(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】CD3抗体およびその医薬用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240328BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240328BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240328BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240328BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240328BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240328BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240328BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240328BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240328BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240328BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240328BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240328BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240328BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C07K16/30
C07K16/46
C12N5/10
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12P21/08
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K48/00
A61P29/00
A61P35/00
A61P37/02
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2021531235
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 CN2019123548
(87)【国際公開番号】W WO2020114478
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】201811491781.3
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510166892
【氏名又は名称】ジエンス ヘンルイ メデイシンカンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU HENGRUI MEDICINE CO.,LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】508209602
【氏名又は名称】シャンハイ ヘンルイ ファーマスーティカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI HENGRUI PHARMACEUTICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】イン ファ
(72)【発明者】
【氏名】チャン リン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャオイン
(72)【発明者】
【氏名】グォ フー
(72)【発明者】
【氏名】タオ ウェイカン
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-504402(JP,A)
【文献】特表2018-516248(JP,A)
【文献】特表2018-523686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
A61K 39/395
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、
前記軽鎖可変領域は、配列番号48、49および50にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、かつ
前記重鎖可変領域
は、配列番号37、40および42にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含
む、
ヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
ヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項1に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
配列番号36に示される軽鎖可変領域、および/または
配列番
号31に示される重鎖可変領域
を含む、請求項2に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
抗体軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域をさらに含み
;
前記軽鎖定常領域は、ヒトκ、λ鎖またはそれらのバリアントの軽鎖定常領域であり、前記重鎖定常領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはそれらのバリアントの重鎖定常領域である、請求項3に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
前記抗原結合フラグメントは、Fab、Fab’、F(ab’)2、二量体化V領域(ダイアボディ)およびジスルフィド安定化V領域(dsFv)から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントの前記軽鎖可変領域および前記重鎖可変領域を含む、一本鎖抗体。
【請求項7】
請求項6に記載の一本鎖抗体であって、当該一本鎖抗体の配列は、配列番号
57または64に示されるとおりである、一本鎖抗体。
【請求項8】
ヒトCD3および腫瘍関連抗原に特異的に結合する多重特異性抗体であって、
前記多重特異性抗体は、請求項6もしくは7に記載の一本鎖抗体または請求項1~5のいずれか1項に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含
み、二重特異性抗体である、多重特異性抗体。
【請求項9】
前記腫瘍関連抗原は、AFP、ALK、B7H3、BAGEタンパク質(BAGE protein)、BCMA、BIRC5、BIRC7、β-カテニン、brc-ab1、BRCA1、BORIS、CA9、CA125、炭酸脱水酵素IX(carbonic anhydrase IX)、カスパーゼ-8(caspase-8)、CALR、CCR5、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、CD40、CD123、CD133、CD138、CDK4、CEA、クローディン18.2(Claudin 18.2)、サイクリン-B1、CYP1B1、EGFR、EGFRvIII、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、EpCAM、EphA2、Fra-1、FOLR1、GAGEタンパク質(GAGE protein)、GD2、GD3、GloboH、Glypican-3、GM3、gp100、Her2、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、IL13Rα2、LMP2、κ-Light、LeY、MAGEタンパク質(MAGE protein)、MART-1、メソテリン(Mesothelin)、ML-IAP、MOv-γ、Muc1、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、CA-125、MUM1、NA17、NKG2D、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ESO1、OX40、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、PSMA、RAGEタンパク質(RAGE protein)、Ras、RGS5、Rho、ROR1、SART-1、SART-3、STEAP1、STEAP2、TAG-72、TGF-β、TMPRSS2、Thompson-nouvelle抗原、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ(tyrosinase)、ウロプラキン-3(uroplakin-3)および5T4からなる群から選択される、請求項8に記載の多重特異性抗体。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項6もしくは7に記載の一本鎖抗体、または請求項8もしくは9に記載の多重特異性抗体の治療有効量と、1つ以上の薬学的に許容される担体、希釈剤、緩衝液または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントをコードするか、請求項6または7に記載の一本鎖抗体をコードするか、請求項8または9に記載の多重特異性抗体をコードする、単離された核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の単離された核酸分子を含む、組換えベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の組換えベクターで形質転換された宿主細胞であって、前記宿主細胞は、原核細胞および真核細胞から選択され
る、宿主細胞。
【請求項14】
真核細胞である、請求項13に記載の宿主細胞。
【請求項15】
前記真核細胞は哺乳動物細胞または昆虫細胞である、請求項14に記載の宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~5のいずれか1項に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項6もしくは7に記載の一本鎖抗体、または請求項8もしくは9に記載の多重特異性抗体を産生する方法であって、請求項13
~15に記載の宿主細胞を培養培地中で培養して、請求項1~5のいずれか1項に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項6もしくは7に記載の一本鎖抗体、または請求項8もしくは9に記載の多重特異性抗体を形成および蓄積することと、前記抗体もしくはその抗原結合フラグメント、前記一本鎖抗体または前記多重特異性抗体を前記培養物から回収することを含む、方法。
【請求項17】
対象における疾患または障害の処置のための医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、請求項1~5のいずれか1項に記載のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項6もしくは7に記載の一本鎖抗体、請求項8もしくは9に記載の多重特異性抗体、または請求項11に記載の単離された核酸分子を含み、
前記医薬組成物は前記対象のT細胞を活性化するために使用される、医薬組成物。
【請求項18】
前記疾患または前記障害は、癌、自己免疫疾患または炎症性疾患である、請求項17に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト化CD3抗体などのCD3抗体、ならびにCD3および腫瘍関連抗原に同時に結合する多重特異性抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書の説明は、本発明に関する背景情報を提供するに過ぎず、必ずしも先行技術を構成するものではない。
【0003】
CD3は、4つの異なる鎖から構成されるT細胞共受容体である(Wucherpfennig, KW et al. (2010年) Structural Biology of The T cell Receptor: Insights Into Receptor Assembly, Ligand Recognition, and Initiation of Signaling, Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 2(4):A005140;1-14頁; Chetty, R. et al. (1994年) CD3:Structure, Function, And Role Of Immunostaining In Clinical Practice, J. Pathol. 173(4):303-307頁; Guy, C.S. et al. (2009年) Organization of Proximal Signal Initiation at the TCR:CD3 Complex, Immunol.Rev.232(1):7-21頁)。
【0004】
哺乳動物では、CD3マルチサブユニットによって形成される複合体が、T細胞受容体(TCR)分子と会合して、Tリンパ球において活性化シグナルを生成する(Smith-Garvin, JE et al. (2009年) T Cell Activation, Annu. Rev. Immunol. 27:591-619頁)。CD3の非存在下では、TCRは適切にアセンブルされることも分解されることもできない(Thomas, S. et al. (2010年) Molecular Immunology Lessons From Therapeutic T cell Receptor Gene Transfer, Immunology 129(2): 170-177頁)。研究によると、CD3はすべての成熟T細胞の膜に結合し、他の細胞型にはほとんど結合しない(Janeway, C.A. et al. (2005年): Immunobiology: The Immune System in Health and Disease,第6版, Garland Science Publishing, NY, 214-216頁; Sun, Z.J. et al.(2001年) Mechanisms Contributing to T Cell Receptor Signaling and Assembly Revealed by the Solution Structure of an Ectodomain Fragment of the CD3ε: γ Heterodimer, Cell 105 (7): 913-923頁; Kuhns, M.S. et al. (2006年) Deconstructing the Form and Function of the TCR/CD3 Complex, Immunity. 2006年2月, 24(2): 133-139頁)。
【0005】
T細胞上のT細胞受容体(TCR)複合体の定常CD3εシグナル伝達成分は、T細胞と腫瘍細胞の間の免疫シナプスの形成を促進するための標的として使用されてきた。CD3と腫瘍抗原の共結合(co-engagement)はT細胞を活性化し、腫瘍抗原を発現する腫瘍細胞の溶解をもたらす(Baeuerle et al. (2011年) Bispecific T Cell Engager for Cancer Therapy, In: Bispecific Antibodies, Kontermann, R.E.(編) Springer-Verlag; 2011年:273-287頁)。この方法により、二重特異性抗体は、腫瘍細胞に対するのと同じくらい高い特異性でT細胞コンパートメントと完全に相互作用することができ、この方法は、さまざまな細胞表面腫瘍抗原に広く適用可能である。
【0006】
B7H3はB7ファミリーのメンバーであり、I型膜貫通タンパク質に属する。それは、アミノ末端のシグナルペプチド、細胞外免疫グロブリン様可変領域(IgV)、定常領域(IgC)、膜貫通領域、および45アミノ酸を含む細胞質尾部領域を含有する(Tissue Antigens. 2007年8月; 70 (2): 96-104頁)。現在、B7H3には主にB7H3aとB7H3bの2種類のスプライシングフォームがある。B7H3aの細胞外セグメントは、2IgB7H3としても知られる2つの免疫グロブリンドメインIgV-IgCから構成されているが、B7H3bの細胞外セグメントは、4IgB7H3としても知られる4つの免疫グロブリンドメインIgV-IgC-IgV-IgCから構成されている。
