(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】回転電機、回転子及び電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240328BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2021561205
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2020038616
(87)【国際公開番号】W WO2021106395
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019213697
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】弁理士法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦辺 元基
(72)【発明者】
【氏名】大戸 基道
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/102580(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/221521(WO,A1)
【文献】特開2019-068620(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0373573(US,A1)
【文献】特開2007-074898(JP,A)
【文献】特開2011-035997(JP,A)
【文献】特開2012-244649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子鉄心と、
前記回転子鉄心に埋め込まれた複数の永久磁石と、
を有し、
前記回転子鉄心は、前記複数の永久磁石の配置に応じて周方向の複数個所に形成された複数の磁極部を備え、
前記複数の永久磁石は、前記回転子鉄心の軸方向に垂直な横断面において略V字状に配置された一対の前記永久磁石を複数対含み、
前記磁極部は、前記一対の永久磁石の間に形成されている、
回転電機であって、
前記横断面における、前記一対の永久磁石のうち一方の永久磁石の第1垂直二等分線と、前記一対の永久磁石のうち他方の永久磁石の第2垂直二等分線と、の交点が、前記回転子鉄心の内部又は外周部に位置し、
前記一方の永久磁石と前記他方の永久磁石との間に、前記回転子鉄心を前記軸方向に貫通するとともに前記横断面における断面形状が前記周方向に略平行となるスリットを設け、
前記スリットは、
前記横断面において、互いに交わる前記第1垂直二等分線及び前記第2垂直二等分線と、前記一方の永久磁石及び前記他方の永久磁石とで囲まれた領域に位置しており、
前記横断面における前記スリットの形状は、短辺が前記
回転子鉄心の径方向に沿うと共に長辺が前記周方向に略平行な前記周方向に細長い略長方形であ
り、
前記回転子鉄心は、
前記一方の永久磁石が挿入配置される第1穴と、前記他方の永久磁石が挿入配置される第2穴と、前記第1穴と前記第2穴との間に位置する空隙と、を有し、
前記スリットは、
前記横断面における前記略長方形の長辺が、前記空隙に対し前記径方向に対向して配置されており、
前記空隙は、
前記第1穴及び前記第2穴にそれぞれ連通しており、
前記横断面における前記スリットの第3垂直二等分線が、前記空隙を通る
ことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
複数の永久磁石がそれぞれ埋め込まれる複数の埋め込み孔を備えるとともにそれら複数の埋め込み孔の配置に応じて周方向の複数個所に形成された複数の磁極部を備え、かつ、前記複数の埋め込み孔が、略V字状に配置される一対の埋め込み孔を複数対含む、回転子鉄心を形成するために用いられる薄肉円盤状の電磁鋼板であって、
前記一対の埋め込み孔のうち一方の埋め込み孔の第1垂直二等分線と、前記一対の埋め込み孔のうち他方の埋め込み孔の第2垂直二等分線と、の交点が、前記電磁鋼板の内部又は外周部に位置し、
前記一方の埋め込み孔と前記他方の埋め込み孔との間に、前記周方向に略平行となるスリット孔を設け、
前記スリット孔は、
互いに交わる前記第1垂直二等分線及び前記第2垂直二等分線と、前記一方の埋め込み孔及び前記他方の埋め込み孔とで囲まれた領域に位置しており、
前記スリット孔の形状は、短辺が前記
電磁鋼板の径方向に沿うと共に長辺が前記周方向に略平行な前記周方向に細長い略長方形であ
り、
前記電磁鋼板は、
前記一方の埋め込み孔と前記他方の埋め込み孔との間に位置する空隙を有し、
前記スリット孔は、
