(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】ピアス病菌に感染した植物の治療における植物衛生剤およびその特定の使用
(51)【国際特許分類】
A01G 13/00 20060101AFI20240328BHJP
A01N 35/06 20060101ALI20240328BHJP
A01N 59/20 20060101ALI20240328BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
A01G13/00 A
A01N35/06
A01N59/20 Z
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2022528298
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(86)【国際出願番号】 IB2019059838
(87)【国際公開番号】W WO2021094818
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】522189713
【氏名又は名称】ベクスタケム ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】トマージ コスタンティーノ
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0322889(US,A1)
【文献】特開昭58-157705(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1836507(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1781376(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0063708(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 13/00
A01N 35/06
A01N 59/20
A01P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M
m+金属および少なくとも1つのL配位子の有機金属配位錯体またはその植物薬学的に受容可能な塩の、植物の細菌感染および真菌感染の治療における使用であって、
前記L配位子は、式(LII)で表される化合物もしくはそのアニオンおよび式(LIII)で表される化合物もしくはそのアニオンより選択され、
【化3】
M
m+は酸化数mを有する遷移金属
である、使用。
【請求項2】
前記治療がピアス病菌(Xylella fastidiosa)感染に対する治療である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
請求項1または2に記載の使用であって、前記遷移金属M
m+がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、および亜鉛からなる群より選択される使用。
【請求項4】
請求項3に記載の使用であって、前記遷移金属M
m+が銅または亜鉛である使用。
【請求項5】
請求項4に記載の使用であって、前記遷移金属M
m+が銅である使用。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の使用であって、前記植物がオリーブ、柑橘類、ブドウ、アーモンド、リンゴ、ナシ、キョウチクトウ、異なる種の森林精油および観賞植物からなる群より選択される、使用。
【請求項7】
請求項6に記載の使用であって、前記植物がオリーブである、使用。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の有機金属配位錯体またはその植物薬学的に受容可能な塩、および式(LII)または式(LIII)で表される化合物を含む、植物衛生組成物。
【化4】
【請求項9】
請求項8に記載の植物衛生組成物であって、
前記組成物がさらに少なくとも1つの植物薬学的に受容可能なビヒクルおよび/または少なくとも1つの植物薬学的に受容可能な賦形剤を含む植物衛生組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の植物衛生組成物であって、
前記少なくとも1つのビヒクルが水である植物衛生組成物。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか一項の組成物の細菌感染および真菌感染の治療における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物における植物衛生剤としての、特にピアス病菌(キシレラ・ファスティディオーサ:Xylella fastidiosa)、好ましくはオリーブ植物からの細菌感染の治療における、有機金属配位錯体および/またはその配位子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
イタリアでは近年、ジャガイモ(Synchytrium endobioticum)の黒疥癬、マタタビ(Pseudomonas syringae)の細菌性癌、グラム陰性菌ピアス病菌など、感染植物材料の輸入を介して農業部門に多数の有害生物が不注意に持ち込まれている。2013年以降、イタリア南部のプーリア領域では、ピアス病菌細菌がモニターされたオリーブ植物の約6.5%に感染したと推定され、農家に大きな環境的および経済的影響をもたらし、同領域の油生産を劇的に低下させている。
【0003】
ピアス病菌は、それが確立されている領域において重篤な植物衛生パンデミックを引き起こすことができる隔離病原体として認識されており、したがって、ヨーロッパおよび地中海の植物保護組織EPPOのA1リスト、指令2000/29/ECに含まれている。
【0004】
この細菌は、特に農業部門で危険であり、キサントモナス(Xanthomonadaceae)科に属し、高い遺伝子および表現型変異性により特徴付けられる。実際、キシレラの4つの亜種が知られており、これは約150の異なるタイプの植物に感染することができる。
【0005】
しかし、細菌のすべての変種で攻撃機構は類似しており、実際、キシレラは胞子形成細菌ではなく、昆虫ベクター、特に植物のリンパ管からの吸汁を摂取するヒメヨコバイ科(Cicadellidae)の昆虫ベクターを介して伝播される。これらの昆虫は感染した植物を摂取し、その細菌を健康な植物に伝播する。いったん健康な宿主植物に伝播されると、この細菌は木部道管で増殖する。その機能は根から茎や葉に栄養分の豊富な生の樹液を導くことである。
