(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】変圧器の高電圧側の電圧を近似的に決定する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240328BHJP
【FI】
H02M7/48 R
(21)【出願番号】P 2021552847
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2020055818
(87)【国際公開番号】W WO2020178377
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】102019105861.9
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515078095
【氏名又は名称】エスエムエイ ソーラー テクノロジー アクティエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SMA Solar Technology AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】サクスチェフスキ,ヴィタリ
(72)【発明者】
【氏名】ブエロ,トルステン
(72)【発明者】
【氏名】ラウシャー,フローリアン
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0177335(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0006366(US,A1)
【文献】特表2008-521374(JP,A)
【文献】特開2018-179930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器(4)の低電圧側の測定された電圧に基づいて前記変圧器(4)の高電圧側の電圧を近似的に決定する方法であって、
前記変圧器(4)の前記低電圧側で、デルタ電圧(u
Δ)及びストリング電圧(u
Y)及び位相角(Φ
Y)を測定するステップと、
前記ストリング電圧(u
Y)及び前記位相角(Φ
Y)を、前記低電圧側の、それぞれ、正及び負のシーケンス電圧(u
+、u
-)及び正及び負のシーケンスシステムの位相角(Φ
+、Φ
-)に変換するステップと、
前記低電圧側の、それぞれ、前記正及び負のシーケンス電圧(u
+、u
-)及び前記正及び負のシーケンスシステムの前記位相角(Φ
+、Φ
-)から、前記高電圧側の、それぞれ、正及び負のシーケンス電圧(u
*
+、u
*
-)及び前記正及び負のシーケンスシステムの位相角(Φ
*
+、Φ
*
-)を決定するステップと、
前記低電圧側の測定された前記デルタ電圧(u
Δ)及び前記ストリング電圧(u
Y)及び前記位相角(Φ
Y)から、前記高電圧側のゼロシーケンス電圧(u
*
0)及びゼロシーケンスシステムの位相角(Φ
*
0)の推定値を決定するステップと、
前記正、負及びゼロシーケンス電圧(u
*
+、u
*
-、u
*
0)及び前記位相角(Φ
*
+、Φ
*
-)を、前記変圧器(4)の前記高電圧側のストリング電圧及び/又はデルタ電圧に変換するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記高電圧側の前記正及び負のシーケンス電圧(u
*
+、u
*
-)は、前記低電圧側の前記正及び負のシーケンス電圧(u
+、u
-)に等しく設定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記正及び負のシーケンス電圧(u
*
+、u
*
-)を決定するため、それぞれ、前記正及び負のシーケンス電圧(u
+、u
-)に補正値(c
+、c
-)が追加される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記高電圧側の、それぞれ、前記正及び負のシーケンスシステムの前記位相角(Φ
*
+、Φ
*
-)は前記低電圧側の前記位相角(Φ
+、Φ
