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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】水酸化マグネシウム含有熱界面材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240328BHJP
   C01F 5/14 20060101ALI20240328BHJP
   C01F 7/02 20220101ALI20240328BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240328BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20240328BHJP
   C08K 7/16 20060101ALI20240328BHJP
   C09K 5/14 20060101ALN20240328BHJP
【FI】
C08L101/00
C01F5/14
C01F7/02
C08K3/22
C08L75/04
C08K7/16
C09K5/14 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022554882
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 CN2020079110
(87)【国際公開番号】W WO2021179276
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】519415100
【氏名又は名称】ディディピー スペシャルティ エレクトロニック マテリアルズ ユーエス,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】フー、イーチン
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-526687(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1798818(CN,A)
【文献】特表2012-520375(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0317641(US,A1)
【文献】特表2014-503680(JP,A)
【文献】米国特許第06644395(US,B1)
【文献】特開2009-286668(JP,A)
【文献】特開2015-034269(JP,A)
【文献】特開2017-122029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C01F 5/00-5/22
C08K 3/00-7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱界面材料(TIM)組成物であって、前記組成物の総重量が合計で100重量%になるものとして、
a)ポリマー系バインダー成分と、
b)20~100μmの範囲の体積平均粒子径50を有する50~90重量%の球状水酸化マグネシウム粒子と、
を含む熱界面材料(TIM)組成物。
【請求項2】
前記球状水酸化マグネシウム粒子が~30ml/100gの吸油値を有する、請求項1に記載の熱界面材料組成物。
【請求項3】
前記ポリマー系バインダー成分が、前記組成物の総重量を基準として10~50重量%のレベルで存在する、請求項1に記載の熱界面材料組成物。
【請求項4】
前記ポリマー系バインダー成分がポリウレタンベースの材料から形成される、請求項1に記載の熱界面材料組成物。
【請求項5】
前記球状水酸化マグネシウム粒子が25~60μmの範囲の体積平均粒子径50を有する、請求項1に記載の熱界面材料組成物。
【請求項6】
前記球状水酸化マグネシウム粒子が30~50μmの範囲の体積平均粒子径50を有する、請求項1に記載の熱界面材料組成物。
【請求項7】
~50重量%の球状酸化アルミニウム粒子をさらに含む、請求項1に記載の熱界面材料組成物。
【請求項8】
前記球状酸化アルミニウム粒子が~100μmの範囲の体積平均粒子径50を有する、請求項7に記載の熱界面材料組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の熱界面材料組成物を含む物品。
【請求項10】
1つ以上の電池セルと冷却ユニットとから形成される電池モジュールを更に含み、前記電池モジュールは、前記熱界面材料組成物を介して前記冷却ユニットに接続される、請求項9に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱界面材料及び電池式自動車におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の移動様式と比較して、電池式自動車は、軽量、低減されたCO排出量等などの重要な利点を提供する。しかしながら、この技術の最適な利用を確実にするために、依然として多くの技術的問題を克服する必要がある。例えば、業界で現在行われている取り組みの1つは、高エネルギー密度の電池を開発することによって電池式自動車の走行距離を伸ばすことである。そしてこれは、高エネルギー密度電池のためのより優れた熱管理システムを開発する必要性につながる。
【0003】