【0006】
細菌増殖は、これらの容器が、生の樹液の規則的な流れを妨げる一種のゲルの生成によって遮断されるまで続く。このコロニー形成の後、植物体内では一連の生物学的変化が生じ、それが植物自身の死さえ決定しうる。
【0007】
ピアス病菌によって引き起こされる疾患の中で「ピアス病」が目立つが、これは、ブドウ、カンキツ果実の多様なまだら萎黄病 、およびオリーブ植物の急速な乾燥の複合に破壊的である。同様に重篤な疾患はまた、アーモンド、リンゴ、ナシ、キョウチクトウ(oleander)、および森林精油および観賞植物の種々の種に影響を及ぼし得る。
【0008】
これらの病気の典型的かつ最も頻繁な症状には、葉枯れ、成長の低下、および枝および苗条の乾燥が含まれる。
【0009】
この細菌は1世紀以上前から知られてきたが、病気の植物を治療する有効な治療法はまだない。
【0010】
現在までのところ、本質的に2つの慣行を通して、環境中に感染を封じ込める方法がある。
細菌そのものには作用できない。最初の実践は、殺虫処理やしばしば草を刈り取ることによって、ベクター、すなわち細菌を広げた昆虫に打ちつけて、幼虫やまだ若い虫を排除しようとすることに基づいている。
【0011】
しかしながら、高用量では、ヒトにおいても重大な損傷を引き起こし得る殺虫剤の使用に関連する欠点、例えば、めまい、頭痛、吐き気、筋痙攣、痙攣、呼吸困難、発疹、内分泌かく乱、生殖障害、学習障害などは周知である。
【0012】
さらに、殺虫製品の使用は、細菌の広がりの減少をもたらすが、微生物の繁殖を含有するために、第2の実践を組み合わせて使用することが依然として必要である。
【0013】
この第2の実践は、感染した植物を伐採することによって、細菌保有体を減少させることである。
【0014】
しかし、伐採は、植物、特にほとんどが永年植物であるオリーブ植物の根絶の環境的観点からも、また、圧搾されるオリーブの数が減少することによる、油供給の観点からも、膨大な損失を伴う。
【0015】
特に、農家の観点から見ると、伐採は、油の生産および販売が無くなること、ならびに新しいオリーブ植物の栽培と生産レジームに到達する時間との間に必要とされる時間の両方のために、経済レベルで大きな損失を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記で示されたピアス病菌の根絶のための処置の制限および欠点を克服することを目的とする。
【0017】
本発明の目的は、先行技術の欠点を克服する、植物、特にオリーブ植物におけるピアス病菌感染の治療を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の概要
上記の目的は有機金属配位錯体により達成された。
【0019】
本発明はすなわち、M
m+金属および少なくとも1つのL配位子の有機金属配位錯体またはその植物薬学的に受容可能な塩の、植物のピアス病菌(Xylella fastidiosa)の処置における使用であって、
M
m+は酸化数mを有する遷移金属であり、
Lは一般式(VII)の結合剤またはそのアニオンであり、
【化1】
R
1は酸素、単環または多環アルキル、ナフタレン残基、アントラセン残基、およびそれらのヒドロキシル化誘導体またはケトン誘導体からなる群より選択され、
R
2およびR
3は同一または異なり、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルコキシ基、直鎖または分岐のアルキル基、シクロアルキル基から選択されるか、またはR
2およびR
3が共にベンゼン誘導体を形成し、
R
6、R
7およびR
8は同一または異なり、互いに独立して、水素、ヒドロキシル基、アルコキシ基、直鎖または分岐のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、アリール基から選択される使用に関する。
【0020】
本発明の好ましくかつ有利な形態において、上記遷移金属はCu、Zn、およびNiから選択され、より好ましくはCuである。
有利には、上記配位子Lは5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンである。
【0021】
より好ましい形態において、本発明の有機金属錯体はすなわち、一般式(I)を有する。
【化2】
【0022】
したがって、前述の目的は、植物衛生剤としての一般式(I)の配位錯体の使用によって達成される。
【0023】
定義によれば、有機金属配位錯体は、配位子と呼ばれる、中性有機分子または負に荷電したイオンに配位する正に荷電した遷移金属のイオンによって一般に形成される化合物である。
【0024】
本発明者らはまた、一般式(VII)の配位子Lまたはその植物薬学的に受容可能な塩が単独でピアス病菌に対する植物衛生剤として作用することができることを見出した。
【0025】
すなわち、本発明の別の態様において、本発明は、一般式(VII)の化合物またはその植物薬学的に受容可能な塩の植物のピアス病菌(Xylella fastidiosa)の処置における使用に関する。
【化3】
式中、R
1は酸素、単環または多環アルキル、ナフタレン残基、アントラセン残基、およびそれらのヒドロキシル化誘導体またはケトン誘導体から選択され、
R
2およびR
3は同一または異なり、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルコキシ基、直鎖または分岐のアルキル基、シクロアルキル基から選択されるか、またはR
2およびR
3が共にベンゼン誘導体を形成し、
R
6、R
7およびR
8は同一または異なり、互いに独立して、水素、ヒドロキシル基、アルコキシ基、直鎖または分岐のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、アリール基から選択される。
【0026】
有利には、感染した植物上に適用される本発明の化合物(VII)は、植物によって吸収可能であり、その木部道管に到達することができ、そこで植物薬学的機能を果たす。
【0027】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、本発明者らは、式(VII)の配位子Lは、単独で、および遷移金属と錯化して吸収されることができ、予期せぬ驚くべき方法で、植物における、細菌、特にピアス病菌に対する植物薬学的作用を可能にすると考えている。
