(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】炉蓋洗浄装置の設置方法
(51)【国際特許分類】
C10B 43/08 20060101AFI20240328BHJP
【FI】
C10B43/08
(21)【出願番号】P 2023008802
(22)【出願日】2023-01-24
(62)【分割の表示】P 2018246868の分割
【原出願日】2018-12-28
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】502369746
【氏名又は名称】住友重機械プロセス機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 義和
(72)【発明者】
【氏名】川戸 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】二井 大祐
(72)【発明者】
【氏名】若松 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】浅野 絋大
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-234466(JP,A)
【文献】実開平7-24957(JP,U)
【文献】特開2001-192663(JP,A)
【文献】特表2008-526481(JP,A)
【文献】特開2010-202822(JP,A)
【文献】特開2000-44959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
煉瓦で形成される断熱部と、炉開口の周囲を覆う蓋本体と、当該蓋本体の外周をシールするナイフエッジとを含むコークス炉の炉蓋の被洗浄部であるガス道から前記ナイフエッジの先端にわたる領域を洗浄する炉蓋洗浄装置の設置方法であって、
前記炉蓋洗浄装置は、コークス炉の炉蓋の被洗浄部に洗浄用の液体を噴射する液体噴射部
と、前記液体噴射部を支持する支持機構と、を備え、
前記液体噴射部は、単一の噴射ノズルを有し、
前記噴射ノズルは、先端部内径が1mm以上2mm以下の範囲で、前記液体噴射部の軸線に対して10°以上20以下°の範囲で傾斜した別の軸線まわりに前記液体の圧力によって回転し、
前記液体噴射部を、前記噴射ノズルの先端から前記被洗浄部までの距離を100mm以上200mm以下の範囲内に保つように
、前記支持機構に固定することを特徴とする炉蓋洗浄装置
の設置方法。
【請求項2】
前記噴射ノズルの先端から前記被洗浄部までの距離を150mm以下に保つように構成されることを特徴とする請求項1に記載の炉蓋洗浄装置
の設置方法。
【請求項3】
前記噴射ノズルの回転速度は1000rpm以上に設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の炉蓋洗浄装置
の設置方法。
【請求項4】
前記液体噴射部は、下向きに傾斜した姿勢で設置される、請求項1または2に記載の炉蓋洗浄装置の設置方法。
【請求項5】
前記支持機構は、前記断熱部の正面側において左右に延びる基部と、前記基部の両端から前記断熱部を挟むように前記蓋本体に向かって延びる一対のアーム部と、を有し、
前記液体噴射部は、一対のアーム部の各々に固定される、請求項1または2に記載の炉蓋洗浄装置の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉蓋洗浄装置の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉の炉蓋を洗浄する技術が知られている。本出願人は、特許文献1において、高圧水を噴射するノズルユニットを備えた炉蓋洗浄装置を開示している。この炉蓋洗浄装置は、一端側に高圧水が注入され他端側に流出口を設けたチャンバーと、チャンバーに収容された管状ノズルを有するロータと、を含むノズルユニットを備えており、ロータはチャンバー内において自力で回転し、管状ノズルから高圧水を噴射する。この構成により、管状ノズルから噴射する高圧水の着水点は円環状に回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コークス炉は、使用されることにより、その開口を閉塞する炉蓋にタールやピッチなどの付着物が堆積する。付着物が過度に堆積すると、炉蓋と開口との間に挟まってこれらの間の気密性が低下する。このため、炉蓋を、特にナイフエッジの周辺を適時に洗浄して付着物を除去することが望ましい。
