(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】歯科用印象材及び連合印象材
(51)【国際特許分類】
A61K 6/90 20200101AFI20240328BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20240328BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20240328BHJP
【FI】
A61K6/90
A61K6/15
A61K6/60
(21)【出願番号】P 2021566860
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039939
(87)【国際公開番号】W WO2021131291
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019237346
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 佑亮
(72)【発明者】
【氏名】新関 尚史
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-017315(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063618(WO,A1)
【文献】特開2006-273720(JP,A)
【文献】特許第5559904(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/163491(WO,A1)
【文献】特開2014-172891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 9/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連合印象法に用いられる歯科用印象材であって、
アルギン酸塩
としてアルギン酸カリウムと、水を含む主材ペーストと、
ゲル化反応剤
として無水硫酸カルシウムと、難水溶性液状化合物
として炭化水素化合物を含む硬化材ペーストを有し、
前記アルギン酸カリウムの1質量%水溶液の20℃における粘度は、100~400mPa・sであり、
前記主材ペースト中の前記アルギン酸塩の含有量は5~10質量%であり、
前記硬化材ペースト中の前記ゲル化反応剤の含有量は10~60質量%であり、
前記硬化材ペースト中の前記難水溶性液状化合物の含有量は10~50質量%であり、
前記硬化材ペーストに対する前記主材ペーストの質量比は1~5であり、
前記主材ペーストと、前記硬化材ペーストの練和物の稠度が38mm以上であり、
硬化体の圧縮強さが
0.50MPa以上であ
り、
硬化体の弾性ひずみが18.7%未満である、歯科用印象材。
【請求項2】
硬化体の弾性ひずみが
15.9%以下である、請求項1に記載の歯科用印象材。
【請求項3】
請求項1に記載の歯科用印象材と、アルギン酸塩印象材を有する、連合印象材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用印象材及び連合印象材に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科において、補綴物を作製する際に、口腔内の印象を採得する方法として、連合印象法が用いられている。
【0003】
連合印象法は、流動性が高い第1の印象材を歯牙に適用した後、流動性が低い第2の印象材を適用して、第1の印象材と、第2の印象材を互いに接合して連合させ、精度が高い印象を採得する方法である。
【0004】
従来、連合印象法として、寒天・アルジネート連合印象法が知られている(例えば、特許文献1参照)。寒天・アルジネート連合印象法では、連合印象材として、流動性が高い寒天印象材と、流動性が低いアルギン酸塩印象材が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、寒天印象材は、流動性が温度に依存するため、加熱溶解、保温、温度調整等の煩雑な操作が不可欠となり、操作性が低いという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、操作性に優れ、アルギン酸塩印象材と併用しても、精度が高い印象を採得することが可能な歯科用印象材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、連合印象法に用いられる歯科用印象材であって、アルギン酸塩としてアルギン酸カリウムと、水を含む主材ペーストと、ゲル化反応剤として無水硫酸カルシウムと、難水溶性液状化合物として炭化水素化合物を含む硬化材ペーストを有し、前記アルギン酸カリウムの1質量%水溶液の20℃における粘度は、100~400mPa・sであり、前記主材ペースト中の前記アルギン酸塩の含有量は5~10質量%であり、前記硬化材ペースト中の前記ゲル化反応剤の含有量は10~60質量%であり、前記硬化材ペースト中の前記難水溶性液状化合物の含有量は10~50質量%であり、前記硬化材ペーストに対する前記主材ペーストの質量比は1~5であり、前記主材ペーストと、前記硬化材ペーストの練和物の稠度が38mm以上であり、硬化体の圧縮強さが0.50MPa以上であり、硬化体の弾性ひずみが18.7%未満である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、操作性に優れ、アルギン酸塩印象材と併用しても、精度が高い印象を採得することが可能な歯科用印象材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0011】
[歯科用印象材]
本実施形態の歯科用印象材は、連合印象法に用いられる。例えば、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用することができる。
