(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】油性化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20240328BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20240328BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240328BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20240328BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240328BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/31
A61K8/34
A61K8/02
A61Q19/00
A61Q1/00
(21)【出願番号】P 2022048647
(22)【出願日】2022-03-24
【審査請求日】2023-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛人
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-035334(JP,A)
【文献】特開2021-195350(JP,A)
【文献】特開2019-011287(JP,A)
【文献】特開平05-032519(JP,A)
【文献】特開2021-075562(JP,A)
【文献】特開2021-063138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動油分とセルロースパウダーを含み、
前記セルロースパウダーは、
平均繊維径1~1000nmの
微細繊維状セルロースを含み、
平均粒子径が1~100μmであり、比表面積が0.1~10m
2/gとなるものであり、
前記流動油分の融点が-10℃~25℃
である、
ことを特徴とする油性化粧料。
【請求項2】
前記セルロースパウダーは、前記微細繊維状セルロースと多価アルコールを含む複合体からなる、
請求項1記載の油性化粧料。
【請求項3】
さらに、ワセリンを含む、
請求項1記載の油性化粧料。
【請求項4】
B型粘度が35℃、回転数3rpmの測定条件で100~50000mPa・sである、
請求項1記載の油性化粧料。
【請求項5】
前記油性化粧料の融点が10~40℃である、
請求項1記載の油性化粧料。
【請求項6】
前記流動油分が流動パラフィンである、
請求項1記載の油性化粧料。
【請求項7】
前記セルロースパウダーが0.1~20質量%含まれる、
請求項1記載の油性化粧料。
【請求項8】
前記セルロースパウダーの水分率が1~20%である、
請求項1記載の油性化粧料。
【請求項9】
前記セルロースパウダーは、ゆるめ嵩密度が100~1000mg/cm
3となるものである、
請求項1記載の油性化粧料。
【請求項10】
前記セルロースパウダーが白色
である、
請求項1記載の油性化粧料。
【請求項11】
さらに、添加剤を含む、
請求項1記載の油性化粧料。
【請求項12】
前記多価アルコールがグリセリンである、
請求項2記載の油性化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より油性化粧料、例えばワセリン等の皮膚外用剤やリップクリーム、口紅等の皮膚化粧料は、高粘度の炭化水素が含まれるので、いわゆるエモリエント効果(保湿効果)により、肌への密着感や持続性に優れたものとなっている。他方で、これら油性化粧料は肌へ塗布した際にベタツキが発生しやすいものでもある。ベタツキを低減するための様々な検討が従来よりなされており、ワセリンと水系の保湿成分との混合(乳化)や、ワセリンと液状の油分との混合、ワセリンへの無機超微粒子パウダーの配合等を例示することができる。
【0003】
ワセリンが含まれた油性化粧料に関する技術としては次に掲げる文献を例示することができる。特許文献1は、重縮合ポリマー粒子又は閉鎖小胞体を用いてワセリンを乳化させた油性化粧料を提案しており、この油性化粧料によれば使用感に優れ、かつ粘性やベタツキを抑えることができることを開示している。特許文献2は、白色ワセリンに粉末状の疎水化変性アルキルセルロースを配合し、ベタツキ感が低減されることを提案している。特許文献3は、ワセリンと紫外線散乱剤である酸化金属の超微粒子及び揮発性油剤(揮発性シリコーン油)を複合させた油性化粧料を提案し、当該油性化粧料によれば伸び、ベタツキを抑えることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2019/021801号
【文献】特開2014-141424号公報
【文献】特開2015-229643号公報
【文献】特開5-32519号公報
【文献】特開2019-011287号公報
【文献】特開2018-199671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように特許文献1~3は、ベタツキの抑制を目的とするものであるが、他方で特許文献1の閉鎖小胞体や特許文献2の粉末状の疎水化変性アルキルセルロース、特許文献3の酸化金属の超微粒子が含まれていると、油性化粧料を皮膚に塗布する際に異物感を覚えることがある。また、油性化粧料であれば、ベタツキ以外にもテカリ具合も重要な性質であると本発明の発明者等は考えているが、この点については、前述の特許文献には考慮されていない。
【0006】
そこで本発明は、上記実情を鑑みて検討がなされたものであり、異物感が感じられにくく、ベタツキとテカリが抑制された油性化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、次記の態様により解決される。
(第1の態様)
流動油分とセルロースパウダーを含み、
前記セルロースパウダーは、平均繊維径1~1000nmの乾燥した微細繊維状セルロースを含み、平均粒子径が1~100μmであり、比表面積が0.1~10m2/gとなるものである、
ことを特徴とする油性化粧料。
【0008】
特許文献1は重縮合ポリマー粒子又は閉鎖小胞体を乳化剤として添加することでベタツキの低減化を図っている。同様に特許文献2は疎水変性したアルキルセルロースを添加することで、特許文献3は揮発性油剤と疎水化処理された酸化金属の超微粒子を添加することでベタツキの低減化を図っている。これに対して本態様は、油性化粧料に流動油分とセルロースパウダーを含有させることでベタツキの低減化を図るものである。セルロースパウダーは、それ自体を媒体に添加すると媒体の粘度が高まる。このメカニズムについては厳密には明らかにされていないが、おそらくセルロースに備わるヒドロキシ基と水素基による水素結合の影響によるものと推測される。セルロースが相互に水素結合することで静的かつ立体的なネットワーク構造を構築して、ずり応力に抵抗するのではないかと考えられる。セルロースパウダーはチキソトロピー性を備え、静止状態では粘度が相対的に高く、運動状態では低くなることが発明者等の測定により分かっている。本形態の油性化粧料は、セルロースパウダーが含まれるので、低回転数ではB型粘度が高いものの、回転数を高めるにつれてB型粘度が低下するものとなっている。このようにチキソトロピー性が備わった油性化粧料であれば、肌への塗布時には手等による外力が加わって粘度が下がり、伸びが良くなるので、使用者は自由に当該油性化粧料を伸ばしつつ塗布することができる。
【0009】
本形態のセルロースパウダーは、天然の木材等を原料に加工された、乾燥した微細繊維状セルロースを含んでいる。この乾燥した微細繊維状セルロースは、表面が微視的にみると平滑性に欠け、凹凸を有し、ごつごつしているので、光沢がない。したがって、本態様の油性化粧料は、このセルロースパウダーを有するので、塗布した箇所のテカリを抑制する。
【0010】