【0028】
植物によって吸収されるこの能力により、実際、上記の化合物(VII)は単独で、または錯化して、特に、ピアス病菌に感染した植物、好ましくはこの細菌に感染したオリーブ植物の治療における使用に特に適している。
【0029】
本発明はまた、植物細菌感染を治療するための植物衛生組成物に関する。
【0030】
したがって、さらなる態様において、本発明は、上記定義の有機金属配位錯体またはその植物薬学的に受容可能な塩および式(VII)の化合物またはその植物薬学的に受容可能な塩を含む植物薬学的組成物に関する。
【0031】
従って、この組成物は植物、好ましくはオリーブ植物におけるピアス病菌の処置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】銅と錯体を形成した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンの配位錯体の実測赤外線(IR)スペクトルを示す
【
図2】
図2は、銅と錯化した配位錯体5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンの計算赤外線スペクトルを示す
【
図3】
図3は、ニッケルと錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン配位錯体の実測赤外線スペクトルを示す
【
図4】
図4は、ニッケルと錯化した配位錯体5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンのシミュレーション赤外線スペクトルを示す
【
図5】
図5は、亜鉛と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンの配位錯体の実測赤外線スペクトルを示す
【
図6】図(6)は、亜鉛と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン配位錯体のシミュレーション赤外線スペクトルを示す。
【0033】
発明の詳細な説明
本発明は、M
m+金属および少なくとも1つのL配位子の有機金属配位錯体またはその植物薬学的に受容可能な塩の、植物のピアス病菌(Xylella fastidiosa)の処置における使用であって、
M
m+は酸化数mを有する遷移金属であり、
Lは一般式(VII)の結合剤またはそのアニオンであり、
【化4】
R
1は酸素、単環または多環アルキル、ナフタレン残基、アントラセン残基、およびそれらのヒドロキシル化誘導体またはケトン誘導体からなる群より選択され、
R
2およびR
3は同一または異なり、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルコキシ基、直鎖または分岐のアルキル基、シクロアルキル基からなる群より選択されるか、またはR
2およびR
3が共にベンゼン誘導体を形成し、
R
6、R
7およびR
8は同一または異なり、互いに独立して、水素、ヒドロキシル基、アルコキシ基、直鎖または分岐のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、アリール基からなる群より選択される、使用に関する。
【0034】
Mm+は、酸化数mを有する遷移金属である。
好ましくは、mは2に等しい。
好ましくは、遷移金属Mm+は、周期律表の第4周期の金属から選択され、より好ましくは、遷移金属Mm+は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛からなる群より選択される。
【0035】
より好ましくは、前述の遷移金属は、銅および亜鉛から選択される。
本発明の有利かつ好ましい実施形態では、遷移金属は銅である。
【0036】
本発明の銅との有機金属配位錯体は、植物衛生剤特性だけでなく、アンチクリプトガミック剤としても特に有利であることが見出され、実際、銅は、抗真菌能力を有する公知の金属である。有利には、本発明の配位錯体は、実際に、それが適用される植物によって吸収可能であり、したがって、それに錯化された銅のためのビヒクルとして作用することができる。
【0037】
なお有利には、農業部門における銅の使用は、有機農業においても、また、生物生態学的農業においてさえ、いくつかの特定の用途についても認可される。
【0038】
本発明の有機金属配位錯体は、式(VII)の少なくとも1つの配位子を含む。
【0039】
式(VII)の結合剤の本発明の好ましい実施形態において、R1は酸素であり、R2およびR3は同一または異なり、互いに独立して、水素または直鎖もしくは分岐のC1-C6アルキル基、即ち1~6の炭素原子を有するメチル基、エチル基、ブチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、ter-ブチル基などの基から選択され、R6、R7およびR8は同一または異なり、互いに独立して、水素、ヒドロキシル基、直鎖または分岐のC1-C6アルキル基から選択される。
【0040】
より好ましくは、式(VII)の配位子Lは5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンである。
【0041】
より好ましい実施形態において、本発明のピアス病菌の処置における植物衛生剤としての使用される有機金属錯体は、したがって、一般式(I)を有する。
【化5】
【0042】
したがって、前述の目的はまた、ピアス病菌の処置における植物衛生剤としての一般式(I)の配位錯体の使用によって達成される。
【0043】
配位錯体の式(VII)の配位子Lの少なくとも1つは、好ましくは、式(LII)、(LIII)、(LIV)、(LV)および(LVI)の配位子またはそれらそれぞれのアニオンからなる群より選択される。
【化6】
【0044】
より好ましくは、少なくとも1つの式(VII)の配位子Lは5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンまたはそのアニオン、すなわち、式(LII)の配位子である。
【0045】
本発明において特に好ましくは、式(LII)の5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンまたはそのアニオンが上記の遷移金属と錯化した配位錯体の上記使用である。この本発明の好ましく有利な形態において、遷移金属は好ましくはCu、Zn、およびNiから選択され、より好ましくはCuであり、さらに好ましくは酸化状態2のCuである。
