(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】SPADベースの検出器のダイナミックレンジの拡大
(51)【国際特許分類】
G01S 7/4861 20200101AFI20240328BHJP
G01V 8/20 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
G01S7/4861
G01V8/20 N
(21)【出願番号】P 2022522583
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 EP2020075326
(87)【国際公開番号】W WO2021073807
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】102019215835.8
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ストリッカー-シェーバー,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】バッハマイヤー,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ハス,レミーギウス
(72)【発明者】
【氏名】ハーゼンオール,トーマス
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003227(WO,A1)
【文献】特表2017-538281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0302242(US,A1)
【文献】特開2007-198911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
17/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御機器(4)によるLIDAR装置(1)の動作方法であって、
- ビーム源(2)によって少なくとも一つのビームパルス(3)が走査範囲(A)内に放出され、
- 前記走査範囲(A)から反射および/または後方散乱されたビーム(12)が、複数のSPADセル(8)を有する検出器(6)によって受信され、かつ電気的な登算パルス(N)に変換される動作方法において、
延びた強度減衰スロープ(14)をもつ前記少なくとも一つのビームパルス(3)が生成され、かつ前記検出器(6)が、DCカップリングされた読取電子機器(10)によって読み取られることを特徴とする動作方法
において、
指数関数的に落ちていくような強度減衰スロープ(14)をもつ前記少なくとも一つのビームパルス(3)が生成されるように、前記ビーム源(2)が前記制御機器(4)によって動作される、
方法。
【請求項2】
前記読取電子機器(10)が、能動または受動アバランシェキャンセル回路として形成されている、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
可変に調整可能なアクティブ時間(Z)をもつ前記検出器(6)の前記SPADセル(8)が、前記読取電子機器(10)によって制御される、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法を実行するように適応されている制御機器(4)。
【請求項5】
走査範囲(A)を走査するためのLIDAR装置(1)であって、ビームパルス(3)を生成するための少なくとも一つのビーム源(2)、前記走査範囲(A)から後方散乱および/または反射されたビーム(12)を受信するための少なくとも一つの検出器(6)を有し、かつ読取電子機器(10)と接続された請求項
4に記載の制御機器(4)を有し、前記検出器(6)が、SPADアレイ(8)として形成されており、かつ前記SPADアレイ(8)の動作のための前記読取電子機器(10)と接続されており、前記制御機器(10)が、前記読取電子機器(10)の出力を評価するために、および前記少なくとも一つのビーム源(2)を制御するために適応されているLIDAR装置(1)。
【請求項6】
前記読取電子機器(10)が、DCカップリングされた評価電子機器として形成されている、請求項
5に記載のLIDAR装置。
【請求項7】
前記生成されたビームパルス(3)が、延びた強度減衰スロープ(14)をもつビームパルス(3)として前記走査範囲(A)内に放出され得るように、前記少なくとも一つのビーム源(2)が前記制御機器(10)によって制御され得る、請求項
5または
