(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】界面活性剤分解抑制方法、アルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法、及び清浄化された表面を有するアルミニウム材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23G 1/12 20060101AFI20240328BHJP
【FI】
C23G1/12
(21)【出願番号】P 2023177577
(22)【出願日】2023-10-13
【審査請求日】2023-10-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 秋雄
(72)【発明者】
【氏名】菊地 隆雅
(72)【発明者】
【氏名】徳江 大
(72)【発明者】
【氏名】常石 明伸
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-073983(JP,A)
【文献】特開昭61-231188(JP,A)
【文献】特開平07-173655(JP,A)
【文献】特開平04-052289(JP,A)
【文献】特開平07-113189(JP,A)
【文献】特開平07-041973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸と、鉄イオンと、0.1~10g/Lの界面活性剤と、を含有したアルミニウム又はアルミニウム合金の連続洗浄に用いる洗浄液中の界面活性剤分解抑制方法であって、
前記洗浄液はpH2以下であり、
前記界面活性剤は、アルキレンアルキルエーテルのノニオン系界面活性剤を含み、
前記連続洗浄の過程で、前記洗浄液中にモノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩からなる群より選ばれる1種以上のオキソ酸塩
を、前記洗浄液中の第二鉄イオン濃度を0.02~5g/Lの範囲内となるように添加する工程、を含む、
ことを特徴とする界面活性剤分解抑制方法。
【請求項2】
前記オキソ酸塩は、亜硝酸塩、次亜塩素酸塩及び亜塩素酸塩からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1に記載の界面活性剤分解抑制方法。
【請求項3】
無機酸と、鉄イオンと、0.1~10g/Lの界面活性剤と、を含有した水性溶液
を準備する準備工程、及び
前記
準備工程で得られた
前記水性溶液を含む洗浄液でアルミニウム又はアルミニウム合金を
連続洗浄する
連続洗浄工程、を含み、
前記界面活性剤は、アルキレンアルキルエーテルのノニオン系界面活性剤を含み、
前記
連続洗浄工程
は、前記洗浄液に、前記洗浄液中の第二鉄イオン濃度を0.02~5g/Lに維持するようにモノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩からなる群から選ばれる1種以上のオキソ酸塩を添加する工程を含み、
以下に示す洗浄条件における
洗浄後洗浄液の、洗浄前洗浄液に対するCOD
Mn増加率(%)が20%以下である、アルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法。
・前記洗浄液1Lを用いて、表面積144m
2のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を洗浄する。
・洗浄は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に洗浄液を1.1秒間接触させ、1.4秒間休止するサイクルで行う。
・アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に接触させた洗浄液は回収の上、酸補給液を
適宜補充し、
かつ、前記オキソ酸塩を、洗浄液中の第二鉄イオン濃度を0.02~5g/Lに維持するように添加して、再度洗浄液として使用する。
COD
Mn増加率(%)=[(洗浄
後洗浄液のCOD
Mn/洗浄前洗浄液のCOD
Mn)-1]×100(%)。
【請求項4】
前記オキソ酸塩は、亜硝酸塩、次亜塩素酸塩及び亜塩素酸塩からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項
3に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法。
【請求項5】