本態様のセルロースパウダーが、平均繊維径1~1000nmの乾燥した微細繊維状セルロースを含み、平均粒子径が1~100μmであり、比表面積が0.5~10m2/gとなるものであり、平均粒子径が相対的に大きいものであるものの、セルロース繊維の持つ柔らかさを備えるので、本態様の油性化粧料は、皮膚に塗布する際、ゴロゴロした感覚(異物感)を覚えにくいという特徴を有する。
【0011】
流動油分は皮膚に塗布するとベタツキを感じるものであるが、流動油分とともにセルロースパウダーが含まれていると、ベタツキが軽減されることを本発明者等は知見している。これは、おそらく、セルロースパウダーのもつチキソトロピー性の性質によるものと思われる。皮膚に塗布された油性化粧料を触る動作によって、セルロースパウダーに動的な外力が加わり、粘度が軽減され滑りがよいように感じられる。
【0012】
他方、特許文献4,5は、微小なセルロースを使用するものであり、これらの文献で使用される粒子は水を過剰に含む状態で製造されるが、この場合、必然的に水を含むことになるため、製造される化粧料は過剰に乳化してしまうおそれがある。特許文献6では、特定のアシル化セルロース誘導体と、揮発性炭化水素油及び不揮発性直鎖シリコーン油を、特定の割合で組み合わせて用いれば、滑らかな感触に優れるとともに、塗布直後にべたつきがないとしている。セルロース誘導体とは、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースを変性処理したものである。この処理は油剤への溶解性の向上を目的としており、この場合本発明と異なり、組成物中に粒子状態では存在しないことになる。
【0013】
上記態様の他、次の態様も好ましい。
(第2の態様)
前記セルロースパウダーは、前記微細繊維状セルロースと多価アルコールを含む複合体からなる、
第1の態様の油性化粧料。
【0014】
(第3の態様)
さらに、ワセリンを含む、
第1の態様の油性化粧料。
【0015】
(第4の態様)
B型粘度が35℃、回転数3rpmの測定条件で100~50000mPa・sである、
第1の態様の油性化粧料。
【0016】
(第5の態様)
前記流動油分の融点が-10℃~25℃である、
第1の態様の油性化粧料。
【0017】
(第6の態様)
前記流動油分が流動パラフィンである、
第1の態様の油性化粧料。
【0018】
(第7の態様)
前記セルロースパウダーが1~20質量%含まれる、
第1の態様の油性化粧料。
【0019】
(第8の態様)
前記セルロースパウダーの水分率が1~20%である、
第1の態様の油性化粧料。
【0020】
(第9の態様)
前記セルロースパウダーは、ゆるめ嵩密度が100~1000mg/cm3となるものである、
第1の態様の油性化粧料。
【0021】
(第10の態様)
前記セルロースパウダーが白色又は淡黄色である、
第1の態様の油性化粧料。
【0022】
(第11の態様)
さらに、添加剤を含む、
第1の態様の油性化粧料。
【0023】
(第12の態様)
前記多価アルコールがグリセリンである、
第2の態様の油性化粧料。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、異物感が感じられにくく、ベタツキとテカリが抑制された油性化粧料となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】スプレードライパウダーのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を実施するための形態を次記に説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0027】
本形態に係る油性化粧料は、流動油分とセルロースパウダーを含み、前記セルロースパウダーは、平均繊維径1~1000nmの乾燥した微細繊維状セルロースを含み、平均粒子径が1~100μmであり、比表面積が0.5~10m2/gとなるものであることを特徴とする。油性化粧料を説明する前にセルロースパウダーの原料である微細繊維状セルロースについて説明する。
【0028】
(微細繊維状セルロース)
微細繊維状セルロースは、原料パルプを解繊(微細化)することで得ることができ、化学処理、機械処理等公知の処理手法で製造することができる。
【0029】
微細繊維状セルロースの原料パルプとしては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、茶古紙、封筒古紙、雑誌古紙、チラシ古紙、段ボール古紙、上白古紙、模造古紙、更上古紙、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、粉砕物の状態等であってもよい。近年、環境負荷低減に配慮したオーガニック成分含有製品の需要が増加傾向にあるため、特に、古紙以外の植物由来の広葉樹や針葉樹を原料とする木材パルプが好適である。
【0030】
木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ等(DP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。特に、セルロース成分を高める木材パルプである、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプが好ましく、晒パルプ(BKP)が好適である。
【0031】
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0032】
平均繊維径が相対的に小さい微細繊維状セルロースを製造する観点からは、解繊が容易であり、高い分散性を備えたクラフトパルプを使用するのが好ましい。特に、白色や淡黄色系統の製品(例えば油性化粧料)に応用する場合には、微細繊維状セルロース自体が白色であると都合がよく、白色性の高さを向上させる観点からLBKP及びNBKPを使用するのがより好ましい。
【0033】
微細繊維状セルロースは、解繊するに先立って、前処理を施してもよい。例えば、前処理として、原料パルプを機械的に予備叩解したり、原料パルプを化学的に変性処理したりしてもよい。予備叩解の手法は特に限定されず、公知の手法を用いることができる。
【0034】
化学的手法による原料パルプの前処理としては、例えば、酸(例えば、硫酸等)による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤(例えば、オゾン等)による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)、TEMPO触媒による酸化(酸化処理)、リン酸エステル化やカルバメート化等によるアニオン化(アニオン処理)、カチオン化(カチオン処理)等を例示することができる。
【0035】
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を例示できる。製造コストの観点からは、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0036】
酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、微細繊維状セルロースの保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。微細繊維状セルロースの保水度が低いと脱水し易くなり、乾燥させやすくなるので、凍結・減圧乾燥による手法によってセルロースパウダーを製造する上で微細繊維状セルロースの凝集が促進され好ましい。
【0037】
原料パルプを酵素処理や酸処理、酸化処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解され、結果、微細化処理のエネルギーを低減することができ、セルロース繊維の均一性や分散性を向上することができる。セルロース繊維の分散性は、例えば、セルロースパウダーの平均粒子径の均質性向上に資する。ただし、前処理は、微細繊維状セルロースの軸比を低下させるため、過度の前処理は避けるのが好ましい。
【0038】
アニオン化により、アニオン性官能基が導入されて変性された微細繊維状セルロースとしては、リンオキソ酸によりエステル化された微細繊維状セルロースやカルバメート化された微細繊維状セルロース、ピラノース環の水酸基が直接カルボキシル基に酸化された微細繊維状セルロース等を例示できる。