-)から設定され、前記正のシーケンスシステムの場合に30°のn倍であり、かつ、前記負のシーケンスシステムの場合に-30°のn倍である位相補正値が追加され、nは、前記変圧器(4)のタイプに応じた整数値である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
nの値は、前記変圧器(4)の変圧器シフトに応じて選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記低電圧側の測定された前記デルタ電圧(u
Δ)及び前記ストリング電圧(u
Y)に基づいて前記高電圧側の前記ゼロシーケンス電圧(u
*
0)及び前記ゼロシーケンスシステムの前記位相角(Φ
*
0)の推定値を決定するため、定性的障害決定が行われ、それによって、前記高電圧側の前記位相の1以上に障害が存在することが結論付けられることができ、かつ、それによって、前記高電圧側の前記位相の1つの地絡が検出されることができる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記定性的障害決定のため、測定された前記デルタ電圧(u
Δ)及び前記ストリング電圧(u
Y)から最小電圧(V
min)が決定され、測定された前記デルタ電圧(u
Δ)及び前記ストリング電圧(u
Y)を前記最小電圧(V
min)と比較することによって、前記高電圧側の相間短絡が示される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記定性的障害決定のため、測定された前記デルタ電圧(u
Δ)及び前記ストリング電圧(u
Y)から最大電圧(V
max)が決定され、前記最大電圧(V
max)を、前記変圧器(4)が接続される前記高電圧側
のグリッドの特性である比較値と比較することによって、前記高電圧側の地絡が示される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記比較値は前記グリッドの初期過渡短絡電力に依存する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記定性的障害決定の結果として、単極又は二極短絡が前記高電圧側に存在するかどうか、及び/又は、単極又は二極地絡が存在するかどうかが決定される、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
単極地絡が存在する場合、前記高電圧側の前記ゼロシーケンス電圧(u
*
0)の値が、前記負のシーケンス電圧(u
*
-)と前記正のシーケンス電圧(u
*
+)の平方根との積に等しく設定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
二極短絡が存在する場合、前記高電圧側の前記ゼロシーケンス電圧(u
*
0)の値が、ゼロに等しく設定される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
二極地絡が存在する場合、前記高電圧側の前記ゼロシーケンス電圧(u
*
0)の値が、前記負のシーケンス電圧(u
*
-)の平方根と前記正のシーケンス電圧(u
*
+)との商に等しく設定される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記高電圧側の前記ゼロシーケンスシステムの前記位相角(Φ
*
+)の値は、定性的に決定された障害が前記高電圧側のいずれの位相に存在するかに応じて、前記高電圧側の前記負のシーケンスシステムの前記位相角(Φ
*
-)に、0°、120°又は-120°である位相オフセット(ΔΦ)を加えた角度に等しく設定される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
変圧器(4)の低電圧側の測定された電圧に基づいて前記変圧器(4)の高電圧側の電圧を近似的に決定する装置であって、前記装置は、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成されていることを特徴とする、装置。
【請求項16】