【0005】
しかし、炉蓋を洗浄している間、その炉蓋は使用できないので、炉蓋を効率的に洗浄して炉蓋の洗浄時間を短くする要請がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、コークス炉の炉蓋を効率的に洗浄することが可能な炉蓋洗浄装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の炉蓋洗浄装置は、コークス炉の炉蓋の被洗浄部に洗浄用の液体を噴射する液体噴射部を備える。液体噴射部は、単一の噴射ノズルを有する。噴射ノズルは、先端部内径が1mm以上2mm以下の範囲で、液体噴射部の軸線に対して10°以上20°以下の範囲で傾斜した別の軸線まわりに液体の圧力によって回転し、本炉蓋洗浄装置は、噴射ノズルの先端から被洗浄部までの距離を100mm以上200mm以下の範囲内に保つように構成される。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コークス炉の炉蓋を効率的に洗浄することが可能な炉蓋洗浄装置を提供することを目的の一つとしている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る炉蓋洗浄装置の一例を概略的に示す模式図である。
【
図2】
図1の炉蓋洗浄装置の液体噴射部を示す斜視図である。
【
図3】
図1の炉蓋洗浄装置の液体噴射部と炉蓋の断面とを示す図である。
【
図4】
図1の炉蓋洗浄装置の液体噴射部と被洗浄部とを模式的に示す側面図である。
【
図5】
図1の炉蓋洗浄装置の液体噴射部を示す側断面図である。
【
図6】
図1の炉蓋洗浄装置のノズルリテーナとノズル先端部を示す側断面図である。
【
図7】
図1の炉蓋洗浄装置の噴射ノズルから被洗浄部までの距離と清掃力の関係を示すグラフである。
【
図8】
図1の炉蓋洗浄装置の噴射ノズルから被洗浄部までの距離と清掃力の関係を示す別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、炉蓋洗浄装置について、炉蓋洗浄を効率化する観点から研究し、洗浄水が被洗浄部に与える単位面積当りの打力(以下、「清掃力」という)を一定以上に高くすることにより、炉蓋を効率的に洗浄できることを見出した。後述する実施形態は、この研究結果に基づいて清掃力を高めるために創作されたものである。以下に実施形態の詳細な構成を説明する。
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態、変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0013】
[第1実施形態]
以下、
図1~
図8を参照して、第1実施形態に係る炉蓋洗浄装置100の構成について説明する。
図1は、炉蓋洗浄装置100を用いて炉蓋80を洗浄する状態を概略的に示す模式図である。
図2は、炉蓋洗浄装置100の液体噴射部20を示す斜視図である。
図3は、炉蓋洗浄装置100の液体噴射部20と炉蓋80の水平断面とを示す図である。
【0014】
説明の便宜上、図示のように、水平なある方向をX軸方向と、X軸に直交する水平な方向をY軸方向と、両者に直交する鉛直方向をZ軸方向とするXYZ直交座表系を定める。X軸方向を左右方向と、Y軸方向を前後方向と、Z軸方向を上下方向ということがある。このような方向の表記は炉蓋洗浄装置100の姿勢を制限するものではなく、炉蓋洗浄装置100は、任意の姿勢で使用されうる。
【0015】
炉蓋洗浄装置100は、図示しないコークス炉の炭化室の開口を開閉する炉蓋80に付着した粉塵やタールなどの付着物を除去するための洗浄装置である。粉塵やタールなどが堆積すると、炉蓋80を閉じた際の、気密性が低下して、外部へのガス漏れや外気の流入などを生じるおそれがある。したがって、炉蓋80は適時に洗浄されることが望ましい。
【0016】
図1、