【0039】
アニオン性官能基が導入されて変性された微細繊維状セルロースは、 相対的に高い分散性を有する。これは、アニオン性官能基により電荷の偏りが局所的に発生し、このアニオン性官能基が分散液中の水や有機溶剤と水素結合を容易に形成することによるものと推測される。
【0040】
アニオン化の一例である、リンオキソ酸によるエステル化をセルロース繊維に施すと、繊維原料を微細化でき、製造される微細繊維状セルロースは、軸比が大きく強度に優れ、光透過度及び粘度が高いものとなる。リンオキソ酸によるエステル化は、特開2019-199671号公報に掲げる手法で行うことができる。例えば、セルロース繊維のヒドロキシ基を変性処理して亜リン酸エステル基が導入された変性微細繊維状セルロースを挙げることができる。
【0041】
セルロース繊維の解繊は、以下に示す解繊装置・方法により行うことができる。当該解繊は、例えば、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー等のリファイナー、各種バクテリア等の中から1種又は2種以上の手段を選択使用して行うことができる。ただし、セルロース繊維の解繊は、水流、特に高圧水流で微細化する装置・方法を使用して行うのが好ましい。この装置・方法によると、得られる微細繊維状セルロースの寸法均一性、分散均一性が非常に高いものとなる。これに対し、例えば、回転する砥石間で磨砕するグラインダーを使用すると、セルロース繊維を均一に微細化するのが難しく、場合によっては、一部に解れない繊維塊が残ってしまうおそれがある。
【0042】
セルロース繊維の解繊に使用するグラインダーとしては、例えば、増幸産業株式会社のマスコロイダー等を挙げることができる。また、高圧水流で微細化する装置としては、例えば、株式会社スギノマシンのスターバースト(登録商標)や、吉田機械興業株式会社のナノヴェイタ\Nanovater(登録商標)等を挙げることができる。また、セルロース繊維の解繊に使用する高速回転式ホモジナイザーとしては、エムテクニック社製のクレアミックス-11S等を挙げることができる。
【0043】
本発明者等は、回転する砥石間で磨砕する方法と、高圧水流で微細化する方法とで、それぞれセルロース繊維を解繊し、得られた各繊維を顕微鏡観察した場合に、高圧水流で微細化する方法で得られた繊維の方が、繊維幅が均一であることを知見している。
【0044】
高圧水流による解繊は、セルロース繊維の分散液を増圧機で、例えば30MPa以上、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上、特に好ましくは220MPa以上に加圧し(高圧条件)、細孔直径50μm以上のノズルから噴出させ、圧力差が、例えば30MPa以上、好ましくは80MPa以上、より好ましくは90MPa以上となるように減圧する(減圧条件)方式で行うと好適である。この圧力差で生じるへき開現象によって、パルプ繊維が解繊される。高圧条件の圧力が低い場合や、高圧条件から減圧条件への圧力差が小さい場合には、解繊効率が下がり、所望の繊維幅とするために繰り返し解繊(ノズルから噴出)する必要が生じる。
【0045】
高圧水流によって解繊する装置としては、高圧ホモジナイザーを使用するのが好ましい。高圧ホモジナイザーとは、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でセルロース繊維のスラリーを噴出する能力を有するホモジナイザーをいう。セルロース繊維を高圧ホモジナイザーで処理すると、セルロース繊維同士の衝突、圧力差、マイクロキャビテーションなどが作用し、セルロース繊維の解繊が効果的に生じる。したがって、解繊の処理回数を減らすことができ、微細繊維状セルロースの製造効率を高めることができる。
【0046】
高圧ホモジナイザーとしては、セルロース繊維のスラリーを一直線上で対向衝突させるものを使用するのが好ましい。具体的には、例えば、対向衝突型高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー/MICROFLUIDIZER(登録商標)、湿式ジェットミル)である。この装置においては、加圧されたセルロース繊維のスラリーが合流部で対向衝突するように2本の上流側流路が形成されている。また、セルロース繊維のスラリーは合流部で衝突し、衝突したセルロース繊維のスラリーは下流側流路から流出する。上流側流路に対して下流側流路は垂直に設けられており、上流側流路と下流側流路とでT字型の流路が形成されている。このような対向衝突型の高圧ホモジナイザーを用いると高圧ホモジナイザーから与えられるエネルギーが衝突エネルギーに最大限に変換されるため、より効率的にセルロース繊維を解繊することができる。
【0047】
解繊して得られた微細繊維状セルロースは、セルロースパウダーの原料に用いるまで水系媒体中に分散させて分散液として保存しておくことができる。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましい(水分散液)。ただし、水系媒体は、一部が水と相溶性を有する他の液体であってもよい。他の液体としては、例えば、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
【0048】
本実施形態のセルロースパウダーを形成する微細繊維状セルロースは、未変性微細繊維状セルロースのみからなるものであってもよいし、変性微細繊維状セルロースのみからなるものであってもよいし、未変性微細繊維状セルロースと未変性微細繊維状セルロースを含むものであってもよい。変性微細繊維状セルロースとしては、セルロースのヒドロキシ基が官能基で変性処理(置換処理)されたもの、例えばTEMPO酸化されたものや亜リン酸エステル化されたもの、カルバメート化されたものを例示できる。
【0049】
セルロースパウダーが変性微細繊維状セルロースから形成されたものである場合は、当該セルロースパウダーを分散媒に分散させた分散液が透明色を呈する。他方、セルロースパウダーが未変性微細繊維状セルロースから形成されたものである場合は、当該セルロースパウダーを分散媒に分散させた分散液が白色や淡黄色を呈する。セルロースパウダーを形成する微細繊維状セルロースにおける、変性微細繊維状セルロースと未変性微細繊維状セルロースの比を調整することで白色と透明色の間の中間色をした分散液を製造することができる。
【0050】
セルロースパウダーは、原料が微細繊維状セルロースが変性されたものであっても未変性のものであっても白色又は淡黄色となる。変性微細繊維状セルロースは、未変性微細繊維状セルロースよりも平均繊維径が小さいので、同じ質量のセルロースパウダーで対比すると、変性微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロースで形成されたセルロースパウダーの方が、未変性微細繊維状セルロースのみで形成されたセルロースパウダーよりも比表面積が大きいものとなる傾向にある。
【0051】
原料パルプの解繊は、得られる微細繊維状セルロースの物性等が、以下に示すような所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。
【0052】
<平均繊維径>
微細繊維状セルロースの平均繊維径(平均繊維幅。単繊維の直径平均。)の上限は1000nmであり、好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維径が1000nmを超えると、形成されたセルロースパウダーの平均粒子径が相対的に大きくなる。平均粒子径が大き過ぎると、油性化粧料を皮膚に塗布する際に異物感が強く感じられる。微細繊維状セルロースの平均繊維径の下限は1nmであり、好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上である。微細繊維状セルロースの平均繊維径が1nm未満だと、分散液としたときに高粘度となるので、セルロースパウダーを製造する上で、ハンドリング性に乏しくなる。
【0053】