6に記載のLIDAR装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御機器によるLIDAR装置の動作方法および走査範囲を走査するためのLIDAR装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動動作可能な車両および走行機能は、公共道路交通においてますます重要性を獲得している。このような車両および走行機能の技術的実現のために多くの場合LIDARセンサが必要である。これに関しLIDARセンサは、電磁放射線、例えばレーザ線を生成し、この線を走査範囲の走査に利用する。飛行時間型分析をベースとして、LIDARセンサと走査範囲内のオブジェクトとの間の距離が確定され得る。
【0003】
大きな到達距離をもつLIDARセンサの検出器は、この検出器がSPAD(Single-Photon-Avalanche-Diode)セルから成る場合に、温度および経年劣化の影響に対して特に強く形成され得る。検出器の各マクロピクセルは、複数のSPAダイオードまたはSPADセルから構成され、かつ規定の立体角範囲から入射する線を受信し得る。
【0004】
SPADセルの機能方式に起因して、検出器を設計する際には不感時間を考慮しなければならない。不感時間は、光子のさらなる検出のために、SPADセル内のアバランシェ電流を抑制して、SPADセルに印加されている電圧を改めて引き上げるために必要な期間から結果として生じる。SPADセルの不感時間中は、光子のさらなる検出は不可能であり、これに加え、SPADセルのアクティブ時間中に一つだけの光子が検出されているかまたは複数の光子が検出されているかは確かめられない。
【0005】
通常は、SPADセル内のアバランシェ電流を抑制するための読取電子機器が交流ベースで動作され、それにより不感時間が増大され、かつ時間当たりの最大限検出される光子数が減少される。さらに、これまでに知られているSPADベースの検出器は不十分なダイナミックレンジを有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の基礎となる課題は、LIDAR装置の動作方法およびダイナミックレンジが拡大されたLIDAR装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は独立形式請求項のそれぞれの対象によって解決される。本発明の有利な形態はそれぞれ従属請求項の対象である。
本発明の一つの態様に基づき、制御機器によるLIDAR装置の動作方法が提供される。一つのステップにおいて、線源によって少なくとも一つの線パルスが走査範囲内に放出される。
【0008】
したがってLIDAR装置はパルスLIDAR装置として動作され得る。LIDAR装置の形態に応じて、少なくとも一つの線パルスの放射角を、垂直方向および/または水平方向に変化させることができ、それにより一つの立体角が走査され得る。
【0009】
走査範囲から反射および/または後方散乱された線は、複数のSPADセルを有する検出器によって受信され、かつ電気的な登算パルスに変換される。したがって検出器は、SPADセルアレイから構成可能であり、かつ平面的な広がりを有し得る。
【0010】
本発明によれば、延びた強度減衰スロープをもつ少なくとも一つの線パルスが生成され、かつ検出器が、DCカップリングされた読取電子機器によって読み取られる。線パルスのインパルス減衰スロープは、線パルスのインパルスアップスロープより長い期間にわたって延びる。
【0011】
本発明のさらなる一つの態様に基づき、本発明による方法を実行するために適応されている制御機器が提供される。この制御機器は、LIDAR装置に組み込まれていてもよく、または外部の制御機器として形成されていてもよい。
【0012】
評価電子機器が、好ましくはアバランシェキャンセル回路またはいわゆるクエンチ回路として形成されていてもよい。線パルスの到着時刻の高精密な検出を測定するため、ACカップリングされた評価電子機器の代わりにDCカップリングされた評価電子機器を使用することにより、SPADセルのアクティブ時間が、精密に制御でき、かつ生成または受信される線パルスの持続時間に適合され得る。とりわけ、SPADセルが光感応性になっているアクティブ時間が延長され得る。
【0013】
SPADセルのアクティブ時間の狙い通りの制御と延びた線パルスの組合せに基づき、SPADセルのより長い平均露光時間が達成され得、このより長い平均露光時間は、検出器のより大きなダイナミックレンジという結果に終わる。ダイナミックレンジは本発明に基づく方法により、受信された一つの線パルス中の検出可能な光子が百万をはるかに超えるほどに拡大され得る。
【0014】