インバータ(3)に統合される、請求項15に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の低電圧側の測定された電圧に基づいて、変圧器の高電圧側の電圧を近似的に決定する方法に関する。本発明はさらに、特にインバータの一部として、前記方法を実行するのに適した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータは、例えば太陽光発電システム(PVシステム)などのエネルギー供給システムで使用され、エネルギー供給システムは、直流を、電源グリッドへの供給に適したグリッド準拠の交流電流に変換するために使用される。特定の電源グリッドのガイドライン及び法規制によって、電源グリッドとインバータとの間のガルバニック絶縁が要望される又は必要とされる場合、インバータの交流出力と電源グリッドとの間に変圧器が配置される。
【0003】
特に、中電圧グリッドに直接接続された大規模な太陽光発電システムでは、変圧器の使用が不可欠である。例えば、標準仕様「IEEE 1547」によれば、電源グリッドの障害状態がエネルギー供給システム内で検出されることができ、かつ、特定の障害状態を検出した後、エネルギー供給システムがこれらに反応して、例えば、グリッドから切断されることが必要である。こうした障害状態は、例えば、変圧器の高電圧側での短絡である。具体的には、このことから障害状態を推測して必要に応じてインバータの給電動作を調整するために、ライン間電圧(デルタ電圧とも言う)及び/又は対地電圧(ストリング電圧とも言う)の既定の値のオーバーシュート及び/又はアンダーシュートが検出されることが規定されている。特定のタイプの変圧器は、高電圧側に中性線を有していないか、又は、低電圧側に中性線をまわさないことに注意する必要があり、このことは、情報消失を表すゼロシーケンス電圧が送電されないことを意味している。
【0004】
給電動作に必要な変更を実施することができるようにするには、様々なライン間電圧及び変圧器の高電圧側の対地電圧に関する知識が前提条件となる。
【0005】
しかしながら、例えば、変圧器が、その高電圧側で20kV(キロボルト)の範囲の電圧の中電圧グリッドに接続されている場合、これらの電圧の測定は、高電圧レベルのために非常に複雑でコストがかかることがある。したがって、一部のグリッドシステムでは、インバータの給電動作を変圧器の低電圧側の電圧レベルに依存させることが許容される。しかしながら、特に、ゼロシーケンス電圧が送電されない変圧器タイプの場合、変圧器の低電圧側の電圧条件は、変圧器の高電圧側の電圧条件を適切に反映しない。その場合、変圧器の低電圧側の電圧測定値に直接基づいて実行される障害判定が、変圧器の高電圧側で発生した障害を正しく検出することができない場合がある。正しく障害を検出するには、変圧器の高電圧側の電圧条件をできるだけ正確に知ることが不可欠である。
【0006】
Bollen及びStyvaktakisによる論文「Characterization of Three-Phase Unbalanced Dips」、IEEE、2000 Power Engineering Society Summer Meeting(Cat.No.00CH37134)、シアトル、ワシントン州、2000年、pp.899-904、vol.2では、変圧器の低電圧側の測定された電圧に基づいて、変圧器の高電圧側での障害状態について定性的ステートメントを作成する方法が説明されている。しかしながら、単なる定性的ステートメントは、変圧器の高電圧側の電圧値に関連する具体的な基準を実装するには適していない。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、変圧器の高電圧側の電圧条件が低電圧側の電圧条件に基づいて確実に定量化されることができ、その結果、変圧器の高電圧側の電圧値を測定しなくても変圧器の高電圧側の障害検出が実行されることができる、方法及び装置又はインバータを提供することである。
【0008】
この目的は、独立請求項の特徴を有する方法及びインバータによって達成される。有利な実施形態及びさらなる実施は従属請求項の対象である。
【0009】