前記略長方形の長辺が、前記空隙に対し前記径方向に対向して配置されており、
前記空隙は、
前記一方の埋め込み孔及び前記他方の埋め込み孔にそれぞれ連通しており、
前記スリット孔の第3垂直二等分線が、前記空隙を通る
ことを特徴とする電磁鋼板。
【請求項3】
請求項
2に記載の電磁鋼板を軸方向に複数枚積層し、前記埋め込み孔に埋め込まれた複数の永久磁石を備えた回転子。
【請求項4】
請求項
3に記載の回転子を備えた回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、回転電機、回転子及び電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ロータコアの永久磁石の長手方向端部の外周側に空隙群を設けた、回転電機のロータコアが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばエンコーダを用いることなく回転子の回転方向位置を検出する場合、検出精度を向上し良好な制御性を得るためには、突極比(=q軸方向のインダクタンス/d軸方向のインダクタンス)をなるべく大きくする必要がある。上記従来技術では、上記空隙群における各空隙の配置に工夫することで、q軸方向のインダクタンスをある程度大きくすることができるが、さらなる突極比の向上が望まれている。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、突極比を向上することができる回転電機、回転子及び電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一の観点によれば、回転子鉄心と、前記回転子鉄心に埋め込まれた複数の永久磁石と、を有し、前記回転子鉄心は、前記複数の永久磁石の配置に応じて周方向の複数個所に形成された複数の磁極部を備え、前記複数の永久磁石は、前記回転子鉄心の軸方向に垂直な横断面において略V字状に配置された一対の前記永久磁石を複数対含み、前記磁極部は、前記一対の永久磁石の間に形成されている、回転電機であって、前記回転子鉄心のうち前記一対の永久磁石のうち一方の永久磁石と他方の永久磁石との間に設けられ、前記回転子鉄心を前記軸方向に貫通し、前記横断面における断面形状が前記周方向に略平行となるスリットを有し、前記回転子鉄心の軸心から前記磁極部の中心方向に延びる軸をd軸、前記中心方向と電気角において90°ずれた方向に延びる軸をq軸とした場合に、前記一対の永久磁石及び前記スリットは、前記横断面における前記一方の永久磁石と前記他方の永久磁石との間の領域に前記回転電機のトルク電流によるq軸磁束が通過するように構成されている回転電機が適用される。
【0007】
また、上記課題を解決するため、本発明の別の観点によれば、回転子鉄心と、前記回転子鉄心に埋め込まれた複数の永久磁石と、を有し、前記回転子鉄心は、前記複数の永久磁石の配置に応じて周方向の複数個所に形成された複数の磁極部を備え、前記複数の永久磁石は、前記回転子鉄心の軸方向に垂直な横断面において略V字状に配置された一対の前記永久磁石を複数対含み、前記磁極部は、前記一対の永久磁石の間に形成されている、回転電機であって、前記横断面における、前記一対の永久磁石のうち一方の永久磁石の第1垂直二等分線と、前記一対の永久磁石のうち他方の永久磁石の第2垂直二等分線と、の交点が、前記回転子鉄心の内部又は外周部に位置し、前記一方の永久磁石と前記他方の永久磁石との間に、前記回転子鉄心を前記軸方向に貫通するとともに前記横断面における断面形状が前記周方向に略平行となるスリットを設けた回転電機が適用される。
【0008】
また、上記課題を解決するため、本発明のさらに別の観点によれば、複数の永久磁石がそれぞれ埋め込まれる複数の埋め込み孔を備えるとともにそれら複数の埋め込み孔の配置に応じて周方向の複数個所に形成された複数の磁極部を備え、かつ、前記複数の埋め込み孔が、略V字状に配置される一対の埋め込み孔を複数対含む、回転鉄心を形成するために用いられる薄肉円盤状の電磁鋼板であって、前記一対の埋め込み孔のうち一方の埋め込み孔と他方の埋め込み孔との間に設けられ、前記周方向に略平行となるスリット孔を有し、前記電磁鋼板の軸心から前記磁極部の中心方向に延びる軸をd軸、前記中心方向と電気角において90°ずれた方向に延びる軸をq軸とした場合に、前記一対の埋め込み孔及び前記スリット孔は、前記一方の埋め込み孔と前記他方の埋め込み孔との間の領域に前記回転鉄心を備えた回転電機のトルク電流によるq軸磁束が通過するように構成されている電磁鋼板が適用される。
【0009】