【0007】
B7H3タンパク質は、正常な組織および細胞には存在しないか、正常な組織および細胞に極めて低いレベルで発現している;しかし、B7H3タンパク質は、さまざまな腫瘍組織で高度に発現しており、腫瘍の進行、患者の生存および予後と密接に関連している。B7H3は、さまざまな癌種、特に非小細胞肺癌、腎臓癌、尿路上皮癌、結腸直腸癌、前立腺癌、多形性膠芽腫、卵巣癌および膵臓癌で過剰発現していることが臨床的に報告されている(Lung Cancer. 2009年11月; 66(2): 245-249頁; Clin Cancer Res. 2008年8月15日; 14(16): 5150-5157頁)。さらに、B7H3の発現強度は、前立腺癌の臨床病理学的悪性度(腫瘍体積、前立腺を越える浸潤またはグリソンスコアなど)と正の相関があり、癌の進行度とも相関することが文献で報告されている(Cancer Res. 2007年8月15日; 67 (16): 7893-7900頁)。同様に、B7H3の発現は、多形性膠芽腫のイベントフリー生存と負の相関があり、B7H3の発現は膵臓癌のリンパ節転移および病理学的進行と相関する。したがって、B7H3は、新規な腫瘍マーカおよび潜在的な治療標的と見なされている。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、ヒトCD3に特異的に結合することができる抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0009】
一態様において、本開示は、ヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、
前記軽鎖可変領域は、配列番号48、49および50にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、かつ
前記重鎖可変領域は、以下のi)~v):
i)配列番号37、38および39にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域;
ii)配列番号37、40および41にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域;
iii)配列番号37、40および42にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域;
iv)配列番号37、40および43にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域;ならびに
v)配列番号37、47および45にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域
からなる群から選択されるいずれか1つである、ヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記ヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト化抗体またはその抗原結合フラグメントである。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記ヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号36の軽鎖可変領域、および/または、配列番号29、30、31、32および35からなる群から選択されるいずれか1つに示される重鎖可変領域を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記ヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗体軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域をさらに含み;任意に、前記軽鎖定常領域は、ヒトκ、λ鎖またはそれらのバリアントの軽鎖定常領域であり、前記重鎖定常領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはそれらのバリアントの重鎖定常領域である。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記抗原結合フラグメントは、Fab、Fab’、F(ab’)2、二量体化V領域(ダイアボディ)およびジスルフィド安定化V領域(dsFv)から選択される。
【0014】
別の態様において、本開示は、上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントの前記軽鎖可変領域および前記重鎖可変領域を含む、一本鎖抗体を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記一本鎖抗体の配列は、配列番号55、56、57、58、61、62、63、64、65または68に示されるとおりである。
【0016】
別の態様において、本開示は、ヒトCD3および腫瘍関連抗原(TAA)に特異的に結合する多重特異性抗体であって、上記の一本鎖抗体またはヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含む、多重特異性抗体を提供する。
【0017】
前記多重特異性抗体のいくつかの実施形態において、前記腫瘍関連抗原は、AFP、ALK、B7H3、BAGEタンパク質(BAGE protein)、BCMA、BIRC5(survivin)、BIRC7、β-カテニン、brc-ab1、BRCA1、BORIS、CA9、CA125、炭酸脱水酵素IX(carbonic anhydrase IX)、カスパーゼ-8(caspase-8)、CALR、CCR5、CD19、CD20(MS4A1)、CD22、CD30、CD33、CD38、CD40、CD123、CD133、CD138、CDK4、CEA、クローディン18.2(Claudin 18.2)、サイクリン-B1、CYP1B1、EGFR、EGFRvIII、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、EpCAM、EphA2、Fra-1、FOLR1、GAGEタンパク質(GAGE protein)(GAGE-1、-2など)、GD2、GD3、GloboH、Glypican-3、GM3、gp100、Her2、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、IL13Rα2、LMP2、κ-Light、LeY、MAGEタンパク質(MAGE protein)(MAGE-1、-2、-3、-4、-6、-12など)、MART-1、メソテリン(mesothelin)、ML-IAP、MOv-γ、Muc1、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、Muc16(CA-125)、MUM1、NA17、NKG2D、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ESO1、OX40、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、PSMA(FOLH1)、RAGEタンパク質(RAGE protein)、Ras、RGS5、Rho、ROR1、SART-1、SART-3、STEAP1、STEAP2、TAG-72、TGF-β、TMPRSS2、Thompson-nouvelle抗原(Tn)、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ(tyrosinase)、ウロプラキン-3(uroplakin-3)および5T4(トロホブラスト糖タンパク質(Trophoblast glycoprotein))からなる群から選択される。好ましくは、前記腫瘍関連抗原は、B7H3、BCMA、CEA、CD19、CD20、CD38、CD138、クローディン18.2(Claudin 18.2)、PSMAおよびメソテリン(mesothelin)からなる群から選択される。
【0018】
別の態様において、本開示は、上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、一本鎖抗体、または多重特異性抗体の治療有効量と、1つ以上の薬学的に許容される担体、希釈剤、緩衝液または賦形剤とを含む、医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、治療有効量とは、前記組成物が上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、一本鎖抗体、または多重特異性抗体の単位用量0.1~3000mg(より好ましくは1~1000mg)を含むことを意味する。
【0019】
別の態様において、本開示は、上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントをコードするか、上記の一本鎖抗体をコードするか、上記の多重特異性抗体をコードする、単離された核酸分子を提供する。
【0020】
別の態様において、本開示は、上記の単離された核酸分子を含む、組換えベクターを提供する。
【0021】
別の態様において、本開示は、上記の組換えベクターで形質転換された宿主細胞であって、前記宿主細胞は、原核細胞および真核細胞から選択され、好ましくは真核細胞であり、より好ましくは哺乳動物細胞または昆虫細胞である、宿主細胞を提供する。
【0022】
別の態様において、本開示は、上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、一本鎖抗体、または多重特異性抗体を産生する方法であって、上記の宿主細胞を培養培地中で培養して、上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、一本鎖抗体、または多重特異性抗体を形成および蓄積することと、前記抗体もしくはその抗原結合フラグメント、前記一本鎖抗体または前記多重特異性抗体を前記培養物から回収することを含む、方法を提供する。
【0023】
別の態様において、本開示は、薬剤としての、上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、一本鎖抗体、多重特異性抗体、医薬組成物、または単離された核酸分子を提供する。いくつかの実施形態では、前記薬剤は、T細胞の活性化のための薬剤である;いくつかの実施形態では、前記薬剤は、癌、自己免疫疾患または炎症性疾患の処置のための薬剤である。
【0024】
別の態様において、本開示は、T細胞の活性化のための薬剤の調製における、上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、一本鎖抗体、多重特異性抗体、医薬組成物、または単離された核酸分子の使用を提供する。
【0025】
別の態様において、本開示は、上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、一本鎖抗体、多重特異性抗体、医薬組成物、または単離された核酸分子の治療有効量を対象に投与することを含む、T細胞を活性化するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記方法は、上記の多重特異性抗体の単位用量0.1~3000mg(より好ましくは1~1000mg)を含む組成物、または上記の医薬組成物、または単離された核酸分子を対象に投与することを含む。
【0026】
別の態様において、本開示は、上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、一本鎖抗体、多重特異性抗体、医薬組成物、または単離された核酸分子の治療有効量を対象に投与することを含む、癌、自己免疫疾患または炎症性疾患の処置のための方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記方法は、上記の多重特異性抗体の単位用量0.1~3000mg(より好ましくは1~1000mg)を含む組成物、または上記の医薬組成物、または単離された核酸分子を対象に投与することを含む。
【0027】
別の態様において、本開示は、癌、自己免疫疾患または炎症性疾患の処置のための薬剤の調製における、上記のヒトCD3に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、一本鎖抗体、多重特異性抗体、医薬組成物、または単離された核酸分子の使用を提供する。
【0028】
いくつかの実施形態では、上記の癌は、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、白血病およびリンパ系悪性腫瘍からなる群から選択されるいずれか1つである。癌のより具体的な例には、扁平上皮癌、骨髄腫、小細胞肺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、T細胞/組織球に富む大細胞型B細胞リンパ腫(T-cell/histocyte-rich large B-cell lymphoma)、多発性骨髄腫、myeloid leukemia-protein 1(Mcl-1)、骨髄異形成症候群(MDS)、消化器(管)癌、腎臓癌、卵巣癌、肝臓癌、リンパ芽球性白血病、リンパ性白血病、結腸直腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、前立腺癌、甲状腺癌、黒色腫、軟骨肉腫、神経芽細胞腫、膵臓癌、多形性膠芽腫、胃癌、骨癌、ユーイング肉腫、子宮頸癌、脳癌、胃癌、膀胱癌、肝細胞腫瘍、乳癌、結腸癌、肝細胞癌(HCC)、腎明細胞癌(RCC)、頭頸部癌、咽頭喉頭癌、肝胆道癌、中枢神経系癌、食道癌、悪性胸膜中皮腫、全身性軽鎖アミロイドーシス、リンパ形質細胞性リンパ腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性腫瘍、神経内分泌腫瘍、メルケル細胞癌、精巣癌、および皮膚癌が含まれる。いくつかの実施形態では、癌は、B7-H3陽性細胞関連癌であり、好ましくは乳癌、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、肺癌、肝臓癌、胃癌、結腸癌、膀胱癌、食道癌、子宮頸癌、胆嚢癌、膠芽腫または黒色腫である。
【0029】
いくつかの実施形態では、上記の自己免疫疾患または炎症性疾患は、関節リウマチ、乾癬、クローン病、強直性脊椎炎、多発性硬化症、I型糖尿病、肝炎、心筋炎、シェーグレン症候群、移植拒絶後の自己免疫性溶血性貧血、小水疱性類天疱瘡(vesicular pemphigoid)、グレーブス病、橋本甲状腺炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症、天疱瘡および悪性貧血からなる群から選択されるいずれか1つである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】
図2A~
図2D:対応する抗原の発現を伴うまたは伴わない細胞に結合する活性についてのフローサイトメトリーによる抗体の検出。
図2Aは、ヒトB7H3を発現するA498細胞に結合するさまざまな抗体の活性の検出を示す;
図2Bは、ヒトB7H3を過剰発現するCT26細胞に結合するさまざまな抗体の活性の検出を示す;
図2Cは、ヒトB7H3を発現しないCT26細胞に結合するさまざまな抗体の活性の検出を示し、その結果は、いずれの抗体もヒトB7H3を発現しないCT26細胞に結合しないことを示す;
図2Dは、CD3を発現するJurkat組換え細胞に結合するさまざまな抗体の活性の検出を示す。
図2A~
図2Dの縦軸は、蛍光シグナルの幾何平均を表す。
【
図3】
図3A~
図3B:A498の殺傷におけるさまざまなCD3 scFvを含む二重特異性抗体の活性の検出。
図3Aは、B7H3一価二重特異性抗体の殺傷活性を示す。
図3Bは、B7H3二価二重特異性抗体の殺傷活性を示す。A498に対してより弱い殺傷活性を有する155、156、185および186を除いて、すべての二重特異性抗体は、B7H3の一価または二価にかかわらず、明らかな殺傷活性を示す。
【
図4】
図4A~
図4B:同じCD3 scFvを含むB7H3一価および二価二重特異性抗体間のA498に対する殺傷活性の比較。
図4Aは、HRH1を含むB7H3一価(181)および二価(131)二重特異性抗体間の殺傷活性の比較を示す。
図4Bは、HRH7を含むB7H3一価(187)および二価(177)間の殺傷活性の比較を示す。ずべての実験結果は、B7H3二価二重特異性抗体がB7H3一価二重特異性抗体と比較してより明白なA498殺傷活性を有することを示す。同時に、B7H3二価二重特異性抗体は、B7H3一価二重特異性抗体よりも有意に強い殺傷活性を有する。
【
図5】
図5A~
図5C:同じCD3重鎖可変領域を含むが、異なる配置順序を有するB7H3二価二重特異性抗体のA498に対する殺傷活性の検出。