清浄化された表面を有するアルミニウム材の製造方法であって、
被処理物としてのアルミニウム材を用意する工程と、
前記アルミニウム材を洗浄液で連続洗浄する連続洗浄工程と、を有し、
前記アルミニウム材は、アルミニウム又はアルミニウム合金から製造されたものであり、
前記洗浄液は、無機酸と、鉄イオンと、0.1~10g/Lの界面活性剤と、を含み、かつ、pH2以下であり、
前記界面活性剤は、アルキレンアルキルエーテルのノニオン系界面活性剤を含み、
前記連続洗浄工程は、前記洗浄液中にモノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩からなる群より選ばれる1種以上のオキソ酸塩を、前記洗浄液中の第二鉄イオン濃度を0.02~5g/Lの範囲内となるように添加する工程、を含む、ことを特徴とする、清浄化された表面を有するアルミニウム材の製造方法。
【請求項6】
前記オキソ酸塩は、亜硝酸塩、次亜塩素酸塩及び亜塩素酸塩からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項5に記載の清浄化された表面を有するアルミニウム材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム缶ボディー等のアルミニウム材の脱脂やスマット除去に好適なアルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金から製造された飲料缶等のアルミニウム材は、その表面をアルミニウム酸化物や油分等が覆っている。特にアルミニウム缶の場合は、通常、ドローイング・アンド・アイアニング(DI)と呼ばれる引き抜き加工によって製造されており、この加工によって製造されたアルミニウム缶には、引き抜き時に削られて発生したアルミニウム粉末(スマット)や潤滑油が付着している。したがって、アルミニウム材に化成処理皮膜や塗膜等を強固に形成するためには、予めアルミニウム酸化物、油分、スマット等を除去し清浄化しておく必要がある。
【0003】
アルミニウム材の表面を清浄化するには、一般に金属表面を適度にエッチングして洗浄するクロム酸系、フッ化水素酸系、さらにはクロムフリーやフッ素フリー系の酸性洗浄液が用いられている。通常、酸性洗浄液中でのアルミニウムのエッチング反応は、アルミニウムがアルミニウムイオン(Al3+)となるアノード反応と、洗浄液中のH+が還元されて1/2H2となるカソード反応とからなる。そこで、酸性洗浄液中に第二鉄イオン(Fe3+)を添加すると、このFe3+が第一鉄イオン(Fe2+)に還元されるカソード反応が前記H+の還元と同時に起こるため、アルミニウムのアノード反応が促進され、アルミニウムの溶解量(エッチング量)が増加する。なお、洗浄浴中のFe3+濃度を管理し、反応の進行によるFe2+濃度の増加を抑制するために酸化剤を添加してFe2+をFe3+に酸化して再利用する手法として酸化剤が用いられていた。従来は、その酸化剤として過酸化物が用いられていた。
【0004】
ところが、鉄イオンの存在下で過酸化物を添加すると界面活性剤が酸化分解され、界面活性剤濃度が低下することや、界面活性剤の酸化分解物が酸性洗浄浴中に蓄積してアルミニウム表面の洗浄性が低下するという問題があった。また、洗浄性を維持するために過剰量の界面活性剤を要するので、ランニングコストが増大するという問題もあった。
【0005】
そこで、酸化剤による界面活性剤の分解を防止する技術が多種開発された。例えば特許文献1には、鉱酸、酸化剤、多価金属イオン、界面活性剤及びC2~C10のグリコールから選ばれる1種又は2種以上の化合物を0.05~5.0g/L含有させたことを特徴とするアルミニウム用酸性洗浄液が開示されており、C2~C10のグリコールによって界面活性剤の分解を防止しようとするものである。
特許文献2には、無機酸から選ばれる少なくとも1種を0.5~25g/L、臭素イオ
ンを0.002~5g/L、および酸化型金属イオンを0.05~4g/Lを含有する酸性洗浄水溶液であって、該洗浄液の酸化還元電位が銀-塩化銀電極基準で0.5~0.8Vであることを特徴とするアルミニウム系金属の洗浄方法が開示されており、酸性洗浄液の酸化還元電位を所定範囲に管理することによって界面活性剤の分解反応を抑制するものである。
また、特許文献3には、pH2以下となる量の無機酸と、酸化型金属イオンと、界面活性剤と、主鎖中の隣接した炭素原子に直結した水酸基を1分子中に少なくとも2個有する多価アルコールを0.1~5g/Lと、を含有するアルミニウム系金属の酸性洗浄水溶液が開示されており、前記多価アルコールによって界面活性剤の分解を防止しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-52289号公報