また、上記課題を解決するため、本発明のさらに別の観点によれば、複数の永久磁石がそれぞれ埋め込まれる複数の埋め込み孔を備えるとともにそれら複数の埋め込み孔の配置に応じて周方向の複数個所に形成された複数の磁極部を備え、かつ、前記複数の埋め込み孔が、略V字状に配置される一対の埋め込み孔を複数対含む、回転鉄心を形成するために用いられる薄肉円盤状の電磁鋼板であって、前記一対の埋め込み孔のうち一方の埋め込み孔の第1垂直二等分線と、前記一対の埋め込み孔のうち他方の埋め込み孔の第2垂直二等分線と、の交点が、前記電磁鋼板の内部又は外周部に位置し、前記一方の埋め込み孔と前記他方の埋め込み孔との間に、前記周方向に略平行となるスリット孔を設けた電磁鋼板が適用される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、突極比を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態の回転電機の外観の一例を表す側面図である。
【
図3】回転電機の内部構造の一例を表す一部破断側面図である。
【
図4】回転電機の磁極部分の構造の一例を表す、
図3中のIV-IV断面による横断面図である。
【
図5】回転子の全体構造の一例を表す側面図である。
【
図6】回転子鉄心の構造の一例を表す横断面図である。
【
図7】回転子鉄心の要部構造を表す、
図6の部分拡大図である。
【
図8A】スリットを設けない比較例における、永久磁石及びその周辺におけるq軸磁束の磁束密度の分布を表す説明図である。
【
図8B】スリットを設けない比較例における、永久磁石及びその周辺における代表的な磁束線の流れを模式化した説明図である。
【
図9A】一実施形態における、永久磁石及びその周辺におけるq軸磁束の磁束密度の分布を表す説明図である。
【
図9B】一実施形態における、永久磁石及びその周辺における代表的な磁束線の流れを模式化した説明図である。
【
図10】別の形状のスリットを設けた変形例における、回転子鉄心の要部構造を表す横断面図である。
【
図11】さらに別の形状のスリットを設けた変形例における、回転子鉄心の要部構造を表す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0013】
<回転電機の全体構成>
まず、
図1、
図2、
図3、
図4、及び
図5を用いて、実施形態に係る回転電機1の構成について説明する。
図1~
図3に示すように、回転電機1は、いわゆるインバータ一体型の回転電機として構成されており、本体部100と、インバータ部300と、を有している。なお、このようなインバータ一体型のものではなく、インバータとは分離独立した回転電機としてもよい。また回転電機1は、モータとして使用されてもよいし、発電機として使用されてもよい。
【0014】
<本体部>
図3に示すように、本体部100は、固定子2と回転子3とを備え、この例では、回転子3を固定子2の内側に備えたインナーロータ型のモータである。また当該回転電機1は、エンコーダなどの機械的なセンサを用いずに、電気的な処理によってその磁極位置を検出、制御するいわゆるセンサレス制御用の例えば3相交流モータである。
【0015】
図3及び
図4に示すように、固定子2は、回転子3と径方向に対向するように、フレーム4の内周面に円筒状のヨーク(図示省略)を介して設けられている。この固定子2は、固定子鉄心5と、固定子鉄心5に装着されたボビン6と、ボビン6に巻回されたコイル7とを有している。ボビン6は、固定子鉄心5とコイル7とを電気的に絶縁するために、絶縁性材料で構成されている。なお、フレーム4は、冷却のための冷却孔(図示省略)を設けてもよい。
【0016】
回転子3は、シャフト10の外周面に設けられている。シャフト10は、フレーム4の負荷側(
図1中右側)に設けられた負荷側ブラケット11に外輪が嵌合された負荷側軸受12と、フレーム4の反負荷側(負荷側の反対側。
図1中左側)に設けられた反負荷側ブラケット13に外輪が嵌合された反負荷側軸受14とにより回転自在に支持されている。また、
図4に示すように回転子3は、回転子鉄心20と、回転子鉄心20に複数設けられた永久磁石21と、を備えている。
【0017】
<インバータ部>
図3に示すように、インバータ部300は、ケーシング301と、ケーシング301内に設けられ、インバータ回路を備えるインバータ本体302と、カバー304と、を有している。上記インバータ回路は、適宜の交流電源から三相交流電流を生成し、本体部100へと供給する。
【0018】
なお、インバータ部300と本体部100との間には、冷却用のファン150が設けられている。ファン150が回転すると、カバー304から空気が取り込まれてインバータ部300を冷却し、固定子2の外周側を冷却して負荷側ブラケット11から排出される。
【0019】
<固定子鉄心>
固定子鉄心5は、この例では、略円環状の電磁鋼板を厚さ方向(シャフト10の軸方向)に複数枚積層した積層体により構成されている。