冒頭で言及したタイプの本発明に係る方法は、デルタ電圧、ストリング電圧及び位相角が変圧器の低電圧側で測定され、かつ、ストリング電圧及び位相角が、低電圧側で、それぞれ、正及び負のシーケンス電圧及び正及び負のシーケンスシステムの位相角に変換される。その後、高電圧側の、それぞれ、正及び負のシーケンス電圧及び正及び負のシーケンスシステムの位相角が、低電圧側の、それぞれ、正及び負のシーケンス電圧及び正及び負のシーケンスシステムの位相角から決定される。高電圧側のゼロシーケンスシステムのゼロシーケンス電圧及び位相角の推定値が、低電圧側の測定されたデルタ電圧、ストリング電圧及び位相角から、変圧器の高電圧側でのストリング電圧及び/又はデルタ電圧への正、負及びゼロシーケンス電圧及び位相角への変換によって、決定される。
【0010】
変圧器の低電圧側の電圧は、例えば、変圧器を介して電源グリッドに結合されたインバータの端子に印加される電圧である。したがって、本発明に係る方法を実行するように構成された装置は、インバータの出力端子に配置されてもよく、又は、インバータに統合されてもよい。
【0011】
本発明に係る方法は、3つの必要な電圧のうちの2つ、すなわち、それぞれ正及び負のシーケンスシステムの電圧、及び、対応の位相角が、低電圧側の対応の測定可能な値から容易に取得されることができるので、回転座標系における高電圧側の電圧の決定が有利であるという基本的な考え方に基づいている。したがって、ゼロシーケンスシステムの対応のパラメータについてのみ、推定が行われなければならない。
【0012】
本方法の有利な実施形態では、高電圧側の正及び負のシーケンス電圧が、低電圧側の正及び負のシーケンス電圧に等しく設定される。そうする際、任意選択的に補正値が追加されることができる。好ましくは、高電圧側の正又は負のシーケンスシステムの位相角が低電圧側の位相角から設定され、ここで、正のシーケンスシステムの場合は30°のn倍であり、かつ、負のシーケンスシステムの場合は-30°のn倍である位相補正値が追加される。ここで、nは変圧器のタイプに応じた整数値である。特に、nの値は、変圧器の変圧器シフトに依存するか、又は、変圧器の変圧器シフトに等しくなるように選択される。上述した電圧の任意選択的な補正値を除いて、高電圧側の4つの必要な電圧パラメータが直接特定されることができる。
【0013】
本方法のさらに有利な実施形態では、低電圧側の測定されたデルタ電圧及びストリング電圧に基づいて、高電圧側のゼロシーケンス電圧及びゼロシーケンスシステムの位相角の推定値を決定するために定性的障害決定が実行され、それによって高電圧側の位相の1以上に障害が存在することが結論付けられることができ、かつ、それによって高電圧側の位相の1つの地絡が検出されることができる。ここでは、それは、最初は、障害が存在する1の位相又は複数の位相に定性的にのみ決定される。
【0014】
有利なことに、これを行う際に、それ自体よく知られていて確立されている方法が使用されることができる。例えば、定性的障害分析のため、測定されたデルタ電圧及びストリング電圧から最小電圧が決定されることができ、測定されたデルタ電圧及びストリング電圧を最小電圧と比較すると、高電圧側の相間短絡が示される。さらに、定性的障害決定では、測定されたデルタ電圧及びストリング電圧から最大電圧が決定されることができ、最大電圧を、変圧器が接続されている高電圧側のグリッドに特徴的な比較値と比較すると、高電圧側の地絡が示される。これにより、グリッドの初期過渡短絡電力に依存した比較値が選択されることができる。
【0015】
その結果、高電圧側に単極又は二極短絡があるかどうか、及び/又は、単極又は二極地絡があるかどうかを決定するためにこの定性的障害分析が使用されることができる。
【0016】
ゼロシーケンス電圧システムのパラメータのその後の推定は、より高品質の定性的障害分析のそのような結果に基づいて実行されることができる。したがって、単極地絡が存在する場合、高電圧側のゼロシーケンス電圧の値は、負シーケンス電圧と正シーケンス電圧の平方根との積に等しく設定される。二極短絡が存在する場合、高電圧側のゼロシーケンス電圧の値はゼロに等しく設定される。一方で、二極地絡の場合、高電圧側のゼロシーケンス電圧の値は、負シーケンス電圧の平方根と正シーケンス電圧との商に等しく設定される。
【0017】