【0046】
有利には、少なくとも1つの式(VII)の配位子Lはすなわち、式(LII)の5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンまたはそのアニオンである。
【0047】
本発明はすなわち、式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)および(VIII)の錯体からなる群より選択される有機金属配位錯体に関する。
【化7】
【0048】
本発明によれば、感染植物上に適用される有機金属配位錯体は、植物自体によって吸収可能であり、木部血管に到達することができ、そこで、それは、その抗細菌および抗真菌作用を満たす。
【0049】
上記のように、植物によって吸収されるこの能力は、特に、ピアス病菌に感染した植物の治療における使用にとって特に有利であり、実際、木部血管中にこの細菌が存在し、したがって、植物生理剤がその機能を果たすために吸収されることが必要である。
【0050】
本発明者らはまた、一般式(VII)の配位子Lまたはその植物薬学的に受容可能な塩のみであっても単独でピアス病菌に対する植物衛生剤として作用することができることを見出した。すなわち、本発明の別の態様において、本発明は、一般式(VII)の化合物またはその植物薬学的に受容可能な塩の植物のピアス病菌(Xylella fastidiosa)の処置における使用であって、
【化8】
式中、
R
1は酸素、単環または多環アルキル、ナフタレン残基、アントラセン残基、およびそれらのヒドロキシル化誘導体またはケトン誘導体からなる群より選択され、
R
2およびR
3は同一または異なり、互いに独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルコキシ基、直鎖または分岐のアルキル基、シクロアルキル基から選択されるか、またはR
2およびR
3が共にベンゼン誘導体を形成し、
R
6、R
7およびR
8は同一または異なり、互いに独立して、水素、ヒドロキシル基、アルコキシ基、直鎖または分岐のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、アリール基から選択される
使用に関する。
【0051】
有機金属配位錯体について上記に示された有利かつ好ましい態様は、式(VII)の化合物のものと同じであり、この後者は、本発明の錯体の金属Mm+の配位子である。
【0052】
本発明の配位錯体および式(VII)の配位子Lは、植物におけるピアス病菌の処置に使用される。
【0053】
本発明による植物は、好ましくは、オリーブ、柑橘類、ブドウ、アーモンド、リンゴ、ナシ、キョウチクトウ、異なる種の森林精油および観賞植物からなる群より選択される。より好ましくは、前記植物はオリーブである。
【0054】
本発明はまた、特にピアス病菌の処置において、植物細菌感染を治療するための植物衛生組成物に関する。
本発明者らは、実際に、式(VII)の化合物と本発明の錯体の併用が、植物、好ましくはオリーブにおけるピアス病菌の処置に有効であることを観察した。
【0055】
式(VII)の化合物またはそのアニオンがLIIである、本発明の好ましいおよび試験された実施形態において、本発明の配位錯体を形成するための前述の遷移金属との錯化は、5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンの抗細菌活性を増強する。
【0056】
したがって、さらなる態様において、本発明は、有機金属配位錯体またはその植物薬学的に受容可能な塩および式(VII)の化合物またはその植物薬学的に受容可能な塩を含む植物衛生組成物に関する。植物衛生組成物は、少なくとも1つの植物生理学的に受容可能なビヒクルおよび/または少なくとも1つの植物薬学的に受容可能な賦形剤を含み得る。
【0057】
この植物衛生組成物は、細菌および真菌病原体の処置、好ましくはピアス病菌感染の処置における植物での使用に特に適している。
したがって、さらなる態様において、本発明は、植物におけるピアス病菌の処置における植物衛生組成物の使用に関する。本発明による植物は、好ましくは、オリーブ、柑橘類、ブドウ、アーモンド、リンゴ、ナシ、キョウチクトウ、異なる種の森林精油および観賞植物からなる群より選択される。より好ましくは、前記植物はオリーブである。
【0058】
好ましくは、本発明の配位錯体を含む植物衛生組成物は、配位子Lが式(LII)の5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンまたは遷移金属Mm+と錯化したそのアニオンである配位錯体を含む。
【0059】
本発明の植物衛生組成物は、式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)および(VIII)の錯体ならびに上記のそれぞれのアニオンおよびそれらの混合物からなる群より選択される配位錯体を含みうる。
【0060】
好ましくは、本発明のこの植物衛生組成物は、銅と錯化された5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン、亜鉛と錯化された5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン、またはそれらの混合物の少なくとも1つを含む。
【0061】
本発明によれば、この植物衛生組成物は、本発明の式(VII)の化合物と混合された本発明の配位錯体を含む。
【0062】
好ましくは、組成物はまた、式(VII)の化合物、すなわち化合物5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン(LII)を含む。
【0063】
好ましくは、本実施形態によれば、本発明の配位錯体は、約30~50ppmの濃度で存在し、5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンは、約40~50ppmの濃度で存在する。
【0064】
特に、本発明の植物衛生組成物において、式(VII)の化合物が5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン(LII)である場合、合成形態および/または植物誘導体の形態で存在していてもよい。
この化合物は、実際、クルミ科(Juglandaceae)の樹木の葉、根および樹皮、特にJuglans nigra、J. Regia、J. Ailanthifolia、J. Cathayensis、J. Cinerea、J. Hndsii、J. MicrocarpaおよびJ. Stenocarpaに天然に存在し、クルミの殻を乾燥および細断することによる公知の技術によって得ることができる。