【0012】
本実施形態の歯科用印象材は、アルギン酸塩と、水を含む主材ペーストと、ゲル化反応剤と、難水溶性液状化合物を含む硬化材ペーストを有する。このため、本実施形態の歯科用印象材は、操作性に優れる。
【0013】
主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の稠度は、36mm以上であり、38mm以上であることが好ましい。主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の稠度が36mm以上であると、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の流動性が高くなる。このため、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象の精度が向上する。
【0014】
主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の稠度の上限は、特に限定されないが、通常、50mmである。
【0015】
主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の稠度の測定方法は、以下の通りである。主材ペーストと、硬化材ペーストを、23℃±2℃の条件下、手練和により均一になるまで練和した後、練和物0.5±0.2mlをガラス板に載せる。次に、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和を開始してから30秒後に、ガラス板と合わせて500gになるように錘を載せる。次に、錘を載せてから5秒後に錘を撤去した後、広がった練和物の平行切線間の最大部と最小部の寸法を0.5mm単位で測定する。次に、広がった練和物の平行切線間の最大部と最小部の寸法の平均値を求め、ペーストの稠度とする。
【0016】
本実施形態の歯科用印象材の硬化体の圧縮強さは、0.35MPa以上であり、0.50MPa以上であることが好ましい。歯科用印象材の硬化体の圧縮強さが0.35MPa未満であると、歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象が破損しやすくなる。
【0017】
本実施形態の歯科用印象材の硬化体の圧縮強さの上限は、特に限定されないが、通常、1.5MPaである。
【0018】
本実施形態の歯科用印象材の硬化体の弾性ひずみは、20%以下であることが好ましく、18%以下であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用印象材の硬化体の弾性ひずみが20%以下であると、本実施形態の歯科用印象材の硬化体の寸法安定性が向上する。このため、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象の精度が向上する。
【0019】
本実施形態の歯科用印象材の硬化体の弾性ひずみの下限は、特に限定されないが、通常、10%である。
【0020】
なお、本実施形態の歯科用印象材の硬化体は、JIS6505:2005の6.6.2に準拠して、主材ペーストと硬化材ペーストを質量比2:1で練和した後、90秒間硬化させることにより、作製される。
【0021】
本実施形態の歯科用印象材の初期硬化時間は、30~240秒であることが好ましく、50~120秒であることがさらに好ましい。
【0022】
[主材ペースト]
主材ペーストは、アルギン酸塩と、水を含む。
【0023】
アルギン酸塩としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸のアルカリ金属塩、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸トリエタノールアミン等のアルギン酸のアンモニウム塩等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、入手容易性、取り扱い容易性、本実施形態の歯科用印象材の硬化体の物性等の観点から、アルギン酸のアルカリ金属塩が好ましく、アルギン酸カリウムがさらに好ましい。
【0024】
アルギン酸塩の1質量%水溶液の20℃における粘度は、100~400mPa・sであることが好ましく、100~200mPa・sであることがさらに好ましい。アルギン酸塩の1質量%水溶液の20℃における粘度が100mPa・s以上であると、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象が破損しにくくなる。一方、アルギン酸塩の1質量%水溶液の20℃における粘度が400mPa・s以下であると、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の流動性が高くなる。このため、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象の精度が向上する。
【0025】
主材ペースト中のアルギン酸塩の含有量は、1~20質量%であることが好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。主材ペースト中のアルギン酸塩の含有量が1質量%以上であると、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象が破損しにくくなる。一方、主材ペースト中のアルギン酸塩の含有量が20質量%以下であると、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象の精度が向上する。
【0026】
本実施形態の歯科用印象材中のアルギン酸塩の含有量は、0.25~10質量%であることが好ましく、2~8質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用印象材中のアルギン酸塩の含有量が0.25質量%以上であると、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象が破損しにくくなる。一方、本実施形態の歯科用印象材中のアルギン酸塩の含有量が10質量%以下であると、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象の精度が向上する。
