定する。所定の発注日において仕入先に必要数量の必要品の在庫がない場合、処理装置100はステップS42からステップS43に手順を移す。所定の発注日において仕入先に必要数量の必要品の在庫がある場合、処理装置100はステップS43をバイパスしてステップS42からステップS44に手順を移す。
【0056】
(ステップS43)
所定の発注日において仕入先に必要数量の必要品の在庫がない場合、処理装置100は、部品生産DB(例えば生産計画のデータ)に基づき、必要品の生産に要する予想生産期間(例えば生産開始から出庫までの期間)を演算する。必要品の予想生産期間を演算したら、処理装置100は、ステップS43からステップS44に手順を移す。
【0057】
(ステップS44)
ステップS44に手順を移すと、処理装置100は、運送手段DB214(仕入先の所在地、運送手段等のデータ)に基づき、仕入先から所定の運送手段により必要品を調達するのに要する調達期間を推定する。この場合、必要品の在庫がある場合、処理装置100では、運送期間(又は必要に応じて設定期間を運送期間に付加した期間)が調達期間として演算される。必要品の発注を想定した日に必要品の在庫がないことが予想される場合、処理装置100では、運送期間(又は必要に応じて設定期間を運送期間に付加した期間)に必要品の生産期間を更に付加した期間が調達期間として演算される。必要品の生産期間は、部品生産DBに基づき演算される。
【0058】
図10は処理装置100による調達時間予測P4の処理における出力結果の一例を表す図である。同図のように、本実施形態では、在庫有無、生産期間、運送手段、運送期間、及び調達期間が、発注対象として想定される必要品(同図では複数の必要品のそれぞれ)について演算される。
【0059】
・アラーム通知時期判定
アラーム通知時期判定P5は、油圧ショベル1に発生することが予想される故障項目について故障発生までの猶予期間(現在から故障発生までの予想期間)を推定し、出力装置300を介してアラームを通知対象者に通知する適正なタイミングを判定する処理である。猶予期間は、状態分析P1の処理で油圧ショベル1についてした異常判定の基礎とした評価値aと故障事例DB212とに基づき、処理装置100により実行される。具体例を挙げると、各故障項目において猶予期間Taと評価値aとの間には一定の関係があり、前掲した式(a=(x-μ)
2/σ
2)で求められる評価値であれば、
図11に示した通り、評価値aの値が大きくなるにつれて猶予期間は短くなる。
【0060】
図11は評価値と猶予期間を軸にとり、ある故障項目について故障事例DB212から実績値をプロットし、評価値aと猶予期間Taとの関係を近似式(近似曲線)で表した例である。この近似式を用いることで、ある故障項目において評価値azが演算された場合に猶予期間Tazを推定することができる。このような近似式を故障項目毎に演算し、対応する近似式を用いて評価値aから猶予期間Taを演算することができる。但し、
図11の猶予期間の演算方法は一例であり、例えば予め設定した直近の設定期間分の評価値aを積分し、その積分値に基づき猶予期間Taを演算する等、評価値aを用いた猶予期間Taの演算方法については適宜変更可能である。
【0061】
また、アラームのタイミングの判定については、例えば調達時間予測P4の処理で演算した調達時間を猶予期間から減算した値が予め設定された設定値以下であるかを判定し、設定値以下である場合にアラーム通知のタイミングが到来したと判定する例が挙げられる。ここで用いる設定値は、例えば油圧ショベル1の保守を実施する作業場において必要品の受け取りから保守作業に着手するまでに要する段取り期間等を考慮して任意に設定することができる。また、必要品受領後保守作業開始までの過去のデータを機械学習し、自動的に設定値が設定されるようにしても良い。単純に猶予期間が調達時間以下になったらアラームが通知されるようにする場合、設定値を0(ゼロ)に設定すれば良い。
【0062】
・アラーム送信
アラーム送信P6は、アラーム通知時期判定P5の処理で猶予期間から調達期間を減算した値が予め設定された設定値以下であると判定された場合に、油圧ショベル1の保守要求を通知するアラームを出力装置300に出力する処理である。アラームには、
図12に示すように、発生が予想される故障項目や必要品(品目及び数量)等についての情報が含まれる。
図12は出力装置300(モニタ)に、発生が予想される故障項目や予想される故障の時期、その保守(対策)に要する必要品や数量、予想される調達期間等の情報を、テキスト情報で通知する画面の一例を表している。この通知は、例えばアラームを受領手続き(例えば確認ボタンの操作)がされるまで連続的に又は一定の時間間隔で表示させることができる。この場合、アラームの受領手続きがされるまでに、時間経過に伴って例えば部品在庫の推移等に起因して調達期間等に変更が生じた場合、その変更が反映さるようにアラームの内容が適時に更新されるようにすることもできる。これにより、保守担当者等は精度の高い最新情報を確認することができる。
【0063】
なお、評価値aの数値又は
図7のような図をアラームの画面に表示することも考えられる。評価値aを通知する場合、例えば評価値aを数値の大きさに応じてレベル1、レベル2、レベル3の3段階に分類しておき、数値に代えてレベルを表示するようにしても良い。勿論、レベルの分類は3段階に限らず、2段階としても4段階以上としても良い。
【0064】
その他、アラームの形式としては、警告音、ランプ点灯、電子メール、電話、ファックスを用いたものも適宜採用することができる。
【0065】
図13は処理装置100によるアラーム通知までの一連の手順の一例を概略的に表すフローチャートである。処理装置100は、設定期間(例えば1日)毎に自動的に又は保守担当者等の操作に応じた任意のタイミングで、
図13のフローチャートを実行する。処理装置100に