【0065】
発明の組成物の少なくとも1つの植物薬学的に受容可能なビヒクルは、望ましくは水、より好ましくは二次蒸留水(bidistilled water)である。有利には、水は植物に容易に吸収され、環境への影響はない。
【0066】
本発明の植物衛生組成物は、通常の実施に従って選択される通常の賦形剤のうちの1つ以上の賦形剤を含むことができる。
【0067】
このような賦形剤は、とりわけ、不活性物質および希釈剤などの配位錯体の濃度を減少させるのに役立つ共処方剤を含み得る。
【0068】
本発明の組成物はまた、配位錯体の有効性を増加させ、その分布を促進する目的を有する1つ以上の補助剤/賦形剤化合物を含むことができる。
【0069】
このような補助剤の例としては、相乗剤、乳化剤、湿潤剤、粘着付与剤、保湿剤、エアゾール製剤用噴射剤、不活性希釈剤、ドリフト防止剤、消泡剤、防腐剤などがあげられる
【0070】
本発明の植物衛生組成物の相乗的補助剤の特に好ましい例としては、コロイド状銅、コロイド状銀、粉末クルミ外皮、アロイン、アロエ抽出物およびそれらの混合物があげられる。
【0071】
有利には、粉末クルミ殻は、5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンを0.05~0.25%の間の可変パーセンテージで含み、これは組成物自体の抗菌作用を増大させる。
【0072】
本発明の植物衛生組成物は、液体または固体の形態であり得る。
液体製剤の例としては、配位錯体および/または化合物(VII)が、水中で混合された場合に、懸濁物を形成することができる生成物を得るために、湿潤、分散、不活性賦形剤およびそれ自体公知の他のものの存在下で微粉砕される、湿潤性粉末があげられる。
液体製剤の別の例としては、可溶性粉末、すなわち、水中で混合された場合に安定な希釈溶液を形成する先のものなどの粉末製剤があげられる。
【0073】
植物衛生組成物はまた、好ましくは安定性を保証するために界面活性剤、分散剤または他の安定剤の存在下で、水中のエマルジョンの形態であり得る。
【0074】
組成物はまた、分散性顆粒、配位錯体または式(VII)の化合物が水中で微細に乳化され、薄いポリマーフィルムでコーティングされているマイクロカプセルの懸濁液の形態であり得る。この製剤は、活性物質を徐々に放出し、急性毒性のかなりの減少を達成するという利点を有する。
【0075】
液体形態の植物衛生組成物の製剤は、噴霧またはエアロゾルによる植物への適用が容易であるため、特に好ましい。
本発明の植物衛生組成物の固体製剤の例としては、顆粒および乾燥粉末があげられる。
【0076】
植物衛生組成物は、内部治療処置のための製剤の形態で、すなわち、植物の幹に注入することによって使用することができる。
この内部療法製剤では、植物衛生組成物は、木部血管に沿って注入され、後者に沿って広がることがそれ自体既知である特に製剤化された補助剤を含む。
【0077】
有利には、内部療法製剤は、大気作用剤よりも低い洗浄作用を有し、外部適用のための製剤と比較して、作用の持続性が高く、投与量が少なく、および環境中の分散が少ない。
【0078】
本発明の組成物はまた、気体処置のための固体、液体または気体製剤、すなわち燻蒸剤の形態であってもよい。
本発明の植物衛生組成物は、植物における植物衛生剤としての使用に有利に適している。
【0079】
上記のように、上記の組成物は、好ましくは植物でのグラム陰性細菌、好ましくはピアス病菌からの細菌感染の治療のために使用される。
有利には、この組成物は、オリーブ植物上のピアス病菌感染を治療するのに特に有効である。
前述の植物衛生組成物を適用することによる、ピアス病菌に感染したオリーブ植物の治療の非限定的な例は、実施例において3.1~3.5で報告されている。
【0080】
本発明において特に好ましいのは、配位子Lが式(LII)の5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4ジオンまたは前述の遷移金属、好ましくは銅または亜鉛、より好ましくは銅、さらにより好ましくは酸化数2の銅と錯化したそのアニオンである式(II)の配位錯体の使用である。
【0081】
有利には、式(II)の配位錯体の有機部分、すなわち、結合剤LIIは、天然に既に存在する化合物であり、したがって、植物衛生剤としてのその使用による、環境の観点からの負荷は限定的である。
【0082】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、配位錯体(II)は、式(LII)の5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン配位子または亜鉛と錯化されたそのアニオンを含む。
【0083】
本発明の配位錯体(I)は、非錯体形態の配位錯体(I)のC5-ヒドロキシ誘導体、すなわち、番号1を有する以下の反応において示され、R1、R2、R3、R6、R7、R8は上記に定義されている式(VII)の配位子から出発して調製することができる。
【0084】
【化9】
ヒドロキシル誘導体1は、一般式Me(OH)
nの水酸化物と反応させ、C5におけるヒドロキシル基の水素の放出および対応する金属塩2を形成を可能にする。ここで、Meは金属であり、nはこの金属Meの酸化数である。本発明の配位錯体(I)を得るために、金属塩2をMX
m塩と等モル量で反応さる。ここで、Mは配位錯体(I)を形成する遷移金属であり、Xはハロゲンであり、mは遷移金属Mの酸化数である。
MeX
n塩が副産物として得られる。
【0085】
上記反応は、水、エタノールまたはメタノールなどの、反応スキームにてSolと示されるプロトン性溶媒中で実施される。エタノールの使用が特に好ましい。
金属塩2とMXm塩との反応は、還流条件下で行うことが好ましい。
【0086】
配位錯体が銅と錯化した一般式(II)を有する実施形態によれば、前記錯体は、式(LII)の5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンのエタノール溶液から出発して調製され、それに水酸化ナトリウムのエタノール溶液がゆっくりと添加される。この混合物にエタノールに溶かしたCuCl2をゆっくり加える。添加後、還流を約3~7時間、好ましくは約5時間維持し、次いでそれを冷却し、溶媒を減圧下で蒸発させ、かくして銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン、すなわち一般式(II)の錯体を得る。反応副生成物は代わりにNaClである。