図4に示すように、固定子鉄心5は、円筒状の上記ヨークと、このヨークの内周側に等間隔に配置された複数(図示する例では12個)のティース18と、を備えている。各ティース18は、円筒状のヨークより内周側に突出するように設けられた本体部18aと、その本体部18aの内周側基部に位置し周方向の寸法が本体部18aよりも拡大された拡幅部18bと、を有する。
【0020】
拡幅部18bは、隣り合うティース18,18同士で相互に連結されている。つまり、固定子鉄心5は、円筒状の上記ヨークと、拡幅部18bが連結されることにより円筒状に連結された複数のティース18とが、分離するように構成される。固定子2は、コイル7が集中巻きで巻回されたボビン6を各ティース18に装着し、円筒状に連結された複数のティース18をヨークの内周に固定することで、組立てられる。上記の円筒状の複数のティース18をヨークに固定することにより組み立てられた固定子2は、フレーム4の内周面に取り付けられる。その後、樹脂が圧入され、ボビン6やコイル7等が樹脂でモールドされる。
【0021】
<回転子鉄心>
図5に示すように、回転子鉄心20は、この例では、薄肉円盤状(略円環状)の電磁鋼板20Aを厚さ方向(シャフト10の軸方向)に複数枚積層した積層体により構成されている。回転子鉄心20は、
図4に示すように、複数の永久磁石21の配置に応じて周方向(回転方向)の複数箇所に形成された複数の磁極部55(この例では8箇所)を外周部に有している。これにより、本実施形態の回転電機1は、いわゆる8P12S(8極12スロット)のスロットコンビネーション構成となっている。但し、回転電機1のスロットコンビネーション構成は上記以外でもよい。
【0022】
<磁極部>
次に、
図6及び
図7を用いて、各磁極部55の構成の一例について説明する。
図6において、回転子鉄心20は、いわゆるIPM型(Internal Permanent Magnet)である。すなわち、回転子鉄心20(言い替えれば電磁鋼板20A、以下同様)には、各永久磁石21を埋め込み配置するための複数の埋め込み孔71が形成されている。詳細には、回転子鉄心20の軸方向に垂直な方向の断面(以下、軸直交断面という)において、外周側に向けて開いた態様の略V字状に配置された一対の埋め込み孔71,71(それぞれ第1穴の一例、第2穴の一例に相当)が、回転子鉄心20の外周部に複数対、形成されている。このとき、各対の埋め込み孔71,71は、上記略V字状の下端部に位置する連通孔72(空隙の一例)を介し互いに連通している。すなわち、それら埋め込み孔71,71及び連通孔72が後述のスリット200とともに打ち抜き加工等によって形成された電磁鋼板20Aが積層されることにより、回転子鉄心20が形成されている。
【0023】
永久磁石21は、例えば略矩形形状に形成されており、その大きさ(軸直交断面での断面積)は、埋め込み孔71の大きさ(軸直交断面での断面積)とほぼ同じである。永久磁石21は、上記埋め込み孔71にそれぞれ軸方向に挿入され、接着剤により固定されて埋め込み配置される。この結果、回転子鉄心20において、外周側に向けて開いた態様の略V字状に配置された一対の永久磁石21,21が、回転子鉄心20の外周部に複数対埋め込まれて配置される。そして、回転子鉄心20のうち略V字状に配置された一対の永久磁石21,21の間に挟まれた領域(V字の内周角領域)が磁極部55となる。この例では、上記略V字状の配置において、V字を構成する2辺のなす角度が比較的小さい、深いV字形状となっている。その結果、上記軸直交断面において、例えば
図7中の左側に示す永久磁石21L(一方の永久磁石の一例)の垂直二等分線H1(第1垂直二等分線の一例)と、
図7中の右側に示す永久磁石21R(他方の永久磁石の一例)の垂直二等分線H2(第2垂直二等分線の一例)との交点Cが、回転子鉄心20の内部(円弧面55aよりも径方向内側)に位置している。なお、交点Cは、回転子鉄心20の外周部(円弧面55a上)に位置していてもよい。
【0024】
なお、回転子鉄心20の固定子鉄心5と対向する外周側面のうち、一対の永久磁石21,21の間に挟まれた領域の面(円弧面55a)を磁極部という場合もあるが、本実施形態では円弧面55aの径方向内側の領域である一対の永久磁石21,21の間に挟まれた内部領域も含めて磁極部という。
【0025】
各磁極部55における一対の永久磁石21,21は、N極の磁極部55では磁束が互いに向かい合うように、S極の磁極部55では磁束が互いに離れ合うような磁化方向に着磁されている。すなわち、一対の永久磁石21,21が互いに磁束が向かい合うようにそれぞれ着磁されている磁極部55がN極の磁極部となり、一対の永久磁石21,21が互いに磁束が離間するようにそれぞれ着磁されている磁極部55がS極の磁極部となる。そして、複数の磁極部55は、周方向に隣接する磁極部55どうしが互いに逆の極性となるように周方向に等間隔に配置されている。なお、上記「等間隔」は厳密な意味ではなく、設計上、製造上の公差、誤差等が許容される。すなわち、「実質的に等間隔」という意味である。