とりわけ、LIDAR装置のダイナミックレンジは、とりわけ、線源の制御の適合および検出器の評価電子機器の変更により、技術的に簡単に増大され得る。
さらに、制御機器により線源を制御することで、線パルスの延びた減衰スロープまたは延びた強度減衰スロープにより、強度が次第に弱くなっていく複数の線パルスが複製され得、それにより、複数の短い線パルスによる走査範囲の露光、したがって非常に高周波の線源の使用をやめることができる。
【0015】
反射された線パルスを検出する際のSPADセルの使用は、小さな寸法、より低いバイアス電圧および損失電力、ならびにコンパクト性、ロバスト性、および確実性に基づいて特に有利である。加えてSPADセルは、より高い量子効率および光子の到着時刻を検出する際のより高い精密さをもたらす。
【0016】
一つの例示的実施形態によれば、指数関数的な、二次関数的な、または線形の強度減衰スロープをもつ少なくとも一つの線パルスが生成されるように、線源が制御機器によって動作される。この生成された線パルスの強度減衰スロープの形状をベースとして、多数の相次いで放出される短時間線パルスの狙い通りの複製が行われ得る。強度減衰スロープの長さが延びるにつれて、およびそれにより線出力が増すにつれて、LIDAR装置のダイナミックレンジが増大され得る。
【0017】
さらなる一実施形態によれば、読取電子機器が、能動または受動アバランシェキャンセル回路として形成されている。アバランシェキャンセル回路は、SPADセルの降伏電圧の少し手前の電圧の印加により、光子を検出するためのSPADセルのアクティブ化を可能にする。これに対応して、光子によって作動したSPADセルは、SPADセルに印加される電圧を絶縁破壊電圧以下に下げることで改めてアクティブ化され得る。
【0018】
光子の受信により、SPADセルの絶縁破壊電圧を超えることができ、かつ短い持続時間の電流上昇が測定され得る。このような電流上昇は、例えば10nsの時間の間、測定可能であり得るかまたは持続し得る。能動または受動アバランシェキャンセル回路としての読取電子機器の形成により、LIDAR装置の要求に対する評価電子機器の柔軟な適合が行われ得る。
【0019】
さらなる一つの例示的実施形態によれば、可変に調整可能なアクティブ時間をもつ検出器のSPADセルが、読取電子機器によって制御される。評価電子機器のDCカップリングにより、検出器のそれぞれのSPADセルのアバランシェ電流は、読取電子機器の強制的な短いアクティブ時間によって遮断されるのではなく、反射および/または後方散乱された線のゆっくり減衰するスロープによって遮断され、このスロープは、規定値より下に落ちなければならない。したがってSPADセルは、受信された線パルスの全持続時間中、または少なくとも光子の受信のための部分的な持続時間中は、アクティブ化されている。この措置により、SPADセルがより長く露光され得て、それにより検出器のダイナミックレンジが増大される。
【0020】
SPADセルの評価電子機器のDCカップリングはそれだけでなく、アクティブ時間の、したがって放出された線パルスごとの可能な感度持続時間の狙い通りの制御を可能にする。SPADセルのアクティブ時間は、SPADセルがその降伏電圧より僅かに低い指定動作電圧で印加される期間の調整によって生じ得る。
【0021】
本発明のさらなる一つの態様に基づき、走査範囲を走査するためのLIDAR装置が提供される。このLIDAR装置は、電磁放射線を生成するための少なくとも一つの線源、走査範囲から後方散乱および/または反射された線を受信するための少なくとも一つの検出器、ならびに読取電子機器と接続された制御機器を有する。
【0022】
検出器は、SPADアレイとして形成されており、かつSPADアレイの動作のための読取電子機器と接続されており、制御機器は、読取電子機器の出力を評価するために、および少なくとも一つの線源を制御するために適応されている。
【0023】
LIDAR装置の有利な一実施形態によれば、評価電子機器は、DCカップリングされた評価電子機器として形成されている。この措置により、ACカップリングとは対照的に、SPADセルによって相次いで受信された複数の光子による、SPADセルのいわゆる不感時間の延長が阻止され得る。
【0024】
これによりさらに、複数のレーザ源の複雑な制御をなくすことができ、かつSPADセルの評価電子機器が技術的により単純に形成され得る。
さらなる一つの例示的実施形態によれば、生成された線が、延びた強度減衰スロープをもつ線パルスとして走査範囲内に放出され得るように、少なくとも一つの線源が制御機器によって制御され得る。これにより、ダイナミックレンジの増大を達成するために、複数の短く相前後して放出される線パルスを生成するための複数の線源の使用または線源の技術的に複雑な制御が回避され得る。