微細繊維状セルロースの平均繊維径は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0054】
微細繊維状セルロースの平均繊維径の測定方法は、次のとおりである。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%の微細繊維状セルロースの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて3,000倍~30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
【0055】
<平均繊維長>
微細繊維状セルロースの平均繊維長(単繊維の長さの平均)は、例えば、好ましくは0.01~1000μm、より好ましくは0.03~500μmとするとよい。当該平均繊維長が1000μmを超えると、微細繊維状セルロースの乾燥時に繊維同士が絡み合い易く、油系分散媒に分散させたときにほどけにくくなる。また、微細繊維状セルロースに他の物質を担持させ易くなり、当該他の物質の機能性が備わったセルロースパウダーとなる。当該平均繊維長が0.01μm未満だと、絡み合いの乏しいセルロースパウダーとなる。
【0056】
平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0057】
微細繊維状セルロースの平均繊維長の測定方法は、平均繊維径の場合と同様にして、各繊維の長さを目視で計測する。計測値の中位長を平均繊維長とする。
【0058】
<軸比>
微細繊維状セルロースの軸比は、好ましくは10~1000000、より好ましくは30~500000である。軸比が10を下回ると、流動油分に含有させたセルロースパウダーが個々の微細繊維状セルロースにほどけ易くなるおそれがある。他方、軸比が1000000を上回ると、平均粒子径が極端に大きなセルロースパウダーとなってしまい、油性化粧料を皮膚に塗布する際、ゴロゴロする感覚(異物感)を覚えるおそれがある。
【0059】
<結晶化度>
微細繊維状セルロースの結晶化度は、下限が50であるとよく、より好ましくは60以上、特に好ましくは70以上であり、上限が100であるとよく、より好ましくは95以下、特に好ましくは90以下である。同結晶化度が50未満であると、乾燥時の温度変化などの影響により、繊維の絡み合いが弱くなり、他の物質の保持力が弱くなり、所望の粒子径のセルロースパウダーを形成し難い。
【0060】
結晶化度は、JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、微細繊維状セルロースは、非晶質部分と結晶質部分とを有しており、結晶化度は微細繊維状セルロース全体における結晶質部分の割合を意味する。
【0061】
<疑似粒度分布>
微細繊維状セルロースの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、1つのピークであるのが好ましい。1つのピークである場合、微細繊維状セルロースの繊維長及び繊維径の均一性が高く、セルロースパウダーを製造する際に微細繊維状セルロース相互の絡み合いが容易に生じるので、セルロースパウダーが流動油分中でほどけにくいものとなる。また、粒子径の統計的ばらつきが小さいセルロースパウダーとなる。無機微粒子が担持されたセルロースパウダーの形態であれば、セルロースパウダーが流動油分中において十分に分散され、かつ入射光を拡散反射するので、油性化粧料を塗布した皮膚がテカリの少ないものとなる。
【0062】
微細繊維状セルロースの擬似粒度分布曲線におけるピーク値はISO-13320(2009)に準拠して測定する。より詳細には、粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を使用して微細繊維状セルロースの水分散液における体積基準粒度分布を調べる。そして、この分布から微細繊維状セルロースの最頻径を測定する。この最頻径をピーク値とする。微細繊維状セルロースは、水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において単一のピークを有することが好ましい。このように、一つのピークを有する微細繊維状セルロースは、十分な微細化が進行しており、微細繊維状セルロースとしての良好な物性を発揮することができ、好ましい。なお、上記単一のピークとなる微細繊維状セルロースの粒径の擬似粒度分布のピーク値は、例えば300μm以下であるのが好ましく、200μm以下であるのがより好ましく、100μm以下であるのが特に好ましい。ピーク値が300μmを超えると、相対的に大きな繊維が多く、セルロースパウダーの粒子径のばらつきが大きく、セルロースパウダー形状が不均一になりやすい。
【0063】
微細繊維状セルロースの擬似粒度分布曲線におけるピーク値、及び中位径は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0064】
<保水度>
微細繊維状セルロースの保水度は、特に限定されないが、例えば未変性の微細繊維状セルロースであれば、500%以下、より好ましくは100~500%である。同保水度が500%を上回ると、微細繊維状セルロース自体の保水力が高く脱水性に乏しいので、乾燥過程を経て製造したとしても、乾燥時間が長くなり生産性が悪くなる。微細繊維状セルロースの保水度の下限は特に限定されないが、100%以上だと、微細繊維状セルロース同士の結合力が働き、セルロースパウダーの形状を保持しやすい。
【0065】
微細繊維状セルロースの保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0066】
微細繊維状セルロースの保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
【0067】
<パルプ粘度>
解繊した微細繊維状セルロースのパルプ粘度は、1~10mPa・s、より好ましくは2~9mPa・s、特に好ましくは3~8mPa・sである。パルプ粘度は、セルロースを銅エチレンジアミン液に溶解させた後の溶解液の粘度であり、パルプ粘度が大きいほどセルロースの重合度が大きいことを示しており、繊維そのものの強さにも影響する。
【0068】
<多価アルコール>
乾燥過程を経て製造されたセルロースパウダーの流動油分への分散性を向上させる目的で、多価アルコールを加えることができる。というのも、セルロースパウダーの嵩比重が、流動油分の比重に対して小さいが、パウダーそのものは、セルロースそのものの比重に依存し、流動油分中の下部に沈降してしまう場合がある。こうしたパウダーの沈降はパウダー同士の凝集により、二次粒子、さらには三次粒子が形成されるおそれがある。これを防止するためには、セルロースパウダーは、微細繊維状セルロースと多価アルコールを含む複合体からなるものとするとよい。これにより、セルロースパウダーが流動油分に分散された状態が持続されて、偏在しにくくなると考えられる。多価アルコール自体は、ベタツキ具合を悪化させるものではないし、テカリを促進する効果もない。多価アルコールは微細繊維状セルロースに対して配合比(=多価アルコール:微細繊維状セルロース(固形分基準))が、50:50~10:90、好ましくは40:60~20:80であるとよい。微細繊維状セルロースに対する多価アルコールの配合比が過度に多いと、ベタツキのある乾燥物(セルロースパウダー)となり、本発明のセルロースパウダーの軽量感が失われ、ハンドリング性が悪化する。一方で同配合比が過度に少なすぎると、上記分散効果が悪化する可能性がある。
【0069】
多価アルコールとしては、例えば炭素数2~6で酸素数2~3の多価アルコールを挙げることができる。具体的には、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3‐プロパンジオール、3‐メチル‐1,3‐ブタンジオール等を用いることができるが、これらに限るものではない。特にグリセリンが増粘性、複合粒子の分散性の観点で好ましい。
【0070】
<無機微粒子>