【0026】
<スリット>
回転子鉄心20のうち、略V字状に配置された上記一対の永久磁石21,21の間には、回転子鉄心20を軸方向に貫通するとともに、上記軸直交断面における横断面形状が回転子鉄心20の周方向と略平行な形状となる、スリット200が設けられている。言い替えれば、前述の電磁鋼板20Aに上記スリット200に対応したスリット孔が設けられており、そのスリット孔を備えた電磁鋼板20Aが複数枚積層されることで、回転子鉄心20においてスリット200が形成される。この例では、スリット200の横断面形状は略矩形(略長方形)となっており、その略矩形(略長方形)の短辺が径方向に沿うともに、長辺が周方向に略平行となっている。またこの例では、上記軸直交断面において、スリット200は、上記垂直二等分線H1と垂直二等分線H2よりも回転子鉄心20の径方向内側に位置しており、また当該スリット200の垂直二等分線H3(第3二等分線の一例)が上記連通孔72を通るように、配置されている。さらに、上記略矩形(略長方形)の長辺が、上記連通孔72に対し回転子鉄心20の径方向(
図7中の上下方向)に対向している。
【0027】
<実施形態の作用効果>
以上のように構成した本実施形態の回転子鉄心20において、スリット200を設けることにより得られる作用効果を以下に説明する。
【0028】
上述したように、本実施形態の回転電機1においては、回転子鉄心20に複数の永久磁石21が埋め込まれて配置されている。この場合、回転電機1の運転時においては、例えば固定子2に備えられたコイル7に通電される電流の大きさ・進み角、回転子3の回転角度、回転子3の磁気回路構造等に応じて、永久磁石21の端部に対し様々な方向から反磁界が作用することとなる。
【0029】
このとき、本実施形態においては、上記軸直交断面における回転子鉄心20の横断面において、一対の上記永久磁石21,21が略V字状に配置されるとともに、それら一対の永久磁石21,21どうしの間に、周方向に平行なスリット200が設けられている。
【0030】
そして、本実施形態においては、上記軸直交断面において、上記一対の永久磁石21,21の垂直二等分線H1,H2どうしの交点Cが、回転子鉄心20の内部(又は外周部でもよい)に位置している。言い換えれば、上記V字状のV字の深さが比較的深く、当該V字状の一対の永久磁石21,21により挟まれる略扇形の領域(=磁極部55)の面積が広くなっている。そして、その広い面積の扇形領域に、上記周方向に平行なスリット200が設けられている。これにより、回転子鉄心20の軸心から磁極部55の中心方向に延びる軸をd軸、上記中心方向と電気角において90°ずれた方向に延びる軸をq軸とした場合に、回転子鉄心20の外周側から到来するトルク電流によるq軸磁束は、上記スリット200のある上記扇形領域(磁極部55)を通過しやすくなる。すなわち、当該扇形領域(磁極部55)が、q軸方向の磁路として機能する。このことを、
図8A及び
図8B並びに
図9A及び
図9Bにより説明する。
【0031】
図8A及び
図9Aは、本願発明者等が解析により得た、前述の軸直交断面においてV字状に配置された永久磁石21及びその周辺における上記q軸磁束の磁束密度の分布を表す説明図であり、
図8B及び
図9Bは、
図8A及び
図9Aにそれぞれ対応し、代表的な磁束線の流れを模式した説明図である。
図8A及び
図9Aの右側に示すように、磁束密度を低密度から高密度に向かって「A」「B」「C」「D」「E」「F」「G」の7つの磁束密度帯に区分したときの、上記軸直交断面における各磁束密度帯の分布を表している。
図8Aは、比較例として、上記スリット200を設けない場合の上記磁束密度帯の分布を示しており、
図9Aは、上記スリット200を設けた上記実施形態における上記磁束密度帯の分布を示している。
【0032】
図9Aに示す実施形態においては、図中左上から右下に斜めに伸びる「C」の磁束密度帯が、スリット200の作用により、
図8Aの比較例に比べて左下側に引き込まれ(
図9A中の矢印a,b,c,d参照)、結果としてその左下側に隣接する、低密度領域である「B」の磁束密度帯の大きさが縮小している。またそれに伴い、上記「C」の磁束密度帯の図中右上に隣接する、高密度領域である「D」の磁束密度帯等も上記の左下側に引き込まれ(