【文献】特開平7-113189号公報
【文献】特開平7-41973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸性洗浄浴中液の洗浄能力を保持するために、界面活性剤濃度を管理することは非常に重要である。しかし、上記特許文献のように界面活性剤の安定化剤を処理液中に配合すると、安定化剤が有機物である場合、洗浄廃液中の化学的酸素要求量(CODMn)を増加させる問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、安定化剤を添加せずとも界面活性剤の分解を大幅に抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、洗浄液中の第二鉄イオン濃度を特定の範囲に維持するために、モノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩からなる群から選ばれる1種以上のオキソ酸塩を添加することで、安定化剤を添加しなくても界面活性剤の分解を抑制できるという新たな知見を得た。そして、この知見を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、例示的には以下のように特定される。
【0010】
[1]無機酸と、鉄イオンと、0.1~10g/Lの界面活性剤と、を含有したアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液中の界面活性剤分解抑制方法であって、
前記洗浄液はpH2以下であり、
前記洗浄液中にモノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩からなる群より選ばれる1種以上のオキソ酸塩を添加する工程、を含む、方法。
[2]前記工程は、前記洗浄液中の第二鉄イオン濃度を0.02~5g/Lの範囲内となるよう添加する工程である、[1]に記載の方法。
[3]前記オキソ酸塩は、亜硝酸塩、次亜塩素酸塩及び亜塩素酸塩からなる群より選ばれる1種以上を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]無機酸と、鉄イオンと、0.1~10g/Lの界面活性剤と、を含有した水性溶液に、前記水性溶液中の第二鉄イオン濃度を0.02~5g/Lに維持するようモノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩からなる群から選ばれる1種以上のオキソ酸塩を添加した洗浄液を準備する準備工程、及び前記工程で得られた洗浄液でアルミニウム又はアルミニウム合金を洗浄する洗浄工程、を含み、
前記洗浄工程において、以下に示す洗浄条件における洗浄液のCODMnの増加率(%)が20%以下である、アルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法。
・前記洗浄液1Lを用いて、表面積144m2のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を洗浄する。
・洗浄は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に洗浄液を1.1秒間接触させ、1.4秒間休止するサイクルで行う。
・アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に接触させた洗浄液は回収の上、酸補給液を適宜補充して再度洗浄液として使用する。
・洗浄液にはモノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩からなる群より選ばれる1種以上のオキソ酸塩を適宜補充し、洗浄液中の前記第二鉄イオン濃度を維持する。
・CODMn増加率(%)=[(洗浄後の洗浄液のCODMn/洗浄前洗浄液のCODM
n)-1]×100(%)