電池式自動車では、電池セル又はモジュールは熱界面材料(TIM)によって冷却ユニットに熱的に接続される。そのようなTIMは、典型的には熱伝導性充填剤が充填されたポリマー系材料から形成される。2W/m・K以上の熱伝導率を達成するために、窒化ホウ素又はアルミニウム粉末などの100W/m・K以上の熱伝導率を有する充填剤を使用することができる。しかしながら、そのような充填剤は高価であり、或いは粘着性のポンピングシステムを研磨する。より安価で非研磨性の代替品は、三水酸化アルミニウム(ATH)である。しかしながら、熱伝導率の低さのため、高添加量のATH(すなわち80重量%以上)が必要とされる。他方で、そのような高添加量のATHは、高粘度をもたらすことが多く、その結果高い熱インピーダンスが引き起こされる。さらに、ATHの表面の大量の残留水のため、ポリウレタンベースのTIMには適していない。したがって、熱伝導性が高く、コスト効率が高く、低粘度であるTIMを開発することが依然として求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書では、熱界面材料(TIM)組成物であって、組成物の総重量が合計で100重量%になるものとして、a)ポリマー系バインダー成分と、b)約20~100μmの範囲の粒径分布D50を有する約50~90重量%の球状水酸化マグネシウム粒子と、を含む熱界面材料(TIM)組成物が開示される。
【0005】
熱界面材料の一実施形態では、球状水酸化マグネシウム粒子は、約1~30ml/100gの吸油値を有する。
【0006】
熱界面材料のさらなる実施形態では、ポリマー系バインダー成分は、組成物の総重量を基準として約10~50重量%のレベルで存在する。
【0007】
熱界面材料のさらに別の実施形態では、ポリマー系バインダー成分は、ポリウレタンベースの材料から形成される。
【0008】
熱界面材料のさらに別の実施形態では、球状水酸化マグネシウム粒子は、約25~60μmの範囲の粒径分布D50を有する。
【0009】
熱界面材料のさらに別の実施形態では、球状水酸化マグネシウム粒子は、約30~50μmの範囲の粒径分布D50を有する。
【0010】
熱界面材料のさらに別の実施形態では、熱界面材料は、約2~50重量%の球状酸化アルミニウム粒子をさらに含む。
【0011】
熱界面材料のさらに別の実施形態では、球状酸化アルミニウム粒子は、約5~100μmの範囲の粒径分布D50を有する。
【0012】
本明細書では、上記で提供された熱界面材料組成物を含む物品が更に提供される。
【0013】
物品の一実施形態において、物品は、1つ以上の電池セルと冷却ユニットとから形成される電池モジュールを更に含み、電池モジュールは、熱界面材料組成物を介して冷却ユニットに接続される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書では、熱界面材料(TIM)組成物であって、組成物の総重量が合計で100重量%になるものとして、a)ポリマー系バインダー成分と、b)約50~90重量%の球状水酸化マグネシウム粒子と、を含む熱界面材料(TIM)組成物が開示される。
【0015】
ポリマー系バインダー成分は、限定するものではないが、ポリウレタン、エポキシ、シリコーン、変性シリコーン、アクリレートなどに基づくバインダー材料を含む任意の適切なポリマー系材料から形成することができる。一実施形態では、ポリマー系バインダー成分は、2液型ポリウレタンベースのバインダー材料から形成される。
【0016】
本開示によれば、ポリマー系バインダー成分は、TIM組成物の総重量を基準として約5~50重量%、又は約10~40重量%、又は約10~30重量%のレベルでTIM中に存在し得る。
【0017】
本明細書で使用される水酸化マグネシウム粒子は球形である。「球状」又は「球状」という用語は、本明細書では、等角形状、すなわち、一般的に言えば広がり(粒径)がいずれの方向でもほぼ同じである形状を指すために使用される。特に、粒子が等角であるためには、粒子の凸包の幾何学的中心と交差する弦の最大長と最小長の比が、最小の等角正多面体、すなわち四面体の比を超えてはならない。粒子の形状は、多くの場合、粒子の長径/粒子の厚さで表されるアスペクト比によって定義される。本開示によれば、球形又は球状の水酸化マグネシウム粒子のアスペクト比は、約1~2の範囲である。
【0018】
粒径分布D50は、粒径分布のメジアン径又はメジアン値としても知られており、累積分布の50%における粒径の値である。例えば、D50=10μmである場合、サンプル中の粒子の50体積%が10μmより大きい平均径を有し、粒子の50体積%が10μmより小さい平均径を有する。粒径分布D50は、例えばASTM B822-10に従う光散乱法を使用して決定することができる。本開示によれば、本明細書で使用される球状水酸化マグネシウム粒子は、約20~100μm、又は約25~60μm、又は約30~50μmの範囲の粒径分布D50を有する。さらに、本明細書で使用される球状水酸化マグネシウム粒子は、約1~30ml/100g、又は約3~20ml/100g、又は約3~8ml/100gの吸油値を有し得る。加えて、本明細書で使用される球状水酸化マグネシウム粒子は、例えば脂肪酸、シラン、ジルコニウム系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、カルボキシレート等で表面処理されていてもよい。
【0019】
本開示によれば、球状マグネシウム粒子は、TIM組成物の総重量を基準として約50~95重量%、又は約55~90重量%、又は約60~85重量%のレベルで組成物中に存在し得る。
【0020】
球状水酸化マグネシウム粒子に加えて、球状酸化アルミニウム粒子もTIM組成物に添加することができる。本明細書で使用される球状酸化アルミニウム粒子は、約5~100μm、又は約10~80μm、又は約20~60μmの範囲の粒径分布D50を有し得る。また、球状酸化アルミニウム粒子は、TIM組成物の総重量を基準として約2~50重量%、又は約2~40重量%、又は約2~30重量%のレベルでTIM組成物中に存在し得る。
【0021】