本方法のさらに有利な実施形態では、高電圧側のゼロシーケンスシステムの位相角の値は、高電圧側の負のシーケンスシステムの位相角に、高電圧側のいずれの位相に定性的に決定された障害が存在するかに応じて、0°、120°又は-120°の位相オフセットを加えた角度に等しく設定される。
【0018】
本発明は、図面を用いて一実施形態の一例によって以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】電源グリッドに接続されたPVシステムの概略図。
【
図2】本開示に係る方法の一実施形態の概略的なフローチャート。
【
図3】本開示に係る統合デバイスを有するインバータのブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、分散型エネルギー供給システムの一例としてのPVシステム1のブロック図を示している。PVシステム1は、直流入力31を介してインバータ3に接続されるPV発電器2を備えている。インバータ3は、交流出力32を介して変圧器4の一次側41に接続される。示す例では、変圧器4は、その二次側42に約20kVの範囲の電圧を提供し、かつ、それに対応して電源グリッドとしての中電圧グリッド5に接続される中電圧変圧器である。
【0021】
PVシステム1の構造は、一例として簡略化された形態で
図1に示されている。中電圧グリッド5に直接給電するPVシステム1では、PVセルの記号のみで
図1に表されるPV発電器2は通常、多数のPVモジュールを備えており、そのいくつかは直列に接続されていわゆるPVストリングを形成し、PVストリングは今度はインバータ3に各々並列に接続される。このタイプのシステムでは、インバータ3は通常、中央インバータとして具体化される。示す例では、インバータ3は、中電圧グリッド5に関連して通常どおり、三相設計を有している。
図1では、本開示に関連して不可欠なPVシステム1の一部のみが示されている。インバータ3の直流又は交流側に配置された他の要素、例えば、切断又はスイッチング要素、フィルタ又は監視装置は明確化のために示されていない。
【0022】
通常、PVシステム1から離れて、中電圧グリッド5のさらなる過程で(高電圧)変圧器6が提供され、それを介して中電圧グリッド5は、高レベル電源グリッドとして機能する高電圧グリッド7に接続される。
【0023】
変圧器4の一次側41を二次側42からガルバニック絶縁することにより、PVシステム1の別個の接地が可能になり、これは、ここでは例示的にPV発電器2の負極を地電位に接続することによって、電源グリッド7のオペレータによってしばしば必要とされる。
【0024】
低電圧側では、変圧器4は、インバータ3に接続されたその一次側41に星形配列の巻線を有している。低電圧側では中性線接続は引き出されていない。変圧器の高電圧側の二次側42では、巻線も星構成で接続されており、中性線接続が別個に引き出されて接地接続として機能している。したがって、変圧器4はYNy変圧器である。
【0025】
本開示によれば、中電圧グリッド5における障害検出に関する要件を実施することができるようにするため、推定による変圧器4の低電圧側(一次側41)の測定された電圧から高電圧側(二次側42)の電圧を決定することが意図されている。変圧器4の一次側41の電圧は、例えば、インバータ3の変圧器側接続部の領域で測定されることができる。本開示に従って高電圧側の電圧を推定するのに適切な方法がフローチャートの形態で
図2に示されている。一例として、
図1に係るPVシステムに基づいて方法が説明される。
【0026】
第1ステップS1において、電圧は、インバータ3の交流出力32で、及びしたがって、変圧器4の低電圧側で測定される。具体的には、これらは、導体の2つの間のいわゆるデルタ電圧uΔ(以下、位相ともいう)と、導体と(人工)中性線との間のストリング電圧uYと、それらのストリング電圧に関連する位相角ΦYと、である。具体的には、3つのデルタ電圧uΔ、すなわち、第1位相及び第2位相の間の第1デルタ電圧uΔ12、第2位相及び第3位相の間の第2デルタ電圧uΔ23、第3位相及び第1位相の間の第3デルタ電圧uΔ31が測定される。デルタ電圧uΔが以下で参照される場合、上記3つの電圧から構成される。