[5]前記オキソ酸塩は、亜硝酸塩、次亜塩素酸塩及び亜塩素酸塩からなる群より選ばれる1種以上を含む、[4]に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、洗浄性能を保持するためのFe3+濃度を維持しても、界面活性剤の分解が抑制されることから、良好な洗浄性が持続する。また、界面活性剤の分解が抑制されるため、界面活性剤の分解物蓄積による洗浄性の低下およびCODMnの増加が少ない。加えて界面活性剤の分解を抑制する分解抑制剤を配合する必要がないためCODMnの増加が少ないことから、環境負荷が低いアルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法を提供できる。それゆえ、経済的、環境的側面において有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は、その本発明の趣旨から逸脱しない範囲で任意に変更可能であり、下記の実施形態に限定されない。なお、本明細書にて数値範囲を示す「~」は上限値及び下限値も包含する。例えば、「X~Y」はX以上Y以下であることを意味する。
【0013】
<洗浄液>
洗浄液は、無機酸と、鉄イオンと、界面活性剤とを含む。そして、第二鉄イオン(Fe3+イオン)を所定の濃度に維持するようオキソ酸塩を添加して調製される。洗浄剤のpHは2以下である。
【0014】
[無機酸]
無機酸は例示的には、リン酸、硫酸、硝酸、フッ酸などが挙げられ、これらを1種単独で使用しても、2種以上の混合系としてもよい。洗浄液中の無機酸の濃度は、好ましくは、リン酸の場合3~10g/Lであり 、硫酸の場合5~40g/Lであり、硝酸の場合
0~2g/Lであり、フッ酸の場合0.1~3g/Lである。無機酸の一例としては、リン酸と硫酸と硝酸の混酸、硫酸と硝酸の混酸、及び硫酸とフッ酸と硝酸の混酸が挙げられる。なお、洗浄液中のpHを所望の範囲に収めるため、無機酸は補給液の形態で逐次添加してもよい。
【0015】
[鉄イオン及び第二鉄イオン]
第二鉄イオンは、エッチング促進剤としての機能を有する。洗浄液中の第二鉄イオン濃度は、0.02~5g/Lであることが好ましく、0.05~3g/Lであることがより好ましい。第二鉄イオン濃度が0.02g/L未満である場合、脱スマット性が低下するとともに十分なエッチング量が得られない。また、第二鉄イオンが5g/L超である場合、洗浄性に差は認められず不経済となる。
【0016】
エッチングで第一鉄イオンに還元された第二鉄イオンはオキソ酸塩の添加により第一鉄イオンから第二鉄イオンに酸化し、第二鉄イオン濃度を維持する。第二鉄イオン濃度は酸化還元電位(ORPmV)により確認が可能である。ORPmVはFe2+/Fe3+の比で決まり、全鉄濃度を特定の値としてORPmVを一定の値にすることで、Fe3+濃度を測定できる。例えば、全鉄濃度500ppmでORP540mV(銀-塩化銀電極基準)の場合、Fe3+濃度は300ppm程度である。
【0017】
鉄イオンの供給源としては、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄などの水溶性鉄化合物が挙げられる。第二鉄イオンを所望の範囲に収めるため、これら鉄イオンの供給源を補給液の形態で逐次添加してもよい。
【0018】
[界面活性剤]
界面活性剤は、主として、アルミニウム表面に付着している油脂や潤滑剤を除去する役割を有する。界面活性剤は、ノニオン系、カチオン系、アニオン系及び両性イオン系のいずれか1種であってよく、2種以上であってよい。このうちノニオン系界面活性剤が好ましく、アルキレンアルキルエーテルのノニオン系界面活性剤がより好ましい。アルキレンアルキルエーテルのアルキル基は直鎖又は分岐鎖のいずれであってよく、アルキレン基はエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合であってよい。アルキレンアルキルエーテルのノニオン系界面活性剤は、具体的には高級アルコール系のエチレンオキサイド又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体であるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
洗浄液中の界面活性剤の濃度は0.1~10g/Lが好ましく、0.2~5g/Lがより好ましい。洗浄液中の界面活性剤の濃度が0.1g/L未満であると、十分な脱脂性が得られない。また、界面活性剤の濃度が10g/L超である場合、脱脂性は問題ないが、洗浄廃液のCODMnが上昇することや経済性の観点から好ましくない。
【0020】
[オキソ酸塩]
オキソ酸塩は、第一鉄イオン(Fe2+)を第二鉄イオン(Fe3+)に酸化する酸化剤の役割を有する。オキソ酸塩は、モノオキソ酸の塩及びジオキソ酸の塩から選ばれる1種以上を含む。モノオキソ酸とは、分子中に酸素原子を1以上有し、かつ酸素に隣接する元素の酸化数が+1である酸をいう。例示的には、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸などが挙げられる。ジオキソ酸は分子中に酸素原子を2以上有し、かつ酸素に隣接する原子の酸化数が+3である酸をいう。例示的には、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、亜硝酸が挙げられる。