図13の処理の実行を手動で指示する場合、処理装置100を直接操作する構成の他、例えばネットワークNWを介して処理装置100と通信可能な外部端末(設置型端末、携帯端末を含む)を操作する構成とすることもできる。
【0066】
(ステップS51,S52)
処理装置100は、
図13の手順を開始すると、前述した状態分析P1の処理を実行し、油圧ショベル1について評価値aを演算し(ステップS51)、演算した評価値aに基づき油圧ショベル1が異常であるかを判定する(ステップS52)。油圧ショベル1に異常がない場合、処理装置100は
図13の処理を終了し、同図の処理の次の実行の機会まで待機する。油圧ショベル1に異常がある場合、処理装置100はステップS52からステップS53に手順を移す。なお、状態分析P1の処理では、油圧ショベル1の多様な稼働データで定義される特徴量ベクトルにより、特徴量空間内で分類された故障項目も推定される。この例では、その処理の結果、ある故障項目について異常が認識されたものとする。また、故障項目が推定されたら、必要品推定P2や在庫推定P3、調達時間予測P4の処理が処理装置100で順次実行されることにより、必要品及びその数量や調達期間も推定される。
【0067】
(ステップS53-S55)
ある故障項目について油圧ショベル1に異常が検出されたら、処理装置100は、アラーム通知時期判定P5の処理を実行し、油圧ショベル1に故障が発生するまでの猶予期間を推定する(ステップS53)。処理装置100は、推定した猶予期間を必要品の調達期間と比較し(ステップS54)、猶予期間に対して調達期間に余裕があれば(差が設定値より大きければ)、
図13の処理を終了して同図の処理の次の実行の機会まで待機する。他方、猶予期間に対して調達期間に余裕がなければ(差が設定値以下であれば)、処理装置100は、ステップS55からステップS56に手順を移す。
【0068】
(ステップS56)
ステップS56に手順を移すと、処理装置100は、出力装置300にアラームを出力し、対策を要する故障項目、故障までの猶予期間、対策に必要な必要品や数量等の情報を含めた保守要求を通知対象者に通知する。アラームを出力したら、処理装置100は、
図13の処理を終了して同図の処理の次の実行の機会まで待機する。
【0069】
・対応記録
対応記録P7は、アラームの通知後、そのアラームに対して保守担当者が実施した対応内容のデータについて、サーバ200に送信して故障事例DB212に蓄積する処理である。対応内容のデータには、アラームの識別番号、必要品の発注日、発注数量、保守開始日、保守終了日等のデータが含まれる。対応内容のデータは、保守担当者又は顧客等により、処理装置100又はこれにネットワークNWを介して接続された外部端末が操作されて入力される。処理装置100を介さずにサーバ200に対応内容のデータが直接アップロードされる構成としても良い。対応内容のデータは、在庫推定P3やアラーム通知時期判定P5の精度向上の他、顧客満足度向上のための分析等にも有用である。
【0070】
-効果-
(1)本実施形態においては、油圧ショベル1について故障項目を判定して保守要求をアラームで通知する。これにより、保守担当者等は、そのアラームを確認して故障項目の保守を検討したり、油圧ショベル1を簡易点検して保守要求の妥当性を確認したりすることができる。また、保守に用いる必要品を確認したりその妥当性を速やかに検討したりすることができる。そして、このアラームは、故障発生の予想時期から必要品の調達期間等を考慮して逆算した適正なタイミングで通知される。従って、アラームが遅れて保守作業に必要品の入手が間に合わないような状況の発生を抑制できる。また、単に異常が検出されただけではアラームは通知されず、故障発生までの猶予期間と必要品の調達期間を考慮したタイミングでアラームが通知される。そのため、早計なアラームにより本来不要な部品発注の顧客への要求も抑制でき、無駄な部品コストの発生が抑制され得る。よって、必要品の調達に要する期間を加味して適正なタイミングで油圧ショベル1の保守要求を所定の通知対象者に通知し、油圧ショベル1の稼働不能な期間を効果的に短縮することができる。
【0071】
(2)また、本実施形態では、油圧ショベル1の多様な稼働データにより規定される特徴量ベクトルに基づき評価値aが演算される。これにより、例えば機械学習等を利用することで、実績データの蓄積に伴って油圧ショベル1に発生が予想される故障の種類や兆しを高精度に推定できるようになる。
【0072】
(3)部品在庫DB219及び部品生産DB213に基づく必要品の在庫数量の推移と、運送手段DB214に基づく必要品の運送期間とを考慮に入れて必要品の調達期間が演算されるので、妥当性の高い調達期間を演算することができる。特に、必要品の発注を想定した日の必要品の在庫の不足が予想される場合、更に部品生産DB213に基づく必要品の生産期間が更に考慮されるので、在庫の有無に関わらず柔軟に必要品の調達期間を推定することができる。
【0073】
-変形例-
以上の実施形態では、状態分析P1において正常モデルとの比較で評価値aを演算する例を説明したが、ワイブル分析等の余寿命診断アルゴリズムを用い、管理対象機械又はその構成要素の推定余寿命を評価値aとして演算することもできる。この場合、管理対象機械の故障発生までの猶予期間については、推定余寿命と故障確率を用いて演算することができる。
【0074】
以上の実施形態では、状態分析P1から対応記録P7までの一連の処理を処理装置100で実行する構成を例示したが、これらの処理は、所謂エッジコンピューティング技術を用いて管理対象機械で実行することも可能である。すなわち、個々の管理対象機械(上記実施形態では油圧ショベル1)の車載コンピュータをそれぞれ処理装置100とする構成としても良い。
【符号の説明】
【0075】
1…油圧ショベル(管理対象機械)、100…処理装置、211…稼働データデータベース、212…故障事例データベース、213…部品生産データベース、214…運送手段データベース、217…必要品データベース、219…部品在庫データベース、300…出力装置、a…評価値