図5Aは、HRH2を含有する第1のポリペプチド鎖を含むB7H3二価二重特異性抗体の殺傷活性の比較を示し、ここで、当該第1のポリペプチド鎖は、さまざまな順序で配置されている(AFF1、AFF2、AFF3、AFF4)。
図5Bは、HRH2を含有する第2のポリペプチド鎖を含むB7H3二価二重特異性抗体の殺傷活性の比較を示し、ここで、当該第2のポリペプチド鎖は、さまざまな順序で配置されている(AFF3、AFF3-B)。結果は、同じ配列を有するがVHとVLの配置が異なるすべてのB7H3二価二重特異性抗体が有意なA498細胞殺傷活性を有し、異なる配置順序を有する分子は同様の殺傷活性を有することを示す。
図5Cは、同じB7H3 scFvおよびCD3 scFvを含むが、構造が異なる二重特異性抗体間の殺傷活性の比較を示す。3つの試験二重特異性抗体127、201および202はすべて、A498腫瘍細胞を殺傷する能力を有し、そのうち二重特異性抗体127が、201および202よりも優れた殺傷活性示す。
【
図6】
図6A~
図6B:異なる抗体によるJurkat組換え細胞の活性化の検出。
図6Aは、A498細胞の存在下における、Jurkat組換え細胞の抗体を介したB7H3標的特異的活性化を示す;
図6Bは、A498細胞の非存在下における、Jurkat組換え細胞の抗体を介した非B7H3標的特異的活性化を示す。同じ抗体レジェンドが
図6A~
図6Bに示されている。
【
図7】
図7A~
図7B:同じCD3scFvを含むが、異なる価数を有する二重特異性抗体によるJurkat組換え細胞の活性化の検出。
図7Aは、A498細胞の存在下における、B7H3一価/二価二重特異性抗体によるJurkat組換え細胞の抗体を介したB7H3標的特異的活性化を示す;
図7Bは、A498細胞の非存在下における、B7H3一価/二価二重特異性抗体によるJurkat組換え細胞の抗体を介した非B7H3標的特異的活性化を示す。
【
図8】
図8A~
図8C:さまざまな抗体を、A498細胞の存在下で、B7H3標的特異的サイトカイン分泌を産生するためのPBMCの刺激について試験する。
図8Aは、さまざまな抗体によって刺激されたPBMCからのIFNγ分泌レベルの比較を示す;
図8Bは、さまざまな抗体によって刺激されたPBMCからのTNFα分泌レベルの比較を示す;
図8Cは、さまざまな抗体によって刺激されたPBMCからのIL-2分泌レベルの比較を示す。
図8A~
図8Cは、抗体118、127および132がPBMCを有意に刺激して、B7H3標的特異的サイトカイン分泌を産生し得ることを示す。同じ抗体レジェンドが
図8A~
図8Cに示されている。
【
図9】
図9A~
図9C:さまざまな抗体を、CHOK1細胞(B7H3の発現なし)の存在下で、非B7H3標的特異的サイトカイン分泌を産生するためのPBMCの刺激について試験する。
図9Aは、さまざまな抗体によって刺激されたPBMCから分泌されたIFNγレベルの比較を示す;
図9Bは、さまざまな抗体によって刺激されたPBMCから分泌されたTNFαレベルの比較を示す;
図9Cは、さまざまな抗体によって刺激されたPBMCから分泌されたIL-2レベルの比較を示す。
図9A~
図9Cは、抗体118、127および132がPBMCを刺激して非B7H3標的特異的サイトカイン分泌を産生することができず、より良好な安全性を有することを示す。同じ抗体レジェンドが
図9A~
図9Cに示されている。
【
図10】
図10A~
図10E:ヒトPBMCで再構成したマウスA498モデルにおける二重特異性抗体の抗腫瘍効果の検出。
図10Aは、低用量B7H3二価二重特異性抗体の抗腫瘍活性の検出を示す。低用量抗体118および119はいずれも、依然として一定の抗腫瘍活性を示し、ある程度の用量依存性を示す。
図10Bは、0.3mpkおよび0.6mpkの用量でのB7H3二価二重特異性抗体の抗腫瘍活性の検出を示す。抗体113は、in vivoで用量依存的な腫瘍抑制活性を示す。
図10Cは、0.12mpkおよび0.36mpkの用量でのB7H3二価二重特異性抗体の抗腫瘍活性の検出を示す。抗体118は、両方の用量で有意な抗腫瘍活性を示す。
図10Dは、0.36mpkの用量でのB7H3二価二重特異性抗体の抗腫瘍活性の検出を示す。抗体126、127および128はすべて有意な抗腫瘍活性を示す。
図10Eは、さまざまな用量およびさまざまな投与頻度での抗体127の抗腫瘍活性を示す。
図10A~
図10Eにおいて、「ビヒクル」は、PBSを投与されたネガティブコントロール群を表す。
【
図11】
図11A~
図11B:hCD3 KIマウスモデルにおける二重特異性抗体の抗腫瘍効果。
図11Aおよび
図11Bは、それぞれ、hCD3 KIマウスモデルにおける118および132の抗腫瘍効果を示す。
【発明の詳細な説明】
【0031】
用語(定義)
【0032】
本開示で使用されるアミノ酸の3文字コードおよび1文字コードは、J. biol. chem, 243, 3558頁(1968年)に記載されるとおりである。
【0033】
「多重特異性タンパク質分子」という用語は、2つ以上の標的抗原または標的抗原エピトープに特異的に結合することができるタンパク質分子を指す。2つの標的抗原または標的抗原エピトープに特異的に結合することができるタンパク質分子は、抗体または抗体の抗原結合フラグメント(一本鎖抗体など)を含む二重特異性タンパク質分子と呼ばれる。「二重特異性タンパク質分子」は、本明細書において「二重特異性抗体」と交換可能である。
【0034】
抗原の「結合領域」という用語は、多重特異性タンパク質分子または抗体分子中の抗原に特異的に結合することができる領域または部分を指す。抗原結合領域は、抗原に直接結合することができるリガンド結合ドメインであり得るか、または抗原に直接結合することができる抗体の可変領域を含むドメインであり得る。
【0035】
「抗体(Ab)」という用語は、特定の抗原(例えば、CD3)に特異的に結合または相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子または分子複合体を含む。「抗体」という用語は、ジスルフィド結合を介して互いに接続された4本のポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにそれらの多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(以下、HCVRまたはVHと略記する)および重鎖定常領域を含む。この重鎖定常領域は、3つの領域(ドメイン)、すなわち、CH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(以下、LCVRまたはVLと略記する)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つの領域(ドメイン、CL1)を含む。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分化でき、その中で、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存的な領域が散在している。各VHおよびVLは3つのCDRと4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置されている。本開示のさまざまな実施形態において、抗CD3抗体(またはその抗原結合部分)、抗B7H3抗体(またはその抗原結合部分)、または他の標的抗原に対する抗体のFRは、ヒト生殖系列配列と同じであり得るか、または自然もしくは人工的に改変され得る。抗体は、異なるサブクラスの抗体、例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブクラス)、IgA1、IgA2、IgD、IgEまたはIgM抗体であり得る。
【0036】
「抗体」という用語は、完全な抗体分子の抗原結合フラグメントも包含する。本明細書で使用される抗体の「抗原結合部分」、「抗原結合ドメイン」、「抗原結合フラグメント」などの用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に産生された、合成または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、任意の適切な標準技術、例えば、タンパク質分解消化または抗体可変領域および(任意に)定常領域をコードするDNAの操作および発現を含む組換え遺伝子工学技術を使用することによって、完全な抗体分子から誘導することができる。DNAは既知であり、かつ/または、例えば、市販の供給源、DNAデータベース(例えば、ファージ抗体データベースを含む)から容易に入手することができるか、または合成することができる。DNAは、化学的に、または分子バイオテクノロジーを使用することによって、例えば、1つ以上の可変領域および/または定常領域を適切な構成に配置することによって、またはコドンを導入することによって、システイン残基を生成することによって、アミノ酸の修飾、付加または欠失などによって、配列決定および操作することができる。
【0037】
抗原結合フラグメントの非限定的な例には、以下が含まれる:(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント。他の操作された分子、例えば、領域特異的抗体、単一ドメイン抗体、領域欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫医薬(Small Modular Immunopharmaceuticals(SMIP))およびサメ可変IgNAR領域(Shark Variable IgNAR regions)も、本明細書で使用される「抗原結合フラグメント」という用語に含まれる。
【0038】
抗体の抗原結合フラグメントは、通常、少なくとも1つの可変領域を含む。可変領域は任意のサイズまたはアミノ酸組成の領域であり得、一般に、フレームワーク配列に隣接するまたはフレームワーク配列内にある1つ以上のCDRを含む。VL領域と結合したVH領域を有する抗原結合フラグメントにおいて、VH領域およびVL領域は、任意の適切な配置で互いに対向して位置することができる。例えば、可変領域は二量体化することができ、VH-VLまたはVL-VH二量体を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、抗体の抗原結合フラグメントは可変領域および定常領域の任意の構成にあり、当該可変領域および定常領域は、互いに直接的に接続され得るか、あるいは完全または部分的なヒンジまたはリンカー領域を介して接続され得る。ヒンジ領域は、少なくとも2(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれよりも多く)のアミノ酸から構成され得、その結果、単一のポリペプチド分子内の隣接する可変領域および/または定常領域の間に柔軟または半柔軟(semi-flexible)な接続が生成される。さらに、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、上記の可変領域および定常領域の任意の構成にあるホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含むことができ、当該可変領域および定常領域は互いに非共有結合で接続され得、かつ/または1つ以上の単量体VHまたはVL領域に接続され得る(例えば、ジスルフィド結合を介して)。
【0040】
本明細書で使用される「マウス抗体」は、当技術分野の知識および技能に従って調製されたマウス由来のモノクローナル抗体を指す。その調製中に、試験対象に抗原を注射し、次いで、所望の配列または機能的特徴を有する抗体を発現するハイブリドーマを単離する。注射された試験対象がマウスである場合、得られる抗体がマウス抗体になる。
【0041】
「キメラ抗体」は、マウス抗体の可変領域をヒト抗体の定常領域と融合させることによる抗体であり、このような抗体は、マウス抗体によって誘導される免疫応答を軽減することができる。キメラ抗体を確立するために、特定のマウスモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを最初に確立し、可変領域遺伝子をマウスハイブリドーマからクローン化する。次に、必要に応じて、ヒト抗体から定常領域遺伝子をクローニングする。マウス可変領域遺伝子をヒト定常領域遺伝子に接続してキメラ遺伝子を形成し、その後、これを発現ベクターに挿入することができる。最後に、キメラ抗体分子を真核生物または原核生物システムで発現させる。本開示の好ましい実施形態では、キメラ抗体の抗体軽鎖は、ヒトκ(カッパ)、λ(ラムダ)鎖またはそれらのバリアントの軽鎖定常領域をさらに含む。キメラ抗体の抗体重鎖は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはそれらのバリアントの重鎖定常領域をさらに含み、好ましくはヒトIgG1、IgG2もしくはIgG4の重鎖定常領域を含むか、またはアミノ酸変異(YTE変異または復帰変異、L234Aおよび/またはL235A変異、またはS228P変異など)を有するヒトIgG1、IgG2もしくはIgG4の重鎖定常領域バリアントを含む。
【0042】
CDR移植抗体を含む「ヒト化抗体」という用語は、動物由来の抗体、例えばマウス抗体のCDR配列をヒト抗体可変領域フレームワーク(すなわちフレームワーク領域)に移植することによって生成される抗体を指す。ヒト化抗体は、多数の異種タンパク質成分を有するキメラ抗体によって誘導される異種応答を克服することができる。そのようなフレームワーク配列は、生殖細胞系列抗体遺伝子配列をカバーする公開DNAデータベースまたは公開された参考文献から入手することができる。例えば、ヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子の生殖細胞系列DNA配列は、「VBase」ヒト生殖細胞系列配列データベース(http://www.vbase2.org/で入手可能)およびKabat, EA, et al. 1991年 Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版に見出すことができる。免疫原性の低下によって引き起こされる活性の低下を回避するために、ヒト抗体可変領域のフレームワーク配列を最小限の逆変異または復帰変異に供して、活性を維持することができる。本開示のヒト化抗体は、ファージディスプレイによってCDR親和性成熟が行われるヒト化抗体も含む。
【0043】
抗原と接触した残基のために、CDRの移植は、抗原と接触したフレームワーク残基のために、抗体またはその抗原結合フラグメントの抗原に対する親和性の低下をもたらし得る。このような相互作用は体細胞超変異から生じ得る。したがって、ドナーフレームワークのアミノ酸をヒト化抗体フレームワークに移植することが依然として必要であるかもしれない。抗原結合に関与し、非ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントに由来するアミノ酸残基は、動物モノクローナル抗体可変領域の配列および構造をチェックすることによって同定することができる。生殖細胞系列とは異なるドナーCDRフレームワークアミノ酸残基は、関連していると見なすことができる。最も密接に関連する生殖細胞系列を決定することが不可能な場合には、その配列は、サブタイプによって共有されるコンセンサス配列または高い類似性パーセンテージを有する動物抗体配列と比較され得る。まれなフレームワーク残基は、体細胞超変異の結果と考えられており、結合において重要な役割を果たす。
【0044】
本開示の一実施形態では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトまたはマウスのκ、λ鎖またはそれらのバリアントの軽鎖定常領域をさらに含み得るか、あるいはヒトまたはマウスのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはそれらのバリアントの重鎖定常領域をさらに含み得る。
【0045】
「ヒト抗体」および「ヒト由来の抗体」は交換可能に使用することができ、ヒト由来の抗体、または抗原刺激に応答して特定のヒト抗体を産生するように当技術分野で知られている任意の方法によって「操作」および産生された遺伝子改変生物から得られる抗体であり得る。いくつかの技術では、ヒトの重鎖および軽鎖遺伝子座のエレメントが、胚性幹細胞株に由来する生物の細胞株に導入され、これらの細胞株の内因性の重鎖および軽鎖遺伝子座が標的化されて破壊される。これらの細胞株に含まれる標的化された内因性の重鎖および軽鎖遺伝子座は破壊される。トランスジェニック生物は、ヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、この生物は、ヒト抗体を分泌するハイブリドーマを産生するために使用することができる。ヒト抗体はまた、重鎖および軽鎖が1つ以上のヒトDNA供給源に由来するヌクレオチド配列によってコードされるような抗体であり得る。完全ヒト抗体はまた、遺伝子または染色体トランスフェクション法およびファージディスプレイテクノロジーによって構築され得るか、またはin vitroで活性化されたB細胞から構築され得、これらはすべて当技術分野で知られている。