【0021】
モノオキソ酸の塩は、モノオキソ酸における酸性水素原子が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、又はアンモニウムイオン(NH4
+)に置換されているものをいう。また、ジオキソ酸の塩は、ジオキソ酸における酸性水素原子が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、又はアンモニウムイオンに置換されているものをいう。アルカリ金属イオンとしては、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のイオンが挙げられる。アルカリ土類金属のイオンとしては、カルウシム、マグネシウム、バリウム等のイオンが挙げられる。
【0022】
モノオキソ酸塩としては、次亜塩素酸塩、次亜臭素塩、次亜ヨウ素酸塩が、ジオキソ酸塩としては、亜塩素酸塩、亜臭素酸、亜ヨウ素酸塩、亜硝酸塩が例示される。このうち次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、亜硝酸塩が好ましい。
次亜塩素酸塩の具体例としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウムなどが、亜硝酸塩の具体例としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどが、亜塩素酸の具体例としては、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
モノオキソ酸塩としては次亜塩素酸ナトリウムが、ジオキソ酸塩としては亜硝酸ナトリウムが好ましい。なお、オキソ酸塩以外の酸化剤も本発明の趣旨を逸脱しない範囲において利用可能である。
【0023】
適度な酸化力を有するモノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩から選ばれる1種以上を含むオキソ酸塩を使用することによって、鉄イオンの共存下においても界面活性剤の分解を大幅に抑制し、かつ第一鉄イオンを第二鉄イオンに酸化することができる。
すなわち、本発明の一形態は、無機酸と、鉄イオンと、0.1~10g/Lの界面活性剤と、を含有するアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液中の界面活性剤分解抑制方法であって、前記洗浄液はpH2以下であり、前記洗浄液中にモノオキソ酸塩及びジオキ
ソ酸塩からなる群より選ばれる1種以上のオキソ酸塩を添加する工程、を含む、方法である。
【0024】
[pH]
洗浄液のpHは2以下であり、0.6~2であることが好ましい。本明細書におけるpH値は、市販のpHメーターを用いて処理温度(25℃)で測定した値を意味する。pHが2超である場合、アルミニウムのエッチング速度が低下し、アルミニウム表面を十分に洗浄できない。pHの下限は本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば特に限定されないが、処理装置の腐食防止の点から、pH1.0程度であることが好ましい。洗浄液のpHは前記無機酸によって主として制御されるが、その他の酸成分、アルカリ成分等のpH調整剤を適宜使用してもよい。
【0025】
[その他成分]
洗浄液は、上記以外のその他成分を含んでいてもよく、液安定性や作業性等を改善するために、例えば、界面活性剤分解抑制剤、キレート剤、消泡剤、抗菌剤等を含んでいてもよい。これらの成分は1種又は2種以上配合してもよい。
【0026】
[界面活性剤分解抑制剤]
本発明の効果に鑑み、界面活性剤分解抑制剤は洗浄液に含まれることを要しないが、洗浄液に添加されることを排除するものではない。界面活性剤分解抑制剤は、例えば、前記特許文献に記載のC2~C10のグリコール類や主鎖中の隣接した炭素原子に直結した水酸基を1分子中に少なくとも2個有する多価アルコール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
[キレート剤]