【0027】
水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水等を用いることができ、次亜塩素酸ナトリウム等により殺菌処理されている水を用いてもよい。
【0028】
主材ペースト中の水の含有量は、80~99質量%であることが好ましく、90~95質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態の歯科用印象材中の水の含有量は、40~90質量%であることが好ましく、55~80質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
主材ペーストは、硬化遅延剤等をさらに含むことが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用印象材の操作余裕時間が長くなる。
【0031】
硬化遅延剤としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等の縮合リン酸塩等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0032】
主材ペースト中の硬化遅延剤の含有量は、0.01~10質量%であることが好ましい。主材ペースト中の硬化遅延剤の含有量が0.01質量%以上であると、本実施形態の歯科用印象材の操作余裕時間が長くなり、10質量%以下であると、本実施形態の歯科用印象材の初期硬化時間が短くなり、本実施形態の歯科用印象材の硬化体の強度が向上する。
【0033】
主材ペーストは、充填剤、着色剤、防腐剤、消毒剤、香料、pH調整剤、界面活性剤等をさらに含んでいてもよい。
【0034】
主材ペーストの稠度は、30mm以上であることが好ましい。主材ペーストの稠度が30mm以上であると、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の流動性が高くなる。このため、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象の精度が向上する。
【0035】
[硬化材ペースト]
硬化材ペーストは、ゲル化反応剤と、難水溶性液状化合物を含む。
【0036】
ゲル化反応剤としては、2価以上の金属の化合物を用いることができる。
【0037】
2価以上の金属の化合物としては、例えば、2価以上の金属の塩、酸化物、水酸化物等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0038】
2価以上の金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄、チタン、ジルコニウム、スズ等が挙げられる。
【0039】
2価以上の金属の塩としては、例えば、硫酸カルシウム二水和物(CaSO4・2H2O)、硫酸カルシウム半水和物(CaSO4・1/2H2O)、無水硫酸カルシウム(CaSO4)等が挙げられる。
【0040】
2価以上の金属の酸化物としては、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ等が挙げられる。
【0041】
2価以上の金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化鉄等が挙げられる。
【0042】
硬化材ペースト中のゲル化反応剤の含有量は、10~60質量%であることが好ましい。硬化材ペースト中のゲル化反応剤の含有量が10質量%以上であると、本実施形態の歯科用印象材の硬化体の強度が向上し、60質量%以下であると、本実施形態の歯科用印象材の操作余裕時間が長くなる。
【0043】
難水溶性液状化合物としては、ゲル化反応剤をペースト化することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、炭化水素化合物、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコーンオイル等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0044】
本明細書及び請求の範囲において、難水溶性とは、20℃における水100gに対する溶解度が5g以下であることを意味する。
【0045】
炭化水素化合物は、鎖式化合物及び環式化合物のいずれであってもよい。
【0046】
炭化水素化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、2,7-ジメチルオクタン、1-オクテン、シクロヘプタン、シクロノナン、ケロシン、流動パラフィン等が挙げられる。
【0047】
脂肪族アルコールは、飽和脂肪族アルコール及び不飽和脂肪族アルコールのいずれであってもよい。
【0048】
脂肪族アルコールとしては、例えば、1-ヘキサノール、1-オクタノール、シトロネロール、オレイルアルコール等が挙げられる。
【0049】
芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール、m-クレゾール等が挙げられる。
【0050】
脂肪酸は、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
【0051】
脂肪酸としては、例えば、ヘキサン酸、オクタン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
【0052】
脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸エステル及び不飽和脂肪酸エステルのいずれであってもよい。