【0087】
上記反応により得られた生成物を、実施例2に詳細に示すように、IR赤外分光法およびMS質量分析により構造的に特性評価した。
【0088】
既に上に示したように、化合物(VII)、上記配位錯体、好ましくは式(I)の錯体、および本発明の植物衛生組成物は、有利には、好ましくはピアス病菌に対する植物衛生剤の形態で抗細菌活性を示す。
【0089】
本発明によれば、化合物(VII)、配位錯体、好ましくは式(I)の錯体、および本発明の植物衛生組成物は、植物におけるグラム陰性細菌、好ましくはピアス病菌からの細菌感染の治療に使用される。
【0090】
特に好ましいのは、オリーブ植物における植物衛生剤としての使用である。
特に、化合物(VII)、上記配位錯体、好ましくは式(I)の錯体、および本発明の植物衛生組成物は、有利には、ピアス病菌感染の治療、好ましくはオリーブ植物のピアス病菌感染の治療における植物衛生剤としての使用に適していることが証明されている。
【0091】
この処置において、化合物(VII)、上記配位錯体、好ましくは式(I)の錯体、および本発明の植物衛生組成物は、感染植物の幹および/または葉上に適用することができる。好ましくは、それらはまた、感染植物の周囲の土壌に、植物の幹から約1~2メートルの半径まで適用される。
【0092】
さらに好ましくは、化合物(VII)、上記配位錯体、好ましくは式(I)の錯体、および本発明の植物衛生組成物は、植物に適用する前に水性溶媒に溶解させて、植物自体および、適用可能であれば、周囲の土地にそれらを分散させる。
【0093】
それらはまた、各々好ましくは100~250mgの範囲の量、好ましくは約200mgで各処置植物に適用される。ピアス病菌に感染したオリーブ植物に対する前述の配位錯体(I)の適用の非限定的な例を、3.1~3.3の例で報告する。
さらに、ピアス病菌に感染したオリーブ植物への化合物(VII)の適用の非限定的な例を、実施例3.4および3.5に報告する。
【0094】
既に示されているように、本発明の配位錯体の有効性は、部分的に、その有機部分、すなわち式(VII)の配位子の、植物の幹を通って木部血管に吸収される能力に起因すると推定され、木部血管に細菌は留まり、その後、細菌自体の内部のメカニズムを介して、微生物自体を取り囲むバイオフィルムを破壊するかまたは破壊を促進し、その後、その死を引き起こすと推定される。
【0095】
作用機構にかかわらず、配位錯体、好ましくは本発明の式(I)の錯体は、それが配位している遷移金属を、特に植物の幹の内側に運ぶことができるという利点も有する。
【0096】
さらに、有利には、遷移金属が銅または抗真菌活性を有する他の遷移金属である場合、処置された植物に対してその金属の抗真菌作用を実行することもできる。
【0097】
実際、配位錯体は遷移金属のビヒクルとして作用する。このビヒクルは、植物の幹によって吸収可能であり、金属が深くその殺菌作用を発揮することを可能にする。特に、植物の幹の内側に金属を運ぶ配位アセンブリーのこの能力は、例えば、硫酸塩、オキシ塩化物、水酸化物などの形態の金属と同等またはそれ以上の殺菌効力を得ることを、有利なことにより少量の遊離金属を使用することによって、可能にするが、これにより植物毒性のリスクはより低い。
この特徴は特に有機農業において有益である。
【0098】
植物衛生剤としての化合物(VII)、上記配位錯体、好ましくは式(I)の錯体、および本発明の植物衛生組成物の使用の別の利点は、接触または摂取によって毒性ではないという事実から、例えばハチのような昆虫に対して無害であることである。
【0099】
本発明の他の実施形態によれば、化合物(VII)、上記配位錯体、好ましくは式(I)の錯体、および本発明の植物衛生組成物は、それ自体公知の施肥作用を有する製品との混合物の形態で使用することができる。
【0100】
本発明の例示的および非限定的な目的のために、本発明を、本発明の配位錯体およびその活性、式(VII)の化合物、ならびに植物衛生組成物の実施形態のいくつかの例を参照して記載する。
【0101】
実施例1.配位錯体の合成
1.1 銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンの合成
0.23mmolの5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンを7.5mlのエタノールに溶解する。得られた溶液にNaOHの0.24Mエタノール溶液を添加する。黄色の溶液は瞬時に紫色に変わる。
【0102】
この混合物にエタノール2mlに溶解したCuCl20.23mmolをゆっくりと加える。添加後、約5時間還流下に維持する。得られた溶液を冷却し、本溶媒を減圧下で蒸発させて、本発明の配位錯体、銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンを得る。
反応副生成物はNaClである。
【0103】
1.2 ニッケルと錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンの合成
0.23mmolの5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンを7.5mlのエタノールに溶解する。得られた溶液にNaOHの0.24Mエタノール溶液を添加する。黄色の溶液は瞬時に紫色に変わる。
【0104】
エタノール2mlに溶解したNiCl20.23mmolをこの混合物にゆっくりと加える。添加後、約5時間還流下に維持する。得られた溶液を冷却し、本溶媒を減圧下で蒸発させて、銅と錯化した本発明の5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンの配位錯体を得る。
反応副生成物はNaClである。
【0105】
1.3 亜鉛と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンの合成
0.23mmolの5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンを7.5mlのエタノールに溶解する。得られた溶液にNaOHの0.24Mエタノール溶液を添加する。黄色の溶液は瞬時に紫色に変わる。
【0106】