【0027】
ストリング電圧uYはまた、3つの電圧値、すなわち、第1位相及び人工中性線の間で測定された第1ストリング電圧uY1、第2位相及び人工中性線の間で測定された第2ストリング電圧uY2、第3位相及び人工中性線の間で測定された第3ストリング電圧uY3を含む。再び、以下では、ストリング電圧uYが上述した3つの値であることが理解される。例えば、3つの等しい抵抗器を介して3つの位相に接続されているノードが人工中性線として見なされることができる。
【0028】
また、位相角ΦYは、3つの値、すなわち、第1ストリング電圧uY1の位相を示す第1位相角ΦY1、第2ストリング電圧uY2の位相を示す第2位相角ΦY2、第3ストリング電圧uY3の位相を示す第3位相角ΦY3を含む。
【0029】
ステップS2において、ストリング電圧uY及び位相角ΦYによって表される測定された時間依存電圧測定信号の回転座標系への変換が実行される。回転座標系での測定量の表現は、正のシーケンス電圧システム及び負のシーケンス電圧システムの既知の形式で実行され、それらの各々は、振幅及び位相の観点から複素数値で特定される。したがって、ステップS2において、正のシーケンス電圧振幅u+及び正のシーケンス電圧位相角Φ+は、ストリング電圧uY及び位相角ΦYの前述の入力量から決定される。さらに、負のシーケンス電圧振幅u-及び負のシーケンス電圧位相角Φ-が決定される。
【0030】
ステップS2で決定された4つの値は、次のステップS3で、変圧器4の高電圧側(二次側42)で対応の値に変換される。以下では、変圧器の高電圧側を参照する電圧値は、上付き文字のアスタリスク(*)によってマークされる。
【0031】
一実施形態では、低電圧側の対称成分(すなわち、正のシーケンス成分及び負のシーケンス成分)の高電圧側への変換は、正のシーケンス電圧及び負のシーケンス電圧の振幅が変圧器の低電圧側と高電圧側との間で変化しないという推定に基づいている。さらなる実施形態では、補正値c+又はc-が正及び負のシーケンスシステムについて考慮に入れられることができる。したがって、高電圧側の正及び負のシーケンス電圧の場合、これは次の結果になる。
u+
*=u++c+
u-
*=u-+c-
【0032】
変圧器の回路トポロジに応じて、変圧器の高電圧側の位相角Φ*
+又はΦ*
-は、対応の角度の位相角Φ+又はΦ-と30°のn倍だけ相違する。量nは、変圧器の回路トポロジに依存し、かつ、変圧器シフトとも呼ばれる。これは次の結果になる。
Φ*
+=Φ++n・30°
Φ*
-=Φ--n・30°
【0033】
ステップS2及びS3と並行して又は実質的に並行して実行されることができる次のステップS4では、高電圧側の障害の定性的表示が、デルタ電圧uΔ及びストリング電圧uYに基づいて決定される。これに関連して、ステップS4は、高電圧側に存在する可能性のある障害を直接表示するためには使用されないが、変圧器の高電圧側の電圧の推定を可能にするために実行され、これは、障害検出のために最終的に使用される。このことは、ステップS5及びS6に関連してより詳細に説明される。
【0034】
ステップS4では、高電圧側の位相の1つに障害が存在するかどうかが定性的に決定され、かつ、発見された障害が地絡であるかどうかが決定される。ステップ4での結果に応じて、情報Fが決定され、情報Fは、障害が存在するかどうか、及び、どの位相に障害が存在するかを示す。さらに、地絡を示す情報Gが決定される。これらの信号又は値は以下では障害情報F、Gという。障害情報F及びGは、ステップS5でさらに処理するために必要とされ、障害情報Fは、さらなるステップS6でさらに処理するために必要とされる。
【0035】
本方法の有利な実施形態では、冒頭で言及されたBollen及びStyvaktakisによる論文、IEEE、2000 Power Engineering Society Summer Meeting(Cat.No.00CH37134)、シアトル、ワシントン州、2000年、pp.899-904、vol.2に基づいた手順が、障害情報F、Gを決定するために使用される。具体的には、障害信号Fを決定するため、最小電圧振幅Vmin及び最大電圧振幅Vmaxが、デルタ電圧uΔ及びストリング電圧uYの間で決定される。さらに、高電圧側にいずれの変圧器タイプが存在するかについての情報が必要とされる。