【0046】
「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、可能なバリアント抗体(例えば、天然に存在する変異またはモノクローナル抗体調製物の作製中に生成された変異を含むバリアントであり、該変異は通常最小限の量で存在する)を除いて、同一であり、かつ/または同じエピトープに結合する。通常、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは異なり、モノクローナル抗体調製物(製剤)の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語句「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られた抗体の特徴を示し、抗体を製造するための特定の方法を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本開示に従って使用されるモノクローナル抗体は、さまざまな技術(ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含有するトランスジェニック動物を使用する方法を含むが、これらに限定されない)によって調製することができる。このような方法およびモノクローナル抗体を調製するための他の例示的な方法は、本明細書中に記載されている。
【0047】
「全長抗体(full-length antibody)」、「完全抗体(full antibody)」、「全抗体(whole antibody)」および「完全抗体(complete antibody)」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、以下に定義される抗原結合フラグメントとは区別される、実質的に完全な形態の抗体を指す。この用語は、具体的には、重鎖がFc領域を含む抗体を指す。
【0048】
さらに、FvフラグメントのVLドメインおよびVHドメインは2つの別々の遺伝子によってコードされるが、それらを組換え法を使用して合成リンカーによって連結して、VLドメインとVHドメインのペアリングによって一価の分子が形成された単一のタンパク質鎖を生成することができる(一本鎖Fv(scFv)と呼ばれる;例えば、Bird et al.(1988年):423-426頁;Science 242、およびHuston et al(1988年)Proc. Natl. Acad. Sci USA85:5879-5883頁を参照)。このような一本鎖抗体はまた、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語に含まれることが意図される。このような抗体フラグメントは、当該分野で知られている従来の技術を使用して得られ、インタクト抗体についてのものと同じ方法を使用することによって機能的フラグメントについてスクリーニングされる。抗原結合部分は、組換えDNA技術によって、またはインタクト免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的破壊によって産生することができる。
【0049】
抗原結合フラグメントは、タンデムFvフラグメントのペア(VH-CH1-VH-CH1)を含む一本鎖分子に組み込むこともでき、当該タンデムFvフラグメントのペアは、相補的な軽鎖ポリペプチドと一緒に抗原結合領域のペアを形成する(Zapata et al., 1995年 Protein Eng. 8(10):1057-1062頁;および米国特許第5,641,870号)。
【0050】
Fabは、IgG抗体分子を(H鎖の位置224のアミノ酸残基を切断する)パパインで処理することによって得られる抗体フラグメントであり、該抗体フラグメントは約50,000Daの分子量を有し、抗原結合活性を有し、H鎖のN末端側の約半分およびL鎖全体がジスルフィド結合を介して一緒に結合している。
【0051】
F(ab’)2は約100,000Daの分子量を有し、抗原結合活性を有し、ヒンジ位置で結合した2つのFab領域を含む抗体フラグメントであり、IgGヒンジ領域の2つのジスルフィド結合の下流部分をペプシンで消化することによって産生することができる。
【0052】
Fab’は約50,000Daの分子量を有し、抗原結合活性を有する抗体フラグメントであり、上記F(ab’)2のヒンジ領域でジスルフィド結合を切断することによって得られる。Fab’は、抗原を特異的に認識して結合するF(ab’)2をジチオスレイトールなどの還元剤で処理することによって産生することができる。
【0053】
さらに、Fab’は、抗体のFab’をコードするDNAを原核生物発現ベクターまたは真核生物発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物または真核生物に導入してFab’を発現させることによって産生することができる。
【0054】
「一本鎖抗体」、「一本鎖Fv」または「scFv」という用語は、リンカーによって抗体軽鎖可変ドメイン(または領域;VL)に接続された抗体重鎖可変ドメイン(または領域;VH)を含む分子を指す。そのようなscFv分子は、NH2-VL-リンカー-VH-COOHまたはNH2-VH-リンカー-VL-COOHの一般構造を有する。従来技術における適切なリンカーは、繰り返しGGGGSアミノ酸配列またはそのバリアント、例えば1~4回(1、2、3または4回を含む)の繰り返しを有するバリアントからなる(Holliger et al.(1993年),Proc Natl Acad Sci USA.90:6444-6448頁)。本開示に有用な他のリンカーは、Alfthan et al.(1995年),Protein Eng.8:725-731頁、Choi et al.(2001年),Eur J Immuno.31:94-106頁、Hu et al.(1996年),Cancer Res.56:3055-3061頁、Kipriyanov et al.(1999年),J Mol Biol.293:41-56頁、およびRoovers et al.(2001年),Cancer Immunol Immunother.50:51-59頁によって記載されている。
【0055】
「多重特異性抗体」は、2つ以上抗原結合ドメインを含み、2つ以上の異なるエピトープ(例えば、2つ、3つ、4つ以上の異なるエピトープ)に結合することができる抗体を指し、当該エピトープは同一または異なる抗原上に存在し得る。多重特異性抗体の例には、2つの異なるエピトープに結合する「二重特異性抗体」が含まれる。
【0056】
腫瘍関連抗原の「二価二重特異性抗体」という用語は、2つの抗原結合領域が腫瘍関連抗原標的に対して向けられている二重特異性抗体を指す。例えば、B7H3二価二重特異性抗体は、B7H3を標的とする2つの抗原結合領域を含む二重特異性抗体を指す。「一価二重特異性抗体」という用語は、1つの抗原結合領域のみが特定の標的に対して向けられている二重特異性抗体を指す。例えば、B7H3一価二重特異性抗体は、B7H3を標的とする1つの抗原結合領域を含む二重特異性抗体を指す。
【0057】
「リンカー」または「連結フラグメント」は、2つのタンパク質ドメインの間に位置する、当該2つのドメインを接続するための「L1」を指し、タンパク質ドメインを接続するために使用される接続ペプチド配列も指す。それは、通常、ある程度の柔軟性を有し、リンカーを使用してもタンパク質ドメインが元の機能を失うことはない。
【0058】
ダイアボディは、scFvが二量体化した抗体フラグメントであり、二価抗原結合活性を有する抗体フラグメントである。二価抗原結合活性において、2つの抗原は同じであっても異なっていてもよい。
【0059】
dsFvは、VHおよびVLのそれぞれの1つのアミノ酸残基をシステイン残基で置換し、次に、その2つのシステイン残基間のジスルフィド結合を介して置換されたポリペプチドを接続することによって得られる。システイン残基で置換されるアミノ酸残基は、既知の方法に従って、抗体の三次元構造予測に基づいて選択することができる(Protein Engineering,7,697(1994年))。
【0060】
本開示のいくつかの実施形態では、抗原結合フラグメントは、以下のステップ:抗原を特異的に認識および結合する本開示のモノクローナル抗体のVHおよび/またはVLをコードするcDNA、ならびに必要に応じてその他のドメインをコードするcDNAを得るステップ;抗原結合フラグメントをコードするDNAを構築するステップ;該DNAを原核生物または真核生物発現ベクターに挿入するステップ;および、次いで該発現ベクターを原核生物または真核生物に導入して、抗原結合フラグメントを発現させるステップ、によって産生され得る。
【0061】
「Fc領域」は、天然に存在する配列またはバリアントFc領域であり得る。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は可変であるが、ヒトIgG重鎖のFc領域は、通常、位置Cys226またはPro230のアミノ酸残基からカルボキシル末端にわたる領域として定義される。Fc領域における残基の番号付けは、KabatのEUインデックス番号付けに従う(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest(第5版、アメリカ公衆衛生局、米国国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州、1991年))。免疫グロブリンのFc領域は、通常、CH2およびCH3の2つの定常ドメインを有する。ここで、「1番目のFc」は「Fc1」とも呼ばれ、2番目のFcは「Fc2」とも呼ばれる。
【0062】
「Va1-L1-Vb1-L2-Vc2-L2-Vd2-L4-Fc1」および「Ve3-L5-Vf3-L6-Fc2」において、Va1、Vb1、Vc2、Vd2、Ve3およびVf3は、抗体軽鎖可変領域または重鎖可変領域を表し、Va1およびVb1は抗原の第1のエピトープに結合し、Vc2およびVd2は抗原の第2のエピトープに結合し、Ve3およびVf3は第3のエピトープに結合する。第1のエピトープ、第2のエピトープおよび第3のエピトープは、同じであってもよいし同じでなくてもよい。
【0063】
「VHTAA-L1-VLTAA-L2-VHCD3-L3-VLCD3-L4-Fc1」と同様に、VHTAAおよびVLTAAは腫瘍関連抗原のエピトープに結合する抗体可変領域を表し、VHCD3およびVLCD3はCD3のエピトープに結合する抗体可変領域を表す。
【0064】
本開示において、「ノブ-Fc」は、抗体のFc領域に点変異T366Wを組み込むことによって形成されるノブ状の空間構造を指す。同様に、「ホール-Fc」は、抗体のFc領域に点変異T366S、L368A、およびY407Vを組み込むことによって形成されるホール状の空間構造を指す。ノブ-Fcおよびホール-Fcは、立体障害のためにヘテロ二量体を形成する可能性が高くなる。ヘテロ二量体の形成をさらに促進するために、点変異S354CおよびY349Cをそれぞれノブ-Fcおよびホール-Fcに導入して、ジスルフィド結合を介したヘテロ二量体の形成をさらに促進することができる。一方、抗体Fcによって引き起こされるADCC効果を排除または軽減するために、234Aおよび235Aの置換変異をFcに導入することもできる。例えば、本開示の好ましいノブ-Fcおよびホール-Fcは、それぞれ配列番号69および70に示されている。二重特異性抗体では、ノブ-Fcまたはホール-Fcは、第1のポリペプチド鎖のFc領域または第2のポリペプチド鎖のFc領域のいずれかとして使用され得る。単一の二重特異性抗体の場合、第1および第2のポリペプチド鎖のFc領域が両方ともノブ-Fcまたはホール-Fcであることはできない。
【0065】
「アミノ酸差異」または「アミノ酸変異」という用語は、元のタンパク質またはポリペプチドと比較した場合のタンパク質またはポリペプチドバリアントにおけるアミノ酸の変化または変異を指し、元のタンパク質またはポリペプチドに基づく1つ以上のアミノ酸の挿入、欠失または置換を含む。
【0066】
抗体の「可変領域」とは、単独のまたは組み合わせた、抗体軽鎖可変領域(VL)または抗体重鎖可変領域(VH)を指す。当該分野で知られているように、重鎖および軽鎖可変領域の各々は、4つのフレームワーク領域(FR)に接続された3つの相補性決定領域(CDR)(超可変領域とも呼ばれる)からなる。各鎖中のCDRは、FRによって緊密に一緒に保持され、他の鎖のCDRと共に抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。CDRを決定するための少なくとも2つの手法が存在する:(1)異種間配列変動に基づく方法(すなわち、Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest(第5版、1991年、米国国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州));および(2)抗原-抗体複合体の結晶学的研究に基づく方法(Al-Lazikani et al., J. Molec. Biol. 273:927-948頁(1997年))。本明細書で使用される場合、CDRは、2つの方法のいずれかまたは組み合わせによって決定されたものを指すことができる。
【0067】
「抗体フレームワーク」または「FR領域」という用語は、VLまたはVHのいずれかの可変ドメインの一部を指し、この可変ドメインの抗原結合ループ(CDR)のためのスキャフォールドとして機能する。基本的に、それはCDRのない可変ドメインである。
【0068】
「CDR」という用語は、主に抗原結合に寄与する、抗体可変ドメインに存在する6つの超可変領域のうちの1つを指す。6つのCDRの最も一般的に使用される定義の1つは、Kabat E.A. et al.((1991年)Sequences of proteins of immunological interest. NIH Publication 91-3242頁)によって与えられる。本明細書のいくつかの実施形態で使用される場合、CDRは、軽鎖可変ドメインCDR1、CDR2およびCDR3(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)、ならびに重鎖可変ドメインCDR1、CDR2およびCDR3(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)の定義のために、例えば、本開示のCD3抗体のCDRの定義のために、Kabat基準(Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest(第5版、1991年、米国国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州))に従って定義され得る。他の実施形態では、CDRはIMGT基準などに従って定義することもできる。例えば、B7H3抗体のCDRはIMGT基準に従って定義される。
【0069】
「腫瘍抗原」という用語は、「腫瘍関連抗原」または「TAA」(腫瘍細胞で産生され、癌と対応する正常組織で差次的に発現されるタンパク質を指す)と「腫瘍特異的抗原」または「TSA」(腫瘍細胞で産生され、対応する正常組織と比較して癌で特異的に発現または異常に発現される腫瘍抗原を指す)を含む、腫瘍細胞によって産生される物質、任意にタンパク質を指す。
【0070】
「腫瘍関連抗原」の非限定的な例には、例えば、AFP、ALK、B7H3、BAGEタンパク質(BAGE protein)、BCMA、BIRC5(survivin)、BIRC7、β-カテニン、brc-ab1、BRCA1、BORIS、CA9、CA125、炭酸脱水酵素IX(carbonic anhydrase IX)、カスパーゼ-8(caspase-8)、CALR、CCR5、CD19、CD20(MS4A1)、CD22、CD30、CD33、CD38、CD40、CD123、CD133、CD138、CDK4、CEA、クローディン18.2(ClaudBin 18.2)、サイクリン-B1、CYP1B1、EGFR、EGFRvIII、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、EpCAM、EphA2、Fra-1、FOLR1、GAGEタンパク質(GAGE protein)(GAGE-1、-2など)、GD2、GD3、GloboH、Glypican-3、GM3、gp100、Her2、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、IL13Rα2、LMP2、κ-Light、LeY、MAGEタンパク質(MAGE protein)(MAGE-1、-2、-3、-4、-6、-12など)、MART-1、メソテリン(mesothelin)、ML-IAP、MOv-γ、Muc1、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、Muc16(CA-125)、MUM1、NA17、NKG2D、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ESO1、OX40、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、PSMA(FOLH1)、Bタンパク質(RAGE protein)、Ras、RGS5、Rho、ROR1、SART-1、SART-3、STEAP1、STEAP2、TAG-72、TGF-β、TMPRSS2、Thompson-nouvelle抗原(Tn)、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ(tyrosinase)、ウロプラキン-3(uroplakin-3)および5T4(トロホブラスト糖タンパク質(Trophoblast glycoprotein))が含まれる。