上記セルロースパウダーの複合体には、微細繊維状セルロースと多価アルコールのほかに、無機微粒子が含有されていてもよい。無機微粒子はさまざまな機能をセルロースパウダーに付与することができるが、例えば金属系の無機微粒子を付与することで入射光を拡散反射する効果が期待できる。無機微粒子を含むセルロースパウダーを有する油性化粧料は、入射光を拡散反射するので塗布部のテカリが抑制される。
【0071】
セルロースパウダーに占める無機微粒子の含有率は、上限を40質量%とするとよく、好ましくは30質量%以下であり、下限を0質量%とするとよく、好ましくは5質量%以上である。同含率量が50質量%を超えると、無機微粒子が含まれている分、セルロースパウダーの比重が大きくなってしまい、油性化粧料中において沈降を促進させ、分散性が損なわれるおそれがある。他方、同含有率が5質量%以上であれば、入射光の拡散反射の効果が十分に発揮される。
【0072】
無機微粒子の一次粒子径は、上限を10μmとするとよく、好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下であればよい。無機微粒子の一次粒子径が10μmを上回ると、無機微粒子が微細繊維状セルロースによって担持されにくくなる。また、セルロースパウダーとしての表面積が十分に大きいものとならない。無機微粒子は、下限については特に限定されないが、1nmであるとよく、好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であればよい。無機微粒子の一次粒子径が1nm以上だと、無機微粒子をセルロースパウダーを製造する原料スラリーに混ぜたときに、無機微粒子が微細繊維状セルロースに分散して纏わりつき易い。
【0073】
無機微粒子の一次粒子径の測定方法は電子顕微鏡観察により行うことができ、得られた粒子径の平均値を測定値とする。
【0074】
無機微粒子は、そのままでももちろん用いることができるが、親水処理すると、セルロースパウダーを製造する原料スラリーに馴致し易くなるので好ましい。親水処理に用いる表面処理剤は、無機微粒子の表面活性を抑制させ、無機微粒子の分散性を向上させ、また透明性やきしみを向上させる効果を有する。無機微粒子の表面処理剤としては、原料スラリーに分散可能な処理剤であれば特に限定されないが、無水ケイ酸、含水ケイ酸を含むものが好ましい。
【0075】
無機微粒子は、特に限定されず公知の無機微粒子を用いることができるが、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、アルミナ、ジルコニア、ジルコン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウム等を挙げることができる。これらの粉末と微細繊維状セルロースを有するセルロースパウダーは、液体への再分散性に優れたものとなり好ましい。太陽光の透過抑制の観点からは、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムからなる群から選択される1種又は2種以上の組み合わせを用いることができる。特に無機微粒子が酸化チタンである場合は、ルチル型だと油性化粧料における入射光の透過抑制が向上するので好ましい。
【0076】
セルロースパウダーに含めることができる無機微粒子の形状は、特に限定されないが、例えば、球状、棒状、針状、紡錘状、板状、多角形状等とすることができる。
【0077】
無機微粒子は、セルロースパウダーにおける微細繊維状セルロースの表面に付着されていてもよいし、微細繊維状セルロースに内包されていてもよい。無機微粒子が微細繊維状セルロースに内包されていると、セルロースパウダーの表面だけでなく内部にも無機微粒子を担持でき、入射光が多様な角度から照射されても拡散反射するので好ましい。ここで、内包とは、無機微粒子の表面の一部が微細繊維状セルロースで覆われている状態や、外方からセルロースパウダーを観察したときに、無機微粒子が微細繊維状セルロースによって覆われて観察できない状態、ということができる。
【0078】
無機微粒子は乾燥する前の微細繊維状セルロースに加えることができ、均一になるように混ぜ合わせるとよい。
【0079】
(セルロースパウダー)
本実施形態のセルロースパウダーは、微細繊維状セルロースが乾燥して形成されたものであるが、微視的に見ると、微細繊維状セルロースが単体のまま乾燥して形成されたもの(たとえて言うと、一本の糸が糸内で絡み合って形成されたものや干からびて形成されたもの)もあれば、微細繊維状セルロースが複数、乾燥時に凝集して凝集塊となったものもある。微細繊維状セルロースは原料パルプから製造されるものであり、乾燥すると繊維に皺が入り縮まるので、形成されるセルロースパウダーは、表現し難いが凹凸のある形状であり、例えば干からびた微細繊維状セルロースが凝集したような形状、金平糖の形状、1枚又は2枚以上の半紙等の用紙をくしゃくしゃにして丸めて形成したような形状となっている。また、セルロースパウダーは、白色、淡黄色、クリーム色、薄橙色又はこれらの色の混合色を呈している。特に白色又は淡黄色のセルロースパウダーであれば、流動油分に混ぜても、目立たず好ましい。
【0080】
微細繊維状セルロースの構成単位であるセルロースはヒドロキシ基(OH基)及び水素基(H基)を有するので、微細繊維状セルロースを有するセルロースパウダーもヒドロキシ基及び水素基を有する。ヒドロキシ基や水素基が他のヒドロキシ基や水素基と水素結合することで、微細繊維状セルロースが同セルロース内部で又は相互に水素結合して、セルロースパウダーの三次元ネットワーク構造が形成される。セルロースパウダーを水系媒体に混ぜると、加水分解等して水素結合がほどけ、セルロースの凝集が弱まってセルロースパウダーやほどけた微細繊維状セルロースが水系媒体に分散することになる。他方、水系媒体ではなく油系媒体にセルロースパウダーを混ぜた場合は次のようになると推測される。油系媒体が疎水性であるので、セルロースパウダーは、水系媒体下ほど、ほどけ易くはない。セルロースパウダーの形状が保たれたまま、ある一定の粘性を持つ油系媒体内に分散する。この場合、セルロースパウダーは、沈降し難く、分散された状態を持続する。
【0081】
本実施形態に係るセルロースパウダーは、微細繊維状セルロースを好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上有するものであり、上限は100質量%有するものであってよい。セルロースパウダーに占める微細繊維状セルロースの質量百分率が50質量%を下回ると、本発明のセルロースパウダーの所望の嵩密度、比表面積が得られなくなるおそれがある。
【0082】
<平均粒子径>
本実施形態に係るセルロースパウダーは、好ましくは平均粒子径が1~100μmの範囲、より好ましくは平均粒子径が1~70μmの範囲、さらに好ましくは平均粒子径が1~30μmの範囲となるものである。当該平均粒子径が上記範囲未満でも本発明の効果を発揮するが、取り扱い易さの点では上記範囲の下限以上の平均粒子径であることが望ましい。他方、当該平均粒子径が上記範囲を超えると、セルロースパウダーを充填させたり、分散媒に分散させたりしたときに、粒子間に形成される空隙が大きくなり、所望の濃度に調整しづらくなる。
【0083】
セルロースパウダーは、粒子径の標準偏差が好ましくは1~90μm、より好ましくは1~60μm、特に好ましくは1~30μmである。
【0084】
本形態のセルロースパウダーは、大小様々な粒子径を有することが特徴的である。具体的には、統計的に粒子径の分散係数が無機微粒子の粒子径の分散係数と比較して大きいものとなっている。なお、当該セルロースパウダーは、真球度に優れるものではなく、個々が凹凸を有し、多孔質形状であり、個々に異なる形状をしている。
【0085】
本形態のセルロースパウダーは、多孔質形状となっている。多孔質形状を構成する個々の孔は、例えば、孔径が0.1nm~2000nmである。セルロースパウダーが無機微粒子を担持する場合は、無機微粒子がこの孔にはまっていることもあるし、セルロースパウダーの表面に付着していることもある。したがって、無機微粒子は、当該孔の径の大小にかかわらず、セルロースパウダーに担持され得る。なお、無機微粒子に限らず流動油分や界面活性剤、添加剤もセルロースパウダーに担持され得る。
【0086】