【0036】
最小電圧振幅Vminが第1ストリング電圧uY1に対応する場合、Y変圧器の高電圧側の第1位相における障害と、D変圧器の第1デルタ電圧における障害とがある。最小電圧振幅Vminが第2ストリング電圧uY2に等しい場合、Y変圧器の高電圧側の第2位相における障害と、D変圧器の第2デルタ電圧における障害とがある。最小電圧振幅Vminが第3ストリング電圧uY3に等しい場合、Y変圧器の高電圧側の第3位相における障害と、D変圧器の第3デルタ電圧における障害とがある。高電圧側のストリング電圧及びデルタ電圧の定義は低電圧側の定義と類似している。
【0037】
一方で、最小電圧振幅Vminが第1デルタ電圧uΔ12に対応する場合、D変圧器の高電圧側の第2位相における障害と、Y変圧器の第1デルタ電圧における障害とがある。最小電圧振幅Vminが第2デルタ電圧uΔ23に対応する場合、Y変圧器の高電圧側の第3位相における障害と、D変圧器の第2デルタ電圧における障害とがある。最小電圧振幅Vminが第3デルタ電圧uΔ31に対応する場合、Y変圧器の高電圧側の第1位相における障害と、D変圧器の第3デルタ電圧における障害とがある。
【0038】
また、Bollenの方法に従って、最大電圧Vmaxをいわゆる「接地インジケータ」GIと比較することによって地絡が決定されることができる。電圧振幅Vmaxが値GIを下回る場合、地絡が結論付けられる。接地インジケータGIのサイズは、変圧器がその高電圧側に接続されているグリッドの初期過渡短絡電力に依存する。
【0039】
後続のステップS5及びS6において、高電圧側でのゼロシーケンスシステムにおけるゼロシーケンス電圧の振幅u*
0(ステップS5)、及び、ゼロシーケンスシステムの高電圧側での位相Φ*
0(ステップS6)は、ステップS3及びS4の結果としてこれまで決定されて利用可能であるパラメータから決定される。
【0040】
この目的のために、ステップS5において、障害情報F、G並びに高電圧側の正及び負のシーケンスシステムの電圧u*
+及びu*
-が必要とされる。本開示によれば、以下の計算規則がこの目的のために使用され、
u*
0=u*
-・f、
ここで、因数fは、ステップS4で決定された障害のタイプに依存する。したがって、因数fは、単極地絡障害の場合は(u*
+)1/2(すなわち、u*
+の平方根)に等しく、二極短絡の場合は0に等しく、かつ、二極地絡障害の場合はu*
-/u*
+に等しい。
【0041】
ステップS4で正確な障害決定ができなかった場合、ゼロシーケンスシステムの振幅u*
0は0に設定され、及びしたがって、基本的に二極短絡として扱われる。
【0042】
ステップS6では、高電圧側のゼロシーケンスシステムの位相角Φ*
0が、ステップS5と同様の方法で、以前に計算された量及び障害情報Fを使用して決定される。位相角Φ*
0は次のように計算され、
Φ*
0=Φ*
-+ΔΦ
ここで、ΔΦは、変圧器の高電圧側の第1位相、又は、高電圧側の第1位相及び第2位相の間の第1デルタ電圧に障害がある場合に0°である位相オフセットである。障害が、第2位相にある場合、又は、高電圧側の第2位相及び第3位相の間の第2デルタ電圧にある場合、位相オフセットΔΦは120°である。最後に、障害が、第3位相にある場合、又は、第3位相及び第1位相の間の第3デルタ電圧にある場合、位相オフセットΔΦは-120°である。
【0043】
ステップS5及びS6が実行された後、これらのステップの結果及びステップS3の結果は、変圧器の高電圧側の電圧条件を完全に記述する正、負及びゼロシーケンスシステム(各々、振幅及び位相角の観点から)を提供する。対応の値u*
+、u*
-、u*
0及びΦ*
+、Φ*
-、Φ*
0から、変圧器の高電圧側の個々の電圧が、回転基準システムから静特性基準システムへの対応の変換によって最終ステップS7で計算される。
【0044】
こうして計算された電圧は、ここでは詳細に示さないものの、後続のステップで使用され、インバータが特定のガイドラインに従って応答しなければならない変圧器の高電圧側にグリッド障害があるかどうかを、例えば、電源グリッドへの給電を停止することによって、若しくは、給電された電力又は流れる電流に対して給電を減らすことによって、チェックすることができる。