この混合物にエタノール2mlに溶解したZnCl20.23mmolをゆっくりと加える。添加後、約5時間還流下に維持する。得られた溶液を冷却し、本溶媒を減圧下で蒸発させて、本発明の配位錯体、銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンを得る。
反応副生成物はNaClである。
【0107】
実施例2.配位錯体の構造的特徴
1.1から1.3までの実施例に要約した配位錯体の各々の固体試料を、対応するIRスペクトルの決定のためにEquinox Bruker FTIR装置の減衰全反射(ATR)装置のセレン化亜鉛結晶上に堆積し直接プレスした。
【0108】
赤外スペクトルは、4000cm-1と600cm-1との間の波数領域で記録されたが、最大の吸収変動が位置するので、1000cm-1と1800cm-1との間の領域が最も興味深い領域である。
【0109】
記録したスペクトルは、バンド数とそれぞれの吸収振動数の両方に関して、B3LYP/6-311G(d)の理論レベルでDFT計算で得た模擬スペクトルとよく対応する。
【0110】
スペクトル処理は、機器に付属しているOPUS 4.2ソフトウェアを使用して行った。
吸収振動数の値は±1cm-1の誤差で考慮しなければならない。
IR測定で使用した配位錯体の構造キャラクタリゼーションをエレクトロスプレイイオン化(ESI)による質量分析(MS)測定を通して行った。
【0111】
MS分析は、分析物分子からプロトンを供与または受容することができる、極性プロトン性溶媒メタノールおよび水中の配位錯体の溶液を、高い電位を有する針を通して噴霧することによって、大気圧で行われた。擬分子イオンが形成され、負または正イオンの条件で検出可能である。
【0112】
次いで、イオントラップ分析器(IT)を使用して、それらの質量/電荷比(m/z)に基づいて生成されたイオンを区別した。
MSスペクトルは、エレクトロスプレー源およびAPCI分析器を備え、水/アセトニトリル中の溶液の直接注入によって正イオンおよび負イオンの両方で測定を行うBrukerEsquire-LCTM機器で記録した。
【0113】
2.1 銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン配位錯体のIR分光法
実施例1.1で得られた配位錯体を、以前に報告されているように、IRスペクトルによって分析した。
【0114】
図1に示すように得られたIR実測スペクトルから、
図2に示すようにシミュレーションスペクトルを求め、官能基に伸縮振動数を帰属することができた:
a)1676cm
-1における位置1のC=Oは1655cm
-1における実測吸収に対応する;
b)位置4のC=Oは、1430cm
-1と1383cm
-1に2つの振動モードを示し、実測スペクトルの1424cm
-1と1391cm
-1に対応する;
c)1600cm
-1での二重結合C(2)=C(3)は1619cm
-1での実測振動数に対応する;
d)C(5)-O結合は、1430cm
-1と1424cm
-1の2つの振動モードを有し、1452cm
-1と1417cm
-1の実測吸収に対応する。
【0115】
帰属から、C(4)=Oの酸素は、その自由電子二重項の1つを通って、金属イオンの型dの空軌道と配位し、その二重結合特性を減少させる結合を形成する。
【0116】
2.2 ニッケルと錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン配位錯体のIR分光法
実施例1.2で得られた配位錯体を、以前に報告されているように、IRスペクトルによって分析した。
【0117】
図3に示すように得られた実測スペクトルから、
図4に示すようにシミュレーションスペクトルを求め、官能基に伸縮振動数を帰属することができた。
a)1676cm
-1でのC(1)=0は1661cm
-1での実測吸収に対応する;
b)C(4)=Oは1439cm
-1と1389cm
-1に2つの振動モードを有し、実測スペクトルの1441と1383cm
-1に対応する;
c)1595cm
-1でのC(2)=C(3)は1591cm
-1での実測振動数に対応する;
d)C(5)‐Oは、1439cm
-1と1441cm
-1の2つの振動モードを示し、実測吸収1452cm
-1と1417cm
-1に対応する。
【0118】
実施例1.1の銅配位錯体の場合と非常に類似した挙動が観察された。
【0119】
2.3 亜鉛と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン配位錯体のIR分光法
実施例1.3で得られた配位錯体を、以前に報告されているように、IRスペクトルによって分析した。
【0120】
図5に示すように得られた実験スペクトルから、
図6に示すようにシミュレーションスペクトルを求め、官能基に伸縮振動数を帰属することができた。:
a)1676cm
-1でのC(1)=0は1670cm
-1での実測吸収に対応する;
b)C(4)=Oは1435cm
-1と1373cm
-1に2つの振動モードを有し、実測スペクトルの1422cm
-1と1371cm
-1に対応する;
c)1580cm
-1でのC(2)=C(3)は1590cm
-1での実測振動数に対応する;
d)C(5)‐Oは、1435cm
-1と1424cm
-1の2つの振動モードを有し、実測吸収の1445cm
-1と1422cm
-1に対応する。
【0121】
実施例1.1の銅配位錯体と同様の挙動が観察された。
【0122】
実施例3.オリーブ植物におけるピアス病菌感染の治療
イタリア南部のサレント地域に存在し、ピアス病菌細菌に感染し、オリーブ植物の複合体急速乾燥の進行した症状を示す15のオリーブ樹木を、本発明の配位錯体および/または化合物発明で処置した。
【0123】
処置開始時に、これらの樹木は、クシャクシャになり黄色がかった色を有する多数の葉の存在を伴う、枝および芽の進行した乾燥を示した。
【0124】
3.1 銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンでの処置
3つのオリーブ樹木を、上記のものの中で、銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン配位錯体および水を含む植物衛生組成物で処置した。
【0125】
各植物について、銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンの粉末200mgを二次蒸留水中で懸濁し、5%w/v混合物を形成した。このようにして得られた懸濁液を、葉、幹、および幹に厳密に隣接する土壌に噴霧した。