また、セルロースパウダーは、多孔質形状となっているので、外部からの入射光が孔によってさまざまな角度に反射する。したがって、当該セルロースパウダーを有する油性化粧料はテカリを抑制する効果がある。
【0087】
さらに、本形態のセルロースパウダーは、例えば、乾燥させて製造されるものなので、干からびて皺が寄った微細繊維状セルロースが複数絡まって多孔質形状の孔が形成されることもある。微細繊維状セルロースの干からび方は様々であり、形成されるセルロースパウダーは、単一の形状からなる粒子ではなく、様々な形状の粒子からなる。
【0088】
セルロースパウダーの平均粒子径、メディアン径、累計10%径、及び累計90%は、ISO-13320(2009)に準拠した測定装置、具体的にはレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布)「LA-960V2」を用いて、セルロースパウダーに付着した水分を飛ばさずに乾式方法にて測定をした数値である。
【0089】
<比表面積>
セルロースパウダーの比表面積は好ましくは0.1~10m2/g、より好ましくは0.2~8m2/g、さらに好ましくは0.5~5m2/gである。同比表面積が0.1m2/gを下回ると、無機微粒子をセルロースパウダーに担持させようとしたときに、担持できる無機微粒子の量が少なく無機微粒子の性能が発揮されないおそれがある。他方同比表面積が10m2/gを上回るものは、粒子の軽量化の点、また再分散性の上では好ましいがその製造が非常に困難である。
【0090】
セルロースパウダーの比表面積は、BET法により測定した。具体的には、測定器にカンタクローム・インスツルメンツ社製NOVA4200eを用い、窒素ガスによる吸着法により測定した。準拠する試験方法は、JISZ8830:2013である。
【0091】
<水分率>
セルロースパウダーの水分率は好ましくは30%以下、より好ましくは20%、さらに好ましくは15%以下である。同水分率が30%を超えるセルロースパウダーは、多くの水分が含まれ、油性化粧料を長時間放置したときにセルロースパウダーの相と流動油分の相とに分離してしまうおそれがある。
【0092】
本実施形態に係るセルロースパウダーは、好ましくはゆるめ嵩密度が100~1000mg/cm3、より好ましくはゆるめ嵩密度が100~900mg/cm3、さらに好ましくはゆるめ嵩密度が150~800mg/cm3の範囲となるものである。当該ゆるめ嵩密度が1000mg/cm3を超えるセルロースパウダーは、前述の固めのかさ密度同様で、繊維同士が強固に絡み合った凝集体となっており、弾力がなく、硬い使用感になる。また、油系分散媒に分散させたとしても、沈降しやすくなり分散性に優れるものとはいえない。当該固め嵩密度が100mg/cm3未満のセルロースパウダーは、前述の問題を解消できるものの、粒子が崩壊しやすくなるため、溶媒の分散時に崩壊しやすくなる。
【0093】
ゆるめ嵩密度はCarrの流動性指数の算出に用いられる項目の一つであり、ASTM D6393-99 圧縮度測定方法に準拠して測定した。測定は、「多機能型粉体物性測定器マルチテスターMT-02」(株式会社セイシン企業製)である。
【0094】
<添加剤>
油性化粧料には、添加剤を加えることができる。添加剤は、皮膚の乾燥を防ぎ、皮膚にうるおいを付与する等の目的で添加する。添加剤としては、多糖類と保水性高分子のいずれか一方又は両方を例示できるが、この限りではない。多糖類としては、クインスシード、ビーガム、キサンタンガム、ヒアルロン酸塩等を用いることができるが、これらに限るものではない。特にヒアルロン酸塩等が増粘性、セルロースパウダーの分散性の観点で好ましい。保水性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ホスホリルコリン基を有するモノマーを構成モノマーとするホモポリマー又はコポリマー、糖残基を有するモノマーを構成モノマーとするホモポリマー又はコポリマー、アミノ酸残基を有するモノマーを構成モノマーとするホモポリマー又はコポリマーを挙げることができる。具体的には、(メタ)アクリル酸アルキルとポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとからなるコポリマー、(メタ)アクリル酸アルキルとメタクリロイルオキシエチルグルコシドとからなるコポリマー、(メタ)アクリル酸アルキルとメタクリロイル-L-リジンとからなるコポリマー等を例示できるが、これらに限るものではない。特にポリビニルピロリドンが増粘性、セルロースパウダーの分散性の観点で好ましい。
【0095】
(セルロースパウダーの製造:ドラムドライ方式)
セルロースパウダーは、微細繊維状セルロースを乾燥処理させて得られるものである。乾燥処理されたセルロースパウダー(乾燥体)は、相互に凝集しにくく、水系や油系媒体に入れたときに容易に分散する。本形態に用いるセルロースパウダーとしては、ドラムドライ方式により得られるものやスプレードライ方式により得られるものを例示できる。ドラムドライ方式によるセルロースパウダーの製造方法によれば、相対的に高濃度の、又は流動性に乏しい微細繊維状セルロースであっても、凝集しにくく、分散が容易な乾燥体を得ることができる。ドラムドライ方式によるセルロースパウダーの製造は一例としては次のように行う。
【0096】
微細繊維状セルロースは、例えばスラリー(水分散液)状態で乾燥処理を行うドラムドライヤーに供給することができるが、この場合の微細繊維状セルロースの含有量(絶乾質量%)は、1質量%以上、好ましくは1.5質量%、より好ましくは2.0質量%である。また、当該含有量は、10質量%以下、好ましくは7質量%、より好ましく5質量%である。当該含有量が10質量%を超えると、スラリーの粘度が高すぎてハンドリング性に欠ける。他方、当該含有量が1質量%未満だと、水分を除去するのに多くのエネルギーと時間を消費し、経済的ではない。
【0097】
ドラムドライ方式による乾燥処理で用いるドラムドライヤーは、公知のものであってよい。例えば、ジョンソンボイラー社製品の「ジョンミルダーJM-T型」を用いることができる。ドラムドライヤーとしては、内転式ドラムドライヤーを好適に使用できる。内転式ドラムドライヤーであれば、穏やかな乾燥処理がなされ、比表面積が相対的に小さい乾燥体となる。乾燥処理は、常圧下で行うことができる。
【0098】
ドラムドライヤーの運転条件については、ドラム内面の表面温度が80~200℃、好ましくは90~190℃である。当該表面温度であれば、油性化粧料に好適な乾燥体(パウダー)を得ることができる。当該表面温度が200℃を超えると、微細繊維状セルロースの繊維の一部が熱変性を起こすおそれがある。他方、当該表面温度が80℃未満だと、水分の除去に時間を多く費やしてしまうだけでなく、水分が非常に高いパウダーとなる。また、ドラムドライヤーの回転速度は、ドラムの内径やスラリーの投入量にもよるが、例えば1rpm以上2rpm以下とすることができる。ドラムドライヤーで乾燥させる時間は、スラリーの投入量にもよるが1秒~60秒あれば、十分乾燥し、それを超える時間乾燥させても乾燥体の水分量はそれ以上低くならない。
【0099】
(セルロースパウダーの製造:スプレードライ方式)
スプレードライ方式によるセルロースパウダーの製造は一例としては次のように行う。スプレードライヤーは、スプレードライヤーに備わるスプレーノズルからドライヤー缶体内に液滴化して噴霧される。噴霧されたスラリーの液滴は、ドライヤー缶体内を流れる熱風に曝され乾燥して乾燥体となる。本形態において、スプレードライヤーの型式は特に限定されないが、例えばプリス社製品「TR-160」を用いることができる。
【0100】
スラリーの噴霧圧は、0.3MPa以上とするのが好ましく、0.3~2.0MPaとするのがより好ましい。噴霧圧が0.3MPaを下回ると、得られる乾燥体の粒子径にバラつきが発生しやすくなる。
【0101】
スプレードライヤーに吹き込む熱風の温度は、排風温度を考慮して調節するとよく、180~220℃とするのが好ましく、190~220℃とするのがより好ましい。スプレードライヤーからの排風温度は90~120℃となるようにすると、十分に乾燥した乾燥体が得られ好適である。