【0071】
「CD3」は、多分子T細胞受容体(TCR)の一部としてT細胞に発現する抗原を指し、4つの受容体鎖(CD3-ε、CD3-δ、CD3-ζおよびCD3-γ)のうちの2つによって形成されるホモ二量体またはヘテロ二量体である。ヒトCD3-ε(hCD3ε)は、UniProtKB/Swiss-Prot:P07766.2に記載されるアミノ酸配列を含む。ヒトCD3-δ(hCD3δ)は、UniProtKB/Swiss-Prot:P04234.1に記載されるアミノ酸配列を含む。したがって、「CD3」という用語は、「マウスCD3」、「サルCD3」などの非ヒト種由来であることを特に示さない限り、ヒトCD3を指す。
【0072】
「エピトープ」または「抗原決定基」は、免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、通常、固有の空間コンホメーションにおいて、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個の連続または非連続アミノ酸を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology、第66巻、G.E. Morris編(1996年)を参照されたい。
【0073】
「特異的に結合する」、「選択的に結合する」、「選択的結合」または「特異的結合」という用語は、抗原上の所定のエピトープへの抗体の結合を指す。典型的には、抗体は、約10-8M未満、例えば、約10-9M、10-10Mもしくは10-11M未満またはそれ以下の親和性(KD)で結合する。
【0074】
「親和性」という用語は、単一のエピトープにおける抗体と抗原との間の相互作用の強さを指す。各抗原部位内で、抗体「アーム」の可変領域は、弱い非共有結合力を介して複数のアミノ酸部位で抗原と相互作用する;相互作用が大きいほど、親和性が強くなる。本明細書で使用される場合、抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、Fabフラグメント)の「高親和性」という用語は、一般に、1E-9M以下のKD(例えば、1E-10M以下のKD、1E-11M以下のKD、1E-12M以下のKD、1E-13M以下のKD、1E-14M以下のKDなど)を有する抗体または抗原結合フラグメントを指す。
【0075】
「KD」または「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用についての解離平衡定数を指す。典型的には、抗体は、例えば、Biacore装置の表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって決定される約1E-8M未満(例えば、約1E-9M、1E-10Mもしくは1E-11M未満またはそれ以下)の解離平衡定数(KD)で抗原に結合する。KD値が小さいほど、親和性は高くなる。
【0076】
「核酸分子」という用語は、DNA分子およびRNA分子を指す。核酸分子は一本鎖でも二本鎖でもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に置かれると「作動可能に連結」される。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を与える場合、コード配列に作動可能に連結されている。
【0077】
「ベクター」という用語は、1つ以上の標的遺伝子または配列を送達することができ、好ましくは宿主細胞でそれらを発現することができる構築物を意味する。ベクターの例には、限定されるものではないが、ウイルスベクター、裸のDNAまたはRNA発現ベクター、プラスミド、コスミドまたはファージベクター、カチオン性凝固剤に関連するDNAまたはRNA発現ベクター、リポソームにカプセル化されたDNAまたはRNA発現ベクター、およびプロデューサー細胞などの特定の真核細胞が含まれる。
【0078】
抗体および抗原結合フラグメントを産生および精製するための方法は、当技術分野で周知である。例えば、Antibodies:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor、ニューヨーク、第5~8および15章。例えば、マウスを抗原またはそのフラグメントで免疫化することができ、次いで、当技術分野で周知の従来の方法を使用することによって、得られた抗体を再生、精製、およびアミノ酸配列決定することができる。抗原結合フラグメントも、従来の方法によって調製することができる。本開示の抗体または抗原結合フラグメントは、1つ以上のヒトフレームワーク領域を、非ヒト抗体に由来するCDR領域に組み込むように操作される。ヒトFR生殖細胞系列配列は、MOEソフトウェアによりIMGTヒト抗体可変生殖細胞系列遺伝子データベースに対してアラインメントすることによって、ウェブサイトhttp://imgt.cines.frから、またはThe Immunoglobulin Facts Book、2001年、ISBN 012441351から取得することができる。
【0079】
「宿主細胞」という用語は、発現ベクターが導入された細胞を指す。宿主細胞には、細菌、微生物、植物または動物細胞が含まれ得る。容易に形質転換される細菌には、大腸菌(Escherichia coli)またはサルモネラ菌株などの腸内細菌科;枯草菌などのバチルス科;肺炎球菌;連鎖球菌およびインフルエンザ菌のメンバーが含まれる。好適な微生物としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)が挙げられる。好適な動物宿主細胞株には、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、HEK293細胞(HEK293E細胞などの非限定的な例)、およびNS0細胞が含まれる。
【0080】
操作された抗体または抗原結合フラグメントは、従来の方法によって調製および精製することができる。例えば、重鎖および軽鎖をコードするcDNA配列をクローニングし、GS発現ベクターに組み込むことができる。組換え免疫グロブリン発現ベクターは、CHO細胞に安定にトランスフェクトすることができる。代替の先行技術として、哺乳動物発現系は、特にFc領域の高度に保存されたN末端部位において、抗体のグリコシル化をもたらし得る。抗原に特異的に結合する抗体を発現させることにより、安定なクローンが得られた。陽性クローンは、抗体産生のためにバイオリアクター内の無血清培養培地で増殖させることができる。抗体が分泌された培養培地は、従来の技術によって精製することができる。例えば、精製は、調整した緩衝液を含むProtein AまたはProtein G Sepharose FFカラムで行うことができる。非特異的結合成分は洗い流される。結合した抗体をpH勾配で溶出し、抗体フラグメントをSDS-PAGEで検出した後、プールする。抗体は、一般的な技術を用いてろ過および濃縮することができる。サイズ排除またはイオン交換などの一般的な技術によって、可溶性混合物および多量体を効果的に除去することができる。得られた生成物は、-70℃などで直ちに凍結するか、または凍結乾燥する必要がある。
【0081】
「投与」または「処置」は、動物、ヒト、実験対象、細胞、組織、臓器、または生体液に適用される場合、外因性の医薬品、治療用薬剤、診断用薬剤、または組成物を動物、ヒト、対象、細胞、組織、臓器、または生体液と接触させることを指す。「投与」および「処置」は、例えば、治療、薬物動態、診断、研究、および実験方法を指すことができる。細胞の処置(処理)は、試薬を細胞と接触させること、ならびに流体が細胞と接触している場合に試薬をその流体と接触させることを含む。「投与」または「処置」は、例えば、試薬、診断、結合化合物または別の細胞による、細胞のin vitroまたはex vivoでの処置も意味する。「処置」は、ヒト、獣医、または研究対象に適用される場合、治療的処置、予防的または予防的措置(prophylactic or preventative measures)、研究および診断へのアプリケーションを指す。
【0082】
「処置する」とは、本開示の化合物のいずれかを含む組成物などの治療用薬剤を、該薬剤が既知の治療活性を有する1つ以上の疾患症状を持つ患者に、内部的にまたは外部的に投与することを意味する。典型的には、該薬剤は、任意の臨床的に測定可能な程度でそのような症状の退行を誘導することによって、またはその進行を抑制することによって、処置される患者または集団における1つ以上の疾患症状を軽減するのに有効な量で投与される。任意の特定の疾患症状を軽減するのに有効な治療用薬剤の量(「治療有効量」とも呼ばれる)は、患者の病状、年齢および体重、ならびに患者において所望の反応を誘発する薬物の能力などのさまざまな因子によって変動し得る。疾患症状が軽減されたかどうかは、その症状の重症度または進行状況を評価するために医師または他の熟練した医療提供者によって通常使用される任意の臨床計測によって評価することができる。本開示の実施形態(例えば、処置方法または製造品)は、すべての患者の標的疾患症状を軽減するのに効果的ではないかもしれないが、スチューデントのt検定、カイ2乗検定、マンおよびホイットニー(Mann and Whitney)によるU検定、クラスカル-ウォリス(Kruskal-Wallis)検定(H検定)、ヨンクヒール-タプストラ(Jonckheere-Terpstra)検定およびウィルコクソン検定などの当技術分野で既知の任意の統計的検定によって決定される統計的に有意な数の患者において、標的疾患症状を軽減するはずである。
【0083】
「アミノ酸保存的改変」または「アミノ酸保存的置換」は、タンパク質またはポリペプチドの生物学的活性または他の必要な特徴(例えば、抗原に対する親和性および/または特異性)に影響を与えることなく頻繁にその変更を行うことができるように、タンパク質またはポリペプチド中のアミノ酸を類似の特徴(例えば、電荷、側鎖サイズ、疎水性/親水性、主鎖コンホメーションおよび剛性など)を有する他のアミノ酸で置換することを意味する。当業者は、一般に、ポリペプチドの非必須領域における単一のアミノ酸置換が生物学的活性を実質的に変化させないことを認識している(例えば、Watson et al.(1987年)Molecular Biology of the Gene, The Benjamin/Cummings出版社、224頁(第4版)を参照)。さらに、構造的または機能的に類似したアミノ酸による置換は、生物学的活性を破壊する可能性が低い。例示的な保存的置換は、以下の表「例示的なアミノ酸保存的置換」に記載されている。
【0084】
【0085】
「有効量」または「有効用量」は、任意の1つ以上の有益なまたは所望の結果を得るために必要な薬剤、化合物または医薬組成物の量を指す。予防的適用の場合、有益なまたは所望の結果には、状態の生化学的、組織学的および行動的症状、その合併症、ならびに状態の進行中の中間の病理学的表現型を含む、リスクの排除または低減、重症度の低減、または疾患の発症の遅延が含まれる。治療的適用の場合、有益なまたは所望の結果には、臨床結果、例えば、本開示の標的抗原に関連するさまざまな状態の発生率の低下または状態の1つ以上の症状の改善、状態を処置するために必要な他の薬剤(agents)の投与量の減少、別の薬剤(agent)の効果の増強、および/または患者における本開示の標的抗原に関連する状態の進行の遅延が含まれる。
【0086】
「外因性」とは、状況に応じて、生物、細胞またはヒトの外部で生成される物質を指す。「内因性」とは、状況に応じて、細胞、生物または人体で生成される物質を指す。
【0087】
「相同性」および「同一性」は、本明細書では交換可能であり、2つのポリヌクレオチド配列間または2つのポリペプチド間の配列類似性を指す。比較される2つの配列の両方のある位置が同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子の各々のある位置がアデニンによって占められている場合、それらの分子はその位置で相同である。2つの配列間の相同性のパーセンテージは、2つの配列によって共有される一致したまたは相同な位置の数を、比較する位置の数で割ってから、100を掛けた関数である。例えば、2つの配列を最適にアラインメントしたときに、2つの配列中の10個の位置のうち6個が一致または相同である場合、それらの2つの配列は60%相同である;2つの配列中の100個の位置のうち95個が一致または相同である場合、それらの2つの配列は95%相同である。一般に、2つの配列がアラインメントされているとき、比較は最大の相同性パーセテージを与えるように行われる。例えば、比較はBLASTアルゴリズムによって行うことができ、当該BLASTアルゴリズムでは、各参照配列の全長にわたって各配列間の最大の一致を与えるようにアルゴリズムのパラメータが選択される。
【0088】
以下の参考文献は、配列解析に頻繁に使用されるBLASTアルゴリズムに関する:BLAST algorithm(BLAST ALGORITHMS):Altschul, SF et al.,(1990年)J.Mol.Biol.215:403-410頁;Gish, W. et al.,(1993年)Nature Genet.3:266-272頁;Madden, TL et al.,(1996年)Meth. Enzymol.266:131-141頁;Altschul, SF et al.,(1997年)Nucleic Acids Res.25:3389-3402頁;Zhang, J. et al.(1997年)Genome Res.7:649-656頁。NCBI BLASTから利用可能なものなどの他の従来のBLASTアルゴリズムも当業者によく知られている。
【0089】
「単離された」とは、指定された分子が、核酸、タンパク質、脂質、炭水化物などの他の生体分子、または細胞残屑および増殖培地などの他の物質を実質的に含まない精製された状態を指す。一般に、「単離された」という用語は、本明細書に記載の化合物の実験的または治療的使用を著しく妨害する量で存在しない限り、これらの材料が完全に存在しないこと、または水、緩衝液もしくは塩が存在しないことを意味するものではない。
【0090】
「任意の」または「任意に」とは、続いて記載した出来事または状況が発生する可能性があるが、必ずしも発生するとは限らないことを意味し、その記載には、出来事または状況が発生する場合と発生しない場合が含まれる。例えば、「任意に、1~3個の抗体重鎖可変領域を含む」とは、特定の配列を有する抗体重鎖可変領域が存在し得るが、存在する必要はないことを意味する。
【0091】
「医薬組成物」は、本開示による1つ以上の化合物またはその生理学的/薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグと、他の化学成分(生理学的/薬学的に許容される担体および賦形剤など)とを含む混合物を意味する。医薬組成物は、生物への投与を促進し、活性成分の吸収を促進し、それによって生物学的効果を発揮することを目的とする。
【0092】
「薬学的に許容される担体」という用語は、抗体または抗原結合フラグメントの送達のための製剤での使用に適した任意の不活性物質を指す。担体は、接着防止剤、接着剤、コーティング剤、崩壊剤、充填剤または希釈剤、防腐剤(抗酸化剤、抗菌剤または抗真菌剤など)、甘味料、吸収遅延剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝液などであり得る。適切な薬学的に許容される担体の例には、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、デキストロース、植物油(例えば、オリーブ油)、生理食塩水、緩衝液、緩衝生理食塩水(buffered saline)、および等張剤(例えば、糖、ポリオール、ソルビトールおよび塩化ナトリウム)が含まれる。
【0093】