図3に示すように、炉蓋80は、煉瓦などで形成される断熱部82と、炉開口の周囲を覆う蓋本体84と、蓋本体84の外周をシールするナイフエッジ86とを有する。蓋本体84は、左右及び上下に延在する壁状の部分である。断熱部82は、蓋本体84の左右中央領域から前後方向に突出する。蓋本体84の断熱部82の左右両側には鉛直部84bが設けられる。蓋本体84の鉛直部84bと断熱部82との接続部にガス道84gが設けられる。付着物Dtは、主に、蓋本体84の鉛直部84b、ガス道84g、ナイフエッジ86の先端86bおよび断熱部82に堆積する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の炉蓋洗浄装置100は、回転カッター40と、液体噴射部20と、支持機構30とを主に含む。回転カッター40は、炉蓋80の断熱部82の付着物を除去するもので、スクリューカッターと称されることがある。回転カッター40は、図示しない駆動機構に支持され、断熱部82の外周に沿って移動し、その移動範囲の付着物を除去する。回転カッター40は、断熱部82の両側面、下面および上面に対応して複数備えられてもよい。なお、断熱部82の上面は付着物の量が少ないので回転カッター40に代えてスクレーパによって付着物の除去を行うようにしてもよい。
【0018】
図3に示すように、液体噴射部20は、蓋本体84の鉛直部84b、ガス道84gからナイフエッジ86の先端86bにわたる領域に向けて高圧の液体Cwを噴射し、これらの付着物Dtを除去する。以下、蓋本体84の鉛直部84b、ガス道84gおよびナイフエッジ86の先端86bなどを総称するときは「洗浄対象」といい、特に、高圧の液体が噴射される部分を「被洗浄部」という。
【0019】
噴射される高圧の液体Cwは、洗浄に適するものであればよく、本実施形態では高圧水Cwである。なお、液体噴射部20は、高圧水噴射回転ガンと称されることがある。
【0020】
図1を参照して、高圧水の経路を説明する。高圧水は、高圧水ポンプ62によって、水タンク60に貯められた洗浄用の水を加圧し、高圧水切り替え用のバルブスタンド64を介して、各高圧水配管66を通じて液体噴射部20に供給される。高圧水配管66は、例えば、ホースであってもよい。
【0021】
図2に示すように、液体噴射部20は、噴射ノズル10と、筒状のチャンバ22cを囲む中空筒状のケーシング22と、ケーシング22の上流側に設けられ高圧水配管66が連結される配管連結部26とを含む。
図2では、ケーシング22は透視により示されている。液体噴射部20は、高圧水が配管連結部26からチャンバ22cに注入される。噴射ノズル10は、チャンバ22c内で矢印Bに示すように回転しながら高圧水を噴射する。噴射ノズル10から噴射された高圧水はノズルリテーナ24の中心孔を通って矢印Dのように外部に放出される。噴射ノズル10が回転することによって、噴射される高圧水も、矢印Cに示すように着水点が回転する。
【0022】
図3に示すように、液体噴射部20は、支持機構30に支持され、断熱部82の周囲に沿って上下または左右に移動しながら、その移動範囲の付着物Dtを除去する。液体噴射部20は、断熱部82の両側面に沿って上下に移動する液体噴射部と、断熱部82の上下面に沿って左右に移動する液体噴射部とを含んでもよい。以下の説明では、上下に移動する液体噴射部について説明するが、左右に移動する液体噴射部も同様である。
【0023】
図3に示すように、支持機構30は、左右一対の液体噴射部20を支持する。支持機構30は、断熱部82の正面側において左右に延びる基部30bと、基部30bの両端から断熱部82を挟むように蓋本体84に向かって延びる一対のアーム部30cとを有する。一対の液体噴射部20は、一対のアーム部30cに固定される。
【0024】
図4も参照する。
図4は、液体噴射部20と被洗浄部80bとを模式的に示す側面図である。この図に示すように、液体噴射部20は、やや下向きに傾斜した姿勢で高圧水Cwを噴射してもよい。この場合、高圧水の下向きの分力により、浮いた付着物を下向きに押し流すことができる。支持機構30は、液体噴射部20を上下方向に駆動する。また、支持機構30は、液体噴射部20が蓋本体84の鉛直部84bに向かって進出する前方向と、後退する後方向とに液体噴射部20を駆動する。支持機構30は、噴射ノズル10のノズル先端部10cから被洗浄部80bまでの距離Ldが所定の範囲内を保つように液体噴射部20を支持する。