【0045】
図3は、変圧器の高電圧側の電圧を推定するための統合デバイスを有するインバータ3の一実施形態をブロック図の形態で示している。
【0046】
図3に示すインバータ3は、例えば、
図1に示すエネルギー供給システムに使用されることができる。インバータ3は、直流入力31で入力側に供給された直流(DC)を、交流出力32で出力側に提供される交流(AC)に変換する主な機能を有するDC/AC変圧器30を主要な構成要素として備えている。
図1の例のように、ここに示すインバータ3は三相設計を有している。
【0047】
インバータ3は、交流出力32に接続された電圧測定及び変換ユニット33をさらに備える。この接続により、電圧測定及び変換ユニット33は、
図2のステップS1に関連して説明したように交流出力32に接続された変圧器の低電圧側に印加される電圧及び位相角を測定することができる(
図1を参照)。これにより、デルタ電圧U
Δ及びストリング電圧U
Yの両方が測定されることができる。対応の位相角Φ
Yを含むストリング電圧U
Yのみを測定し、かつ、そこからデルタ電圧U
Δを決定することも可能である。
【0048】
電圧測定及び変換ユニット33内で、
図2のステップS2に示すように、ストリング電圧U
Y又は位相角Φ
Yの、正のシーケンス電圧システム及び負のシーケンス電圧システムの対応の値への変換も実行される。
【0049】
測定されて変換された値は、
図2のステップS3~S6に関連して示す処理ステップを実行する処理ユニット34に転送される。これらのステップで決定された値は、処理ユニット34から再変換ユニット35に転送され、再変換ユニット35は、ステップS7に従って、静止システムの電圧値への再変換を実行する。
【0050】
こうして計算された変圧器の高電圧側の電圧の推定値はDC/ACコンバータ30の制御ユニットに転送され、DC/ACコンバータ30は、例えば、電源グリッドへの給電を停止することによって、又は、変圧器の高電圧側の計算された電圧値がグリッド障害を示す場合に給電される電力又は流れる電流に対して給電を減らすことによって、計算された値に従ってその給電動作を調整することができる。
【0051】
電圧測定及び変換ユニット33によって決定された値は、正弦波出力電圧又は正弦波出力電流を生成するためのパルス幅変調プロセスの一部として、DC/ACコンバータによって通常必要とされるので、DC/ACコンバータ30の制御デバイスにさらに転送されることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 PVシステム
2 PV発電器
3 インバータ
4 変圧器
5 中電圧グリッド
6 高電圧変圧器
7 高電圧グリッド
30 DC/ACコンバータ
31 直流入力
32 交流出力
33 電圧測定及び変換ユニット
34 処理ユニット
35 再変換ユニット
uΔ デルタ電圧(低電圧側)
uΔ12 第1デルタ電圧(低電圧側)
uΔ23 第2デルタ電圧(低電圧側)
uΔ31 第3デルタ電圧(低電圧側)
uY ストリング電圧(低電圧側)
uY1 第1ストリング電圧(低電圧側)
uY2 第2ストリング電圧(低電圧側)
uY3 第3ストリング電圧(低電圧側)
ΦY 位相角(低電圧側)
ΦY1 第1位相角(低電圧側)
ΦY2 第2位相角(低電圧側)
ΦY3 第3位相角(低電圧側)
u+ 正のシーケンス電圧振幅(低電圧側)
u- 負のシーケンス電圧振幅(低電圧側)
Φ+ 位相角正シーケンスシステム(低電圧側)
Φ- 位相角負シーケンスシステム(低電圧側)
u*
+ 正のシーケンス電圧振幅(高電圧側)
u*
- 負のシーケンス電圧振幅(高電圧側)
u*
0 ゼロシーケンス電圧振幅(高電圧側)
Φ*
+ 位相角正シーケンスシステム(高電圧側)
Φ*
- 位相角負シーケンスシステム(高電圧側)
Φ*
0 位相角ゼロシーケンスシステム(高電圧側)
n (30°の位相シフトの)数
c+、c- 補正値
F、G 障害情報
f 因数
ΔΦ 位相オフセット
Vmin、Vmax それぞれ最小電圧及び最大電圧
S1~S7 プロセスステップ