「癌」、「癌性」または「悪性」という用語は、一般に無秩序な(unregulated)細胞増殖を特徴とする哺乳動物の生理学的状態を指すか、または記述する。癌の例には、限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病またはリンパ系悪性腫瘍が含まれる。癌のより具体的な例には、扁平上皮癌、骨髄腫、小細胞肺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、T細胞/組織球に富む大細胞型B細胞リンパ腫(T-cell/histocyte-rich large B-cell lymphoma)、多発性骨髄腫、myeloid leukemia-protein 1(Mcl-1)、骨髄異形成症候群(MDS)、消化器(管)癌、腎臓癌、卵巣癌、肝臓癌、リンパ芽球性白血病、リンパ性白血病、結腸直腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、前立腺癌、甲状腺癌、黒色腫、軟骨肉腫、神経芽細胞腫、膵臓癌、多形性膠芽腫、胃癌、骨癌、ユーイング肉腫、子宮頸癌、脳癌、胃癌、膀胱癌、肝細胞腫瘍、乳癌、結腸癌、肝細胞癌(HCC)、腎明細胞癌(RCC)、頭頸部癌、肝胆道癌、中枢神経系癌、食道癌、悪性胸膜中皮腫、全身性軽鎖アミロイドーシス、リンパ形質細胞性リンパ腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性腫瘍、神経内分泌腫瘍、メルケル細胞癌、精巣癌、および皮膚癌が含まれる。
【0094】
「炎症性障害」は、過剰なまたは無秩序な(unregulated)炎症反応が過剰な炎症症状、宿主組織の損傷、または組織機能の喪失をもたらす、任意の疾患、障害または症候群を指す。「炎症性疾患」はまた、白血球または好中球の走化性プーリング(chemotaxis pooling)によって媒介される病理学的状態を指す。
【0095】
「炎症」は、組織の損傷または破壊によって引き起こされる保護的局所反応を指し、有害物質および損傷組織を破壊、軽減または排除(分離)するのに役立つ。炎症は、白血球または好中球の走化性プーリング(chemotaxis pooling)と有意に関連している。炎症は、病原性微生物およびウイルス、ならびに、外傷、心筋梗塞後の再灌流、脳卒中、外来抗原に対する免疫応答、および自己免疫応答などの非感染性の原因によって引き起こされ得る。
【0096】
「自己免疫疾患」は、組織の損傷が体液性または細胞性免疫によって媒介される身体自身の成分に対する応答に関連している疾患の群を指す。自己免疫疾患の非限定的な例には、関節リウマチ、乾癬、クローン病、強直性脊椎炎、多発性硬化症、I型糖尿病、肝炎、心筋炎、シェーグレン症候群、移植拒絶反応による自己免疫性溶血性貧血、小水疱性類天疱瘡(vesicular pemphigoid)、グレーブス病、橋本甲状腺炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症、天疱瘡、悪性貧血などが含まれる。
【0097】
さらに、本開示の別の態様は、標的抗原の免疫検出または決定のための方法、標的抗原の免疫検出または決定のための試薬、標的抗原を発現する細胞の免疫検出または決定のための方法、および標的抗原陽性細胞に関連する疾患を診断するための診断用薬剤であって、標的抗原を特異的に認識および結合する本開示のモノクローナル抗体または抗体フラグメントを活性成分として含むものに関する。
【0098】
本開示において、標的抗原の量を検出または測定するための方法は、任意の既知の方法であり得る。例えば、それにはイムノアッセイまたは免疫検出法が含まれる。
【0099】
イムノアッセイまたは免疫検出法は、標識された抗原または抗体を用いて、抗体または抗原の量を検出または測定する方法である。イムノアッセイまたは免疫検出法の例には、放射性物質標識免疫抗体法(RIA)、酵素イムノアッセイ(EIAまたはELISA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、発光イムノアッセイ、ウェスタンブロッティング、物理化学的方法などが含まれる。
【0100】
標的抗原陽性細胞に関連する上記の疾患は、本開示の抗体または抗体フラグメントを用いて標的抗原発現細胞を検出または測定することによって診断することができる。
【0101】
ポリペプチドを発現する細胞は、既知の免疫検出法によって、好ましくは免疫沈降、蛍光細胞染色、免疫組織染色などによって検出することができる。さらに、FMAT8100HTSシステム(Applied Biosystem)による蛍光抗体染色法などの方法も利用できる。
【0102】
本開示において、標的抗原について検出または測定されるサンプルは、標的抗原を発現する細胞を含むことが可能である限り、特に限定されず、例えば、組織細胞、血液、血漿、血清、膵液、尿、糞便、組織液または培養培地である。
【0103】
必要な診断方法に応じて、本開示のモノクローナル抗体またはその抗体フラグメントを含む診断用薬剤は、抗原抗体反応を行うための試薬または当該反応を検出するための試薬も含み得る。抗原抗体反応を行うための試薬には、緩衝液、塩などが含まれる。検出のための試薬には、イムノアッセイまたは免疫検出法において一般に使用される薬剤、例えば、モノクローナル抗体、その抗体フラグメントまたはコンジュゲートを認識する標識二次抗体、およびその標識に対応する基質が含まれる。
【0104】
本開示の1つ以上の実施形態の詳細は、上記の明細書に記載されている。好ましい方法および材料は以下に記載されるが、本明細書に記載されるものと類似または同一の任意の方法および材料が、本開示の実施または試験において使用され得る。本明細書および特許請求の範囲を通じて、本開示の他の特徴、目的および利点が明らかになるであろう。本明細書および特許請求の範囲において、文脈がそうでないことを明確に指示しない限り、単数形は複数の態様を含む。本明細書で明示的に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。本明細書で引用されるすべての特許および刊行物は、参照により援用される。以下の実施例は、本開示の好ましい実施形態をより完全に例示するために提示される。これらの例は、いかなる方法でも本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではなく、本開示の範囲は特許請求の範囲によって定義される。
【実施例】
【0105】
抗体の調製およびスクリーニング
モノクローナル抗体を作製する方法は、当該分野で知られている。使用できる方法の1つは、Kohler, G. et al. (1975年) “Continuous Cultures Of Fused Cells Secreting Antibody Of Predefined Specificity,” Nature 256:495-497頁に記載された方法またはその改変形態である。典型的には、モノクローナル抗体は、マウスなどの非ヒト種において生成される。一般的に、マウスまたはラットが免疫化のために使用されるが、ウサギおよびアルパカなどの他の動物も使用できる。抗体は、ヒトCD3または他の標的抗原(ヒトB7H3など)を含む免疫原量の細胞、細胞抽出物、またはタンパク質調製物でマウスを免疫化することによって調製される。免疫原は、限定されるものではないが、初代細胞、培養細胞株、癌細胞、核酸または組織であり得る。
【0106】
一実施形態では、標的抗原に結合するモノクローナル抗体は、標的抗原を過剰発現する宿主細胞を免疫原として使用することによって得られる。そのような細胞には、例えば、限定されるものではないが、ヒトT細胞、ヒトB7H3を過剰発現する細胞が含まれる。
【0107】
抗体反応をモニターするために、少量の生物学的サンプル(例えば、血液)を動物から採取し、免疫原に対する抗体の力価を試験することができる。脾臓および/またはいくつかの大きなリンパ節を除去して、単一の細胞に解離させることができる。必要に応じて、脾臓細胞は、細胞懸濁液を抗原でコーティングされたプレートまたはウェルに適用することによって、(非特異的付着細胞が除去された後に)選択され得る。膜結合抗原特異的免疫グロブリンを発現するB細胞はプレートに結合し、残りの懸濁液によって洗い流されることはない。続いて、得られたB細胞またはすべての解離した脾臓細胞を、骨髄腫細胞(例えば、X63-Ag8.653およびSaIk研究所(サンディエゴ、カリフォルニア州)のCell Distribution Centerから入手可能な細胞)と融合させることができる。脾臓またはリンパ球を骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを形成するために、ポリエチレングリコール(PEG)を使用することができる。次いで、ハイブリドーマを選択培地(例えば、ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン培地、別名「HAT培地」と呼ばれる)で培養する。続いて、得られたハイブリドーマを限界希釈によってプレート上に播種し、免疫原に特異的に結合する抗体の産生を、例えば、FACS(蛍光活性化細胞選別)または免疫組織化学(IHC)スクリーニングを使用して分析する。続いて、選択されたモノクローナル抗体分泌ハイブリドーマを、in vitro(例えば、組織培養フラスコまたは中空繊維リアクター内で)またはin vivo(例えば、マウスの腹水として)で培養する。
【0108】
細胞融合技術の別の代替法として、エプスタイン・バーウイルス(EBV)不死化B細胞を使用して、本発明のモノクローナル抗体を調製することができる。必要に応じて、ハイブリドーマを増殖させ、サブクローン化し、上清の抗免疫原活性を従来の分析方法(例えば、FACS、IHC、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、蛍光イムノアッセイなど)によって分析する。
【0109】
別の代替法では、標的抗原(CD3、B7H3など)に対するモノクローナル抗体および他の任意の同等の抗体を、当技術分野で知られている任意の方法(例えば、ヒト化、トランスジェニックマウスを用いた完全ヒト抗体の調製、ファージディスプレイ技術など)によって配列決定および組換え的に調製することができる。一実施形態では、標的抗原(例えば、CD3、B7H3)に対するモノクローナル抗体が配列決定され、次いで、そのポリヌクレオチド配列が発現または増殖のためにベクターにクローニングされる。目的の抗体をコードする配列は、宿主細胞内のベクター中で維持することができ、その後、宿主細胞を増殖させ、後で使用するために凍結することができる。
【0110】
抗CD3モノクローナル抗体および任意の他の同等の抗体のポリヌクレオチド配列を、「ヒト化」抗体を産生するための遺伝子操作に使用して、該抗体の親和性または他の特性を改善することができる。ヒト化抗体の一般的な原理は、抗体の抗原結合部分の基本配列を保持することを含み、一方、抗体の残りの非ヒト部分は、ヒト抗体配列で置換される。モノクローナル抗体のヒト化には、一般的に4つのステップが使用される。これらのステップは以下のとおりである:(1)元の抗体の軽鎖および重鎖可変ドメインのヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を決定するステップ;(2)ヒト化抗体を設計するステップ、すなわち、ヒト化のプロセスにおいてどの抗体フレームワーク領域が使用されるかを決定するステップ;(3)実際のヒト化方法/技術;および(4)ヒト化抗体のトランスフェクションおよび発現。例えば、米国特許第4816567号、第5807715号、第5866692号、および第6331415号を参照されたい。
【0111】
1.B7H3抗体の調製およびスクリーニング
【0112】
ヒトPBMC、脾臓、リンパ節組織を用いてB細胞を単離し、RNAを抽出して天然の一本鎖ファージ抗体のライブラリーを構築した。構築した天然の一本鎖ファージ抗体ライブラリーをパッケージングしてファージ粒子を形成し、これを液相法を用いたパニングによりスクリーニングした。ファージをビオチン化B7H3液相と会合させ、次いでストレプトアビジン磁気ビーズによって分離した。ヒトB7H3に結合する陽性配列を得るために、ビオチン化ヒトB7H3をパニングに使用した。いくつかのモノクローナルコロニーを採取し、ファージELISA試験のためにファージ一本鎖抗体にパッケージングした。モノクローナルファージのヒトB7H3およびマウスB7H3への結合能力をそれぞれ試験し、スクリーニング後にB7H3抗体を得た。
【0113】
検出に使用したB7H3関連抗原を以下に示す:
【0114】
検出用のヒトB7H3抗原
市販品(SinoBiological カタログ番号11188-H08H)
その配列は次のとおりである:
【化1】
【0115】
注:下線部分はB7H3の細胞外領域を表す;イタリックはHisタグを表す。
【0116】
検出用のサルB7H3抗原
市販品(SinoBiological カタログ番号90806-C08H)
その配列は次のとおりである:
【化2】
【0117】
注:下線部分はB7H3の細胞外領域を表す;イタリックはHisタグを表す。
【0118】
検出用のマウスB7H3抗原
市販品(SinoBiological カタログ番号50973-M08H)
その配列は次のとおりである:
【化3】
【0119】
注:下線部分はB7H3の細胞外領域を表す;イタリックはHisタグを表す。
【0120】
【0121】
注:二重下線部分はシグナルペプチド(シグナルペプチド:1-28)を表す;下線部分はB7H3の細胞外領域(細胞外ドメイン:29-466)を表し、29-139はIg様V型1ドメインを指し、145-238はIg様C2型1ドメインを指し、243-357はIg様V型2ドメインを指し、363-456はIg様C2型2ドメインを指す;点線は膜貫通領域(膜貫通ドメイン:467-487)を表す;イタリック体は細胞内領域(細胞質ドメイン:488-534)を表す。
【0122】
【0123】
注:二重下線部分はシグナルペプチド(シグナルペプチド:1-28)を表す;下線部分はB7H3の細胞外領域(細胞外ドメイン:29-466)を表し、29-139はIg様V型1ドメインを指し、145-238はIg様C2型1ドメインを指し、243-357はIg様V型2ドメインを指し、363-456はIg様C2型2ドメインを指す;点線は膜貫通領域(膜貫通ドメイン:467-487)を表す;イタリック体は細胞内領域(細胞質ドメイン:488-534)を表す。
【0124】
【0125】
注:二重下線部分はシグナルペプチド(シグナルペプチド:1-28)を表す;下線部分はB7H3の細胞外領域(細胞外ドメイン:29-248)を表す;点線は膜貫通領域(膜貫通ドメイン:249-269)を表す;イタリック体は細胞内領域(細胞質ドメイン:270-316)を表す。
【0126】
スクリーニングによって得られたB7H3抗体h1702の場合、IMGT番号付け基準によって定義された配列およびCDR配列は次のとおりである:
【化7】
【0127】
注:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順序で配置され、イタリック体の配列はFRを表し、下線付きの配列はCDRを表す。
【0128】
表1 B7H3抗体h1702の軽鎖および重鎖CDR配列
【表2】
【0129】
二重特異性抗体の性能をさらに改善するために、システイン置換変異がB7H3抗体h1702のVHおよびVLにおいて行われた。変異G103C(天然アミノ酸配列番号付けによる、配列番号16の位置103)が軽鎖可変領域に導入され、変異G44C(天然アミノ酸配列番号付けによる、配列番号15の位置44)が重鎖可変領域に導入され、一対のジスルフィド結合が形成された。該変異後の抗B7H3一本鎖抗体の重鎖および軽鎖可変領域は次のとおりである:
【化8】
【0130】
2.CD3抗体の調製およびスクリーニング
ヒト化CD3抗体は、変異、ライブラリー構築、ヒト化工学およびスクリーニングなどの方法によって、マウスCD3抗体に基づいて取得することができる。
【0131】
CD3抗原関連配列情報は以下のとおりである:
【0132】
検出用のヒトCD3抗原
市販品(SinoBiological カタログ番号CT038-H2508H)
その配列は次のとおりである:
【0133】
【0134】
注:下線部分はCD3εの細胞外領域(細胞外ドメイン:23-126)を表す;イタリック体はHisタグを表す。
【0135】
【0136】
注:下線部分はCD3δの細胞外領域(細胞外ドメイン:22-105)を表す;イタリック体はFlagタグを表す。
【0137】
検出用のサルCD3抗原
市販品(Acro biosystem カタログ番号CDD-C52W4-100ug)
その配列は次のとおりである:
【0138】
【0139】
注:下線部分はCD3εの細胞外領域(細胞外ドメイン:22-117)を表す;イタリック体はHisタグを表す。
【0140】
【0141】
注:下線部分はCD3δの細胞外領域(細胞外ドメイン:22-105)を表す;イタリック体はFlagタグを表す。
【0142】
検出用のマウスCD3抗原
市販品(SinoBiological カタログ番号CT033-M2508H)
その配列は次のとおりである:
【0143】
【0144】