この処置を各植物で、5日ごとに1回の処置の頻度で、合計5回の処置に達するまで、5回繰り返した。
【0126】
結果:植物の表現型の改善は、その前に乾燥状態にあった枝上の新しい若芽の誕生と、クシャクシャで黄色がかった色の葉の消失とで観察された。
上記で指定された処置後9か月で、処置された植物は、依然として、クシャクシャで黄色がかった色の葉および乾燥した枝を含まない。
【0127】
3.2 銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンを含む植物衛生組成物での処置
上記のピアス病菌に感染したものを含むが、実施例3.1で処置したものとは異なる3つのオリーブ樹木を、二次蒸留水に溶解した、銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン、コロイド状銅およびコロイド状銀とを含む植物衛生組成物で処置した。
【0128】
植物ごとに、植物衛生組成物を、200mlの二次蒸留水に:銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン150mg、100mlのコロイド状銅40ppm、100mlのコロイド状銀40ppmを混合して調製した。
【0129】
このようにして得られた組成物を葉、幹および幹に厳密に隣接する土壌に散布した。
この処置を各植物で、5日ごとに1回の処置の頻度で、合計5回の処置に達するまで、5回繰り返した。
【0130】
結果:感染植物の改善は、その前に乾燥状態にあった枝上の新しい若芽の誕生と、クシャクシャの外観および黄色がかった色を有する葉の消失とで観察された。
上記で指定された処置後9か月で、処置された植物は、依然として、クシャクシャで黄色がかった色の葉および乾燥した枝を含まない。
【0131】
3.3 銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンと5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンとを含む植物衛生組成物での処置
上記のピアス病菌に感染したものを含むが、実施例3.1および3.2で処置したものとは異なる2つのオリーブ樹木を、二次蒸留水に溶解した、銅と錯化した5ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンおよび5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンを含む植物衛生組成物で処置した。
【0132】
各植物について、200mlの蒸留水中で、銅と錯化した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンの45ppmおよびクルミの外皮を粉砕および乾燥して得た5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン粉末の40ppmを混合することによって、植物衛生組成物を調製した。
このようにして得られた懸濁液を、葉、幹、および幹に厳密に隣接する土壌に噴霧した。
この処置を各植物で、5日ごとに1回の処置の頻度で、合計5回の処置に達するまで、5回繰り返した。
【0133】
結果:感染植物の改善は、その前に乾燥状態にあった枝上の新しい若芽の誕生と、クシャクシャの外観および黄色がかった色を有する葉の消失とで観察された。
上記で指定された処置後9か月で、処置された植物は、依然として、クシャクシャで黄色がかった色の葉および乾燥した枝を含まない。
【0134】
3.4 5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンによる処置
上記のピアス病菌に感染したものを含むが、先の実施例で処置したものとは異なる4つのオリーブ樹木を、式(VII)の化合物、5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンおよび水を含む植物衛生組成物で処置した。
【0135】
各植物について、150mgの5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン粉末を二次蒸留水に懸濁し、5%w/v混合物を形成した。このようにして得られた懸濁液を、葉、幹、および幹に厳密に隣接する土壌に噴霧した。
この処置を各植物で、5日ごとに1回の処置の頻度で、合計5回の処置に達するまで、5回繰り返した。
【0136】
結果:植物の表現型の改善は、その前に乾燥状態にあった枝上の新しい若芽の誕生と、クシャクシャで黄色がかった色の葉の消失で観察された。
上記で指定された処置後9か月で、処置された植物は、依然として、クシャクシャで黄色がかった色の葉および乾燥した枝を含まない。
【0137】
3.5 5ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオンを含む植物衛生組成物での処置
上記のピアス病菌に感染したものを含むが、先の実施例で処置したものとは異なる3つのオリーブ樹木を、蒸留水に溶解した5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン、コロイド状銅およびコロイド状銀を含む植物衛生組成物で処置した。
【0138】
各植物について、200mlの蒸留水に:150mgの5-ヒドロキシ-ナフタレン-1,4-ジオン、100mlのコロイド状銅40ppm、100mlのコロイド状銀40ppmを混合することによって、植物衛生組成物を調製した。
このようにして得られた組成物を葉、幹および幹に厳密に隣接する土壌に散布した。
この処置を各植物で、5日ごとに1回の処置の頻度で、合計5回の処置に達するまで、5回繰り返した。
【0139】
結果:感染植物の全身状態の改善が認められた。特に、その前に乾燥状態にあった枝上に新しい若芽と、葉はクシャクシャの外観および黄色がかった色の葉の消失が観察された。
上記で指定された処置後9か月で、処置された植物は、依然として、クシャクシャで黄色がかった色の葉および乾燥した枝を含まない。
【0140】
したがって、上記に基づいて、本発明は、全ての意図された目的を達成した。
特に、植物、特にオリーブ樹木におけるピアス病菌感染の処置に使用することができる植物衛生製品を達成する目的が達成される。
植物のピアス病菌の処置のための前述の生成物の使用を提案することもさらに、本発明の達成された目的である。
最後に、植物におけるピアス病菌の処置に使用される植物衛生組成物を実現することは、本発明の達成された目的である。