キレート剤は、洗浄時に溶出するアルミニウムイオンを捕捉することにより、洗浄効率の低下を抑制する役割を有する。キレート剤は、例えば、クエン酸、蓚酸、酒石酸、グルコン酸などの有機カルボン酸、エチドロン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸などの有機リン化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
<アルミニウム又はアルミニウム合金>
洗浄液によって洗浄されるアルミニウムは、A1000系などの純アルミ系、A3000系、A5000系などのアルミニウム合金系の板状又は加工した素材が挙げられる。
【0029】
<アルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法>
本発明の一形態は、無機酸と、鉄イオンと、0.1~10g/Lの界面活性剤と、を含有する水性溶液に、前記水性溶液中の第二鉄イオン濃度を0.02~5g/Lに維持するようモノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩からなる群から選ばれる1種以上のオキソ酸塩を添加した洗浄液を準備する準備工程、及び前記工程で得られた洗浄液でアルミニウム又はアルミニウム合金を洗浄する洗浄工程、を含む、アルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法である。なお、洗浄液のpHは2以下である。
【0030】
[準備工程]
準備工程は、上記説明した洗浄液を準備する工程である。洗浄剤は原料を用いて調製してもよく、また予め調製した洗浄液を入手して使用してもよい。
【0031】
[洗浄工程]
アルミニウム又はアルミニウム合金を洗浄する洗浄工程において、洗浄方法は特に限定されず、アルミニウム又はアルミニウム合金に洗浄液を接触させる方法が挙げられる。接
触の方法は特に限定されるものではないが、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、スプレー法や浸漬法が挙げられる。
【0032】
[処理温度(洗浄温度)]
洗浄工程において処理温度は40~85℃が好ましく、50~80℃がより好ましい。上記範囲とすることで、適切なエッチングが実施され得る。
【0033】
[処理時間(洗浄時間)]
処理時間は20~120秒が好ましく、25~90秒がより好ましい。処理時間が120秒超の場合、エッチング過剰となり、処理浴の老化が早まる。また、処理時間が20秒未満の場合、エッチング量が不足し脱スマット性が低下する。
【0034】
[CODMn]
CODMnは、化学的酸素要求量とも呼ばれ、水中の有機物量を示す指標であり、具体的には、過マンガン酸カリウムが、対象の物質を酸化する際の酸素量のことである。本発明において、CODMnはJIS-K0102の方法によって測定される。
【0035】
[CODMn増加率]
本形態では、洗浄工程において、以下に示す洗浄条件における、洗浄液のCODMn増加率が20%以下である。
・前記洗浄液1Lを用いて、表面積144m2のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を洗浄する。
・洗浄は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に洗浄液を1.1秒間接触させ、1.4秒間休止するサイクルで行う。
・アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に接触させた洗浄液は回収の上、酸補給液を適宜補充して再度洗浄液として使用する。
・洗浄液にはモノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩からなる群より選ばれる1種以上のオキソ酸塩を適宜補充し、洗浄液中の前記第二鉄イオン濃度を維持する。
【0036】
CODMn増加率とは、表面積144m2のアルミニウム又はアルミニウム合金を、1Lの洗浄液で洗浄した場合に洗浄後の洗浄液のCODMnを、界面活性剤の分解物が含まれない洗浄前の洗浄液のCODMnからの増加率で示した値である。すなわち、
CODMn増加率(%)=[(洗浄後の洗浄液のCODMn/洗浄前洗浄液のCODMn)-1]×100(%)によって算出される。
CODMn増加率は、界面活性剤の分解物に起因するCODMnの増加率を示す指標であり、当該数値が低いほど、操業における洗浄性の低下が少なく、環境負荷が低いことを示す。
【0037】