注:下線部分はCD3εの細胞外領域(細胞外ドメイン:22-108)を表す;イタリック体はHisタグを表す。
【0145】
【0146】
注:下線部分はCD3δの細胞外領域(細胞外ドメイン:22-105)を表す;イタリック体はFlagタグを表す。
【0147】
【0148】
注:二重下線部分はシグナルペプチド(シグナルペプチド:1-28)を表す;下線部分はCD3εの細胞外領域(細胞外ドメイン:23-126)を表し、32-112はIg様ドメインを指す;点線は膜貫通領域(膜貫通ドメイン:127-152)を表す;イタリック体は細胞内領域(細胞質ドメイン:153-207)を表す。
【0149】
【0150】
注:二重下線部分はシグナルペプチド(シグナルペプチド:1-21)を表す;下線部分はCD3δの細胞外領域(細胞外ドメイン:22-105)を表す;点線は膜貫通領域(膜貫通ドメイン:106-126)を表す;イタリック体は細胞内領域(細胞質ドメイン:127-171)を表す。
【0151】
【0152】
注:二重下線部分はシグナルペプチド(シグナルペプチド:1-21)を表す;下線部分はCD3δの細胞外領域(細胞外ドメイン:22-117)を表す;点線は膜貫通領域(膜貫通ドメイン:118-138)を表す;イタリック体は細胞内領域(細胞質ドメイン:139-198)を表す。
【0153】
【0154】
注:二重下線部分はシグナルペプチド(シグナルペプチド:1-21)を表す;下線部分はCD3δの細胞外領域(細胞外ドメイン:22-105)を表す;点線は膜貫通領域(膜貫通ドメイン:106-126)を表す;イタリック体は細胞内領域(細胞質ドメイン:127-171)を表す。
【0155】
【0156】
注:二重下線部分はシグナルペプチド(シグナルペプチド:1-21)を表す;下線部分はCD3δの細胞外領域(細胞外ドメイン:22-108)を表す;点線は膜貫通領域(膜貫通ドメイン:109-134)を表す;イタリック体は細胞内領域(細胞質ドメイン:135-189)を表す。
【0157】
【0158】
注:二重下線部分はシグナルペプチド(シグナルペプチド:1-21)を表す;下線部分はCD3δの細胞外領域(細胞外ドメイン:22-105)を表す;点線は膜貫通領域(膜貫通ドメイン:106-126)を表す;イタリック体は細胞内領域(細胞質ドメイン:127-173)を表す。
【0159】
分析および最適化を繰り返した後、一連のヒト化抗CD3抗体配列が得られた。その重鎖可変領域配列は次のとおりである:
【0160】
表2 CD3ヒト化抗体の重鎖可変領域配列
【表3】
【0161】
その軽鎖可変領域配列は次のとおりである:
【化21】
【0162】
注:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順序で配置され、イタリック体の配列はFRを表し、下線付きの配列はCDRを表す。本明細書および以下の表3に記載されているCD3ヒト化抗体の軽鎖および重鎖可変領域CDR(LCDR1~LCDR3およびHCDR1~HCDR3)の番号および位置は、周知のKabat番号付け基準に準拠している。
【0163】
表3 CD3抗体のCDR配列
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0164】
一本鎖抗体の構築および調製
B7H3に対するscFvおよびCD3に対するscFvは、上記のB7H3抗体に由来する軽鎖および重鎖可変領域を接続することによって、ならびにCD3抗体に由来する軽鎖および重鎖可変領域を接続することによってそれぞれ生成され、ここで、リンカーは当技術分野で周知のものから選択することができる。例示的なリンカーは、(GGGGS)nまたは(GGGGS)nGGGから選択され得、ここで、nは、1、2、3または4であり得る。
【0165】
例示的な抗B7H3 scFvは次のとおりである:
【0166】
表4 さまざまな抗B7H3一本鎖抗体(scFvs)の配列リスト
【表5】
【0167】
例示的な抗CD3 scFvは次のとおりである:
【0168】
表5 さまざまな抗CD3一本鎖抗体(scFv)の配列リスト
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【0169】
二重特異性抗体の構築および調製
B7H3二価二重特異性抗体およびB7H3一価二重特異性抗体
【0170】
本開示のいくつかの実施形態では、B7H3二価二重特異性抗体の構造は
図1Aに示され、ここで、抗体のC末端はHisタグに標識されていてもよいし、標識されていなくてもよい。2つのB7H3抗原結合ドメインと1つのCD3抗原結合ドメインは、2つのFc含有鎖の設計された非対称構造に構成され、各B7H3抗原結合ドメインは2つの鎖のそれぞれにあり、抗原結合ドメインはすべてscFvの形態である。Fc領域は、抗体に正常な半減期および良好な安定性を維持させることができる。2つの鎖の設計により、ミスマッチの可能性が大幅に減少し、サンプルの均一性および標的抗体の収率が向上する。二重特異性抗体の特定の分子構造(フォーマット)を以下の表6に示す。さらに、本開示のいくつかの実施形態で使用されるB7H3一価二重特異性抗体の分子構造は、抗原結合ドメインを伴わずに、第2のポリペプチド鎖にFcドメインのみを有する。そのような構造を
図1Bに示す。
【0171】
【0172】
注:この表では、第1または第2のポリペプチド鎖のカルボキシル末端は、Hisタグに標識できることもできないこともある。L1、L2、L3、L4、L5、およびL6は、各抗原結合ドメインとFc領域を接続するためのリンカーを表す。
【0173】
【0174】
ここで、nは、1、2、3または4から選択され;好ましくは、L1におけるnは、2または3であり、より好ましくは3であり;L2におけるnは、1または2であり、より好ましくは1であり;L3またはL5におけるnは3である。任意に、抗原結合ドメインとFc領域を接続するために使用されるリンカーは、抗体機能ドメインを接続するために使用され得る任意の他のリンカーから選択され得、上記の配列によって定義されるリンカーに限定されない。
【0175】
上記の表6に示されているFc1およびFc2は、同じ配列を有するFcであることも、それぞれノブ-Fcおよびホール-Fc、またはそれぞれホール-Fcおよびノブ-Fcであることもできる。本発明のいくつかの実施形態では、ノブ-Fcおよびホール-Fcの配列は、好ましくは、表8に示されるとおりである:
【0176】
【0177】
上記の軽鎖および重鎖可変領域、一本鎖抗体、および二重特異性抗体について、VHおよび/またはVLおよび他の必要なドメインをコードするcDNAに基づいて、上記のポリペプチドまたは抗原結合フラグメントをコードするDNAを構築することができ、該DNAを原核生物発現ベクターまたは真核生物発現ベクターに挿入し、次いでその発現ベクターを原核生物または真核生物に導入して、ポリペプチドまたは抗原結合フラグメントを発現させる。
【0178】
例1.二重特異性抗体分子、ポジティブコントロール分子、およびネガティブコントロール分子の調製
【0179】
本開示の二重特異性抗体分子を設計するための方法に従って、特定の二重特異性抗体分子が設計および調製された。該分子の例示的なアミノ酸配列を以下の表9に示す:
【0180】
表9 二重特異性抗体の配列リスト
【表10-1】
【表10-2】
【表10-3】
【表10-4】
【表10-5】
【表10-6】
【表10-7】
【表10-8】
【表10-9】
【表10-10】
【表10-11】
【表10-12】
【表10-13】
【0181】
注:上記の表に示されているB7H3二価二重特異性抗体分子113、118、119、126、127、128、131、132、154、155、156、161、162、171、172および177の第2のポリペプチド鎖は、配列番号71に示されるように、VLB7H3-L5-VHB7H3-L6-ホール-Fcである;B7H3一価二重特異性抗体分子181~187の第2のポリペプチド鎖は、配列番号70に示されるように、ホール-Fcである。
【0182】
本発明で使用されるネガティブコントロール(NC1、NC2、NC3)およびポジティブコントロール(MGD009)二重特異性抗体のアミノ酸配列は以下のとおりである:
【0183】
NC1:B7H3結合ドメインは非関連抗体(抗フルオレセイン抗体、抗フルオレセイン)で置換されるが、CD3結合ドメインは保持される。そのアミノ酸配列についての参考文献は次のとおりである:The anti-fluorescein antibody used to form the control DART diabody was antibody 4-4-20(Gruber. M.et al.(1994年))。
【化22】
【0184】
NC2:B7H3結合ドメインは保持され、CD3結合ドメインのみが非関連抗体である抗フルオレセインで置換される。
【化23】
【0185】
注:配置順序はVLB7H3-リンカー-VHB7H3-リンカー-Fcである。下線付きの配列はB7H3抗体配列を表し、イタリック体はホール-Fc配列を表す。
【0186】
【0187】
ポジティブコントロールMGD009は3つの鎖を含み、その調製およびアミノ酸配列は、公開された特許出願WO2017030926A1に見出すことができる。そのアミノ酸配列は次のとおりである:
【化25-1】
【化25-2】
【化25-3】
【化25-4】
【0188】
例2.CD3-B7H3二重特異性抗体の発現および精製
【0189】
HEK293E細胞に二重特異性抗体を発現するプラスミド(鎖1:鎖2が1:1である)をトランスフェクトし、6日後に発現上清を回収し、高速遠心分離により不純物を除去した。清澄化した上清をNi Sepharose excelカラム(GE Healthcare)で精製した。A280の読み取り値がベースラインに低下するまでカラムをPBSで洗浄し、次いで、カラムをPBS+10mMイミダゾールで洗浄して非特異的に結合した不純物タンパク質を除去し、流出液を収集した。最後に、300mMイミダゾールを含むPBS溶液で標的タンパク質を溶出し、溶出ピークを収集した。溶出液サンプルを適切に濃縮した後、550緩衝液(10mM酢酸、pH5.5、135mM NaCl)で予め平衡化したゲルクロマトグラフィーSuperdex200(GE)でさらに精製した。標的ピークを収集した。サンプルを、脱塩カラムまたは限外ろ過遠心チューブを介して559緩衝液(10mM酢酸、pH5.5、9%スクロース)に対して平衡化し、分注して-80℃で保存した。
【0190】
試験例1.BIAcoreアッセイにより検出されたB7H3およびCD3に対する二重特異性抗体の親和性
【0191】
B7H3およびCD3に対する抗体親和性の検出は、捕捉抗体の形で行われた。BsAbは、CM5バイオセンサチップ(カタログ番号BR-1005-30、GE)またはProtein A(カタログ番号29127556、GE)バイオセンサチップと抗ヒトIgG抗体(カタログ番号BR-1008-39、ロット番号10260416、GE)を組み合わせて捕捉され、次いで、各抗原がチップの表面を通って流れた。反応シグナルを、Biacore T200装置を用いてリアルタイムで検出して、結合および解離曲線を得た。各実験サイクルの解離が完了した後、チップを洗浄し、再生緩衝液Glycine1.5(カタログ番号BR100354、GE)または3M MgCl2(ヒト抗体捕捉キット、カタログ番号BR100839、GE)で再生した。GE Biacore T200 Evaluationバージョン3.0ソフトウェアを使用して、データを(1:1)Langmuirモデルにフィッティングさせ、親和性値を取得した。
【0192】
CD3抗体VHの配列が変化した場合、配置順序は不変のままで、CD3に対する二重特異性抗体の親和性がわずかに変化した。HRH‐6およびHRH‐5配列を用いた場合、CD3に対する抗体の親和性が最も弱く、CD3への結合はBiacoreでは検出できなかった。
【0193】
表10 AFF3構造を有する二重特異性抗体の抗原結合親和性のBiacoreアッセイ結果
【表11】
【0194】
一例として、CD3抗原結合ドメインの重鎖可変領域としてHRH3を含む抗体をアッセイのために選択した。選択された抗体の中で、試験抗体118、127および132は、10-9および10-8MのレベルでそれぞれヒトB7H3およびヒトCD3に対する親和性を有し、これらはMGD009のレベルに匹敵する。これらの抗体はすべて、サル(cyno)B7H3およびヒトCD3の両方に対して強い交差結合活性を有する。
【0195】
表11 異なる順序で配置されたHRH3を含む二重特異性抗体の抗原結合親和性のBiacoreアッセイ結果
【表12】
【0196】
試験例2.細胞レベルでの抗体結合能力の測定
【0197】
二重特異性抗体が細胞表面抗原に結合する能力を、FACS法によって検出した。A498(ATCC、HTB-44)、CT26/hB7H3(マウス細胞CT26においてヒトB7H3を過剰発現する組換え細胞株(自社で構築)、CT26は中国科学院の細胞バンク、TCM37から入手した)、およびJurkat組換え細胞株(Jurkat細胞はATCC、PTS-TIB-152から入手した;組換え細胞株は、ルシフェラーゼ遺伝子を過剰発現させ、当該遺伝子の上流にNFAT応答エレメントを挿入することにより、Jurkat細胞を基に得られた)は、細胞表面の抗原B7H3およびCD3への結合のために別々に使用された。
【0198】
FACS緩衝液(98%PBS、2%FBS)を96ウェルU字型ボトムプレート(corning、3795)に添加して細胞を再懸濁し、段階希釈した抗体を加え、4℃で1時間インキュベートし、そしてプレートをFACS緩衝液で2回洗浄した。次に、APC抗ヒトIgG Fc抗体(biolegend、カタログ番号409306、1:50希釈)を各ウェルに添加し、4℃で30分間インキュベートし、2回洗浄し、細胞をFACS緩衝液に再懸濁し、最後にFACS CantoII(BD)によって蛍光シグナル値を読み取った。
【0199】
その結果、B7H3二価二重特異性抗体118、127および132ならびに(B7H3結合ドメインを保持し、CD3結合ドメインを非関連抗体に置換した)ネガティブコントロール抗体NC2は、(B7H3を高発現する)A498細胞株に結合でき(
図2A参照)、MGD009よりも強い結合能力を有し、B7H3標的に特異的な勾配依存性効果を示すことが示された。(B7H3結合ドメインを非関連抗体に置換したが、CD3結合ドメインを保持した)ネガティブコントロール抗体NC1は、A498に結合しない。同様に、二重特異性抗体118、127および132、MGD009ならびにNC2は、CT26/hB7H3に強く結合するが(
図2B参照)、B7H3を発現しないCT26細胞株には結合せず(
図2C参照)、このことはまた、試験二重特異性抗体が細胞膜表面上のB7H3標的に特異的に結合することを完全に実証している。抗体118、127および132はMGD009とは異なる結合能力を示し、そのような結合能力の差はA498細胞株よりもB7H3過剰発現CT26/hB7H3細胞株ではるかに有意であり、B7H3二価二重特異性抗体がB7H3高発現細胞への結合に関してより著しい利点を有し、B7H3一価二重特異性抗体MGD009と比較してより優れた安全ウィンドウを有するであろうことを示している。
【0200】
二重特異性抗体118、127および132ならびにネガティブコントロール抗体NC1は、Jurkat組換え細胞株に結合することができ(
図2D参照)、勾配依存性の効果を示す。これらの抗体の中で、118およびNC1はMGD009と同等のJurkat組換え細胞結合能力を有するが、127および132はわずかに弱い結合能力を示す。これは、CD3結合ドメインがB7H3結合ドメインとFCの間に位置しており、特定の立体障害がJurkat組換え細胞への結合に影響を与える可能性があるためであり得る。CD3結合ドメインのないネガティブコントロール抗体NC2はJurkat組換え細胞に結合せず、Jurkatに対する二重特異性抗体の結合がCD3標的に特異的であることを示している。
【0201】
試験例3.In vitro PBMC殺傷アッセイ
【0202】
腫瘍細胞に対する二重特異性抗体媒介PBMC殺傷アッセイは、細胞増殖を定量的に検出することによって達成された。細胞においてCell Titer-gloを用いることにより、生細胞の代謝の指標であり、培養中の細胞数に正比例するATPの含有量を検出した。
【0203】
B7H3の発現レベルが異なる3つの腫瘍細胞株(A498、U87(中国科学院細胞バンク、TCHu138)、Detroit562(ATCC、CCL-138))およびB7H3を発現しない1つのネガティブコントロール細胞株CHOK1(ATCC、CCL-61)を含む4つの異なる標的細胞(T)を用いた。エフェクター細胞(E)は健康なボランティアから得たPBMCであった。標的細胞を96ウェルプレートに播種し、一晩培養し、翌日、等量の新たに抽出したPBMCおよび段階希釈した試験二重特異性抗体(最高最終濃度300nMであり、1:3に希釈)、またはPBS(コントロール、エフェクター細胞および標的細胞を含む、抗体を含まない)を各ウェルに添加した。ブランクコントロール(ブランク、培地のみ、細胞または抗体なし)を設定した。E:Tの比率は、A498、U87、Detroit562およびCHOK1細胞について、それぞれ10:1、5:1、5:1および5:1であった。細胞を48時間インキュベートし、Cell Titer-gloで検出した(取扱説明書を参照)。シグナル値をマイクロプレートリーダーで読み取り、最終的に抑制率に変換した。Graphpad Prism 5を使用して、データを処理および分析した。