【0025】
図5、
図6も参照して、液体噴射部20の細部を説明する。
図5は、液体噴射部20を示す側断面図である。
図6は、ノズルリテーナ24とノズル先端部10cを示す側断面図である。液体噴射部20は、単一の噴射ノズル10を有する。また、液体噴射部20は、ケーシング22と、配管連結部26と、ノズルリテーナ24とを有する。ケーシング22は、筒状のチャンバ22cを囲む中空筒状の部材であり、チャンバ22cに噴射ノズル10を収容する。配管連結部26は、ケーシング22の上流側に連設され、高圧水配管66が連結される部分である。ノズルリテーナ24は、チャンバ22cの下流側に設けられる環状部材である。ノズルリテーナ24は、上流側から下流側に貫通する中心孔24cと、上流側に設けられる凹部24dとを有する。凹部24dは、噴射ノズル10の下流側を収容するすり鉢形状を有する。
【0026】
図5に示すように、噴射ノズル10は、ケーシング22内に回転自在に収容される中空パイプ状の部材である。噴射ノズル10は、下流側のノズル先端部10cと、上流側のノズル基端部10dと、ノズル先端部10cとノズル先端部10cとを繋ぐ中間部10bと、を有する。ノズル先端部10c、ノズル基端部10dおよび中間部10bには、上流側から下流側に貫通する中空部10eが設けられる。
【0027】
噴射ノズル10の中間部10bの上流側の一部は、ケーシング22の周壁22fによって回転自在にガイドされる。噴射ノズル10の下流側のノズル先端部10cは、ノズルリテーナ24の凹部24dに回転自在にガイドされる。噴射ノズル10は、液体噴射部20の軸線Laに対して角度θnで傾斜した別の軸線Lbまわりに高圧水の圧力によって回転する。高圧水は、噴射ノズル10の中空部10eを上流側から下流側に流れ、ノズル先端部10cから噴射される。
【0028】
液体噴射部20は、高圧水が配管連結部26からチャンバ22cに流入する通路22eが軸線Laからずれた位置に形成されている。通路22eがこのように配置されることにより、チャンバ22cに流入した高圧水は回転して渦巻きを形成する。高圧水が回転することにより、噴射ノズル10も回転する。噴射ノズル10は、ノズル先端部10cがノズルリテーナ24の凹部24dに支持され、上流側がケーシング22の周壁22fに支持されるので、回転軸が傾いて回転する状態で自転する歳差運動をする。噴射ノズル10が歳差運動することにより、噴射された高速水は、着水点が円を描くように回転する。
【0029】
次に、噴射ノズル10のノズル先端部10cの先端部内径Dnを説明する。本発明者らの検討によれば、先端部内径Dnが小さすぎると、噴射される水量が少なくなって清掃力が低下する。また、先端部内径Dnが大きすぎると、噴射される水量が多くなりすぎて高圧水ポンプ62の容量が不足し、必要な水圧が得られず、清掃力が低下する。これらから、本実施形態では、噴射ノズル10のノズル先端部10cの先端部内径Dnは1mm以上2mm以下の範囲に設定されている。この範囲で実用的な清掃力が得られることが確認されている。
【0030】
次に、噴射ノズル10の軸線Lbの液体噴射部20の軸線Laに対する傾斜角度θnを説明する。本発明者らの検討によれば、傾斜角度θnが小さすぎると、着水範囲が狭くなり、ガス道84gの奥側やナイフエッジ86の一部が十分に洗浄されないことがある。また、傾斜角度θnが大きすぎると、噴射ノズル10の回転が不安定になる。これらから、本実施形態では、傾斜角度θnは10°以上20°以下の範囲に設定されている。この範囲で実用的な清掃力が得られることが確認されている。例えば、傾斜角度θnは15°である。
【0031】
次に噴射ノズル10の回転速度を説明する。本発明者らの検討によれば、噴射ノズル10の回転速度が、1000rpmより小さいと着水軌跡の密度が小さくなり、清掃力が低下する。また、回転速度が低いと、噴射された高圧水の回転方向の運動量が減少して付着物を剥がす能力が低下する。これらから、本実施形態では、噴射ノズル10の回転速度は1000rpm以上になるように、ケーシング22や噴射ノズル10の形状を設定している。
【0032】