【0102】
乾燥処理に供するスラリーは、微細繊維状セルロースのほかに多価アルコールを混ぜた混合スラリーであってもよい。混合スラリーを乾燥処理して得た乾燥体(セルロースパウダー)は、微細繊維状セルロースと多価アルコールを含む複合体となり、微細繊維状セルロースのもつヒドロキシ基のほかに多価アルコールのもつヒドロキシ基が追加されているので、媒体中においてより良好な分散性を示す。
【0103】
多価アルコールとしては、2価アルコールや3価アルコール、その他の多価アルコールを例示できる。2価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。3価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。2価及び3価以外の多価アルコールとしては、例えばペンタエリスリトール、ジグリセリン、ポリグリセリン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、3価アルコールは、1分子中に占めるヒドロキシ基の割合が高く、少量で乾燥体の分散性を向上させるので好ましい。3価アルコールの中でもグリセリンが好適である。
【0104】
多価アルコールは、微細繊維状セルロース100質量部に対して5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上であり、また、微細繊維状セルロース100質量部に対して100質量部以下、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。多価アルコールの量が不十分だと分散性の向上が見込めないおそれがある。他方、多価アルコールの量が多すぎると、油性化粧料のベタツキ感が増し、不快をもたらすおそれがある。なお、多価アルコールは、乾燥処理を行ってもほぼ気化することはなく、混合スラリー中の微細繊維状セルロースの質量と多価アルコールの質量の比がそのまま、乾燥体中の微細繊維状セルロースの質量と多価アルコールの質量の比とすることができる。
【0105】
スラリーには多価アルコールのほか、ヒドロキシ基を有する試薬、例えばヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸塩、グリセリン誘導体又はこれらの組み合わせを加えてもよい。
【0106】
セルロースパウダーは、セルロースナノファイバー原料として凍結乾燥する手法や減圧乾燥する手法、加熱乾燥する手法(例えば、ホットドライヤーやドラムドライヤーによる乾燥)、噴霧乾燥する手法によって製造することができるが、特に加熱乾燥による手法を用いると、比表面積や平均粒子径が相対的に小さくなり、流動油分を成分として含む化粧料に好適に用いることができる。流動油分を成分として含む化粧料は、比表面積が相対的に大きい粒子が含まれていると、異物感を覚えやすくなる。他方、流動油分を成分として含む化粧料に含まれる粒子が、比表面積や平均粒子径が相対的に小さい粒子であれば、異物感が軽減される。
【0107】
また、本件発明のセルロースパウダーは、一例として加熱乾燥する手法で製造することができる。セルロースパウダーを構成する微細繊維状セルロースは、乾燥したものなので、皺が寄ったり、干からびたりして空孔が形成されたものとなっている。セルロースパウダーは、この微細繊維状セルロースが主構成要素となっているので、多孔質体となっている。セルロースパウダーが多孔質であれば、セルロースパウダーに形成される多数の空孔に別の物質を担持させることができる。セルロースパウダーに別の物質を担持させることで、当該別の物質の性質をセルロースパウダーに付与することができる。
【0108】
(流動油分)
流動油分は、本発明の油性化粧料の主な成分の一つであり、油性化粧料を皮膚に塗布し易くする、伸びを良くする、皮膚を保湿する、皮膚にうるおいを付与する等の効果がある。流動油分は、常温(例えば、15~30℃)で流動性がある油分をいい、例えば融点が25℃以下、好ましくは-10~25℃であるとよい。常温下において粘度が高い油分は、皮膚への塗布がしづらい。流動油分としては、化粧料の分野で用いられるものを選択して用いることができるが、例えば、液状エステル油(ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸2-オクチルドデシル、2-エチルヘキサン酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスチル)、液体ロウ(ホホバ油)、液体炭化水素油(流動パラフィン、スクワラン)、高級脂肪酸(ラウリン酸、イソステアリン酸)、液体油脂(オリーブ油、椿油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油)、液状高級アルコール(イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール)、そのほかメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等を挙げることができる。この中でも、液体炭化水素油(特に流動パラフィン)がほぼ無臭であり好ましい。
【0109】
油性化粧料に占める流動油分の含有率は、例えば、20質量%以上、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~60質量%である。油性化粧料に占める流動油分の含有率が20質量%未満だと、油性化粧料が保湿やうるおい付与の効果に乏しいものとなる。
【0110】
(常温固形油分)
周囲の環境の変化、例えば室温や湿度の変化により、流動油分へのセルロースパウダーの分散性が低下する場合がある。例えば、室温の変化により油性化粧料の流動性や粘度が変わり、それに伴い流動油分中に分散するセルロースパウダーが次第に偏ってくることがある。この偏りの発生を抑制して分散が維持されるようにするために、より粘度の高い材料を油性化粧料に加えるのが好ましい。当該材料としては、皮膚への安全性、衛生面の観点より、ワセリン(黄色ワセリン、白色ワセリン)、シアバター、カルバナロウ、キャンデリラロウ、ミツロウ、モクロウがよく、より好ましくはワセリンであるが、これらに限定されない。
【0111】
ワセリンは、流動油分と相溶性があるという観点からも好ましく、油性化粧料に占める含有率が10~70質量%、好ましくは20~60質量%、より好ましくは30~50質量%である。当該含有率が70質量%を超えると、油性化粧料の粘度が高くなり過ぎてしまい、塗布しづらくなり、使用感が良くなくなる。他方、当該含有率が10質量%未満だと、ワセリンを加えた効果が乏しい。
【0112】
(油性化粧料)
本形態の油性化粧料においてセルロースパウダーの含有量は、B型粘度が回転数3rpmの測定条件で10~50000mPa・sを満たす限り、特に限定されないが、セルロースパウダーが過剰であったり、不足したりすると肌に塗布する際に違和感や強いベタツキを感じるおそれがある。そこで、油性化粧料にセルロースパウダーが好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~8質量%、さらに好ましくは0.3~5質量%含まれているとよい。
【0113】
油性化粧料のB型粘度(測定条件は回転数3rpm、35℃)は、好ましくは100~50000mPa・s、より好ましくは500~50000mPa・s、さらに好ましくは1000~50000mPa・sである。油性化粧料のB型粘度が50000mPa・sを超過すると、油性化粧料を皮膚に塗布して伸ばすのが困難になり、セルロースパウダーの効果が得にくい。他方、油性化粧料のB型粘度が100mPa・s未満だと、皮膚に塗布した油性化粧料が垂れ易くなり、所望の部位のみへの塗布がしづらくなる。
【0114】
本発明の油性化粧料は、親水的なセルロースパウダーが疎水的な流動油分中に原則的には界面活性剤を加えることなく分散された状態を維持できるという特徴がある。これは、本形態のセルロースパウダーの嵩密度が相対的に低く、流動油分中においてセルロースパウダーが嵩張ることによるものと推測される。
【0115】