【0053】
脂肪酸エステルとしては、例えば、オクタン酸エチル、フタル酸ブチル、オレイン酸グリセリド、オリーブ油、ごま油、肝油、鯨油等が挙げられる。
【0054】
シリコーンオイルとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリフェニルハイドロジェンシロキサン等が挙げられる。
【0055】
硬化材ペースト中の難水溶性液状化合物の含有量は、10~50質量%であることが好ましく、15~30質量%であることがさらに好ましい。硬化材ペースト中の難水溶性液状化合物の含有量が10質量%以上であると、本実施形態の歯科用印象材の操作性が向上し、50質量%以下であると、本実施形態の歯科用印象材の硬化体の強度が向上する。
【0056】
硬化材ペーストは、ポリブテンをさらに含むことが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用印象材の硬化性が向上すると共に、本実施形態の歯科用印象材の操作余裕時間が長くなる。
【0057】
ポリブテンは、液状であることが好ましい。
【0058】
ポリブテンは、イソブテンと1-ブテンを共重合することにより、合成することができる。
【0059】
ポリブテンの数平均分子量は、300~4000であることが好ましい。
【0060】
硬化材ペースト中のポリブテンの含有量は、0.5~30質量%であることが好ましく、1~20質量%であることがさらに好ましい。硬化材ペースト中のポリブテンの含有量が0.5質量%以上30質量%以下であると、本実施形態の歯科用印象材の操作性が向上する。
【0061】
硬化材ペーストは、硬化遅延剤をさらに含むことが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用印象材の操作余裕時間が長くなる。
【0062】
硬化遅延剤としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等の縮合リン酸塩等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0063】
硬化材ペースト中の硬化遅延剤の含有量は、0.01~10質量%であることが好ましい。硬化材ペースト中の硬化遅延剤の含有量が0.01質量%以上であると、本実施形態の歯科用印象材の操作余裕時間が長くなり、10質量%以下であると、本実施形態の歯科用印象材の初期硬化時間が短くなり、本実施形態の歯科用印象材の硬化体の強度が向上する。
【0064】
硬化材ペーストは、充填剤、硬化調整剤、界面活性剤、着色剤、防腐剤、消毒剤、香料、pH調整剤等をさらに含んでいてもよい。
【0065】
充填剤を構成する材料としては、例えば、珪藻土、タルク、スメクタイト等の粘土鉱物、シリカ、アルミナ等の無機酸化物等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0066】
硬化調整剤としては、例えば、フッ化チタンカリウム、ケイフッ化カリウム等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0067】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0068】
硬化材ペーストの稠度は、30mm以上であることが好ましい。硬化材ペーストの稠度が30mm以上であると、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の流動性が高くなる。このため、本実施形態の歯科用印象材をアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象の精度が向上する。
【0069】
[本実施形態の歯科用印象材の使用方法]
本実施形態の歯科用印象材は、主材ペーストと、硬化材ペーストを練和して使用する。
【0070】
例えば、手動又は電動の押出装置を用いて、隔てられた包装容器に充填されている主材ペーストと、硬化材ペーストを押し出し、ノズルを通過することで練和された練和物を歯牙に適用する。
【0071】
包装容器としては、例えば、樹脂又は金属の成形品、樹脂又は金属の袋等が挙げられる。
【0072】
硬化材ペーストと主材ペーストを練和する際の硬化材ペーストに対する主材ペーストの質量比は、1~5であることが好ましい。
【0073】
[連合印象材]
本実施形態の連合印象材は、本実施形態の歯科用印象材と、アルギン酸塩印象材を有する。
【0074】
アルギン酸塩印象材としては、特に限定されないが、例えば、寒天・アルジネート連合印象法に用いられるアルギン酸塩印象材を用いることができる。
【0075】
アルギン酸塩印象材は、粉末タイプであってもよいし、アルギン酸塩と、水を含む主材ペーストと、ゲル化反応剤と、難水溶性液状化合物を含む硬化材ペーストを有するペーストタイプであってもよい。
【0076】
ここで、ペーストタイプのアルギン酸塩印象材は、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の稠度が36mm未満である以外は、本実施形態の歯科用印象材と同様である。
【0077】
本実施形態の連合印象材を用いると、歯牙の印象を採得することができる。
【0078】
例えば、本実施形態の歯科用印象材を歯牙に適用した後、本実施形態の歯科用印象材が適用された歯牙にアルギン酸塩印象材を適用する。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0080】
[歯科用印象材用の硬化材ペーストの調製]
無水硫酸カルシウム(CaSO4)45質量部、水酸化マグネシウム6質量部、酸化亜鉛2質量部、流動パラフィン23質量部、ポリブテン4質量部、リン酸三カリウム1.5質量部、シリカ12.5質量部、フッ化チタンカリウム3質量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル3質量部を混合し、所定の稠度(表1参照)を有する硬化材ペーストを得た。