次に、上述したように、先端部内径Dn=1mm以上2mm以下、傾斜角度θn=10°以上20°以下、噴射ノズル10の回転速度を1000rpm以上に設定した場合の清掃力を説明する。
図7、
図8は、この設定において、噴射ノズル10の先端から被洗浄部80bまでの距離Ldと、清掃力Fpの関係を示すグラフである。
図7は、先端部内径Dn=1.5mmの場合を示し、
図8は、先端部内径Dn=1.05mmの場合を示す。これらのグラフでは横軸に距離Ldを示し、縦軸に清掃力Fpを示す。
【0033】
図7、
図8には、炉蓋を効率的に洗浄するために推奨される清掃力Frが表示されている。清掃力Frは、発明者らが実験により求めたものである。清掃力Fr=2.0kgf/平方ミリメートル以上であれば、ガス道84gおよびナイフエッジ86が十分に洗浄できることが確認できている。また、これらのグラフでは、高圧水の水圧Pwを実用範囲で30MPa、40MPa、50MPaの3段階に振った場合の清掃力Fpを示している。
【0034】
図7に示すように、先端部内径Dn=1.5mmの場合では、距離Ldが200mm以下であるときに、3段階それぞれの水圧において推奨される清掃力Fr以上を実現することができる。また、
図8に示すように、先端部内径Dn=1.05mmの場合では、距離Ldが200mm以下であるときに40MPa、50MPaの2段階の水圧において推奨される清掃力Fr以上を実現することができる。これらから、噴射ノズル10の先端から被洗浄部80bまでの距離Ldは200mm以下が好ましい。
【0035】
図8に示すように、先端部内径Dn=1.05mmの場合では、距離Ldが150mm以下であるときに、3段階それぞれの水圧において推奨される清掃力Fr以上を実現することができる。したがって、噴射ノズル10の先端から被洗浄部80bまでの距離Ldは150mm以下がより好ましい。
【0036】
図7、
図8では示していないが、先端部内径Dn=2.0mmの場合は、より清掃力が高くなり、距離Ldが200mm以下であるときに、3段階それぞれの水圧において推奨される清掃力Fr以上を実現することが確認されている。
【0037】
なお、本発明者らの検討によれば、距離Ldが200mmを超えて大きいと、高圧水の着水範囲が過度に広くなり、ガス道84gやナイフエッジ86を超えて無駄になる割合が増え、高圧水が断熱部82の煉瓦に直接当り、煉瓦が割れやすくなることが判明している。このことからも、距離Ldは200mm以下が好ましい。
【0038】
噴射ノズル10の先端から被洗浄部80bまでの距離Ldが小さい場合を説明する。本発明者らの検討によれば、距離Ldが小さすぎると、着水範囲が狭くなり、ガス道84gの奥側やナイフエッジ86の一部が十分に洗浄されないことが判明している。特に、距離Ldが100mmよりも小さくなると、ガス道84gやナイフエッジ86の半分以下しか洗浄できない。したがって、距離Ldは100mm以上が好ましい。
【0039】
このように構成された本実施形態の炉蓋洗浄装置100の作用・効果を説明する。
【0040】
炉蓋洗浄装置100は、コークス炉の炉蓋80の被洗浄部80bに洗浄用の液体を噴射する液体噴射部20を備え、液体噴射部20は、単一の噴射ノズル10を有する。噴射ノズル10は、先端部内径Dnが1mm以上2mm以下の範囲で、液体噴射部20の軸線に対して10°以上20°以下の範囲で傾斜した別の軸線まわりに液体の圧力によって回転する。炉蓋洗浄装置100は、噴射ノズル10の先端から被洗浄部80bまでの距離Ldを100mm以上200mm以下の範囲内に保つように構成される。
【0041】
この構成によれば、距離Ldを100mm以上200mm以下の範囲と大きくしても所望の清掃力を実現できる。距離Ldが100mm以上なので、着水範囲を拡げてガス道84gやナイフエッジ86の大部分を効果的に洗浄できる。距離Ldが200mm以下なので、ガス道84gやナイフエッジ86を超えて無駄になる高圧水が減り、高圧水の供給の余裕が増える。また、高圧水が断熱部82の煉瓦に直接当る割合を減らし、煉瓦の損傷を防止できる。この結果、コークス炉の炉蓋80を効率的に洗浄できる。
【0042】