さらに、本明細書に開示のTIM組成物は、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素などの他の熱伝導性粒子を任意選択的にさらに含んでいてもよい。本明細書に開示のTIM組成物は、触媒、可塑剤、安定剤、接着促進剤、充填剤、着色剤などの他の適切な添加剤も含んでいてもよい。そのような任意選択的な添加剤は、TIMの総重量を基準として最大約10重量%、又は最大約8重量%、又は最大約5重量%のレベルで存在し得る。
【0022】
実施例によって以下で示されるように、球状の水酸化マグネシウム粒子を配合することによって、高い熱伝導率を有するTIM材料が得られた。さらに、球状の酸化アルミニウム粒子をさらに添加すると、TIM材料の粘度がさらに低下する。これは、TIM材料に非常に望ましい特徴である。
【0023】
本明細書では、電池パックシステムであって、その中の冷却ユニット又はプレートが上述したTIMを介して電池モジュール(1つ以上の電池セルから形成される)に結合されており、その結果熱をそれらの間で伝導することができる、電池パックシステムが更に開示される。一実施形態では、電池パックシステムは電池式自動車で使用されるものである。
【実施例
【0024】
材料
・プレポリマー - ポリオキシプロピレンジオールと、ポリオキシプロピレントリオールと、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートとの反応によって調製されたプレポリマー;
・PTSI - VanDeMark Chemicalsから入手したp-トルエンスルホニルイソシアネート;
・HDI - Covestroから商品名N3400として入手したヘキサメチレンジイソシアネート(HDI);
・可塑剤 - 商品名Plasthall(商標)190としてHallstarから入手したポリエステル系可塑剤;
・シラン - Evonikから商品名Dynasylan(商標)4148として入手したポリエチレングリコール官能性アルコキシシラン;
・Mg(OH)-S - Weifang Haolong Chemical CO.,LTDからグレード番号HLG-05として入手した球状水酸化マグネシウム粒子、粒径分布D50は46μmであり、吸油値は約5ml/100gである;
・Mg(OH)-P - Liaoning Haichen Chemical CO,.LTDからグレード番号HM-15として入手した板状水酸化マグネシウム粒子、粒径分布D50は3~4μmであり、吸油値は約37ml/100gである;
・触媒 - 67%ジプロピレングリコールに溶解した33%トリエチレンジアミン、Evonikから商品名Dabco(商標)33-LVとして入手;
・Al - Anhui Estoneからグレード名SLA45として入手した球状酸化アルミニウム粒子、粒径分布D50は49μmである;
・ポリオール-1 - Dongda Chemicalから入手したポリエーテルポリオール;
・ポリオール-2 - Dow Chemicalsから商品名Voranol(商標)4701として入手したポリエーテルポリオール。
【0025】
【表1】
【0026】
実施例E1~E2及び比較例CE1
E1~E2及びCE1のそれぞれにおけるTIM組成物の成分は表1にまとめられている。最初に、各サンプルのA液及びB液を次のように調製した:二重非対称遠心分離を使用して全ての成分を混合する(液体成分を最初に混合してから固体成分を添加);混合物を真空下で約30分間混合する;混合物を2成分カートリッジに保管する。次いで、E1~E2のそれぞれのA液及びB液の粘度を、TA InstrumentsのAR1500EXレオメーターを使用して10S-1のせん断速度で測定した。結果は表1に示されている。CE1については、A液又はB液で均一な分散液が得られなかった。
【0027】
E1とE2で最終的なTIMペーストを得るために、2成分バッテリーガンとスタティックミキサーとを使用して、A液とB液を1:1の重量比で混合した。TIMペーストの熱伝導率は、ASTM D5470に従ってサンプル厚さ1、2、及び3mmで測定し、TIMペーストの重ねせん断強さは、EN1465に従ってサンプル厚さ1mmで測定した。結果は表1にまとめられている。
【0028】
サンプルから示されるように、球状の水酸化マグネシウム粒子を配合することにより、高い熱伝導率を有する均一なTIMペーストが得られた。さらに、球状酸化アルミニウム粒子をさらに添加すると、TIMペーストの粘度がさらに低下する。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
熱界面材料(TIM)組成物であって、前記組成物の総重量が合計で100重量%になるものとして、
a)ポリマー系バインダー成分と、
b)約20~100μmの範囲の粒径分布D50を有する約50~90重量%の球状水酸化マグネシウム粒子と、
を含む熱界面材料(TIM)組成物。
項2.
前記球状水酸化マグネシウム粒子が約1~30ml/100gの吸油値を有する、項1に記載の熱界面材料組成物。
項3.
前記ポリマー系バインダー成分が、前記組成物の総重量を基準として約10~50重量%のレベルで存在する、項1に記載の熱界面材料組成物。
項4.
前記ポリマー系バインダー成分がポリウレタンベースの材料から形成される、項1に記載の熱界面材料組成物。
項5.
前記球状水酸化マグネシウム粒子が約25~60μmの範囲の粒径分布D50を有する、項1に記載の熱界面材料組成物。
項6.
前記球状水酸化マグネシウム粒子が約30~50μmの範囲の粒径分布D50を有する、項1に記載の熱界面材料組成物。
項7.
約2~50重量%の球状酸化アルミニウム粒子をさらに含む、項1に記載の熱界面材料組成物。
項8.
前記球状酸化アルミニウム粒子が約5~100μmの範囲の粒径分布D50を有する、項7に記載の熱界面材料組成物。
項9.
項1~8のいずれか一項に記載の熱界面材料組成物を含む物品。
項10.
1つ以上の電池セルと冷却ユニットとから形成される電池モジュールを更に含み、前記電池モジュールは、前記熱界面材料組成物を介して前記冷却ユニットに接続される、項10に記載の物品。