【0081】
[歯科用印象材用の主材ペーストの調製]
表1に示す配合[質量部]で、アルギン酸のアルカリ金属塩、水、ピロリン酸ナトリウムを混合し、所定の稠度(表1参照)を有する主材ペーストを得た。
【0082】
なお、アルギン酸のアルカリ金属塩の詳細を以下に示す。
【0083】
K-1G:アルギン酸カリウムK-1G(キミカ製);粘度100~200mPa・s
K-3G:アルギン酸カリウムK-3G(キミカ製);粘度300~400mPa・s
K-1:アルギン酸カリウムK-1(キミカ製);粘度100~200mPa・s
K-3:アルギン酸カリウムK-3(キミカ製);粘度300~400mPa・s
I-8:アルギン酸ナトリウムI-8(キミカ製);粘度800~900mPa・s
ここで、アルギン酸のアルカリ金属塩の粘度は、アルギン酸のアルカリ金属塩の1質量%水溶液の20℃における粘度である。
【0084】
[ペーストの稠度]
23℃±2℃の条件下、ペースト0.5±0.2mlをガラス板に載せた後、ガラス板と合わせて500gになるように錘を載せた。次に、錘を載せてから5秒後に錘を撤去し、広がったペーストの平行切線間の最大部と最小部の寸法を0.5mm単位で測定した。次に、広がったペーストの平行切線間の最大部と最小部の寸法の平均値を求め、ペーストの稠度とした。
【0085】
次に、歯科用印象材の練和物の稠度、初期硬化時間を評価した。
【0086】
[歯科用印象材の練和物の稠度]
23℃±2℃の条件下、硬化材ペーストと、主材ペーストを、質量比1:2で、手練和により均一になるまで練和した後、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物0.5±0.2mlをガラス板に載せた。次に、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和を開始してから30秒後に、ガラス板と合わせて500gになるように錘を載せた。次に、錘を載せてから5秒後に錘を撤去し、広がった練和物の平行切線間の最大部と最小部の寸法を0.5mm単位で測定した。次に、広がった練和物の平行切線間の最大部と最小部の寸法の平均値を求め、練和物の稠度とした。
【0087】
[歯科用印象材の初期硬化時間]
硬化材ペーストと、主材ペーストを、質量比1:2で練和した後、JIS T 6505:2005 歯科用アルギン酸塩印象材の4.6 初期硬化時間試験に準拠して、歯科用印象材の初期硬化時間を測定した。
【0088】
次に、歯科用印象材の硬化体の圧縮強さ、弾性ひずみを評価した。
【0089】
[試験片の作製]
JIS T 6505:2005 歯科用アルギン酸塩印象材の6.6.2 試験片の作製に準拠して、試験片を作製した。このとき、硬化材ペーストと、主材ペーストを、質量比1:2で練和した後、90秒間硬化させた。
【0090】
[歯科用印象材の硬化体の圧縮強さ]
JIS T 6505:2005 歯科用アルギン酸塩印象材の6.8 圧縮強さ試験に準拠して、歯科用印象材の硬化体の圧縮強さを測定した。
【0091】
[歯科用印象材の硬化体の弾性ひずみ]
JIS T 6505:2005 歯科用アルギン酸塩印象材の6.7 弾性ひずみ試験に準拠して、歯科用印象材の硬化体の弾性ひずみを測定した。
【0092】
次に、歯科用印象材と、粉末タイプのアルギン酸塩印象材を有する連合印象材を用いて、印象を採得し、印象の精度を評価した。
【0093】
[粉末タイプのアルギン酸塩印象材の作製]
無水硫酸カルシウム(CaSO4)15質量部、アルギン酸ナトリウムI-8(キミカ製)11質量部、珪藻土65質量部、水酸化マグネシウム3質量部、酸化亜鉛2質量部、フッ化チタンカリウム2質量部、ピロリン酸ナトリウム2質量部を混合し、粉末タイプのアルギン酸塩印象材を得た。
【0094】
[印象の精度]
歯科用印象材の主材ペーストと、硬化材ペーストを、隔てられた包装容器ポリプロピレンカートリッジCS 050-02-09(SULZER製)に充填した後、ポリエチレンピストン(PSA 56-02-SI及びPSB 56-02-SI(以上、SULZER製)で封印した。次に、手動の押出装置を用いて、主材ペーストと、硬化材ペーストを押し出し、ミキシングチップII SS及びミキシングチップノズル(以上、ジーシー製)を通過させることで、主材ペーストと、硬化材ペーストを、質量比1:2で練和し、歯科用印象材の練和物を、窩洞を形成した歯牙模型に注入した。
【0095】
粉末タイプのアルギン酸塩印象材8.5gと、蒸留水20mlを練和した後、トレーに盛った。次に、トレーに盛ったアルギン酸塩印象材の練和物を、歯科用印象材の練和物が注入された歯牙模型に圧接し、連合印象法による印象の精度を評価した。
【0096】
なお、印象の精度の判定基準を以下に示す。
【0097】
優:窩洞の内部、歯牙と歯肉の境界が明瞭に再現されている場合
良:窩洞の内部は明瞭に再現されているが、歯牙と歯肉の境界が明瞭に再現されていない場合
不可:印象が破損する場合、又は、窩洞の内部が明瞭に再現されていない場合
表1に、歯科用印象材の練和物の稠度、初期硬化時間、歯科用印象材の硬化体の圧縮強さ、弾性ひずみ、印象の精度の評価結果を示す。
【0098】
【表1】
表1から、実施例1~
3の歯科用印象材は、粉末タイプのアルギン酸塩印象材と併用しても、精度が高い印象を採得できることがわかる。また、実施例1~
3の歯科用印象材は、流動性が温度に依存する寒天印象材よりも、操作性が高い。
【0099】
これに対して、比較例1~5の歯科用印象材は、硬化体の圧縮強さが0.27~0.45MPaであった。
【0100】
また、比較例3の歯科用印象材は、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の稠度が35.8mmであるため、印象の精度が低い。
【0101】
本願は、日本特許庁に2019年12月26日に出願された基礎出願2019-237346号の優先権を主張するものであり、その全内容を参照によりここに援用する。