炉蓋洗浄装置100は、噴射ノズル10の先端から被洗浄部80bまでの距離Ldを150mm以下に保つように構成されてもよい。この場合、高圧水の水圧が低い場合にも所望の清掃力を実現できので、小型の小容量のポンプを使用できる。また、高圧水が断熱部82の煉瓦に直接当る割合を減らし、煉瓦の損傷を防止できる。この結果、コークス炉の炉蓋80を効率的に洗浄できる。
【0043】
噴射ノズル10の回転速度は1000rpm以上に設定されてもよい。この場合、低速に設定する場合と比べて、着水軌跡の密度が高くなり、清掃力が向上する。また、噴射された高圧水の回転方向の運動量が増加して付着物を剥がす能力が向上する。
【0044】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態を説明する。本発明の第2実施形態は、炉蓋洗浄方法である。この方法は、コークス炉の炉蓋80の被洗浄部80bに液体噴射部20から洗浄用の液体を噴射して当該炉蓋80を洗浄する洗浄方法である。液体噴射部20は、単一の噴射ノズル10を有し、当該噴射ノズル10は、先端部内径Dnが1mm以上2mm以下の範囲で、液体噴射部20の軸線に対して10°以上20°以下の範囲で傾斜した別の軸線まわりに液体の圧力によって回転する。噴射ノズル10の先端から被洗浄部80bまでの距離は、先端部内径Dnと噴射ノズル10に供給される液体の圧力とに応じて、清掃力が2kgf/平方ミリメートル以上となる範囲に設定される。
【0045】
第2実施形態によれば、清掃力が2kgf/平方ミリメートル以上なので、コークス炉の炉蓋80を効率的に洗浄できる。
【0046】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態を説明する。本発明の第3実施形態も、炉蓋洗浄方法である。この方法は、コークス炉の炉蓋のナイフエッジの被洗浄部に液体噴射部から洗浄用の液体を噴射して当該炉蓋を洗浄する洗浄方法である。液体噴射部は、1mm以上2mm以下の範囲の内径を有するノズルであって当該液体噴射部の軸線に対して10°以上20°以下の範囲で傾斜した状態で液体の圧力によって回転する単一のノズルを有する。本洗浄方法は、噴射ノズルを1000rpm以上で回転させ、噴射ノズルの先端から被洗浄部までの距離を100mm以上200mm以下の範囲内に保ちながら洗浄する。
【0047】
第3実施形態によれば、距離Ldを100mm以上200mm以下の範囲と大きくしても所望の清掃力を実現できる。距離Ldが100mm以上なので、着水範囲を拡げてガス道84gやナイフエッジ86の大部分を効果的に洗浄できる。距離Ldが200mm以下なので、ガス道84gやナイフエッジ86を超えて無駄になる高圧水が減り、高圧水の供給の余裕が増える。また、高圧水が断熱部82の煉瓦に直接当る割合を減らし、煉瓦の損傷を防止できる。この結果、コークス炉の炉蓋80を効率的に洗浄できる。
【0048】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0049】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0050】
実施形態の説明では、支持機構30が、液体噴射部20を鉛直部84bに対して前後方向に進出・後退させる例を示したが、本発明はこれに限定されない。支持機構が液体噴射部を前後方向に進出・後退させることは必須ではなく、支持機構は前後方向に駆動する機構を有しないものであってもよい。
【0051】
実施形態の説明では、高圧の液体が高圧水である例を示したが、本発明はこれに限定されない。高圧の液体は、洗浄剤が添加された洗浄液であってもよいし、水とは別の溶剤を含んでもよい。
【0052】
上述の変形例は上述の実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0053】
上述した実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0054】
10・・噴射ノズル、 10c・・ノズル先端部、 10e・・中空部、 20・・液体噴射部、 22・・ケーシング、 24・・ノズルリテーナ、 30・・支持機構、 40・・回転カッター、 80・・炉蓋、 80b・・被洗浄部、 82・・断熱部、 84・・蓋本体、 86・・ナイフエッジ、 100・・炉蓋洗浄装置。