本形態の油性化粧料は使用感に優れたものとなっているが、この使用感を影響を与える要因の一つは、油性化粧料の流動性である。流動性は、油性化粧料の融点に影響され、融点が40℃以下、好ましくは10~40℃、より好ましくは10~36℃である油性化粧料がよい。油性化粧料の融点が、40℃を上回ると、外気温度(又は室内温度)によっては、油性化粧料が固化してしまい使用しづらくなるおそれがある。また、外気温度(又は室内温度)によって容易に固化したり液化したりすると、保存状体にもよるが油性化粧料中におけるセルロースパウダーの分布が偏在してしまうことにもなる。
【0116】
油性化粧料は、流動油分とセルロースパウダーが含まれるものであるが、油性化粧料に含まれる流動油分の百分率は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.2~15質量%である。当該百分率が0.1質量%を下回ると、相対的にセルロースパウダーの含有率が低くなるので、油性化粧料のテカリ抑制効果が乏しくなる。他方、当該百分率が20質量%超えると粘度が高くなりすぎることで肌への伸びを損なう。
【0117】
(界面活性剤)
本形態の油性化粧料は、セルロースパウダーが流動油分に良好に分散しているので原則的には界面活性剤が含まれていなくてもよい。しかしながら、長期的に放置すると、セルロースパウダーが偏ってくる場合があるので、界面活性剤を油性化粧料の粘度を損なわない範囲で加え、乳化させてもかまわない。乳化させる場合は、公知の分散機(ホモジナイザー等)で分散させて乳化することができる。油性化粧料は、界面活性剤が含まれていると、セルロースパウダーと流動油分との静電的反発が軽減されるものと考えられ、結果的には長期間セルロースパウダーが流動油分に分散した状態が持続する。油性化粧料に占める界面活性剤の百分率は、0.1~10質量%、好ましくは0.2~5質量%とするとよい。
【0118】
界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン(アニオン)性界面活性剤、陽イオン(カチオン)性界面活性剤、両性界面活性剤、リン脂質等を使用することができ、特に、非イオン性界面活性剤のエステル型又はエステル・エーテル型を使用するのが好ましく、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン、脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びソルビトールの脂肪酸エステル、並びにこれらのアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を挙げることができる。
【0119】
界面活性剤や添加剤以外の通常化粧品に使用される材料ついても、粘度を損なわない限りにおいて、油性化粧料に加えることができる。
【実施例】
【0120】
<試験例1>
1.パウダーの製造
実施例を次に示す。試験例1は次の通りに製造した。微細繊維状セルロース(大王製紙株式会社製製品「ELLEX(登録商標)-S」)を水に濃度2質量%になるように分散させた分散液を原料スラリーとしてスプレードライヤーに供給してセルロースパウダーAを得た。当該微細繊維状セルロースの平均繊維径は50nmである。
【0121】
2.試験例の調製
白色ワセリン(健栄製薬株式会社 日本薬局方)と流動パラフィン(富士フイルム和光純薬(株) 和光一級)をそれぞれ測り採り、100mlの容器に入れ、90℃の湯煎で温めながら混合し、これにエッセンシャルオイル(オレンジ油、富士フイルム和光純薬(株) 和光一級)、上記セルロースパウダーAを入れてパウダーの配合率が5%になるように調整した。その後撹拌機IKA-T25で混合して撹拌(8000rpm、3分間)し、室温まで放冷して試験例1を得た。セルロースパウダーA及び後述のセルロースパウダーB、無機微粒子の物性を表1に示す。
【0122】
【0123】
<試験例2>
1.パウダーの製造
試験例2は次の通りに製造した。微細繊維状セルロースを水に濃度2質量%になるように分散させた分散液を原料スラリーとしてドラムドライヤーに供給してセルロースパウダーBを得た。当該微細繊維状セルロースの平均繊維径は50nmである。
【0124】
2.試験例の調製
白色ワセリンと流動パラフィンをそれぞれ測り採り、100mlの容器に入れ、90℃の湯煎で温めながら混合し、これにエッセンシャルオイル、上記セルロースパウダーBを入れてパウダーの配合率が5%になるように調整した。その後撹拌機IKA-T25で混合して撹拌(8000rpm、3分間)し、室温まで放冷して試験例2を得た。
【0125】
<比較例1>
1.無機微粒子
比較例1では、セルロースパウダーの代わりに無機微粒子である酸化チタン(STR-100N 堺化学工業(株))を用意した。
【0126】
2.比較例の調製
白色ワセリンと流動パラフィンをそれぞれ測り採り、100mlの容器に入れ、90℃の湯煎で温めながら混合し、これにエッセンシャルオイル、上記酸化チタンを入れて酸化チタンの配合率が5%になるように調整した。その後撹拌機IKA-T25で混合して撹拌(8000rpm、3分間)し、室温まで放冷して比較例1を得た。
【0127】
<比較例2>
1.比較例の調製
比較例2では試験例と比較するため、パウダーを入れないものとした。具体的には、白色ワセリンと流動パラフィンをそれぞれ測り採り、100mlの容器に入れ、90℃の湯煎で温めながら混合し、これにエッセンシャルオイルを加えて調整した。その後撹拌機IKA-T25で混合して撹拌(8000rpm、3分間)し、室温まで放冷して比較例2を得た。
【0128】
前述の試験例及び比較例各々について、水分率、B型粘度を測定した。B型粘度の測定条件は回転数3rpm又は30rpm、35℃とした。セルロースパウダー(又は無機微粒子)及び各種試薬の混合割合及びB型粘度の測定結果を表2に示した。
【0129】
【0130】
ここで、B型粘度は、JIS-Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した。B型粘度は液体を撹拌したときの抵抗トルクであり、高いほど撹拌に必要なエネルギーが多くなることを意味する。
【0131】
(官能試験)
調製した試験例及び比較例を用いて官能試験を行った。官能試験の内容は次に示すとおりである。被験者は、試験例及び比較例を自身の肌に塗布し、その時の各項目、具体的には異物感、ベタツキ、テカリについては1,2又は3点のいずれかで評価し、使用感については1位、2位、3位のいずれかで評価した。被験者は、男性12名、女性16名であった。
【0132】
評価は次の通りに行い、項目ごとに平均値を算出した。
異物感については、比較例2と差がない場合を3点、やや気になる場合を2点、痛い・気になるを1点として評価してもらった。
ベタツキについては、比較例2よりべたつかない場合を3点、参考例と変わらない場合を2点、参考例よりもべたつく・悪い場合を1点として評価してもらった。
テカリについては、比較例2よりもテカらない場合を3点、参考例と変わらない場合を2点、参考例よりもテカる・悪い場合を1点として評価してもらった。
使用感については、試験例1,2及び比較例1を使用感が良い順に順位、1位、2位、3位(1位が最も使用感に優れる)を付け評価してもらった。
評価結果を表3に示す。表3に示す点数・順位は、平均値である。
【0133】
【0134】
官能試験結果の考察の概略を次に示す。異物感については、試験例1,2は比較例1より異物感が感じられなかった。ベタツキについては、試験例1,2は比較例2よりも感じられなかった。テカリについては、試験例1,2が比較例1,2よりも抑制された。使用感については、試験例1,2が比較例1よりも順位が優れていた。比較例1は、皮膚に塗布すると、無機微粒子が白く目立つ傾向にあった。
【0135】
(その他)
上記明細書中に示すJISやTAPPIその他の試験、測定方法は特段断りがない場合は、室温、特に25℃、大気圧中、特に1atmで行っている。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、異物感が感じられにくく、ベタツキとテカリが抑制された油性化粧料に利用できる。