本明細書において洗浄条件は上記のとおりであるが、一例として連続加工することが挙げられる。連続加工とは、缶の移動速度3.6m/分、移動時間に40秒要する洗浄ラインにあっては、1.1秒間スプレーして1.4秒間休止する間欠で、洗浄液1Lに対して1時間当たり被処理物の表面積28.8m2を5時間、連続的に処理する方法であってよい。
【0038】
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法によって清浄化されたアルミニウム表面は、常法に従って水洗後、クロム酸クロメート、リン酸クロメート等のクロメート系化成処理剤、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム等のクロムフリー化成処理剤等により化成処理を行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0040】
(実施例1~10および比較例1~7)
無機酸として75%濃度硫酸水溶液、75%濃度リン酸水溶液および55%濃度弗化水素酸水溶液を、鉄イオンの供給源として41%の硫酸第二鉄水溶液を、アルミニウムイオンの供給源として53.7%(Al2O3として)の水酸化アルミニウム粉末を、分解抑制剤としてジエチレングリコールを、界面活性剤として以下に示すノニオン系界面活性剤を使用し、表1に示す濃度となるように初期洗浄液を調製した。
【0041】
<界面活性剤>
ノニオン1:C16H33-O-(EO)20
ノニオン2:C12H25-O-(EO)5(PO)10
ノニオン3:C14H29-O-(EO)14
ノニオン4:C12H25-O-(EO)5(PO)15
【0042】
<被処理物>
A3004アルミニウム合金板をDI(ドローイング・アンド・アイアニング成形)加工して得られた直径6.6cm、内容量350mL(表面積0.05m2)の潤滑油とスマットが付着した蓋なしの容器を試験材として使用した。
【0043】
<遊離酸度[FA]の測定方法>
遊離酸度[FA]は下記方法により測定した。
洗浄液を正確に5mL採取し、指示薬としてフェノールフタレインを用いて、0.1mol/L苛性ソーダ水溶液で滴定する。遊離酸度[FA]は、0.1mol/L苛性ソーダ水溶液の滴下量(mL)で表される。
【0044】
<第二鉄イオン(Fe3+イオン)濃度の測定方法>
下記手順に示す滴定にてFe3+濃度を測定した。洗浄液を正確に適量(mL)採取し、300mLコニカルビーカーに入れ、水で全量を約100mLとした。塩酸(1+1)を加え、pHを1以下にした後、50wt%酢酸アンモニウム溶液を少量ずつ加え、pH2に調整した。指示薬としてサリチル酸を約0.1g加え、40℃に加熱した。0.01mol/LのEDTA溶液で紫色から無色になるまで滴定した。
次式にてFe3+濃度を算出した。
Fe3+濃度(mg/L)=10/S × A × 55.85
A:滴定に用いた0.01mol/L濃度のEDTA溶液の量(mL)
S:採取した洗浄液の量(mL)
【0045】
<界面活性剤濃度の測定方法>
下記手順に示す滴定(セシボール法)により存在する界面活性剤量を測定した。
まず、洗浄液を体積で正確に20倍に希釈した液を10mL採取した。これに6N-KOH水溶液を5mL添加した。次いで1,2-ジクロロエタンを5mL添加し、更に、以
下に示すビクトリアブルー指示薬を2滴添加した。
ビクトリアブルー指示薬:ビクトリアブルー0.4gを1Lのエタノールに溶解して調製した溶液。
そして、鮮やかな青色の発色を終点として、以下に示すセシボール溶液で滴定した。
セシボール溶液:セシボール((FC6H4)4BNa・2H2O)0.1944gを蒸留水1Lに溶解して調製した溶液。
なお、濃度決定に当たっては、あらかじめ使用する界面活性剤で検量線を作成しておいた。
【0046】
<CODMnの測定方法>
下記手順に従い、CODMnを測定した。
・洗浄液と体積で正確に20倍に希釈した液10mLを300mLの三角フラスコに採取する。
・これに水を加えて100mLとし、硫酸(1+2)10mLを加え、20%硝酸銀5mLを加え、激しく振り混ぜて数分間放置する。
・N/40過マンガン酸カリウム溶液を正確に10mL加えて、沸騰水浴中にフラスコを入れ、30分間加熱する。沸騰水浴の水面は、つねに検水面よりも上部にあるようにする。
・次に、しゅう酸ナトリウム溶液(N/40)を正確に10mL加えて、60~80℃に保ちながらN/40過マンガン酸カリウム溶液で逆滴定し、液の色が薄い紅色を呈する点を終点とする。
・別に同一条件で空試験を行う。
・次式によって過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(mgO/L)を算出する。