【0025】
以下では、非常に簡略化した概略図に基づいて、本発明の好ましい例示的実施形態がより詳しく解説される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施形態に基づくLIDAR装置の概略図である。
【
図2】ACカップリングされた評価電子機器の経時的な電圧推移を図解するための概略的なグラフである。
【
図3】DCカップリングされた評価電子機器の経時的な電圧推移を図解するための概略的なグラフである。
【
図4】線パルスの適合された強度推移を明瞭化するための概略的なグラフである。
【
図5】検出器によって時間に依存して受信またはカウントされた光子のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、一実施形態に基づくLIDAR装置1の概略図を示す。LIDAR装置1は、線または線パルス3の生成に用いられる線源2を有する。
線源2はレーザとして形成されており、かつ制御機器4によって電気的に制御され得、かつ線3の生成のために励起され得る。線源2は、例えば、赤外線、可視光線、または紫外線の波長領域内の波長をもつ線3を生成し得る。
【0028】
LIDAR装置1はさらに検出器6を有する。検出器6は、評価電子機器10と接続されている多数のSPADセル8を有する。評価電子機器10は、好ましくは、例えばSPADセル8に印加される電圧UのDC成分がコンデンサによって除去されていないDCカップリングされた評価電子機器10として形成されている。検出器6のSPADセル8は、平面的に配置されており、かつ走査範囲Aから反射および/または後方散乱された線12を受信または検出し得る。
【0029】
受信された線12およびとりわけ受信された線12の光子は、評価電子機器10により、短時間電流インパルスの形態で検出され、かつデジタル測定データに変換される。このステップは、その代わりにまたはそれに加えて制御機器6と連携して行われ得る。
【0030】
DCカップリングされた評価電子機器10の使用により、ACカップリングされた評価電子機器の場合のように受信された光子によるいわゆるカウントが作動されるだけではなく、延びたアクティブ時間Zにより、例えばアクティブ時間ごとに6以上のカウントも検出され得る。
【0031】
図2では、例示的なACカップリングされた評価電子機器の場合の、SPADセル8に印加される電圧Uが例示的に表示されている。SPADセル8のアクティブ化に必要な電圧Uは、電圧Uの揺れにより、短期的にのみ存在する。
【0032】
その代わりに
図3では、DCカップリングされた評価電子機器10の経時的な電圧推移Uを図解するための概略的なグラフが示されている。
図3では、受信された線12の光子を検出できるようSPADセル8に印加され得る2つの異なる電圧推移Uが表示されている。これらの電圧推移Uはとりわけアクティブ時間Zが互いに異なっており、アクティブ時間Zは、DCカップリングされた評価電子機器10によって可変に調整可能である。
【0033】
DCカップリングされた評価電子機器10では、ダイナミックレンジが拡大されており、その理由は電圧信号の長さまたはアクティブ時間Zが、受信された線12がどのくらいの強度Iを有するかという情報をもたらすからである。これは
図2に示されたACカップリングでは、短時間後にはもはや不可能である。
【0034】
図4は、生成された線パルス3の適合された強度推移Iを明瞭化するための概略的なグラフを示す。ガウス状の線パルスとは異なり、表示された線パルス3の強度推移Iは、延びた強度減衰スロープ14を有する。表示された例示的実施形態では、強度減衰スロープ14が指数関数的に落ちていくように形成されている。強度減衰スロープ14は、例えば30nsの時間t後に残っている強度Iが1%であり得る。
【0035】
図5は、検出器6によって時間に依存して受信またはカウントされた光子のグラフを示す。とりわけ、時間tに依存した光子数Nが表示されている。これに関しては、受信された線12の検出に使用される時間tが増すにつれて、より大きな光子数Nが検出され得る。
【0036】
ダイナミックレンジは、最小限検出可能な光子数Nと最大限検出可能な光子数Nの間のレンジとして説明され得る。これに関しダイナミックレンジの拡大は、検出可能な光子数Nの区別可能性を改善させ得る。例えば、より大きなダイナミックレンジにより、より少ない検出可能光子数Nと、より多い検出可能光子数Nが区別され得る。この関係性および区別可能性は
図5において概略的に明瞭化されている。
【0037】
提示した数は、
図5では例示的に提示されており、かつ、単に区別を明瞭化するために用いられている。