図9A中の矢印e,f参照)、当該「D」の磁束密度帯の大きさが拡大している。すなわち言い換えれば、上記スリット200により上記扇形領域(磁極部55)がq軸方向の磁路として機能しq軸磁束の磁路が磁極部55を通りやすくなり、上記磁束が少なくとも各永久磁石21の外周側端部をつないだ包絡線LLよりも径方向内側まで進入して通過している。また、磁束線の流れをみると、
図9Bは、
図8Bと比較して、コイル7の外側を通るq軸磁束の磁束線MLが、スリット200に引き寄せられていて、それらの結果、磁極部55における高磁束密度領域が拡大され、q軸方向のインダクタンスを十分に大きくすることができる。この結果、突極比を向上することができる。
【0033】
また、本実施形態では特に、上記軸直交断面において、スリット200は、互いに交わる垂直二等分線H1及び垂直二等分線H2よりも、回転子鉄心20の径方向内側に位置している。これにより、スリット200は、上記V字状の奥深くに存在することとなるため、上記反磁界の分岐効果が向上する。
【0034】
また、本実施形態では特に、上記軸直交断面において、スリット200の断面形状は略矩形である。
【0035】
また、本実施形態では特に、スリット200は、上記軸直交断面における上記略矩形の長辺が、連通孔72に対し回転子鉄心203の径方向に対向して配置されている。これにより、上記連通孔72によって、q軸磁束が、上記V字状に配置された永久磁石21,21同士の間の領域(磁極部55)のスリット200より外側の部分を通過しやすくなり、当該部分をq軸方向の磁路として確実に機能させることができる。
【0036】
また、本実施形態では特に、連通孔72は、V字状に配置された一対の埋め込み孔71,71それぞれに連通している。これにより、回転子鉄心20の製造時に、2つの埋め込み孔71,71及び連通孔72を、1つの連続体として比較的容易に穿孔加工することができる。
【0037】
また、本実施形態では特に、上記軸直交断面におけるスリット200の垂直二等分線H3が連通孔72を通る。これにより、上記スリット200の周方向中心位置と、上記埋め込み孔71,71及び永久磁石21,21を配置するときのV字状形状の周方向中心位置とを、略一致させることができる。
【0038】
<その他変形例>
なお、以上では
図7を用いて説明したように、回転子鉄心20において、永久磁石21Lの垂直二等分線H1と永久磁石21Rの垂直二等分線H2との交点Cが回転子鉄心20の内部又は外周部に位置している場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、交点Cは、上記回転子鉄心20の外周部(円弧面55a)よりも若干径方向外側に離間していてもよい。そのときの交点Cから円弧面55aまでの距離(離間量)は、例えば上記軸直交断面におけるスリット200の厚さ方向(径方向寸法)寸法t以下、としてもよいし、永久磁石21の厚さ方向寸法T以下、としてもよい。これらの場合も、前述したように、永久磁石21L,21Rの間の領域に、トルク電流によるq軸磁束が通過するように構成することができ、前述と同様の効果を得る。
【0039】
また、上記の例では、
図7に示したように、軸直交断面において、スリット200が周方向に略平行である場合の一例として、スリット200の横断面形状が略長方形である場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、
図10に示すように、略円弧状のスリット200としてもよい。この場合、図示のように下に凸の形状ではなく、上下反転させた態様の上に凸の形状も考えられる。あるいは、
図11に示すように、略V字形状のスリット200としてもよい。この場合、図示の態様を上下反転させた態様の逆V字形状とすることも考えられる。本願明細書でいう上記「周方向に略平行」という定義は、これらのようにスリット200が(略長方形でない)横断面形状である場合も含むものである。いずれにしても、前述と同様、永久磁石21L,21Rの間の領域にトルク電流によるq軸磁束が通過する構成であれば足り、この構成によって前述と同様の効果を得る。
【0040】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態及び変形例による手法を適宜組み合わせて利用してもよい。
【0041】
その他、一々例示はしないが、上記実施形態等は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0042】
1 回転電機
3 回転子
20 回転子鉄心
20A 電磁鋼板
21 永久磁石
55 磁極部
55 円弧部(回転子鉄心の外周部の一例)
71 埋め込み孔(第1穴の一例、第2穴の一例)
72 連通孔(空隙の一例)
200 スリット
C 交点
H1 垂直二等分線(第1垂直二等分線の一例)
H2 垂直二等分線(第2垂直二等分線の一例)
H3 垂直二等分線(第3垂直二等分線の一例)