【0204】
抑制率%(抑制%)=100%-(シグナル値サンプル-シグナル値ブランク)/(シグナル値コントロール-シグナル値ブランク)
【0205】
3.1 さまざまな親和性を有する異なるCD3抗原結合ドメインを含む抗体の比較
【0206】
異なる親和性を有するCD3 scFvを使用して、異なるin vitro標的細胞殺傷効果を示すさまざまな二重特異性抗体を構築した(
図3Aおよび
図3Bを参照)。HRH5およびHRH6を含む二重特異性抗体155、156、185および186はそれぞれ、最も弱い殺傷効果を示し、これは、Biacore親和性アッセイの結果と一致している。
【0207】
3.2 B7H3一価および二価二重特異性抗体の比較
【0208】
構造AFF3(131および177をこの構造の例示的な抗体として使用した)およびAF3(181および187をこの構造の例示的な抗体として使用した)の比較は、異なる抗CD3抗体重鎖可変領域を含むscFvから構築された二重特異性抗体の実例として行われた(
図4Aおよび
図4Bを参照)。CD3-B7H3のAFF3構造を有するB7H3二価二重特異性抗体は、AF3構造を有するB7H3一価二重特異性抗体と比較して、in vitro細胞殺傷活性を大幅に増強している。このことは、異なるCD3 VHを含むすべての二重特異性抗体に適用される。
【0209】
【0210】
3.3 腫瘍殺傷活性に対するB7H3二価二重特異性抗体の異なる分子構造の効果
【0211】
同じ抗原結合ドメイン成分を共有するが配置順序が異なるB7H3二価二重特異性抗体分子161、162、113および126(
図5A参照)ならびに113および143(
図5B参照)を、腫瘍細胞殺傷活性についてパラレルに試験した。上記のすべての分子は、CD3抗原結合ドメインの重鎖可変領域としてHRH2を有する。結果は、異なる配置順序のB7H3二価特異的抗体分子がすべて、A498細胞に対して有意な殺傷効果を有することを示す。これらの抗体の中で、161、162、113および126は、MGD009と同等またはわずかに優れた殺傷活性を有する。異なる構造の配置順序は、B7H3二価二重特異性抗体の腫瘍細胞殺傷活性にほとんど影響を与えない。
【0212】
【0213】
3.4 二重特異性抗体は、B7H3の発現レベルが異なる腫瘍細胞株に対して殺傷効果を有する
【0214】
3つの試験二重特異性抗体118、127および132を、A498、U87およびDetroit562腫瘍細胞株に対するin vitro殺傷効果について試験した。殺傷効果はB7H3の発現レベルと正の相関がある。例えば、118は、A498、U87およびDetroit562に対して、それぞれ0.34、2.4および14.5nMのEC50を有する。3つの抗体分子すべてがこの傾向を示す。二重特異性抗体はいずれもB7H3-ネガティブコントロール細胞株CHOK1に対して殺傷効果を有さず、ネガティブコントロール二重特異性抗体NC1は、標的細胞株のいずれに対しても殺傷効果を有さなかった。合わせて、これらの2つの側面は、細胞殺傷が標的特異的な殺傷であり、二重特異性抗体によってエフェクター細胞をB7H3陽性標的細胞に向けてリダイレクトする(redirecting)必要があることを示している。
【0215】
表14 異なる標的細胞株の殺傷に向けた試験二重特異性抗体によって媒介されるPBMCのリダイレクト
【表15】
【0216】
3.5 A498細胞に対する異なる構造を有する二重特異性抗体の殺傷効果の比較
【0217】
3つの試験二重特異性抗体127、201および202を、A498腫瘍細胞株に対するin vitro殺傷効果について試験した。結果は、3つの構造を有する二重特異性抗体がすべて腫瘍殺傷活性を有し、その中で、二重特異性抗体127が201または202よりも優れた殺傷活性を有することを示す(
図5C参照)。
【0218】
試験例4.In vitro T細胞活性化アッセイ
【0219】
T細胞上の二重特異性抗体の活性化機能を検出するために、Jurkatの活性化後のNFAT駆動ルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現を、A498腫瘍細胞株の存在下または非存在下で、Jurkat組換え細胞株を用いて測定した。
【0220】
A498細胞を96ウェル細胞培養プレートに播種し(1×105/ml、100μL/ウェル)、37℃、5%CO2インキュベーター内に20~24時間置いた。翌日、細胞培養上清を除去した後、90μlのJurkat組換え細胞懸濁液(5.5×105/ml)および10μlの段階希釈した試験二重特異性抗体(最高最終濃度500nM、1:3勾配希釈)を各ウェルに添加し、ネガティブコントロール(A498およびJurkat組換え細胞を有する、抗体なし)およびブランクコントロール(培地を有する、細胞または抗体なし)を設定し、37℃、5%CO2インキュベーターで5~6時間インキュベートした。Jurkat組換え細胞の非腫瘍細胞特異的活性化のために、Jurkat組換え細胞および試験抗体をブランク96ウェル培養プレートに直接添加した。共培養後、100μlのBright-Glo試薬(Bright-Glo(商標)Luciferase Assay System、Promega、カタログ番号E2620)を各ウェルに添加し、室温で5~10分間置き、化学発光シグナル値を多機能マイクロプレートで読み取った。蛍光増加倍数(fluorescence fold increase)を、次式に従って算出した:
【0221】
増加倍数(fold increase)=(シグナルサンプル-シグナルブランク)/(シグナルコントロール-シグナルブランク)
【0222】
4.1 配置順序が異なるB7H3二価分子はすべてT細胞を効果的に活性化することができる
【0223】
B7H3二価二重特異性抗体118、127および132を、A498の存在下または非存在下でのJurkat組換え細胞の活性化について試験して、T細胞に対する二重特異性抗体の特異的および非特異的活性化効果を検証した。結果は、異なる配置順序を有するB7H3二価二重特異性抗体118、127および132が、腫瘍細胞株A498の存在下で、Jurkat組換え細胞株を効果的に活性化し、ルシフェラーゼの発現を有意に誘導できることを示す(
図6A参照)。結果は、ネガティブコントロール抗体NC1はルシフェラーゼの発現を誘導できないので、Jurkat組換え細胞の活性化はB7H3標的に特異的であることを示している。Jurkat組換え細胞の活性化には、CD3を発現するJurkat組換え細胞とB7H3を発現する腫瘍細胞の両方を、二重特異性抗体を介して共動員(co-recruitment)する必要がある。Jurkat組換え細胞がA498細胞の非存在下で単独で存在する場合(
図6B参照)、ルシフェラーゼの発現は非常に低く、いくつかの最も高い抗体濃度ポイントでわずかな弱いシグナルのみが検出され得る。
【0224】
【0225】
4.2 B7H3一価および二価二重特異性抗体の比較
【0226】
二価CD3-B7H3二重特異性抗体は、B7H3一価二重特異性抗体と比較して有意に増強された標的特異的T細胞活性化を有し、これは、試験例3に示されるようなB7H3一価分子と比較して増強されたB7H3二価分子のin vitro腫瘍殺傷能力と一致している。一方、非標的特異的T細胞活性化は変化しないままである。したがって、B7H3二価分子(131)はB7H3一価分子(181)よりも強い効果を有するが(
図7A参照)、T細胞の非特異的活性化によって引き起こされる副作用は増強されない(
図7B参照)。
【0227】
【0228】
試験例5.In vitro サイトカイン分泌アッセイ
【0229】
エフェクター細胞は、二重特異性抗体の媒介下で標的細胞に対してリダイレクトされ、標的細胞を殺傷しながらサイトカインを放出する。サイトカイン分泌は、細胞培養上清中のサイトカイン(IL2、IFNγ、およびTNFαを含む)の含有量をELISAで定量的に検出することによって分析された。
【0230】
実験デザインおよび使用した抗体は、試験例4に記載したものと同じであった。細胞培養上清をin vitro殺傷アッセイの最後に回収し、96ウェルプレート(Corning#3795)に添加し、後で使用するために-20℃で保存した。ELISAアッセイには、凍結培養上清を取り出し、室温で解凍し、3500rpmで10分間遠心分離し、上清をELISAアッセイ用に回収した。ELISAの手順は、キット(ヒトIL-2 ELISAキット、ヒトIFN-γ ELISAキット、ヒトTNF-α ELISAキット、Neobioscience、カタログ番号EHC003.96、EHC102g.96、EHC103a.96)に含まれている説明書に従った。
【0231】
結果は、試験二重特異性抗体がPBMCおよびB7H3陽性標的細胞A498の両方の存在下でIL2、IFNγおよびTNFαを分泌するようにPBMCを効果的に誘導でき(
図8A~8C参照)、これらの抗体の中で、MGD009および118が最も高いサイトカインの分泌レベルを誘導し、127および132がそれに続き、ネガティブコントロール抗体NC1が検出感度の範囲を超えるレベルでサイトカインの分泌を誘導することを示す。MGD009は、PBMCおよびB7H3陰性細胞CHOK1の両方の存在下、3つの最も高い濃度ポイントでIFNγおよびTNFαの放出を有意に誘導できるが(
図9A-
図9Cを参照)、3つの試験二重特異性抗体118、127および132はIFNγおよびTNFαの放出を誘導できず、非標的特異的サイトカインの分泌に関して、3つの試験二重特異性抗体がMGD009よりも優れた安全性を有することを示している。
【0232】
試験例6.ヒトPBMCで再構築したマウスA498モデルにおける薬力学試験
【0233】
この試験例では、マウスにおける本発明の試験CD3-B7H3二重特異性抗体の抗腫瘍効果を、ヒトPBMCで再構築されたNOGマウス(Beijing Charles River Experimental Animal Co., Ltd.)A498モデル(ATCC)を用いて評価した。
【0234】
5×106細胞/マウス/100μl(50%マトリゲルを含む)のA498細胞を、NOGマウスの右側腹部に皮下接種した。腫瘍保有マウスの腫瘍体積が約130~150mm3に達したとき、マウスをランダムに群化し、1群あたり5~6匹の動物とし、群化の日を実験の0日と定義した。0日目または1日目に、2人のボランティアから新たに抽出したPBMCを1:1の比率で混合し、5×106細胞/100μlをNOGマウスに腹腔内注射し、各抗体を週2回、合計6回腹腔内注射した。腫瘍体積および動物の体重を週に2回モニターし、データを記録した。ビヒクルは、抗体の代わりにPBS緩衝液を投与したネガティブコントロール群を意味する。
【0235】
抗体118および119は、低用量で一定の抗腫瘍効果を示し(
図10A)、用量依存的な効果を示した。抗体118は、実験終了時(20日目)に、0.01mpkおよび0.03mpkの用量でそれぞれ22.17%および60.39%の腫瘍抑制率(TGI)を示した。
【0236】
抗体113は14日目に一定の抗腫瘍効果を示し、0.6mpkおよび0.3mpk用量群の腫瘍抑制率はそれぞれ70.05%(p<0.05)および60.78%(p<0.05)に達した(
図10B)。20日目に、抗腫瘍効果は用量依存的に増加し続け、抗腫瘍率はそれぞれ100%(p<0.001)超および77.92%(p<0.05)である。
【0237】
0.12mpkおよび0.36mpkの投与条件下(
図10C)では、抗体118は、12日目に0.12mpkおよび0.36mpkの用量でそれぞれ39.18%および57.44%(p<0.001)の腫瘍抑制率を示し、腫瘍抑制率は21日目にそれぞれ81.72%(p<0.01)および100%超(p<0.001)に達した。結果の中で、0.36mpkの用量で、1匹のマウスは完全な腫瘍退縮さえ示した(1/6)。
【0238】
0.36mpkの用量(
図10D)では、抗体126は21日目に47.78%の腫瘍抑制率を示した(p<0.01)。抗体128は19日目に有意な抗腫瘍効果を示した(TGI=56.37%)。21日目までに、腫瘍抑制率は69.28%に増加した(p<0.001)。抗体127は12日目に76.20%の腫瘍抑制率を示し(p<0.001)、21日目に腫瘍抑制効果は増加し続け、腫瘍抑制率は100%超である(p<0.001)。5匹中3匹では、群化の日と比較して腫瘍体積が退縮し、他の2匹の腫瘍体積は完全に退縮した。
【0239】
抗体127の抗腫瘍活性は別の実験で繰り返された(
図10E)。腫瘍抑制率は14日目に90.6%に達し(p<0.001)、17日目に95.80%に増加した(p<0.001)。127は低用量(0.12mpk)および低投与頻度(週1回、127-0.36mpk-qw)でも有効であり、17日目の腫瘍抑制率はそれぞれ51.37%(p<0.001)および96.20%(p<0.001)に達した。
【0240】
試験例7.hCD3 KIマウスモデルにおける薬力学試験
【0241】
この実験では、Balb/c-hCD3マウスにCT26-hB7H3腫瘍細胞株(CT26細胞は中国科学院の細胞バンク、TCM37に由来し、CT26-hB7H3細胞はhB7H3を発現させることによって得られた)を皮下接種して、マウスの腫瘍成長に対する本発明のCD3-B7H3二重特異性抗体の抑制効果を評価した。
【0242】
雌のhCD3E Balb/cトランスジェニックマウスは、南京大学のモデル動物研究センター(証明書番号201801374/5/6、ライセンスSCXK(江蘇)2015-0001)から購入した。
【0243】
8×105細胞/マウス/100μlのCT26-hB7H3細胞を、hCD3マウスの右側腹部に皮下接種した。腫瘍保有マウスの腫瘍体積が約80~120mm3に達したとき、マウスをランダムに異なる群に分け、1群あたり7匹のマウスとした。群化の日を実験の0日目と定義し、各抗体の腹腔内注射を週2回、計5回行った。腫瘍体積および動物の体重を週に2回モニターし、データを記録した。ビヒクルは、抗体の代わりにPBS緩衝液を投与したネガティブコントロール群を意味する。
【0244】
結果は、抗体118が1mpkの用量での最初の投与後に強い効果を示し(
図11A)、腫瘍抑制率が13日目に38.34%に達した(p<0.05)ことを示す。
【0245】
抗体132は3.6mpkの用量で腫瘍成長を抑制する傾向を有し(
図11B)、腫瘍抑制率は13日目に26.35%に達した。
【0246】
試験例8.ラットにおけるPK実験
【0247】
この実験では、CD3-B7H3二重特異性抗体をSDラットの尾静脈に注射し、さまざまな時点でのラット血清中の抗体濃度を検出して、SDラットにおけるCD3-B7H3二重特異性抗体の代謝を評価した。
【0248】
試験薬をラットの尾静脈に3mg/kgで注射し、投与量は5mL/kgであった。採血をさまざまな時点、すなわち、投与前と投与後5分、8時間、1日、2日、4日、7日、10日、14日、21日、28日に行った。血清中の抗体濃度をELISA法により検出した。B7H3抗原(1μg/mL)またはCD3抗原(1μg/mL)をプレーティングし、抗ヒトFc-HRP(abcam、ab98624)を二次抗体として使用する2つの異なるELISA法を用いた。試験薬の薬物動態パラメータはWinnolinソフトウェアを使用して算出され、得られた主な薬物動態パラメータは表17に示されている。
【0249】
抗体118、127および132は、B7H3抗原結合領域に関して4.9~8.1日の半減期を有し、これはMGD009の半減期よりもわずかに長く、通常のIgG抗体のレベルに達し、CD3抗原結合領域に関して3.2~5.6日の半減期を有する。ここで、抗体118におけるB7H3およびCD3の2つの異なる抗原結合領域の速度論的パラメータはそれほど異ならないため、in vivoでの分子の完全性(integrity)は良好であり、半減期はそれぞれ4.9日および4.4日である。抗体127は、B7H3およびCD3の2つの異なる抗原結合領域に関して、それぞれ4.9日および3.2日の半減期を有する。曝露量(exposure amount)およびクリアランス率の違いは明らかで、CD3部分はB7H3部分より劣る。これは、CD3部分が分子構造の内部にあるため、分子の破壊ではなく、CD3の結合能力の弱化が原因である可能性が高い。抗体132は、抗体127の分子配列に基づいて、一対のジスルフィド結合をB7H3 scFvに組み込むことによって得られた。この変更により、分子の半減期が大幅に増加し(65~75%)、曝露量(exposure amount)およびクリアランス率も大幅に向上する。
【0250】
表17 ラットにおける主な薬物動態パラメータ
【表18】