CODMn =(b-a)×1000/10×0.2×20 ここで、CODMn:過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(mgO/L)
b:滴定に要したN/40過マンガン酸カリウム溶液(mL)
a:空試験の滴定に要したN/40過マンガン酸カリム溶液(mL)
【0047】
<CODMn増加率の測定>
表1に示す初期洗浄液を、表1に示す温度に加温した酸性洗浄浴20Lに対して試験材8缶をスプレーで1.1秒間スプレーして1.4秒間休止する間欠で処理しながら、表2に示す酸補給液を5分毎に300mL補給した。この際、洗浄液の酸化還元電位が表1に示す値で維持されるように表1に示す酸化剤を補充し続けた。また、20分毎に1200mLの処理液を抜き、界面活性剤濃度と遊離酸度FAを測定した。なお、界面活性剤が分解して濃度が低下した場合、初期のセシボール値と同じ値になるように表3に示す界面活性剤補給液を都度補給した。FAが低下した場合は75%硫酸で初期のFAが維持されるように調整した。試験材は1時間処理毎に交換した。その後、初期洗浄液と5時間連続洗浄を行った洗浄液についてCODMnを測定し、CODMnの増加率%を算出した。
CODMn増加率(%)=(5時間連続加工後洗浄液のCODMn/初期液のCODMn-
1)×100
なお、洗浄剤1Lあたりの表面処理はアルミニウム表面積144m2であった。
【0048】
<洗浄後洗浄剤の洗浄性評価>
洗浄液の洗浄性を、脱スマット性で評価した。洗浄後の洗浄液を表1に示す温度に加熱し、未洗浄の試験材の容器を40秒スプレーにて処理し、これを15秒間水道水で水洗したのち乾燥した。乾燥後の容器内面に透明粘着テープを貼り付け、次にこれを剥離して白色台紙上に貼り付け、テープ貼り付け面の白さを、汚れのないテープを貼り付けた台紙の面の白さと目視で比較した。完全にスマットが除去されて汚染のない場合を最も良い結果とし、汚染の程度に応じて以下の5段階で評価し、5点および4点を合格とした。
5:汚染なし
4:痕跡程度の汚染
3:僅微な汚染
2:中程度の汚染
1:多大な汚染
【0049】
<洗浄後洗浄剤の耐ボトム黒変性評価>
洗浄液の機能を評価した。洗浄後の洗浄液を表1に示す温度に加熱し、未洗浄の試験材の容器を40秒スプレーにて処理し、これを15秒間水道水で水洗したのち、「パルコー
トN405建浴剤」(日本パーカライジング社製)を含む化成処理液(濃度1.5重量%、40℃)を15秒間スプレーして化成処理した。水道水で水洗したのち脱イオン水で水洗し、200℃で2分間乾燥した。乾燥後、100℃の沸騰水道水に30分間浸漬した。沸騰水に浸漬した後の缶底の黒変の程度を次の基準で評価し、5点および4点を合格とした。
5:全く変色なし
4:わずかに変色
3:軽い変色
2:かなり黒変
1:完全に黒変
【0050】
評価結果を表4に示す。実施例1~9では、洗浄後洗浄液のCODMnの上昇率は1%
以下で脱スマット性および耐黒変性に優れた。また、実施例10は、酸化剤としてジオキソ酸塩と過酸化水素を併用したが、洗浄後の洗浄液のCODMnの上昇率は13%程度に抑制されており、脱スマット性および耐黒変性に優れた。
一方、比較例1~4では、洗浄後洗浄液のCODMnの増加率が39%~44%と高く、耐黒変性に劣り、また脱スマット性も若干低下した。比較例5は酸化剤に過酸化水素と分解抑制を配合したが、分解抑制剤の配合により界面活性剤の分解物蓄積に伴うCODMn増加率は23%であり、分解抑制剤の配合によるCODMnの上昇が顕著である。比較例6は酸性洗浄浴中にFe3+を含まず、そもそも洗浄性(脱スマット性)に劣った。比較例7はジオキソ酸塩を用いたが、Fe3+濃度が低くそもそも洗浄性(脱スマット性)に劣った。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【要約】
【課題】安定化剤を添加せずとも界面活性剤の分解を大幅に抑制できる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】 無機酸と、鉄イオンと、0.1~10g/Lの界面活性剤と、を含有したアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液中の界面活性剤分解抑制方法であって、
前記洗浄液はpH2以下であり、
前記洗浄液中にモノオキソ酸塩及びジオキソ酸塩からなる群より選ばれる1種以上のオキソ酸塩を添加する工程、を含む、方法、により課題を解決する。
【選択図】なし